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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Report02 『Contact with the first battle』



・・・・・・ヴェートルという世界は、現在混乱の真っ只中にいる。

そんな状況の中に降り立ってまず強く感じたのは、この世界には管理局が絶対ではないと言うこと。

立場や現状、そしてそこに住む人達の意識まで、そういう形になっている。それは本当に強く感じた。





局員が普通に局員の制服を着ているだけで冷たい視線は、相当でしょ。

まぁ、今までの積み重ねもあるんだろうけどさ。全然役立たずらしいし。

それが何故だろう。フェイトとの話でも思ったけど・・・・・・なんだか、嬉しく感じた。





僕の周りが局員ばかりのせいか、みんなどこかで管理局を絶対のものとして見ている。

局という組織の中に入り、その中から現実を変える。それこそが管理局有りきの証拠。

それに関しては、ミッドを代表とした他の管理世界やそこに住む人も同じなのかも知れない。





だから今回の一件でこの世界の事を知って、ヒロさんから今回の仕事の話を聞いた時、僕は即OKした。

・・・・・・僕自身もどこかでしょうがないというか、自然と受け入れていた事。

それは管理局による管理。でもそれに対して、真っ向からぶつかっている世界がある。





自分達の世界を自分達で守りたい。そんな想いを世界全体で持っている。

きっとここの人達は本当に自分達の世界が好きなんだと思う。だから、いっぱい頑張る。

例えばリンディさんやギンガさんは、話を聞いてヴェートルに対して苦い顔をしていた。





特にリンディさんは頭痛めてたっけ。まぁ、上の人間だし色々あるんだよ。けど、僕はこう言える。

ここの人達の考えや想いは正しいと。昨日のフェイトの話にもあるように、もちろん問題もある。

ただ、それでも思った。カラバもそうだけど、ヴェートルのような世界はもっと増えていいと思う。





管理局や管理システムが絶対なんじゃない。一つの可能性としてこういう事はあっていい。

現にカラバって前例はあるしさ。問題をしっかりと解決した上でなら、やってもいいんじゃないかな。

管理局に頼らない、現地政府による世界の繁栄と維持を。管理局は絶対じゃないという証明を。





もしかしたら僕は今凄くいいポジションに居るのかも。言わば歴史の生き証人だよ。

そういう時代や管理局のあり方の一つが変わる瞬間に、立ち会えるかも知れないんだから。

・・・・・・だからなのかな。僕、この世界の空気や街並みが好きになりかけてる。





来てからまだ二日目だけど、それでも。あと・・・・・・あぁ、そうだ。





空に浮かぶ白くて大きな月。あの月が綺麗に見えるこの世界は、とても素敵だと思うの。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・はぁ」



うちの娘が、ミッドの月を見ながら数度目の溜息だ。なお、ここは思いっ切り職場だよ職場。

仕事の手も止まって、もうずっとアレだ。俺ぁどうすりゃいいのか分からねぇよ。



「ナカジマ三佐、ギンガがアレなのは」

「間違いなく恭文のヴェートル行きが原因だな。それしか考えられないだろ」



ギンガの奴、相当反対してたしなぁ。今のEMPは危険地帯もいいとこだ。

そんな昼間っから銃撃戦があるわけじゃあねぇが、それでも危険度は高い。



「なぎ君・・・・・・どうしてなのかな。現地の中央本部に任せておけば、大丈夫な事なのに」





そして、そんな事を苦い顔で言うギンガは恐らく知らない。その現地の中央本部は全く大丈夫じゃないことだ。

俺もサリエルやらクロスフォードから話を聞いてアレコレ調べたが、ありゃひでぇ。

ミッドの管理局や中央本部を、100が最大の内60くらいとしようか。そうすると、ヴェートルはどれくらいか。



ぶっちゃけ10だ。残り50ないし90を、アイツが出向したGPOや現地の警察機構が埋めている。





「でもナカジマ三佐、よく恭文のヴェートル行きを後押ししましたよね。
恭文の話だと、周りの大半の人間には反対されたって言うのに」



クロノ提督や八神の奴を除いた方々・・・・・・リンディ提督やハラオウン執務官達だな。

とにかくアイツのコミュの大半からは反対された。だが、俺は後押しした。



「カルタス、お前も男なら分かるはずだぞ? ヴェートルって世界は、今大きく変わろうとしている」



左隣に居る馴染みの部下を見て、軽く笑ってやる。



「現状や細かい理屈はどうあれ、あの世界は変革期の真っ最中だ」





アレだ、うちのご先祖様の出身世界である地球の日本。それの幕末とかそういう時代と同じだな。

どんな事情であれ、どこもかしこも何かを変えてやるって気持ちで溢れてる。俺はそういう風に感じた。

ヴェートルだけでの世界の運営と平和維持を行いたいと思う現地政府と警察機構のスタッフ。



そんなヴェートルの考えや現状を変えたいとあくせくしてるって言う本局のクロノ提督達。

で、あとは亡命してきた公女達や、その間を取り持とうとするGPOって組織の連中。

それに・・・・・・あぁ、カラバのクーデター派のテロリスト連中も、やり方はアレだがそれに入るのか。



あの世界の中で何かしらの変革を望んでいる連中は、非常に多い。



今ヴェートルは、そんな感情が渦巻いている場所だ。だからこそ、混沌としてもいる。





「男だったらよ、そんな時代に飛び込みたいと思うのは当然だろ」



年甲斐もなく、そして現状も弁えずにそういうのを見て心が沸き立つのは、俺がまだ男だからなんだろうな。

口元が歪んでしまうのも、きっと同じくだ。正直真っ直ぐに飛び込める恭文の奴が、羨ましくてしょうがねぇ。



「自分に何が出来るか、何をしたいか、嵐の中に飛び込んで見極める。
古臭い昔ながらの男の道ってやつだ。まぁ、バカとロマンは紙一重だしな」

「・・・・・・確かに」





で、カルタスも笑うわけだ。俺と同じく色々分かる奴だからな。あー、俺も部隊長じゃなかったら行きたかった。

管理局システムは、万人全てに受け入れられているわけじゃねぇ。管理局創設から74年経った今なお、問題だらけだ。

そして今恭文が居るヴェートルは、俺達が提唱する管理局システムに警鐘を鳴らし、疑問を呼びかけている世界。



そこの現地政府や管理局の管理に対抗しようとする現地警察機構は、局にケンカ売ってる先駆けでもある。

一部の奴からはそういう見方をされてんだよ。恭文もだからこそ興味を持って、飛び込む事を決めた。

もう火がついた時の男特有のワクワクした目をしてやがんだよ。同じ男である俺が止める理由はねぇだろ。





「ただ、ギンガはあの調子ですよ? このままはマズいでしょ」

「だな。しかしアイツに男のロマンを話したとしても、サッパリだろうしなぁ。
しゃあない、ヴェートルの現状から説明するか? そうすりゃ、多少は納得するだろ」

「更に荒れると思いますけどね、俺は」










なお、カルタスの予想通りにギンガは荒れた。それなら呼び戻すべきとさえ言い始めた。だが、それは無理だ。





アイツは変革期にあるあの世界で、何かドでかい事をするために飛び込んだんだから。





いや、男ってそういうもんだろ? 俺だって若い頃、管理局に入った当初はそういう野望とかロマンとか持ってたもんさ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・すみませーん、ちょっと時間かかっちゃいました」



ゲンヤさん達がそんな大騒ぎをしていた頃、僕は飲み会ですよ飲み会。いやぁ、ワクワクだねー。



「お前遅いぞー! 主賓が途中で離席ってねぇだろっ!!」

「そうなのだっ! というか、アンジェラは恭文の分のご飯を食べちゃうの我慢するの、本当に大変だったんだぞっ!?」

「ごめんごめん。・・・・・・って、それは我慢してっ!? 常識的に我慢するべきところでしょうがっ!!」



で、通信が終わってから宴会の場に戻る。まぁ、ジュンが出来上がってるのは気にしないことにする。

椅子に座って・・・・・・あれ、なんか金馬の顔が赤い。というか、なぜに僕をそんな冷たい目で見る。



「・・・・・・変態。てゆうか、ロリコン」

「はぁっ!? なにさいきなりっ!!」

「恭文、リインちゃんとラブラブでお風呂で洗いっことか、添い寝とかほっぺにチューとかするんだって?」



なんかどっかのギンガさん張りに異常に山盛りの料理を食いまくるアンジェラが、平然とそんな事を言った。

そして僕は固まる。固まって・・・・・・こう声を上げるのだ。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「アンタ、さすがに引くわ。普通に引くわ。いくらなんでもこんな小さな子にそれはないでしょ。
てーか、どんだけこの子アンタにラブラブ? あ、まさかなにかそうなるように妙な事でも」

「ナナ、そこはいいじゃないか。・・・・・・まぁアレだよ、あたしは別にロリコンとか変態とか思わないさ。
でもな、法律はお前らの愛を理解するとは思えないな。さすがに年齢下過ぎだし」

「だから待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! てゆうかリイン、一体なに話してるのっ!?」



すっかりアンジェラに餌付けされてしまったパートナーを見る。

その子はお肉をモグモグしながらにっこりした顔で言った。



「えっと、リインと恭文さんがすっごくラブラブという話をしたですよ? それで、相思相愛なのです♪」



きゃー! 当然と言う顔で言い切りやがったっ!!



