小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Report14 『unripe hero 後編』
「公女を・・・・・・私の道を、それ以上侮辱するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
荒々しく、獣のようにオーギュストが踏み込む。横からとかではなく、真正面から。
僕も踏み込む。そして・・・・・・オーギュストの突きを見切りつつ、僕はアルトを素早く鞘に納めた。
交差する一瞬の間に、右手と左手を素早く動かし、納刀する。
そうして鳴り響くのは、甲高い納刀の音。それはアルトの鍔鳴りの音。
その音が響きながらも、オーギュストが後ろで滑るようにして足を止める。
僕も同じように停止した。訪れるのは刹那の静寂。
そして・・・・・・一つの影が、その場で床へと崩れ落ちた。
「飛天御剣流、龍鳴閃もどき」
≪・・・・・・あなた、大丈夫ですか?≫
「問題ない。てか、単調過ぎて・・・・・・つぅ」
突きのせいで、ジガンが真っ直ぐに斬り裂かれてる。ただ、装甲を貫通する程じゃない。
浅く、本当に浅く掠っていた。でも、そのおかげで身体への直撃はなし。
【・・・・・・恭文さん、左腕にヒビが。というか、アバラとかにも】
「大丈夫。これ以上は食らわなきゃいい。それに・・・・・・ここからは優勢だ」
僕は振り返りつつ、オーギュストを見る。オーギュストは身体を震わせながら、左膝をついていた。
忌々しげに振り返りながら僕を見て、睨みつける。身体を震わせながら・・・・・・ずっとだ。
「貴様・・・・・・一体、何をしたっ! これは何かの魔法かっ!!」
【さぁどうでしょ。その答えはあなた自身が知ってるはずですよ?】
「てーか、僕はそこのバカと違って、手札をホイホイ晒すほど緩くないんでね」
龍鳴閃は、神速の抜刀術の逆回し。つまりは神速の納刀術。その効果は鍔鳴り音にある。
すれ違いざまに高速で納刀されるが故に超音波の如き高音になったそれを、相手に聴かせる。
そうして相手の聴覚神経を、一時的に強制麻痺させる技なのよ。なお、先生も使える。
というか、叩き込まれた。そのために耳が数日バカになって・・・・・・うぅ、アレはヒドい。
「オーギュ、何をしているの? 立ちなさい。・・・・・・早く」
「無駄だよ。てーか、お前は騎士の主失格だね」
言いながら、僕は術式を展開。オーギュストが反応するけど、身体は動かない。
立ち上がろうとしてもふらふらとするだけで、すぐに崩れ落ちる。・・・・・・予測通り。
展開していた術式を一旦停止。これが確かめられただけでもやった効果はあった。
しかし、オーギュストを改造した奴は何考えてるの? 普通にこれ、欠陥機能じゃないのさ。
「なんですって? この私が・・・・・・そんなハズがないわ」
「お前は、自分で自分の騎士を捨てたんだよ。ペラペラと喋ってくれたおかげで、あっさり逆転出来た」
とにかく龍鳴閃の効果は先程言った通り。だけど、コイツの場合はそれじゃあ済まない。
・・・・・・コイツと公女は、このモードは全感覚が増加していると言っていた。
それはグリアノスみたいな機械の体というわけじゃなくて、人としての感覚も残っているという事になる。
電子的なレーダーとかセンサーとかではなく、生物特有の生体的な感覚がそれになる。
そして人間の感覚にはどれだけの物がある? 五感もそうだけど、痛覚とかもそこに含まれている。
それが全部限界を無視した形で増加したらどうなるか。答えは今までのやり取りの中にある。
龍鳴閃は本来聴覚を麻痺させる技。それは先生との訓練で僕が実地でやられて身を持って知っている。
耳が利かなくなるだけでも、結構辛いのよ。物音や空気の流れる音も感じられなくなっちゃうから。
「・・・・・・残念だったね。やっぱり底が見えたのはお前らだ」
とにかく龍鳴閃という技では、本来ならこんな風にはならない。なら、こうなる原因は一体なにか?
今の龍鳴閃によって、オーギュストの三半規管に相当する部位にダメージが入ってるんだよ。
それがリミットブレイクモードとやらの弱点。反応速度を上昇させるために感覚を倍加させた弊害。
このモードは言うなら人の感覚が持っている可能性を徹底的に高めたモード。
機械のような電子的な探知では成し得ない領域を目指している。
でもそれは逆を言えば感覚を通じて受ける自身への影響まで倍加してるの。
例えば大きい物音を聴けば、過剰に大きく聴こえて聴覚がダメになる。
・・・・・・ううん、身体の中心部にまで影響が出る。今がその状態だもの。
これだって龍鳴閃の高音波で身体の感覚がおかしくなってるせいだし。
人の感覚を強化しているという事は、必然的にその作りも同じということになる。
で、もしかしたらと思ってやってみたらビンゴだったってわけよ。、
てーか、どこの雪代縁の狂経脈だよ。話聞いてて思いっきりそれ過ぎて、すぐに対処法思いついたし。
多分この状態でオーギュストをぶん殴ったり斬ったり縛ったりすれば、痛覚もそうだけど他の感覚もが過剰反応する。
そうしてダメージ増加・・・・・・そのままショック死する可能性もある。・・・・・・普通だったらね?
で、ここで一つ思い出して欲しい。リミッター解除時にダメージ修復したり痛覚カットした事を。そこにはそれを防ぐ意味合いもあるのよ。
痛いままで発動したら、死んじゃう可能性もあるし。てか、僕はマジで信じられない。
最初はともかく、こういう風に改造した奴の神経が信じられないんですけど。
このモード、攻撃に回ってる時はともかく、防御は徹底的に弱い仕様になってる。
あんまりにアンバランス過ぎるでしょ。パワーアップ形態としては、非常にアウトだと思う。
こんなの痛覚をカットでもしなかったら、一発当たれば確実にお亡くなりだよ。いや、カットしてても同じだ。
痛みを感じないというだけで、身体へのダメージは当然蓄積される。ほら、無痛症ってあるでしょ?
そういう病気の人達は、自分で痛みを感じないだけであって身体へのダメージは普通に来るの。
だからこそ『痛み』が理解出来無くて命の危険に常にさらされていると言ってもいい。
つまり、攻撃を受ければダメージは尋常じゃないまでに増大。痛覚カットしてもダメージは当然消えない。
欠点のカバーのために新しい手を加えたら、更に別の欠点が出来た上に根源的な問題は解決出来てない。
そんな悪循環の成果がコレって事だね。これ以上感覚を強くしても同じだし、逆にそこを防ぐために鈍くしても全く意味がない。
つまりは堂々巡り。ある一定レベルを超えちゃったら、利点はただの欠点になっちゃう。
・・・・・・怖いなぁ。もしかしたら作成者は『これは画期的♪』とか思ったかも知れない。
けど・・・・・・残念だったね。その道は数年前に和月伸宏先生が全力全開で通った道だよ。
るろうに剣心読者の僕に通用するわけがない。やっぱ漫画って読んでおくもんだね。
こういう時に役に立つのよ。特に今回は魔導師って枠からすると、常識外なのばっかだし。
「リイン、バインド。今ならかけられる。ただし、氷結系のバインドはダメだから」
全く、メンドくさい。殺すならともかく、そうじゃないなら普通にいつもより加減しないといけない。
多分氷結系を使ったら、冷たさに過剰反応して大変なことになるもの。痛覚関係が無くても、ここはそうする。
【はいです】
「あと、僕もだね」
≪Struggle Bind≫
僕とリインの青と白のバインドが、オーギュストを縛り付け・・・・・・いや、縛り付けなかった。
普通にオーギュストの身が右に翻る。そして姿が消えた。僕とリインのバインドは空虚な空間を縛り付けるだけ。
そしてそのまま床を砕くような歩行・・・・・・いや、走行音。僕から回り込むようにして動く野獣の殺気。
それは7時方向から唐竹に斬撃を打ち込む。僕は身を翻しながらも右に跳ぶ。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
斬撃とそれが発生させた衝撃は床を数メートル割り、巨大な亀裂を生み出す。
「・・・・・・ヤスフミっ!!」
「恭文さんっ!!」
「大丈夫っ!!」
僕は余裕で回避してるもの。・・・・・・そしてその斬撃を生み出したのは、もちろんオーギュスト。
【そんな・・・・・・さっきの龍鳴閃もどきでダメージ入ってるですよねっ!?】
赤い肌に黒い瞳は変わらずに僕を睨みつける。
そしてサーベルの刀身が震える程の力で柄を握り締める。
≪無理矢理立ち上がったんでしょ。公女への信仰故ですか?≫
「それに・・・・・・痛覚カットしてるしね。痛みじゃ止まらないんだよ」
そうなると・・・・・・相当エグい手を使う必要がある。だけど、やるしかない。
本当だったら魔法で一気にノックアウトってやりたいけど、きっと察知されちゃうしなぁ。
≪ただ、今の動きを見るに救いはあります。防御力はともかくとして、攻撃力と機動力は充分下がりました≫
アルトの言うように、オーギュストは一歩踏み出すのも辛いらしい。
「公女の・・・・・・・公女のため・・・・・・・お前を、殺す」
「無駄だよ。自分でも分かるでしょ。もうお前は・・・・・・底が見えた」
「黙れっ!!」
ふらつきながらも踏み込んで、僕に突きを見舞う。でもまた右に動いて回避。
オーギュストは転げながらも起き上がって、一気に跳び上がった。
数メートルの距離を飛び越え、僕に向かって唐竹にサーベルを叩き込む。
僕はまたも大きく右に跳んでそれを回避。サーベルが先ほどと同じように床を砕く。
「そうよオーギュ、あなたは私の騎士。だから敗北など許されない」
「そう、私はアルパトス・カラバ・ブランシェの騎士っ! 敗北など許されないっ!!」
身体を動かすのは、大事な主を守りたいから。そこだけはきっと、僕と同じだ。だからそこは否定はしない。
てーか、見ててする気が無くなったよ。・・・・・・否定はしないけど、哀れだと思う。
「・・・・・・オーギュ、もうやめてっ! そんなにボロボロになって・・・・・・そうまでして、一体どうするのっ!?」
「黙れ逆賊っ! 貴様らは新生カラバの誕生を邪魔する害虫だっ!!
