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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第141話 『Cradle of Light to/本当の大人と子どもの境界線』



ムサシ・クスクス・ほたる『しゅごしゅごー♪』

ほたる「ドキッとスタートドキたまタイム……本日のお話は」

クスクス「ランもミキもスゥもどこー!? クスクス達はここだよー! ほらほら、ムサシもほたるも一緒にー!」

ムサシ「そうしたいのは山々だが……こちらにも問題が発生したのだっ!」

ほたる「そうなんです。それもかなり大きな問題が」

クスクス「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」



(立ち上がる画面に映るのは、どうしようもない二人とどうしようもないあの子達。そして……ゆりかご)



クスクス「問題続きってこれどうなっちゃうのー!? 誰か助けてー!」

ほたる「その声に応えてくれる方が居るかどうか分かりませんが、まずは」

ムサシ「これだな。せーの」

ムサシ・クスクス・ほたる『じゃんぷっ!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



前回のあらすじ――ちょっと怖い目してた恭文には落ち着いてもらって、その上で二人が着替えるのを待って事情説明。

最初はあたしの事どつきまわそうとしてた恭文は、話を聞くにつれてどんどん顔が青くなっていった。

うん、そりゃそうだよね。だってミキは恭文のパートナーって言ってはばからないし、スゥもマジで恭文の事大好きっぽいし。



自分の事みたいに二人やあたしの事心配してくれる恭文に感謝した。





「――事情は分かった。それでその星の道ってのに入ればミキ達を見つけられるかも知れないんだよね」

【えぇ。でもそれだけじゃないわ。きっと恭文君が今まで疑問に思っていた事も解ける】

≪どういう事ですか。あむさんの事だけじゃなくてこの人もとは≫

≪なのなのー≫

【あら、疑問に思っていたんじゃないの? どうしてショウタロスは今あなたのところに出てこられたのかって】



恭文とフェイトさんはそこで驚いた顔をして……なんか知らないけど、そういう事考えてたっぽい。



「ダイヤ」

【あ、いけなかったかしら】

「ちげーよっ! オレショウタロウだからなっ! タロスじゃねぇよっ!」

【だから恭文君、一緒に行きましょう? フェイトさんは……ちょっと危ないわね】

「無視かよっ!」



ショウタロウ、大丈夫。あたしはちゃんと名前覚えてるから。……でもフェイトさんが危ないのは同意。

あの流星ゾーンとやらでさっきのあたしみたいになっちゃったら、お腹の赤ちゃんどうなるか分からないもの。



「ダイヤ、それどうしてかな」

【さっきのあむちゃんみたいになるかも知れないから。それでお腹の赤ちゃんになにかあっても責任が取れないもの。
本当はフェイトさんにも見る権利があると思うんだけど、私にもそこはどうにも出来なくて】

「そっか。それは……しょうがないか」



フェイトさんは少し寂しげにそう言ってお腹を撫でてから、ガッツポーズを取って隣の恭文を見る。



「ヤスフミ、一応確認。これからどうする?」

「あむと一緒に行く。アルト、ジガン、シオン達も付き合って」

≪当然でしょ。あなたとあの人達がパートナーなら、私にとっても同じですし≫

≪ジガンもなのっ! このままさよならなんて寂し過ぎるのー!≫



シオンは躊躇いなくそう言い切ってくれる恭文を見て、髪を右手でかき上げた。



「実は最近少し平和過ぎて退屈していたんですが……良い冒険が出来そうですね」

「そうだな。それにそろそろ向き合うべき時だったのかも知れない」

「オレ達がどういう存在で、どこから来たのか……だな。オレもみんなに顔出しておきたいし、問題ないぜ」

「ありがと」



ショウタロスがちょっと不思議な事言ってるけど、それよりもなによりも気になる事があるので視線を恭文に戻す。



「あの、それはありがたいけど……アンタいいの? だって、ライブあんなに楽しみにしてたのに」



ここなんだよね。恭文マジでライブ楽しみにしてたんだ。フェイトさんも体調良いから一緒にゆったり歌を聴けるーってにこにこしてた。

てゆうかね、あたしには……恭文に対して申し訳なくなるほどに大きな負い目があるからなぁ。



「11月の時だってあたしのせいで行けなくなっちゃったし、さすがに今回もとなるとその……さすがに悪くて」

「いいよ。僕だって……さよならくらいは言いたいんだから」



あんなに楽しみにしてたライブよりミキ達の事を優先してくれるのが不謹慎だけど嬉しくてあたしは……まずはその気持ちにお辞儀を返す。



「ありがと」

「ううん」

「なら私はホテルをチェックアウトして聖夜市の方に戻ってるよ。
あと、ライブ会場にもキャンセルの連絡入れておく」

「でもフェイト一人じゃ……ここから聖夜市まで結構距離あるし」

「転送を使うから大丈夫だよ。家の方に連絡すればすぐに出来るだろうし」



フェイトさんは心配そうな恭文を安心させるように笑ってから、両手を伸ばして恭文の事いっぱい抱き締めた。



「だから行って来ていいよ。それで……もしどうしてもさよならを言わなくちゃいけないなら、私の分まで言って欲しい。
特にミキちゃんとスゥちゃんには。いっぱい、いっぱいありがとうって伝えてくれないかな。そこだけお願い」

「……うん、分かった」

【なら、フェイトさんを見送ってから出発ね。あむちゃん】

「ん、大丈夫。二人とも、ホントにありがと」





二人は身体を離しながらあたしの方を見て、あたしの方を見て笑顔を浮かべて頷いてくれた。



それであたし達はダイヤの言うようにチェックアウトしてからフェイトさんが無事に戻った後で、星の道に突入した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なぁBY」

『なんだ、ムサシ』

「二人はいつからこの状態なのだ」



なぜか不機嫌な姉さんと二階堂先生が、リビングの机を挟んでお互いに背を向け合っている。

しかも空気が険悪……なんだ、この冷戦状態は。てっきり姉さんの機嫌が悪かったのは俺のせいだと思っていたが、どうも違うらしい。



『この空気自体は昨日からだな。なお、原因はこれだ』



BYが二人を見ながら差し出してきた一冊の本を受け取る。これは手作りのいわゆるコピー本というものだろうか。

そして表紙には見た事のないタイトルが描かれ、『監督:タラランティーノ』と……タラランティーノッ!?



「BY、これは」

『最近決まったほしな歌唄の新しい仕事だ。彼女はタラランティーノ監督の新作映画に出演する』

「タラランティーノ監督と言えば、アカデミー賞も受賞した事のある有名監督じゃないかっ!
その映画に歌唄さんが出るっ!? ……だがあの人、演技経験などは」

『ミュージカル映画だそうだ。彼女の歌唱力に目をつけて依頼が来たらしい』

「えぇそうよ。やっと……やっと凄いチャンスが来たのよ。それなのに」



姉さんは横目で二階堂先生を見て、表情を険しくする。



「悠、もう今度こそアンタとは別れるんだからっ! ほんと理解がないしっ!
そもそも一回別れた時に気づいておくべきだったわっ! あー、式挙げる前に分かってよかったっ!」

「な……姉さん、二階堂先生とまたお付き合いしていたんですかっ!?」

「これは初耳だな。元サヤフラグは成立していたわけか」

「無駄なフラグだったけどねっ!」

「いやいや、ちょっと待ったっ! それはおかしいだろっ!」



二階堂先生は不満気に声を荒らげながら、姉さんの方へ向き直る。



「僕は別に仕事辞めろとかそういう事は言ってないだろっ!?
てゆうか、君や歌唄ちゃんの仕事がよっぽどアウトじゃない限りは口出せるわけないしっ!
僕が言いたいのは――どうしてこの映画の仕事で僕達の式が延期になるかって事っ!」

「しかも式の予定まで立てていたのですかっ!? ……は、まさか俺がここに突然呼び出されたのは」

『そうだ。なにぶん急な話で当人達と私だけでは手が届かなくてな。
君の実務能力はかなり優秀との事で、三条ゆかりが増援として呼んだ』



やはりそうかっ! やけに猫なで声で頼まれたから何事かと思ったら……父さん達もなにも言っていなかったんだがそれはどういう事なんだっ!?



