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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ミッション04 『祭りの始まり』



「・・・それじゃあフェイト、なのは、はやて。気をつけてね」

「いや、それはアンタに言うことやから」





気にしないで。あー、でもこれからどうしよう。啖呵切って即効で保護を受け入れるのは、非常にカッコが悪いぞ。・・・こうなったら、覚悟決めるか?



まぁ、その前に・・・この微妙な瞳の方々だよ。もうちょい話さないと、このまま六課に引っ張って行かれそうだ





「恭文君、考え直してくれないかな」

「そうだよ、今回だけ・・・今回だけでいいから折れて欲しい。ヤスフミは、六課のみんなで守るから」

「嫌。・・・それに、六課に行ったら前に出れなくなるじゃないのさ」



僕がそう言うと、全員の表情が変わった。・・・やっぱり僕を前に出さないつもりだったか。そしてはやて、オノレもかい。最初の会話のどうこうはなんなのよ。



「・・・まぁ、能力が必要言うたんは間違いないんよ。ただな、アンタの場合ヘイハチさん似で思いっきりぶっ飛ばしていくやろ? 前に出さんで後ろ居てもろうたほうがえぇかなーとか・・・思ってたんやけど」

「うん、納得した。そして詐欺だよ、それ」





ま、そうなったらそうなったで遠慮なく脱走するけどさ。連中が喧嘩売ってるのは僕だけじゃない。先生に・・・ヒロさん達もだ。



それなのに、僕だけのんきに守られる側? 出来るわけがない。死ぬつもりも連中のモルモットになるつもりもないけど、だからってこそこそ最後の最後まで隠れてる道理もない。





「そう言わんといてよ、アンタに勝手されたら全体の指揮や統率にも関わる。・・・部隊ってそういうもんよ?」

「だから入りたくないの」





さっきは非常にアレだから言わなかった理由が一つ。・・・はやてに迷惑かけたくない。あの部隊は、はやての夢だ。僕の勝手で乱していい場じゃないでしょ。





≪なにより、好き勝手してる方が楽しいですしね≫





そういうことですよ。多分、違法でアウトなコースを行くだろうしね。それに僕はともかく六課巻き込みたくない。無関係なら、言い訳は色々出来るもの。





「少しくらい楽しませてよ。派手に暴れなきゃ、損ってやつでしょ」

「アンタ・・・マジでそのお祭り気分で喧嘩する気かい」

「当然」





・・・でも、はやてはともかくフェイトとなのはの二人は納得してくれない。表情が微妙なのだ。もう、どうしてここまでと言わんばかりに。





「ヤスフミ」

「つーわけで、行かないから。ここからは最後までクライマックスだもの、止まれないよ」



世界崩壊の危機に立ち向かうなんて、滅多に経験できるわけじゃないしね。・・・やっぱ、これは僕達にとって最高のクライマックスになるね。いや、楽しみ楽しみ。



「どうして・・・そうなのかな。お願い、たまには折れて私達の言うことを聞いて。そんな風にふざけないで」

「そうだよっ! この話を聞いたら、リインやヴィータちゃんだって心配するっ!! 恭文君一人の問題じゃないんだよっ!?」





知ってるよ。間違ってるのは、きっと僕だ。でも・・・なのよ。





「・・・弱かったり、運が悪かったり、何も知らないとしても、それは・・・何もやらないことへの言い訳にならない」

「「・・・え?」」

「僕の知ってる凄く強くて・・・優しい人が、そう言ってた」

≪私達が関わる理由、一言で言うならそれです≫





野上良太郎さんだね。迷いそうな時、躊躇いそうな時、この言葉を思い出す。そして・・・一歩を踏み出す。そんな勇気をくれる言葉。



・・・なお、この数ヶ月後に色々な偶然で、まさかまさかのご本人様と関わりが出来ることになるとは、この時の僕は知らなかった。





「僕達はそこそこ強くて、事情も知ってる。運は・・・アレだけどさ。なのに、ここで何もせずにただ守られる選択なんて・・・出来ると思う?」

≪出来るわけがありませんね。ここで止まって、どの面下げてあなた達と居ろと≫

「してもいいよ。ただ守られるだけでもいい、誰もそれでヤスフミを責めたりしない。ヤスフミは、六課みたいな居場所があるわけでも、一緒に戦う仲間が傍に居るわけでもなんでもないんだよ? それでなんて・・・絶対無理だよ」

「・・・そうかもね」





僕は振り返り、来た道を見据える。





「ヤスフミっ!」

「でもさ、それでも止まれないのよ。・・・僕が止まることを許さないの。そんな現実、認められないの」










全部守れるなんてハナから思っちゃいない。きっと・・・取りこぼす。自分のことで手一杯だろうね。今までがそうだった。急になんでも変わるなんて思ってない。





でも、それでも・・・。










「この手が届く範囲くらいは、守れるはずだから。・・・悪いね、わがまま通すわ」










そのまま、左手を振りながら皆と別れた。





・・・アルト









≪はい≫

「行方、くらませるよ」

≪保護されるのではありませんか?≫





バカ、それで万が一にもカリムさんや聖王教会に負担や迷惑かけても仕方ないでしょうが。



だから、ここで僕の消息を完全に絶つ。その上で・・・だ。





「それにさ、ただ守られてるだけの状況ってのも、辛いでしょ。・・・僕も代価を払う。カリムさん達の負担が少なくなるように」

≪・・・いや、それだけだと意味分かりませんよ。どうするつもりですか≫

「具体的には・・・だね」

≪マジですか?≫

「マジだよ。正直、気は進まないけどね〜」










とにかく、こうして僕は全ての連絡を絶ち、行方を消した。





・・・ジェイル・スカリエッティ、絶対に叩き潰す。




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と古き鉄の戦い


ミッション04 『祭りの始まり』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・それで、恭文さんは」

「うん・・・そのまま聖王教会。私達の話、ちっとも聞いてくれなかった」





聖王教会から戻ってきたフェイトさんに呼び出されて、時間も遅いのですが談話室でお話です。そして、事情を聞きました。今、恭文さんの身に起こっていることを。



そうです・・・か。まぁ、仕方ないですね。恭文さんがそれで止まるとは思えないですから。





「あのね、リイン」

「無理ですよ」

「・・・まだ何も言ってないよ?」

「フェイトさん、リインに恭文さんを説得するようにって・・・言おうとしたですよね」





リインがそう言うと、フェイトさんがコクンと頷きました。やっぱりですか・・・。



なんとなく気づいてたです。フェイトさん、恭文さんがアルトアイゼンと一緒に、部隊に入るわけでもなく戦うのが納得出来ない感じでしたから。





「お願い、リイン。協力してくれないかな。ヤスフミをこのままにはしておけないの。私達はダメだったけど、リインなら・・・」

「ダメです」

「どうして・・・かな」

「恭文さんは、それを望んでないからです。・・・だから、出来ません」










・・・その、リインも本当は心配です。危ない目にも、遭って欲しくないです。





離れてると・・・寂しいですから。本当なら、六課に来て欲しいです。傍に居て、いっぱい・・・いっぱい・・・一緒にいたいです。





でも、止められません。リインは知ってるです。恭文さんが何を通したいのか、守りたいのか、そして・・・壊したいのか。だから、止められないんです。





それに、止めるのは・・・リインの選択じゃないです。










「大丈夫ですよ、フェイトさん」

「大丈夫じゃないよ。ヤスフミ、本当に一人で・・・」




・・・はやてちゃん、ごめんです。でも・・・少しだけ、勝手します。





「リインが居ますから」

「え?」




フェイトさんをまっすぐに見ます。戸惑って、不安な瞳が見えました。・・・心配じゃないわけ、ないですよね。だって、恭文さんのこと、大事な家族だと思ってるんですから。

だから、リインは笑います。安心させるように、力いっぱいに。



「なにかあれば、リインがすぐに飛んでいきます。それで、絶対絶対守るですから。知ってますよね? リインと恭文さんとアルトアイゼンの三人が揃えば・・・誰にも負けません」










恭文さん、何かあれば呼んで欲しいです。私、すぐにあなたの所へ行きます。





そうして、一緒に戦います。私は、蒼天を往く祝福の風であると同時に、古き鉄・・・あなたの一部ですから。





知ってますか? 私、恭文さんに本当にたくさんの物をもらってるんです。





大事な人達と笑い合える、今という時間を。

・・・あの時、恭文さんは『全部は守れなかった。重荷を背負わせた』。そう言ってますけど、それでも・・・私はあの時、恭文さんに本当に大切なものをもらったんです。恭文さん、私に時間をくれたんですよ? あそこから今に繋がる全部の記憶と時間は、恭文さんが居たから存在出来るんです。それって、凄いことなんですから。





戦う勇気を。理不尽な今に立ち向かう強さを。

・・・私、恭文さんに会うまで、戦うこと、すっごく怖かったんですよ? 今も、少し怖いです。でも、それでも・・・受け入れる事も、認める事も、見過ごす事も出来ない今を覆したいんです。そのために戦う勇気と強さ、あなたと繋がる事で目覚めたんです。





