小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
インタールードデイズ01 『変わり始めたライトニング・レボリューション』
「・・・それで良ちゃん、旅行中はどんなことがあったの?」
久々の姉さんのコーヒーを堪能していると、そう聞いてきた。とは言え・・・あんまり話せないよなぁ。いくらなんでも『異世界に行って魔導師の人と全力全開で戦って来ました』・・・なんて、言えないよ。
うーん、やっぱり戦いが終わってからの話がいいかな。魔法のこととかバレないように。
「えっと、まず・・・さっきも言ったけど、素敵な出会いが・・・というか、友達が出来たよ。沢山」
「そうなの。ね、その人達の写真とかある?」
写真は・・・あるにはあるけど、まずいよね。普通に管理局の制服とか着てるから。
「ごめん、写真は無いんだ。それで・・・なんというか僕にそっくりだって言われる子に会って」
「良ちゃんに?」
「うん。・・・蒼凪恭文君って言うんだけどね。僕より2歳年下。それで、話は聞いてたからどんな子かなと思ったら、びっくりした」
ヘイハチさんが会ってからの楽しみとか言って、名前しか教えてくれなかったのもあるんだけど、身長が154センチって小学生並みに低かったり、パートナーデバイスのアルトアイゼンがとってもよく喋ってすごく自由で・・・。うん、あれありえないとか思った。
それでもっとありえないのは、あの子の性格。もう過激というか凶悪というか、行動にためらいが無いんだもん。本当にびっくりしたよ。殺気を出したら無茶苦茶怖いし。
あと・・・サウンドベルトっ! あれが一番びっくりしたっ!! 普通に歌を流すんだから、本当に衝撃的だったんだからっ!!
それにそれに・・・。
「・・・それに?」
「旅行中にね、その子ちょっと辛い事があったんだ。その子というより・・・その子の好きな人に」
あの時かな、ヘイハチさんやリンディさんが僕と恭文君が似てるって言うのに納得したのを。恭文君、フェイトさんの記憶が無くなったのに、動揺したりヘコんだりしないで、まっすぐに戦いに向かった。そうして・・・取り戻した。フェイトさんとの今を。
取り戻せると、戻ってくると、自分たちの過去を信じ抜いた。迷わずに、揺らがずに。
モモタロスに言われたよ。『お前みてぇな強情っぱりがもう一人居るたぁ思わなかった』・・・って。
「・・・そっか。その子、すごく強い子なのね。それで、その子とその子の好きな人は、大丈夫だったの?」
「うん、大丈夫だった。というより・・・前よりすっごく仲良くなった」
もうね、すごいの。本当にすごいの。フェイトさん、すみませんけど僕には何が審査中かさっぱりわかりませんでした。
「あ、それでね。ほかにも楽しいこと、色々あったんだ。まず・・・」
そうして思い出すのは・・・10日間の記憶。
戦いじゃない、日常という時間。僕達と恭文君達の、大事な記憶と時間。
『とある魔導師と機動六課の日常』×『仮面ライダー電王』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間
インタールードデイズ01 『変わり始めたライトニング・レボリューション』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・戦いは終わった。もち、僕達の勝ち。
まぁ、細かい後処理は全てクロノさんやリンディさんやカリムさんに押し付ける事にして、僕達は日常へと戻る事になった。
なお、酷いとか無責任とは言うことなかれ。上司というのは、部下の処理しきれない面倒ごとを押し付けられるために存在していると、機動警察パトレイ○ーの後藤隊長もおっしゃっている。
そして、クロノさん達がアウトな場合はその上のミゼットさん達に押し付けられる。そうして、世界は平和を保てるのだ。このすばらしい理屈のどこに問題があると?
なお、だからこそ僕は出世したくありません。だって、面倒ごと押し付けられたくないもの。・・・ただでさえいろんなことに巻き込まれると言うのに、これ以上んな不幸レベルが上がるような要因をどうして増やさなきゃいけないのよ。イミフだよイミフ。
ただ・・・なんつうかその前に・・・ねぇ。
この目の前に居る人達の厳しい視線をなんとかして欲しい。
「・・・あの、シャマル先生。それでヤスフミは」
僕はネガタロスにクライマックスフォームな電王と一緒にライダーキックをかました直後、倒れた。というより、身体がギシギシ言うし軽度の頭痛が起きて吐き気まで催して、まったく動かなくなった。
で、現在ここ・・・六課隊舎の医務室でベッドに寝かされて・・・・いや、訂正。厳しい視線によって縛りつけられている。あれだよ、みんなメドゥーサだよ。視線で僕は石になってるよ。メドゥーサの視線の大バーゲンだよ。
「シャマルお姉ちゃん、恭文大丈夫なのっ!?」
「大丈夫ですよ、リュウタロスさん。フェイトちゃんもみんなも、心配しなくていいわよ。今すぐどうこうというわけじゃないから」
そのシャマルさんの言葉に、チームデンライナーの面々も、フェイト達も安心した表情を浮かべる。で、僕もちょっと気が抜ける。
「・・・恭文くんっ!!」
え、まだ続きがあるんかいっ! この調子なら後はスローテンポになるのが定石じゃないっ!? なんでここでいきなりテンション上がるのさっ!!
「あなた、いったい何をやったのっ!?」
「いや、何をやったと言われましても・・・」
「身体中の筋肉の筋繊維が切れる4歩寸前まで酷使されてるっ! 脳波も通常時に比べるとかなり乱れているっ!! はっきり言って、あのイマジンからの攻撃だけでこのダメージは説明出来ないのよっ!!」
「ぶっちゃけ、俺もこんな症例はよっぽど無茶な訓練をなんのアフターケアも無しで年中継続してましたとかしか見たことが無い。お前、マジでなにやったんだよ」
いや、だから僕が聞きたいんですって。なんでこれなのかがさっぱり説明が・・・あ。
ま、まさか・・・やっぱりアレっ!? いや、まさかもマサカリもないよアレしかないよっ! アレを使った後でこの状態なんだからっ!!
「覚えがあるのね?」
「え、えっと・・・話さなきゃだめですか?」
「ダメよ」
「やっさん、お前この状況でその選択が取れると本気で思ってんのか?」
「・・・思ってません」
仕方ないので、全部話した。結果、2週間の絶対安静と戦闘行動の禁止を言い渡された。
そして、シャマルさんから泣かれた。非常に泣かれた。無茶にも程があると。いくらなんでも無茶にも程があると。
いや、なんつうか・・・・ごめんなさい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・なぁ、ねーちゃんににーちゃん。青坊主の言ってたことが俺には今ひとつわからねぇんだけどよ。なんで景色がモノクロに見えたら速く動けんだよ」
「あ、僕も僕もっ! というより、なんでそれで恭文身体がぼろぼろになっちゃったのっ!?」
「恭文君、俺の目から見ても少し動くのも辛そうだった・・・。アレはどういうことなんですか?」
「・・・いや、俺はそれよりなによりそんな状態で更に暴れた事が疑問なんだけどよ。なんで動けたんだよ」
「恭文君、本当にノリや勢いだけで動いてたんだね・・・」
モモタロスさんにリュウタロスさん、デネブさんと侑斗さんと良太郎さんがそう言うのも無理は無い。今のヤスフミの状態は、私だって疑問だから。
ヤスフミはそのまま医務室で寝かせてから、全員食堂に集まった。そうして出てきたのは・・・当然ヤスフミの症状について。
さっきも言ったけど、あの話では今ひとつ要領を得ないから。
突然視界がモノクロになって、そうしたら周りのものがゆっくり動いて、その中で自分だけは他のどんなものよりも少しだけ早く動けて・・・と言われてもちょっと分からない。ね、そうだよね。なのは。
「・・・うそだよね。いや、うそだよね。そんな・・・まさか」
「なのはママ?」
なのはがうわ言のようになにかつぶやき続けてる。というより、ちょっと怖い。もの凄く深刻なオーラを出してるから。
いや、なのはだけじゃない。私の隣に居る・・・シグナムもだ。
「確かに、レアスキルなどではないし、理論上は誰でも可能だが・・・しかし、蒼凪が・・・いや、奴だからこそ・・・いやしかし・・・」
そんな二人はさておき、全員がシャマル先生とサリさんを見る。そして視線で言う。説明して欲しいと。
「・・・あの、もし僕達が居るので話辛いとかなら、席外しますけど」
「あぁ、大丈夫ですよ良太郎さん。・・・・・・簡単に言えば、恭文くんは身体のリミッターを外したの」
「リミッター?」
「多分・・・フェイトちゃんが危なかったのが引き金になったんだな。それでやっさんの集中力が極限にまで高まって・・・自分の時間間隔を引き伸ばしたんだよ」
・・・・・・え? あの、それどういうことですかっ!?