「海里、姉上殿達の前だと蒼凪殿張りの運の悪さだな」

「言うな、ムサシ」



あぁ、でもそうか。蒼凪さんも毎度このパターンで苦労されていたんだな。正直……複雑だ。



「ゆかり、よーく考えてみようかっ! 式まであとひと月なんだよっ!?」

「しかもひと月っ!?」

「それで式延期とか無理だからっ! もう関係各所に招待状も出しちゃったよねっ! どうやって言い訳するのさっ!
はっきり言わせてもらうけど、これは君のわがまま以外のなにものでもないよっ! 僕に責任があるように言われても困るんだけどっ!」

「仕方ないじゃないっ! 歌唄の大事な時期なのよっ!? マネージャーの私が結婚なんて浮かれてる場合じゃないのっ!」





よし、言い争いを続ける二人はそれとして状況を整理してみよう。まず……二人は元サヤに収まっていた。

それであとひと月で結婚式を挙げようというとんでもない暴挙に出ようとしていた。ここまでは分かった。

そのために俺が目的を伏せられた上で山口からここに呼び出された。この時点で二人の空気は険悪でなかったと思われる。



察するに俺に連絡が来てこちらへ到着するまでの間に歌唄さんに映画の話が舞い込んだ。



それをきっかけに姉さんが結婚に躊躇いを持ってしまって、二階堂先生は納得出来ずにケンカしてこれか。





「ゆかり、言いたい事は分かるけどだからってこれはおかしいだろっ!
また大きな仕事が入ったらどうするんだっ!? その度に延期するのかっ!」

「そうは言ってないじゃないっ! とにかく今回はって頭下げて頼んでるのにっ!」

「出来る事と出来ない事があるよっ! ……よし、だったらこうしようよ。
歌唄ちゃんとも相談した上で決めよう? その結果どうしてもっていうなら僕も納得する」

「なんでそうなんのよっ! 歌唄には関係ないでしょっ!?」

「いいえ、あります」



さすがに見ていられなくて、俺は口を挟む事にした。二人はそんな俺の方を驚きながら見る。



「姉さん、お気持ちは確かに分かりますが言っている事が無茶苦茶です。
それでは歌唄さんのために姉さんが幸せになる事を諦めているようなものではないですか」

「そうだな。話を聞く限り非は姉上殿にあると見た。あまりにも一方的過ぎるだろう」

「アンタ達までなにっ! 私は……やっとなのよ」



姉さんはそこで表情を曇らせ、視線を落とす。



「やっと私達なりの償いが出来る場所に来てるの。自業自得だけど苦労して、ようやくそれが……なのに」

「……二階堂先生、もう少し冷静にお願い出来ますか?
姉さんはどうもマリッジブルーと呼ばれるものらしいですし」

「そうなの?」

「おそらくですが。ただ下手に刺激すると更に意固地になるかと」

「本人前にしてよくそんな事言えるわねっ! とにかく私は……もう決めたからっ!」



姉さんは俺とムサシからも顔を背けてしまう。その様子を見て俺達は当然ながら困り果ててしまった。



「海里、どうする。このままでは」

「こういう時は……蒼凪さん達に頼むか。蒼凪さんはもうハラオウンさん」



そこまで言いかけて俺は首を横に振った。



「フェイトさんともう夫婦なわけだし、先輩として説法を頼もう」

『それで聞けばいいのだがな。見るに三条ゆかりも相当強情な性格をしている』

「それが姉さんだからな。だが俺達だけでは無理だ。せめて知恵くらいは拝借したい」





ただまぁ、姉さんの気持ちも分かる。俺達はあの時派手に間違え、それぞれのやり方で償いの道を進んでいた。

俺はまだまだだが、姉さんは歌唄さんと二人三脚でようやくこの大きなチャンスを掴んだ。

だから、迷ってしまうんだろう。もしそんな事になって償いが出来なくなるのではと……もしそうならば決して認めてはいけない。



そのために姉さんが二階堂先生との幸せを諦めてしまってはだめなんだ。俺はその真理を、蒼凪さんから命を賭けて説いてもらった。



出来る限り姉さんと二階堂先生にとっていい形での決着をと考え俺は、まず頼れる人生の先輩を頼る事にした。










All kids have an egg in my soul


Heart Egg――The invisible I want my




『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第141話 『Cradle of Light to/本当の大人と子どもの境界線』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あむ共々星の道に入ったところまでは良かった。でもその直後に流星ゾーンとやらが発生。



僕達はブラックホールみたいなのに吸い込まれて墜落し……現在お茶を頂いています。





「――それであむちゃん、キャラなり解けちゃうとパジャマなんだ」

「あはは……着替えてる暇なくて」

「蒼凪君はそれに付き合ってと。でも残念だったね、そのライブ行けなくて」

「まぁそれは。でも優先順位くらいは決めてますし」



ここは聖夜学園の理事長室。どういうわけか日曜で今日は仕事無しのはずの唯世と司さんがそこには居て……あぁ、お茶がおいしい。



「でもダイヤ、星の道ってほんとに使えるの? あんま安定してないっぽいけど」

「まぁフェイトさんを連れて来なかった事が正解だとは思いましたけど」

「うぅ、そこは言わないで欲しいわ。あの道はちょっと気まぐれなだけなの。でもね」



ダイヤは僕の前に来て不敵に笑いながらウィンクをする。



「流星ゾーンも無意味に乱発するわけじゃなくて、そういう運命力に導かれて発生する」

「じゃあ僕達がここに落ちたのも……ううん、あむが最初に僕のところに来たのも」

「なにか意味があるかも知れないわね。……あ、そう言えば唯世君はどうしてここに?」

「あ、そうじゃん。今日の卒業式の準備とか、ややとリインちゃん達でやるのに」



実は今日、卒業生以外のガーディアンメンバーは学校に来てる。目的は今言ったように卒業式の準備のため。

去年もなんだかんだでやったけど、これが結構大変なんだよなぁ。聖夜小、自主性強い分仕事の量がそれはもう。



「柊さんや一ノ宮君の状態報告だよ。これもKチェアの仕事だから」

「二人とも、かなり頑張ってくれているらしいね。特に柊さんは蒼凪君も着目するほどの逸材とか」

「着目ってほどじゃありませんよ。ただ伸びしろはありそうだなーと」



なんか司さんが温かい目で僕を見ているのが辛くて、つい顔を背けてしまう。それで紅茶をまた一口――ううん、飲み干す。



「あ、そうだ」



司さんは仕事机から立ち上がってこちらへ来て、一冊の白い本を応接用ソファーに座る僕に差し出す。



「これ、こころのたまごですよね」

「うん。ちょっと読んでみてよ。もしかしたら役に立つかも」

「いや、読んでみてって」



僕は司さんから絵本を受け取って、ページを一枚一枚めくっていく。



「これって途中から白紙になってますよね。内容も前にあむに見せてもらって覚えてるし」



やっぱり良い話だなぁと思いつつページをめくっていって……その手が止まった。僕は驚きながら司さんを見る。



「司さん、これ」

「前に言ったよね、それは自分なりの物語にしていくって。だから僕も描いてみたのさ」



視線を下に落とすと、そこには本来白紙であるはずの続きのページが存在していた。

隣に座るあむも絵本の中を見て驚いた表情を浮かべる。



「――もうあきらめてもいいかしら。だけど」

「ぼくがあきらめてしまったら、だれかのこころはずっとからっぽのまま。たまごはなみだをふいてたちあがります」

≪これ、ひかるさんのこころのたまごに似てますね≫

≪……あ、そうなの。あの子もひかる君を探してずーっと旅してたの≫



確かにひかるのたまごもそうだった。でもそれだけじゃない気がする。これはあむにも適用されると思うんだ。

あむも自分のたまご――ラン達とはぐれてしまっている状態だし。……僕はあむ共々続きを読んでいく。



「たびをつづけたまいごのたまごは、おほしさまにききました。どうしたらもちぬしの子にあえるの?
おほしさまはいいました。『きらめきのかけら』をよっつみつけてごらん。その先にかがやくほうせきがみつかるよ」

「四つの……煌きのかけら? それに輝く宝石って」



僕とあむは視線を上げて絵本から司さんの方に視線を移す。司さんはいつものように、ただ笑っているだけだった。



「恭文、もしかしてこれ……エンブリオじゃ」

「今の段階じゃ分からないよ。でも司さん、マジでこれどうしたんですか。タイミング良過ぎでしょ」

「星の導きのおかげだよ。その絵本も持って行っていいから」

「ありがとうございます。それじゃああむ」

「待って、蒼凪君」



立ち上がった僕達を制するように唯世が真剣な顔でそう言ってきた。



「僕も行くよ。それでもしこの宝石がエンブリオなら……ラン達を取り戻すために手に入れないと」

「その方が良さそうだな」

「え、ちょっと待ってっ! 唯世くんはほら、世界征服のために使うってっ!」

「バカ者。あむ、お前は全く分かっていないな」



唯世の隣のキセキは大きくため息を吐き、呆れた様子であむを見る。



「いくら世界を征服しようと、家臣どもの危機を見過ごしてしまっては意味がない。
王は家臣を守るものだ。例え命がけになろうと、そのために全力を尽くす。そうだろう、唯世」