それに・・・大好きな人の傍に居られる幸せを。

・・・私は、ただ傍に居られるだけでいいんです。傍に居て、一緒の時間を、一緒に笑顔で過ごせるだけで、私は充分なんです。本当に、ただそれだけで・・・いいんです。





だから、守ります。私の全部で、あなたの全部を。





・・・よしっ! リイン、頑張るですよー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



飛び交う魔力弾を縫うようにして避ける。そして前に進む。





ご丁寧に結界までかけやがったし。本格的に俺らを闇に葬る計画かい。・・・まぁ、いいさ。





潰してやるよ、全員まとめてな。





走りながら、魔力弾を生成。俺の魔力光は相棒と同じく白。つまり、当然魔力弾も白色ってわけだ。





数は8。それを連中に向かってぶっ放す。当然奴らはそれを飛んで避ける。





でもよ・・・。










「遅いわ」





もう、俺は連中より高く飛んでる。そのまま・・・一番高く飛んだ奴に向かって、金剛を左から振るい、薙ぎ斬る。

そいつを足場にして、左側に居た奴へと飛ぶ。横の刃で腹をかき斬る。



金剛の切っ先に魔力弾を生成。やっさんの使うスティンガーと同じく貫通力重視の物。

それをぶっ放す。弾丸は放物線を描くように飛び、右側の三人の胴を貫く。そいつらはそのまま重力に任せて落下していく。



・・・それを見つつも、宙返り。

後ろから、スピアを突き出して来た奴が居た。俺は宙返りしながらそいつの頭上に金剛の向ける。そして、先ほどと同じように魔力弾を生成する。ただし、これはスティンガーじゃない。・・・魔力砲弾だ。つまり、砲撃。





≪なってませんね≫





そのまま砲撃をぶっ放した。そいつは白い魔力の本流に飲まれて、地面に叩きつけられる。





「全くだ」





そこに、緑色の魔力弾が大量に襲ってくる。・・・残り二人、サクっと潰すか。





「金剛」

≪Gouka Mode≫





その声で、金剛は姿を変える。・・・まるで、戦国時代の大筒の縮小みたいな感じで。

これが金剛の形状変換の一つ。ゴウカ(業火)モード。こいつは遠距離戦に特化した形態でな、俺のお気に入りだったりする。なんつうか・・・高町教導官とか見てると分かるだろ?



それを右の脇下に抱え、飛び交う砲撃と、その向こう側に居る奴に方向を向ける。右の脇と、左の砲口近くにあるグリップを両手でしっかりと掴み、狙いを定める。





「・・・砲撃ってよ」





そのまま魔力を充填。砲口に魔力の砲弾が形成されていく。




「派手だし威力はデカイから・・・楽しいよなっ!!」





俺は右手のグリップにある引き金を引いた。その瞬間、先ほどとは比べ物にならない威力と範囲と太さの白い魔力砲撃が放たれた。



それはそのまま、連中の魔力弾を飲み込み、その向こう側に居たやつらに着弾。見事に爆発を起こし・・・賊を吹き飛ばした。





≪主、少なくとも高町教導官はそういう理由で砲撃魔導師をしているのではないかと≫

「そうだろうな。でもよ、やっさんの話聞いてるとどうしてもそう思えないんだよな」





いや、やっさんの話しっぷりがひどいからなんだけどな。悪魔やら魔王やら冥王やら作画崩れやら・・・。でも、それで分かった。

やっさんが原因だ。高町教導官のそういうゴシップ的というかネタ的な二つ名が広まっているのは。アイツが高町教導官と関わるようになって、そういうことを言い出した時期と、高町教導官にそういう噂が出てきた時期が見事に一致する。



アレだよ、人の口に戸は立てられないって事だろうな。俺もやっさんの最初の一件の事は、噂話程度に聞いていたし。・・・そんなことを考えつつ、大筒状態の金剛を肩に担ぐ。





≪蒼凪氏の場合、高町教導官を苛めるのが楽しいのでしょう。話半分で聞くのがよろしいかと≫

「それもそうだな」





ま、これでこっちはあらかた片付いた。あとは・・・。





『・・・あー、サリ。そっちはどう?』





そう、ヒロだ。俺とは離れて半分受け持ってた。どうやら、この様子だと本当にサクっと片付いたらしい。





「あらかた片付いた。しかし、歯ごたえ無かったな」

『なんつうかさ、魔導師のレベル低くなってるんじゃないの? 表も裏も含めてさ』





表は知らないが、裏は間違いなくだな。いや、こいつらが悪いのか。なんつうか、一山いくらの連中って無駄・・・。

ふと思い出した。2年前・・・まだまだロートル気分でやっさんと友達やり始めた時の事。ヒロ経由で引き受けたある護衛任務。あの時やりあったアサシンも、同じ事を言っていた。どうにもそれがおかしくなって、笑ってしまう。



そういえばあのアサシンは歯ごたえあったな。実戦から遠ざかって、いかに自分が錆びていたのかを、痛感させられたよ。

あれから2年。やっさんとの訓練で錆はだいぶ落ちてるだろうけど・・・今やったら、勝てるか? 試してみたいもんだな。もちろん、今みたいな砲撃やら魔力弾やらは無しで。





「く、くそぉ・・・!!」



なお、全員殺してはいない。だって・・・なぁ?



「なぁ、お前ら」



俺は地面に降り立つと、地面にはいつくばってる奴の首に、十字槍に戻した金剛の切っ先を突きつける。そして・・・その先の先の先をちょこっとだけ刺す。



「よくもまぁ、俺と俺の可愛い弟弟子兼ダチの秘蔵ディスクを粉々にしてくれたな。どうしてくれんだ」





俺だって何気に好きだったんだぞ? やっさんが選んだ義姉物で金髪ロングな女優さんが出てる恋愛ストーリー仕立てのやつ。これが意外と出来が良くてなぁ。つい二人して見てて泣いたんだよ。



まぁ、やっさんは俺が泣いてたのとはまた別で深い意味合いだろうけどな。・・・それを見て更に泣いたのは、きっと気のせいだ。





「そ、そんなの俺らのせいじゃ」





少しだけ深く刺す。すると、男の声が止まった。殺しては居ない。・・・恐怖でだ。





「ガタガタ抜かすな。・・・さて、話は変わるが、お前らもプロなら、当然雇い主の身元確認くらいは『自分』でやってるよな? 吐いてもらうぞ。それまでは全員帰れないと思え」





50人全員吐かせるのか。・・・めんどくせぇ、一仕事どころの騒ぎじゃねぇだろ。どんだけ時間かかるんだよ。





「あぁ、無駄なことするの嫌だから先に言っとく」



俺は、そいつを睨みつける。すると・・・震えだした。あと、臭い。この程度で小便を漏らすな。修羅モード入ったやっさんやヒロの戦慄に比べれば、緩いもんだ。いや、アイツらはマジでおかしい奴らだから、引き合いに出す方が間違ってるけど。戦慄で重力重くなるってどんだけだよ。



「お前らが取れる選択は二つ。『自供する』か、『自供させられる』かのどちらかだ。・・・OK?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・カリムさん、それ・・・マジですか?」

「マジよ」

「騎士カリム?」

「あぁ、ごめんなさい。つい乗っかりたくて・・・」





とにかくフェイト達を見送った後・・・時刻はもう7時。当然辺りは真っ暗。カラスもとうに鳴きながら家に帰っている。そんな時間や情緒風景はさておき、カリムさんとシャッハさんと、先ほどのお部屋でお話。



そして・・・聞かされた。



どうしてヒロさんがあそこまでして召喚師の情報が欲しかったのかを。そして、現在のヒロさんとサリさんの現状を。





「友達の娘かも知れないんですね」

「ヒロリスはそう思っているわ。もちろん、確証は無いそうですけど」

≪メガーヌ・アルピーノさんですか・・・。しかも、ギンガさんと今六課に居る妹さんのお母さんのパートナーだったとは≫





なんつうか、ビックリだよ。今回の一件、色々な意味で遺恨試合だったりしてるわけですか。



戦闘機人に関する一件・・・召喚師・・・それにプロジェクトF・・・。全部、繋がってる。あのドクターって呼ばれてる奴に。





「さて、どう動こうか。僕達はさ」

≪ある意味その遺恨試合に全くの無関係状態ではありますしね≫



ま、なーんで関わってるのかと疑問に思われるのは当然か。局員ってわけでも、世界や人のためでも無いしね。



「なんにしても、しばらくはこちらで保護します。・・・安心してください。私も、騎士カリムも止めません。というより・・・止められません」

「貫くべき思いがあるなら、それは通すべきです。ただし・・・覚悟はあるのでしょうね? 今回の一件、あなたはもしかしたら失う物の方が多いかも知れませんよ」

「覚悟なら、ずっと昔に出来てます。・・・あの、これはやてやクロノさん、フェイトとかには内緒でお願いしますね」



一応・・・ね、言っておこう。カリムさんには、これから思いっきり迷惑かけるし。



「世界やらそこに住む人間のために・・・なんて、言うつもりはないです。もちろん、管理局という組織のためになんて、絶対ごめんです。けど」



カリムさんの瞳を見る。さっきから、また騎士モードで見てるから、それに負けないように。



「その中で・・・本当に守りたいものがあるとしたら、今ってやつなんです。あんな目つきの悪い陰険野郎のために今が壊れて、その先が・・・未来が消える? んなの、絶対納得できません」



