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◆NoveL
寒いのは君のせい(アズジェロ)





「寒い」

僕は呟いた。
小さな声だったけど、彼の耳に拾われるように言ったからちゃんと聞こえたはず。
返ってきたのは生返事みたいな声だったけど。

「ああ、まあそうだな」

ロランから借りたとかいう、飛竜の生態について書かれた本から、ジェロームが視線を上げる気配はない。
欠けらも。
こっちを見もしないジェロームに、僕は不満に唇を尖らせた。
だから、繰り返す。

「寒いよね」

ああ、とまた生返事の相槌が返ってきた。

「冬だしな」

そうですよね、冬ですからそりゃ寒いに決まってますよね。
外は雪ですしね?
今日は冷え込むだろうからって、いつも以上にたくさん用意された暖炉にくべるための薪が見る見るなくなっていく程度にはね?
そうじゃなくて、そんなわかりきった答えがほしいんじゃないんだけど、僕。
諦めの悪い僕は、しつこくジェロームに話し掛ける。

「寒いよね?」

「……何が言いたいんだお前は」

三度目の正直。ため息混じりにやっと、ジェロームがこちらを向いた。
まだ、手元の本は開いたままだけれど。

「ジェロームは寒くないの」

「寒い寒いと繰り返せばこの寒さはどうにかなるのか」

あ、なんかその、「根拠はあるのですか」みたいな物言い、ちょっとロランみたいだ。
むっ。
何だよ僕には構わないくせにロランロランって(別に名前を連呼してるわけじゃないけど)。

「……寒さ、どうにかなるかもしれないよ?」

「何?」

疑いしかない顔つきのジェロームが、眉を顰めた。
僕は、その顔に向かって呟いた。

「寒い」

「……?」

「寒い」

「…………」

「寒い!」

「……やめろ、余計に寒くなる」
「だから、」

「………?」

怪訝そうにしたジェロームに、にやりと笑って飛び付いた。
若干警戒していたふしはあるのに、やっぱりあっけなく後ろに引っ繰り返ったジェロームの胸に抱きついて、

「あっためてあげるよ!」

満面の笑みで申し出ると、仰向けのままの顔から盛大なため息が漏れた。

「お前の方が俺で暖をとるつもりだろう……」

「そんなことないよ、ちゃんと僕あっためてあげるよ?」

「…………」

もう一度ため息が聞こえて、ジェロームが上体を起こそうと動いた。
僕から逃れるためではなさそうな動きだ。
僕がのっかったままだからたいして動けず、片肘を立ててちょっと体が起きた程度。
どうするのかと思っていたら、膝にのっかったままのロランの本を、片手でつかんで静かに閉じた。
ぱたん。
そのまま頭の上の方に置いてしまった。

「仕方がない奴だな、まったく」

呆れ声でも何でも、OKサインがでたのを放っておく僕じゃない。
嬉々として抱きつき直した。

「寒い冬だから、体温が恋しいのは仕方がないんです」

「冬のせいにするな」

「じゃあジェロームのせい」

「意味もなく人に責任を転嫁するな」

「何でもいいじゃない、あったかければ」

呆れたのか諦めたのか、はたまた面倒になっただけか。
ぽんと背中に乗った手が、完全降伏のの合図。
温かいのはどちらの体温なのか、わからないくらいに分け合って、僕らの寒い冬の夜は更けていく。




2013.1.19


今日のアズジェロのお題は、『好きすぎて、くすぐったい』『体温が、恋しい』『ちゃんと、さわって』です。 #jirettai http://shindanmaker.com/159197より



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