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祝!烈火十周年
未来へ(ラガルト)





もう、どこまで行っても先には何もないなんてこと、分かっている。
俺の大事なものはたぶんもう全部、あの頃に置いてきたから。
決して胸を張って世間様に顔向けできるような生業ではなかったが、それでも俺は満足していた。
仲間がいて、相棒がいて、親父みたいな首領がいて、馬鹿もできて、酌み交わす酒は旨くて、居場所が、帰る場所があって。
汚れた手を厭わずに触れてくるような奴らがいて。
甘ったるいような関係ではなかったが、安らぎや温もりを感じていたんだ、確かに。
人生の上での幸福と呼ばれるものを、俺はすでに十分すぎるほど手にしたのだから、これ以上何かを望むのは贅沢なんだろう。
だから、俺自身のこれからを望もうとは思っていなかった。
わざわざ死んでやるつもりもないが、過去の充足だけを胸の内に置いて、それだけで、どこにも根を生やさずに流されながら生きていくんだろうと思っていた。
面倒事をうまく躱しながら生きるのは得意なつもりだ。
あちこち、風に吹かれるままにふらふらとして、どこにいてもそれなりにうまく、人と深い関わりなんて持たずにやっていく。
死ぬときはきっと独りで、どこかで取るに足らないようなヘマでもして、誰にも知られずに目を閉じる。
それでいいんだと思っていた。
それが俺には似合いで、死んだ後にもつるむだろうあいつらに相変わらずだと笑われるか呆れられるかするような最期でいい。
それでいいんだと思っていた。

なのに、なあ、そんな真直ぐさを見せられたら、見届けたくなるじゃないか。
黒い牙の残党である俺が傍にいるわけにはいかないが、時折消息を聞いて、どうしているだろうかと思いを馳せて。
迷いながら進んできた瞳が、自分の行く先を定めて今は信念を秘めて、真直ぐさがもう二度と失われないだろう強さで向かう先に、俺まで思いを傾けたくなるじゃないか。
不器用で正直者のあんたが行く先を見てみたいと望んでしまうじゃないか。
そのために、俺も生きたいと思ってしまうじゃないか。

なあ、ヒース。
自分の信じる道を、もう二度と迷わずに行けよ。
それだけの強さを手に入れただろう。
戦い抜いたあんただから、進める道があるだろう。
この先に掴めるものを掴み逃さないように。
真直ぐに行けよ。
俺は、それだけを願って生きていくことにするから。






2013.4.28

烈火へのお題は『この先に何もないと知っている・闇に紛れて・愛で地球は救えなくても僕は救えます』です。 http://shindanmaker.com/67048 より。












































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