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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ミッション05 『折れた翼 砕けない鉄』



・・・あー、つまんないつまんない。




だって・・・ねぇ? あのおチビやサンプルH関連の連中、上手い具合に姿くらませちゃってるんだもん。私とお父様の出番、なくなっちゃった。送った刺客連中も、あっさり倒されちゃったし。やっぱ一山いくらな連中って、存在意義からイミフよね。





おかげで会議場の奴らを皆殺しにするしか暇潰しのタネが・・・あ、ちょっと訂正。





殺しちゃいけなかったんだっけ。でもま、いいか。お父様から好きにやっていいって言われてるし。





なので、好き勝手にやらせてもらいましょ。とりあえずターゲットは、もう用済み確定なおじ様。あと・・・聖王教会の騎士カリムにあの機動六課って部隊の部隊長さんだね。居ると色々邪魔だし。





あ、一つ訂正。騎士カリムと部隊長さんは出来るなら生かして捕まえちゃおうかな? そうすれば、おチビを引っ張り出す材料に使えるかも知れないし。意外とこの間は楽しかったもの。





また・・・殺しあいたいなぁ。やっぱりあの子、局や六課の魔導師の側に居る人間じゃないよ。





あれは、私達側。潰すこと、殺すことを日常と出来る人間。正直さ、なんであっち側に居るのかが分からないんだよね。だって、あっちに居てもつまんないだけじゃない。





そう遠くないうちにあの子の居場所は無くなる。だって、回りの人間の大半は本当の意味であの子が理解出来ないはずだから。むしろ、恐怖しているかも知れない。





そうして一人ぼっちになる。間違いなくね。あの子は、あの光の中では生きられない。周りから見たら歪だから。歪んでいるから。そして回りはきっとその歪みと歪さを認めることが出来ないから。





・・・そうだ、勧誘してみようかな。私、ああいう可愛い子は嫌いじゃないから。というより・・・好物かも。





それで、いっぱい色んなことして遊んで・・・いっぱい可愛がって・・・。










「・・・あぁ、そりゃ無理だわ」

≪悪いが、アンタは俺らと遊んでもらう≫





声は前方から。・・・こいつ、どうやってここまで来たのよ。通路もエレベーターも完全に遮断されてるはずなのに。





「色々抜け道知っててね、伊達に捜査官やってなかったのよ。・・・さて、私らに喧嘩売ってきた一味の奴で間違いないよね?」

≪正直に答えた方がいいぜ? 俺ら全員、くだらねぇ喧嘩売られて、結構イラついてるからよ≫

「おかげでここ一ヶ月はレーション尽くしだったしね。私はふたば軒のご飯お代わり自由なトンカツ定食が食べられないのもプラスされて、余計にムカついてるから」





私の目の前に居るのは、白い髪のツインテールの女。両手には、片刃で細身な双剣。そう、居た。サンプルH関連のやつがそのまま。そしてその中だと・・・多分、一番好戦的で私に近いやつ。



・・・ふふ、なんか楽しめそうだなぁ。うん、よかったよかった。





「そうだって言ったら・・・どうする?」

「もちろん」





そいつはにっこりと笑って、さも当然に言い切った。





「潰す」

「・・・本気? ここ、完全キャンセル化されてるから、魔法使えないわよ」

「ハンデにはちょうどいいさ。そうだよね、アメイジア」

≪当然だぜ。・・・あぁ、これでも足りないなら、ヨチヨチ歩きでバブーって言いながら戦ってやろうか? 主に姉御がやるけど≫

「私かいっ!!」





・・・ふーん、どうやら完全に私は舐められてるらしいわね。こんな挑発、初めてだわ。





「あー、ぐだぐだ抜かさなくていいからさ。ほら、来な。・・・もうめんどいし、シンプルに行こうよ」










ま、いいわよ。だったら・・・!





お父様への手土産にしてあげるからっ!!




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と古き鉄の戦い


ミッション05 『折れた翼 砕けない鉄』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・とにかく、近くの非常階段を駆け上がり、全速力で鉄火場へと向かう。上の階やらホールの方は、かなり荒れてる感じだね。





しかしまぁ・・・ここまで直接的に来るとは。フェイト達との会話じゃないけど、マジで世界征服しようとか考えてるんじゃないの?










≪そこは分かりませんが・・・これで確定でしょうね≫

「そうだね。・・・いくらなんでも手際が良過ぎる」





襲撃が起きてから何分経った? ホンの15分程度だよ。にも関わらず、外だけじゃなくて中の司令部まで陥落させられてる。

もうぶっちぎりの負け戦だよ。無茶する道理が無い。適当に暴れて、上手くストレスが溜まらないようにのらりくらりとやっていくのが正解だ。ここから挽回は無理でしょ。



そして思う。いくら地上本部がスカリエッティをナメくさっていたとは言え、ここまで容易に落ちるのかと。

中央本部の守りは鉄壁。AMFって弱点はあるけど、それでも鉄壁な守りなのには変わらない。それがこんな簡単に、なんの下準備も情報も無くここまで出来るのかと。答えは多分・・・ノー。



恐らくだけど、居る。内通者が。まるでこっちの殻に包まれてる重要臓器の場所が最初から分かってるかのようなやり口だもの。





≪恐らく、あなたやグランド・マスターについてこそこそ調べていたのも、その内通者関連でしょう≫

「ナメてくれるじゃないのさ。・・・やっぱ腐ってるわ、この組織」





こんなのと一緒に背負う? 絶対ごめんだよ。まぁ、フェイトやなのはの場合は、周りにいい局員ばかりだから、あんまそういうのリアルに感じないのかも知れないけどさ。

・・・僕が悪いもの見過ぎなだけかも知れないね。僕はみんなみたいにやりたい仕事があって、それが好きーとかでもないから。

やっぱり、みんなは別に局がどうこうって言うのじゃないのかも知れない。なのはだったら教導官。フェイトだったら執務官というやりたい事が・・・かっこいい事を言うと、夢がある。だから、局の問題どうこうがあっても局員として仕事が出来て・・・そう考えると、ちょっと羨ましいな。



一生の仕事にしてもいいと思うくらいに好きなことに打ち込めるんだから。うん、うらやましい。





≪今更ですよ。そもそも、組織なんて言うものは大小問わず腐ってる部分はあります。管理局に限った話ではありません≫

「そういうもんですか」

≪そういうものですよ≫





・・・と、そうだ。通信・・・うし、ここならぎりぎり繋がる。



懐から出したのは、あるメカニック特製の特殊通信機。こいつならこの状況でも・・・。





「あー、もしもし。シャーリー、聞こえる?」





通じる。





『うん、聞こえるよ。・・・というか、待ってた』

「そりゃよかった」



そう、僕がかけたのはシャーリーに。つまり・・・。



『シャーリー、誰からですかっ!? この緊急事態にっ!!』

「ずいぶんご挨拶ですね、グリフィスさん」

『この声・・・!!』

『なぎ君っ!? なぎ君だよねっ!!』





六課隊舎である。



お、ルキノさんも居るんだったな。うんうん、元気そうでよかった。





「シャーリー、ちょこっと久しぶり」

『久しぶり。なぎ君、ずいぶん元気そうじゃない。今どこに居る?』

「ん、中央本部。これからドンパチするところ。あ、グリフィスさん、ルキノさんもお久です」

『お久じゃないよっ! 今までどこに居たのっ!? 全然行方がつかめなくなったって、私達みんな心配してたんだからっ!!』





あー、ルキノさんが涙声だ。待て待て、隊長陣は自分達だけで情報共有して、ルキノさん達には言ってなかったんかい。





『聖王教会・・・だったよね』

「正解。・・・って、シャーリーは知ってたの」

『フェイトさんからね。ごめん、ルキノ。なぎ君ちょっと危ない状況だったから、居場所を教えて上げられなかったんだ』

『そうだったんですか・・・。でもでも、それならなぎ君は危ない目にとかは』

『それは大丈夫です。聖王教会の騎士カリムが責任を持って預かっていてくれていましたから。・・・ですよね?』





うん、グリフィスさんの言うように非常に大事にしてくれましたよ。・・・シスターとして。くそ、やっぱりあんな提案するんじゃなかった。覚悟の仕方絶対間違えたよ、僕は。





『・・・よかったよぉ』

「あの・・・ルキノさん?」

『私、なぎ君になにかあったんじゃないかってすっごく心配で・・・! もう艦船の話とか聞いてくれなくなったらどうしようとか、いっぱい考えて』





・・・ごめんなさい。いや、なんというか本当にごめんなさい。うん、真面目に今回は色々悪い気がしてきた。



あ、そう言えばなのはとフェイトに女装してたの口止めするの忘れてた。後で絶対に口止めしておかないと。特になのはだ。あの無自覚なナチュラル外道は、平然とバラす可能性がある。