「うん。……あとあむちゃん、世界征服は忘れていいから。あれはその、ね?」



唯世、お願いだから僕をちらちら見ないで欲しいなぁ。ちゃんと分かってるから。キャラチェンジ中のあれこれだって分かってるから。



「僕は小さな世界の――自分の世界の王様になりたいんだ。それで周りの人達の笑顔を守りたい」



唯世はあむの事だけをジッと見て、胸元に右手を当てる。唯世の身長は既にあむと僕を追い越していて、あむを少し見下ろす感じになってる。



「それにはあむちゃん、君の笑顔がないと始まらないから……ね?」

「……唯世くん」

「よし、話はまとまったわね」



『解錠』アンロック



「再び私、アンロックッ!」



あむがダイヤとキャラなりしたその瞬間、僕とあむと唯世の身体が宙に浮き上がる。

それであの星の道を構築する光と星たちが何処からともなく溢れ出して、一気に世界の色を変えていく。



「みんな、気をつけてね」





笑顔で手を振る司さんに見送られ、僕達は唯世を加えて再び星の道へ突入。

それで……不謹慎かもだけど、ドキドキしてる。そう言えばこういう冒険する感覚、しばらく忘れてたかも。

平和な日常も大好きだけど、こうやってドキドキしながら未知なものに飛び込むのも好き。



確かにここには僕の『夢』があった。でも今は自重。今はミキ達を見つける事が先決だもの。

それでも押さえられないドキドキを抱えつつ星の道の中を進んでいくと、見慣れた顔を光の中に見つけた。

僕は飛行魔法を制御する要領でその場で足を止める。あむと唯世もちょっと戸惑いつつもそれに倣う。





「恭文、どうしたの?」

「……あれ」





僕が3時方向を指差すと、10メートルほどの位置に浮かんでいた顔を見てあむと唯世が息を飲む。



それは今よりも少し幼い感じの一人の女の子の姿。その子の名前は――日奈森あむ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あれ、あたしっ!?」

【どうやら今居る道は、あむちゃんの思い出に繋がっているみたいね】

「そう言えば空間や時間を飛び越えるとの事だったな。……唯世、もしや」

「うん、僕も同じ事を考えてた」



唯世くんとキセキが真剣な顔してるけど、それより気になるのは過去のあたしの映像。

そうだ、あれはあたしの過去だ。だってすっごい覚えあるし。



「11月の最終決戦でイクト兄さんの過去を見た時、僕達は星の道に入ってたんだよ」

「ロックとキーの力で、ここへの入り口を一時的に開いていたというわけか。ところであむ」

「なにかな」

「なぜお前は物陰から唯世をジッと見ているんだ」

「……き、気のせいじゃん?」



そうだ、気のせいだ。なんかレンガ式の壁から唯世くんの様子を伺っているのなんて嘘だ。



「いや、気のせいじゃないでしょ。もうすっごい見てるし。恋する乙女みたいに見てるし」

≪てゆうか、ストーカーですよね≫

≪なのなの≫

「気のせいだしっ! めちゃくちゃ気のせいだしっ!」



余計な事を気にする恭文にツッコんでると、映像が切り替わっていく。

それは全部転校したてでまだラン達が居なかった頃のあたし。



『――バカじゃん? 幽霊なんて居るわけないし』

「あむ、それは勘違いだよ。幽霊って居るんだよ? 現に僕は」

「やめてっ! マジそういう事言うのやめてっ! あと過去のあたしにダメ出ししても意味ないしっ!」



それが恥ずかしくてもう顔が赤い。でも過去のあたし、可愛くないなぁ。意地張って突っ張ってる感じしまくってる。

どうしてこれでクール&スパイシーなんて異名が出てきちゃうのかが分かんないよ。うん、ほんと分かんなかった。



『バカじゃん?』

『日奈森さん、普通の子となんかキャラが違うっていうか……迂闊に近寄れない感じだよねー』



そうだ、こういう風にクールで強いキャラだって思われてた。それが当たり前になってて、友達もうまく作れなくてさ。



『用もないのに気安く触らないでくれる? おチビちゃん』

「あ、これは僕があむちゃんに初めて話しかけた時のだね」

「あむ……僕の事どうこう言えないって。僕よりヒドいって」

【恭文君、言わないであげて? あむちゃんだって頑張ってるの】



自分でも外キャラばっか独り歩きしてた。でも本当は――ほんとうのあたしは。



『あー、今日も外キャラつっかれたー』



そうだ、あれがあたしだ。お化けとか全然ダメで、ビビリでヘタレで口下手なのがあたしだ。



『あたしだって一度くらいピンクのフリフリが着てみたい。本当はもっと可愛くて素直な女の子になりたい』



だからあたしは願った。きっと冴木のぶ子先生のテレビを見てて、ちょっと考えた。

もしホントに先生が言うみたいに守護霊様が居るなら、あたしの事見守っててくれるなら。



『守護霊様、どうかあたしに勇気をください』

「なりたい自分に生まれ変わるための」



お願いすれば、信じれば、なにかが変わるかも知れないって思って……手を伸ばしたんだ。



『「勇気を」』





――そうだった、こんな気持ちからだった。あたしも恭文と同じだ。ビビリで弱い自分を変える勇気が欲しかった。

外キャラに流されちゃう自分が嫌で、ホントの自分を出せない事が嫌で、そんな今を変えるための勇気が欲しかった。

だから必死に『変わりたい』って願って……そうしたらしゅごたまが生まれた。もう最初の時は混乱してたっけ。



それで一番最初に生まれたのが、ラン。ランと初めて会って、あたしはとべない子からとべる子にキャラチェンジ出来た。

ほんと無茶苦茶だけど、あたしは自分の外キャラをちょっとだけ壊せたんだ。そうだよ、あたしはずっとそうしたかった。

いつも外キャラに押し潰されちゃってたけど、そんなのを軽く飛び越えて――ジャンプしたかった。



そんな気持ちから生まれたのが。





「日奈森さん、それは」



驚いた様子のシオンから声をかけられて、ハッとしながら胸元を見る。胸元には優しく輝くピンク色の光があった。

あたしは驚きながらもその煌きを両手で掴み、ゆっくりと胸元に当てる。ううん、抱き締める。



「……ラン」





あたし分かるよ。この煌きはランだ。ラン、あたし思い出したよ。ランが生まれた時に感じた、ドキドキした気持ち。



まずは一つ――あたしは胸の奥で眠っていた大切な気持ちを思い出した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なんか知らないけど煌きを一つゲット。……いや、一つ分かった事もあるか。まず煌きというのはキャンディーズ達そのものでOK。

あむ曰くあの映像でラン達が生まれた時の気持ちを思い出したらしいから、ここを踏まえるとどういう風にすれば煌きを見つけられるかは予測がつく。

でも問題はそれが『四つ』であるという事。ほら、消えたのはラン達三人だけだから四つにはならないんだよ。



司さんの絵本が一つの鍵になってるのは、あむとダイヤがこの中で絵本の出だしを聞いた事から考えても間違いない。



だとすると……星の道の中を進みながらあれこれ考えをまとめつつ、僕は自然とダイヤを――キャラなりしてるあむを見た。





【恭文君、どうしたの?】

「いや、さっきのあれで色々分かったから考えまとめてたんだよ」

「分かったって、ラン達がどうして消えたのかとか?」

「そこについてはなんとなくってレベルだけどね。ねぇあむ、消える前の日ってなに話してたの? なにかこう、特別な話をしたとか」



やっぱりいきなり消えるとは考え辛いからなにかきっかけはあるはず。

そう思って聞いてみたけど、あむは首を横に振る。



「特に変な事は話してないよ。ただ文集に載せる写真の事あれこれ話してたり、その写真見ながら思い出話したり」

「そっか」





でもなにかきっかけがあったと思うんだけどなぁ。しゅごキャラは大人になったら消えるって言うけど……あれ、ちょっと待って。

それだと僕はアウトなんだよね。もしかして……まぁ今更ではあるんだけど、大人ってやっぱ『年齢』の事じゃない?

