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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Report08 『Finally came the goddess of flash』



・・・・・・普通に今回はまずいと思う。現状は最悪に限りなく近いと言っても差し支えない。

とは言え、俺達がやる事は決まってくる。まずは親和力への対抗策の構築だ。

どこかから増援を呼ぶにしても、まずこっちが親和力に魅入られない方法を考えるべき。





このまま増援を呼んでも、親和力によって敵に早変わりになるのは蒼凪との協議で確定だ。

もしも公女と事を構えるにしても、まず俺達はそこの問題解決が絶対条件。そうしなければ話にならない。

そしてそれは絶対に不可能かと言われると、実はそういうわけではないんだ。





なぜなら、現時点でマクシミリアン・クロエ率いるクーデター派がそれをやっている。

そうしなければ、そもそもクーデターそのものが成功するわけがない。

バレた途端に親和力で支配されるのが関の山。でも、それはなかった。




だが・・・・・・どうやってだ。公子の話だと、普通に今までそんな事はなかったらしい。

なかったからこそ、王族が寝首をかかれたわけだが。・・・・・・うむぅ、こういう場合は共通項か?

アイアンサイズもそうだが、カラバに居るマクシミリアン・クロエや他の新政府の連中もだな。





ようするに、クーデター派に絡んだ人間が全員やっている事。それがおそらく親和力対策の鍵だ。

別になんでもいいんだ。何かそういう魔法をかけられてるとか、そういう装置を身につけてるとか。

そしてEMPに潜伏しているアイアンサイズも、何かしらの処置をしていると見ていい。





そうでなければさっき言ったような形になるのは確定なんだ。

・・・・・・なら、俺達の方向性のもう一つは決まったな。

公女のやっている事の立証と親和力への対抗策構築のために、連中を捕縛する必要がある。





いや、最悪死体の確保だけでも出来れば・・・・・・だが、どうやってだ。明らかに連中の能力はおかしい。

一般的な魔導師は当然論外だが、維新組やシルビィ達も苦戦している。蒼凪も同じくだ。

情報を確保する意味合いでも、出来れば捕縛したいというのが補佐官としての俺の願いだ。





だが、現状でそれは無理だ。下手にそんな指示をすれば、シルビィ達の足を引っ張りかねない。

というより情けないな。俺は現状で、敵方の情報一つマトモに入手出来ていないのだから。

もちろん連中の身体データをリアルタイムでスキャンしたりと手は打った。だが、それすらダメだった。





分かっている事は異常な程の耐久力と無機物への融合能力と、それに伴なう超回復。

あとは通常の人間を超えた身体能力だな。・・・・・・そう言えば、蒼凪が面白い事を言っていた。

あの手のものは核というかコアみたいなのがあって、それを潰さないと倒せないと。





ゲームやアニメなどではそういうのが多いらしいが・・・・・・いや、まさかな。





・・・・・・万が一のためにそこの辺りも踏まえた上で、EMPDの科学スタッフに再調査を頼むか。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・正直に言えば、アレクシス公子の身柄の安全確保には、時間がかかる』

「それでも、ちゃんとしてくれますか?」

『もちろんだ。レアスキルの事も秘密は守る』



これ、世間には公表できないよね。公表したら、公女とアレクを対象とした魔女狩りの始まりだ。

多分、世の中は二人を『化け物』とするに決まってる。悲しい事だけど・・・・・・そういう、もんなのよ。



『それですぐにユーノにも調べてもらう。フェイト、フェイトは何か意見があるか?』

『・・・・・・正直まだ信じられないよ。そんな無茶苦茶なレアスキルもそうだし、公女のやろうとしてることも』



通信画面の中に映る金色の髪にルビー色の瞳の女の子は、困惑の表情を浮かべていた。

だけど、そんな顔をされても僕が困る。話したことは全部、事実だもの。



『次元世界そのものを、そのレアスキルを使って自分の王国にしようだなんて』

「でも、事実らしい。アレク・・・・・・すごい泣いてたから」



拳を握り締める。夜の分署の中、僕の使ってるベッドの上で寝ているあの子を思い出してしまった。



「それだけじゃない。自分のことを『化け物』だって言って、怖がってた」





強く、右拳を握り締める。胸に湧き上がるのは怒り。今まで何度か感じていたもの。

アレクが嘘を言っている可能性も考えたけど、アレでそれが吹き飛んだ。・・・・・・アレは、嘘なんかじゃない。

状況的に考えても、アレクは公女みたいにメディア関係には全く出ていないというのも大きい。



もしも姉弟揃って親和力の影響を振り撒きたいと思っているなら、一緒に出ているはずだもの。





「怯えて、苦しんで、壊れかけてた。違うのに、絶対に・・・・・・違うのに」

『・・・・・・ヤスフミ』



人と違うことを怖がる必要なんて、怯える必要なんて、どこにも・・・・・・ないはずなのに。



『とにかく、何のためにそんな事をする。恭文、そこもアレクシス公子からは』

「聞いています」



まぁ、考えようによっては同情の余地もあるのよ。うん、一応ね。

一気に家族をアレク以外の全員亡くしてしまって、住んでいた世界を追われたんだから。



「一つは復讐。クーデター派の人間に対してってのもあるし、自分達を助けなかった世界へ」



クーデター派はともかく、局や世界に対しては逆恨みも同然だけどね。

正直それで世界征服なんてされても、こっちはいい迷惑だ。



「そしてもう一つは」

『・・・・・・気づいちゃったんだね。自分の力を使えば、この世界全体を自分の王国に出来るって』



フェイトの言葉に、僕は両腕を組みながら頷く。



「らしい」



クーデター直後は亡命受け入れをヴェートル政府に要請するまで、泣き暮らしてたらしいのよ。

いきなりと言えばいきなりな反逆だったし、仕方ないと言えば仕方ないのかも知れない。



『心が壊れてしまったんだな。だから、こんな悲しい事をやろうとしてる。なんというか・・・・・・救われない事だ』

『でも、親和力だったよね? 早く止めないと。どんどん管理局内部にも影響が出てくる。
現になのはがちょっとおかしいの。私も気にはなってたんだけど、今の話で納得したよ』

「・・・・・・あのバカがおかしいのは、年がら年中でしょうが」

『それもまたひどくないかなっ!? ・・・・・・違うの。
100000歩くらい譲って、なのはが年がら年中おかしいとしても、違うの』



譲るんかい。それ、9年来の親友としてはどうなの?