ならば殺されて当然・・・・・・そうだっ! お前らは殺されて当然の虫けらだっ!!」
「オーギュ・・・・・・!!」
「潰れてろ」
僕は踏み込んで、アルトを袈裟に叩き込む。それを『見て』オーギュストは反応。
ふらつく身体を無理矢理に動かして、僕の斬撃をサーベルで受け止めようとした。
そう、受け止めようとしたの。さっきまでの勢いだったら、こうはならない。
僕が攻撃を行う前にその場から消えてただろうに。でも遅い。
こいつは龍鳴閃もどきのダメージのせいで、普通に反応が遅れてる。
だからさっきの攻撃だって、あっさりと回避出来まくったもの。
だから・・・・・・僕の袈裟の斬撃は、オーギュストの右肩を捉えた。
「雷花」
オーギュストは咄嗟に右に避ける。いや、よろけるように転がろうとする。
でもその前に刃を包むのは蒼い雷撃。・・・・・・フェイトやみんなには内緒で練習している魔力変換の一つ。
先天的なものではなくて、プログラムを活用した上で行う魔力の性質変換。
僕が『チート』って呼ばれるのが嫌で封印していたもの。でも、ここでその理由は成り立たない。
だって・・・・・・もう僕よりチートな連中ばっかだし。そして魔法を使えるのにも理由がある。
今のオーギュストは魔法の使用や攻撃の事前察知がちゃんと出来ても、そのための対処が出来ないのよ。
信仰心ゆえに立ち上がっても、普通に立っているのも歩く事もかなり困難。意地を張ってもここはどうしようもない。
だから僕の蒼い雷撃の刃は、オーギュストを袈裟に斬り裂く。もちろん非殺傷設定。
ただし魔力変換で付与された電撃による身体へのダメージで・・・・・・今度こそダメ押しだ。
もちろん雷撃は最大出力。身体全部を焼く勢いで僕はその斬撃を打ち込んだ。
「一閃っ!!」
斬撃に斬り裂かれたオーギュストの身体を、蒼い電撃が焼く。
そしてオーギュストは、身体の色んな箇所から黒い煙を上げながら仰向けに倒れた。
≪Struggle Bind≫
それから即座に縛り上げる。とりあえず・・・・・・コレで詰みだね。ただ、やっぱ重いな。
普通にこれ、再起不能コースだと思うし。というか・・・・・・お亡くなりかねぇ。
「そんな・・・・・・オーギュ」
で、僕は公女の方に向き直る。もう騎士は潰れた。あとは・・・・・・こっちだけだよ。
「さて公女、ようやくタイマンだね。・・・・・・まずはそこから出てもらおうか」
「オーギュ、何をしているの? 早く・・・・・・早く立ちなさい。そして私を守りなさい。
なぜそんな風にみっともなく倒れているの。あなたは私の騎士でしょ?」
「みっともなく倒れるまで利用しまくったのは、お前だろうが」
僕は言いながらも歩き出して・・・・・・軽く足をもつれさせる。でも、すぐに踏みとどまる。
さすがにダメージが蓄積してたか。てーか左腕・・・・・・悪化したかも。
「メルビナ、アイアンサイズもどうして居ないの? みんな、一体何をしているの」
『とまとシリーズ』×『メルティランサー THE 3rd PLANET』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄と祝福の風の銀河に吼えまくった日々
Report14 『unripe hero 後編』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・ふ、まさかこの私が遅れを取るとは」
「そりゃそうでしょ。いくらアンタでも、四人でフルボッコでどうにかなるわけがない」
なお、俺達がどういう手を使ったというと・・・・・・簡単だ。ヒロさんがライジング・パニッシャーで射撃。
当然だが回避は無理。でも、それは防がれる。でも、レールガンの衝撃で足は止まった。
そこにサリさんがゴウカモードで砲撃。シャインボルグ捜査官は、ライオットシュートで射撃。
俺はヒロさんがパニッシャー撃った間に、一気に後ろに回った。
回って、両足のレオーで蹴った。そうして、四方向から押し切った。
破けたフィールドの衝撃で、パニッシャーは相殺される。
でも、他がある。メルビナさんは再度フィールドを張る間もなく、砲撃と射撃に晒される。
「で、今のご気分はどうだい?」
「・・・・・・最悪だな。色々とボロボロだし、動き辛い」
「そりゃ良かった。でも、気分はすっきりだろ?」
「それはな」
で、とどめは俺のジャックカーパーだよ。背中からはずるいと思ったが、思いっ切り斬ってやった。
「ヒロリス、それにサリエル殿にランディ、あと・・・・・・誰だ?」
あぁそうですよねっ! 俺、普通にガチで無関係な人間ですしっ!!
「まぁ、ここはいいか。とにかく感謝する。おかげで私は・・・・・・本当に大事なものを、壊さずにすんだ」
そしていいのかよっ! アンタ、何気にヒロさんと同じで図太いなっ!!
≪なるほど、こういう人間が出世するのか。マスター、少し見習え≫
「見習いたくねぇよっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・なんとか、なったな」
「そうね」
勝負はついた。本当に今までが嘘みたいなくらいに呆気無くだよ。
動きを止めた『アイアンサイズ』は、そのまま崩れ落ちて砂になった。
「でもさ、なんて言うか・・・・・・コイツらも、なんかアレよね」
「うぅ、アンジェラこう、胸の辺りがうずうずするのだ」
「二人とも、そこを言うな。コイツら殺したあたしらが言う権利はないよ」
躊躇いも、迷いも抱えながら殺した。今あたしらの目の前にあるのは、二つのヒビが入ったコア。
身体は砂となり、ただそれだけが残った。ただそれだけが、アイツらの墓標。
どんな理由であれ自分から人を捨てた奴は、人らしく死ぬことすら許されないらしい。
あたしは右拳を強く握り締める。・・・・・・あたしは、出来ればそういうのは嫌だな。
「それもそうね。・・・・・・全部は、このコアの中に・・・・・・か」
「そうだな」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「まだよ。もう全ての準備は整っている。サードムーンの力を使えば、この世界そのものが第二のカラバに」
『残念ながら、それは無理だ』
『いわゆる詰み手ってやつですね』
いきなり立ち上がった通信画面の中には・・・・・・え、アンタ、シャーリーと何してんのっ!?
それで普通にシャーリーもVサインとかしなくていいからっ! 僕は色々ビックリなのよっ!!
「維新組の黒い奴っ! あなたどうしてっ!! というか、フィニーノ補佐官もっ!!」
『EMPの危機である以上、俺が動かない道理はあるまい。
・・・・・・アルパトス公女、サードムーンのシステムは俺とフィニーノ補佐官が掌握した』
公女がここに来て、初めて焦燥でその顔を染める。でも、もう遅い。お前にそんな権利はない。
『古き鉄、GPO、本当に感謝する。お前達が前に出て戦ってくれていたおかげで、時間が取れた。
あとフィニーノ補佐官も本当に感謝します。おかげで予定よりずっと早く詰み手を打てた』
『いえいえ。まぁこれを思いっきり動かせないのがちょっと残念ですけど、それでも良かったです』
そしておのれは本気で残念そうな顔やめてっ!? 普通にシリアスな空気をぶち壊してくれるねっ!!
「あの、どういたしまして。・・・・・・・・・・・・で、いいの?」
『問題ない』
シルビィが戸惑い気味に言った言葉にも、あの人は遠慮なくそう言った。そして画面の中から公女を見据える。
『それと公女、あなたがサードムーンを我々に無許可で、それも違法な改造していた証拠も上がっている』
『いや、システムを掌握しようとしてる時に見つけたんですけど・・・・・・おかしいんですよね。どう考えても納得がいかないんです。
どうしてサードムーンの起動にあなたの生体認証が必要なんですか? サードムーンはヴェートル政府・・・・・・EMPの建造物なのに』
「そんなの決まっています。EMP市庁とヴェートル中央政府から献上されたんです」
シャーリーの言葉を公女は鼻で笑って当然という顔で言い切る。で、その間に僕は左手でマジックカードを取り出す。
油断はせずに取り出した三枚のカードの中の回復魔法を発動。蒼い光が僕の身体を包んで、傷と痛みを癒してくれる。
『ほう、カイドウ市長が知らない献上のやり取りがあったと。それは政治的にも非常に大問題だ。
サードムーンの建造には、EMP市庁や中央本部だけが関わってるわけではないと言うのに』
『そしてそのやり取りに親和力なんてとんでもないスキルが絡んでると・・・・・・あれ、おかしいな。
維新組の黒い人、普通にこれは大問題じゃないですか? 色々疑わしくなってくる』
『えぇ、その通りです』
『というか公女、実は今までのやり取り・・・・・・全部モニターさせてもらってたんですよねぇ』
シャーリーが意地悪くそう言うと、公女が眉を潜め・・・・・・って、ちょっと待てっ!!
