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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Report13 『unripe hero 中編』



恭文「前回のあらすじ。最終決戦地となったサードムーンにゲーム通りに乗り込んだ僕達。
そしてゲーム通りなパワーアップ形態であるスーパーサクヤさんになったサクヤさんを一蹴」

シルビィ「そうなのよね。何気にサードムーンに突っ込むのもサクヤのスーパーモードもゲーム通りなのよね」

恭文「メルティランサー、普通にチート揃いだよね。あのさ、僕とか魔王とかはまだチートじゃなかったんだよ。
チートって言うのは、ダンちゃんとかキューちゃんとか公女とかメルビナさんみたいなのを言うんだよ。僕達甘かったって」

シルビィ「確かにそうなのよねぇ。それに比べたら全然ヤスフミなんて最強じゃないわよね。
二次創作であるようなSSSとか超絶レアスキルとかあるわけじゃないもの」

恭文「だねー。・・・・・・というわけで、そんな超絶レアスキルを持った軍団との戦いです。
なお、話の都合上『もうこれは初っ端から大火力でやるしかないんじゃね?』という方々も居ます」

シルビィ「居るわよね。・・・・・・まぁ、なぜこんな話をしたかは察して? とにかくメルティランサークロスの第13話、始まります」

恭文「どうぞー」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・なのはの放ったアクセルシューターが、私に襲ってくる。





まずは射撃の撃ち落とし。私はプラズマランサーを生成して。










「・・・・・・・・・・・・ブリューナクッ!!」



声と共に放たれるのは、白い砲撃。それがなのはを狙って飛ぶ。なのはは上に飛んで、それを回避。

ううん、それと同時に・・・・・・空が幾何学色になる。これ、もしかしなくても閉鎖結界?



「鋼の軛っ!!」



私の目の前に現れた影は左手をかざし、手の平に白いベルカ式魔法陣を出す。

そこから生まれた白い刃は、空間を薙ぎながらもなのはのシューターを全て撃墜した。



「・・・・・・ふぅ、なんとか間に合ったなぁ」

「テスタロッサ、遅くなったな」



私の目の前に居たのは、青いジャケットを見に纏って、私より背の高い犬耳の男性。

それに・・・・・・後ろから飛んで来たのは、白い騎士服に剣十字の杖を持った女の子。



「ザフィーラっ!? それに・・・・・・はやてっ! あの、どうしてここにっ!!」

「どうしたもこうしたもないよ。うちの子達経由でリンディさんがバカやりまくった近況を聞いてな」

「我らもそうだがランドルフ捜査官も、急ぎ駆けつけてきたんだ。捜査官はサードムーンに乗り込んでいる」

「うちら『魔導師』が向こう行っても役立たずっぽいしなぁ。こっちはこっちで後ろ守ろういうわけや」



シグナム達から・・・・・・ごめん、助かったよ。

というか、二人とも無事でよかった。カラバの状態、きっと良くないはずだから。



「・・・・・・はやてちゃん、ザフィーラさん、どうして邪魔するのかな。
私はただ、フェイトちゃんとお話したいだけなのに」

「攻撃行動はお話ちゃうって、えぇ加減気づかんか? てか、どうしたもこうしたもないよ。
なのはちゃん、アンタ・・・・・・ナチュラルに魔王やんか」



なのはの右眉がぴくりと動く。どうやら、魔王と言われるのが嫌なのは変わらないらしい。



「その上リンディさん共々、うちの子達まで巻き込んでくれようとしたらしいなぁ。全く、止めるの大変やったで」

「アイツら全員、公女の信仰者になりかけていたしな。主が事情を説明して、ようやく納得してくれた」



あ、だからシグナム達はなのはの増援に来なかったんだ。それは・・・・・・かなり助かったかも。



”あ、シグナム達も来とるんよ。それで中央本部やEMPDの方と協力して、混乱しとる市民対策してもろうとる”

”そうなのっ!? ・・・・・・でもはやて、それだとサードムーンは”

”市民の方はともかく、サードムーンは無駄やろうな。
中央本部はちょお話した印象やけど、上はすっかり公女の信仰者や。それにうちらも”



はやてとザフィーラ、それに私は見る。親和力のせいで、色々なリミッターが切れているなのはを。



”救援行けるかどうかは、微妙やな。これは周辺被害が出ないように言う事で、納得させられそうやけど”

”だがシグナム達が主やクロノ提督の代理として権限を行使して止めてくれているおかげで、中央本部から背中を撃たれる心配はない。
・・・・・・しかし今回、我ら局の人間は本当に何も出来てないな。結局GPOとEMPD、それに蒼凪達任せだ”

”・・・・・・そうだね”



本当に何も出来てない。結局今だって私は、なのはを止める事に終始しているもの。

世界を守るはずの管理局は、本当に『何もしない』事を貫き続けた。それは私も同じ。きっと今も変わらない。



”でも、それでも・・・・・・出来る事はあるから”





でも、そんなのは嫌だから・・・・・・今私がやりたい事を、ただの私としてやる。

それはヤスフミの背中を守る事。それだけは出来る。

振り切られた私は、振り切られたなりの戦いをするだけなんだから。



決意を新たに、私はバルディッシュを強く握り締める。



その間にもはやてはなのはにケンカを売り続けていた。





「とにかく、アンタにGPOや恭文の邪魔・・・・・・させるわけにはあかんな」

「はやてちゃん、どうして分からないの? アルパトス公女のお心が。
恭文君とフェイトちゃん達は、あの人達に利用されてるのに」

「バカちゃうんか?」



はやてはなのはの言葉に鼻で笑った。鼻で笑って・・・・・・右手に持った剣十字を突きつけた。



「フェイトちゃんはともかく」



う、ちょっと突き刺さります。私もなのはだったりテレビの影響で、公女素敵だなとかかなり思ってたし。



「あの性悪と強情が、利用なんざされるわけないやろ。・・・・・・アイツは鉄や。
鉄は世界の理念や常識、甘ったるい親和なんぞに縛られる程、うちらほど・・・・・・弱くないよ」

「そしてだからこそ、蒼凪は切り札になれる。今この状況がそれだ」



・・・・・・そうだった。ヤスフミはこの状況で、本当にそうなってる。少なくともヤスフミの影響で、公子は変わった。

この1週間で更に表情豊かになったし、明るくもなった。ヤスフミという輝きが、公子の心を強くしたんだ。



「高町、よく思い出せ。お前もまた我らと同じく蒼凪の強さに、その輝きに惹かれた者のはずだ」



ザフィーラが両拳を構えてなのはに言葉を続ける。なのはは・・・・・・ただ冷たく、私達を見下ろしていた。



「もしお前がGPOの面々と共に居る蒼凪を見たなら、その姿を思い出せ。
・・・・・・アイツは本当に利用されていたのか? そんなハズはなかろう」

「もしくはアイツが無理矢理洗脳されとるとか思うとるなら、勘違いもいいとこや。
それだけはないって、現地妻1号のお墨付きや」



お墨付き・・・・・・あ、もしかしてはやてとザフィーラも修羅モードの詳細を聞いてるの?



「あぁもう、みんなうるさいなぁ」



なのははレイジングハートを構える。構えて・・・・・・苛立げに前面に魔力スフィアを形成。



「どうでもいいよ、そんな事。私はアルパトス公女のために、世界のためにここに来た。
問答無用であの人達を叩き潰すんだから。どうでもいいから、そこを早くどいて」

「・・・・・・お話は無理そうやな。ならザフィーラ、フェイトちゃん」

「は。・・・・・・高町、お前を叩き潰す」

「なのは・・・・・・ホントは、戦いたくない」



言いながら、気持ちをまた固めるようにしてバルディッシュを右薙に振るう。



「でも今のヤスフミの邪魔をするなら、私は絶対に許さない。
何があろうと全力で止める。・・・・・・行くよ、バルディッシュ」

≪Yes Sir≫




















『とまとシリーズ』×『メルティランサー THE 3rd PLANET』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と祝福の風の銀河に吼えまくった日々


Report13 『unripe hero 中編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「シグナム、シャマル、そっちはどうだ?」

「だめだ。下はともかく、上の連中は全く話にならん。
下手をすればサードムーンに乗り込んだ連中全員に、逮捕状を出しかねん」

「もう目がおかしいわよ。明らかに公女を信仰対象として見て、絶対としている。
というか・・・・・・私達もちょっと前まではあの状態だったのよね」

「そうだな。・・・・・・くそ、我ながら不覚を取った。
傍から見れば明らかにおかしかったはずなのに、なぜ気付かなかったんだ」

「しゃあないだろ。あんまりにチート過ぎるし、影響も緩やかだったんだ。簡単には気づかねぇよ」



アタシ達全員、はやてとランディさんから話聞いても最初は信じなかったくらいだしよ。

つーか、ここの中央本部はどうなってんだ? 完全に機能が麻痺してやがるし。



「でもよ、それでもこの中央本部のアレコレはおかしいだろ。シグナム、こんなのミッドで考えられるか?」

「考えられるわけがないだろう。他の管理世界も同様だ。
ヴェートルが特殊過ぎると言えばそれまでだが、これはありえん」

「特にミッドは、レジアス中将がしっかりと手綱を握ってるものね」



あー、あの髭面のおっちゃんか。まぁ悪い噂も多いけど、権力者ってそういうもんだしなぁ。

リンディ提督やクロノだって相当黒いこと言われてるぞ? どれもこれもガセだけど。



「こうなってくると、サードムーンに乗り込んだGPOと恭文くん達に期待するしかないかしら。
公女と関係者を吐かせて、何をしようとしてたかを喋らせればそれで詰みよ」

「現に心強い証言者も居る。簡単には言い逃れも出来まい。・・・・・・ヴィータ」

「アタシに行けとか言うのは無しだぞ? 大丈夫だよ、バカ弟子もそうだしリインだって負けねぇよ。
てーか、こんなんで負けるような適当な鍛え方、アタシはした覚えねーし」

「・・・・・・そうか」










・・・・・・とは言え、今回は親和力も含めて色々チート要因絡んでるしな。心配ではある。

ま、大丈夫か。アイツはアタシとじーちゃんの弟子であり、古き鉄だもんな。

アルパトス公女、アンタ・・・・・・よりにもよって一番敵に回しちゃいけない奴、敵にしたんだぜ?





