JUNK BOX
ムク←ツナ子でグルグル

六道骸という男はマフィアが嫌いで、死ぬほど嫌いで、あまつさえ自らの手でこの世から消し去りたいとまで思っている。
これは、綱吉が十年も前から知っていることである。もっと言えば、出会ったその日から。
そして、そのためには手段を選ばないということも知っている。
人も物も、使えるものは何でも使い、マフィアでさえも利用するのだ。マフィアを消すために。
周りの人間はそれを非難した。あまりにも非道であり、人の道を踏み外した行いであると。
綱吉とてそう思う。いくらマフィアを憎んでいたとしても、やって良い事と悪い事がある。その辺の事情を含めれば、六道骸という男は完璧なる悪人と断じてもよい。

だがしかし、である。
綱吉は更に思うのだ、それがどうした、と。


「沢田、綱吉‥‥? 君、なぜ」

ここにいるのか。
骸の、声にならなかった言葉を正確に読み取って、綱吉はむんと気合いを入れた。

周りが骸をとんでもない悪人であると断じたとして、それが何だと言うのか。そりゃあ、綱吉は存分に痛め付けられた過去を忘れる予定はない。自分のことはさておき、仲間を傷つけられたことは一生根に持つつもりだ。
しかしそれとは別個の問題として、綱吉は骸という人間の中身を事あるごとに覗いてしまった。関わる内に、何回も。

ある時は仲間を逃がしたり。
ある時は綱吉に手を貸したり。

そこには色々な六道骸がいた。複雑怪奇だった。分けもわからず、けれどひたすら考え、果たして、人間とはそういう生き物であると綱吉は悟った。
一色の人間なんて、どこにもいるわけがない。もちろん綱吉も。難儀なことである。
そして更に難儀なことに、綱吉はそんな骸が嫌いではなくなってしまった。
思わず額に手をあて、首をふりふりしてしまうくらいには現状を把握していた。
なんせ相手は生粋のマフィア嫌いで、綱吉はマフィアのドンだ。字面からは一縷の望もないように思う。
本当に、心の底から難儀なことである。

綱吉はタハハと苦笑しながら、此方を唖然と見る骸に顔だけを向けた。

「きちゃった」
「きちゃったって‥‥」
「ごめんね、骸。オレこれから余計な事する。でも、もう決めたことだから」

――止めてくれるな。

そう背中で語って、綱吉はもう一方の相手に向き直った。

「よ、ヴィンディチェ。仕事に精が出るね」
「ボンゴレ十代メ‥‥邪魔ヲスルナ」

ぶわりと黒いオーラが立ち昇るが、怖いとも思わない。

「悪いけどねぇ、骸を連れて行かせるわけにはいかないんだよ」

背後で骸が少し息を呑んだのが分かった。
しかし腹を決めた綱吉は振り向かない。
何の腹かというと、己の柔な恋心なるものが玉砕すると分かっていても挑む腹である。

すぅと息を吸う。

「‥オレ、子供っぽいし、」

いつか見た、骸の隣を歩く美人を思い出す。
心の中で、フと笑う。敵うべくもない。

「きれいな服とかロマンチックな演出とか、全然似合わない」

こちとら黒スーツが勝負服だ。
勝てる気がしない。

「だから可愛い女の子がするような、可愛い、アタックとか、できない‥‥」

自分で言っていてへこみそうになる。
これは最早、恋する乙女失格なレベルだ。
それでも、綱吉は止まるつもりも、諦めるつもりもない。
ぐっと顔を上げ、声を張り上げた。
せめて後ろの男に届くように。

「‥‥‥でも、いいんだもん! だってオレ、マフィアだから! 」

ヴィンディチェのオーラがぶわりと高まるのと同時に、綱吉も飛んだ。

「オレはマフィアのボス。だったら、その力で、コイツを守る。 それが、オレの、アタックだぁぁぁーーーーーーー!!!!!」

燃え盛るハートを、力一杯叩き付けた。



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