「それはある意味正しいけどある意味不正解だよっ! 僕はリインにそういう感情は抱いてないよっ!? てーか、本命居るしっ!!」

「なるほど。蒼凪、お前には本命の幼女が居るのだな?
私は非常に残念だ。まさか来て早々、お前に手錠をかけるハメになるとは」

「違うわボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 幼女じゃないっ!! 年上ですからねっ!?」

「つまり、年上の幼女なのですね。蒼凪さん、私も残念です」

「それは僕が子どもだと言いたいのかコラっ!!」










とにかくしっかりと説明した。来て一日目でロリコンとか思われてもそれはそれで嫌だ。てーか、嫌過ぎる。





正直・・・・・・また弄られるネタが増えると思うと、頭が重いけどここはいい。ロリコンよりマシだ。




















『とまとシリーズ』×『メルティランサー THE 3rd PLANET』 クロス小説


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Report02 『Contact with the first battle』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なるほど、ハラオウン執務官を隠れ蓑にリインとの逢瀬を繰り返しているわけか」



そうそう。フェイトを本命と言いまくって、自分のロリコン気質を隠すために・・・・・・って、違うわボケっ!!



「だからどうしてそうなるんですかっ!? アンタ、そんなに僕を犯罪者にしたいんですかっ!!」

「したいかじゃなくて、犯罪者よ。・・・・・・さぁ、おとなしく縛につきなさいっ!!」



こら金馬っ! 飲み会で手錠出すっておかしくないっ!?

てーか、どんだけ飲んだっ!? もう顔真っ赤になりかけだしっ!!



「すまん、冗談だ。・・・・・・シルビィ、そう言うわけらしいからその冷たい視線はやめてやれ。
あと、手錠を取り出して蒼凪を拘束するのもだ。どうやら色々と複雑な事情があるようだしな」

「でも長官、逆を言えば本命が居るのに、これなんですよ?」



とっても余計な金馬の言葉に納得していた全員が、『そう言えば・・・・・・』という顔をする。

いや、だからちょっと待ってっ!? リインはまだ子どもで、お風呂と添い寝くらいはオーケーでしょうがっ!!



「よし、これで月の連中にいい土産話が出来た。サクヤ、明日帰るのが楽しみだな」

「そ、そうでしょうか」

「お土産にするなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「・・・・・・やっぱり、今のうちに丸焼きにするべきかしら」

「ナナ、それはやめてくれ。店に迷惑がかかるし、あたしはさすがにそれは見たくない」










・・・・・・まぁ、色々と歓迎してもらいつつも夜は更けていく。





翌朝、早速非常にめんどいことになるとは、知らないままに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで翌朝。分署の空き部屋で寝かせてもらって、気持ちよく目覚めた。

なお、夜の分署は人気も妖気も殺気も全くなくて、実に平和だった。

朝ご飯を近くのご飯どころで食べて、顔を洗って、服を着て・・・・・・早速お仕事です。





で、シルビィから普通に街の案内を兼ねたパトロールをしつつ、現状を聞く。

今日は昨日みたいに、出た途端に事件遭遇という事もない。・・・・・・意外と平和らしい。

思いっ切りさ、毎日毎日何か起きてるものだと思ってたのよ。どっかの紛争地域みたいにさ。





もちろん緊張状態の真っ只中だし、GPOやEMPOについでに中央本部が頑張ってるからだろうけど。










「・・・・・・まずい。普通にニックネームで呼んでしまった。うし、ここは金馬だ」

「ちょっとっ!? いいじゃない、シルビィでっ!!」

「何言ってんの。僕の中ではもう金馬って名前になってるんだから」



てーかあれだ、初対面でいきなり銃口向けてくるからだ。コイツはあれだ、横馬二号だ。



「全く・・・・・・初対面であんなことして、人間関係がちゃんと構築出来るとでも?」

「それ、あなたに言われたくないんだけどっ!? ・・・・・・あなた、本当にいい性格してるわね」

「よく言われるよ。本当に僕は性格がいいと」

「意味が180度変わってるじゃないのよっ! あぁもう、どうしてそうな」



そして金馬が黙った。次の瞬間、表情が変わる。



「・・・・・・あ、もしかして」



EMPの港湾地区を歩きながら、潮風に吹かれながら、金馬がニヤニヤする。

なんというか、気色の悪い女である。なぜそんな勝ち誇ったように笑える。



「私の名前を呼ぶと照れくさいからとか? もうウブなのね。・・・・・・大丈夫よ。
私、あなたみたいなのは好みじゃないけど、そういうことならちゃんと考えるし」

「ね、金馬。ちょうどそこが海だから、今すぐ海水浴とかする? というかさせてあげるよ」

「そう言いながらデバイスセットアップするのはやめてくれないっ!?
ここから落ちたら私、死んじゃうからっ! そしてあなたもどうしてセットアップするのよっ!!」

≪楽しそうだからですが・・・・・・なにか?≫

「あなた、バカじゃないのっ!? あぁもう、マスターもマスターなら、デバイスもデバイスじゃないのよっ!!」



失礼な。僕はアルトみたいに性格悪くないし。僕は、かなり良識的よ?



「大体、僕は本命居るって話したよね? それでなんで金馬行くんだよ」



僕がそう言うと、今度はガチに泣き出した。・・・・・・忙しい女だ。一体どうしたというのだろう。



「でも、7年スルーって」

「言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「というか、身長が足りないわよ。ハラオウン執務官だったら最低でも175くらいあった方が似合うと思うの。
うーん、もうちょっと伸びないと釣り合わないなぁ。顔立ちはいいんだし、あとは背よ背」



・・・・・・ふん。



「・・・・・・あれ、どうしたの? なんでそんな私を置いていこうとするのよ」

「悪かったね、身長がないスーパーどチビで」

「誰もそこまで・・・・・・もしかして、身長の事かなり気にしてる?」



・・・・・・まぁいいや、僕だって散々やってんだし、コレくらいで目くじら立てるのもおかしいでしょ。



「別に」

「嘘、気にしてるでしょ」

「してない」

「してる」



あぁもう、この女はどうしてこうしつこいの?

僕は気にしてないってことにしたいんだから、それでいいでしょうが。



「・・・・・・してる」

「・・・・・・してない」

「してるわよねっ!!」

「してないって言ってるでしょっ!!」



そうして、ひたすらに口論しながら港湾区を超えて、工業区画に入る。

口論しながらパトロールなんて、したことないぞ。



「なんでそんな強情なのっ!? 素直に『してる』って言えば、私だって素直に謝るのにっ!!」

「金馬の謝罪なんていらないしっ! てーか、『してない』って言って納得しない金馬に強情とか言われたくないしっ!!」

「なによそれっ! あなた、身長どうこうの前に性格悪過ぎないっ!?」

「金馬には負けるよっ!!」

「それはこっちの台詞よっ!!」



だぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あぁ言えばこう言うなっ!!



「いいから素直に謝らせなさいよっ!!」

「どうしてっ!?」

「そんなことも分からないのっ!? 私が本当に悪い事を言ったからに決まってるじゃないのよっ!!」





・・・・・・一瞬固まった。そしてそれを肯定と受け取ったのか、金馬が普通に話を続ける。

息を荒げ、少し肩を落としながらジッと僕を見る。

なお、金馬の方が20センチ近く身長があるので見下ろす感じ。



それでも威圧的なものは感じない。本当に申し訳ないような感じを出してる。





「本気で好き・・・・・・なのよね。ごめん、身長の事でダメとか言われるの、嫌だったのよね」

「別に。てーかお互い様なんだし、普通」

「・・・・・・ホントに素直じゃないんだから」

「金馬より素直だよ」

「いいえ、私の方が素直よ。てゆうか、あなたに負けてるわけがないじゃない」










ただひたすらに口論を続けながらも僕達はパトロール。





どうやら今日も、EMPは平和である。いや、いい事だ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・シルビィと恭文、大丈夫かな」





ここは分署のオフィス。去年模様替えをして、結構普通の『刑事』って感じの配置になった。

あれだよ。地球のドラマの、はぐれなんたらみたいな配置か?

