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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース03 『ギンガ・ナカジマとの場合 その3』



・・・とにかく、夕飯である。今日も今日とて和食。





どうやら、ナカジマ家では日ごろから和食の割合が高いらしい。ご先祖様の影響かね?





で、僕は肉じゃが用のジャガイモを剥きながら、ギンガさんとお話である。










「・・・イギリスっ!? それって、地球の国のひとつだよねっ!!」

「うん」



ギンガさんの言葉にうなづきつつ、事情を説明する。フィアッセさんに、スクールの在校生が出演するコンサートに招待されたこと。

そして・・・どういうわけかこれまで一度も会ったことの無いギンガさんに興味があるらしいこと。



「・・・なぎ君、それはだめだよ」



にんじんの皮をピーラーで剥きつついきなり否定の言葉で答えるのは、その問題のギンガさん。

まぁ、ここは予想してた。理由もわかる。



「ギンガさんが気にしているのは、六課の仕事のことでしょ? で、あと・・・」

「そうだよ。今、これから先のこと考えていかなきゃいけない時なんだから・・・」



ようするに、そんな余裕があるのかと言いたいのですよ。AAA試験のこととかも含めて。

ところがどっこい、その辺りは解決済みである。



「まず、六課には即刻連絡した。で、納得させた」

「そうなのっ!?」

「うん。・・・ほら、ヒロさんとサリさんが出向してくることになったから。僕も今までみたいに常駐・・・って感じじゃなくてよくなったの」



ギンガさんが納得した表情に変わる。当然、ギンガさんも二人の実力は知っている。

僕が六課に来たのって、ようするにいざという時の戦力だしね。ヒロさん達は僕なんぞよりずっと強いし、経験も豊富。いざというときは僕より確実に役に立つ。・・・そう考えると、ちょっと悔しい。



「で、コンサートの方も・・・よく分からないんだけど、今悩んでることに対してのヒントがあるって言われた。だから・・・ね、行ってみたいなと」

「そっか・・・。でも、それならどうして私も?」

「それもよく分からないんだよ。ただ、ギンガさんのことも話したら、ぜひ来て欲しいって言われただけで」



まぁ、フィアッセさんの言うことだから何か意味があるとは思う。でも、なんでギンガさん?

・・・あ、ジャガイモの芽取らないと。うんしょっと。



「ね、どうかな? クリステラ・ソング・スクールの歌はすごいよ〜。生の歌声をタダで聴けるなんて、滅多にないもの」

「うーん・・・」



ギンガさん、悩みつつピーラーを動かす。というより、手を動かす。それに、意外と器用な印象を受ける。

あー、でもここでギンガさんを連れて行くのは問題か。



「ギンガさん、やっぱ戸惑う?」

「そう・・・だね。少し」

「そりゃそうか。恋人でもなんでもない男と二人っきりで異国の地を旅行するわけだし」



ジャガイモの芽を取り終えたので、乱切りにしつつそんな事を言う。視線は当然ジャガイモ。

だから、気がつかなかった。



「ギンガさん、嫁入り前の女の子だしね。さすがにそれは問題か。ゲンヤさんだって許すわけが」

「・・・いく」




ギンガさんに、少しばかりの変化が起こったことに。




「・・・・・・・・・・・・へ?」

「だから、行く。その・・・私は大丈夫。仕事も都合つけるよ。せっかく誘っていただいたわけだし、断るのも失礼だと思うから」

「あの、ギンガさん? ちょっとまって。さすがにそれは」





・・・手を止めて、ギンガさんを見る。顔、近かった。




頬を赤く染めて、何かを決意したような瞳で、僕を見つめていた。その瞳に射抜かれた瞬間、僕はもうなにも言えなくなった。





「・・・なぎ君、いいよね?」

「うん・・・。分かった、フィアッセさんにはそう伝えておく」















こうして、無事に二人で異国の地を旅することが決まった。





・・・僕、フェイトのフラグ立てずになにやってんだろ。




















魔法少女リリカルなのはStrikreS


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先のこと


ケース03 『ギンガ・ナカジマとの場合 その3』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・即答、しちゃった。





あの、本当はダメって思ってた。なぎ君がイギリスに行くのも、私が・・・行くのも。





でも、なぎ君と本当にプライベートで二人っきりで居られると思った瞬間、答えが出てた。





イギリスに、なぎ君と二人で行きたい・・・そう、出てた。





・・・やっぱり、そうなのかな。





ううん、もう嘘つけないよ。私、知ってる。





なぎ君を見ている時に感じてた不安も、寂しさも、とても大きな幸せも・・・全部ひとつの感情に繋がってる。





好きなんだ。なぎ君のことが・・・友達じゃなくて、男の子として。





私きっと、あの時から恋してる。私より背が小さくて、細くて、いつも無茶ばかりして、周りの人たちに心配かけてて・・・。





でも、誰よりも強くて、優しくて、真っ直ぐな男の子の事が・・・好きなんだ。





だから、放っておけなかった。どこかで違う場所に居て、諦めてる部分を感じてたから。それがすごくさびしくて、悲しかったから。





だから、側に居て欲しかった。それだけで・・・本当にそれだけで嬉しかったから。それだけで私、心が満たされたから。





・・・私、嫌な女の子だね。自分の感情、ずっとなぎ君に押し付けてた。今だってそうだよ、私の勝手な感情でなぎ君を振り回して、独り占めして・・・。





でも、ごめん。





どうしても止まらないの。止められないの。





どうしよう、私・・・ダメだよ。





だって、なぎ君には・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・そうして数日後、私達はイギリスの地を踏んでいた。





なお、父さんの反対は無かった。どういうわけか無かった。





でも、泣いていた。そして母さんの遺影に向かって、手を合わせて嬉しそうに報告していた。・・・ちょっとだけカチンと来たので、翌日の朝食のおかずはメザシ一匹だけにしてしまったのは、絶対に罪じゃない。





そうして、今私達は何をしているかと言うと・・・。










「・・・なぎ君」

「なに?」

「フィッシュアンドチップスって、美味しいね」





冬のイギリスの街を、ゆっくりとなぎ君と二人で歩いていた。・・・ご先祖様が生まれた世界。初めて来た。街並みがミッドとかとは違うけど、それが楽しくて、嬉しくて・・・なんだか不思議な感覚。

事前情報で調べたら、イギリスはご飯が美味しくないって書いてたんだけど・・・そんなことない。これ美味しいよ。

初めて触れる異文化な空気を楽しみつつ、ソースをかけたフィッシュをもう一口。・・・うん、美味しい。試しにそのまま食べた時は本当に味付けもなにも無かったけど、ソースをかけたらバッチリだよ。



私が口の中に広がる幸せを満喫していると、なぎ君が少しクスっと笑った。それで、一気に体温が上昇する。

わ、私・・・なにか変なこと言ったかなっ!? あ、もしかしておかしいことしたとかっ!!