「・・・なるほど、そういうことですか」
「ちょっとウラ、アンタ分かったの?」
「もちろん。・・・フェイトさん、リインちゃん。恭文はその時、魔導師の二人から見ても信じられないようなスピードで動いたんですよね」
「はい。普通の高速移動や身体強化の魔法を越えるスピードで・・・」
「それで、雨のような弾丸を全部斬り落としたです」
それで・・・あぅ、思い出しちゃった。すごい恥ずかしかったよ。その・・・スパッツは履いていてよかったと心から思った。
「察するに、恭文のその超スピードでの行動は、時間間隔を引き伸ばした事が原因・・・ってことですね」
「正解よ」
「おいおい、だからそれはどういうことだよっ! 時間缶けりを引き伸ばすとか押すとかって、意味分かんねぇぜっ!!」
「まぁ、頭空っぽな先輩にも分かるように説明すると・・・」
「おいっ!!」
「その時の恭文は、僕達にとっての1秒が4秒にも6秒にも感じてたってことだよ」
・・・えっと、つまり・・・どういうこと?
「あの、ウラタロスさん。どういうことですか? というより・・・私、もう・・・」
「ごめん、私も・・・無理。なんつうか、分かりやすく話して分かりやすく・・・」
「あぁ、スバルちゃんもヒロリスさんもしっかりしてー! 湯気っ!! 頭から湯気出てるからぁぁぁぁぁぁっ!!」
「僕、濡れタオル持ってきますっ!!」
「あ、エリオ君私も行くっ! というより、氷まくらー!!」
良太郎さんにエリオとキャロがスバルとヒロさんの介抱をしつつも、ウラタロスさんの話は続く。でも・・・ごめん、私にはさっぱりな内容だった。
「ようするに、あの時・・・仮に僕達にとっての1秒を4秒と感じていたとするね。とにかく、自分にとっての時間の流れをそう感じていた恭文は、僕達が1秒かけて出来ることを4回出来たの。周りはともかく、恭文の感覚と身体は本当にゆっくりとした時間の中に存在していた」
「その引き伸ばされた時間間隔の風景が、さっき恭文君が話していたモノクロの風景と周りのものがスローで動いていく光景なの。景色がモノクロになったのは、多分視覚神経の中で色彩神経が一時的にオフになったからね。そしてその中で恭文くんは周りのものより本当に少しだけ早く動ける。だから・・・」
「その差は、やっさんと周りのものの行動速度に劇的な差を付ける。その中で俺達の1秒をやっさんが4秒と感じてたなら・・・単純計算で、4倍の速度。もし6秒なら6倍。10秒なら・・・」
じゅ、10倍っ!? ・・・あ、でもそうだよっ! 話通りなら、そうなるっ!!
「だから、簡単に言えば普通の状態の何倍も早く行動出来た。数十メートルという距離も一瞬で縮められたし、雨のような弾丸も全て斬り払えた・・・と」
「ティアナちゃん正解」
な、なんとなく分かったような分からないような・・・。
「つまり・・・青坊主一人だけがビデオとかの早送り状態だったってことか?」
・・・モモタロスさん、確かに凄く分かりやすく理屈抜きで言うとそうですけど、なんか身も蓋も無いです。
「・・・うん、そうだよ。先輩よく分かったね。偉い偉い」
「お供その1にしては上出来だろう。誉めてつかわす」
「・・・まぁ、桃の字はこれが限界やな」
「待てよ鳥野郎に熊公。てめぇらそりゃどういう意味だ?」
「言葉通りの意味や。・・・で、つまり恭文の身体がぼろぼろになったのは・・・」
キンタロスさんの言葉に、シャマル先生とサリさんとウラタロスさんがうなづく。
確かに、普通に考えれば凄い。でも・・・。
「間違いなく、リミッターを外した副作用だね。普通の何倍もの速度で動くんだもの。身体への負担だって相当と見ていいでしょ。しかも、恭文は見ての通り体型が一般男性と比べるととても小さい。良太郎やボクちゃんにサリエルさん、フェイトさんやなのはさん達はもちろん、下手をすれば女の子で年下のスバルちゃんやティアナちゃんより小柄だもの」
そう、代価が必要だった。それを支払った状態が今のヤスフミ。
「そんなやっさんの体型だと、リミッターを外した時の反動が大き過ぎて付いていけないんだよ。だから今は医務室のベッドとお友達ってわけだ」
「・・・正直、無事に回復可能な状態で後遺症の心配も無く戻ってこれたのは奇跡よ。かなり長時間に渡って高いレベルでリミッターを外したみたいだから、下手をすれば、その負荷で身体が一気に壊れていたかも」
その言葉に、身体に寒気が走った。・・・私のせいだ。私がもうちょっとしっかりしてれば、ヤスフミがリミッターを外すこともなかった。身体だって、あんなにぼろぼろで動くのもままならない状態にならなかった。
私・・・全然ダメだよ。守るつもりで、全然ヤスフミの事、守れてない。
「だがシャマル、これからどうする?」
「どうすると言うと?」
「蒼凪だ。・・・アイツは本来ならば人間が絶対に外せないリミッターを外せる領域に来てしまった。このままはまずいだろう」
あの、シグナム。それはどういう・・・。
「・・・そうね。恭文くんにはリミッターを自分でコントロール出来るようになってもらわないと、かなりまずいわ。これに関しては訓練が必要ね」
「あの、それって・・・ヤスフミにまた使えってことですかっ!? 少なくともその段階まで出来るように使用を前提とした訓練をしろとっ!!」
今日一度使っただけであの状態なのに・・・。また使ったら、どうなるか分からないよっ!!
「・・・テスタロッサ、落ち着け。もし蒼凪が自分の意思とは関係無しに、リミッターを外したらどうする? 今度は本当にただで済まない可能性があるぞ」
「あ・・・」
そっか、ヤスフミは今回100%自分の意思でリミッターを外したわけじゃないんだ。私と言うキッカケがあったから・・・。
「・・・ねね、恭文・・・大丈夫なの?」
「リュウタ、そんな泣きそうな声出さなくても大丈夫だよ。・・・今の所はね。でも、このままリミッター対策をしないままはマズイってこと」
ヤスフミ・・・私、どうすればいいのかな。
どうすれば、ヤスフミを守れるのかな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・神速、使ったんだね」
「多分、それ」
「あの、なのはさん。それって・・・」
「あ、良太郎さんは知らないんですよね。なのはの実家、御神流っていう実戦剣術を習得している家なんです。で、その御神流に神速って言う技法があって・・・」
「それが・・・時間間隔を引き伸ばす?」
「正解です」
医務室で寝ながら、窓越しに夕日をなんとなしに見ていると、なのはと良太郎さんが真剣な顔で来た。で、話してた。
やっぱなのはは知ってたか。ま、家族だしね。
「私からさっきお兄ちゃん達に話したんだけどね。みんな聞いて、ビックリしてた。恭文君、御神流の正式な門下生とかでもないのに」
「まぁ、その前に心配してたよね。前々から僕の身体だと耐えられないって言われてたから」
「してたよ、凄く。お姉ちゃんなんか、涙目になってた。今すぐミッドに行くとか行って、大変だったんだから」
・・・・・・美由希さん、ごめん。いや、真面目にごめん。自分でもあの領域に到達出来るなんて思ってなかったの。本当にビックリなの。
「・・・あのね、恭文君」
「うん?」
「もう使わないで」
そうだよね、そう来ると思ってた。だって、一回使っただけでこの状態だもの。これ以上の使用なんて無理でしょ。
「その、会って間もない僕からも言わせてもらえるなら・・・無茶過ぎるよ。みんなも倒れてから・・・と言うより、今の恭文君の状態を聞いてから、凄く心配してる。少なくとも今は使わない方がいいと思う」
「恭文君は止めても聞かないんだろうけど、それでも・・・これだけはお願い。これだけは絶対に聞いて欲しいの。だから、良太郎さんにも一緒に来てもらった。これは機動六課とチーム・デンライナー・・・私達全員のお願い。神速は、封印して」
・・・うん、そのつもり。
「うん、そうだよね。使わないよね。そう言うと思って・・・えぇっ! つ、使わないのっ!? 恭文君、返事違わないかなっ!! そこは・・・『絶対使う』とかっ! 『安全な形で使えるようになれば問題なし』・・・とかっ!!」
「まてまてっ! オノレは僕が遠慮なく使うと思ってたんかいっ!!」
「だって・・・その・・・」
まぁ、僕の性格を考えればそうなるか。仕方ないよね、今まで散々無茶してたんだから。
「・・・フェイト、泣きそうな顔してた」
「恭文君?」
「凄く心配そうで・・・辛そうで。今まで何回かさせて・・・それ見て、心から申し訳ないと思っちゃうような顔してた」
倒れて、動けなくて、ここに運ばれるまで意識だけはあったけど・・・倒れた僕を見て、ずっと心配そうで、泣きそうな顔してた。
「僕が居たいと思うのは・・・フェイトの隣だから。守りたいのは、フェイトの笑顔だから。両方を繋いで未来に届かせるためには、五体満足でいなくちゃいけないの。それを理由に止まるつもりなんざサラサラないけど、それでも、自分も守らないといけないの。
だから・・・ね、惜しくはあるけど、使わない」
「・・・そうだね。君が居なくなったら、きっとフェイトさんだけじゃなくて、みんなが傷つくから。繋がってるなら・・・それを守る選択もしないと」
「恭文君・・・なんだか、少し変わった?」
「まぁ、ご存知の通りいろいろありましたんで」
もう少しだけ・・・本当にもう少しだけ、自分の居場所や自分のこと、大事にするって決めたから。フェイトにもそう言ったから。
だから、ちゃんとその言葉も通さないとね。
「でも・・・」
このままは、だめだ。正直、今回だって自分の意思で使えたのかどうか怪しい。
現状を放置して、万が一にも自分で意識せずに身体の限界を超えた形で使ってしまったら・・・。
「うん、みんなも同じ結論だった。なんにしても恭文君は、体調が回復したらしばらくお兄ちゃんの所に行ってもらうね。あ、まずはフィリスさんのところかな」
「へ?」
恭也さん達の所にっ!? なんでまたっ!!
