小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第137話 『Thought fit cut/激闘っ! BF対お魚デッキッ!』
ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』
ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー♪ さてさて、前回からの続きで思いっ切り遊ぶよー」
ミキ「空を飛んだりモンスターを召喚したりでのんびりゆっくり」
スゥ「そんな中でも気づく事があったりして、目が離せないですぅ」
(立ち上がる画面に映るのは、デッキを信じてドローをするあの子)
ミキ「でも空海、やっぱり大人気ないような」
スゥ「きっと勝負の世界は非常なんですよぉ」
ラン「でもでも、恭文が『魚デッキは主流なやつより目立ってないだけで、実はかなり強い』って言ってたけど」
ミキ「え、そうなのっ!」
スゥ「魚さん凄いですぅ」
ラン「凄いよねー。それじゃあ今回も……せーのっ!」
ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
リイン達は中庭の中でも人気の少ない特別資料棟付近に来て、結界を展開。それでみんなは早速練習開始です。
ボードから伸びる事故防止用のリングを右手に通してボードに乗って……まずはゆっくり進むところからスタートなのですよ。
「――さてさて、解説なのです。カレントボードはボードの角度でダイレクトに機動が変わります。
そのため通常の空戦魔導師に比べても変則的な機動を可能です。ただ」
「ふぎゃっ!」
あ、ややちゃんがこけたです。でもでも、簡易AIが咄嗟にリングを着けてる使用者の身体に緩衝魔法を付与。
ややちゃんは地面にゆっくりと降り立って怪我ひとつなく……なのにややちゃんは両手で目元を押さえて泣き出しました。
「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ! 痛くないけど痛いよー!」
「このように習得にはちょっぴり時間がかかっちゃうのです」
「さすがややちゃん。緩衝魔法でコケても痛くないはずなのに泣いちゃうとは……赤ちゃんキャラが根っこに染みついてるでちね」
「いやいやっ! アンタどんだけ豆腐メンタルっ!? それ弱過ぎ……うわっとっ!」
あむさんも派手に頭から地面に落ちますけど、緩衝魔法が(以下略)。
「ぎゃ、逆に痛くないってのが気持ち悪いかも。転び方に比例してないっていうか」
「いや、今の痛かったら命に関わってたから。というかあむちゃん、どんだけ派手に転んだの?」
「むしろボードさんの方が大怪我しそうですぅ」
「いや、仕方ないじゃんっ! あたしこういうの初めてだしっ!」
ですよねー。それで唯世さんとなぎひこさんも今コケましたし。
何気に難しいのか、二人は後頭部をかきながらボードを困った顔で見ます。
「きゃっ!」
今度はりまさんもですね。でも緩衝(以下略)。
「りまー、しっかりー! 二人でお空飛ぶんだからー!」
「そうは言うけど……結構難しいわよ、これ」
「あー、それは言えるですね。なのでイメージを変えるです」
「イメージを?」
「ですです。例えばスノボーやスケボーみたいにやると、バランス取れないのですよ。
イメージとしては平均台に乗っている感じなのです。身体全体でバランスを取るのですよ」
あむさんとりまさんは首を傾げながらも立ち上がって、もう一度地面から30センチほどの高さまで浮いたボードに乗ります。
それで今度は動かずに両手を広げて、必死な顔でバランスを保って……表情が緩みました。
「あ、なんか分かるかも。こう……ボードの真ん中に柱を置くイメージ?」
「私今まで滑るイメージで乗ってたんだけど……違うのね。乗っている間もずっと、自分でバランスを取らないと」
「ですです。両足はそれから外れないようにして体重を前にかけると」
リインの言う通りに二人が体重をボードの前にかけると、ボードがゆっくりとだけど進みました。
あむさんはさっきまでと違って、楽しげに笑ってるです。
「やっぱりっ! さっきと全然違うしっ!」
「あむちゃんも真城さんも凄いね。もうコツ掴んじゃったの?」
唯世さんが起き上がりながらもあむさんの方を感心した様子で見ると、あむさんが自分の左側に居る唯世さんの方を見ます。
「ま、まぁあたしはアミュレットハートとかで空も一応飛べ」
「私も結構ぎりぎりだし、コツってほどじゃ……あむ、前っ!」
「え……ふぎゃっ!」
あむさんは近くの木に真正面からぶつかり、また倒れます。まぁ緩衝魔法のおかげで怪我はないんですけど。
それでも心配ではあるので、リインも唯世さん達も転げたあむさんへ近づいていきます。
「あむちゃん、大丈夫?」
「あ、うん。ぶつかってもボードが守ってくれるっぽい。全然痛くない。てゆうか、結構高性能なんだね」
「場合によっては高度数十メートルの位置で激突や墜落もありえるですからね。そこはきっちりしてるです」
「そっか。それなら」
あむさんは勢い良く起き上がって、自分の傍らで転がっているボードを両手で抱えて笑います。
「もうちょっと頑張ってみようかな。なんかこれ、マジ面白いし」
あむさん、とりあえず今は嫌な事とか忘れてるっぽいですね。それに安心して、リイン達は顔を見合わせて安堵の表情を浮かべます。
それはあむさんの事気にしてた唯世さんも同じくで、どうやらリイン達の作戦は成功っぽいのですよ。
All kids have an egg in my soul
Heart Egg――The invisible I want my
『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!
第137話 『Thought fit cut/激闘っ! BF対お魚デッキッ!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――あたしのターン、ドローフェイズに入ります」
早速ドローしようとするけど、空海先輩の場を見て頭が痛くなっちゃう。でもでも……うぅ、スターダスト・ドラゴンはカッコいいけど邪魔だよー。
あとあのアーマード・ウィングの効果もめちゃくちゃ強いし……えっと、みんなとやってたデュエルを思い出せー。
戦闘で破壊出来ないモンスターは、モンスター効果や魔法・罠カードで破壊が基本なんだよね。
でもでも、それはスターダスト・ドラゴンが止めちゃうし……だったらまずはスターダスト・ドラゴンをなんとかしないと。
うん、それは分かるの。でもあの伏せカードが怖いよ。せっかく出した子達がやられちゃったらどうしよう。
「なんだ柊、随分迷ってんな。降参なら降参でいいぞ? 負けを認めるのも強さだ」
「……ううん、まだですっ! あたし、まだ諦めてないっ!」
空海先輩はそこでなんでかあたしの方を見ながら、嬉しそうに笑った。
「そうか。だったらどんと来い」
「はいっ!」
呼吸を整えて、右手の人差し指と中指をデッキに当てて……ドロー! 手札は一枚から二枚へ増加……来たっ!