まぁ、要するに、スカリエッティの企みぶっ潰すってことだね。



「そんなの、やっぱ嫌なんですよね。世の中平和じゃないと、僕の周りの局員な方々は騒がしいまんまですもの。それじゃあ、僕はのんきにゲームも出来ないし、アニメも見れないし・・・」

「あらあら、ずいぶん利己的な理由ね」

「これが僕らしさですから」

「そうね、きっと・・・あなたらしいわ。かのトウゴウ氏も、お噂を聞く限りでは同じだったようですし、やはりあなたは似ているのよ」



前に置かれたままの紅茶を一口。・・・ミルクも砂糖も入れてない。程よい苦味と心地よい香りで、胸にあった棘が少しだけ抜ける。



「だったら・・・うれしいです」



わがままを通して、みんなに心配をかけまくることに対しての申し訳なさが、少しだけ・・・本当に少しだけ、紛れる。



「でも、本当にいいの? あ、これはさっきとは違う事よ。ほら、あなたのお友達で陸士部隊に所属している・・・」

「ギンガさん・・・ですか」

「えぇ。ヒロリスが迷惑をかけたも同然ですもの。もし揉めるようであれば、私から彼女に・・・」



それも考えた。すぐにでも仲直りしたかったし。ただ・・・なんだよね。



≪・・・ギンガさんには、ヒロさんに情報を渡したことまで話しています。その場合、当然そうまでして何を確かめたかったのかを追及される恐れがあります≫

「それはマズイですね。そうなれば、彼女は更に気負う可能性があります。今回の一件で戦闘機人が出てきた段階で、自分の母親の事を考えないわけはないでしょうから」

「これから戦いが激しくなる以上、それは確かに問題ね」



シャッハさんとカリムさんが、少し苦い顔でそう言う。・・・そう、まずいのだ。今の段階でギンガさんと連絡を取るのは、非常にマズい。もっと言うと、ギンガさんに今回の一件のあれこれを詳しく知られるのは色々マズい。

そして、問題はそれだけじゃない。



「僕、今から行方くらませるじゃないですか。狙われてるから。万が一にもそこを知られたら・・・」

≪108に強制的に引っ張っていかれるでしょうね。そして、事件解決までそこで軟禁生活ですよ≫



それは嫌なのだ。通したいこと、通せなくなるし。・・・もちろん、心配かけるし申し訳ないとも思う。それは、本当に。

ただ・・・止まりたくない。ここで止まって、何も出来なかったら、何もしなかったら、後悔する。なにより・・・今僕を包んでいる現状のどれも、何もしないことへの言い訳にはならないしね。



「うし、とりあえずギンガさんは事件解決後だ。そうじゃないとどうしようもない」

≪そうですね。それで・・・今後の方針は?≫





・・・一番手っ取り早いのは、連中のアジトに乗り込んで大暴れ・・・ってのが理想。でも、戦力も足りないしなにより場所が分からない。当然これは却下。

保護される以上、捜査とかなんやらも出来ない。なにより、現状外に出たらなにが起こるかわかったもんじゃない。現に、ヒロさん達とはもう今の段階でカリムさんでも連絡が取れなくなっているらしい。本局の開発局の方も、突然休職届けが届いて大騒ぎとか。

あ、局長さんは別だって言ってたな。なんか、事情説明されてるらしくて、ただひたすらに頭抱えてるらしい。



そうすると、取れる選択は・・・うわ、一つしかないや。それもかなり消極的。





「・・・連中がこっちにちょっかい出すために動いてきた所をぶっ叩く」

≪啖呵を切ってそれはかっこ悪いですよ?≫

「うん、知ってる」



どうにもそれがいらいらして仕方なくて、またカップを手に取り紅茶を口に入れる。そうして、それを美味しい香りと味で打ち消す。



「本当に消極的・・・と言いたいところだけど、確かに現状はそれしかないのよね。あなただけではなくて、六課の皆さんも私達も」

≪事件自体は相当前から端を発しているというのに、これですか。どうにも辛いですね≫

「まぁ、今それを言っても仕方ないよ。・・・それで、カリムさん。例の予言って、解読作業続けてるんですよね」

「それはもちろんよ。予言どおりなら、まず狙われるのはミッド地上の中央本部。それでね、一応この日が危ないという日はおおよその見当がついているの」



・・・と言うと?



「現段階では、あくまでも予測の範疇を出ていないのを、承知しておいてね? ・・・9月にミッドの中央本部で行われる公開意見陳述階が危ないのではないかと言う意見が出ているわ」





さて、説明しよう。公開意見陳述階とは、ミッド地上部隊の運営に関する会議である。ただし、普通の会議じゃない。公開という名目が付いているところからも分かると思うけど、この会議の様子は一般公開される。TV中継なんかも入るのよ。

で、この会議には地上部隊はもちろん、本局のお偉方や局の支援スポンサーでもあるクロスフォード財団の方々なんかも多数参加する。会議の規模も大きいし、出席するメンバーも相当な方々ばかり。確かに・・・これなら狙われる要因はある。連中が本気でテロかますつもりなら、狙い目な日だ。



・・・確か、聖王教会も会議に出席しますよね?





「そうです、騎士カリムも出席予定です。私も、それに付き添いという形で」

≪なら、決定ですね≫

「うん。・・・カリムさん、シャッハさん。頼みが三つあります」

「一つは予想がつくわ。あなたも会場に行く・・・ということね」



僕はカリムさんの言葉に頷く。なんにしても、そこで何かが起きる可能性はある。他に手がかりも無いし、ドンパチやるなら現場に居た方が話は早いでしょ。



「では、もう二つはなんでしょうか」

「装備品の調達をお願いしたいんです。手持ちで足りるかどうか分からないんで」



とりあえず、画面と立ち上げて、二人に説明する。・・・当然、顔をしかめる。



「この・・・マジックカードはまぁ、あなたの言うようにマリエル技官を頼れば大丈夫とは思いますが」



ストックの一部、マリエルさんにも預けてるしね。しばらく暇が出来るし、相当枚数準備出来る。



「ただ、鋼糸や飛針・・・よね? これはどうするつもりなの?」

「当然、武装です。対AMF・・・戦闘機人戦用の」



あー、カリムさんは仕事もあったからその訓練は見てなかったな。だから納得顔のシャッハさんと違って疑問いっぱい。・・・うし、ちょい見せるか。



「まぁ、飛針は・・・わかりますよね? 投擲武器なんですよ」

「えぇ。でも、鋼糸というのが・・・」

「なら、見ててください。アルト、ちょいセットアップして」

≪はい≫





日本刀の状態になったアルトを持って、いすから立ち上がる。そのまま椅子も持って数メートル歩いて、部屋のど真ん中に置くアルトは椅子に立てかける形で。



そして、そのまま二人の方へと戻って、アルトに向き直る。そして、左手からあるものを取り出す。

鋼糸が巻きつけてあるリール。今僕が持ってるのは、低伸縮の7番。糸の先に釣りで使うような軽量の錘がつけてある。そしてそれを・・・床に置きっぱなしのアルトに向かって投げつける。

部屋に光が走る。鋼糸はそのまま飛び、立てかけられたアルトにしっかりと巻きつく。途中で抜けると危ないので、狙うのは鍔の周辺。鞘と柄にその光が巻きつく。



それを見て取ったら手首をクンと引く。すると、アルトがこちらに引き寄せられる。そのまま自動巻取りで糸も回収しつつ・・・アルトを右手でキャッチ。





≪ただいま戻りました≫

「おかえり」



そして、カリムさんの方を見る。・・・あ、なんかびっくりしてる。



「すごいわね・・・。これならお魚を釣るのに竿がいらないわ」

「にゃはは・・・」

「でも、これが本当に武装になるの?」

「なります」





鋼糸には色々な種類がある。糸に鉄粉が塗してあったり、伸びや針が違ったり・・・。御神流ご用達は、ドイツの某メーカーのもの。なんでも、軍でも使ってるとか。あ、こっちの世界にも同じようなメーカーがあるのよ。質はちょこっとだけ落ちるけど。

使い道としては・・・例えば何重に束ねて相手の首に巻きつけ絞め落としたりとか、今みたいに投擲して巻きつけてから波状で攻撃することが出来る。

今みたいに引き寄せも可能だし、縛り付けた上で近づいて斬る事も出来る。縛った後に思いっきり糸を引いて、その摩擦で対象を傷つけたり、場合によっては切断も可能とする。



なお、そのメーカーで言う3番以下のナンバリング・・・あ、ナンバリングが小さいほど糸が細くなるんだけど、それ以下の細さだと・・・恭也さんクラスなら人の首が落とせるそうだ。