『それで、私特製の通信機使ってまでかけてきた用件は何?』

「うん、すっごく簡単。・・・みんな・・・というより、グリフィスさん」

『はい』

「これ、忠告です。六課の人間は今すぐ隊舎を放棄して、逃げた方がいい」

『・・・どういうことですか』

「簡単です。六課、今すごく危ないかもしれない」





現状、隊舎に居るのはシャマルさんとザフィーラさんだけのはず。あとは一般局員で構成された交代部隊か。



つまり、六課隊舎は今非常に手薄なのだ。





≪それで襲撃など受けては、ひとたまりもありませんよ≫

『襲撃っ!?』

『またいきなり物騒な話をしますね』

「でも、可能性はあるでしょうが。確か、隊舎に居ますね? この間の一件で保護したっていう女の子が」





そう、今隊舎には居る。僕がガンマン女とドンパチした時にレリックを引きずって地下水道を歩いた女の子が。そして・・・恐らくだけどあの生体ポッドに入っていて、ガジェットを潰したであろう人造魔導師の素体として生み出された子が。



それだけじゃない、六課はここまで散々連中の邪魔をしてきた。もし、これで手薄なところを狙ってきたら・・・。





『・・・なぎ君』

「なに」

『遅かったみたい』





シャーリーのその一言で、全部が分かった。そして、本当に思った。遅かったと。





『アンノウンが複数。それに・・・ガジェットが凄い数、ここに接近してきてる』










・・・祭りは、まだ始まったばかり。





その終わりは、まだ誰にも見えない。もちろん、僕とアルトにも。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして通信は終わった。つーか・・・あのバカ連中、揃いも揃って徹底抗戦の道を選びやがった。





まぁ、仕方ないか。ここは大事な居場所だから・・・とか言われたらさ。僕は反論できないわ。仕事に関しては根無し草同然の僕が言えた義理じゃない。





とにかく、通信を終えてすぐに階段を疾走再開。そうして、上層階に到着。非常ドアを乱暴に開けると・・・そこは阿鼻叫喚の最中だった。





襲い来る鉄機に逃げ惑う人々。もちろん、逃げているのはぶっちぎりで局員な方々。










≪・・・まぁ、局員としてどうなのかという考え方はありますよね≫

「まぁね」





ただ、それは言うことなかれ。なぜなら、局員と言えど人間。丸腰であんなのに熱光線ビュンビュン撃たれたら、そりゃあ逃げたくなる。なお、僕だって同じ。命は無くなったら、基本二度と取り戻せないのよ?



ま、そういうわけなので・・・僕はアルトを手にかけそのまま走る。まず、近くに居たT形一体を右から袈裟に斬る。

そこから、また踏み込みそいつの右後ろに居たやつを左からの一閃で沈め、もう一体を上からの唐竹割りで真っ二つにする。



その間に、逃げていた局員のおっちゃんやおばちゃん連中はスタコラッサッサと逃げていく。・・・真面目にあれはどうなんだろう。





「とにかく、目に付くやつ片っ端から片していくよ。それで・・・ストレス解消だ」

≪了解です≫










そのまま、走り出す。そうしながら蜻蛉に構え、右左と袈裟にアルトを打ち込み、ガジェット達を鉄くずに変えていく。





・・・でも、数多いよっ! 言っても仕方ないけど多いよっ!! どんだけ工業製品化してるんだよガジェットっ!!





なんて考えている間に、前方から出てきたT型二体とV型一体。そして、三型はまたごろごろと・・・! ウザいっ!!

とにかく、左手で鋼糸のリールを持ち、それを投げる。・・・当然のことながら、これでV型縛ったところで意味がない。狙うのは、その前の俵おにぎり二体。

鋼糸の先には適度な重さの金属製の錘を結び付けている。それによって・・・ガジェット二体に鋼糸が巻きつく。その瞬間、左手を引くと鋼糸の輪は縛り、ガジェットを一気に縛り上げる。





そして、そのまま輪切りにした。・・・理由は簡単。鋼糸に魔力を込めて、更に強度を上げたから。うむぅ、何回かやったことあるけど、やっぱこれエグいよ。対人には使えないなぁ。





輪切りにされて爆発したT型二体は放っておく。リールを操作して鋼糸を戻しつつ、V型に向かって走り出す。・・・あー、近づいて爆破してもあれだな。

足を止める。そして、鋼糸を戻して左手からカードを3枚取り出す。そのままV型に向かって投げる。カードはV型に近づくと、そのまま発動。V型を一気に氷漬けにした。





・・・そして気づく。なんか行き止まりになったと。あー、どうしようか。










≪別通路ですね、誰かが処理してくれるでしょ≫

「そうだね、誰かが処理してくれるか」










とにかく、来た道を少し戻って脇の通路に入る。出てくるガジェットをちぎっては投げ、ちぎっては投げ・・・。





そうしながら出てきたのは、少し大きめのホール。久々に高い天井で気分が晴れ・・・ないなぁ。ガジェット居るし、局員逃げてるし。





まぁいいや、こいつらも一気に片して










「その必要はありませんよ」





瞬間、僕の周りを黒い何かが囲む。・・・魔力弾に囲まれたとかじゃない。本当に囲まれたんだ。



まてまてっ! これ・・・結界魔法っ!? でも、詠唱も発動のタイミング見切れなかったし、魔法・・・陣・・・も。





「そういうことです」





そいつは、平然と歩いてくる。僕の目の前から。歩きながら揺れるのは、手入れが行き届いているのか妙にきれいな銀髪。そして、ビシっとした喪服。年のころは・・・結構行ってる感じ。顔立ちこそ綺麗な部類だけど、どうにも40代くらいに見える。





「瞬間詠唱・処理能力。・・・あなたと同類ということです。」





そして、そいつはゆっくりと右手を掲げる。





「ただ、あなたと違う点が一つあります」





右手に黒い魔力が溜まっていく。いや、ポンと姿を現した。そして、男がニッコリと笑った。





「私、魔力資質高いんですよ」










瞬間、黒い爆発が男の周囲を襲った。ホールの全てにあるものが、黒い魔力光で焼かれていく。吹き飛ばされ、押しつぶされ、壊されていく。





ガジェットも、物も、そして・・・人も。でも、僕だけは無事だった。だって、この結界が守ってくれているようだったから。





爆発が収まる。それと同時に結界も解ける。・・・鼻を・・・感覚を突く異臭がする。

いや、死臭ってやつか? あー、こういう臭い・・・久しぶりだな。普段フェイトやなのは達と絡んでると、絶対に感じない臭いだから。

とてもじゃないけど、見れたもんじゃない。直視したら、多分2,3日はご飯が食べられなくなる。










「・・・さて、これですっきりしましたね」





そいつは笑う。まるでゴミを片付けてすっきりしたみたいに、すがすがしく。でも・・・あれは違う。瞳が濁ってる。





「これで、あなたの手札もほとんど使えるでしょう。全力じゃなかったからと言い訳されても、あとが煩いですから」





あの手の目は何回か見たことがある。悪意で濁っている瞳。



・・・くそ、油断してた。もし、これが結界じゃなくて普通に攻撃魔法だったら・・・。





「あぁ、そう言えばまだ挨拶をしていませんでしたね。・・・娘が世話になったようで」





娘? ・・・まさか。





「そうです。いや、あの時の様子は見ていましたよ。中々見ものでした」



あの時の女ガンマンの父親と。ま、本当の血縁者かどうかは分かんないけどさ。



「・・・左様で」





僕がそんな適当な返事を返すと、男が獲物を出してくる。両手に持ったやたらとデカい両手剣。あー、またこの手のか。





「で、お父様がなんの御用で僕のところへ来たわけ」

「簡単です。・・・あなたを捕まえて、スカリエッティへの貢物にするんですよ。すばらしいでしょう?」

≪また言い切りますね≫



アルトを正眼に構える。男もそれに習うように構えた。



「ただ、その前に少しばかり・・・痛めつけますが。そうしなくては、私の出番が確保出来ないんですよ。まったく、あなたが一ヶ月も居なくなるからですよ? 責任を取ってください」





やかましい。こっちはおのれのせいで家の冷蔵庫の食材の心配をしなきゃいけなくなったんだ。むしろ文句言いたいのはこっちなんだよ。・・・絶対潰す。





「では、始めましょうか」

「・・・あぁ、始めようか」

≪返り討ちにしてあげますよ≫





それに、コイツはやばい。完全にイカれてるやつだ。絶対に止めないと・・・マズいことになる。





「・・・ふむ、どうしたのですか? まさか、私のしたことを許せないと言うのではないでしょうね」



男が笑う。まるでそれがおかしいと言うように。



「いや」



だから、僕も笑う。・・・そう、笑うんだ。

僕に、そんな事を抜かす資格は無い。僕だってコイツと同じ・・・奪い、壊す人間だから。



「そんなつもりないよ。つーか、そんなのめんどくさい」

「なら、よかったです」










そして、二人同時に飛び込んだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



アルトを上段から打ち込む。それを男は寸前で後ろに少し飛んで避ける。





そこから右から袈裟に打ち込んできたのを、しゃがんで避ける。返す刀で来たのも、後ろに飛んで回避。そのまま、また上段から打ち込むっ!!





