◆NoveL 年越し三鷹 乾杯! 勢いよくぶつけた杯から数滴の雫が飛び散った。 誰の杯からのものかわからない雫が数滴顔にかかったが、気にもならない。 ぐいと飲み干してどんと器を置く。 喉を越すアルコールの焼け付く感触に、この上ない爽快感。 斜め右のティバーンも、同じようにして大層満足そうに声を漏らしている。 「うまい!」 暦の上では一年の始まりの日、深夜の今、ちょうど日付をまたいだ瞬間である。 朝を迎えれば国を挙げての新年を祝う宴が催されることになっている。 そうなってしまえば、王であるティバーンはともかく、臣下であるヤナフとウルキにはそれぞれの役目なり仕事なりがあって、ゆっくり酒を酌み交わすことなどできない。 俺はお前たちと飲みたいのだと駄々をこねた王様に付き合うのは、側近の二人ともやぶさかではなく、結果王の私室でささやかな酒宴が開かれることになった。 そう長い時間を共にすることはできないが、それでも昔馴染みの三人だけで過ごす時間がもてるのはやはり嬉しい。 「忙しい一年だったから、なあ」 つい先程過ぎ去った一年は、セリノスに移住して新しい国の体制を整えて、あちこちに駆けずり回った一年だった。 さすがに疲れ果てたが、それでもその疲労が、前を向いて未来を見据えるためのものであるから苦痛ではなかった。 昔のように、三人で過ごす時間がほとんどとれなくなったことは淋しく思ったものだったが。 「忙しなくはあったが、充実はしていただろう?」 まるでヤナフの心を読んだようにティバーンが酒の瓶をこちらに向けた。 王様自らお酌とはもったいないことで、とおどけると、ウルキが斜め左で呆れた。 「受ける前に、お前が注いだらどうだ」 言いはするが、だからといってティバーンから瓶を奪おうとはしないあたり、ウルキ自身も正直どうでもいいのだろう。 王に対する儀礼だの礼節だのは普段から口うるさく言ってはいるが、本当はウルキとてティバーンと距離を置きたいわけではない。 その証拠に、まあお前も飲めと言われて差し出された酒を、躊躇いもせず受けている。 変わらない光景だ。 懐かしい、 温かい、 そして、大事にしたい、 生涯守りたい、 これから始まる新しい一年にも、きっと変わらず続く、ヤナフの根幹を支える光景だ。 昔のようにいつも一緒などとは言わない。 でもこうやって、時折何の気兼ねもなく傍で笑い合えたらいい。 どうかこの一年も、変わらずに共にいられることを願って。 A HAPPY NEW YEAR! 2012.1.1 |