「魔力込めて強化すれば、もっと確実ですね。そこらへんの鉄骨くらいは切断出来ます」



いや、怖いからしたくないけど。ちょっとね、えぐいのよ。色々な意味で。



「シャッハ」

「・・・事実です。現にヒロリスとサリエル殿との訓練で実演して、二人を驚かせていました」



驚いてたねぇ。それまでそこの辺りを教えてなかったから。そして、大いに賞賛された。この技能があれば年末の宴会は任せて大丈夫だと。・・・なにをですか。



「とにかく、今もってるのが7番なんで、3番以下のが一揃え欲しいんです。飛針も相当数。アルトに収納しておけば、数は問題ありませんから」



ホルスターで整理したりとは必要だけど。



「小刀・・・は、まぁいいか」

≪手持ちので十分でしょう≫

「分かりました。シャッハ、お願い出来る?」

「心得ました。・・・ただ、あまり使わないようにはしてくださいね」



シャッハさんが苦い顔で僕を見てそう言ってきた。いや、カリムさんも同じか。



「非殺傷設定も使えない技です。これは明らかに相手を殺すための技能と道具。使えば、きっとフェイト執務官達が心を痛めます」

「そうね、それは私も同意見だわ。なぜあなたが『準備をする』と言った時、あんなにもフェイト執務官が反対したのか分からなかったんだけど・・・理解しました。もちろん、使うなとは言えないけど・・・」

「もちろん、出来うる限り無しな方向にはします。で、あと一つ・・・まぁ、これはこれからの隠匿生活にも関わることなんですけど」










かくかくしかじか・・・というわけなんです。










「・・・恭文さん、確認しますが・・・マジですか?」

「マジです」

「あら、シャッハ。あなたも・・・」

「こ、これは違いますっ! 間違えたんですっ!!」



・・・よし、言葉遣いは本気で気をつけていこう。じゃないと、すぐにバレる。



「まぁ、僕がここに居るということでご迷惑をかけることになってもあれなので・・・こっちの方がいいかなと」

「・・・まぁ、確かにそちらの方が行方を眩ませるのには都合がいいとは思いますが」

「ただ恭文君、あなたはそれでいいの? その・・・かなり辛いとは思うんだけど」

「背に腹は変えられません。なにより、僕も代価を払う必要はあるかなと」

≪色々神経を削ることになるのは明白でしょうけど≫










そうだね、削るだろうね。でも・・・頑張ろう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



聖王教会での会談から数日後。クロノから連絡が来た。内容は、事件に関して・・・というより、あの正体不明の召喚師の身元が判明したというものだった。





なので、隊長陣は集まって緊急会議となった。










『・・・あくまでも、予測情報だ。現段階では確定情報では無いというのを、承知しておいてくれ』

「了解しました。それで、クロノ提督」

『あぁ。・・・あの召喚師は、ルーテシア・アルピーノという少女である可能性が高い。資料は今そちらに送った』





全員がそのデータに目を通す。画面の中に映るのは・・・あれ? 召喚師に似た・・・女の人。





「メガーヌ・・・アルピーノ?」

「所属は、首都防衛隊・・・」

『彼女が、その召喚師の母親だ』



・・・待って。どうして局員の娘がスカリエッティ一味にっ!?



『その資料にも書いているが、メガーヌ・アルピーノ女史は8年前、とある任務中に事故死扱いとなっている。そして彼女には当時、1歳になる娘が居た。だが、事件が起こった直後にその娘は消息不明になっている』

「クロノ提督の見立てでは、それが今回出てきた召喚師である可能性が高い・・・というわけですか」

『そうだ、彼女も優秀な召喚師だったらしい。そして、今回出てきた召喚師の特徴と、恐ろしいほどに一致する』



私達はもう一度資料に目を通す。・・・魔力光にベルカ式ベースの召喚魔法。使っている召喚獣も虫タイプ。

それにそれに・・・前にホテル・アグスタでヤスフミと戦ったり、この間もフォワード達やヴィータと戦闘した召喚獣・・・このメガーヌさんとも契約してたのっ!?



「なるほどなぁ。確かにこれは疑わしいわ。真っ黒過ぎて照りが見えるし」

「むしろ正解でしょう。これだけ条件が揃っていれば、もう覆りようがありません」

「でもよ、だったらなんでこの子はスカリエッティに協力してるんだ。相手は自分の母親を殺したかもしれない連中だろ?」

「・・・協力じゃない」





多分、利用されてる。召喚師としての素養も今までを見る限り十分高いようだし、さらわれたと思われるのも小さい時。多分、そのままスカリエッティが居るのが普通な状態で・・・。



あの男、どこまで人の運命を弄べば気が済むのっ!? 本当に・・・どこまで・・・!!





『とにかく、すまないがこの子の保護も任務の一つとして頼みたい。スカリエッティに利用されているのであれば、なおさらだ』

「了解です。・・・ところでクロノ提督」

『なんだ、高町一尉』

「この情報、どこで入手したんですか?」





・・・そうだ。これだけの情報、どこで? 私の捜査でも、これはつかめなかったのに。





『・・・恭文だ』

「ヤスフミっ!?」

「ちょっと待てクロノっ! なんでそこでバカ弟子の名前が出てくるんだよっ!!」

『理由は簡単だ。実は、アイツの友人にこのメガーヌ・アルピーノ女史とも友人だった人が居てな。・・・まぁ、色々事情があってその人の名前は出せないが、とにかく、その友人が今回の一件の話を耳に挟んで、もしかしたらと情報提供してくださったんだ。それで、僕のほうで調査をしたというわけだ』





そう・・・だったんだ。というか、またヤスフミはそういう引きを・・・。





「恭文君、相変わらず色々なものを無視しまくってるよ・・・」

「なのはちゃん、うちも同感や。アイツはまた・・・」

「しかし、クロノ提督」

『なんだ』

「そのご友人は・・・どうやって今回の一件を耳に挟まれたのですか。召喚師のことは、機密情報の一環として扱っていたはずですが」





・・・あれ? どうしてクロノは固まってるの。あの、もしかして今シグナムが聞いた事って、地雷だったりする・・・んだよね。私も色々疑問が出てきたよ。



なんだか・・・すごく嫌な予感がする。





『まぁ、その・・・なんというか、アレだ。風の』

「・・・クロノ、正直に言って。ヤスフミ、いったい何したの?」

『・・・そのご友人に召喚師の映像データを渡したそうだ。もっと言えば、ホテル・アグスタの一件でのあれこれを相談してたらしい』

「即答って、クロノ君マジで弱いなぁっ! つか、あのバカはんなことしてたんかいっ!!」





ヤスフミ、そんなことをっ!? 本当にいったいなに考えてるのっ! 機密情報を勝手に部外者に渡すのは、完全に規約違反・・・ううん、犯罪行為なのにっ!!





「それにそれにっ! 恭文君はどうしてその人にアグスタの一件を相談してたのっ!?」

『実は、その友人というのは魔導師の方なんだ。アイツにとっては少々特別な縁があってな、色々とアドバイスをもらって、助けてもらっている。映像データも、どうしてもと頼み込まれて断り切れなかったそうだ』

「だからって・・・そんなこと許されるわけないよっ! 本当に、どうしてそんなことしたのっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・はっくしゅんっ!!」

「シャマル、どうした」

「うーん、なんだかいきなり来たのよ。・・・あ、もしかして恭文くんが『シャマルさんに会えなくて寂しいな・・・。あ、もしかしてこれって恋っ!? そうかっ! 僕はシャマルさんの事が・・・好きなんだっ!!』・・・なんて、噂してるのかもっ!!」

「・・・悪いことは言わん、今すぐ病院に行け。治るとは思えんがな」

「そうね、恋の病は不治の病ですもの」

「そういう意味ではない」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・そうして、時間はあっという間に過ぎた。今日は9月の14日。ミッドの中央本部で・・・交換意見陳述会が行われる日。なお、シャマルさんは風邪じゃなかった。





恭文君は、完全に行方を眩ませた。もちろん、聖王教会に居るとバレない様に処理した上で。





本当に・・・どうしてそうなのかな? 私もフェイトちゃんも、何度も言ってる。止まったっていい、そういう選択を許してもいい。少なくとも私達は責めたりなんて絶対しないって言ってる。

でも、恭文君は『僕が自分を許せない』と言って、結局飛び込む。無茶なことや、過剰行動に走る。場合によっては、違法行動も平然とこなす。

今回だってそうだよ。私、映像データを勝手に渡したことを聞いた時、本当にビックリした。フェイトちゃんに至っては、聞いてから数日機嫌が本当に悪かった。ヴィヴィオが気にしてたくらいだし。