「メインフェイズ1へ移行しますっ! あたしは場の伏せカードを発動っ!」
ドローしたカードを手札に加えて、あたしから見て右の伏せカードに右手をかざす。
するとそのカードはゆっくりと起き上がって、空海先輩とあたし達の前に姿を表した。
「発動するカードは……魔法カード『手札抹殺』っ!」
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りっかが発動したカードに描かれているのは、手からこぼれ落ちるカード達の図。
あれは互いのプレイヤーは手札を全て捨て、その枚数分だけドローするという効果の魔法。
なのでりっかは今発動した手札抹殺を除いて残った手札一枚を捨て、再度ドロー。
空海も手元の手札を二枚墓地へ送って、同じ数ドローした。手札抹殺は一見無意味な行動に見えるカードだけど、実はかなり奥深い。
このカードを発動すると自分の手札が事故……あー、ようするにその局面では使えないカードばっかりって意味なんだ。
召喚出来ないモンスターや発動出来ない魔法・罠ばっかりだと、戦闘出来ないしさ。
なのでそういう時にこのカードを使って、使えるカードを引くという手もある。でもここにはデメリットもある。
一つはそれでまた事故る可能性がある事。もう一つは……相手も手札を入れ替えるために同じ事が言える事。
例えば今の状況で言うと空海の手札が事故ってたら、りっかは空海の手助けをした事になる。
ただ逆に空海が良い手札を持っていたなら、それの邪魔になる。うん、このカードは一種の賭けだよ。
ただそれでもこのカードがある事で確実に得を出来る状況もある。それは。
「あたしはさっき手札からモンスターカード『ダンディライオン』を墓地へ送ったので、効果発動っ!」
それは墓地にあって初めて効果を発揮するカードが手札に来た場合。それがモンスターカードならこのカードはかなりの意味を持つ。
だって召喚して倒されてーなんて面倒な手順を踏まなくて済むんだから。あと、手札から捨てられて初めて効果を発揮するカードもある。
今回りっかが効果を発動した黄色くて花みたいなたてがみをしたデフォルメライオンも、一応そんなカードの一つ。
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ダンディライオン 効果モンスター(制限カード) 星3/地属性/植物族/攻300/守300
このカードが墓地へ送られた時、自分フィールド上に「綿毛トークン」(植物族・風・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンは特殊召喚されたターン、アドバンス召喚のためにはリリース出来ない。
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「ダンディライオンが墓地へ送られた時、自分フィールド上に綿毛トークンを二体守備表示で特殊召喚っ!」
というわけで、りっかの場に綿毛が二つ光を放ちながら現れてふわふわと浮き出した。
攻撃力も守備力も0だけど、守備表示なら破壊されてもダメージは0。うん、あれはそういう盾役なんだ。
ただ、トークンにはまた別の使い道もあったりする。それは召喚補助。
例えばアドバンス召喚――フィールドに出ているモンスターを墓地に送る事でより別のモンスターを出したりとかね。
でもそれはダンディライオンの場合だと、今のターンアドバンス召喚のコストとしては使えない。でも、それ以外は出来るのよ。
「次に手札からモンスターを表側守備表示で召喚っ! ……来て、コダロスッ!」
りっかがディスク板にカードをセットすると、トークンの隣に青く細長い翡翠色の目をした竜が生まれ……あ、ヤバい。
コイツの効果だと空海の伏せカード次第だけど、一気にアドが稼げると思う。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
コダロス 効果モンスター 星4/水属性/海竜族/攻1400/守1200
自分フィールド上に表側表示で存在する「海」を墓地へ送る事で、相手フィールド上に存在するカードを二枚まで選択して墓地へ送る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あたしはコダロスの効果発動ー。海として扱われているアトランティスを墓地へ送ります」
りっかの声に反応して、ディスクに収納されていたフィールド魔法スロットが展開。
その中のアトランティスを右手で取り出して、りっかはそのまま墓地へ送る。同時にずっと出ていたアトランティスが砕け散る。
「それから相手フィールド上に存在するカードを二枚選択してから、『墓地へ』送ります。
あたしは……アーマード・ウィングと空海先輩から見て左側の伏せカードを選択します」
「甘いぞ柊っ! スターダストの効果発動っ! 相手が自分フィールド上のカードを『破壊』する効果を発動した時」
「空海ー、スターダストじゃそれ止められないよー」
「へっ!?」
空海が呆けた顔でこちらを見た。……まぁそうだよねぇ。普通気づきにくいよねぇ。だからコンマイ語って言われるくらいだし。
「それは『墓地へ送る』だけで、破壊されるわけじゃないのよ。で、スターダストが止められるのは破壊効果だけ」
「え……え?」
「スターダストでも破壊を通さず除外するだけの魔法・罠・モンスター効果などは止められないだろう? それと同じだ」
さて、ここで前話でのスターダストの説明を思い出して欲しい。
場のカードを守った上で生き残る万能カードなスターダストだけど、今言ったように弱点がある。
それが『破壊』という過程を通らないカード効果へは無力になるという事。
例えば『次元幽閉』というカードがある。これは罠カードで、相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事が出来るカード。
その効果はゲームから除外するというもの。除外は墓地にも行かず完全にゲームからサヨナラ状態に置かれる事を指す。
まぁ除外したカードを復活させたりするカードもあるから、限定的ではあるんだけどね。
それでこのカードの説明文は『攻撃モンスター一体をゲームから除外する』と書かれている。
もしこのカードを相手が発動した場合、これはスターダストでは守れない。だって破壊されずにそのまま除外だから。
コダロスの効果も送られる場所に違いはあれどそれと同じなのは、もう分かってもらえると思う。
ようやくそこに気づいた空海は、両手で頭を抱えた。
「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
空海の叫びがロイヤルガーデンに響いた瞬間、場で鎮座していたアーマード・ウィングと伏せカードは砕け散る。
なお、伏せカードは砕け散る前に素早く展開して中身が見えた。……ゴッドバードアタックかぁ。
「くそ、しかもゴッドバードアタックの方かよっ!」
「すみませんー」
「いや、いいさ。てーかこれくらい来てくれなきゃ楽しくないしな」
空海は悔しそうだけど、笑いながら二枚のカードを墓地へ送る。
「それじゃああたしは墓地から……あ、召喚出来ないか。手札ないし」
あー、さっき墓地送りにしたフィッシュボーグーガンナーを召喚しようとしたのか。
でもアレ、手札を墓地送りにしないと特殊召喚出来ないしなぁ。さて、まだ形勢は空海に向いてるね。
厄介な効力持ちのアーマード・ウィングは手札抹殺からのドロー連発で除去出来たけど、それだけなんだよ。
空海のデッキはブラックフェザー。展開力だけなら……なにより僕はこの状況でアドを取るモンスターを一つ知ってる。
以前対戦した時にそのカードが入っているし、空海は絶対にそれの召喚を狙ってくると思う。
それを召喚しさえすれば、アトランティスが墓地送りされた今の状態ならよっぽどのカードを出さないと覆せない。
で、悲しいかなそれは1ターンもあれば可能なのよ。それもかなり楽にさ。
りっかはさっきの攻撃、伏せているカードを発動させずに攻撃を受けた。空海の性格を考えると、もう一つの方法は取らないと思われる。
「バトルフェイズとメイン2を飛ばしてターンエンドですー。なにかありますか?」
「いや、大丈夫だ。それじゃあ……俺のターンッ! ドロー!」
空海の手札は三枚となり、改めてりっかの場のモンスター達を見る。
「俺はまず、手札から『BFー極北のブリザード』を召喚っ!」
空海が出したのは、白く丸っこい身体と頭部と目の後ろに翼の端の黒色の毛が特徴の鳥。
このカードが出た事で、ここからBFのインチキ効果が更に発揮されるのは決定となった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
BFー極北のブリザード チューナー(効果モンスター) 星2/闇属性/鳥獣族/攻1300/守0
このカードは特殊召喚出来ない。
このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル4以下の「BF」と名の付いたモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する事が出来る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「俺は極北のブリザードの効果発動っ! 墓地から蒼炎のシュラを攻撃表示で特殊召喚するっ!」
墓地スロットから空海の声に答えて蒼炎のシュラのカードが出てきた。それを空海は攻撃表示で召喚。
「俺はレベル4・蒼炎のシュラにレベル2・極北のブリザードをチューニングッ!」
二体は青いリングに包まれ、粒子に還り六つの星となる。その星に向かって空海は左手をかざした。
「シンクロ召喚――大地の騎士ガイアナイトッ!」
並んだ星が輝き一つとなり、紺色ベースに金色のラインが入った甲冑を身に着けた騎士となる。
その騎士は左手にランスを装備し、同じ色の甲冑を身に着けた馬に乗って……また渋いカードを。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
