◆Title 09(ジョルジュ) 肩越しに、首だけ小さく振り返る。 昇るくすんだ煙は、城郭の頂きから引き摺り下ろされた国旗によるものだろうか。 たゆたう煙は、風に流れて上空でかき消されている。 天に昇ることもできずに。 ただ、色すら失い流される。 ぎり、と掌に力が入って、それから目を閉じた。 緩く息を吐いて、胸中をせめぐものをやり過ごす。 王族はひとりを除いて全てが殺された。 唯一残された王女は囚われの身、安否はわからない。 城は堕ちた。 誰もが畏敬と憧憬をもって見上げたアカネイア城は、今や荒々しい略奪者たちによって占拠された。 かつてのあの城はもう、 こんな、大事なものを、守るものを何ひとつもたない騎士など。 仕える主も国も亡くして、一体どこが生きているといえる? 例え体が動いても、この呼吸すら偽物ではないかとどこかで思う。 こんなふうに逃れたとて、 たったひとりで、何が。 そう思うのに。 それでも、脳裏に浮かぶのは、ついこの前まで日常だった、懐かしい記憶。 それを裏切ることができないから、ジョルジュは進むことを選んだ。 この心が息を吹き返すまで、 大切なものを手に取り戻すまで、振り返らない、今は。
いつか必ず、 この思いを力に変えるために。 風に向かい、顔を上げた。 2008.12.9 [*前へ][次へ#] |