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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ミッション07 『真なる閃光のめざめ』



・・・時間は、少しだけ遡る。本当に少しだけ。





ここは、アースラのミーティングルーム。私やなのは、ティア達もここに集まった。今から、ここが私達の本部として本格稼動する。





そして・・・。










「・・・まず、機動六課のこれからの方針が決まった。グリフィス君」

「はい。・・・まず、地上本部首脳部は今回の事件を自分達の手だけで解決しようと頑なに奔走しています。本局の方からも捜査協力の申し出をしたのですが・・・断られました。よって、現時点で本局からの主力投入は非常に難しいです」



つまり、この状況になってもミッド地上は権利関係に拘ってるってことだね。・・・確かに本局が悪いと言えば悪いけど、この状況になってまでそれなんて。もう一刻の猶予も無いのに。



「そして、それは本局所属のここ・・・機動六課に対しても同じです。例えば、ミッド地上から情報が送られてくるようなことはないでしょう」



そして、そのせいで前にヤスフミが危惧した通りに、動けない状況になってきてる。ここで私達が勝手に動いたら、それこそ大問題に・・・。



「でもな、そこは安心してえぇよ」



そんな私達の不安が見て取れたのか、はやてがどっしりと構えて言葉を放つ。優しく・・・だけど、力強く。



「私達が追うんは、地上本部を襲撃した犯人でも、増してや広域指名手配された次元犯罪者でもない。あくまで追うんは・・・ロストロギア・レリックや。
そして、その延長線上にスカリエッティやなのは隊長とフェイト隊長の保護児童のヴィヴィオに、さらわれたギンガ・ナカジマ陸曹が居る言うだけの話。・・・まぁ、こういう方針で動く予定なんやけど、両隊長、なにか質問あるかな?」

「質問と言っても・・・。ねぇ、はやて隊長。確かに望ましい事だし、このまま動けないことだけは避けられそうだけど、それ・・・相当無理矢理な理論だよね」

「そやなぁ・・・。まぁ、アレが勝手に動いてた事に比べたら、まだ常識の範疇やと思うんよ」

「それはそうかも知れないけど・・・。また無茶とかしてないよね?」



この状況になったらレリックなんて・・・こういう言い方をするとアレだけど些細な問題。にも関わらず、それを指針として持ち出して動く。誰がどう見たって状況に無理矢理介入するための言い訳でしかない。

これ・・・なのはの言うように相当だよ。屁理屈もいいところだ。



「大丈夫、後見人の皆さんの了解と黙認は取り付けてあるよ。みんなが現場で困るような事態には、絶対せぇへんから安心して」

「なら・・・フェイト隊長」

「うん。私達は異存はありません」

「ならよかった。ほな、皆忙しい思うけど、しっかり準備してな。・・・そうそう、忘れるところやった」



はやてが咳払いを一つしてから、また背筋を正して話し始める。多分・・・あの案件について。



「みんなも知っての通り、ヴィータ副隊長とリイン曹長が墜とされた。相手はゼスト・グランガイツと融合騎・アギトや。で、二人の相手として、うちらの知り合いの魔導師に手伝ってもらうことにした。
リイン曹長もその魔導師に付いててもらうことになったから、ここからはリイン曹長は抜きや」

「八神部隊長達の・・・知り合いの魔導師?」

「でも、大丈夫なんですか? ヴィータ副隊長がユニゾンしても倒されたのに・・・」

「エリオ、キャロ、大丈夫だよ。その子はすごく強いの。それに、その子も今回の事件で少し危ない目に遭っててね・・・。どうしてもリインの力が必要なんだ」





まぁ、そちらは心配要らないから、ただリインが居ないということだけ覚えておいてとだけ話して、その場は解散になった。・・・さて、私も準備しないと。

会議室を出て、アースラの廊下を歩く。まずは・・・私の切り札達。リミッターも解除される。きっと、ザンバーまでじゃ足りない。



・・・あ、そうだ。ヤスフミに連絡取らないと。本当ならそのままでもいいんだけど・・・せっかくだし強化しよう。ヤスフミの魔力運用とコントロール技術は私やシグナムもそうだし、教導官であるなのはやヴィータよりも上。

他はともかく、その方向ではヤスフミは能力のおかげであっても天才だもの。アレの調整に、ヤスフミの力も借りよう。





「・・・フェイトちゃん」

「なのは?」

「恭文君のことなんだけど・・・」



なのはが後ろから小走りに私の方へ来た。そのまま、二人で廊下を歩きながらお話。



「さっきね、恭文君と少し通信でお話したんだ」

「うん。それで・・・なんて?」

「励ましてくれた。私は私のままでいいんだから、絶対諦めるなーって」



嬉しそうに話すなのはを見て・・・私も頬が緩む。ヤスフミはやっぱりなのはが好きなんだなと。

似てるから、多分いつも虐めててもやっぱり嫌いとかじゃない。大事な友達だから、こういう時には必ず手を伸ばす。



「でも、それでも意地悪なんだよ? 私のことMだとか魔王だとか・・・うー、悔しいー!!」

「な、なんというか・・・それはごめん。私からも魔王はやめようねって言ってるんだけど」

「・・・まぁ、いいんだけどさ。アレは恭文君の愛情表現だって分かってるから。前みたいに『高町さん』って苗字呼びもないから」



そう言えばそうだった。みんながどんなに言っても『バインドの借りを返すまでは絶対に呼ばない』って言って・・・。

それで、返した後もしばらくは横馬って名前で呼ばなくて。



「恭文君って、本当に意地悪なんだよねっ! 私が名前呼ばれるとすごく嬉しそうだから呼ばないーってっ!!」

「な、なんというかごめん」

「別にフェイトちゃんが謝る必要ないよ。あと・・・それとね、恭文君に聞いたんだ。今自分を狙って来ている相手、どう戦うつもりなのかって」



・・・フォン・レイメイ。スカリエッティの協力者と思われる人間で、ヤスフミと同じ瞬間詠唱・処理能力持ち。そして、相当の強敵。

同じ能力を持ちながら自分より低い魔力資質のヤスフミを『粗悪品』と呼んで殺そうとしている相手。




「それでね、恭文君・・・」

「なんて言ったの?」

「・・・殺すような真似をするかも知れないって言ってた」



少しだけ表情を重くして・・・なのはが呟いた。例えリインが居ても、普通に戦えない。絶対に潰さなきゃいけない。・・・そう言ったらしい。



「私ね、それ聞いて実は少しびっくりしたんだ。普段は絶対にそんなこと言う子じゃないのに。これ・・・相当なのかなって思った。その相手も、襲撃の時に恭文君の手札・・・クレイモアとかを使わせるために、周りに居た局員を殺害したりしたから」

「・・・うん。私もね、現場見せてもらったんだけど・・・すごく酷かった。実際、検証してた局員が何人か吐くくらいに」



あれを多分地獄絵図って言うんだと思う。私達が普段非殺傷設定なんかを使っていると、絶対に見ない状況。

そして・・・今、ヤスフミが戦おうとしているのは、簡単にそれを作り出せる相当に危ない相手。躊躇えばきっと同じ事になる。だから・・・なのかな。だから、普段は絶対にしないような決意までして・・・。



「私はね・・・。そんなことするな・・・なんて、言えなかったよ」

「・・・どうして?」

「もちろん、恭文君に人を殺めるような事、絶対にして欲しくない。これ以上重いもの、背負って欲しくない。それは本当に本当。でも・・・私、変えないから。恭文君の事が大好きで、大事な男の子だってことは、絶対に。
それに・・・もう8年だよ? 嫌われて、それが嫌でどうしても仲良くなりたくて、全力でぶつかってやっと名前で呼んでもらえるようになって・・・そうして、8年。恭文君がどういう子かはちゃんと分かってるもの。だから、変えない」



なのはが、笑う。どこか悲しそうに・・・でも、決意も込めて笑う。例えここでそんな事をしても、絶対に変えないと。友達として居続けると、そう決意して・・・笑う。



「だからね、フェイトちゃん。あの・・・フェイトちゃんは家族でもあるからまた違うんだろうけど、変えないであげて欲しい」

「なのは・・・。でも、私は」

「あの子は、否定してるよ? 人を殺す事が正しくないって、最悪手だって、何度も・・・何度も否定し続けてる。結果的にそれが過去の自分を、今の自分を否定する事になっても、それは絶対にやめない。そういう子だもの」





・・・知ってる。ずっと家族で友達で、仲間だったから、よく知ってる。本当は怖くて、逃げたくて・・・だけど、無かった事にする方がもっと怖くて。だから忘れない選択をしてる。

ヤスフミは強くて、優しくて・・・だけど、あまりに頑ななのが凄く怖い。

ヤスフミもミッドで暮らすようになってから・・・ちょっと違う。その前に仕事で大暴れして、局で不正を働いていた魔導師を20人近く半殺しにしてから・・・かな。それくらいから、私はヤスフミに言い様の無い不安を感じ始めていた。それが最近・・・どんどん強くなってる。



なんでだろう、これ。私・・・いつからヤスフミを見てこんなに不安を感じるようになってるんだろう。家族として暮らし始めた時に感じていたものとはまた違う不安。なんだろう・・・これ。

ヤスフミにはちゃんとハラオウン家という帰る場所もある。仲間だって・・・居る。なんにも変わってない。なのに、どうして・・・。ううん、今はそこはいい。とにかく、私も話そう。





「あとで・・・ヤスフミと話す。そうじゃないと、私は決められない」

「・・・うん」










もうすぐ、決戦の時は近い。戦うべき時は、もう目の前。





だけど、私は・・・迷って、悩んでばかり。





強くなったはずなのに、どうしてこんなに私・・・迷ってるんだろう。




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と古き鉄の戦い


ミッション07 『真なる閃光のめざめ』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで・・・さっそく自室に戻って通信。





何回かのコール音の後、通信が繋がった。










『・・・ほい?』

「ヤスフミ、今大丈夫?」

『あー、ちょっとまって。・・・ほら、そこっ! 頼むから無重力空間で寝ないでっ!! 怖いからっ! 普通に目の下にクマ作ってるのが浮いてたら怖いからっ!!』



画面に映るヤスフミの後ろを見る。・・・そっか、今は無限書庫に居るんだっけ。でも、なんだかすごい黒い雰囲気が・・・!!