「ギンガさん、僕と同じ事言ってる」

「そうなの?」

「うん、僕も同じこと思った。・・・あ、ひとつもらうね」




なぎ君が、私の持っている容器に手を伸ばして、チップスを取る。その時私の指になぎ君の指が触れて、その感触に心臓が高鳴る。

ほんの一瞬・・・甘くて、身体の芯がとろけそうな感覚。あれ・・・私、おかしい。



最近、変なことばかり考えてる。その、なぎ君とハグした時の事とか思い出して、それでもっと触って欲しいなとか考えて・・・。





「僕も初めてここに来た時にね、同じようにフィッシュアンドチップス食べて、同じ感想言った」

「・・・そっか」

「うん」



それがなんだか嬉くて、頬が緩むのが分かる。気持ち、共有し合ってるのかな・・・。



「ね、それってあの警護の時だよね」

「そうだよ」



歩きながら、さっき感じた甘い感覚をかき消すように私はまた一口フィッシュを食べる。・・・ちょっと消えた。でも、それが少し寂しかったり。



「あれが初めての海外旅行でさ、もうすっごく楽しかった。それでね・・・思ったんだ」



チップスを食べながら、なぎ君がどこか楽しげに、遠いどこかを見る。



「いつか・・・先生みたいにあっちこっち旅してみたいなーって。旅をして、色んな物を見て、色んな物に触れて・・・」



・・・私の嫌いな瞳。どこかへ本当に行っちゃいそうな予感を感じさせる空気。また、なぎ君はそんな瞳と空気を出している。



「まぁ、僕の夢のひとつ? 実現するのはたぶん先生と同じくらい生きてからだろうけどさ」



なぎ君のこういう部分を見る度に私・・・泣きたくなる。ずっと側に居られないのが苦しくて・・・悲しくて・・・。

気持ちを自覚してからは特にそう。でも・・・。



「・・・そうだね。それまでは、魔導師としての仕事をがんばらないとダメだよ」

「なぜいきなりそんな話に・・・」

「そんな話をしたかったの」



でも、縛れない。そんなことしても、なぎ君笑ってくれない。きっと、辛そうな顔ばかりで、後悔ばかり積み重なって・・・。



「・・・ね、なぎ君」

「うん?」

「やっぱり・・・局の魔導師としては、戦えそうもない?」



風が吹く。その切り裂くような冷たさが頬をすり抜け、私の憂鬱な気持ちを少しだけ吹き飛ばす。

そしてなぎ君は・・・うなづいた。申し訳なさそうな色を顔に出して。



「あのね、局を信じてなんて言うつもりない。ただ・・・私達は信じてくれないかな」

「あー、そういうのもあるけど、それだけじゃないの。なんだかね・・・目指す所とは違うのかなと。前にも言ったけど、僕の意地とか・・・偉そうだけど理想とか? そういうの通せる場所じゃないのかなって」

「なら、なぎ君の目指すところってなに?」

「・・・最悪で最強」



・・・・・・え?



「ほら、前に話したじゃない? 法律無視上等で悪党を潰していく警備会社」

「・・・えっと、香港国際警防隊・・・だったかな。なのはさんの親戚も居るっていう」

「そそ」





あの話、よく覚えてる。チンク達も衝撃だったみたい。



香港国際警防隊。通称警防。なぎ君の話だと・・・法を守るために法を破り、悪を潰すために自ら悪を貫く。

極端なまでの実力主義。でも、それ故にこちらの世界でも指折りの実力者が集まっている、最強であるがために最悪と恐れられる法の番人。



・・・うん、驚いた。なぎ君が知る限りの活動内容も聞かせてもらったけど、そこまで過激な行動を取る部隊は管理局には無いもの。

法を守るために自らが法を守る。悪を潰したいなら、正義でなければならない。それが防衛組織ではどこの世界でも共通の認識だと思ってたから。





「これまでの事とか、その中での自分の感情とか考えたらさ、やっぱりそこかなと。実際、警防は銃器訓練で何度かお世話になったけど、居心地良かったしね」

「・・・そっか」



やっぱり、道が違うのかな。寂しくて、悲しいけど・・・仕方のないことなんだよね。

私となぎ君は、きっと違うから。あの、人を殺したからとか、戦闘機人だからとかそういう話じゃない。・・・とにかく、違うの。



「ただ・・・」



・・・ただ?



「『あの組手』は怖いの・・・! 射抜はやめて・・・死んじゃうから・・・!!」

「な、なぎ君っ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「そう言えばミサト」

「なに? ・・・というより、普通に私のデスクに来てコーヒーを飲むのはどうなのかしら」

「気にしちゃダメですよ。ほら、あの男の子どうしてます?」



・・・あの男の子?



「キョウヤやミユキと一緒によくこっちに来ていた子よ。えっと・・・小さくて、栗色の髪で、日本刀使いの」

「あぁ、蒼凪恭文君?」

「そうそうっ! 最近見ないなーと思いまして」



そう言えばここ2年くらいはね。ただ、別に病気とかではないし、怪我してどこか悪くしているというわけでもない。



「あの子、今はちょっと海外の方で剣術修行も兼ねて暮らしているらしいの。それで、そこの仕事も結構忙しいみたいだから・・・」

「あぁ、なるほど」



ただ・・・おかしいのよね。美由希にどこで暮らしているのか聞いても、はぐらかされるのよ。それも苦い顔されて。なにか隠している感じがひしひしとするのは気のせいかしら。

まぁ、いいわね。あの子は決して悪い子ではないから、いかがわしい事とかは・・・ないはずよ。えぇ、たぶんね。



「・・・ミサト、どうして殺気出すね?」

「気のせいよ」










えぇ、気のせいよ。・・・あの子が美由希を現地妻3号にしてるとかどうこうなんて、きっと気のせいなのよ。





だって、10歳差よ? どうしてそうなるのか聞きたいわ。・・・訂正、聞いたわ。そして泣いたわ。お願いだから考え直してとも言ったわ。でも、あの子は顔を赤らめて嬉しそうにしているだけで、全然話にならない。

だから・・・つい・・・ね。










「・・・でもミサト。お願いだから『美由希を現地妻にするだけの器量があるかどうか確かめる』とか言って、組手は止めた方がいいですよ。しかも神速や射抜まで使って」

「加減はしているわ。それに、あの子だって楽しそうじゃない」

「まぁ・・・私達の目から見ても真性バトルマニアですしね。でも、それ途中からね。最初の方はマジで怖がってるね」



気のせいよ。それに、私としてはあの程度じゃ足りない。もっと徹底的に行きたい。だって、3号よ? 最低でも1号と2号が居るってことよ?

もし本気で私の娘をそういう地位にしたいなら、神速や射抜くらいはサクっと避けて欲しいわね。



「私・・・ね、昔のアレコレを含めたとしても、そこは母親としてキレてもいいと思うの。えぇ、心から思うの。・・・なにか間違ってるかしら」

「・・・間違っては無いと思うね。ただミサト、コーヒーカップが揺れてるね。コーヒー零れてしまうよ。その前に取っ手が砕けるから力抜くといいね。というより、私が怖いよっ!!」





気のせいよ。お願いだからそんな怯えた表情をしないで。

・・・とにかく、私は高ぶった心を落ち着けるためにコーヒーを一口。うん、苦いわ。ブラックだからだけど。



あ、そうそう。確認することがあったわね。





「ところで例の件だけど」

「言われた通り、クリステラ・ソング・スクールには報告しておきました。きっと向こうの担当者は今頃大騒ぎね」

「・・・そう。でも、申し訳ないけどあちらの事はあちらでなんとかしてもらうしかないわね。こっちは現在手が離せないもの」

「そうね、年末年始だからみんな大忙しね。・・・表も、裏も」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・なぎ君、大丈夫?」

「う、うん・・・なんとか」



なぎ君、すぐに元に戻ってくれた。ちょっと顔色悪いけど。でも・・・何があったの? なんだか『シンソクは見切れないから。イヌキからの波状なんて避けられないから・・・』って、うわごとの様につぶやいてたけど。



「と、とにかく・・・何の話だっけ?」

「警防の人達みたいになりたいって話してた」

「・・・あぁ、そうだった」



よっぽど嫌な思い出があるのかな。なんだか汗がダラダラと・・・。



「でもね、なぎ君。それはきっと・・・いろんなものを無くすと思うな。少なくとも、局の体制に関わる人間からは、理解されないと思う」

「・・・ギンガさんも?」

「そう・・・だね。正直、なぎ君にそんな道は進んで欲しくない」



また、二人で歩を進める。少しずつだけど、目的地に近づきながら。



「それは、正しいことではないよ。あの、もちろんだから局や局員である私達が正しい・・・なんて言うつもりはないよ? でも、きっと違う」

「そうだね、正しくない。でも・・・」



それでも、きっとなぎ君はこう言う。



「正しくなくて、いいや」



・・・と。



「僕は、正しくありたいんじゃないもの。守りたいもの、守れればいいから。・・・それが出来るなら、僕は正しくなくていい。正義でなくていい」

「・・・最強で、最悪?」

「だね」










・・・私、どうしようかな。





道はきっと違う。私もなぎ君も、見ているものが、通したい事が違うから。





でもね、嫌なんだ。




わがままなの、傲慢なのは分かってる。でも・・・居たいよ。





なぎ君の側に居たい。側に、居て欲しいよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そんな話をしつつ、僕達はようやく到着した。そう、クリステラ・ソング・スクールに。





