支部 
【YOI】僕達の答え(ラスト予想)
前提)
グランプリファイナルは勝生勇利が優勝、ユーリ・プリセツキーは2位という結果。

てことで、エキシビジョン妄想。


━━━━━━━━━━━━━━



「ユリオ、あの件は、打ち合わせ通りにね」
「わーてるよ。今回限りだからな!」

エキシビジョンの演目を終わらせた後のユリオに声をかければ、いつも通りの悪態を付かれたが、どこか嬉しそうだった。
自分と同じユーリの名前を持つ彼は、勇利の姉に「ユリオ」とあだ名をつけられた。
最初は嫌がっていたものの、いつの間にか定着し、本人も違和感なく返事を返す程になっている。

「ありがとう、ユリオ」

ユリオが背を向けて歩き出す。
それを見送ってから、勇利はリンクの中を見つめた。
リンクでは演技選手が煌びやかに舞い、観客を喜ばせている。

勇利は噛み締めるように微笑んだ。

この舞台にこうやって立っているなんて、一年前なら想像すら出来なかっただろう。
トイレで泣きながらうつむいていたあの時とは、正反対だ。
それは、ヴィクトルがここまで一緒に歩いてくれたからに他ならない。

幼い頃、ヴィクトルを始めて見た時から、本当にヴィクトルには驚かされてばかりだ。
戦歴も技術も行動、言葉までも。

コーチになるためにヴィクトルが僕の前に現れたのは、4月。
桜が咲いていたのに、雪が降り積もっていた。

ロシアでも降っていた雪が、そのまま付いて来てしまったみたいに。
ヴィクトルの来訪を喜ぶかのように。

ヴィクトルが僕のコーチをするということが世間に知れ渡った頃、ロシアからユリオがやって来た。
ユリオはヴィクトルに振り付けをしてもらう約束をしていたそうだけど、ヴィクトルは忘れていたらしい。
その辺りは本当にヴィクトルらしいけど、ユリオはけして引き下がらなかった。

自信に満ちたユリオの言動には、いろんな意味で感化された。

ユリオと俺のショートプログラム対決は、どうしても勝ちたくて...。
ヴィクトルを自分に繋ぎ止めていたくて、自分でも驚く程に演技にのめり込んでいた。
本当に...、いつも公式戦ではジャンプやミスに気をとられて演技のイメージは霞んでしまうのに、あんな演技が出来るなんて、内心自分でも驚いていた。

それからの大会は怒涛だった。
日本選手権、中国大会、ロシア大会。
そしてグランプリファイナル。

僕が優勝出来たのは、間違いなくヴィクトルが僕の世界を変えてくれたからだ。
僕をここまで導いて背中を押してくれたヴィクトルには、感謝してもしきれない。

そんなヴィクトルに僕が恩返し出来るとすれば、やはりスケートだけだと思う。

だから━━━━


『グランプリファイナル優勝、勝生有利選手』

会場アナウンスを受け、勇利はリンクの中に入ると大きな円を描く様にゆっくりと滑り、中央に立った。
腕を大きく広げた勇利の姿は、まるで会場に響き渡る歓声と拍手を受け入れている様で、観客達の拍手がこと更に響き渡った。
勇利は1度息を吐くと、深々と頭を下げた。
歓声が終わる前に勇利は顔を上げ、静かに流れてきた曲に乗り、リンクの中を滑り始めた。

曲は、自身がフリーで演技した「YURI on ICE」。



***



勇利と別れてから、ユリオはよく知る人物の元へと大股で歩を進めていた。

スケートは小さい頃から滑っていた。
最初は褒められることが嬉しかったから。
大会で活躍できるようになってからは、自分の力の披露とお金のために。

そして今は、もっといい演技をしたいから。

認めたくなんてないけれど。
これは多分、ヴィクトルがあいつのコーチに成らなければ、そんな風に思うことも無かっただろう。

あいつに言ったことは無いけれど、『勝生勇利』のことは、シニアに上がる前から知っていた。
同じ名前、グランプリファイナルに出場出来るほどの実力。
美しいステップとスピン。

ヴィクトルとは違う意味で、ライバルになるのだと勝手にそう思っていた。

けれど、去年のグランプリファイナルでは、いい所なんて一つもなく、全ては幻の様に消え去った。
トイレであいつが泣いているのを聞いて、そこで悔しがるなら、もっと出来ることがあっただろうと、怒りに任せてドアを蹴りつけた。