「もちろん、神速を最低レベルでも物にしてもらうためだよ。コントロール下におかないと、使わない選択も出来ないから。まずはフィリスさんにも事情を話して、しっかり整体を受けてもらう。
それからドイツに行って、お兄ちゃんと訓練だよ。お兄ちゃん、恭文君も知っての通り御神流の皆伝持ってるし、お姉ちゃんを育てあげたし、雫にも色々教えてるから先生としては最適なんだ」
うん、知ってる。あのハイスペックの塊みたいな子どもに教えてるよね。というより、あの子見よう見まねで僕が3年かかって覚えた鋼糸と飛針の扱いマスターしてやがるし。
なんなんだよあの天才。アレ見たら、自分が如何に凡人かって理解できるよ。もう3年経ったら完全に抜かれるんじゃないの?
あ、でも・・・士郎さんと美由希さんは?
「ずっと六課を離れてもらうわけにもいかないし、時間短縮のために実戦形式で教えるから、お兄ちゃんの方がいいってことになった。ほら、お父さんは昔の怪我で身体悪くしてるし、お姉ちゃんに至っては恭文君に甘いから」
「・・・納得した」
「向こうには忍さんも居るし、ちょうどノエルさんも家事手伝いで滞在してるって言うから、何かあっても大丈夫なはず。・・・月村家の医療技術、知ってるよね?」
知ってますよ? お世話になった事がありますから。
「それで・・・」
「それで?」
「これから沢山時間をかけて、神速を使える身体にしていこうって話になった。・・・きっと、恭文君は本当に必要な状況になったら使っちゃうだろうから」
そんなつもりは無いんだけどな。だって、身体ぼろぼろよ? フェイトもぼろぼろよ? 悲しませたりしたくないって。
「それでも、使えないのはやっぱり悔しいでしょ? やっとお兄ちゃんやお姉ちゃんに対抗出来る領域に来たから」
「・・・ま、それはね」
「だと思った」
そう言って、なのはが笑う。僕も・・・一緒に笑う。
・・・なんと言うか、僕はやっぱり人に恵まれている。今、心から思ったよ。
「今頃気づいたの?」
「まさか。・・・とっくに知ってたよ。なのはと友達になった時からね」
「うん、ならよろしい」
「なんだか、僕はいらなかったね。恭文君もなのはさんも、ちゃんと考えてたんだから」
「そんなことないですよ。良太郎さんが居てもらって助かってますよ。・・・正直、恭文君は私達でも止められないですから、これで使うってゴネた時には良太郎さんが頼みでした。恭文君の憧れの人である良太郎さんの言うことなら、すっごくすなおに・・・」
「人を子どもみたいに言うなっ!!」
「あはは・・・」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・恭文、ほんとうに大丈夫? 痛いところない?」
「ずいぶん無茶しとるそうやしな。アレや、して欲しいことがあったらいつでも言うてもらってえぇで? 俺らが一肌脱ごうやないか」
「あはは・・・。ありがとうございます」
・・・どうやらマジでいろんな人に心配かけまくってるらしい。今度はチームデンライナーな方々が来た。
もっと言うと、リュウタとキンタロスさんとデネブさんと侑斗さん。あと、ギンガさん。
「まぁ、ちょっと身体がギシギシ言ってるけど・・・なんとかね。明日には動けるようになるって言ってたし、大丈夫だよ」
「そっか、よかった」
「あのね、なぎ君。なのはさんと良太郎さんも言ってたと思うけど・・・」
「・・・分かってる。さすがにこれは僕の手には余るって。無理無理」
少なくとも現状ではね。さすがに壊れたくないのよ、僕だってまだまだ魔導師続けたいんだから。
「なら、いいんだ。あ、でもね・・・。なにかあるなら私も力になるから、気軽に相談して? これでも、リハビリの先輩ですから」
「いや、僕の方が先輩だから。ギンガさんよりずっと前に大怪我してるし」
「・・・そうでした」
なんて言いながら笑い合う。楽しくて、幸せで・・・大切な時間。
僕がちゃんとここに居るから。ここで五体満足に居られるから、存在出来る時間。とても大切にしなきゃいけない・・・時間。
「・・・あ、恭文君。これ」
そう言ってデネブさんが出してきたのは・・・あ、ご飯の時間か。
あぁ、美味しそうなおかゆー♪ というか、デネブさんの手料理ー♪
「ま、それ食って元気出せ。身体もあの先生の話じゃ心配ないらしいしな」
「はい、そうします。・・・侑斗さん、ありがとうございます。心配してくれて」
「・・・別に心配してねぇよっ!!」
なんかそっぽ向いたので、冷めないうちにおかゆをパクリ。・・・熱いけど、おいひー♪
この柚子の香りが極上だよ。食欲が出てくるー!!
「ほんとにっ!? いや、気に入ってくれてよかったー!!」
「オデブの料理はなかなか美味いからなぁ。早く治るように、どんどん食っとけ」
「はい」
もう一口二口・・・あぁ、美味しいな。これは。よし、味を盗んで再現できるようにしよう。
「あ、それと・・・これ」
でーんっ!!
「・・・・・・チョットオキキシマスガデネブサン、ナンデスカコレハ?」
目の前の皿の盛られたのは、8等分にされた赤いもの。切られる前は丸いはずだった野菜。なんか、ドレッシングかかってる。
もっと言うと、赤い魔王。うん、聞く意味ないよね。僕はこれがなにか知ってるもん。
「もちろん、生トマト。栄養たっぷりだから、好き嫌いしないで食べてね」
・・・・・・よし、誰経由の情報っ!? スバルかっ! なのはかっ!!
「あ、フェイトさんとギンガさん」
「ギンガさんっ!?」
「ごめん、聞き込みの時に少し・・・」
ばかぁぁぁぁぁぁぁっ! 余計な事を言いやがってっ!!
「あ、あのぉ・・・」
これ、食べるんですか? え、今日って勝利デーですよね? まぁ、おかゆは美味しいからオーケーとして・・・なんで生トマトっ!?
