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「HAPPY BIRTHDAY!」

そう発音よく越前が笑顔で告げた
朝、起きたら家族に言われて、家族の次はこいつだった
俺の誕生日だからと近くの公園で会いたいと呼び出され、越前と会った
越前は笑いながら箱を渡してきたので、恥ずかしかったが受け取る。きれいにラッピングされた箱の中にはカルピンそっくりの人形キーホルダーと手触りのいいエメラルドグリーンのタオルが入っていた
キーホルダーを手にすれば、越前がまた笑顔で おそろい と、家の鍵をちらつかせてもう一匹のカルピン人形を見せてきた
どこで見つけたのか、本当によく似ているので聞けば、従姉妹の手作りだと言った。成る程、似るわけだ
歩き出そうとした俺の手を取って、越前が真剣な顔をして紙の束を渡してきた

「なんだ?」
「こっちが本命」

本命というそれは、記憶をする時に使う単語カードぐらいの大きさだろうか。むしろそのカードだと思われる
単語カードを手にして、越前を見て、単語カードを見てを繰り返してから、単語カードの表紙をめくれば、汚い字で

「越前リョーマとテニス券……?」
「そう!」

愉快な字で書いてある単語カードはどうやらこいつの手作りらしい。惰力して、俺はこいつの暇加減を呪う。何枚あるのか聞こうとしたが、どこまで暇だったのか最後のカードに100と書いてあった

「アンタが1番欲しくて、喜ぶのにした」
「―――……」
「なにより1番っショ」

得意げに越前は腕組みまでして鼻を上げている
確かに、俺はいつ何時もこいつとテニスをするのを深く深い場所から思い願っている。浅い場所ですら、思っている。頭の先から手足の先まで、渇望している が、

「……誕生日に渡してね。だと?」
「そう。誕生日に。100枚あるから。誕生日100回オレとテニス三昧!」

いいでしょ?!嬉しいでしょ?!

と越前はでかい目をきらきらとさせて得意げだが、俺はこいつの馬鹿さ加減に溜め息を吐いた

「誕生日は1年に1回だ」
「だから100枚、100年分」
「1年に1回しかテニスしねぇのか」
「!―――、それは」
「100年で、テメェと出来るテニスはたった100回か」

越前は黙り込んだ。予想通りの結果に俺は噴き出しそうになるが、それを堪える。口が釣り上がって笑いそうになるが、必至でそれにも堪える
越前の眉が困った形になって、

「じゃあ、……テニス1年間し放題券…」
「ぶっ!!」

噴き出してしまった俺に、越前は頬を膨らませた
唇まで突き出して、越前は残念な感情を持て余している。いいアイディアだと思って、100枚も下らないものに、暇を費やして、一枚一枚書いたのだろう

「っ……」
「ちょっと!嬉しくないわけ?!」
「う、嬉しい、たまんねぇ、越前」
「笑ってないでよ」
「1年間し放題って、今と変わらねぇ」
「うっさい」

1枚で、1年間、越前リョーマとテニスし放題
100枚あるから、100年間、越前リョーマとテニスし放題
券を使おうが、使いまいが、今と何にもかわらない
かわらない、が、
いつか、きっと、この先に俺はこの券を宝の様に使う日がくるんだろう
その時、越前、俺は

「有効期限は100年だな。守りやがれよ」
「とーぜん。プレゼントだよ、それ。本命の」

お前と、

「忘れたなんて言いやがるなよ」
「まさか」

テニス
できるのか――?


掌に納まる単語カードを握りしめて、また開いて、1枚切り放す
切り放したカードを越前の前に差し出した

「おら、」

越前は目を細めて笑った
猫みたいに笑う奴だとは思っていたが、本当に猫みたいだ
越前が手を出して、切り放したカードを俺から受け取った

「じゃあ、来年のセンパイの誕生日までオレとテニスし放題」
「テメェん家行くぞ」
「ケーキあるよ」
「なに――」
「センパイの事だから、ね」

越前がまた猫みたいに笑いながら切り放した今年分の単語カードをヒラヒラさせた
すぐに使うのは予想済みだったようで、俺は先読みされていた事に歯を擦り合わせた

「誕生日おめでとう」
「ああ」
「100年分のオレをおめでとう」
「……なんだそれは」

歩き出した俺の横に躯をぴったりくっつけて、越前は妙に赤い顔をしてそんな事を言った

「100年間のオレをセンパイは手に入れたんじゃん」

おめでとう。

目を見開いて、躯を擦り寄せる越前をただ見つめた
つまり、そういう事で、そういう事なんだ

「馬―――!!!!!!」
「ふは!真っ赤!!」
「!!――鹿か、テメェ!!」
「まあね。オレもヒマじゃないからね」
「な―――」

なんて、奴だ。こいつ

残り99枚の単語カード。
一枚一枚越前が手書きで書いたわけだ

「テニスだぞ」
「わかってるって」
「テニス、だからな」
「くどいっスね」
「……いや、テメェわかってねぇ」
「それ作ったのオレ」
「注意書きがねぇ」
「返品不可っス」
「――最低だこのやろう」

言うだけ言ったが、捨てる気は全くないので、まんざらでもないんだろうと思う
俺がもし、このカードを捨てたらこいつは一体どうするんだろうか
越前の事だからまた、何かしら仕掛けてくるんだろう



100年間の越前リョーマをおめでとう。俺






END




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