小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第4話 『銀河に光るゼロのスターライト』
「・・・というわけで」
いや、どういう訳なんだろう。
「思いっきり、踊るよー!!」
「うんっ!!」
・・・早朝の隊舎の中庭で、すっごく元気なのは、すっかり仲良くなったリュウタロスさんとヤスフミ。
なんでも、例のベルトの代金代わりに、ダンスを教えてもらうことになったとか。というか・・・あのですね・・・。
私、さっきからずっと気になってたんですけど。
「フェイトお姉ちゃん、どうしたの?」
「・・・どうして良太郎さんに憑いてるんですか?」
そう、リュウタロスさんは良太郎さんに憑いていた。紫のメッシュと瞳ににウェーブかかった髪。それに・・・帽子。
えっと、必要あるのかな。これ。
「うーん・・・よくわかんない」
「分かんないんですかっ!?」
「ごめーん、お待たせー!!」
「お待たせしましたー!!」
私達が声の方を向くと・・・なのはとヴィヴィオが居た。なお、ヴィヴィオは運動着姿。
そう、ヴィヴィオも今回のレッスンの受講者。あ、私達はなんだか保護者見学に来たみたいだね。
「お、ヴィヴィオおはよー」
≪昨日はよく眠れましたか?≫
「うん、バッチリっ!!」
昨日・・・というか、ここ数日はかなり興奮気味だったのに、ヴィヴィオはそれでも元気いっぱいと言わんばかりにガッツポーズ。
それを見て、私もなのはも、ヤスフミやリュウタロスさんも何だか嬉しくなる。
「というわけで、さっそくはじめちゃ」
「ダメっ!!」
なのはがリュウタロスさんを止める。というか・・・どうして教導官モード?
「え、どうしてっ!?」
「まずはしっかり準備運動です」
「そうだね。リュウタロスさんもヤスフミも、まだしてないし」
「あ、そうだね」
「うん、大事だよね」
というわけで、まずは準備運動に入ることになった。
なお・・・。
「えー、いいじゃんそんなの。僕、そういうのは」
「リュウタロスさん、ちゃんと・・・やりましょうね?」
「・・・はい」
リュウタロスさんとなのはの間に、ちょっとした関係が生まれたみたい。というか、先生と生徒?
そして、10数分後・・・。念入りに準備運動をしてから、ようやくスタートになった。
「・・・えー、そういうわけで、みんな頑張ろうね〜」
≪・・・またテンション低いですね≫
「・・・リュウタ、どうしてちょっと投げやりなの。先生なんだから、もっとしっかりとして」
「だって・・・」
「なのはママ?」
「わ、私のせいなのっ!?」
どうやら、リュウタロスさんは、なのはに怒られて、ちょっとご機嫌斜めみたい。うーん、もしかして・・・少しだけ子どもっぽい人なのかな。
そして、それを見たヤスフミがあるものを左手に持つ。というか、取り出した。それは・・・。
「あー、あのベルトだー!」
ヴィヴィオが表情を明るくして、ヤスフミの手に持つ物に熱い視線を送る。
そう、ヤスフミがどこからともなく取り出したのは、最近出番の多いサウンドベルト。・・・本当に好きなんだね。
「そうだよ〜。ね、リュウタ。せっかくだからこれ使おうよ」
「・・・え?」
ヤスフミはそう言いながら、ベルトを腰に巻く。そして、続けて左手から赤い携帯を取り出して・・・。
「えっと・・・07・・・04・・・22っと」
≪それで、リュウタさんのボタンですよ≫
「わかってますって」
そして、ヤスフミが携帯のボタンを一つ押す。
≪Ryuu≫
そのまま携帯をベルトに装着する。携帯のエンターボタンを押してから・・・。
「ほらほらリュウタ、せっかくなんだし、楽しくいこうよ」
「うんうんっ! 一緒に楽しくだよー!!」
「・・・うんっ!!」
そうして、ヤスフミが右手に持ったパスをベルトのバックルにセタッチ・・・なんでも『Set and Touch』の略なんだって。
とにかくそれをすると、また音楽が流れ始めた。
≪The song today is "Climax Jump HIPHOP ver."≫
・・・でも、本当に楽しい。ヤスフミもそうだけど、なのはやヴィヴィオにヴィータも楽しそうにしてる。
私を含めた電王を知らない組も、段々慣れてきて、交流を深めつつある。
スバルがいい例だね。納豆事件以来、良太郎さんやモモタロスさんと仲いいし。
ティアも、ウラタロスさんとよく話してるみたい。・・・相性、いいのかな?
事件は早く解決して欲しいけど、それでこの人達とお別れになるのは少しだけ・・・寂しいな。
リュウタロスさんを先生に、音楽に乗せて楽しそうに踊り始めたヤスフミ達を見て、私は思った。
願わくば、こんな時間が悲しい結末で終わらないように・・・と。
ー時の列車・デンライナー。次に向かうのは、過去か、未来かー
『とある魔導師と機動六課の日常』×『仮面ライダー電王』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間
第4話 『銀河に光るゼロのスターライト』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・いや、ここの飯も・・・中々美味ぇな」
「でしょっ!? ここの自慢の一つなんですっ!!」
・・・色んなことが有っても、昨日と変わらずに陽は昇るし、お腹は空く。
現在僕達は、六課隊舎の食堂で朝食中。
そして、そう言いながら美味しそうにご飯を食べているのは、モモタロスとスバルちゃん。
というか、一気に距離が縮んだね。もうおかしい位に・・・。
「モモタロス、自分がスバルちゃんの事怖がってたの、忘れてるんじゃ・・・」
「まぁ・・・あれがスバルですから」
「フレンドリーに、誰とでも仲良くなれるのですよ」
僕の呟きにそう答えたのは、隣で仲良くご飯を食べている恭文君とリインちゃん。
「ほい、リイン。あーん」
「あーんです♪」
・・・小さく分けたウィンナーを、そう言いながら幸せそうに食べてる。というか・・・凄いね、これ。
「あー、なんか面白そうっ! 僕もやるっ!! はい、リインちゃん、あーん・・・」
「あー・・・ってっ! リインを小動物扱いしないでくださいっ!!」
「えー!? 恭文だってしてるのにっ!!」
「恭文さんはいいんですっ! 元祖ヒロインであるリインへの愛が、いぃぃぃぃぃぃぃっぱいですからっ!!」
そう言って、力一杯に胸を張って断言するのは、小さき妖精。リュウタロスもその言葉にはなぜか、ため息混じりで納得する。
「いや、あの・・・元祖ヒロインはやめない?」
≪いいじゃないですか。事実なんですから≫
事実なんだね。というかリュウタロス、よくその輪に違和感無く入れるよね。うん、僕には無理。
「・・・良太郎さん、これ・・・何時もの事ですから。アイツとリイン曹長は、本当に結び付きが強いんです。だから・・・」
「・・・みたいだね。というか良太郎、アレ・・・もはやカップルだよ。リュウタが一緒だから、何とかなってるだけで」
「・・・だよね」
ゴメン。アレだけ見てると、ヘイハチさんの言うようにフェイトさん本命とは思えないよ。
だって、なんか甘ったるいの匂うし。こう、思わず悶えそうなの。
「・・・でも、羨ましいです〜」
「・・・いや、ナオミさん。アレは違うから。むしろBパート前半が危なくなる要因の一つよ。というかあの子、どれだけ爆弾抱えてるの?」
「・・・ハナさんもそう思います?」
「ティアナちゃんも?」
「かなり。アイツ、なんで今まで刺されなかったのか、たまに不思議になるんです」
いや、ハナさん。それも分からないから。それでどうしてティアナちゃんはそれで分かるのっ!?
「ぐごぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
そして、こっちはこっちで寝てるしっ! もう本当にみんな自由だなっ!! 緊張感ないしっ!!
