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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ミッション03 『変わらぬ揺らがぬアイゼン-アクション』



・・・ケンカ、しちゃったな。私、なぎ君にあんなに怒ったの、初めてかも。





最初の時のは少し違うし、いつも無茶してるのとも違うし・・・なんでだろ。





そこまで考えて、気がつく。・・・そっか、私・・・悲しかったんだ。なぎ君が無茶する時は、いつも理由がある。馬鹿げていても、無茶でも、通したい理由が。





クロスフォードさんに頼まれた・・・なら、きっと何か感じて、それで引き受けたんだよね。友達で、姉弟子でもあるから。それに、あれから何回か会ったけど、あの方がなぎ君を利用するとかそういう目的でこんなことを言うとは思えないもの。





でもね、なぎ君。・・・どうして、そうなのかな。





私、なぎ君にはどんな事情があっても、こんなことして欲しくなかった。普通に・・・して欲しいんだ。





私、不安だよ。なぎ君が無茶する度、突っ込む度、胸が苦しくなる。そして感じる。あの時感じた喪失感に似たものを。





なぎ君を見てると、本当にどこかへ突然いなくなりそうで・・・私、怖い。






・・・よし、明日連絡してみよう。メール・・・ううん、通信でもいい。しっかり顔を見て、それで話してみよう。





それに・・・ね。私はこんなの嫌だもの。なぎ君と喧嘩したままなんて、絶対に嫌だ。





















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と古き鉄の戦い


ミッション03 『変わらぬ揺らがぬアイゼン-アクション』





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・翌朝のこと、僕とアルトは聖王教会へと足を・・・向け・・・はぁ。










≪・・・気になってます?≫



聖王教会の敷地内を歩きつつ、参拝者の方々の波をかき分けつつ、歩を進める。そして考える。・・・あのお姉さんのことを。



「かなりね。あんなガチにやったの、初めてだから」



・・・最初の時とは違う。本当にギンガさん怒ってた。やっぱり、心配かけまくってたんだよな。一応理解はしてくれているもんだと思ってたけど・・・甘かったか。



≪今まで散々無茶してますからね。・・・理解はしてくれていると思います。ただ、それでもフェイトさんや高町教導官達とはまた違った意味合いで、認めていけないんですよ≫

「・・・そっか」










・・・ギンガさんは、実は僕のコミュニティの仲では、結構稀有な存在だったりする。その要因はひとつ。僕の最初の時の事・・・人を殺したことを知っても、距離を変えなかったから。実を言うと、同年代でそういう子はギンガさんだけだったりする。





例えば、フェイトや師匠になのは達は、元々初っ端から関わっていた。リインに至っては、その場に居た。シャーリーやグリフィスさんにルキノさん辺りは・・・話してない。まぁ、大丈夫だとも思うけどさ。

フィアッセさんや恭也さんに美由希さんはまた違うし・・・。だから、ギンガさんが僕を怖くないと言ってくれた時、本当にうれしかった。あの時・・・僕も少し救われた。

やっぱりね、あるのよ。そういう経歴があるって分かると、白い目というか、恐怖を感じてる目で見られることがさ。まったく、非殺傷設定の恩恵に預かってる連中はこれだから・・・。いや、僕もその一人だけど。





ま、悩んでもしゃあないか。まずは目の前のことだ。これをなんとかしないと・・・。





とかなんとか言ってると、もうすぐ裏口。この建物の上の方に、カリムさんの書斎兼オフィスがある。それは、ここから入るのだ。










≪しかし、本当に参拝者の方々が多いですね≫

「それだけ聖王が信仰されているってことでしょ」










聖王というのは、以前も少しだけ話したかも知れないけど、古代ベルカの戦乱の時代を終わらせた英雄。この聖王教会は、その名の通りその聖王を信仰する組織である。





そして、ここに重要な要素がもうひとつ。聖王の遺物・・・ようするに、古代ベルカの時代の遺産の回収と保全も、聖王教会のお仕事のひとつなのだ。

だからこそ、シャッハさんみたいな腕利きの教会騎士達の組織・・・聖王教会を固有戦力として保持している。なお、これには管理局も協力の姿勢を示している。






もちろん理由はある。聖王の遺物の中には、ぶっちぎりでアウトコースなものも存在するらしい。例えば・・・ロストロギア。

だからこそ、ロストロギアの回収・管理を優先事項として掲げている管理局も、協力しているというわけだ。じゃなかったら、無駄に権利関係でぶつかってそうだよ。





とにかく、歩は進める。すると・・・あれ?





人影を見つけた。三人の・・・女の子。全員地上部隊の制服を着てて・・・えぇっ!?










「フェイトっ! それになのはにはやてもっ!!」



僕が声をかけると、女の子達・・・つか、ぶっちぎりの関係者三人は僕の方を向く。そして、驚いた顔になる。・・・いや、一人を除いてか。



「・・・恭文君っ!?」

「ヤスフミ、どうしてこんなところにいるのっ!!」

≪それはこちらの台詞ですよ。またどうしたんですか≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、裏口で騒いでも仕方がない。僕達は中に入り、カリムさんの書斎を目指しつつ話すことにした。










「・・・騎士カリムに呼ばれたんだ」

「え、ちょっと待って。どうしてヤスフミが?」



・・・そういえば、フェイトとなのはには話してなかったっけ。



「僕とカリムさん、友達なの」

「「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」

≪以前、聖王教会で護衛の仕事を引き受けたご縁で、仲良くさせていただいているんです≫

「というか、僕の紅茶の淹れ方の師匠2号なの」





あぁ、あれもキツかったなぁ。カリムさん、意識してかしていないのかわからないけど、身体くっつけてくるんだもん。密着ですよ密着。僕がどれだけ着やせしてると思ってしまうような感触にどきどきしたと?



まぁ、年齢も離れてるから、あんまそういう感じでは僕を意識していないんでしょ。カリムさん、そういうのにはちょい疎そうだし。





「そっか、二人は知らんかったなぁ」

「え、はやて知ってたのっ!?」

「うち、カリムと仲えぇもん。なんやカリムは、恭文がお気に入りらしくてなぁ、楽しそうによう話しとるよ」





・・・いや、いかがわしいことは何もないよ? うん、本当に。





「で、恭文。今日なんで呼ばれたか聞いとるか?」

「うんにゃ」

「そっか。ま、先にネタばらししとくと、うちらのお話に参加や」



・・・まてまて。確かさっきフェイトは『六課の運営関係で話を聞きに来た』とか言ってなかったっけ? なんでそれに僕が参加よ。僕、基本的には一介の嘱託魔導師よ?



