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冬の寒さ厳しい12月、皆様いかがお過ごしですか?なんて駅前を通り過ぎる人に胸の内から声を掛けてみる事5人目
誰彼の答えが返ってくるわけもなく、そのまま通り過ぎる。ああ寒いなんて呟いている人は居た。うん、そうですね。と答えていた。胸の内とやらで
待ち合わせをしたカフェまであと少しという処で強く冷たい風が吹いて鼻の奥がツンとした痛さに呻いた。昨日まではそんなに寒くなかった筈なのに、今日朝起きたら冷え性ではない自分の足先が冷たくなっていて、温ったい筈の布団の中があまり温くなく、眉間に皺を寄せた。寄せた皺を人差し指で掻きながら、おかしーな、なんて声に出してみたが誰彼も答えてはくれない
よく言う、人肌の季節とやらに生まれた彼がこの隣に居たならば、何か答えてくれただろうか
彼は言う。うるさい、黙れ、と。彼はきっと言う。そうだな。と
そうすれば、胸の中が温ったくなって、甘くなって、会いたくなった。これは自然の摂理なんだと、理由を捏ねて彼を外に呼び出す
本当は自分の家か、相手の家か、慾を言えば2人きりになれる場所で会いたかった
そんな休日の昼下がりの冬
捏ねた理由なんかちっぽけな言葉でしかないのに彼の返事は二つ返事だった。きっと彼も寒かったんだと、思う
痛んだ鼻を乱暴に擦ってみたが、ちょっとそれもまた痛い。自虐的な行為にしかならなかったので直ぐに止める
鼻水が出てるんじゃないかと思って、その指で人中の陥没に添えて小さく擦る。鼻水は出ていない
約束のカフェに着いて、そのウィンドウで髪型をチェックした。外気に晒し物になっている髪は酷く冷たかった。そこから店の中を見渡せば、人肌の季節生まれの彼が既に店の一番奥の隅っこにぽつんと座っている。何度か待ち合わせで使っているこのカフェで、自分は彼に伝えた。店の一番奥になんか座ってるなよ、と。その時、煮え切れない顔をして何も言わなかった彼はまた、そこに座っている
奥の角なんてトイレに近いから彼は嫌がりそうなものだったが、この店の造形上、トイレは反対側の方にあって、きっと多分そこが落ち着くのだろう。その理由は聞かなくてもわかるし、わかるからこそ、そこに座って欲しいくなかったのだが
彼の服装は至ってシンプルだ。手袋やマフラーを好まず、コートの中は薄着。そして暖房を嫌う
暖房は乾燥すると聞いた時は、どこの女子だと笑えば殴られたのでそれ以来言ってはいない。その理由以外にも顔だけが暑くなるとか、熱が篭るなんか口にしていたが、寒さよりそっちの方が嫌だという事は一体どういう事なのか理解出来ずにいる
ウィンドウ越しの自分に気付いて、彼がこちらを睨んだ。おっかない顔だと学校では有名だ。見慣れて仕舞えばどうって事はなく、むしろそんな彼は人の目をじっと見る質の性格なので、そっちの方が好ましい。目を合わせない人より、目を合わせる人を好んだ自分の結果だ。ついでに彼は本当によく目を覗いてくる。穴が空くぞと言えば、空けばいい、くたばれ。と悪態になって返ってきてほくそ笑んだ。単純にその言い合いが楽しかったからだ。きっと彼は怪訝な表情をしたので、理解出来ていない。馬鹿な性格なものだから、相手の全てを理解したいと思っている自分と、そんなのは不可能だと割り切っている相手の何らかの差は大きい。それでも追及して理解したい気持ちを抑えているのは相手に執拗な問いを投げかけた際、彼が言った言葉が真っ当な言葉だったから
でもやっぱり、それもまた、理解出来ずにいた
わからない事があって、理解しようとする事はとっても普通の事だと思っている。そんな自分に彼は 焦るな と言った。真っ当な言葉だったが、答えには全く到底及ばない
突っ立っていた自分に業を煮やして、彼が前のめりになり、自分を本当に睨んできたので、慌てて店内に入る。入るなり、出ていなかった鼻水がここぞとばかりに垂れ流れて思いきり啜れば、すれ違った年上のOL風お姉さんに苦笑いをされた。そして自分自身も苦笑いをする。仕方ない。自然の摂理です、とお姉さんに言えたら楽だと思う
そそくさと、恥ずかしい気持ちを引きずって彼の座る一番奥の一番端っこへ行けば何故かこちらも苦笑していて、首を傾げた。馴染みの溜息を吐き出されて、無言で彼は自分の人中を人差し指で軽く叩く。はっとしてそこを人差し指で撫でればべた付くよりちょっとさらりとした鼻水が垂れ流れたままになっていた。寒かった外から暖かい店内に入ったので一気に反応してしまったようだった