「ま、がんばって食べるんやな。つうか、お前ほどの強い男が、好き嫌いなんかしたらアカンでっ!!」
「そうだよ。侑斗だってがんばって椎茸食べられるようになったんだから、恭文君も」
「なってねぇよっ! このバカっ!!」
「・・・そう言えば、侑斗さんは椎茸嫌いなんですよね。なら、今度私が椎茸が好きになる料理を」
「お前もノるなぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あぁ、とにかく・・・恭文、ガンバっ!!」
・・・・・・結局、食べました。がんばって食べました。
でも・・・なんだろう、体調は良くなったと思うけど、やっぱり辛い。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・なんだろう、やっぱり辛い。
どうにもヤスフミに会い辛い。なので、私は食堂でコーヒーを飲みながらボーっとしてた。
普通に会えばいいだけなのに、今会うと・・・申し訳なさと情けなさで、感情が爆発するかも。
私、やっぱりおかしいな。前だったら、こんなこと考えなかったはずなのに。
いい・・・傾向なのかな。でも、やっぱり辛いよ。こういうの、辛い。
「・・・金髪ねーちゃん」
「・・・モモタロスさん」
モモタロスさん、お風呂に入ったのか手ぬぐいなんて首から下げてる。
・・・ん、お風呂? ということは脱いだの? え、脱ぐものなんて無いから、つまり普段は・・・考えるのやめよう。きっと色々違うんだ。
「隣、いいか?」
「あ、はい」
そのまま座る。自分用の飲み物をしっかり確保した上で。
「・・・どうしたんだよ」
「はい?」
「なんか、元気ねぇように見えるぞ。せっかく記憶も戻って戦いも勝ったってのによ」
・・・見抜かれてるって、どういうことだろ。私、そうとうなのかな。
「その・・・なんと言うか、ヤスフミに会い辛くて」
「・・・青坊主があの状態になったのは、自分のせいとかって、考えてるわけか」
「そうかも、知れないです」
きっと、ヤスフミはそんなことないって言う。私が無事なのが一番だって言ってくれる。
でも・・・私はそれが辛い。やっぱり、ヤスフミが傷ついたのは事実だから。
「だったら、そう言えばいいじゃねぇか」
え?
「ようするに、青坊主が無茶やらかしてボロボロになったのが嫌なんだろ? だったらそう言えばいいじゃねぇか」
「でも、それだと・・・」
ヤスフミ、私のためにがんばってくれて、それを否定する事になって・・・。
「アイツは良太郎に似て強情だからよ。そういうのはハッキリ言わねぇとわかんねぇぞ? ガチにやんねぇと、どこまでも突っ切っちまう。」
「でも・・・」
「・・・つーかよ、なんでもいいから会いに行ってやれ。あんたの記憶が無くなった時、一番泣きたかったのは・・・アイツなんだからよ」
モモタロスさんが、コーヒーを飲みつつそう口にした。その言葉に、胸が締め付けられる。
「実はよ、あのジジイが言ってやがったんだよ」
あのジジイ・・・ヘイハチさん?
「自分の弟子・・・青坊主と良太郎はよく似てるってな。でもよ、実際会ってみてびっくりだ。傍から見たらどこがどう似てるかさっぱりだぜ? やたらチビだし性格無茶苦茶だし攻撃的だし殺気出したらマジで怖ぇし。これでよく似てるとか言えたもんだって、内心ジジイに文句垂れてたんだよ。いや、むしろあれはボケ始めたんだろうなってな」
そ、そこまで言いますかっ!? いや、確かに良太郎とヤスフミは似て・・・ないよね。うん、事実似てないと思う。
「でもよ・・・アイツ、アンタの記憶が無くなった時、どうしてたか知ってるか?」
「・・・いいえ」
「動揺もせず、いつも通りに決戦の準備してたんだよ。戦ってる最中も、アンタが来るまでいつもと同じように振舞ってた。犬っ子や桃髪は落ち込んだりヘコんだりしてたのによ、アイツは一人そういうそぶりも見せずに、アンタの記憶取り戻すために戦うことだけ考えてた。まったく・・・タフなんだか頑固なんだかよ」
「そう・・・ですね。ヤスフミはいつもそうです。揺らがないで、迷わないで・・・止まらないんです」
凄く強くて、以前は同時にそれがとても怖くて・・・。どこへ行くかも、行きたいかも私から見ても分からなかったから。今すぐに消えちゃっても不思議がなくて、それがとても・・・怖かった。家族が居なくなるなんて、絶対に・・・絶対に嫌だったから。
だから、一つの場所に居て欲しかった。これからも魔導師として戦っていくなら、例えば・・・部隊みたいな、自分の居場所を作って欲しかった。やりたいことや、居たいと心から思う場所を見つけて欲しかった。きっとそういうのが色んなことに繋がっていくから。
だからかな? ギンガもそうだけど、ヤスフミが仕事で関わった人達が誘ってくれてるというのを聞いた時、嬉しかった。・・・ヤスフミにここに居てもいいよと、居て欲しいと言ってくれる人が、あの子の無茶で突撃し過ぎる部分を知ってもそう言ってくれる人達が居てくれる事に、心から感謝した。
でも・・・肝心のヤスフミは頷いてくれなかった。自分には無理だと。きっと振り切って飛び込んでいくから、迷惑をかけたくないと。それをどうにかして変えたくて・・・変わって欲しくて・・・。
「・・・なんか、色々あったんだな」
「8年・・・ですから」
「・・・でよ、それ見た時に思ったんだよ。あぁ、あのジジイはこういうのを指して良太郎に似てるって言ったんだってな。つかよ、実際俺だけじゃなくて亀公達もそう思ったらしいんだよ」
「ウラタロスさん達も?」
「あぁ。へコんだ時の良太郎そっくりだってな。アイツもヘコんでもそういうの見せやがらねぇで、戦おうとするんだよ。表情一つ変えずに、全部抱えてな。・・・『弱かったり、運が悪かったり、何も知らないとしても・・・それはなにもやらないことの言い訳にはならない』・・・とか言ってよ。全く、アイツらどんだけだよ」
そうだったんだ・・・。というより、ヤスフミが前に言ってた言葉。そっか、アレは良太郎さんの言葉だったんだ。
JS事件が進行中の時、聖王教会で保護されるヤスフミと別れる時、ヤスフミとアルトアイゼンは自分達が狙われているのに戦う理由をそう言った。事情も知ってて、力もある。だから・・・関わらずにただ守られることを選ぶ言い訳なんて出来ないと。
なんと言うか、本当にファンなんだね。いくらなんでも影響受けすぎだよ。というか・・・ちょっと思い出しちゃった。
『関係なくないよ』
あの時・・・関係ない世界のためにお前は死ぬと自分をあざ笑ったネガタロスに、良太郎さんはこう即答した。そう、即答したんだ。
『ここで知り合った人達が居る。ほんの少しでも、一緒の時間を過ごしてきた人達が居る。もう、関係ないで済ませる事なんて出来ない』
怯みもせず、揺らぎもせず、迷いもせず、真っ直ぐに立ち向かって・・・言い放った。
『それに、世界が変わったって変わらないものがある。記憶が、時間が、本当に大切なものだってことは』
話は変わるけど、その時、私分かった。どうしてヤスフミやなのはやヴィータ達が、最初の段階から良太郎さん達を受け入れられたのか。疑うことすらしなかったのか。というより、あの人の思考と行動にずっと疑問を持ってた。
だって、それまで知らなかったまったく関係無い世界のためにわざわざ来たんだよ? 何の見返りも、報酬も求めないで。ただ記憶と時間を守るためと言って。普通に考えておかしいもの。
良太郎さんは私達みたいになにかの組織に所属してるわけでもない。戦う事からも一応引いていた。なのに、また飛び込んだ。見てると、電王に変身出来ること以外は至って普通で・・・いや、むしろ気弱で、体力も無い感じで。
私、そんな良太郎さんがどうしてミッドに来たのかずっと分からなかった。深刻な事態だったのに、それをちゃんと認識せずに疑った自分を恥じたりしつつも、どうしてと思い続けてた。でも、あの時分かった。あの人がどういう人なのか・・・ようやく分かった。
『だから消させない。悪いけど、君達の好きにはさせない』
あの人は、一言で言うなら凄く強い人だったんだ。力じゃない。その心が。だから迷わずに、仲間と・・・モモタロスさん達と一緒に、ここに飛びこんだ。モモタロスさん達も、そんな良太郎さんだから認めて、ここまで力を貸しているんだ。
そして、ヤスフミ達も野上良太郎と言う人がああいう人だと知っていたから、受け入れられたんだ。この人ならきっと・・・そうするんだろうと。全く関係の無い世界なんて理屈こそが関係ない。自分がやらなきゃいけないと思ったらやるだけ。そんな良太郎さんだとヤスフミ達は最初から分かってたから。
「・・・モモタロスさん、一ついいですか?」
「あぁ」
「もし・・・ヤスフミが良太郎さんの立場だったら、ミッドに来ると思いますか? 全く関係なくて、もう戦うこともしていないのに」