『あー、ユーノ先生っ! ちょっとフェイトから通信かかってきたんで、席外しますー!! リインっ! 継続してゆりかごの稼動歴調べといてっ!!』

『うん、わかった。ちょうどいい時間だし、そのまま休憩入っちゃっていいからねー!!』

『こっちは任せるですー!!』



あ、声だけではあるけど久々にユーノだ。あとリインも・・・元気そうだね。



『というわけで、ちょいごめん。落ち着けるとこに着いたらかけなおすわ』

「あ、うん。あの、慌てないでいいからね?」

『了解』





そして、それからきっかり10分後。ヤスフミから通信がかかった。それを繋ぐと・・・背景が今度は・・・寝室?





『仮眠室だよ、本局の借りたから。で、用件は何?』

「うん、あのね・・・。鉄輝一閃や氷花一閃の現在の使用データ、ちょっともらえないかな」

『はぁ? そりゃまた何で』



えっと・・・そうだな、簡潔に言うと・・・。



『あー、いい。言わなくても分かった。・・・ライオットの強化でしょ』

「うん」



・・・バルディッシュの形状変換の中でザンバーより上位のモード。それがライオット。ザンバーが破砕力を重視した構成なら、ライオットは切断力を重視したモード。

実は、このモードって・・・ヤスフミが協力してくれたおかげで出来たモードだったりする。



『・・・なんか、思い出しちゃった』

「そうだね、あの時、ヤスフミ本当に一生懸命に協力してくれて・・・」










8年前・・・。ヤスフミと出会って、魔導師として訓練を始めて・・・その中で今の鉄輝一閃を使うようになったのを見て、私はこのモードを思いついた。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・鉄輝一閃のデータが欲しい?」

「うん。ダメ・・・かな?」

「ダメだよ。それならそれで、ちゃんと目的を教えて。いきなりデータ欲しいって言われても頷けないよ」





ちょっとだけしかめ面でそう言ってきたのは、もちろんヤスフミ。怪我も大方治って、もう元気一杯。私もビックリするくらいに。



この姿を見てると、あの時の死にかけた包帯だらけの姿が嘘に見える。まだあれから二ヶ月も経ってないのに。





「えっとね・・・。バルディッシュの新モードの参考にしたいの」

「新モード?」

「うん。・・・これからきっと戦いは激化する。そのために・・・ね」

「なるほど。・・・なんというか、アニメによくありがちな展開だよね。いよいよ後半戦突入かぁ」



そ、そうなの? 私はそういうのよく分からないんだけど・・・。



「でも、どうして鉄輝一閃? アレ、フェイトクラスなら参考になるようなとこないと思うんだけど」

「そんなことない。あの魔法、ヤスフミは普通に使ってるから分からないかも知れないけど、本当にすごい魔法なんだから」



最低限の魔力を限界ぎりぎりまで圧縮。そこからまた研ぐ事で、薄く・・・鋭い刃を形成している。ベルカ式の魔力付与による攻撃力増加とは根底から違う、全てを斬るための斬撃魔法。魔力運用とコントロール技術が現時点でも私やなのはと同じくらいに高いヤスフミだから使える魔法。

それを見て思いついたことがある。今のザンバーは、どちらかと言えば破砕力重視。質量というか、重さで破壊する武器。



「それで、新モードは薄く・・・鋭く研いだ刃。切断力を重視した形状にしたいんだ。あと、ザンバーって結構大きいでしょ? 出来ればアルトアイゼンサイズで片手で振るえて・・・」

「狭い空間内でつっかえて振るえなくなる・・・なんて、どっかのギャグ漫画みたいなことにならないようにしたいってこと?」

「そうだね。あと、対人戦闘だとザンバーは懐に入られると弱いから・・・」



これはシグナムとの模擬戦で感じた事。アウトレンジから接近して斬り抜け・・・とかならともかく、クロスレンジでやりあうとザンバーは弱い。何度かそれで負けちゃってるから・・・。

考えてみれば、バルディッシュの形状変換は基本的にそのタイプばかり。通常形態も長物だから、それよりも短くて、尚且つ威力のあるものが欲しい。例えば・・・シグナムとクロスレンジを維持したまま斬りあっても攻め負けしないくらいのものが。



「なるほど、それで片手剣みたいな感じならどうかと・・・」

「うん。理由としてはこんな感じなんだけど・・・どうかな、やっぱり・・・だめ?」





私がそう聞いた瞬間、ヤスフミは歩き出した。あの・・・え、どこいくのっ!?





「・・・食堂のCランチ」

「え?」

「今日、トンカツ定食らしいんだよね。さっきエイミィさんから聞いたの。それに、ゴマプリンもつけてくれた上でおごってくれるなら・・・いいよ?」



振り返り、二コリと笑いながらヤスフミはそう言った。えっと、つまり・・・その・・・オーケーってことだよね。



「・・・うん、いいよ。ゴマプリンでもなんでもおごるよ。あの、ありがとう」

「いいってそんなの。・・・あ、そうだ。フェイト、僕もそれ手伝っていいかな?」

「え、でも・・・」



ヤスフミはアルトアイゼンの形状変換考えたりとかあるわけだし、それは・・・。



「それならもう思いついてる」

「そうなのっ!?」

「うん、2モードなんだけど・・・ま、そこは見てのお楽しみってことで。あと・・・さ」



ヤスフミが急に顔を赤くして・・・もじもじし始めた。あの・・・どうしたのかな。どこか具合が悪いとか。



「違うよ。フェイトに・・・いっぱい、助けてもらったでしょ? 忙しいのに、毎日怪我治るまでお見舞いもしてくれたし。だから・・・その・・・」

≪この人、フェイトさんに少しでも恩返ししたいらしいんですよ。でも、実力的にもアレだしなにも出来なくてモヤモヤしてて・・・≫

「ア、アルトっ! バラすなぁぁぁぁっ!!」





胸元の・・・パートナーになったばかりの自分の相棒とそんな話をする。私、なんだかそれを見て嬉しくなった。最初の頃は本当にちぐはぐな二人だったのに。

もしかしたら・・・もうすぐお別れかも知れないわけだから、こういうのもいいのかも知れない。

事件が解決したら、きっとこの子は魔導師ではなくなる。戦う事から手を引く。今は・・・リインとの約束があるから、それを守るために戦ってるだけなんだから。



もし、離れても、お別れになっても、この子との思い出、繋がり・・・手元に残せるよね。・・・ね、バルディッシュ。






≪はい≫






それで・・・問題ないかな? 新モード、思いっきり個人的感情が入りまくっちゃうけど。





≪問題ありません≫





・・・ありがとう。





「それじゃあ・・・ヤスフミ、力を貸してくれる? 一緒に新モード、作って欲しいんだ」

「・・・うん、もちろんっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして、急ピッチで仕上げたのがライオット。鋭く、薄く、全てを斬り裂く刃。そう、この力の原型は・・・ヤスフミの鉄輝一閃だったりする。





でも・・・まさかお別れしても忘れないために作ったのに、このまま8年も付き合いが続くなんて・・・あの時は思ってなかったなぁ。まだリンディ母さんがヤスフミに自分の家の子にならないかって話す前だったから。










『でも、なんで今更? もう十分使いこなしてるでしょうに』

「・・・多分、高濃度のAMF空間で戦闘になるから、もっと消費量を突き詰めたいんだ。そのためにも、今のヤスフミのデータと見比べて、調整しておきたいの」

『分かった。アルト、悪いけどすぐにバルディッシュにデータ送って。詳細なデータも含めてね』

『了解です。・・・今送りましたので、確認お願いします』



バルディッシュが空間モニターを開いてくれた。そこに映るのは本当に詳細な使用データ。過去100回ほど使用した時の消費魔力量や魔力の圧縮量に形成過程。こ、ここまで詳しくデータ取ってたんだ。

ざっとそれを見てみる。・・・凄い、以前見たときよりもずっと良くなってる。魔力の消費量もそうだし、圧縮量もより高いレベルに。これ・・・やっぱり魔力運用やコントロール技術は抜かれちゃったな。私が同じ事をやっても、きっとここまでは出来ないよ。



『まぁ、データを詳しく取ってたのはちと事情込みでね。・・・どう? 役に立ちそうかな』

「うん、バッチリ。でも、ありがとう」



私がそう言うと、ヤスフミが笑ってくれた。嬉しそうに、優しく。私の大好きなヤスフミの表情。

でも、本当にありがたいよ。ヤスフミ、手札とかこういうの人に教えるの本当に嫌いなのに・・・。



『いいよ。僕・・・多分フェイトの側には居られないだろうから。せめてこれくらいはね』



・・・そうなる、のかな。ヤスフミが騎士ゼストの相手をすれば、多分・・・そうなるね。私は、スカリエッティの所に行くから。



「・・・あのね、ヤスフミ」

『うん?』

「なのはから聞いた。ヤスフミがあの男とどういう戦い方をするつもりか」

『・・・そっか』



・・・そうだよ、聞いた。それで・・・その・・・あぁもう、なんて言えばいいんだろう。



『ごめん』



通信の中のヤスフミが、頭を下げる。どうして・・・謝るの?