2人掛けのテーブルは円形で、小さい。椅子もテーブルも木製でちょっと温かい気持ちになれた処で、首に巻きつけていたマフラーを取ってから鼻水を鼻に吸い戻して、戻らなかった鼻水を拭った
相手が嫌そうな顔をして眺めていたので、それはわかるとばかりに満面の笑みを向ければ、唇を尖らせて本当に嫌そうな顔をした。汚いと言いたいのだろう。そんな事構う事なく着ていたダウンジャケットを脱いで豪快に空いた彼の向かいの椅子に座った
実は寒かったとはいえ、カフェに出てきて話す内容等特には無かったのだ。それはきっと相手もわかっているとは思うが、なんせ未だに嫌な顔をしているので、ティッシュを持ち合わせていなかったと伝える。彼は歯を擦り合わせるようにしかめっ面をして腰元に置いていた小さめの鞄からポケットティッシュを取り出して投げてくる。それを受け止めて軽く礼を言えば、さっさと拭けと怒られる始末だった。彼は一体自分の事を何歳だと思っているのか笑い転げたくなる
相手の様子を伺えば、ホットコーヒーが湯気を立てていた。白い湯気が立ち上るそれからして、きっと来たばかりだろうと予想する
そして自分も何か飲み物をと立ち上がって、カウンターで注文を今かと待っているお姉さんを一見した
少し此処に長居しようと決めていた。店に入る前に話す内容がないと思いながらも、ちゃんとその瞬間に決めていた。そしてそれは長い話になるかもしれない。温かい飲み物とちょっとした甘いケーキなんかも注文してみようかと思った時に、相手が口を開いた
その答えは簡単だった

コーヒー好きの彼からすれば、甘ったるいそれだろうが、中学生でコーヒーを飲める方がおかしいと前に言ってやった事があった。それに自分の今の気持ち的にココアだ。ミルクで割ったココア。濃厚に甘いやつをゆっくり時間をかけて飲みたい
そして話す内容は真っ当な言葉を自分が理解出来るまで話して欲しいし、話し合わせて欲しい
カウンターのお姉さんにココアを注文して、意外と高かったので、ココアだけにする。財布の中身もどうやら冬だったのを自分で忘れていた。お姉さんは手早く注文したココアを用意して、白いマグカップに濃い色をした美味しそうで温かそうなココアを注ぎ、トレーに乗せて手渡してくれる。会計を済ませて、ただじっと自分を眺めながら待つ彼の元へ戻った。腕組みまでして、こんな洒落たカフェでコーヒーなんて、ちょっと憎らしい
戻った自分に腕組みから頬杖に位置を変え、何か企んでいるんだろうと伺うように見てきたので項を掻いて笑ってやる
話したい内容についてそれとなく言ってみれば、相手のくちびるを割って出てきたのは そんな事か の一言だ
マグカップに自分のくちびるをくっつけて、熱いココアを少しだけ口の中に入れた。甘い甘い味が広がって、熱いそれが食道を通る。その通ったココアによって体内が蘇る。ちょっと飲んで、ふーと息をかけ、また飲むを繰り返す事5回目

「理解する気持ちがありゃ、それでいい。あるなら焦らずゆっくりでいいじゃねぇか」


目から鱗の気持ちだった
ココアはそこで役目を終えたのだ


話しが終わった。












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