「そうだよ、それでどうしてヤスフミを・・・」

「まぁ、ちょいビックリしてもらうというか、ビビってもらうというか・・・そんな感じやな」



どんな感じだよ、それは。



「気にしたらあかんよ。・・・とにかく、入ろうか」





なんて話していると、もう書斎の前だった。なので・・・。





「失礼します」





なんて言いながら部屋に入ると、そこに居たのはカリムさんと・・・あ、珍しい。制服姿だし。





「お初にお目にかかります。高町なのは一等空尉と」

「フェイト・T・ハラオウン執務官であります」



敬礼つきでそう挨拶をするのは、局員二人。つーか、堅苦しい。もうちょいなんとかならないものか。



「お二人とも初めまして。聖王教会のカリム・グラシアです。・・・恭文君、お久しぶり」

「いや、すっかりご無沙汰しちゃってすみません、カリムさん。で、今日はなんで僕呼ばれたんですか?」

「簡単です。あなたの軟派なところを、シャッハに修正してもらおうと思って」

「誰が軟派ですか誰がっ!!」



ま、まったく・・・誰だよ、妙なことをカリムさんに吹き込んだのは。・・・はやて?



「なんでうちを真っ先に疑うんよっ!!」

「いや、他に・・・居るか」



ヒロさんとか、ヒロさんとか、ヒロさんとか。もしくはサリさんとか。修行で聖王教会の修練場使っていた時に、色々お世話になったから。



「正解よ」



やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁっ! あの二人は余計なことをっ!!



「とにかく、立ち話もなんですから、こちらへ」



というわけで、カリムさんに案内されて窓際の丸いテーブルへ移動する。・・・つか、地上に降りていたんかい。

僕達より先に来ていたのか、さっきからそのテーブルに座りっぱなしの男性が一人。時空管理局が誇る優秀な人材の一人で、僕の優秀な師匠達の一人、クロノさんだ。なお、今日は珍しいことに提督の服。いつもはあの地味目なバリアジャケットなのに。



「・・・クロノ提督、少しお久しぶりです」

「あぁ、フェイト執務官も。元気そうでなによりだ」



・・・ねぇ、あなた方おかしいから。敬礼つきで役職つきで挨拶する兄妹がどこの世界に居るのよ? もうちょい何とかならないのかね。



「・・・ほら、ヤスフミも」

「あー、そうだね。クロノさん、久しぶり・・・じゃないですよね」

「そうだな、なんだかんだでちょこちょこ会っているからな」

「あの、ヤスフミ。そうじゃなくて・・・ね? 今は公式な場なんだから」



うっさい。何時いかなる時もあるがままを通すのが僕のジャスティスなのよ。・・・ジャスティスなのよっ!!



≪大事なことだから二回言うんですね≫

「正解。・・・つかさ、堅苦しいの無しにしようよ。ここ、顔見知りしか居ないんだからさ」

「ヤスフミっ! お願いだからもうちょっと」

「あぁ、いいのよ。フェイトさん。恭文君の言う通りだもの。ここはいつもどおり・・・ね?」




と、カリムさんがいい感じで締めてくれたところで、全員席に座る。・・・さて、このメンバーでどんなカードが出てくる? ロクなもんじゃないとは思うけどさ。





「さて・・・そろそろ始めようか。機動六課の今後の運営方針と、設立の裏事情に関してや」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・まずは昨日の一件についてだな。恭文、お前が交戦したというアンノウンについては、報告書通りか?」

「そうですね。銃器・・・質量兵器使いで、腕前は相当。いや、戦ってて楽しかったですよ〜。あそこまで腕の立つ奴と実戦でやりあうのは、結構久々でしたし」



・・・あの、なんで皆様揃ってそんな苦い顔するの? お願いだからもうちょいすっきりした顔でいこうよ。



「・・・ヤスフミ、お願い。私、そういうこと言って欲しくない」

「・・・へーい。で、アレは基本僕が相手します。つーか、六課メンバーは師匠達除くとアレ無理でしょ」

「またなんでや。うちのフォワード陣舐めとるんか?」

「そうだよっ! 恭文君は居ないから知らないだろうけど、みんなどんどん強くなってるんだからっ!!」



・・・はやてはともかく、なのはは本気で言ってるのか? 教導官としてどうなのよ、それ。



「なるほど、納得だ。で、なのは」

「なに?」

「・・・それ、六課メンバーは全員、AMF完全キャンセル化状態でも『いつも通り』に戦えるって考えていいんだよね?」



僕がそう言うと、なのはが固まった。そう、言いたいことが分かったらしい。



≪最後の転送魔法以外で魔法を使った様子はなかったです。現に、その場に居たギンガさんやギンガさんのデバイスであるブリッツキャリバーと私は、相手の行動を察知できませんでした≫

「つまり、あなた達の見立てでは、アンノウンは魔法なしでの戦闘を可能とし、その優位を利用するためにAMFを活用してくる可能性があるということね?」

「『魔導師は、魔法無ければ、ただの人』・・・って言いますしね。僕が相手なら、そうします。つか、元々僕はああいうのを何度も相手にしてるんだもん。専門って言えば専門です」





イレインやらストーカーおっさんとかね。それに、こういう時のために恭也さんや美由希さんと警防でどんぱちしてたし、ヒロさん達やサバゲ同好会の方々に協力してもらったんだ。



やらなきゃ・・・なんないっしょっ!!