最初は慣れなかったけど、今はもう全員大丈夫だ。で、あたしはそこで色々と心配中。



やばい、あたしは相当心配だ。でも初対面でシルビィとあそこまでやるとは・・・・・・アイツ、ある意味すげーよ。





「ジュン、落ち着きなさい。そんなに心配しても、仕方ないでしょ。
それによ、出動して現場でゴタつくよりはずっとマシ・・・・・・なはず」





ナナがデスクに座りつつ、ご自慢のマジカルステッキを拭き拭きしつつもそう言う。

なお、顔はとっても微妙。苦過ぎて微妙な顔。いや、あたしもそれなんだよ?

・・・・・・あ、マジカルステッキってのは・・・・・・あれだ、マジカルなステッキなんだよ。



先が赤基調の幾何学的な色と模様が入ったボールになってて、柄が木目調で色もそんな感じのステッキだ。





「でもでも、リオネラママが『ケンカする程仲がいい』って言ってたから、大丈夫なのだ」

「アンジェラさん、物知りですねー。あ、リインもはやてちゃんから教わったですよ」



・・・・・・恭文、リインがアンジェラにすっごい懐いてるんだけど。てーか、これはいいのか?



「まぁあれだ。あとでフォローの手はずだけは整えておくか。リイン、お前も相談に乗ってくれ」

「シルビィは私達でなんとかするわ。これでも付き合いは長いから。ただ」

「はいです。恭文さん対策はリインにお任せなのです。ちなみに恭文さんは、甘いものが大好きなのです」



なるほど、早速食べ物で釣るという方法を提示してくれたか。むむ、これはかなり出来る子だなぁ。



「なら、私ちょっとキッチンへ行って」

「待てっ! それはいいっ!! お前の電飾ケーキはいいんだよっ!!」



説明しよう、ナナの料理は・・・・・・独特だ。非常に独特だ。具体的には、蛍光色でカラフルだ。

そして味も独特だ。こう・・・・・・独特なんだ。蛍光色でカラフルな外見通りの味だ。



「ジュン、アンタそれどういう意味よっ!!」

「お前の料理は独特過ぎて、恭文やリインはおろかあたし達でさえアウトだって言ってんだよっ!!」

「何言ってんのよっ! 私の料理のどこが独特っ!?
ただ少しばかり、飛んだり跳ねたり回ったり光ったりするだけじゃないのよっ!!」

「お前もこっち住んで長いんだから、そろそろ自分の料理が少なくとも『こっちの世界』では独特だって気づいてくれよっ!!」



と、とにかくここはいい。甘いものはケーキでも注文しておけばオーケーだろ。ナナには一切手出しさせない。

で、普通にアンジェラが『美味しそうなのだー』とか言ってるのも全部無視だ。そろそろ話進めないと。



「とにかくリイン。あたし達GPOとEMPD、ヴェートル中央本部は現在カラバ関連と思われるテロ事件と、その主犯を追っている」

「はいです。それが『アイアンサイズ』・・・・・・でしたよね」

「そうよ。カラバのクーデターの指導者である、マクシミリアン・クロエの部下・・・・・・らしいわ」



ナナがこんな風に曖昧に言う理由は簡単だ。アイアンサイズがカラバの関係者だと立証出来てないから。

ようするに、疑わしいってだけで証拠もないんだよ。現にカラバ関係以外でも、狙われる理由はいくらでも思いつくしなぁ。



「それでねリイン、アンタってユニゾンデバイスなのよね」

「はいです」

「じゃあ、お前はアイアンサイズ戦では現場に出せないな」

「はい」



そしてリインが一瞬だけ硬直し、動きを止めた。すぐに動きを再開させて、分署のオフィスの中で叫ぶ。



「・・・・・・えぇっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいっ! リインが現場に出せないってどういうことですかっ!!」

「あぁ、落ち着けって。そこもちゃんと説明するから。
・・・・・・アイアンサイズには、ちょっと厄介な能力があるんだよ」










これはリインだけじゃなくて恭文のおしゃべりなパートナーもだな。





あたしとかシルビィとかはまだ大丈夫だし、やられる心配は少ないだろうが・・・・・・それでもだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・で、そのマクシミリアン・クロエって奴がクーデターの主犯と」

≪カラバ革命政府執政官で、元々はカラバ公王の寵臣≫



それで政務の補佐を行っていた。でも、ある日突然革命起こして王族は皆殺しと。

なんというかご愁傷様である。横腹不意打ちで身内に刺されたのと、同じだって。



「そうよ。ただ、主犯という言い方は違うわね。
カラバのクーデターは成功し、政権はひっくり返ったんだから」

「勝てば官軍ってやつですか。だから自治権を認めている管理局も迂闊な介入が出来ない」

「そうね。公女達からすると冷たい言い方だけど、クーデターはそういうものだから。
どんな極悪人だろうと、最終的に政権をその手に勝ち取ったものが正義よ」

「・・・・・・寂しい考え方だよねぇ」



とりあえず口論はやめて、普通にパトロールをした。今は金馬の運転で分署に戻っている途中。

なお車移動。移動しつつカラバのクーデター派について、色々聞いていた。



「でも、私も今回の一件で色々調べて分かったんだけど、カラバって世界も不思議なのよねぇ」

「管理局に一種の自治権を認められてるからでしょ? シルビィ的に不思議なのはそこ」

「そうよ。それはミッドの聖王教会もそうだけど、カラバの場合は一つの世界丸ごと。規模が違うわよ」



まぁ管理局が設立するよりずっと前かららしいし、一種の慣例というかそういうので残ってただけなのかも。

とにかく現状でそのはた迷惑な執政官の指示で、テロが起きて・・・・・・証拠なにもないけど。



「でも、お腹空いたわねー。私、あんな派手に口論したの結構久しぶりかも」

「そう? 僕はあのノリでやるのは結構あるけど。だから、シルビィとやったのも普通。
いつもはアルトだったりリインだったり、友達連中だったりするけど」

「そうなんだ。・・・・・ね、ところでさ」



・・・・・・なにさ。なんで普通にニコニコと嬉しそうな顔してるのさ。



「シルビィって、普通に呼んでくれるようになったわよね」

「気のせいだよ」

「気のせいじゃない。ね、アルトアイゼンも聞いてたでしょ?」

≪というか、録音してますよ?≫



するなよっ! てーか、普通にそれは色々とマナー違反でしょうがっ!!



「ほら、言ってた。・・・・・・じゃあ、私も名前で呼んじゃおうかな。
ずっと『君』とか『あなた』ばっかりだし、それもダメよね」

「なんで?」

「ほら、あなたやフェイト執務官のお友達の、高町教導官」



・・・・・・え、なんでそこで横馬? なんだろ、すごく嫌な予感しかしないんだけど。



「高町教導官が以前雑誌のインタビュー記事で言ってたの」

「あぁ、そういうインタビューよく受けてるしね。で、なんて?」

「『相手と名前で呼び合えれば、それだけで人はどんな違いも乗り越えて、誰とでも友達になれる』って。私、それを見て感動したことがあるんだ」



それを聞いた瞬間、僕は車の左側・・・・・・助手席に座りながら頭を抱えた。

こ、こんなところであのバカの話が出てくるなんて。おかしい、絶対おかしい。



「・・・・・・あのね、あの横馬のことは信じなくていいから。というか、それには付随条件が付くから」

≪あの人、世の中に間違ったイメージを与えまくっていますよね。どうするんですか、これ≫





シルビィは疑問顔だけど、事実なのよ。なぜならあの女は、魔王だから。

・・・・・・名前を呼び合いながら砲撃を撃って『お話』することで友達になれるとか、絶対思ってるし。

いや、ちょっと待って? 名前で呼び合い・・・・・・僕は、気づいてシルビィを見る。



シルビィは顔を赤らめて息を荒げ瞳を潤ませ、まるで恋する乙女のように・・・・・・なっていなかった。





「ちょっと待ってっ!? そこの描写説明は確実に要らないわよねっ!!」

「なんで僕の思考が分かるっ!? てーか、ツッコむなっ!!」

「とにかく、これから一緒にやってくわけでしょ? 信頼関係の構築は必要だもの。・・・・・・どうかな」

「別にいいけど」



僕だって名前で呼んでるし、これで悪いとかは言えないもの。うん、別にいいや。



「ならよかった。ありがと」

「礼なんて、いい」

「いいの。私が言いたかったんだから。
・・・・・・よし、それじゃあ話も纏まったところで、早速ランチタイムに突入しちゃお?」










時刻はもうすぐお昼。なんというか僕もシルビィもお腹がペコペコ。





まずはお昼の調達に向かうことになった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・恭文さん、シルビィさんと何かあったですか?」



分署に戻ってお昼を食べていると、リインがそんな事を聞く。

なぜだろう、普通にみんなも僕を見る。・・・・・・おかしい。



「あ、シルビィ。そこの醤油取ってくれる?」

「はい。・・・・・・てゆうか、ヤスフミはフライに醤油かけるの?」

「出来立てに限りね。僕の出身世界の食べ方だよ。よければ試してみて? 中々いけるから」

「ふーん、そうなんだ。じゃあ、早速」



で、お弁当のアジフライに醤油をかけて・・・・・・ざっくりと噛む。

なかなかいい食べっぷりに感心していると、シルビィの表情が驚きと喜びに溢れた。



「あ、いけるわね。この程よいしょっぱさが中々」

「でしょ?」



・・・・・・うーん、出来立てほやほやだから美味しいなぁ。

シルビィも喜んでくれてるみたいだし、嬉しいねぇ。




「いや、マジでリインの言うように何があったのよ。いくらなんでも距離の縮まり方がおかしいでしょ」

「恭文、お前どんな魔法使ったんだよ。てゆうか普通に朝まで『金馬』って呼んでたよな」

「ジュンちゃんナナちゃん、それだけじゃないのだ。シルビィも恭文の事『ヤスフミ』って呼んでるよ?」

「「・・・・・・そう言えばっ!!」」



色々と騒がしい連中である。てゆうか、リインもそんな不思議そうな顔はやめて? なんでそうなるのか、僕が不思議だよ。

そりゃあジュンとナナとアンジェラから分署のほうで、この世界の事を色々教わってたから疑問なのは分かるよ?



