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わらった顔なんて、見たことがない。
人を頼った姿なんて、見たことがない。
彼の躯に纏わり付くのはいつもダークカラーの透明色。



極彩色の、ダーク・エメラルドグリーン




なんて事だろうか。








学校の授業が終わり、部活へ向かおうとする。授業中は殆ど寝ていたから、もうすぐテストだという事に少しばかり焦りも感じる。どうして好きな事だけをして生きていけないんだろうか?なんて質問をしたら、大人気ないだろうけど、大人は答えてくれるだろうか。担任が今回のテストで酷い結果だったら、補習授業をすると言った。テニスをする時間を削られて、尚も削ろうとするなんて。駄々をごねながら唇を尖らせ、部室へと足を進める。そろそろテスト期間だ。勉強を始めなければきっと酷い結果に成って仕舞う。特に国語はどうしたらいいのかわからない程に酷かった。英語や数学なんか他の教科はなんとかなるけれど、国語だけは苦手で、文章問題は悲惨。母親に、文章問題が出来ないのは常識がないからよ。なんて言われた。なんの関係があるんだよと言葉を蹴ったが、あながち間違いじゃないかもしれない。常識と、いうか、オレはオレ以外の他人の考えなんてわからないんだから。皆そうなんだろうけど、読解力って他人の書いた物からその人の言葉を探って解読すると、国語の授業で習った。他人の心を読むとまではいかないけれど、常識範囲内でそれを問題にしているんだろう。読解力を養えば国語、得意になるだろうか?

「あ」

部室に近道の渡り廊下を歩いていれば、目の先に黒い艶のある髪をした長身を見つける。うちの部で1番スタイルがいいのは彼だと、不二先輩が言ってたのを直ぐに思い出して、足から腰、背中と眺めて見る。学ランを着ているからそんなにラインが見て取れるわけじゃないけれど、やっぱり中学2年にしては高い背と、長い手足がスタイルを良く魅せているんだろう。こればっかりは生まれ持った其だから、オレには手に入らない。鉄棒でもして手足を伸ばせばいいんだろうか?それこそ、テニスをする時間を削られて仕舞うから嫌だ。才能というのは生まれ持って出てくるんだとオレは思う。彼はスタイルを持って生まれてきた。オレより背が高く、手足が長い。それでも彼はオレにテニスで勝った試しがない。是がオレの才能だと思う。才能を才能として成長させる力もまた才能。絶対的才能を発揮出来た人は幾つもの才能を持っている。オレはその中に入ってて、彼は入っていない。まだ。彼の後ろ姿に何時の間にか近付いていて、直ぐ後ろに立っていた。どうやら彼は立ち止まっていたらしい

「ゥイッス」
「………あぁ、テメェか」
「何してんスか」
「あぁ?」

立ち止まってなんかして、と付け加えずに、彼の横に立ち、並ぶ。横に並べば彼の肩下辺りがオレの目線。悔しいわけじゃないけど、べつに。1年も学年が違うわけだし

「部室」
「ああ、うるせぇ」

部室行かないんスか?と聞こうとしたのに直ぐに遮られた。話しにならないヒトってこうゆうヒトなんだと、オレは溜息を吐き出す。さっきから、渡り廊下の真ん中で立ち止まって何をしているのか。この渡り廊下は使用者が放課後になれば皆無になるから、人通りの多い廊下を歩くより、階段を1階上らないといけなかったが、時間短縮にもなったし、なにより欝陶しくない。彼もまたこの渡り廊下を使用していたなんて、今の今まで知らなかった。そして、立ち止まっている理由を聞く前に、彼より一歩踏み出して気付く

「真っ赤だ」
「あぁ」

渡り廊下の窓から見えた空一面が真っ赤に染まり、揺らいでいる。焔に熔けてゆく白い雲が、染められた赤に翻弄されて、朦朧としていた。陽炎。まさかこんな場所で美しいそれが見られるなんて知りもせずに、毎日を過ごし、毎日ここを通り過ぎ去っていた

「うわ」
「―――」
「毎日こんなんスか?」
「いや、晴れて雲の大きい日だ」
「ふうん」

詳しいんだ。という言葉は控えた。彼はただ、黒い瞳に赤を写して、綻んでいるのではなかったから。もっとリラックスして見ればいいものを、そんなに厳しい顔で見たら勿体ないとオレは思った

「センパイずるい」
「あぁ?!」
「こんなの一人締めして」
「うっせぇ」

オレも毎日通っていた。全く気付かなかった。こういうのは好きな方なのに、気に止めなければ入ってこない。彼は違うみたいだ。生活している中で、自然に青い空や曇天、真っ赤に染まった夕空、煌めく夜空がすんなりと目に入って、それを綺麗だと思い、立ち止まる。そういうのもきっと才能。オレにはない、才能

「やっぱりずるい」
「ふん、くだらねぇ」

静かな赤がゆっくりと世界を飲み込む。目、いっぱいの世界が赤になる

「なぁ」
「なんスか?」
「テメェのそのでけぇ目は、広いのか?」
「―――、」









好き、だ。






そう、思った一瞬で、オレは彼に落ちた。落ちる音はなんて軽々しい。オレにない、それをオレに教えて。



(彼の才能に気付いたこれは才能なんかじゃなくて、運命)











END







あきゅろす。
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