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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第136話 『Wandering mind/りっか、初めての本気のバトルッ!』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ミキ「ドキッとスタートドキたまタイムー。ようやく戦いも終わったと思ったら……どういう事っ!?」

スゥ「イクトさんがあむちゃんともう会えないなんて……寂し過ぎますぅ」

ラン「なんだか2011年は大波乱な年になりそうっ! あむちゃん、しっかりー!」



(立ち上がる画面に映るのは零れる涙と……え、でっかいシャケ?)



ラン「それじゃあ今回も元気にいってみよー。せーの」

ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「俺は……お前とはもう会えない」





一瞬、なにを言っているのか分からなかった。だからあたしはきっと、イクトから見ると物凄くマヌケな顔をしていたと思う。

でもイクトも、その隣りに居るヨルも真剣な顔をしていて……嘘なんかじゃない事がすぐに分かった。

2011年の1月1日――新年の始まりは変化の始まり。別れと出会いと変わっていく季節は、もうあたし達の目の前に来ていた。



それでもこの変化は受け入れたくない。あたしは走る胸の痛みに耐えるために、両手を強く握り締めた。





「どう……どう、して?」



普通を装った声は凄く硬くて、掠れてて……ヤバい。あたし、めちゃくちゃ動揺してる。



「親父を探しに行く」

「ちょっと待ってっ! お父さんってずっと前に失踪して……どうやってっ!?」

「親父が生きてるって分かったからだ」



平然とそう返してきたイクトがなに考えてるか全然分かんない。本当なら嬉しい事のはずなのに……なんであたし。



「なぁあむ、俺を助けてくれた時――ダイヤが言ってた事覚えてるか」

「ダイヤが?」



あたしはとっさに自分の隣に居るダイヤに視線を向けた。ダイヤはイクトがなにを言いたいか今ひとつ分からないらしく、首傾げてる。



「あのたまごはヴァイオリンそのものに込められた想い。使用者の想いがヴァイオリンに乗り移ったって言ってただろ」

「……うん、言ってた」

「お前にも前に話したが、アレは元々親父のヴァイオリンだ。でな、分かったんだよ。
デスレーベルやセブンシーズトレジャーにキャラなりしてた時、親父は生きてる。そう確信が持てた」
それにほら、ナナって奴も言ってただろ。みんなのたまごは繋がってるってよ」





えっと、ヴァイオリンのたまごを通じてイクトはお父さんのこころのたまごとの繋がりを感じ取れた?

でもそんなのありえ……いや、そうでもないのかな。現にあの異変のせいで世界中の人間のこころが繋がったんだから。

恭文のリインフォース・ライナーがパワーアップしたのだって、あたし達みんなのこころが繋がってたせいだもの。



それにもしマジであのたまごがそういう想いの蓄積で生まれたなら……その想いの元であるイクトの父さんと繋がってないわけがないんだ。





「まぁアレだ。お前らにぶっ飛ばされてうなされながらずっと考えて決めたんだ。
今までずっと目を背けてたものに、ちゃんと向き合おうってさ」

「でも、どうするの。アテは」

「ない。だから高校卒業したら、昔親父が世話になった楽団に入ろうと思う。
見習いでいいから来ないかって、前々から熱心に誘われてたんだよ」



イクトはそこで空を――光の中でも綺麗に輝く星を見上げる。



「その楽団って、どこにあるの? 遠いのかな」

「さぁな。風の吹くままなんとやらって感じ? 世界中を演奏旅行で回っている人達だから。
それでじっくり探してみるさ。でも……親父だけの事じゃ、言葉通りの意味じゃない」



イクトは視線を落として、ジッと自分を見ているあたしの方をもう一度見てくれた。

その表情はあたしの知ってる今までのイクトじゃない。優しい、穏やかな顔をしていた。



「あの黒いたまごは、親父の本当の想い。そんな想いのこもったヴァイオリンは、俺にとっては親父そのものだった。
アレは今まで俺をイースターや音楽に縛りつけて……それがたまらなく嫌でな。でも、捨てられなかった。
今じゃ違うって分かるけどな。俺を縛っていたのはイースターでも親父でも誰でもない。俺自身だったんだ」