じゃあしゅごキャラが消えるとされている『大人』は一体どこで定められてるんだろ。ラン達はその境界線をあむが超えたから消えたんだよね。



だとすると、やっぱ昨日に来るまでのあむとラン達の間でそれっぽい事があったとしか考えられない。



これはもうちょっと話を詳しく聞く必要がありそうだと思って、僕は改めてあむの方を見る。





「じゃあどういう話したかをもうちょい詳しく教えてくれないかな」

「……なんか手がかりになるかもって事かな。その、あたしにそういう自覚がないだけで」

「自覚があったらラン達消えてもそこまで驚かないでしょ」

「それは……うん、分かった。えっとね、昨日は」

【二人とも、話は後よ。……前を見て】





ダイヤに止められて何事かと思いつつ前を見ると、ここから大体……1キロ程度前方に巨大な白い光の球体を見つけた。

その周囲に螺旋を描く光の線がいくつもあり、それらは球体に吸い込まれるかのように動いている。

光の線は僕達の周囲にも存在していて、その線がどこから発生しているのか目で辿って追いかけようとするけど端は見えない。



でもそうやってまじまじと線を見て気づいた事がある。光の正体は……白いたまご達だった。

たくさんのたまごが線を描き、回転する光の球体に引き寄せられて吸い込まれ一つの巨大な形を取る。

そんな光景は当然見た事がなくて、僕達三人は光の中で唖然としてしまった。





≪な、なんなのアレっ!≫

「大きい、たまご? たくさんのこころのたまごが集まっていって……まさかこれ、全部誰かのしゅごたま」

「でも蒼凪君、これ以前の巨大×たまよりもずっと大きいよ? これ全部がたまごとは……あ、まさかこれが」



唯世の言葉を遮るように、僕達の前に一つのたまごがすっと現れた。そのたまごにぎざぎざが入り、ぱかりと開く。

そうして中から出てきたのは、スチュワーデスルックなしゅごキャラだった。



「アテンションプリーズ♪ おひさしぶりデスー」



その言葉は僕にも唯世にも向けられたものではなく、あむただ一人に向けられていた。あむはそのしゅごキャラを見てハッとしながら顔を近づける。



「アンタ確か……そうだよそうだよっ! 鳩羽ゆきちゃんのしゅごキャラっ!」

「ハーイ」

「……え、あむの知り合い?」

「そう言えば蒼凪君が居なかった頃の話だしね。えっと」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ではここで僕キセキが解説しよう。鳩羽ゆきとはあむがガーディアンになった直後に、こころのたまごに×を付けた人物だ。
その原因は突然の海外への転校。環境が変わる不安と、それに対応出来て当然という自分へのプレッシャーからこころに×を付けた」

「ですが日奈森さんが浄化……でしょうか」

「うむ。そしてあむも彼女と状況的には同じだったために、二人は今でもたまに連絡を取り合う友人となったんだ。
なお少々メタだが、この話は『とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/りた〜んず』でもやっているのでチェックするように」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――というわけなんだ。僕も直接見るのは初めてなんだけど」

「なるほど。それでその鳩羽ゆきのしゅごキャラがなんでここに?」

「あら、知らないデスカ? あれは星の道のずーっと先の先デスヨー」



鳩羽ゆきのしゅごキャラはそう言って笑いながら左手であの巨大な光を指す。



「言うならあれは、たまごのゆりかごなんだよ」



ショウタロスが腕を組みつつ、どこか楽しげな顔をしながら光の球体を見る。



「あら、あなたは」

「よお。いや、この間はありがとな。めちゃくちゃ助かったわ」

「いえいえー」

「え、ショウタロウ知り合いなの?」

「あぁ。オレもつい最近までここの住人だったからな。もうよく知ってるさ」



鳩羽ゆきのしゅごキャラに笑いを返してから、ショウタロスはまた『ゆりかご』に目を向ける。



「ここは色んな人の忘れられた思い出やこれから生まれる思い出がちょっとずつ繋がっている場所なんだ。
誰だって赤ん坊だった頃はあるだろ? でもみんなその時の事を覚えてはいない。そんなゆりかごで見る夢みたいな場所だ」

「……忘れられた思い出や、これから生まれる思い出」

「オフコース。私もまだここで、ゆきちゃんのところに生まれていく準備をしてるんデース。それはシュアーねー」



軽くウィンクをした鳩羽ゆきのしゅごキャラは、あむの方へ近づいていく。



「あむちゃん、思い出してクダサーイ。私と会った時の事ー」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――そうだ、あの時確かこの子『いつかゆきちゃんが自分で気づく日まで、もう少し眠ってる』って言ってた。



あの時はただ生まれないだけかと思ってたんだけど……そっか、そういう事なんだ。





「まだアンタは、ここで眠って……あれ、ちょっと待って」



あたし、今なんか引っかかった。それは恭文や唯世くん達も同じくらしく、ハッとした顔しながらゆりかご見てる。



「じゃあここにあるたまご全部……ううん、これから生まれる思い出や忘れられた思い出って」

「イエース。世界中の人達の中にあるたまごが眠る場所――だからゆりかごデース」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」



あたしはもう驚くしかなくて声をあげてしまった。せ、世界中って……あーだめだっ! 数が想像出来ないっ!

だって地球だけじゃなくて、次元世界の人達とかも含めたらとんでもない事になるしっ!