大地の騎士ガイアナイト シンクロモンスター 星6/地属性/戦士族/攻2600/守800
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「わー、あたし初めて見たー」
りっかが目をキラキラさせるのは、このモンスターがちょい微妙な扱いだからだよ。
あのね、シンクロモンスターなのにスターダストみたいな効果ないのよ。普通のモンスターなの。
その上同じ属性・種族で攻撃力が200上なゴヨウ・ガーディアンってモンスターが居るのよ。
そのモンスターは当然効果持ちなんだけど……これがまたチート。
ゴヨウ・ガーディアンは自分が倒して破壊したモンスターを、自分フィールド上に守備表示で再召喚出来る。
ようするに相手のモンスターを倒せば、それがどんなモンスターだろうと奪い取れるの。
しかも2800はレベル8の上級モンスターだろうと大半は倒せる。例えば今空海の場に居るスターダストもだよ。
なのでルールでデッキに一枚しか入れちゃいけない制限が決まってるんだけど、シンクロモンスターだからなぁ。
だから空海は今この場でゴヨウ・ガーディアンを召喚する事も出来たのよ。だって空海はカード持ってるし。
僕が前にパックかって15連続で引き当てたうちの一枚をトレードしてるしね。
「でもでも、ゴヨウ・ガーディアンじゃないんですねー」
「まぁな。制限(ルールで一枚しか持てないカード使うのはちょっともったいないからな」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「はい、ここで私シオンと」
「オレショウタロスが解説だ。今話に出たゴヨウ・ガーディアンだが、この話が掲載されている段階では既に禁止カードにされている」
「その理由は……お兄様の仰った通りですね。効果による破壊・除外に弱いという弱点はあれど、その能力とステータスが強過ぎるせいです。
ゴヨウ・ガーディアンはアニメの方で牛尾さんというキャラも使っていたカードなので、ここは残念ですね。
ただその禁止も2011年の3月に行われたルール改定によるもの。この話はまだ1月ですので、禁止ではありません」
「なので『あれ、禁止じゃね?』って話はなしで頼む。……そう言えば遊戯王オンラインの方だと制限のままだっけか」
「えぇ。オンラインはリアルOCGとは制限・禁止ルールがまた違うようですから」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「つーわけでまだまだいくぜっ! 次は墓地にある『ゾンビキャリア』の効果発動っ!」
空海はそこで残った手札一枚をデッキの上に戻す。
「手札一枚をデッキの一番上に戻して発動。墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚するっ!」
墓地スロットからカードが飛び出し、空海はそれをキャッチして素早くディスク板の上に置く。
そこから姿を表したのは、太い腕をもつ紫色の巨人。なお、足が腕の太さとは不釣合いなほどに細い。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ゾンビキャリア チューナー(効果モンスター)(制限カード) 星2/闇属性/アンデット族/攻400/守200
手札を1枚デッキの一番上に戻して発動する。墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「なお、この効果で特殊召喚されたこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外する」
「え、ちょっと待ってっ! ゾンビキャリアなんていつー!」
「さっきお前が手札抹殺使った時だよ」
あぁ、あれかぁ。考えもなしにガイアナイトだけを召喚するとは思ってなかったけど、そう来ますか。さて、そうなると。
「レベル6・大地の騎士ガイアナイトに」
当然のようにシンクロ召喚に持ってくるよね。りっかは今のところ召喚にも攻撃にも伏せカード無反応だし。
「レベル2・ゾンビキャリアをチューニングッ!」
二体が青いリングに包まれ、粒子に還り八つの星となる。それが空海の前で縦に並んだ。空海はそれに向かってまた右手をかざす。
「王者の鼓動、今ここに列を成すっ! 天地鳴動の力を見やがれっ!」
「……口上は言うんだな」
「まぁ身内同士だし問題ないって。大会でやったら騒がしくてアウトだろうけど」
言っている間に星は輝き、黒い体躯に赤いラインの入った禍々しい龍の姿を取る。
「シンクロ召喚――俺の魂っ! レッドデーモンズドラゴンッ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
レッド・デーモンズ・ドラゴン シンクロ・効果モンスター 星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードが相手フィールド上に存在する守備表示モンスターを攻撃した場合、ダメージ計算後相手フィールド上に存在する守備表示モンスターを全て破壊する。
このカードが自分のエンドフェイズ時に表側表示で存在する場合、このターン攻撃宣言をしていない自分フィールド上のこのカード以外のモンスターを全て破壊する。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「わぁ、レッドデーモンズドラゴンとスターダスト・ドラゴンが揃い踏みだー! 凄い凄いー!」
「柊さん、言っている場合ではないかと」
「だよな。えっと……ヤスフミ、確かレッドデーモンズドラゴンの効果って確か」
「うん、このシチュ向きだよ」
レッドデーモンズドラゴンこと略称『レモン』の効果は二つ。まず一つは守備表示モンスターを攻撃した場合に発動。
もしも他に守備表示モンスターが居た場合、問答無用でそれを全て破壊する。
そしてもう一つの効果は……いや、今はいいか。とにかくここでレモンの攻撃が決まれば、りっかの守備表示モンスターは全て消える。
次にスターダスト・ドラゴンがコダロスを叩いてりっかの場のモンスターは0。当然だけど1100のダメージも受ける。
もし今想像した通りの展開になった場合、りっかのライフは……この状況でそれはマズい。
りっかはおそらくアトランティスの効果とのコンボを狙って、キングサーモンのようなレベル5のモンスターもそれなりに投入してるはず。
でもこの状況で伏せた罠が発動出来ずに攻撃されるがままだと、次のターンにでも勝負が決まる。
「それじゃあゾンビキャリアは効果により除外して……いくぜっ!
バトルフェイズに移行っ! レッドデーモンズドラゴンで綿毛トークンに攻撃っ!」
「そう来ますよねー」
来るよねぇ。まず綿毛トークンを次ターンに残すのは結構危ないのよ。あのトークンを使えばレベル5以上の重量級モンスターも召喚出来る。
トークンを使ってアドバンス召喚出来ないのは、あくまでもトークンが召喚されたターンだけだしね。
もしくはシンクロ召喚? だから確実に空海は確実にトークンを一気に潰す手を取った。なお、BFでの個別攻撃はない。
今右拳を握り締めてトークンの一つに拳を振りかざそうとするレモンは、見て分かる通り3000台の攻撃力を持つ強力モンスター。
そういうモンスターを維持して場の流れを掴むのも戦術……あれ、りっかの口元が歪んだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
家の事やフェイトお嬢様の事をシャーリーさんにお願いした上でやって来たのは、私立桜が丘高校。
年を超えていい加減どこの学校に通うか極めなくてはいけなくて……悩んだ私は、またここに来てしまった。
まぁ聖夜学園以外だとここくらいしかアテというか知っている学校がないからなんだけど、校門の前で頭を抱えてしまう。
だって……ほら、よく考えたら勝手に入って校内を見るなんて出来るわけがない。私は懐からあのたまごを取り出して、大きく息を吐く。
「私、なにをやっているんだろう」
焦りゆえか少々バカになっているような。とにかく呼吸を整えて、自宅に戻って資料請求でもしようと考えた。
でも動きが止まってしまう。それならやっぱりここに直接聴いた方が早いんじゃ。二度手間にはならないだろうし……うーん。
「あれー、ディードちゃんどうしたのかなー」
後ろからかかった声の方へ振り返ると、そこには紺色のコートを着て大きめなコンビニの袋を持った見知った人が居た。
「やっほー。あ、わたしの事覚えてるかなー」
「はい。平沢さん、ですよね」
「もう、唯でいいよー。……あ、そうだ」
平沢さん――唯さんはそこでいきなり頭を下げた。
「ありがとう」
「あの、それは」
唯さんは顔を上げて、にこにことした顔を私に向ける。
「さわちゃんから聞いたんだー。わざわざ来てくれたーって。でもわたし達、寝ちゃってて……ごめんねー」
「いえ」
「あ、それで今日はなんの用かなー」
人懐っこい笑顔を浮かべながら私をまじまじと見る唯さんに、曖昧な笑いしか浮かべられないのはどうしてなんだろう。
私の周りには居ないタイプだからだろうか。でもやや……いや、ややとはまたタイプが違う感じがする。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――というわけで」
レッドデーモンズドラゴンの攻撃を前にりっかは笑顔を浮かべ、右手を伏せたカードにかざした。
「トラップオープンッ! 『攻撃の無力化』っ!」
「なぬっ!」
展開したカードはさっきりっかが発動したのと同種カード。その余りに予想外な内容に、空海は目を見開き固まった。
そしてカードから生まれた光の渦によってレモンの拳は止められ、火花をあげながら吹き飛ばされる。
「これで先輩のバトルフェイズは終了ですー」
「ちょ、ちょっと待てっ! さっきそれ発動してたらスターダストの攻撃止められたよなっ!」
「はい。でもあそこで発動しても無駄使いだと思ったんで」