・・・受け止められたけど。男は弾くと、それを一旦引いて、突き出してきた。これを慌てて左に避けて回避。そのまま・・・薙ぎ払いが来る。だから、ジャンプする。

ジャンプして後方に飛ぶ。着地してすぐにがら空きな後ろに向かって踏み込む。男の腕と腰が動いた。その瞬間、すさまじく嫌な予感がして、左に飛ぶ。飛んだ次の瞬間、回転するようにして右から逆袈裟に分厚い刃が襲ってきた。





結論から言おう。そこから黒い衝撃破が走りました。床に亀裂が入りました。そして、それを重さを感じさせない速度で二撃目が来た。それを右の飛ぶ。・・・今度は天井まで斬ったっ!?





距離が空く。男の左手に黒い魔力弾・・・いや、砲弾が形成される。僕もそれに合わせるように魔力弾を形成。










≪Icicle Cannon≫

「アイシクルキャノン・・・!」



そして、二人同時に・・・。



「いきなさい」

「ファイアッ!!」










青い氷の砲弾と黒い砲弾はほぼ同時タイミングで放たれて、そしてぶつかり合う。そこを視点に黒と青と冷気が交じり合った嵐が起こる。





そして、男が大きく飛んで・・・いや、僕を飛び越えて、背後に着地してきた。そのまま、左から剣を打ち込む。それをしゃがんで、前に転がりつつ回避。

上段から転がった僕に向かって打ち込まれる。体制を整え、それを避ける。そこから突き。アルトで左に弾いて回避完了。

男が左手をかざした。右へと飛んで、その斜線軸から逃げた。・・・見ると、僕の頭のあった場所に、黒い魔力弾が貫通していた。





そのまま大きく後ろに2度、3度と飛んで距離を取る。男が周囲に魔力弾を大量に生成。それを一斉に発射する。数・・・30。





くそ、マジで詠唱も処理も僕と同じでタイムラグが無いっ! 魔法陣もさっきから一度も形成してないし・・・!!





とにかく、襲ってきた魔力弾を斬り払いつつ前進する。そうして、弾丸の壁を突っ切る。

また飛び込もうとすると、妙な違和感を背後に感じる。それに従い頭を下げると、髪が何かをかすめる感触。・・・いや、逆か。

頭を上げると、一発の魔力弾が眼前まで迫ってた。それを咄嗟にアルトの刃の部分で受け止める。すると、魔力弾はそこで爆発した。





後頭部狙うって、またエグい手を・・・って、アブなっ!!





男も眼前まで迫ってた。また上段から打ち込んで来たので、それを左に飛んで避ける。

左手がその僕の動きにトレースする形で動く。・・・これは予測済み。当然、男が魔力弾を形成する。

僕も左手をかざす。悪いけど、こっちの術の方が発動タイミングが少しだけ早いっ!!










「クレイモアっ!!」










そして、爆発が起きる。原因は、男が形成していた魔力弾もろともクレイモアで撃ち抜いたから。

それに吹き飛ばされるようにして、後方に飛ぶ。なんとか着地。





・・・やったか?










「・・・ふむ、なかなかやりますね」










うん、分かってた。考え甘かったよね。だって・・・。





胸元、斬られたんだもん。今、血がどくどく出てるよ? いや、まだまだ動けるけど。くそ、まさかあそこで剣を打ち込んで追い討ちとは・・・また楽しいことしてくれるじゃないのさ。










「それはこちらもですよ。まさかあんな無謀な真似をしてくるとは・・・」





男が爆煙の中から出てくる。洋式の喪服がボロくなってる。あと、銀髪が汚れてる。あー、なんであんまダメージ無いように見えるの? クレイモア直撃なのに。





「いえいえ、ダメージはありますよ? ただ・・・ぬるいですね」



男の姿が消えた。僕は後ろに飛ぶ。目の前の床が両手剣の切っ先によって、まるで爆発するように穴が空く。



「非殺傷設定で撃つとは・・・。言ったでしょう?」



右から振るわれた刃に、アルトを打ち込む。火花が散り、辺りの空気が震える。

そこから・・・鍔迫り合い。



「私、出来損ないのあなたと違って、魔力資質は高いんですよ」

「出来損ない・・・?」

≪どういう意味ですか≫





そこから互いに獲物を弾いて、距離を取る。





「簡単ですよ。・・・あなたのように、魔力資質の低い人間にこの能力は、単なる宝の持ち腐れ」





飛び込み、至近距離で剣を打ち合う。





「あなた、誘導弾も撃てないし魔力弾の大量生成も出来ないでしょう」





左手が動く。至近距離からスティンガーと同系統と思われる弾丸が打ち込まれる。それを左に走りこんで避ける。弾丸は、僕が避けた端から壁に穴を穿つ。



場違いなのを承知で、警防での対銃器訓練を思い出した。速度がアサルトライフル並みだもの。





「魔力量も平均以下で・・・」





アサルトライフルがミサイルに変わった。つまるところの、魔力誘導弾。それを斬り払いつつ、男へと前進する。





「そんな人間が、私と同じ能力を持つ?」





姿が消えた。後ろに・・・殺気。





「目障りですね」




振り返ると、砲撃が打ち込まれようとしていた。言うまでも無く、殺傷設定。





「死んでください」





それが、僕に向かって・・・容赦なく放たれた。




















「・・・で」





アルトを打ち込む。当然、魔力は込め、いつも通りの鋭い刃を形成した上で。それが、魔力砲撃を斬り裂く。



余波がジャケットを・・・頬を焼く。焼けるような、斬り付けられているような痛みを思考の外に追いやって、アルトをそのまま振りぬく。





「言いたいことは・・・それだけ?」





男が後ろに飛ぶ。そして、左手から血が流れている。というより・・・手の平が中ほどまで斬られている。中指と人差し指の間に、まっすぐに手の中ほどまでの傷。



あー、でもキツい。魔力は削られたし、身体的にもダメージ受けたし。





≪まさかあなた、そんな理由で≫

「えぇ、スカリエッティの事は実はついでです。彼からあなたの話を聞いて・・・殺したくなったんですよ」

≪また馬鹿げてますね≫

「あなたにとってはそうでしょうね。ただ、私の家系ではこの能力は神からの賜り物とされていましてね・・・。正直、迷惑なんですよ。あなたのような出来損ないな不良品が居ると。いい機会です。世界から抹殺されてください」

「そう・・・。で」





左手からカードを1枚出す。・・・身体が青い光に包まれて、痛みが消え、物理的ダメージと一緒に受けた魔力ダメージも回復する。





「その不良品に不覚取ってるのは誰?」





それからアルトを構え直す。切っ先には・・・アイツの血。そう、僕が斬った。ただし、さっきまでの非殺傷設定とは違う。



・・・殺傷設定での攻撃だ。悪いけど、生かしたまま捕まえる自信、無いわ。相手は僕と同じ能力持ちで、しかも魔力資質は上。それにクレイモア食らってまだ立ってるんだから、魔力ダメージでノックアウト出来る自信が無い。

いや、スターライトなら・・・却下。あれは瞬間詠唱・処理の範囲外。周辺魔力の収束は、能力の恩恵込みでもやっぱ時間かかる。僕と同じ瞬間詠唱能力持ちの相手に、どうやってその時間を稼ぐのさ。



やっぱ、また・・・背負うのかな。





「それに、ずいぶんと魔法バンザイ主義なんだね。娘がアレだから、てっきりそういうの嫌いかと思ってたのに」

「あぁ、アレですか。・・・いえ、気まぐれに作ったのですが、身体能力やそういう部分以外は一般レベル」



男が斬られた左腕など関係ないように、構える。



「仕方ないのでそういうのに特化した方向性で調整したんですよ。私としては、いつ捨ててもいいんですが、これが中々役に立ってくれましてね」





・・・左手の傷が、黒い魔力に包まれて治っていく。多分、応急処置的なものなんだろうけど、傷がくっついていく。



僕もシャマルさんから習って、治療魔法を習得してるから分かる。こいつ、やっぱ凄い。神経は腐ってるけど。





「自分でもそれが分かっているのか、なんでも必死に働いてくれる。例えば・・・夜の仕事ですよ」



そうして、また笑う。歪んだ・・・醜い笑いを浮かべる。

きっと、目の前に浮かんでるんだ。その『夜の仕事』とやらが。



「これが中々に味わい深い。なんなら試してみますか?」

「・・・遠慮しとくわ。僕、本命居るし。男は好きな女の子に操を立てるもんなのよ」





さも当然に、楽しそうに言いやがった。コイツ、やっぱりおかしい。





「そうですか・・・」





男の足元に魔法陣。・・・へ?





「可哀想に。あの味を知らないままに一生を終えるとは」





男の左手に魔力が・・・これ、さっきと同じ広範囲攻撃っ!?





「・・・知ってます?」





男がにこりと笑う。それに寒気が走る。とても冷たく・・・歪んだ笑いだったから。





「私、あなたも、あなたの先生も、あのロートル二人の事も・・・殺したいほどに嫌いなんですよ」





・・・飛針・・・魔力弾であれを撃墜・・・だめ。





「時代遅れにもほどがある。見ていて潰したくなる」





時間的に間に合わないっ!!