『僕、フェイトに心配かけまくってる。いつも心配してくれて、力になってくれて、守ろうとしてくれて。僕・・・あんな偉そうな事、言えた義理じゃないね。
味方どころか、きっとフェイトの気持ち・・・すごく傷つけてる。今だって・・・きっとそうだ』

「・・・ううん」



言いたい事、決まった。今の申し訳なさそうで、不安そうな顔をしているヤスフミを見ていたら、決まったよ。



「あのね、私も・・・変えない」

『・・・いいよ、無理しなくて。フェイトは、僕が魔導師してるの、嫌だよね』

「無理してない。後・・・嫌じゃない」



その、昔はそうだったけど、今は違うから。



「だって、私達友達で、仲間で・・・家族だよ? 8年・・・ヤスフミのこと見てた。だから、ヤスフミがどういう子か、知ってる。・・・なのはと同じ言い方なのがアレだけど」

『・・・フェイト、本当に・・・そう言える?』



私は、頷く。肯定の意味で、力強く。・・・もちろん、私だってなのはと同じ。そんなことして欲しくない。それなら、私達に預けて欲しい。8年経っても重さはきっと変わってなくて、また同じものを背負う? そんなこと、やっぱりして欲しくない。

でも・・・だからと言って今ヤスフミが戦う事を否定する? それはなんだか違う気がする。どうしてか分からないけど、違うと思う。



「私は、変えない。絶対に・・・変えないよ」

『フェイト・・・。あの・・・ありがと』



そうして、ヤスフミが画面の中でボロボロと泣き出した。もう見ていられないくらいに・・・って、あの・・・どうしてっ!? 私、何か悪い事言ったかなっ!!



『違う、そうじゃない。フェイトに・・・そんな風に言ってもらえると思ってなかったから』

「・・・言うに決まってるよ。きっと、みんなだって同じ。だから・・・必要なら、本当に・・・ヤスフミの大事なものを守るためにその最悪手が本当に必要なら、躊躇わずに手に取って? 私は絶対に変えない。約束するから。なにがあっても・・・友達で、仲間で、家族だよ」



それで・・・あの・・・これはちょっとだけ個人的感情。というより、私のわがまま。



「辛いなら、苦しいなら・・・寄りかかってくれていいから。ヤスフミ、頑張り過ぎるもの。本当に・・・たまにでいいから、甘えて?」



不安になるのは・・・どんどん突き進んじゃうからなのかな。ヤスフミ、本当に辛いのとか苦しいのとか、全部隠しちゃうから。うん、きっとそうだ。少しだけ距離が離れて、お姉さんちゃんと出来なくなってるのが寂しい・・・だけだよね。



「私、どんな話でも聞くし、その・・・執務官の仕事とかで会えない事も多いけど、それでも力になるから。それは、絶対に絶対」

『・・・・・・うん』










そこまで話して、通信を終えた。・・・止めたかった。本当なら・・・止めたかった。





でも、それはきっと違う。上手く言えないけど、この時は違うって思ってた。





だから、こんな事を言ったんだと思う。変わらない、変えないという想いを、伝えた。分からなくても、頭がこんがらがっても、それだけは分かってることだったから。心配な気持ちと同じように、強い気持ち。





・・・そして、これから数ヵ月後。私は自分の感じていた不安が・・・少しだけ距離が離れたことによる寂しさとか、そういう話じゃないことを痛感した。





私は・・・もっと別な部分でヤスフミに危機感を抱いていたと、知ることになる。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・これからどうすんの?」

「実はな、ちょっと妙な動きしてるのを見つけた。それを追ってみるわ」

「分かった。まぁ・・・あれだ、無茶しないでよ?」

「それはこっちのセリフだ」



結局この馬鹿はスカリエッティの所に突っ込むと決めた。まぁ、しゃあないか。あの子はきっと六課が保護してくれる。なにより・・・なぁ。

真龍クラスとか召還されたら、コイツは踏みつけられて終わりだろ。いや、もしかしたらコイツのことだからそれすら踏みつけて・・・あ、ちょっと絵で考えたら面白いかも。



「サリ、アンタ今凄まじく失礼なこと考えなかった?」

「いや、考えて無いぞ?」



あぶねー! 思考読まれてたっ!? お、女ってやっぱ怖いなぁ・・・!!



「とりあえず、ハラオウン執務官に見つからないように気をつけろよ? 絶対うるさくなるから」

「分かってるよ。んじゃ、行って・・・あれ、通信?」

『ヒロリス、今どこかな』



アコース査察官だ。またどうしたんですか、白いスーツを誇り塗れにして。



『いや、色々ありましてね。・・・それでヒロリス』

「今は本局だよ。そろそろ出ようとしてたとこ。アインへリアルもあんなことになってるしね」



・・・レジアス中将が指揮して作った防衛兵器・・・アインへリアル。それが今現在、戦闘機人達の襲撃を受けている。多分、落ちるな。



『なら、ベストタイミングだね。・・・いい、よく聞いて? 今僕はシャッハとスカリエッティのアジトを探索してたんだけど』

「当たり引いたのかい?」

『そうだよ、それで・・・眠り姫を見つけたよ。もし予定に変更が無いなら、今すぐ起こしに来るといい』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・アインへリアルが襲撃を受け、3機全て陥落。そして戦闘機人達の大半はそのまま中央本部を目指し始めた。





なので、六課メンバーは中央本部の防衛戦とゆりかごの進行阻止。そしてスカリエッティの確保に向かう事になった。現在、そのミーティング中。










「・・・まず、戦闘機人達に関しては地上部隊が既に防衛ラインを敷いているから、対応していく。でも・・・対AMF戦や戦闘機人戦に慣れていない魔導師が大半だから、私達が前に出て、戦闘機人や召還師の相手をすることになる」



なのはが空間モニターで大型の地図を出し、みんなに説明する。それに私も続く。



「私達はこれから3チームに分かれて、状況に対処していく。それで、チーム分けは・・・」










はやて、なのは、ヴィータがゆりかごに対応。ヴィヴィオもそこに居るだろうから、当然確保。

スバル、ティア、エリオとキャロにフリードが中央本部に進行している戦闘機人達の相手。そして・・・さらわれたギンガの確保。

あと、シグナムは中央本部に向かうらしい。万が一ヤスフミとリインがダメだった場合に備えて。そうなると、もうユニゾン戦が出来るのはシグナムしか居ないわけだから、はやてもここは納得した。

それと、これは口にはしなかったんだけど・・・もしヤスフミを狙っているあの男が不意打ちを仕掛けてきた時の備え。それに、戦力が多ければ・・・まだ確保出来る可能性があるから・・・かな。





そして、私は・・・。










「・・・テスタロッサ」

「シグナム」



そのままハッチまで二人で歩く。・・・なんか、別々になっちゃいましたね。

私は・・・スカリエッティの確保。六課の中からは一人で・・・なんだけど、向こうにはアコース査察官もシスターシャッハも居る。だから、大丈夫。



「そうだな。まぁ、頑張ってこい。蒼凪のことは私に任せておけ」

「はい」

「あと・・・」



シグナムが歩きながら、私の顔をまじまじと見る。あの・・・シグナム?



「テスタロッサ、お前は一人ではない」

「あの・・・シグナム? いきなりなんですか」

「・・・それだけ覚えておけ。バルディッシュ、すまないが私の隊長を頼むぞ」

≪・・・Yes≫










そのままシグナムは早足で歩いていった。・・・あの、えっと・・・なんだろう。





シグナム、何が言いたかったんだろう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・ヒロリス、聞こえる?』

「あぁ、よく聞こえるよ。悪いね、ロッサ。私の無茶につき合わせちゃってさ」

『大丈夫だよ。それで、そっちはどう?』



まぁ、素晴らしい感じだよ。あっちこっちに趣味の悪い装飾があるしさ。

なんつうか、今までの所業のみならずアジトの内装までここまで最悪だとさ、どうにもならないって感じだよね。あのドクター、今のうちに抹殺しておいた方が世のためじゃないの?