そこの辺りをしっかりと叩き込まれて普通に更生してくれると、アタシも普通に嬉しい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・サクヤに任せておけば、アイツらは止められるだろう。

スーパーモードのサクヤの能力は相当だ。普通なら勝てるわけがない。

この私が出るのも良かったんだが・・・・・・その前にやる事がある。





ここはサードムーンの中腹。丁度アイツらが突入したのとは反対側。










「お前達、そろそろ出て来い。居るのは分かっているぞ」



声をかけると、曲がり角から出てきた影が四つ。二つは見覚えがある。

二つは・・・・・・まぁ、聞き覚えがある。三つ目は、全く知らないが。



「クロスフォード、やはり来たか」

「へぇ、分かってたみたいな言い方じゃないのさ」

「当然だ。お前は公女の崇高なお心を理解出来るほど、頭が良くないからな」

「なんか平然とバカにしてくれるねっ! 私はすっごいムカつくんだけどっ!?」



まぁ、ここは無視だ。あともう一人・・・・・・そっちにも話を聞いておこう。



「ランディ、お前もなぜここに居る。私はお前にカラバのクーデター派の調査を頼んだはずだが」

「メルビナ長官、申し訳ありません。ですが調査した結果、アルパトス公女の行動は容認出来ないと判断しました」

「で、丁度ここに乗り込んで来てた所で俺らと鉢合わせして・・・・・・このままってわけですよ」



そう補足を入れたのは、十字槍を持った男。聞き覚えのある方だな。



「・・・・・・なるほど。貴公がカタストロフ・ドッグか。
だったら脳筋なヒロリスと違って分かるはずだ。アルパトス公女は素晴らしい方だ」

「アンタまだ言うかっ!!」

「ヒロが脳筋ってのは否定しないが・・・・・・公女に関しては完全に意見が違うようだな」



言いながらも男は、腰を落として槍を構える。



「ちょっとサリっ! 私の事も否定しろー!!」

「悪いが俺にはアンタのようには思えない。これでもちょい女の好みはうるさいんだ」



人が10人程なら並んで歩けるこの通路内なら、槍は・・・・・・平然と使えるな。



「確かに将来が楽しみではあるが、やり口が悪の首領過ぎる。俺の趣味じゃねぇよ。
俺はもうちょい歯ごたえがあって、まっすぐにぶつかってくる一途な子の方が・・・・・・好みだ」

「そして無視っ!? ・・・・・・・あぁもういいよっ!!
とにかくメルビナ、長い付き合いだったら知ってるはずだよ?」



ヒロリスの両手中指の指輪が変化する。そこから出てきたのは・・・・・・片刃の双剣。

それを右手に持ち、左手はフィンガーガード付きのリボルバー式の銃。



「私が・・・・・・いや、ヘイハチ一門が相当なバカ野郎揃いってことをさ」



そうだな、知っている。お前はいつもバカだった。本当にビックリするくらいだ。



「私らを突き動かすのは、人から与えられる親和じゃない。自分の小さな胸の中にある、古ぼけたプライドだけさ」



そしてそんなお前を見習う形で、私は今の立場に納まっている。だからこそ・・・・・・分かっていた。

お前はきっと、公女のお心を否定し縛られない生き方を選ぶとな。



≪わりーな。俺も姉御も、サリも金剛も・・・・・・稀代の大馬鹿なんだよ。
そして、ボーイもねーちゃんはとびっきりだ。メルビナのねーちゃん、公女は二人に負けるぜ≫

「ふ、やけに自信があるな。公女の側に居るオーギュスト殿は、私やヒロリスレベルの強者だが」

≪それでも今のボーイとねーちゃんには勝てねぇよ≫



アメイジアの言葉は、全員の総意らしい。誰一人として、揺らがずに私と対峙する。



≪・・・・・・とっとと目ぇ覚ませよ。今のアンタ、すげーカッコ悪いぜ?≫





そんな言葉を鼻で笑って、私は気持ちを固める。



どうやら、ヒロリス以外の連中にも親和の心は通用しないらしい。



そして私が蒼凪に負ける? 全く、低く見られたものだ。





「・・・・・・ナメるなよ、貴様ら」



とにかく私はジャケットをセットアップ。そしてレイピアを構えた。



「フォースフィールド、オープン」



そして、紫の球体が私を包む。その球体はすぐに目に見えなくなる。

これが私のレアスキル絶対領域フォースフィールド。この盾、簡単には破れんぞ。



「このメルビナ、公女をお守りするためにこの身を賭けると心に決めた。
・・・・・・来い。お前達全員に、格の違いというものを叩き込んでやる」

≪ねーちゃん、いきなり全開かよ。・・・・・・まぁいいか。サリ、ジン坊、ブロンドボーイ≫

「あぁ」

「分かってますよ」

「はい」










見知らぬ顔の奴はランチャー・・・・・・射撃型か? ふ、面白い。





全員纏めて相手になってやる。そして、アルパトス公女の邪魔は絶対にさせん。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ジン、予定通りだぞ。あと・・・・・・やっさんやGPOはともかく、こっち来てるハラオウン執務官や八神二佐達に気付かれないように」



なぁ神様、俺なんでこんなとこ居るの? で、なんでこんな世界の危機に関わってんの?

普通におかしいだろ。ナチュラルにおかしいだろ。俺、ホントだったら休日のはずなのに。



≪我らが動いているのは、あくまでも極秘裏です。バレると色々とうるさいですから≫



サリさんが構えた金剛に言われるまでもない。俺だって、厄介ごとはゴメンだ。

もっと言うと、今の現状がゴメンだよ。マジで色々おかしいだろ。



「ちくしょー! マジ恨みますよっ!? 俺をこんなとんでも話に巻き込んでくれてっ!!
てーか、ヤスフミの奴何してんだっ! ナチュラルにこんな事に関わってんじゃねぇよっ!!」





全部聞いたさ。ヒロさんに頼み込まれたし、そりゃあ覚悟決めて引き受けたさ。

それでも納得が行かない部分がある。それはな、アイツがナチュラルに巻き込まれてる事だよ。

てーか、なんだよ親和力ってっ! チート能力にも程があんだろっ!!



そりゃあ『最近世間では公女持ち上げ過ぎてて、逆に気持ち悪いなー』とか思ってたさっ! あぁ、さりげに気になってたぜっ!?



でも、普通にあり得ないだろっ! ガチで世界の危機じゃねぇかよっ!! 俺、何時からこんなのに関わるキャラになったっ!?





≪マスター、今更だ。というより、集中しろ。このような大物、滅多に関われるものではないぞ≫

「・・・・・・確かにな」



ヒロさん張りの剣技に、絶対領域の名を冠す最強の盾。確かに簡単にはお目にかかれない。

全く・・・・・・よし、ヒロさん達とヤスフミに肉たかってやる。それも高級ステーキだ。



「バルゴラ、ヤスフミにメールで事情説明しといてくれ。で、すっげー美味しいステーキ食べさせろってな」

≪了解した。では、行こうか≫

「おうよ」










俺はヒロさんとサリさんに続くように踏み込んだ。何にしても・・・・・・集中しろよ、俺。





出来なきゃ、普通に負けるし壊される。ここは世界を救う主人公キャラとして、頑張るさ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



