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自分と相手は出会うべくして出会った。互いの人生に互いが必要で、それはきっと小指と小指に結ばれた 赤い糸 ってやつが引き寄せ、手繰り寄せたんだ

「そうでしょ」
「…言い切るんじゃねぇ」
「言い切るよ」

越前は自信満々に相手の目の前で小指を降って見せた。海堂は くだらねぇ と暇潰しにもならない越前を心なし欝陶しく見た。 そんな目をしないで 越前は頬を膨らませて自分の小指を撫でてから海堂の小指を見つめた。見えたらいい。何かしら絶対引き寄せ手繰り寄せる モノ があったからこそ自分と相手は出会い、こういう形に納まった

「つまらねぇ事ほざいてんじゃねぇ」

海堂は見られていた小指の居所が悪くなって、越前を軽く小突いた。越前は目を閉じて大人しくそれを受け取ると自分の部屋の天井を仰ぐ。部屋に入ってからまだ数分しか経っていない。自分の部屋に海堂を招き入れて、お茶すら用意しようとしない越前に海堂が睨みをきかせたが、越前は上の空。なんたってこの話題は実は昨日の昼あたりから思いつき、考えていたことだった
クラスの女子が話していたのを聞いた。女の子は女の子で女の子らしいくだらない話しだとその時越前は思ったのだが、ある1人の女の子の言葉でハタと考えることとなった
じゃぁ何で出会ったのか
赤い糸なんてただの空想の糸でしかない。何でもいいんだ、と。なかなか的確な事を言ってのけた女の子はあまり目立たない、同じクラスなのに越前は名前すら知らなかった
そこから気になりだした越前は自分と相手、海堂を想った。越前がアメリカから帰ってきて、青春学園に通うことになった。越前はテニスが好きだから自然と部活に入部するならテニス部男子。そこで海堂は自分の先輩としてテニスに励んでいた。海堂もテニスが好き。好きというより執着している。初めての試合の相手となった。越前は海堂を負かした。海堂の執着はテニスと越前になった
偶然は必然だとよく聞く。この偶然が必然ならば、引き寄せたのは何か
越前は唸った

「くだらねぇこと考えてんじゃねーぞ」
「くだらないってなんだよ」
「っテメ…!いい度胸じゃねぇかゴルァ!」

しまった と越前は口を抑えた。素が出過ぎてしまった上に考え事をして思考が飛んでいたために、下手なタメ口を口走ってしまう
怒り出した海堂は手がつけられない。越前がうなだれてから海堂を見ると額に青筋が立っている。 なんでこんな人好きなんだろう と越前は奥歯を噛み締めた。そうだ、何故、好きなんだ。もう一度海堂を見つめる。見つめられた海堂は眉をひくりと上げた
赤い糸なんてない。この世にはそんな物見えやしない。空想上の糸。もし見えたら?

「越前」
「………」
「おい、コラ越前」
「………」

睨むように自分を見つめる越前に拍子抜けして海堂が大きな溜め息を吐き出した
えちぜん 海堂が今までと声色をかえて越前の前髪をかきあげ、額に右手を添えた。ハッとして越前は海堂を見上げた。青筋はもうなく、怒りもなくなっている。どちらかといえば自分に 安心 をくれる海堂だった
なんだか越前は急に苦しくなる。どこがなんてわからない。目を閉じて海堂の手を額に感じる。そのまま脳にまでずぶりと侵入して脳内を掻き回してぐちゃぐちゃにしてほしい
だって赤い糸なんてないんだから

「赤い糸、見えたらいいね」
「………まだ言ってやがるか」
「うん。ほらだって たしか じゃん」

赤い糸なんかじゃなくてもいい。運命で偶然で必然で出会うべくして出会い、必要で何にもかえがたい、尊く強く儚い。そんな自分達を確実に繋ぐ  なにか

「そしたら……」
「あぁ?」
「…なんでもない」

そしたら、きっと不安になった時も大丈夫だよ、多分。越前は想うだけに留めて、海堂に笑って見せた。こんなくだらない自分は海堂に見せるべきではない

「くっだらねぇ」
「ほんとアンタって嫌な感じ」
「あぁ?!!」
「人が本気で考えこんでんのに、くだらないってなに」
「くだらねぇからくだらねぇっつたまでだろコラ」

越前は海堂の手を額から払いのけて海堂に背中を向ける。子供っぽいと我ながら我を罵りながら
フと部屋の隅にあるものが目に入った。越前は口元を吊り上げて笑う

「先輩、先輩」
「今度はなんだ」
「つけてみない?」
「…な…」

越前が見つけたのは短い糸だった。白い糸。多分何かのほつれた糸だろう。 くだらねぇ、ごめんだぞコラ と海堂は首を降るが、越前は海堂の小指を素早くとって結びつけた。そして自分の小指に結ぼうとするが上手くいかない。呆れた溜め息を吐いた海堂が しかたねぇ と呟きながら越前の小指にそれを結んでやる

「いい感じ」
「そうでもねぇだろ」

越前はご機嫌に小指を軽く降ってみたりして笑った。何がそんなに嬉しいのか越前自身もわからない。わからないが、嬉しかった

「テメェは乙女かコラ」
「ちが………………違うし」
「女々しいヤロウだな」

ぐぅ… と越前は唸り恥ずかしくなる。確かに乙女っぽいし女々しい。反論する言葉がさすがの越前からも出なかった。そんな越前を見て海堂が面白そうにする。 ああもうこの人はいつもこうだ 越前は怒りたくなる。自分が言葉に詰まると喜ぶ海堂。きっと口では自分になかなか勝てないからだろう。現に海堂は口より手の方が早い
しかし、小指と小指を繋ぐ糸を見ると 繋がっている確かな証拠 として越前を落ち着かせた

