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遠回りの訳(ティバヤナ)





西には目指すものがある、とわかっていた。
始めから、本当は。
それなのにあえて遠回りを選んだのには、理由がある。






「おい王様」

様と敬称をつける割には呼びかけは、おい、である。
呼びかけられた方の身分が『王』であるのにだ。
敬っているのかいないのか、他人が聞いたら判断に困る物言いだろう。
が、この相手に限っては、そこに敬意のあるなしを疑ったことはない。

「なんだ?」

「こっちの方、探し物は見つからなそうだぜ」

額の前に右手をかざしてぐるりと辺りを見回してそう言う人物は、不必要にへり下りはしない。
形式が必要ならばそういう姿を見せないわけでもないが、真の敬意や忠誠は、そういった表面で示せばいいというものではない、というのが彼の持論だ。
だから、公の場ではともかく、私的な会話の中ではヤナフはティバーンに随分とくだけて物を言う。
あまりに臣としての態度を徹底されて、ティバーンの方が機嫌を損ねてしまったという王になりたての頃の過去も、多分に影響はしているかもしれないが。

「駄目だな、やっぱり見つからん」

再度確認するように見回して、ヤナフがふうと息を吐いた。
空気を吸うように遥か遠くまで見通せると思われがちだが、『目』を使うのにはそれなりに集中力が必要らしい。

「そうか。では、」

次はどちらに行く?
聞くと、一瞬の逡巡の後、

「東」

短い答えが返った。
有能な部下の「目」には、全幅の信頼を置いている。
長く苦楽を共にしてきた相手だ。
今までの戦いの中、彼の能力がどれだけ自分たちに利益と有利さとをもたらしたかわからない。
今更何を疑うわけもない。
だから王の目であるヤナフがそう言うのなら、それに従うのが自然なのだ。
しかし、ティバーンはその方角に自分の探し物のないことを知っている。
ヤナフがそれを分かっているであろうことも。

「分かった」

答えるティバーンに向けられる目が、一瞬だけ物言いたげになった。
いや、何かを言われると思っていたのに、何も言われなかったことへの、ほんのわずかな戸惑い、だろうか。

「東に行くんだろう?」

気付かない振りで促せば、ヤナフは短く頷いた。





簡単に言えば、ただ単純に二人の時間を長くもちたかった。
付き合いだのしがらみだの公務だの、それなりに忙しい毎日の中、時には昔のように気心の知れた者だけを相手に過ごしたいと思うことがある。
王の身分を自ら望んで手に入れたのだから、勝手ばかりも言ってはいられないのだが。
しかし、たぶん、それは俺だけじゃない。

本当ならば、千里を見通す目を持ったこいつが、探し物ひとつ見つけられないわけがないのだ。
ヤナフもわかっていて、それでもこんな遠回りを選んだのは、俺と同じ理由だと思っていいだろうか。






今日の書き出し/締めの一文 【 西には目指すものがある、とわかっていた 】 http://shindanmaker.com/237660 より






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