・・・分かってる。恭文君はそれで取りこぼしたり、傷ついた人達のことを『仕方ない』で流せないって。そんなこと、絶対出来ないんだって。クロノ君、恭文君も分かってはいたけど、事件の情報が掴めるというのと、その人と召喚師・・・あのルーテシアって子になにかあるのを感じて、協力したんだって、何度も説明してくれた。

そして、それは事実だった。その人が気になったのも分かる。だって、大事な友達の娘さんなんだから。私だって、もしフェイトちゃんがメガーヌさんみたいになって、それでエリオとキャロがあの召喚師の位置だったら・・・絶対に気になる。なんとかしたいと思う。

でもね、やっぱり心配なんだよ。大事な友達だから。そういう気持ち、少し分かって欲しい。止まる選択も必要だって・・・知って欲しいのに。





あのね、もうきっと許されてるよ? 罪は許されて無いかも知れない。でも、そんな風に全部背負おうとしなくてもきっと大丈夫だよ。本当に、本当に少しだけ楽な道を歩くこと位は、きっと許されるよ。





私には、恭文君がそうやって・・・昔の罪滅ぼしをしているようにしか、見えないよ。





とにかく、私はスバル達にレイジングハートを預けて、中の警備に入ってる。もうすぐ正午。今のところは大丈夫だけど・・・このまま、なんにも起きないで欲しい。





私がこう思う理由のにはある。・・・聖王教会が例の予言の最新の解釈を出した。それで、この意見陳述会が狙われる可能性があると出てきたから。

だから、ザフィーラさんとシャマル先生を除いた六課の前線メンバーは、全員この会議の警備に当たっている。私とフェイトちゃんとはやてちゃんにシグナムさんは、中の警備。デバイス持込禁止なのが、少し不安だけどね。

特にリインは、少しピリピリしてた。・・・昔、そういうシチュエーションで恭文君がどういう行動を取ったかを、直に見てるから。どうしても思い出すらしい。





あと・・・ギンガも居る。ギンガ、恭文君が姿を眩ませて行方不明なのを知ってるから、辛そうにしてる。スバルが気にしているくらいに。

私達にも何度か聞いてきた。心当たりはないのかと。でも、話せなかった。恭文君の居場所がバレるのは非常にまずい。例えば・・・スバルやギンガ、フェイトちゃんは、六課のみんなと居るからまだ安心だけど、恭文君は基本一人。それで居場所がバレてなにかあったら、どうしようもない。

心の中で、何度も謝った。ごめんと。・・・恭文君、私はもう知らないよ? あとでちゃんとフォローしないでギンガと絶縁になっても、それは自業自得だから。





・・・なんだろう、すごく腹が立つっ! というか、恭文君は勝手だよっ!! 私やフェイトちゃんの気持ち、全然考えてくれないし、止まってくれないし、わがままだし、私のことすぐに魔王とか冥王呼ばわりするしっ! それにそれに・・・!!










「・・・あのぉ」





そうだ、あの時だって、罰ゲームで官能小説の1部分を朗読させられて・・・それで『なのはがこういうことしてるのが想像出来ない』大笑いされて・・・! あの時、すっごく傷ついたんだからねっ!? 別にフラグとか立てられたわけじゃないけど、私は恭文君にそういうこと言われるのが嫌なのっ!!





「・・・・・・あのぉ」





そんなにフェイトちゃんがいいのっ!? 確かに私はフェイトちゃんより・・・小さいし、女の子っぽい部分も少ないように見えるかも知れないけど、それでも女の子だよっ! 恭文君、絶対私に優しくないっ!! どうしてちゃんと女の子として見てくれないかなっ!!





「もしもし・・・?」





その、たまに優しくしてくれるけど・・・それで全部なんとかなってると思ってるんだったら、勘違いだよっ!





「あのぉ、もしもしー?」





私、今度という今度は・・・!!





「もしもしぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」





ひやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?





「な、なんですかあなたっ!? いきなり大声出さないでくださいっ!!」

「いえ、さきほどからお呼びしていたんですけど・・・」




・・・え、そうなのっ!?




「はい。ほんの50行ほどスクロールを戻して読み直していただければ、お分かりになるかと」

「は、はい・・・って、スクロールってなんですかっ!?」





今、私に話しかけてきたのは・・・聖王教会のシスター? とにかく、シスター服に青色の瞳、緑色の腰まで伸びたストレートのロングヘアーの女性。身長は、スバルと同じくらい・・・かな。胸・・・よし、ギリギリだけど勝ってる。



そして、話していて一番印象的だったのは、どこか控えめで、優しい・・・心に染み渡るような声。・・・さっきまであれこれ思い出していた誰かさんとは全然違うよ。ちょっとはこの人を見習って欲しい。





「あの、ところであなたは・・・」

「あ、申し遅れました。私、聖王教会所属の教会騎士兼シスター。シオン・ソノバラと申します。気軽にプリンセス・シオンとお呼びください」



はい・・・ってっ! それは全然気軽じゃないですよっ!! お姫様ってなんですかっ!?



「もちろん冗談ですわ、シスター・シオンで大丈夫ですので。・・・失礼ですが、高町なのは一等空尉でよろしいでしょうか?」

「はい、そうです」

「シスター・シャッハから、あなた方のお手伝いをするようにと派遣されて参りました」





・・・派遣? でも、はやてちゃんやシスター・シャッハからはそんな話は・・・。





「そうおっしゃると思いまして、こちらを用意してきました」





シスター・シオンが渡してきたのは、一つの封筒。それを私は開けて、中に入っていた手紙を見る。・・・あ、確かにシャッハさんのサインらしきものがある。



えっと・・・まだまだ駆け出しの新人シスターですが、実力は確かなので是非使ってあげてください・・・だって。





「こちらで足りないようでしたら、シスター・シャッハにお確かめいただいて構いませんが」

「あ、いえ・・・。大丈夫です」





・・・事情はよく分からないけど、気を使ってくれたのかな? とにかく、今はそれに感謝しよう。



なにが起こるか、わからない部分はあるんだしね。





「とにかく、シスター・シオン。よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそよろしくお願いします」










そうして、私とこのすぐ後にやって来たフェイトちゃんにシスター・シオンを加えた三人は、一緒に警備に付くことになった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それで・・・シスター・シオン」

「はい、なんでしょうか」

「今回の警備についてはどこまで・・・」





フェイトちゃんが巡回しながら、シスター・シオンにそう聞いた。すると、シスターは顎に右手を当て、どこか思案するような表情を浮かべると・・・少し声を抑えて、そっとつぶやいた。





「フェイト執務官のおっしゃりたい事は、例えば、予言について・・・などでしょうか?」

「そう・・・です」





一緒に歩きながら、私もフェイトちゃんも驚いていた。だって、新人シスターって言っていたのに、そこまで知っているなんて・・・。





「騎士カリムの予言は、聖王教会では大きなものですから。・・・まぁ、私はシスター・シャッハに可愛がられているのが大きいのですけど」

「なるほど・・・」

「ただ、目的がいささか不透明ではあるんですよね」





・・・とおっしゃりますと?





「まず、なぜ賊がそのようなことをしようとしているのかが、分かりません。・・・管理局を潰して、どうしたいのでしょう」



それは、さっきヴィータちゃんと話していた話題。どうして・・・なぜ。考えても答えの出なかった問題。



「六課の見解としては、なにかございますか?」

「正直、私達にも細かい部分は・・・」

「私は、なんらかの武力証明ではないかと思っているんです」

「・・・高町一等空尉がおっしゃっているのは、管理局を敵に回しても勝てる兵器をその手の輩に売りつける・・・ということですね」

「はい。・・・まぁ、さっき同僚とそういう話をしていたからなんですけど」





ただ、管理局を敵に回して、直接的に攻撃して・・・それはリスクが高過ぎるというのが、さっきのヴィータちゃんとの話の結論。



でも、どうして・・・か。ううん、私達は信頼できる上司・・・はやてちゃんやクロノ君達がしっかり動いてくれる。その指示通りに動こう。それで十分だよね。





「・・・やっぱりですか」

「え?」

「いえ、なにも」





なんだろう、今ちょっと雰囲気が変わったような・・・。





「あの、シスター・シオン」

「はい、なんでしょう」

「シスター・シオンは、なにかご意見がございますか?」

「・・・私ですか?」

「はい。捜査の参考に出来ればと思いますので、よろしければ」





フェイトちゃんがそう言うと、シスター・シオンはまた少し考えて・・・話し出した。にこやかで、優しい空気と言葉は崩さずに。





「私が思うに・・・例えば、高町一尉が先ほどおっしゃったように、管理局に勝てる兵器を売りつける・・・ことを目的とします。ですが、これには疑問が生じます」

「そうですね、単なる武力証明にしては、あまりにリスクが」

「いいえ、そういうことではありません」





そう言いながらシスター・シオンは首を横に振る。そして、私達の目を見て右手の人差し指をピンと、上に立てた。



そのまま、歩きながら言葉を続ける。





「高町一尉もフェイト執務官も、よく考えてください。・・・もし、あなた方がそういう兵器を保有する犯罪者になったとして、それを他者に売りたいと思いますか?」





・・・売りたいと言うのが一般論だと思う。だって、それは確実にお金になるだろうし、欲しがる人はいっぱい居るだろうし・・・。だからこそ、ヴィータちゃんとの話でもリスクの高さ以外は問題が出なかった。





「いいですか、売るのは・・・自分と同類の犯罪者にです。どう考えても真っ当な輩が対象とは思えません。しかも、予言どおりになるなら世界は各地で混乱が起き、現行の貨幣や物の価値がそのまま通るかどうかも怪しいですもの。
いえ、もしかしたらそれら全ても崩壊するかもしれません。その場合、何を持って利益と言うのでしょう。そこをアテにするには、あまりにも不確かな部分が多過ぎると、私は思いますわ」

「では、シスター・シオンの見解としては・・・」



それで金銭的な利益を上げることが目的じゃない? 