クリステラ・ソング・スクール。イギリスにあるこの音楽学校は、生徒は常時10人前後。多くて20人程と生徒数こそ少なめだけど、その全てにフィアッセさんを筆頭に現役の実力派シンガーがその技術と魂を教えていく。





まぁ、いわゆる英才教育ってやつ? とにかく、そうしてこのスクールから羽ばたいた生徒達は、みな例外なく優秀なシンガーとして、世界に名を残すのである。





えっと・・・有名どころで言うとアイリーン・ノアさんとか、SEENA・・・椎名ゆうひさんとかかな。あ、そう言えばゆうひさんも来るってフィアッセさんが言ってたな。

・・・よし、覚悟はしておくか。色々と弱み握られてるし。うぅ、さざなみ寮メンバー怖いよー!!





とにかく、僕達はスクールの玄関を抜け、やたらとデカイ中庭も抜け、建物へと足を・・・あれ?










「・・・久しぶりだな」



入ろうとした僕達を待っていたのは、金色の髪のポニーテールで、白いスーツの着こなしがとっても似合っている女性。

そう、この人は・・・。



「エリスさんっ!!」



そう、7年前の一件で知り合ったエリスさん。このスクールの警備を主立って担当している人である。

まてまて、ということはもしかして・・・。



「当然、今度のコンサートも私が警備の担当者だ」

「納得しました」



エリスさんが、僕の隣のギンガさんを見る。すると、ギンガさんがぺこりとお辞儀。



「・・・ほう、君もそういう年頃か。まさか彼女連れで来るとは思わなかった」

「違いますよ。ギンガさんはただの友達です」





茶化すように言うエリスさんに、一応ツッコむ。・・・僕はフェイトが本命だし。あと、ギンガさんも好きな人とか居るかも知れないんだから、あんまりそういうことは言わないで欲しい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



友達・・・か。





そうだよね、私はなぎ君にとって・・・友達、なんだよね。





うん、知ってたよ。知ってた。でも・・・でもね。





やっぱり、傷つくよ。




























◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「そうなのか?」

「そうですよ。僕、本命居ますし」

「・・・なるほどな。とにかく、案内するからついてきてくれ。フィアッセがお待ちかねだ」










エリスさんに案内されつつ、スクールの様子をちょこっと見てみる。





コンサート間近なのか、全体に活気が溢れている。生徒の人達もみんな楽しそうだし・・・いや、いいことだよ。










「・・・なんだか、すごいですね。あの、こう活気があるというか、気合が入っているというか」



ギンガさんが関心したように呟く。どうやら驚いているらしい。

それも当然だよね、だって・・・僕もちょっと驚いている。



「今回のコンサートは在校生のみ出演だしな。そういうのもあるのだろう」

「実際に舞台を踏んで、そこで歌うわけですしね・・・」



そりゃ気合も入るってもんさ。だって、夢へ近づく一歩になるのは間違いないんだから。



「それは関係各社も同じだ。・・・未来の歌姫達を見ておこうと、取材や現役関係者もたくさん見に来る予定だ。なかなかに盛況になるのは間違いない」

「そうですか。・・・よかったです」



なんだか・・・嬉しいな。うん、嬉しい。



「そう思ってくれるか?」

「はい。・・・あの時守りたかったもの、ちゃんと続いていってるんだなと、ちょっと思いました」

「・・・そうだな、続いていく。なにせ、あのフィアッセが校長だからな」

「それもそうですね。簡単に終わるわけがない」










なんて話していると・・・校長室に到着した。





でも、久しぶりだなぁ。うぅ、元気してるかな?










「失礼します」










エリスさんがノックをした後にそこのドアを開ける。そのまま入っていくので、僕達も続く。




すると、中に居た。




ブロンドと金の混じった髪をポニーテールにして、青いセーターに白いストールを纏い、首から十字架のアクセサリーをつけている女性が。





そして、その女性はそのまま僕達の方へと嬉しそうに駆け出し・・・。





こけた。




















「・・・って、こけてないよっ!!」



なんか地の文にツッコまれたっ!?



「恭文くんっ!!」



そして、そのままその人は僕に抱きつく。うん、飛び込む感じで抱きつく。

・・・少し恥ずかしいけど、僕も抱き返す。やっぱり、フェイトとはまた違った意味で特別だから。自然とそうなってしまう。そうして腕や服越しに身体に伝わるのは、変わらない柔らかい感触と温もり。



「・・・久しぶり。元気そうでよかったよ」

「あの、フィアッセさん・・・お久しぶりです」



そう、この人がフィアッセ・クリステラさん。このスクールの校長で、現役シンガー。通称『光の歌姫』。

そして、僕の年の離れた友達兼理解者で・・・婚約者。まぁ、子どもの頃の約束だけどさ。



「・・・あの、えっと」

「あぁ、気にしないでくれ。フィアッセは少々子どもな所があってな。彼だけでなく、男女問わず誰にでもあぁなんだ」



エリスさん、ナイスフォローッ! 僕、ちょっと今やばい感じしてたしっ!!



「えっと・・・もしかしてあなたがギンガちゃん?」



フィアッセさんが、一旦僕から身体を離して、ギンガさんの方を見る。・・・両肩にフィアッセさんの手がかかってるのは、気にしない方向で行く。



「あ、はい。ギンガ・ナカジマです。初めまして」

「初めまして。えっと、聞いてると思うけど私がこのスクールの校長のフィアッセ・クリステラです。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」





・・・互いにお辞儀して、挨拶し合う二人を見てちょっと思った。



なんか、不思議。本当なら会うはずのない二人だったのに。





≪・・・その原因が何を言ってるんですか≫

「この状況は全て君が引き金だろう。間違いなくな」

≪エリスさん、言っても無駄ですよ。この人基本的に自覚無いんですから≫

「・・・そうだったな。そこも変わらずか」





なにやら失礼なことを言い出した二人はスルーします。





「・・・アルトアイゼンっ!? なにしゃべってるのっ!!」





あ、スルー出来ない人が居た。そう、ギンガさん。





「あ、あの・・・これは違うんですっ! なぎ君最近腹話術にハマってて・・・そうだよねっ!!」

「いや、ハマってないけど」

「ううんっ! 激ハマリだよねっ!? お願いだからそうだって言ってっ!! それが正解なんだよっ!?」



なにやら慌てふためくギンガさんを見て、フィアッセさんが合点が行ったのかくすくすと口元を押さえて笑い出す。



「・・・恭文くん、こうなるって分かってて黙ってたんでしょ? まったく、人が悪いなぁ」

「はて、僕はなんのことやら」

「え? あの・・・」

「えっとギンガちゃん、大丈夫だよ? 私達、知ってるから」



すると、ギンガさんが止まった。そして、額から汗が一滴流れ落ちる。



「あの、知ってるというと・・・」

「あなたの世界のこと。・・・魔法や次元世界、デバイス・・・アルトアイゼンのこともね」

「彼経由で話は聞いているからな」

「えぇぇぇぇぇっ!?」



ギンガさんが若干睨み気味に僕を見たので、頷く。もちろん、知っているという意味で。



「でも、あの時は驚いたなぁ。恭文くんは普通に足首から翼を生やして空を飛んでるし、日本刀・・・アルトアイゼンはお喋りだし。それに・・・ユニゾン・・・だっけ? リインちゃんとひとつになって大暴れしちゃうんだもの」