数メートル開いていた距離が一気に縮まり、あたしに向かって拳が振るわれる。

左右交互に前進しながら打ち込まれるそれを、あたしは下がりつつ身を捻って避け続ける。

・・・・・・親和力で支配された影響か? 動きが以前より鈍い。





まぁアレだよ、何回も命のやり取りしてるしな。強さもそうだし、コイツらの意志ってのも伝わる。

だから分かる。コイツら・・・・・・なんかおかしい。公女を守るためにあたしらに攻撃してるのは分かるけど、なんか違う。

・・・・・・拳に神経がいっている所に、いきなり右足での蹴り上げが来た。あたしはすぐにそれに対処。





床を蹴るようにして一気に距離を取って、キュベレイの蹴りを回避。そしてその蹴りは一気に上から打ち込まれた。





いわゆるかかと落としの体勢だ。それにより床が轟音を立てて砕ける。足がまた動く前にあたしは踏み込む。










「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





右拳を握り締め、気合いを入れてキュベレイに向かって拳を真正面から叩き込んだ。いわゆる全力なストレート。

キュベレイは両腕を交差させてそれをガード。胸元に打ち込まれた拳をそうやって防いだ。

やけに生々しい音が響き、衝撃が爆ぜる。でも・・・・・・届かない。くそ、やっぱりこのパターンかよ。



やっぱ恭文があの時したみたいに、内部浸透系の衝撃を同時に二つ叩き込むとかそういうのじゃないとダメか。





「・・・・・・邪魔だよっ!!」





キュベレイが、両腕を開くようにして腕を弾く。でも、その前にあたしは動いてた。

右拳を軽く引くようにして、そのまま拳を突き出して後ろに跳んだ。

後ろに跳ぶのは変わらないけど、変わってる点がある。それはあたしの意志で跳んだという事。



だから着地体勢もすぐに整えられるし、キュベレイが身を少し屈めた時に咄嗟に反応出来る。



あたしは床に足をつけると同時に、大きく左に跳んだ。





「はぁっ!!」





キュベレイの姿が掻き消え、床に一直線に亀裂が刻まれる。それは例の突進攻撃。

この広さはそこそこあるけど一直線な廊下の中で使われると、マジで驚異だな。

キュベレイはそのまま直進して・・・・・・廊下の壁に身体が擦れて、それによりバランスを崩してこける。



なお、盛大に壁を砕きながらだけど、やっぱりおかしい。普通にそれだと軌道が狂ってた事になるぞ?





「ジュンっ!!」



考えるより前に、あたしはキュベレイに向かって踏み出しかけていた足を止める。



「いきなさいっ!!」



そしてあたしの脇を炎の砲弾がいくつも通り過ぎる。それはナナの火炎魔法。

当然その標的はキュベレイ。キュベレイはこちらに振り向きながらも、それに対処を開始。



「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





こちらへ走りながら、両腕を振るってなぎ払うように合計7発の炎の砲弾を撃墜していく。

その度に両腕や体の一部が炎で焼かれ、紅の熱の粒子が薄暗い廊下にまき散らされる。

それでもキュベレイは足を止めない。そのままナナを睨みながら速度を早めていく。



だからあたしが前に立ちはだかって、拳を振るう。キュベレイも右拳を引いた。





「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」










拳と拳は正面衝突して、さっきよりも強い衝撃を周辺に撒き散らす。ただ、それでもあたしは引かない。

パワードスーツのパワーを最大出力にして、次に左拳。また衝撃が弾けた。

でも、スーツ越しでも拳が痺れて・・・・・・つーか、骨が砕けるんじゃないかって思うくらいにキツい。





だけど引けない。とりあえず後ろのナナがポジション変えるまでは・・・・・・あたしが壁になる。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ジュンが真正面からパワー対決している間にも、アンジェラはダンケルクと打ち合いを続ける。





両手を貫手の形にして刃と化す。その腕をダンケルクは口元からヨダレを垂らしながらも振るう。










「きしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



一瞬の内に数度突き出された両の貫手をアンジェラは上に跳んで回避。

飛びつつも相手の反撃を防ぐために、顔面に向かって両手持ちのロッドを突き出す。



「はぁぁぁぁっ!!」



ダンケルクは頭を軽く左に動かすと、それをすれすれで避けた。それから左手でロッドを掴んで引く。

右手は貫手のまま、アンジェラの腹部に向かって突き出された。



「にゃにゃっ!?」

「アンジェラっ!!」



でも、アンジェラはその貫手を受け止めた。なお・・・・・・両足で挟んで白刃取り。

あ、あのサルはまた無茶苦茶な。そんな回避方法、普通しないでしょうが。



「お返し」





アンジェラはダンケルクの手の動きが完全に止まってから、反撃のためにすぐに動く。

白刃取りにしていた両足を開いて、その手に左足でかかと落としをする。

もちろん体勢からして軽くなんだけど、それでもその腕の軌道を下にする。



それから力強く掴まれていた棍棒を始点に身を翻して、空中に飛び出す。


ロッドから手を離して、ダンケルクが反応する前にその頭を上から打ち抜いてた。





「なのだぁっ!!」



いわゆる回転しながらのかかと落とし。ダンケルクは前のめりに体勢を崩して、ロッドを手放す。

でも瞳が死んでない。伏せる形になった身体を一気に引き伸ばすようにして、アンジェラに踏み込んだ。



「死ねやオラァァァァァァァァァァッ!!」



アンジェラはニヤリと笑いながらもロッドを右手で掴んで、そのままダンケルクの貫手に貫かれる。

でも・・・・・・それがまるで霧のように消えた。ダンケルクは靄を貫くだけ。とりあえずそれを見ながら魔法を詠唱開始。



「な・・・・・・!!」

「分身なのだぁっ!!」





既に後ろにアンジェラは回り込んでいる。ジュンは・・・・・・あぁ、また殴り合いしてるわね。

私がポジション変えたから、壁である必要はなくなったけどそれでもよ。

とにかくアンジェラはロッドを両手で持って突き出す。それをダンケルクは左に身を捻って回避。



そうしつつも踏み込んで右の貫手を突き出す。アンジェラは右薙にロッドを振るってそれを防御。

繰り返し打ち込まれる両の抜き手をロッドで払いつつもアンジェラは下がる。単純に向こうの方が手数が多いらしい。

とにかく数度ロッドと貫手が火花を散らしながらも打ち合って・・・・・・ダンケルクが踏み込む。



アンジェラに右の貫手を放ちながらの突進を、アンジェラは上に跳んで避けた。

そして、そのままダンケルクは私に突進。ここは予測してたから、私はとっくに左に跳んでる。

だってダンケルク、アンジェラの後ろに居る私にずっと目を向けてたんだもの。



それでダンケルクはそのまま風のようにその場を走る。走って・・・・・・ジュンと殴り合ってたキュベレイに迫る。

丁度ジュンとの殴り合いから距離を取っていたキュベレイは、そのままダンケルクと合流。

ジュンとアンジェラも、私の傍らに来てくれる。それで私達三人は改めて拳を、ステッキを、ロッドを構えた。





「・・・・・・やっぱ手強いな」



ジュンのアーマー、あっちこっちひび割れてる。白と黒と赤のトリコロールカラーの色に刻まれた亀裂は、黒色に見える。

ジュンの身体にぴったり張り付く形のアーマーだから、少し痛々しく見えるのは気のせいじゃない。



「でもでも、ここで踏ん張らないとアレクや恭文達が大変なのだ」

「そうね。向こうは向こうできっと大騒ぎでしょうし。・・・・・・って、アレ?」



ダンケルクとキュベレイがなんか互いに顔を見合わせてる。それで・・・・・・あ、抱きしめ合った。

ハグかと思った私は、きっと色ボケし過ぎていた。アレは・・・・・・ハグなんかじゃなかった。



「・・・・・姉ちゃん」

「あぁ、そうだね。全ては・・・・・・公女のために」

「公女のために」



ダンケルクとキュベレイの身体が一つになっていく。というかちょ、ちょっと待って。まさかコイツら。



「はわわ、アレなんなのだっ!?」

「おいおい、マジかよ・・・・・・!!」

「互いの身体を吸収しあって・・・・・・一つになってるっ!?」





キュベレイの身体の中にダンケルクが吸い込まれるようにして、変化が起こる。

まずただでさえ大きい体長が50センチほど増した。そして腕が増えた。

本来のキュベレイの腕の下に、細身の腕がもう一つ増えたのよ。もちろんダンケルクの腕。



そして胸元からまるで植物が生えるようにして顔が生まれた。なお、ダンケルクの顔そのまま。

四本の腕に二つの顔。そして増した体長と体格。その二つの顔が、同時に私達の方を見てにやりと笑った。

笑いながら、僅かに身を屈めた。いや、更に屈める。屈めて私達を睨みつける。



両腕を広げ、通路を塞ぐようにして・・・・・・ま、まさかあの状態から突進するつもりっ!?