「そういうことです。むしろ、売らない方が得だと思います」

「そういう兵器を保有して、更に作成するテクノロジーを独占することで、一種の優位性が保てるから・・・ですね」

「正解です、フェイト執務官。もし私なら、そうした上で悪の組織でも結成して、全部壊して全部独り占めにして、世界征服でもいたしますわ。もちろん、テクノロジーの発達速度が凄まじいのは、昨今の世界を見れば分かること。そこに胡坐をかき続けるのも、愚かでしょうけど」





でもでも、そうすると・・・もっと怖いことになる。連中は利益どうこうとは関係の無いところで、管理局を叩き潰そうとしてることになるから。そう、それこそ今シスター・シオンが言ったような・・・。





「スカリエッティ一味は、まるで本当に世界征服でもしようとしてる悪の組織になりますよね」

「悪の組織・・・か。なんだか、現実味が無いね」

「そうですね。少なくとも、普通の犯罪思考ではありませんもの」





犯罪は、何かしらのルールに則る事で、利益を上げる部分がある。それは世界のルールだったり、、物流的なルールだったり、犯罪者同士のルールだったり、人の思考そのもののルールだったり・・・。



でも、この考え方は違う。そのルールそのものを破壊し、そうして出来たまっさらなものに自分のルールを無理矢理押し付ける。





「しかし、この場合そう考えた方が、しっくりきませんか?」





・・・確かにそうかも。邪魔な『正義の味方』の管理局を叩き潰して、全部を征服して、それを自分達の思い通りになるようにして・・・ここは盲点だった。あまりにも単純過ぎるから。





「そうですね。ただ・・・」

「ただ?」

「目的がなんであれ、彼は・・・スカリエッティは、絶対に止めないと・・・」





フェイトちゃんの表情が重く、険しい物に変わる。最近、こういう顔が多くなった。



フェイトちゃんも少し気負ってる感じがする。恭文君が狙われているのと、あの召喚師の子の事が分かった辺りから前にも増して、スカリエッティ逮捕に・・・執念を燃やしている。





「・・・フェイト執務官」

「はい」





ビシッ!!





「少し、頭を冷やしてください」





い、いきなりデコピンッ!?





「あ、あの・・・なんなんですか、いったいっ!?」




フェイトちゃんが、額を抑えながら若干涙目でシスター・シオンを睨む。・・・どうやら、相当痛かったらしい。





「それはこちらの台詞です。・・・そんな事では、あなたの弟さんが心配しますよ?」





でも、そのシスター・シオンの言葉に私達は一瞬固まった。弟・・・恭文君っ!?



驚いてる私達はさほど気にしていない様子で、シスター・シオンは呆れたようにそのまま話を続けた。





「あなた・・・スカリエッティと因縁浅からぬ仲とか。それで熱くなっているようなら、2、3発ぶん殴った上でバインドをかけて動けないようにしてしばらくどこかへ監禁して欲しいと頼まれました」

「恭文君、いったいシスター・シオンになに話してるんですかっ!? そしてそれはブッチギリで犯罪ですからっ!!」

「細かいことを気にしてはいけません」

「「全然細かくないですからっ!!」」

「それで、彼からは色々伺っていますよ」



え、無視っ!?



「特に高町一等空尉、あなたの話が多かったです」

「え、そうなんですかっ!?」

「はい」



シスター・シオンがにっこりと笑ってそう言った。



「彼、あなたのことが好きなようですよ?」

「「えぇっ!?」」

「だって、あなたが彼の話をするとき、とても楽しそうなんですもの。あれはきっと・・・恋、ですわね」



そ、そうなんだ。恭文君、私のことそんな風に・・・。あの、嫌とかじゃなくて、私にも心の準備というか、その前にシャワーを浴びたいというか、とにもかくにも告白イベントをこなさないとどうにもならないというか・・・!!



「本当に楽しそうに・・・」

「「楽しそうに・・・」」





と、とにかく・・・あの、私もちゃんと返事しないといけないよねっ! うんうんっ!!





「魔王とか冥王とか作画崩れとか悪魔とかナチュラル外道とか。同じ女性として羨ましいですわ。殿方にあそこまで好かれていらっしゃるなんて」





やっぱりそっちなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?





「それは絶対違いますよねっ!!」

「もう、照れていらっしゃって・・・。大丈夫、私はちゃんと分かっていますわ」

「分かってないっ! なんにも分かってないですからっ!!」





ぜ、絶対にあとでお仕置きするよっ! 答えは聞かないからっ!!





「ま、こんなどうでもいい取るに足らない他愛の無い話は置いておいて」

「どうでもいいって言わないでくださいっ!!」

「フェイト執務官、ここからはちょっとだけ真剣なお話ですわ」



え、また無視っ!?



「はい」

「もし私があなたの上司なら、最優先であなたを保護という名の軟禁状態に置きます。・・・いえ」





言いながら、シスター・シオンが笑う。でも、先ほどとは違う、嘲りの笑い。まるで、私達をバカにしているような・・・そんな笑い。





「こんなピーキーな精神状態の人間を現場に出す上司の神経を疑いますわ。いくらなんでも熱くなり過ぎです。例えあなたがオーバーSの優秀な魔導師だったとしても、今の状態なら赤子でも倒せますもの。知ってます? あなた・・・今、とても弱いですよ」

「・・・あなたに、何が分かると言うんですか」



挑発にも、嘲りにも似た言葉に、つい、私とフェイトちゃんの視線が厳しくなる。そう、なにも分かってない。フェイトちゃんとスカリエッティの間に何があるのかとか、どうしてそう思うのかとか・・・なんにも。

なのに、こんなこと言われたくない。それだけじゃなくて、さりげなくはやてちゃんのことまで・・・! ついでのついでに、私のことも魔王とか冥王とか・・・!!



「分かりますわ。だって・・・」





シスター・シオンは、にっこりと笑ってフェイトちゃんを見上げながら・・・こう言った。





「昔、顔見知り程度に付き合いのあった嘱託魔導師、今のあなたと全く同じシチュエーションで戦って、負けて、捕まって、そして・・・死にましたから」





・・・え?





「もちろん、ただ死んだのではありません。人権という人権を、徹底的に踏みにじられた上で。スカリエッティと同じように、相手方もマッドサイエンティストの類でしたから、ここでは言えないような実験を数々加えられていました。
それで助けが入ったんですけど、その人間に・・・あぁ、私ですね。もう見るに耐えない状態で、懇願されましたわ。『殺してくれ』と。『もう死なせてくれ』と。まるで狂ったように・・・いえ、狂ったのでしょうね。何度も・・・何度も・・・」





言葉が出なかった。





「さすがに躊躇いましたわ。だって、付き合いはさほどでは無いとは言え、仮にも顔見知りなわけですもの。・・・迷っている間に、閉じ込められていた生体ポッドが異常をきたして・・・そのまま。
忘れられませんね。あの時、死ぬ寸前まであげ続けていた苦しそうな声と、なぜ殺してくれないのかと責めるように私を見る目。そして、考えます。・・・この手にかけた方が、もうあれ以上苦しませないで死なせて上げられたのかなと」





私もフェイトちゃんも、まるで普通のことのように話すシスター・シオンの言葉に、何も言えなかった。さっきまでのおちゃらけムードが、一瞬で壊れた。





「さて、フェイト執務官」

「は・・・い」

「・・・あなたは、そんな風に死にたいのですか? 自らを大事に思う存在を・・・高町一尉のような方々を遺して」





シスター・シオンは、変わらず笑う。普通に話す。でも、それが余計に棘となり、私達の胸を貫く。私達はただ、私より背の小さいシスターの言葉が生み出す空気の波に、翻弄され続けていた。





「死にたいのであれば、あのスカリエッティという男にあらゆる意味で陵辱されて、身も心も壊されたいのであれば、私は止めません。それも選択の一つなのですもの。・・・でも」





