小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第143話 『We go back EGG/いつもそこにある煌きの名前は』
キセキ・エル・イル『しゅごしゅごー♪』
エル「ドキッとスタートドキたまタイムなのですっ! ドキたま最終章……ついに大詰めっ!」
イル「てーか今回が最終回でもOKなノリだよな。もうあと1〜2話で済むんじゃね?」
キセキ「実はそうなのだ。そしてそんな今回の話では僕が大活躍」
イル「あ、お前の出番ねぇから」
エル「まだ星の道の中を右往左往してるのです」
キセキ「なんだとっ!」
(立ち上がる画面に映るのは、吹き荒れる黒い暴風と――アンロック)
キセキ「くそー! 僕の出番をよこせー! 最終回前だというのにこの扱いはなんだっ!」
イル「うるせぇよっ! テメェは前回までにたっぷり出てるだろうがっ!」
エル「なのですっ! その分エル達に出番よこすのですよっ! ……せーのっ!」
エル・イル「「じゃんぷっ!」」
キセキ「王に出番をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
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前回のあらすじ――もうすぐ卒業なのにお説教する事になってしまいました。ちょっと苦手だけど、頑張ろう。
やっぱり不満そうな顔の柊さんを見ていると、ここは話術で相手を雁字搦めにして潰せる蒼凪君の出番……いや、だめだ。
蒼凪君の場合『生まれて来てごめんなさい』状態まで追い込みそうだ。うちのジョーカーVは加減知らないし。
噂に聞くクロノ提督が味わった地獄の数々は柊さんには辛過ぎるだろうし……よし、僕がやろう。
僕がやらなきゃ柊さんの命に関わる。いくつかプランを頭の中でまとめて、早速交渉開始。
「蒼凪君にこってり叱られたみたいだね。でも柊さん、これはちょっとバカだよ」
「バカじゃ、ないもん」
柊さんは張りつけ状態のまま、また涙を零す。
「バカなのは先輩達だよ。みんな良い子なのに。悪い事なんてしてないのに……あたしっ!」
柊さんはそこで首を横に振って、涙を周囲に撒き散らす。
「この子達と離れたくないっ! この子達が寂しい思いをしないように守りたいっ! なんでそれだけじゃだめなんですかっ!
この子達に×付けた宿主が悪いのにっ! この子達の事いらない子扱いして勝手に×付けたみんなが悪いのにっ!」
「どうしてそう言い切れるのかな。×が付いた子ども達だって苦しんでるかも知れないのに。柊さんはそういうの」
「分かってるよっ! だってあたし……あたし、ほたるに×付けちゃったんだからっ!」
予想外の返答が返って来て、僕は思わず言葉を無くしてしまった。
「×が付いた時苦しくて寂しくて悲しくて……でもそれよりこの子達の方がずっと苦しんでるっ! ずっと寂しがってるっ!
先輩達は×たまの――この子達の声がちゃんと聴こえないから分からないんだっ! この子達、ずっと泣いてるんだっ!」
おそらくそれは事実。柊さんは×たまの声が分かるから……だから×たま達も僕に敵意を向けながら身体を寄せ合う。
「×を付けられた事が悔しくて悲しくて……なのにまたそんな人達のところに戻れなんて可哀想だよっ!
でもあたしは違うっ! 絶対この子達に×なんて付けないっ! あたしは……この子達を守りたいっ!」
「なら、×がなくてもこの子達がこの子達である事は変わらないよね」
柊さんにそう返すと、彼女は表情を固めて首を傾げた。僕の言っている意味がよく分からないらしい。
「君もその宿主と同じだ。ううん、もっと卑怯で罪が深い」
やっぱり×たま達の事だけを考えて視野が狭くなっている様子を見て、自分のあれこれを思い出してしまう。
険しくなりそうな表情を緩めるために呼吸を入れ替えて、改めて柊さんを見る。
「柊さんは自分が×たまの側に居たいから、みんなのこころに×を付けても良いと思ってる。みんなの事なんて考えていない」
「先輩待ってっ! どうしてそうなるのっ! りっかはそんな事考えてないっ!」
「じゃあどうして浄化する事をそこまで反対するのかな。浄化しても柊さんの事を忘れるわけじゃないのに」
「だってこの子達に×を付けたような子のところに帰したくないっ!
きっとまた×を付けて……この子達の事悲しませるっ! そうに決まってるもんっ!」
「柊さん、もう一度この子達をよく見て」
柊さんは僕に言われるがままに視線を左右に向け、自分を心配そうに見ている×たま達を見る。
「この子達の殻に描かれている×印の中には、本当のこの子達の姿がある。でもそれは今×に隠れてしまっている。
そんな今のままでいいと望む事は、この子達に×が付いたままでいいと望むのと同じなんだ。
……確かに×がついてもこの子達がこの子達なのは変わらないかも知れない。でも、君はそれを言い訳にこの子達に×を付けている」
柊さんは僕の言っている意味が分かるらしく、身体を震わせて顔を青くする。
「そして×を付けるという事は、この子達の宿主の夢を――この子達自身を否定するのと同じ。君の言葉には、確かな矛盾がある。
守りたいと言いながら君は、この子達自身を否定している。側に居て欲しいがために、この子達と宿主の可能性を殺してるんだ」
「辺里、先輩」
『ムリっ! ムリムリっ!』
『ムリムリムリ……ムリっ!』
「ううん、違わないよ」
言っている事は状況から読み取れたので、騒ぐ×たま達にはそう返す。
「もう一度言うよ、柊さん。君の言葉には矛盾がある。君は友達を守ろうとなんてしていない。
君は友達のために出来る事をなにもしていない。……君は、間違っている。そして」
柊さんから×たま達に視線を移すと、×たま達が一斉に身体を震わせた。
「君達も間違ってる。君達が柊さんのところに居たい気持ちは無理がないのかも知れない。でも今のままじゃダメなんだ」
『ムリっ!?』
「君達と一緒に居たいがために今のままを――×が付いたままの今を望む事が柊さんの罪だ。
そしてそれは、君達が今のまま柊さんと一緒に居たいと望めば望むほど更に倍加する」
そこまで言って僕は、少し表情を緩める。でも、悲しげな顔になってしまうのは……許して欲しいかも。やっぱりこういうの、辛いから。
「もう一度よく、考えてみよう? 君達は柊さんと友達なんだよね。
友達としてまず一番にやるべき事があるんじゃないのかな」
『……ムリィ』
僕の言葉が柊さんに届いていると願いたい。そして涙を零し続ける柊さんには、ちゃんと考えて欲しい。
柊さんと×たま達が本当にお互いを思いやっているというのなら、やるべき事がある。向き合うべき矛盾がある。
まだ小さいこの子達には難しいかも知れないけど、ここは抜かせない。だってこの子達は……友達なんだから。
All kids have an egg in my soul
Heart Egg――The invisible I want my
『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!