「・・・・・・ちょっとちょっと、どうすんのよ。ここじゃあ回避スペースだって限られるってのに」

「決まってんだろ? アタシらも正面衝突だ」



言いながらジュンが右拳を引く。アンジェラもロッドを身体の右側に構えて、腰を落とした。



「ジュン、アンタマジ? アレに正面衝突したらさすがに」



死ぬわよ。・・・・・ほら、言ってる間にもどんどん力溜めてるし。

なんて言いながらも、私も詠唱中。これでも付き合い長いもの。何考えてるかくらいは分かる。



「だからお前の魔法をアテにしてんだよ」

「ナナちゃん、頼むのだ」

「分かってるわよ。ただし・・・・・・一発で決めなさいよ?」

「「了解っ!!」」





さて、そういうワケだからまずは私が一番手ね。よーく相手の動きを見なさい。

私はジュンやアンジェラ、メルビナみたいに近接戦闘の類はさっぱりだけど、見切るくらいは出来る。

百数十メートル距離が空いてて、しかも相手はクラッチングスタート体勢よ? これならやれる。



思い出せ。コイツは飛び出す直前に僅かに肩が下がる。もし身体がキュベレイベースなら同じ癖になるはず。

・・・・・・あぁもうだめよ。一発勝負でここにこだわりすぎるの禁止。ここは・・・・・・直感ね。

まるでどこかの西部劇でやってた早撃ちのガンマンな気分で私はステッキを前面に構える。



ジュンとアンジェラは私の両脇・・・・・・僅かに後ろ側に下がった。ステッキの前に砲弾が生まれる。

赤い炎の砲弾をダンケルクとキュベレイ・・・・・・いえ、もう違うわね。

もうアレは『アイアンサイズ』という一つの存在よ。とにかくそれに向けて砲弾を向ける。



本当に僅かに、キュベレイ・・・・・・ううん、ダンケルクの両腕の先が下がった。



私は胸の中の直感に従って、そのまま意識のトリガーを引いた。





「フランメンランツェッ!!」





放たれた紅蓮の炎の奔流が、勢い良くステッキの先から放出される。

それは私の身長の倍くらいはあろうかという巨大な奔流。アイアンサイズなんて軽く飲み込む。

それが放たれると同時にアイアンサイズも踏み込んだ。そして私は早撃ち勝負に勝った。



全てを飲み込む炎の奔流は、アイアンサイズの突撃の勢いを本当に少しだけど殺した。



足を完全には止められてないけど、何回かやられたような見えない突進じゃない。





「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」





それでも連中は足を止めない。勢いが殺されても、炎の中に向かって一気に踏み込んでくる。

身体を、髪を、腕を、顔を、身体をどれだけ焼かれようと私達を排除するために足を進める。

炎の勢いに負けないように、床を砕きながらも踏み込んで・・・・・・ついに私の火炎砲撃は終わった。



太い柱のようにも見えた炎の奔流がかなりの速度で細くなって、赤い粒子をまき散らしながら消える。

アイアンサイズの身体の前面は、かなりの範囲黒く焦げていて・・・・・・それでも二人は笑っていた。

確かに早撃ちには負けた。でも我慢比べには勝ったと思ってる。・・・・・・えぇ、その通りよ。確かにアンタ達は勝った。



でもちょっと訂正ね。私は・・・・・・『勝たせてあげた』のよ。炎系統の魔法には一つ利点があるの。

それはね、熱や色に範囲・・・・・・そういう派手さで敵の目を引きつけられる事よ。

だから気付かなかったでしょ。巨大な奔流すれすれの所を移動して、アンタ達に踏み込んでる影があるのを。



その影は二つ。紅い熱を帯びた粒子が舞い散る中で二人はもう、アイアンサイズの懐に入っていた。





「これで」



ジュンの右拳に赤い光が宿る。いわゆる本気モードでの攻撃よ。そしてアンジェラも同じ。

黒い光がロッドの先に宿って、バチバチと火花を散らす。



「終わり・・・・・・なのだぁっ!!」





アイアンサイズは既に私に向かって踏み込んでいたから、瞬間的な回避が取れない。

というか、図体がデカくなったせいか反応が鈍いみたい。・・・・・・悪手打ちだったわよね。

私のフランメンランツェは目くらましよ。あと、アンタ達の足を少しでも止めるため。



本命は二人の本気でのタイムラグ無しの同時攻撃。恭文が前回の出撃で使った手、真似させてもらったの。

そしてジュンとアンジェラの拳とロッドでの突きが、アイアンサイズの腹に叩き込まれた。

本当にすれすれで、下手したら身体に叩き込まれる前にそれらがぶつかるんじゃないかって思うくらいにしか離れてない。





「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」










そうやってタイムラグは無し・・・・・・刹那と呼ばれる瞬間の間に、強烈な衝撃を身体の中に二つ叩き込む。

それがアンタ達を殺す場合の有効手になるって言うのは、もうアレで判明したもの。だから利用しない手はない。

とは言え・・・・・・これは賭けよね。『アイアンサイズ』になっちゃったせいで、どこまで通じるか分からない。





でもアンタ達が私に・・・・・・違うわね。前に向かって突進を始めていたならどうかしら。

その勢いも当然プラスされるわ。そしてそれはそれぞれの攻撃の威力増加にも繋がる。アレだけの質量だもの。

短い距離だとしても、高速移動していたなら当然だけどそれも威力に加算されるわ。





ぶっちゃけ賭けよ。それもそうとうに分の悪い賭け。でも・・・・・・私達は見事にその賭けに勝った。





アイアンサイズは突撃姿勢のまま二つの顔それぞれの目を見開いて、その動きを止めた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