「さようなら、不出来な粗悪品」





襲い来るのは、黒い炎。それが迫って来る。

・・・多分ギリギリ。でも、防がなきゃ始まらないっ!!



僕は、前面に防御魔法を展開・・・って、あれ? 白い・・・ドーム。



突然、僕を包むように白いドームが表れた。それが炎を僕から守る。それはもう見事なほどに。そして、爆発が収まるまでそれはずっと僕を包み込んでくれていた。





「・・・なにが粗悪品だ。粗悪品はてめぇの脳みそだよ」





この・・・声っ!!





「このサイコ野郎が。てめぇが自分の魔力資質に自信持つのはいいさ。でもな、それにやっさんやヘイハチ先生、ヒロ・・・そしてなにより、俺を巻き込むな」





その声の方を見る。すると、そこに居たのは当然・・・十字槍を担いだ黒いザンバラ髪の男性。



そして、僕の知ってる顔。





「サリさんっ!!」

「・・・やはり来ていましたか」

「当然だ。・・・やっさん、悪い」





いえいえ、こうして来てくれただけで・・・もうっ! 口には出さないけど、かなり心配したんですよっ!?





「あぁ、そっちじゃない」

「・・・へ?」

「お前と買いに行ったアレ、全滅したから」





・・・・・・・・・・・・はい? アレって・・・アレですか。あの秘蔵ディスクの数々。僕は家にリインも来るし狸が家捜しするから置けないアレですか。あの二人して感動して泣いた義姉物のディスクも含んだアレですか。





「そうだ、コイツが雇った連中に隠れ家ごと襲われてな。見事に全部割れたり溶けたり傷だらけだ」





・・・へぇ、なるほど。コイツが・・・ねぇ? うし、お前潰すっ! 今すぐ潰すっ!! そしてぶっ壊すっ!!





「この野郎っ! 今すぐここになお・・・あれ?」





ほんの数瞬、目を離している間に・・・男が消えていた。



いや、消えたんじゃない。





≪転送魔法ですね、使ってましたよ≫

「・・・これだから瞬間詠唱・処理能力持ちは。前振りねぇのは傍から見てめんどくさいぞ」



・・・へぇ、そうですかそうですか。めんどくさいんですか、あなた。いや、それは私知りませんでしたよ。



≪主、蒼凪氏が不満そうですが≫

「いや、悪い。お前は大丈夫だ。むしろ分かりやすいくらいだからな? あぁ、それはもちろんだ。
だから頼むっ! その殺気はマジでやめてくれないかっ!?」



まぁいいさ。僕の怒りはそれよりもあの糞野郎だ。人の・・・人の大事なディスクを・・・!!



「今度会ったらっ! 絶対に叩き潰してやるーーー!!」










僕は、天井を仰ぎ叫ぶ。絶対に絶対にそうしてやると、強く誓ったのであった。










「・・・やっさん、お前そこまでかよ」

≪そこまであのディスクがお気に入りでしたか≫

「そういや、隠れ家に置いて行く時も寂しげに頬擦りしてたしなぁ・・・」

≪あれは衝撃的でした。とてもではありませんが忘れられそうにありません≫



気にしないでください。それで、ヒロさんは?



「ヒロはヒロで別口だ。ちょい不埒な事を考えてる奴が居てな。・・・さて、やっさん」

「ほい」

「お前、ビデオじゃなくて実物で頑張ってみる気、ある?」

「・・・はい?」

「上手くいけば、この話初のR18要素が出るぞ。小説の項目に『エロス』の欄が追加される。当然・・・お前とハラオウン執務官とのアレがトップだっ!!」

「な、なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


夜のミッド上空で、私はザンバーを振るっていた。相手は・・・二人の戦闘機人。





でも、強い。青髪は高速型。もう一人は・・・オールラウンダーかな? でも、近接寄りなのか一撃一撃が重い。





空中で相手の攻撃ごと潰すようにザンバーを打ち込むけど、倒せない。確かにリミッターはかかってるけど、それでもここまで手こずるなんて・・・!!










「どうして・・・!!」





そう、どうして・・・!!





「どうしてスカリエッティはこんなことをするっ! 答えろっ!!」





私は、二人と空中で交差しつつ、声を上げる。





「もちろん、教えて差し上げます。ただし・・・」





ピンクのロングヘアーの子が、両手に持ったブーメランのような武器を投擲してきつつ、私の声に答える。



ただし、それは・・・。





「あなたが我々のところに、来てくれれば・・・ですが」





投擲された刃を避けつつ、私はその子に迫る。そして、感情に火が付く。



だってそれは、私の望んでいる答えじゃなかったから。





「誰が・・・!」





そのまま、ザンバーを打ち込むっ!!





「スカリエッティの所にっ!!」





そこに青髪が入り込み、両手首についている短いエネルギー刃でザンバーを受け止める。





「彼は犯罪者だっ! それも最悪のっ!!」

「・・・悲しいことを言わないでください」





まるで哀れむように、本当に悲しげな声。いたずらをした家族を優しく叱るような声。





「ドクターは、あなたとあの少年にとって父親のようなものではありませんか」





その言葉に、一気に頭に血が上る。





「あなた達は、ドクターが研究していたプロジェクトFの基礎構築部分があったからこそ、生まれてこれ」

「黙れぇぇぇぇぇぇっ!!」





そのまま、ザンバーを振りぬく。青髪が後ろに下がるけど・・・逃がさないっ!!



横から、二撃目っ!!





「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





だけど・・・え、避けられたっ!? あの子、目の前から消えたっ!!



うそ、タイミングはばっちりで、あれなら避けるなんて・・・!!





「・・・力み過ぎです。わずかですが」





声が横から聞こえた。そちらを見ると、その子が右手を広げ、砲撃を私に打ち込もうとしていた。





「攻撃が、遅かったですよ? やはり・・・あなたは弱い」










瞬間、目の前に閃光が広がった。




















赤い・・・赤い閃光。いや、違う。それは・・・血。





砲撃を放とうとしていた手が、中ほどから分かたれ、そこから血が噴出した。私の頬にも、数滴それがかかる。





そのまま、腕を斬り落とした・・・そう、腕を斬り落とした銀の煌きは、返す刃で青髪の胴へと打ち込まれる。





でも、青髪は痛みに顔を歪めつつもすぐに後ろに下がる。銀の煌きは、むなしく夜空を斬った。・・・それによって、付いた血が中に飛沫となって飛ぶ。










「トーレッ!!」





ピンク髪の子が叫びながら、こちらに接近してくる。それを見て取った瞬間、青い閃光が生まれた。



その閃光はぴったりとその子の後ろに付いた。





「・・・鉄輝」





そして、青い閃光が振り下ろされた。ピンク髪の子は振り向きざまにそれを両手に持った獲物でガードするけど・・・。





「一閃」





そのまま獲物ごと斬られた。そして、むなしく宙に落ちて・・・なんとか踏みとどまる。





≪・・・ち、当たりが浅かったか≫

「アルト、それ僕のセリフね。・・・さて、フェイト」





その閃光の源の子は、私の傍まで結構早めなスピードで飛んでくると・・・。



ゴツンッ!!





「本当に本当に・・・バカじゃないのっ!? なにあんな見え見えの挑発で隙だらけになってるんだよっ!!」










痛い・・・。それも、すごく。





そう、私はこの子に左手で・・・ヤスフミに・・・ゲンコツ、された。まるで、悪いことをした子どもが叱られるみたいに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あーもうっ! 本当になんなんだよこのバカはっ!!





馬鹿な話はさっそと終わらせて詳しく話を聞いた。すると、フェイトがなんか苦戦してるらしいから、フラグを立て・・・もとい、助けに行ってこいと言われて、転送魔法で近くまで跳ばしてもらって来てみりゃあ・・・なんなのこれっ!?





なんであんな雑魚二人にフェイトが手こずってるんだよっ! わけわかんないしっ!!










「ヤスフミ・・・。あの、えっと・・・どうしてここにっ!?」

「んなことどうでもいいっ! 本気でバカじゃないのっ!?」



フェイトのバリアジャケットの襟元を左手でグイっと掴み、引き寄せる。



「僕の話、聞いてなかったでしょっ!? 正直、僕は生まれのこととかどうこうは言えないっ! でもね・・・これだけは言えるっ!!」



もういい、これでフラグ消えてもいい。本気でイライラしたっ!!



「戦ってる最中にあんな挑発に乗ってっ! それでグダグダ迷うなら現場に出てくるなっ!! こっちはいい迷惑なんだよっ!!」

「な・・・なにそれっ! ヤスフミに何が分かるのっ!! 何も分からないくせに」

「分かるわけないでしょうがっ!!」



そう、分かるわけない。まったく分かるわけない。



「分かりたくても分からないんだよっ! どうすりゃいいのかこっちはサッパリなんだよっ!! 悩んでる事が分かっててもどうしたら力になれるのか・・・全然分からないんだよっ!!」



僕の叫びがミッドの夜に響く。それはもう盛大に。フェイトの表情が、びっくりした物になる。



「でも、放っておけないんだよっ! フェイトが泣いてるなら、苦しいなら、助けたいに決まってるでしょうがっ!! でも、僕バカだから・・・結局ゲンコツぶつけてハッパかけるしか思いつかないんだよっ!!」



それから・・・少し申し訳ないような、戸惑ったようなものに変わる。



「あなた・・・! いきなりなんですかっ!!」





後ろから声。そちらを見ると、ピンク髪が飛び込んできた。またまたどこからか持ってきたブーメラン似の獲物を持って。



まったく、ゴチャゴチャと・・・。




「こっちは大事な話中だ」





ピンク髪が僕達に対して獲物を打ち込んでくる。アルトに先ほどと同じように魔力を込める。フェイトの襟首から左手を離す。鞘を掴んで腰から抜く。・・・そのまま、振り向きざまに回転の勢いを加えた上で・・・力任せにぶった斬るっ!!