「まさか、またフラグ立てたですかっ!?」

『フラグってなに?』



とりあえずアレだ、僕はアジフライ弁当を食べる。シルビィも同じ。

なんか忙しそうな三人とリインはともかくとして、僕達は普通にご飯ですよ。



「恭文さん、無自覚に女の子のフラグ立てるんです。なお、20歳くらい上でも平気で落とせます」

『・・・・・・マジっ!?』

「てゆうか、普通にジュンもナナちゃんも落ち着きなさいよっ! 別にフラグとか落とされたとかそういうのじゃないからっ!!
ただ、一時的でも同僚になるから、仲良くしようねってだけの話よっ!? 本当にそれだけなんだから、その疑わしい目はやめてっ!!」



そうそう、それだけの話である。なのに・・・・・・なぜ視線が厳しいんだろうか。

てーか、なんか突き刺さってるし。あぁ、リインがメドゥーサモードに突入しかけてる。



「シルビィ・・・・・・大丈夫、お前ならハラオウン執務官に対抗出来るよ。ほら、スタイルも負けてないしさ」

「まぁ、人の恋愛にあーだこーだ言うのも間違ってるから、私は何も言わないわよ。
けど、シルビィを泣かせたら・・・・・・丸焼きにしてやるから、覚えておきなさい?」

「シルビィ、泣いちゃうの? ・・・・・・だめー! そんなのアンジェラは許さないぞっ!!」

『だからなんの勘違いをしているっ!? お願いだから落ち着いてー!!』



なんてカオスな状況が進行している事に怖くなっていると、僕達がいる分署の休憩室が開いた。

そこに居るのは・・・・・・補佐官とパティ(飲み会で、愛称で呼んでいいと言われた)だった。



「みんな揃っているな。・・・・・・なんだ、たかやま亭のアジフライ弁当じゃないか」

「・・・・・・はい?」

「お前とシルビィが食べている弁当だ。相当人気で、売り切れの時もある商品だ。だが、よく買えたな。なお、俺は買い損ねた」



そう言えば開店直後で人が居なくて、『並ばずに買えるなんて、運がいいわね』と言われたような。

なるほど。シルビィが『ここは美味しいから絶対買っておきなさい』って言ってたのは、そのためか。



「とにかくだ、食事が終わってから全員ブリーフィングルームに集まってくれ。・・・・・・特別任務だ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけで、食事が終わってブリーフィングなわけだが」

「フジタさん、説明セリフですね」

「気にするな。こういうのも時には必要なんだ。・・・・・・蒼凪、リイン。
現状で俺達が調査している案件については、もう聞いているな」

「僕はパトロールしつつシルビィから」

「リインも、ジュンさんから聞きました」





現在、EMPではある事件が起きている。それはいわゆる・・・・・・闇試合。

まぁ別に殺し合いをどっかの金持ちが、暇つぶしの種にしてるとかじゃない。

普通に腕っ節の自信のある奴が集まって、ファイトクラブもどきをやっているのだ。



で、ここだけならまだいい。普通にミッドでもこういう事をやってる連中は居る。問題はここからだ。

・・・・・・それを主催している人間が、例のカラバのクーデター派の人間らしい。男と女の二人組。

そいつらの名前は小柄な男の方が『ダンケルク』に、大柄な女の方が『キュべレイ』という姉弟。



この3ヶ月の間に『アイアンサイズ』と名乗っている二人のテロリストは、EMPを主な標的にしてテロ活動を行っている。

GPOの人間も中央本部の魔導師組もEMPDも、何度も接触しているそうだけど相手は相当の手誰らしく、捕縛には到っていない。

結局二人がカラバのクーデター派と言う確固たる証拠も掴めずに、現状処置だけで止まってしまっている。



シルビィが教えてくれた概要はこんな感じなんだけど・・・・・・確かに臭いな。何の目的もなしにこれとは思えない。





「連中が食うのに困って、テロリストやめて元締めやって生活してるって言うんじゃなければ怪しいですよね」

「恭文、お前・・・・・・やっぱ面白いな。その思考はあたしは無かったよ」

「EMP的にはそっちの方がありがたくはあるけどね。だけど、それは絶対にない。
大体それだとアイアンサイズの二人が、闇試合の参加者を連れ去る必要がないわよ」





どうも今シルビィが言ったように、そんな事をして腕っ節の強い奴を集めているらしい。

ようするに闇試合の勝利者だね。連中はその人達をどこかへと連れ去っているのよ。

だけどあんまりに闇試合の開催場所がばらばらで、連中の足取りを掴めなかったとか。



今、空間モニターでその画面が出てるんだけど・・・・・・確かにバラバラだった。



で、こうやって全員を集めて話してるってことは、足取りが掴めたと。





「とにかく、連中の足取りが掴めた。パティのおかげでな」

「補佐官、どういうことですか?」

「今説明する。・・・・・・まず、蒼凪とリインは来たばかりで知らないだろうが、EMPには地下レールが通っている」





画面にその路線図が出る。なんでも今画面に出ているのは、物資の運搬や輸送に使われる路線らしい。



無人で決められたスケジューリングで走る巨大列車。



その線路は丁度、円を描いている。丸くEMPの全域をカバーするように・・・・・・あれ?





「あの、補佐官さん。これって」

「そうだ。ここに闇試合の会場付近を光点で出すと・・・・・・こうなる」



そう、こうなるのだ。会場は全て、地下レールの線路付近で行われていた。



≪なるほど。人を数人連れ去るのであれば、地下レールを利用するのは確かに手ですね≫



一度に連れ去るのも、そこそこ人数が居たとか。その連中を一気にさらうのには、普通の手段じゃダメ。

みんなが言っていた『足取り』は、攫われた人達の運搬手段の事でもあるのよ。で、それがこれと。



≪車両自体もかなりの大きさのようですし、これなら可能でしょう≫

「闇試合は深夜、この付近に車両が停泊する時間帯に行われていた。
連中はテロリストだけではなく、キセルの常習犯でもあったわけだ」

「また余罪増やしてくれちゃって・・・・・・というか、パティ凄いわね。私もみんなも分からなかったのに」



・・・・・・ナナ、正直それはどうなの? いや、多分小難しく考え過ぎてたんじゃないかとは思うけどさ。



「い、いえ。私はあの・・・・・・思いつきだけですし」

「だが、その思いつきが、時には捜査に必要なんだ。
俺も余りに複雑に考え過ぎていて、そこを忘れていたからな。パティ、感謝する」

「あ・・・・・・ありがとうございますっ!!」



なぜだろう、パティが凄く嬉しそうだ。というか、補佐官LOVEオーラが出ている。

まぁ、気にするのやめようっと。人の恋路の邪魔するのはごめんだし。



「なら、僕達のやることは」

「そうだ。・・・・・・本日からこれまで闇試合がよく行われていた深夜の時間帯を狙って、警戒パトロールを行う。
そうして連中を追跡、使用されていると思われる無人車両に潜入」

