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すき、 ってなんだろう

わからないし、わかりたいとも 思わない

だって普通に生活してて、していく上で必要なわけ?
ああ、そうか、恋愛とかなんかして結婚してって繋がっていくのか

そんな、もんなの?

こい、 ってなんなんだろう


舞い散る花びら、金に光る 雫

発熱のような、想い


これは、 なに?




「越前、」
「……なんスか」

越前はキャップのツバを引っ張り、目を隠した
寒かった、痛かったあの季節はいつの間にか終わりを告げ、その時に別れを言えなかった事を越前は引きずっていた。まだ春になっていない、そう思っていた。なぜなら別れを言えてないから、あの季節に
寒かった、痛かった、風が空気が
今はもういない、それ。柔らかく包み込むこの季節は些か居場所がない

越前は海堂に呼ばれ、振り向くが、目は合わさない。部活の時間も終わりに近づいたその時、越前は一人で水を飲みにコートから離れた。それを見ていた者はいないように感じていたのだが、あっさり海堂に見つかってしまったようだ
深くかぶったキャップを上から見下ろす目線が痛い

”見ないで、ほしい”

もぞり、と躯を動かしては足元にあった小石を軽快な音がするほど踏み締めた

「…おい」
「な、んスか」

弱っていた。参っていた、自分。隠してくれたあの季節が こいしい
真っ白い世界を作り出してくれた時は涙が出そうになるほど、だった。理由などないと言ったらない。ただ、越前の全てを理解したかのように、真っ白く、閉ざして、くれた

「先輩たちがテメェを探してる」

呟くように、ぶっきらぼうに、少し腹を立てているかのように、言われて越前は苦笑した。ほらみろ、この季節は柔らかすぎて突き刺さる 軟弱なのは越前自身ではなく季節だと言い聞かせ、キャップのツバを持ち上げ、目を合わせる

いつからだったかさえ、わからない
ただ、わかるのは、どんどん進んでいることだけだった

「先輩たちってダレ?」
「チッ、」
「言ってくんないとわかんないッスよ」
「あぁ、部長と副部長、 だ」
「ふぅん、」

相槌のように、興味さえないかのような曖昧な返事。実際どうでもよかった、気になる事柄が大きすぎて、大きすぎて、ちっぽけどころか見えない
海堂はそれを伝えると、手の甲で厚い唇を拭い、どうやら汗が髪を伝ったようで眉をしかめた。越前の隣に足を進めて、手を伸ばす、腕が伸びたその様子は 時が止まったように越前の脳裏に入り込んだ
これ以上すき間などないのに、減り込むように、擦り付くように入り込む、あぁ、唸った脳は裏腹に焼き付け、しまいこむ
赤い、リボンをかけて

「おい」
「…」

声をかけられハッとすると、海堂は腕を伸ばしたその写真から抜け出して、手を水道の蛇口にかけて、水を口にしていた
その一つ一つの行動を越前の脳は奥深くへと焼き付けて、リボンをかけてしまいこむ。引き出しには鍵をかけない。いつでも見れるように、と

「行け、早く」
「急ぎだって?」
「…知るか」
「なら、いいじゃん」

水がまずいのか、越前の態度が気に入らないのか、海堂は眉間に皺を寄せ、勢いよく水を飲むと蛇口を捻り、しめた
また、分厚い唇を、水の滴るそれを乱暴に手の甲で拭う。水分を吸い込むことのない手では拭ききれず、滴る雫が、金に光った

「何してやがる」
「、どう見えるんスか」
「…突っ立ってるようにしか見えねぇぞ、コラ」

サボるんじゃねぇ と海堂は大きく息を吐いた。揺れる前髪を欝陶しそうに右手でかきあげると意外に広い形のいい額があらわになる。じっとそこを見ていると、軽く小突かれ、驚いた越前、触れられたキャップが少し濡れた

「なっなにスんすか!」
「サボってんじゃねーぞ」
「サボってないっスよ」
「どー見ても突っ立ってるだけじゃねーか」
「……」

海堂から見ても誰から見ても越前は確かに立っているだけで、熱心に部活動をしているようには見えなかった
まだまだ肌寒い、風と緩い色をした夕焼け空。日が暮れるのも早い
早く先輩達のとこへ行きやがれ 海堂は唸り声しかあげないで、水のでる蛇口に頭を突き入れ、髪を洗うように浴びた。風邪ひくよ と声をかけたかったが、それは喉より上には上がらず、そのかわりに唇を噛み締めた

急な想いを、知っている だろうか
何の前触れもなく、それは腹から胸へ脳へ突き上げる、 熱 、
苦しい、空気が薄い、息ができない

せつない?

