JUNK BOX
天使のくしゃみ
っふきゅーーん
それは突然のこと。
ヴァリアーアジトの談話室に、ちょっと間の抜けた可愛らしい音が響いた。
幹部達がピタリとおしゃべりを止める。
ザンザスも、思わず、といった感じで相手への暴言をぶちまけていた口を閉じた。
ついでに出しかかっていた手もピシリと固まる。
彼らは、音の発生源をマジマジと見つめた。
「っぅい〜」
その視線の先には、今までザンザスと壮絶な罵り合いをかましていた綱吉の姿が。
顔を斜め下に向けて、むずがゆそうに鼻を啜っている。と思ったら、もう一度、ふにゅん。先程よりも小さいが、何だか可愛らしい声が上がった。
え、何いまの。
男達がしーんとなりながら見つめていると、当の綱吉がハッと我にかえった。
「ん、あっゴメ‥‥っじゃなくて!おいザンザス、テメ、あれほどオレが被害少なくしろっつったのにこの報告書はいったい」
「おい」
「ああ!?何だよ!」
「何だ今の」
「はぁ!?」
「今の‥アレはなんだ」
「は?アレって何だよ」
「だから今のだ。なんか、今、お前変な声で鳴いただろうが」
「‥‥へ?」
ザンザスに低い声で問われ、綱吉は少々戸惑ったように眉を寄せる。
それからふと周りを見て、何故だか分からないがスクアーロら幹部達にも注目されていることに気づいた。
意味が分からない。
「いや、鳴いたって‥‥何が?」
首を傾げると、今度はルッスーリアがおずおずと口を開いた。
「だってボンゴレ、貴方さっきふにゅんって言ってたわよ」
「ふにゅん?」
反復する。
そんなこと言った?とルッスーリアの隣にいるスクアーロに視線を移すと、真顔で深く頷かれた。他の幹部達も同じように真顔で綱吉を見ている。
一周まわってザンザスへ向き直るも、奇妙なものを見るような目で見下ろされていた。
そこで唐突に、思い至った。
「‥‥あ」
綱吉の頬がはんなりと赤くなる。
目の当たりにした男達は唐突に、何だか下腹部がぞわぞわするような感覚に襲われたが、しかし、そこは腐っても暗殺部隊。腐ってもエリート。
そんな内心などはお首にも出さず、この場の代表として、ザンザスが先を促した。
「何だ」
「あ、いや、何っていうか‥‥その、」
「うざってぇ、とっとと言え」
「ああもうだから!ええと、くしゃみ‥なんだけど」
「あ?」
「だからさっきの!オ、オレのくしゃみなんだけど‥」
「‥‥‥‥‥」
そ、そんなに変だった?と若干恥ずかしそうに聞いて来る綱吉を、この場にいた全員が真顔で黙って見つめた。
いや、くしゃみ可愛いすぎんだろJK。
何故か胸の奥がぎゅぅぅぅんと震える彼らだった。
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