じゃあ僕が相当苦労してたのも全部見てたのっ!? くそー! それだったら助けろってーのっ!!
『それで改めて見返してる最中なんですけど、おかしいんですよ。
あなたや側近の発言、親和力で次元世界を支配しようとしている風にしか聞こえないんです』
『・・・・・・何にしても、もうあなたはれっきとした犯罪者だ。
大規模騒乱罪と管理局への反逆罪の現行犯で・・・・・・あなたの身柄を拘束させてもらう』
「・・・・・・認めない」
公女は、まだそこから出てこようとしない。首を横に振りながら、まるで子どものように駄々をこねる。
「そんなの、絶対に認めない。私が・・・・・・私が何をしたと言うの? 何も間違った事はしていない。
私の力で誰が泣いたの? 誰も泣いてない。みんな幸せになって笑顔になったわ。それなのにどうして」
「・・・・・・維新組の黒いお兄さん、シャーリー、公女の周りに、相当強力なバリアがあるんですけど」
喚く公女は無視して、僕は画面の中のバイザー姿のお兄さんとシャーリーに話しかける。
『それはシステムとは別系統だな。すまないが、俺やフィニーノ補佐官からの解除は無理だ』
「つまり、破壊するしかないと」
『そうだ』
「・・・・・・了解」
納めたアルトを腰に再び携えて、僕は構える。そして鞘に・・・・・・鞘の中のアルトに星の光が降り注ぐ。
「・・・・・・ふざけないでっ!!」
「アレク、あなた・・・・・・あなたまでどうして? お父様やお母様を殺された恨みを、なぜ晴らそうとしないの。
私達の力ならそれが出来るわ。この世界を第二のカラバにして、永遠に栄えさせる事が出来る。なのにどうして」
「さっきも言ったはずだよっ! そのために傷ついた人が居るっ!! 誰も泣いてないっ!? そんなの嘘だっ!!
姉さんが今居るその狭い世界の中から見て、笑っているように見えるだけだっ! 本当は・・・・・・本当はみんな泣いているっ!!」
降り注ぐ星の光は、僕とリインとアルトに力をくれる。
目の前の・・・・・・目の前の小さく、くだらない世界を叩き壊す力を。
「姉さんは、誰も幸せになんてしていないっ! 人を幸せにするのは、支え合うのは・・・・・・こんな力なんかじゃないっ!!
ただ手を伸ばして、大事な誰かとその手を繋ぎ合うだけでいいっ! それだけで、本当にそれだけでいいんだっ!!」
「・・・・・・黙りなさい。アレク、あなたいつからそんなに偉くなったの?
間違っていない。私は・・・・・・私は間違ってなんていない」
公女から妙なオーラが飛び出る。多分親和力を行使した。でも、それはアレクも同じ。
アレクが視線を鋭くして、同じように力を放出する。そして、何も起きない。
「・・・・・・無駄だよ。もう気づいているはずだよね? 姉さんの親和力は、僕が打ち消している」
シルビィが何かしているのか、銃口から雷撃が撒き散らされてる。でも、アレクはそれにも引かない。
ただひたすらに戦っている。自分が今まで畏怖していたはずの姉と、真っ向から。
「アレク、今更遅いわ。私が間違っていたと言うのならあなたも私と同類・・・・・・いや、同罪よ。
この世界があなたを許すとは思えない。馬鹿な真似は・・・・・・もうおやめなさい」
「そうだね。今更遅いかも知れない。僕は一度逃げてしまったから。
だけど誰かが傷ついたり死んだりするのは・・・・・・もう、沢山なんだ」
チャージは完了。星の光は、鉄の刃を生まれ変わらせた。だから僕は、身体をかがめる。
「アレク、公女を・・・・・・姉さんを、叩き潰すよ」
「・・・・・・はい」
アレクは即答した。迷いも躊躇いもあるのに、それでも。
それがなんだかすこしだけ悲しかった。でも、それを表に出す前にやる事がある。
何かが千切れるような音がする。それは、アレが居る方向から。
そして、その音は弾けるように響いた。それから一瞬の間を置いて、僕の方へ突撃してくる。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
それはオーギュスト。普通に力ずくでバインドを引きちぎったらしい。というか、飛んでる。
飛行魔法によって、無理矢理に動かない身体を動かして僕に向かって迫ってた。
でも飛行魔法に頼ったとは言え、やっぱり平衡感覚がイカレてる。突撃する時に僅かにラグが出来てる。
元々飛行は空間認識能力や平衡感覚に寄る部分が大きい。
そんな状態でマトモな機動なんて出来ない。なお、リミッターは・・・・・・そのままだった。
だから僕は、覚悟を決めた。声を上げながらも対処のためにもう動いてる。
「・・・・・・バカ野郎がっ!!」
僕は一歩後ろに下がって、その突きを避ける。うん、避けられて当然だよ。
まだ身体はふらふら。電撃攻撃のせいでさっきよりもずっと遅いし、殺気とかで攻撃タイミング丸わかりだし。
オーギュストは避けられると同時に床に足を下ろす。そうして無理矢理に機動を停止。
それから乱暴に僕に向かって突きからの波状で右薙にサーベルを打ち込む。
僕は躊躇い無くオーギュストの刃に向かって、抜刀させながらアルトを叩き込んだ。
刃が再び僕達の眼前に晒される。その刃は蒼い星の光で染まり切っていた。
星の光の刃によって、サーベルは両断された。両断されたサーベルの先が、天井に向かって回転しながら飛ぶ。
オーギュストは黒い瞳を見開いてよろめく。その間に僕は、刃を返してオーギュストのがら空きな左脇腹に向かってアルトを叩き込む。
それによりオーギュストの身体の動きが止まった。痛覚は無くても、星の光の刃の圧力によって圧されているようだった。
というか、本当だったら立ち上がれないようなダメージだもの。一発入れれば勝てる。
「アレは・・・・・・集束砲? でも、その程度でこのバリアが砕けるわけが」
知ったこっちゃねぇな。一発でだめなら、普通に何発でもぶち込んでやるだけだし。
とにかく僕は逆時計回りに身体を回転させる。オーギュストの身体は、剣圧に圧されるようにして宙に浮く。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『それはシステムとは別系統だな。すまないが、俺とフィニーノ補佐官からの解除は無理だ』
「つまり、破壊するしかないと」
『そうだ』
「・・・・・・了解」
そう言っている間に、私は準備をしている。多分ヤスフミはアレを使う。
ここは広さもあるし、非殺傷設定であれば公女も殺さずに確保出来る。
「・・・・・・魔力バッテリー、フルドライブ。さぁ、今度こそやるわよ」
私は銃口を前に向ける。そして、私のリボルバーが小さな電気を散らし始めた。
まずは一発。ただし、公女に当たらないように射線軸をずらす。
私の役目は公女を撃つ事じゃない。公女を守るあの障壁を破壊する事。
・・・・・・青い雷撃が銃口の前で一つの形を取る。それは同じ色のスフィア。
魔力バッテリー一本分の魔力を全て消費する大技。てゆうか、銃への負担も大きい。
だからあんまり使いたくないんだけど、そうも言っていられないわよね。
ソフトボールくらいの大きさになったスフィアの向こう、貫くべきバリアを見据える。
「サイコスマッシュ、最大出力」
両手で持ったリボルバーから、雷撃が撒き散らされる。・・・・・これ、レールガンなの。
スフィアはそのための力場になってる。だから、威力も負担も半端ない。
「シュートッ!!」
引き金を引く。銃口から弾丸が飛び出て、正面のスフィアを一気に突っ切る。
弾丸が突っ切ったスフィアと力場のエネルギーは、弾丸に力をくれる。
弾丸はそのエネルギーによって溶けるけど、運動エネルギーだけはちゃんと残る。
銃口から放たれた弾丸の回転エネルギーの影響を受けて、スフィアは螺旋を描く。
そうしてひとすじの閃光となり、衝撃を撒き散らしながらバリアを捉えた。
だから私は襲いかかってきたオーギュストを、斬撃で力任せに持ち上げたあの子に声をかける。
信頼と・・・・・・ちょっとアバンチュールじゃなくなってきた想いも込めて。
「ヤスフミ、今よっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ヤスフミ、今よっ!!」
【「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」】
身体を反時計回りに回しながら、刃から溢れる星の光を振りまきながら、僕は・・・・・・狙いを定めた。
【「さぁっ! お前達の罪を」】
そのまま僕はオーギュストの身体を引き斬るように、その向こうに居る公女を叩き伏せるように、アルトを左薙に振り抜いた。
【「数えろっ!!」】
オーギュストの身体に、蒼い閃光が刻まれる。そしてその次の瞬間、閃光は奔流に変わった。
オーギュストは奔流に飲み込まれながら、ある方向に吹き飛ばされる。
そこは公女と公女を守る金色の障壁。シルビィの射撃を今なお阻んでいる力。
オーギュストを飲み込んだ奔流も、その狭い世界を構築する場に叩きつけられる。・・・・・・全力での二箇所からの圧力。