第143話 『We go back EGG/いつもそこにある煌きの名前は』
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ほたるの案内でりっかの家に到着。りっかの家は茶色でレンガ仕立てな壁が目立っているマンション。
その最上階がりっかの家らしく、僕達は揃ってエレベーターに乗ってほたるの先導でりっかの家がある階にやって来た。
「ねぇ恭文、りっかちゃんのお父さんお母さんにはどう説明するのー? やや達だけが来たら」
「それなら大丈夫だよ。元々直で入って話そうとは考えてないから。そんな事したらびっくりして奴ら逃げるし。……ほたる」
腕を組みながらほたるの方に視線を向ける。
「僕達は外で待ってるから、×たま達に事情を説明してきて。で、こう付け加えといてくれる?」
「なにかしら」
「僕達は外で見張っている。もし逃げようとしたら、遠慮無く浄化してりっかとはさよならも出来ずにお別れだってさ」
ほたるは険しい表情で特に異議を申し立てたりもせずに、頷きを返してくれる。
「……分かったわ。なら、少し待ってて」
「お願い」
ほたるはそのまま僕達から離れて……あとは説得を任せるだけと。ここからは様子に気をつけつつ待つ事になる。
「シオン、ヒカリ、あと他のみんなも……×たまの気配とか気をつけてて」
「ほたると×たま達が逃げると思ってるでちか」
「ほたるはともかく、×たま達の方が気になるんだよ。あの様子見てるとさすがにね」
ほたるを信用していないというよりは、やっぱり×たまの方なんだよね。この場で荒事になる危険も考えると、自然と気が張り詰めていく。
ちょっとの変化でも見逃さないようにと周囲の気配を徹底的に探っていく。特に気を向けるのは、りっかの家の方だよ。
「だが、さすがに不法侵入はしないんだな。僕はてっきりやると思ってたんだが」
「やろうと思えば出来るけどね。そういう能力の使い方も出来るし」
「一体どこでそんなの覚えたでちか」
「まだフェイトと付き合う前に一人暮らししてた時、空き巣が入って来てさ。
たまたま遭遇したからぼこぼこにした上でふん捕まえて吐かせた」
この手の魔法は犯罪に使われる可能性が大きいから、一般的には教えない。訓練校でもそれは変わらないらしい。
だから自分で組むしかなくて……僕は術式を教えたら見逃すかどうか考えると言って教えてもらったのよ。
無論その上で局に突き出して報奨金もらったけど。だって考えた上でやっぱり見逃すのはダメだと思ったからさ。
「恭文……大丈夫だよー。きっと運良くなるからー」
「……やや、どうして僕の頭を撫でるの?」
「大丈夫なのです。リインはいつでも恭文さんの味方なのですよ」
「それでおのれは足に絡みつくなっ! 動きにくいでしょっ!?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
恭文君に促されるままに家に向かって、りっかちゃんの部屋の窓の方へ行く。窓は予想通りに開きっぱなしだった。
まぁ学校のみんなはりっかちゃんの絵の具を届けに来てくれたわけだから……ちょっと待って。どうして部屋の中がこんなにぐちゃぐちゃなの?
りっかちゃんの机の上に置いてあった参考書やノートに寝間着は床の上にぶちまけられ、布団も同じく。
窓際に置いてあったプランターもひっくり返って土が零れちゃってる。私は頬を引きつらせながら、部屋の中に入った。
「え、えっと……みんな」
戸惑い気味に声をかけると、部屋の中に居たみんなが一斉にこちらに振り向いて駆け寄ってくる。
『ムリー! ムリムリムリー!』
『ムーリー! ムリっ!』
「あぁもう落ち着いて。これは一体どういう事なの?」
『ムリムリ……ムリっ! ムリムリームリムリムリー!』
ふむふむ――なるほど、だいたい分かったわ。私は改めて部屋の惨状を見渡した。
「もしかしてりっかちゃんの絵の具袋を持ち出そうとして、これ?」
『ムリっ! ……ムリー!』
「あぁもう、泣かないで。りっかちゃんには私から説明しておくから。……わざとじゃないのよね。ちょっと失敗しちゃっただけ」
『ムリっ!』
みんな一斉に頷いたので、そこは確かみたい。私は表情を緩めて、頷きを返した。
「だったら大丈夫よ。ちょっとびっくりしちゃうかもだけど、ちゃんと謝れば」
……そこまで言って言葉を止めてしまった。そうだ、だって私は今ここに。
『ムリ?』
「あのねみんな、落ち着いて聞いて欲しいの。実は」
私がここに居る理由を忘れないようにと心に刻みながら、息を入れ替える。それから改めてみんなを見て、話を切り出した。
「ガーディアンにみんなの事がバレたわ」
『ムリっ!?』
「それで今すぐみんなを浄化しなきゃいけないという話になった。りっかちゃんと学校に来てくれた子達も……ロイヤルガーデンに居る」
『ムリー!』
みんなは慌てふためいて部屋の中を右往左往する。それですぐに部屋の外を目指して移動を開始。
「無駄よ」
鋭くそう言うと、みんなは動きを止めて私の方を見る。
「ガーディアンのみんなも近くに来ているの」
みんなの身体が震え、困惑した様子で顔……というか、×を向き合わせ始めた。
「それでもし逃げるようなら、りっかちゃんにさよならも出来ずに浄化するって言い切った」
『ムリ……ムリっ!』
『ムリムリっ! ムリ……ムリムリムリー!』
「そうね、お別れなんてしたくないわよね。それはりっかちゃんも、今りっかちゃんの側に居る子達も同じ」
みんな、気持ちは同じなんだ。だけど……私、情けない。このままじゃだめだって頭で分かってたはずなのに、納得し切れていない。
このままみんなを逃したがってる。このまま逃げてもどこにも行く場所なんてないっていうのに。
「でもね、だめなの。お願い、浄化されて」
『ムリっ!』
『ムリっ! ムリっ! ムリムリィィィィィィィィィィィィィィィッ!』
「私達じゃ……あなた達を守れないのっ!」
×たま達の叫びが胸に突き刺さる中、私は大きく声を張り上げて一喝した。それで×たま達は全員動きを止める。
「……あなた達の宿主は、今も苦しんでいるかも知れない。この間、私に×を付けたりっかちゃんみたいに」
×たま達はりっかちゃんの様子を見ているからかすぐに思い当たったらしく、黒い身体をまた震わせた。
「その結果、あなた達の宿主は更に未来を諦めてあなた達を壊すかも知れない。そうなったらもう、一緒には居られない」
『ム、ムリっ! ムリムリ……ムリっ!』
「嘘じゃないの。私達がこのまま一緒に居ても、あなた達を守れない。あなた達の助けになれない」
『ムリムリっ! ムリムリ……ムリムリムリっ!』
「それでもあなた達は一度その×を取らないといけない。その上でどうすればいいか考えなきゃいけない」
俯いて瞳から涙を零してしまう。それで私は……ただ謝る事しか出来なかった。
「ごめん……本当に、ごめん。私達は」
『……ムリ』
目の前から風が吹き、優しく髪を揺らす。それに気づいて顔を上げるとうちの子達が身体から黒い光を放っていた。
同時にその光は同じ色の粒子を含んだ風にもなっていて……その様子を見て嫌な予感がした。
『ムリィィィィィィィィィィィィィィィッ!』
『ムリムリムリムリィィィィィィィィィィィィィィィッ!』
あの子達の悲しげな叫びが響くと部屋の中に風が吹き荒れ、ぐちゃぐちゃな部屋が更にヒドい事になる。
窓ガラスは砕け散り、布団屋寝間着は吹き飛んでプランターの土も舞い上がっていく。
「あの、待ってっ!」
『ムリムリムリムリムリムリィィィィィィィィィィィィィィィッ!』
『ムリィィィィィィィィィィィィィィィッ!』
そのままこの子達は私の脇を凄い勢いで通り過ぎて外へ……マズい、この子達りっかちゃんのところへ行こうとしてるっ!
私は慌てて振り向いて窓の外へ向かうあの子達の方を見て……その瞬間、外の景色の色が幾何学色に変わった。
あの子達はなにか見えない壁に阻まれるようにしてベランダの手すりの辺りのなにもない空間にぶつかり、こちらへ跳ね返される。
そうして全員で部屋の中に戻ってしまって、驚きのあまりまたみんなは部屋の中で右往左往する。
「まぁまぁこういう事になるんじゃないかとは思ってたけど」
それでベランダにどこからともなくマント姿の恭文君が現れ、腰に差している刀を抜く。
「予想通りってどういう事だろうねぇ。……お前ら、もう逃げられないよ。どう足掻いてもりっかのところへはいけない」
『ムリっ! ……ムリィィィィィィィィィィィィィィィッ!』
×たま達は肩を寄せ合うように密集して、恭文君に向かって風を吐き出す。でも恭文君は刃を逆袈裟に振るってその風を簡単に散らす。
『ムリっ!?』
≪あなた達、バカですね。私達にそんなのが通用するわけないじゃないですか≫
≪なのなの。無駄な抵抗はやめておとなしく来るの。そうじゃなきゃ≫
「このまま浄化コースだ。今のお前ら外に出したら、どうなるか分からないからねぇ」
私が恭文君と×たま達を交互に見比べている間に×たま達は一鳴きして、輝きを更に強める。
『ムリムリムリ……ムリっ!』
「――そんな。恭文君、やめてっ!」
×たま達は輝きを――内包している力を強めていく。それで部屋の中が黒い光で満たされていった。
「この子達、浄化しようとするなら自分で自分を壊すって言ってるっ!」
≪なのっ!?≫
『ムリムリ……ムリっ!』
「この子達も今学校に居るみんなと同じ」
りっか同様×たま達の言葉が分かるらしいほたるの表情が、どんどん重くなっていく。
『ムリムリムリっ!』
「りっかちゃんと一緒に一緒に居たい。変わりたくない……ずっとこのままがいい。そう言って……泣いてる」
『ムリムリっ!』
「たまごを守るのがガーディアンなんだから、もうなにもするな。自分達はこのままでいいんだって……そんな」
たまご達から視線を恭文君の方に戻す。恭文君は大きくため息を吐いて、刀を持ったまま一歩踏み出した。
「そう、だったら」
そこで恭文君は笑って……それを見て寒気が走った。
「壊れろよ」
『……ムリっ!?』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おいヤスフミ、お前なに言ってやがんだっ! コイツら本気だぞっ!」
「どうしたの、早く壊れろって言ってんだよ」
「おいっ!」
ショウタロスの静止は振り切り、砕けたガラスを踏み締めるように近づく。
『ムリ……ムリムリっ!』
「どうした、壊れろよ。それでりっかに伝えてやる。お前のせいで家の×たまは全部壊れたってな」
『ムリっ!? ……ムリムリっ!』
「そう、りっかのせいで×たまが壊れた。お前達の宿主のこころも空っぽになった」
×たま達がなにを言いたいかなんとなくだけど分かる。分かりながらも僕は足を進め、鉄輝を打ち上げる。
「もしかしたらりっかもお前達も宿主も――みんなそろって笑える時間が掴めるかも知れなかった。
でもお前達はそれを壊した。自分達の幸せの下に、ずっと泣きっぱなしで未来を諦めてる人達が居るのを忘れてる」
『ムリ……ムリムリムリっ! ムーリムリムリ、ムリっ!』
「自覚してるならまだいい。でもお前達は誰も彼もそこから逃げてる。それで自分達が正しいって顔してやがる。
僕はお前らみたいなバカをやって、仕事も信頼も全部失った愚か者を知ってるよ。だから言い切れる」
×たまの言葉は完全無視で、更に近づく。連中は僕から逃げるように後ずさるけど、決して壊れたりなんてしない。
うん、壊れないよね。壊れる覚悟もないよね。だって……そんな事したらりっかと別れなくちゃいけないんだから。
「お前らに自分を自分で壊す事なんて出来ない。……変わりたくない?
甘えてんじゃねぇよ、そんなの当たり前だ。誰だって変わる事は怖い」
それは僕にも言える事。もうすぐガーディアンじゃなくなって、この1年楽しくやってきたみんなとも今後どうなるかなんて分からない。
もしかしたら住むとことかも全然違って疎遠になったりしてさ。そういう寂しさを……実はかなり感じてる。
それは星の道に入って、昔のあむを見て更に強くなった。僕はなんだかんだで、ガーディアンって居場所が大切になってる。
でも、このままじゃいられない。僕だって変わっていくんだ。そこはコイツらとも、りっかやあむ達とも同じ。
「でも、ずっとこのままなんてありえない。だから変えていく勇気を持つんだ。
自分の中にあるものを見つめて、手を伸ばして……今を覆すために抗うんだ」
『ムリ……ムリムリっ!』
「お前らも僕の知る愚か者と同じだ。お前達はただ、りっかの優しさに――この居場所に甘えてるだけだ。
甘えてあのお人好しを利用してるだけだ。自分の都合の良いものしか見ようとせず、逃げてるだけだ。
友達と言いながらあのお人好しを利用して、いいように使っているのがお前達の罪だ。だから僕はお前らにこう言う」
僕と×たま達との距離はもう3メートルもない。そして×たま達は部屋の壁に背を当てて……震え出した。
そんな中僕は左手をスナップさせ、震え続けるバカ共を指差した。
「さぁ、お前達の罪を……数えろ」
『ムリ……ムリムリムリっ! ムリー!』
「――ムリじゃねぇよっ! 近づいたら壊れるんだろうがっ! だったらとっととやれよっ! さぁっ!」
×たま達はお互いを見合わせるように慌てふためく。でもすぐにその動きを止め、項垂れながら身体から放っていた光を止めた。
……やっぱりこうなるか。あんまりに予測通りなので、僕は大きく息を吐いてほたるの方を見る。
「ほたる、このままコイツらは学校に連れてく」
「……えぇ」
打ち上げた鉄輝を解除した上でアルトを鞘に納めつつほたるを見ると、ほたるは今にも泣きそうな顔で僕を見ていた。
「あの恭文君、やっぱり……もう少しだけ」
「ダメだ」
「そう……よね。もう、ダメなのよね」
そう、もうダメだ。正直に言うと僕もこれで本当に正しいのかどうか自信がない。でも、このままはダメなんだ。
今はまだ未来を模索出来る。今はまだ、例えりっかや×たまの言う事が本当でもやり直しが利く。
でもそんな『今』はずっとは続かない。近いうちに消える可能性の高い現状を思いながら、僕は結界と変身を解除。
さて、これでようやくスタートラインだ。模索出来るうちに思いっ切り模索して……今を覆す。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
シャーリーに指示されてやって来た場所は……聖夜市の中にあるイースターのレコーディングスタジオだった。
どうしこんな場所にと首を傾げながら、入り口で鉢合わせした二階堂先生と海里君達と中に入っていく。
どうやら私達が入る許可自体は取ってあるらしく、堂々と表門から普通に入れた。てゆうか、警備員さんに『ここにどうぞ』って案内された。
ただそこを疑問に思う余裕はない。だってゆかりさんがまた、二階堂先生を前にして意地張り始めちゃったし。
二人はお互いに目も合わせようとしない。売り言葉に買い言葉って感じなのかな。私も……うん、覚えがあるよ。
「フェイトさん、すみません。二階堂先生もその……やはり今回の事に腹を立てているようでして」
『男女のあれこれというのは専門外で、我々は返って刺激してしまったかも知れない。申し訳ない』
「ううん、大丈夫。話そうとしてくれただけでも充分だよ」
海里君やBYも一応説得してはくれてた感じっぽいので、二人には聞こえないように小声で話しながら首を横に振る。
『それで三条ゆかりの方はどうだろうか。私が思うに彼女の態度が軟化すれば、二階堂悠も多少は落ち着くと思うのだが』
「そっちと同じよ。やっぱ歌唄の事気にし過ぎてるみたい。あとは……過去の事か」
ティアナも困った様子で、無言で前に進む二人の背中を見る。
「何気に責任感強い人だしなぁ。私達に見せなかっただけで、あの時歌唄が死にかけた事とかかなり気にしてるのかも」
「そういうので余計に姉上殿の態度が強硬になっているという事か。納得出来なくはないが」
「……え、えっとぉ、なのはは本当にここに居ていいのかなぁ。なんか場違いなような気がしなくもないんだけど」
結局なのはも一緒に来ちゃっているのがなんというか……とにかくある一室の前で私達は足を止める。
どうやらここが指定された場所らしく、ゆかりさんは勝手知ったるなんとやらという感じで躊躇いなく入っていく。
「あら、真っ暗じゃない。……フェイトさん、足元気をつけてね。コケたら大変だもの」
「あー、そりゃ言えるや。これでなにかあったら、僕達蒼凪君に更に頭上がらなくなるし」
部屋に入りながらそう言った二人は慌てて顔を見合わせて、すぐにそっぽを向く。そんな二人の態度がおかしくて、つい笑っちゃう。
「はい、二人ともありがとうございます」
私はティアに手を貸してもらった上でホントに真っ暗な部屋の中に入る。ドアを閉じると、暗さに慣れていないせいでほとんど見えない。
でも身長に足を進めると……突然左側に光が生まれた。そちらに目を向けると同時に、光から優しい声が流れる。
そこに居るのは赤いカーディガンを羽織って白シャツ・黒のミニスカ姿な……歌唄だった。歌唄は胸元に手を当てて、優しくうたう。
でもこれ、歌なのかな。歌詞っぽいのはないし、声は出してる感じだけど。
『これは歌、なのか』
「歌だ。これはヴォカリーズと言って、歌詞を伴わない歌。母音のみによってうたう歌唱法だ」
「歌詞を伴わないって……そんな歌あるんだ」
「えぇ。18世紀半ばにとある音楽家が作った曲集の中にある、声楽技巧の練習曲が起源だとされています」
さすがは海里君だと感心しながら、壇上の歌唄を見る。歌唄は二人を見ながら優しく歌を続けていく。
それで二人は歌唄に魅入られるように視線を光の中に向け続ける。でもこの歌、凄く優しい。
聞いてるだけで気持ちが温かくなっていくのが分かるよ。それでこの歌の中に込められた気持ちも……感じていく。
あと、二人の間の空気も少し柔らかくなっていくのも。それで歌は、私達の心をしっかり掴んだ上で終わった。
歌唄は額から流れる汗を軽く拭って、私達に――ゆかりさんと二階堂先生に笑いかける。
「うんうん、掴みはOKですね」
「えぇ、狙い通りです」
突然隣に生まれた二つの気配に驚きつつ、そちらに視線を向ける。
「シャーリー! それにディードもっ! ……これ、どういう事?」
「いえ、やっぱりこの話は二人だけじゃ解決しないかなーと思いまして」
ゆかりさんがハッとしながら振り向き、険しい表情でシャーリー達を見る。
「まさかあなた達……歌唄に話したのっ!?」
「えぇ、話しましたよ。それで歌唄ちゃんが今レッスンしてるのも聞いて」
「星名専務も脅し……もとい説得した上でここを借りて、現状というわけです」
ディード、今なに言いかけたっ!? てゆうかここ借りるのに星名専務も関わってるんだっ!
……あの人、この調子でどんどんこき使われそうだなぁ。ちょっと可哀想かも。
「いったいどういうつもりよっ! 私の事は歌唄には関係ないのにっ! 歌唄は今大事な時なのよっ!」
ゆかりさんはまた前を向いて、変わらない険しい表情を今度は歌唄に向ける。
「歌唄、あなたもあなたよっ! どうしてレッスンを抜け出したのっ!」
「あら、ちょうど休憩時間だったからいいじゃない。それにすぐ戻るわよ」
「でも」
「三条さん、どうも勘違いがひどいみたいね。『いったいどういうつもり』はこっちのセリフよ」
歌唄は腕を組んで大きくため息を吐きつつ、壇上から飛び降りて着地。三条さんの方へすたすたと近づいていく。
「今の私はなんでも一人で出来るなんて思い上がってないわ。他の誰かに頼らせてもらう事も出来る。例えば恭文よ。
恭文が居なかったら私はキスも出来ないしエッチだって出来ないわ。でも恭文が居るからこそ私は恭文とキスをしてエッチも出来る。
私は恭文に抱かれながらR18なセリフや声をあげながらたくさん乱れる。……つまりそういう事よ」
『どういう事っ!?』
全員で声をハモらせてとんでもない事を口走る歌唄にツッコむ。……ヤスフミ、ホントに歌唄とそうなってないのっ!?
なんか発言聞いてると信じられないんだけどっ! よし、後で確認しようっとっ!
「そしてフェイトさんも必要。フェイトさんも居るから恭文の汚れたバベルの塔に二人でキスしたり手でさすったり出来る。
ダブルで胸に挟む事も出来るわ。ほら、私最近急激に胸大きくなってバスト89になったじゃない? ……つまりそういう事よ」
『だからどういう事っ!? あとサバ読み過ぎだからっ!』
「全く……どうしてこれで分からないのよ」
分かるわけないよねっ! 歌唄はみんなの前で下ネタ連発してるだけだよねっ! あとサバ読んでるだけだよねっ!
「三条さんもちょっとはそういうのに頼っていいって事。二階堂先生の汚れたバベルの塔を」
「歌唄、アンタちょっと落ち着きなさいっ! てゆうかそれおかしいからっ!
せめてそういう話をするのはあと5年後にしてー! アンタまだ中学生なんだからっ!」
「歌唄ちゃん、蒼凪君とどういう付き合い方してるかちょっと教えてもらえるかなっ! 僕担任としてそこ凄い気になるんだっ!」
「……とにかくよ」
歌唄は慌てる二人や私達は気にせずに表情を緩めて、少し困ったような笑いを浮かべながらゆかりさんを見る。
「確かに三条さんが居なくなったら困るわ。でも、幸せになってくれなきゃもっと困る。私を理由にそれを諦めたら……更に困る」
「……歌唄」
「えぇ、困るわ。だって」
歌唄はそこでクスリと笑って腕を組み、一瞬で目つきを変えた。
「私と恭文がラブラブしにくくなるじゃない。というわけでとっとと結婚しなさい。それで私も恭文と結婚するから」
「歌唄、アンタ後半おかしいわよっ! てゆうかさっきから自分の事ばっかじゃないのよっ! 私の結婚をなんだと思ってるのっ!」
「なによ、なにか問題ある?」
「大有りよっ! アンタ前々から思ってはいたけどほんとおかしいわよねっ!」
その目は私も何度も見ている殺し屋の目。と、というか歌唄……いや、いいのかな。
歌唄は歌唄なりに三条さんの背中押してるんだよね。うん、そうだと……信じさせて欲しい。なら、あとは二階堂先生だよ。
「なぁなぁ二階堂、あとはお前の出番だぜ」
声をかけようと思ったら、先生の隣にエルちゃんとイルちゃんがいつの間にか来ていた。
私の出番はないなと思いつつ見ていると、二人に驚いた二階堂先生が戸惑った表情を見せる。
「そうなのですっ! どうせ『そろそろ籍入れるか』とか……その程度のセリフしか言えてないんでしょうっ!」
「え、なんで分かるのっ!?」
「バカっ! お前がそういう素っ気ない感じだから姉ちゃんが迷うんだろうがっ!
バシッとやれバシっとっ! きっとフェイトさんと恭文だってそれはもう凄い事してるぜっ!」
そこでエルちゃんとイルちゃん、二人に釣られた二階堂先生の視線が私に向いた。それだけでどういう役割を求められているか、よく分かった。
「そ、そうだね。あの……『子作りしよう』って感じだったし。
というか、私から? ヤスフミの赤ちゃん欲しいなと思って、そのまま」
「……フェイトさんは参考にしなくていいわ」
「本能に忠実過ぎなのです。やっぱりエロ甘なのです」
「そうだね。さすがにいきなりそれ言ったら殴られそうだしやめとくよ」
「ちょっとっ! それどういう事かなっ! あと私はエロ甘じゃないよっ!」
二階堂先生もなぜか私から顔を背けて……色々言いたいけど、今は空気を読む。
だって二階堂先生は歌唄の視線に怯え続けるゆかりさんの肩を掴んで、自分の方に向かせたんだから。
「ゆかり」
「な、なによ」
「僕には君が必要だっ! 愛してる……結婚してくださいっ!」
ゆかりさんは真正面からそう言われて顔を真っ赤にして、少し恥ずかしそうに俯く。
「は……はい」
でも静かにそう言って頷いて……この瞬間、この問題は見事に解決を迎えた。
私達はみんな揃って……もちろん殺し屋の目をしていた歌唄も表情を緩めて、二人に祝福の拍手を送った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
先輩達やひかるに言われた事をずっと考えてて……でもワケ分かんない事がたくさんで、もう嫌だよ。
このままみんなと居る事は、みんなの夢をダメだって言っちゃうのと同じなの? でも、あたし……やだよ。
ほたるに×が付いた時、すっごく苦しかった。きっとほたるだって苦しかった。あんな思いさせたくない。
もし戻ってまた×が付けられたらどうするの? そうなっちゃったらまたあの子達……やだよ。
やっぱり、やだよ。別れたくない。×が付いてもみんなはみんなだもん。このままだっていいと思うのに。
なのにあたし、本当にそれでいいのかなって考えちゃってる。もうワケ分かんないよ。
守るってどういう事? どうしたらあたし、みんなの事守れるの? 側に居るだけじゃ、だめって……それならどうしたら。
「ただいまー」
その声に身体が震えて、頭だけ動かしてロイヤルガーデンの方を見る。そこには恭文先輩達と……うちの子達が居た。
ほんとに、連れてこられちゃったんだ。ほんとに連れて来て、浄化しちゃうんだ。
「あ、蒼凪君もみんなもお帰り。……その子達?」
「うん。いや、大変だったよ。全員揃ってりっかの側に居られないなら自爆するって言い出してさぁ。それで手出しするなって脅してくるのよ」
恭文先輩が普通な顔して後ろに居るみんなを見ながらそう言って……自爆って、どういう事?
ヤバい、あたし……寒気がする。それってその、みんなが壊れちゃうって事だよね。壊れて、居なくなっちゃう。
「えぇっ! そ、それで」
「するわけないじゃないのさ。現状維持を望んでるバカ共に自分の命を捨てる事なんて出来ない」
「……そっか」
「それで唯世、大バカの方は? てーかりま達は」
「みんなはもうすぐ……かな。柊さんも一応説得はした。まだ、納得し切れてないみたいだけど」
先輩達は困った顔であたしの方を見る。あたし、ホントに悪い子として扱われてるみたい。
「そう。でも」
身体が前のめりにぐらりと揺れて、あたしは床に倒れちゃう。
てゆうか……あの蒼い縄が消えちゃった。あたしは起き上がって、先輩達の方を見る。
「もうやるべき事は分かってるはずだ。りっか、とっととやれ」
「そんなの」
あたしは一気に起き上がって、右手で涙をごしごしって拭いてからあたしの周りや先輩達の後ろのみんなに聴こえるように声を張り上げる。
「いちいち言われる必要ないしっ! あたし、もう分かってるっ! ……みんな聞いてっ!
あたしがみんなを守るっ! ×の付いたみんなも――×の取れたみんなも守るっ!」
まだよく分かんない事だらけだけど、一つだけ分かった事がある。それは、このままじゃダメだって事。
あたしはみんなに×を付けて欲しくない。みんなが笑ってにこにこ過ごして欲しい。
だから、このままみんなを宿主のところに戻しちゃうのは怖い。また×が付いたらって考えたら、怖い。
でもだからってあたしがみんなに×を付けちゃだめなんだ。あたし……知らなかった。
自分がそんな事をしてるなんて知らなかった。でも今は知ってるから、もうそんなのいや。
「×が付いたら、あたしのところに来てっ! あたしがみんなを守るっ!」
「りっか、君はまだ分かっていないのか。それでは」
「その付いた×をあたしが取るっ!」
ひかるの言葉は無視でそう言うと、みんなの身体が軽く震えた。
「それで×の外れたみんなを守るっ! みんなとみんなの宿主が……今までのあたし達みたいに楽しく過ごせるように頑張るっ!」
だったらどうすればいいのかって考えた。でもあたしバカだから、やっぱりよく分かんない。
ひっちゃかめっちゃかで全然落ち着いたキャラなんて出来てないけど、それでも分かる事がある。
「絶対」
あたしはみんなが好き。みんなに笑ってて欲しい。それが出来るように頑張りたい。
あたしがみんなに×を付けてるなら、あたしはそんな自分を変えなくちゃいけない。
それだけは……ホントの事なんだ。あたしはそんな気持ちを込めて、思いっ切り叫ぶ。
「絶対守るからっ!」
ロイヤルガーデンに――ううん、学校中に響くように叫ぶと、急にあたしの身体がキラキラと光り出した。
ううん、それだけじゃなくて景色も違う。なんかダイヤ型の星がいっぱい光ってる変な場所に来ちゃった。
「これ」
「りっかちゃん」
それで目の前にいきなりほたるが出てきて……あぁ、そっか。あたし分かる。これだけで良かったんだ。
「いきましょう」
「……うんっ! あたしのこころ」
『解錠』
「アンロックッ!」
このままじゃなきゃいけないなんて嘘だった。×が付いてもみんながみんななら、×が取れても同じだった。
あたしただ、みんなが居なくなってこのまま会えなくなっちゃうんじゃないかって怖くて逃げてただけだ。
でもそんなの違う。あたしはほたるから×が取れた時の嬉しさや驚き、すっかり忘れてた。
ほたると一緒に色んな事してく楽しさを知ってたのに……あたし、やっぱりバカだ。でも、もう大丈夫。
あたしは守りたい。みんなの事、守りたい。それだけはホントの事なんだ。だからそのために心の鍵、開けていく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
りっかが声をあげるといきなり金色の光に包まれた。それに驚いている間に、その光が弾けた。
そこから出てきたりっかの姿は思いっ切り変わっていて、まず髪は先が外側にカールしたツインテールになっている。
黄色の丈が長いワンピースに白いケープを装着し、胸元にはさんさんと輝く太陽のマーク。
でも輝いているのはそれだけじゃなくて、髪を結わえている二つのリング上の髪飾りとりっかの背後にある五つのたまご型の光も同じ。
僕は見ていてほたるのたまごの柄と同じ、太陽のマークを連想していた。
【「――キャラなりっ!」】
りっかは声をあげ、右手を逆袈裟に振るう。
【「ピュアフィーリングっ!」】
「わわ、りっかちゃんがキャラなりしちゃったっ!」
「りっかなりに覚悟を決めたせいか」
りっかは驚いた様子で自分の両手を胸元まで上げて交互に見る。ううん、見ているのは変化した自分の姿もだ。
てゆうか……あの髪型や格好はあむのアミュレットダイヤとそっくりなような。一体どこで覚えたんだろう。
「あたし……キャラなり出来た」
【りっかちゃん、いくわよ。もう……大丈夫よね】
「うんっ! みんな、こっちに来てっ!」
僕達の後ろに居た×たま達は戸惑い気味に僕達の脇を通ってりっかの方へ来る。
それでりっかは右手を上げて天を指差し……固まった。
「……あれ、柊さん?」
「おいヤスフミ、アイツ固まったぞ。なんか汗だらだら流してるぞ」
「しかも涙目になっているな。一体どうしたんだ」
確かにりっかは戸惑ったような様子を見せて、×たま達も首を傾げてる。……あ、こっち向いた。
「せ、先輩」
「なによ」
「これから……どうすればぁ」
その言葉に僕達は揃ってズッコけた。もちろん×たま達も合わせるように地面に落ちる。
「こらこらっ! そこ浄化でしょうがっ! なんで僕達に聞いちゃうっ!?」
慌てて起き上がってツッコむと、りっかは胸元に両手を持って来てなぜか泣き始めた。
「だってー! どうやって浄化すればいいか分からないんですー! これ、技とかそういうのないんですかっ!? ほたるー!」
【ごめんなさいりっかちゃん、私も……同じなの。ねぇ恭文君、私達どうすれば】
「僕に聞くなっ! てーかそういうのは普通魔法少女的なお告げが来て分かるもんでしょうがっ!」
「そんなのないしー!」
「んなアホなっ!」
……あ、ちょっと待って。そう言えば……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! すっかり忘れてたけど僕も同じだったっ!
リインフォース・ライナーはともかく、アルカイックブレードやレンゲルシロップはお告げ関係一切なかったしっ!
「これって、蒼凪君の時と同じじゃ」
この話を知っている唯世も気づいたらしく、りっかを見ながら頬を引きつらせる。
「えー! じゃありっかちゃん、キャラなりしたのに能力使えないのっ!?」
「なんですか、このグダグダっ! りっかちゃん、もっとしっかりするですよっ!」
「全くだ。君は本当にお約束というものを理解してないな」
「そんな事言われても困るよー! りっかこういうの初めてだしっ!」
『ムリムリムリー!』
そして僕達は頭を抱え混乱。まず技を出せるようにならなくちゃいけないというすっごいアホな展開に突入した。
「――みんな、お待たせっ! りっかちゃんは……あれ」
「おいおい、これなんだよ。なんでお前ら揃って頭抱えてんだ」
「てゆうか、無視しないでもらえる? せっかく急いで来たのに」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
司さんと別れてまたあたしはアテもなく光の中を進んでいた。恭文も唯世くんも……誰も居ないあたしは、ダイヤと二人っきり。
それで司さんが言っていた事や、あたしのなりたいあたしの事とか考えてた。でもやっぱり、よく分かんない。
こんなあたしでも、司さんの言ってたみたいに前に進んでるのかな。あんま自信、なかったりするけど。
【ねぇあむちゃん】
「なにかな、ダイヤ」
【前に私があむちゃんに言った事、覚えてる? 輝きはあなた自身の中にあるのって話】
「えっと……あ、覚えてる。ブラックダイヤモンド事件の時だよね」
【えぇ】
海里のお姉さんが乗ってるヘリが墜落仕掛けてそれを助けたあとだね。
ダイヤはたまごの中に帰りながら、そんな話をしてくれた。なんだか懐かしくて、意味もなく笑顔になっちゃう。
「どんなに暗闇が襲って来ても、例え誰の目から見えなかったとしても、輝きは絶対になくならない。
誰の中にも、どんなに小さくても輝きは――光はある。あたしの中にも」
そこまで言って、あたしは飛行をストップ。それで慌てて胸元を――その中のダイヤを見る。
「あたしの中にも光がある。煌く、小さなかけら」
それは未来のかけら。それで今あたしはなんのためにここに居る? つまりその……あたしは息を飲んだ。
「あたしの探してた煌きのかけらって」
【そうよ。あなたは本当は最初から気づいていた。星の道の旅は、『私達』があなたの中に帰っていく旅。
飛び越える勇気、逃げない勇気、強くある勇気、そして……私が最後よ。もう分かるわよね】
「信じる、勇気」
【えぇ】
ダイヤを取り戻した時、あたしは自分を信じる事を知った。ヘタレでダメなキャラなあたしでも、輝きがある。
全然ちっぽけだけど、あたしの中には確かに輝きがある。あたしはそれを信じられずに、ダイヤに×を付けた。
でもちょっと待って。それならどうしてダイヤはここに居るの? なんであたしの側に……あ、まさか。
「ダイヤ、アンタまさかもう」
【あむちゃん、信じて。あなたの中には煌きが――私達が居る。なにがあろうとずっと一緒。
そしてそれは誰の胸の奥にもある、ふわふわしていていあいまいなこころそのもの】
「そうそうー。こころのたまごはなくならないんだよー」
よく知った声が響いた瞬間、キャラなりが解除された。あたしは元のパジャマ姿へと戻る。
「壊れてても傷ついても消えたように見えても」
声のする方――あたしの頭上を見上げると、そこにはピンクと青と翆と明るめの黄色の輝きがあった。
「何回だって、生まれ変わるんですぅ」
その輝きが強くなると、光の中に半透明なみんなの姿が映った。みんなは笑顔で、あたしの事見てる。
「忘れないでね。ずっと一緒に居る事を。もしも見失ったら」
「あの、待ってっ! みんなっ!」
あたしは慌てて右手をあの子達に向かって大きく伸ばす。
『こころを――アンロックしてっ!』
みんなにあたしの手は届かなくて、半透明なみんなは輝きに戻る。そしてそれは、虹色のドアになった。
あたしが意味分かんなくなっている間にドアが開いて、あたしはその中に吸い込まれる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――てっき」
りっかは右手を振りかぶり、一歩踏み込みながら左薙に振るう。
「いっせんっ!」
でもなにも起こらず、また場が微妙な空気に包まれた。これで……10回目。
「よし、もう一回」
「「もうえぇわっ!」」
りまと声をハモらせながら、りっかの後頭部をハリセンでどつく。ロイヤルガーデンに小気味いい音が響いた。
「柊、お前マジしっかりしろよっ! 恭文だってキャラなりしてしばらくしたらお告げ来たんだぞっ! 気合いが足りねぇっ!」
「そんな事言われてもー! ほんとにさっぱりなんですー!」
「てゆうか僕思ったんだけど……りっかちゃんが浄化技使えるかどうか分からないし、恭文君とりまちゃんがなんとかした方がいいんじゃ」
「なぎひこ、あなたバカじゃないの?」
「はぁっ!?」
りまは呆れた様子でため息を吐きつつ、なぎひこを睨みつける。
「こういう時は展開的にりっかが浄化が常識じゃない。てゆうか、それやっちゃったら私達空気読めてないみたいじゃないのよ」
「そうだよなぎひこ、ここはそういう展開をみんなが望んでるんだから。てゆうかあれだよ?
そういうイベントをきっちりやっていって世代交代していかないと、原作のなのはみたいになるんだから。
本来の主人公押しのけて前作主人公が活躍しまくりなんだから。種死みたいになるんだから」
「言ってる場合っ!? りっかちゃんがどうにもならないんだからもうしょうがないよねっ!」
「全く……そんな事だからあなたはなぎひこなのよ。なぎひこ、あなたは所詮なぎひこなの。
どうして『NAGIHIKO』へ進化しようとしないのよ。あなたのそういうところが……分かるかしら」
「全く分からないんだけどっ! 僕のそういうところが一体どうなるのかなっ!」
もうりっかが初キャラなりしたのに能力使えないという展開のおかげで、場はようやくやって来たりま達も加えでグダグダしてる。
×たま達でさえもう逃げるような事もせず、『いかにりっかに浄化技を発動させるか』という目的に変わっているもの。
「よしりっか、鉄輝一閃はやめよう。鉄輝一閃は……あれだよ、R10だからりっかには早い」
「蒼凪君が凄い適当な事言い出したっ!?」
「分かりましたー。てゆうか、それならあたし8歳だし無理ですよねー」
「それで柊さんも納得しちゃうんだっ! ねぇ、それで本当にいいのかなっ!」
唯世のツッコミは完全無視でりっかは腕を組み、困った様子で首を傾げる。
「なら……うーん、どうしよう。×たま浄化する技って他にどんなのがあるんだろう」
【あと浄化技というと】
『ムリムリ……ムリー!』
りっかの真向かいに居た×たま達が空中に浮きながら跳ねて、りっかの方を見て声をあげる。
『ムリムリー!』
「――え、オープンハートなら出来るかも?」
『ムリー!』
「あー、今度はそれ試してみましょうか。ほらほら、ピュアフィーリングはアミュレットダイヤに似てるから出来るかもです」
「もうどうすればいいかさっぱり見当がつかないしな。とりあえずやるだけやってみるか」
投げやり気味にそう言ったリインとひかるの方を見て頷いてから、りっかは深く深呼吸。
「みんな、いくよー」
『ムリっ!』
「――ネガティブハートに、ロックオンッ!」
りっかは右手を腰に当てて、左手で×たま達を指差す。すると……りっかの背後の五つの輝く黄色のたまごが時計回りに回転を始めた。
「オープン」
りっかが両手の人差し指と親指でハートマークを作って×たま達を狙う。それでりっかの背負ってる輝きの回転が速さを増す。
もうリング状に見えている輝きから放たれる光がりっか腕を伝って指に収束し、そこから明るい黄色の光の奔流が放たれた。
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァトッ!」
『なんか出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
ハート型の光の奔流は一瞬で×たま達を飲み込み、その色を黒から白へ変えて×を消し去っていく。
そうして奔流が消える頃には数十あったたまごは全て元通り。その様子を見てりっかは、頬を引きつらせながら腕を下ろす。
「え、えっと……出来ちゃった」
【そ、そうね。ものは試しって言うけど……これは予想外かも】
≪でも全然感動的じゃないの。むしろグダグダなの≫
≪りっかさん、あなたがしっかりしないから感動シーンが台無しじゃないですか。全く、本当にダメキングスチェアですね≫
「え、更にダメだしっ!? てゆうかその名称いつ知ったのかなっ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とにかくあたしは真っ白になったみんなを見上げる。みんなはなんかすっきりした感じで、ぴょんぴょん跳ねてた。
みんなのほんとの姿、×が隠しちゃってたんだよね。あたし、今更だけど×を取る事をあんなに怖がってた事を反省した。
みんなほんとは、こんなにキラキラしてたんだ。×が付いててもみんなはみんなだけど……ん、やっぱよく分かんない。
でもでも、今のみんなもみんななんだーってのは分かった。あたし、なんか嬉しくてにこにこしちゃう。
「みんな、もう大丈夫?」
みんなは一斉にあたしの方を見て頷いてくれる。嬉しさが強くなったまたにこにこ。
「なら一緒に」
そこまで言いかけて、あたしは寂しくなっちゃう。だって×を取っちゃったら……でも笑顔で居られる。
ちょっと俯いちゃってたけど、すぐに顔を上げてみんなの事をもう一度見る。
「あのね、また×が付いたらあたしのとこに来ていいよ」
寂しくて寂しくて、……笑ってても瞳に涙がたまっちゃう。声がなんか変で、うまく喋れない。
「何度×が付いても、あたし全部取っちゃう。アンタ達とアンタ達の宿主がいっつもにこにこしていられるように、頑張る。それでアンタ達の事、守るから」
零れる涙を右手でまたごしごしって拭って、あたしはその手でみんなに手を振る。
「だから……帰って、いいんだよ。あたしの事、気にしなくて……いいから」
『りっかちゃん』
もう笑えないと思っちゃうくらい辛くなってると、たまご達から声が聴こえた。それでみんなのたまごの上に、色んな形の影が生まれる。
ラン達と同じくらいの大きさの影達は多分、たまごの中のしゅごキャラ。あたしがずっと目を背けてた、みんなのほんとの自分
『ありがとう』
今度は違う声が聴こえた。影になってるみんなの顔はよく見えないけど、みんなあたしの事見て……笑ってくれてるみたい。
『見つけてくれて』
『遊んでくれて』
『守ってくれて』
『一緒に居られて、ほんとに……ほんとに嬉しかった』
あたしはもう泣くのが我慢出来ないで目からボロボロ涙零して、それでも笑おうとしながらみんなを見て頷く。
『またね』
みんなはゆっくりと上に浮かび上がって、ロイヤルガーデンのガラスの天井もすり抜けていく。
あたしはそんなみんなに向かって泣きながら笑って、両手で思いっ切り手を振る。
「うん……また、またねっ!」
みんなは豆粒みたいに小さくなるくらいに遠ざかって、一つずつ消えていく。きっと、宿主のところに帰ったんだ。
自分で決めたはずなのに、あたしとほたるだけになったのが寂しくてあたしは……その場で蹲って声をあげてまた泣いちゃう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「これで一応、解決かな」
「そうだねー。でもでも……あの子達大丈夫かなぁ。浄化してもまた宿主の子と仲良く出来なかったら」
「大丈夫じゃないの?」
不安そうなややにそう返しながら、たまご達が消えた空を見上げる。
「だってりっかは覚悟決めて、浄化した後も関わる気満々だし」
「そうだな。その時はりっかも含めて僕達が力になればいい。そこは来年度ガーディアン予定な僕にややの仕事だ」
ひかるはそう言って、真剣な顔でりっかの方を見る。
「ガーディアンは宿主もたまごも、両方を守れる道を模索するべき――胸に刻んでおく」
「……そうだね。あとは一之宮君達の仕事かな。僕達はもうすぐ卒業だし」
「世代交代はしっかりしないと、原作なのはさん達みたいになるものね」
「りまちゃん、もうそこいいんじゃないかなっ! なのはさん達だって頑張ってるよっ!」
「なぎひこ、残念ながらそれは勘違いだよ。あれが頑張ってるならナマケモノだって壮絶な人生送ってるよ」
なんてツッコんでいると、入り口の方にドスンという音がする。
「きゃっ!」
てゆうか、痛そうな悲鳴が聴こえた。そちらを僕達もそうだし、りっかも涙を拭いて視線を向ける。
そこにはパジャマ姿なあむが居た。しかも右手でおでこをゆっくりとさすって……僕は慌ててあむに駆け寄る。
『あむっ!』
「あむさんっ!」
「あむちんっ!」
『あむちゃんっ!』
「日奈森っ!」
というか、全員で駆け寄る。当然ながらりっかもキャラなり状態で僕達と合流して、そんな僕達をあむが顔をしかめながら見上げる。
「先輩、どうしたんですかっ! いきなりドスンってっ! てゆうかなんでパジャマっ!」
「あぁ、これには……って、格好の事アンタに言われたくないしっ! なに、そのミニアミュレットダイヤッ!」
「こ、これはその……話すと長くなりそうで」
りっかが困った笑いを浮かべながら僕の方を見上げるので、優しく笑いかけた。
「簡単だよ、あむ。りっかは×たまを数十ペット化していて」
「はぁっ!?」
「先輩がバラしたー!」
【まぁ当然よね。報告しないわけにはいかないだろうし】
りっかが納得してくれたところで僕はあむに右手を伸ばす。あむはその手を取って、ゆっくりと立ち上がる。
「ありがと」
「ううん。それであむ」
「ねね、ランちゃん達はっ!? あむちー戻って来たって事は……みんなもっ!」
「……あ、そうだっ!」
あむは僕の手を放してから慌てた様子で周囲を見渡す。
「あたし、ラン達とまた会ったのっ! それで」
その慌ただしく動いていた視線は自分の足元で止まり、僕達もそちらを見る。
そこにあるものを見て、あむは嬉しそうに笑った。
「それで……もうちょっとだけ、一緒に居られるようになったみたい」
あむがしゃがんで拾い上げるのは、ピンク・青・緑・金の四色のたまご。チェック柄のそれには、真ん中に黒い帯が描かれている。
そこにはそれぞれ違うマークが描かれていた。ピンクはハートで青はスペード、緑はクローバーで金はダイヤ。
あむはその四色のたまごを大事に抱え、瞳を閉じて笑みを深くした。僕達も釣られたように全員揃って笑顔を浮かべた。
「みんな、今大丈夫?」
ロイヤルガーデン入り口の方に気配が生まれた。そちらに視線を向けると、フェイトとティアナとシャーリーとディードが居た。
あと二階堂にゆかりさんとBYに海里とムサシが居た。それで二階堂とゆかりさんは……手を繋いでた。
「フェイト、どうしたのよ」
「ちょっと気になって、様子見に来たんだ。あむは」
フェイトはパジャマ姿のあむとその腕の中にあるものを見て、嬉しそうに笑った。
「どうやら大丈夫そうだね」
「なんとかって感じだね。てゆうかなんでなのは居るのさ」
「ちょ、さっき挨拶したよねっ! せっかく来たのにヒドいよー!」
「な、なのはさんっ! あのその」
なのはとなぎひこはお互いに顔を見合わせて真っ赤になりながら……床に突っ伏した。
「「ごめんなさいっ!」」
「おいおい藤咲、お前いきなり土下座っておかしくねっ!? なのはさんとなにがあったんだっ! てーかなんで三条まで居るっ!」
「いえ、その……少し事情がありまして」
「わぁ……先輩そっくりだー! 先輩、双子だったんですかっ!?」
『いや、私は兄弟というわけでは……頼む、放してくれ。シャツがよれる』
自由且つ好き勝手に会話を始めるみんなから、隣に居るシオン達へ視線を移す。
三人は僕の方を見ながら苦笑して、軽くお手上げポーズ。それに頷きを返してから、僕はフェイトの方へ近づいて優しくハグをする。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――そう。日奈森さんは無事にラン達を取り戻せたんだ」
「えぇ」
もうすぐ夜になろうとしているけど、唯世は今日のあれこれを報告するために理事長室へ来た。
てゆうか、僕とフェイトも一緒について来た。フェイト的にはかなり気になる事があるらしくて、僕は付き添い。
「ただ……ランちゃん達、たまごから出ないんです。あむや私達が呼びかけてもさっぱりで」
「なぎひこの時のリズムや僕の時のヒカリと同じだね。戻っては来たけど、なんかあと一歩足りないんだよ」
≪だから目が覚めない。まだまだあむさんの心配は続きそうですね≫
あむ、みんなのたまごが戻ってきたのとラン達が目覚めないからプラマイゼロって感じかな。
あとは……ダイヤもだよ。僕の予測通りに、ダイヤもラン達と同じになりかけてたらしい。
それでラン達と一緒にダイヤも取り戻して、結果ダイヤもたまごの状態に戻った。
だからこそあむは『四つの煌き』を探す必要があった。あむも気づいてたはずなのに、驚いてたなぁ。
「あの、司さん」
「なんでしょう」
仕事机に座る司さんを見ながら、フェイトさんが困った顔で首を傾げる。
「私やっぱり分からないんです。どうしてランちゃん達は戻って来たんでしょうか。
私は星の道に入っていないし、あむの話を聞いても今ひとつ要領得なくて」
「……いいでしょう。では、一つ種明かし」
司さんは少し戸惑っている様子のフェイトに優しく微笑みながら、右手の指をピンと立てる。
「彼女のしゅごキャラは、最初から無くなってなんていなかったんですよ」
「ど、どういう事ですかそれっ! だってあむはランちゃん達が消えたってっ!」
「子どもの頃はみんな、こころの窓ガラスが透明で『なりたい自分』の姿がはっきり見える。時々雨に打たれても、強い風が吹きつけても」
司さんはそこで立ち上がって、自分の後ろにある窓に視線を向ける。窓の外ではもう、星が輝き始めていた。
「でも大人になると急に考えなきゃいけない事が増えてきて、その内窓を曇らせ見えなくなってしまう。
彼女はただ、見えなくなってしまっていただけ。ほんの少し大人になった事が、皮肉な事に窓ガラスを曇らせた」
「……それ、分かります」
フェイトは視線を落とし、右手でお腹を撫でながら悔恨の表情を浮かべる。
「私も……そうでしたから。曇ってしまってなにも見えなくなって、周りの声や仕事の責任に流されて大事な事を忘れちゃう。
忘れて間違えて、それが間違いだって気づいているはずなのになんでか逆に誇ったりして……過去の自分から見ると醜い大人を続ける」
なにを思い出しているかは、もう分かり切っている。僕は左手を上げて、そっとフェイトの背中を撫でた。
「そうですか。でもそういう時は少し立ち止まって、その窓ガラスを拭けばいいんです。そうしたら曇っていても大丈夫」
「だけどそれは、本当に難しいです。曇りそのものに気づかない事だってある」
「だけどあなたはそれに気づいたからこそ、今の時間を掴んだ」
その言葉にフェイトが顔を上げると、司さんは振り向いて優しく笑いかけた。なお、今は空気を読んでツッコんだりはしない。
「彼女と蒼凪君に唯世君達の旅は、なくしたものを探す旅じゃなくて」
「ずっと変わらず、そこにあるものを確かめるための旅」
司さんの言葉を引き継いだのは僕。司さんはどこか嬉しそうにこちらを見ながら、頷きを返した。
……それであむは星の道の中で、ラン達を産んだ時の気持ちを――曇ってるガラスの向こうにある輝きを確かめた。
だから見えなくなったラン達が戻ってきた。ダイヤだけが残ったのは、ラン達とはまた違う可能性の形だったから。
あむ曰くの『信じる勇気』は、ラン達とは『もう大丈夫』と思う基準がまた違うんだよ。
だからギリギリのところで見えていた。そういう事なんじゃないかなと思う。
「それで旅はまだ続いていく。……こころは決してなくならない。
窓ガラスを透明にして、目を凝らしていれば……きっと何度でも出会える」
「うん、正解」
――子どもはみんな、こころの中にたまごを持っている。でも本当は……大人だって。
それはふわふわしてて曖昧で、すぐに見えなくなるけれどいつもちゃんとそこにある。
見えなくなった時は立ち止まって、目を凝らせばいい。そうしたらすぐそれに気づける。
輝きはなくならない。そして不必要で無価値なものもない。全てが必要で、幸せだから。
誰でも持っているそのたまごの名前は――無限の可能性(エンブリオ)。
(第144話へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、下手したら次で最終回です。ドキたま最終章、いかがだったでしょうか。お相手は蒼凪恭文と」
フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……もうあと1〜2話くらいしかやる事ないんだね」
恭文「ないねぇ。あとはあれだよ、けいおんの二期みたいに時期少し前にしてなにか別の話やるかのどっちかだよ」
フェイト「あ、そう言えば二期もそういう編成だっけ。というかほら、ここはディードやティアナの話しても」
恭文「それもありだね。とにかくこれでVivid編の影が見えてきたわけだけど……あ、ヴィヴィオと覇王がアップしてる」
(『目指せ恭文の愛人っ!』
『恭文さんの寵愛を……今年こそ』)
恭文「そこのバカ共はもうくたばれっ! お願いだからその年で愛人とかそういう事言うのやめてよっ! 未来諦めないでよっ!」
フェイト「そうだよっ! そういうのホントだめっ! ……それでヤスフミ、りっかちゃんのキャラなりだけど」
恭文「あれはしょうがないのよ。アニメだとあむと合体技だけど……今回は違うしねぇ。
まぁマジで3年とかかかったドキたまの連載もついにゴールが見えてきたわけですけど」
フェイト「ちょっと寂しくはあるよね。ヤスフミが主人公の話は本編軸だともう終わりだし」
恭文「まぁそこはいいんだけどね。ほら、世代交代出来ないとなのはみたいになるし」
フェイト「……そこ気にしてたんだ」
(蒼い古き鉄、潔く主役を渡す覚悟は出来ているらしい)
恭文「さてさて、そんな世代交代の話はさておきまして電王クロス下巻……本編三話で書き下ろしが六話というとんでも編成になりました」
フェイト「どうしてそうなったのっ!?」
恭文「色々な話を盛り込んだ結果そうなっちゃったのよ。あと二〜三日程度で出せると思うので、みなさまご期待ください。
……というわけで、本日はここまで。エンブリオの事やりっかの事も解決して……もしかしたら次回か次々回に最終回かも知れません」
フェイト「ラストはしゅごキャラアンコール通りなんだよね」
恭文「うん、そこはきっちりとね。……それでは本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」
フェイト「フェイト・T・蒼凪でした。それではみなさん、また次回に」
(というわけでついに締め……長かったなぁ。そして試行錯誤しながらも色んな事があったなぁ。
本日のED:kimeru『Over Lap』)
キセキ「や、やっと戻ってきた。もう僕は疲れたぞ」
唯世「キセキ……もう全部終わっちゃったけど」
キセキ「なんだとっ! ……それであむは」
唯世「たまごは無事に取り戻せた。でも……ラン達はそのままで」
キセキ「そうか。あー、それと唯世」
唯世「なにかな」
キセキ「覚悟はしておけよ」
唯世「……え、なにがっ!? キセキ、なんでそんな気の毒そうな目で僕を見るのかなっ! ちょっとおかしいよっ!」
(おしまい)
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