『そうはいかないよ。少なくとも、フェイト執務官はそのつもりは無いんだから。基本的に生かさず殺さず確保して、洗いざらい吐かせるというのが、武装局員の正しい対応だよ。ま、状況によりけり・・・だけどね』

「へぇへぇ、すみませんね。正しい対応が出来ないアウトローで」





聖王教会の教会騎士団が着用しているローブのような共用騎士服(覆面つき)を着用して、この気色の悪いラストダンジョンっぽい装飾の場所を走る。そう、ここはスカリエッティのアジト。



・・・もうゆりかごは浮上を始めた。そして、私は簡単に変装した上で突入だ。でも、まだ懐の中のパスケース・・・切り札は切れない。



これを使うのは、あくまでもハラオウン執務官と接触した時に限り・・・だ。アレなら完全に誤魔化せる。それ以外は、聖王教会騎士その1として対処させてもらう。





≪・・・なぁ、姉御。使わないって方向性では考えられねぇのか? もう十分変装出来てるじゃねぇかよ。なんでそれで使って二人揃って怒られる道を選ぶんだよ≫

「うっさいねぇ、私が使いたいんだからガタガタ抜かすな」

≪結局姉御の趣味かよっ!!≫





そうだけど何か問題ある? あー、例え接触しなくても絶対に使おう。見せ場的な所で絶対に使おう。そうして私は伝説になるんだっ!!





≪あぁ、その願いはきっと叶えられるさ。ミッドの歴史にも残るぜ? 今世紀最大の大バカだってな≫

「失礼な、こんな美女を捕まえて言うに事欠いてそれかい」





でもさ・・・随分苦戦してない? ロッサから映像まわしてもらって、横目でハラオウン執務官の戦闘を見学しつつ走ってるけど、もうお姉さんはハラハラですよ。青い髪の高速型一人とガチにやりあってる。

通路を飛び交い、でっかい大剣ぶん回して斬りあってる。だけど・・・AMF空間内だからなのか、手こずってる感じが満々。

まぁ、確かにここはキツイなぁ。私なら普通に魔法使わずに排除する道を選ぶね。そっちの方が楽だもの。・・・てか、あれ? なんかスカリエッティが通信モニターでこんにちはして・・・あ、縛られた。



まてまてっ! なにやってんのあの人っ!? あ、もしかして噂通りにMとかっ!!





『とりあえず、君はどう動くつもり?』

「アンタ、これを見てよく冷静で居られるね。・・・しゃあないから、スカリエッティはやっさんの想い人に譲ってやろうじゃないのさ」

『あらま、大人だね。てっきりこの様子を見て突っ込んでいくかと思ったのに』

「ま、向こうさんの方が長く追ってる感じだしね。ここで私が油揚げさらっても、アウトでしょ」



本当は八つ裂きにしてやりたい。それは事実。でも・・・ねぇ、なんかあの人画面越しにでも見てたら、その気が萎えた。



「私はぶっちゃけロートルだもん。・・・でも、このねーちゃんは違う。今を生きて、その時間の中を進んでる主役。私は自分から舞台を降りた身だから・・・ここで知ったような顔してあそこに介入ってのは、ちと躊躇うのよ。まぁ、危なかったら助けるけどね」



なんかあったら、やっさん凄まじくヘコむだろうし。さすがにそれはなぁ・・・。



「でも・・・あれくらいは主役として、自力で解決して欲しいね。つーか、私ならとっくに勝負つけてる」

『また手厳しいね』

「この様子を見てなお、こそこそ隠れて他の事やってるアンタに言われたくないよ。ハラオウン執務官だけじゃなくて、シャッハのことまで放り出してさ」

『シャッハは強い人だもの、大丈夫だよ。もちろん、フェイト執務官も。それに彼女・・・恭文のお姉さんだよ?』



・・・あ、なんかそういうと納得出来るから怖いよね。

そして、画面の中で事態は進行している。あの人は空中で縛られて、それをあざ笑うような顔で・・・ゆっくりとした歩みで、奴が出てきた。



「あと・・・私は自分より胸の大きな女は、基本的に好きじゃないのよ。なんつうか、ムカつくじゃない。私は牛乳飲んだりと頑張ったってのにさ。胸の分だけ、ここで頑張ってもらわないと不公平じゃん」

『・・・・・・あぁ、そうなんだ。そうだね、君はそういう人だったね』

≪なぁ、姉御。それだとあのブロンドガールはそうとう頑張らないとだめだぜ?≫

「うん、だから頑張ってよ。そうすると主に私のストレスが減るから」

≪結局姉御の個人的感情かよっ!!≫





そうだけど何か問題ある?



・・・とにかく、そんなわけで私はそことは少し別方向に進んでいる。というより、その真下?

ここに来たのは、スカリエッティどうこうというより、ロッサが自分のレアスキルで作り出した探査用の猟犬で見つけたある物が原因。で、私はそれに向かって全速力で走ってる。





「・・・で、ロッサ。さっき言ってた事ってマジ?」

『マジだよ。いや、偶然の導きというかなんと言うか。でも、ヒロリス。・・・よかったね』



まだそれを言うのは早い。実際どんな感じかはさっぱりなんだからさ。



『・・・しかし、こっちは中々見つからないよ』

「アンタの猟犬でもそれとは・・・。なかなか狡猾に隠れてるね。ま、がんばんな? 私は私の仕事をするからさ」

『了解』





そんな雑談を交わしてから、通信は切れた。・・・あんがと、ロッサ。アンタがいの一番に連絡くれた時、ちょっと嬉しかったわ。

とにかく、私は走る。・・・騎士団の連中やハラオウン執務官やシャッハが頑張ってくれたおかげか、ガジェットはほとんど居ない。だから・・・すぐに到着した。



そこは、先ほど何回か見かけていた生体ポッド置き場らしき場所。何人かが入っているね。その中で一際目についたのは・・・薄い紫の髪を真ん中分けにした女。そして、素っ裸。・・・まさか、また会えるとは・・・ね。





≪そうだな、久しぶりだな。・・・メガーヌの姉ちゃん≫





そう、それはメガーヌだった。私の知る限りそのままな女が、そこに居た。数少ない気の合う女友達。私より胸が大きいけど、それでも友達。・・・なんつうかさ、なんかダメだね。涙・・・出てくるよ。





「アメイジア」

≪今やってる。・・・ダメだな、どこでどうやって開放すりゃあいいのかサッパリだ。こりゃ、ロッサに期待するしかねぇぜ。俺じゃあここのシステムの掌握は出来ねぇ≫





やっぱりか・・・。くそ、サリが居ればまだ何とかなったかも知れないけど、さすがにこれはなぁ。私の専門外だもん。



ま、そこはいいか。・・・アメイジア。





「・・・動かないで。動くと撃つわよ」





後ろから気配がした。それに対応しようとした瞬間、かかったのは声。出てきたのは・・・声から察するに例の女。言葉から察するに、銃口を向けて来ている。





「いやぁ、餌になるかなと思って張ってたら・・・簡単に食いついてきてくれたんだから、びっくりよ」





ただし、私じゃなくて・・・メガーヌに。





「また会えたわね、ヒロリス・クロスフォード」

「・・・アンタ、それをどうするつもり?」

「簡単♪ アンタ、おとなしく捕まりなさい。そうすれば、このお姉さんは助けてあげる」

「なるほど、人質と」

「そういうこと」





そうかそうか・・・。よくわかったわ。



だから、私は振り向く。そして、にっこり笑顔を浮かべる。すると・・・なぜか女の顔が引きつり、固まった。あれ、なんでだろうね? まぁ、いいか。とりあえず私は一言言ってやりたいことがあんのよ。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふざけんな」





アメイジア、スラッグフォルム行くよ。





≪了解だ≫




両手中指の指輪が光り輝く。白く、辺りを照らす。そうして・・・右手の中に生まれたのは一丁の銃。形状は大型で6発搭載リボルバー式で銀色。銃底に紫色の丸い宝石が埋め込まれている。

これがアメイジアの遠距離攻撃用モード。スラッグフォルム。基本はこれで銃撃戦ってのが使い方なんだけど・・・実は、これを使用して一つ大技がある。



「・・・聞こえなかった?」



左手から一発の弾丸を出す。リボルバーを展開。その中に弾丸を込める。本当に一発だけ。暗めの赤色で彩られた弾丸を。そのままリボルバーを再び銃身に納める。



「アンタ、話を聞きなさいよっ! 動けばどうなるか」

「撃てよ」



右手を女に向ける。つまり、銃口が女を狙う。そして・・・そのまま集中。



「・・・どうした、撃ちたきゃ撃てよ。なお、私は撃つ。遠慮なくね」





・・・私の周りに白い雷撃がバチバチと音を立てて生まれる。そして、足元にはベルカ式の白い三角形の魔法陣。それが急速に回転する。

銃に白い雷撃が纏わりつく。これは雷撃属性の魔力。私は先天的な資質持ちじゃない。これは、魔力プログラムを介しての変換技能を用いて生み出した雷。私の切り札の一つ。



まぁ、前にうちの実家と本家との合同でやった忘年会で、宴会芸代わりにサンダーブレークもどきとかやって暴れて以来封印されたけどさ。

・・・だってね、カリムとシャッハにすっげー怒られたの。もうむちゃくちゃ怒られたの。私、大人なのに子どもみたいに怒られたの。





「アンタ、レールガンって知ってる?」

「はぁ? それくらい知ってるわよ。砲身に電気を纏わせて磁石化。弾丸を火薬とかを使わないで、磁力による反発を利用して超高速で撃ち出・・・」



そこまで言って、女が固まった。どうやら私の言いたいことが分かったらしい。



「もう一度言う。撃ちたいなら撃ちな? ただし・・・その瞬間アンタのどてっぱらにでっかい穴が開く事になる」

≪それだけ知ってんなら、レールガンの初速とそこから生み出される威力がどんだけのもんか・・・知らないわけないよな≫



雷撃が銃身だけじゃなく、私の周辺にも発生する。そうして、一定空間は白い雷が荒れ狂い、支配する空間となった。髪が吹き荒れる雷撃の嵐で巻き上げられ、アップになる。ちょっとしたスーパーサイ○人気分。