中枢区の空気は乾き、バリアジャケット越しでも冷たくさえ感じる。

目の前の女は、突きを基本としている。それで、さっきの交差で色々と理解した。

鋭く、強く・・・・・・親和力の影響のせいか、躊躇いも迷いもない。





そして、自分を守ろうとする意識すらない。公女のために戦って死ぬ事が誇りと言わんばかりに突っ込んでくる。










【・・・・・・恭文さん、多分あの人が】

「うん、間違いない」





あの突きの鋭さに、右手で構えた銀色のナックルガード付きのサーベルの細い刃。

あの人がマクシミリアン・クロエを殺したんだ。刃の細さとムダの無い傷口の小ささが、見事に符合する。

ま、ここはいいか。別に友達じゃないし、仇打とうとかって考える義理立てもない。



ただ・・・・・・僕の勝手で、僕の都合で、目の前の女には潰れてもらうだけだ。





「・・・・・・悪いね」



言いながら、僕はアルトを鞘に納める。そして・・・・・・かがむ。



「あんま、時間もかけてらんない。ここは一気に叩き潰す」



ま、出来ればって条件が付くけど・・・・・・ここはいいか。



「残念だが、それは無理だ」





言いながらも僕達は踏み込む。そして、横薙ぎに斬撃を一閃。

鞘から抜き放ちながらの斬撃と、オーギュストの突きがまた交差する。

互いに手傷は無し。だから、足を止めて振り返る。そうしつつ、跳んだ。



前に踏み込みながら、襲ってきた突きを避ける。そして、ジガンを盾にする。

ジガンを刃に当てて、そこからの打ち込みを防ぎつつも僕は袈裟に斬りつける。

オーギュストはそれを避けるようにして数歩分下がって、また踏み込む。



今度の突きは、一回じゃない。銀色のサーベルはまさしく閃光という速度で襲ってくる。

後ろに下がりつつ、アルトとジガンを駆使して捌く。だけど、それでもギリギリ。

7度目の突きを、僕は上に跳んで避ける。そうしつつ、魔法発動。





≪Stinger Ray≫

【フリジットダガー!!】





生成されたのは、青い弾丸と10本の氷の短剣。それが真上から、ほぼ零距離で撃ち込まれる。

真下に衝撃と爆煙が生まれた。僕はその爆煙の後ろに降り立つようにしながら、アルトを右にかざした。

襲ってきたのは、銀色の右薙の斬撃。当然、撃ち込んだのはオーギュスト。



あの野郎、一瞬で僕の後ろ取るくらいまで下がりやがった。てーか、普通に手応えなかったし。

体格では向こうの方が、30センチ程上。普通に長身なのよ。だから、潰されるように押し込まれる。

僕はその前に、魔力スフィアを生成。それを一気に掃射する。





「クレイモアッ!!」



掃射された弾丸は、何も貫かない。オーギュストは、上に跳んでいた。

そしてそこから飛び込みながらも、突きを放つ。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





僕は魔法を一つ詠唱ししつつ咄嗟に後ろに下がって、その突きを避ける。

そして・・・・・・また姿が消えた。オーギュストが居た空間には、ただ青い鎖が生まれるだけ。

うん、使ったのはディレイドバインドなのよ。だけど、それすら避けた。



突きによって砕けた音が消える前に、オーギュストは僕の背後に居た。そして、突きを放つ。





「・・・・・・ぐぅ」





ジガンで咄嗟に防御したけど、全く意味が無かった。僕の身体は、思いっ切り後ろに吹き飛ばされた。

でも、ただでは吹き飛ばない。カウンターでクレイモアのスフィアを生成して、瞬間発射。

それでオーギュストを撃ち抜く。だけど、僕も壁に激突して、その中に埋まるようにして動きを止めた。



その痛みに顔をしかめる間もなく、爆煙を何かが斬り裂いた。僕はすぐに左に跳ぶ。

斬り裂いたのは、踏み込んだオーギュスト。オーギュストは僕の喉元を狙って、ただ突きを真っ直ぐに叩き込んだ。

突きのは真っ直ぐに壁に突き刺さる。そして、オーギュストは何も言わずにその刃を引き抜く。



僕はその間に、もう一つ魔法を発動。オーギュストの足場の床が杭となって、オーギュストの腹を狙う。

だけどオーギュストは、すぐに後ろに跳んだ。・・・・・・その杭が生成される前にだ。

さっきのバインドと同じだ。生成されてから反応したんじゃない。生成される前に攻撃を察知して避けてる。



そこはもう予測済み。僕は魔法全く無しで一気に30メートルほどの距離を踏み込む。

そうして、オーギュストの左を取ってる。オーギュストは、驚いた顔で僕を見ていた。

・・・・・・魔法全く無しだと、これか。そこから、斬撃を叩き込む。なお、撃ち込むのは突き。



オーギュストは自分の左腕でそれを防ぐ。金属同士の衝突により、火花が散り・・・・・・弾ける。

徹も込みの一撃は、オーギュストの身体を吹き飛ばす。オーギュストは滑るようにして、床に着地。

10数メートル滑って、目を見開き歯を食いしばりながら、右足を軸に一気に踏み込んだ。



僕は刃を正眼に構え直して、僕も踏み込む。そうして、突きと唐竹の斬撃が衝突した。





「・・・・・・これで分かったか」





オーギュストの突きは、僕の右肩を貫いていた。ギリギリ・・・・・・だったね。

急所を外すので精一杯だった。オーギュストは、僕を刃で放り投げるようにした。

僕は床を滑るようにして転がり、数メートルほどそうして動きを止めて・・・・・・身体を起こす。



流れる血の熱を感じながらも、見据えるのは人を捨てた騎士。だからだろうか。



その目は圧倒的な優位を確信したのか・・・・・・強い意志を秘めたまま笑っていた。





「今のやり取りで分かった。貴様は何も捨てられない。捨てる覚悟すら出来ない。
だから私には遠く及ばない。そう、及ぶはずが・・・・・・ぐぅ」



突然にオーギュストが崩れ落ちた。その右肩から胸にかけて、僕の斬撃の痕。

・・・・・・さっきの攻撃、ちゃんと通ってるのよ。



「・・・・・・随分上から見下してくれるね」



左手でマジックカードを出す。まずは、回復カードで傷の止血。身体を蒼い魔力が包み込む。

綺麗に『貫かれにいった』から、神経まではやられてない。この一枚で一応はOK.。



「一つアドバイスしてあげるよ。・・・・・・確実な勝ち戦と優位が無くちゃ笑えないような奴は、三流だよ?」





そして、続けて困惑しているオーギュストに向かって、五枚のカードを投げつける。

それを見てオーギュストは、踏み込んで斬りつけた。カードが一気に全て両断される。

両断されたカードから、氷が発生した。カードを中心とした、空間凍結用の魔法。



それがオーギュストの後ろを通りすがるようにして、転げ落ちる。・・・・・・まただ。

でもそこは考えずに、僕は前に踏み込んでる。オーギュストがそこから再び突きを叩き込む。僕はしゃがんで回避。

回避しつつ、アルトを右薙に叩き込む。オーギュストは後ろに半歩下がってそれを回避。



そこからまた刃を引きつつも突きを打とうとする。というか、打たれた。僕は左に回り込むように移動。

回避しつつも僕は左手で拳を叩き込む。なお、狙う箇所は顔面。オーギュストは、左に動いて避けようとする。

でもその前に手を開いて、オーギュストの顎を掴む。掴んでそのまま押し込む。



オーギュストが驚く顔をするけど、それに構わず左手の圧力を強める。手の中で、何かがきしむような音がする。





「ちょっとは視野を広く持ったら?」



言いながら、オーギュストが話す前に胸元に向かってアルトの切っ先を叩き込む。

切っ先がジャケットを、皮膚を突き破り何か硬いものを砕き中に突き入れられる。でも、すぐに抜けた。



「・・・・・・そうすれば、負け戦でも多少なりとも楽しめる」





それは衝撃によりオーギュストが吹き飛ばされたから。オーギュストは、口と胸元から血を流しながらも吹き飛ぶ。

大体40メートル程転がって、すぐに受身を取る。そして忌々しげに僕を見る。しかしこれは・・・・・・相当だね。

正直僕は今、これでオーギュストを殺してもいいくらいの勢いで攻撃したよ? 胸を貫いて重要臓器を傷つけてさ。



なのにこれって・・・・・・くそ、マジで最近の僕の回りは耐久力からチートなのが多いし。





「底が見えたのは、どうやらお前の方だね」





・・・・・・さっきまたコイツは、魔法発動前にそれに大して対処してきた。いや、それだけじゃない。

多分最初のクレイモアとフリジットダガーもだ。だけど、さっきのは大丈夫だった。

現にバリアジャケットがボロボロで、そこから人工皮膚。そしてそれも破けて銀色の骨格が見える。



攻撃の気配を察知? いや、違う。それなら僕の踏み込みに対して、驚いた顔をするはずがない。

僕がそのタイプで攻撃を防いだり避けたりするタイプだから分かる。コイツ、あれとか今のこれに関しては察知してなかった。

そうすると、この辺りが非常にアンバランス過ぎる。どうして一部の攻撃だけ、こんな異常に察知が早いのさ。



・・・・・・そうか。その『一部の攻撃』に問題があるんだ。くそ、最近の僕の周りはチートばっかだし。





”リイン、アルトも魔法での援護はしないで。全部回避・・・・・・いや、事前察知される”

”はいっ!? ど、どういう事ですかっ!!”

”コイツ、どうやってるかは知らないけど、僕達の魔法の詠唱や魔力運用を感知出来る”





ようするに魔法を使おうとするでしょ? そうすると、外部とか内部とかで魔力を運用する。

で、同時に術式の詠唱処理ね? 本来魔法は、どんなものでもそういう形で使うのよ。

僕がタイムラグ無しで魔法発動するのだって、超々高速でそれをやっているに過ぎない。



多分コイツはそこを察知して、回避なり対処行動を取ってる。さっきのマジックカードも同じだ。

コイツの防御行動は全て魔法の発動前に行われている。発動後じゃなくて発動前だ。

僕自身の攻撃気配の察知はさっき言ったような理由で無し。だから、多分こっちだと思う。



何かのレアスキル? もしくはオーギュストの身体を改造した奴が相当バカで、そういう機能を付け加えたとか。





”・・・・・・なるほど。だからこそ、あなた達の魔法攻撃はさっぱり回避されまくりと”





そうじゃなきゃ説明つかないのよ。察知へのアンバランスさとか、色々とさ。

でも・・・・・・これは勝機でもある。以前のオーギュストがどうかは知らないけど、今は三流だ。

今のやり取りで僕にはそこが分かった。コイツは自分の身体の強さや機能に、頼り切っている。



人である事を捨ててまで強さを手にした対価に、足元がお留守になってんのよ。

つまり、強いのはコイツじゃない。どれだけ硬い鎧に身を包もうと、コイツは雑魚だ。

ただコイツの身体が強いだけ。・・・・・・そこまで気づいて、僕は笑った。



笑って、アルトを構える。こんな奴に手傷を負わされた時点で、僕は色々と甘ちゃんだわ。





”でもでも、リインはともかく恭文さんの瞬間詠唱やマジックカードまでそれなんて”

”そういう能力持ちなら、ありえない話じゃありませんよ。
この人の瞬間詠唱は、特殊なものじゃありませんし”



さて、第1ラウンドは互いに引き分けってとこかね。普通に手傷を与えたわけだしさ。

ただ・・・・・・やっぱ頑丈だな。もう二度と戦えないようにするくらいじゃなくちゃ、意味がないか。



”あくまでも術式を超々高速でやってるだけ。だから他の術式と同じように出来る。うぅ、厄介な能力です”