「で、アイアンサイズを逮捕と」



・・・・・・全く、来て二日目でこれとは。なんつうかスピード展開というか、運の悪さ全開というか。

まぁいいか。とにもかくにも・・・・・・鉄火場だ。気合い入れないとまずいでしょ。



「それで蒼凪」

「ほい?」

「リインはカミシロが話していたのを見ているから知っているが、一応確認だ。
アイアンサイズの特殊能力については、シルビィから聞いているな?」

「・・・・・・特殊能力?」



で、僕はシルビィを見る。フジタさんもシルビィを見る。シルビィは・・・・・・止まっていた。というか、固まっていた。



「「・・・・・・シルビィ?」」



思わず声がハモってしまった。まぁ、ここはいいだろう。

問題は・・・・・・この女が色々説明を抜かしていたということだ。



「ご、ごめんなさいっ! ちょっと交流を深めるのに夢中で、その辺りの事を」

「忘れるなっ! というより、俺はちゃんと説明しておくようにと、あれほど言ってたよなっ!?」

「うぅ、ごめんなさい。何も反論出来ません。
・・・・・・と、とにかくアイアンサイズには、特殊能力があるの」



逃げやがった。今説明すればどうにかなるとか思って、逃げやがった。

まぁいい、鉄火場でいきなり説明されるよりはマシだ。ここは納得しよう。



「それは機械・・・・・・無機物との同化能力。そしてそれに伴う再生能力なの」

「・・・・・・はい?」



僕が疑問顔をしていると、フジタさんが自分のデスクの端末を右手で操作。で、僕の前に画面が出てきた。

その中で・・・・・・え、なんですか。この腕からマシンガン生やして、乱射しまくっている顔色の悪いお兄さんとお姉さんは。



「例えば銃器。例えば刀剣。そう言う無機物の兵器を自身の身体に取り込んで、連中は力とすることが出来る」



もう一度、画面を良く見る。・・・・・・そうだ、生やしているんだ。持っているんじゃないのよ。

腕の途中からまるでどこぞのT1000とかみたいに、ナチュラルに銃器本体が発生している。



「どうやら一時的にらしいんだが、取り込んだ物の能力を無条件で使用することが出来るんだ。
銃器を取り込めばお前が今見ている映像のように、銃が撃てるわけだ」

「それだけじゃなくて取り込んだ物を完全吸収して身体の内部で分解・再構築することで、自分の身体へのダメージも回復出来るの」

「なお、以前は戦闘ヘリなんてどっかから持ち出してきて大暴れしてくれたわ。あの時はホント大変だったわよ」



シルビィとナナの補足に、思わず頬が引きつる。・・・・・・マジですか?

てーか、どうしてこうなった? 明らかに人間やめた方々の領域じゃないのさ。



「でも物質を取り込むのは体力の消費が激しいようだから、あまり乱用はされない。でも、とても強力な力。
だから私達GPOもそうだし、ヴェートル中央本部の魔導師やEMPDのスタッフも手こずってて」



また厄介な能力持ってるなぁ。シルビィの話だと、素手でも相当強いらしいし。

・・・・・・ちょっと待ってっ! 機械・・・・・・無機物を吸収する能力っ!?



「フジタさん、シルビィ。まさかとは思うけど、連中ってデバイスを取り込んだりしたことがあるんじゃ」

「・・・・・・えぇ、そうよ。当然、デバイスも連中が吸収出来る対象物になるの。
実際に最初の段階でそれをやって、武装隊の戦意を叩き落とした」

「つまりだ、お前はアイアンサイズ戦だと、デバイス無しで連中とやり合う必要があるということだ。
もちろん吸収されても構わないというのであれば、止めないが」

「というか、リインもアウトなのですよ。リインもデバイスですから、多分その対象になっちゃいます」



うわぁ、ここはこの段階まで全く聞いてなかったんですけど。くそぉ、メルビナさんもヒロさんも・・・・・・恨むぞ。

こういう大事な話は、事前に説明しておいてもらえませんかね? てーかこれ、シルビィじゃなくて僕のミスでしょうが。



≪それは困りますね。私の出番が減るじゃないですか≫

「アンタ、気にするのはまずそこ?」

「ナナ、アルトはこういう子だから気にしないで。でも・・・・・・こう来たかぁ」



あははは、こりゃあ予想以上に大変かも知れないなぁ。

まさかアルトとリインの力が、強敵と思われるアイアンサイズ戦で借りられないとは。



「で、どうするのよ。デバイスが使えなかったら、アンタ達プログラム式魔導師はダメダメもいいとこじゃないのよ」



ナナがすっごいハッキリ言ってきた。・・・・・・うん、分かってた。すっごい分かってたよ。

だってさ、普通に取り込まれる危険性を考えたら、危なくて使えないもの。近接型は特にさ。



「あー、そうだな。そのせいで中央本部の魔導師隊は大負けしたし」

「補佐官、ヤスフミには今回は下がってもらっていた方がいいかも知れません。
デバイスをセットアップ出来ずに戦うのは、相当危険ですし」

「それなら問題ないよ」



心配するシルビィやジュン、ナナは余所に、僕はそう言い切った。

うん、問題ない。てゆうか・・・・・・やっぱり勉強はしておくもんだね。



「蒼凪、俺はメルビナ長官から簡単にしか聞いてないんだが・・・・・・あるんだったな。
魔法に頼らずとも戦えるだけの手が。そして、そのための武器が」

「はい。てゆうか普通に訓練もしてますし、完全に魔法がNGだったとしても問題ありません」

「ヤスフミ、そうなのっ!?」

「そうなのよ。てーかシルビィ、そうじゃなかったら、ここで僕を呼ぶ理由が分からないでしょうが」

「た、確かにそうよね。なら・・・・・・本当に大丈夫なのよね」





頷きつつ、右手でサムズアップしてやった。シルビィは、それで安心したように笑う。

とにかく手札を見せて安心させつつ、作戦は決行されることになった。

アルトを使用して戦闘は無理。リインも取り込まれる危険性を考えると、単独で前には出れない。



条件は色々付くけど、まぁなんとかなるでしょ。てゆうか、普通にこのために訓練してたんだもの。大丈夫。



大体『魔導師だから』で言い訳して止まってたら、こっちは商売上がったりなのよ。・・・・・・絶対になんとかする。





「ところでシルビィさん、気になってたんですけど、いつ恭文さんとそんなに仲良くなったんですか?」

「え?」



パティ、空気を読んで? 普通にその質問を今するのはありえないから。



「そう言えば俺も気になっていた。お前達、普通に親友に見えるぞ」

「いえ、相互理解を深めた結果ですので」

「なんかコイツがシルビィにフラグを立てて、落としたらしいわよ?
てゆうか、20歳以上年上の女性も落とせるらしいから、楽勝だったでしょうね」

『ホントですか(そうなのか)っ!?』

『違うからっ! そんなことないからっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・犯罪というのは、空気を読まない。そう、空気を読まないのだ。





だから、僕とシルビィは普通に深夜に殴り合って楽しそうにしている、むさい男連中を影からチェックとかしてるのである。










「・・・・・・すっかりカップル扱いされちゃってるわよね、私達」

「ごめん」

「なんで謝るのよ」

「色々迷惑かけてるかなぁ・・・・・・と。ほら、シルビィにも好きな人とか居るのかも知れないしさ」



ビルの壁から様子を伺いつつ連中を見る。・・・・・・優勝者がもうすぐ決まりそうだね。



「大丈夫よ。私、今はフリーだから。・・・・・・はぁ、最近いい出会いないのよね」

「アレだ、休み取って旅行しなさい。普通に旅先でアバンチュールだよ」

「あ、それもいいわね。じゃあ」

「連中をぶっ潰してストレス解消もしつつ、休みも確保だね。それが出来るように僕も頑張ることにする」

「ふふ、ありがと」



・・・・・・しかし初っ端からこれとは。僕、ここまで運が悪いか。



「シルビィ、本当に彼と仲良しになったのですね。・・・・・・私は応援していますよ?」

「・・・・・シルビィ、何言ってんの? しかも声色変えてまで」

「ついさっき、月分署のサクヤに定時連絡で、そんな話をされたの」





なお、メルビナさんと僕が初日で非常に迷惑をかけてしまったサクヤさんについて、少し説明しておく。

二人は今、お空に浮かぶ月に居る。月にはなんと月面都市があり、そこの治安を守る分署に出張しているのだ。

メルビナさんは基本的に月分署にずっと居る。で、サクヤさんがその補佐として月に出張。



この辺りの理由は、例のクーデターで逃げてきた公女と公子が月面都市で生活しているせい。

向こうでもEMPみたいにテロが起こる危険性があるので、そのための処置なのだ。

しかしヴェートルは管理局どうこうは抜きにして、亡命を受け入れてマジで混乱してるね。



ただサリさんが頭を捻ってたから僕も気づいたんだけど、よくよく考えてみると非常に不思議なのよ。

実際に被害とかもかなり出てるはずなのに、公女達を引き渡すとかヴェートルから追い出すとか、そういう動きがないの。

というより日に日にヴェートル・・・・・・ううん、中心はここだけど次元世界全体でって言ってたかな。



是が非でも公女達を守ろうという動きが出来上がって来ているらしい。反対派は既にごく少数。



言い方は悪いけど公女達は、ヴェートルに波乱の種を持ち込んだも同然なのに・・・・・・なんでだろ。





「うぅ、あなたとは出会って二日目なのに、カップル扱いっておかしくない? メルビナ長官も同じだし。
ね、ヤスフミからもなんとか言ってよ。補佐官まで『職場恋愛は認めるぞ?』とか言い出してるのよ」