「……そうか。これがナインハルテンさんの言っていた『繋がり』なんだ。
世界中全ての人達のこころが繋がっていられるのは、それらがゆりかごという同じ場所にあるため」

「そのゆりかごから飛び出して生まれて来たのが、しゅごキャラってわけか。
てゆうか……もしかして僕、あの時これだけのたまごの力を借りてたわけ?」

≪それならあの巨大×たまも一蹴出来たのは当然ですよね。数そのものが違いますし。あなた、お礼言った方がいいですよ≫

「えっと……ありがとう」



恭文が頭を素直に下げてるのがちょっとおかしくて笑ってると、ゆきちゃんのしゅごキャラも同じように笑ってから左手を身体の横にかざす。



「左手をごらんくだサーイ。今のゆきちゃんデース」





そのかざした手の上にさっきのあたしの時みたいに映像が生まれる。

そこには金髪ソバージュな髪のお姉さんと、流暢な英語で話して笑っているゆきちゃんの姿があった。

ゆきちゃんは最後に会った時と変わらない黒髪ショートを揺らして、本当に楽しげに……そっか。



変わりたくないって悩んでたゆきちゃんは、今はもうそんなの吹き飛ばしてるんだね。あたしは映像を見ながら、自然と笑ってた。





「良かった」



この時はあたしも悩んでたよね。ゆきちゃんと同じで……変わる事が怖くて。



アン・ドゥ・トロワー♪

「ひぁっ!?」



考え込んでいたあたしは後ろから声がかかって驚きつつ後ろを振り向く。

そこにはにこにこと笑顔を浮かべるプリマ姿なしゅごキャラが居た。



「あれ、アンタ……あー! 舞ティのしゅごキャラっ!」

「ボンジュール、あむちゃん」

「あむ、その子も知り合い?」

「うん。あー、ほら。ややの通ってるバレエ教室あるじゃん。
そこの生徒のしゅごキャラなんだ。……でも懐かしいなー。ね、舞ティ元気?」

「もちろんよ」



この子も手をかざしてあたし達の前に映像を見せてくれる。そこに映るのは、一生懸命にバレエの練習をしている舞ティの姿。

汗流して大変そうだけど、でもとっても楽しそうなの。それでいっぱいに足を伸ばして練習場で飛び跳ねてる。



「もう怪我の事なんてなかった……って、当たり前か。あれから1年以上経ってるし」

「えぇ。今もママみたいなプリマを目指して訓練中よ」





――そう言えばこの時初めてミキとキャラなりしたんだっけ。あぁそうだそうだ、すっごくドキドキしたんだ。

舞ティのたまごが二階堂先生に抜き出されちゃって、それを助けるために……うん、そうだった。

ミキは苦手な事から逃げてズルしようとするあたしをいつも叱ってくれて、それでいつもクールでアーティスト。



なのにちょっと惚れっぽかったりして……そんなミキもあたしの一部分なんだ。あたしじゃないみたいだけど、それも『なりたい自分』。

そしてスペードは剣を意味するカード――剣はきっと、勇気の象徴。

苦手な事から逃げない事だって、きっと勇気。あたしはそういう勇気すら出せないキャラだった。



ミキはあたしの事叱ってる時、きっとあたしに苦手な事や嫌な事から逃げない勇気を持てって言ってくれてたんだ。

それであたしの事、応援してくれた。……あたし今更だけど、どうして恭文とミキがキャラなり出来たのか分かった気がする。

恭文はシオンとヒカリとショウタロス――それぞれ形の違う三つの勇気を持った自分を『なりたい自分』として描いた。



そんな恭文だから、ミキとキャラなり出来たんだ。ミキと恭文は凄く近い位置に居たんだ。

それであたしがどういう『なりたい自分』を描いてミキを生んだかも……うん、ようやく分かった。

でもおかしいな。あたし恭文との事以外はずっと前から分かってたのに。



なのになんで今思い出して噛み締めてるんだろ。なんかおかしいな。





「……あむ、目を開け」



ヒカリの声でいつの間にか閉じていた目を開くと、目の前に青い輝きがあった。

てゆうか周囲をよーく見るとゆきちゃんのしゅごきゃらも舞ティのしゅごきゃらもいつの間にか居なくなってる。



「あれ、二人は」

「二人はもう眠くなったそうだ。それよりもその輝きを掴め。それが」

「うん、分かってる」



あたしは青い輝きに両手を伸ばしてそれを抱き締め、さっきと同じようにゆっくりと胸元へ戻していく。



「これも、あたしだ」



これで煌きは二つ目。残りは……あと二つ。あたしはつい少し前まで感じていた絶望感が消えていくのが分かって、自然と笑顔になってた。



「うーん、懐かしい声を聞いたら」



ガッツポーズを取っていると、左の方から声が聴こえた。あたし達がそっちを見ると歯車の絵柄のたまごがふわふわと飛びながらこっちに来ていた。



「あれ、あのたまごって」

「もしかして」

「目が覚めちゃったよー」



そのたまごにぎざぎざの切れ目が入りパカリと開くと白衣姿で眼鏡をかけたしゅごキャラが出てきて、あたしと恭文はそれを見て驚いた顔をする。



「あー! アンタ二階堂先生のしゅごキャラじゃんっ!」

「二人とも、知ってるの?」

「あ、うん。二階堂先生が子どもの頃に生んだしゅごキャラだよ。今はちょっと居なくなってるけど」

「なんでこんなとこに……いや、当然なのか」



恭文は驚いたままのあたしと違って納得しながら、あのゆりかごを見る。



「ここはゆりかごだもんね。これから生まれるしゅごキャラと、居なくなったしゅごキャラが居る場所」

「そういう事。でもそれはちょっと正確じゃないかなー。しゅごキャラは持ち主が大人になってしまうと消えてしまう。でもね……ほら」



二階堂先生のしゅごキャラは笑顔で両手を広げてから、ショウタロスの方へ近づいてその手を取った。



「僕達は本当に消えてなくなっちゃうわけじゃないんだよ」

「……うん、知ってる」



だってスゥがそう言ってたし。こころのたまごは消えたりしない。リニューアルしてぴっかぴかになって、何度でも生まれ変わってくるってさ。

そう言ってちょっと突っ張ってた頃の二階堂先生の事、ホントにリニューアルしちゃったんだから。



「それでずーっとずーっとしゅごキャラは宿主の味方。今は悠もちょっとトラブってるけど」



ショウタロスの手を離したあの子が視線を自分の左側に向けると、またなにかの映像が映し出された。

そこには困った様子で海里のお姉さんを見る先生の姿が……あれ、なんか空気険悪っぽいんですけど。



「え、ちょっと待って。あの……なんでフェイトとティアナの姿が出てるわけ?」



あ、そこあたしも今気づいた。膨れてるお姉さんの向かい側に、先生と同じように困った顔のフェイトさんとティアナさんが座ってるの。

てゆうかここ、恭文とフェイトさん達の家の中だよね。あとあとBYと……え、なんであそこに海里が居るのっ!?



≪しかも海里君まで居るのっ! これどういう事なのっ!?≫

「あー、簡単に説明するとかくかくしかじか――というわけなんだよ」

『はぁっ!?』



二階堂先生と海里のお姉さんが……ちょっと待ってっ! 元サヤフラグ成立してるのもびっくりだけど、それが破綻ってのもびっくりだしっ!



「や……やぁ。結婚式……ドタキャン、やぁ。やめて、やめて、マジやめて。街崩壊しちゃ」

【あむちゃん、恭文君がトラウマに苛まれてるわっ!】

「恭文、しっかりしてっ! 大丈夫、きっと大丈夫だからっ! 根拠ないけどそこ分かるからっ!」



恭文の両肩を掴んで必死に揺らしても恭文の顔を青くしたままで……コイツ、ここまでだったんだなぁ。



「てゆうかそれヤバいじゃんっ! アンタしゅごキャラとして笑ってる場合じゃないしっ!」

「大丈夫だよ。きっと悠は自分でなんとか出来る」



あたし達が混乱しているのは気にせずにあの子は映像を一旦切って、あたしの方を見ながら笑顔を浮かべる。



「だから僕は、ここで見守ってるんだ。それがしゅごキャラだから」

「……アンタは先生の事、信じてるんだね」

「もちろんだよ。だって悠はあの子の言葉が嬉しくて、ぴっかぴかのリニューアルを目指してここまで頑張ってきたんだから」





あの子――スゥはのんびり屋で女の子らしくて、でもあたしなんかよりずっと強いとこがあった。

先生とゴタゴタした時だって、スゥのそういう強さが先生を本当の意味で助けたんだ。

そうだ、それもあたしの『なりたい自分』だ。月夜の事やイクスの事とかあって……確かにあたしはその形に気づいた。



スゥはちょっと分かりにくいけど、あたしが描く誰かを守れる強さの形だったんだ。そうだ、スゥもあたしの『なりたい自分』だ。





「あむちゃん」

「分かってる」





今度はみんなに言われる前に気づいた。あたしの目の前に緑色の光が生まれていた。



あたしはそれを両手で抱き締めて胸元に当て、ゆっくりと受け止めて自分の中へ導いていく。



これで三つ――煌きを受け止めたその瞬間、今は姿も見えないあの子達の声が聴こえた気がした。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヤスフミと別れて家に無事に戻れたのはまぁいい。みんなにびっくりされたけど事情を話して納得してくれたからここもいい。

でもその直後に突然海里君から電話がかかってきていきなりこれというのは……トラブルって重なるものなんだなぁ。

正直二階堂先生とゆかりさんがお付き合いしていた事も驚きだけど、そこは置いておくとして少し考えをまとめてみる。



話は海里君とBYの説明もあったから大体分かった。ヘタに刺激するとゆかりさんがどんどん意固地になるのも分かった。



ここは……右手でお腹を撫でながら呼吸を整え、二階堂先生と海里君達を見る。





「三人とも、悪いけど席を外しててもらえないかな。というか、しばらくどこかで時間を潰して欲しい」

「えっと……それって僕もですよね」

「えぇ。今はその……私から少し話してみますので。海里君も」



三人は顔を見合わせるけど、すぐに私の方に視線を戻して頷いてくれた。



「分かりました。じゃあ僕は一旦家に戻ってますんで。それじゃあ二人とも」

『あぁ。だがなにかあるようならすぐに連絡を頼む。出来うる限り力になりたい』



なんの迷いもなくそう言い切ったBYをじっと見ていると、あの子が軽く首を傾げた。



『どうした』

「あ、ごめん。やっぱりヤスフミにそっくりだし、ちょっと不思議で」

『大した事はない。二階堂悠には助けてもらった恩がある。それに報いたいだけだ』

「そう」



ヤスフミが撮影した戦闘映像と全然印象違うし、人間らしい……でもおかしくないのかな。

バルディッシュやアルトアイゼン達だって、この子と同じAIだもの。機械が心を得られないなんて、嘘だもの。



「ではフェイトさん、俺達はこれで」

「姉上殿の事、お頼み申します」

「うん、任せて」



三人はそのまま静かに玄関の方へ向かう。ゆかりさんはそれを見ようともせずに俯いてる。

さっきからこの調子なんだけど……私の言いたい事はあらかた固まってるので、あとはそれを言うだけかな。



「ゆかりさん、正直なところを言わせてもらうと、今回はゆかりさんが悪いと思います。
あんまりにいきなり過ぎですし、身勝手ですよ。二階堂先生の事、全然考えてない」

「でも歌唄が大事な時なのよっ!」



ゆかりさんは顔を上げて大きな声を出しながら、両手でテーブルを叩く。その衝撃で私達の湯のみが揺れる。



「今私がうわついて仕事がダメになったら……ただダメになるだけならいいわっ!
でもそうじゃないっ! そういう噂は必ず流れるし、また振り出しに戻る危険もあるのっ!」

「ちょっと落ち着いてくださいよっ! フェイトさん妊婦なんですよっ!?」

「……あ、ごめん」



ゆかりさんは申し訳無さげに私の方を見るので、首を横に振って『大丈夫』とアピール。



「まぁそういうの怖い気持ちは私も分かりますよ? 夏に歌唄がどんだけ大変だったか直に見ましたし。
でもそうならないように頑張るって道もあるじゃないですか。なにより歌唄だって納得するわけないし」