「な……!」
わぁ、いい笑顔であっさり言い切ったし。でもまた……あ、そっか。
「先ほどのターンの最初、一枚残った手札がダンディライオンだったのかも知れないな」
「みたいだね」
でもアーマード・ウィングが居たし、BFの展開力を考えるとダンディライオンの効果を使ってもトークンが潰されるかもとりっかは考えた。
仮に次のターンで攻撃の無力化を使ってキングサーモンを守ってダンディライオンを盾にしたとしても、状況によっては一瞬で全滅。
それじゃあ空海の陣営を突破するのは無理。ここまでの展開を見てくれれば分かると思うけど、手札次第で奴は次々とモンスター出すから。
だからあそこはあえて攻撃を受けて、ダンディライオンとトークンを有効活用出来る状況が来るのを待った。
ううん、空海の油断を突いたのかも。現に空海はあの伏せカードが攻撃や召喚関係で発動するタイプじゃないと踏んでた。
多分特定のモンスターなりこっちの罠へのカウンターだと思って……その結果がご覧のありさまだよ。
「えへへ……前にクラスの子とデュエルした時に同じような事やられて、真似してみましたー」
「それでかよっ! く……俺はターン終了だ」
空海は手元に残ったカードを伏せずに残した上でターンを終える。あのカード、なにかのコストにでもするとかかな。
もしくはモンスターカード? てーかこの状況だと……あー、レモン様が荒ぶってスターダストを睨みつけてくる。
「レッドデーモンズドラゴンの効果発動。……このターン攻撃宣言をしていない自分フィールド上の自分以外のモンスター全てを破壊する」
空海の宣言を受けて、レモンはスターダストに組みついて両手でその首を締め上げる。
今僕達が見ている同士討ちの光景が、レモンのもう一つの効果。うん、デメリット効果なんだ。
今ので言うと、攻撃の無力化のせいでスターダストは攻撃宣言が出来なかった。
だからこのデメリット効果の対象になって、スターダストは破壊され……いや、スターダストはそこで翼を広げた。
「スターダストの効果発動っ! 自身を墓地へリリースする事で、自分フィールド上のカードにかけられた破壊効果を無効っ!」
スターダストは空海の宣言通りに光の珠となってレモンの首絞めから逃れ、墓地スロットへ飛び込む。
そして空海もそれに合わせて板状のスターダストを墓地スロットへ挿入。
「そしてその効果を発動したカードを破壊するっ!」
というわけでレッドデーモンズドラゴンは……あー、粉々に砕け散ったなぁ。
「続けてスターダストドラゴンの効果を発動っ! 破壊無効化の効果を使ったターンのエンドフェイズ時、墓地からこのカードを特殊召喚するっ!」
墓地スロットから出されたスターダストを空海は右手で掴み、もう一度板状に攻撃表示で召喚。
「俺はスターダストを攻撃表示で召喚。……これで俺のターンは終了だ」
「はいー」
さて、このプレイには二つの選択肢があった。簡潔に言うと、スターダストとレモン様のどっちを残すかだね。
もしこの場で今のように空海がスターダストの効果を発揮しなかったら、場にはレモン様だけが残っていた。
これはどちらが良いというわけではなく、結果だけを見ると一長一短ある選択になるんだ。
まずスターダストを残した場合相手の破壊効果を止められるというメリットがあるけど、一つ欠点もある。
それは2500という攻撃力が、上級モンスターとしては決して高いわけではない事。
そこはアトランティスの効果補正在りのキングサーモンやガイアナイトにレモン様に攻撃力が抜かれてる事からも察してもらえると思う。
普通ならともかく、りっかの場にはその上級モンスターの対価に出来るモンスターやトークンが三体も居る。
りっかのデッキには確実に2500の打点を超えるモンスターが居るから、なんの対策も無しでスターダストだけを残すのはマズい。
次にレモンを残す場合……まぁメリットとデメリットが完全に逆になると考えれば分かりやすいかも。
レモンの攻撃力3000は上級モンスターの中でも大台中の大台だし、戦闘破壊の危険はかなり少なくなる。
でもスターダストのような破壊効果耐性は持っていないから、その手のカードを使われたら一瞬で沈む。
なのでここから予測するに……空海の伏せカードはスターダスト以上の攻撃力を持つモンスターにどつかれても、対処出来るカードと見た。
破壊効果カードを使われたらスターダストをリリースして、戦闘で破壊されそうになったら伏せカード発動って感じかな。
でもそれだけじゃない。空海はりっかの手札にも注目した上で、スターダストを残す選択を取った。
「りっかの手札は0枚である事を考えると、賢明な判断と言ったところか」
「確かにね」
りっかの次のドローでモンスターが出るかどうかもさっぱりだし、実はまだ空海の優勢は変わらないんだよ。
空海はこれでなんとか時間を稼いで、次のモンスターを出していこうとする。もしくは伏せカードを破壊する魔法カードが出るだけでもいい。
りっかが人の真似っ子でもそういうプラフ使って来た以上、あの伏せカードも警戒するのは必須。
だから次だよ。次のドローでここから形勢がどう動くかが決まってくる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
空海先輩が出す強いモンスターはなんとか墓地送りに出来てるけど……うぅ、全然状況が変わってないよ。
今のままじゃスターダストは倒せないし、もう真似っ子作戦には引っかかってくれない。きっともう一枚の伏せカードもすぐに壊されちゃう。
だからこのドローが勝負だ。手札0枚だし、アトランティスの効果に頼るような事は出来ない。
あたしはデッキに指をかけながら呼吸を整え、焦る気持ちをなんとか落ち着かせる。大丈夫……大丈夫だから。
40枚に三枚だから……えっと、10%かなぁ。デッキの枚数はもっと少なくなってるから、それくらいでいいよね。
お願い、出てきて。あたしはこのまま負けるのなんて、やっぱり嫌だ。もっともっとデュエルしたい。
だってこんなにドキドキして楽しいんだもん。もっともっと……だから。
「あたしのターンッ! ドロー!」
あたしはデッキからカードを一枚抜いて、その中身をおそるおそる見てみる。
それで……よしっ! 考えてたのと違うけど、これで勝負だー! あ、その前に。
「まずは罠カードオープンッ!」
もうしょうがないので最後の伏せカードを展開。
「永続魔法『王宮のお触れ』っ! 王宮のお触れはこれ以外の罠カードを無効化するっ!」
カードに描かれた土色の城門があるのは王宮シリーズって言って、相手の行動を制限する効果を持つカードが大半なんだ。
これの場合魔法カードは無効化出来ないし、それから攻撃されるとすぐ壊されちゃうけど……大丈夫っぽい。
先輩、焦った顔してる。ならあの伏せカードはトラップカードだよ。あー、念の為に展開しといてよかったー。
このカードって強い方だと思うんだけどチェーンに乗って発動しちゃうと、相手の罠を止められない事があるから結構使うタイミングに気を使うんだー。
「次にあたしは綿毛トークン二体をリリースして、手札から『超古深海王シーラカンス』を召喚っ!」
二つのほわほわした綿毛トークンが光に包まれて、あたしの目の前から消えた。
それから場にカードを置くと……1メートルほどの大きな灰色のお魚が出てきた。
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超古深海王シーラカンス 効果モンスター 星7/水属性/魚族/攻2800/守2200
手札を1枚捨てる。1ターンに1度だけ、デッキからレベル4以下の魚族モンスターを可能な限り自分フィールド上に特殊召喚する事が出来る。
このカードの効果で特殊召喚されたモンスターは攻撃宣言をする事が出来ず、効果は無効化される。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが魔法・罠・効果モンスターの効果の対象になった場合、自分フィールド上の魚族モンスター1体を生け贄に捧げる事でその効果を無効にし破壊する。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「それじゃあメインフェイズは終了して、バトルフェイズいきますっ! シーラカンス、スターダスト・ドラゴンを攻撃っ!」
シーラカンスは尾ひれを動かしてそのままスターダスト・ドラゴンに突撃――体当たりでスターダストを吹き飛ばした。
スターダストはそこで粉々に砕けて、墓地へ直行。これで空海先輩のLPは3700。でもまだまだいくよー。
「次はコダロスでダイレクトアタックッ! いっけー!」
コダロスもシーラカンスと同じように突撃して、空海先輩に体当たり……まぁすり抜けちゃうんだけど。
でもでも、空海先輩のライフはで2300にまで減った。よし、いい感じー♪
「ぐ……!」
「あたしはこれでターンエンドです」
「……くくくく」
コダロスの突撃を腕を組んで防ぐふりをしてた空海先輩は、その腕を解きながらあたしを見て……楽しげに笑った。
「柊、やるな。まさかあの状況で上級モンスター引くとは思ってなかったぞ」
「えへへー、あたし運は良い方なんでー」
「そうか。なら俺も運試しと行くかな。……ドロー!」
先輩は右手でカードを引いて、なんかにやにやーってし出した。
「柊、どうやら俺も運が良いようだぞ」
「え?」
「いや、腐るんじゃないかって心配だったんだが、そんな必要なかったな。……まずはBFー暁のシロッコを効果により特殊召喚っ!」
あたし達の前に出て来たのは、最初に出てきたあのモンスター。えっと、これで運が良いって事はもしかしてまたシンクロ。
「……あ、間違えた。リリースなしで通常召喚だったな。すまん」
「いえ、大丈夫ですー」
「それじゃあ次は、魔法カード『死者蘇生』を発動っ!」
「えぇっ!」
「それで俺の墓地からBFーアーマード・ウィングを特殊召喚っ!」
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! コダロスでせっかく倒したのになんか黒い人また出てきたー!