『なのは、この一連の騒動の間にアルパトス公女の熱烈なファンになってるの。
もう勢いが凄過ぎて、同僚の方もかなり引いてて・・・・・・迷惑気味だとか』

「そうなのっ!? え、てーかそこまで熱入れてたんかいっ!!」

『うん。ここ最近で特に熱が高まったらしいの』



間違いない、親和力の影響だ。ヒロさんサリさんも、さり気に公女に好感持ってる感じだったし。



『ここ1ヶ月くらいで、公女が更に公共のメディアに出演するようになった影響』

『・・・・・・なるほど、あの状態がシンパや信仰者というわけか。僕は納得した』



マジでメディア媒体経由でも影響が及ぶらしい。あぁもう、とまと史上最大のチートじゃないのさ、これ。



『ヤスフミ、これって間違いなく親和力の影響なんだよね?』

「アレクの話通りなら、そうなる。『好き→シンパ→信仰者』とパワーアップしてくらしいし」



・・・・・・あのバカは。マジでなにやってんのさ、原作主人公。普通に砲撃以外は発達してないんかい。



「フェイト、クロノさんもとりあえず放置でいい。
いきなりこっち乗り込んで来たりしない限りは問題ないでしょ」

『それもそうだな。とにかく、こっちもユーノと相談しつつ調査していく。
お前からもフジタ補佐官にもよろしく伝えておいてくれ。僕達は協力は惜しまないとな』

「了解です」



正直、ここはありがたかった。クロノさんとフェイト、今のところまともだもの。



『あと、親和力に関しては気をつけておく。こうなってくると私達が本局から動けなかったの、むしろ良かったのかも知れないね』

『そうだな。結果的にだが、親和力の影響を至近距離でマトモに受けずに済んだ。
まぁそれでも受けまくっている人間が居るわけだが、それでも僕達はまだ大丈夫だ』

『あとは現状よりも公女関連のテレビとかを見ないようにする・・・・・・だね。
というか、それくらいしか出来ないんだよね。あまりにも強力過ぎるし』

「そうなんだよね。僕はまぁ、大丈夫なんだけど」





アレク曰く、親和力を防ぐ手段は今のところ手元には無いらしい。・・・・・・クーデター派以外は。

クーデター派は、親和力を完全にシャットアウトする手段を持ってるらしい。まぁ道理だよね。

そうじゃなかったら、クーデターは成功するはずがない。親和力の行使者は今より多かったんだから。



だけどまずいなぁ。アレをなんとかするにしても、親和力への対抗手段をこっちも用意しないと話にならない。

アレクも自分の能力を完全カットとか出来ない。やれるのは、一時的に通常時より出力を上げる事のみ。

何にしても歯痒いけど、まずはそこからか。それがどうにもならなかったら、僕達は何も出来ない。



場合によっては・・・・・・クーデター派と交渉? だけどそうなると・・・・・・あぁ、やっぱダメだ。

普通に考えて、連中がアレクや公女を生かしたままでの対処に納得するとは思えない。

下手な交渉は、命の危険にも繋がる。例えばマクシミリアン・クロエやアイアンサイズがそれだね。



あとは親和力を知っている上で加担してる連中も、同じくそういう判断をすると思う。



何にしても、これは最後の手段だ。多分まだこの手を取る状況じゃない・・・・・・はず。





『だけど油断しちゃダメだよ。ヤスフミの自己催眠だって、強力ではあるけど限界はきっとあるよ?』

「そうだね、気をつけておく。今回ばかりは、さすがに向こうが上手だろうし」

『うん。・・・・・・というか、どうして話してくれなかったの?
修羅モードが、自己催眠を使用した潜在能力の開放状態だって』

「・・・・・・言われても困る。シャマルさんや先生、師匠に口止めされてたんだから」



催眠系の能力を使う類は実は多かったりするので、手札として必要と言われて納得はしたけど。



『フェイト、ここは納得しておけ。というより、僕は納得した』

「そうそう。フェイトも内緒で頼むよ?」

『分かってる。というか、話してくれる時に約束したよね? 大丈夫だから』

「ならよかった」



とにかくフェイトは納得してくれたので、問題なし。挿し当たっての問題は・・・・・・アホ公女とアイアンサイズだ。

公女がアホだからと言って、アイアンサイズの好き勝手にさせるわけにもいかない。両方止めないといけないのだ。



「とりあえず・・・・・・あのアホ公女一回ぶった斬ってやる。
いいや、もうこんな事をしないように徹底的にぶっ潰してやる」

『ダ、ダメだよっ! 現時点では、公女の犯罪だと立証出来ないんだし』

「関係ない」



うん、立証出来ないのよ。アレクの証言だけじゃ、物的証拠がないもの。

その疑いがあるというだけじゃ、逮捕なんて無理。でもそんなのは関係ない。もう、やると決めたんだから。



「あのバカには、自分の罪を数えさせなきゃ気がすまない」



強く言い切ると、フェイトが押し黙った。押し黙ったけどそれでも口を開く。



『・・・・・・親和力で、長年カラバの人達に性質の悪い独裁を敷いてたこと?
そしてそれを今度は、次元世界全体でやろうとしていること?』

「違う」



んなのどうでもいい。そもそも僕は、基本局員でもなければ正義の味方でもなんでもない。

世界のためとか会ったことも無い人達のためになんざ、戦いたくない。



『じゃあ、ヴェートルの人達を実質的に盾として利用していること?
GPOのマクガーレン長官と、ランサイワ捜査官を支配化に置きかけていること?』

「全然違う」



ぶっちゃけこれも・・・・・・まぁ、さっきよりはどうでもよくはない。

ただ今回は違う。今胸に湧き上がる想いとは、無関係。



『じゃあ、何かな』



フェイトはきっと分かってる。表情から、そんな感情が見えた。なお、クロノさんはもう分かってるから何にも言わない。

・・・・・・そうだよ、それで正解。そんなの決まってる。そう、アイツの罪は一つで充分だ。



「自分の弟の心を、あそこまでズタズタにしやがったことだよ。
だから許さない。だから、突きつける。あのアホ公女の数えるべき罪を」



一番近くに居て、力になれたはずだ。アレクが追いつめられていた事に、気づいていたはずだ。

なのに道具扱いした。そうして、傷つけた。・・・・・・ふざけんなよ。



「・・・・・・フェイト、クロノさん、悪いんだけど今から僕のやることに、一切文句つけないで。
もう絶対に負けられない。アイアンサイズもクーデター派も公女も、纏めてぶっ潰すから」

『お前・・・・・・本気か』

「本気ですけど何か?」



あいにく、僕はここまでやられて温厚でいられるほど人間出来てないのよ。



『ヤスフミ、落ち着いて? あの、一人でなんとかしようとしないで。私達も力になるから』

「別にいいよ。フェイトはクロノさん共々、現状じゃあこっちには来れないでしょ。色んな意味でさ」



もう局の方針どうこうの話だけじゃなくなった。下手に増援に来られても相手の札になる可能性がある。

・・・・・・ルール無視でこっちの切り札を手札に加える能力か。くそ、マジでチートだし。



「だから最低でもアレクの身柄だけしっかりと守ってもらえれば・・・・・・それで充分だから」



フェイトがどう言おうと、僕はもう止まるつもりはない。もう、余裕なんてない。使い切ってしまった。

僕がズルズルと躊躇っている間に、零れ落ちてひび割れたものがある。だから、もうそんな余裕はない。



『ダメ。・・・・・・ヤスフミは私の・・・・・ハラオウン家の家族なんだよ?』



フェイトはもう分かってるはず。付き合い、長いんだしさ。でも、必死な顔で止める。



『去年あれだけ大暴れしたのに同じことをしたら、また縁を切る切らないなんて話になるよ。
そんなの絶対にだめ。ヤスフミ、お願い。親和力の対策も含めて、絶対にすぐにどうにかする』



だからここは少し申し訳ない。振り切って、また傷つける事は確定だから。



『だからここは、私やクロノが動けるようになるまで待って欲しいの。GPOのみなさんにもそう伝えて』

「嫌だ。縁切りたきゃ勝手に切れ。てーか僕の邪魔をするなら、ハラオウン家はもう家族じゃなくていい。
僕、元々天涯孤独も同じなんだしさ。今更一人に戻ったって、それはそれでいいでしょ。よし、そうするわ」

『ヤスフミっ!!』

「・・・・・・僕は別にハラオウン家や本局のために自分の道理を捨てるつもりはない。
フェイトやクロノさんへの『信頼』のために、売られたケンカを捨てるつもりもない」



そうだ、分かってる。分かってるから・・・・・・どこかで諦めたような顔をしている。



「これは僕がやらなきゃいけないこと。僕が通すと決めたこと。そして、僕のケンカだ。
だからフェイトやクロノさんにリンディさん達が何言おうが、もう絶対止まらないから」

『・・・・・・ヤスフミ』










自分を『化け物』だと言う事が、そうやって卑下する事がどれだけ辛いか、少しだけ分かる。

画面の中でもう何も言わずに心配そうに視線を向けてくれる、優しい一人の女の子をずっと見てたから。

人と違う事を、ずっと抱えて悩んでる。多分今も。すごく優しくて、ちょっとだけ弱いから・・・・・・そうなる。





だからあのアホ公女を、僕は許さない。どんな理由があろうと、認めるつもりもない。





このままじゃ済まさない。同情も迷いも見せずに、お前の全てを否定する。絶対の、絶対にだ。




















『とまとシリーズ』×『メルティランサー THE 3rd PLANET』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と祝福の風の銀河に吼えまくった日々


Report08 『Finally came the goddess of flash』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



やはりこういうことになったか。アイツと通信を終えてから色々振り返っても、やはり同じ答えしか出ない。





恭文の奴、ここ最近のアレコレも含めて完全にキレている。だからこそ僕達に対して『振り切る』と宣言したんだ。





まぁ次元世界の征服どうこうはともかくとしても、公女に罪があるのは否めないしな。そこも大きいだろう。










『クロノ、私ヤスフミともう一回話してみるよ。アレだとまた派手に暴れかねないもの。正直、1年前みたいなゴタゴタはもう嫌なの』



・・・・・・ギンガ陸曹を助けた時のアレコレか。だから申し訳なさで胸が痛む。フェイト、すまん。

僕はそのゴタゴタを終息させる手札を持ちながら、切らなかった人間なんだ。



『今の状態でこんな事したら、本当に母さんやアルフがなんて言うか分からないよ。
親和力の影響で、公女を倒そうとするヤスフミを敵視してそのまま・・・・・・かも』

「やめておけ。フェイト、君も分かっているはずだぞ?
そんな話題を今の状況で出すのはナンセンスだし、なにより今の恭文は止められない」

『・・・・・・うん。ヤスフミ、完全にキレてる。察するに多分公子の状態、かなり悪いんだね』

「だろうな。だからこそ恭文の奴は、公子の言葉を信じる事にしたんだ」





アイツはなんというか、人様のために動くところがあるからな。公子の状態がキレたきっかけなんだろう。

フェイトの自己犠牲癖をアレコレ言うが、ハッキリ言ってアイツに言う権利はない。

そこはともかく・・・・・・どうしたものか。正直、下手に他の人間に協力を仰ぐのは怖いな。



フェイトも同じなのか、困った顔を隠そうともせずに僕に向けている。





『クロノ、これって局の上の方に報告は』

「ダメだな。もしもそれで公女のシンパに伝わったら、その時点で詰みだ。
フェイト、分かってはいるとは思うがこの事を話す人間は」

『分かってる。公女に対しての好感度とか、そこの辺りの反応とかを見た上で・・・・・・でしょ?』

「そうだ」



今のなのはやファンクラブに入っている母さんのような状態だと、やめておいた方がいいだろう。



『でも私達だけで対処は絶対に無理だよ。もちろんGPOだけでも。
局の中で信頼出来る人間の力は、必要になると思う。それも多数だよ』

「そこは僕も同感だが・・・・・・問題は、その『信頼出来る』がいつもの調子では使えない事だな。
親和力の影響で、仕事や友人関係などをそっちのけで公女のために動く危険性もある」