そう、あいつはあそこで終わるのだと、そう思っていたのに。

あれよあれよという間にあいつはヴィクトルと歩み始め、去年と比べれば別人だと見間違える程の、魅せる演技が出来るまでに成長していった。

...正直、羨ましいと思った。

けれど、俺だって負けてはいられない。
あいつよりも、ヴィクトルよりも、もっともっと魅せる演技をするのは、この俺だ。


━━━まぁ、でも。


今回のグランプリファイナルはあいつが優勝したから、あいつの言うことを一つくらい聞いてやる。

来年は俺が優勝して、あいつに命令してやるんだ。

『俺のためにプログラムを一つ寄越せ』って。

思いがけず口元が緩んでいたのに気づき、振り払うように首を一つ振る。

前を向けば長身の銀髪が視界に入り、ユリオは更に早足でその人物に近寄った。

「ヴィクトル!」
「ユリオ?どうしたんだい?」
いつも通りの余裕しかない表情に、少しイラつきつつも、ユリオはその腕を掴む。
「良いから、こっち来い!」
「えー?勇利のエキシビジョン始まっちゃうよ」
「良いから!」
ユリオは眉尻を下げたヴィクトルをぐいぐいと引っ張り、会場控え室のベンチに座らせる。

「これを履け」
そう言って差し出されたスケート靴に、ヴィクトルは目を瞬かせた。
「これ、俺のスケート靴じゃないか。どうやって持ってきたんだい?」
「優子に持ってきてもらった。つか、んなことどうでもいいから、さっさと履け。俺も着替える」
ユリオは先程まで来ていた衣装を脱ぐと、フリルの付いた白のシャツを羽織り、黒いパンツを履いた。
ヴィクトルはそんなユリオの様子に困惑しながらも、履き慣れたスケート靴に足を通した。

「ヴィクトル、上着脱いどけ。...って、やべ、そろそろ時間じゃねーか。行くぞ」
「えぇ?行くって、どこへ?」
言われるままに上着を脱ぎ、黒いシャツのラフなスーツ姿へと変わったヴィクトルは、ユリオの言葉に首を傾げながらも仕方なくその後を着いていく。

向かう方向は先程までいたアイスリンク。

リンクの中では、勇利が深々とお辞儀をしている所だった。

「カツ丼の演技が始まるみたいだな」
「...うん」

流れ出したフリープログラムの曲に、ヴィクトルは先日の勇利の演技を思い出し、思いがけず微笑んでいた。

「勇利は、本当に強くなった」

彼を象徴させた曲。
彼のスケートを、愛を醸し出すプログラム。

そう、最初の出だしは、一人で戦ってきたと思っていた頃。
練習して、練習して、グランプリファイナルに出場するも、いい演技ができずに一人泣いていた。
勇利が演じた俺のプログラムに感銘を受け、俺は自分の思うままに勇利の元へ赴き、勇利のコーチになると告げた...。


━━━━ふと、曲が止まった。


勇利の足も止まり、観客達が僅かにざわつき始める。
そのざわめきをものともせず、隣にいたユリオが中央へと滑り出した。

観客達のざわつきが増す中で、ユリオと勇利が一言二言と言葉を交わす。
そして、真っすぐに、こちらを向いた。


「「ヴィクトル!!」」


「え...?」

二人のユーリが手を差し出している。

よく見れば、二人は同じ服装をしており、まるで...いや、最初からそのつもりだったのだろう。

瞬時に合点が行き、ヴィクトルは頭に軽く手を置いた。

スケート靴を履かせたのは、こういうことか。

...あぁ、本当に、もう...!

