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晴れているのか、雲っているのか、わけのわからない空の下で
海堂は思いもしない物を越前から受け取った


「はい、先輩」
「……な」
「なんだとか言わないでよ」

言うだろ、言わせろ、と海堂は越前の持つワインレッドの包みを纏った小さな箱を睨んだ

「バレンタイン」
「あ、…あぁ?」

相手がバレンタインと口走り、ああ、今日はバレンタインかと考えて不思議になった
バレンタインといえば、女が男にチョコなんかを渡す日であって、男が男に渡す日ではない

「なんで」
「……バレンタインだから」
「バレンタインはテメェ、女がやるもんだろうが」

海堂は目を点にしながら、胡散臭いワインレッドの箱を見つめた
越前は軽く笑いながら、してやったという顔をしたので、海堂はそれを睨んだら越前が事の説明を口にした

それは2月14日のバレンタイン。
晴れているのか、雲っているのか、わけのわからない空の下、部活を終えて2人で帰っている時だった

逆チョコというのを耳にしたらしい越前はそれに興味を持った
大体、バレンタインは女子が男子にという風習は日本であってアメリカにはない
そもそも、バレンタインがチョコレートだという風習も日本のものだった
何気なく見ていたテレビでバレンタイン特集をやっていて、逆チョコという男子から女子に渡すチョコに面白みを感じた越前は従姉妹の姉に逆チョコについて聞いてみたらしい
返ってきた事柄は酷くシンプルなものだったみたいだが、試してみたくなってこうなったのだと越前は言った

海堂はそのまま逆チョコと越前が呼ぶ、ワインレッドの箱を有無を言わさず押し付けられて、手にして帰った
少し照れた顔を見せた越前に珍しさを感じて、イベントなんて自分達には遠いものだが、たまにはいいかと思った

家に帰って、部屋のガラステーブルに箱を置き、制服を脱ぎハンガーにかける。背を向けていようが、視界に入らなくても、箱が気になってしまい自分がまさか、この箱に喜んでいるんじゃないかという信じられない事柄が頭に過ぎり、海堂を焦らせた
ガラステーブルの上に乗ったワインレッドの箱は、小さい癖に存在感だけはこの部屋の何より強い。いや、今はこの世界で何より強い。いや、越前自身には負ける
考える全てが越前に向かい、喚きたくなる衝動に駆られた
そんなものではない、考えるな、何でもない、ただの箱で送り主もただのガキだ
何度も何度も頭を左右に振って振り払おうと試みたが上手くいくわけが無かった
落ち着いて、その箱の前に座る

”バカげた真似しやがって”

一息ついて、右手を伸ばし箱に触れてからハタと思い止まる。逆チョコと言われるだけに逆なわけで、女子から男子に渡すチョコを男子から女子に渡す。だから逆になる。と、いう事は越前が逆チョコだと言ってそれを受け取った自分は女子になるのか
そもそもやはり、自分達は男子同士だから逆の意味がわからない

”あの野郎、俺を女役に仕立ててぇのか”

逆じゃねぇだろうが、逆じゃ と呟いてケータイを鞄から出して箱の隣に置いた
ワインレッドの箱を手に乗せて、包みを丁寧に剥がす。包装紙の中に在ったのは黒い箱だった
ノワールと書かれたパッケージは有名な菓子会社のチョコレート
箱を開けて、金色の個包装を剥がして口へ放り込んだ
甘いが苦い。後味に少しだけ苦さが引くがカカオの風味が香って、単純に海堂の好みだった

”うまい”

パキッと小気味よい音を鳴らして歯で噛み砕く。調度良い薄さのそれが聴覚的にも楽しい
海堂は悔しくも、負けた気分になった







次の日、とりあえず海堂は越前に 旨かった とだけ伝えると越前は そうでしょ! と高らかに笑った
ノワールという名が気に入って選んだと上機嫌になった越前が海堂には輝いて見えた



 






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