「でも」

「ならゆかりさんにとって二階堂先生って、どういう存在ですか?」



未だに迷うゆかりさんの方をじっと見て問いかけると、ゆかりさんは息を飲みながら目を見開く。



「私もヤスフミと一時期ちゃんとケンカも出来ないような状態になった事があるから、分かるんです。
一度心が離れかけたり……ホントに離れちゃった相手と繋がるのって物凄くエネルギーがいる。
でもお二人はそういうの乗り越えて、お付き合いしてたんですよね。いわゆる元サヤ」

「……えぇ」

「だから結婚も考えて……もちろんお仕事が大事なのは分かります。でも二階堂先生は、そのために逃していい相手なんですか?
どっちが大事とかそういう話じゃないんです。私が聞きたいのは……あなたが今捨てようとしているものは大事じゃないのかという事だけ」



自分や唯世君のあれこれを思い出しながらなにも答えないゆかりさんの揺れる瞳を見ながら、息を吐く。



「私は、悠を捨てようなんて」

「してます。もう一度言いますけど、こんな真似されたらどんな人だって心が離れます。
誰だって『自分と仕事どっちが大事なのか』とか言いたくなります。……もう一度よく、考えてみましょう?」





ゆかりさんはなにも答えない。なにも答えずにだた俯いて……その様子を見て私とティアナは顔を見合わせる。

ただここで迷う事そのものが救いでもあるんだけど。迷ってるって事はきっと、どっちも同じくらい大事って事でもあると思うから。

あとは事情を聞いてすぐに動いてくれたシャーリーとディードの方がどうなるかだね。



なんかシャーリーは『私にいい考えがある』とか言ってたけど、なにするつもりなんだろ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今日在校生組はロイヤルガーデンに集合して、卒業式の準備ー。あたしとやや先輩の担当は『卒業おめでとうございます』って横断幕。



そのために絵の具セットを持って来なきゃいけなかったのに……いけなかったのにー!





「もう、りっかちゃんダメだよー? 忘れ物しちゃー」

「ごめんなさいー」

「これじゃありっかちゃんは来年『忘れ物Kチェア』でちね」

「がーんっ!」



あたし柊りっか、忘れ物キングの称号を頂いてヘコみまくりです。うぅ、反論出来ない。

準備だけはちゃんとしてたのにー。やっぱ余裕持って寝ないとダメだなーとやや先輩の前で項垂れます。



「やや、君が言う権利はないだろう。横断幕用の用紙を持ってくるのを忘れたんだからな」

「ガーンッ!」



今度はやや先輩がショックを受けて崩れ落ちた。てゆうか、あたし達二人とも崩れ落ちました。



「そ、そうだっ! 恭文に作ってもらって」

「恭文さんはゆかなさんとフェイトさんとデートなのですよー?」

「そうだったー! ……え、ゆかなさんとデート?」

「リイン先輩、恭文先輩ってゆかなさんって人と知り合いなんですか」

「いいえ、違うのです。でもライブとか行く時の恭文さんはそれくらいのテンションなのですよ」



えっと、デートするくらいの勢いーって事だよね。……あ、なんか分かるかも。先輩すっごい楽しみにしてたっぽいしなー。



「とにかく忘れ物ダブルキングな二人はとっとと材料調達してくるのです」

「「既にコンビ認定っ!?」」

「そうだな。プログラム作成は僕とリインだけでも出来るし、問題はない。というか、早くしろ。作業時間がなくなるぞ」

「「は、はいー!」」





それであたしとやや先輩は全速力で駆け出してロイヤルガーデンの外に出て……うぅ、ホントにダメだなぁ。



失敗も成功も宝物かもだけど、やっぱり先輩達に迷惑かけちゃうのは嫌だよ。よし、りっか明日から忘れ物しない子になろう。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まずややはりっかちゃんと二人で中庭を歩きながら作戦会議。だってだって、用意するもの二つだもんー。



りっかちゃんの絵の具はともかく用紙は用意するの大変だったから、新しいの買うとかも面倒だしー。





「やや先輩、どうしましょお。家に取りに行きます?」

「うーん、その方がいいかなー。それなら1時間前後でなんとか出来そうだしー。りっかちゃんは家何処ら辺?」

「えっとぉ、家は」



その瞬間、ややの隣を歩くりっかちゃんの隣に上から落ちてきた灰色のバックが直撃。

りっかちゃんはその衝撃に圧されるようにして、レンガが敷き詰めてある足場に前のめりに倒れた。



「……りっかちゃんっ!?」

「何事でちかっ!」



慌ててりっかちゃんに駆け寄ると、りっかちゃんは涙目になりながら右手で頭を優しくさする。



「大丈夫っ!? どこか痛いとこ……ううん、救急車ー!」

「うぅ、大丈夫です。頭ちょっとグラグラするけど……一体なにが」



りっかちゃんが落ちてきた袋を見て固まって、慌てた様子でそれを両手掴んだ。



「え、嘘っ!」

「どうしたでちか」

「これ、あたしの絵の具袋なのっ!」

「「えぇっ!」」





やや達が驚きながら頭上――絵の具袋が落ちてきた上の方を見ると、なぜか視界が黒に染め上げられる。



その黒はこっちに突撃していて、ややとりっかちゃんは顔とか胸とかお腹に体当たりされた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



連続で二つ目と三つ目の煌きをゲットした僕達は、やっぱりいつの間にか居なくなっていた二階堂のしゅごキャラと別れを告げて先へ進む。

僕も過去の惨劇の記憶をなんとか乗り越え、あむと唯世にリードされながら進み始めた。

行くアテのない冒険かと思ってたけど、どうやらそうでもないらしい。僕達がこの中を進む事だけでOKっぽい。



最初の煌きをゲットした時に考えたあれこれはどうやら的中らしい。ラン達を取り戻すための旅には、原則的なルールがある。

まず僕達が手にすべき煌きは、ラン達が生まれた時の事を思い返す事で手に入る。

それは今隣で光の道を進むあむが『なりたい自分』を――ラン達の形を再認識する事と同意義。



だからこそ空間や時間さえも飛び越える上に人の記憶が映像として出てくるここが旅の舞台として選ばれた。



それで僕の予想通りならあの煌きは――そして四つ目の煌きとこの旅の意味は。





「ねぇ唯世」

「なにかな」

「僕、エンブリオの正体に関して一つ仮説が立てられた」

「ホントにっ!?」



左隣で驚いた顔の唯世に頷いてから、視線を前に戻す。



「多分エンブリオの正体は……あのゆりかごだよ。ゆりかごは世界中の可能性の集合体と言ってもいい。
それにあれは僕達が生まれるよりずっと前から存在していただろうし、きっと誰かが僕達と同じようにあれを見ているんだよ。
そう考えるならエンブリオに纏わる話があっちこっちに広がっている事もおかしい話じゃない」

≪海外に居るシュライヤさんが知っていた事も、そのお父さんが探していた事も≫

「あとはその……あむちゃんと蒼凪君が会ったっていう月夜さんが知っていた事も、かな」

「うん」





ここで以前から疑問だった『エンブリオという存在の出所』については解決が出来る。

過去にあむとダイヤのように星の道へ入るほどの力を持ったキャラ持ちとしゅごキャラが居たとする。

そんな二人があのゆりかごを見て、なんらかの形で後世にその情報を残した。



ゆりかごはあらゆる可能性を宿した輝きの結晶――とにかくそれっぽい感じで情報が残った。

それが時を経るに連れて、『どんな願いでも叶える魔法のたまご』として変化したとしたら?