イクトは苦笑しながら、瞳を閉じて右手を自分の胸に当てる。



「だからお前や唯世の事も無駄に傷つけて、跳ねのけて……あぁそうだ、俺はずっとクサッてた。
『これしかない・こうするしかない』って言い訳をして、本当の気持ちに嘘をついていた」



分かってる。イクトのヴァイオリンの音色があんなに切なくて人を惹きつけるのは、音楽を愛しているから。

同じ道を進んだお父さんを本当は大好きだから。だからイクトは、音楽を捨てられなかった。分かってるよ。



「だから」



イクトの切れ長の瞳が開いて、またあたしを見る。……いや。お願いだから、言わないで。分かってるから、口にしないで。



「ちょっと行って来る。本当の親父を――俺自身の答えを見つけるために」



でもイクトはそう告げた。あたしは胸が苦しくて悲しくて……イクトから目を逸らすように俯く。



「そんな……そんな大事な事、一人で決めちゃうの?」

「いや、母さんには相談してるぞ? 学校の事もあるしさすがに」

「それでもっ!」



声を張り上げると、瞳から涙が溢れる。その姿を見られないためにあたしは更に俯いた。



「お母さんも歌唄も置いてっちゃうじゃんっ! そんなの……お父さんと変わらないよっ! あたし……だって」





それ以上は言葉に出来ずに、あたしはイクトに背を向けてそのまま走り去った。



……違う、こんな事が言いたかったんじゃない。イクトはようやく大好きな事を大好きだって言えるようになったんだよ?



本当は応援しなきゃいけないのに。なのにあたし……最低だ。










All kids have an egg in my soul


Heart Egg――The invisible I want my




『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第136話 『Wandering mind/りっか、初めての本気のバトルッ!』











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、新年になってから少し経過し……お兄様達も私達も3学期に突入。



恒例な『明けましておめでとう』をやったのはいいのですけど……どうしましょうかねぇ。



なのでしゅごキャラ達で会議です。いえ、会議と言う名のキャンディーズへの尋問です。





「なぁお前ら、いったいなにがあったんだよ」



ショウタロスが四人に聞きながらも、新学期が始まってからヘコんだ様子の日奈森さんを横目で見ます。

それは私達も同じで、円陣を組んでいる全員が……あ、ため息を吐きましたね。



「いや、その……ねぇ?」

「なんと言えばいいのか」

「複雑な乙女心ゆえなんですぅ」

「特にあむちゃん、意地っ張りだから」

「それでは意味が分からんぞっ! 唯世達も気にしているし、早々になんとかしたいのだがっ!」



それでも苦笑いを止めない四人をジト目で見ていたキセキさんは、呼吸を整えます。



「察するに月詠幾斗とヨルの事か」



四人とも、面白いように表情が固まりましたね。本当に分かりやすいです。



「キセキ、またあのバカコンビはなにかやらかしたでちか」

「もうなにがあっても驚かないけどなー」

「簡単だ。なんでも月詠幾斗が海外に旅に出るらしい」

「えー! それってどういう事かなー! クスクスにも分かるようにー!」



事情が分かっているキセキさんと私達が簡単に『かくかくじかじか』と説明すると、全員本当に簡単に納得してくれました。



「まぁそれなら」

「しょうがないでちね」

「だってだって、あれだもんねー」



一体なにが『あれ』なのかは、もう聞くまでもないでしょう。みなさんも光編の日奈森さんの行動を思い出せばご理解いただけるかと。



「だがお前達三人はなぜその事を……いや、なんでもない」

「察してもらえて助かる。でも涙目やめてくれよ。オレ達はそこまで苦労してねぇから」

「そうだな。そのためにうちに歌唄が引っ越す話になっているだけだ」

「それは全く意味が分からないぞっ! どうしてそうなったっ!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ねぇ恭文、あむどうしたのよ」