というかというか、暁のシロッコの特殊能力……ピンチに逆戻りだよー!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あー、なるほど。あの一枚残したのは暁のシロッコだったか」
「スターダストが倒された時の予防策になったわけか」
しかも来たのが死者蘇生……さて、冒頭を思い出して欲しい。あの調子でやればこの後の展開は丸分かりだと思う。
「つーわけで、暁のシロッコの特殊能力発動。選択するのは当然アーマード・ウィング。
暁のシロッコの攻撃力をアーマード・ウィングの攻撃力に上乗せして」
暁のシロッコが先ほどと同じようにアーマード・ウィングに力を注ぎ込むと、あの黒い身体が同じ色の光に包まれる。
その結果、アーマード・ウィングは攻撃力4500という数値に……これで決まった。
「シーラカンスにアーマード・ウィングで攻撃っ!」
そうそうシーラカンスに……はぁっ!? いやいや、ちょっと待てっ! あのバカなにしてるっ!
アーマード・ウィングは背中の翼を広げ大きく飛び上がり、シーラカンスの頭に向かって飛び蹴り。
シーラカンスはその蹴りで粉砕され、金色の粒子がりっかの周囲に撒き散らされる。
結果りっかのLPは2900から1200に減った。だけど僕とひかるは……そしてりっかは、得意げな空海を見て首を傾げた。
「これでターン終了」
「あの、先輩」
「なんだ、柊。発動するカード……あ、トイレか」
「違いますー。あの、どうしてコダロスに攻撃しなかったんですか?」
「いや、なんでってお前」
そこで空海が固まり、頬から脂汗をだらだらと流し始めた。……ようやく気づいたか、バカが。
これ、魔法訓練の時は結構厳しめに教えないとだめか。まさかこんな大ぽかかますとは……はぁ。
≪あれれ、空海君どうしたのー? なんかがたがた震え出してるの≫
「ジガン、しょうがないよ。空海は自分のプレイングミスに衝撃を覚えてるの」
≪なのなの?≫
「彼は効果を使用した上でコダロスに攻撃していれば勝てたんだ。4500から1400を引いてみろ」
≪えっと、3100で……なのっ! りっかちゃんのLP超えてるのっ!≫
しかもシーラカンス攻撃するなら、能力使わずにアーマードウィングで殴ってからカウンター置いて暁のシロッコで潰せばいいのに。
そうすれば1700ではなく、2000ダメージが出せた。でももう取り返せない。当然空海はがたがたと震え……大きな声で笑い出した。
「は……ははははははははっ! そんなの決まってるだろっ! いいか、これはお前に対する試練だっ!」
「試練?」
「そうだっ! ガーディアン見習いとしてのお前の資質を見極めるための試練っ!
確かにさっきので簡単に終わるが……俺はもっとお前を追い込みたくなったっ! 柊、ガーディアンになりたいんだったなっ!」
「……はいっ! あたし、あむ先輩達みたいなガーディアンになりたいっ!」
「だったらここから俺を倒してみろっ! その気持ちでこの苦境を退け、気持ちが本気だって見せてみろっ!」
空海は汗だらだら流しながらも右手で場を指す。……確かにりっかが追い詰められているのには変わらない。
次のターンでなんらかの打開策を打てなければ、手札も0で場にはコダロスだけなりっかは負ける。
「ただし……次のターンにはもう容赦はしないっ! これがお前の意思を示すラストチャンスだっ!」
「……分かりました」
りっかは目を輝かせて……ううん、瞳の中に炎を宿して、空海をジッと睨みつける。
「あたし、空海先輩に勝ちますっ! それであたしが本気でガーディアンになりたいんだって、見せつけますっ!」
「おうっ! どんと来いっ!」
うわぁ、なんだこのスポコン展開。なんであのプレイングミスがこんなアホな話に発展するのさ。
りっか、ほらよく見て。そこのお兄さん未だに脂汗だらだらだから。ごまかせてるかどうか心配でビビってるから。
「恭文」
「なにかな」
「二人とも、楽しそうだな。というか、あれで誤魔化されるのはどうなんだ」
「しょうがないよ、りっかだもの」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
よーし、やるぞー! あたし本気だもんっ! これで勝って……でも、手札は0で場はアレなのに。
ううん、やれるよ。だってチャンスがないわけじゃないもん。まず空海先輩の場に発動出来る伏せカードはないっぽいし、手札も0。
だから本当にあたしの引き次第になるんだよね。これがだめだと……デッキに当てる指が自然と震える。
でも楽しい。ゾクゾクとドキドキが楽しい。額や頬から流れる汗がなんか心地いい。ほんとに、ずっと出来たらいいのに。
こんな気持ちがずっと続けば……あ、なんか大丈夫かも。あたしはデッキの一番上のカードを掴んで。
「あたしのターン――ドロー!」
そのカードを引き抜き、自分の顔の前まで持って来て中身を見る。……よし。
「あたしはコダロスを守備表示にして、モンスターカードを一枚セット」
コダロスのカードを横にして、伏せモンスターも一枚置いて……と。よし、これでOK。
あたしの前でコダロスは身を縮めて丸くして、大きな伏せられたカードも出てきた。
「これでターンエンドです」
「うし、なら俺のターン……ドロー!」
空海先輩はカードを一枚引いて、それから少し困った顔であたしの方を指差した。
「まずはアーマード・ウィングで伏せカードを破壊っ!」
アーマード・ウィングは一気にあたしの方まで近づいてきて右足を上げて……それを打ちおろした。
というか、かかと落としで伏せカードを砕いた。でも砕かれて金色の粉みたいになったカードは、一つの形を取った。
「あたしの伏せカードは……マシュマロンッ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
マシュマロン 効果モンスター(制限カード) 星3/光属性/天使族/攻300/守500
フィールド上に裏側表示で存在するこのカードを攻撃したモンスターのコントローラーは、ダメージ計算後に1000ポイントダメージを受ける。このカードは戦闘では破壊されない。
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白くてふわふわで丸っこいマシュマロに目がついたようなモンスターは、表表示になって効果発動。
空海先輩が白い光に包まれて、先輩のライフは1300に低下。あと……ちょっと。
「く……厄介なカードを。なら俺は暁のシロッコで」
黒い鳥さんは翼を大きく広げて、コダロスに近づく。
「コダロスに攻撃っ!」
黒い鳥さんは右足でコダロスを蹴り上げて、粉々にしちゃう。あたしは墓地にコダロスを送って……うぅ、よく持った方だよね。
「俺はメイン2に移行。一枚カードを伏せて」
先輩のモンスターの背後にカードが出てきて……あれが妙に気になるー。
「ターンエンドだ」
「はい」
とりあえず今のターンは大丈夫みたい。でもでも、ゴッドバードアタックとか出されたらおしまいだよー。
だってほら、今鳥獣族が居るもの。マシュマロンは戦闘では破壊されないけど、そういうの使われたら……あ、大丈夫か。
王宮のお触れがあるもん。ゴッドバードアタックは罠カードだから、発動しても無効化されて破壊されちゃう。
でももしも月の書みたいに、こっちが召喚したモンスターを守備表示にしたら……あ、そういうカードがあるんだ。
これはモンスターに使うと、そのモンスターを裏側守備表示にしちゃうの。
それでその表示は次のターンにならないと変えられない。それは魔法カードだから、王宮のお触れでは防げない。
もし空海先輩が伏せたカードが魔法カードでそういう防御効果を持ったものなら……うぅ、ホントぎりぎりだよねー。
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ちくしょー! ゴッドバードアタック来て一応伏せたけど、王宮のお触れがあるとなんも出来ねぇしっ!