恐らく最高レベルまで親和力の影響を受けた人間は、公女が『死ね』と言えば喜んで死ぬのだろうな。

えてして神への行き過ぎた信仰というのは、そういうものだったりする。僕も見た覚えがある。



『何にしても、まずそこを見極める事・・・・・・か。でも、そんな時間あるのかな』

「どうだろうな」



このまま草の根運動的に親和力を振り撒いていくつもりなら、まぁまぁ時間はある。

だが、もしも何か決定打を密かに準備している・・・・・・なんて状況だった場合、その答えは真逆の物になる。



「どっちにしろ現場の事は、GPOやEMPDに任せるしかない。何より迂闊に僕達が現場に乗り込んでもアウトだ。
恭文やGPOのアンジェラ捜査官のように、僕達は親和力を無効化出来るわけじゃない」

『・・・・・・あぁそうだよね。その問題があったんだ。例えば公女を普通に私が逮捕しようとしても』

「一瞬で君は公女の信仰者にされる危険がある」





大半の人間は恭文のような強力な自己催眠が使えるわけでもない。



それに生まれつきそれに耐性があるわけでもないだろう。というより、そんな人間は極々稀だ。



そしてタイムリミットが不明なこの状況で、そこを探している余裕は0だ。





「いや、仮に逮捕出来てもそれでは無駄だ。
裁判などでそんな能力を常時発動されたら、すぐに野放しになってしまう」



だがそう考えていくと、どうしようもない現状に対して僕達が対処するべき方向性は見えたな。



『それならまず私達がやるべきことは、やっぱり親和力への対抗策の構築だね』



フェイトも同じなのか、困った顔を真剣なものに戻して・・・・・・僕を見ていた。



『クーデター派がそれが出来ている以上、私達に出来ない道理はないよ。
こういう場合、ユーノに調査も頼みつつ・・・・・・マリーさんに頼むとか?』

「そのためのとっかりが全く無い状態ではあるが、それが妥当か。
・・・・・・よし、その方向で動く事にしよう。僕からも明日フジタ補佐官に連絡しておく」

『そうだね。互いに協力し合っていかないと、きっとすぐに詰みになっちゃうもの』










はやての調査報告を待つまでもなく、答えは出てきた。それも、最悪な答えだ。





僕達が暮らす世界は、親和という名のウィルスによって少しずつ蝕まれていた。





何が何でも今のうちにこの流れを止めなくては、大変な事になってしまう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・結局午前様になったその翌朝。僕は朝一番で補佐官に呼ばれて、補佐官の個室オフィスに居た。





なんでも突然に、自分と僕宛にビデオメールが届いたとか。










『・・・・・・あー、恭文。元気しとるか? あ、フジタ補佐官は初めましてやな。八神はやてです』



あのバカ、何してんのっ!? てーか、普通に金髪の男連れて婚前旅行とかかいっ!!

なんか城とか見えてるし、空は青いし白い鳩とか飛んで、世界は二人のものってやつですかっ!?



『蒼凪さん、フジタ補佐官、初めまして。GPO特別捜査官の、ランドルフ・シャインボルグです』



・・・・・・だけど、婚前旅行とかじゃないらしい。だって、話に聞いているパティの想い人なんだから。



「え、でもなんではやてとこの色男が一緒に?」

『僕達は現在、カラバに居ます』



はぁっ!? い、いや・・・・・・だから、それでなんではやてと一緒にっ!!



『こちらのランディさんからSOSをもらってな、うちはクロノ君の使いで、極秘でこっち来たんよ』

「極秘・・・・・・あぁ、だから僕とかリインも知らなかったと」

『それでわざわざビデオメール送った用件はもう言う必要ないと思うけど・・・・・・カラバっちゅう『国』の真相や』



僕とフジタさんは顔を見合わせる。その間にも、ビデオメールは続く。



『まずカラバの王族には、親和力言うレアスキルがある』



なおこの辺りの話は昨日したので、割愛する。内容はほぼ同じだった。で、重要なのはここから。

カラバという『国』が管理局システムの中でずっと存在し続けていた一番の理由は、親和力なのだ。



『・・・・・・親和力を用いる事で国民はおろか、局上層部にすら『自主的に』自分達の王政を認めさせていたようなんです。
だからこそカラバという国は存在出来ていた。親和力自体も、王族やそれに近い一握りの人間しか知らないようでした』





ただし、ここで派手に次元世界征服というのはしようとは思わなかったらしい。

能力が外にバレて、敵を大量に作る事を恐れたからとか。まー、ようするにアレだよ。

今回みたいな事にならないように、だね。対策を取られる可能性も考慮したんでしょ。



だから、カラバの王族は小さな『国』の中だけの事で治まった。

そして次元世界の中でも、極力目立たないようにしていた。・・・・・・・だから、なんだよね。

実はカラバという世界の事は、今回の一件が起こるまではあまり知られていなかったのよ。



クーデターが起きてアレク達が亡命して、EMPでテロが起きるようになって・・・・・・それでだね。



もちろん公女がアレクの言うように、親和力を悪用し始めたからというのもある。





『そやけど、そんな甘く緩い独裁は崩れて王族は国を追われた。
数ヶ月前のクーデターによってな。あとは、アンタらのご存知の通りや』



それがカラバのクーデターの真実。つまりクーデター派は、長年の親和力による独裁政権を覆そうとした。

いや、向こうから見ればもう独裁なんてレベルじゃない。親和力という能力を用いた、支配だ。



『で、首謀者のマクシミリアン・クロエがクーデター成功したにも関わらず、身内使ってEMPにテロを実行。
そうまでして王族を皆殺ししようとしてるんは、そこが理由なんよ。クーデター派は、親和力を根絶しようとしとる』

『親和力は、親から子へと例外なく遺伝していくタイプのレアスキルのようなんです。
つまり現在の保有者を全員殺さなければ、このレアスキルは絶対に根絶出来ない』

『あとな、王族はどうやらクローン技術も研究していたようなんよ。ただ、100年単位でずっと昔にな』



・・・・・・マジで色々やらかしていた国らしい。普通にここで、色々とボロが出てきたし。



『このスキルは自然交配やないと発生しないっちゅう、訳の分からんもんらしくてなぁ。
結局は失敗したそうや。多分、ここも能力を使って世界征服とかしようと考えなかった要因やろうな』



しかし、良くここまで調べ上げられたよね。時間、そんなになかっただろうにさ。



『ザフィーラさんやはやてさんのご協力のおかげで、なんとか。
あと、こっちはまだまだ混乱期にあります。そこを活用させていただきました』



で、また僕達は顔を見合わせる。いや、あの・・・・・・普通にビデオメールだよね?

なんでこっちの思考が読めてるのさ。なにげに怖いんですけど。



『あと、同封したイヤリング三つがあると思うのですが』



僕がフジタさんの方を見ると、フジタさんは視線で青いケースを指した。

そこには確かに三つのイヤリング。金色で・・・・・・って、あれ? これってどっかで見たような。



「・・・・・・あ、キュべレイとダンケルクがつけてたのだっ!!」



そうだよそうだよ、右耳に装着してたじゃんっ! もうこれ、そのまんまだしっ!!



『そのイヤリングは、親和力キャンセラーとも言うべきものです。親和力の影響を完全に遮断します。
今回の革命の成功は、そのイヤリングの開発成功が決定打になったようです』

『あ、一応補足や。これは耳につけんでも、持ってるだけで効果があるとか。
・・・・・・そやったら、なんでイヤリングにしたんやろ』

『さ、さぁ。そこは僕にもさっぱり』





・・・・・・クーデター派の首謀者であるマクシミリアン・クロエは、側近であるが故に親和力の事を知った。

ただここで、それでも王族を受け入れるという選択は出なかった。出たのは、それと真逆の選択。

それは親和力を恐れ、憎み・・・・・・絶対に滅ぼすという選択。親和力は、きっと悪魔の力に映ったんでしょ。



だからまずは親和力の対抗策を作った。それがこれ。で、これを装着して、王族皆殺し計画の発動だよ。




≪・・・・・・なるほど。だからキュべレイとダンケルクが装着していたわけですか。そして≫

「あぁ、これで連中がカラバの関係者だと証明された。まぁ、表には出せないが」



・・・・・・そうだよねぇ。だって、普通にこれを出したら、こっちが親和力の事を知ってるって、バレちゃうもの。

こっちは知ってるけど、向こうは知らない。これは大きなアドバンテージだ。だから上手い事活用して止めないと。



『とにかく現在そのイヤリングは、革命派が市民に配っています』



なるほど。このイヤリングを使って、親和力の影響をシャットアウト。革命派の立場を固めようと。

それと同時に、カラバから完全に王族の帰る場所を無くす。確かにいい事尽くめだわ。



『ただ、僕達が入手出来たのはこれが限度でした』

『一応解析したんやけど、見かけによらず結構高度な技術使ってるみたいでなぁ。
管理が厳しかったんよ。まぁ、有効利用してなぁ。・・・・・・とにかく、うちらからの報告は以上や』

『僕達は引き続き、カラバの調査に回ります。・・・・・・あぁ、それとフジタ補佐官』



ランディさんが、なんかすっごいもじもじし出した。

それに僕達は首を傾げていると、はやてが右手でポンと背中を押す。



『・・・・・・パティによろしく伝えておいてください。
もうすぐ帰ってこれそうだからと。あと、お土産もたくさん用意してると』



それだけ言うと、メールの映像は切れた。というか、ランディさんが慌てたように切った。

・・・・・・なんですか、これ。なんで最後ラブメール? おかしくない?