「・・・未だに信じられなくはあるがな。ただ、あれで色々と分かった。君が鉄火場に年に見合わず慣れている理由がな」



まぁ、色々と・・・ね。よし、この話はやめよう。ギンガさんの視線が居たい・・・もとい、痛い



「とにかく、立ち話もなんだから座って話そうよ。私、すぐに紅茶淹れるから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・フィアッセさんに促されるままに、私達は部屋のソファーに腰を下ろした。





おろした・・・んだけど、なぎ君はなにやらどなたから連絡を受け取ったエリスさんが少し話があるとかで、この場を離れた。もちろん、いただいた紅茶はしっかりと味わった上で。





でも、この紅茶すごく美味しい。なぎ君が淹れてくれたのと同じくらいかな。香りも立っていて、味わいもあって・・・。










「・・・それで、ギンガちゃんは時空管理局・・・で合ってるよね? そこの局員さんって聞いてるんだけど」

「はい、そうです」



なぎ君、そこも話してたんだ。というか、黙ってるなんてヒドイよ。うぅ、私恥ずかしかった。



「まぁ、恭文くんはちょこっといじめっ子だしね。あんまり気にしないほうがいいよ? ・・・基本的に好きな子しかいじめないから」

「えぇぇぇっ!?」



す、好きって・・・私をっ!? あぁ、違うっ! そういう意味じゃないっ!! これはライクじゃなくてラブで・・・逆だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!



「・・・・・・ふーん」



身体が熱い。芯がまた・・・溶けそうになる。

だめ、なんだか涙が・・・!!



「やっぱり・・・好き?」

「・・・え?」

「あのね、私ギンガちゃんの話聞いてて思ったんだ。・・・恭文くんのこと、好きだよね。男の子として」





少しだけ真剣な目でそう言って来たフィアッセさんの言葉に、私は貫かれた。



でも・・・あの・・・えっと・・・。





「それとも・・・ただ友達として?」





・・・やっぱり、私おかしいよ。初対面で、会って1時間も経ってないのに。





「違い、ます」

「じゃあ・・・」

「そうです、私は・・・」










この人にならいいのかなって・・・思ってしまうから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、なにやら会社からの連絡を受け取ったエリスさんに連れられて・・・というか、引っ張り出されて、人気の無い一室へと足を向けた。





そうして、真剣な顔でエリスさんから話された。そして僕は・・・。





崩れ落ち、頭を抱えた。










「・・・大丈夫か?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えぇ、なんとか」



うん、分かってた。このままマトモに行くわけないなとちょっと思ってた。でもさ・・・これはないでしょこれはっ!!



「あー、エリスさん。もう一回確認させてくださいね。・・・狙われてるってのは本当なんですか?」

「間違いないだろう。警防・・・君も知っている御神美沙斗さん経由で来た情報だ」



あぁ、もう確定か。それじゃあどうしようもないよ。



≪しかし、なぜ・・・またコンサートが狙われているんですか≫





そう、僕が聞いた一件というのは実に簡単。今回のコンサート、不埒な連中に狙われているらしい。





「思い当たる節は色々あるが・・・まず、今回のコンサートの収益だが、実は全て寄付される」

「ということは、チャリティー・ツアーと同じってことですか?」

「そうだ」





さて、ここで一応説明しておく。このスクールの定期的な活動として、スクール卒業生と共に最短で半年。最長で1年かけて世界を回り、チャリティーコンサートを行うというものがある。

このコンサートで得られた収益は、世界で恵まれない人達のために使われる。なお、主な使用目的は・・・医療関係の充実。



世界には21世紀になった現在でも、ひとつの現実として存在する。薬や包帯、注射器と言った器具や薬品が圧倒的に不足していたり、果ては病院や医師すら存在しないという町が。

そして、そういう場所に限って紛争地域やら内乱やらで情勢が不安定だったりする。結果・・・人が死んでいく。僕がのんきにあくびをしている間に、何人もだ。



そういう現状を子どもの頃から間近で見ていたフィアッセさんの母親、ティオレ・クリステラさんが健在の頃からこのチャリティー・ツアーは行われており、その莫大な収益金により救われた人達も大勢居る。

そして、それは今も変わらない。母親の志を受け継いだフィアッセさんがその想いを歌声に込めて、世界中に届けている。・・・まぁ、かっこいい言い方をすると、歌声が世界を救っているわけである。

全部じゃないかもしれないけど、両手を伸ばして・・・その一すくいくらいは、きっと。



ただ・・・こういうのを快く思わない奴らも居る。まぁ、音楽関係だけ見てもこういう活動をずっとしていると、スクールに対しての対外的な評判は良くなるしね。仕方ないと言えば仕方ない。



で、今回もその手の連中が何かやろうとしていると・・・。それも、今言ったような表関係じゃない。裏の奴が。





「そうだな。・・・どうもそれらしい奴がイギリスに向かって出立したとも言っていた」

≪そうして襲ってどうするかは・・・考えるまでもありませんね。コンサートを潰しての、スクールへの攻撃≫

「・・・正直、君達は休暇中ではあるわけだし、巻き込みたくは無い。ただ・・・万が一にもキョウヤやミユキクラスが出てきた場合、私達では対処出来るかどうか微妙なんだ」



また弱気な。経験豊富なプロのボディガードとは思えない発言だよ。



「・・・私はあの二人のようなマスタークラスではないからな。悔しいが、そんな意地よりもフィアッセの安全が大事だ」

「・・・納得しました」



さて、こうなってくると・・・やるしかないよね。



「で、僕はそのマスタークラスが出てきた時に相手ってことでいいですね」

「そうだ。だが、本当にいいのか? 聞くところによると、君は今他の仕事先があるのでは」

「問題ありません。だって、僕達休暇使って来てるんですよ? 休みのスケジュールにとやかく口出しされたくありません」



・・・・・・いや、さすがにマズイか? そうするとはやて辺りには話して・・・いやいや、でも話したら絶対に止められ・・・うーん。

まぁ、そこは後でいいか。



「それに・・・変わってませんから。フィアッセさんと、フィアッセさんの歌が好きなのは。ここのスクールの人達だって同じです」



・・・潰させないよ。このスクールの人達の歌声は絶対に。ここの人達の歌声は、いろんな夢や願いが詰まった歌声なんだ。今日見た限りでも、コンサートに自分の未来への願いも込めてる。

だから絶対に守る。何が来ても・・・負けない。



≪エリスさん、任せてください。私もマスターと同じくです。・・・目の前に覆すべき理不尽があるのなら、迷わず、止まらず、躊躇わず、真っ直ぐにそれに向かい、ただ撃ち貫く。それが古き鉄ですから≫

「そういうことです。・・・ここで戦わなきゃ、僕達じゃないですし」

「・・・ありがとう、協力に感謝する」



エリスさんがそう言いながら頭を・・・って、そういうのいいですからっ! 僕は僕の勝手で突っ込むだけなんですしっ!!