でも・・・。そう言いかけて、笑顔が深いものになる。





「そうして壊れてしまった時は、ぜひ私に連絡をください。迷わずに殺して差し上げます。きっとあなた、本当の意味で死にたくなっているでしょうから」





その言葉に寒気が走った。比喩じゃない、この人はもしフェイトちゃんにそんな状況が襲ってきたら・・・迷わずに、殺す。そう実感させるものがあった。



例えば、子ども同士の喧嘩で『死ぬ』とか『殺す』なんて言う人が居る。私はそういうの無かったけど。

でも、今シスター・シオンが放った言葉はそれとは明らかに違う。さっきも言ったけどそんな甘い比喩じゃない。そうなったら、連絡さえくれればそうします。ただ事実を私達に告げている。





「・・・あ、これはシスター・シャッハには内緒でお願いしますね? シスターである者がこんな発言をしたと知られては、ひどく叱られてしまいますから」





笑みが先ほどとは打って変わり、にこやかな、柔らかいものに戻った。右の人差し指が、柔らかく、ゆっくり動いて唇に触れ、内緒のポーズになる。でも・・・怖い。どこかで刃を突きつけられているようで、その笑みをそのまま受け取ることが出来ない。





「シスター・シオン、あの」

「ただ、死にたくないのであればそのヒステリーにも似ている部分は、改善したほうがよろしいですよ? そんなことでは、戦いの流れを・・・ノリを掴むことなどは到底出来ません」










そこまで言って、シスター・シオンは黙った。にこやかな笑みを浮かべたまま、歩いていく。





だけど、私も、フェイトちゃんも、笑うことが出来なかった。胸に残るのは・・・どこか、苦い思いばかり。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



時刻は・・・夕方。もう4時。





なんだか、少しだけ気が重い。きっとあの話が原因。





ヒステリーにも似た・・・か。言われちゃったな。気をつけてたのに。





プレシア母さん、私やっぱり母さん似みたいです。それがうれしかったり・・・悲しかったり。









「・・・シスター・シオン」





私は、飲み物を持って、椅子にちょこんと座って窓の外を見ていたシスター・シオンの所へ行く。



シスター・シオンは、今までと変わらない笑みを浮かべて、ぺこりとお辞儀した。





「飲み物、頂いてきました。もしよければ・・・」

「ありがとうございます、遠慮なく頂きますね」





シスター・シオンは、私が右手に持っていたミルクティーを受け取ると、ゆっくりと飲み始めた。



私も、隣に座って飲み始める。中身は・・・コーヒー。





「あの・・・」

「はい?」

「すみませんでした」

「・・・なぜ謝るのか、私には分かりかねます」





それでも・・・必要ですから。ちゃんとしないとダメなんです。私、きっと触れました。あなたの傷に、辛くて、悲しい記憶に。自覚なしだったとしても、その人と同じ姿をさらす事で、無神経に、図々しく・・・。





「あの・・・」

「私なら問題ありません。あと、彼なら元気にして居ますわ。まぁ、多少ヤンチャなところがありますけど」





・・・言いたいことが分かるって、どういうことだろ。どうもこの人には色々見抜かれている感じがするよ。初対面なのに、そうじゃないような感じがする。





「それと・・・」

「それと?」

「あなたのことを、とても心配していましたわ。先ほど話したような部分があるから、どうしても。そう言っていました。・・・だから、余計なことを言ってしまったのかも知れませんね。フェイト執務官、申し訳ありません」

「あ、いえ・・・。ご忠告、真摯に受け止めさせてもらいます。あの、ありがとうございました」





でも、元気なんだ。よかった。

あのね、ヤスフミ。私の方こそ心配だよ。部隊や仲間が居るわけでもないのに、一人で戦ってる。



だめだね、私達。なんだか・・・互いに心配かけてばかりだよ。





「姉弟なのですから、きっと心配し合うのは当然です」

「そうでしょうか?」

「そうですよ。聖王様だって、ご健在ならきっとそうおっしゃりますわ。家族の絆と納豆の糸は、中々切れないと言いますもの」





なら、うれしいです。血の繋がりが無くても、私とヤスフミはちゃんと家族で・・・姉弟だから。



でも、納豆と同じにはして欲しくなかったり。





「・・・フェイト執務官」

「はい」

「戦いというものは、どういう人間が勝つか・・・お分かりになりますか?」





どういう人間・・・。そう言えば、なのはと訓練校に居た時に似たような話をしたな。ファーン先生に言われた・・・強さの問答。





「私は・・・ノリのいい方が勝つと思っていますわ」

「ノリ・・・ですか?」





ちょっと意外だった。この人、新人なんて言ってたけど、それなりに経験がある。なのに、ノリ・・・なんていう軽い言葉で戦うことを表現することに。




「まぁ、こういう言い方をすると、誰も彼も今のあなたみたいに納得いかない顔をされますけどね」

「えっ!? あ、あの・・・すみませんっ!!」

「大丈夫ですよ。・・・ノリというのは、そうですね。自分そのものと解釈していただければよろしいかと。どんな時でも、変わらない自分らしさを出せる人間が勝つ。強さも、手持ちのスキルが何かなんて関係ないです。
もちろん、重要な要素ではありますけど、絶対に決定打ではない。戦いは、何時、いかなる時もノリのいい方が・・・自分らしさを貫ける方が勝つ。私は、そう思っています」





自分・・・らしさ。少しだけ、似ているのかも。ファーン先生が出した問答の答えと。





「きっとあなたもそうですよ。決して変わらない、あなたらしい、あなただけのノリが、あるはずですもの。それさえ忘れなければ・・・大事な人を泣かせることなど、絶対に無いはずです」

「シスター・シオン・・・」










私がなんと返事をするべきか言いあぐねていると・・・警報が鳴った。





そして、この瞬間に理解した。平和な時間は、終わりを告げたんだと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・また派手に始めたね。





「だな。ちょっと遅かったか」

≪しかし、直接的過ぎませんか?≫

≪そうだよな、なんつうか・・・やっぱりってことか≫





そうだろうね、間違いない。だって・・・あれ、もう陥落するよ?



私らの目の前で、中央本部にどんどん攻撃が加えられる。遠くからの砲撃に、ガジェットの大群の神風的な突撃。しかも、突撃しつつAMFを展開する。

それによって、中央本部の防御フィールドがその結合を解かれ・・・内部にガジェットがどんどん侵入していく。



しかも・・・中は中でもう侵入者が居る様子だし。中央とは連絡取れないんだよね?




「あぁ。一応顔見知り連中に連絡しようとしてるんだけど・・・さっぱりだ。システムも完全に掌握されてやがる」

≪それだけではありません。航空部隊も、次々落とされているようですよ≫



そうだね、爆発と叫び声が風に乗って聞こえてくるもん。こりゃひどいよ。



≪こりゃ・・・≫

「危ないだろうね。うし、行ってくるわ」

「そっちは任せたからな。あと気をつけろよ。会議場周辺、AMFで完全キャンセル化されてる」

「了解。なら・・・」

≪お気をつけて≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・高町一尉っ!!」





シスター・シオンとフェイトちゃんが戻ってきた。・・・そっちはどうでした?





「恐らく、あなたと同じです」

「通信も通じない。外とも会議場とも連絡が取れないし、非常通路もエレベーターも塞がれてる。私達・・・完全に閉じ込められたんだよ」





あぁもうっ! 完全に甘かったっ!! 来るのは分かってたのに、あっさりやられるなんて・・・!!



ううん、ここはあとでいい。もうすぐエレベーターのドアが開く。近くの局員の人達が頑張ってくれてるから。





「フェイトちゃん、少し無茶するけど・・・付き合ってくれる?」

「当然」





ありがと。・・・あ、シスター・シオンはどうしよう。





「私はお二人とお供します」

「でも、シスター・シャッハが・・・」

「会議場への通路は塞がれています。私一人が向かったところで意味がありませんわ。それに・・・今日の私の任務は、お二人のお手伝いですから」

「・・・ありがとうございます」










とにかく、開いたエレベーターの牽引ワイヤーを両手で掴む。・・・手のひらを魔力でコーティング。そのまま、下に滑り落ちるっ!!





結構な速度を出しつつ、私達三人は落下していく。手の平の魔力が金属製のワイヤーとこすれあい、火花に似た小さな光達を散らしていく。










「こんなの、訓練校以来だけど・・・色んな訓練、やっておくもんだねっ!!」





フェイトちゃんが、滑り落ちながらそんなことを口にした。・・・うん、そうだね。色々やっておくものだよ。





「シスター・シオンッ! 大丈夫ですかっ!?」

「問題ありませんっ! これでも鍛えていますからっ!!」










シスター・シオンも、手から青色の・・・あれ? この魔力反応・・・気のせいか。魔力反応が似ている人なんて、世の中いくらでも居るんだし。





とにかく、三人で一気に滑り落ちる。・・・合流場所は決めてる。地下駐車場のロータリーホール。そこまで一気に・・・行くよっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なんとか地下駐車場に到着した。三人でそのまま集合場所に走る。





当然、私もなのはもシスター・シオンも、全速力で走る。すると・・・前方に影。というか、気配。










「あれ・・・!」

「ガジェット・・・ですね」





そんな、もうこんな所まで入り込んでるなんてっ!!