「とりあえず・・・・・・パティには、しっかり伝えておくことにする」

「そ、そうですね。そうした方がいいでしょ。で、あとは」

≪このイヤリングですね≫



数は三つ。当然のように、全員分にするには数が足りない。だけどこれは大きなチャンスでもある。

はやて、ランディさんもありがと。おかげで頭を痛めていた親和力対策の足がかりが出来た。



「・・・・・・フジタさん」

「なんだ?」

「一つ確認です。・・・・・・このままアイアンサイズを見過ごすなんて事、しませんよね」

「バカ者、するわけがないだろう」



フジタさんは突然の僕の質問に、デスクに座りながらも両手を組んで呆れ気味に答えた。

一応殴られるくらいは覚悟してたんだけど、まぁまぁよかったよ。



「確かにお前が今考えたように、この図式だとアイアンサイズは正義のヒーローの位置だ。
だが、それは位置がそうなったというだけの話。・・・・・・連中の罪が消えたわけではない」



そうなんだよね。連中が起こしたテロによって死んだ人達が居る。それも相当数だ。

それを『公女を止めるために仕方なかった』から、許してやれ? ・・・・・・出来るわけがない。



「他はどうあれ、俺は連中のやり方を絶対に認めない。認めてしまえば、亡くなった人達が浮かばれん。
仇討ちなどと言うつもりはないし、それで俺達の不手際が払拭出来るとも思ってない。ただそれでも・・・・・・止めるぞ」

「つまり、アイアンサイズも公女もEMPの治安を脅かす犯罪者として・・・・・・ですか」

「そうだ。・・・・・・まぁそういうワケだから、安心しろ」



立っている僕の方を見上げながら、補佐官が何か見透かしたような顔で軽く笑っていた。



「時として司法取引も必要だが、俺は連中にそんな譲歩をしたくはない。
まずは今までのツケを払わせる。全部の話はそれからだ」

「・・・・・・はい」



というわけで、軽く盛り上がったところで話を戻そう。・・・・・・誰かに解析してもらって、コピーを作ってもらう?

でもこの場合のネックは、それにどれだけかかるか分からない事と、頼れるスタッフが諸事情で居ないこと・・・・・・あ、待てよ。



「あ、そうだ」

「どうした、蒼凪」

「まず一つなんですけど、アレクが装備ってのはどうでしょ。
もしかしたらアレクの親和力の自然放出、シャットアウト出来るかも」

「・・・・・・なるほど、俺達が公子の親和力の影響を受ける可能性は削れるということか。蒼凪、いいアイディアだ」



でしょ? 我ながら、ここ数年で一番の思い付きだと思うんですよねぇ。・・・・・・で、あと二つだよ。



「フジタさん・・・・・・は、前に出ないから大丈夫・・・・・・かなぁ」

「不安げになるな。俺は大丈夫・・・・・・の、はずだ」

≪親和力があまりにもチート過ぎますからね。まぁ、後ろに下がっているフジタさんは除きますか≫

「リインも親和力の効果が薄いし、僕が側に居るから良しとするでしょ?」



で、親和力を弾き返せる僕とアンジェラも除かれるでしょ? てーか、つける意味が分からないよ。

そうすると、シルビィ、ジュン、ナナ、パティ。あと、月分署のサクヤさんとメルビナさんか。



≪ただ・・・・・・サクヤさんとメルビナさんは躊躇いますね。
親和力をシャットアウトは出来るでしょうが、敵の近くですし≫

「気づかれて破壊されて・・・・・・という可能性もあるということか。
メルビナ長官達がそんなポカをするとは思えないが、現時点での状態も不明なのが怖いな」

≪いやフジタさん、メルビナさん達が大丈夫だとしても、他に問題があります。
・・・・・・向こうがイヤリングを見た時点で色々気づく可能性もありますよ?≫

「なるほど、蒼凪が気づいたくらいだ。向こうが分かっても不思議はないかも知れないと」



どっちにしてもリスクはあるって事か。切り札が捨札になるリスクと、メルビナさん達が敵に回るかも知れないリスク。



「なにより昨日の公子の反応を見るに、親和力の影響を受けている人間と受けていない人間には差があるようだ」

「・・・・・・あぁ、そこでもバレるかも知れないと」



・・・・・・僕はフジタさんを見る。正直、僕とアルトでは判断し切れない。



「よし、それならシルビィに渡す事にしよう。もう一個は俺の昔馴染みのスタッフに解析を頼む」



それで作れるならコピーを作っちゃうって事だね。もちろん親和力への影響どうこうを見た上なのは、言うまでもない。



「まぁ、妥当ですよね」

「そういうわけで」



フジタさんが、ケースの一つを僕に手渡してきた。・・・・・・え、なにこれ?



「シルビィにこれを頼むぞ」

「・・・・・・はぁっ!? いやいや、ちょっと待ってっ! 普通にそれはないでしょっ!!」

「何を言っている。お前はシルビィとはだな・・・・・・親しいのだから、問題ないだろう」



いや、問題ありますよっ!? その理屈、絶対おかしいですからっ!!



「あー、シルビィは非番だが、お前は違うから・・・・・・・そうだな、昼までには戻って来いよ?」

「だから話を聞いてー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ヒロ、どうだったよ」

「だめ。メルビナ、完全に公女様命になっちゃってる。・・・・・・やっさんの言う通りだった」

≪姉御、普通にあれはやばいぜ? シンパどころか、信仰モード突入じゃないかよ≫



そこまでかよ。てーか、真面目になんだよこれ。普通にあり得ないだろ? 絶対おかしいって。



≪公女様が私のために今すぐ死ねと言えば、普通に満面の笑みで首にナイフを躊躇い無く突き立てる勢いだって≫

≪ランサイワ捜査官も同じだそうだな。・・・・・・親和力、またとんでもない能力があったものだ≫



昨日の夜、やっさんから俺らに連絡があった。で、説明された。今回のクーデター、色々と裏があった事を。

ヒロは話を聞いて、早速マクガーレン長官に普通の会話をしつつ様子を見たんだが・・・・・・アウトだった。



「あぁもう、失敗だった。よくよく考えていけば、おかしいと思う点は多々あったのに」



ヒロの表情が重くなる。というか、机に突っ伏して頭を抱える。



「・・・・・・言ってもしゃあないだろ。俺らも親和力の影響を、受けに受けまくってたんだから」



だから自然と公女を疑うという思考を外していた。知らない内にそんなことをするわけがないとすら、思っていたかも知れない。



≪なにより、能力の幅が無茶苦茶過ぎるんだ。呑気にテレビ見てても公女が好きになるんだぞ?
姉御だけのせいじゃねぇよ。こんなの察しろって言う方が無理だ≫



アメイジア、全く同感だ。・・・・・・でも話を聞いて納得出来た。管理局は今回の事態に注目している。

だからこそ余計に全体的に親和力の影響を受けてるんだ。公女擁護論は日増しに強くなっているしよ。



「まぁ確かにね。・・・・・・・でもまずいな。アイツが敵に回るのは、絶対マズイ。
もしそうなったら、やっさんは修羅モードでも勝てないかも知れない」

「・・・・・・おいおい、ちょっと待てよ。修羅モードのやっさんでも勝てないって、どういうことだよ」

「あれ、言ってなかったっけ? 私メルビナと本気でバトって、勝率4割切ってるのよ」



はぁっ!? お前が勝率4割・・・・・・待て待て、どんだけ強いんだっ! あの長官はっ!!



≪・・・・・・あぁ、そっか。アレがあったんだよな。姉御、ボーイ達絶対やばいぜ?≫

「待て待て、なんでそうなるんだよ。ヒロ、アメイジア、俺らにも分かるように話してくれ」

「分かってるよ。実はさ、メルビナ・・・・・・レアスキルがあるのよ。それも相当戦闘向きで強力な」



・・・・・・ヒロとアメイジアから、詳細を聞いた。で、頭を抱えた。そりゃあ勝てないわと。



≪絶対領域・・・・・・フォースフィールドですか。また厄介な≫

「能力を発動すれば、宇宙空間ですら活動可能って、なんだよそれ」

「あ、大気圏もそのまま突入可能だよ?」

「はぁっ!?」



で、実際にやって『ちょっと熱かった』程度で済んだとか。なんかフィールド内は普通に生命維持能力もあるらしい。



「その上、強度も相当」

≪ついでに、剣術の腕は姉御とタメ張れる。そこだけでも、今のボーイより上だ。
メルビナのねーちゃんには無敵の盾と矛が、同時にあるってわけだ≫



てーか待て待て。このクロスはチートがひどくねぇか? 親和力もそうだが、これも強過ぎるだろ。

あと、アイアンサイズの能力もだよ。原作準拠とは言え、これはありえないよな?



≪姉御、どうするよ。向こうにもこの事を知ってるスタッフは居るだろうし、その辺りは100も承知だろうがこのままじゃ≫

「・・・・・・タイミングを計る必要はあるけど、一応準備はしておくよ。大丈夫、私なら破れる方法は幾つかある。
今のやっさんなら、どんな手を使ってでもメルビナを叩き潰そうとするだろうけど・・・・・・さすがにね。まだまだ荷が重いって」

≪だよな。ま、俺らなら相手は慣れてるし、まだ何とかなるか≫



ヒロが真剣な顔で、なんかとんでもない事を言い出した。

・・・・・・待て待てっ! チート能力を破る手段があるって、お前まさかっ!!