「りま、あむは元々こんな感じじゃなかったかな」

「それもそうね」

「いや、絶対違うよねっ! なに適当に話してるのかなっ!」



紅茶を飲みつつ納得した僕達になぜかなぎひこがダメ出しをしてきた。うーん、謎だねぇ。



「なぎひこ、あなたなに言ってるのよ。冬休みを超えてあむはちょっと大人になっただけよ。
男子三日会わざれば刮目して見よって言うでしょ? 女の子だって同じなのよ」

「そうそう。あむはきっと僕達には分からない変化があっただけだよ。ここは温かく見守ってあげようか」

「たった1週間前後で一体なにがあったっていうのっ!?」



まぁ僕は……今テーブルに座って呆けてるあむがどうしてこういう状態になったかは、分かるんだけどねぇ。

もうね、間違いなくあれだよ。隣のリインともつい顔見合わせちゃうし。



「なるほど。あむは初潮が」

「ひかる君、ツッコむところそれじゃないっ! あとその発言アウトだからっ!」

「そうなのか? だが大人になったというから」

「他にもっと考えるところあるんじゃないかなっ! ね、辺里君」



なぎひこがそこで言葉を止めてしまったのは、唯世もちょっと心ここにあらず状態だから。

あー、こっちはこっちであむの状態に感化されてって事なのかぁ。あははは、人間関係って難しいなぁ。



「なるほど。彼も大人になったわけか」

「あはは……恭文君、どうしよう。あとまともなのって僕達と花壇のお世話に行ってるややちゃんとりっかちゃんだけだよ?」

「ならなぎひこ、芸をしなさい。それで全て完璧よ」

「そうだね。なぎひこ、お手だよお手」

「だから段々と僕への扱いが悪くなってないかなっ!?」





3学期も始まって早々……荒れてるなぁ。なんですか? 今年は波乱の幕開けとかそういうの似合ってるわけですか。



これ、一度あむとキャンディーズに話聞かないとだめかなぁ。あとは唯世……あぁ、唯世が一番辛い。



割り切りつけているとは言っても、唯世は基本ヤンデレタイプだからなぁ。いつnice boatになるか分かったもんじゃないよ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