いや、発動は出来るんだよ。あれは発動自体は無効化出来ないしな。でもその後に効果を無効化されて壊されるんだよ。
しかも場には……アレだしなぁ。マシュマロンは守備表示で、破壊も出来ない。これが厄介だ。
まずステータスが低かろうと、守備表示ならいくらアーマード・ウィングや暁のシロッコの効果を使おうとダメージは0。
そのうえ4000ライフで1000はキツい。これで俺はサイクロンなり来るまではなんも出来ない。
「あたしのターン……ドロー!」
柊は内心焦って来てる俺とは対象的に、出てきたカードを見て楽しげに……あぁ、楽しいよな。
でも俺は致命的なミスやらかして結構ひやひやだぜ? 特に恭文達の視線が突き刺さるのが辛い。
「あたしは魔法カード『貪欲な壺』の効果を発動っ!」
柊の前に出てくるデカいカードの中に描かれてるのは、紫色で人の顔を模した装飾が描かれたツボ。
そういや……そうか。さっきのコタロスが倒された事で五体墓地に残ってるのか。
「貪欲な壺の効果は、墓地に居るモンスター五体を選んでデッキに戻してシャッフルしてから、二枚ドローします」
ようするにあのカードは間接的な蘇生能力持ちなんだよ。デュエルが進んだ段階で引くと結構役に立つカードだな。
墓地からモンスターを引き上げた上に、ドロー効果まであるのはデカい。それで逆転も……あれ、なんかフラグ踏んでね?
「チェーンあります?」
「いや、大丈夫だ」
「なら早速カードを選びます。まずジェノサイドキングサーモン・フィッシュボーグガンナー。
ダンディライオン・超古深海王シーラカンス・あとさっきやられちゃったコダロスです」
墓地スロットから出てきたカードを俺に見せてから、柊はそれをデッキスロットに挿入。
するとデッキスロットでシャッフルが行われて……すげーなぁ。焦りながらもディスクの出来につい感心してしまう。
「それから二枚ドローします」
柊は一度深く呼吸を整え、デッキから二枚カードを抜き出す。それを左手に持って広げて……表情を緩めた。
「相馬先輩ー」
「おう、なんだー」
「一つ質問なんですけど、暁のシロッコって自分を攻撃力アップの対象に選択出来ましたっけ」
柊がめちゃくちゃ目を輝かせながらそんな事を聞くので、首を傾げながらも頭の中でBF関連のルールを反芻。
柊がいきなりそんな質問をする理由がよく分からないが、確かそこはカードWikiで書いてたからすぐに思い出せた。
「おう、出来るぞ。ただし自分以外にBFが居ないとだめだけどな」
「じゃあシロッコだけだったら効果発動出来ないんですよね」
「そうだ」
その場合は自分以外にBFが居ないと対象に取れないんだよ。それが出来たら攻撃側に回る時はノーリスクで攻撃力4000の壊れ性能だからな。
あくまでも周囲のBFの攻撃力の合計数値を加算する対象を選ぶ効果だから、他にBFが居ないと発動そのものが出来……ちょっと待てっ!
「お、お前まさか」
「ごめんなさーい」
柊はめちゃくちゃいい笑顔を浮かべて、ディスク板のスロットに緑色の枠のカード――魔法カードを挿入。その絵柄は銀色の十字架だ。
「魔法カード、『死者蘇生』発動ー。あたしが蘇生するのは、先輩の墓地にあるBFー暁のシロッコ」
そして柊の場に出てくるのは、最初に俺がスターダスト・ドラゴンの素材にした暁のシロッコ。
俺のカードが移動したわけじゃないから、きっとデータだけ向こうに送っているんだと納得した。
……いや、納得してる場合じゃないだろ。まず暁のシロッコの効果には、召喚による制限がない。
シンクロモンスターとかにはそういうの多いんだよ。召喚した時だけ効果発動するーってパターンがな。
だからそういうモンスターを死者蘇生で復活させても……あぁ、死者蘇生の効果はさっき俺がやったように、墓地のモンスターの復活だ。
この場合の『墓地』ってのは自分のとこだけでなく、相手の墓地のモンスターを引き上げる事も出来る。
説明文に『自分・相手』の指定がないからな。そのために昔から死者蘇生は制限カードの常連だ。
なので暁のシロッコはそれで特殊召喚されてもルール違反ではないし、その効果も遠慮なく使える。
それであれだ。前回の話で出てきた暁のシロッコの説明をよーく思い出して欲しい。
『フィールド上に表側表示で存在するBFと名の付いたモンスターの攻撃力の合計分アップ』と書かれている。
フィールド上っていうのは、相手のフィールドにBFが居ても適用されるんだよ。
もしここに限定が入るなら、必ず文面に『自分フィールド』とか『相手フィールド』とかが書かれている。
ここも死者蘇生と同じだ。説明文にそこが入ってないなら、両方で活用出来る解釈になる。
それがないからこそこのカードは、『相手フィールド上にBFが居たら、そのBFの攻撃力の数値もプラスされる』んだよ。
「それじゃあ暁のシロッコの効果発動ー。あたしはあたしの場の暁のシロッコ自身を効果対象に選択。
フィールド上にあるBFと名のついたモンスターの攻撃力の合計が、あたしの場の暁のシロッコにプラスされます」
俺の場のアーマード・ウィングと二体目の暁のシロッコから漏れた黒い光が柊の場のシロッコに集まっても、全然おかしくない。
その光に包まれ赤い瞳を輝かせる柊の場のシロッコの攻撃力2000に『2500+2000』がプラスされて、攻撃力6500……!
「というわけで」
「ちょ、ちょっと待て柊っ! さすがにそれはなくないかっ!?
展開的に魚族モンスターのキーモンスターを出して潰すとかさっ!」
「暁のシロッコでアーマード・ウィング……じゃなかった。
空海先輩の場の暁のシロッコを攻撃ー♪」
「話を聞いてくれっ! 俺は今先輩として大事な事を話しているんだっ!」
そんな事を言っても無駄だった。柊の場の暁のシロッコは翼を大きく羽ばたかせ、俺に風を送る。
いや、これは暴風だ。その暴風に切り刻まれてこっちの暁のシロッコは粉砕。そして俺は4500のダメージを受け……や、やられた。
勝てたデュエルだったのにミスしたせいで……ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! なんかすっげー悔しいんだけどっ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ど、どうしよう。いきなり部室に連れて来られてしまった。そんなつもりではなかったのに。
軽音部の皆さんを前に落ち着こうと思いつつ紅茶を飲んで……あぁ、やはり美味しい。騎士カリムの紅茶と同レベルかも。
「――学校の案内はさわ子先生が用意してくれてるから、ちょっと待っててくれ」
向かい側に座る澪さんはカップを両手で持ちながらそう言ってくれて、私は恐縮しきりで頭を下げる事しか出来ない。
「はい。なんというか、いきなりすみません」
「あー、いいっていいって。でもそっかぁ。受験するにしちゃあちょっとタイミング遅いと思ってたら、転入扱いなのか」
「ようやくこっちの生活にも慣れて来たので、踏ん切りがついたというかなんというか」
「え、でもほら。中学とかは」
「私、海外の方でその段階の教育は終えていて……何気にもう高校に入っていてもおかしくない年齢で」
あぁ、心が痛い。恭文さんがガーディアンに入った当初に少し考えてしまったというけど、その気持ちがよく分かる。
居心地が悪くて私はまた紅茶を一口飲んで、苦笑しながら息を吐く。
「えー、もったいないよー。ほらほら、早めに転入してたら一緒に色々遊べたのにー」
「唯、無茶言うな。人それぞれ事情があるんだから」
「そうですよ。……でも、どうして桜高に? あの子達も通ってる聖夜学園なら、高等部もあるのに」
「……憧れてる人が、あそこに通ってるんです」
両手に持ったままのカップを置いて私は、あの人の顔を思い出して自然と表情を緩める。
「本当はあの人の後を追って一緒にって考えてたんですけど、それだけでいいのかと迷ってしまって。
そんな時にこの学校に来て、学園祭の様子などを見て……良い学校だなと」
「へぇ……ね、もしかしてその人ってディードちゃんの」
紬さんが目を輝かせながら私を見るので、照れくさくなりつつも……あれ、頷けない。
なんだろう。あの瞳の輝きになにかこう、私の理解の及ばないなにかを感じてしまう。それはどうして?
