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「これは3年、こっちは1年、こっちも3年」
「……」
「あ、これは2年。センパイたちばなサンって?」
「………」
「知らないっスか」

ふんふん、と頷いてから目線を俺から机にばら撒いた封筒達へ戻す
昼休み、2年である俺の教室にまで来て何を仕出すのかと思えばこれだった
靴箱に捩込まれた手紙や、直接手渡しされた手紙
今時手紙なんて手段流行らないよね、と越前が首を傾げてきたがそこは無視した
ラブレターと呼ばれるそれは、俺には縁の無い物で、越前にはとてつもなく縁の有る物らしい。教室に何をしに来たかと思っていれば、俺の机の上にラブレターをバサバサと拡げた

「あのなあ」
「今日はなんかマドレーヌ貰ったんスよ」

調理実習っスかね?

なんてまた首を傾げてきたので、俺は溜め息を吐き出した
女子から貰ったらしいマドレーヌを3つまた机に拡げて越前はラブレターの数を数える
今日は6通と控え目な数だったらしく面白くない顔をしてから、ばら撒いたそれを重ねて纏めた

「読まねぇのか」
「まあ」
「ああ?」
「内容は似たり寄ったり」
「……」

落胆するとゆうのはこういう事なんだな、と俺は思った。内容が似たり寄ったりだから何だと言うのだろう。いや、言わなくても越前の言いたい事がわかる。だから落胆したんだ
生意気な奴でどう仕様もない奴だと前々からわかっていたがここまでとは
様は、中を見ても内容は皆同じだから見たって楽しくない、面白くないと言いたいのだろう
誰も越前を楽しませたいが為にラブレターを書いているわけじゃないだろう

「くだらねぇ」
「中身?」
「テメェだ」
「オレ?」

信じられないという顔をした後に唇を尖らせて、越前は目線を俺から反らせた
わざわざ俺の席でラブレターを拡げた意味がわからない
重ねられたラブレターをそのままに越前が顔を俺へ戻す
でかい色素の薄い目がこちらを捕らえる
瞳の黒が際立って、周りが琥珀の様で見入ってしまった

「マドレーヌ食べる?」
「あ?いらねぇ」
「ええ」
「テメェが貰ったんだろうが」
「貰ったオレがセンパイにあげるって」

その上から目線は自身の琥珀色の目とは完全に別物だなと俺は呆れるしかなかった
貰ったラブレターは読まない。手作りケーキは他人に軽々しく上から目線であげて仕舞う。ラブレターを書いた気持ちや作った気持ちを越前は何で汲み取ってやれないのか、眉間に皺が寄る
寄った皺を指で伸ばしながら俺は目の前に居座る後輩に教えなければならないのかもしれないと、先輩らしい事を考え、越前であっても人の気持ちぐらい少しは解るだろう

「越前」
「っス?」
「手紙、読め、ここで」
「………、いいっスよ」
「なに笑ってやがる」
「いえ、別に」

なんの意図があって越前がこの場にラブレターを持って来たのかは知らないが、自慢でもしたかったのだろうと思う事にして、まさかこのまま一生読まれないラブレターになるなんて事に俺の心臓が痛んだので、付き合ってやることにした
越前は1番上に重ねていたラブレターを持ち上げで軽快に封を破り、紙を取り出した
心なしか嬉しそうな顔をしていたので俺は苛々とし机に置いた指でトントンと秒を刻んだ
暫くして、琥珀色の目に白い靄が映ったので驚いて顔ごと越前の方へ向ける
白い靄はゆらゆらと越前の目の中で揺れて、睫毛の陰で黒くなる

「まあ、そうだよね」
「あ?」
「ううん、いや、もうさ」

嘲笑う、と言うのだろうか、そんな単語が過ぎる顔をした越前の琥珀色の目が白い靄に支配されて濁って見える。それが気になって仕舞って、越前の言う言葉は半分位しか頭に入ってこなかった