「こういうの大好きだよ!」

満面の笑顔でヴィクトルはリンクへと滑り出す。
同時に、会場から割れんばかりの歓声が湧き上がった。
手を広げてその声援を一身に受ける。


あぁ、久々だ。この感覚は。


ヴィクトルが勇利とユリオに勢いよく抱き着くと、勇利は少し申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ヴィクトル、急にごめんね。
 でも、どうしてもこの場にヴィクトルを呼びたかったんだ」
「俺は構わないよ。
 ...それで?何を滑るんだい?」

ヴィクトルが軽くウインクをすれば、勇利は安堵したように微笑んだ。

「ヴィクトルがもう一度滑りたいって言ってたプログラム」
「俺達が合わすから、ヴィクトルは自由に滑れ。良いな!」
そう言って、二人はヴィクトルから離れた位置に滑り出した。

それと同時に聞いたことのある曲が会場に流れ始めた。

「これは...」

以前、勇利に話したことがある。
成長期に差し掛かった頃に、調整が上手くいかず綺麗に滑れなかったプログラムがあること。
今ならもっと綺麗に滑れるのに。と...。

「History Maker...」

あぁ、これをもう一度、観客の前で披露できるなんて。

ヴィクトルは微笑みをたたえて前を向いた。



即興とは決して思えない三人の息の合った演技に、観客達は否応なく魅了されていた。
ヴィクトルは現役を退いたとは思えない程のスケーティング技術と表現力で魅せ、勇利とユリオは互いを引き立て合うように息の合った演技をしつつ、主軸となるヴィクトルを更に輝かせた。

魔法の様な時間はあっという間に過ぎ去り、曲の終わりと共に三人の演技は大喝采に包まれて終結した。

ヴィクトルも勇利もユリオも、これだけの喝采を受けたことは初めてで。
驚きを笑顔に変え、ヴィクトルは二人の手を取り上に上げると観客達に大きくお辞儀した。

「ねぇ、ヴィクトル」
「ん?」
「僕、来年もこの舞台に立ちたい」
息を切らし笑顔で観客に手を振りつつ放たれた、呟きの様な勇利の言葉に、ヴィクトルは微笑んだ。

勇利もまた、人を驚かせ、喜ばせることに魅了されたのだ。
自分と同じように。

「...OK。現役続行だね。次のプログラムは何にしようか...」
「あ、ううん。そうじゃなくて...」
首を振ってこちらを見上げた勇利の強気な視線がヴィクトルを射抜く。

「ヴィクトルも僕も、選手として、もう一度この舞台に立ちたい!
 体が持つかは分からないし、今以上の演技が出来るのか、正直不安だけど...。
 それでも、もう一度、ヴィクトルと同じ舞台に上がって、戦ってみたい」

その言葉には嘘偽りは一切無く、ヴィクトルに対する無制限な憧れと無慈悲なまでの信頼がこもっていた。

ヴィクトルとて、体が持つかは分からない。
一年のブランクをどこまで戻せるかは分からない。


━━━━それでも。

自分が一番信頼し、惚れ込んだ選手の頼みならば、全力で応えたい。


「そういうの大好きだ...!」

ヴィクトルは笑顔で勇利の申し出を受け入れ、それと同時に彼に抱きついた。

「勇利は、俺のことを『僕を驚かせる天才だ』と言っていたけれど...。
 俺からしたら、勇利こそが俺を驚かせる天才だよ」
「えぇ?」
あからさまに信じていない勇利の顔を見て、ヴィクトルは笑う。

だって、誰も考えないだろう?
自分の教えた子に「現役に立って、そして戦ってほしい」と言われるなんて。
それに、今までだって...。

「おっさん二人でイチャついてんじゃねーよ!」
「んぅ?」
後ろを向けば、ユリオが眉間にしわを寄せて二人を見上げていた。

「何だ、ユリオも抱いて欲しいならそう言えばいいのに!」
ヴィクトルはそう言うと、ユリオを思いっきり抱きしめた。
「ぎゃー!馬鹿野郎!離せ!」
嫌がるユリオを抱きしめたまま、ヴィクトルは勇利を見やる。
その視線を受け、勇利は困った様にそれでも嬉しそうに笑って二人に抱きついた。

「うわ!カツ丼まで何やってんだよ?!」
「あははー」
「お前、どう考えてもヴィクトルに毒されてるぞ?!」
ユリオの悪態に、ヴィクトルは口を尖らせてユリオの頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。
「酷いなー!そんなことないぞ!俺達の仲だろう?」
「どんな仲だよ?!」

三人が笑っているリンクの上には、次々とエキシビジョンに参加したメンバーが入ってきている。
皆一様に、最高の演技だったと勇利達に笑いかけた。


エキシビジョンは終幕し、彼らは次の舞台へと歩を進め始めた。



翌年。
ヴィクトル・ニキフォロフは現役復帰、更には完全復活を果たし、再び、この舞台へと...。


















[次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!