「だが、必要なことだ」

「そういうものですか・・・」

「そういうものだ」

「・・・ところで、フィアッセさんはこの事は?」

「当然知らない。私も先ほど連絡をもらったばかりだからな」



まぁ、そりゃそうか。フィアッセさんがこの事知ってて、巻き込むため・・・なんて考えられないし。んなリンディさんや狸みたいなことする人じゃないもん。




≪知っていれば、普通にSOSになっていますよ。いや、言わなかった可能性もあります≫

「そだね。・・・さて、そうすると問題は」

「彼女だな。あの子、ギンガはどうする?」



話さないわけには・・・いかないよなぁ。これで何も言わずに巻き込んで鉄火場でゴタゴタはゴメンだよ。

でも、そうするといくつか問題が出てくる。



≪まず1つ。ギンガさんに今戦闘させるわけにはいきません≫

「そうだね、リハビリ中だもの」





そして2つ目。今回は当然魔法ほとんどNGでの対銃器・・・質量兵器戦闘になる。僕は警防やらヒロさん達との訓練やらでやってたから大丈夫だけど・・・ギンガさんは違うよね。

さすがにブリッツキャリバーで走って殴るわけにもいかないしなぁ。怪我どうこうを含めても戦闘要員としては数えられない。



いや、それ以前に今回の一件は局とはまったく関係ない。僕はともかく、正式な局員であるギンガさんが管理外世界でそんなドンパチを許可無くやったら・・・非常にまずい事になる。僕、ギンガさんの永久就職先にはなれないもの。





「あと・・・僕が戦うことも、きっと納得してくれないよなぁ」

≪絶対に一緒に帰ろうと説得されますね。六課や局の規律の話を持ち出して。これ、またやり合いますよ?≫

「そうだよねぇ・・・」

「・・・彼女、相当なのか?」



僕は疑問顔なエリスさんの言葉に頷く。そう、強情なのだ。それも相当。



「フィアッセさんと下手をすればタメが張れる・・・って言えば、分かります?」

「・・・納得した。それは相当だ」










とにかく・・・どうするかな。





あーもうっ! 事件どうこうよりギンガさんとのお話の方が気が重いっておかしいでしょうがっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・そうして、僕はあてがわれた部屋に入った。コンサートは明後日。それまでここでお世話になる。




荷物を置いてすぐに、僕はベッドに腰かけ、最悪手と思われる手段を踏むことにした。





そう、六課への事情説明だ。はやて辺りに事情を話して、なんとかギンガさんを説得してもらおうという腹である。





『それはマジで最悪手でしょ』・・・とは言うことなかれ。僕だってこんなことやりたくない。

ぶっちゃけ話したくない。休日中のちょっと刺激的な秘密のアバンチュールで済ませたい。怪我もせずになんとか事態を超えて『事件? なにそれ、美味しいの?』的な事を言ってとぼけてしまいたい。

でも、このままギンガさんに話して強制的にミッドに連れ戻される事態だけは、避けたい。万が一を考えると・・・ここに残らない選択肢は存在しない。

ついでに、ギンガさん経由で伝わる可能性もある。いや、ギンガさんの性格と今までの行動パターンを考えるなら、確実に伝わる。フェイトやなのは達に僕を説得してもらうために。場合によっては、ここまで来て強制連行してもらうために。





・・・もうここまで言えばお分かりだろう。六課メンバーに話さないという選択肢は存在しない。ついでに、知られないというルートも存在しない。うぅ、我ながらなぜこんな状況に?





でも、やっぱり・・・だった。最悪手はどこまで言っても最悪手なのですよ。










『・・・よし、アンタは今すぐギンガ連れてミッドに戻って来るんや』

「お断りします」

≪残念でしたね≫





こうして、話し合いは見事決着





『するわけないやろっ! なんなのアンタっ!? なんでいきなりそないなことになっとるんやっ!!
いくらなんでもおかしいやろっ! 普通に考えていきなり魔法無しで銃器でドンパチとかありえんやろっ!!』

「うっさいバカっ! 僕だってビックリし過ぎて当たり前田のクラッカーだよっ!! つーか、そのセリフは僕がイギリスの中心で叫びたいわっ!!」

「いろいろ混じってるやないかっ! マジわけわからんでそれっ!!」

≪すみません、私達もいきなり過ぎて混乱してるんですよ。色々大変でして≫



当然、反対されるわけですよ。そして・・・最悪なことに話を聞いているのは、はやてだけじゃない。



『・・・ヤスフミ、お願いだからすぐに戻って来て』

『もちろん、フィアッセさんが心配なのはわかるよ。私だって、心配。でも、恭文君は今は六課の預かり。こんな勝手許されないよ』



そう、フェイトとなのはも居るのだ。くそ、タイミング見誤った。どうすりゃいいのさこの四面楚歌。



「問題ない。ほら、僕は今、休日よ? ちょっとした刺激的なアバンチュールだって」

『ほな、その休暇今すぐ部隊長権限で終了や。これで勝手は許されんよ?』

「なんなの、その権力の横暴っ!!」

『当たり前やろっ! アンタがどう思おうと六課の一員であることには間違いないっ!! それで管理外世界で無許可でドンパチっ!? 部隊長として許すわけにはいかんわっ!!』





う。た、確かにそこを言われると・・・非常に弱い。



あー、だから部隊なんて入りたくなかったのにー! 嘱託扱いでもこういうことになるって分かってたのに、どうして僕は引き受けちゃったのさっ!!



あー、すみませんすみません。放っておけなかったからです。はい、その通りです。悪いのはぶっちぎりで僕です。はい、知っております。





≪・・・ならばはやてさん。私達が『六課の人間』でなければ、問題無いんですね? 何が起きても、基本無関係ですから≫

『・・・そうなるな』

≪なら、そういう方向ではどうでしょう。戦力的には、そこにヒロさん達が居ます。問題は無いはずです≫



アルトがそう言うと、はやての表情が険しくなった。言いたいことが分かったらしい。

そう、つまり僕達は六課を・・・。



『・・・条件はひとつや。アンタらがうちらを助ける言うたんやから、六課を出ても解散前になんかあったら、絶対助けてもらわんと困る。えぇな?』

「りょーかい。でも・・・いいの?」

『・・・本気のアンタら止められるなんて、うちは最初から思うとらんよ。六課に呼ぶと決めた時から、こういう事態も想定しとった。まぁ・・・一応部隊長としては止めるのが役割やからな。それらしかったやろ?』

「もうバッチリ」



いや、話が通じる友達を持ってよかったよ。これで遠慮なく暴れられる。



「はやて、悪いんだけどギンガさんは・・・」

『うちからも説得する。最悪・・・怪我の事や対質量兵器戦の練度の低さをつついてもな。ただな、恭文』

「なに?」

『アンタ、ギンガのこと傷つけとるよ。こういう無茶する度に、突っ込む度に。それくらいは、自覚持っとかなあかん。それにぶっちゃけ・・・これ、さっき言うた条件守ったとしても、ありえんよ?』

「・・・分かってる」



知ってるよ。そうだって思ってる。間違ってるよね、それでも止まらないってのはさ。



『はやてもヤスフミも待ってっ! どうしていきなりこんな話になるのっ!?』

『そうだよっ! 恭文君が六課を辞めるっ!? スバルやティア・・・みんなにどう説明すればいいのっ!!』



そう、これで納得しない人間も居た。当然、あの二人ですよ。



『ヤスフミ、考え直して。こんなのありえない。絶対におかしいから』

「悪いけど、無理。・・・休日中の出来事って言うのじゃ、処理無理なんでしょ?」

『無理やな。うち、監督不行き届きで叩かれるわ。管理局はあんたの不幸スキルに対応出来るほど、懐広くないもん』



これしかない。六課に迷惑をかけない形で今回の一件に関わるためには。



『ただし、さっき言った通り約束は守ってもらうからな? 例えありえんでも、それくらいは通してもらわんと』

「分かってるよ。幸い隊舎は家から近いし、ちょくちょく遊びに行くから」



・・・覚悟は、決めてたしね。迷わず、止まらず、躊躇わず・・・だよ。



『・・・関わらないで』

「はい?」

『厳しいことを言うようだけど、関わらないで。ヤスフミは嘱託でも六課の・・・局の一員。管理外世界で起きた魔法絡みでもない事件になんて関わらないで。そんな勝手は、今のヤスフミには絶対に許されない』



フェイトがいつになく真剣・・・いや、怒りの表情を向けてくる。まぁ、当然か。僕・・・居場所をないがしろにしてるしね。



「だから六課を辞めるって言ってるんじゃないのさ。そうすりゃ問題無しでしょ」

『大有りだよっ! どうして関わらないって選択が出来ないのっ!? 冷たいかも知れない、間違ってるかも知れないっ! 見捨てるって言われたらその通りだよっ!!
でも、それでも戻るのが正しい選択だって、どうして分からないのっ! ヤスフミは今一人じゃないんだよっ!?』