そういう伝言ゲームみたいな情報の変化は、歴史の中では珍しい事じゃない。時間の経過そのものが情報を変化させるのよ。



それにゆりかごも『どんな願いでも叶える魔法のたまご』と言えばそういう形になると思うんだ。



ゆりかご自体はたまごの密集体だし、『願いを叶える』って下りは『なりたい自分』になるって事にも捉えられる。





「つまりエンブリオはゆりかごを指すのと同時に、それを構築するこころのたまごそのものを指す用語だった。
どんな願いでも――どんな可能性でも努力次第で形に出来る魔法のたまごが、僕達の中にある」

「それでは僕達はとっくに目的を達成していた事になるな。イースターに至っては欲しがってたものを無駄に壊していた事になる」

「なっちゃうねぇ。連中が出した被害を考えると笑えないけど」



ただこれだけだと妄想に等しいんだけど、実を言うともう一つ根拠があったりする。



「あとこれが一番の理由なんだけど……最終決戦の時に僕のキャラなり、パワーアップしたじゃない?」

「あ、もしかしてその時の事も」

「そうなんだ。あの時、僕やシオン達だけじゃあ絶対出せないような力が出せた。
あの中にある力を一つにまとめたら……ホントにね、数え切れないくらいの力を感じたんだ」



あの中にある力を実感しているから、そういう尾ひれがつく事も余計に納得できちゃう。もちろん確証はないんだけど。



「そういう事でしょ、ショウタロス」



だからこそ僕は、さっきから黙ってるショウタロス達の方を見る。



「それでショウタロスは僕がおじさんの事とかを忘れている間、ずーっとここに居た。
さっき出会ったみんなみたいに僕を見ていて……しゅごキャラは確かに消えないっぽいね」

「……あぁそうだ。ゆりかごの中のたまごは夢を見ながら、宿主を見守っているんだ。それでずっと一緒だ。
ただエンブリオに関してはオレもなんとも言えねぇよ。もしかしたらマジでそういうアイテムがあるかもだしな」

「そう。うーん、良い線いってたと思うんだけどなぁ」

「推理として筋道も経ってるしね。それでね蒼凪君、実は僕も一つ気づいたんだ」



唯世は楽しげな表情を一旦収めて、真剣な顔であむの方を見る。



「多分蒼凪君ならもう考えついているところ。……ラン達がどうして消えたのかって話だね」

「え、マジっ!?」



あむが飛行を止めて停止したので、僕達も同じように飛行体勢を解除して光の中で動きを止める。



「たまごのゆりかごは生まれる前のしゅごキャラ達が居る場所って言ってたよね。
でもそれだけじゃなく、二階堂先生のようにもう消えたはずのたまごもここに居た。しかも」



唯世はあむから視線をショウタロウに移し、表情の中にある疑問の色を強くする。



「ショウタロウもだよ。僕、実は前々からショウタロウがどこから来たのか疑問だったんだ。……蒼凪君と同じくね」

「え、なんで? だってショウタロウは恭文が子どもの頃に描いて」

「でも蒼凪君はそのショウタロウの存在を――生まれるきっかけを完全に忘れてた」



あむはようやく気づいたらしく、ハッとしたしながら右手を開いた口に当てた。



「それによりショウタロウは外に出て来る事そのものが出来なかったとも言っていた。
とにかく一度宿主のこころから居なくなって、消えたはずのたまご達もあそこに居たんだ。
……もしかしたらだけどラン達もあのたまごの中に」

「唯世くん、ちょっと待ってっ! それってその……あたしが大人になったからラン達消えたって事っ!?」

「そうだよ。あの絵本に描かれている通りにね」

「でもあたし、マジでどうしてそうなるのか分かんないよっ!
年齢だって恭文や歌唄にイクトより下だし、いきなり過ぎだしっ!」

「そこも前々から気になってたところだったんだ」



唯世は右拳を口元に当て、真剣な顔をしながらあむから僕の方に視線を移した。



「大人になる事の基準が年齢なら、もう蒼凪君はアウトだよ。大人で結婚もしててもうすぐお父さんだし」

「でしょっ!? それにあたしのいとこも恭文と同じで、大人だけどたまごあるしっ!」





実は大人にも関わらずこころのたまごを持っている人は、僕以外にも居る。

以前あむと海鳴で鉢合わせした時の事を思い出して欲しい。あの時新郎であるあむのいとこにはこころのたまごがあった。

大人であっても『なりたい自分』を信じて追いかけている人には、たまごは生まれるもの。



だからとっくの昔にこの謎についての答えは出ていたんだよ。

しゅごキャラが――こころのたまごがかえるのに年齢や現実の立場や役職は関係ない。

なにか別の要素が絡んだ上でしゅごキャラは消えてゆりかごへ戻るんだよ。



それは当然ながら、消えたラン達とあむにも適応される事。その答えも全部、昨日までのあむとラン達との会話の中にある。





「これはあくまでも推測だけど、しゅごキャラ自身が宿主を見て『もう大丈夫』って思ったら消えるんじゃないかな」

「えっと……はい?」

「ラン達から見てあむちゃんは、もう自分達が居なくても大丈夫って思われたんだよ。
それでさっきの二階堂先生のしゅごキャラみたいに、ここで見守る事にした。……だからあむちゃんは」



唯世は少し言いにくそうに視線を泳がせるけど、すぐに呼吸を整えながら視線をあむ一人に定めた。



「もうラン達を生んだ時に描いた『なりたい自分』になっているんじゃないかな」



あむがその宣告に言葉を失っていると、周りの景色が慌ただしく流れ始めた。それで僕達の身体も揺れて……あれ、これってまさか。



【これは……みんな気をつけてっ! 流星ゾーンよっ! それも超特大っ!】



僕は慌てて飛行魔法も使った上で体勢を立て直そうとするけど……だめ、引きずり込まれる。

とりあえず近くのシオン達を全員両手で抱きかかえて、どこに落ちても良いように気構えを整える。



「恭文っ!」

「僕はいいから先に行ってっ!」

「でもっ!」

「パスもあるからなんとかなるっ! それで」





流されそうになるあむは手を捕まれて、なんとかその場でこの流れに必死に抵抗を続けている。これなら外に出る心配はない。



それに安心しつつも少し考えた。もしこれが僕の想像通りなら、あむはもう一つ気づかなきゃいけない事がある。



消えたのはきっとラン達だけじゃない。それで掴むべき最後の煌きは……僕はどんどん遠ざかるあむに向かって、叫んだ。





「今自分の中にある『輝き』を、信じろっ!」





僕は暗い闇の中に吸い込まれるけど、次の瞬間には視界が一気に明るくなる。

そこは見慣れた色合いの場所で……反射的に身体を縦に一回転させて着地。

それから左側からする気配の方を見ると、なぜかそこには大量の×たまと慌てふためく顔見知りが居た。



しかもなんでかそのうちの二人は泣きじゃくって……これは何事?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あたしはまた地面に倒れるけど、すぐにフラつきながらも起き上がって周りを見る。



えっと、頭がなんかグラグラするけど……うん、ばつたまが居るのも分かる。




『ムリッ!』

「ぐす……びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ! 痛い……痛いよー! これなんなのー!」

「や、厄日でちか」



隣のやや先輩とぺぺが泣き出してるのを見てたら、自然とボーっとしてたのが治って……あれ、なんかおかしくないっ!?

てゆうかよく見たらこの子達、うちの子達だしっ! ワケ分かんない状況が更に分からなくなったー!