「コイツは魔力喰う分、威力がダンチでね。AMFで余計に使うの辛いし、その上ぶっちぎりの質量兵器だけど・・・せっかくだもの。撃ってあげるよ」





私が教導隊時代に、人に教えるなら自分でも使えるようになっておきたいと思って習得した雷撃属性への魔力の変換技術。それを応用した攻撃がこれ。

そして、特殊弾丸に高密度の電気を纏わせることで、威力は段違いに上がる。



そうだねぇ・・・多分、今撃ったらあいつ反応出来ずに・・・死ぬね。レールガンの瞬間射出速度は、見切れる奴なんて居ない。

・・・いや、やっさんの不運スキル故に人外レベルまでに高まった知覚外探知能力ならあるいは・・・いや、試さないよ? さすがにこれは試せないって。





≪姉御、フルチャージ完了だ。いつでも撃てるぜ≫

「お、あんがと。んじゃ・・・いこうか。度胸試しだ」

「ま、待ちなさいっ! アンタこの女と友達なんでしょっ!? 死んでもいいっていうのっ!?」

「・・・あのさ、なんか勘違いしてない?」



私はそのままにこりと笑ってやる。雷撃が辺りを空気を焦がす。



「私はアンタ達の邪魔しにきたんだ。どんな理由であれ、それが成せないのは・・・意味がないんだよ」



バチバチという音があちらこちらで聞こえる。そして、そんな絵が恐ろしいのか、女がわずかにたじろいだ。



「それにメガーヌだって戦う人間だ、覚悟くらい決めてる。こういう時には撃っていいからと言われてるしね」



そういう仕事だもん。コレくらいの事態は想定しておかなきゃいけないでしょ。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・多分」

「た、多分ってなにっ!?」



さぁ、私にはわかんなーい♪



「ライジング・パニッシャー」

≪ファイアァァァァァァァァァァァァッ!!≫










そうして、引き金を引く。その瞬間、銃口から放たれたのは白い雷撃の弾丸。





それが超高速で空気を切り裂きながら飛び・・・その過程で、弾丸に纏われた白い雷撃が膨張するかのように膨らみ、白い砲弾となった。





そしてそれは・・・見事に大きな大きな穴を開けた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・私、本当になにやってるの?





青髪・・・トーレと名乗っていた戦闘機人と戦ってたら、通信がかかった。それは・・・あの男。





そして、私はまた間違いを犯した。また・・・同じ間違いを。










『随分と楽しそうだね』



出てきた男は、突然にそう言った。



「ジェイル・・・スカリエッティ・・・!!」

『お初にお目にかかる、フェイト・テスタロッサ。我が城へようこそ。・・・私の元に来てくれた事に心から感謝するよ』

「誰がお前なんかのところにっ! ミッドを混乱に陥れる重犯罪者がっ!!」

『重犯罪者? それを君から言われるのは心外だな。君とて同じだろう。母親のためと称して、ジュエルシードを集めて、危うく次元振動で世界がいくつか滅びかねない危機を引き起こしたわけだからな』



・・・うるさい。



『あと・・・彼もだな。あぁ言うのを、なんと言ったかな。・・・そうだ、人殺しだな』



瞬間、頭に血が上った。誰の事を言っているのか分かったから。



『このご時世に局に身を置きながら、人の命を奪う戦いが出来る魔導師が居るとはな、驚きだよ』



違う、あの子は・・・犯罪者なんかじゃない。



『しかも彼は戦いをやめることなく今もなお、戦場に向かっている。全く、さすがにあれは理解できないよ。生粋の殺人マシーンなのかね』

「黙れぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



だから、飛び出した。そして、ザンバーを振り上げた。・・・画面に向かってそんな真似をしても仕方ないと分かっていたのに。

そして、そんな私の行動を諌めるかのように・・・赤い縄が発生し、私の身体を、ザンバーを縛り上げた。



「くくく・・・。温厚な顔を装っていても、そこに隠されていたヒステリーな部分、やはり君は、プレシア・テスタロッサと同じだな」



そう言いながら出てきたのは・・・一人の男。



「ドクター。こんなところまで」

「いいんだ、トーレ。彼女と少し話がしたくてね」



ジェイル・・・スカリエッティっ!!



「どうした、フェイト・テスタロッサ。そんな怖い顔をして。・・・あぁ、自分の可愛い人形が殺人マシーン呼ばわりされたのがそんなに不服かね」

「人形・・・だと・・・」

「そうだろう? 彼は君の可愛い人形じゃないか。あぁ、それに・・・君の保護児童の二人もそうか」



そして、画面が立ち上がる。そこに映るのは・・・ルーテシア・アルピーノと召還獣と戦うエリオとキャロ。そして・・・ユニゾンして騎士ゼストと戦うヤスフミの姿だった。



「はっきり言おう。彼らが戦うことになったのは、君のせいだ」

「何を・・・」

「違うというのかね?」





縄がまた出てきた。そして・・・私の身体を縛り上げる。首を、胸を、腰を、太ももを、足を。

きつく・・・戒めるように。または、私の身体を蹂躙し、もてあそぶように。身体を這う縄の感触が痛く、そして気持ち悪い。



それを見てあの男が笑う。心底楽しいと言いたげに。それによりまた怒りの感情が高ぶる。





「ならば、なぜ保護児童二人は六課に来たんだ。なぜ彼はトーレの腕を斬り落とした」



それはとても簡単な質問。でも・・・それが胸を貫いた。



「全部君のせいだ」



そして、大きな穴を開けた。そのせいで、手が・・・心が震える。



「例えば彼だ」



そのまま指差す。画面の中で騎士ゼストとぶつかり合うヤスフミを。



「彼は君を好いている。だから、君を守りたい。君の力になるために・・・今、あそこで戦っている。悲しいなぁ、本当なら平和に生きていたはずなのに、君に関わったせいでこのありさまだ。
何時死ぬとも知らない戦場に身を投じ、そして・・・死ぬ」



嘘だ。



「彼は不幸だ。君を守りたいと、力になりたいと言って、人を殺めた事実を忘れる道を捨て、今もなお戦っている。その上、その中で戦いを楽しむ気質にも目覚めてしまった。・・・君が彼を不幸にしたんだ」



・・・嘘だ。ヤスフミは・・・違う。違う違う違う。



「違わないさ、君は寂しいのだろ? クローンとして生まれた君はコンプレックスがある。母親から存在を否定され、愛情に飢え、手を払いのけられることを怖がっている」



・・・そうだ、私は怖い。あの時みたいなことは・・・もう嫌だ。



「だから君は求めた。自分の言う事を聞き、絶対に否定しない人形を。それが彼だ。そして、君の保護児童だ」



・・・・・・そうだよね、絶対に・・・否定しない。ヤスフミも、エリオも、キャロも。



「私と君は同じだ。私はトーレや今各地で暴れている最高傑作達を。君は彼や保護児童を。そうして、自分に都合のいい人形を求めているだけだ」



あれ・・・。なんだろう、私・・・どうしてこの男の言う事に頷いてるんだろ。違う・・・。違う、こんなの・・・違う。



「まだ認めないのかね? ・・・違わないさっ! 君はただ薄っぺらい愛情にすがり付いている愚かものだっ!!」



あの男が右手をかざす。私を縛り付ける縄と同じ色の砲弾を撃ち込んできた。



「そんな人間と関わったからっ!!」



その砲弾を・・・私は呆然と見ていた。だめ・・・身体に、力が入らない。



「彼らは不幸になったんだよっ! そして、君が不幸にしたんだっ!! その身勝手な愛情という名の偽善でなっ!!」










瞬間、何かが砕けた。とても大きな音を立てて・・・何かが。そして、壊れた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・あ、あれ・・・私、生きてる?」

「ちょっとちょっと、なに腰抜かしてるのさ? 大の大人がみっともないね」





私・・・生きてる? あ、生きてるよね。だって、息してるし、普通に心臓動いてるし。



そして気づいた。あいつの・・・ヒロリス・クロスフォードの銃を持った手が上を向いている事に。





「え、えっと・・・」

「いやぁ、ダメだねぇ。これだからロートル生活は嫌だよ。腕が鈍るもん」

≪・・・姉御、これは鈍ったとかそういうレベルじゃねえって≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして・・・白い物が、私の視界を埋め尽くした。





いや、それだけじゃない。その白いものはバチバチと雷撃を放ちながら、砲弾をかき消した。










「これは・・・ふん、妙なネズミが一匹、紛れ込んでいたようだな」










そして・・・その雷撃が私を縛り付ける縄の一部を消滅させた。そのままこの通路の天井を突き破る。それによって、瓦礫が辺りに落ち、硝煙が舞う。





壊れた・・・床と天井が。それで大きな音がして・・・大きな穴が開いて・・・というか、これ・・・なにっ!?