「それでコンサートが潰れたら?」



だから、見返す。睨むくらいの勢いで。フェイトが少したじろぐ。



『それは・・・』

「仕方の無い事で済ませろと? 局とは関係ない世界の、魔法とは関係ない出来事だから仕方なかった、僕には六課の仕事があるから、どうしようもなかったんだと、死ぬまで言い訳しろと? ・・・出来るわけがないでしょうが。
完全無欠に知らなかったならともかく、僕は知った。そして、今それをなんとか出来るかも知れない位置に居る。力もある。だったら、やることはひとつだよ」

『警備してくれる人達が居るよね? その人達に全部任せて。それでどうにもならなくても、絶対にヤスフミのせいじゃない。誰もヤスフミのせいになんてしたりしない。・・・お願い、私はヤスフミに六課を捨てるような真似、して欲しくない』

「悪いけど、無理」



・・・矛盾してるよね。守るために来たのに、別のもの優先するんだもの。でも・・・さ、ここの歌声が消えたら、後悔する。戻ってきた事をきっとすごく後悔する。

そんなの、嫌なんだよ。絶対に・・・嫌だ。



『恭文君・・・あの、フィアッセさんやスクールの事をそこまで気遣ってくれるのは、昔からの付き合いのある人間としては・・・嬉しいよ?
でも、それと六課の事とは別問題だよっ! お願いだからやめてっ!! 私・・・恭文君に六課を辞めて欲しくないっ!!』

「僕が来る前に戻るだけでしょうが。それに、ヒロさんとサリさんも居る。だったら問題無し」

『違うよっ!!』



なのはが叫ぶ。少し涙目に見えるのは、気のせいじゃない。



『・・・もう、居場所があるんだよ? 恭文君がここに居なきゃいけない理由も、居て欲しいと思っている人達も、たくさん居る。なのに、どうしてそれを捨てるような事・・・するのかな。あのね、納得いかないなら、私達も一緒に背負うから』



・・・だから、なんで泣く。別に何時も通りの暴走行為でしょうが。



『もういつも通りじゃない。もう、今までの恭文君じゃない。だから止めるの。・・・辛いなら寄りかかってくれていい。許せないなら、私達の事を責めてくれたっていい。全部受け入れるから』

「・・・なのは、それ本気?」

『本気だよ。・・・もちろん、私だってフィアッセさんが大事にしているスクールの人達になにかあるのは嫌だ。絶対に嫌だ。でも、だからって恭文君が居場所を捨てていい道理なんてないよ。
お願い、もう少しだけでいいからちゃんと話そうよ。その、局どうこうじゃないの。組織の一員としてどうこうじゃないの。私もフェイトちゃんも、ただ・・・』



・・・なのは。



「言いたいことは、分かってる・・・つもり。別に、僕は六課が嫌いなわけでも、居心地悪いと思ってるわけでもなんでもないから」

『・・・うん、知ってるよ。だから、大切にして欲しいの。ここで戻ることは、きっとそれに繋がるから』

「ごめん、それでも止まれないの。止まるつもりも・・・ない」










そのまま通信を切った。端末の電源も落としておく。





・・・そのまま、ベッドに寝転がる。憂鬱な気持ちを抱えながら。










「アルト」

≪はい≫

「六課って・・・楽しいよね」

≪そうですね、私も居心地がよかったです≫





フェイトになのはにはやて、師匠達が居て、スバル達とも仲良くなって、エリオとキャロともなんとかコミュニケーション取れて・・・。

うん、楽しいよ? 正直・・・ね、辞めたくない。

賭けたくなんて、無い。このまま帰れるなら、帰りたい。



スバル達と訓練したり、師匠とお茶飲んだり、ヴィヴィオと時間空いた時に遊んだり、シグナムさんと派手に組み手して、シャマルさんに怒られたり、なのはを魔王呼ばわりして苛めたり、フェイトと一緒に仕事出来るのが嬉しくてドキドキしたり・・・。

そんななんてことの無い・・・だけど、とても楽しい事、大切な時間、あそこにはたくさんある。あそこに来た時から刻んできた時間だって、僕にとって必要で・・・幸せなもの。

それを捨てる? 絶対に嫌だよ。なのはの言うように、あそこには僕の居場所があるもの。・・・部隊って、こういう所ばっかりだったら、居てもいいかなと、ちょっと思ったりした。



それで、本当に・・・本当に少しだけ、ギンガさんの言いたい事が分かった。僕、こういうのを無意識に諦めていたのかなと。だったら、きっと損してるよね。本当に、損してる。

だってさ、楽しいんだもの。居心地良くて、幸せで・・・大切に思える、大事な場所。



だから、二人の言いたい事は分かるよ。伝わったよ。局がどうとか、六課の一員だからどうとかそういう理屈じゃない。そんな居場所を、出来た繋がりを・・・どうして大事にしないのかと、簡単に捨てるような真似が出来るのかと、言いたかったんだ。

それを守るためにここで戻ることだって、選択。それは絶対に間違ってない。・・・それで何かが無くなっても、きっと仕方の無いことで・・・あぁもう、だからこういうの好きじゃないんだ。

迷って躊躇って、それで後悔して・・・そんなの嫌だっていうのに。





「でも・・・さ」

≪全部は守れません。きっと、選び取るということは、何かを捨てることです。あなたは今・・・そうして何を守りたいんですか≫

「・・・今、消えるかもしれないもの。ここにある・・・歌声」

≪だったら、それを通しましょう。通した上での後悔なら、背負えるはずでしょ?≫





・・・そうだね。それは、背負わなきゃ。



フェイト、なのは・・・ごめん。僕はここで止まって後悔するのなんて、絶対に嫌なんだ。過去は変えたりなんて出来ない。でも・・・今は過去じゃない。まだ、変えられるんだ。壊れそうなら、それを止めることが出来るんだ。

だから、止まれない。大事な居場所を、出来た繋がりを賭ける事が今ここで戦うために必要な対価なら・・・僕は、払う。理由はたった一つ。

今、くだらない理不尽に晒されかけている人達が居る。そんな馬鹿げたもののためにその人達の未来が消えるなんて、絶対に嫌だから。





「・・・後でスバル達にも謝らないとね」

≪そうですね。きっと、怒られますね≫

「覚悟しておきますか」










次は・・・ギンガさんか。あー、気が重いなぁ。どうしてこうなるのか。




















・・・・・・ん?










「・・・アルト」



ベッドから起き上がる。



「セットアップ」

≪はい≫





そのまま、日本刀モードのアルトを左手に持つ。・・・気配がした。誰か、近づいてきてる。

まぁ、大丈夫とは思うけど一応・・・ね。賊がどんな手で来るか分からないんだし。



そうして、僕は近づいてきている気配がドアの前に立った瞬間を狙って・・・。



ドアノブに手をかけ、ドアを開け放つ。





「・・・あ」



・・・そこに居たのは、僕の知っている顔。ちょっと驚いている。そりゃそうだ、アクション起こそうとした出鼻を僕によって挫かれたんだから。



「・・・フィアッセさん」

「あ、えっと・・・その、こんばんわ」



なんだ、フィアッセさんか。あー、ちとびっくりした・・・てか、警戒しすぎかな。気分昂ぶってるのかも。



「ね、もしかして私が近づいてきてたの・・・気づいた?」

「いちおう」

「そっか・・・。すごいね、恭也や美由希と同じ事、出来るようになったんだ」



まぁ、長年あのハイスペック連中を相手にしてれば、これくらいは・・・。てか、出来なきゃ死ぬ。



「あの・・・それでね」

「はい」

「少しお話。いいかな?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・お願い、出て」



何度もかける。でも、繋がらない。結果は全部同じ。多分、電源から切られてる・・・!!