「ヒロ、マジか?」

「マジだよ。・・・・・・友達の目を覚ましに行くだけだ。私の勝手で、私の道理でね。そうすりゃ問題ないでしょ」










・・・・・・仕方ない、俺も付き合う覚悟を決めるか。このバカだけにやらせるわけにはいかないだろ。

とりあえずアメイジアからフォースフィールドのデータをもらって、対策を整えておきますか。

なお、やっさんには今回はやらせない。アイツにはアイツなりに、通すべきケンカがあるからだ。





少し話した印象だが、アレクシス公子の親和力の影響を跳ね返した上で、公女に対してキレてる。

もう止まらない。誰がなんと言おうと、公女と自分にケンカを吹っかけ続けてるアイアンサイズを半殺しにするまでは絶対にだ。

そして思う。公女とアイアンサイズはもう終わりだと。ここからのやっさんは、もう今までとは違う。





・・・・・・アイツがどうして、『古き鉄』と呼ばれるのか。

何故過去に幾度となくオーバーSな方々を粉砕しているのか。

連中は、その理由を身を持って知る事になるだろう。





可哀想に。またアイツを敵に回して、地獄を見る愚か者が増えるのか。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・抵抗は無意味だった。仕方ないのでシルビィの自宅までやって来て、イヤリングを渡す。





なお誤解されても嫌なので、速攻で勝負をつけるのだ。いや、その前段階でリビングに上がっちゃってるけど。










「シルビィ、ほい」



リビングに置かれたテーブルの向かい側に座って、シルビィがビックリした顔をする。

シルビィは両手を出して受け取ってくれる。そして箱を開き、顔を赤くする。



「それ、親和力キャンセラーだから。で、ちゃんと持っててね? 耳につけなくても効果があるんだって」



シルビィが何か言い出す前に、伝える。・・・・・・ふ、反応は予想通りなのさ。

だから、シルビィだって普通に『分かった』と言いながら、頷くのである。



「でも、親和力キャンセラーって、なに?」

「・・・・・・あ、まずはそこからだよね。えっと、かくかくしかじか・・・・・・・というわけなの」

「なるほど、そういうことなんだ。納得だわ。ランディ、元気そうだった?」



シルビィは、少しだけ心配そうな顔でそう口にする。・・・・・・従姉弟だから、色々あるのでしょ。



「まぁ、映像を見る限りでは。・・・・・・僕の友達に、早速主導権握られてたけど」

「あ、その子・・・・・・女の子でしょ? ランディ、昔から押しが弱いから」

「あー、そんな感じだったよ。パティへの個人的メッセージも、はやてに背中押されてようやく言ってたから」

「そっか」



いやぁ、でもすんなりとイヤリングの事、納得してくれてよかったよ。

普通に、納得しなかったらどうしようかと思ってたし。



「でも、ちょっとがっかりかな。せっかくヤスフミからの初プレゼントだと思ってたのに」

「するわけないじゃん」





シルビィが入れてくれたコーヒーをすすりつつ、そう思う。なんか、ちょうどメーカーを使って淹れてたらしい。

・・・・・・シルビィはコーヒー派なのね。僕はどっちかと言うと紅茶だけど。でも、このコーヒーは美味しい。

これでも喫茶店勤務だったから、よく分かる。うーん、豆も良いけど焙煎も自分でしてるのかな。



すごく香りが良くて・・・・・・あぁ、なんか贅沢な時間を過ごしてる気分だよ。





「ちょっと、それどういうことっ!? なんでそう言えるのかを、しっかりと聞きたいんだけどっ!!」

「だって、正式な彼女でもない女の子に貴金属類プレゼントなんて、狙いすぎでしょうが」



そっぽを向きつつ言うと、シルビィは・・・・・・少し笑った。



「ね、アルトアイゼン。もしかしてフェイト執務官にもこんな感じなの?」

≪こんな感じですね≫



なに勝手に喋ってるっ!? てゆうか、普通だからっ! これ、普通だからねっ!?



「ふーん。ヤスフミって意外と古風なんだ。そういうこと気にしちゃうタイプなのね」

「・・・・・・悪い?」

「ううん、悪くない。むしろ私は、そういうのはいいことだと思うな」



てか、また楽しそうにニコニコするなぁ。・・・・・・いいことだと誉めてくれたのは、うれしいけどさ。



「だけど、たまには大胆になってみたら? もしかしたら7年スルーは、そういう部分が原因なのかも」

「だ、大胆になるって・・・・・・例えば?」

「うーん、そうだなぁ。・・・・・・急に身体を引き寄せて、唇を奪う。
そして甘い言葉をささやきながら、更に抱擁と愛撫を・・・・・・とか?」



よし、とりあえずそのどこからか取り出した、ハーレクイーン小説は手放そうか。

うん、全力全開でね? てーかさ、普通に無いから。普通にそれ、犯罪になる可能性大だから。



「ヤスフミはなんだかんだ言いながら、本当に好きな子には一線引いちゃうタイプみたいね。
私にはあんな感じでうまく出来るのに。あの調子がいつも出来れば、大抵の子は落とせるのになぁ」

≪あなた、よく分かりましたね。この人、ヘタレだから中々強引にいけないんですよ。
その上天然フラグメイカーですから、余計に性質が悪いんです≫

「でしょ?」

「ヘタレって言うなっ!!」

「だから、自分からその線を越えないとダメよ」



ツッコミがまた無視されたっ!? あぁ、なんかすっごい立場弱くなってるー!!



「別に言葉は『好きだー』って、ストレートでもいいのよ?」



リビングで僕を見下ろしながら、両手で小説を抱きしめつつそう話すのはシルビィ。

少しだけ大人っぽく、普段は見せないであろう本当の意味での女性として笑う姿が、無駄に綺麗。



「ただ、ボディランゲージで気持ちを伝えるのも、大切だから」



窓から差し込む太陽の光に金色の髪と白い肌、青い瞳が照らされて、余計にそう思う。



「言葉だけじゃ伝わらない事も、沢山伝わるのよ? ・・・・・・よし」





で、右手でポンポンとテーブルを、自分の左側を、優しく叩く。

・・・・・・こっちに来いと言っている。行動と目を見て、すぐに分かった。

フェイトと同じ癖があるんだと思いつつも、僕はコーヒーカップを持ったまま、立つ。



で、そのままシルビィが引いてくれた椅子に、座り直す。





「ヤスフミって、キスとかしたことあるかな。あ、リインちゃん以外でよ?」

「・・・・・・ほっぺになら、されたこともしたことも」

「あるんだ。それ、フェイト執務官・・・・・・じゃないわよね」

「そう、だね。僕に凄く良くしてくれてるお姉さん・・・・・・ほら、前に話したフィアッセさん。
その人の出身国のお国柄で挨拶代わりに・・・・・・って、感じ?」



フィアッセさんとかは、普通にお国柄でやってくるからなぁ。あとは・・・・・・知佳さんとか?



「でも、唇とかはない。・・・・・・そ、そうなのね」



え、なんでそんな急にしどろもどろになる? シルビィ、なんであらぬ方向を見るの?



「それなら、問題ないかなぁ」

「そしていきなり何の話っ!?」

「別に私はファーストキスってわけじゃないから、そこは気遣わなくても大丈夫よ?」

「そういう問題じゃないでしょうが」



僕は言いながらコーヒーを飲む。・・・・・・苦味が増してる感じがする。

シルビィは僕の様子にため息を吐いて、同じようにコーヒーを飲む。



「私、結構本気なんだけど? 一応今も誘ってる」

「知ってる。アバンチュールだもの、これ」

「うん、そうよ。私達の意志で選んだ、大切なひと時。事件が解決したら、終わっちゃう時間」



うん、アバンチュールはひと時の事だから、綺麗な思い出になるのよ。

ずっとは続かない。一旦終わらせて、新しい関係性を始める必要がある。



「だからこそ思いっきり楽しみたいな。・・・・・・私の事、そんな風に大事に扱わなくていいのよ?
私、ヤスフミが思ってるよりずっと大人だから。もちろん、遊びでそんなことしないけど」

「・・・・・・考えとく。てーかさ、最終決戦前にシルビィと・・・・・・その、ここでキスしたりエッチしたりするの、躊躇う」

「どうして?」

「だって、ぶっちぎりの死亡フラグだしさ」



コーヒーカップを両手で大事に持ちつつそう言うと、シルビィが笑った。

おかしそうに、腹を抱えて。・・・・・・そんなに面白いんかい。



「そう言えば、テレビとかではよくあるパターンよね。ヤスフミ、そういうの気にするタイプなんだ」

「・・・・・・だって、強固過ぎて怖いし」

「そっか。でも、考えた上で身体での繋がりはノーって感じっぽいわね」

「さぁ、どうでしょ。僕はシルビィが思ってるより、ずっとスケベだし。
シルビィに誘われて揺れることもなく断るなんて、ちょっと無理」



うん、スケベよ? 胸だって見る事あるし、エロな事を想像する時もある。



「それでもノーかな。・・・・・・ただね、それは時として罪になるって自覚を、ちゃんと持って欲しい。
そんな風に大事にされたら女の子は・・・・・・誰だって本気になっちゃうわよ? 私だって同じ」