「青坊主なら来るだろうな、間違いなくよ。・・・アンタもそう思ってんじゃねぇのか?」
「・・・はい」
もしヤスフミも、良太郎さんの立場だったら、あの時の同じこと言うかな? ・・・言いそうだね。ヤスフミも、関係ないや魔導師だからや局員だからで言い訳しない子だから。してもいいし、そうしても私達は絶対に責めないって言っても・・・変わらなかった。
ほんとに・・・どんだけ・・・だよ。これじゃあ私、このままで居るわけにはいかないじゃない。本当に・・・勝手なんだから。
「・・・・・・だからよ、そういうの、ちゃんとアンタが受け止めてやってくれよ。アイツ、まだ吐き出しもせずに溜め込んでるはずだからよ」
「私で・・・いいんでしょうか」
「アンタが受け止めねぇで、誰が受け止めるんだよ。で、その時に話しちまえよ。今の気持ちもな」
そう・・・だよね、話さないと分からないよね。私だけじゃない、ヤスフミだってきっと・・・同じ。
今までだって、何か有る度にそうしてきた。それでも、ちょっとダメダメだったけど・・・。でも、それでもそうしようって改めて思ったから、私は今、改めてヤスフミを知りたいと思うようになったんだから。
「・・・モモタロスさん」
「行くのか?」
「はい。・・・ありがとうございます」
「いいから早く行ってこい」
そのまま、席を立ってペコリとお辞儀してから・・・医務室に走った。
ちゃんと話そう。私の気持ち。それで・・・ちゃんと聞こう。ヤスフミの気持ち。
そうしないと、意味が無いから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・ふむ、お供その1。成長したな」
「なっ! 鳥野郎っ!! てめぇいつから居やがったっ!?」
「つい先ほどだ。・・・あの少年とあの者、青春しているな。よいことだ」
「・・・な、お前絶対性格変わったよな。なんかあったのか?」
「色々あったんじゃないの? でも、先輩にしては上出来かな。これは・・・恭文、今夜は釣り上げちゃうかもね」
「亀っ! お前もかよっ!? つーか、居るなら居るで自己主張しやがれお前らっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
≪・・・リインさん≫
「はいです」
≪なんで私達、出番無いんでしょうね≫
「セブンモード、ぶっつけで出しちゃったからですよ。リインもコントロールでがんばりましたし、二人揃ってフルメンテは当然です」
≪でも、そろそろ私は戻りたいんですよね。どうにもこう・・・面白いことになりそうな感じがするんですよ≫
「どんな予感ですか、それは。でも・・・確かにするです。恭文さんの所に行きたいですね」
「はいはい、リイン曹長もアルトアイゼンも悪いけど我慢してくださいね。さすがにちょい無茶し過ぎですから」
≪「・・・はーい。シャリオ先生、よろしくお願いしまーす」≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・来ちゃった。
な、なんだかドキドキする。でも・・・ちゃんとしないと。
医務室の前で深呼吸。そうして心臓を落ち着けてから、私はそのまま入る。
「・・・あれ、フェイト。どったの?」
・・・そのまま、私はヤスフミが寝かされているベッドの横に座る。当然、椅子を出した上で。
「うん、少し話がしたくて。ヤスフミ、身体はどう?」
「おかげさまでね。・・・フェイト、デネブさんにトマト嫌いだって話したでしょ。大変だったんだから」
「あはは・・・。ごめん、ちょっとだけね」
デネブさん、もしかしてヤスフミのトマト嫌いを治すのに協力してくれようとしたのかな。だとしたら・・・嬉しいな。
「・・・ヤスフミ」
「なに?」
「ごめん」
私がそう言うと、ヤスフミの表情に陰りが差す。多分言いたい事が分かったんだ。
「べつにフェイトのせいじゃないよ。僕が無茶やらかしただけだし」
「それもある」
「それもって?」
「私、その・・・昼間も言ったけど、ヤスフミに辛い思いさせた」
記憶を奪われて、全部忘れて・・・。忘れる方が辛いって言うけど、忘れられる方だって辛い。
私、いっぱい想いを届けてくれたヤスフミの事も。気持ちと想いが通じ合って、やっと向き合えて嬉しかったことも、全部忘れて・・・。
「・・・いいよ、大丈夫だから」
「大丈夫じゃないっ! ・・・モモタロスさんの言う通りだ」
「はい?」
タフなんだか頑固なんだか。本当に落ち込んだ顔、見せてくれない。いつも通りにがんばっていっちゃう。
とても強いけど、同時に・・・寂しさも感じる。
「ヤスフミは頑固で聞き分けが無いってこと」
「なにそれっ!? というかね、フェイト。謝るの・・・僕だよ」
「・・・どうして、ヤスフミが謝るの?」
「守れなかった」
・・・そんなことない、守ってくれたよ。だから私、ここに居る。
「そんなことある。僕、フェイトの騎士になるって言ったのに・・・笑顔と、今を守るって言ったのに・・・守れなかった。フェイトに辛い思いさせた。すごく不安にさせた」
「ヤスフミ・・・」
「僕、ダメだね。本当に・・・ダメだ。フェイト、ゴメン」
その言葉で胸が苦しくなる。悲しくて・・・辛くて、泣きたくなる。だから・・・私は手を伸ばした。
「本当に・・・」
「言わないで」
私は、そのままヤスフミを抱きしめた。力いっぱいに・・・思いっきりギュって。
だって、あのまま謝り続けるヤスフミなんて、見たくなかったから。
「・・・あの、フェイト?」
「ダメなんかじゃない。お願いだから謝らないで。・・・ヤスフミは、ちゃんと守ってくれたよ。ヤスフミ、信じてくれたよね。私の記憶が戻るって、ずっと・・・信じてくれてた。だから、私は思い出せたんだよ」
その、ヤスフミだけじゃなくてみんなも同じだけど。でも、いいの。ここはこれでいいの。
「ホントに・・・守れたのかな」
「守れたよ。だから、私、ヤスフミのこと呼び捨てにしてるでしょ?」
「そうだね、してる。さん付けはやっぱショックだったし」
うん、そうだよね。なんだか他人行儀だもの。
「それで・・・ね」
「うん」
「私も、守りたいの」
上手く言えない。でも・・・伝えなきゃ。
「私を・・・私をずっと守りたいと言ってくれたヤスフミを、私の頑固で強情で・・・だけど、とっても強い騎士を、私も守りたいの。守られるだけなんて、嫌なんだ」
このままは、やっぱり嫌だから。
「だから・・・その、えっと・・・前にも言ったけど・・・頼って欲しい。私、一緒に戦うから」
「・・・いいの?」
「うん」
「でも・・・」
「でもじゃない」
「なんか、告白っぽい」
その言葉に、体温が上がる。ドキドキが速くなる。呼吸するのも苦しくなるくらいに。
・・・・・・ヤスフミのバカ。こんなときにまでそんなこと言うんだから。
「告白っぽくてもいいの。とにかく、頼って? 私、なにも出来ずにヤスフミが傷つくなんて・・・嫌だよ」
「・・・大丈夫だよ。その、頼らせてもらうし」
ヤスフミが、私を抱き返す。強く・・・だけど、優しく。
「フェイトに泣きそうな顔・・・されたくないから。もう少しだけ、フェイトやみんなに甘えたり頼ったりするって、決めてるから」
「ホント・・・に?」
「ほんとに。・・・フェイトの隣に居たいから。フェイトと同じ時間で、幸せな未来に今を繋いでいきたいから。だから、泣かせるような真似、極力したくない。
まぁ、飛び込む時は飛び込むんだろうなぁとは・・・ちょっと思ったり。ごめん、もしかしたらそこは・・・死ぬまで変わんないかもしれない」
その言葉に、私はつい苦笑する。でも・・・そうだね。居場所を理由に止まってるヤスフミは、少し違う気がするから。
「・・・いいよ。弱かったり、運が悪かったり、なにも知らないとしても・・・それは、何もやらない事の言い訳にはならない・・・でしょ? 良太郎さんが、そう言ってたんだよね」
「・・・うん」
それで、いいのかも知れない。ううん、きっといいんだ。
「フェイト・・・」
「うん」
「前にも言ったけど・・・僕、もっと強くなる。フェイトとの時間、欲しいから」
「うん・・・。あの、ヤスフミだけじゃなくて私もだよ。ヤスフミのこと、守りたいから。絶対に」
そうして、また抱きしめ合う。
伝わるのは温もりと優しさ。伝えたいのは・・・私の存在と想い。
一人じゃない。隣には私が居る。だから・・・一人で戦おうとしないでと。隣に居ていいからと、あなたの居場所はここにあるからと、精一杯伝える。
凄く強くて、優しい私の・・・私だけの騎士に。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・聞こえたのはチュンチュンと言う鳥の声。
その声に、心地よい眠りの感覚が途切れる。というか、目が覚める。
「ん・・・」
ゆっくりと目を開けると、そこには・・・。
ヤスフミの顔があった。すっごく近くに。
・・・え?