すると、その打ち込みを受けた獲物は獲物は両断され、宙に舞った。でも、まだ終わらない。





「邪魔すんじゃ・・・!」



回転の勢いは殺さず、左手が動く。鞘に魔力強化を加えて、硬度を高める。その上で・・・!!



「ねぇよっ!!」





逆手で鞘をピンク髪の胴にぶち込むっ! もち、徹を加えた上での内部打撃の破壊っ!!



ピンク髪の左脇がひしゃげ、身体が中ほどから折れ曲がる。そのまま、鞘を振り抜くと・・・ピンク髪は吹き飛んだ。



・・・あ、青髪がなんとかキャッチした。なんか片方の腕が痛そうなことになってるけど、気のせいだ。





「セッテっ! 大丈夫かっ!?」





しかし、セッテと呼ばれた子は呻くだけで、全く返事をしない。その様子に、青髪が僕を睨みつける。





「貴様・・・!!」

「なに、やるって言うんなら相手になるよ? ただし・・・」





僕は、そのままアルトの切っ先を向ける。





「女装生活する羽目になるわ、友達は今頃阿鼻叫喚の渦に巻き込まれてるはずだわ、粗悪品呼ばわりされるわ、その上・・・」



うん、これが一番イライラする。本気でムカつく。



「フェイトの・・・惚れた女の力にはさっぱりなれないわっ! 今日の僕のイライラはぶっちぎりのクライマックスなんだよっ!! お前ら、これ以上僕とやるってなら全員再起不能になる覚悟くらい決めて来いっ!!
腕一本っ!? 足りないっ! 全く足りないっ!! 僕に喧嘩売ってきた事を後悔するくらいに・・・徹底的にぶっ壊してやるっ!!」



僕がそう言うと、青髪が黙った。睨み続けては居るけど、向かってくる様子はない。そしてそのまま・・・光の粒子が二人の周囲を包み始めた。

もしかして・・・転送っ!?



「貴様、覚えてろ。この借りは・・・必ず、返す」










それだけ言うと、青髪とピンク髪が苦々しい顔で消えた。





全く、グダグダと小うるさいやつだ。なんなの、アレ。










≪いや、向こうからするとあなたがなんなのでしょ≫

「気にしちゃいけません。・・・あのさ、フェイト」

「あ、うん・・・」



まぁ、アレだよアレ。



「僕はさ、さっきも言ったけど分かんない。分かりたいって思ったけど、何度も思ったけど、さっぱりなの。ただ・・・さ」



そのまま振り向く。なぜか顔を赤らめているフェイトを見る。



「フェイトの一番の味方では・・・居られるはずだから。だから、ここに来た。それだけ、忘れないでよ。ここに・・・少なくとも一人居るよ? フェイトがクローンとかそういうの全部含めて、一番の味方で居られたら・・・と考えているのが」

「ヤス・・・フミ・・・」



それだけ言うと、僕はそっぽ向く。どうにも、こういうのはらしくないから。

偉そうなこと、言い過ぎだよね。僕、やっぱ勝手だ。



「あの、ごめん」

「・・・その『ごめん』は、僕じゃ駄目って意味?」

「違うよっ! その・・・さっき、私ヒドイこと言った。『なにがわかるの』・・・って。ごめん」



・・・僕はため息を一つ吐く。そして、そのままフェイトを見ずに言う。



「そういうのならいらない。・・・だってさ、ごめんより、助けてきてくれてありがとうの方が、気分いいもの」

「・・・なら、ありがとう・・・だけで、いい?」

「うん」



僕がそう言うと、フェイトの空気がやわらかくなったのを感じた。どうやら、安心したみたいである。



「あ、でも・・・」



でも?



「ああいう『惚れた女』どうこうっていうのは・・・駄目だよ。多分挑発するために言ったんだろうけど」



グサっ!!



「そういうの、駄目。ちゃんと好きな子に言わなくちゃ」



グサグサっ!!



「・・・あ、もしかしてシャマル先生やすずかにもああいうこと言ってるのっ!? 駄目だよっ! だから現地妻とか言い出すんだよっ!!」



グサグサグサッ!!



「そ、そうだ・・・ね。うん、気をつけるわ」



泣いていいよね? 僕・・・泣いていいよねっ! なんでアレで気がつかないのっ!? おかしいよこれっ!!



≪気づいたら本編が面白くなくなるからでしょ≫

「ちょっとそれどういう意味っ!?」

「あと、それと・・・」



それと?



「・・・あまり、ああいう戦い方・・・して欲しくない。その、助けてもらってこういうこと言うの違うんだろうけど・・・やっぱり、嫌なんだ」

「・・・うん、知ってる」










とにかく、これから・・・どうなるんだろ。





なんにしても、ロクなことにはならないと思うけどさ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・いや、楽しいねぇ〜。





飛び交う銃弾。襲い来る銃身での斬撃。それらを私はアメイジアで斬り払っていく。でも、それが楽しい。





状況を弁えていないのを承知の上で、私は目の前の女との戦いを楽しんでいた。辺りに漂う硝煙の匂いと、頬と服をぎりぎりで掠める銃弾の感覚。そして、私の首と言った急所を狙った斬撃。それらが私の気持ちを高ぶらせる。





飛び交い。





走り。





ぶつかり。





そして引く。





そしてまたぶつかる。





実を言うと、ヘイハチ先生にこういう戦いを楽しむ性分は出来うる限り修正するようにと結構言われていた。でも・・・ねぇっ!!





ヘイハチ先生ごめんっ! やっぱこれ・・・治らないわっ!! あぁ、バトルマニア人生さいこー!!










「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










女が飛び込みながら、銃を撃ってくる。私はそれを両手のアメイジアを振るって、斬り払う。そのまま、女が銃で斬撃を加えてくる。





それを両手で弾き、流し、捌いていく。少しずつ下がりながら、女の攻撃を受け流す。・・・さすがに強化魔法なしじゃ受け止められないか。ま、しゃあないね。





でも、その分楽しめるんだから・・・よしとしますかっ!!





女が踏み込む。そのまま銃口を私の顔に向けて、引き金に指をかける。そして、それを引く。





私はそのまま踏み込む。そして、女の腹目がけて右のアメイジアを打ち込む。





銃弾が頬を掠める。アメイジアの切っ先も、女のボンテージを掠める。そして、後ろに大きく飛びつつ左手が動いた・・・って、もう1丁出してきたっ!?





そのまま、両手の銃を乱射してくる。私は・・・ちと本気モードで、それら全てを斬り払うっ!!





女が着地する。そして、私もアメイジアを構えなおす。










「・・・アンタ、マジでこのシチュでやれるってどういうわけよ」

「問題ない。こういうシチュは初めてじゃないし」





やっさんがサバゲー連中とやりあってたの見て懐かしかったなぁ。私もヘイハチ先生との訓練でやったもん。・・・いや、あれはモノホンだったけど。もっと言うと、ヘイハチ先生が遺跡から生活費のために『回収』した発掘品を追いかけてきた性質の悪い過激な異教徒・・・とかとね。



くそ、あのジジイ今度会ったらマジ殴る。あの時もサリと一緒に殴ったけど、もう一回殴る。思い出したら腹立ってきた。





「やっさんの知り合いは、もっとやれるって言うしね」





いや、マジで話聞いてたらすごいのよ。御神流・・・だっけ? 魔法無しで高速移動魔法ばりに動けて、フィールドやらも全部斬り裂けて、きっちりその技法を修得・完成させた御神の剣士は自動小銃持った連中100人揃ってようやく対等だとか。