≪Sir!!≫





ザンバーの刀身が消える。縛り付けていた縄がその対象を失い、宙に漂う。

そうして生まれたのは・・・柄尻に移動したリボルバー式のカートリッジ。何かの爪や刃のようにも見える黒い鍔。そこから生まれている金色の刃。これがライオット。バルディッシュの形状変換、私の切り札。



これ・・・バルディッシュ・・・。え、自分で変形したっ!?





≪斬ってくださいっ!!≫





右手が勝手に動いていた。私の鈍りきった理性よりも速く、本能が声にしたがっていた。そして、その声の発生源を掴んでいる右手・・・さっきの雷撃で戒めは解かれた。だから、動く。

生みだすのは金色の閃光。それは全てを斬り裂く刃の光。そうして私は、自身を戒める全ての縄を断ち切った。そのまま床へ落ちて・・・着地。



だけど、そのまま身体が崩れ落ちる。魔力・・・やっぱり喰う。特にあの糸はキツイ。息が切れる・・・。

でも、それでも・・・聞かなきゃ。今まで、こんなこと本当に数回しかなかったもの。





「バル・・・ディッシュ?」



私は呼ぶ。私の・・・大切なパートナーの名前を。



≪・・・Sir、今から私は自分の立場を弁える事なく発言させていただきます。失礼をお許しください≫



いつもよりも厳しい声。厳しさ・・・ううん、怒りを感じさせる声だ。



≪あなたは・・・何のためにここに来たんですか。そして、どうして大事なことを忘れているんです。彼らが・・・いいえ、彼が人形? 嘘ですね≫



右手の中で憤りをぶつけてくるのは、私の大切なパートナー。普段は物静かで・・・というより無口。だから、こんな風に話したりなんてしない。



「ふふ・・・。偽善者のパートナーはやはり偽善者というわけか。そこまで彼女の味方をしたいのかね」

≪黙ってろ、三流犯罪者が≫

「・・・なんだと?」

≪私のよく知るデバイスとそのパートナーであれば、お前をこう言うな。口先だけの三流以下のクズ野郎・・・と。そして、そんなお前の発言など、聞くに足らん。少し黙っていろ。
・・・Sir、思い出してください。彼が、アナタの人形だったことが一度でもありますか? 私にはそうは思えません。もしそうなら・・・彼は、ここには居ません≫





その言葉に思い出す。彼・・・ヤスフミが本当に人形だったのかと。・・・違う。絶対に違う。





「ヤスフミは・・・私の言う事なんて、聞いてくれなかった」





魔導師を辞めて欲しかった。沢山傷ついて、苦しんで・・・そうしてやっと平和に戻れた。だから、また戦って欲しくなんてなかった。

御神流の技を練習したり、銃器相手の訓練もして欲しくなかった。だって・・・本当に危なくて・・・。危険で・・・見てて怖かった。簡単に居なくなっちゃいそうで、本当に・・・怖かった。



でも、ヤスフミはそれでも止まらなかった。守りたいものが出来たから戦いたいと。『魔導師だから』で言い訳して止まりたくないから、もっと強くなりたいと。





≪そうです。あなたの心配を知っていても、それを振り切る事を申し訳なく思っていても、忘れず、進む道を選びました。そのためにあなたと彼は、何度もぶつかりあったはずです≫





いっぱい喧嘩して・・・だけど、それよりももっと話して・・・。それで、今までなんとか繋がってこれた。でも、最初の頃とか、海鳴で暮らすようになってすぐの頃とかは何度も思ったっけ。

私、本当にこの子と友達になれるのかなと。そして、家族になってからはそれを続けられるのかなって。今だってそうだよ。保護されて欲しかったのに、結局自分で選んで・・・飛び込んだ。今も、戦ってる。



そんなヤスフミが人形? ううん、違う・・・絶対に違う。





≪他は知りません。ですが・・・彼だけは違うと言い切れます。彼は自分の意思で、あなたと繋がりました。手を伸ばして、同じ時間を過ごしてきました≫





そうだ、いつでも・・・手を伸ばしてくれた。何か有ったら、力になってくれようとした。そんな子だから、私・・・友達続けてこれたんだ。





≪そして、あなたも手を伸ばしました。彼と繋がりたいと、自分の意思で。違いますか?≫





・・・違わない、違わないよ。私も手を伸ばした。自分と全然違って、なのはやはやてみたいには仲良くは出来なくて、実は友達の中で一番喧嘩もしてて・・・それを理由に嫌う事も出来たけど、出来なかった。ううん、したくなかった。



だって、どんなに喧嘩したって、私はヤスフミのこと・・・本当に嫌いになんてなれなかったんだから。そうだ、私が・・・選んだんだ。あの頑なで、意地っ張りで、頑固で、わがままで・・・だけど、凄く強くて優しい男の子と繋がりたいと、選んだんだ。

友達で、仲間で、家族になりたいと、私が手を伸ばしたんだ。そうしたら、ヤスフミも手を伸ばしてくれて、それで・・・繋がった。





≪Sir、あなたは・・・どうします? このままこの男の戯言に身を任せ・・・壊されますか?≫





そう言われて思い出したのは、ヤスフミが話してくれた顔見知りの嘱託の人の話。私と同じ立場で・・・壊された人。





≪そうして、あなたと彼の二人で・・・自分の意思で共に居た時間を、間違いだと・・・嘘だと、決めてしまいますか?≫





・・・・・・出来ないよ、そんなの。そんなことしたら、ヤスフミ・・・きっと悲しむ。私が悪いのに、ヤスフミは何にも悪くないのに、何にも出来なかったって、自分を責めて・・・また、一生消えない傷を抱える。



私・・・ヤスフミの友達で、仲間で、家族で・・・お姉さんだもの。そんなこと、絶対出来ない。大切な友達を・・・弟を悲しませたくなんて、無い。





「・・・バルディッシュ、意地悪だよ。私がどう言うか分かってるよね」

≪あんな三流の戯言に惑わされ、一人潰されかけたアナタがそれを言いますか≫

「うん、そうだね。本当に・・・ダメだったね」





ごめん、バルディッシュ。すごく側に居たのに、私、あなたのこと忘れてたよ。



一人じゃ・・・ないか。私は、一人じゃないんだ。今こうしていても、それは変わらない。





≪ならば、やることは一つです。Sir、命じてください。あなたがどうしたいのかを。私は、そのアナタの願いを叶えます。私の全身全霊を賭けて≫

「・・・うん」





立ち上がる。魔力の消耗? 残りの体力? 縛られた時に感じた痛みと気色の悪い感覚? そんなの・・・もう吹き飛んだよ。今私の中にあるのは、力。大切な友達で・・・仲間で・・・家族なあの子と、手の中に居るパートナーからもらった力。



・・・ヤスフミ。本当にゴメン。

私・・・本当に弱いね。あんなにいっぱい声をかけてくれたのに。本当なら思い出したくない話までさせたのに。私、また迷って、止まりそうになったよ。

今から、出来るかな? 私の・・・ノリ。私らしさを出した戦い方。ううん、しよう。



そうして・・・今を、覆す。私はこんな今なんて、絶対に認められないから。

それで、またトンカツ定食・・・おごってあげるね。もちろん、ゴマプリンもつけて。





「バルディッシュ、オーバードライブ」





私がここに来たのは・・・この三流犯罪者を、叩き潰すため。

局員とか、執務官とか、そんなの関係ない。私が、この男を叩き潰したいから、ここに来た。そうして、今を覆したい。だから、それを通さないとここに来た意味が無いんだ。

右手に力を込め、ライオット状態のバルディッシュを握り締める。あの子と出会って、繋がったから生まれた力を。この刃を生み出せたとき、二人で嬉しくて抱き合って喜んだっけ。どうしても上手く生成出来なくて、いっぱい失敗して・・・それでやっと成功したから。



ヤスフミ、少しだけ力を貸してね。私・・・弱いから、こうでもしないと進めないんだ。





≪Yes Sir≫

「真・・・ソニックフォーム」

≪Sonic Dlive≫





生まれるのは極光。それは金色。私の魔力・・・私の中の力の色。それがこの空間を埋め尽くす。そして、私のジャケットもデザインを変える。





「・・・バルディッシュ、ありがと」





身を包むのは黒のレオタード。赤と銀のラインが入ったスーツ。極限までジャケットの装甲を薄くして、機動性を追及した結果・・・これが私のリミットブレイク、限界を超えた力。

