JUNK BOX
六道夫婦

<嫁と先輩>

「やあ、沢田。久しぶり」
「ん?ああ!雲雀さん!」

買い物帰り、道でばったりと出会した十年来の先輩に、綱吉の足が止まる。
ここ暫く、所用で並盛を離れていた雲雀だ。
綱吉はパと顔を輝かせると、側へ走り寄った。

「お久しぶりです!帰って来てたんですね」
「ついさっきね」
「ふふ、元気そうで何よりです」
「君こそ」

近況報告を兼ねて、最近は誰がどうなっただの、あれがこーしただの、わらわらと話に花が咲く。
コロコロと表情を変える綱吉に、ふと、雲雀の視線が動いた。見つめる先は、顎の下にある一本の擦過傷。
それに気づいた綱吉が「ああ」と思い出したように口を開く。

「これ、またリボーンの奴が。いつまで経っても容赦なくて」

ここ数年は修行が少なくなった代わりに、夜襲急襲が増えた、なんて笑えないことをひきつった笑みで言う。
そんな綱吉に、雲雀の目がギラリと光った。

「へえ、鍛練は怠ってないようだね」
「ははは‥‥まぁ、半ば強制的ですけど」
「じゃあ今の君は、前会った時よりも強くなってるんだ」
「え? あ、いや、それは‥どうでしょう」

いきなり漂い始めたのは不穏な空気。
なんだかいやーな感じがする綱吉は一歩後ずさるが、それに合わせて雲雀が一歩前へ出た。
ジャキン。
その両手に構えられたのは彼愛用の得物。

「一戦、願おうか」
「え゛、ちょっ雲雀さっ」

不敵な笑みと、振り上げられるトンファーが視界に入る。が、突然過ぎてガードが追いつかない。
咄嗟に目を瞑ってしまった己を罵倒しながら、綱吉は来る衝撃に備えた。

ガキン。
奇妙な音が響く。目の前に人の気配。
そしていつまでたっても来ない衝撃に綱吉がそろそろと目を開ける。
するとそこには、槍の先端部だけ形成しトンファーを防ぐ夫の姿があった。

「むくろ」

気が抜けたように名を呼ぶ綱吉を、骸が後ろ手に下がらせる。

「ほら綱吉君、離れて。危険ですよこのケダモノは」

ギチギチと嫌な音を立てる鋼越しに、二人の男が睨み会う。

「あれ、いたんだ君」
「最初から綱吉君の隣にいましたけど」
「影が薄くて気づかなかったよ」
「君の目が節穴なだけでしょう」

涼しい顔をしながら、両者のこめかみには青筋が走っている。

「邪魔しないでくれる、六道。もう少しであの真白い頬に届いたのに」
「顔は止めろ、顔は。うちの嫁になんてことするんですか」
「顔じゃなかったらいいのかい」
「ぶっ飛ばしますよ」

骸が唸るように返すと、雲雀が面白そうに笑う。そのまま、骸の後ろにいる綱吉へ視線をやった。

「君は別に気にしないだろ」
「え? うーん、まあ‥‥」
「ダメです。僕が気にします」
「‥‥‥だそうなので、すいません雲雀さん」
「‥‥‥‥」

たはは、と申し訳なさそうに謝る顔はさっそく緩んでいる。これは無自覚なのろけだろうか。何となく見せつけられたようで面白くない雲雀ではあるが、元よりそこまで粘るつもりもないので、彼は仕方なさそうに得物を引いた。

「全く、君の旦那は過保護すぎるんじゃないかない」
「へへ、いいでしょう」
「ご馳走さま。じゃ、僕はもう行くから」
「もう来なくていいですから。この鳥頭」
「そういう訳にはいかないよ、ここは僕の町だからね」

ふふんと笑って、雲雀はひるを返す。
「またね、沢田。あと南国果実」と手をひらひらさせながら、去って行った。
骸が忌々しそうに「誰が南国果実だ」と呟くので、綱吉が少し笑ってその腕にとびついた。

「ありがと、骸」
「‥‥余計なお世話だったんじゃ?」
「んーん、嬉しかった」

感謝の気持ちを込めて綱吉が、ちゅ、と頬にキスを送ると、その頬が若干色づく。
骸は頬を染めたままムという顔をして、それから諦めたように盛大に溜息をついた。
「君は本当にもうアレなんだから‥‥」とぶつぶつ呟いて、そのまま身を少しかがめ、綱吉の額にお返しのキスを送った。


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