「そうだね、きっぱり否定しておくよ。僕、本命居るのに。
シルビィもこれから旅行で本命出来るのに。・・・・・・それよりも、見て」

「あれは・・・・・・補佐官、こちらAチーム。動きがありました」



どうやら、これでオーケーらしい。元締めらしいのが動いた。



「・・・・・・シルビィ、あれ?」



淡いピンクが入ったボブロングの髪に灰色の肌。そして、青紫のボディスーツ。

体型は・・・・・・女。だけどデカイ。映像で見ているのと同じだ。



「間違いない。・・・・・・あ、動きだした」

「どうする?」

「当然、みんなで乗り込むわよ」

『こちら指揮車。アンジェラとナナ、カミシロのチームもダンケルクを補足』



なお、フジタさんは指揮車から指示。で、リインはパティと一緒に、隊舎からサポートである。



『そちらのチームは既に乗り込んでいる。お前らも突入を開始せよ。
ただし・・・・・・慎重にだ。下手をすれば、ストリートファイター共が全員敵になる』

「了解です。・・・・・・ヤスフミ、行くわよ」

「うぃさ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・これでも尾行は得意だ。だから僕もシルビィも、気づかれずに普通に電車に進入出来た。





なおみんなも同じくだね。ただ・・・・・・電車に乗り込んで思った。やっぱり犯罪者ってのは空気を読まないと。










「・・・・・・なんであのターミネーターもどきが居るのっ!?」

『知らないわよっ! 普通に闇試合で戦って普通に勝って普通にダンケルクに連れられて来てるのよっ!!』

『アイツの行動パターンからして・・・・・・腕試しか? てーか、よりにもよってどうしてこんな時に』

『しかも恭文が斬った腕も治ってるのだ。・・・・・・アンジェラ、あぁいうの知ってるよ? 『KY』って言うんだよね』

「アンジェラ、よく知ってるね。あと、同じ意味で『ゆとり』と『DQN』って言うのもあるから、覚えておこうね?」





そう、ヴァネッサーズの一人であるグリアノスが居た。

でもマジで何してる? またまたゲスト出演かい。とにかく隣の車両で話は進んでる。

キュべレイが闇試合の上位者達に色々話をしてる。ここからでは聞こえないけど。



しかし、あれはデカイなぁ。身長は180くらいあるかも。ちくしょお、色々羨ましいぞ。





「・・・・・・アルト、音声拾える? こうなると、アルトだけが頼みの綱なのよ」

≪ギリギリですが。・・・・・・あぁ、いわゆる入賞のお祝い的な事を話してますね≫

「それはまたお決まりね。ヤスフミ、前任せちゃってもいい?
もうすぐジュンとアンジェラとナナが、もう一つ前の車両から来る」



そうして挟み撃ちですか。ただ人を巻き込むし、タイミングはもうちょっと考えたいな。なお、弓華さんに教わった。



「まぁそれしかないよね。・・・・・・てか、任せてくれるの?」

「無茶しないことが条件よ? 実力は見せてもらってるし、一応は信用してる」

「ありがと」



僕は腰に差した二刀の小太刀に手をかける。素材はアルトの刀身と同じ。充分やれる。

とりあえず集中だ。呼吸を整えて・・・・・・いつ飛び出してもいいようにする。



≪・・・・・・これは≫

「アルトアイゼン、どうしたの?」

≪前方の二車両から妙な反応を確認。これは・・・・・・取り込んでるっ!?≫



僕とシルビィはゆっくりと見つからないように、向こうの車両を覗き込む。

ドアの窓から見えたのは、キュべレイの左手に持った球体から怪しい光が出ている光景。



「姿が、変わってるっ!?」

「アルト、アレ・・・・・・なに」

≪分かりません。ですが、闇試合の参加者の身体が≫

「分かる必要はないぜっ!!」



聞こえた声は後ろから。僕達は左右に飛ぶ。その瞬間、車両のドアが微塵に斬り裂かれる。

そのまま襲撃者の後ろに回りこむようにして、再びシルビィと合流。



「ダンケルクっ!!」



小柄で僕より3センチ程背が高いの男が居る。・・・・・・なるほど、これがダンケルクか。てーか、そっくりだ。

天を挿すように逆立っている髪の色も、肌の色も確認した映像やキュベレイと同じ。しかも、服装もだ。



「よぉ、GPO」



ただ、こっちは革ジャン風味というか、パンク風味なスーツになってるけど。



「・・・・・・なんだ、見慣れないチビもいやが」



僕は瞬間的に踏み込む。それにダンケルクの表情が、驚きに染まる。



「誰が器と同じくらいに小さいウルトラスーパーどチビチビだってっ!?」



言いながらも全力で顔面を蹴り飛ばしてやった。なお、徹は込み。蹴ってからすぐに距離を取る。

頭を振りながら、ダンケルクは踏みとど・・・・・・って、効果なしっ!?



「痛ぇな」



待て待てっ! 普通に痛いじゃ済まないでしょうがっ!! そんなレベルで蹴ってないよっ!?



「チビチビなんざ・・・・・・言ってねぇだろうがっ!!」



そう言いながら、ダンケルクが僕に斬りかかって来る。奴の両手は二振りのロングソードになっていた。

それを小太刀を抜いて受け止める。刃が薄暗い車両内で激突する。



「やかましい。僕をチビって言う奴は全員地獄行きなんだよ」

「そうかっ! じゃあチビチビチビチビチビチビッ!!」

「やかましいわっ! 陰険陰険陰険陰険陰険陰険っ!!」

「意味分からねぇぞ、それっ! 俺のどこが陰険だっ!!」





刃を強引に弾き、そのまま踏み込む。踏み込んで乱撃。

ダンケルクは身を捻りながらも僕の斬撃達を捌いていく。

その上、ニヤニヤと笑いながら・・・・・・うわ、ムカつくし。



身を捻り、足元に刃を打ち込む。ダンケルクは上に跳んで、左のロングソードを突き立てて来る。

後ろに飛んで回避。続けてくる乱撃を、二刀で弾き、捌く。捌きつつ、後ろに下がる。

飛んできた右の刺突を右薙の打ち込みで弾くと、ダンケルクの姿が消えた。



瞬間、後ろから空気を切り裂く音。身を捻り、二刀でその打ち込みを受け止めた。



で、ラグ無しで腹に魔力スフィア生成。即座に発射する。もちろんそのスフィアの正体は・・・・・・これ。





「クレイモアッ!!」





発射された青い魔力の散弾はダンケルクの身体を、僕の胴を狙っていた左のロングソードの刀身を撃ち抜く。

砕けた銀色の破片を避けるようにして、僕は後ろに跳んで距離を取る。そして目の前には爆煙。

・・・・・・って、やばい。そう思ってしまったことで既にフラグを踏んでいたのかも知れない。



後ろに強烈な殺気がした。僕はまたもや時計回りに振り向き、右の小太刀で突き出された脅威を弾く。

いや、逸らす。突き出されたのは右の刃による刺突。逸らすのがやっとで右の二の腕・・・・・・少し斬られた。

痛みに顔をしかめる間もなく、ダンケルクは楽しげに笑いながら、刃を返して僕の方へと押し込む。





「うおりゃあっ!!」



ダンケルクが強引に刃を振り抜くと僕はそのまま吹き飛ばされ、車両の壁に叩きつけられた。

その痛みで息が吐き出される。そこを狙ってダンケルクがニヤリと笑って突っ込んでくる。



「させないっ!!」





広めの車両の中に数発の銃声が響く。弾丸を撃ったのは、当然のようにシルビィ。

シルビィは僕とダンケルクの間に割り込むようにしながらも、引き金を引く。

ダンケルクはそれをロングソードを盾にしながら防ぎ、一気にシルビィに向かって踏み込む。



袈裟に打ち込まれた刃を後ろに跳び、シルビィが避ける。避けながら、ダンケルクの頭を狙う。

次に撃たれた銃弾を、ダンケルクは苦もなく避ける。そうしてシルビィの左を取り、右の剣で刺突を出す。

それをシルビィは左に身体を捻って回避。避けつつも、また至近距離で銃を数発撃つ。



ダンケルクはたまらず下がって、右の剣や元の状態に戻った左手を盾にして弾く。弾いて・・・・・・跳んだ。

跳んで宙返りをして、屋根を足場にしてシルビィに飛び込む。

僕にさっきやったのと同じ。シルビィはそれを避けようとする。でも、大丈夫。





「小太刀二刀流」



左腕を前にかざし、右手を引く。そして、右手で左手の小太刀の柄尻に向かって刺突を叩き込む。

刃の先には青い魔力。青い刃が刺突の勢いに圧されて一気にダンケルクに飛んだ。



「陰陽撥止もどきっ!!」





咄嗟に気づいたダンケルクが空中に居ながら右の刃を右薙に振るって払う。

でも、そこは予想済み。だからダンケルクだって驚いた顔をするのよ。

飛んだ刃は一つじゃない。右の刃も突き出しながら離した。そうするとどうなるか?