やるせない

足が震えた、居心地が悪い
手は汗ばむ、ああ、と思った、

それは
これは

なに?


「か、」

海堂、先輩、くるしい

それをつげると越前は左胸を左手でにぎりしめた
そこが、くるしい わけじゃない
ただ、息継ぎがうまく、ゆかない


海堂は濡れた髪をそのままに、越前を黙って、見つめた。本当に苦しそうな後輩を見て、何を思っているのか、越前にはわからない
ただ、黙って、手を伸ばし、越前のキャップを取り上げる

「っ、なんスか」
「苦しいって、テメェ顔赤いぞ」
「……風邪かも」
「熱あるんじゃねーのか」

苦しいなら最初っからそう言え、なぜ言わなかった、なぜ堪えた
海堂にしては口数が多くて越前は口を緩めた
口数は少なくていい、優しくなんかしなくて、いい、口は悪くていい、睨んでくれて、いい、
だから、
せめて、

意味を教えて、ほしい

答えなくていいから、黙って、教えて


「保健室いくぞオイ」
「大丈夫っス」
「顔、赤いぞ」
「熱かな」
「…帰れ」
「そうするっス」


たすけて、冬、よ
、真っ白に、塞いで、真っ白に、彩って
熱を、冷ます 寒さを、
ふわりと、浮く躯に 痛さを、

かくして、かくして、かくして


すべてのせかいをまっしろにして、すべてをかくし、つつみこんで



あなたは、もう、いないんだね

気付かないうちに、前へ前へと、進んでいく

時は刻一刻と過ぎ去ってゆく


取り残されたいのは、願うのは、どうして



「越前、」
「なんスか」
「……髪」
「え?」

髪、だ 手を伸ばして海堂は越前の頬に触れた。もう片手は髪を撫でる

「か、海堂せ」
「花びらだな」

どこの、桜だ、もう咲いたのか 海堂は越前の髪についた花びらを見つめて感心したように言った、  もう、春か  と

さようなら、さようなら

あなたは、(ありがとう)、かくしてくれた

この、発熱のような、熱を 真っ白に



「先輩、先輩、先輩」
「ああ?」
「抱き、しめていいっスか?」
「なっ……」

答えなくていいから、黙って、おしえて

「っテメ!おいっえち…」
「っ………」
「えちぜ……ん、辛いのか、しんどいのか」

越前の躯をしっかり支え、仕方ないと背中に手を当てて、撫でる。背中に冷たい水気を感じた。ああ、この人濡れたまま触ったな と霞む頭で越前は思い、笑う



必要ないと、思う
だって、俺が、 すき、 なのはこの人だから
告げる必要も、確認する必要も、気付く必要も、ない と


熱を冷まして、目を閉じて、


すき、って 結婚とかに繋がるものならば、こい、って そんな、ものならば

同性を好きになった俺には必要、ないでしょ

くるしくて、息もできない、情けない、なんて、 やるせない
そんな想いを、抱えて、俺は、それでも


時がとまればと  、願う







俺たちは数限りない日々を、何気ない日々を送り、過ぎ去りしその時を、いつか笑い、

その中で、知らず知らず、大人になる
気付いた、時
その、 時

舞い散る、あの、花びら金に光る雫、もとめて、
手を 手を 、のばす



時よ、  とまれ、と


光る、記憶のあの、引き出し


今でも あなたが、います



「すき、だよ 海堂先輩…」




必要ない、けれど、それは、知ってはいる、
けれど、

俺にとって 確実に、確かな


初熱、でした



俺は、アンタが







だいすき、です

すき、こい、あい、しています。






END



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