「ヤスフミ・・・あのね、大丈夫だから。みんな居るし、ヤスフミ一人に任せるような真似は」

「・・・いや、それもズレてるでしょ。みんな揃って閉じ込められたらどうすんのよ。僕しかやれないでしょうが」



なのはなんて特にそうだよ。空から高笑いしながら砲撃撃てるから強いのではあって、フィジカルはだめでしょ。

なお、ここで言ってるダメは、運動音痴とかそういう話じゃない。魔法なしじゃあ1級レベルな方々と戦闘出来ないという意味だ。普通に動く分なら、なのははそこそこいける。なんか、訓練校に入った時に改善しようとがんばったらしいし。



「とにかく、フェイトがなんと言おうと準備だけはしておく。何にも出来ずに殺されるなんてごめんだから。もちろん、魔法が使える状況なら、当てにするけどね」

「・・・うん」

「で、次や。・・・こっちもアンタを当て出来るなら、したいんよ」



そうして画面が立ち上がる。現れた空間モニターに映るのは、例の召喚師。そして・・・赤い髪のツインテールで、小悪魔っぽい・・・というか、某魔神っぽい服装の女の子。

ただし、体長が違う。身長が・・・30センチ。リインと同サイズなのだ。



「はやて、師匠達の見解は・・・やっぱり?」

「やっぱり・・・やな。恐らくやけどユニゾンデバイスやな」



ユニゾンデバイス。魔導師or騎士・・・この場合はロードと言うんだけど、ロードと融合・・・ユニゾンすることで能力を発揮するデバイス。ま、リインがこれだし、僕もリインとユニゾン出来るんだけど。

でも、確かユニゾンデバイスって、適合するロードを探す手間とかもあって、どこも開発とかはしてないんじゃ。ということは、この子・・・どこから生まれてきたの?



「これも恐らくやけど、本当にオリジナルの融合騎かも知れん。ま、確証は無いんやけどな。それで、アンタがガンマン女とドンパチしてる間、うちのフォワードが召喚師と召喚獣共々相手しとったんだやけど・・・」

「ユニゾンする様子、なかったんだよね」

「そうや。これがどういうことか、言わんでもわかるな?」





まず、二つある。ひとつは召喚師とはユニゾン出来ない。そして・・・居る可能性がある。この炎を操るちびっ子の融合相手・・・ロードが。





「その場合、やっぱり恭文君が相手をするのが一番いいって言うのが、八神家の結論?」

「そうやな。もちろん、ヴィータやシグナムも居るけど、リインのユニゾンで一番能力出せるのは、やっぱり恭文やからな。・・・つか、おかしいわっ! なんでアンタがうちら差し置いて一番リインのロードっぽく見えるんやっ!?」



いや、どうしてと言われましても。僕だってこの能力はもらったものな訳でしてね? ・・・あ、原因が分かった。



「誰も氷結魔法使えないからじゃない?」

「そういう問題かっ!?」

≪Jack Pot!!≫

「大当たりちゃうわボケっ! マジでヤキモチ妬いとるんや、うちはぁぁぁぁぁぁっ!!」



・・・うん、知ってる。それでちょっと申し訳なく思ってる。だって、リインの勢いがすごいんだもん。リインもそれでいいって感じ出まくってるんだもん。



「とにかく・・・これから恭文にはより六課と連携してもらわなければならない。頼むぞ」

「了解です」










・・・とにかく、こんな話をした後で話は本題へと入った。内容は・・・六課設立の裏事情。










「まず、六課の設立の目的は・・・恭文、覚えているな?」

「もちろんです。・・・ロストロギア・レリックとそれに付随して出てくるガジェットの対策。で、独立性の高いエキスパート部隊の実験例。要するに、実運用でのサンプル作り」

「正解だ。表向きはそうなっている」



僕もアルトもそう聞いていた。でも、違うらしい。

だってクロノさんは今、それらを表向きと言い切ったのだから。



「まず、六課の後見人には」



空間モニターが僕達の前に立ち上がり、三人の人物が映される。



「僕と騎士カリム。そして僕とフェイト、恭文の母親であるリンディ・ハラオウン提督が居る」





・・・ま、いいか。確かにリンディさんは僕の・・・お母さんだしね。その、どうしても照れくさくて、ハラオウン家で暮らし始めてすぐの頃に一回だけしか呼んでないけど。

それで、僕がむちゃくちゃ緊張して呼んでたからなのか、無理しなくていいからって、優しく言ってくれて・・・。



また、呼ぼうかな。心配ばかりかけてるし、少しくらいがんばってもいいかも。





「そして・・・」



画面が変わる。そしてまた、三人の人物が映された。・・・待って待って、なにこれ?



「かの三提督も、非公式ながら六課の設立と運営に関しての手助けをしてくれると、確約を得ている」

≪・・・待ってください。なぜここでミゼットさん達が出てくるんですか≫





さて、ここで説明が必要だろう。三提督というのは、ミゼットさんにラルゴさん、レオーネさんの三人で、管理局創設時から世界の平和のためにがんばってきた英雄的な方々である。

現在は、それぞれ相談役やら元帥やら、一種の名誉職に付いており、局の通常の運営には干渉していない。ただ、昨日ギンガさんと話した予算会議のような重要な会議などには、まるでどこぞの老人会を思わせるような雰囲気で出席している。



で、実は僕は何回か会ったことがある。原因は・・・先生とアルトだ。同年代で、元々仲のいい友達同士だったらしい。飯でも奢ってやると言われて突然引っ張られて、そのまま三人にたかってた。なお、僕は謝りました。

あと・・・はやてと師匠と一緒にやった警護任務だね。普通に一緒にお茶飲んだりして、交流を深めている。というか、なんか孫みたいに見られてる。

でも・・・『あの馬鹿に振り回されて大変だろう?』とか、『君はあの色ボケのようになるなよ・・・』とか、『また本命以外でフラグを・・・』とか言うのはやめて欲しい。色々気になるから。



ま、そこはさておき・・・これどういうことっ!? ただのロストロギア対策の部隊ひとつの設立と運営に、こんなぶっ飛んだ方々引っ張り出す理由が分かんないからっ!!





「あなた方が疑問に思うのは当然です。これには理由があります」





そう言って、カリムさんが取り出したのは・・・タロットカードサイズの用紙を白いリボンで束ねたもの。リボンが解かれると、それが光を放ちながらカリムさんの周囲を囲むように円を描く。





「私のレアスキル・・・プロフェーティン・シュリフテン。これは最短で半年先に起こる事件や事故を詩文形式で書き出す能力なんです」



つまり・・・未来予知っ!? すごいじゃないですか、それっ!!