でも、バルディッシュがしっかりと制御してくれているおかげで、ほぼリスク無しで行使できる私の・・・私達の切り札。





≪いえ。・・・出過ぎた真似をしてしまいました≫





真・ソニックフォーム。何よりも速く動き、鋭い刃となり、全てを斬るための姿。





「そんなことない。バルディッシュの言葉、とても嬉しかったよ。・・・ありがと」





そして、両手にライオット。いわゆる二刀流。柄尻から金色のエネルギーコードが延び、それらを繋ぐ。



・・・そう言えば、これもヤスフミと一緒にヘイハチさんから教わったんだっけ。なんだか、不思議だな。私の中に・・・ヤスフミと繋がった事で手に出来た力、沢山あるんだ。





「でも、いつもこんな風におしゃべりだと嬉しいな」

≪・・・それは勘弁してください。やはり私は、アルトアイゼンのようにはなれません。今も・・・そうとう無理をしています。こういうのは、今回限りでお願いしたいです≫

「それはちょっと残念だな。私としては、沢山お話出来た方がうれしいんだけど」





そんな話をしながら・・・私は二振りに増えたライオットを構える。身体を回転させ・・・その切っ先を向ける。





「・・・ふふ、いいのか?」





男が笑う。何がおかしいのかと聞きたくなるくらいに。





「こんな所で切り札を切ってしまって。そんなことをすれば、君はここで足止めだ。他の場所へ救援などいけなくなるぞ」

「訂正して」





そんなの、いい。みんなならきっと何とか出来る。ヤスフミも、なのはも、はやても、シグナムもヴィータもスバル達もエリオもキャロも、みんな自分の場所で戦ってる。



だから・・・きっと大丈夫。





「訂正? 何をだね」

「ヤスフミを人形だと言ったこと・・・訂正して。そうすれば、私は少しだけ・・・あなたを許す」

「ふふ・・・ふははははははははっ! 馬鹿か君はっ!? 言うに事欠いてそれかっ!!」





目の前の男が更に笑う。私をあざ笑う。でも・・・全く気にならない。





「訂正するはずがないだろうっ!? いいかね、そのオンボロが何を言ったかは知らないが」

「・・・訂正して」

「もう一度言ってあげようっ! 彼は人形だっ!!」

「・・・・・・訂正して」

「君が自分の都合で振り回してる哀れな操り人形だよっ!!」





何を言っても、もう気にならない。言いたければ言わせておけばいい。





「・・・わかった」





そのまま踏み込んだ。





「・・・な」





男が驚く。当然だ、10数メートルという距離が一瞬で零になろうとしたのだから。



というより、自分でも驚く。だって・・・これ、今までの私が出せるスピードじゃないから。なんだか、身体がすごく軽い。さっきまでのボヤけた思考がまるで嘘のよう。物理的にじゃなくて、精神的にそう感じる。





「ドクターッ!!」





青髪が立ちはだかった。でも・・・遅いっ! 私は打ち込まれた右拳を、右のライオットで左から打ち込む形で力いっぱいに弾いて、青髪の突撃の軌道をずらし、後ろにいなす。



そのまま、両手を振るって・・・!!





「もう・・・お前は喋るなっ!!」










私は・・・普段は絶対にやら無いような、勢い任せな斬撃を打ち込む。そうして、男を幾重にも斬り刻んだ。生まれたのは雷光と呼ぶには細く、鋭い光の線。だけど、確実にそれは目の前の悪意を叩き伏せる。





袈裟に二撃。





左右から横薙ぎに切り返しも含めた四撃





左右同時の切り上げと上段からの打ち込みで四撃。





そして・・・二刀で突き。










「・・・ぐは」










非殺傷設定の攻撃。与えるのは魔力ダメージと電撃によるスタン効果。










「ふ、ふふふ・・・」

「なにがおかしい」

「おかしいさ。これで君は・・・足止めだ。ゆりかごも・・・私の夢も・・・止まらんさ・・・!!」

「止まるよ。・・・私達が止める。私は・・・私達は、一人じゃないから」










だけど、それでも刃はこの男の身体を貫く。そして、そこから雷が小さくほとばしる。










「まぁ・・・いいさ。例えそうでも、君の行く先は変わらない。君はきっと母親と同じようになる・・・。同じように・・・。なぜなら君は・・・ただの偽善・・・」










左右の手を開くようにして・・・身体の中から男の身体を斬る。










≪馬鹿か、貴様は≫

「私は・・・そうならない。絶対に。そうなっても、きっと止めてくれる。怒って、ダメだって怒鳴って・・・拳骨してくれて・・・私と喧嘩してくれる」










何にも分からないかも知れないけど、一番の味方で居るから。そう言ってくれた。今までだって、私が間違ってたら、間違ってるって言ってくれた。怒ってくれた。それで止めてくれた。





そうだ、迷う事なんてなかった。私・・・最初から知ってた。この男の言う事が間違いだって。嘘だって。ヤスフミが・・・ヤスフミと過ごしてきた時間が、それを証明してる。・・・やっぱり私、弱いね。ホント・・・ダメダメだよ。










≪貴様の間違いを教えてやろう。・・・彼の存在を軽視し過ぎたことだ。彼が居る限り、お前が言った事は否定され続ける。彼はSirの人形などではない。そもそもあの性悪が人形などと言う器に収まるはずがないだろう≫










そのまま、私は両手を振り上げ・・・ライオットを左右同時に、上段から全力で打ち込んだ。金色の閃光が、男の身体を駄目押しと言わんばかりに斬る。










「・・・もう一度言う。ヤスフミは・・・人形じゃない。それはエリオもキャロも同じ。みんな大事な・・・仲間だ」










男は歪んだ笑みを浮かべたまま、崩れ落ちた。私の声が聞こえたかどうかは・・・分からない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・おーい、なにいつまで腰抜かしてんの? お願いだからそろそろ立ってよ」



未だに床にへたりこんでいる目の前の女に声をかける。で、アメイジアはスラッシュフォルム・・・ようするに、通常形態の二刀流に戻す。いや、さすがにAMFの中だと魔力喰うね。きついきつい。



「あ、アンタ・・・マジで・・・」

「うん、撃ったよ?」



まぁ・・・撃ったのは上にだけどね。さすがにいくら私より胸大きいからって、女の身体にでっかい穴を開けたくはないのよ。でも・・・ハラオウン執務官とか、生きてるかな? ブッチギリで物理干渉オンな設定で撃ったし。

ま、大丈夫か。こういうのが意外と危機を救ってたりするかも知れないしね。



≪・・・姉御、さすがにそれはねぇんじゃないか? 普通に死ぬってアレ≫



・・・そうかな?



≪だと思うぜ。アレで危機救うってどんだけご都合主義だよ≫

「そうだよね、うん。実は私もそう思ってた。・・・あー、ハラオウン執務官、ごめんね。いや、許してよ。マジでさ」

≪ボーイに殺されなきゃいいけどな。これで怪我でもしてようもんなら・・・マジでキレるぜ?≫

「あー、それはマジ勘弁っ! なんて言うか・・・こう、ノリで撃っちゃっただけなんだよっ!!」

≪いや、それありえねぇから。マジありえねぇからな?≫










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま、そういうことにしておいて? ハラオウン執務官、この貸し・・・返す必要はないよ。でも、同じ事があっても、もう私は助けないから。次からは自力でなんとかしな?





今の舞台の主役はアンタややっさん達なんだからさ、腑抜けた演技なんてやるんじゃないよ。やるなら・・・開場からカーテンコールまでクライマックスで行きなよ。










「イカレてる・・・! ぶっちぎりでイカレてるわよ・・・!! 人質取られてそれで普通撃つっ!?」

「・・・はぁ? アンタ、なに言ってんのさ」



私はアメイジアを構える。・・・さすがにもうアレは使えない。そんな真似したら、今度こそ魔力エンプティだ。この状況でそれはゴメンこうむりたいね。



「アンタもアンタのお父様も、そのイカレた連中敵に回したんだよ。自分達から喧嘩売っておいて、ぶつくさ抜かすな」



・・・多分、もしやっさんやサリでも、こうする。そして撃つ。例えやっさんはメガーヌの位置にハラオウン執務官が居てもだ。このまま生き地獄を味合わされる可能性があるってなら、今死なせた方がいい・・・とか・・・は考えないか。さすがにさ。



「アンタらが喧嘩売ったのは、そんな連中だ。私達は全員時代遅れで、錆びも浮きまくりの鉄なんだよ。そこいらの都会派連中と一緒にすんなっつーの」

≪まさか今更んなバカなこと言うとは思わなかったぜ。アンタ、肝っ玉小せぇな≫

「全くだよ。・・・で、どうする? 私はアンタがメガーヌを撃とうとした瞬間、速攻ぶっ潰すけど。だって・・・そこは間違いなく隙なわけだしさぁ」



私が笑いながらそう言うと、女が立ち上がる。そして、両手でボンテージを払う。



「そう。だったら・・・いいわよ」



女が銃を右手のみではなく、左手でも持ち・・・構える。そのまま私を見据えた。その目は、私が初めて見た時と同じ・・・戦う人間の目だ。



「力ずくで捕まえてあげるから」

「いいねぇ、ここで降参されてもつまんないとは思ってたんだ。つーわけだからさ」





だから・・・飛び出す。





「あの三流ドクター潰せない恨み、アンタにぶつけさせてもらうよっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ド・・・ドクターっ!!」