一刀目の影に隠れて、二刀目が見えないのよ。もちろんそうなるように角度調整もした。

るろうに剣心で四乃森蒼紫が使ってた技だね。普通に練習してたのよ。そして、二刀目が胸元を捉えた。

胸元に蒼く染まった刃の中程までが刺さり、ダンケルクが目を見開く。でも、まだ終りじゃない。



だって僕、普通にダンケルクの目の前に飛んでるもの。そして、右足で蹴りを叩き込んだ。





「はぁっ!!」





叩き込んだ箇所は柄尻。だから40センチほどの刃が鍔元まで、完全に胸に埋没する。

あ、もち徹込み。ダンケルクは口から唾液を吐き出しつつ、吹き飛んだ。

吹き飛ばされるダンケルクが、僕に向かって腕と一体化していた右の剣を、投擲する。



僕の胴に向かってくる刃を、僕は右手を開いて新しい小太刀を出す。小太刀も、合計二本だけじゃない。

普通に予備武器は用意していて当然でしょ。新しく出した小太刀を右薙に振るって、飛んできた刃を払う。

一応二刀目もあるかなとか警戒したけど、それはなかった。だから僕からもお返しをする。



それからすぐに左手に飛針を用意。左手を振るって、ダンケルクに向かって数本投擲してやる。

ダンケルクがそれに、驚いたように目を見開いた。なお、当然だけど回避は無理。

ダンケルクの首や目などの急所を狙った攻撃達は、受身を取ろうとしていたダンケルクに突き刺さる。



そのまま今度は、ダンケルクが壁と荷物の山に叩きつけられることになった。

その間に僕は着地して、シルビィがそこに駆け寄ってきてくれる。

少しだけ息を吐いて・・・・・・呼吸を整える。そして気をしっかりと持つ。





「・・・・・・大丈夫?」

「それはこっちの台詞よ。血、結構出てるわよ?」



シルビィはこちらに視線を向けずに言ってくる。

視線とやけに大型なリボルバーの銃は、倒れたままのダンケルクに向いてる。



「大丈夫。この程度なら、かすり傷だから」



言いながらも懐からすばやくマジックカードを取り出す。取り出して発動。



「それに・・・・・・まず女性の心配をするってのが、男の嗜みでしょ」



身体が蒼い光に包まれると、出血が止まった。で、空のカードは即座に収納。



「へぇ、意外と紳士なのね。少し見直したわ。
でも、そこに『素敵なレディ』というワードを付け足すと、もっと良くなるわよ?」

「なら、練習しておく」





なんて軽く話しながらも、警戒は解かない。でも、確かにこれは手こずるわ。

普通に強い。多分一般的な武装局員なら、1Dくらいは素手でも秒殺だ。

まず意識そのものが魔導師や次元世界の犯罪者とは違う。普通に戦っていい相手じゃない。



僕の知る限り・・・・・ファンだったりイレインだったり神無月とかそういう類?

・・・・・・やるならガチで殺すつもりでいかないと。だから咄嗟に意識を切り替えた。

そうじゃなかったら、胸元に刃を叩き込んだりしないよ。



あぁもう、マジで認識が甘かったな。これ下手をしたら・・・・・・拘束とか無理かも知れない。



え、こんな風に言う理由がないって? もう死んでるだろって? だったらそれは甘い認識だよ。





「・・・・・・へへ」



・・・・・・目の前の男は、胸元を貫かれてもまだ生きてるんだから



「てめぇ、やるじゃねぇか」





ダンケルクは荒く息を吐きながらも、やっぱり起き上がった。当然のように首や目は、無事。

僕の飛針は全部両手に突き刺さっていた。つまり咄嗟にガードされた。

・・・・・・こりゃ、やっぱりもうちょっと攻撃の精度を高くしないと駄目だね。



そして胸元の小太刀が・・・・・・マジで吸収されていく。

あははは、アレは何のスプラッタ? 傷とか全部ふさがって、こっち睨んでるんですけど。

てーか、よくよく考えたらキュべレイって同じくらい強いんでしょ?



その上グリアノスが居て・・・・・・向こう、やばいんじゃ。





「魔法を使ってるとこを見ると魔導師だが・・・・・・容赦ねぇなぁ」



言いながらもダンケルクはしゃがむ。いや、伏せる。そうして両足に力を溜める。



「いきなり胸元に刀突きつけてくるとは思わなかった。お前、マジで魔導師か?」



前へ突撃するために。目の前の障害である僕達を排除するために。



「さぁ、どうだろうね。ただこれだけは言っておくわ。・・・・・・僕、男と悪党には死ぬほど厳しいのよ」

「そうかそうかっ! じゃあ・・・・・・もっと楽しめそうだなっ!!」



言いながら、ダンケルクはまた踏み込んでくる。僕とシルビィはそれを迎え撃つ。

・・・・・・でもその瞬間、車両・・・・・・ううん、レール全体がすごい振動で揺れた。



「な、なにこれっ!?」

『シルビィ、恭文・・・・・・大変なのだっ!!』

『グリアノスが問答無用でキュべレイの奴と戦い始めて、大暴れして・・・・・・今すぐ脱出』



そして通信が唐突に切れた。というか、前方でなんか爆発音。

しかも一つだけじゃない。連続でこっちに向かって来てる感じがする。



「姉ちゃんっ!? ・・・・・・くそっ!!」





ダンケルクが反時計回りに身体を素早く動かして、背中の壁に即座に向き合う。

その時耳が見えた。右耳に小さな金色で、丸型のイヤリングが一瞬だけ。

それが身体の動きに合わせて、小さく揺れた。・・・・・・いや、ちょっと待って。



なんか逃げようとしてるっ!? てーか、壁に手を当ててるしっ!!





「あ、こら待てっ!!」

「待て・・・・・・ねぇよっ!!」



壁が爆発した。爆発して出来た穴に、ダンケルクは飛び込む。・・・・・・あ、あっさり逃げやがったし。

というかやばい。車両の揺れも激しくなってるし、このままじゃ・・・・・・!!



「シルビィ、脱出するよ」



とりあえず足元に術式展開。使うのは転送魔法。

位置・・・・・・この近辺で、安全だったらどこでもいいっ!!



「・・・・・・分かった」

「あ、ゴネないんだ」



これがフェイトなりなのはなら、『待ってっ! まだジュンさんやアンジェラちゃん達がっ!!』とか言うのに。



「みんなならちゃんと脱出してる。だから大丈夫よ」





それはしっかりと確信を持った言葉。信頼よりも強く、固い言葉。

脱出してて当然とまで言っているように聞こえる。

それにちょっと感心してた。というか、見習って欲しいと思った。



人情家で色々と甘いエース・オブ・エースと閃光の女神とその関係者だ。





「そっか。んじゃ・・・・・・行くよ」










そんな確信を持ったシルビィの言葉に納得しつつも、僕は術式を発動。





本当にギリギリで爆発して大破する無人の巨大車両から、脱出に成功したのだった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪脱出に成功したのはいいですけど、今度は広大な地下線路からの脱出ですか≫