とにかく、僕達の前に用紙が飛ぶ。文字が書かれているけど・・・なんだこれ、わかんないよ。



≪古代ベルカ文字ですね≫

「アルト、読めるの?」

≪えぇ、グランド・マスターに習いましたから≫



・・・習ったらしい。表現色々おかしいけど。でも、先生古代ベルカ文字なんて読めたんだ。



≪ただ、これは・・・≫

「難しいでしょう?」

≪えぇ、どう解釈していいのか困ります。古代ベルカ文字は年代や地域毎に同じ言葉でも意味合いがまったく違う場合もありますし。それに・・・詩文形式ですよね? その辺りの情緒的とも言える解釈も鑑みると、どう受け取るべきか、迷ってしまいます≫

「その通りよ。そして、これは二つの月の魔力がうまく揃わないと作成出来ないの。今、あなたが言ったような部分もあるから、的中率は解釈間違いも含めてよく当たる占い程度。つまり・・・さほど便利な能力というわけではないのよ」



ふむ・・・なるほど。で、この能力と六課設立、どう結びつくのさ。



「この予言に関しては、聖王教会のみならず、次元航行部隊や各地上世界のトップも目を通す。今、騎士カリムがおっしゃられた的中率云々は抜きにして、あくまでも有識者からの情報提供の一つとしてな」

「実際に当たることもあるわけやしな。・・・ところがや、ミッド地上はこの予言がお嫌いや」



はやてが少し困り気味な表情を浮かべながら、そう口にした。そして、その場に居る誰もがその理由にすぐに思い当たった。



「レジアス・ゲイズ中将・・・だね」

「レジアス中将、大のレアスキル嫌いだものね。私も色々聞いてる」





そう、なのはが今言ったように、レジアス中将はレアスキルの類やそれの保持者が好きではないのだ。・・・はやてが地上部隊の上の人間に受けがよくないのも、その辺りが原因らしい。





「・・・あの人、それ以外はすごい人だと思うんだけどね」

「あら、もしかしてあなた・・・」

「何気にファンですよ? まぁ、本局組なハラオウン執務官や高町教導官には理解されませんが」



なんて言うと、二人が苦い顔をして見合わせる。・・・ま、ここはいいか。



「そして、そんな騎士カリムの予言にある一文が少しずつ書き加えられている」



ある一文・・・てか、少しずつってなにさ。



「恭文君、先ほどあなた・・・未来予知と言っていたわよね?」



・・・え、口に出てたのっ!?



「出てたわよ。思いっきり」

「は、恥ずかしい・・・!!」

「あら、恥ずかしがることはないわ。殿方は少しくらいそういう部分があったほうが、魅力的だもの」

「・・・そういうものですか」

「そういうものよ。ただ、未来予知というのとは少し違うわ」



・・・と、おっしゃりますとどういうことでしょうか。



「この能力は現在の世界の情勢や飛び交う情報、その他色々なデータを集め、そこから導き出される・・・予測データなの」

「予測・・・ですか。ん? つまり、その予測データである文面に、少しずつ書き加えられているっていうのは・・・」

「そういうことだ」

「この詩文が指し示す未来が現実のものになる可能性が、少しずつ・・・でも確かに高まってきている。私達はそう考えているわ。そして、それは恐らく・・・今、この瞬間もよ」





そこまで言うと、カリムさんは用紙の中から一枚を取り出し、読み上げる。





「・・・旧き結晶と無限の欲望が交わる地」










詩文だけに、初っ端から無駄に大仰な文面。それが最初の印象だった。










「死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る」










でも・・・伝わる。カリムさんの声が、耳に、心に伝わってくる。










「使者達は踊り、中つ大地の法の塔は、虚しく焼け落ち」










そして、認識する。










「それを先駆けに、数多の法の船は」










今伝えられているものが、いったい何を示すのか、何を壊すのか・・・それを。










「砕け落ちる」










それを初めて聞いた人間は、誰もがその答えをすぐには認識できなかった。





だって・・・あまりにも答えがデカ過ぎるから。そう、あんまりにも大きかった。










「・・・あの、それってっ!」

「まさかっ!!」










でも、逃げられない。忘れることも出来ない。もう知ってしまったから。










≪旧き結晶・・・中つ大地の塔・・・恐らくですが、レリックとミッド地上の中央本部≫

「数多の海を守る法の船・・・。本局、それに属する次元航行艦の部隊。それが砕け落ちるってことは・・・」

≪それで正解でしょう。というか、これらの部分だけ無駄に分かりやすいですよね≫










まったく同感だよ。とにかく、これらが指し示す答えは・・・。










「管理局システムの、崩壊」

≪出ましたね、とびっきりのジョーカーが≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



明かりを遮断していたカーテンが開かれて、外の光が再び部屋の中に差し込み、明るくさせる。





でも、底冷えのする感覚は拭えなかった。どうしても・・・日の光の暖かさを認識できなかった。





つか、スカリエッティやレリックって・・・そこまでだったのか。










「・・・どういうことですか、これ」




この予言をカリムさんは当然として、クロノさんやリンディさん、はやてが知ってたのは分かった。局の上層部の人間が知ってるのも分かった。



まぁ、もう考えるまでもないけど、六課は・・・。





「そうだ、この予言の回避のために作られた」





そうだよね、そうじゃなきゃ、このぶっ飛び予言と設立云々が繋がらないし。





「まず、この予言に事は局の上層部の耳にも届いている。なので、一応の対策はしているんだが・・・」

「その場合、問題になるのはミッドの地上本部なんです」

≪レジアス中将が、この予言を信じていないから・・・ですね?≫

「そうだ。特別な対策は、一切取らないらしい」





いや、それもどうなのよ。現にガジェットや戦闘機人も出てきてるのに。





「まぁ、無理ない言うたら無理ないやけどな。万が一にも中央本部がテロなりクーデターなりで壊滅したとして、それで本局まで・・・言うんは、考え辛いんよ」

「とは言え、キーワードとなるものが現実に複数出ている以上、放置しておくわけにはいかないんだが、問題がある。・・・本局からの干渉は出来ないんだ」



レジアス中将、調子こいてる本局が嫌いだしね。下手に干渉すれば、内政干渉やらなんやらでゴタゴタするのは目に見えてるか。



「ミッド地上の発言力の強さは、以前から問題視されとるからな。本局もそうやけど、カリム達聖王教会も下手な真似は出来んのよ」

「異なる組織同士が手を取り合うのは、難しいことです・・・」

「・・・いや、カリムさんや聖王教会が気に病む必要ないでしょ。つか、本局と地上は同じ組織ですよ? それで現状なのがおかしいんですよ」





でもさ、めんどくさ。権利関係でゴタゴタするのはいいけど、それに現場で実際に命張る人間を巻き込まないで欲しい。本気でウザいし。





「ヤスフミ、そんな言い方ない。クロノ達だって、一生懸命やってるんだよ?」

「いや、恭文の言う通りだ。上の人間のゴタゴタに、現場で実際に事態に当たる君達を巻き込んでいい道理などない。・・・とにかくだ」

「だから六課・・・なんですね。六課はミッド地上にありながら、直接的指揮権はクロノさん達本局組持ち。つまり、ミッド地上で自由に動かせる。そこを利用して・・・」

≪事態の推移を見守り、場合によっては本局や聖王教会の戦力が整うまで、前線に立ってドンパチする。だからこその過剰戦力と指揮系統≫

「そうや、それが・・・六課の意義や」





・・・なるほどね、そりゃミゼットさん達も絡むわ。管理局システムがぶっ壊れれば、なんにしても世界は混乱する。だって、今まで世界を治めていた組織がなくなるんだもの。絶対にとんでもないことになる。