「・・・ジェイル・スカリエッティ。あなたを大規模騒乱罪の現行犯で逮捕します」



・・・バインドをかける。あっけないと言えば・・・あっけない終わり方。でも、これでいい。



「ね、バルディッシュ。少しはらしい戦い方・・・出来たかな?」

≪・・・Sirらしいというより、彼らしいと言った方が正解かと≫



そう言われて、ちょこっと固まる。そう言えば・・・普段のヤスフミの戦い方に割合近い・・・感じが・・・。



「・・・確かにそうかも」





ヤスフミ、いつもこんな感じなんだよね。お話出来ないというか、見敵必殺というか。・・・ちょっと修正した方がいいのかな。いや、でもでも・・・うーん、悩むよ。



とにかく、私は振り向く。目の前の光景に呆然としている戦闘機人・・・ううん、女性に。

あと残っているのは彼女・・・トーレだけ。





「抵抗しないで、投降して。そうすれば、手荒なことはしないし、弁護の機会も与えられるから」

「ふざけるな・・・! 今すぐドクターを放せっ!!」

「もうこの人は捕まえた。だから離せないよ。・・・もう、あなたが戦う理由は無い。だから」



だけど、その子はそのまま踏み込んできた。そうして、右拳を私に叩きつける。・・・ううん、手首から生えている濃いピンク色の羽を。それをライオットで受け止める。そのまま・・・つばぜり合い状態。

ライオットの刃を構成させる金色の魔力と、ピンク色のエネルギーが激しく火花を上げ、目の前を照らす。



「どうしても・・・やるの?」

「お前を潰して、ドクターを解放しなくてはならないからな・・・」

「・・・分かった」



そのまま二人同時に後ろに飛ぶ。そしてそのまま・・・また踏み込む。左のライオットを上から打ち込み、放たれた右拳の刃を弾く。そのまま彼女が身体を捻り、右から回し蹴りを放つ。それを後ろに下がって回避。

でも、一回じゃない。足首の刃でも斬りつけるように、身体を捻りそのまま攻撃を継続。私はそれをライオットの刃でなんとか受け止め、着地。



「なんで・・・戦うのっ!?」

「知ったことっ!!」



襲うのは拳。そしてその手首に付けられた刃。それは両足も同じ、それを飛び、ライオットで弾き、回避していく。

後ろに飛ぶ。大きく踏み込んで蹴りを入れてきたトーレの攻撃を右に避ける。その足が、私の居た場所の下・・・床を大きく砕き、抉る。私はと言うと、そのまま横の壁に着地。それを足場に一気に飛んで、彼女へと踏み込み・・・右のライオットを打ち込む。



「我々はドクターのために作られたっ! ドクターの夢のためになっ!! ならばっ! 創造主たるドクターのために最後まで戦うのは当然だろうっ!!」



左手首の刃で受け止め、そのままライオットを流してきた。そして、回転しながら私の側面へ回りこんで・・・右手首を裏権の要領で打ち込んでくる。それをしゃがんで避けると、その回転の勢いのまま左足で蹴りを叩き込んでくる。私は大きく後ろに飛んで避ける。

真・ソニックのスピードなら、ぎりぎりで可能。でも・・・真・ソニックはジャケットの装甲をぎりぎりまで削ってる。だから、当たれば・・・沈む。



「IS・・・ライドインパルスッ!!」





彼女の身体を青い光が包んだ。そして・・・動きが速くなる。そのまま、光が突撃してきた。私は・・・右のライオットをその光に向かって殴るように打ち込む。

だけど、光は刃が当たる寸前、急速停止、大きく跳んで・・・それを避けた。後ろに殺気。それに従って、私は身を捻って、左のライオットを打ち込もうとする。光が下がる。でも・・・負けない。

私の身体を金色の光が包む。そのまま突き進む。すると、距離は一瞬で縮み、青い光と激突した。そのまま左のライオットと彼女の刃がつばぜり合いをする。



そのまま、切り抜けるように交差。・・・右腕、かすった。でも、かすっただけ、まだ・・・やれるっ!!





「でもそれは・・・あなた自身の理由でも、夢でもないっ!!」



彼女を追う。空中へ飛んだ彼女もまた、私へと迫ってくる。だから・・・またライオットを打ち込む。



「我々と同じ作られた人形が・・・知った事をっ!!」



・・・刃は受け止められる。でも・・・・そのまま押し込み、斬るっ!!

彼女はそのまま吹き飛ばされる形で、地面に近づく。そこに追撃をかけるために更に追う。



「・・・そんなこと、関係ない」





私は確かに作られた。そして・・・創造主足る母さんの要望には何一つ答えられなかった。だから、母さんはあの時・・・私の手を取ってくれなかった。そんなの、分かってる。もう分かってる。

でも・・・それが全部じゃないっ! あの子はそれでも手を伸ばしてくれたっ!! 私と友達になりたいと言ってくれて・・・今でも繋がってるっ!!



そして、あの子とは手を伸ばしあったっ! 同じような傷を抱えて、だから近いものを感じて、でも、ぶつかってばかりで・・・でも、それでもそうして、私達は繋がったっ!!





「どういう生まれ方をしたとか、何をしてきたかとか、そんなの・・・関係ないっ!!」





上段から打ち込んだライオットは、彼女が後ろに下がり回避したことで避けられる。そのまま踏み込んで・・・彼女は右の足で蹴りを放ってきた。それを左のライオットの刀身で受け止める。



・・・いや、違う。私の刀身を足場にして、瞬間的に一段高く上がり・・・私の顔に向かって、回し蹴りを放つ。それをしゃがんで回避。そして彼女は・・・左手をかざした。あの時と同じ砲撃の姿勢。





「それは、お前が現実を見ていないからだっ! 我らは創造主足る人間の望みを叶えるために作られたっ!!」





赤い色をした砲撃が放たれる。ほぼ零距離。避けるなんて・・・無理。





「それが出来ぬものに・・・存在する意味などないっ!!」





だから私は・・・右のライオットの刃をその砲撃に打ち込むっ! ・・・簡単だよ、避けられないなら、斬ればいいんだっ!!





「・・・違う」





赤い砲撃は刃によって真っ二つに斬り裂かれる。魔力が吸い上げられるように消耗されていく。肌を、髪を、ジャケットを余波が焼く。気を抜けば倒れそう。




でも・・・まだだっ! まだ終わってないっ!! それになにより、この刃を持っているのに負けることなんて出来ないっ! この刃は、ヤスフミとの繋がりなんだっ!! それで負けるっ!? そんなの、私は絶対に嫌だっ!!





「意味は・・・自分で作るのっ! 自分で見つけていくのっ!! 誰かに与えられたり・・・もらったりするものじゃないっ!!」





砲撃が終わる。赤い砲撃はライオットの刃によって斬り裂かれた。彼女の顔が驚きの表情に染まる。



でも、この程度驚く必要ないよ。これの元になった刃は・・・なのはのバスターだって斬っちゃうんだから。





「・・・壊すよ」





その隙に、私はもう一歩踏み込む。いや、飛び込む。そして左のライオットの刃を・・・彼女の胴に左から真一文字に打ち込むっ!!





「もしあなたが本気でそう思っているなら・・・」





閃光が彼女を斬る。でも・・・一度じゃない。そのまま返す刃でもう一度右から一閃。次は右のライオットで上段から一閃。彼女の頭が下がる。





「そんなくだらない思い込みっ! 私が・・・壊すっ!!」





左のライオットを手の中でくるりと返す。刃がそれまでと180度方向を変えて、いわゆる峰打ち状態になった。



そうしてそのまま腕を振り上げるようにして、逆さにした刃で斬り上げるっ!!





「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





また左の刃を返して、元に戻す。そのまま、両腕を上げて・・・上段から一閃っ!!



・・・二つの閃光が彼女を斬り裂いた。そのまま彼女は・・・身体を地面へと叩きつけられ、崩れ落ちる。動く様子は・・・ない。



私も・・・着地。というか、ちょっとフラフラ。あ、あはは・・・。さすがにちょっと頑張り過ぎたかな。やっぱり、AMFの中でライオットはきついよ。息切れてるし。

とにかく、バルディッシュのダクトが開いて、スチームを出す。・・・稼動時に生まれた熱を逃がすのと同時に、蓄積された魔力残滓も吐き出す。





≪・・・Sir、大丈夫ですか?≫

「うん、大丈夫。バルディッシュは?」

≪問題ありません≫



そっか、なら・・・よかった。あ、でもバルディッシュはいつもそう言って無茶するから・・・ちょっと信用出来ないよ。

とにかく、彼女にもバインド。これで、ここは押さえられたね。とりあえず自分の仕事は果たせた。結構・・・ぎりぎりだったけど。



「・・・ね、バルディッシュ」

≪はい≫

「私ね・・・ヤスフミとちょっと話をしたいんだ」

≪案件はなんでしょうか≫



・・・うーん、そうだなぁ。よし、やっぱりアレにしようっと。



「トンカツ定食とゴマプリン、食べに行かない・・・とかかな。それで、ご飯を食べながら久しぶりに姉弟だけでコミュニケーション」

≪・・・納得です。どうやら彼は・・・しばらく敗残兵ですね≫

「何か言った?」

≪いいえ、何も≫










ーフェイト・T・ハラオウン&バルディッシュ ジェイル・スカリエッティ&ナンバーズ・トーレ 打破ー





ー勝利要因:積み重ねてきた偽りなき繋がり&8年前に奢ったトンカツ定食とゴマプリンー




















(ミッション08へ続く)







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