「アルトアイゼン、転送は?」

≪だめです。というかこの人は、転送魔法の類が苦手なんですよ≫

「・・・・・・ごめんなさい。僕の技量だと本当に近距離が限度なんです」





薄暗い地下線路をシルビィと二人で歩く。みんなは脱出していると信じているので、捜索は行わない。

もちシルビィの提案。元々こういう作戦で動く事にしていたし、通信はアウト。

爆発の影響かな。地下ってこともあるのかも知れないけど、分署とも全く繋がらない。



とりあえずは自分の身を守る事に専念するしかないのが、現状である。

これで下手に探しまわって、二次遭難でもしたら大問題だし・・・・・・僕もここは納得した。

でもGPOってアットホームなように見えて、何気にこういう所は判断しっかりしてるよなぁ。



これが局だったら、普通に魔法使って捜索しようとかするのに。あぁ、そっか。

だから僕、二日目でなんか馴染んじゃってるのかも。

ここだと僕はハードボイルドを通しても許される空気があるから。





「ううん、そこは大丈夫だけど・・・・・・傷、本当に治ってるの?」

「応急処置的だけどね。僕、回復魔法は意外と得意なの。
毒の類とかも大丈夫。アルトに手伝ってもらって、身体検査はしてるから」

「そっか。・・・・・・あ、次は右ね」



うぅ、シルビィが詳細なここの地図を持っててよかったよ。おかげで迷わなくて済む。

まぁ女性の先導で暗闇の中を歩いてるってのが、色々と間違ってるような気がしなくもないけど。



「でも、なんだか私達・・・・・・色々縁が深いのかも知れないわね」

「なに?」



歩きながらシルビィが苦笑いしつつ言ってきた。それに首を傾げてしまう。



「だって朝はケンカして、お昼は仲良くご飯を食べて、夜は二人っきり。
知りあってからたった一日で、アバンチュールでもないのにここまではないわよ」

「確かにね。まぁ、夜はお仕事だったけどさ」

「あ、それもそうね」



こんな話をしながら、二人で紛らわせていく。みんなは大丈夫なのかなとか、そんな気持ちを。

多分シルビィはそのつもり。だから僕も乗っかってる。・・・・・・うん、不安じゃないはずないもの。



「ということは、一応運命の出会いにはなってるのかしら」

「でも僕、好みじゃないんでしょ?」

「まぁ、私より身長が高いのが理想ではあるけど・・・・・・もう変えたの」



へ、なんで? てーか、なぜに僕をそんなジッと見る。



「私も色々反省するってこと」

「そう。・・・・・・てーかさ、シルビィ。昨日から『運命の出会い』に期待しまくってるけど、何の影響よ」



まぁ、小説とか映画の影響だとは思うけどさ。大体、運命の出会いなんて・・・・・・あるな。

僕もリインだったりフェイトだったり、フィアッセさんだったり知佳さんだったりがあるから、あまり言えない。



「強いて言うなら、私のパパとママの影響かな」

「ご両親の?」

「えぇ」



でもシルビィから出てきた答えは、僕の予想を超えたものだった。・・・・・・どういうことだろ。



「私のママ、元々本局の捜査官でね。その仕事中にパパと知り合ったの。ここ・・・・・・ヴェートルで」



暗い通路の中、闇の中を照らすようにシルビィの表情が輝いていた。

それを後ろから見ていて不覚にも、ちょっと見とれてしまった。



「まだ管理世界に認定される、ずっと前の話よ」



元々シルビィは整った顔立ちではあるけど、それでもなの。見とれている間に、話は続く。



「ヴェートルで、パパはカメリアのFIBで捜査官をしていたの」



なお、カメリアというのは別の国である。うん、『外国』って概念がこの世界にはあるのよ。

ミッドみたいに南方とか東方とか言わないんだよね。ここも地球に近い。



「そんな時にパパは、広域次元犯罪の調査のためにこの世界に来ていたママと出会って、次元世界のことを知った」

「それがシルビィにとっての『運命の出会い』?」

「えぇ。だから・・・・・・ここは私にとって、大事な世界なの。
パパとママが恋に落ちて、双方の家族を色々巻き込んで結婚した」



あぁ、だからあんなに憧れてたんだ。ここが両親の出会った世界だから。

自分が生まれる事になった、きっかけとなった世界だから。



「それで私が生まれた。・・・・・・GPOに誘われた時ね、二つ返事でオーケーしちゃったんだ。
元々魔法資質もなくて、こういうの使って戦ってたから」



そうして見せてくれたのは、さっきまでバシバシ使ってた大型のリボルバー。

銀色に光る、長方形型の銃身が特徴の銃である。



「局では私みたいなのは肩身も狭かったし、あんまりこだわる理由もなかった。
あ、もちろんパパとママにもしっかり相談して、それで・・・・・・決めちゃったの」

「そう、なんだ」

「うん。でも、一番の理由はこの世界。小さい頃から、おじいちゃんおばあちゃんに会いに来たりでよく来てたの。
だから思っちゃったんだ。この世界に来れば何かが変わって、運命の出会いじゃなくても何かが見つかるのかなって」

「・・・・・・ごめん」



一言そう呟いた。シルビィが足を止めて、こちらを向く。まぁ、一応・・・・・・必要なので。



「どうして、謝るの?」

「最初の時、シルビィのこと・・・・・・傷つけた」



それだけ言うと、分かったらしい。



「もう。気にしなくても、大丈夫よ? というか、ヤスフミは何も知らなかったんだから」



だからシルビィは一旦端末を仕舞って、左手を伸ばして・・・・・・僕の頭を撫でてくる。



「大体、それを言えば私だって同じだもの。だから、私達二人とも同じで、おあいこ。・・・・・・いい?」



少しだけ優しく・・・・・・お母さんみたいに言ってきた。なので、僕は頷いた。



「・・・・・・ありがと」

「ううん」



それから僕の頭から手を離して、また歩き出す。僕も同じくでついて行く。



「でも、どうしてここまで話してくれたの?」



普通にボカすことも出来たはずなのに。うん、それは出来たと思う。



「さっきのあれこれを見てね、同じだなって思って」

「・・・・・・自分と?」

「そうね。肩身・・・・・・狭いわよね」

「そう、だね。・・・・・・僕は銃器は趣味じゃないからあんま使わないけど、あんな感じだから」



シルビィは納得したように頷いてくれた。表情は僕に対して、シンパシーを感じているように見える。

なお、『あんな感じ』というのがさっきの戦闘のあれこれなのは、言うまでもないと思う。



「フェイトを筆頭とした知り合いの局員の魔導師連中にもね、よく言われるのよ。
僕は『魔導師』だから、こういう戦いが出来なくても誰も責めない。むしろ出来ないことが普通」



ギンガさんやフェイト、あとなのはやリンディさんとかかな。仕事で関わった人にもたまに言われるけど。



「だから、出来るなら質量兵器はもう使わないで欲しいし、今日みたいな戦い方はやらないで欲しいって・・・・・・かなりさ」

「剣や暗器の類でも、それなんだ」

「僕が覚えてる技のあれこれが、普通に人一人くらいなら軽く殺せるってのもあるけどね」



・・・・・・その技を食らって、効果が0な奴は初めてだけど。くそ、アレはマジでどうなってる?



「でも僕はバカだから。『魔導師だから』で言い訳したくないの。
そんなのなんかつまんない。そういう枠の中で、括りつけられてる感じがしてさ」

「・・・・・・そっか。でも、それはバカじゃないと思うな」

「本当にそう思う?」

「えぇ。私もそういう言い訳をしたくない気持ち、よく分かるの。
私も魔法が使えないからじゃあ、言い訳出来なかった。だから、これ」



シルビィが、言いながら右手の銃をまた見せる。だから・・・・・・納得出来た。



「そっか。だったら僕達」

「えぇ、きっと同じよね。・・・・・・さて、急ぎましょ?
もうすぐ出口だから。あぁ、これで陽の光が浴びられるわ」

「その前にシャワーだよシャワー。なんか臭いがすごいし」



なんかこう、すごいの。普通に下水っぽいのが流れてるような所に入ったからかなぁ。

うぅ、嫌だなぁ。ジガンもGPOの整備ルームで洗浄させてもらわないと。



「うぅ、そうよね。あぁ、これば何回かに分けて洗わないと臭い取れないかなぁ」

「アバンチュールの前に匂いだね。シルビィ、普通にいい匂いだったのに、コレじゃあもったいないよ」

「あら、何気に私の匂いをチェックしてたの? 中々に手が早いわね」



振り返りながら、ちょっと意地悪げにシルビィが笑う。なので、僕はいつものお手上げポーズで返す。



「張り込みしてる時に、近くに居たもの。嫌でも分かるよ」

「確かにそうね。・・・・・・ね、私ってどんな匂いがした?」

「・・・・・・うーん、そうだなぁ。お日様みたいな温かい匂い? 思わずお昼寝したくなっちゃうくらいの優しい匂い」

「あ、正解。私良くそう言われるの。うーん、これはやっぱり色々と合格かな」

「いや、何がっ!?」










そして30分後、僕達は何とか外に脱出した。まぁ早朝の駅の構内だったので、相当注目を浴びたけど。

なお他の面々も同じように無事だったのは、付け加えておく。・・・・・・ただ、なのだ。

さらわれた人間は、全員揃って消息不明。グリアノスとアイアンサイズも同じく。





連中の目的も分からなかったし・・・・・・今回の作戦、僕達の大負けとなった。

なにより列車一つパーにしちゃったもの。でもさ、アレは仕方ないって。

ジュン達から話を聞いたら、グリアノスが『データ収集』とか言って自分から暴れ始めたのよ?





ジュン達が突入する前にキュべレイとクライマックス入って・・・・・・さすがにどうしようもないって。

どうしようもないけど、これはこれで言い訳ではあるんだよなぁ。

だって僕達の仕事は、それを何とかする事だもの。・・・・・・はぁ。なんというか、重いなぁ。





まぁここは良しとしよう。落ち込んでても始まらないし、まずは取れたデータを元にアイアンサイズ対策だよ。





GPOやEMPDに中央本部でも立ててるけど、僕は僕で独自にやらないとどうしようもない。人任せもまた違うでしょ。




















(Report03へ続く)






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あきゅろす。
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