「なるほど。つまり……彼氏かっ!」
え、どうしてそこで紬さんは残念そうな顔をするんですか。どうして瞳の輝きがなくなっていくんですか。あの、これはおかしい。
「いえ、彼氏というわけでは……まぁその、そうなれたらいいなとは」
みなさんの微笑ましい視線がどうにも恥ずかしくてそっぽを向いてしまう。
私はまた両手でティーカップを優しく掴み、紅茶を一口。……うん、やっぱり良いお茶だ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さてさて、全員がコツを掴んで地面に並行にならすいすい進めるようになりました。
もちろん速度に個人差はあるですけど、ついにカレントボードのメインなアレをやっちゃうです。
「それじゃあ、今度は高度を上げてみるですよー」
「だ、大丈夫なの? 一応移動する程度ならOKだけど」
「もちろんちょっとずつですよ。とりあえず」
リインは不安そうなあむさんに答えながら、周囲の木を見渡して視線を上げます。
「この木の上まで言ってみるですよ。さ、全員乗るのです」
みんなは右からあむさん・唯世さん・りまさん・ややさん・なぎひこさんの順で並んで、ボードに素早く乗ります。
「じゃあリインは普通に飛んでサポートするですから。では、レッツゴーなのですよー」
「おー! よーし、いっくぞー!」
「でちー」
ややちゃんは一番乗りで飛ばして、全員もそれに続くです。みんな普通に乗る分にはもう大丈夫っぽいですね。
「じゃあ少しだけ後ろに体重をかけるです。イメージはボードの先を行きたい方向に向ける感じで」
「えっと……こうかな」
すると全員ちょっとふらつきながらも地面を離れて、ゆっくりと空へ昇っていきます。
リインはそんなみんなの横で様子を見ながら、なんだか楽しくてちょっと笑っちゃうです。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今までよりずっと上に浮いた時はちょっと怖かったけど、すぐにその怖さがドキドキに変わる。
てゆうか、空の中を動く感覚はアミュレットハートとかダイヤとかで慣れてるから……ううん、それとはもっと違う。
だってあたしは今キャラなりもなにもしてない。バランスを取りながら幾何学色の空を飛んで口元が緩む。
両腕でバランスを取って、なんかスラロームとかして楽しそうなややを追いかけるように空の中を飛んでいく。
それはキャラなりで飛んだり走ったりするのとは全く違う感覚で……その感覚はみんなも感じてるっぽい。
りまとなぎひこも髪を揺らしながら楽しげに笑ってるし、並走してきてくれるラン達も同じく。
あとはあたしの隣の唯世くんもだよ。空の中を進んでいく感覚は、なんか不思議なドキドキがある。
あたしは唯世くんと顔を見合わせて、そんなドキドキを共有しながら一緒に笑い合った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
勝負は決着し、空海はプレイングミスのショックもあってヘコんで崩れ落ちた。
よっぽどあのミスが強烈だったらしく、僕達も言葉をかけられない。
≪というか、立場ないですよね。ガチデッキ使ってあれですし≫
≪なのなの≫
「空海、まぁ……元気出せよ。いや、オレは見てて楽しかったぞ? なによりほれ、りっかに先輩としての器量を」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! オレのバカァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
空海は両手で頭をかきむしり、ついに床に頭を叩きつけ始めた。
「空海、落ち着けってっ! 基本緩くって事だったんだし、ハンデと考えれば問題ないじゃないかっ!」
「空海、なんなら私のポテチをあげようか? 一枚だけだが」
「お姉様、食べ過ぎです。というか、登場シーンの大半が食べてるところというのはおかしいでしょう」
よりにもよって自分のモンスター取られて負けたしなぁ。僕も経験あるけど、結構キツいのよ。思い入れのあるカードだと特にね。
それでミラーマッチ――同コンセプトのデッキ同士でのデュエルをそう言うだけど、BFの場合は特に注意が必要なんだ。
その原因の一つは暁のシロッコだよ。さっきのりっかがやったみたいに、あのカードは対BFのメタカードにもなっている。
カード同士のシナジーによる展開力がBFの強みだけど、ヘタをすればあんな風にバッサリだよ。
仮にBF同士の対決にならなくても、今回みたいに死者蘇生やゴヨウ・ガーディアンのような相手のモンスターを奪取する効果のカードを使うと即席メタの完成。
ただ暁のシロッコ自体は魔法・トラップによる破壊や除外に耐性があるわけじゃないし、攻撃力アップも自ターンの時のみ。
そこを活用するなら決して破壊出来ない相手じゃない。実際空海の伏せカードはゴッドバードアタックと激流葬だったしなぁ。
王宮のお触れがなく……いや、違うか。空海のプレイングミスがなかったら、りっかが負けていたのは確か。
「わーいわーいっ! 先輩に勝ったー! しかも6500のモンスター初めて場に置けたー!」
でもりっかは嬉しそうで……まぁいいか。僕もひかるも空気を読んでうるさい事は言わない。身内同士だし、楽しいのが一番ですよ。
「これであたしも来年のガーディアンだー! いぇいっ!」
「あははは、そのVサインやめろ? これそういう話じゃないから」
「本当だ。……ただまぁ、プレイングミスがあったとはいえよく土壇場で死者蘇生が引けたな」
「あたしもびっくりしたよー。でもでも、それでどうしよーって考えて……なんとかなるもんだねー」
そう言って笑っていたりっかは少しだけ表情を曇らせて、デッキを手に取る。
「でもー、出来ればこの子使ってあげたかったなー」
りっかがデッキから取り出して一枚のカードを残念そうに見始めた。
僕達はりっかの脇に移動してそれを見て……愕然とした。
「り、りっか……それって」
「地縛神か」
「そうだよー」
りっかの持っているカードに描かれているのは、身体の上が黒くて腹の辺りが白い巨大なシャチ。
闇の中で飛び跳ねるそれは地縛神と呼ばれる少々特殊な扱いの上級モンスターだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
地縛神 Chacu Challhua 効果モンスター 星10/闇属性/魚族/攻2900/守2400
「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在出来ない。
フィールド上に表側表示でフィールド魔法カードが存在しない場合このカードを破壊する。相手はこのカードを攻撃対象に選択する事は出来ない。
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事が出来る。1ターンに1度、このカードの守備力の半分のダメージを相手ライフに与える事が出来る。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃出来ない。また、このカードがフィールド上に表側守備表示で存在する場合、相手はバトルフェイズを行う事が出来ない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「絵柄が可愛いから大分前に買って使ってたんですけど、今回は出すチャンスがなくてー」
「まぁアトランティスをコストにしたし、手札0状態続いたしね。でもりっか、これどこで? パックで買ったとか」
「ううん。カードショップでです。友達が欲しいカードがあるなら、パックで買うより安上がりな時もあるからーって教えてくれて」
あー、でもそっか。りっかのキャラからかけ離れたカードだったからちょっとびっくりしたけど、これくらいならOKか。
これも一枚300円とか400円前後だし、お小遣いで買えないほどじゃないし……まぁ魚カードは平均的にお財布に優しいんだけど。
「でもー、パックじゃないとこう……開ける時のドキドキってないですよねー。それはちょっとつまらなくて」
「そうだね。でもねりっか、そのドキドキも15連続でゴヨウ・ガーディアン出たらさすがに苦痛になるよ?」
「……え、それってなんですか」
「前にやらかしたの。パック買ったら15連続でゴヨウ・ガーディアン入ってて……そんなにいらないのに」
ちょうど六課が始動した辺りかな。これやスターダストが入ってるパックが発表されて、意気揚々と買ったのよ。
シンクロ召喚したいなと思ってそれはもう気合い入れて買ったら……なんか辛くなって膝を抱えて泣いてしまう。
「でもね、チューナーが一つも出なかったの。15パックだよ? 75枚でチューナー一つもないんだよ?