ガジェット達は、私達に気づくと一斉に襲ってきた。数にして8体。

普段なら、あっさり勝てる数。でも・・・今はバルディッシュも無い。その状態で魔法戦闘は・・・!!





「・・・問題ありません。お二人とも、少し下がっててください」



その言葉と共に、シスター・シオンが私達の前に出る。ちょうど、進み始めたガジェットから私達を守るように。



「シスター・シオンっ!?」

「あの、危ないですから」

「二度は言いませんよ。・・・さて、あなた方」





そうして、シスター・シオンが笑う。さっき私達に向けたのと同じ、挑発するような嘲笑を。





「私に、釣られてみます?」





そうして、シスター・シオンの左手が・・・指先が、複雑に動く。そこから細い光が走る。瞬間、3体のガジェットが何かに縛られた。そのままシスター・シオンはその3体へと走っていき・・・。





「セットアップ」





瞬間、シスターの腰に日本刀が備えられた。それをシスターは抜きつつ、ガジェット達を真っ二つにする。



そして、爆発するガジェットには目もくれず、また左手が動くと・・・何かがガジェットの熱光線の発射光に突き刺さった。突き刺さったのは、金属製で銀色の鋭く尖った切っ先を持つ小さな刃。





「あれ・・・飛針っ!?」





飛針って・・・恭也さんやヤスフミが使ってる暗器っ! それ以前に、シスターがガジェットを斬っている日本刀って・・・!!





「「ア・・・アルトアイゼンッ!?」」





そう、アルトアイゼンだった。シスターは、アルトアイゼンを右手で振るい、ガジェット達の中を走り抜けながら残り5体のガジェットを難なく袈裟に斬り裂いた。

そして、その手には柄尻に青い宝石を埋め込んだ日本刀。・・・間違いない。間違えようがない。



でも、どうしてアルトアイゼンをシスター・シオンがっ!?





「・・・まだ気づかないの?」





爆煙を背にシスター・シオンが私達に向き直ると、出てきた声は先ほどまでの柔らかみのある控えめな声じゃなかった。そして、それは・・・私達の知っている声。





≪全く、ここまで鈍いとは・・・どんな因果律が働いてるんですか≫

「ま、いいじゃないのさ。とにかく、これでようやくこの姿ともおさらばだしね」





そうして、シスター・シオンは・・・ううん、あの子は、左手で自分の服を掴み・・・そのままシスター服も、緑色の髪も一瞬で脱ぎ去り、宙へ投げ捨てた。



すると、そこから出てきたのは・・・ジーンズの上下に栗色の髪と黒の瞳。私となのはのよく知っている子。





「・・・ヤスフミッ!!」

「や、恭文君っ!? あの、その・・・つまり・・・!!」

「そうだよ。シスター・シオンは僕」

「「・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・僕が行方を眩ませるために使った手は、古典的だけど・・・変装。





それも、完全な別人で入り込む必要があった。だから・・・女装。この一ヶ月は、普通に新人シスターとして生活していたのだ。





いや、でも辛かった。あの柔らかくも慇懃無礼なキャラと声色を始終演技しっぱなしで、トイレは当然常に女子トイレで、お風呂は他のシスターな方々と鉢合わせしないように気を使いまくって、事情を知っているカリムさんとシャッハさんからはからかわれまくって・・・。





でも、効果は大きかった。ここ2年の間にそこそこ出入りが多かった故に知り合った教会の顔見知りな方々にも、シスター・シオンが僕だとは分からなかったのだ。

そのおかげで、完全に僕という人間の足取りと行方を消すことに成功した。それに・・・変装していれば、基本行動自由だしね。










「ま、まさか女装してるなんて・・・」

「言うな。僕の身長と顔立ちに声を最大限に活用しようと考え抜いた結果、一番いい方法がこれしかなかったの・・・」

「それに、暗器やアルトアイゼンをどうして持ち込んでるのっ!? 会議場の警備、そういうの禁止なのにっ!!」

「仕方ないでしょうが。あれこれ考えて、こういう状況が来た時に備えるのは必須って結論出たんだから」



カリムさんもシャッハさんも中だし、アルトを預けられる相手も居なかったしね。ぶっちゃけどうしようもなかった。なお、だったら持ち込むなという意見はスルーします。



「ねぇ、ヤスフミ」

「うん?」

「なら、あの・・・顔見知りの嘱託魔導師の人が死んだ話とかって・・・嘘なの?」



あぁ、そういう結論になるよね。だって、話したのはシスター・シオンじゃなくて、僕なんだから。



「んなの決まってるじゃないのさ。もちろん」

「嘘だったんだね・・・」

「本当だよ」





・・・ヒロさん達との修行が始まってすぐの頃に起きた話。フェイトと同じようにクローン技術で生まれた人が、自分を生み出したイカれた科学者相手に暴走して・・・ね。捕まって、話した通りになった。何回か仕事を一緒にした人だったから、僕の方にも連絡が来て助けに行った。だけど・・・アウトだった。

正直、ショックだった。一応分かってたさ。でも・・・あれが現実なんだって、世の中の裏で蠢いている闇なんだって再認識した。



取りこぼして、躊躇って・・・後悔した物の中で、そこそこ大きい物達の一つ。フェイト達は仕事だったから、話してなかったっけ。それに、話して楽しい話題でも無いし。





「・・・そう、なんだ」

「そうだよ」



・・・ま、アレだよアレ。



「そうならないように、今みたいに守るけどね。・・・フェイトのこと、好きだから」

「・・・え」





フェイトの目をまっすぐに見る。そうして、言葉を続ける。





「じゃなきゃ、文字通りの殺し文句なんて言わないよ」





でも、恥ずかしくなって・・・顔が熱くなる。でも、もう少しだけ頑張る。





「僕はフェイトが泣くのも、傷つくのも、あんな風にオモチャにされるのも、絶対に、嫌だから。僕、男の子だもん。大好きで、大事な女の子守れなきゃ・・・ダメでしょ」

「ヤスフミ・・・」





フェイトの顔が赤くなる。それで、表情がすごく柔らかくなって・・・。





「あの、ありがと。あの・・・ね」

「うん」

「私も、好きだよ」





・・・マジ? あぁ・・・なんか色々申し訳ない気がしてくるけど、よかった。ここでやっと成立したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!





「だって、ヤスフミは大事な友達で、仲間で・・・弟だから」





グサッ!!





≪・・・分かってましたよね?≫

「うん、分かってた。分かってたよ? 僕」





だから、気のせいだ。心の中でしとしと雨が降り始めたのは、きっと気のせいなんだ。





「恭文君、たまに本気で空気読めない時があるよね」





いったいどういう意味だ。





「とにかく、あとは二人だけで行ける? 僕は今すぐ動きたいし」

「なにするつもりなの?」

「非武装局員の救出」





ここには居る。武装も魔法も無しで、ガジェットに追いかけられているような人達が。だから、助けに行く。



正直ね、色々思い出すの。だから、絶対に止める。






「・・・うん、大丈夫だよ。ここまで来ればもうすぐだから」

「恭文君、その・・・ありがと。助かったよ」

「いーよ、別に。たまたまだしね」

「違うよね。・・・ヤスフミ、私となのはのこと、守りに来てくれた。だから、デバイス持ち込んで、変装のまま近づいた」





・・・そんなんじゃない。ただ、カリムさん経由で六課の警備状況を聞いて、ちと危なく感じただけだ。あと、フェイトの様子も見たかったし。





「あのね、ありがとう。助けに来てくれて、守ってくれて・・・うれしかった。ルール違反は、見過ごせないけど」

「にゃはは・・・。やっぱり?」

「やっぱりだよ。・・・今回のこととか、メガーヌ・アルピーノさんのこととか」





そうフェイトが口にした瞬間、身体が強張った。そして、汗がダラダラと流れ落ちていく。身体が、奥から温度を急激に上げていく。





「さ、さて・・・何のことやら僕にはさっぱり」

「ヤスフミ、私もう知ってるんだよ? 友達に映像データを渡したんだよね」





・・・なぜ知ってるっ!? あ、なのはもフェイトと同じでちょっと怒った顔してるっ!!



理由・・・考えるまでもないっ! クロノさんがバラしやがったっ!!





「とにかく、そこはまた今度じっくり話そうね」

「話すのっ!? しかもじっくりっ!!」

「当然だよ。・・・ヤスフミ、気をつけてね。後でまた」

「・・・うん、またね」










僕は、それだけ言うと六課フォワード陣へと合流しようと走っていく二人を見送った。





・・・さて、アルト。










≪はい≫

「この一ヶ月の間の憂さ、ここで晴らすよ。あと、フェイトのお説教に対する恐怖とか」

≪了解です。・・・主に後者ですね≫

「正解・・・」











んじゃ・・・さっそく行きますかっ!!





















(ミッション05に続く)






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あきゅろす。
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