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
こ、ここ・・・医務室っ!? というより、なんで私はヤスフミと・・・あ、服はちゃんと着てる。うん、大丈夫。
えっと、思い出そう。ちゃんと思い出そう。お願いだからしっかり動いて、起きたばかりの私の頭。色々混乱してるけどとにかく動いてー!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだ、あのままギュってしてたら、ヤスフミがうつらうつらし始めて・・・。
それで、ベッドに寝かせたんだけど、出ようとする私をすごくさびしげな目で見て、それでこう・・・どきどきしちゃって。
ヤスフミが寝付くまで、ずっと手を繋いでてあげるという話になって、それでそのまま私も・・・寝ちゃったんだ。色々あって疲れてたから。
なので、私は椅子に腰掛けた状態で上半身をベッドに・・・ヤスフミの胸元に預けていた。
うぅ、なんか少し腰が・・・ちょっと無理な体勢だったのかな。
でも・・・悪くないかも。だって、手はずっと繋がったままだから。手の平から伝わる優しい感触が、なんだかすごく心地いい。
・・・やっぱり、そうだよね。記憶が戻ってからヤスフミに対してずっと感じてる気持ち。無くしたことを自覚して、そうして気づいた想い。それが原因だよね。
「私・・・釣られかけてるんだ」
そう、私はヤスフミのことが好きになりかけてる。今までとは違う、男の子として好きになりかけてる。恋、し始めてるんだ。
強くて、優しくて・・・だけど、ちょっと危なっかしくて放っておけない目の前の男の子に惹かれてる。それで思ってる。守りたいと、大切にしたいと。独り占めに・・・したいと。
だから・・・その、ギンガと手を繋いでるのがなんだか面白くなくてつい対抗しちゃったり、思いっきり胸に顔が当たっても平気なくらいに抱きしめたりしたりして、スパッツ見られても恥ずかしくはあっても嫌ではなかったりして、ヤスフミと一緒のノリで戦えるのが凄く嬉しくて、楽しくて・・・。
でも、その・・・まだ言わない。うん、言わない。
だって、まだ気持ちが不安定だから。だから・・・もう少しだけ。
もう少しだけ・・・しっかりとこの気持ちを育ててから、伝えるね? それまでは・・・審査中で。
だって、まだまだヤスフミのことちゃんと見てないと思うから。もっと知っていきたいの。そうして、育てていきたいの。
今と、これからのヤスフミのこと、もっと知りたい。それで・・・ヤスフミも、見てね?
今と、これからの私の事。ちゃんと、見てて欲しい。私、もっと強くなるから。育てていくから。今までとは違う・・・新しい私を。
すごく強いあなたをずっと守れるくらいに強くて・・・最初からクライマックスな、新しい私を。
・・・・・・・・・・・・うぅ。ちょ、ちょっと・・・かっこつけちゃったかな。なんだか恥ずかしいよ。
「・・・ん」
そんなことを思っていると、ヤスフミの瞼が動いた。そうして・・・ゆっくりと開く。
あ、私の顔見てる。というより・・・顔赤くなった。
「あ、あの・・・おはよう」
「・・・おはよう。あの、えっと・・・大丈夫だよ? その、私も一緒に寝ちゃったみたいで」
「そ、そうなんだ。だから・・・手を繋いだ状態なんだ」
「・・・うん」
手から伝わる温度と・・・柔らかくて優しい感触がとても嬉しくて、ついそのままにしてしまう。
どうしよ、私・・・やっぱりおかしい。いつもの私じゃ・・・居られないよ。
「あの、ごめん」
「謝らなくてもいいよ。私も・・・その、こうしてて幸せと言うか、楽しかったと言うか・・・とにかく、大丈夫だから」
「なら・・・よかった」
そうして、ヤスフミが私から手を離す。それが少しだけ寂しい気持ちを呼び起こす。でも、仕方ない。だってずっと繋いでいるわけにはいかないから。
そのまま身体を起こす。そうして、伸びを一回。
「身体、大丈夫?」
「うん、いい感じ。やっぱサリさんのストレッチは効果あるなぁ」
「でも、無理したらだめだよ? シャマルさんサリさんも言ってたけど、ヤスフミのダメージは本当に酷いんだから」
「・・・うん、分かってる」
なら、いいんだけど・・・やっぱり心配だよ。
ヤスフミはなのはとはまた違った意味で無茶をするから。
「分かってるよ。それに・・・昨日言ったじゃん。もう少し頼ったり、甘えたりするって」
「・・・そうだったね。うん、それならいいんだ」
「ホントかな? ・・・ね、フェイト」
ヤスフミがいたずらっぽく笑う。えっと・・・その・・・甘え、たいの?
「うん♪ だってー、やっぱフェイトは行動で示していかないとわかってくれないと思うし〜」
「だーめ。昨日十分示してもらったからもうわかってるよ? これ以上は審査に響きますので、あしからず・・・だよ」
「うー、残念」
言葉とは裏腹に、どこか楽しそうにそう言うヤスフミを見て・・・そのえっと・・・。
・・・これも、審査・・・だよね。うん、きっとそうだ。
「でも・・・」
「でも?」
「本当に・・・本当に少しだけなら、いい・・・よ? あの、もちろんエッチな事は・・・ダメだから」
「・・・うん」
そのまま、ヤスフミはぽふっと私の腕の中に飛び込んで、肩に顔を埋める。また私達は、昨日と同じように抱きしめあう。
なんだろう、やっぱりドキドキする。それに・・・暖かくて、幸せ。
今までも何度もハグはしてるけど、その、最近意味合いがどんどん変わって来てて・・・自分の感情の変化が、少しだけ怖いよ。
私がドキドキと火照るように熱くなっていく体温を悟られるんじゃないかとヒヤヒヤしているのとで板ばさみになっている時、突然に医務室のドアが開いた。
私達がそこを見ると・・・。
「よぉ、青坊主っ! 調子はどう・・・だ・・・」
タロスズなみなさんだった。というより、なんだか私達を見て固まってる。
「・・・ねぇねぇ、どうしてフェイトお姉ちゃんは昨日と同じ服なの? というより、ちょっと皺が・・・って、あーっ! お姉ちゃんとヤスフミ抱き合っみゅぎゅっ!!」
「リュウタ・・・そこはツッコんじゃいけないから。あー、なんだか僕達・・・お邪魔みたい・・・だね。いや、確かに昨日あぁ言ったけど、まさか本当に釣り上げてるとは・・・」
「そうやな・・・。な、なんつうか・・・かなり邪魔やな」
「ふむ・・・。では、また改めるとしよう。家臣一同。先に朝餉といこうか」
「おう、そうだな・・・って、なんでお前が仕切ってんだよっ! つーかその家臣一同はやめろっ!!」
「ダメだよ先輩っ! とにかく・・・お邪魔しましたっ!!」
そのまま、ドアは閉まった。そして、私とヤスフミは固まる。
ゆっくりと首が動く。あ、目が合った。それに顔、すごく近い。息がかかって・・・くすぐったい。
「・・・フェイト」
「・・・ヤスフミ」
「誤解、されてたよね」
「そう、だね」
・・・・・・・・・・・・よし。
「「ちょっとまってぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」
そのまま二人一緒に全力で医務室を出る。そして・・・居たっ!!
「ちょっと待ってくださいっ!!」
「いや、恭文・・・大丈夫だよ? 先輩はともかく僕は口堅いから」
「ばかやろうっ! さすがにあれは話せねぇだろうがっ!! ・・・まぁ、アレだ。あとでプリンおごってやるからなっ!!」
「いや、そこは赤飯やろ。めでたい日なんやからな」
や、やっぱり誤解してるっ!? あぁ、どうして私は寄りにも寄って私服でうろうろしてたんだろっ! 私のバカっ!! 制服だったらまだ言い訳が通ってたのにー!!
「えっと・・・恭文、フェイトお姉ちゃん。おめでとー!!」
「少年、私からも祝いの言葉を述べさせてくれ。・・・よくやったな」
「違うからっ! リュウタもジークさんもお願いだからのらないでー!! そして少年って僕っ!? 僕のことかこらっ!!」
「というより、お願いだから私達の話を聞いてくださいー!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・結局、時間を置かずに関係各所にバレた。
で、さすがに隊舎の医務室でんなことやったとなると風紀上問題も出てくる。
なので現在、僕とフェイトは部隊長室で尋問を受けています。
「・・・・・・まぁ、フェイトちゃん。うちが言いたいことは一つだけなんよ」
「なに・・・かな」
「ぶっちゃけ、やったんやろ? ほら、正直に言うたら問題にはせぇへんから。うちの耳に自分らが大人になった瞬間を克明に伝えて・・・」
ゲシっ!!