「・・・凄いイビキですね」
「こっちも、何時もの事なんですか?」
「・・・うん、割とね」
どこか感心するように聞いてきたエリオ君とキャロちゃんには、そう答えるしかなかった。
だって・・・本当にそうなんだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・まぁ、なぎ君を含めて何時も通りらしい方々はそれとして、私とティア、それにハナさんは、朝食を取りつつ会議。
だって、問題は多いから。
「・・・でも、イマジンの情報・・・集まりませんね」
「そうだね・・・。うん、完全に私達、後手に回ってる」
良太郎さん達もおかしいと感じてるらしい。ここ最近はもう少し、分かりやすい動き方してるそうだけど。
・・・でも、悪の組織とかは無いと思う。絶対に。
「やっぱり・・・ティアナちゃんとウラタロスの推測、当たってるかも」
「ハナさんが言ってるのは・・・イマジンをこちらの世界に呼び込んだ存在・・・ですよね。その誰かが、イマジンに入れ知恵をしている」
「そう。でも、だとすると・・・危ないかも」
ハナさんは、どこか確信ありげにそう口にした。・・・危ないって、どういう意味だろ
「私達の知る限り、イマジンにそういう風に指示を出して動かす・・・なんて真似が出来るやつは、相当に強い。なんせイマジンは基本・・・」
「アレ・・・だからですか?」
そう言って、ティアはある方向を見る。私達も、釣られるようにして、そちらを見る。
「うぅ・・・もう食えねぇ。つか犬っ子・・・お前、食いすぎだ・・・」
「えー、これくらいいつも通りですよ? まだまだいけますっ!!」
「スバルちゃん、凄いね。モモタロスだって、相当食べる方なのに・・・」
「というか・・・私、驚きです」
・・・面白いくらいに、お腹膨れてる。
「ぐごぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「あの、キンタロスさん。ここで寝たら、風邪引きますから・・・」
「起きてくださ・・・って、起きないね、これ」
「きゅく・・・」
・・・というかあの人・・・寝てばかりだよね。
「それー!!」
「うぅ、シャボン玉で攻撃はズルいですよー!!」
「というかリュウタっ! ここでそれ使って遊んじゃダメだからっ!!」
・・・アレ、なぎ君が普通に見える。どうしてだろう。
「・・・そうだよ、アレだからなの」
「納得しました。アレを統率なんて、私には無理です」
「大丈夫だよ、ティア。きっとみんな同じだから・・・」
どこか慰めるように、私はティアに声をかけた。そう・・・きっとみんな同じだよ。でも・・・アレ?
なら、良太郎さんは? どうやって、アレなイマジンであるモモタロスさん達を統率してるの?
「・・・話は聞かせてもらったよ」
そう言って、突然に私達の方に来たのは・・・青い甲羅を身に纏った背の高い人。
「ウラタロスさんっ!!」
「いや、盗み聞きは失礼と思ったんだけど、どうもこちらの釣り糸がそちらに引っ掛かってね。それでギンガさん、実は僕に一つ、いい考えがあるんだ」
・・・いい、考え? なんだろう、かなり自信ありげだけど。
「・・・どーせまた、良太郎に憑くんでしょ?」
「それでまた、ナンパでしょ?」
な、ナンパっ!? この人、そんなことするのっ!?
「もうアンタのキャラはお見通しよ。つか、またあんな真似されてもこっちが大変よ」
「ティア・・・キツいね」
・・・もしかしたら、スバル以上に大変だったのかも知れない。ティアの今の表情には、そう思わせる何かが見て取れた。
「あぁ、違う違う」
「「え?」」
「それよりももっと効果的な方法があるんだよ。・・・恭文、ちょっとこっち来てー!!」
そう言って、ウラタロスさんはなぎ君を呼ぶ。なので、リュウタロスさんを止めていたなぎ君はこちらに来る。
「・・・どうしました?」
「うん、簡単だよ。・・・ちょっと借りるね」
「へ?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あぁ、すみません。一つお聞きしたいんですが・・・いえ、そんなにお時間は取らせませんから」
そう言って、その子は街を歩き、片っ端から道行く人に声をかける。・・・ただし、ここには一つの条件が加わる。
「・・・そうですか。いえ、ありがとうございました。あと、話は変わりますけど・・・その翡翠色の髪、とても素敵ですね。
その青い瞳も素敵です。見ているだけで、切なく・・・愛おしさを感じます」
そう、声をかける相手は全員『女性』。そして、欲しい情報・・・イマジン関連の話を知らなくても、関係無いみたい。
「・・・ごめんなさい、いきなりこんな事言って。ただ・・・あなたが昔亡くなった僕の姉に似ていたので、
つい。あ、ごめんなさいっ! なんていうか・・・思い出してしまって」
そう言って、その子はどこか遠い物を見たような目をしたかと思うと、目元を押さえる。
すると、相手の女性が心配そうな顔になり・・・ハンカチを出してきた。
「・・・ありがとうございます」
そのまま、手を握る。優しく、両手で包み込むように。
「・・・あなた、とても優しい方なんですね。そういう所も、姉に・・・すみません、こんな話をしても、不愉快なだけですよね。でも・・・」
そのまま、潤んだ、どこかすがるような弱々しい瞳で、その子は女性を見上げて、懇願した。
「少しだけ・・・こうしてていいですか? 今、あなたと離れたくはないんです。思い出が、吹き出しそうで」
そしてその女性は、なんでか顔を赤らめて、頷く。そしてそのまま、近くの喫茶店に入っていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
で、戻ってくるなりその子はあっけらかんとした表情で、開口一句こう口にした。
「・・・ふむ、予想以上に効果絶大だね。やっぱり青物同士、相性はいいかも」
「というか・・・あの、ウラタロス?」
「うん、なに? 良太郎」
いや、何かなじゃなくて・・・。
「どうして恭文君に憑いたりしたのっ!?」
・・・ここはミッドの市街地。そう、僕達はまた聞き込み・・・と言う名の、別の物になってるけど。原因は、ウラタロス。
今、ウラタロスは恭文君の中に居る。うん、憑依出来たの。
なので・・・髪は現代的にボリュームを持たせた七:三分けになり、青い瞳に黒いフレームのメガネをかけ、髪に青いメッシュが入っていたりする。
その状態で・・・ナンパしまくってます。で、凄まじい勢いで成功している。
というか・・・どうして?
「・・・いや、本当にどうしてか分からないんですけど。なんで恭文に憑けるんですかっ!?」
「というか、亀ちゃんばっかりズルいっ! 僕もやりたいー!!」
「つか亀の字、お前・・・良太郎に憑いた時よりイキイキしとるで?」
「もしかして、なぎさんの天然フラグメイカー属性に、関係あるんですか?」
一気に感想をぶつけてきたのは、エリオ君と着ぐるみ姿のリュウタロスとキンタロスにキャロちゃん。
邪魔だからという事で、後ろから様子だけは見ていたんだけど・・・。
でも、本当になんで憑依出来てるのっ!? おかしいよねそれっ!!
「嫌だなぁ、良太郎忘れちゃったの?
前に刑事で聞き込みしてた時、先輩が間違えて別の人に憑いちゃった事があったじゃないのさ」
そう言えば、あったね。それに、ウラタロスも・・・。
「そういうこと」
「でも、なんで恭文なの? 普通に良太郎に憑けばいいのに」
「・・・分かってないね、リュウタ。僕が今憑いてるのは、誰でもない恭文なんだよ?」
そう言いながらウラタロスは、メガネを右手の中指で正しながら、僕達の周りをぐるりと歩きつつ、話を続ける。
「噂に名高い天然ジゴロの力を借りれば、いつもよりいい感じだと思ってね。ほら、現に六課って、彼に釣られた女の子ばかりだったし」
・・・ゴメン、恭文君。それ・・・僕もちょっと思ってた。
だって、ギンガさんもそうだけど、スバルちゃんやティアナちゃんも、友達ではあるけど、やたらと距離近いし・・・。
「・・・恭文、本当にフェイトお姉ちゃんが本命だよね?」
「・・・そのはずなんやけどなぁ」
まぁ、この話題はやめようか。うん、つらいし。
「とにかくそれで、ナンパですか」
「キャロちゃん、それは違うよ? これは・・・『情報収集』。現に聞き込みはちゃんとしてるでしょ?」
いや、それはそうだけど。情報もなんだかんだでかなり集まってるし・・・。
あの、なんて言うか、怖いよ。あまりに上手くいきすぎてて。
「でも、女の子だけって言うのは・・・」
「エリオも分かってないなぁ。女の子は噂好きなんだよ? 男1000人に聞くより、女の子一人を釣り上げた方が、遥かに効率がいいんだよ。
これ、刑事としての聞き込みの基本ね。聞き込みは、釣りに始まり、釣りに終わるんだよ」
いや、それワケわかんないからっ! というか、どんな理屈でどんな基本っ!?