家に戻ってから僕はフェイトとただいまのキスとおかえりのキスをして夕飯を食べて訓練して、最近日課のデバイス作り。



自室のベッドにフェイトが腰かけ、床でパーツいじってる僕を見て微笑んでくれてるのがなんだか恥ずかしい。



空海用のデバイスの試作型、実はそろそろ完成しそうなんだよねー。いやぁ、基本ラインが固まってると作業も楽々ー。





「ヤスフミ、もうすぐって感じ?」

「うん。あとの調整は空海が使った感じに合わせるつもりだし」



フェイトに返しつつここのパーツをこうはめて、ドライバーで締めて……よしっと。



「まぁその前に射撃の基礎とか教えないとだめなんだけどね」

「そう言えば銃と剣だっけ。でも……剣はまぁ、分かるの」



パジャマ姿のフェイトはそういう男の子の趣味に理解があるらしく……訂正。

僕との付き合いのために理解を持ったらしく、微笑ましそうにしている。



「銃はどうして? 射撃は簡単なように見えてかなり難しいし」

「なんか夏頃に電王に変身した時のあれこれが理由みたい」



別のパーツをはめ込んで、今度はスパナでくいくいーっと。



「その時に派手に負けたから、改めて練習してーとか。てーかまた変身してリュウタ武器化した時の事とか考えてるっぽい」

「そ、それでなんだ。だから両方出来るようになろうと」

「大変なのにねー」



ここは出来たのでカバーを被せて、またネジを締めて……と。



「それでヤスフミの見立てでは……どんな感じ?」

「まず初回で優勝は絶対無理だね」



我ながら身も蓋もないなと思って、フェイトの方を見ながら苦笑する。



「IMCSの選手層はかなり厚いしね。空海自身はスポーツ関係はかなり慣れてるけど……戦闘はまた違うセンスが必要だし」

「出来るところまでなんだね」

「うん。なんというか、情けないよねー。ここで『絶対優勝させる』とか言い切れないんだもの」

「しょうがないよ。むしろこれで優勝出来たらびっくりだし……それでヤスフミ、あむと唯世君の様子は」



フェイト的には歌唄の話以来そっちも気になってるらしく、表情を曇らせた。僕は……首を横に振る事しか出来なかった。



「だめ。唯世もあむの調子があれだから気にしちゃってて……というか、引っ張られてる?」

「そっか。うーん、どうしようか」

「こればかりは『三人』の問題だしなぁ。僕達に出来るのはせいぜい気晴らしに付き合う程度」



そこまで言って、改めて自分の目の前のデバイス達に目を向ける。それで……僕は両手で拍手を打った。



「あ、そうだ。気晴らしならいいのがあるじゃないのさ」

「そうなの?」

「うん。あー、ほら。ヒロさんが送ってくれたやつ。昨日届いたよね」

「……あ、アレだね」

「そうそう。うし、明日早速試してみよーっと」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



イクトにあんな事言って、もう合わせる顔ないし自分の気持ちごちゃごちゃでどうしたもんかと思っていると……恭文が変なの持ってきた。



いや、なんていうかその……あたしも見覚えはあるのよ。見覚えのある機材をどっさりと持って来て……よし、ツッコもうか。



まずツッコみたいとこは、機材の内容もあるけどなーんで空海が来てるのかーとか? うん、そこ疑問だよね。





「恭文、これなにっ!? てゆうか、なんで空海も来てるのっ!?」

「空海の訓練も兼ねてるからだよ。IMCSでは」





恭文はそう言って両手で機材の一つを手に取り、それを素早く左腕に装着。するとアニメで見たこう……がちゃがちゃって感じ?



腕の下に広がった湾曲した板にカード置いたり差し込んだりする場所がある。



腕の外側に当たる部分に円形でクリスタル部があって全体的に白くて、三つのスロットみたいなのがあって……だからこれはマジでなにっ!





「使用する魔法にも限りがあるしね。それは言うなら『デッキ』を組むのと同じなのよ」

「あ、なるほど。構築能力を高めるためにって事か。へへ、だったらそういうのは得意だぜ? 俺もデッキ組んでるしな」

「だーかーらー! そうじゃないからっ! なんでここに」

「わー、凄いー! 本物のデュエルディスクだー!」



うん、りっかが言ったのがあれの名前っぽい。てゆうかあれだよ、あたしだってアニメキャラがそれ着けてたの見た事くらいはあるし。

学校の男の子とかもちょくちょく対戦とかしてるっぽいし、そりゃあ……ねぇ?



「恭文先輩、これどうしたんですかっ!? おもちゃ屋で売ってるのと全然違うっ!」

「僕の弟子仲間が機械いじり得意でね。作ってくれたんだよ。ちなみに」



恭文はそう言って一枚のカードを取り出した。そこには鳥頭で黒と白の服着て、左手でなんか武器持った奴の絵が描かれてる。



「ドラグニティ・ドゥクス、召喚っ!」



そのカードを腕の下の分厚い板に置くと、その箇所が輝いて……あたし達の目の前に絵柄そのままなモンスターが出てきた。



「現在KONAMIから市販されてるのと違って、ソリッドビジョンがきっちり出たりしますー」

「わー、凄い凄いっ!」

「恭文、その弟子仲間を今すぐ紹介してくれ。九十九達より使えそうだ」

「ひかるっちヒロリスさんたちをスカウトする気満々っ!?」



いやいや、それ以前の問題としてこれいいわけっ!? ひかる君はまぁよしとして、りっかとかは魔法の事とかさっぱりなのにっ!



「というわけで空海」

「あぁ、俺もデッキ持って来てるからやろうぜっ! てーかやらせてくださいマジお願いしますっ!」



空海がめちゃくちゃ礼儀正しく頭下げてきたっ!? あの、そこまでかなっ! なんだか目の輝きが違うけどっ!