「アンタ達なにしてんのっ! てゆうかなんであたしの絵の具袋」

『ムリムリ……ムリッ!』

「え、あたしが絵の具袋忘れたから届けに来てくれたっ!? ありがと……じゃなーいっ!
と、とにかくアンタ達隠れてっ! 今アンタ達がうちの子達だってバレたら大変な事に」

「残念ながらそれは無理だよ」



背後から声がかかって寒気がしつつ、あたしは隣に居るほたる共々振り返る。

そこには地面から起き上がりながら、こっちを頬を引きつらせながら見る男の子が居た。



「りっか……早速で悪いけど、どういう事か話聞かせてもらおうか。その×たま達がうちの子っていうのは、どういう事かな」

「や、恭文先輩……!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文がブラックホールみたいなのに飲み込まれて消えちゃってからすぐ、嵐みたいな乱れは一気に止まった。



あたしは唯世くんが引き止めてくれたから大丈夫だったけど、恭文は……寒気が止まらない。





「ヤバいヤバいヤバい……なんかあれ、すっごく嫌な予感するんですけど」

「蒼凪君なら大丈夫だよ。デンライナーのパスもあるんだし」

「それはそうだけ」





言いかけて唯世くんの声がおかしいのに気づいた。てゆうかその、司さんみたいな声になってる。

ううん、あたしの手を掴んでいる手も唯世くんの今の手の大きさじゃ……あたしは慌てて自分の後ろの方を見た。

そこには紺色のスーツ姿をした10代後半か20代前半くらいの唯世くんが居た。



ううん、そんなわけない。唯世くんはまだあたしと同い年なんだし。じゃあこの人、まさか。





「司さんっ!? うそ、どうやってこっち来たのっ!」

「……あぁ、そっか。うん、そうだね。びっくりさせちゃったね」



司さんは曖昧に笑ってからあたしの事を引き寄せて、嬉しそうに微笑んだ。



「ホントに嘘みたいだ。また会えたね、あむちゃ……日奈森さん」

「……へ?」

「ううん、なんでもない」





司さんの様子がなんかおかしいけど、そこ気にしてる余裕はあたしにはなかった。

あたしはハッとしながらまず周囲を見渡す。……違う。さっきまでと景色が全然違う。

さっきまで近くに見えてたゆりかごは消えてるし、最初の時と同じ感じだ。



もしかして耐えてるつもりで、あの流星ゾーンに流されまくってた? じゃあ恭文だけじゃなくて唯世くんとも……!





「どうしよう、唯世くんともはぐれちゃって……二人ともどこー!?」

「大丈夫だよ」



司さんは慌てるあたしの手を引いて、星の道を飛ぼうとする。あたしは抵抗出来ずにそのまま司さんに連れられる形で進んでいく。



「ちょ、司さんっ!」

「みんなとはすぐに会えるから。今は日奈森さんの最後の煌きのかけらを探す方が先決だ」

「ほ……ほんと?」

「うん、僕が言うから間違いない」

「……意味分かんないし」



なのに自然と安心出来ちゃうのはどうしてだろ。でも司さん、なんでデンライナーの事知ってるの?

それに最後の煌きの事も……いや、司さんだしなぁ。そういうの見抜けるのかも。デンライナーの事も恭文が話したのかもだし。



「あはは、確かにそうだね。いきなりだしね」

「それに」

「それに?」



唯世くんがさっき言ってたみたいにあたしがもし本当に『なりたい自分』になれてるとしたら……あたしは自然と動きを止めていた。

司さんはそんな強い力で引っ張ってたわけじゃないらしく、本当に楽に止まった。



「ランもミキもスゥも……煌きを全部見つけたとしても帰ってくるのかな」



あたしにはなにが子どもでなにが大人なのか、全然分かんない。だけど……もしあたしが『大人』だっていうならもうラン達には。



「しゅごキャラは大人になると消えてしまう……か」



司さんはあたしに背を向けながら手を離して、顔を上げて虹色の光と星達を見る。



「確かに僕も、そうだったな」

「司さんも……って、当然だよね。初代Kチェアなんだし」

「……うん、そう」



司さんの広い背中を見てたあたしは視線を落として、腰の後ろに手を回して……指を弄る。

そうでもしてないと不安が全然薄れない。もちろんやっても薄れない。



「大人になるってどうしたら分かるのかな。このままダイヤもいつか消えちゃって、あたし一人ぼっちになっちゃうの? だったらあたし」

「大人になんてなりたくない?」



その声に顔を上げると、司さんはあたしの方に振り向いてた。

少し困ったような目であたしの事見てて……あたしはそんな視線が辛くて、視線を落とす。



「分かんない。よく……分かんない」



俯いてたあたしの視界に、白くて細い指が入る。その右手を差し出したのが誰かなんて考えるまでもない。

ゆっくりと腕を辿るように顔を上げると、司さんはさっきとは全然違って、安心させるように笑ってくれていた。



「おいで。怖がらなくてもいい。僕も一緒だよ。……さぁ」



優しい言葉と表情にに胸が高なってあたしは、自然と右手を上げていた。

あたしは震える手を伸ばして司さんの手を取り、さっきまでの憂鬱な気持ちを振り払うように頷いた。



「うん」





残る煌きはあと一つ。いくらあたしがバカでも、この展開ならなにを思い出せばいいのかくらいは分かる。



でもダイヤはちゃんとあたしと居るし……じゃああたしが見つけなきゃいけない最後の煌きって、なに?





(第142話へ続く)















あとがき



恭文「というわけで、驚愕の事実発覚。あむは既に『なりたい自分』になっていたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

シルビィ「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」



(どどーんっ!)



恭文「というわけで本日のお相手は蒼凪恭文と」

シルビィ「シルビア・ニムロッドです。……ヤスフミ、あれがとまかのとかで話の出たゆりかごなのね」

恭文「うん。とまかのベースの場合はこの一件が終わった後にクロノさんにその事報告して、僕は聖夜市からミッドに戻る感じ?」

シルビィ「あれがエンブリオかも知れないと。でも原作だと明確に『これがエンブリオ』みたいな事言われてないのよね」

恭文「ないねぇ」



(ないねぇ)



恭文「まぁここは読者からの感想とかも加味した上での解釈だね。そしてしゅごキャラが大人になったら消えるという言葉の本当の意味」

シルビィ「しゅごキャラ自身がその基準を決める形だったのね。だから大人でもこころのたまごを持っている人も居た。
というか、この場合はヤスフミやあむちゃんのいとこの人そのものがここのネタバレに絡む感じなのかしら」

恭文「そうなるね。憧れて描いた『なりたい自分』になれた時、しゅごキャラはあのゆりかごに戻る。
それは二階堂のしゅごキャラみたいに宿主に壊されてしまったしゅごキャラも同じく。
大人になってもしゅごキャラは消えるわけじゃなく、あのゆりかごで……それはラン達も同じくと」



(蒼い古き鉄、一応キャラ持ちなのでちょっと複雑)



シルビィ「ところでヤスフミ、この話って結構昔の話のキャラも出てくるのね」

恭文「そういう構成だしね。必要なとこはりた〜んずも含めてやってるから今はやらないけど。
なので分からないという人はそっち見て。見ない人は置いてけぼりになっても知らない」

シルビィ「ヤスフミ、それどうなのっ!?」

恭文「いいのよ。なにより今回はそんな余裕ないし。頭痛い問題もあるしさ」

シルビィ「……あぁ、りっかちゃんね」

恭文「ホントにあのバカは……まぁ×たま達がマジでペット的なのが救いか」

シルビィ「あ、それはあるわよね。問題行動も起こさないし……でも放置はしないのよね」

恭文「当然でしょ。とにかく本日はここまで。次回はまた揉めそうで頭が痛い蒼凪恭文と」

シルビィ「シルビア・ニムロッドでした。それじゃあみんな、また次回に。SEE YOU AGAIN♪」





(というわけで次回もすっ飛ばしていこう。……密度やっぱ濃いなぁ。
本日のED:SURFACE『夢の続きへ』)











フェイト「まさかあむが『なりたい自分』になったからランちゃん達が消えちゃうなんて」

恭文「ただ大人になるだけっていうのとはまた意味合いが違うんだよね。というか、前回のあの夜の会話がそのきっかけになってたわけだよ。
まぁ僕はそこにはもう手出せないけどね。それよりも対処しなきゃいけない事が……りっかー!」

りっか「ご、ごめんなさいー! お願いだからげんこつは勘弁ー!」

恭文「そう。だったら蹴りだね。僕蹴りオンリーも出来るよ? カポエイラも本場で練習したし」

りっか「え、それ見たい……いや、見たくないっ! それやったらりっかの命がなさそうだしっ!」

フェイト「りっかちゃん、大丈夫だよ。カポエイラは確か今は観光者向けのショーダンスって言うし、格闘技としては」



(ゆーらゆーら……びゅんびゅんっ!)



りっか「フェイトさん、なんか凄いんですけどっ! 先輩の周りだけ竜巻起こってるみたいなんですけどっ!」

フェイト「……前言撤回っ! ヤスフミ、それほんとやっちゃだめだからっ! りっかちゃん死んじゃうからっ!」

恭文「さすがにやらないよ。でもりっか、お仕置きは覚悟しておこうねー」

りっか「どっちにしても地獄だー!」





(おしまい)





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あきゅろす。
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