ふと、シルビィの顔が近づく。近づいて・・・・・・不意打ちで、キスされた。

されたのは、右のほっぺた。シルビィは顔を離して、また微笑む。



「私、本気になっちゃうよ? 本気でヤスフミの事を好きになって、追いかけたくなる。
私達のアバンチュールが終わった後の関係性を、恋人にしたくなるんだから」

「なら、乱暴に扱った方がいいの?」

「ううん、私は遊びで男の子とそうなるのなんて絶対嫌だから。
今のは、ヤスフミを少し試したの。それで結果は」





そのまま、ゆっくりとモーニングコーヒーを飲みながら、朝のひと時を一緒に過ごす。試験の結果なんて聞きながら。



で、この後シルビィお手製の朝食まで軽くご馳走になってしまったのは・・・・・・まぁ、美味しかったです。はい。



なお、性的にシルビィを食べちゃったとかそういう話ではないので、ご了承ください。





「あ、それと」

「何?」

「一人で飛び出しちゃだめよ? アレクシス公子の事で、相当キレてるでしょ」



どうやらシルビィにも色々見抜かれているらしい。だから僕は頷いた。

頷くと、隣のシルビィは『やっぱりか』という顔で苦笑した。



「私も同じだから。こんなの、絶対に嫌だから。だからお願い。
・・・・・・巻き込んで欲しいの。今あなたの隣に居るのは、私だから」

「分かってるよ。どうもさ、ちゃんとアレクを守るためには僕だけじゃダメっぽいんだ。
シルビィ、悪いんだけど・・・・・・巻き込んじゃっていいかな。見返りは何も出せないけど」

「もちろん。というか、私が巻き込むから問題はないわよね」

「・・・・・・ありがと」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



EMPの分署に戻って来た頃には、お昼だった。で、分署に入ったらいい匂い。





そりゃそうだ。分署のキッチンで、カレーを大量に作ってるのが居たんだから。それも、公子。










「・・・・・・アレク、何やってんのっ!?」

「あ、恭文さんおかえりなさい。みなさん忙しそうだったので、お昼の準備をと思って」

「一応、リイン達は止めたですけど、お世話になる以上やらせて欲しいと言われて」



で、リインはエプロン着用でフルサイズになって、付け合わせのサラダを仕込んでると。



「そう言えば、アンジェラの家でも料理してたよね?」

「アンジェラ、料理の仕方が少し雑だったので、見てられなくて。だって基本『切る・焼く・食べる』しかしないんですよ?」



・・・・・・シルビィには聞かせられないなぁ。アンジェラの一人暮らしでの成長を喜んでたらしいし。

あ、ジュンから聞いてたの。でも・・・・・・なんかすごくいい匂いがするなぁ。



「というかアレクは料理出来るの?」

「あ、料理自体は元々好きなんです。カラバの男は、家事を担当する事が多いですから」

「あら、そうなんだ」

「はい。これは王族どうこうというより、もう国の文化として自然に出来上がってました。
カラバは女性の方が立場が強いんですよね。基本、男は尻に敷かれるんです」



・・・・・・どこの中国ですか。中国でも、男が家事手伝いするのは当然だとかなんとか言われてるらしいし。

そこの辺りについて考えていると、アレクが味見用の小皿を僕に差し出してくる。で、僕はそれを受け取って、ルーを一口。



「・・・・・・美味しい。これ、ただルーを使ってるだけじゃないよね?
どこかこう・・・・・・和風の味付けがされてて、懐かしい感じがする」

「和風だしを使ってるんです。あと、醤油をほんの一さじ」

「うわ、これはレベル高いわ。アレク、普通にお店とか開けるレベルだって」



僕がそう言うと、アレクがびっくりした顔になる。そして、少し恥ずかしそうに笑う。



「・・・・・・ありがとう、ございます」

「アレクさん、どうしたですか?」

「うん。親和力の影響が完全カットされるとか、家族以外で影響が全くない人と一緒なんて初めてだから。
・・・・・・今までは家族以外はみんな、この力のせいで誉められてるって思ってて・・・・・・それで、なんです」



そっか、力の影響が垂れ流しだったからなぁ。アレクの周りの人間は、自然とアレクを慕う。

つまりそれはアレクに対して無条件で味方になるということ。料理を本当の意味で誉められたこと・・・・・あれ?



「ね、アレク。親和力を持っている人間が複数居た場合は、影響ってどうなるの?」

「その場合は、互いの放出されいる親和力同士がぶつかり合って、完全に中和されるようなんです。
つまり親和力を持つ人間には、親和力は絶対に効きません」

「じゃあ、この場合は姉さんの親和力はアレクには効かないし、アレクの親和力も姉さんには効かない」

「はい」



なるほど、だからこそアレクは逃走することが出来たんだ。その意思そのものを持つ事が出来た。

アレクは生まれながらにして、他の親和力へのカウンターを持っているのと同じだから。



≪まぁ、その辺りはいいじゃないですか。今はお食事タイムなんですし≫

「それもそうだね。・・・・・・うし、アレク。僕も皿出し手伝うよ。とりあえず手を洗ってからね」

「はい、お願いします」





なお、アレクの作ったカレーは、みんなに大好評だったと付け加えておく。

それを見て、アレクは本当に嬉しそうだった。・・・・・・その様子に、少し安心した。

この子はどこにでも居る気弱で、だけど心根のとても優しい男の子なんだと分かったから。



絶対に・・・・・・化け物なんかじゃないよ。絶対、違うから。きっと、その言葉は嘘にしていけるよ。





「・・・・・・うん、やっぱり美味しい」

「良かったです」

「アレク、お代わりある?」

「はい。いっぱい作ってますから、どんどん食べてくださいね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・楽しくお昼を食べてから、みんなは休憩時間。少しだけ休憩室で、アレクとアンジェラとお話。





お茶を飲みつつ、まぁ、プライバシーに触れない程度に僕の話をした。










「・・・・・・ほえー。恭文の友達、いろんな人が居るのだ」

「幽霊などを退治する力・・・・・・地球では、一般的じゃないんですね」

「うん。地球では魔法能力者自体も少ないし、管理外だしね。
魔導師になってからね、ずっと・・・・・・そういうの、見てきたんだ」



紙コップ入りの紅茶を飲みながら、思い出すのは今までの戦いと冒険の日々。

なんだかんだで楽しい事が多かった、幸せな日々。



「なんというか、縁があるらしくてさ。うん、本当に縁があるんだ」

「・・・・・・だから、あなたは僕に対してああ言えたんですね。
一つの実感として、体験として、それを知ってるから」

「まぁ、綺麗事だとは思うけどね。・・・・・・うん、綺麗事だ」



僕はまたお茶を飲む。飲んで、ちょっと反省。なんか偉そうだったかなとか、思ったから。



「僕は多分、魔法資質を除くと『普通』ってやつだからさ。
正直、本当の意味ではアレクやその人達の事、理解してあげられないんだ」



多分フェイトの事もだ。拭えなくて、何も出来なくて・・・・・・イライラしたこと、結構ある。

それは今も変わらない。これはもしかしたら、一生拭えないジレンマなのかも。



「恭文」

「うん、どうした。アンジェラ?」

「そんなことないのだ」



真っ直ぐに僕の目を見ながら、少し見上げながら・・・・・・アンジェラが言って来た。



「全部分からないからダメなんて、違うのだ。恭文の言葉、アンジェラも凄く嬉しかったのだ。
・・・・・・あのね、アンジェラも『普通』と違うの。アンジェラ、バイオソルジャーなんだ」

「・・・・・・バイオ、ソルジャー?」



アンジェラが簡単に説明してくれた。とある世界の古代の生体兵器で、そう呼ばれる存在が居ると。

それでコールドスリープから目が覚めた時に、その場所で色々あったらしい。



「アンジェラ、その時にリオネラママに助けてもらったの。それでシルビィの家の子になったんだ」



・・・・・・あぁ。前にシルビィから聞いた、次元間結婚をしたお母さんか。



「そっか。・・・・・・というかさ、アンジェラ・・・・・・僕にそのこと教えていいの?」

「いいの。アンジェラ、これでも人を見る目はあるんだよ? 恭文はいいの」

「そっか。アンジェラ、ありがと」



僕がそう言うと、アンジェラが照れたように笑った。それからまた真剣な目になる。



「それでね、リオネラママは・・・・・・こう言ってたのだ。アンジェラの一番の味方になるって」

「一番の・・・・・・味方?」

「そうなのだ。リオネラママはアンジェラには絶対になれないし、アンジェラの事、きっと全部分からない」



あ、コレ・・・・・・うん、そうだよ。



「でもでも、アンジェラが泣いてたり、苦しい時には絶対に助けになる。
何時だって一番の味方になるって言ってくれたのだ」



そうだ、僕がさっき言ってた事だ。アンジェラ、僕の言葉に対しての答えを出してくれてるんだ。



「それでちゃーんとアンジェラの味方で居てくれたよ?
アンジェラが悪い時は叱られちゃうけど、それ以外は味方なの」



そして、アンジェラが笑う。笑って・・・・・・きっと僕を励ましてくれてる。



「だからアンジェラ、いつだって元気いっぱい。だから、恭文もそうすればいいのだ」

「・・・・・・一番の味方になる?」

「そうなのだ。恭文が『普通』でも、アレクやアンジェラや恭文の友達が『普通』じゃなくても、問題ないよ。
恭文が誰かを助けたいと思ったら、その子の一番の味方になってあげればいい。それだけで、いいよ」



一番の、味方。・・・・・・フェイトの顔が一番に浮かんだ。フェイトの、一番の味方。

あれ、なんだろう。さっきまで感じていたジレンマが解けた。



「それだけできっとその子は凄く嬉しくて、強くなれて、頑張れるから。
アンジェラが保証する。だから大丈夫。恭文は、恭文のまんまでいいのだ」

「それで・・・・・・本当にいいのかな」

「もちろんだよ。アンジェラ達になる必要も、気持ちが全部分かる必要もないのだ。
ただ恭文は一番の味方になって、一生懸命頑張ればいいんだよ?」



いつもより穏やかな声で、アンジェラはそう言ってくれた。僕は・・・・・・アレクを見る。

アレクも同感なのか、頷いてくれた。嬉しそうに微笑みながら。



「・・・・・分かった。なら、そうする。アンジェラ、アレク・・・・・・ありがと」

「どういたしまして。でも・・・・・・安心したら、お腹空いてきたのだぁ」



あははは、それは・・・・・・おかしいよねっ!? お昼食べてから、まだそんな経ってないのにっ!!