「先輩先輩っ! りっかもやりたいー! りっかもモンスターばーんって召喚したいー!」

「いや、それはいいけど……デッキは? ないなら僕の貸すけど。
カードの在庫もあるからある程度自由に組めるし」

「大丈夫でーす。えっと、実はー」



りっかは左腰のポーチに手を伸ばして、オレンジ色の半透明のケースに入ったカードの束を見せてくる。



「デッキ持って来てるんですー」

「なんでっ!?」

「前の学校で男の子達に混じってやっててー。というか、可愛いカードがあってー」



りっかがケースを開けて取り出して来たのは……丸い茶色の身体に三つ目で牙がびっしり生えた身体のモンスター。

え、ちょっと待って。これ可愛いの? むしろグロくないかな。三つ目で化け物っぽい……あぁ、モンスターだから当たり前か。



「この子使ってやってみたいなーって思ってー。身体動かす方が好きだけど、デュエルも面白いしー」

「クリッター……柊、お前いい趣味してるわ」

「なるほど。確かにクリッターは可愛らしいよね」

「ちょ、お前本気かよっ!」

「空海、ツッコむだけ野暮だぞ。コイツセンスないんだから。でもりっか、お前もかよ」



りっかはダイチのツッコミに首を傾げながらも、オレンジ色で花柄のスリーブケースに入っているクリッターをデッキに戻す。



「ですが柊さん、なぜそれをここに?」

「あたしこっちに引っ越して来てから誰ともやってなかったから……先輩達で出来る人居ないかなーって思って」

「それでか。ならちょうど……はむ」



ヒカリはりっかの持っているデッキの方へ近づき、それを興味深そうに見ながら両手で持ったうす塩ポテチをかじる。



「良かったな」

「うんー。先輩、りっかも混ざっていいですかー?」



恭文は自分を見上げてきたりっかから空海に視線を移した。そうしたら空海は問題ないらしく笑顔でサムズアップ。



「うん、僕達は大丈夫だよ。じゃあどうしようか」

「せっかくだし総当り戦やろうぜ。で、優勝者にはジュースの授与だ」

「わーいっ! あたし頑張りますー!」

「では、僕もやろう」



そう言ったのは、今まで黙って恭文達を見ていたひかる君だった。

それに驚いて、あたし達はひかる君の方を凝視してしまう。



「え、ひかるも遊戯王出来るのー!?」

「無論だ。イースターの方でもこの手のカードゲーム産業に参入したいと思っていてな。
前々からマジック・ザ・ギャザリングや遊戯王などは研究していた。
……まぁ今挙げた二つの勢力が強過ぎて参入には二の足を踏んでいたが」

「マジかよ。お前んとこの会社、どんだけ手広げるつもりだ」

「空海、しょうがないよ。むしろイースターがここに手をつけない理由がないと思うし。
ほら、よく言うでしょ? カードゲームのカードは札束作ってる気分だって」



恭文、それ意味分かんない。あとひかる君や唯世くんになぎひこも頷かないで。なんかこう、めっちゃ疎外感感じるんですけど。



「一応のルールは頭に入っているし、プレイングには問題ない」

「よーし、だったら四人で楽しくやろー。先輩達、それでいいですよねー」

「俺は問題ねぇぞ。な?」

「うん。でもひかる、デッキは」

「それなら持っているから問題ない。僕も研究のために相手を探していたところでな」



なんかひかる君も平然と出して来たしっ! ねぇ、おかしくないかなっ! ほら、ガーディアンの仕事とかさっ!



「え、えっと……蒼凪君? みんなもその、仕事が」

「もちろんそれ片づけてからだ。唯世、そんな事も分からないのかよ」

「そうだよ。そのために空海を増援として呼んだのに」

「分かるわけないよねっ! さっきの話のどこに気づく要素があったのかなっ!」

「よーし、それじゃあまずは花壇の水やりと校内の清掃に行くよー」



恭文は唯世くんのツッコミ全無視で左手に着けてたディスクを外して机の上に置いて、入り口の方へ向き直ってすたすたと歩いて行く。



「先輩、あたし頑張りますっ! 早くお仕事終わらせて、遊びましょうねー!」

「おう。いやぁ、楽しみだなー。実は恭文とはちょくちょくやってたんだが、こういうのは初めてだしよ」

「僕も人とデュエルするのは初めてだから……良いデータが取れそうだ。これで」



それでみんなもそんな恭文の後を追うようにすたすたと歩き出して、あたし達を置いていく。

あとひかる君、一瞬見えたラスボスの笑いはやめよっ!? それ一般人の顔じゃないからっ!



