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登校し、まず始めに校舎に入れば靴箱に向かう。靴箱に向かい、下靴から上履きにはきかえて教室へ向かう
ごく、自然なその行動を当たり前の様に今日も明日も明後日もし、休日になれば上履きを持ち帰り洗う
海堂の上履きは毎週持って帰り、洗われて清潔に保たれていた
周りの上履きなんかは汚れて黒い
隣の上履きはかかとの部分が踏み付けられて形崩れしており尚、紐は擦り切れて半分はなくなっていた

ある日、その日常的な行動をする為に靴箱に向かい、下靴を脱いで上履きに手をかけようとした瞬間、海堂は手を止めた
揃えられた上履きの上に真っ白い封筒が乗っている
見れば”海堂薫さま“と真ん中に小さくも綺麗な字で書かれていた
なんの報せの手紙かと思い、海堂はそれに躊躇なく手を伸ばした

「最低」

手にした手紙を握り潰しそうになる位、驚いた海堂が振り返れば
後ろに小柄な後輩が立っていた

「な、」

お前が何でここにいる、ここは2年の靴箱だ と言いかけて、動揺で声にはならなかった
本人は驚かせる気等無かったのだろうが、海堂はしっかり驚かされた
それが悔しくて舌打ちをしてしまう

「それ」
「ぁあ?」

それ ともう一度繰り返して、海堂が握りしめた手紙を顎で指した
うっかり皺くちゃにしてしまうところだった柔い紙に慌てて海堂は気付き手から離してしまう
ひらり、と落ちた手紙を海堂も越前もただ目で追った

「手紙?」
「なんかの報せだろ」
「まさか」
「あ?」

手紙を見る越前の目が何故かいたたまれなく、海堂は素早くその手紙を救い上げた
数回ついてもいないゴミを掃い、越前の前から消したくて鞄を開ける

「ラブレター」
「ぶっ…!」
「あいのてがみ」
「お前な」

靴箱に入っている手紙が100%ラブレターな時代はもう昔
今は携帯電話がこれほど世に出回り、この海堂ですら持っているし、小学生の弟でさえ持っている
告白に手紙、しかも靴箱を選ぶ人が今もそう多いとは思えない

「ちげぇ」
「…でもまだ中見てないじゃん」
「そ、…。テメェなんでここにいる」

手紙から目を離さなかった越前が、目を海堂に向けて素っ気なく たまたま と告げた
海堂は大きく溜め息を吐き出して、手紙にまた目を戻した越前の頭に拳を落とした

「いたい」
「だろうな」
「なに」
「見んな」
「勝手でしょ」
「穴が開く」
「つまらない」
「うるせぇ」
「開くわけないし」
「見てんな」
「バカみたい」

もう一度拳を頭に見舞ってみたが、それでも越前の険しい顔は変わらなかった
この険しい越前の顔は気に食わない
テニスをしてる時や、運動している時の険しい顔はとても好きなのだが
「何が言いてぇ」
「だから、ラブレター」
「なわけねぇ」
「じゃあだから開けて読んで」
「教室で読む」
「今読んで」
「……断る」
「ほら、ラブレター」

ああああと唸りたくなるように苛々と海堂は髪を掻いた

「授業始まるだろうが」
「……じゃあ、俺が預かる」
「なんでそうなるんだ」
「彼氏だし」
「…………………、フシュゥ」

なんだ、なんなんだそれは 海堂は心で呟いてから肩を落とした
もし、万が一に、これがラブレターだったならこの越前は何をどうするつもりなのだろうか

「今、すぐ、見て」

急かす越前の険の掛かった顔に少しの恐怖さえ感じ、また海堂は悔しい思いをする
だいたい、越前だってラブレターの1枚や2枚軽く貰っている
嫉妬など等に過ぎ去った海堂にとっては、理不尽にしか思えなかった
自分は手にしている癖に海堂のは許せないらしい
我が儘でしかない

「かして」
「……………うるせぇ」
「読んであげる。報せなら別に気にすることないよ」
「報せだからテメェが読む事はねぇ」
「ラブレターなら読ませてくれるわけ」
「どっちにしろ、俺宛てだろうが」

一層険しい顔をした越前は海堂が手にしている手紙を今度は鼻で笑うようにした

「くだらない」
「あ?」
「くだらないって言ったの。先輩には俺がいるのに。先輩は俺のなのに」
「…ちょ、テメェ」
「こんなラブレター出したって先輩はあげないし、譲らないし」
「物みたく言ってんな」

越前といつからそういった類の感情にあるのかはっきりとはわからなかったが、確か自分が目で追うようになったのが始まりだった気がする
ひたすら、越前を目に焼き付けて、テニスに執着するイコール越前への執着にかわった
その執着を越前が熱と感じて、越前に伝染した
しかし、先にこの執着を熱と捉えたのは越前だった
海堂は越前の試行錯誤の手段に合うまでこれを熱だと思わず、ただの執着だと思っていたし、間違ってはいない
越前がテニスをしていなければ、こんな関係にはならなかったし、自分がテニスをしてなければ同じ事だろうと思う
確かに、それを思えば実にくだらない
手紙がラブレターと決まったわけではないのだが、万が一ラブレターだとしたら

越前と海堂はただの関係ではなかった
簡単に惚れた腫れたの話しではない
テニスという作用が在るからこその関係で
越前も海堂も互いにテニスを自分から引く事も、抜く事も、消す事もできない
このまま関係が崩れたとしても、テニスにおいての関係はかわらない
人生において、テニスが付いて回る様に、そのテニスの影には常に越前がいるだろう
越前の方はそうだと言い切れないが、自分は確実にそうだった
テニスと共に在る自分に、テニスと対となって越前がついてきた


 




あきゅろす。
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