≪あなたの食欲はどうなってるんですか。あれだけお代わりしておいて≫



なお、10杯とかは軽く超えていたのは察して欲しい。この子の食欲は、マジでギンガさんレベルだった。



「アレク、とりあえず・・・・・・あれだ。夕飯、今から仕込む?」

「そ、そうですね。そっちの方がいいかも知れません。・・・・・・量、倍にしておいた方がいいかなぁ」

「うんうん。それでそれで、アンジェラはご飯沢山食べるよ?」

「出来れば自重してもらえるとありがたいんですけどっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして夕方、一日が平和に終わろうとしていた頃、事態が動いた。





本当に突然に、あの二人がやって来たのだ。










「・・・・・・みなさん、初めまして。本局執務官、フェイト・T・ハラオウンです。
今回の事件への捜査協力のため、クロノ・ハラオウン提督の指示でこちらに出向となりました」

「あ、シャリオ・フィニーノ一等陸士です。気軽にシャーリーと呼んでくださいね?」

「GPOの補佐官の、ツグロウ・フジタです。・・・・・・ご協力、感謝します」

「いえ、こちらこそよろしくお願いします」



そう、フェイトとシャーリーだ。なぜか右耳にお揃いのイヤリングなんて装備して、マジでやって来た。

ちなみに服装は私服。フェイトはジーンズ生地のスカートに黒の上着。シャーリーはGパンに白のカッター。



「・・・・・・シャーリー、何故に私服?」

「なぎ君、警告してくれたでしょ? それに従ったんだよ。
フェイトさんは相当不満だったけど、クロノ提督も同意見だったから」

「あ、それでか」

「そうそう。でも、ここに来るまでは大丈夫だったけど・・・・・・そこまで?」



一応の挨拶は終えたので、シャーリーと隅で肩を組みながら、こそこそお話。

で、僕は頷く。二人が大丈夫だったのは、制服着てなかったからだよ。



「シャーリー、止めてくれて助かったよ。・・・・・・実はさ、最近ちょっとあったのよ。
ただ歩いてるだけなのに『出ていけー』って言われて石を投げられた局員も居て」

「そうなのっ!?」

「そうなの。まぁ、投げたのは小さな子どもだったから、厳重注意で済んだの。
ただ、例の生体兵器相手の無能っぷりとかが広まっちゃっててさ」

「それでそんな事まで起きてると」



そうなのよ。シャーリー、納得してくれて非常に嬉しいわ。僕とリインも話を聞いた時、さすがにビビったもの。



「これは聞いてた以上だね。完全にここでは管理局がいらない子扱いなんだ」

「うん。だからリインも僕も、最初から制服もアンダースーツも無しだもの」



正直さ、来て普通にビックリした。ここまで完全管理局がアウェイな世界は無かったもの。



「実は私も自主的に色々調べてから来たんだけど、どうも4年の間に拗れに拗れてるんだよね。
本局もヴェートルを完全に問題児扱いで、交渉も強引にやってるそうだし」

「そのしわ寄せを食らって、フェイトが不満そうだもの。正直もうちょいなんとかして欲しいよ」



それでシャーリー曰く、フェイトはここに入る直前までかなり不服そうだったとか。

けど、ここでは管理局は絶対じゃない。むしろ制服着る方が絶対ダメだよ。



「てゆうか、フェイトがこっち来てる事とかバレちゃマズいだろうにそれって」

「・・・・・・フェイトさん、そこの辺りを考えてなかったよ。間の悪い事にいつもの天然入ってた」



この状況でっ!? うわ、マジでお仕事モード入るとバカになるってどういうことさっ!!



「ちなみにシャーリー、まさかと思うけど荷物検査やってないなんて事はないよね?」

「念のためにしてる。てゆうか、危なかったよ。
フェイトさん、天然モードのせいで普通に執務官制服をこっちに普通に持ち込もうとしてた」

「・・・・・・やってたんだ。さすがに冗談だったのに」



ここはシャーリーに感謝だよ。持ち込んでたら、普通に内緒で着てただろうし。



「だからまず、制服自体を私達二人持ち込んでない。ここはクロノ提督のアドバイス。
あー、でもバリアジャケットとかで再現されるのは止められないよ?」

「そこまでは言わないよ。そうしたら、マジで魔力封印とかしなきゃいけなくなるもの」

≪バルディッシュに話した方がいいかも知れませんよ? そうすればなんとか≫

「そうだね。じゃあ後で私から話してみる」



さすがに魔力封印までやると、フェイトに首輪でも着けて監禁してるのと同じだもの。

でも、フェイトの管理局好きにもちょっと困るなぁ。空気は読んでもらわないと、こっちがハラハラだよ。



「でもシャーリー、悪いけどフェイトから離れないようにしてくれる? もちろんシャーリーも気をつけて。
現状だと局員のIDカードを見せただけで、総スカン食らいかねないの。僕は僕で、通すケンカがあるから」

「・・・・・・了解」



僕が来た当初なら、まぁまぁそこまでじゃなかった。でも、もう『そこまで』になってしまった。

決定打は生体兵器殲滅の際の、煮え切らない対応だ。アレで中央本部と市民の溝が一気に開いた。



「というか、なぎ君は? あとはリイン曹長もだよ」

「僕達はシルビィなりGPOのメンバーと常に行動してるから、それほどじゃない」

「納得した。・・・・・・まぁ話は聞いてるし、フェイトさんも一応納得はしてる。でも、あんまり無茶な事は無しだよ?」



・・・・・・納得してるなら、僕に『フェイトさんを振り切らないで』と暗に警告しないで欲しいんですけど。



「これで関係断絶なんて事になったら、バッドエンドもいいとこだよ」

「善処はする」



よし、これで僕達は会議終了。スクラムを解除して、右手をハイタッチし合う。

フェイトがこっちをずっと不思議そうに見ていたけど、気にしてはいけない。



「・・・・・・アレが噂の7年スルーか」

「ま、まぁ・・・・・・サクヤには負けるけど、美人じゃない? 7年スルーだけど」

「でもでも、7年スルーの極悪人なのだ。極悪人は逮捕するのだ」

「はいはい、そこ黙れっ!? てーか、7年スルーって言い過ぎだからっ!!」



や、やばい。なんか僕・・・・・・胃が痛くなってきた。シルビィと朝に、あんな話をしたばかりなのに。

というか、この状況でフェイト好き好きオーラ出すのは、マズイよね? 普通にアウトだって。



「恭文さん、シルビィさんが居なくて本当に良かったですね」

「いやパティ、シルビィは非番なだけだから・・・・・・明日には来るぞ」

「・・・・・・明日は修羅場でしょうか。補佐官、どうしましょう」

「パティ、俺達は巻き込まれないように距離を取っておこう。それが正解だ」



フジタさんまで、なに言ってるっ!? てゆうか、普通にやめてー! フェイトが首を傾げてるからっ!!

あぁ、シャーリーがなんかニヤニヤし出したっ! あの、普通にあのオーラは怖いんですけどー!!



「・・・・・・なるほど。リイン曹長、なぎ君はまた女の子にフラグを立てたんですね?
で、そのシルビィさんという人がその相手で、とっても仲良くなってる」

「そうなのです。もうシルビィさんは恭文さんに首っ丈ですね。
今朝だって、二人でシルビィさんの自宅で朝ごはんを食べてましたから」

「リインもバラさないでー! あ、あの・・・・・・確かに仲良くなったけど、色んな事情があるのよっ!?」



あぁ、今度はGPOの面々の視線が辛いー! やばい、僕事件解決前に死ぬかもっ!!



「ヤスフミ、シルビィさんと自宅で朝ごはんって・・・・・・あの、そうなの?」



で、みんなの視線が顔を真赤にしたフェイトに向く。もちろん、驚いたような感じで。

で、更に視線が集まる。それは、なんだか嬉しそうな僕の片思いの女の子に対して。



「・・・・・・私は応援するよ」

「しなくていいよっ! というか、何を勘違いしたっ!?」

「だって、シルビィさんとその・・・・・・結ばれたんだよね? だから、一緒に朝ご飯を」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



そんな顔を赤らめて可愛く振舞ってもダメっ! なにを勘違いしてるっ!? いい加減その天然を直せー!!