「もちろん、皆さんに任務外でご迷惑はおかけしません」

「それは大丈夫です」

「八神部隊長から、確約をいただいていますから。部隊員への配慮も含めて」



・・・本気で狸だね。完全にやる気満々かい。



「・・・それでは、聖王教会騎士、カリム・グラシアとしてお願いします。大変な任務になるとは思いますが・・・引き受けて、いただけますか?」



・・・ま、みんなの答えは決まっているか。



「・・・非才の身ではありますが」

「全力にて、承らせていただきます」



なのはも、フェイトも、こう答える。局員として・・・現状を放っておけないから。



「恭文君」



・・・はい。



「あなたは・・・どうかしら」





・・・どうしようかね。正直、ちょっとビックリしてる。なんつうか・・・デカいなと。世界規模な事件か。いつもとは・・・違うね。





「・・・恭文」

「はい」

「お前は、今から六課所属とする」





・・・はい?





「どういうことですか、それ」

「言った通りだ。・・・今回はいつもとは違う。お前を個人として戦わせておけるほど、余裕はない。すまないが、六課に・・・僕達と同じ局の一員として、戦ってもらう。もちろんタダでとは言わない。暫定的にだが局員としての権限も与える。不便は無いはずだ」



なるほど、ビビってもらうやらびっくりしてもらうやらっていうのは、こういうことですか。最初から示し合わせていたと。なーんか最初から六課と連携強化って雰囲気出てたから、おかしいとは思った。



「アンタの能力は、これからの状況で必要になる。それはこの場に居る全員が分かってる。・・・もちろん、アンタが局が嫌いで、組織の人間として戦う事が嫌なんもよう知っとる。でもな、今回は折れてくれんかな。いつものアンタじゃダメなんよ」

「ヤスフミ・・・やってみようよ」



・・・って、フェイトも賛成派かい。



「六課は、きっと気に入ってくれると思う。みんなだって喜ぶし」

「みんなのためにやるって、違うでしょうが。つか、僕は」

「お願い、ヤスフミ。・・・やってみてから、考えようよ。部隊だって、局員として戦うことだって、きっと悪いものじゃないよ。今までが・・・その、嫌なものばかり見過ぎただけだから」










・・・アルト、どうしようか。










≪私は、あなたと一緒に戦うだけですよ。いつも通りに、私達らしく・・・です≫










僕達らしく・・・か。・・・なら、答えは一つだね。










≪いいんですか? きっと荒れますよ≫










いいのよ。・・・正直に言うとね、ちょっとビビッてた。いつもとは全然違う。だから、クロノさん達の言うことも仕方ないのかな・・・ってさ。でも、そんなの違う。





そんなの・・・僕達らしくない。それに、変わってないしね。あの時見つけた答えも、守りたいものも、壊したいものも、なにも変わってない。





つーわけで、いくよ。アルト。










≪はい、マスター≫










・・・さて、どう切り出すかな。ま、ここは直球勝負でいいか。










「・・・話は分かりました」

「そうか、助かる。では、今後のことだが」

「六課には行きません」



僕がそう言うと、場が固まった。もっと言うと、安心していたクロノさんとはやてとフェイトが。



「・・・どういうことや?」

「話は分かった。なので、六課には行かない。局員としての権限も要らない。いつも通りに、一介の嘱託魔導師として、らしく戦う。そう言ったの。・・・聞こえなかった?」

「お前は・・・! 僕達の話を聞いてなかったのかっ!? いつものお前ではダメだと言っているだろうがっ!!」

「そうだよヤスフミっ! クロノやはやてだって、ヤスフミの能力を買ってくれてるからそう言ってくれるんだよっ!? どうしてそういうのが分からないのっ!!」

「・・・同じことを何度も言わせんな」





ニッコリと笑って、見る。納得いかないという顔の三人を。なぜだか瞳が震え始めたけど。





「僕は六課には行かない。局の一員として戦うつもりもない。これは・・・カリムさんの依頼も、予言も関係ない。局の都合も関係ない。世界も関係ない。僕とアルトでやると決めた、僕達二人の戦いだ」





・・・これが僕達の答えだ。今までだって、ずっとそうしてきた。だから、変わらない。変えたくない。これを譲ったら、今までが嘘になる。





「誰がなんと言おうと、最後までらしく・・・いつものノリを通す。で、邪魔するなら、誰であろうと潰す。・・・分かった?」



・・・むむ、納得しないか。不満顔で睨んで来てるし。ま、もうちょいまじめな話するか。



「・・・局の一員として、六課の人間として今回の一件に関わるってことは、ここからは『本局の人間』として動くってことでしょうが。そんなの、やり辛くてしょうがない」

「ヤスフミ、それは誤解だよ。本局の人間として動くことにはなるけど、後見人の方々がちゃんと付いていてくださるから・・・」

「そうだよ。それに、どうもレジアス中将の事好きだから、恭文君は本局が好きじゃないみたいに思ってるかもしれないけど、全然・・・そんなことない。みんないい人達だって、知ってるよね」



・・・あー、違う違う。そういうことじゃない。まったく、もっと説明しなきゃだめってどういうことだよ。



「・・・なるほど、そういうことか。だから六課には入れないと」

「そういうことですね」



クロノさんは察してくれたというのに。不満顔が一気に消えた。



「・・・あなたは、万が一にも六課が・・・本局が動けなくなった場合のことを考えているのね? それに巻き込まれるリスクを考えている」

「そうです」

「そうならんためにも後ろ盾をしっかりして・・・言うても、アンタは納得せぇへんよな」

「するわけないじゃん。それで取りこぼすなんて、僕はごめんなのよ」



そんなの、絶対に嫌だ。そんな現実を否定したくて、今を覆したくて、今まで戦って来たんだから。



「でも・・・恭文君はそうなったら飛び出すよね」

「飛び出すね」

「だったら、それまでは関係ないよ? 結果は同じなんだから」

「関係あるよ。六課の人間・・・本局側の人間で、局員権限まで与えられていたっていうのは、ハッキリ言ってその場合邪魔になる」





本局や聖王教会が動けなかった場合、事態解決には当然ミッド地上だけで当たる事になる。で、地上部隊は本局がお嫌いだ。いくら飛び出したからって、『元』本局側の人間の力を借りようとするだろうか。答えはノーだ。