やっさんが教わったり盗んだりした御神流の技や、鋼糸や飛針での攻撃を見せてもらって、サリと二人で納得したよ。そりゃあ出来ると。



でもさ、なんでアイツの周りには魔法無し有り関わらずブッチギリでハイスペックな連中ばっかり居るの? そしてそれの相手に慣れてるのもおかしいって。





「・・・ふん、まぁいいわ。この続きは、また今度ね」

≪なんだ、逃げんのかよ≫



全くだ、つまんないねぇ。せっかく身体が暖まってきたって言うのにさ。



「逃げるわよ。このままじゃ私、捕まっちゃうもの」



・・・なるほど、そろそろ頃合ってことか。管理局だって無能ばかりじゃない。襲撃されて立て直せもせずに潰されましたじゃお話にならないもの。

だから、女もにげ・・・いや、この場合は戦略的撤退ってやつか。足元に魔法陣浮かんだし。



「じゃあ、また会いましょ。ヒロリス・クロスフォード」



そうして、女は消えていった。・・・ま、いいか。サリには倒せなくてもいいって言われてるし。



≪だな。まぁカリムのねーちゃん達を守れただけでよしとしとこうぜ≫

「だね、この状況で贅沢は言えないさ。・・・さて、繋がるかな?」





・・・お、繋がった。もう通信関係回復したんだ。うーん、表のレベルはもしかしたら上がってるかもね。





「・・・聞こえる?」

『はい、どちらさ・・・ヒロリスっ!!』

「はーい、カリム。おひさ〜」





私は、破顔してうれしそうな顔になるカリムに苦笑する。・・・やっぱ、心配かけてたよね。ごめん。





「とりあえず、お茶にしない? 約束通り美味しい茶葉、持ってきてるからさ」










もう、やっさんとサリの方も終わったはず。他のところも・・・だね。





そう、一応だけど祭りは終わった。ただ、まだまだ続きがあるのは確定。





だってこれ、言うならオープニングイベントなんだもの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・僕とあの糞野郎がドンパチしている間に、本部の守りは復活。敵も手際よく撤収して行った。





でも、負けた。そう・・・ミッド地上本部は・・・時空管理局はこの日、ジェイル・スカリエッティという一人の犯罪者に敗北したのだ。










「・・・まず、初めまして言うべきですよね。私が機動六課部隊長、八神はやてです」

「初めまして、ヒロリス・クロスフォードです」

「サリエル・エグザです」



ここは地上本部の一室。襲撃でもなんとか無事だった会議室。六課に向かうというフェイトと別れた後、合流したサリさんと共に来たら・・・はやてとカリムさんにヒロさんが居た。

で、なんか色々会議らしい。ただ、問題が一つ。



「まぁ・・・アレだ、やっさん。ちょい後でおいしいものでも食いに行くか」

≪大丈夫、我らはあなたの味方ですから≫

「あの、どうしてそんな慰めモードなんですか?」



フェイトとどうなったのかと聞いてきたので、僕は『ありのまま』を全て話した。そうしたら・・・地面に突っ伏して泣き出すわ、さっきから妙に悲しいものを見るような目で僕を見るわ・・・。うん、この人ちょっとおかしいの。



「クロスフォードさんらは・・・えっと、クロスフォード財団の関係者かなにかですか? というよりカリム、なんでこの人達と一緒に恭文が居るんや」

「あのね、はやて。少し事情が複雑なんだけど・・・まず、ヒロリスとサリエルさんは、恭文君のお友達で、兄弟弟子なの」

「兄弟弟子・・・? ちゅうことは、ヘイハチさんのっ!?」



その言葉に、僕達は頷く。そして、事情を説明していく。出会った経緯や今回のことで僕達がどう動いていたのかも。



「・・・それはまた、ずいぶんと暴れてくれましたね。出来ればうちらを信じて最初から相談して欲しかったんですけど」

「悪いね、それは無かったわ。だって・・・そうしたら私が直で動けないもの」



ヒロさんがそう言うと、はやてが苦い顔になる。というか、若干半笑い。



「なるほど、やっぱりヘイハチさんのお弟子さんちゅうわけですか。納得しました」

「・・・すみません、八神部隊長。なんつうか、ヘイハチ先生を筆頭にこの一門、あんまマトモなの居ないんです。特にヒロとやっさんは思いっきり先生の悪影響を受けてしまっていて」

「知ってます。と言いますか、見てて間違いなくそうだなと思ってました」

「「ちょっとっ!?」」





まぁ、ここはいい。とにかく真面目なお話だ。もう色々時間がないんだしさ。





「それではやてちゃん・・・で、いいかな? 私も名前でいいからさ、堅苦しいのは無し無し」

「あ、はい。大丈夫です」

「・・・まず、これから話すことはブッチギリでアウトコースな方法で知ったこと。だから、正式な形での証拠は何にも無い。事実ではあると思うけど、それを証明する手は何もない。それは覚えておいて」





ヒロさんが真剣な顔で言うと、はやてが同じ顔で頷く。そして・・・話し始めた。





「まずね、今回の一件・・・管理局の上層部の人間が絡んでる。ま、ぶっちゃけちゃえば内通者?」

「それはうちもそう思ってます。今回の一件は手口があまりにスムーズ過ぎますし、なにより・・・怪しいんですよ」

「レジアス・ゲイズ中将が?」





はやてが頷いた。・・・え? 待って待ってっ! なんでそこでレジアス中将の話が出てくるんだよっ!!





「・・・そっか、やっさんはレジアス中将好きだったよね」

「まぁ・・・凄い人だとは」

「なら、聞かないって言うのも選択だけど」





まさか、そんな選択出来るわけがない。ここまで来て目を伏せたら・・・あの時啖呵切った意味が無くなる。





「いえ、聞きます」

「そっか、分かった。結論から言うと、レジアス中将はスカリエッティと繋がってる」

「ヒロリス、そう言う理由はなに?」

「実に簡単だよ。・・・やっさん、ちょっと復習だ」



ほい?



「戦闘機人って、何のために生み出されたか覚えてるよね」





・・・その言葉の真意はともかく、僕は思い出してみる。戦闘機人は、人型の機動兵機の総称。



そして、それを簡単に言うなら、安定した形で高い能力を持った存在を生み出すための技術。





「そして、話は変わるけどミッド地上は数十年というレベルで慢性的な戦力不足に悩まされ続けている。レジアス中将はずっとそれをなんとかしたいと思い続けていた。それの一つの形がアインへリアルだ」





・・・あれ?





「でも、アインへリアルが出来たのは本当に最近だ。アンタも知ってるだろうけど、レジアス中将は戦力強化のために質量兵器まで持ち込もうとしてた」





今、違和感を感じた。とても強い違和感。でも、確かな違和感。





「それが理由だ。それより前に、裏であれこれ動いてたってわけだ」





そして、その違和感はサリさんの言葉で確定的になった。そう、安定した一つの答えになった。





「つまり・・・レジアス中将は地上部隊の戦力強化のために」

「戦闘機人の生産を、スカリエッティに依頼した」





僕とはやてが続けてそう言うと、ヒロさんとサリさんが頷いた。





≪戦闘機人・・・いえ、それだけではありませんね。人造魔導師も、元々違法研究とされる前までは管理局でも運用を目指して研究していたものです。その主な推進者は・・・レジアス中将≫

「そうやな。でも、現在では違法や。恭文も知ってるやろうけど、倫理的にもブッチギリでアウトやから」



そう、戦闘機人も人造魔導師も、どっちも技術的にも倫理的にもブッチギリなアウトコースだ。だからこそ、現在ではどちらも違法研究として厳しく取り締まっている。



「自分らで生み出すわけにはいかん。そやから・・・多分、スカリエッティに生み出させて、空のプラントかなんかにその成果を放置しとく。そこを中将の指示を受けた部隊が突入して、回収。あとは・・・」

「合法的に局の戦力に引き入れるわけね。試験運用とでも言えば、理由はどうとにでもなる」

≪だろうな。あの陰険ドクターは犯罪者でさえなければブッチギリの天才だ。依頼相手としては、確実って言えば、確実だな≫





でも、そこまでなんだ。



そこまでして・・・守りたかったんだ。なにしてんだよ。本当に・・・!!



そんなことしても、何も守れないし、生み出せないっていうのに。現に今だって、壊した。





≪蒼凪氏、そこを言っても始まりません。それは、レジアス中将にしか分からないのですから≫

「・・・そうだね、ごめん」

≪いえ。・・・私も、気持ちは同じです≫

「金剛も、なにげにレジアス中将支持派?」

≪実を言うと≫





とにかく、問題は・・・これからだ。実際に予言通りに、中つ大地の塔は虚しくどころか大泣きで焼け落ちたんだから。





「ただ、八神部隊長」

「はい」

「そこで疑問があるんです」





サリさんが、右の人差し指をそう言いながら上にピンと立てた。





「まず、どこでどうやってスカリエッティとレジアス中将が繋がりを持ったか・・・という点です」

「確かに・・・そうですね。スカリエッティは稀代の犯罪者なわけですし。・・・いえ、一つ可能性があります」

「・・・気づいてたんですか」

「これでも、特別捜査官ですから。あと、優秀な執務官や仲間に恵まれてますんで」





あの、二人で通じ合ってないで僕達も混ぜてー! なんか居心地悪いのー!!





「それともう一つ」





無視っ!?





「なぜ、レジアス中将をこのタイミングで裏切ったかと言う事」

「確かにそれがありますね。・・・普通に仲悪かったとか」

「だったら楽でいいですよね」

「そうですね・・・」





だから、二人して通じ合わないでー! 僕達を置いてかないでー!!





「と言いますか、それなら答えは簡単じゃないですか」

≪そうですね、実に簡単です≫

「ほう、脳筋代表なやっさんが自信持って発言するとは、珍しい」



そりゃあ、当然でしょ。いくら脳筋代表な僕だってこのシチュで分からないわけが・・・ってっ! ちょっと待ってっ!!