≪・・・まぁ、いいじゃないですか。一つ確定した事がありますし≫
「だね」
「アルトアイゼン、確定したことって、なにかな?」
≪やはり今回、イマジン達はらしくない動き方をしているということですよ≫
・・・やっぱり、そうだよね。こう、おかしいもの。
「少なくとも、ここ最近のはぐれイマジンに有りがちな、単純で単独な動き方じゃないね。前に戻っちゃった感じだよ」
「亀の字とアルトアイゼンの見立てやと・・・やっぱ、居るっちゅうことやな? 親玉が」
「多分ね。さて、どうやって釣り上げようか。ま・・・簡単には、尻尾を出さないと思うけどさ。とりあえず・・・」
とりあえず?
「あ、そこのあなた。僕と一緒に・・・次元の海の広さについて、語り合いませんか?」
ま、またナンパなのー!?
「「だからっ! ナンパしてんじゃ無いわよこのバカ亀っ!!」」
「・・・・・・え?」
ドガバキゴスっ!!
「ハナさん・・・それに、ティアさんもっ!!」
「二人ともいつの間に・・・」
「やっぱりこうなると思ってたわっ! ほら、帰るわよっ!!」
「つか、とっととソイツの身体から出なさいよっ! 本当に一体なにやってんのこのバカっ!!」
そうして、恭文君は・・・というかウラタロスは、ハナさんとティアナちゃんに引きずられて、どこかへと去っていった。
・・・どうしようか、これ。
「とりあえず・・・僕達だけで聞き込み?」
「・・・そうだね、そうしようか。ギンガさんも、もうそろそろ来れるって言ってたし」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・というわけで。
「いや、なにがというわけなのっ!?
・・・あ、なんだか僕、良太郎みたいだよ。良太郎も最近これ多いし」
「「いや、アンタが原因だから」」
「そうですね。・・・で、これとかそれはハナさんとティアナですよ?」
僕は、ニッコリ笑って顔に貼ってある絆創膏や、額の包帯を指で指し示す。そう、二人に叩き伏せられた時に出来た傷を。
「「・・・ゴメン」」
・・・身体が痛い。打ち身の痛みとかじゃない。明らかに攻撃受けた痛みだし。
つか、アザ出来てたしアザっ! どんだけ強い力で攻撃してたのっ!? つか、良太郎さんはあのツッコミを何度も受けて、どうして平気だったんだよっ!!
「・・・ヤスフミ、大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫」
・・・あぁ、フェイトの優しさが心に染みるよ。心配させちゃったのは、心苦しいけど。
いや、憑依されたのは、いい経験だった。つか・・・モモタロスさんとかも憑依出来るよね、これ。
≪・・・幸せな人ですね≫
どういう意味だよ。
「・・・つか、ティアナちゃん」
「あ、はい」
「この亀、さっきもそうだけど、過去でもナンパしまくってたのよね?」
「・・・私とスバルもされました」
らしい。スバルが興奮気味に話してたし。
「アンタ、本当に異世界に来てまでナンパしてんじゃないわよっ!!」
「いや、ハナさん。そうは言うけど、ここって美人の女の子多いんだよ?」
「知らないわよそんなのっ! このバカっ!!」
・・・ウラタロスさんとハナさんは気にしない事とする。・・・つかさ、鳩尾痛いんですけど。あと、鼻っ柱も。
フェイト以外の誰もそこに触れてくれないって言うのは、どういうこと?
「・・・ではこれより・・・あの、いいですか? そろそろシリアス必要やないかと思うんですよ」
「「あ、はい。すみません」」
・・・あなたもそうだよね。いや、進行を邪魔するのもアレだから、口には出さないけど。
「・・・では、イマジン対策に関しての会議を始めます」
そう告げて、場をシリアスモードに持っていったのは、はやて。
そう、ここは六課隊舎の会議室。これから少しだけ、関係者で経過報告も含めた会議です。
ただ、全員じゃない。ギンガさんとエリオとキャロは、引き続き聞き込み。
あと、良太郎さんにキンタロスさんとリュウタ(着ぐるみ着用)もだね。
ま、外に出るのも大事だけど、中でこういうのをしっかりやるのも、必要ってことで。
「それじゃあ、シャーリー」
「はい。・・・まず、探知関係ですね」
そう、イマジンはこちらのサーチャーや探知系統のものに一切引っ掛からない。なので、シャーリーにヒロさんがアレコレ考えてくれていた。
「すみません、現在、何の対策らしい対策も取れていません。どうやっても、こちらのレーダーに引っ掛からなくて・・・」
・・・ということらしい。それが相当悔しいのか、シャーリーの表情がいささか重い。というか、オーラが暗い。
「いや、これはもうシャーリーちゃんのせいじゃないよ。連中、私らの技術の枠を越えちゃってるんだもの。
何にしても、モモタンの鼻が頼りだね。頼むよ」
「おう、任せろっ!!」
「・・・それで、次にイマジンの能力だな」
浮かび上がる空間パネルに映し出されたのは、今まで遭遇したイマジン達。
タコにウサギにコウモリ、オオカミ・・・カメレオンか。
「スバル、ティアナ」
「「はい」」
不意に二人に声をかけたのは、シグナムさんだった。そのままシグナムさんは、言葉を続ける。
「お前達は実際に交戦して、どう感じた」
その言葉に乗っかるように、みんなも二人に視線を送る。当然、そこは疑問だからだ。・・・というか、ちょっと待って。
「あの、シグナムさん」
「なんだ」
「・・・いや、僕には聞かないんですか? 僕だってやり合いましたよ、二回も」
そうすると、シグナムさんが少し困ったような顔になった。いや、なんでよ。
「お前は・・・まぁ、アレだからいいだろう」
「ちょっとっ!?」
「・・・手強くはありましたね」
え、ティアナも無視ってひどくないっ!?
「私とスバルだけで、一度逃がしましたし。特殊能力も厄介です。炎は吐くし姿は消すし」
「その上、やたらと身体能力も高くてタフで・・・。あれは強化魔法を使っているベルカの騎士や魔導師と同等・・・いえ、それ以上です」
・・・そういや、仮面ライダーって、パンチ力やキック力が10『t』とか、ジャンプ力30『M』とか書いてるしね。単位おかしいもの。
当然、敵役の怪人・・・イマジンも、それくらいってわけだ。
うん、やっぱ強敵だ。油断していい相手じゃない。
「でも、アレくらいなら、なんとかなりますっ! みんな居ますしっ!!」
「・・・そうか」
「・・・あー、スバル。ただ油断はするなよ。今まで出てきたの、雑魚クラスだしよ」
「え・・・?」
師匠がそう言った瞬間、スバルの表情が固まる。そして、ティアナの表情も驚きへと変わった。
「アタシが電王見てる印象だとそんな感じなんですけど・・・それで、大丈夫ですよね?」
師匠が、モモタロスさん達を見ながら聞く。そして・・・頷いた。
「そうなんですかっ!?」
「・・・だな。アレくらいはまだ序の口だ。もっと強えのなんざ、ゴロゴロいるぜ」
「一体と思ったら、実は二体に分裂出来たり・・・とかだね。良太郎と僕達でも、総掛かりで無いと勝てない奴らもいる」
やっぱりか。うん、なんとなくそうじゃないかと思った。でも、そうすると・・・。
「・・・つまり、モモタロスの言うように、まだ序の口ってわけね」
「そうだよ。なんにしても、油断せずに・・・だね。冷静に行こうか」
もちろん、そういうのが出てこないのが一番いい。でも・・・無理な相談かも。
こうなって来ると、うちのエース達の出番が欲しいとこなんだけどなぁ。電王や僕達だけでなんともならなかったら・・・。
「はやて、やっぱりそこは・・・」
≪難しそうですか?≫
「うん、かなりな。うちら、なんだかんだで地上から目付けられとるし。ホンマ、協力すると言いながらこれで、申し訳ないんですが・・・」
まぁ、ここは仕方ない。やれる人間で、やれる事をやるしか無いんだから。うん、頑張ろう。
そうすると・・・だよね。
「ヒロさん、サリさん。アレ・・・まだかかります?」
「アレ? ・・・あぁ、アレか」
気付いたヒロさんの言葉に頷く。そう、アレなのだ。
実はヒロさん達が六課に来てから、リーゼフォームの他に、もう一つ作っていた物がある。それが『アレ』だ。
「悪い、もうちょいかかりそうだ。完成間近だけど、何しろギミックがふくざ・・・おいおいっ! まさか使うつもりかっ!!」
「そのまさかです」
「やっさん、お前本気かっ!? いくらなんでもぶっつけ本番過ぎだろっ!!」
でも、僕は頷く。そう、本気だと。その気持ちを伝えるように。
「今までと大分勝手が違うことも分かってます。ぶっつけ本番の出たとこ勝負なのも分かっています。でも、必要になるかもしれないんで」
≪・・・確かに、そうかもしれませんね≫
あんまこういうのに頼りっぱなしってのもアレだけどさ。でも、それでも・・・足りないよりはマシだ。
相手はイマジン。まだ向こうは手札をほとんど出していない。そして、絶対に遅れは取れない。
・・・守りたいのよ。今ってやつを。大好きな人達と居る時間を。思い出して意味のある過去を。進んでいきたい未来を。
そしてなにより、大切な女の子の笑顔を、幸せを。
そのために僕は、魔導師になったんだから。負けられないし、負けたくない。
「・・・分かった。急いで仕上げる。大方出来上がってはいるんだし、すぐに実戦使用は可能なはずだよ」
「ヒロっ!!」
「大丈夫だって。・・・ぶっつけ本番っつっても、元々使用訓練はしてるようなもんなんだし」
「・・・あーもうっ! 分かったよっ!!