「あー、なのはちゃんもフェイトちゃんも、もう納得しいや」

「出来るわけないよっ!!」



フェイトちゃんが声を上げる。悲しくて・・・怒りに満ちた声。



「私・・・納得出来ない。どうしていつもこうなのかな。ヤスフミ、本当に自分の居場所・・・大切にしてない」

「・・・してないわけちゃうやろ。アイツはそれ賭けてでも、通さなあかんことが出来てもうた。それだけのことや」

「でも、捨てた。また簡単に・・・自分を。もっと早く話せばよかった」



そう言えば・・・フェイトちゃん、話そうって言ってたよね。恭文君があんまりに無茶したりするから。



「どうして、大事にしてくれないのかな。ここに居ること、思ってくれる人達の事、本当に・・・」





ごめん、フェイトちゃん。それ・・・私も分からない。



どうしてあそこまで飛び込んでいけるのか、分からないよ。やっぱり・・・昔の事が原因なのかな。



守れないのが嫌で、壊されるのが嫌で。思い出すから、無茶してでも飛び込んで、力を振るって・・・。でも、そうして何が残るの? なにも残らないよ。

そうして、どんどん恭文君はきっと寂しくなって、一人ぼっちの場所に行って・・・そんなの、嫌だよ。



もしそうなら・・・記憶を持っていることでそういう未来しか来ないなら、忘れて欲しい。忘れて、私達と一緒に居られる道を・・・。





「あー、ちょい失礼するね」



私達が居る隊長室のドアが開く。するとそこには・・・一組の男女。



「やっさんから通信かかってきたんだろ? 用件なんだって?」










そう、最近六課に教導の手伝いという形で出向してきたヒロリスさんとサリエルさんだった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪・・・で、ボーイはシンガーガールのスクールを守るために戦うと≫

「・・・うん」

「説得しても無駄だったと。てか、通信が繋がらないと」

≪今、私もかけてみましたが・・・だめですね。おそらく電源から切っているのでしょう≫



落ち込みモードを抱えつつ、私とフェイトちゃん、はやてちゃんは話した。恭文君がまた・・・飛び出した事を。



「しかし、またあの子は・・・。ま、しゃあないか」

「だな。まぁ、俺らに後始末押し付けた件はまた何かで代価を払ってもらうとして・・・」



そうして、二人はそのまま何がいいかと相談を始めて・・・って、ちょっとまってくださいっ!!



「どうして納得出来るんですかっ!?」

「だって、やっさんだし。そこでここに戻る選択は出来ないのはもうわかってることだもん」

≪だな。・・・やっぱりよ、あのシンガーガールの事は特別なんだろうよ。どうしても放っておけねぇんだよ≫

「だって、婚約者なんだろ? そりゃ放ってもおけないさ」



・・・あれ? もしかして、お二人は・・・。

疑問が顔に出ていたのか、ヒロリスさんとサリエルさんは頷いた。



「フィアッセ・クリステラとの事は、私もサリも聞いてるのよ。・・・ほら、あの子その一件で銃器相手にドンパチやったでしょ?」

「・・・はい」

「で、実は俺らの訓練の一環で、AMFの完全キャンセル化での魔法なしでの戦闘っていうのを項目に入れてたんだよ」



その言葉に私達は少し納得した。もしかして、そこで恭文君がそういう状況に慣れているのが気になって・・・。



≪高町教導官、正解です。あまりに場慣れしている上に、それ用の兵装まで揃えていたので、我ら全員肝を抜かれました≫

「ヤスフミ、香港でそういう訓練を定期的にしてたから・・・」

「『魔導師だから』魔法無しで戦えなくなるんは納得出来ん・・・言うてな」



私達は、それでもいいって言ったんだけど・・・止まらなかった。うぅ、昔から恭文君は強い分頑なだよ。こっちの言うこと全然聞いてくれない。



「まぁ・・・アレだよ、フェイトちゃん」

「はい・・・」

「やっさん、居場所を大事にしてないわけじゃないと思うな。ただ・・・さ、やっぱ止まれないんだよ。背負った後悔があんまりにデカイから。壊れるってことが、踏みつけられるってことが、どれだけ怖くて悲しいことか、身を持って知ってるから」



・・・・・・きっと、恭文君の根はそこ。あの時の記憶が・・・恭文君を縛ってるんだ。



「だったら・・・」



だったら・・・!!



「忘れて欲しいです」

「・・・なのはちゃん?」

「忘れたっていいじゃないですか。だって・・・もう8年ですよ? 忘れて、もう楽になったって・・・」

≪・・・高町教導官、それは無理です≫

「どうして・・・かな」



忘れられないから、恭文君はまた飛び込んだ。大事だって言う居場所まで賭けた。止まる言い訳も、見過ごす言い訳も出来るのに。

もう、こんなことして欲しくない。止まったって、誰も責めない。・・・ううん、止まらない方が、きっとたくさん傷つけて、無くす。だったら・・・もういいよ。忘れたって、言い訳したって、いい。



「それはね、忘れたら・・・なんとも思わなくなるからだよ。人を傷つける事を、殺す事を。私らがそうだったもの」

「あの、ヒロリスさん、その話は」

「あー、いいのよはやてちゃん。・・・きっと必要な事だから。あのね、みんなも知っての通り、私らは教導隊に居た。で、その前段階でも結構ドンパチしててさ、その中で殺しってやつも経験してる。でも・・・ね、私ら、最悪極まりない言い訳してたの」



どこか、怒りの篭った表情でヒロリスさんが話す。それは・・・隣に居るサリエルさんも同じ。



「フェイトちゃん、その言い訳がなにか分かるか?」

「・・・いいえ」

「『局員だから』。そう言い訳してたよ。局の正義のために殺した。世界の規律のために殺した。俺らが手にかけた連中は、言うなれば害虫で、俺らはただその害虫を駆除しただけだ。
そんな・・・くだらない言い訳をしてたよ。ぶっちゃけさ、俺もヒロも、昔の自分が大嫌いなんだよ。殺しに正義も糞も無い。ただ命を踏みつけて、奪った。ヘイハチ先生に会って、弟子にしてもらって、それから二人して半殺しにされるまで、そんな当たり前の事に気づかなかった」



・・・・・・信じられなかった。私も、フェイトちゃんも。

とてもじゃないけど、今私達が見えているヒロリスさんとサリエルさんは、そんな事を言う人には見えなかったから。



「よくさ、言うだろ? 人を殺した人間は、狂うものだって。・・・それは半分正解で、半分外れだ。狂うのは、殺した事から逃げて、言い訳する奴だ。昔の俺とヒロみたいにな」

「忘れれば、殺した事に、傷つけた事に痛みを感じなくなる。いや、もしかしたらそれに喜びを感じるかも知れない。ね、フェイトちゃんもなのはちゃんも、やっさんにそんな奴にはなって欲しくないよね?」

「そんなの・・・当たり前ですっ!!」

「というか、恭文君はそんな子じゃないですっ! 口には出さないだけで、本当はずっと・・・!!」



ずっと、苦しんでる。少なくとも私はそう思ってる。だから・・・友達を続けている。二人の言うような狂った人間じゃないから。



「だったら・・・覚悟決めな? やっさんの『忘れない』って選択と付き合う覚悟を。少なくとも、スバルちゃんはそれが出来てる。だから、友達続けてるんだよ」

「でも、それならヤスフミは・・・」

「・・・確かに、アイツは居場所を大事にしてないからな。てか、俺から見ても刹那的・・・てやつか? あんまりに飛び込み過ぎる時がある。気にしてはいたんだけどな」

≪とは言え・・・主。蒼凪氏がそうやって飛び込むのは、単純に過去の事だけが原因では無いでしょう≫



・・・え?