「自分いきなり頭こづくって酷いやろっ!!」
「ヤスフミ、もっとやっていいよ。というより・・・私がやる」
よし、んじゃまた合体技と行きますか。いくよ、必殺っ! 僕達の・・・!!
「ちょっと待ってーなっ! 自分ら構えるのやめようやっ!! うち、仮にも部隊長よっ!?」
「やかましいわボケっ! つーか本気で部隊長ならそんな言い方するなっ!! そしてやらないからっ! これ仮にもよい子のヒーローとのクロス話よっ!? んなエロ要素を持ち込むわけがないでしょうがっ!!」
「いやいや、愛に国境と周りの空気は関係ない言うやんか。アンタら自覚無いやろうけど、もう十分そのレベルよ?」
「国境はともかく周りの空気くらいは読むわっ! 少なくとも今回の話でガチにエロとか無理だっていうのは読めてるわボケっ!!」
「そうだよっ! べ、別に私達・・・まだ付き合ってるわけじゃないんだよっ!? ちゃんと審査中で、状況や立場や周囲の目もわきまえた上で・・・」
なお、この場に同席しているシグナムさんやグリフィスさんが『いや、読めてない。二人とも読めてないから』と言う視線で僕とフェイトを見ているのは、気にしない方向で行く。
「まぁ、そういうのは抜きとしても・・・二人とも、今回のはアウトです。自重してください。こういうのは、隊舎内の風紀に関わるんですから。・・・あぁ、本当に久しぶりの出番だ」
「・・・グリフィス、やっぱり気にしていたか。だが、グリフィスの言う通りだ。一応ここは部隊・・・職場なのだからな。お前達二人のことを微笑ましく思うものが大半・・・いや、全員が全力全開で応援しているが、それとて限度はある。少し気をつけろ」
「「・・・・・・はい、すみません。おっしゃるとおりです。なんの反論も出来ません」」
本当にそうだよね。ちょっとその・・・あの、色々とございまして。
「まぁ、そういうわけだからテスタロッサ」
「はい?」
「そう言う時は外を使え。例えば蒼凪の自宅だ。あそこならば、合鍵を持っているリンディ提督以外は遮断できる。それならば私もグリフィスも他の者もどうこう言うつもりはない」
「そうですね、完全オフな時にまで口を出すほど、僕達は野暮ではありません。いや、そもそも人の恋愛にあれこれ言って、馬に蹴られて死にたくはありませんから」
二人ともなにを言ってるのっ!? そしてシグナムさんっ! ありえるからそういう怖い事は言わないでっ!!
というか・・・あぉ、またなんか真っ赤だよ。揃って赤い魔王状態だよ。うぅ、恥ずかしい。
「・・・うちは別にえぇよ? 隊舎内の方が決定的現場を押さえられるかも知れへんし」
「はい、そこはとりあえず黙れっ! つーか、自分はヴェロッサさんとはどうなんだよっ!?」
「あぁ、裏で色々進行中よ? な、シグナム」
はやてがにっこり顔でそう言うと・・・シグナムさんが頭を抱えた。
え、これなにっ!? どういうことさっ!!
「ま、30話をお楽しみに・・・ちゅう感じやなぁ」
・・・いや、意味が分からないんですが。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とにかく、ちとお説教して二人は解放した。まぁ、ほんまに何も無かったみたいやしなぁ。
しかし・・・どないしようか。
「・・・なぁ、グリフィス君、シグナム」
「なんでしょうか」
「あの二人、立場とか状況とか・・・弁えとるか?」
「「いいえ、弁えてません。自覚無しでイチャイチャしまくっています」」
「そうやろ? それで、フェイトちゃんは何が審査中か分かるか?」
「「いいえ、全く分かりません。むしろあれでなんで付き合わないのかが疑問です」」
「そうやろ? なぁ、真面目にアレムカつくんやけど・・・どないしようか、ホンマに」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・とにかく、ちょっとダメだしを食らって、僕達は無事に解放された。
とりあえず朝ごはんと思い、二人して隊舎を歩く。でも・・・辛い。
だって、通り過ぎる人達が全員僕達を見て、泣くんだもの。なんか僕に『がんばれ』ってオーラ出してくるんだもん。
さ、さすがに・・・今回はまずかったかも。
「あの、フェイト・・・ごめん」
「ううん、大丈夫だから。あの、なんと言うか私が・・・」
「・・・あのさ、二人共悪いってことにしておかない? なんか、延々話が続きそうだよ」
「そ、そうだね・・・」
その、昨日フェイトと話せて、手繋いでくれて嬉しかったけど・・・本当に場をわきまえよう。もっと言うと、いちゃいちゃは自宅でしよう。
うん、決めた。心から決めたよ。
「・・・いちゃいちゃしたいの?」
なんか顔を赤くして聞いてきた。・・・あの、そんなストレートに聞かれたら『したいです』とは言えないんですが。
「ま、まぁ・・・審査中ですので、通った時のお楽しみに」
「そ、そうだね。厳しく見るって決めてるんだもの。うん、いちゃいちゃはしばらく禁止だよ。というより・・・いちゃいちゃなんてしてないのに」
「そ、そうだよね。僕達いちゃいちゃしてないのにね。・・・あれ、だったらなんで怒られたのっ!?」
「そうだよねっ! 普通にしてるのになんで怒られたんだろっ!! あれ・・・わけが分からないよっ!!」
あ、あの狸め・・・! なんかノリと勢いでからかうために聞いてきたなっ!! くそ、覚えてろよー!!
とにかく、食堂に入る。周りの『にやにや』した視線は気にしない方向で。
「あ、恭文君。こっちこっち」
「・・・良太郎さん?」
良太郎さんが、なんかスバル達と一緒にごはん食べてる。なので、僕達も朝食を持ってそちらに行く。
「おはよう。もう・・・動いて大丈夫なの?」
「はい。もうばっちりです」
「・・・そうよね、バッチリよね。だって、昨日・・・でしょ?」
「恭文・・・あの、場所を考える事って大事だよ? そういう面で女の子を守ることだって、男の子の仕事なんだから」
「スバルもティアも、信じないでっ! 僕もフェイトもそんなことしてないからっ!!」
ホントだよ。その・・・ハグはしたけど。
「・・・恭文、それは色々どうなのかな」
「なぎさん、我慢も過ぎるとヘタレの要因だよ?」
「はい、そこのちびっ子二人もとりあえず黙っておこうかっ!?」
「エリオもキャロもお願いだから信じないでっ! 本当になにも無かったんだからっ!!」
・・・で、みんなはどうしたのよ。ミッドの観光パンフレットなんか持ち出したりしてさ。
「うん、良太郎さんのために観光コース作りしてるんだー」
そう元気に答えたのはスバル。・・・どういうこと?