でも、使用にはこっちで制限・・・つか、一つ条件を付けさせてもらうぞ」
・・・条件?
「当然だ。いくらなんでも、今の段階でやっさんとアルトアイゼンだけでのフルスペック使用は絶対に認められない。それでいいな?」
「・・・構いません、それでお願いします」
うん、充分だ。アイディア出してから、念入りに練習もしてるし。あとは・・・勢いだっ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・うん、僕達は引き続き、遅れてやってきたギンガさんと、聞き込みの最中です。でも、えっと、あの・・・ですね。
あぁ、どうツッコめばいいのこれっ!?
「ん、どないした坊主」
パオーンッ!!
「エリオ、どこか具合悪いの?」
ガオーッ!!
「いや、そういうことではなくてですね・・・。なんですかその着ぐるみっ!!
なんでキンタロスさん象っ!? なんでリュウタロスさん竜・・・ってそのままですしっ! もうなにがなんだか分かりませんよっ!!」
「ごめん・・・。やっぱりビックリするよね」
そう言ったのは、どこか申し訳無さげな良太郎さん。・・・えぇ、かなりビックリしました。普通に着ぐるみ着てくるとは、思わなかったんです。
「エリオ君、今さらだよ。というか、キンタロスさん達がそのまま歩いたら、大変な事になっちゃうよ?」
「仕方ないだろっ!? 今さらだけど気になったんだからっ! というか、どうしてキャロはそんなに冷静なのっ!!」
「だって、着ぐるみ可愛いから。ね、フリード」
「きゅくるー♪」
あぁ・・・なんだかキャロの性格が、恭文と関わってからどんどん強く・・・。というかギンガさん、これいいんですか?
「でも、キャロの言うように着ぐるみ無しはNGだから・・・」
「それは・・・その、そうですよね・・・」
でも、シュールだよ? うん、絵がすごく。
想像してみて? 制服姿のギンガさんに僕とキャロにフリード。私服の良太郎さん。そこに身長170から80くらいの象と竜の着ぐるみを来た人。
正直、これを端から見て『聞き込みに来た人達』と見抜くのは、不可能だと思う。
「まぁ、そこはともかくや・・・」
ともかくで片付けるんですかっ!?
「良太郎、熊ちゃん。やっぱり手がかりつかめないね」
「そうやな。・・・つか、アイツらのことやから、もうちょい分かりやすい動き方してる思うたんやけど」
「これ、なぎ君から聞いたんですけど・・・『悪の組織』・・・とかですよね」
「そうそう、それっ!!」
イマジンって、本当になんなんだろう。納豆をぶちまけたって言うのを聞いてから思ってたけど、僕、よく分かんないよ。
というか、悪の組織って・・・。どこからそんな発想が出てくるんだろ。
「実は・・・前に一回、そういうイマジンが居たんだ。勝てる悪の組織を作りたいとか言って、人間の犯罪者とかと手を組んだり・・・」
「実際あったんですかっ!?」
なんだろう、勝ったらそれは既に悪の組織でもなんでもないと思う僕は、間違ってるのかな?
「悪の組織・・・。やっぱり、幼稚園バスとか襲ったりするんですか?
あと、石油コンビナートを爆破しようとしたりとか、ツッコミ所満載の装置で都市に大地震や大災害を起こそうとしたり、人を催眠術で操ったり」
キャロ分かるのっ!? そこを分かっちゃうんだっ! というか、ツッコミ所満載の装置ってなにっ!!
「あー、それは無かったな。・・・でも、嬢ちゃん詳しいな。それ、明らかに嬢ちゃんの世代の悪の組織ちゃうやろ」
「サリエルさんが持っているディスクで見せてもらいました」
「・・・そう言えば、あの方もなぎ君と同じでその手のが好きだったわよね」
「はい。それで、RXは名作だって、語り合っちゃいました」
「キュクキュクー!!」
キャロ、語り合えるほど知識あるのっ!?
「もちろん、私も全話見た上で」
「キュクルー♪」
というか、いつの間にっ!!
「・・・エリオ、ツッコんでばっかで疲れない?」
「リュウタロスさん、気にしないでください・・・」
なんでだろう。僕・・・こういう役回り多いような。
「でも、それなら全然悪の組織じゃないですね」
「・・・キャロちゃん、意外とキツいね」
良太郎さんがどこか感心・・・いや、呆れているように呟く。でも、僕も同意見だったり。意外と言うか、最近だけど。
「でもな、国会議事堂言う丁度・・・こっちで言う所のアレを襲おうとしてたんやで」
そう言って、着ぐるみ姿のキンタロスさんが指を指したのは・・・ミッド地上管理局の、中央本部。
・・・って、スカリエッティ一味と同じっ!? それ、大規模テロ事件じゃないですかっ!!
「・・・それなら、悪の組織ですね。納得しました」
「キャロ、あなたそれで納得出来るのっ!?」
僕もギンガさんも、当然ビックリする。だって、ツッコむところが違うと思うから。
でも、これで終わりじゃなかった。
「でも、秘密結社ではありませんね」
ごめんキャロっ! 僕には全く違いが分からないんだけどっ!! うん、僕だけじゃなくてギンガさんもだよっ! 頭抱え出したしっ!!
「・・・嬢ちゃん、詳しい上にこだわるなぁ」
「良太郎、僕・・・よく分かんない」
「うん、無理ないよ。というか、キャロちゃんの世代じゃないよね・・・」
「問題はありません。名作は、時代を越えますから」
「きゅくるー♪」
・・・僕、最近・・・キャロが分からなくなってきてるよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・時刻はお昼時。会議も終わって、皆でお食事。
先行したアイツとフェイトさんにリイン曹長、それにモモタロスとナンパ亀にハナさん以外は、お昼を食べてからまた聞き込みというスケジュール。
うん、ここはいい。今の問題は・・・どうしてか食堂は、妙な緊張感に包まれている。原因は、あの二人。
あの二人というのは、ヴィヴィオとデカ長。
二人が着席している丸いテーブルに、山のようなチャーハンがデーンと、ナオミさんの手によって置かれた。
そして、その山頂部には日の丸の旗。ちょうどアレよ。お子さまランチとかで立ってるやつよ。
・・・というか、普通に解説してる場合じゃないっ! いったいなんなのっ!? この空気はっ!!
「それではっ! デカ長とヴィヴィオちゃんのチャーハン対決を開始しますっ!!」
『チャーハン対決っ!?』
私とシグナム副隊長とスバルの声が、綺麗にハモった。え、待ってっ! なんなのそれっ!?
