[携帯モード] [URL送信]
灯(ヤナフ+ライ)





夜目が効かないのは種の特性。
だから夜の行軍はもともと無理がある。
もちろん灯りさえあればまったく見えないわけではない。
しかし、他の種族にはどうやら信じられないほどには見える範囲が制限されるのだ。
やむを得ない夜の行軍に、効かない夜目で飛ぶわけにもいかず、ベオクと並んで徒歩での移動を余儀なくされることになった。
たまたま隣にやってきた獣牙の未来の王の側近が、ふいと空を見上げて、綺麗な空だと呟いた。
おそらく、雲のない夜だから空には満天の星空が広がっているのだろう。
が、

「俺たちには見えない」

残念ながら、と言いながら、つられて空を見上げたが、特に明るい星が所々に見えるのみ。
宝石が散りばめられたような、などとベオクが表現する夜空の景色は、この目には見えないのだ。
と、見えないのに上ばかり視線を向けていたら、地面の小石に蹴躓いた。
そもそも歩いて移動などしなければ地面のデコボコなどに煩わされることもないのに。
そもそも鳥翼は空を駆るのが移動の基本で、生まれた時からこうなのだから今更不便を感じる訳でもないが、他の種族と交わる時にはやはり不都合が生じる。
ライが差し出してきた手につかまって体を起こすと、

「大変なんだなあ」

俺たち獣牙族は逆に夜目が効くから、困ったこともないけどな、と、ライはヤナフの顔を覗き込んできた。

「何でも見える目、って訳でもないんだな」

ヤナフの目の特性は、同軍の仲間すべての知るところである。
偵察任務を敵軍の傍まで行かずとも行えるため、斥候の兵が危険を冒すこともない。
これまで鷹王のためにしか使ったことのなかった能力が、重宝されている。

「そういうときは、ウルキがいるから」

自分の足りないところは相棒が補う。
それで事は足りる。
ウルキの耳は明るさに左右されない点では、ヤナフの目より便利がいいのかもしれない。
どっちが優れているか、なんて、随分昔、まだまだ若かった頃には食ってかかったこともあったのだったか。
始めは迷惑そうにしていたウルキだったが、けしかけ続けるとやがて乗ってきて、最終的にはティバーンにたしなめられた。
そもそも違う能力なのだから争っても仕方がない。
それよりも補い合ってより能力を生かすことを考えろ、と。
思い出して、自分が原因ながら笑ってしまう。
若かった、と思う。

「………いいな、そういうの」

ふうん、と頷いていたライが、そう言ってまた空を見上げた。

「みんなそれぞれ違うけど、できる部分で助け合うってことだろ?」

例えば、と、言葉をつなげて、星々が輝き誇っているのだろう空を指す。

「見えない星空の話を、見える俺があんたにしたり、この道の先に何があるか、あんたが躓かないように教えたり」

手に掲げ持つ灯りをヤナフの前にそっと差し出した。

「俺があんたの灯になる、なんてな」

何くさいこと言ってんだ、呆れて笑うとライもまた笑った。
俺も今のはくさいと思った、と、新しい獣牙の友人は照れながら頭を掻いた。







『 灯 』
『 灯 』



2011.12.8



[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!