刺(ヤナフ+ティバーン+ウルキ+リュシオン) 「ヤナフの態度は、」 我らが王と、その片腕とのやりとりを眺めていた鷺の王子の言葉は、至極当然のことだったろう。 「あれでいいのか……?」 唖然とした視線の先には、二人の何気ない会話が行われている。 「ヤナフ、この書類なんだがな、」 「知らん。俺に聞くな」 「お前なぁ。自分で作ったんだろうが」 「俺は細かいことは苦手だ!」 他人がいればもう少し取り繕いもするのだが、いかんせん執務室には普段からヤナフの他にウルキくらいしか入ることはない。 三人だけの場所だという安心からか、ヤナフの態度は主従関係を結ぶ前のものにすっかり戻っている。 今日に限って、フェニキスで預かり始めたばかりの鷺の王子がいるということもどうやら失念している。 「元々お前の仕事だろうが! 手伝ってやったのに文句言われる筋合いはねぇ!」 「主を助けるのが臣下の勤めだろうが。いや、そもそもだな、この書類はいくらなんでも不備がありすぎるだろう」 「あーあー! 何にも聞こえねー!」 わあわあと言い合って、まあ、放っておけばそのうち収まるのだが、リュシオンには刺激が強かったのかもしれない。 「主に対するには、刺が、ありすぎるのではないかと思うのだが……」 それはそうだろう。 ヤナフはなんというか、臣下としての態度は規格外だ。 許している方もどうかと思うのだが。 しかし、ヤナフも他人の前でぞんざいな態度に出ることはないから、ウルキはもうすでに矯正を諦めている。 これが自然と言えば、自然。 フェニキスにあって王の傍近くで過ごすからには、こんな場面をリュシオンも幾度となく見るだろう。 慣れてもらうしかない。 「………あまり、お気になさらず」 「いや、しかし、」 「いつもあんなものですし、………… 煮え切らないウルキの返答に、眉を顰めて眺めていたリュシオンだったが、やがて小競り合いを収めた二人を見て、眉間を和らげた。 苦笑に変わった、というか。 「どうやら、本当にいつものことなのだな」 さして気にした風もなく執務に戻ったティバーンは、ウルキを呼んで別の用事を言い付け、けろりとした顔でまた書類に取り掛かるヤナフは鼻歌を歌いだす始末。 「………あの程度の刺が、いい刺激なのかもしれません」 お互いに。
2011.12.1 [*前へ][次へ#] [戻る] |