シンクロ召喚出来ないんだよ? それでスターダストも出ないし……もう嫌だ」
「先輩ー! 落ち着いてくださいー!」
「りっか、放っておいてやれ。彼は相当運が悪いらしいからな。
……だが実際に決まっていたら、空海はなにも出来なかったな。
サイクロンやゴッドバードアタックも出せなかったわけだし」
涙を拭きながらひかるに頷く。……この場合だと、まずお触れ展開して罠発動しないようにする。
これを守備表示にしたら、空海は少なくとも罠以外の方法で地縛神を排除しないと攻撃出来なかった。
それどころか守備力の半分の効果ダメージを与えられて……ライフ8000ならともかく、4000でそこは致命的だって。
でも驚いた。意外とガチにデッキ組んでて驚いた。りっかって相当研究してる?
なんか話聞いてると、前の学校の子とかなり情報交換しまくってプレイングも勉強してるようだし。
うーん、こういうところが分かったのは収穫かも。むしろこの集中力を活かす方向で育って欲しいよ。
変に器用にならずにさ。ここは唯世となぎひこにも進言しておく事にしよう。
「あ、じゃあ次は先輩とひかるですよねー。わー、楽しみー。どんなデッキ使うんですかー」
「僕のメインはE・HEROデッキ。でも今回はあえてそこは封印して、今回は研究中のサブかな」
忘れてはいけない。あくまでもゆるーく遊ぶのが今日の目的だもの。空海みたいにガチでやるのは……でもひかる相手だしなぁ。
なんかエグいロックバーンデッキ(相手の召喚・魔法罠使用を含めたあらゆる行動を阻害して、効果ダメージでライフを削る)とか使いそうだし。
現にラスボスの笑い見せながら奴はりっかにデッキ見せてるし。とにかく僕もそれに倣い、りっかにデッキを見せた。
「僕はメインデッキだ。サブだとBFやドラゴン族にライトロードと色々あるが」
「えー! なんでそんなにデッキ持ってるのっ!? りっかちゃんと使えるのお魚デッキだけなのにっ!」
「さっきも言ったが、仕事のためだ。実際に色々なプレイングを経験しないと、カードゲームのバランスの取り方が分からないからな」
しかもひかるは直接話すようになってから気づいたけど、経営者としてかなり有能なんだよね。
自分が出来る範囲で会社がお金出す事に関しては勉強したり積極的に関わったりしてるしさ。
ほら、遊戯王勉強してたのもカードゲーム産業に参入を考えてたからーって言ってたよね。
そうすると間違いなくひかるはデュエルモンスターズだけでなく、他のゲームも含めてかなりの研究をしている。
現にさっきも解説役かなり板に入ってたしなぁ。どうやらひかるを見てて感じる妙な危機感は、僕の考え過ぎじゃないらしい。
……こりゃ緩くとか言ってられないかも。このラスボス相手にそんな真似したら、一瞬で叩き潰されそう。
「それじゃあひかる」
「あぁ」
僕達はりっか達が外したデュエルディスクを左手に装着して、スロット二つにメインデッキとエクストラデッキを挿入。
「それではじゃんけん」
「ぽん」
二人同時に出した右手の形は、僕がグーでひかるがパー。うぅ、なんか悔しい。
「では僕が先行をもらう」
「うん、いいよー」
それから先ほど二人が立っていた位置に移動して、息を整えてから顔を見合わせて声をあげる。
「「デュエルッ!」」
(第138話へ続く)
あとがき
恭文「はい、というわけで……ひかるのデッキが思いつきません」
シルビィ「え、宝玉獣じゃないの? ほら、ぴったりだし」
恭文「だって宝玉獣の回し方分からないしー。対戦した事もなければ使った事もないんだよー」
(Wikiを見ても……えっと、あれれ? よし、動画を見よう)
恭文「僕のはもう思いついてるんだけどね。最近作者がネットで見て考えたあれだよ」
シルビィ「そこはネタバレだから話さないのね」
恭文「うん。まぁアレとシナジーのある某テーマデッキを絡ませる感じ?
さてさて、そんなわけで今回のお相手は蒼凪恭文と」
シルビィ「シルビア・ニムロッドです。ねぇヤスフミ、同人版の結婚式話って」
恭文「もう全部書けたよー。一応とまとFS最終話にふさわしい……アホな話に」
(うん、あれはアホだね。アホ過ぎて笑っちゃうレベルだね)
恭文「それでその後に続く単発なスペシャル話も、ちょっと進展。あとはバトルシーンだけだよ。でも組み立てが難しい」
シルビィ「HP版は……ごめん、無理なのよね。結局全部描きおろしだから」
恭文「うん。ただHP版とは全然違う方向で話進んでるし、新鮮味はあると思う。
……それで今回のお話。空海がバカやりました。おかげで結末がどっちらけです」
シルビィ「魚な切り札で決めると思ってたのに……こう来るとは。でもりっかちゃん、頑張ってたわよね」
恭文「だね。実際にはアトランティスは維持してモンスター展開する感じだけど、今回はそれが出来ずに……やっぱアーマード・ウィングがねぇ」
シルビィ「インチキ効果だものね。でも空海君も甘い……いや、甘いのは作者? 中々テレビのようにはいかないし」
(そう考えるとアニメスタッフ凄いよね。毎週試合の展開組み立てて、作画頑張って)
恭文「とにかくそんなわけで次回も遊びます。うん、遊ぶの。カットでもOKならカットするけど」
シルビィ「いや、それはさすがに……あ、そうだ。ついついデュエルの話中心になってるけど、結構話動いてるわよね。
空飛んでるあむちゃんはそれとして、ディードちゃんとか。ほんとに桜高に入る感じ?」
恭文「そんな感じかなぁ。そうしたら今連載中の高校生編の話が出来て尺が稼げるという不思議。そしてけいおんファンも取り込める」
シルビィ「ヤスフミ、最後はいらないと思うわ。でも……あの子達って魔法に絡むの? 戦ったりとかは」
恭文「そんな予定もつもりも全くない。てゆうか、無理だって。Vivid編とかで魔導師キャラ大量に増えるのに。
そんな中で仮に軽音部がそういう事になっても目立てないって。うん、やる意味ないよね。
もうちょっと言うと、分けないと住み分けが出来ない? そっちよりになるのは、あむとりまと空海で充分だし」
(なので仮に今後も出番があるとしたら、魔法とは関係なくゆるーく原作の流れを組む感じです。最悪現地協力者)
恭文「でもけいおんキャラはもうちょっと出せたらいいんだけどねー。結構好評っぽいし」
シルビィ「それでりっかちゃんと絡むのね。それでヤスフミ、次は私とデュエルよ」
恭文「え、なんでっ! てゆうか出来るんかいっ!」
シルビィ「もちろんよ。だって私、前に恋してた社長さんがドラゴンデッキを」
恭文「あの人っ!?」
(拍手っ! 喝采っ! 大喝采っ!
本日のED:生沢佑一『WARRIORS』)
恭文「さてさて、実は拍手でガーディアンのみんなが使うデッキを質問されました。
でも……考えてないよっ! むしろみんなから募集したいくらいだよっ!」
なぎひこ「辺里君はおジャマキング切り札なおジャマデッキでいいんじゃない?
強力なカード単体で圧す感じじゃなくて、みんなで協力して対処してくローレベルデッキ」
恭文「あ、なるほど。ならなぎひこは……ハーピィ・レディでも使う? もしくはサイバーデッキ」
リズム「踊り子的な意味だな。分かるぜ。それでりまは」
なぎひこ「りまちゃんは暗黒街とか闇属性デッキでいいんじゃない? ほら、そういうオーラ出す時あるし」
恭文(……自然と距離を取る)
リズム(おなじく)
なぎひこ「え、二人ともどうしたのかな。ほら、実際僕がなでしこであむちゃんと会った時もかなり怖かったし」
りま「なぎひこ、あなたいい度胸してるわね」
なぎひこ「……え?」(その後の事は……お察しください)
(おしまい)
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