「あの、蒼凪君っ!? 相馬君も柊さん達も待ってー!」

「まぁまぁ。唯世さんもあむさんもこっち見るですよ」



リインちゃんに促されるままに、恭文が持って来たもう一つの機材――スノボーみたいな板に目を向ける。

でも普通のボードじゃない。ボードの後ろの方に四角い機械みたいなの付いてるし、普通のボードより分厚いし全体的にメカニカルだし。、



「遊戯王のカードを持ってないみんなは、リインと一緒にこれで遊ぶですよー」

「いや、だから仕事が」

「四人に任せておけば大丈夫ですよ。それにそろそろりっかちゃん達だけでお仕事をする事も教えないとだめじゃないですか」

「その話関係なくないかなっ!? てゆうかこれで遊ぶって……あれ」



あたしは改めてよーくそのボードを見てみる。えっと……これ確かどっかで見覚えがあるんだけど。



「ねぇリインちゃん、これ……僕見覚えがあるんだけど」

「そう言えば……あ、もしかして」

「ねね、これってもしかしなくてもカレントボードッ!?」

「ですですー」

「あ……そうじゃんそうじゃんっ! やっと思い出したしっ!」





そうだよ、これ夏休みにミッドに来た時に見た覚えがあるし。えっと、テレビ番組みの特集でだよね。

――カレントボードっていうのは、一般にも出回っているボード型の飛行補助専用デバイス。

ようは空中を飛ぶスケートボードの様なものらしいの。でも確かこれ、あたし達が見た時はまだ発売直後で特集やってた感じなのに。



それ見てややとリズムに空海が目輝かせて乗りたかがってたっけ。





「カレントボードは元々空戦適性を持たない魔導師用に飛行魔法に徹底特化する形で開発された特殊デバイス。
これは緊急時の緩衝魔法や、防御魔法を発動する為の簡易AIが必ず組み込まれているです。そういうレギュレーションなのですよ」

「うんうん。それでお空をスイスイ飛んでたよねー」

「それは僕もあむちゃん達もテレビの特集で見てたけど」

「ヒロリスさんの実家の方でも一般用のを開発してるそうなんですよ。
だからこれ、前にテレビで見たみたいに魔導師でもない人でも使えるそうです」



リインちゃんはそう言ってから、右手でボード後部の四角いパーツを指差す。



「ここにバッテリー替わりの専用カートリッジが入ってて、飛行に操縦者の保護も出来るです。
まぁ簡易AIを積んでいるのでまだまだ高価な大人のおもちゃですけど、ミッドではもう大評判とか。
それで今回は新製品のテストで……これ、子ども用なのです。使った感じを聞かせて欲しいそうです」

「だから私達なのね。それなら納得だわ」

「えー、じゃあこれでりまもお空飛べるのー!? わーいわーいー!」



みんなは興味があるらしく表情が明るいけど……あたしはやっぱ心配なので、少ししゃがみ込んでリインちゃんに耳打ち。



「でもリインちゃん、ここでこんなの使ったら」

「結界張るから大丈夫ですよ。恭文さんもリインも元々そのつもりでしたから」

「あ、そうなの?」

「はい。ヒロリスさん達だって、さすがにそれもなしでテストするとは思ってないですよ」



それはなぁ。そんな事したらたちまち大騒ぎ……いや、もしかして大騒ぎにならない?

だってほら、この街って×たまやなぞたまでごたごたしても、それが大ニュースになったりとかしないし……改めて考えると謎だ。



「あむさん、協力してくださいです。それにこれ、結構面白いですよ?」

「いや、でもさすがに」

「よーしっ! それじゃあみんなでお空を飛んじゃおー!」

「でちー!」

「いやいやっ! アンタなんでそんな乗り気っ!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――先輩、あんな感じでいいんですかー?」

「うん、バッチリ。いや、二人ともありがとねー」

「問題はない。あむがあの調子だと仕事にも影響が出るからな」





……え、説明が必要? まