夜(ティバヤナ) 室内とはいえ、冬の明け方はそれなりに冷える。 南方のフェニキスに育った身にとっては、セリノスの冬は少々堪えるのだ。 生まれ育った土地を離れて暮らすのにも随分慣れたが、長年染み付いたものに上塗りされるまでにはまだ足らないようだ。 肌寒さに目を覚ましてふと隣を見れば、同じく寒さには耐性のなく育ってきたヤナフが、元々小柄な体を更に小さく屈めて丸まっていた。 背中をきゅうと丸めて、膝を折って眠る姿は、この時期にしか見られない。 普段なら、大雑把な性格のまま、手足を投げ出して体のサイズに見合わないスペースを占領しているのだ。 ちなみに、寝相も悪い。 何度蹴りだの拳だのを入れられたかわからない。 逞しいティバーンからすればたいした痛みでもないのだが、そのたび安眠を妨げられるのは心地のよいものではない。 まあ、当のヤナフはなにひとつ自覚がないのだから、翌朝文句のひとつも言って責めたところでなしのつぶてなのだが。 しかし今日は随分と大人しい。 ティバーンが目覚めたのは寒さのためだし、ヤナフには眠り始めからたいして動いた形跡もない。 改めてじっくりと寝姿を見る。 思わず笑ってしまった。 膝を抱えて眠るなど、まるで小さな子どもだ。 とは、童顔から年齢を判断されるのを蛇蝎のごとく嫌う本人には決して言わないが、からかってみたくなるのも事実。 「おい、」 覆いかぶさるようにして小声で耳元に囁くが、小さく身じろぎだけをして、ヤナフは起きる気配がない。 もぞもぞと動いたと思ったらますます小さく丸まったヤナフがおかしくて、それから愛しくて、ティバーンは手を伸ばした。 小さな体は自分よりも余程軽くて、下から手を差し込んでしまえば動かすのも簡単だ。 寝台の背にもたれて上体を起こし、そっと抱え上げた体を抱き込んだ。 「おい、ヤナフ?」 反応はない。 すうすうと安心しきって眠るのは、自分のそばだからだろうと思えば嬉しくもある。 と、小さくくしゃみをひとつ、ヤナフがした。 震えた肩を、包むように抱き直す。 寒いのならば、わざわざ同じ寝台の中にいるのだから、自分に巻き付くなり抱きつくなりしてこればいいのだ。 いくらでも温めてやるというのに。 しかし、眠っていても決して自分には甘えを見せないヤナフが、らしいといえばらしい。 今はされるがままに、ティバーンの胸に頬を預けてすうすうと寝息を立てる様子がひどく愛おしくなって、そっと頬を撫でる。 「ん………」 口元を歪めたところに口付けをひとつ。 窓から見える東の空は、薄く白み始めている。 明るくなるまでにはもう僅かばかりかかるだろう。 それまでこの温もりを抱えながらもうひと寝入りするとして、さて。 雲ひとつない快晴の空、窓辺の木々には朝露が乗っていて、昇る朝日を受けてそれらが宝石のように輝きだす頃、目を覚ましたヤナフはいったいどんな顔をするものか。 ぎゅうと抱き込むと窮屈そうに身動ぎして、それから収まりのいい場所を見つけたらしい。 また穏やかに寝息を立て始めた安らかな顔が、慌てて赤くなる表情、照れ隠しの悪態をたやすく想像できる。 柔らかい頭に顎を乗せて、ティバーンは微笑みながら目を閉じた。
2011.12.29 [*前へ][次へ#] [戻る] |