ただでさえ権利関係めんどい事態で、どっちかの側に付く様な真似は避けたい。はやてやクロノさん達を信用していないわけじゃないけど、そんな都合に振り回されるのはごめんなのだ。



やっぱり、嘱託って便利だよね。どっち側でもないコウモリだから、自由に出来るんだもん。それに僕は、地上部隊の方が受けいいしね。





「恭文君」



カリムさんが、僕を見る。いつもの温和な顔じゃない。真剣な・・・騎士としての顔。



「多分、なのはさんやフェイトさんも言っているとは思うけど・・・あなた一人ですべてを背負う必要はないのよ?
例えそれで取りこぼしても、決してあなた一人に責を背負わせるような真似はしないわ。その責任は、局が・・・聖王教会が・・・みんなで背負っていく。それで、納得は出来ないのかしら」

「出来ません」

≪・・・私も同じくですね≫



まぁ、心配はかける。悪いのは僕だ。でも・・・それでも・・・さ。



「組織の一員だから。局員だから。それで言い訳して止まったら・・・僕が嘘になるんです。だから、飛び込むんです。今までもそうしてきました。それは、これからも変わりません」

≪私達、わがままなんですよ。誰がなんと言おうと、私達が納得できないんです。すみませんが、勝手させてもらいます≫



二人揃ってそう言うと、カリムさんは小さくため息を吐くと・・・笑って・・・そう、笑ったのだ。



「分かりました。そこまで気持ちが固まっているなら、私達はもう何も言いません。はやて、クロノ提督、それでよろしいですね」

「・・・仕方ないでしょう。昔から、僕達の誰も本気のコイツは止められませんから」

「クロノっ!!」

「フェイト、君も納得しろ。君にも、恭文は止められないだろう?」



当然だ、止めたら潰す。



「これもいつもの事っちゅうわけか・・・。ま、しゃあないな。つーわけで、恭文」

「うん」

「あんた、しばらく聖王教会で保護されといてな」










・・・はい?










「それが今日あなたをここに呼び出した一番大きな原因なの。・・・恭文君、あなた、狙われているわ」

「・・・はいっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あの、恭文君が狙われているってどういうことですかっ!?」

「そうですよっ! あの、それって・・・」

「二人とも落ち着け。・・・結論から言うと、恭文を狙っているのはスカリエッティだ」





・・・はいっ!? まってまって、なんでスカリエッティが僕をっ!!





「そうだよっ! ヤスフミは生まれが特殊なわけでも、レアスキルがあるわけでも、強い魔力があるわけでもなんでもないんだよっ!?」

「でも、狙われる要因はあるんよ。・・・ヘイハチさんや」

「・・・はやて、どういうことよ。つか、順追って説明して」



現状、僕もなのはもフェイトもさっぱりなんだよ。



「まず、これはロッサが調べてくれたことなの。局のデータベースにあなたの先生・・・ヘイハチ・トウゴウ氏とあなたのデータが、何者かに不正に引き出されていた形跡があったわ」

「僕と・・・先生の?」

「そうよ。ロッサが言うには、まるで関係者としか思えないような形跡だったそうだけど。それで・・・」



僕達が次の言葉を待っていると、いきなり念話が繋がった。相手は・・・クロノさん。



”ヒロリスさんとサリエルさん、この二人のデータも勝手に引き出された形跡があったそうだ”

”ヒロさん達がっ!?”

”そうだ。二人の場合それのみならず、身辺も相当かぎまわられてるらしい”





・・・つまり、僕がというより・・・『ヘイハチ一門』が狙われている?





「私達の結論としては、スカリエッティは出自や特殊部分ではなく、現状の能力に着目して、恭文君とヘイハチ氏を欲していると思うの」

「なのはちゃんとフェイトちゃんも知っとるやろ? ヘイハチさん、むちゃくちゃ強いやんか。それも、あの人も恭文と同じく資質で言えば平均以下や。にも関わらず・・・な部分に、生命の可能性がどーたらこーたらとか考えてるんやないかなと」

「だが・・・トウゴウ先生は基本行方不明な方だ。僕や母さんでも連絡が取れないどころか行方そのものが分からない。
いや、あの人の桁外れな戦闘能力を考えれば、捕獲そのものが不可能だろう。エース・オブ・エースと、その同格の執務官の二人を相手にして『楽勝』なのだからな。そこで・・・」



ま、まさか・・・!!



「そう、アンタや。実力的には十分エース級。しかも、連絡もつくし居場所もちゃんと分かる。捕まえるなら、こっちの方が早いやろ」



つまり・・・先生の代わりに僕っ!? なんだそのふざけた理由っ!!



≪・・・なるほど、私達に喧嘩を売ってるわけですか≫

「アルト、潰すよ。こりゃ余計に局員どうこうで戦えないわ」





もしこれが事実なら・・・奴らは僕たちに・・・『鉄』に喧嘩を吹っかけた。だったら、買ってやろうじゃないのさっ!!




≪私のマスター達を実験動物と見た罪、命を持って購ってもらいますよ・・・!!≫

「後悔させてやる・・・! そして、潰すっ!!」










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”・・・やっぱ、こうなってもうたなぁ”

”は、はやてちゃん・・・。やっぱり、恭文君六課に引っ張ってこうよ。いくらなんでも今回は”

”あの、私が話すよ。そうすればきっとヤスフミ、喧嘩なんて言わないでちゃんと分かって・・・”

”無理やて。つか、フェイトちゃんそう言って止められたこと一度も無いやんか”



・・・うぅ、それを言わないで。どうしてかいつも負けちゃうの。ヤスフミ、どうしても止まってくれなくて。



”あぁ、せやから予言の事話して、どないかして六課に引き込もう思うてたのに・・・”

”だからクロノ君もはやてちゃんも、あんなに必死だったんだね”

”普通に狙われてる言うたら、どんなアウトコース走るかわからんしな。それに状況分からんやつちゃうし、なんとかなる思ったんやけどなぁ・・・。ま、予想はしてたわ。アイツがヘイハチさんから受け継いだ鉄の想い、相当やもん”



鉄の想い・・・か。



”そうだよね、恭文君はあのヘイハチさんの弟子だもの。だから・・・”



だから・・・狙われている。



”フェイトちゃん、どうしたん?”