「似たり寄ったり」
「……テメェは何を求めてやがるんだ」
「何って…」

ラブレターの内容がつまらなかったらしく、紙をそのまま机に放り出す。越前が紙から俺に目を向けてじっと見てきたので、睨まれた俺は睨み返してやる

「別になんにも」
「大体なぁ、手紙貰っておきながら内容にケチつけてんじゃねぇよ」
「ケチって」

白い靄がサッと消える。クリアになった越前の目に見入っていれば、光りが入って妙にキラキラと輝き出した。それにまた驚いて俺は越前の目を食いる様見詰めた

「な、」
「あ?」
「なんスか」
「いや、テメェ」
「っス」
「目ん玉おかしくねぇか」
「はあ?」

わけがわからない、という顔をして目を見開いた越前の眉間に皺が寄る
大きく開かれた目に、白い靄ではなく明らかに暗い濃い色の靄が出てきて、それでも目の水分量が増したように見える
代わる代わる様子を変える越前の目に気を取られて、相手がサイテイと口にした事に気づいたのは数秒遅れてからだった

「聞いてなかったんスか?」
「…何がだ」
「何がってアンタ」

食入る様に見ていた水晶が瞼で隠されたので、俺はハッとして自分の目を瞬かせた
数回瞬きをしてるうちに越前が2回溜め息を吐いた気がする
越前なんかに溜め息されるなんて事は俺の中では有り得ない事柄で、苛々として歯を食いしばる

「テメェ、今溜め息吐き出しやがったな」
「別に」
「嘘つけ」
「オレだって吐き出しますよ」
「あぁ?!」

厭味な敬語に、溜め息の前にサイテイと言われた事を思い出し、咄嗟に右手を上げて越前の頭に拳を落とした

「イッタ!!」
「最低って何だコラ!!!」
「サイテー!ほんとサイテーっスね!!」
「誰にモノ言ってやがる!」
「サイテーだからサイテーっつてんっスよ!」
「テメェ何しに来やがった!」
「そんなんもわからないの?!ほんとにサイテー!」
「連発してんじゃねぇぞこの糞ガキ!!」

何故越前が怒るのか訳がわからない。いや、俺が殴ったからなんだろうが、どうやらそれは調味料程度の事で
大体、ラブレターなんか俺に見せつけに来て、何が何やらわかったもんじゃない。マドレーヌなんて暫く食いたくもなくなる
怒りに気を取られていたが、越前の目を見れば水分を多く含み、今にも目玉から零れそうだった
顔も赤くて、まるで

「ない…」
「はぁ?!なわけないっショ」

あーくだらない。と越前は顔を反らせた。泣く、と思った。あの生意気しかない大人びたあの越前が。目を疑ってもう一度目を合わそうとすれば、反らされ、隠される
さっきまで爛々としていた雰囲気や目が今では最早跡形も無い
机にあったラブレターもマドレーヌにも興味は微塵たりとも無く、眼中にも無かった

「……クソ。気分わりぃ」
「お互い様っスね」
「テメェがこんなモン持って来やがったからだろうが」
「……え?」
「あぁ?!そうだろうが、わざわざ見せつけに来やがって」

キョトンとした顔で俺を見上げた越前に俺は首を傾げて眉間に皺を寄せた。間違った事は言っていない筈だ
越前がわざわざラブレターなんかを持って来て、見せつけるだけ見せつける意味のわからない行動を取ったから悪い

「ラブレター、気になったっスか?」
「……なんねぇ」
「ほんと?」
「……ムカつくだけだ」
「!!」
「な、」

越前の二つの目玉が一気に虹色になったかと思える程に輝いた
驚いた俺も自分の二つの目玉を見開く
何が何によってそう成るのか一考にわからない
生き物みたいに生き生きと表情を変える越前の目

「っーーーし!!」
「…はあ??」
「何でもないっス!」
「なんだテメェ…」
「かいどーセンパイ、これ返事どうしましょうか」
「返事、すんのか」
「気になります?」
「くだらねぇ」
「中身?」
「テメェがな」

ふはは!と越前が笑って見せた
目だけじゃなく、表情もころころ変わる越前に半ば呆れながらも感心する
こんな奴だったか?と机に頬杖をついていると、昼休みが終わるチャイムが鳴る

「あ、ヤベ」

行かなきゃ、と呟いた越前に俺は確かめなければならない事があった
ラブレターやマドレーヌを俺の机から掬い上げて手にした相手の手を引っ掴む

「なんスか?」
「越前、何しに来やがった」
「え」
「あ?」
「えー、あー」
「あぁ?!」
「もう…、」

引っ掴んだ俺の手をラブレターやマドレーヌを持っていない右手で剥がし笑いながら

「ヤキモチごちそうさま」

ひらひらと手を振って、そのまま越前は教室から出て行った
俺はただ越前の背中を見送り、席に座ったまま佇んだ





ジーザス!!




END




あきゅろす。
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