リインに同意しながら、僕は踏み込んだ。オーギュストも同じようにして、再び突きを放つ。

僕はそれを右に避ける。すると、開いた左手が襲ってきた。なお、狙いは僕の顔面。

右での突きの死角を狙っての移動が分からない程バカじゃないらしい。あとはさっきの仕返しだね。



でも、甘い。そこの辺りを自分でやってて警戒しないわけがないでしょうが

僕は躊躇い無くその手に向かって、アルトの刃を叩き込んだ。なお、魔法は無し。

魔法を使えばどれだけ攻撃や防御に力を入れているか、見抜かれてしまうから。



やるなら、さっきのような零距離で相手の攻撃の隙を突く方法しかない。

それでも刃は、中指と薬指の間に叩き込まれる。オーギュストはそれを掴もうとするけど、無駄。

僕の斬撃は、それほど緩くもなければ遅くもない。・・・・・・オーギュストの左腕を斬り裂いた。



刃は手を斬り裂き、肩口に叩き込まれる。そこから金属で出来た腕を肩から両断して振り抜かれる。

腕が空中に跳んで、あらぬ方向に落ちる。当然だけど、傷口から赤い血がまき散らされる。

だけどオーギュストはそれでも止まったりなんてしない。躊躇い無く僕の首を狙って、サーベルを振るう。



僕はしゃがんでそれを避ける。避けて、身を時計回りに捻る。捻りながら、次のアクションに移行。

返す刃でのオーギュストの斬撃に向かって、右薙にアルトを叩き込むとサーベルと刃が交差する。

そこから僕はまた踏み込む。オーギュストは、僕からの袈裟の斬撃を受け止める。





「てめぇは捨てたんじゃない。ただ逃げただけだ」



・・・・・・鍔迫り合いをしていても、キック攻撃とかそういうのはない。

ガチで騎士道貫いているらしい。互いに刃を押し込みつつ、僕達は刃越しに睨み合う。



「守れなかった自分から逃げた。その理由を自分の身体のせいにして逃げた。
大事なものを守れず、壊されるだけだった自分を背負うことから逃げた」

「・・・・・・・・・・・・黙れっ!!」



オーギュストが刃を無理矢理に振るう。僕は弾き飛ばされるように、後ろに下がる。

そしてまた突きが来る。・・・・・・それでも前に踏み込む。突きが左の頬と髪を斬り裂く。



「飛天御剣流」



刃を下から上に斬り上げるようにして、叩き込む。狙うはオーギュストの水月。

刃の切っ先がオーギュストを捉え、僕は一気に上に跳んだ。



「龍翔」



オーギュストの身体はそれにより上に飛ぶ。横への薙ぎ払いに移行する隙を与えずに叩き込まれた衝撃は、180弱の身体を難なく浮かす。

なお、僕の身体も同じく。だから続けてもう一撃・・・・・・僕より早く落ちゆくオーギュストに向かって刃を叩き込んだ。



「槌閃もどきっ!!」



上から下への落下速度も絡めての斬撃は、オーギュストの身体を・・・・・・いや、咄嗟にサーベルで防御された。

だけど、オーギュストの身体は吹き飛び、床を転がる。なお、その間に僕は着地。



「お前の身体は、公女への信仰は、確かに強いかも知れない。
でも、『オーギュスト・クロエ』という存在はカスレベルだ」



斬り裂かれた左腕や他の傷口などはいっさいを気にせずに、オーギュストは立ち上がる。

どんなに血が流れようとも、全くだ。・・・・・・普通にこの程度じゃ死ねないらしい。



「ハッキリ言ってやるよ。・・・・・・てめぇは、てめぇの不甲斐なさと情けなさを背負う覚悟も無かっただけだっ!!
強くなったわけでもなんでもねぇっ! いいや、むしろ弱くなってるっ!! そんな脆弱な奴が、偉そうに僕の前に立ってんじゃねぇよっ!!」

「・・・・・・もういい」



その顔には、憤怒の炎が見える。そして・・・・・・オーギュストは、目を強く見開いた。



「これだけは使いたくなかったが、もういい。アルパトス公女、醜い姿を晒しますが、お許しください。
・・・・・・リミッター、緊急解除。擬似リンカーコア、フル稼働。身体ダメージ・・・・・・急速修復」



その瞬間、オーギュストの顔が赤く染まる。そして、瞳の色も変わった。・・・・・・瞳孔も何もなく、ただ黒くなった。



・・・・・・身体ダメージの修復、全て完了。痛覚全カット。リミットブレイクモード、現状維持



それだけじゃなくて、半端じゃなく威圧感がある。どうやら、いよいよ本気モードという感じらしい。



【なんですかコレっ!? オーギュストの身体・・・・・・異常な熱量を出してるですっ!!】

≪言葉通りなら、身体のリミッターを解除したんでしょ。・・・・・・油断しないでくださいよ。
私達からの魔法による援護は、出来ませんから。いえ、更に使用は厳禁になりました≫

「分かってる」



黒い瞳で、オーギュストは僕を見る。



私は逃げてなどいない。そんなわけがない。逃げている人間に、人であることを捨てる覚悟など出来るものか。この・・・・・・愚か者共がっ!!










こうして、最終決戦の第三ラウンドの幕が開いた。いわゆる『ここからが本番』って奴だね。





僕とリインとアルトは気持ちを入れなおして、目の前の赤い魔人との対峙を続ける事になった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・私達の目の前に倒れているのは、ボロボロのバリアジャケット姿の女の子。

さっきまでの魔王モードとは違う、穏やかな顔で私達を見上げている。

イヤリング、ヤスフミ達に渡さなくて正解だったよ。これのおかげで、すぐに親和力の影響を打ち消せた。





辺りは穴だらけだけど・・・・・・まぁ、結界を張っているから大丈夫か。










「・・・・・・レイジングハートに、悪いことしちゃったな」

「アンタ、まずレイジングハートに謝るっておかしいから。うちらにも謝ってーな」

「にゃはは、ごめん。というか・・・・・・なんだかおかしいね。
あんなに公女の事が好きだったのに、今はもう違うの」

「それが普通だったんだよ。なのは、ちょっとだけ悪い夢を見てたんだ」



ただひたすらに壮絶だった。レイジングハートのサポートもなく、単独のはずなのに。

親和力のせいで本当にタガが外れていたらしい。普段のなのはとは、全く違うもの。



「テスタロッサ、ここは我らと主が引き受ける。お前は蒼凪の元へ急げ」

「あ、そやな。今やったら最終決戦に間に合うやろ」

「・・・・・・ううん」



私は首を横に振って、二人の言葉に答える。だって、私にはもう行く権利はないもの。



「私、今回はヤスフミに振り切られちゃったんだ。もうヤスフミ、追いつけないところに居るもの」

「まぁ、それはなぁ。・・・・・・でも、それでも行った方がえぇと思うで?
こういう時こそ、本局執務官の資格と権力が活かされるやんか」

「お前が現場の状況にしっかりと立ち会えば、事後の処理にGPOや蒼凪の擁護が出来るだろう」



あ、そっか。GPOの証言だけじゃ、色々不利になるかも知れないものね。

親和力の影響、いつまで続くのか分からないんだし。



「サードムーンに乗り込んだのは、どうしても必要な処置だったとな。だから、行ってこい」

「追いつくためやのうて、振り切るまで加速したみんながちゃーんと帰ってこれるようにな」

「・・・・・・うん。じゃあ二人とも、悪いんだけどなのはの方をお願い」

「了解や。さてなのはちゃん、うちとザフィーラからフェイトちゃんの分まで普通にお説教や」



はやて、任せたよ。私は振り返らずにヤスフミ達のところに行くよ。というか・・・・・・よし、私も後でお説教しようと。



「アンタ・・・・・・ブラスター使うなって、シャマルから言われてたよなぁ」

「ご、ごめんなさい。でも、1だけだし」

「問答無用やっ! 1だけでも立ち上がれんくなってるアンタに、そないな事言う権利ないでっ!?」

「それははやてちゃんとフェイトちゃんが、ダブルブレイカーとかするからでしょっ!? 私、本当に死ぬかと思ったんだからっ!!」










騒がしくなった後ろはともかくとして、私は飛び上がって・・・・・・サードムーンに向かった。

正直、戦闘要員としては私は微妙かな。普通に魔力も体力も消耗してるから。

でも事態を最後まで見届けて、事後の備えになることは出来る。それが私のやること。





そうして少しでもあの子を守れればいいなと思いつつ、私はただひたすらに前へと加速した。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



私は逃げてなどいない。そんなわけがない。逃げている人間に、人であることを捨てる覚悟など出来るものか。この・・・・・・愚か者共がっ!!



言いながらオーギュストが踏み込む。すると、姿が消えた。

僕は・・・・・・後ろに殺気を感知。すぐに右に跳ぶ。



はぁっ!!





オーギュストは力任せに斬撃を唐竹に叩き込む。刃は床を砕き、クレーターを作る。

さっきまでの洗練された色の剣技とは違う。力任せに、全てを叩き潰そうとする技だ。

下がりながら・・・・・・動きを止めた。オーギュストが、目の前にいない。



そして、目前には真一文字に振るわれた刃。僕は、すぐにしゃがんだ。

空気を斬り裂く轟音を立てながら、左薙の斬撃が振るわれた。

そして、僕の右隣にはオーギュスト。オーギュストは、いつの間にかそこに居た。



床を砕きながら跳んで、そして着地。着地しながら、僕に向かって刃を返しつつ唐竹に叩き込む。

僕はすぐに左に跳ぶ。あんなの、普通に受けたら死ぬ。ジガンや並の防御魔法でも、防ぎ切れない。

そして、跳んだ先にはさっきと同じ光景。そしてオーギュストは僕を見据えて、そこから踏み込んでくる。



床を滑るように着地した僕に叩き込まれるのは、突き。殺気よりも速く、荒々しい破壊。





ぐるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



・・・・・・牽制にマジックカードを投擲しようとした。でも、カードを出そうとした瞬間に、オーギュストが消えた。



無駄だっ!!



オーギュストは、僕の後ろに回り込んでいた。そして、腹に向かって突き。

僕はそれをスレスレでそのままの体勢で右に動いて避ける。だけど、これだけで終わらない。



もう、お前の動きは全て察知出来るっ!!



横から薙ぎ払いが来る。僕はジガンとアルトでその刃を防ぐ。左腕をかざし、その前面にアルトを乗せて交差。

交差部分に刃が叩き込まれ、僕と中に居るリインを凄まじい衝撃が襲った。



死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!





下手に魔法を使う事も出来ない状況。僕とリインの身体は・・・・・・そのまま、遠慮なく吹き飛ばされた。

そうして200メートル以上先の壁に叩きつけられる。フィールド魔法の使用により、死ぬことはない。

ただ・・・・・・普通にキツい。魔力はともかく、肉体でのダメージがガチに襲ってくる。



てーか、これ・・・・・・アバラなり肩なりに、ヒビ入ったかも。結構痛いわ。

頭や頬、塞がったはずの右肩からも出血がある。・・・・・・こりゃ、キツいわ。

でも、まだ倒れられないよね。僕は・・・・・・通すと決めたんだから。





”リイン、大丈夫?”