”ううん、なんでもないよ”










・・・ヘイハチさん、私、少しだけあなたのことを恨んでいます。





鉄の想いなんてものが無ければ、ヤスフミは狙われることもなかった。・・・ううん、きっと私達の言葉を聞いて、普通の生活に戻ってくれたんだろうなと、考えるんです。





もちろん、全部が嫌なわけじゃないです。魔導師としてのヤスフミに、たくさん助けてもらいましたから。





でも・・・また飛び込む選択をするあの子を見ていると、不安になります。どうして、私や皆と・・・他の局員と同じ道を歩いてくれないのかなと、どうしても不安になるんです。





きっと、もう許されている。もう8年も前なんだから。今までたくさん苦しんできたんだから。だから・・・もう、そんな風に自分一人で背負わなくていいのに、楽な道を歩いていいのにと、思うんです。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・そっか、やっさんはやっぱり戦う選択をしたか。それで、今はどうしてる?」

『フェイト執務官達を見送りに行ったわ。ここの敷地内なら安全だから。・・・でもヒロリス』

「なに?」

『なんだか、うれしそうね』





そうかね? ・・・うん、うれしいかな。やっさんの中にもちゃんとあるんだって再認識してさ。私らと同じく、ヘイハチ先生から受け継いだ鉄の想いってやつがさ。



バカげていても、無茶でも、想いを通したいと思う心。古臭くて錆だらけで・・・だけど、むちゃくちゃ強い鉄ってやつがさ。クロノ提督や八神部隊長に、噂のハラオウン執務官には悪いけど、私は嬉しいね。さすがは先生似だよ。





『ただ、フェイト執務官はとても不満そうだったわよ? 恭文君、無事にここに戻ってこれるかしら・・・』

「・・・それはまた不安だね。あ、それでカリム」

『分かってるわ。恭文君には私とクロノ提督から事情説明しておきます。あと・・・件のメガーヌ・アルピーノさんのことも、クロノ提督が近日中に上手い形で六課に伝えてくれるから、安心して』

「頼むわ。あ、やっさんには代わりに謝っておいて。急に連絡取れなくなっちゃうけど、すぐに会えるから心配しないでってさ」





・・・しかし、私らにまで手を出してくるとは、連中は本格的に節操なしらしいね。ま、いいさ。売られた喧嘩は買って、潰せばいいんだし。





『もう、仕方ないわね。恭文君だけじゃなくて、おじ様とおば様にも私から伝えておきます』

「お、悪いね。今度いい茶葉でも差し入れに行くわ」

『別にいいわよ。・・・ねぇ、ヒロリス』



なにさ、また真剣な・・・つか、怖い顔しちゃって。ほらほら、もう年なんだから皺が寄ったら戻らなくなるよ?



『無視するわね』

「それもひどくないっ!?」

『茶化さないで。・・・復讐のつもり?』





・・・はは、カリムからはそう見えるか。いや、それ以外に見えないよね。私でもはたから見たらそうだって判断するよ。





『もしそうなら、今すぐにやめて。そんなことをしても、メガーヌ・アルピーノさんは・・・』

「・・・知ってるよ」



もう、死んでるだろうしね。つか、生かしておく理由が思いつかないよ。



『なら、分かるはずよ。奇麗事かも知れないけど、そんなことをしても誰も喜ばない。きっと・・・虚しいだけだわ』

「あー、カリム。なんか勘違いしてるみたいだから言っておくと、そんなんじゃないよ」



そう、別に今回のことに関わる理由は、復讐って言うのとは違う。・・・ま、多少はあるけどね。そういう感情が出てこないほど、私は人間出来てないのよ。



「復讐なんて、アンタの言うように虚しいだけさ。現役時代に嫌になるくらい・・・見てきたからね。経験もある。もう、肌で知ってる」



ま、強いて言うなら・・・アレだよ、アレ。



「あの子が残した子が、不幸になりかけてる。寂しくて、悲しくて、暗い世界しか知らないで、今を生きてる。今、この瞬間もだよ。・・・私はね、それを変えたいのよ。絶対に」



映像の中のあの子、本当に無表情だった。10歳くらいの頃なら、もっと明るい顔をしていいのに。・・・アレを見た時に思った。あの子を守ろう。もう、メガーヌは居ない。だったら、その代わり・・・にはなれなくても、友達にはなれるだろうと。

過去は変えられない。でも、今は変えられるのよ。なんでか分かる? ・・・未来ってやつを、消さないためになんだよ。



『・・・分かったわ。でも、無茶はしないで。あなたになにかあれば、おじ様とおば様に申し訳が立たないわ』

「りょーかい、パパンとママンには、上手く言っておいて。・・・大丈夫、おいしい茶葉を持って、すぐに会いに行くからさ」










そうして、通信が終わった。カリム、やっさんのこと頼んだよ。せめて飛び込むまでは、守ってあげて。










「・・・ヒロ」

「分かってる。で、これからどーすんの?」

「とーぜん、いつも通りのアウトコースな事件捜査だ。行方は眩ませた上でな。・・・で、手がかりはこれだ」



サリが何も言わずにモニターを立ち上げる。で、私はそれを見る。・・・その中に映っていたのは、やっさんと同じ色合いの髪をした壮年の男性。一応、私も知っている顔。



≪サリ、これゼスト・グランガイツだよな?≫

「正解だ。例の部隊の隊長さんで、8年前の被害者の一人だ。で、次・・・」



・・・サリ、これ市内のサーチャーの映像だよね? またこんなのどうしたのさ。



「とーぜん、ハッキングだ。あ、俺達のデータ荒らした奴らと違って、痕跡は残してないから安心しろ」

≪またアウトコースブッチギリじゃねぇか≫

「そうでもしないと証拠掴めないだろうが。とにかく、これを見てくれ」



画面が何回か切り替わると、二人の人物が映った。やたらとでかくて小汚いコートを着たのと、黄色いコートを着たちっこいの。



「で、この映像に俺特製の顔認証システムを走らせる」



顔認証システムっていうのは、顔の骨格なんかでどこの誰かを認識するシステムだ。変装してたりフードかなんかで顔を隠していても、一部分さえ分かればそこからシステムが働いて、一発で誰かを見抜くことが出来る。