それに耐え切れていたのはほんの数瞬だった。シルビィの閃光が当たり続けている箇所に、ヒビが入る。
そしてオーギュストをバリアと一緒に挟む形で衝突している、僕達のスターライトの命中箇所にもヒビが入った。
「・・・・・・いや」
首を横に振り、公女はその現実を否定する。そして、頭を抱える。
「いや、いやよ。こんなの・・・・・・いや。私はただ・・・・・・ただ、あの頃を取り戻すために。世界のために」
そんな声を無視して障壁は砕けた。粉々の破片を吹き飛ばしながら、シルビィの射撃が壁を貫く。
「私は間違ってなんてない」
なお、普通に公女からは外してある。さすがにアレを喰らったら、死ぬもの。だから大丈夫。
「私は・・・・・・・私は間違ってなんてないわ」
僕達のスターライトは非殺傷設定だから。・・・・・・公女もオーギュスト同様にスターライトに飲み込まれた。
そのまま吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。そこから蒼い奔流は爆発した。
それが収まると・・・・・・その地点には、ボロボロの公女とオーギュストが倒れていた。
二人とも気を失っているらしく、もう動いていない。なお、オーギュストの肌の色は元に戻っている。
【二人とも生体反応はあります。大丈夫、生きています】
二人とも・・・・・・うん、オーギュストもだよ。どうやら魔力ダメージでノックアウトは出来たらしい。
≪そうでなくては困りますよ。色々喋ってもらわなくちゃなりませんし≫
「ホントだよ」
僕は振り切った刃を下ろして、辺りを警戒。一応は、大丈夫みたい。でも、油断せずにだ。
「ヤスフミ」
声のした方を見ると、シルビィがリボルバーを下ろして・・・・・・一言言ってくれた。
「お疲れ様」
「・・・・・・ううん、大丈夫」
僕は、左手を軽く上げて手を振った。その瞬間、激痛が走った。
「・・・・・・いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「恭文さんっ!?」
「ヤスフミ、一体どうしたのよっ!!」
【恭文さん、一体何してるですかっ!? 普通にヒビが入ってる事、忘れてたですよねっ!!】
≪あなた、絶対バカでしょ。・・・・・・全く。シリアスが長続きしないのは、あなたの方でしょ≫
・・・・・・・・・・・・とにかく、こうしてサードムーンの暴走は鎮圧出来た。
公女とオーギュストは、あの維新組の黒いお兄さんが言うようにあっさり確保された。
というか、逮捕だね。最低でも大規模騒乱罪に接触するのは間違いないから。
親和力のキャンセラーを絶対に外せないように装着させられた上で、これから厳しい取り調べが待っているのは間違いない。
なお・・・・・・この後すぐにやってきたフェイトに涙目で抱きしめられて、地獄の痛みを味わう事になるけど、そこは置いておいて欲しい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・季節はもう11月の後半に入りかけていた。アレから約ひと月。
今回起こった公女のクーデター騒ぎは、まさしく一大スキャンダルに・・・・・・ならなかった。
理由は親和力だ。事件の真相を世間様に知られれば、親和力の事も当然バレる。
そうなると、管理局もEMPDもGPOの某長官ですらも公女の手の平の上で踊らされた事もバレる。
で、当然ながらそれは色々都合が悪くなるので、公表は無しになった。
なので基本公女達王族は本人達の意志で、もう表には出ないと決めた事になっている。
いわゆるアレだよ。『・・・・・・もう疲れてしまいました』ってやつ? カラバの復興とかの志が折れたのよ。
世間ではそれによりまた色々荒れたけど・・・・・・まぁ、ここは察して?
もちろん真実は違う。公女とその従者であるオーギュスト・クロエの裁判は、もう開始されている。
あ、それとそれと・・・・・・ユーノ先生やマリエルさんが頑張って、親和力を完全封印する術式を開発した。
それをかけられた上で二人は裁判を受けている。なお、普通に反省していない。
親和力の影響がもう無いのに、まだ公女は公女気取りらしいし、オーギュストは騎士気取り。
自分は何もしていないし、世界を幸せにしようとしただけだと言い続けている。
そしてオーギュストはあれだけぶちのめしたのに、『公女は間違ってない。自分も間違ってない』の一点張り。
・・・・・・アレだよね、人の心を変えるのは暴力や力じゃだめなのよ。うん、痛感したわ。
これには事件関係者として、巻き込まれるようにこの非公開裁判の弁護を引き受けたフェイトも辟易しているそうだ。
何度話しても、何を言っても、公女には自分の言葉が通用しない。それはオーギュストも同じく。
この調子だとどんなに優秀な弁護人だろうと誰だろうと、弁護はし切れない。つまり公女とオーギュストの有罪は決定。
軌道拘置所で一生臭い飯を食ってもらうことになるらしい。悲しそうに通信越しでそう話していた。
あと、実はアレクなんだけど・・・・・・まだEMPに居る。あ、例の術式をかけてもらった上だね。
アレクの行動が今回の一連の大事件が発覚するきっかけになったので、管理局も逮捕とかはしない。
ただし、多少の監視体制を敷いた上で。あとは定期的な状態報告だね。いわゆる保護プログラムだよ。
その上でなら、アレクは普通に生活を送ってもいいらしい。それで現在は、アンジェラの家で色々考え中。
事後処理に加わった管理局スタッフも、アレクの経緯や現状については同情的になってくれている。
あんまり可哀想な子扱いもまた違う。ただ、それでもあんまりな部分もある。
なのでアレクの気持ちが落ち着くまでは、身近な人間が居るヴェートルの方がいいと判断してくれた。
アレク自身も保護プログラムを完全に受けるかどうかも含めて、かなり考えてる。
というかさ、公女があの調子だったりするので、ヘコんでいるというのもあるのよ。
もちろんアレクも話した。ただ、それでもなのよ。あげく何やら『裏切り者』呼ばわりされたらしい。
・・・・・・まぁ、それはそれとして・・・・・・カラバなんだけど、また色々と荒れている。
新政府のトップであったマクシミリアン・クロエが『変死』して、他のお偉方は慌てている。
ただ、フェイト曰く近々管理局が平和維持のために介入を始めるらしい。まぁ、復興のお手伝い程度にだね。
長い王政の歴史もあるし、いきなりそこを変えたらカラバの人達がついて行けない。
その辺りも鑑みて数年レベルで少しずつ、王政と管理局システムの調和を目指していくとかなんとか。
・・・・・・そう上手くいけばいいけど。これまた、数年後に荒れるんじゃないの? 管理局、強引だし。
あー、それと世界的に及んでいた親和力の影響が無くなって、徐々に世界は平穏を取り戻しつつある。
アレクから聞いて知ってはいたけど、親和力の影響は継続的に受けていないと、薄れてしまう。
そこも公女がメディア出演をしつこく続けていた理由の一つなのよ。
だからこのひと月の間に公女がメディア出演しなくなって、大分親和力の影響が薄れた。
そうとうヒドかったリンディさんも、フェイト所有のイヤリングの強制装着のおかげで元に戻ったしね。
おかげで僕も、クラウディア所属の武装魔導師になんてならずに済んだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・とにかく、フェイトやクロノさんにも改めて謝ってください。てゆうか、なのはにもですよ。
自業自得な部分もありますけど、それでもとんだとばっちりじゃないですか」
『うぅ、分かってるわよ。改めてまた謝罪するつもりだから。あと、あなたの入隊手続きも解除申請中よ』
当然だ。普通にあり得ないし。てゆうか、このままだったら僕は失踪するよ?
『それで一応教導隊の方にもね、今回のことは全部私の不手際だと説明した上で必死に謝罪したんだけど・・・・・・ダメなの』
「そりゃそうでしょ。親和力の事とか話してないんでしょ? というより、話せない」
『えぇ』
親和力の事は機密事項になったから、話せるわけがない。というか、アレだよアレ。
教導隊って基本体育会系なノリが強いから、細かい事情説明無しで納得するわけがない。
「それじゃあダメですよ。親和力って外部要因があってこれなんですし、それだけを言っても筋道が立ってませんよ。
それで納得させるなら、事件のあらまし全部説明しなくてもいいんですよ。なのはが一種の洗脳状態に置かれちゃってたのを立証しないと」
『そうなのよね。ただ、そのためにはどうしても親和力の事を話す必要があるでしょ?』
・・・・・・うん、分かってた。そうならないはずないよね。てゆうか、それ以外にどうやって立証しろと?
『だからと言って、口外厳禁な事を話すわけにもいかないのよ。
今回の事件、局は絶対に表に知られたくないと考えてるから』
「でしょうね」
ここにはもちろん理由がある。これで知られると、局はマジで無能のレッテルを貼られるのよ。
だってヴェートルへの対策もそうだけど、親和力のせいで公女に掌握されかかったんだよ?