「うるさいですよっ! というより、ヒロさんに言われたくないっ!!」

「何さそれっ!? 私はやっさんよりは頭使ってるよっ!!」

『いや、どっちもどっちだから』

≪≪≪全くですよ(だぜ)≫≫≫



失礼なことを言う皆様は気にしない方向で行く。・・・とにかく、答えはある。それも、最高に最悪な答えが。



「多分ですけど、スカリエッティがレジアス中将に付いて居たのは、司法取引のおかげで安全に研究が出来るというのも大きかったと思うんです。・・・実際、スカリエッティは現時点まで実際の姿を見た人間も居なければ、逮捕歴もありません」



この辺りはやっぱり、レジアス中将の被保護下に居たのが大きいと思う。単純に捜査情報を流してもらえるだけでも、かなり有利になるだろうし。



「ま、それだけじゃ半分だけ正解だけどな」

「やっぱ、そう思われますか?」

「えぇ。確かに色々問題だけど・・・こう考えると、あれだけのイカレポンチ野郎がここまで捕まってないのにも、納得出来るんです。管理局は、馬鹿だけど無能ではありませんから」

「その通りですね」


やっぱり僕、脳筋なのかな。通じ合ってる二人が何を言いたいのか、さっぱり分かんない。



「いや、サリエルさんとは後で色々お話したいですわ。どうにもうちの周りはこういう話出来る人間が少なくて・・・」

「噂のハラオウン執務官や高町教導官は?」

「・・・二人の前では、あんま黒い話しとう無いんです」

「納得しました」



ごめん、僕は全く納得出来ないんだけど。ヒロさんがなんか頭から湯気出してるから。



「わ、私は分かってるよ? うん、ちゃんと分かってるから」

≪・・・姉御、頭がパンク寸前な顔してそれは説得力無いぜ?≫



全く同感である。



「とにかく、スカリエッティが管理局の高官の庇護下に居たことは、メリットが多かったわけね。・・・それで?」



カリムさんが話を元に戻してくれた。なので、僕もそれに乗っかる。

そうして、口にした。考えられる限り最悪なシチュを。



「もうレジアス中将の下に付いて、司法取引なんて物を当てにしなくていいんですよ」



そう、もうスカリエッティは管理局高官の庇護など当てにしなくていいのだ。



「多分ですけど・・・もう手元にあります。例の予言を実現させられるだけのカードが。そのカードを組み合わせて作った手があれば、好き勝手出来るわけです」

≪あとはそれを場に出すだけ。出してその手が通ってしまえば、もうあちらの勝ちになるというわけです。・・・マスター、どうやら高町教導官達と話した件、あながち好き勝手な推論というわけでもなかったみたいですね≫



そうだね、結構適当だったんだけど。



「アンタ、何話したんや」

「ん? スカリエッティは世界征服でもして、自分の好き勝手やろうとしてるんじゃないかーって話」

「・・・またぶっ飛んだ話するなぁ」

「でも、あながち間違いでもない所が、やっさんクオリティというかなんというか」





最初に言っておく。それは自分でも・・・ビックリだっ!!





「で、あとは・・・ゼスト・グランガイツですね」

「はやてちゃん、出てきた・・・んだよね」

「そうです。それで・・・」





例のユニゾンデバイスとユニゾンして、師匠とリインのコンビを・・・一蹴したらしい。

おかげで師匠は負傷。リインも現在昏睡状態・・・。



ギンガさんのお母さんとメガーヌさんの居た部隊の隊長で・・・8年前に死んだはずの人間。それが、今になって出てきた。





「目的は・・・復讐かしら」

「可能性は高いでしょうね。ゼスト・グランガイツからすれば、裏切られたも同然。もしそうなら、今回の一件でスカリエッティや召喚師・・・ルーテシア・アルピーノと居るのも納得出来ます」

「復讐のためにスカリエッティと手を組んで・・・か。ありえない話じゃないね。いや、むしろその可能性の方が大きい」










つまり、またレジアス中将の所に突っ込んでくる可能性がある。ううん、もし復讐なり、他の事でレジアス中将に用があるなら、それは確実。





なら、これからどうする? あのサイコ野郎はどのタイミングで出てくるかさっぱりだから、追うとかそういうのは無理。なら・・・一つだけだよね。

今見えているもの、ハッキリしているものを、追いかける。それしかないでしょ。










「・・・・・・はやて」

「なんや?」

「リイン、目が覚めたら事件解決まで借りるよ。あと、入手できた連中の情報ちょうだい。ゼスト・グランガイツもそうだし、戦闘機人や他のも」

『はぁっ!?』





色々ごちゃごちゃしてる。訳わかんないことばっかりで、サイコ野郎に粗悪品呼ばわりされて・・・腹の中で色んなものが渦巻いてる。



でも、止まれない。決めたから・・・止まることなんて、揺らぐことなんて出来ない。





「相手はユニゾン能力持ち。そして決して弱くない師匠とリインのユニゾンが倒れた。・・・僕がやる。僕とアルトとリインなら、誰が相手だろうが簡単には負けない」

≪・・・そうですね、やりましょうか。あの男がどのタイミングで出るかは分かりませんが・・・ならまず、狙いがハッキリと分かっているゼスト・グランガイツには、師匠とリインさんをナメてくれた礼をしなくては≫





弱かったり、運が悪かったり、何も知らないとしても・・・。





「それは、何もやらないことへの言い訳にならない。そう、僕の知ってる凄く強くて、優しい人が言ってたから」



僕のなりたい一つの形。通したい理想の形。きっと同じ。どんな状況だろうと、それを通せなかったら・・・意味が無いんだ。



≪ボーイ、本気か?≫

「本気だよ。それで、確かめる」










・・・そうだ、確かめる。










「レジアス中将とゼスト・グランガイツに、確かめる。今回の一件の全部を。洗いざらい、吐いてもらう。アルト、付き合ってくれるよね」

≪当然でしょう≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



聖王教会の医療施設。六課隊舎で敵と交戦して、怪我をしたエリオとキャロをなんとか運び込んで、眠る二人の傍に居た。





二人が眠るベッドの横に置いてある椅子に座りながら、物思いに耽る。主に今日一日のことについて。





・・・私、本当に駄目だな。二人が傷ついてる時に、動揺して、隙を作って、ヤスフミに怒られて・・・なにやってるんだろ。





強くなったはずなのに。執務官になって、昔の自分と同じような境遇の人達を助けたい。悲しい思いを一つでも減らしたい。そう思って、それが夢になって、頑張って・・・なのに、ちょっと突付かれただけで簡単に崩れた。





私、弱いのかな。あの青髪や、シスター・シオン・・・ヤスフミの言うように。










『・・・フェイトちゃん』

「はやて?」

『ちょいごめんな。緊急報告や』




















はやてからの話はヤスフミのこれからの行動。





あの騎士・・・ゼスト・グランガイツの相手を、リインとすると言うもの。










「・・・それで、はやてはいいって言っちゃったの?」

『まぁ、しゃあないやろ。事実、アイツとリインにアルトアイゼンのチームに任せるんが早いって言えば早いもん」



確かに、あのアギトって言う子とユニゾンした場合、ヤスフミとリインに任せるのが・・・確実なんだよね。

ユニゾンでの能力上昇値は、バカに出来ない。そして、私達の中でユニゾン出来て、一番能力の高い組み合わせは・・・ヤスフミとリインだから。ヴィータが墜とされたなら、場合によってはシグナムとユニゾンしても・・・。



「リインも前々から最悪の場合は飛び出していいかって相談してきてたしな』

「そうなの?」

『そうなんよ、もうラブラブオーラ出しまくりでな・・・。なにより、アイツはリインが居なくても・・・やるよ』





はやての話では、ヤスフミ・・・レジアス中将が疑わしいという話を聞いて、本当にショックを受けてたみたい。



ヤスフミ、レジアス中将の事を気に入ってる感じだったしね。『なんだか親近感を覚える』・・・そう言って。本当は、あんまり言って欲しくなかったり。

私もみんなも、あの人の強硬な手腕には好感が持てなかったから。それに・・・事実似てる部分がある。手段はともかく、ヤスフミも強硬派と言えば強硬派だから。目的のために、どんな手でもやりそうな危うさがある。





『今回の一件で訳わかんないの全部、二人をぶちのめして吐かせる言うて、気合入りまくってるんよ。あれ、修羅モードの一歩手前やで。止めたら文字通り潰されてまう』

「そこまでなんだ・・・」

『それと・・・な』

「うん?」





・・・あれ、はやてどうして表情が重くなるの。





『スカリエッティの関係者で、直にアイツを狙ってるやつが出てきた』

「本当にっ!?」

『ホントや。ほら、前に出てきた女ガンマン。どうもあれの関係者らしいんよ』



・・・その言葉に私の頭が働く。つまり・・・あれは足止めなんかじゃなくて・・・!!