「フジタさんに頼まれた届け物をして、そこからご飯を御馳走になっただけなのっ! そうですよね、フジタさんっ!!」



・・・・・・目を逸らすんじゃないよっ! アンタ、僕のこと嫌いっ!?

援護しろとは言わないから、せめて事実は認めてよっ!!



「恭文さん、おめでとうございます」

「リインも、おめでとうを言わせてもらうのです。
・・・・・・そうなると、シルビィさんと三人体制に関しての協議を」

「しなくていいからっ! そして、アレクも乗っかるなっ!!
この・・・・・・そういう子は、こうだぁぁぁぁぁぁっ!!」



アレクを取っ捕まえて、チョークスリーパー。で、空いた手で頭頂部をグリグリしてやる。



「や、恭文さんっ! これはさすがに苦しいですからっ!!」

「やかましいっ! マジで何も無いのよっ!? 頼むからシルビィにそういうこと言うのやめてっ!!」

「ヤスフミ、ダメだよっ! その人は公子様なんだよっ!?」

「大丈夫っ! 僕は気にしないっ!! 公子だって僕達と同じ人間なんだよっ!?
うわ、フェイトは公子だからってアレクを僕達の部活に入れないつもりっ!? ・・・・・・最悪っ!!」

「私達が気にするのっ! そして部活って何かなっ!! あと、私が悪いみたいな言い方はしないでくれるっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「とにかくそれはダメだってばー! 公子、今お助けしますのでっ!!」

「あー、フェイトさん。止める必要ないみたいですよ?」

「シャーリーまで、どうしてっ!?」

「・・・・・・公子の顔、見てください」



シャーリーに言われて、止める前にもう一度公子を見る。・・・・・・あれ、なんだか嬉しそう。なんで?



「なぎ君、なんだかんだで人の心を掴むのが上手いじゃないですか」



まぁそこは分かる。ただ、自分が心を開いてもいいと思った相手限定だけど。

・・・・・・もしかして、それでアレクシス公子の心を掴んでるの?



「・・・・・・蒼凪が居て、今回ほど助かったと思った事はありません」



そっと私の側に来て、そう言ったのはフジタ補佐官。そして、どこか優しい瞳で見ている。

ヤスフミのチョークスリーパーから脱出して、やっぱり楽しそうな公子を。



「たった一日足らずなのに、色々話して・・・・・・すっかり友達同士になったようです」



公子はヤスフミとアンジェラちゃん・・・・・・だっけ? その子と話している。

その表情は友達と話している時の子どもそのもの。公子だなんて、言えなくなるくらいに優しい顔。



「蒼凪には公子と同じように普通とは違う部分を持った友人が、多く居るそうですね」

「・・・・・・あの」

「蒼凪が昨日、公子にその話をしました。俺達もその場に居たので。もちろん細かくは知りません」



私はその言葉に納得して、頷いた。・・・・・・うん、本当に多く居る。

例えば私だったり、フィアッセさんだったり、はやてだったり。生まれ方や身体も含めると、もっと。



「公子が自分のことを、どう言ったかは」

「聞いています」



ヤスフミが本気で怒っている原因の一つだから。私も昨日聞いて、ショックを受けた。

公子は自分を、普通と違う『化け物』だと言った。・・・・・・あぁ、だからなんだ。



「だから、ヤスフミは話したんですね」

「えぇ。今日もあなた方が来るまで、アンジェラと三人でその辺りを話していたそうです。
本当に助かりました。正直親和力の話を聞いて、俺達全員は不覚にも恐れてしまった」



そして補佐官はヤスフミを見る。今度は自分がアンジェラ捜査官にチョークスリーパーされてる。

けど、なんだか楽しそう。公子も・・・・・・やっぱり笑っている。



「保護したアンジェラはともかく、蒼凪と・・・・・・あとはリインですね。
この二人は親和力の話を聞いても、恐れなかった」



うん、分かります。きっとヤスフミは『怖くなんてない』って、言ったんだ。付き合いが長いから分かる。

それはヤスフミの強さの一つ。力どうこう生まれどうこう立場どうこうで人を判断したりしない、温かい優しさ。



「それを見て、俺達も続いた形です。だから本当に感謝しています。
もしアレが無ければ俺達は全員・・・・・・公子を腫れ物同然に扱っていたかも知れない」

「納得・・・・・・しました」










私も同じだったから。私の生まれの事を知っても、受け止めてくれた。強く抱きしめてくれた。

私は私だって、言葉じゃなくて態度で現してくれた。今だってそうだよ。

何時だって、そう。・・・・・・だから、なのかな。だから、もったいないって思っちゃうのかな。





そんな強さを、優しさを持つあなたは、同時に沢山の可能性を持っている。

だから今みたいにフラフラしてるのは、見てられない。もったいないよ。

でも・・・・・・ショックだったな。ヴェートルの状態が良くないのは聞いてたけど、ここまでなんて。





まさか制服を着ることすらNGだとは、思ってなかった。・・・・・・どうすればいいんだろう。

どうすればこの世界で管理局とヴェートルの人達は、手を取り合えるんだろう。

それは絶対に不可能なことじゃないのに。これも変えなくちゃいけない事なんだよね。





私が変えられる場所なんて、本当に小さなところからだけど・・・・・・それでも変えるべきことなんだ。





・・・・・・私はヤスフミに信じて欲しい。私やなのは達の居場所である局を嫌いだなんて、思って欲しくないから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・とにかく、シルビィとはこう・・・・・・『ここに居る間に、めいっぱい仲良くなろうね』って話をしただけなの」



GPOメンバーの視線が痛い。すごく、痛い。

でも気にしてはいけない。そうだ、普通に気にしたら負ける。



「なら、お友達という感じかな」

「そうだね」



なんか殺気が向けられてるけど、気にしてはいけない。

そうだ、この殺気は・・・・・・きっとシャーリーに向けられてるんだ。



「てゆうか、僕はいいのよ? でも、シルビィの迷惑を考えて。いきなり恋人扱いされたら、普通に迷惑だよ?」

「あー、それは道理ですね」



みんなの殺気を受け止めつつそうフォローを入れたのは、シャーリー。よし、いいタイミングだ。



「例えばフェイトさんだって、普通に友達だって思っている人と、公私共にいきなりカップル扱いで全力全開で応援されたら嫌ですよね?」

「なお、互いに恋愛感情は全く無しだからね? ・・・・・・どうよ」

「えっと・・・・・・それは困るかも」



あぁ、分かってくれた。ようやく分かってくれた。もうね、僕へのスルー以前の問題だって。

普通にこういう所は改善して欲しい。僕はまぁ・・・・・・慣れた。でも、他の人に対してやられても困る。



「だったら、反省して。てーか、状況証拠だけで判断するって、執務官としてどうなの?
ほら、みんなを見てみなさい。フェイトを呆れたような視線で見てるよ?」



なお、その視線が僕に向いているのは気のせいだ。ようはフェイトがそう受け取らなければいい。



「そしてみんなの局員に対する好感度が下がったよ。ほら、視線で言ってるでしょ?
『・・・・・・局員って、やっぱダメな奴ばかりなんだ』ってさ。つまり、今フェイトは局の好感度を著しく」

「あぁ、ごめんっ! 本当にごめんっ!! あの、私みたいな人ばかりじゃないんですよっ!? そこは、本当にっ!!」



フェイトがヘコみ始めたけど、これは自業自得だ。なので放置。

・・・・・・あぁ、なんか視線が痛い。なぜだろう、ジュンがボソッと『コイツ、鬼だ』とか呟いてる。



「あのねあのね、アンジェラ知ってるよ? 今の恭文みたいな子を、『鬼畜』って言うんだよね」

「あらアンジェラ、アンタ良く知ってるわね。そう、アレが鬼畜よ。そして、外道よ」



ナナ、なんでそんな事言うの? 僕は何もしてないじゃないのさ。ただ真実を告げただけで。



「てーか、精神攻撃のやり方が容赦ないわよ。根っこから崩すって、どんだけ?」

「・・・・・・カラバでは考えられない光景です」

「公子、アレだけは絶対見習ってはいけませんよ? 蒼凪は間違いなく特殊例ですから」

「公子、私も同意見です。基本、女の子には優しくしないといけないんですよ?」



はい、お前ら黙れっ!? この調子が数年続いてれば、さすがに厳しくもなるってーのっ!!

・・・・・・とにかくこれで話は纏まった。そう思った僕は、きっと甘かった。



「みんなー! 差し入れ持ってきたわよー!?」



本当に唐突に声がした。そして見たくなかったけど、そちらを見てしまった。



「・・・・・・どちらさまでしょうか?」

「えぇ。もうヤスフミったら、私の顔忘れちゃ・・・・・・あれ、お客様?
・・・・・・というか、フェイト・T・ハラオウン執務官っ!!」










そこには白いYシャツにスカート姿のシルビィが・・・・・・居た。





ちゃらちゃちゃー♪ ちゃらちゃちゃーん♪(火曜サスペンス劇場のテーマ)




















(Report09へ続く)







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あきゅろす。
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