「じゃぁ切るぞ」
「えっ」

ジョキン と海堂は糸をハサミでばっさり切った。切られた糸がただ、小指と小指から垂れて落ちている

ヒドイ。これはヒドすぎる

越前はもう海堂を罵倒したくてしかたなくなるが怒りで口がまわらない。怒りより悔しい。なぜ伝わらない。自分は繋がりの証拠がみたかった、それはくだらないかもしれないが越前は昨日からずっと考え切望していたことなのに

「えち……越前おまっ…」
「バカ」
「なっ…おまえな……」
「最低、最悪、帰れ」
「ないて、んのか?」

うるさい、アンタなんかクソくらえ!帰ってしまえ!!

越前は知らぬうちに流れた涙に気付きもしないで海堂を罵り手で殴った。海堂は慌てるというより困惑、いや、かなり慌てていた
あの越前がたかが糸を切っただけで泣くほど怒ると思ってもなかったし、越前が怒ることなどほとんどない。怒るなら海堂で越前は拗ねるぐらいだった
越前はもうわからなくなっていた。なぜ怒っているのか、なにが悔しいのか。なぜ海堂が好きなのかさえ

「越前、越前」
「っ……!!」

海堂は力任せに暴れる越前を越前のベッドへ押し沈めて、きつく抱きしめた。越前は苦しくて うー と唸る。口元が海堂の胸に押され息ができない
ジタバタと暫く暴れた後にゆっくり落ち着いて越前は動かなくなる。海堂の腕に手を添えて上下に摩る

「ゴメン」
「…………いや……」

海堂が上体を起こして抱きしめる腕をはなすと、越前は疲れた顔で呟いた。やってしまったという気分だった。海堂と1歳しか離れていないのにこんなに自分は子供だった。普段どんなに大人をやっていても素を出してしまえば海堂を困らせることしかできない
だから  不安だ
本当に運命で出会うべくして出会ったのか、偶然は必然で、互いに必要なのか

「……小指。赤い糸なんかないよ」
「……そうだろ」
「うん。ない。空想の糸だよね」

越前が転がって海堂の胸に顔を埋め込んだ。ゴメンね、海堂先輩 ガキでゴメン。最後の言葉は飲み込んで前半だけ伝えると海堂が越前の頭を不器用に撫でた

「んなくだらねぇことばっか言ってんな」
「うん、ほんと、くだらない」
「その、あれだ…赤…赤い糸がくだらねぇとか……そ…そんなんじゃなくてだな」
「ん?」

胸から顔をあげると視線が絡み合わない。越前が泳ぐ海堂の目を見つめても、視線は絡まない

「そんなもんに頼るテメェがくだらねぇ」

いいか、そんなか細い弱いもんに頼ってんじゃねぇ

越前は目を丸くして、今まで海堂が くだらない と言っていた本質を知って、笑い転げた。海堂は笑い転げる越前を不思議そうな目で見つめたから2人の視線はやっと絡んだ

「アンタってほんと…」
「ンだよ…」

俺の領域を超えてるよね 涙まで溜めて笑ったあとに生意気に口元を吊り上げて見せた。海堂は眉を寄せて不機嫌になる

「赤い糸とか糸は例えの話しで」
「馬鹿にしてんな…!」
「糸にこだわってなんかないよ、俺」
「わっわかってる」

絶対多分脳で理解してても海堂にとって赤い糸は細くてすぐに切れてしまう、弱々しいか細い糸でしかなくて、そればかり言っていたから そんなか細い糸に頼る越前 に見えて くだらない と連発していたんだろう

じゃぁね と越前は楽しそうにまた海堂の胸に顔をくっつけた

「運命の赤い糸 は?」
「また糸かこのやろう」
「…だから…先輩頭柔らかくしなよ」
「あぁ?!」
「あ、じやぁ」

運命の テニス !!

自分と海堂を引き寄せたのは間違いなく テニス だ。越前はにんまりして満足そうに頷いた。海堂は テニス と呟いていた
くだらないなんて言わせない。だれよりテニスに執着している海堂だから、くだらないなんて言えないだろう
しかもどうして自分は気付かなかったのだろう。越前と海堂、赤い糸はこんなにすぐ側にあったのだ
テニスで出会った越前と海堂

2人の間を結ぶ赤い糸はテニスなんだ

そう思うと余計にテニスに想いが走る。こんなにリアルな赤い糸は他には見当たらない。越前は素早く海堂から離れると部屋に無造作に置いていたラケットを手にした

「先輩、相手してよ」

テニスが絡めば越前も海堂も互いに黙ってなんかいられない

「のぞむところだ…!」

小指と小指の赤い糸を手繰り寄せるように、ネットを挟んで、向き合って、引いたり押したり
夢中になろう
自分たちの赤い糸

なんて強くて大切でたまらない 赤い糸だろう


自分と相手は出会うべくして出会った。互いの人生に互いが必要で、それはきっと小指と小指に結ばれた 赤い糸 ってやつが引き寄せ、手繰り寄せたんだ

すごいね






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