「だな。・・・基本お人よしなんだよ、アイツ。泣いてる誰かが放っておけない。だから、ついつい・・・ってとこだな。まぁ、アイツが戻ってきてから俺達で話すことにしようぜ?
これからどうするのかとか、どうしたいのか・・・とかさ」

「でも、それだとヤスフミは・・・」

「今回は諦めた方がいい。そりゃ、もう止まるわけがない。俺らでも止められない。まぁ、フェイトちゃんが向こうに行って強制的に連れ戻す・・・とかなら、話は別だけどな」










・・・恭文君。どうして、変われないのかな。





それとも、変わって欲しいと思っている私達が・・・だめなのかな。





これから、どうしよう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フィアッセさんと、夜の中庭を二人で歩く。静かに・・・一歩ずつ。





夜空・・・星が出てて綺麗。それも見上げつつ、無言で歩く。










「結局・・・」



でも、話は始まる。フィアッセさんが口火を切った。



「私、また巻き込んじゃったね。恭文くん・・・ごめん」

「あー、問題無いですよ」

「あるよ」



いつに無く厳しい口調。多分・・・言いたい事はあの話だ。



「あのね、恭文くん。君は戻っていい。この件に関わる必要は」

「あいにく、その話ならもうさっき向こうとやり取りしました。・・・一応暴れてよしという話になったので」

「・・・そのために代価を払う必要はないのかな」



・・・視線も厳しい。どうやら、本気で僕にミッドに帰って欲しいらしい。だから、いつもと違う。どこか棘というか、刺さるものを感じる。



「払い・・・ますね。安くは無い代価を」



自分に呆れつつ、正直に話した。払う代価について。この人に隠し事なんて、出来そうもないから



「・・・・・・だったら、今からでも遅くない。もしもう返事してどうにもならないと思っているんだったら、私も一緒に話すから。だから・・・ね?」

「・・・それでも、戻れないんです」



フィアッセさんを見上げる。まっすぐに・・・少しだけ怒ったような瞳を見る。



「僕が居て、全部変わるなんて思ってません。間違えて、取りこぼして、そんなことばっかりやってますから」



だから・・・ね、うまく言えないけど、やっぱり引けないんだ。



「それでも、ここで今目の前で起こるかも知れない事に背を向ける選択は、無いんです。それが出来る言い訳なんて、何も無いんです。それになにより、後悔なんて・・・僕は、背負いたくありません」

「どうしても・・・ダメなんだね」

「僕、わがままですから。知ってますよね?」

「・・・うん、知ってるよ。すごく知ってる。恭文くん、本当にわがままだから。なのは達の気持ちもそうだけど、私の気持ちも気にしないでどんどん進んじゃう」



・・・そうですよね、すみません。せっかく心配してくれているのに。



「・・・じゃあ恭文くん」

「はい」

「最後の最後。もう一度だけ聞くね? 本当に・・・それでいいんだね。もしここであなたが戻っても、私は絶対に恨んだり、責めたりしない。むしろ仕方の無い事だって思うし、そうして欲しいとも思う。
それでも、ここに残って・・・戦うことを選ぶのかな」

「・・・選びます」



フィアッセさんが静かにため息を吐く。そうして、僕を見る。先ほどとは違う・・・いつも通りの瞳で。



「やっぱり、わがままだよ。うん、これは重症だね」

「・・・知ってます」

「なら、私も覚悟決めないと・・・ダメかな」



え?



「恭文くんは、これでそのお仕事場をクビになるわけでしょ? そうすると・・・責任を取らないと。よし、結婚しようか」

「・・・・・・はいっ!?」



け、結婚っ!? どうしてまたそんな話にっ!!



「当然だよ、約束はしてるし、条件はもう満たされてるし・・・。それに」



それに?



「もたもたしてたら、恭文くん取られちゃいそうだから。私、結構危機感・・・抱いてるよ?」










・・・いや、誰にっ!? そして何の話っ!!










「とにかく・・・わがままなのも、身勝手なのも承知の上でお願いするね。・・・もし何か起こった時に、ここに居る子達を、守って欲しい。お願い・・・出来る?」



そう聞いてきたフィアッセさんの両手を取る。ちょっとびっくりした顔したけど、そこは気にせずに・・・優しく、包み込むように両手を握る。



「はい。僕の・・・僕とアルトのありったけで、必ず守り抜きます」



フィアッセさんの表情が変わる。



「ありがと」



優しくて、僕の知っている暖かい微笑みの表情に。



「・・・って、これはちょっと違うか。私、君に迷惑かけてるんだし」

「ありがとで・・・いいです。というより、謝って欲しくないです。ありがとうの方が、気分いいですし」

「・・・うん、ならそれで。恭文くん、ありがとう」










こうして、戦いに飛び込む事が決定した。代価を払った上で、身勝手を通して。





多分、傷つける。たくさん、無くす。でも・・・止まれない。





きっと、これが僕のやりたいことだから。





・・・やっぱり、目指す所はこういうとこなのかな。





なんだか、見えてきた。少しずつだけど・・・いろんな事が。




















(その4へ続く)




















あとがき



古鉄≪さて、賛否両論渦巻いて、主役の評判が下がりそうな今回のお話。みなさんいかがだったでしょうか?
プロットがあれば、ネカフェに5時間で小説書けるんですね。というわけで私、古き鉄・アルトアイゼンと・・・≫

恭文「ども。今回株を下げたであろう蒼凪恭文です。なお、IFルートのあとがきで僕は出せないなんて言いましたが、もう出せる人員が居なくなったので、ここに居ます。でも・・・あー、反響が怖いよー!!」





(青い古き鉄。今回の台本を受け取ってから色々ビクビク)





恭文「ぶっちゃけさ、僕の行動って劇中ではやても言ってたけどありえないしね。正式に依頼受けてるのに、それ放り出して飛び出しちゃうんだもの。これは怖いよ。きっと責め苦だよ」

古鉄≪ただ、こういう部分も書きたかった所ではあるんですよね。たとえば、本編だとマスターはこういう事も起きず飛び出さない方向で話が進んでいるわけじゃないですか≫

恭文「そうだね、基本平和だから」

古鉄≪本編26話のおまけでも少し触れていますけど、マスターは六課に自分の居場所などを感じていたりするわけです。そこの辺りを絡ませるのは、必須かと。・・・ただ、ギンガさんルートなのに、ギンガさんあんまり出てないのがアレですが≫

恭文「まぁ、次回・・・だよね。うぅ、まあ台本仕上がってないけど怖いよ。絶対揉めるもん」





(青い古き鉄、また自分の株を下げるのではないかとビクビクしているようだ)





古鉄≪何を今更。下げる株も無いくせに≫

恭文「はい、そこうっさいよっ! 失礼な事を言うなっ!!」

古鉄≪さて、ギンガさん・・・どうしましょうか≫

恭文「絶対納得してくれないよね。間違いなく・・・あぁ、気が重い」

古鉄≪とにもかくにも、次回こそはギンガさんのターン・・・のはずです。お楽しみいただければと思います。そして、マスターはきっと株を下げます≫

恭文「嫌じゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

古鉄≪というわけで、今回はここまでっ! お相手は古き鉄・アルトアイゼンと・・・≫

恭文「蒼凪恭文でしたっ! それでは・・・またっ!!」










(そうして、カメラに手を振る二人を映しつつ、カメラフェードアウト。
本日のED:タイナカサチ『code』)










フィアッセ「・・・それで、恭文くん」

恭文「はい」

フィアッセ「ギンガちゃんは、どうするの?」

恭文「・・・返すしかないですよ。さすがにこれに局員のギンガさんは巻き込めませんから。あー、でも納得してくれるかどうか微妙だー!!」

フィアッセ「そうだね、結構強情そうな子だし。・・・うーん、やっぱり危機感覚えちゃうよ」

恭文「いや、なにに対してっ!?」










(おしまい)





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