「それでは・・・始めっ!!」
カーンっ!!
「行きます・・・!!」
「どうぞ」
ナオミさんが鳴らしたゴングと共にヴィヴィオが、山盛りのチャーハンの山の端をスプーンですくって、口に入れる。
「・・・美味しいっ!!」
「ありがとう〜。そう言ってもらえると嬉しいよ」
・・・ナオミさんが作ったんですね。そして、次に、デカ長が同じようにスプーンをチャーハンの山に・・・って、もう何度も言ってるけど、これはなにっ!?
「・・・まさか、実際に見れるなんて」
「だな。・・・悪い。アタシ、泣くかも」
「ヴィータ副隊長っ!?」
「あの、お願いだからなのはさんも目元を押さえないでくださいっ!!」
お願いだから誰かちゃんと説明してよっ! 私達電王を見ていない組は、本気で訳が分かんないのよっ!!
「あぁ、ごめんごめん。・・・アレは、デカ長のチャーハンの食べ方の一つだよ。というか・・・スポーツって言ってるよね」
「だな」
「・・・どういうことだ?」
「デカ長ってのは、あの旗を倒さないようにして、チャーハンを食べるんだよ。丁度、砂場崩しみたいにしてな」
私達の疑問に答えてくれたのは、なのはさんとヴィータ副隊長だった。なんでも、それで旗が倒れたら、食事が終了というルールらしい。
「で、それを今はヴィヴィオとやっているってわけだ。チャーハンを交互に食べていって、自分が食べた番で旗が倒れたら負け・・・というルールでな」
な、なるほど。だからあんなに・・・真剣過ぎないっ!? ヴィヴィオもデカ長も燃え過ぎよっ! こう、背中から炎がっ!!
「デカ長、自分に勝ったら、デンライナーの無期限のチケットあげるって言ってくれてね。だからだよ」
「・・・ヴィヴィオ、いつの間にそんな約束をしたんですか」
「つか、アイツのチケットを共有すれば済む話じゃ・・・」
そしてその間にも、激戦は続く。というか、炎が熱い。食堂の温度が、思いっきり上がってる感じがする。というか・・・汗が出始めてるし。
「つか、ヴィヴィオはともかく、デカ長までなんであんなにマジなんだよ」
「・・・なんでだろう? スポーツだからかな」
・・・デカ長の理由は、なのはさん達にもよく分からないらしい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・もうお昼だね」
「そうですね」
キャロに、ミッドに詳しくない良太郎さんとキンタロスさん達を任せて、私はエリオ君と二人で聞き込み。
・・・うん、悪の組織の話で意気投合し始めてるから、いいかなと。でも、私達はよく分からないの。
私は・・・一応、捜査官だから、こういうのはお手のものだしね。優秀なアシスタントも居るし。
とにかく、そろそろ合流しようと踵を返し、元来た道を戻る。
すると、数百メートルほど歩くと、あるものが目についた。というか、人。
茶色の髪に黒い革ジャンにジーンズを身につけた10代後半の男性。そう、私はあの人に見覚えがある。
それは、先日フェイトさんとの聞き込み中に出会った、スーパーに行く途中で道に迷っていた、あの男性だった。
でも、昨日と髪の毛の長さが違うけど・・・エクステかなにかよね。最近、男の人もしてる人多いっていうし。
「・・・お知り合いですか?」
「うん、ちょっとね」
その人は、両腕を組み、真剣な表情であるものを見ている。
・・・看板だ。その人は、ある施設の前に立っていた。
それは、プラネタリウム。入るべきか、入らざるべきか、悩んでいるようだった。
というか、昨日と雰囲気が全然違う。うん、すごく集中して考え込んでいる感じ。
だから、声をかけようか迷った。邪魔をしても悪いから。でも、あの人の後ろに、影を見つける。
それが、後ろポケットに入れていた財布へと手が伸び・・・って、スリっ!?
「・・・お前、なにしてやがる」
私達がそれを見て止めようと動き出したした時だった。勝負は、一瞬で終わった。
あの人が組んでいた腕をほどいて、財布に伸びようとしていた手を、ひねりあげる。それはもう見事に。
「痛ぇ痛ぇっ! くそ、離せっ!!」
「俺の質問に答えたらな。・・・で、なにしてんだ」
「なにもして」
「スリ・・・ですよね」
二人の視線が、そう言いながら近づく私達にぶつかる。あ、なんだか驚いてる。
「時空管理局の者です。しっかり見せていただきましたよ。・・・スリの現行犯で逮捕します」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・マズイ。いや、財布が無事だったのはいい。でも、よりにもよってまたこの女かっ!?
今日は相方っぽいのは・・・無しか。いや、代わりに赤毛のちっちゃいのがいるが。
つか、こんな子どもも局員ってやつかよ。どうなってんだ、こっちの世界は。学校とか就労規制とかよ。
あー、そこはいいよな。とにかく今は、何とかして逃げないと・・・。
「・・・でも、よく気付きましたね」
「すごいです。あの犯人、完全に気配を消していたのに」
「ま、まぁな」
犯人を警ら職員ってのに引き渡して、ようやく辺りが落ち着くと、女と子どもがそう話しかけてきた。
ヤバい、なんか二人の視線が微妙だ。
「あの、あなた・・・」
「いやっ! なんでもないからっ!!」
・・・俺のバカっ! この反応のどこがなんでもないんだっ!? 明らかに不審者じゃねぇかっ!!
「と、とにかく・・・俺はこれでっ!!」
そうして180度振り返り、全力で逃げるっ!!
「待ってください」
・・・いや、待て。コイツなにもんだっ!? 俺の右手を即座に掴みやがったしっ!!
「・・・どうして逃げようとするんですか?」
「いや、逃げようとは」
「しましたよね?」
頼むから、そんなに真っ直ぐに俺を見るな。つか、顔近いんだよっ!!
あー、クソっ! アイツ置いてきたのがしっぱ・・・あれ?
あー、俺の気のせいか? 麦わら帽子かぶったそれっぽいのが、今電柱の影に見えたんだが。
・・・それっぽいじゃねぇっ! 思いっきりそうじゃねぇかっ!! アイツ、またあんな下手くそな変装で、なにしてんだっ!?
ん・・・ジェスチャーしてるな。
・・・うと・・・がんばれ・・・だぁっ!?
「頑張れるかこのバカっ! つーかなにをどう頑張れってんだっ!!」
ともだ・・ち・・・つくり・・・だぁっ!? アホかアイツっ! やっぱりここに来た目的を理解してねぇっ!!
「あなたいきなりなんですかっ!?」
「うっさいお前じゃないっ! いいからこの手を・・・おいっ!? なにすんだ離せっ!!」
そうして、俺はどんどん引きずられ始めた。おい、こいつなんでこんな力強いんだよっ! おかしいだろうがっ!!
「・・・少しお話を聞かせていただきます」
「はぁっ!?」
「いいですね?」
女が、なぜかニッコリ笑って言い放った。うん、もちろん俺の返事はこうだ。
「よくねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
くそっ! なんでこうなんだっ!? 俺は野上じゃねぇってのにっ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「はっくしゅんっ!!」
「・・・良太郎さん、大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫。風邪・・・かな?」
「・・・良太郎さーんっ!!」
「なぎさんっ! フェイトさんにリインさんもっ!!」
声のした方を向くと、恭文君達が走ってきた。・・・うん、リインちゃんは大分慣れた。
「悪い、待たせたな。いやー、会議ってのもつまんねぇかと思ったら、意外と楽しいよな」
ワオーンッ!!
「そうだね。やっぱり刑事って、捜査会議のシーンとかないと、ちょっと締まらないよね。現場に出るだけが、刑事の仕事ってわけじゃないし」
きゅくー!!