「えっと、モモタロス達もなんだけど、みんなミッドの施設とか見たことがほとんどないからさ。事件も解決したし、残ってるイマジンが居ないかどうか探る意味も含めてあっちこっち回ってみようって話になって・・・」
「あ、それでこれなんですか」
うーん、市街地限定ではあるけど、押さえるべきポイントはあらかた押さえてるね。パンフレットとかにチェック印つけてるもん。
でも、考えたらその通りだ。だって、良太郎さんもモモタロスさんも、聞き込みで歩き回ることはあっても、それで遊んだり・・・とかは無いわけだし。
「せっかく来てもらったわけだし、戦いとは関係なくミッドを見て、好きになってもらおうかなーってね」
「納得した。・・・あれ、侑斗さんとデネブさんは?」
「あの二人は、私達と合流する前にあれこれ見たから大丈夫だって。オデブ、楽しそうに話してたわよ? どこのスーパーの椎茸が安くて新鮮で美味しいとかなんとか」
・・・・・・うん、それも納得した。確かにあの人ならありえるわ。
「でも、みんな考えてくれてありがとう。教えてもらったところ、みんなで見に行ってみるよ」
「え、良太郎さん達だけで行くんですか? それはダメですよ」
「スバルちゃん? あの、でもみんなは仕事が・・・」
「いえ、スバルの言うように良太郎さん達だけはやめておいた方がいいですよ。・・・ミッドは安全なところばかりではありませんから」
ちょっとお仕事モードを入れて言って来たのはフェイト。・・・そう、いかがわしいところとかもあるし、そういう連中も多い。
以前、ティアとやった囮捜査でノした連中がまさしくそれだし、気づかないうちに入り込んで・・・という可能性もある。だって、良太郎さん達はここの土地勘ほとんど無いんだから。それに、なにより・・・。
「あの、これはヤスフミやなのはから聞いたんですけど・・・良太郎さん、すごく運が無いんですよね」
「・・・・・・そう・・・ですね。すごくと言うか・・・かなり」
「それ、私も亀達から聞きました。野球のボールが頭に当たってバランス崩して川原の坂を滑って道路に転がり落ちて、危うくトラックに轢かれそうになったりとか。坂道で買い物袋が破けて中の荷物が転がり落ちて、拾おうとしたら自分まで転がったりとか」
「あと・・・これはおとといモモタロスさんから聞いたんですけど、良太郎さん記憶喪失になったことがあるんですよね。牙王って人から蹴られて、その衝撃で」
良太郎さんはみんなの言いたい事が分かったのか、ちょっと萎縮し始めた。そう、良太郎さんは運がとても無い。というより、悪い。なので、そのせいでなにかに巻き込まれる可能性を懸念しているのだ。
普通ならモモタロスさん達が居れば問題は無いだろう。でも・・・今回は普通じゃない。もしそれで魔導師なんて絡んできたら・・・。
「普通にオーバーSみたいなむちゃくちゃ強いのなんて、ごろごろしてますから。いくら憑依状態でも遠距離から砲撃とか撃たれたら、対処できませんって」
「そ、そんなに危険なのっ!?」
「・・・そうですね、ヤスフミの言うような部分はありますけど、普通なら問題は無いんです。普通なら・・・なんです」
「恭文も運悪いから、オーバーSとかエース級とかストライカー級とかとやり合うこと多いんだよね。それも一人で」
うっさいやい。僕だってなんでこうなるのか聞きたいのよ。てゆうか、もうすぐその総数が3桁に突入しそうだし。
「とにかく、良太郎さんとモモタロスさん達だけは絶対にだめですっ! 私が一緒に付いていきますからっ!!」
そう力いっぱいに胸を張ってスバルが宣言・・・あ、やっぱり大きい。
・・・痛っ!!
「そうだね。スバル、悪いんだけどお願い出来るかな? なのはやはやて達には、私とヤスフミから説明しておくから」
「はいっ! 任せてくださいっ!!」
いや、そのにっこり笑顔を浮かべるなら、なんで僕のおなかの後ろの方を力いっぱいつねったっ!? わけがわからないよっ!!
”・・・ヤスフミ、今スバルの胸見てた”
・・・え、なんか考えてること読まれてるっ!?
”いや、見てな・・・はい、すみません。ちょっとだけ見ました”
”・・・そういうの、禁止。絶対禁止。その・・・審査に響くから”
ちょっとだけ膨れたような声で言ってきたので、うなづいておく。というより、そうしないとこじれそうで。
・・・なんだろ、フェイトがこう・・・少しおかしいと言うか、なんと言うか。
”私の事好きだって言うなら、ちゃんと私のことだけ見てて欲しい。余所見なんてしないで。じゃないと・・・私、ヤスフミの気持ちがわかんなくなっちゃうよ”
”あの、ごめん。うん、なんというか・・・ごめん”
・・・やっぱりフェイト、ちょっとおかしい。前だったら、こんなことしなかったのに。
”・・・あの、ヤスフミ”
”うん?”
”は、恥ずかしいけど・・・私は、見られるの大丈夫だから。ヤスフミに女の子として見られるの、嫌じゃないから。あ、スパッツとかはダメだよっ!? うん、そこは・・・まだダメっ!!”
”いきなりなんの話してるのっ!?”
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とにかく、食事を美味しくいただいた後、僕とフェイトはなのは達に事情説明。
そのまま、観光に乗り出したスバルと良太郎さんを見送ることにした。
「・・・それじゃあスバル、良太郎さんのことお願いね」
「なにか有ったらすぐに連絡してね。すぐに飛んでいくから」
「うんっ! ・・・って、だめだよっ!! 恭文は絶対安静でしょっ!?」
えーい、細かい事を気にするな豆柴っ! 言葉のあやだからっ!! 本気で僕は今回飛び出したりとかしないからっ!!
「まぁ、スバルちゃんが居てくれるから大丈夫だよね。とっても強いわけだし」
「そんなことないですよー。良太郎さんの方が強いじゃないですか」
まぁ、どっちもどっちだと思う。とにかく・・・だね。
「ほら、早く行かないと日が暮れちゃうよ? んじゃ良太郎さん、観光楽しんできてくださいね」
「うん。それじゃあ、スバルちゃん。お願い」
「はいっ!!」
そうして、二人はそのまま歩き出した。僕とフェイトはそれを手を振って見送る。
なんか、近くのバス停からバスに乗って市街地に移動するらしい。・・・うーん、楽しくなるといいけどなぁ。これで良太郎さんが『ミッドチルダ怖い』状態になったりとかしたら、目も当てられないもの。
「そうだね。でも・・・心配ないと思うな」
「スバルもモモタロスさん達も居るしね。問題ないか」
なんて言いながら、再び隊舎の中に入っていく。・・・あぁ、また医務室戻らないと。というより、シャマルさんの検診受けないと。
うぅ、恐ろしいなぁ・・・って、あれ?
気のせいかな。なんかわいわい言いながら目の前に来る一団が・・・。
「モモタロスさんっ!?」
「それに・・・ウラタロスさん達もっ!!」
「お、おう・・・お前ら元気そうだな」
なんでそんなみんな揃ってしどろもどろになりながら僕達から目を離すんですかっ! ・・・って、そうじゃないっ!!
「みんな、良太郎さんに憑いてるんじゃっ!!」
「・・・はぁ? なんで俺達が良太郎に憑かねぇといけないんだよ。というより、こんな一杯は入れねぇよ。お前知ってるだろ」
・・・あ、そう言えばそうだ。今まですっかり忘れてた。
ということはちょっと待ってっ! 良太郎さん素の状態でスバルと二人だけなのっ!?
「でも、そうするとみなさん観光は・・・」
「それは日を改めてってことにしたんですよ。今日はさすがに僕達が良太郎に憑いてたら、お邪魔ですから」
「そやなぁ、さすがにそこは空気読まんとあかん。今日は良太郎にとって、記念すべき日やからな」
「良太郎・・・。しばらく会わぬ間に、ずいぶん成長したものだ。私はとても嬉しく思う」
お邪魔? 記念すべき日? 成長?
「だって、スバルちゃんと良太郎、デートじゃん」
リュウタがさも当然に爆弾発言をした。・・・え、デート? なにそれ。
「・・・おい、まさかお前ら気づいてなかったのか? 俺でも気づいたってのによ」
「先輩、そこは言わないお約束。昨日フェイトさんと恭文は自分たちのことで色々大変だったんだから。・・・恭文、おめでと。ようやく大物を釣り上げたね。いや、同じ青物仲間釣り仲間としては、とてもうれしく思うよ」
「いや、まだ釣り上げてないからっ! ・・・で、デートってどういうことですっ!?」
「そうですよっ! スバルも良太郎さんも普通に観光で・・・」
そうそう、二人で普通に観光・・・え?
「二人っきりで観光・・・」
「それも、定番的なスポットを押さえて・・・一日中・・・。あの、ヤスフミ。これってふつうデートって言うよね」
「まぁ、僕達の知っているデートの定義が間違ってなければ・・・多分」
つまり、良太郎さんは、スバルに誘われて、二人でデート・・・。
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「それじゃあ、せっかくのデートですし、楽しんでいきましょ?」
「うん、そうだね。デートだし・・・これデートなのっ!?」
「だって、二人で遊びに行くわけですし、いちおうそうなりますよ? あー、楽しみだなー♪」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
(インタールードデイズ02に続く)
『次回予告だぜっ!!』
「これは緊急事態や・・・! 六課全員、臨戦態勢突入やっ!! 大至急二人を追跡っ! そうしてドキドキウォッチングやっ!!」
「デンライナー署・・・緊急出動ですっ!!」
「だからなんでそうなるっ!?」
「ほらほら良太郎さんっ! しっかりー!!」
「そ、そんなこと言われてもー!!」
「スバル・・・すっかり大人になって。お姉ちゃん、すっごく嬉しいよ」
「良太郎もや。・・・こりゃ、泣けるでっ!!」
インタールードデイズ02 『ツインライナー・トラブル・デート』
「今日の事、きっと忘れません。だって、私は・・・初めてでしたし」
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!