次元世界全ての安全と平和を守るための警察機構として、これは汚点ないし失態以外の何物でも無い。
僕の見立てでは、関係各所のプライバシーどうこうでの口外厳禁令じゃないと思う。
管理局という組織のメンツを守るために黙ってろってことだよ。ただ・・・・・・ここも一応納得してる。
管理局が市民から軽くない物を預かる組織だからこそ、こういう処置も必要なのよ。
ナメて見られると、結果他の犯罪者の跳梁跋扈を許す事になるしさ。うん、こういうの大事だからさ。
『とにかくこの辺りは継続してフォローするわ。
あなたに言われるまでもなく、なのはさんには申し訳なさ過ぎるもの。・・・・・・でも恭文君』
「はい?」
『せっかく手続きしたし、このまま局に入っちゃわない? ほら、何事も経験だと思うの。
今回の事であなたも、組織やチームというのも悪くないと言う事に気づいたんじゃないかしら』
・・・・・・この人、もしかしなくても懲りてない? なんでちょっと半笑いでこういう事が言えるのさ。
『今回の事はまぁ・・・・・・色々あった。でも、だからこそ言える。あなたの力は今の局や世界にとって必要なものだわ。
私個人の意見としては、またこんな事が起こる前にあなた自身が局の仕事を通じて、世界の現状を変えるべきだと思う』
「絶対嫌です。大体、局入ったって結局は役立たず状態じゃないですか。
その上どっかのアホ提督はそれだけに飽き足らず、僕達の足を引っ張りまくり」
『そこ言われると弱いけど・・・・・・でもだからこそ、その現状をあなたの手で少しずつ変えていくの。
もっと言えばその手伝いをして欲しいの。私達と一緒に、これからのためにね』
よし、確定だ。この人絶対懲りてない。普通に懲りてないよ。もうここ、確定だし。
それに嫌味無視ってありえないでしょ。少しはダメージ受けろっての。
『そしてそれは決して不可能な事じゃない。その世界の沢山の人があなたを認めたのが、何よりの証拠。
あなた、自分で自覚が無いようだけど・・・・・・あなたの中にはあるのよ?』
懲りてないから、安心させるような笑顔を浮かべながらこの状況でこんな事を言い出すのよ。
『とても大きな事を変えて、未来に繋いでいく力が。それは誰にでも持てる力ではないわ。
そんな力を持つ人間には、背負うべき使命があるわ』
なんかすっごい持ち上げてきたし。てゆうかマジでこの人ベテランの局員? 信じられないし。
いや、ベテランであるがゆえに思考がアレなのかも。それなら納得だ。
『世界のやるせなさと向かい合って、少しずつそれを変えていく事』
うわ、普通にムカつくし。どの辺りがムカつくって、なんか僕だけで現状を変えたみたいな言い方?
『誰にでも持てる力でもないものを持った人間は、それを成さなくてはいけないの。
そして局を・・・・・・世界を管理する組織を変える事は、あなたの守りたいものを結果的に守る道にもなる』
ノセるつもりだと分かっていても、普通に不愉快だ。・・・・・・僕が出来た事なんて、本当にちょっとだけなのに。
『恭文君、お願い。本気で考えて欲しいの。ここから私達と一緒に頑張ってみましょう?』
「絶対に嫌です。てゆうか僕、そんなどこぞの英雄みたいな資質はありませんし。
大体組織に入るなら、局じゃなくてGPOに入りますよ。僕の性に合っていますし」
『・・・・・・それは・・・・・・その』
あ、なんか口ごもった。というかいきなりなんか歯切れ悪くなったな。どういうこと?
『確かにGPOも悪くはないと思うけど、やっぱりこの場合管理局に入って欲しいの。
そちらの方がきっとあなたの能力を活かせるし、私達もフォロー出来る』
あれ、なんか誤魔化した。なんか誤魔化されてる感じがすっごいするんですけど。
「だから嫌ですって。大体、局は僕みたいなマイノリティ魔導師は要らないでしょ」
『・・・・・・確かに一般的な局や魔導師のルールに迎合する事は、辛いかも知れないわ。
止まる言い訳をする事や、今まで培ってきた物を一端仕舞う事は苦痛かも知れない。でもそれでいいの』
わ、なんか更に話逸らしたし。そしてなぜにここまで過剰にしつこいのよ。
『それが正しい大人の選択よ。まずはそこを守った上で、その上でなんとか出来る道を探すことから始める。
そして自分の居場所を作っていく。あなただけじゃない。みんなが通る道なの。私だってそうよ。私だって昔は』
「嫌です。大体、そのルールやらを守ってる方々がことごとく現場で役立たずだったんですよ? 違いますか?
状況だけの話じゃなくて、戦った連中は『魔導師だから』とか『局員だから』じゃ絶対に相手なんて出来なかった」
『それは・・・・・・そうね。アイアンサイズもそうだし、オーギュスト・クロエも同じくみたいだから』
「僕、今回の事で本気で痛感したんです。そんなルールに縛られてるだけじゃあ生き残っていけないって」
アイアンサイズしかり、オーギュストしかり、メルビナさんしかり・・・・・・ことごとくチート揃いだったしなぁ。
『魔導師だから』、『局員だから』・・・・・・そんな言い訳してたら、絶対に戦えなかった。
そして過去の自分に向けて、感謝しちゃったさ。この選択を選んでくれて、貫いてくれてありがとうって。
おかげでほんの少しだけ今を覆せたから。本当に・・・・・・ちょっとだけね。
そのために一緒に戦ったみんなの手伝いというか、一部を受け持つ事が出来たのはマジで嬉しかったっけ。
「だから僕、局員にはならないですし、局の魔導師のルールに合わせるつもりもありません。
そんなの、僕にとっては言い訳ですから。僕は今まで通りに適当にやってきます」
『恭文君、どうして分かってくれないの? 確かにあなたの言いたいことも・・・・・・まぁ分かるわ』
だぁぁぁぁぁぁぁっ! それはこっちのセリフだっつーのっ!! どんだけ物分り悪いっ!?
『でも今のままではダメなの。あなただってこのままじゃあ今回みたいに功績を上げても、結局有耶無耶にされて正当に評価されない。
あなたの今のやり方を、道理を正しいものとして評価してもらうためには、ここから今のルールや認識そのものを変える必要があるの』
「いや、別にいいですし。大体僕、そんな事望んでませんし。
大体僕の道理は僕のもんでしょ。なんでそれで人様動かさなきゃいけないんだか」
『・・・・・・例えそうだとしても、あなたはそうするべきよ。
あなた自身のこれからのためにも、一つの場所を作ってそこから現実に関わるべき』
だから・・・・・・あぁもう、お話出来ないってどういう事? 僕はもう言いたいこと言い切ったんですけど。
『そうすればあなただけじゃなく、結果的に組織や世界全体で同じ過ちは繰り返さない。
でもそのためにはある条件が必要。恭文君・・・・・・不満があるのは分かるけど、一旦それは収めて?』
・・・・・・ウザい。真面目にウザい。あの、この人はどうすればいいの?
『まず今の局の在り方を認めて。今のルールや規則を守った上で理想を通して欲しいの。
それではダメとあなたは言うかも知れないけど、それは違うわ。だってあなたは一人じゃない』
全く・・・・・・僕は局どうこうで動くのは嫌だって言ってるのに。
『私達が居るからルールを破らなくても、『魔導師だから』という枠の中に居ても問題はない。
今回みたいな事がまた起きても、組織を変えていけば次は必ず対処出来ると知って欲しい』
・・・・・・え、本気ですか? この人、絶対反省してないでしょ。そして自分が敵に回ってた事忘れてるし。
『もっと言うと・・・・・・フェイトやなのはさん達を、周りに居る仲間をもっと信じて欲しいの。
みんなとなら新しいルールを、あなたの道理をこの先の世界の基準にする事が出来ると信じて欲しい』
そしてまた免罪符を出して・・・・・・あぁもう、マジで頭痛いし。
『過去に縛られないで、目の前のみんなの言葉と、そんなみんなが信じている局という居場所が変わる可能性を信じて欲しいだけなの。
その上で私達と同じ組織の一員となって、そこからまた始めて・・・・・・みんなと一緒に自分が夢見る理想を形にしていく。それが』
「・・・・・・死ね」
『・・・・・・え?』
「とりあえず・・・・・・アンタは死ね。100回くらい死ななきゃ、そのバカは治らないわ。
そしてアンタに夢や未来を語る資格はない。結局局の中からしか物事を見てないでしょうが」
そのまま遠慮なく通信をたたき切ってやった。・・・・・・あー、言っちゃった。
「とまと始まって以来、極力言わないようにしていたワード、言っちゃった」
≪ま、いいんじゃないですか? さすがにこれはないでしょ≫
「ですです。リインだって局員ですけど、今回はそうとうムカついたですよ。あれくらい言っていいのですー」
「そうだね。・・・・・・あ、なんかまたかかってきたな。よし、とりあえず緊急処置だ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
だから解除した着信拒否状態を再び再開。フェイトがやめてって涙目だけど、別にいいや。
あー、それとなのはは今の回想通りに相当絞られた。クロノさんもそうだけど、教導隊や師匠達からもだよ。
あのバカ、仕事の都合とか完全無視でEMPに飛んできたのよ。おかげで教導隊はてんやわんやだった。
その上ここしばらくのアルパトス公女のあれこれのせいで、相当周りの心証を悪くしていたらしい。
なので事件後、罰として1ヶ月自宅謹慎。で、来年の2月くらいまで教導隊では事務仕事しかさせないとか。
なのはは泣いていたけど・・・・・・ごめん。僕も正直ね、あんまりに不憫だから今回は助けたいのよ。
ただ・・・・・・あの回想の通りだから、僕だけじゃなくてフェイト達にもどうしようも無いわ。
なのはや教導隊のむさいお兄さん方は部外者も同然だから、親和力の事や事件の顛末のアレコレも話せないし
とにかく僕やフェイトにシルビィ達は、全員普通にこれでお咎めとかはなかった。ここはまぁ良かった。
ヒロさんとサリさん、ジンも同じくだね。フェイトやこっち来てた師匠達に気付かれないように逃げたから。、
ここの辺りはランディさんの色々な好意のお陰でもあるのよ。うん、そこは感謝だ。
とにかく僕達に表立っての表彰とかは全く無い。事件自体が、世界の闇の深い部分に隠匿されたから。
ただそれでも、事件の事を知っている一部の人からは『よくやった』と誉められたりした。
当然だけど僕は・・・・・・それを素直に聞く事が出来なかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「クロノさん、リンディさんは親和力解けてないですって。なんですかアレ?