「・・・ゴメン、良太郎」
「・・・ハナさん、なんでいきなり謝るの?」
「私ね、ちょっと感動した。そして気付いた。私達には、こういうのが足りなかったんだってっ!!」
「いや、だから・・・ハナさん? 一体何に気付いたのっ! というか、どこを見てるのっ!?」
・・・うん、もう答えなくていいよ。なんとなく分かったから。
「わぁ・・・。二人とも着ぐるみ可愛いですっ!!」
「きゅくー♪」
そう、モモタロスとウラタロスも着ぐるみ着用。モモタロスは狼で、ウラタロスはペンギンだね。
「・・・でもでも、モモタロスさん」
「あ、なんだ?」
「リイン、スバルとティアナから聞いたですけど、モモタロスさん・・・犬がダメですよね?」
そう、モモタロスは本当に犬がだめ。ぬいぐるみや置物もダメ。まぁ・・・スバルちゃんはもう平気みたいだけど。
そこまで考えて、リインちゃんが何を言いたいか分かった。そう、つまり・・・。
「どうして犬嫌いの桃の字が狼の着ぐるみかっちゅうことやな」
「そうですそうですっ!!」
「あ、それ僕も不思議だったっ! ね、モモタロス。どうしてっ!?」
「はぁ? お前らなに言ってんだ。狼と犬は別もんだろうが。なんで怖がる必要があんだよ」
さも当然のように言い切ったのは、可愛い狼さん。その言葉に、僕を含めたみんなは、言葉を無くす。
「えっと、モモタロスさん的には、違うんですね。こう・・・何かが。悪の組織と秘密結社くらいに」
「いや、キャロちゃん。それも違うから」
「そうだな、それくらい違うな」
そうなのっ!? え、もしかして相当開きがあるのこの二つっ!!
「つかよ・・・全然違うじゃねぇか。目付きとかだって、狼の方がワイルドだしよ。ホラホラっ!!」
・・・ごめん、モモタロス。僕分かんない。てか、そのデフォルメ顔な狼の着ぐるみ着て『ワイルド』って言っても・・・。
「・・・モモタロスさん、だからザフィーラも平気だったんですね」
「ザフィーラさん、狼だしね・・・」
≪本人が聞いたら、きっと喜びますよ≫
「犬とかワンちゃんって言われるの、ちょっと気にしてますから・・・」
恭文君とフェイトさん達は納得したみたい。うん、僕達はまだアレだけど。
「まぁ、先輩のよく分からない思考は、潮の流れに流すとして」
「おい、よく分からないってのはどういう意味だよ?」
「いや、当然でしょ。もう何が何だかサッパリだし。ヒラメとカレイだって、もうちょい見分けつくよ」
「・・・いや、それは分かりやすいですから。左ヒラメで右カレイですし」
・・・よし、話を進めよう。うん、じゃないと・・・。
「サッパリってどういうことだっ!? こんなに分かりやすいじゃねぇかよっ!!」
「そんなのが分かるのは先輩だけだって言ってんのっ! どうしてそれが分からないかなっ!?」
あぁ、やっぱりケンカし出したしっ!!
「あぁぁ、もうお願いだからや」
「やめなさいっ!!」
にらみ合い始めた二人の腹部に、鉄拳が入る。
「「あうっ!?」」
そして、その一撃で二人が崩れ落ちた。それを放ったのは・・・ハナさんだった。
「くだらないことでケンカすんじゃないわよっ! このバカっ!!」
「「す・・・すみません」」
とにかく・・・ハナさんのおかげで二人が止まった所で、話を進めよう。うん、しっかりとね。
「・・・って、進めるもなにもまた聞き込みだよね」
「それもそうだね。聞き込みは刑事の基本だし」
「あ、執務官や捜査官も、聞き込みは基本だからね? そういうのの積み重ねで、事件は解決へ前進していくから」
「・・・フェイト、それは分かるけど、一体どこ見て喋ってるの。というか、カメラ近い近いっ!!」
≪それ以前に、なぜ対抗しようとしてるんですか・・・≫
どうやら、この世界でも聞き込みは本当に基本で、大事なことらしい。フェイトさんの力強い言葉で、僕達はそれを再認識した。
「うっしゃっ! とにかくここからバッチリと決めて行こうぜっ!!」
『おー!!』
「・・・いえ、その必要は無いかも知れません」
そう唐突に口にしたのは、キャロちゃんだった。
「キャロ、どういうことかな?」
「アレ・・・見てください」
そうして、キャロちゃんが指差した先を僕達が見ると、ハイウェイ・・・僕達の世界で言う所の高速道路のような物の上に、一台のバスが走っていた。
いや、なぜか止まっていた。ハイウェイなのに。
で、そのバスを取り囲む・・・ように、金色の兵隊っぽいの。それが、沢山。
えっと、アレは・・・。
≪・・・幼稚園のバス・・・ですか?≫
「動きを見るに・・・襲撃されてるですね」
「アレ、どこの○ョッカー団員?」
「わ、私に聞かれてもわからないよっ!!」
とにかく・・・アレだよね、うん。
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・一体どうしたんですか?」
「なにがだよ」
「まるで、昨日と別人みたいです」
・・・私はこの人を、近所の公園まで引っ張ってきた。エリオ君には、飲み物を買いに行ってもらっている。
敷地としてはそこそこの大きさの公園で、子ども達が仲良く走り回る。うーん、制服を着た子が多いなぁ。もしかして、遠足とか?
とにかく、あの人をベンチに座らせて、少しお話。・・・悪い人ではないのは、昨日ので分かったしね。でも・・・ちょっと気になる。
「・・・気のせいだ」
「気のせいじゃありません。声の感じからして違いますし」
一瞬、心の引っ掛かるものがあったけど、気にせず進めることにする。
「つか・・・アンタ、仕事しなくていいのか」
「大丈夫です」
私は、ニッコリとその人に笑顔を向けて、言葉を続ける。
・・・笑顔は人の心を溶かす。どういうわけか、警戒されてるみたいだし、ここは慎重に・・・だよね。
「こうやって、市民と交流していくのも、管理局局員の努めですから」
「・・・俺はここの市民になった覚えはないがな」
・・・うーん、やっぱり昨日と違う。本当に別人みたい。でも、まだまだ。
「・・・ということは、あなたは旅行か何かでミッドに?」
「ま、そんなとこだ。・・・つい最近まで、こんなとこがあるなんて知らなかったけどな」
「そうだったんですか。どうです? ミッドは気に入りそうですか?」
「とりあえず・・・飯は美味いな」
「なら、良かったです。・・・あ、そうだ」
私はそこで思い出す。とても大事な事を。
「星・・・好きなんですか?」
「はぁ? なんだよ、いきなり」
「だってさっき、プラネタリウムの前で・・・」
すると、その人の顔が一気に赤くなり、私から思いっきり目を逸らす。
「・・・別にっ!!」
「そうですか。・・・私は好きですよ、星。私・・・名前がギンガなんです」
私がそう言うと、あの人がこちらを向いた。瞳に、興味深そうな色を蓄えながら。
「・・・『銀河』か?」
「はい、そうですっ!!」
ビンゴっ! やっぱり、星が好きなんだっ!!
「だから、小さい頃から、星・・・好きで、よく見上げてました」
「そうか。・・・つか、珍しい名前だな」
「母さんが付けてくれたんです。・・・私の大事な、宝物の一つです」
私という存在を示す、私だけの名前。母さんからもらった、大切な宝物。
「それで、あの・・・」
「なんだ」
「改めて・・・私、ギンガです。ギンガ・ナカジマ。陸士108部隊で、捜査官をしています。
良ければ、あなたの名前・・・教えていただけますか?」
「言わなかったか?」
「聞いていません」
「仕方ねぇな。・・・俺の名前は」
その時だった。子どもの叫び声・・・というか、悲鳴が聞こえてきた。そして、その声がした方から、沢山の人が逃げてくる。
・・・もしかしてっ!!
「すみません、私・・・行かないとっ!!」
「おいっ!!」
「あなたはすぐにここから離れてくださいっ! いいですねっ!?」
あの人にそれだけ言うと、私は悲鳴のした方へ駆け出した。そして、通信を繋ぐ。
「もしもし、なぎ君っ! 今どこっ!?」
『ギンガさんっ!? いや、ちょうど通信・・・かけようとっ! したところ・・・だったのよっ!!』
あれ? なんだか・・・ちょっとおかしい。というか・・・あれ? なんだか皆暴れてるような・・・。
というか、なぎ君や変身した良太郎さんにウラタロスさん達と取っ組み合いしてるあの金色でピックみたいなのを持ってるのって・・・なに?