「ヤスフミを狙っていたっ!?」

『多分な。それなら、ここ一ヶ月アイツが姿を隠している間、はぐれガジェットとかと違うて全く姿が確認出来んかったのも納得出来るんよ』



ようするに、ターゲットであるヤスフミが完全に消息を絶ったから。その上、長い付き合いの私やなのはでも気づかないほどに完璧な変装・・・女装で来るんだもの。普通はそれで気づくのは無理だと思う。



『で、これ恭文から直接聞いたんやけど・・・今回出てきたその女ガンマンの『父親』、アイツと同じ能力持ちなんよ』





はやての言葉に、私は驚くしかなかった。同じ能力ということは・・・瞬間詠唱・処理能力っ!?





「でも、あの能力って」



局でも同じ能力を保有している人間はほとんど居ない。レアスキルにこそ認定されていないけど、本当に希少技能だから。私も、この能力を持っている人間はヤスフミしか知らない。というより、ヤスフミと知り合ってから、そういう能力があると知ったくらいだもの。



『それに関してはそっちにデータ送った。ちょい見といて』

「あ、うん・・・届いた。でも、このデータどうしたの?」

『アイツの知り合いの情報通経由や。恭文から話を聞いて、ちょい調べてくれとったんよ。・・・名前はフォン・レイメイ。ブッチギリの違法研究者で、自身も優秀な魔導師や。もう一人の女ガンマンは・・・そいつの生み出した人工生命体やな』





とにかく、この人は・・・第48管理世界出身の・・・あれ、この人ってこの世界で結構名の通ってる貴族の出身なんだ。



それで、この能力を一種の神からの贈り物みたいに扱って・・・まぁ、珍しい能力ではあるものね。普通の人は、詠唱もプログラム処理も、瞬間的になんて出来ないもの。





『そこの家自体は、もう途絶えてるんやけどな。恭文の話では、誘導弾やら広範囲攻撃魔法やら砲撃やらを瞬時にバンバンぶっ放したそうや。その上・・・クレイモア直撃したのに平然と立ってたとか』

「それは、相当だね。だから・・・リイン?」



はやては私の言葉にうなづいた。つまり、リインをヤスフミと一緒に行動させるのは、ユニゾン対策だけじゃない。

不確定要素であるこの男と女性に対する備え。



『そうや。リインが居れば、当然ユニゾンも出来るしスターライトも使える。なんにしても、アイツは同じ能力持ってる恭文を『粗悪品』なんて言うて目の敵にしとるみたいやから』





粗悪品・・・! そんなの逆恨みじゃないっ!! それでどうしてヤスフミがっ!?





『向こうからしたら当然のことなんやろ。・・・これから、色々荒れるよ』

「・・・そうだね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、僕達ははやてとカリムさんに見送られつつ、地上本部を離れ、三人揃って本局に来た。





僕の用件は二つ。はやてから許可をもらったから、リインとの合流。そして・・・無限書庫。





今回、スカリエッティが保有していると思われるジョーカーが判明しそうで、当然のように修羅場らしい。手伝いに行くことになった。あと、あそこなら比較的安全だしね。










「・・・それで、ヒロさんとサリさんはどうするんですか?」

「私はマリーちゃんとちょっと準備。サリは・・・なんか調べ物でしょ?」

「あぁ。今回の一件、色々と納得できない節があるからな。それで調べ物だ。悪いが、やっさんの方は手伝えないと思う」

≪問題ありません。リインさんも来てくれる手はずになりましたから≫





はやてには感謝しないと。・・・まぁ、ゼスト・グランガイツとあの逆恨み野郎の相手を僕達で一手に引き受けるからだけどさ。



でも、リインが居るならそれでも十分戦える。絶対に負けない。





「・・・元祖ヒロインは強いってことか」

≪ボーイ、俺はたまにお前の本命が誰かわかんないときがあるんだけどよ≫





そんなことないよ。僕はフェイトが本命♪




「あー、でもやっさん」

「ほい?」

「・・・ごめん」



ヒロさんがいきなり謝り出した。え、なになにっ!? というか、頭下げたっ!!



「あんた、ルーテシアの情報を私に渡したのがギンガちゃんにバレて、やりあっちゃったんでしょ? カリムから聞いた」



・・・カリムさんのお喋り。ヒロさんに心配かけるといけないから黙っててくださいってお願いしたのに。



「さすがに・・・ね。あんなことになっちゃったから、一応さ」



ヒロさんが申し訳なさそうな顔になる。普段は絶対に見せない顔。

そう、あんなことになった。・・・右の拳を握る力が、強くなる。



「喧嘩したまんま・・・なんて、気分のいいもんじゃないよ。私、今回はマジで悪いと思ってる」

「・・・謝らないでください」



そうして、僕は笑う。不敵に・・・なんの問題も無いと言うように。



「てーか、なんで謝るのかイミフです。・・・もうギンガさんに会えないみたいじゃないですか」



ギンガさんは、さらわれた。スカリエッティの戦闘機人達に徹底攻撃された上で、拉致されたそうだ。

はやてが・・・苦い顔で教えてくれた。



「ギンガさんなら大丈夫です。六課にはギンガさんの妹だって居ますし、はやてが言ってたじゃないですか。絶対に助けるって。・・・僕だって、同じです。助けられる状況なら、絶対に助けます。ギンガさんは大事な・・・友達ですから」

「やっさん・・・」





隊舎も壊れた。シャーリーやグリフィスさんにルキノさん、ザフィーラさんやシャマルさんも怪我をして、結構危ないらしい。リインや師匠も墜とされた。フェイトも・・・危うく潰されかけた。その上、ギンガさんだ。

あいつら、このままじゃ済まさない。全部僕一人でどうにかなんて絶対に無理。でも、一人じゃない。



僕達に喧嘩吹っかけたこと、後悔させてやるよ。言った通り・・・徹底的に壊してやる。





「だから、謝らないでください。・・・そんな暇があったら、やりましょ? 僕達の戦いを。そのためにここに居るんですし」

「・・・だね。あーあー! やっさんに説教されるなんざ、私ももうろくしたかねっ!! まったく、らしくないらしくないっ!!」



そう言って、自分の頬を両手でパシッと叩く。その様子を見て、僕もサリさんも笑う。少しだけ・・・優しく笑う。



「なら、私は・・・どうするかな」

≪でもよ、俺達全員、八神部隊長に止められちまったしな≫

「アレ、勝手に動いたら本気で止めるって顔だったよな」

≪そうですね。まぁ、情報戦への参加だけは、何とか納得させましたが≫





そう、ヒロさんにサリさんは、はやてに行動を止められた。事件の事も、ルーテシア・アルピーノの事も、自分達に全部任せて欲しいと。



気持ちは分かるけど、ロートルで引退組な二人をこれ以上危険にさらすのは、局員としても見過ごすわけにはいかない。それに、二人はこの一ヶ月完全にブッチギリなコースを全速力で突き抜けている。これ以上やるなら場合によっては、どんな手を使っても止めさせてもらう。そう断言してた。

そして、それに二人は頷いた。というより、そこで頷かなかったらどんなことになるか分からない雰囲気だった。





「・・・ま、問題ないか」

「だな」





はやて、でもそれで納得はちょっと甘かったね。それで止まるほど我が姉弟子と兄弟子は緩くないのよ。





「任せるって返事したけど・・・私、首突っ込まないとは言ってないもの」

「奇遇だな。俺もだ。・・・あ、それに知ってるか?」

「なにさ」

「俺達の星占いの運勢、事件が解決するまで最悪だそうだ。どうやら、どこかへ出歩いた瞬間にそういう現場に遭遇するらしい」

「あぁ、そりゃ大変だ。私、今週は思いっきり出歩きたい気分なのにさ」

「俺もだ。これはどうも止められない感情なんだよな。ま、仕方ないか」





ということらしい。なお、僕は止めません。僕だって、二人の立場なら同じこと言って飛び込むし。





「なら、問題ないね。・・・私は、ルーテシアをとっ捕まえる。これ以上放ってはおけない」

「なら、俺は・・・この一件の裏関係だな。糸引いてる奴が居るなら、きっちりとケジメは取ってもらわないと困る」

「そして、僕はゼスト・グランガイツとレジアス・ゲイズ中将。・・・バラバラになっちゃいましたね」




ま、いいか。なんだかヘイハチ一門らしいよ。一緒なように見せかけて、実はそんなでもない・・・ってさ。





「それじゃあ、やっさんもサリも、気をつけてね」

「そっちもな」

「また後で。それで・・・」










そう、それで・・・。





さっき、どうにもギンガさんの事が重くて気晴らしにネットやってて知ったこと。そして、この一件を何が何でも平和に終わらせなくてはいけない理由。










「「「さらば電王っ! 絶対見に行くんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」










そうっ! 電王が三度目の映画化決定っ!! もうこれだっ! 僕達が今回の一件に関わって連中を叩き潰す理由はこれだけでも十分成り立つっ!!





次元世界が崩壊っ!? そんなことになったら映画見られないでしょうがっ! 良太郎とモモ達の最後のクライマックス、見れなくなるでしょうがっ!!





うっしゃっ! 何が何でも不可能超えてっ!! ファイナル掴み取るぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!




















(ミッション06に続く)






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あきゅろす。
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