灰銀 偽善者の僕 薫敏 ああ、 ____偽善者の僕__ 「敏弥は優しいな。俺、優しい敏弥が好きやで」 俺は優しくないよ、薫くん。 「どこがやねん。敏弥が優しくないなら、俺なんか鬼畜やないか」 俺の頭を撫でながら、薫くんは笑った。 「本当に、俺、優しくないんだってば」 俺はね、ただの偽善者なの。 俺の行為は、全部、自己満足で自己防衛なの。 薫くんに嫌われたくないから。 だから、俺は薫くんが思うような優しい奴じゃないんだよ。 腹ん中は真っ黒でぐちゃぐちゃで、全然いい奴なんかじゃない。 「…それでも、ええんやない?」 俺は、どんな敏弥でも好きや。 「でも、優しい俺が好き、って…」 「そら、優しいに越したことはないからな。それになあ、人間なんやから、優しいだけやないことくらい解るわ。これでもお前より長く生きてるんやからな」 だから、そんな怖がらんでええんやで? ふわり、って。 凄く優しく、柔らかく、薫くんは俺に笑いかけた。 なんだよ、それ。 薫くんのほうが、何倍も、何百倍も、優しいじゃんか。 なんでそんなに優しいんだよ。 …涙、出ちゃうじゃん。 「おお、泣け泣け(笑)ほら、おにーさんの胸、貸したるから」 ぎゅ、って俺を抱きしめて、薫くんは笑ってる。 俺の頭を優しく撫でながら、俺の額や髪にキスしながら。 「も、薫くんの、ばかっかっこよすぎなんだよっむかつく!」 ばっ、て顔上げて、クスクス笑ってる薫くんの唇に、キスしてやった。 吃驚した顔してる薫くんが、凄く愛しい。 ふ、って笑ってキスを返してくる薫くんが、世界で一番、愛しい。 END 優しくするのは、嫌われたくないから、なんですよね。 決して相手のためではないんです。 でも、それで自分も相手も幸せなら、それでいいんじゃないか、って思います。 BACKNEXT |