『イマジンが幼稚園バス狙いで出てきたのよっ! それもわんさかっ!!』
「そっちもっ!?」
じゃあ、アレもイマジンっ!? うそ、同時に、しかもあんなに沢山出てくるなんてっ!!
『・・・え? そっちもって・・・まさか』
「こっちも・・・みたい」
『・・・ギンガさん。すぐそっちに行くから、座標教えて』
「あの、大丈夫だから」
『ダメっ! ギンガさんまだ本調子じゃないでしょうがっ!! シングルでもエリオとのコンビでも、イマジン相手は危険過ぎるっ!!』
・・・確かに、そうだ。私・・・まだちゃんと本格戦闘出来るか分からない。でも・・・なぎ君、もう遅いかも。
『なんでっ!!』
「・・・イマジン、もう目の前に居るから」
そう、もう居た。金色の鎧に身を包み、右手に蚊爪、左手にロッドを携えているイマジンが。
そいつは、幼稚園児を追い回し、威嚇し、恐怖で蹂躙していた。・・・もう、やるしかない。
「ギンガさんっ!!」
私の後ろから聞こえたのは、聞き覚えのある声。・・・そうだ、この子も居た。
「遅くなってすみませんっ!!」
「ううん、グッドタイミングだよ」
私は、隣まで走ってきたエリオ君に声をかける。・・・ちょっとキツいかも知れないけど、このまま放置なんて出来ない。
・・・覚悟、決めよう。
「・・・僕が前に出ます。ギンガさんは下がっててください」
「でも」
「お願いします。ここでギンガさんをケガさせちゃったら、恭文とスバルさん達に申し訳が立たないですから」
「・・・分かった」
そして、エリオ君は自分の相棒を取り出して、構えた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・俺、参上っ!!」
【モモタロスっ! そこはいいから急いでっ!!】
「あー、そうだったな。・・・行くぜ行くぜ行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
そうして、ようやくモモタロスさんが変身を終えて、こちらに飛び込んできた。
それを横目で見ながら、左に居た一体の腹に中段蹴りを入れる。それで、そいつは後ろにのけ反る。
で、もう一体・・・僕の右横からピックを上から打ち込んできた。
それをアルトで受け止め・・・いや、左にかわして、横に回り込む。そうしてから空きな右側面に、アルトを左から打ち込むっ!!
それも、僕の剣撃に吹き飛ばされるようにして、後ろに下がった。でも・・・。
≪コイツら、どこのショッ○ーですか≫
「つーか、なにが目的だよおいっ!!」
現在、ハイウェイ上・・・。僕達全員、そこで幼稚園バスを守るために暴れてます。
いや、キャロがこっちに居て良かったよ。フリードに良太郎さん達を乗せて、一発で到着出来たし。
でも・・・これだけ派手にやられたら、もうイマジンのこと、隠せないかも。とりあえずそこは、心の中で『リンディさん達、ガンバ』と、応援することにした。
で、現実問題に思考を戻す。確かコイツら・・・レオソルジャーだっけか? ということは、ギンガさんとエリオがエンゲージしたライオン型の刺客?
「しかしさ・・・。なんでいきなりこうなるんだろうねっ!!」
ウラタロスさんが、両柄が六角形の刃になっているロッドで、レオソルジャーの一体を斬りながら、そう口にした。
「間違いなく、なぎさんの運のせいですっ!!」
≪相変わらず、訳の分からないカード引きますよね≫
「ちょっとっ!?」
それも酷くないっ!? いくらなんでもここまでのカードは引かないよっ!!
「なるほど・・・。良太郎と同じく天文学的とっ!!
・・・って、ちょいタンマタンマっ! ちょっと多過ぎだってっ!!」
そう言ったバチが当たったのか、ウラタロスさんに三体の兵隊が同時に襲いかかる。
その襲って来た三体の攻撃を、ロッドで捌きながら、受け止めながら、後ろに下がる。
これは・・・。
「リインっ!!」
僕は、上に向かって声を上げる。声の届く先は、でっかくなったフリードに乗るキャロの横。
サイズ的にこの乱戦への参加は危険が大きいパートナーに対して。
「はいですっ! ・・・フリーレン・フェッセルンっ!!」
上空に居たリインが右手をウラタロスとやりあってた奴らにかざす。すると、地面を円のように水が走り、三体を取り囲む。
そして・・・次の瞬間、そいつらを飲み込んだ氷山が出来上がった。
「どんなもんですっ!!」
「はぁ・・・大したもんだね。可愛い小魚にもトゲはあり・・・ってとこ?」
「リインはトゲなんてないですっ! 糖分多めですよっ!?」
「・・・あぁ、彼に対してはね」
・・・あっちは気にしない。
「・・・エリオ・・・ギンガ・・・!」
ワンサカ居る金色の兵隊を、ハーケンフォームのバルディッシュで斬り裂きながら、フェイトが呟く。
正直、こっちはなんとかなりそうだけど、向こうは・・・!!
「・・・キャロっ!!」
「大丈夫っ! なぎさんとフェイトさんは、エリオ君達の所へっ!!」
目の前でピックを右から打ち込んできた金色の兵隊。そのピックを後ろに下がり、回避する。
「リュウタっ! そういうわけだから、後頼めるっ!?」
「うん、任せてっ!!」
リュウタが、僕の言葉にそう答えながら、踊るようなステップで、金色の兵隊のピックを下がって避ける。
そして、飛び込みながら、右足で回し蹴りを入れるっ!!
「こっちはえぇから、はよ姉ちゃん達のとこ、行ったりっ!!」
キンタロスさんも、二体の首根っこを掴んで振り回しながら、そう言ってくれた。・・・うん、ありがたいよ。
とにかく僕は・・・道を開くっ!!
「・・・鉄輝っ!」
後ろに何回か飛び、10数メートル下がる。すると、僕が今まで相手をしていた三体が一斉に襲いかかろうと近寄ってくる。
でも、遅い。もう・・・刃は打ち上がっている。僕は、そのまま踏み込んだ。
「一閃っ!!」
踏み込んで、左からアルトを打ち込み、横一文字で三体を同時に一閃っ! 青い一筋の閃光が、一気に金色の壁を斬り裂くっ!!
そうして目の前で起きる爆発。金色の兵隊は、跡形も無く吹き飛んだ。うし、これで手近なのは排除・・・っと。
「フェイトっ! 行くよっ!!」
「うんっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
エリオ君は、一瞬でバリアジャケットを身に纏い、カートリッジを2発ロード。
ストラーダのメインブースターに火が点り、そのまま・・・突撃っ!
「はぁぁぁっ!!」
勢いを生かして、ストラーダを打ち込むっ!!
辺りの空気を振るわせるような衝撃と音が響く。
だけど・・・エリオ君の斬撃は、イマジンの左手のロッドで受け止められた。
それでも、エリオ君はぐいぐい押し込むけど・・・押しきれないっ!!
「・・・ふんっ!!」
イマジンがロッドを振るうと、エリオ君はそのまま飛ばされた。でも、体制を空中で立て直す。
重量差が有る? それでも、エリオ君の斬撃を、あんな簡単に・・・。
「・・・ストラーダっ! フォルムドライっ!!」
エリオ君は、着地と同時にストラーダの形を変える。あれは・・・魔法戦仕様っ!!
でも、そこにイマジンが走り込んでくる。
「・・・ふんっ!!」
エリオ君の頭上から振るわれるのは、右手の大きなカギ爪。
空気を斬り裂くような音を立てながら襲ってくるそれを、エリオ君は左に飛んで避ける。
「エリオ君っ!!」
「大丈夫ですっ!!」
まだ、ライオンイマジンの攻撃は続く。何度も近づき、ロッドを振るい、カギ爪を振るい、エリオ君を追い立てる。
でも、エリオ君はそれに一発も当たらない。全てを的確に避けていく。
「くそっ! ちょこまかとっ!!」
エリオ君は、自身のスピードを生かした回避行動で、イマジンを振り回す。そう、まさにガードウィングとしての動き。
でも・・・パワーでは、圧倒的にあちらが上。普通の攻撃は効かない。
現に、これまで一度もエリオ君は、ストラーダでイマジンの攻撃を受け止めるような真似はしていない。
・・・気付いてるからだ。自分では、アレは受け止められないと。そうした瞬間に、押し潰される。
でも、このままじゃ終わらない。だから、エリオ君は動いた。ううん、動いていた。
イマジンが飛び込みながら左手のロッドを横一文字に振るう。それをエリオ君は、大きく後ろに飛んでかわす。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
イマジンは、当然追いかける。だから、そこを狙った。エリオ君の回りに、いくつもの雷の槍が生まれる。その数4・・・って、アレはっ!!