公女の次は局の信仰者みたいになって・・・・・・って、コレは元からか」
『本当にすまない。母さんには僕からしっかりと説教しておく。・・・・・・全く、本当に困ったものだ』
「そう言ってもらえると嬉しいです。でも、アレじゃないですか?
やっぱ局の仕事や立場からしか物事見てないんじゃないですか?」
さすがにあれだけしつこいと言いたくもなるって。
「維新組の総大将のレイカさんが前にですね」
『あぁ』
「フェイトや僕・・・・・・次元世界の人間を『異星人』って言ってましたけど、まさしくそれでしたし。
あれですよ、僕はなぜそう言っていたかを身を持って理解しましたよ。だからお話出来ない」
『そんなことはないと言いたいところだが・・・・・・否定出来んな』
・・・・・・まぁ分かるけどさ。長年局の仕事に関わってきて、新しい世代とやらに期待するのもさ。
フェイトやなのは、はやてを局に誘ったのも、次の世代への布石を揃える意味もあるそうだし。
「・・・・・・ヤバいな。アレを見てるとフェイトは局員続けててどうなんだろうとか、ちょっと心配になる」
『お前もか? 実は僕もだ。特にフェイトはエリオやキャロの事もあるからな。親の影響を受けて連鎖的にだ』
「あー、それもありましたね。・・・・・・一応気をつけておきましょうか。
さすがにあのレベルで局の親和力にやられちゃったら、僕はもうフェイトに恋を出来ません」
『それは困るな。お前が引くようなレベルだと、フェイトは間違いなく結婚出来なくなる。
よし、本気で気をつけておくか。兄としても既婚者としても、一度くらい恋の甘さと苦さを知って欲しい』
まぁそこの辺りで兄弟の意見が一致したところで・・・・・・話を進めていきましょか。
でもクロノさん、エイミィさん以外で甘さと苦さを知ったりしたのかな? もちろん結婚前に。
『それで恭文、今回は本当に感謝している。GPOのメルビナ長官からも聞いたが、大活躍だったそうだな。
僕達局員組が何も出来ない状況で、GPOの方々と一緒によく頑張ってくれた。心から礼を言わせてもらう。・・・・・・ありがとう』
「いや・・・・・・あの、マジで僕は何もしてませんよ? ただ、アレクの気持ちを通す手伝いしただけですし」
あの、普通に最近僕の評価が上がっていて、怖いんですけど。天狗になれないくらいに怖いんですけど。
ほら、なんて言うか・・・・・・アレよ? ガチに『コレ、何かのドッキリなんじゃないの?』と思ってしまう。
『だがお前が火付け役になってGPOのメンバーやフェイトを、果ては維新組まで引っ張ったと聞いているぞ?』
いや、引っ張ってないから。ちょっと待って、これはもしかしなくても二次創作にありがちなアレ?
いわゆる『勘違い物』な流れですか。・・・・・・やばい、この流れを断ち切りたいんですけど。
『アレクシス公子とて同じだ。少しだけお話をさせてもらったが、お前に非常に感謝しているようだ』
それはまぁ・・・・・・本人から言われましたから、知ってますよ。
でも・・・・・・うーん、そうなのかなぁ。戦場にエースもストライカーも、本来なら居ないもの。
なんか僕一人で何とかなったみたいな言い方は、ちょっと違和感がある。
なにより、やっぱり負けた部分が多かったのは・・・・・・事実だもの。正直さ、自信ないわ。
本気でアレクの一番の味方を・・・・・・アレクの騎士を通せたのか、本当にさ。
『お前の優しさと勇気を見て、戦う覚悟を決めたとな。何にしても、お前が全てのキーになったのは間違いない』
「うー、そんな事ないと思うんですけど。僕は今まで通りに、適当に暴れただけですし」
『それがよかったんだろう。トウゴウ先生も、お前と同じようにして・・・・・・今回のような事を繰り返している』
「まぁ、それはそうですけど・・・・・・でも、マジで何もしてないですよ。
うん、僕はヒーローにもなってません。そんなの、やっぱ無理でした」
ただ、やっぱり僕は・・・・・・なぁ。アイアンサイズは結局死亡だし、マクシミリアン・クロエも同じく。
あとはアイアンサイズや公女のバカの犠牲者達だね。色々取りこぼしてるから、素直には笑えない。
『・・・・・・まぁアレだ、お前が素直に今回の一件での僕達の評価を聞けない理由も分かる。
だから・・・・・・こっちに戻ってきたらしばらくは平和を満喫しろ。そして実感しておけ』
「実感?」
『取り零していても、その手で確かに守れたものがある。それはヴェートルだけじゃない。この世界全体で言える事だ。
穏やかな日常を過ごして、ちゃんとそれを確かめろ。そしてそれはお前がまた戦うと言うのなら、絶対に必要な事だ」
戦いは戦いとして、今から日常にしっかり切り替えろと言ってくれている。それは、先生にも教わった事。
それで常に心に言い聞かせている事。どうやら僕は、そこの辺りが今回はちゃんと出来ていないらしい。
「そこからまた、歩き出せばいい。ただ、これだけは覚えておいてくれ。
お前が今まで積み重ねた選択が、心の輝きが、何かが変わるきっかけを作った。それだけは事実だ』
「クロノさん・・・・・・はい。じゃああの、そうしてみます。というか、ありがとうございます」
『いや、問題ない』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それだけがまぁ、色々と救いかな。ただ・・・・・・ただ、なんだよなぁ。
どうしても、どうしても納得出来ない事がある。それも相当にだよ。
「僕、未だに自分が入院状態なのが、全く納得出来ないんですけどっ!?」
現在僕、蒼凪恭文・・・・・・フェイトやみんなのように職場復帰したわけじゃない。
EMPの病院で入院生活送っています。だからベッドの上で入院着を着ていたりします。
原因? あははは、スターライトぶっ放した後を見てもらえれば分かると思うな。
アレでヒビが入ってた腕とかアバラ、折れたの。うん、フェイトは傷害罪だね。
「くそ、その上フェイトに『お詫びしたいなら、チューして。胸揉ませて』って言ってもダメって言われるし」
≪というか、普通にはやてさんやジュンさん達にどつかれましたよね。そこまでかと≫
「まぁそこまでですよね。でも、ようやく退院なのです。うぅ、長かったですねぇ」
部屋の窓から見える夕焼けの空を見ながら、入院生活に付き合ってくれたリインがそう口にする。
うん、もうすぐ退院なの。もうとっくにリハビリも初めてて、かなり回復しているから。
「ヤスフミ、入るわよー」
とか言いながら、ノックも無しで入ってきたのはシルビィ。なんだかんだで、毎日お見舞いに来てくれている。
あ、EMP分署はサードムーンから引っぺがして、修復作業も済んで元の位置に戻った。
ただし、僕の荷物とかリインの荷物とかは非常にひどいことになってたけど。あはははは、泣いていい?