”はい・・・・・・です。恭文さん、回復魔法は”

”だめ。そんな隙を与えてくれるような状況じゃない”



くそ、なんだアレ。普通に全部の動きを先回りされてる感じがする。

それに・・・・・・神速には負けるけど、それでもギリで反応し切れてない。これ、かなりヤバいかも。



「蒼凪恭文、もう諦めなさい。今のオーギュは、あなたのどんな行動も察知します」



・・・・・・そして定番の能力解説かい。また敵役のお約束を踏むねぇ。



「超絶的な感覚センサーの全てを全開放している彼女は、あなたの身体の動き、魔力操作。
呼吸に心臓の鼓動さえもその五感と鉄の肌で感じ取れる。そんな力に、あなたが勝てるわけがない」



ただ、こういうのは別に完全無欠に無駄ってわけじゃない。一種の威嚇や警告にはなるのよ。

アレだよ。『お前は完全に包囲されているー』的な感じと思ってくれれば、大体当たっている。



【・・・・・・なるほど。身体の感覚を倍加させて、それで恭文さんの動きを先回りしたですね】

≪感覚の倍加による反応速度の上昇。先読みではなく後の後でも、この人の動きを上回りますか≫

その通りだ。お前はどうやら、私の動きを気配や感情の動きなどで先読み出来るらしいな



さすがにバカじゃないらしい。ここまでのやり取りで僕の反応速度の正体に気づいたか。



そして魔法無しでの超高速戦の心得もある。そうして自身の反応速度を上げたからこそ、今までの私の動きについてこれた



でも、ここには一つ欠点がある。下手を打つと、相手に自分の手札を無駄に晒す可能性があるって事。

そして連中が打った手は・・・・・・その下手打ちだ。普通に死亡フラグ踏みやがった。これなら対処方法はある。



だが、もう底は見えたっ!!





勘違いだろ。もし僕が『魔導師』って枠に居たら、その中で収まってたら、確かに底は見えていた。

お前が戦ってたのがフェイトやなのはだったら、間違いなくお前が勝ってたよ。

お前の能力は一般的な魔導師の使えるスキルや技能の全てに対してカウンターをかませる。



通常時でもこちらの魔法の発動と運用を察知して、リミッター解除によってフィジカル面でもあっさり乗り越えられる。

だからお前は『魔導師』という枠に居る存在に対しては相当強いね。でも・・・・・・それだけだよ。

あいにく僕は、その枠に収まった覚えがない。だから未だに崩れていた身体を起こすだけの力が出せる。



こんなの、僕にとっては絶望でもなんでもない。今を覆す鍵は、もう僕の手の中にあるんだから。





力も、速さも、察知能力さえお前は私に遠く及ばないっ!!



僕は壁から這い出して立ち上がる。そして、オーギュストが右手を引いて、突きの構えを取る。



「待ちなさい、オーギュ」



飛び込もうとした時、公女がオーギュを制した。それにより、オーギュは敵意を一端収める。



「・・・・・・蒼凪恭文、オーギュにこの手を使わせたあなたの実力、私は高く評価します」



そして僕に視線を移す。アレクと同じ色の瞳は・・・・・・気持ちの悪いくらいに澄んでいた。

優しく、安心させるように僕に微笑みかける。なお、相当に気色が悪い。



「私はあなたをこのまま死なせるのが惜しい。だから・・・・・・今から心を入れ替えて、私の騎士として忠誠を誓いなさい」



そうしながらも公女・・・・・・いや、コイツらは僕を見下す。もう自分の手の中に、僕の命があると思っている。



「そうすれば今までの事は全て水に流します。・・・・・・もう、分かったでしょう?
鉄では私達という親和に・・・・・・いえ、この世界の秩序そのものに勝つことなど不可能です」



僕は順手で持っていたアルトを逆手に持ち替える。そして、左手で鞘口をしっかりと持つ。



「もちろんあなたにもメリットはある。もう誰もあなたを否定しない。だってあなたは私の騎士になるのだから。
そうなれば、誰もあなたを否定しようがない。辛いでしょう? 誰かに自分の存在や居場所を否定されるのは。でも、もう大丈夫」



どうやらマジでリンディさんとかから色々話を聞いているらしい。



「あなたの未来を私が守ります。もう運の悪さなど気にする必要もない。
もうあんなバカな子アレクのような存在のために足を引っ張られる心配もありません」

「・・・・・・バカな子か」

「えぇ。バカな子でしょう? あなたはそんな愚鈍な方々に関わってしまうが故に、家族からも煙たがられている。
それは不幸以外の何ものでも無い。私も分かります。アレクは本当に愚かな子で、何時切り捨てようかと思ってましたから」



そして深呼吸。それから・・・・・・フザケた事を抜かすバカ共を、見据える。



「私ならあなたが無用な傷を追う必要のない環境を作れ」

「ナメてんじゃねぇぞ」



身体を右に逸らして、逆手に持ったアルトの切っ先を、前に向ける。



「『運が悪い』とか『不幸』とかなんとか言って、僕の世界と時間を・・・・・・僕の大切な人達を、上から見下してんじゃねぇよ。
・・・・・・ある人の言葉を借りるなら、僕は不幸なんかじゃない。無茶苦茶幸せなんだよ。幸せ過ぎて笑っちまうくらいだ」





とある魔術の禁書目録の上条当麻だね。まぁ、ここではある人としておく。

色々巻き込まれるおかげで、色んな人の涙に気づける。それで助けていける。

全部なんて無理かも知れない。ううん、無理だ。今回だって負けっぱなし。



今ここで勝っても、結局は負けなのは確定だ。最後の一回勝って逆転しても、それでも。

だけど・・・・・・それでも自信を持って言える。運が悪いのは認めるけど、僕は絶対に不幸なんかじゃない。

僕はアレクもそうだし、色んな人の色んな事に巻き込まれたのを後悔なんてしてない。



・・・・・・見下してんじゃねぇ。僕の時間を、僕の選択を・・・・・・『不幸』なんて言葉で片付けるな。



親和というお題目を振りかざして、人の時間や世界を・・・・・・見下してんじゃねぇ。





「そうだ。僕はてめぇみたいな性悪女に誓う忠誠なんざ、持ち合わせてねぇ。
もしも僕が今この場で忠誠を誓うとしたら、騎士になるとしたら・・・・・・それは、アレクだけだ」



オーギュストも公女も、僕を信じられないという顔で見る。

なお、アレクも同じく。集中していた顔だったのに、普通に驚いた顔になる。



「泣き虫で、信じられない程に家庭的で、意外と調子に乗りやすい。
でも、弱い自分と向き合って、戦う勇気を心の中にしっかりと持っている」





アレクは、お前らが思ってるよりもずっと強いよ。・・・・・・そうだ、ずっと強い。

だから僕も力を貸したくなった。そんなアレクが泣いているのなんて、嫌だから。

負けっぱなしでも、最後の一回だけ勝って変えたい事。きっとそれはここだ。



そんなアレクだから、笑っていて欲しい。自分を卑下して、力を理由に諦めたりなんてして欲しくない。

僕は戦う事しか出来ないけど・・・・・・それでも、長く続く道の入り口くらいは、吹き飛ばして作れるはずだから。

はやて、悪い。僕はヒーローにはなれないわ。僕がなれるのは・・・・・・何時だって『一番の味方』が限界。



でも、勘弁して欲しいな。それだって凄く難しくて何度も何度も・・・・・・悩んだり躊躇ったりしそうだから。



というか、出来ない事の方がずっと多いよ。今だって出来てる自信、全く無いもの。





「だから僕は・・・・・・今この瞬間だけは、『ガラじゃない』なんて自分の意地を変える」



捨てるのではなく、変える。変化・・・・・・進化とも言える。

僕は言い放ちながら、不敵に笑う。絶対に負けないという想いを刻みこみながら。



「僕はお前らの騎士になんてなれない。僕は・・・・・・アレクシス・カラバ・ブランシェの騎士だ」



刻み込みながら言い放った言葉は、フェイトやはやて、昔馴染みが誰も居ないから言えたとも言える。

そしてアレクの事を、ほんの少しの時間の中で少しだけでも知っていけたから言えたのかも知れない。



「そして騎士は仕える主を、絶対に裏切らない。僕の主は、もうとっくに自分の道を決めた」

≪あなた達と向かい合い、親和という一つの答えを否定したい。
そして、こんな悲しいことを終わらせたい。それが私達の主の答えであり、道です≫

【その声が、その叫びが心に届いた。そして感じた。・・・・・・私達も主と同じだと。
私達もあなた達の親和を・・・・・・いいえ、あなた達を認められない。だから、私達は戦う】



そんな想いを後押しするように、リインとアルトが背中を押してくれる。だから、踏ん張って前を見据えられる。



【私達が仕えるただ一人の主のために。戦う力を持たない、ただ泣く事しか出来ない人達のために。
親和の鎖によって壊されかけている未来を守るために。なにより・・・・・・私達自身のために】



僕は、僕達はまだ『騎士』としての自分を・・・・・・通してなんてないから。



「おまえらの身勝手な親和という優しさなんて、僕達にはいらない。・・・・・・今、その全てを振り切る」



公女は僕に裏切られたと言わんばかりの視線を向け、悲しい顔をする。



「振り切って、今を覆すっ!!」



そんな瞳で僕を見下す。見下し続ける。・・・・・・反吐が出る。



「・・・・・・オーギュ、この愚かな迷い子達に、永遠の安らぎを」

は。・・・・・・愚かだ。愚か過ぎる



オーギュストは屈んで、足に力を溜める。コイツも僕を見下している。



「もう一度言うぞ。・・・・・・ナメてんじゃねぇ」





こっちがどんだけ、自分より『強い』奴とやり合ってきたと思ってる。それこそ相当だ。

アイアンサイズだってその内に入る。そして、その度に痛感した。

僕は弱い。だからこそ自分の中のくだらない偏見や、戒めを壊す必要があると。



何も捨てられないから、そうやって少しずつでも進化して・・・・・・全て持っていくんだ。

そうして自分の中の狭っ苦しい世界を、限界を壊す必要がある。

でもそれは、オーギュストのような選択じゃない。そんなの絶対に違う。





「確かにお前の剣は、身体は、僕より強い。それだけの力がある。でも、本当にそれだけだ。
お前達は人や世界、果ては自分すらもそれだけでしか見ていない。・・・・・・お前達には力しかない」

【そんな人達に私達が負ける? ・・・・・・ありえませんね】

・・・・・・黙れ

≪グダグダ言わずに、殺しにかかればいいじゃないですか。
ただし、その瞬間にあなたの敗北は決定しますけどね≫

公女を・・・・・・私の道を、それ以上侮辱するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!