そう、私は見覚えがある。あの魔法は・・・。
「プラズマランサー・・・ファイアっ!!」
エリオ君がそう命じると、四つの槍はイマジン目掛けて飛び・・・着弾した。そこを中心に、爆煙が生まれる。
というか、フェイトさんの魔法・・・いつの間に覚えてたんだろ。
でも、まだ終わりじゃなかった。
爆煙の中から、イマジンが飛び出してきたから。それも、その姿は先ほどと何一つ様子は変わらず。
つまり・・・ノーダメっ!?
「こんなもの、効かんわっ!!」
そう叫びながら、イマジンが速度を上げ走り込む。その突撃は、たちまち数十メートルあったエリオ君との距離を詰める。
そして、右手のカギ爪を全力で振るう。・・・エリオ君を葬るために。
「・・・なら」
その爪は、虚しく空を切る。そして、イマジンの後ろに気配。
「これなら・・・どうですかっ!?」
イマジンが、それに即座に反応。振り返るようにしながら、左のロッドを振るい、生まれた気配を潰そうとする。
でも、それじゃあ遅かった。ロッドは先ほどの爪と同じく空を切った。
「サンダァァァァ・・・!」
イマジンの頭上より上に飛んだ騎士の槍から、カートリッジが排出される。そして、槍の穂先から電気が走る。
それをそのまま・・・落下の勢いに乗せて、イマジンに打ち込むっ!!
「レイジっ!!」
イマジンは、それを右手で受け止める。多分、弾き返せると思ったから。でも、無理だった。
槍と爪が触れ合った瞬間、雷撃が二人の居る空間に走る。それが、イマジンの身体を貫くっ!!
そして、先程よりも激しい爆発が起きた。
・・・そしてエリオ君は、その爆煙の中から飛び出した。というより、打ち付けた後に後ろに飛び退いた。
「エリオ君、大丈夫っ!?」
「大丈夫ですっ!! ・・・でも」
・・・でも?
「向こうも、それは同じくみたいです」
エリオ君は、そう言いながらイマジンの居た場所から目を離さない。
そして・・・出てきた。今までと変わらない様子の、金色の獅子が。
うそ・・・。あれも効かないなんて。
「・・・やるな。少しは効いたぞ」
「なら、よかったです。さすがにこれで無傷は、少しヘコみますから」
そう言って、エリオ君は構える。まだ、戦いは続いているから。
「ほう、まだやる気か。・・・無駄だ。お前の攻撃は俺には効かん」
「なら、効く攻撃をするだけです。・・・ストラーダ、フォルム・ツヴァイ」
そして、ストラーダがまた姿を変える。各所に噴射口を付けた形に。
「諦めの悪い奴だ」
「・・・男の子ですから。ギンガさんみたいな綺麗で素敵な人を守るのは、当然でしょ?」
イマジンも、私も、驚き・・・いや、疑問の表情を浮かべる。だって、エリオ君の言ってることが、理解出来なかったから。
というか、綺麗って・・・えぇっ!?
「・・・僕の知ってる騎士なら、そう言いながら、ヘラヘラと笑いながら、ふざけてるように感じるくらいに軽く返します。
そして、諦めません。守るべきものが・・・いえ、自分が守りたいと思うものが背中にあるなら、絶対に」
心なしか、エリオ君のストラーダを握る手に更に力がこもったように見えた。
そんな時だった。背中に気配が生まれた。
というか・・・私の身体は縛られた。どこからか現れた、緑色の触手に。
「ギンガさんっ!?」
「おっと、動くなよ。・・・動けば、ズドンだ」
そう言って出てきたのは、私を縛る触手の大元・・・緑色で、右手に銃を持った、テンガロンハットを被ったようにも見える怪物だった。
まさか、もう一体居たなんて・・・。それに、油断した。
「く・・・!」
「さぁ、大人しく武器を捨ててもらおうか。さもなくば・・・」
「その必要は無いぞ」
そう声がした。それで、その場に居た全員の動きが止まる。
その瞬間、緑色のイマジンが撃たれた。それも何発も。そのせいか、私を縛り上げた触手の力が緩んだ。・・・これなら。
私は、あらん限りの力で・・・触手を身体から引き剥がす。そうして、なんとか脱出に成功した。
「大丈夫かっ!?」
「は、はい。なんと・・・えっ!?」
そう言いながら私達の前に出てきたのは、こう・・・黒い装束の武者っぽいイマジンだった。
顔がこう、鳥っぽくて、両手の指が銃口みたいに・・・。
あ、もしかしてこれで? でも、同じイマジンなのにどうして・・・。
「気にしないで。ほら、道案内してくれたお礼もしたかったですから」
お礼? え、でも道案内って・・・えぇっ!?
「・・・あの時、俺の中にはそいつが・・・デネブが居たんだよ」
そして、また現れた。ただし今度はイマジンじゃない。人。それも、私の知っている人が。
「お前とあの金髪の髪の長い姉ちゃんは、正確には俺じゃなくて、デネブを案内してたってわけだ」
「そういうことです・・・。ごめんなさい、黙ってて」
「バカっ! そんなの当たり前だろうがっ!!」
そう、先程まで話していた人だった。というか、どうしてここにっ!? 逃げるように言ったのにっ!!
「話は後だ。・・・全く、見てられないな。いつからイマジンは、こんなセコいやり方をするようになったんだ?」
この人、イマジンのことを知ってるのっ!? というか、イマジン達の反応が・・・!!
「お前・・・ゼロノス」
「・・・やはり居たのか」
そう、イマジン達はこの人の事を知っていた。というか、ゼロノスって・・・。
「あなた・・・。一体・・・何者なのっ!? それに、ゼロノスって・・・!!」
「バカ、言っただろうが。話は後だってな。デネブ、お前はその女を頼む」
「いや、でも・・・」
「いいな?」
「・・・分かった」
そう言って、あの人は緑色のイマジンの前へと、立ち塞がる。そして、どこからともなくベルトが現れ、それを左手で持つ。
黒のカラーリングに、緑と黄色のラインが入ったベルト。それを自分の腰に巻く。
右手でベルトのホルダーからあるものを取り出す。
それは、ベルトと同じく黒のカラーリングに・・・片面に赤。もう片面に黄色のラインが入ったカード。
そして、あの人が左手でベルトを操作すると、笛の音のような音楽が聞こえ始めた。
「変身」
そう言ってあの人は、カードをベルトに差し込んだ。
≪Change and up≫
次の瞬間、あの人の姿が変わった。
黒いスーツが装着されたかと思うと、身体の各所にアーマーが装着されていく。
まるで・・・錆びているようにも見える赤いアーマーが。
動きやすく、軽快なイメージを与えるそれは、本当に防具としての機能があるのか、つい疑わしくなってしまう。
そして最後に、顔の部分の金色の二つのレールから『何か』が現れるように走り、変形したかと思うと、昆虫のようなイメージの仮面に変わった。
これ・・・良太郎さん達と同じっ!? もしかしてこの人・・・!!
「・・・最初に言っておくっ!!」
良太郎さん達の・・・電王の関係者っ!?
「俺はかーなーりっ! 強いっ!!」
「ついでに言っておくっ! ミッドチルダのみんな、野上達だけじゃなくて、侑斗もよろしくっ!!」
「バカっ! なに言ってんだっ!!」
(第5話に続く)
『というわけで、次回予告だよ』
「櫻井、侑斗だ」
「・・・久しぶりだな」
「てめぇ・・・! 生きてやがったのかっ!!」
「お前達、俺様の仲間になれ」
【でも、大切なものって・・・】
第6話 『ネガって切れた、運命の鎖』
「あの・・・あなた」
「・・・このままじゃすまさない。絶対に」
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