「・・・・・・ヤスフミ、突然泣くのはやめてくれない? というか、どうしたのよ」
「あー、シルビィさん、気にしないでくださいです。恭文さん、時々こうなるですよ」
≪一番遠い関係のはずなのに一番被害が大きいのは、お決まりパターンなんですけどね≫
「そ、そうだったわよね。とにかく・・・・・・失礼するわね」
シルビィは、普通に僕の横のお客様用の軽イスに座る。よくある丸くて緑な座部分に、四足のやつだね。
「もう明後日には退院だったわよね」
「うん。というか、ごめんね。後処理全部任せた上に、お見舞いなんて」
「大丈夫よ。長官とサクヤも戻って来てくれたから。
それにどっちにしても今回の事、報告書を上げる必要もないもの」
シルビィは、言いながら少し悲しげに笑う。・・・・・・真実が隠されるのは、やっぱり複雑らしい。
「EMP分署の立て直しと、表立って出せて処理出来る部分を処理しただけ。
うん、結構GPOは楽だったわよ。上と違って、平穏無事だった」
「そっか。なら、ちょっとは安心」
「ちょっとなんだ」
「まぁ、一応僕のお仕事場だしね。心配ではあった」
そう言うと、シルビィの表情が明るくなった。それで右手を伸ばして撫でてくれる。
それがくすぐったくて、何というか嬉しい。というか、幸せ。
「でもヤスフミ、もうすぐ・・・・・・なのよね」
「うん」
退院したら僕はミッドに戻る。元々今回の事件の対策のために呼ばれたんだもの。
普通にさ、通りすがりなんだよね。そうとは思えないくらいに関わっちゃったけど。
「あー、でもいっその事このままGPOに入っちゃおうかな」
「え?」
「肌に合うのはよく分かった。それで・・・・・・ヴェートルも好きになったから」
この世界は僕の肌に合うみたい。カオスだけどそこがいい。ご飯も美味しいしね。
「それでこの世界がどうなるのかとか、色々見るのも・・・・・・いいかなって」
まぁ、少し暗い空気を吹き飛ばすために、そう言った。シルビィに、暗い顔なんてして欲しくなくて。
窓の外の夕方の街並みを見ながらそう言って、僕はシルビィの方を向いた。
もうその時には明るい表情をしていると思っていた。でも、違った。シルビィは、泣きそうな顔をしていた。
その意味が分からなくて、どうしても分からなくて・・・・・・僕は当然のように聞く。左隣のリインもビックリした顔をしている。
「シルビィ、どうしたの?」
「ヤスフミ・・・・・・ごめん」
「あの、どうして? なんで謝るのさ」
「本当は、もっと早く話さなくちゃいけないと思ってたの。私もそうだし、メルビナ長官やフェイト執務官も。
でも、どうしても言えなかった。ヤスフミのそういう気持ち、私達みんな気づいてたから」
瞳に浮かべた涙が、シルビィの膝に落ちる。その意味が分からなくて、僕はもっと困惑してしまった。
「あの、シルビィ」
「・・・・・・ヤスフミが入院してから少しして、正式に通達があったんだ。
GPO・・・・・・私達のEMP分署、今日から丁度1週間後に無くなるの」
「え?」
「完全な撤退。上の方からの指示で、もう・・・・・・どうしようもないの。ごめん、ヤスフミ。
せっかくヤスフミが『居たい』と思ってくれた場所、もうなくなっちゃうの」
「・・・・・・・・・・・・そんな」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『・・・・・・シルビィから聞いた。フェイト、どういうことかな。ちゃんと説明して』
公女の裁判ももうすぐ終わる。だから私は悲しい結末のために、本局の自分の執務室でシャーリー共々必死に準備している。
もう弁護のしようもないけど、それでも・・・・・・ちゃんとする。そんな時、ヤスフミから通信がかかってきた。
『なーんかリンディさんがGPOの事で歯切れ悪いのとか、やたらと僕を局に入れようとしてたの、ここが理由なんだよね?』
・・・・・・うん、その通りだよ。母さんもね、悪気があったわけじゃないの。
でもヴェートルではもうGPOの居場所は無くて・・・・・・だから、なの。
今の局に色々な問題があるのも分かるけど、もしも何かがやりたい事が出来たなら・・・・・って。
ただ、しつこく誘い過ぎてるとは思うけど。ヤスフミの着信拒否も当然だとちょっと思ってる。
普通に様子見るために聞いてみたら、普通に火が点いちゃったって言うのはダメだよ。
その、確かに私もヤスフミに局に入って欲しいよ? その中で現実と向かい合った形の夢を見つけて欲しい。
でも・・・・・・今すぐは無理だよ。だって今回の事、私達管理局は悪手打ちばかりだから。
『GPOが・・・・・・EMP分署が無くなるって知ってたから』
「ごめん。あの・・・・・・ごめん」
あ、現状説明忘れてた。・・・・・・恭文、ついにGPOのヴェートル撤退の話を聞いたらしい。
私達みんな、いつ話そうと思っていて・・・・・・ここまで話せなかったから。
ヤスフミが本当に楽しそうにみんなやヴェートルの事を話すから、言いにくかった。
ヤスフミがGPOのみんなの事も、ヴェートルという世界の事も好きになったのが伝わったから。
それなのにそこで出来た居場所の一つが無くなるなんて・・・・・・うぅ、すぐに言わなかったのは失敗だったよ。
『謝らなくていい。フェイト、お願いだからちゃんと説明して。僕は全部聞く。黙ってた事もとりあえずはいいのよ。
フェイトが僕の骨をへし折ってくれたのにチューもバストタッチも許してくれない事も、今この瞬間だけはいい』
そこまだこだわってたのっ!? あの、骨を折ったのは悪かったと思うけど、それはダメなのっ!!
私達は姉弟で・・・・・・その、チューとかもだめなんだからっ! バストタッチも禁止っ!!
『僕はちゃんとホントの事が知りたいの。だから教えて。その上でチューとバストタッチは要求するから』
「だからだめー! そ、そういうのは好きな子とするんだよっ!?」
『・・・・・・なるほど。フェイトは僕の事が嫌いなんだね。僕はフェイトの事が好きなのに』
うー、またそうやって私をからかうっ! ヤスフミはシルビィさんと仲良しなんだし、その手には乗らないよっ!?
そうだよそうだよっ! あとはすずかとか美由希さんとかシャマルさんとかリインとか・・・・・・絶対違うよねっ!!
「違うよっ! 私はヤスフミの事は大好きだよっ!? でもその・・・・・・私達は姉弟なんだからっ!!」
『大丈夫だよ。血も戸籍も繋がってないんだし、何よりそれなら『姉と弟の禁断の愛プレイ』という形で考えれば』
禁断の愛ってなにっ!? プレイって何かなっ! というか、シリアス顔でサラっとそういう事を言わないでっ!!
『あぁ、やっぱりフェイトは僕の事嫌いなんだ。『死ねや虫けら野郎が』とか思ってるんだ』
「思ってないからー! というか、それってシルビィさんとするんじゃないのっ!?」
『するわけないでしょ。ここからマジでお付き合いするつもりじゃなきゃ、しないよ』
・・・・・・よし、話を戻そう。とにかくこれ以上はだめ。その・・・・・・私達は姉弟なんだから。
姉弟でそういう事はしちゃだめなんだよ? うん、絶対ダメなんだから。
別にヤスフミの事嫌いじゃない。むしろ・・・・・・好き、だよ? 私にとっては大事な繋がりなんだから。
人より低い背も気にならないし、柔らかくて艶々の髪や丸みのある黒の瞳も可愛いと思う。
よく『女の子っぽい』って言って気にしてるけど、そんな事ないよ。ヤスフミは充分男の子だと思う。
『・・・・・・あれ、フェイト? なんで急に顔が蕩けるのさ』
抱きしめると温かくて、湯たんぽみたいで・・・・・・そうしてるだけで幸せな気持ちになるんだ。
ずっと・・・・・・ずっとそうしていたくなる。あ、もちろんそんな事しないよ?
お姉ちゃんである私がそんなにくっついてたら、ヤスフミの恋愛の邪魔になっちゃうもの。
シャマルさんもそうだしすずかや美由希さん、シルビィさんみたいな人も居るから邪魔したくない。
「とにかく話を戻すけど・・・・・・まず、表立っての理由はヴェートルでのテストの終了」
『・・・・・・逃げた。てゆうかさっきの幸せそうな表情はいったい』
「逃げてないからっ! あと、幸せそうってなにっ!? 私は普通だったよっ!!
・・・・・・ヤスフミも知っていると思うけど、EMPでの三すくみの治安維持は本来実験的なものだから」
もちろん現実は三すくみじゃない。あの世界では管理局は役立たずも同然だった。
管理世界の在り方が当然だと思っていた私はすごくショックで・・・・・・だけど、事実で。
「公女の事件の影響は、本当に大きいものなんだ。そのために新体制が必要だと判断した」
『それがGPOの撤退?』
「うん。元々のGPOの役割は前に話した通り。もうその役目は終わったと判断した。・・・・・・でも、実際は違う」
『この間の一件で、また手柄を立てたGPOが邪魔になったんだね?
