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耳(ヤナフ+ウルキ)





他国への使いの任務を果たして、数日ぶりにフェニキスに戻ると、恐らくウルキが戻るのを見て察知していたらしいヤナフに出迎えられた。
お疲れさん、と、第一声。
翼を畳んで降り立つと、

「思ったより早かったな」

もうちょっとかかるかと思ってたけどな、とヤナフが言って、それから、目を丸くした。

「お前、耳。真っ赤だぞ」

「………ああ、」

寒かったからな、と短く答える。
他国に行ったわけだから、当然、海を越えて長時間飛んで帰ってきた。
冬の海風は厳しくて、逞しい部類の鷹の民である自分には大した問題ではないのだが、まあ、末端まではなかなか熱も伝わりにくい。
長い時間風にさらされて、自覚してみれば、ぴりとした痛みが走るのは、確かに切れでもしそうに冷えているからだろう。
手を当てようと上げかけた自分の手の平がそこに到達する前に、突如伸びてきた二本の手。

「うわ、冷て!」

突然、両手で両の耳を覆われて、何事かと一瞬固まった。
柔らかい手の平に塞がれて、音の伝わり方が変わる。
冷たい冷たいと二回繰り返すヤナフの声が、おかしな反響をして伝わってくる。
わんわんと、脳内に響くような声は、実際より大きく聞こえるから不思議なものだ。
遮断されたことで、かえって意識が集中するからかもしれない。

「………なんだ、」

いったい突然何なのだと尋ねるのだが、ヤナフは手を離さない。
冷たいと言いながら、ヤナフはどうやらウルキの耳を温めているつもりらしい。

「お前これ、ちょっと冷たすぎだろ」

どんだけ飛んできたんだよ、と眉を顰めている。
やかましいばかりの声のはずが、手の平を通して聞くとどこか落ち着いた響きに聞こえてくる。

「別に、大した距離では……」

自分は無駄を嫌う性質なので、確かに休息をとるのを多少は省いた自覚はある。
しかし、体調的にはなんの問題もない。
本当に切迫するほど必要であれば、無理せず休息もとっていただろう。
この相棒とバランスを取るために、無茶や無謀はしないというのも、すっかり自分に染みついた性質である。

「でもお前ダメだろ、耳は大事にしなきゃ」

いつもの年長者ぶった説教じみた色が滲む声。
たかだか5年の違い、さらにどちらかというと世話を焼いているのはたいていウルキの方なのだが、ヤナフは自分の方が年かさだということをどうしても主張したがる。
まあ、ほどほどに聞いて受け流せばいい、いつもの通り、と思ったのだが。

「大事にしろよ」

どこか真剣味を帯びた声に、いつものそれとは違う響きを感じた。

「………?」

ぐ、と耳を覆う手に力が込められる。

「俺の目、お前の耳とセットで、一番生かせるんだからな」

俺が大事に思ってるんだから、もっと大事にしろ。
わざわざそんなことを言われなくとも、と思う。
この耳で王の側近の地位を得たのだ。
王の為に有用なものなら何ひとつ、失うつもりなどない。
そもそも、ヤナフ以外であれば、この耳に触らせることすらないというのに。
しかし、

「………そうだな、」

言葉にしてはそれだけ言って頷いた。
じわりと染み込むヤナフの温度が心地よいから。
もうしばらく、このままでいてもいいかと思ったのだ。








『 耳 』
『 耳 』



2011.12.15


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