荒々しく、獣のようにオーギュストが踏み込む。横からとかではなく、真正面から。

僕も踏み込む。そして・・・・・・オーギュストの突きを見切りつつ、僕はアルトを素早く鞘に納めた。

交差する一瞬の間に、右手と左手を素早く動かし、納刀する。






そうして鳴り響くのは、甲高い納刀の音。それはアルトの鍔鳴りの音。

その音が響きながらも、オーギュストが後ろで滑るようにして足を止める。

僕も同じように停止した。訪れるのは刹那の静寂。





そして・・・・・・一つの影が、その場で床へと崩れ落ちた。




















(Report14へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、今回のサブタイトルの意味は『未熟な英雄』・・・・・・です」

あむ「・・・・・・いや、前回説明したじゃん。てゆうか同じじゃん」

恭文「うん」

あむ「てゆうか恭文、オーギュストの能力・・・・・・どっかで見覚えがあるんだけど」





(現・魔法少女、何気に蒼い古き鉄の影響でオタクになっているらしい)





恭文「・・・・・・気にしてはいけない。いやさ、ここにも理由があるのよ。
ここまでさ、普通に『魔導師? なにそれ美味しいの?』状態で魔導師な感じには出来無くて」

あむ「あー、そういえばそうだね。普通にこれでフェイトさん達レベルの魔導師だったってのでもインパクト薄いか」

恭文「そうそう。でさ、もうここに至るまでに特殊能力関係は大体やってるのよ」





(瞬間的な広範囲攻撃に尻尾が9本に二刀流に大剣に損傷した身体の超速再生に超耐久力。
ヒュプノ攻撃に無機物との融合能力に絶対領域にスーパーサイヤ人化・・・・・・その他諸々)





恭文「で、そんな中で未だに出していないものとなると・・・・・・これしかないかなと。
魔法運用の事前察知による回避と対処。そこに剣技も合わさると魔導師は相手にならないと」

あむ「いや、これなら遠距離・・・・・・あ、そっか。遠距離で魔法使っても察知されちゃうんだ」

恭文「うん。で、リミッター解除すると身体的にも普通なら手出し出来なくなると。
とりあえずテレビ本編だと隙のないフェイト・なのはを倒せるくらいにしてみました」

あむ「てゆうかこれは・・・・・・作者の意地の悪さが出てるよね。普通にチートじゃん」

恭文「そう言わないであげて? 普通に超絶能力で魔導師ランクSSSなんて出すわけにもいかないもの。
そんなの出しても、普通に読んでて強さを想像しにくいじゃないのさ」





(テレビ本編にも出てませんしねー)





恭文「とにかく僕の方もだけど、アイアンサイズやなのはもなんとか決着ついてる感じだよね。
てゆうか、何気に僕以外はタコ殴り体勢がちゃんと整ってるってどういう事だろ」

あむ「いや、仕方ないじゃん。それでもマジでギリギリなのばかりだし。なのはさんとかだってそうでしょ?」

恭文「そうだねー。・・・・・・でも、なのははこの後すっごく大変だから、むしろみんな手を合わせてあげて?
事件中より事後の方が大変なのはとまとのお約束だけど、今回のなのははブッチギリだから」

あむ「そうなの? え、でもただヴェートルで砲撃ぶちかましただけ・・・・・・アレ。
あの恭文、なのはさん仕事は? ほらほら、教導官で仕事忙しいんじゃ」

恭文「まぁアレですよ、そこのところも次回ですな。なのはは空海じゃないけど『不幸だよー!!』って叫びたくなってるから」





(・・・・・・あーめん)





あむ「と、とりあえず気にしない事にしようか。あー、でももうすぐ終わりなんだ」

恭文「そうだねー。てゆうか、普通に昔の作品だから、ここまで好評だったのは嬉しかったなぁ。
このクロスの影響で『PS版のソフト三部作全部買いましたー』って感想来てたくらいだし」

あむ「あー、あったあった。あとはアレだよね、普通にナナちゃんIF希望とか」

恭文「ナナも何気に掘り下げるとすっごい面白いキャラだしねー」

あむ「というかほら、ガチに魔法少女設定だから。」

恭文「・・・・・・設定だけはね。ただ、やっぱり僕は砲撃撃つ魔法少女は認められないけど」





(蒼い古き鉄、ここだけは譲れないらしい)





あむ「でもほら、マジカルナナとかに変身するし」

恭文「あー、それはあるね。それにナナはちゃんとヒロイン属性もあるしなぁ。
いわゆるツンデレ的な部分があってメリハリがあるし、完璧キャラでもないし」





(・・・・・・蒼い古き鉄、言いかけて気づいた)





恭文「あむ、ダメだよ。キャラかぶってるよ? ここは頑張って『マジカルあむ』にならないと」

あむ「いやいや、そんなのなれないしっ! てゆうか、どうやってなるのっ!?」

恭文「あむの中の『魔法少女パワー』がアミュレットゲージの限界量を超えるとなれるよ。
ちなみにその姿だとスタイルはフェイトレベルで良くなって、各キャラなりもパワーアップ形態になるから」

あむ「あ、それいいかも。・・・・・・って、アミュレットゲージってなにっ!? 魔法少女パワーってなにっ!!
てゆうか、普通に妙な設定作るなー! あたしそんなキャラじゃないしっ!! そんなの無理だからっ!!」

恭文「大丈夫、頑張れあむ。てゆうかアレだよ、そういうのは気持ちの問題だから。
あむはやれば出来る子だよ? どうして最初から諦めちゃうのさ。そんなのダメだって」

あむ「最もらしい事言われても無理だからっ! てゆうか、普通にありえなくないっ!?」






(どうやら現・魔法少女が『マジカルあむ』になる日は相当に遠いらしい。・・・・・・つまんな)





あむ「これナレーションッ! 普通に批判するなー!!」

恭文「それじゃああむが僕達の期待を裏切った所で、本日はここまで」

あむ「人聞きの悪い事言うのやめてくれるっ!? そんな事してないしっ!!」

恭文「次回は最終決戦の後編・・・・・・というか、決着編。
そして最後の最後でとんでもない事態が僕達を待ち受けてたりします」

あむ「え、まだこれ以上どんでん返しがあるの?」

恭文「うん。でも大丈夫、あむがヴェートルに降臨してキラキラのラブマジックを使えば」

あむ「使えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

恭文「というわけで、本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

あむ「もうキラキラのラブマジックの話はやめてー! マジでそう思う日奈森あむでしたっ!!」

恭文「だが断る」

あむ「断るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










(それはきっとみんなが『キラキラのラブマジック』を期待しているからだと思った。
本日のED:KOTOKO『BLAZE』)




















フジタ「・・・・・・蒼凪の奴、相当苦戦してるな」

シャーリー『そうですね。でも、もうちょっとだけ頑張ってもらわないと。あと少し・・・・・・あと少しだけですから』

パティ『本当に補佐官が言った通りですね。私達、恐いくらいに行動がスムーズです』

フジタ「当然だ。今サードムーンを占拠した賊連中の目は、表立って動いている『侵入者』に向けられている。
それは公女も変わらない。単純に目の前に居る蒼凪とシルビィ、公子とオーギュストだけしか見ていない」

パティ『だからこそ、私達は自由に影として動ける・・・・・・ですよね』

フジタ「そうだ。蒼凪達を囮に使っているのが申し訳ないがな。だが、もう少し踏ん張ってもらう。
フィニーノ補佐官の言うようにあと少しだ。翼がへし折れたなら、その翼が癒える前に射るのみ」

シャーリー『射るのはなぎ君やシルビィさん達が・・・・・・ですよね。よし、それじゃあ急がないと。
なぎ君があんな気持ち悪い人達に負けるとは思えないけど、それでもですよ』

フジタ「えぇ。フィニーノ補佐官、頼みます。パティもサポートしっかり頼む」

パティ『はい、任せてください』










(おしまい)







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あきゅろす。
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