 
「まず・・・ルーテシアだ」



黄色のコートの子が、ルーテシアと一致する。・・・結構普通に市内を歩いてたんだね。これは盲点だった。



「そして・・・次だ」



これは、小汚いコートの奴だね。そして、一致した。

ただし・・・これ、どういうことよ。



「サリ、ちょい待って」

≪どういうことだよ、これ≫

「知らないよ。でも、見ての通りだ。どういうわけかこの小汚いのと、ゼスト・グランガイツが同一人物って結果が出てくるんだよ」



・・・他人の空似・・・はないか。クローンとかの類なら、可能性は0じゃないけど。



≪それと、主が更に調べたところ、確かにゼスト・グランガイツに似たこの人物は、あちらこちらで目撃されていました≫

「結構やばげなアングラ連中とかとも交流があるらしい。連中、やることやって、積むもん積めば、そのあたりの事に興味持たないしな」

≪じゃあ、なにか? 死んだ人間が生きてやがって、うろついていると≫

≪これがクローンでもない限りは、そうなるな。ずいぶんとオカルトめいているものだ・・・≫



・・・確かにね。でも、こりゃありえないわ。

しかも、このおっちゃんはルーテシアと一緒に居る。つまり・・・スカリエッティの関連な奴なのは、間違いない。



「で、情報はまだある。・・・レジアス・ゲイズ中将だ」

「あのおっちゃんがどったの」

「どうもレジアス中将は、ゼスト隊に・・・戦闘機人の一件への操作に対して、圧力をかけていたらしい。程度は分からないけどな」





はぁっ!? 



いや、なんでよ。だって、あのおっちゃんは地上の平和を守るのが生きがいみたいなもんなのに。

それが、戦闘機人という厄介ごとに対して圧力? いや、ありえないから。おかしいでしょうが、それ。





「俺もそう思う。ま、なんにしてもここからだな」

「ゼスト・グランガイツとレジアス・ゲイズか。またデカイのがやって」





言いかけて、言葉が止まる。だって、気づいたから。・・・サリ。





「くそ、マジでKYな連中だな。この隠れ家は一番のお気にだったってのに・・・いきなり放棄かよ」

≪主、こうなっては仕方ないかと≫

「でもよ、やっさんと一緒に買いに行って、一緒に鑑賞した秘蔵のエロディスクの数々がおじゃんになるんだぞ? それはさすがになぁ・・・」



アンタら、いつそんなことしたのっ!? つか、マジで馬鹿だろっ!!



「お前、そうは言うけど」



そう言いながら、サリが金剛を静かにセットアップさせる。



「男同士の友情を深めるには、こういうの有効なんだぞ?」



で、私もそれに習いアメイジアをセットアップさせる。白い光に包まれて生まれたのは、金色のナックルガードに、細身の片刃の剣。柄尻に紫の宝石。それを両手に持つ。



「いや、それはよく聞くけど・・・深まったの?」

「深まったぞ。やっさんが義姉物、もしくは金髪ロングか巨乳な女優さんに本能的に惹かれるというのを知って、泣いたりしたから」



・・・ごめん、そこは知りたくなかった。つか、本能的になんかい。やっさん、あんたそこまでかっ!?



≪ボーイ、そこまであのブロンドガールがいいのか・・・?≫

≪そこまでらしいぞ? それで主、数はどれほどに≫

「50ってとこか? ただ、ちょっと甘かったな。ステルス魔法だけじゃ、俺らに奇襲なんざかけられないよ。いくらなんでも魔法に頼りすぎだ」



アメイジアや金剛のサーチには引っかからなかった。つまり、なんらかのステルス性質持ちの魔法で近づいてる。でもさ・・・気配は丸見えなんだよね。探知隠して存在隠さずってやつ?



「そうだね。・・・んじゃ、ちょうどいいから」

「錆落としと・・・いきますか」










その次の瞬間、その場は破壊の閃光で支配され・・・戦いが始まった。




















(ミッション04へ続く)




















あとがき



古鉄≪さて、色々気になる感じで終わっていったミッション03.みなさん、いかがだったでしょうか。本日のお相手は古き鉄・アルトアイゼンと・・・≫

恭文「ども、蒼凪恭文です。いや、どんどん話が飛ぶね。つか、僕の活躍がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





(・・・アニメ本編にほとんど絡まない裏方位置なので、仕方ないと言えば仕方ない。でも、蒼い古き鉄、ちょっと納得出来ない)





古鉄≪うるさいですよ。・・・ウサハイマット≫

恭文「馬鹿っ! こんなところでんな物騒なもん撃つなっ!! ・・・とにかく、ここから一ヶ月ほど行方眩ませるわけですよ。ちょっと趣向を凝らしてね。あれも・・・辛かった・・・」(泣)

古鉄≪泣かないでください。・・・さて、今回の話は13話と14話ですね。本当にどんどん進んでいきます。予言とマスターを狙う悪意の存在。そして・・・真実に近づきつつあるヒロさん達です≫

恭文「とにもかくにも、話は進んでいくわけですよ。いや、啖呵切ったのに早速保護されるって・・・僕、情けないなぁ」

古鉄≪仕方ないでしょう。六課に行かないなら、せめて事件が動くまでは隠れておけと皆さんから言われたんですから。それに、下手に出歩いたらヒロさん達の二の舞でしたよ。あっちはあっちで大変だったそうですし≫

恭文「それもそうだね。さて、次回はいよいよ運命の日っ! その中で僕達は・・・?」

古鉄≪是非お楽しみくださいっ! それでは、今回はここまでっ!! お相手は古き鉄・アルトアイゼンと・・・≫

恭文「蒼凪恭文でしたっ! それでは、またー!!」










(そうして、二人カメラに手を振りながらエンディング。
本日のED:『英雄』)









恭文「・・・はいっ!?」

フェイト「ヤスフミ、どうしたの?」

恭文「いや、次回以降の台本読んでたんだけどさ・・・。これ、ありえないからっ! いったいどうしろとっ!?」

フェイト「えっと、なにするのかな。・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

恭文「これ・・・どうすりゃいいのよっ!!」










(おしまい)






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