だから管理局は、ヴェートルから邪魔なGPOを撤退させる事にした』
ヤスフミはすぐに分かってくれたのか、苦い顔でそう言った。だから私は・・・・・・頷いた。
そしてここには一つの思惑がある。GPOを局は一種の敵対勢力と判断した。
ようするにGPOという存在が居なければ、ヴェートル中央本部はここまで叩かれなかった。
GPOという存在が居なければ、市民は慣例通りに中央本部・・・・・・局に全てを預けてくれた。
だから、ここからGPOを追い出して巻き返しを図る・・・・・・という思惑があるらしい。
本当に勝手だよ。むしろその逆なのに。GPOの存在があったから、私達は異星人じゃないって伝えられた。
ヴェートルの人達に同じ世界に住む、同じ人間だって伝えていけたのに。
「ただ、GPO自体が解散になるわけじゃないんだ。シルビィさんから聞いてるだろうけど」
『聞いてないよ』
「え?」
『シルビィ、泣き崩れてただ謝るだけだったの。だから、フェイトに通信かけた。
今はリインがついてる。・・・・・・シルビィ、この世界が好きだしさ。僕以上にショックなんだよ』
・・・・・・そう言えば、私も聞いた。ご両親がまだ管理認定される前のヴェートルで出会ったって。
それでGPOの駐屯地がヴェートルだって聞いて、長官の誘いを受けてGPOに入ったとか。
『なんかそれ見たら、黙ってた事をどうこう言う気が失せた。多分他のみんなも同じ状態だろうしさ。
てーかさ、僕よりもみんなの方が絶対ショックだって。僕がどうこう言うのもアレでしょ』
「・・・・・・そっか。納得したよ」
確かに・・・・・・ショックかも。今まで頑張ってきたのに、切り捨てられるのも同然だから。
『それでフェイト、GPOが無くなるわけじゃないって、どういう事?』
「まず本当は規模の縮小や解体という話もあったんだけど、それは無しになった」
でも、それは目の前の画面に映る男の子だって同じ。だってもう、ヤスフミはGPOのメンバーなんだから。
少しだけ、本当に少しだけかも知れないけど・・・・・・慰めになるように、優しく言葉を続ける。
「元々は局の傘下の組織でもなくて、聖王教会のような別組織だもの。
事件自体も非公開になったし、別段違法活動したわけじゃないのにそれは無理」
『まぁ分署で突撃も・・・・・・サードムーン侵攻阻止って名目で通ってるみたいだしなぁ』
「うん。実際公女がサードムーンを動かした事で、周辺の建物にも被害が出ちゃってるしね」
それに局上層部の一員である母さんや、中央本部が親和力の影響下に置かれて支配された事。
ここもこの判断の大きな要因になっている。局はこれで今回の件の落ち度を更に増やした。
そこをGPOの上層部にツツかれたらしい。自分達の落ち度も認めずに、現場の人間を切り捨てるのかと。
そうしてGPOの存続と規模の維持を認めさせた。相当強引な手を使ったと聞いている。
一部の上層部の人間は苦い顔をしているとクロノは言ってたけど、それでも言う事を聞くしかなかった。
結果的に局はGPOという組織に、とても大きな借りを作ってしまったから。
局は、世界は・・・・・・GPOに救われた。GPOが居なかったら、公女の次元世界征服を許していた。
それが局がGPOという組織に作った借り。ううん、負い目って言った方がいいのかな。
管理局は表立ってGPOをいたずらに貶めたりなんて、もう出来ない。少なくとも上の人間はそうだよ。
そんな事をすれば、どんな手痛いしっぺ返しが襲ってくるか分からないもの。
それになにより、GPOという組織の有効性と実績は絶対に無視なんて出来ない。
さっき私が言ったみたいな意見も出てるんだけど、それが全部じゃない。
それに今回の一件で市井の方々にも名前が広く知れ渡ってるしね。
ここでGPOそのものを解体したら・・・・・・市民がどう思うかは、言うまでもないと思う。
「だからヴェートルのような管理世界に認定されて間もない世界にまた分署を建てて、そこで同じように活動するんだって。
この4年間のアレコレで、GPOが必要なのは既に証明済みだから・・・・・・うん、多分これからも解体とかは無いんじゃないかな」
『・・・・・・そうなんだ。なら、よかった』
「そうだね。あ、それとね、まだ報告があるの」
『何?』
まだ極秘裏ではあるし、私自身もショックではあった。ただそれでも・・・・・・ヤスフミには、知る権利がある。
「これはクロノから聞いた極秘情報なんだ。だから、まだ他の人に言わないようにね。
管理局・・・・・ヴェートル中央本部は、EMPからの完全撤退を視野に入れ始めているの」
『えぇっ!? それ、どういうことっ!!』
というか、きっと知らなきゃいけない。今の現状を知って、キチンと受け止める必要がある。
ヤスフミはどんな形であれ、何かが変わるきっかけの一つになったんだから。
(Report15へ続く)
あとがき
あむ「・・・・・・というわけで、日奈森あむです。てゆうか本日のあとがきです」
恭文「蒼凪恭文です。・・・・・・え、なんでそんなテンション低いの? ほら、声がダウナーだし」
あむ「いや、だってありえないじゃんっ! なんでGPO撤退とかしなきゃいけないのっ!?
てゆうかムカつくしっ! 普通にGPOのみんなが世界救ったのにこれはないよねっ!!」
恭文「・・・・・・劇中で説明した通りだよ。ただ、ここには最後に飛び出した爆弾も関連してくる」
(なお、そこは次回・・・・・・最終回冒頭で詳しくやります。というか、この続きですな)
恭文「ちなみに、ゲームでもこんな感じだから。まぁゲームだとGPOは外部組織じゃないけどね」
(ゲームだとGPOは管理局で言うところの中央本部的な立ち位置だったりします)
あむ「でも・・・・・・うー、やっぱりあたし納得出来ないー! だってこれだけじゃないんだよっ!?
4年とかそれくらいの間一生懸命頑張って来たシルビィさん達を邪魔者扱いなんてさっ!!」
恭文「あむ、前に歌唄が言ってたでしょ。世の中ってそういうもんだって。
強い権力を持った人間には、同じくらい権力を持ってるかアウトコースで潰すかしないとダメなのよ」
あむ「それでもムカつくしっ! てか、なんでアンタは・・・・・・ごめん」
恭文「え、なんかすっごいすぐに謝ってきたっ!? てかどうしたっ!!」
あむ「・・・・・・いや、アンタだって悔しいんだろうなって思って。ちょっと八つ当たりしかけたし」
恭文「・・・・・・まぁ悔しかったね。だから組織なんて嫌いだもの。上がバカだと、下が割りを食うだけだし。
まぁ僕はいいんだよ。シルビィ達の方がずっと辛いんだし、重要なのはそっちでしょ」
(蒼い古き鉄、あっさりそう言う。でも、表情は苦目)
あむ「・・・・・・意地っ張り。素直に『悔しい』とか言えばいいじゃん」
恭文「うっさい。外キャラクイーンなあむに言われたくないし。・・・・・・というわけで、次回最終回だよ。
結局事件の事は極秘事項になって、だけど世間は静かになって・・・・・・そしてお別れタイム」
あむ「なんだかんだで15話とかいっちゃったこのお話も、ついに終わりかぁ。
なんか感慨深いなぁ。というかさ、今思い出したんだけど・・・・・・どうすんの?」
恭文「何が?」
あむ「いや、アンタとシルビィさんのIFだよ」
恭文「大丈夫。そこももう構想は済んで大半書き終わってるから。そこもまた次回にだね」
(そう、このクロス話はシルビィルートに最後分岐する可能性もあったりしたのだ)
恭文「というわけで、本日はここまで。次回がメルとま最終回でどっきどきな蒼凪恭文と」
あむ「やっぱり釈然としない日奈森あむでした。でも、マジでシルビィさんルートどうなんだろ」
恭文「えっとね、あむがキラキラのラブマジック使って分岐するって」
あむ「嘘つけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
恭文「うん、さすがに無いよねー」
(さすがにそれはないだろうと思う二人だった。というか、あったらびっくりだ。
本日のED:GRANRODEO『Once&Forever』)
はやて「・・・・・・まずいなぁ。そろそろ恭文に言わんとマジでアレやで?」
師匠「そうなんだよなぁ。でもアイツ・・・・・・あぁ、やっぱ言いにくいよな。
せっかく『ここに居たい』って場所が出来たのに、それが無くなっちまうなんてよ」
シャマル「というか普通にひどいですよ。GPOは次元世界や管理局を救った英雄も同然なのに」
シグナム「一応我々やテスタロッサも居たが、結局前に出たあの方々のフォローだけで終わったしな。
しかし・・・・・・本当に上の方はどうかしてるぞ。そんな方々をまだ問題も多いあの世界から追放など」
はやて「そやからよ。これ以上GPOに出しゃばられたくないんやろ。ヴェートルは特に軋轢があるしなぁ」
ザフィーラ「GPOは半民間の外部組織。局の系列組織でもなんでもない連中に好き勝手されるのは面白くないと」
はやて「そやから現地に居たうちやフェイトちゃん達が、主だって公女捕まえたりアイアンサイズ止めた言う話になっとるし。
組織のメンツのためには仕方ないとリンディさんに言われて・・・・・・あー! やっぱり納得出来んっ!! マジでムカつくっ!!」
ザフィーラ「それに連なる形で蒼凪がオーギュスト・クロエや公女を捕縛した事も、全て記録に残りません。
もちろんGPOの面々のあれこれもです。局は威信回復のために、今回の件で起きた全ての功績をGPOや蒼凪から奪い去った」
シャマル「本当にひどい話よ。恭文くんとリインちゃんだって・・・・・・あんなにボロボロになって頑張ったのに」
師匠「はやて、アタシマジでバカ弟子やあの人達に申し訳ないよ。
アタシら全員、良いように使われただけだったのに、それなのにこんなの・・・・・・ないよ」
はやて「そりゃうちもやて。・・・・・・マクガーレン長官やランディさんにまたお詫びしとこうか。
あとは恭文やな。こっち戻ってきたら・・・・・・うん、美味しいもん奢ったろうか。せめてものお詫びにな」
師匠「・・・・・・うん」
(おしまい)
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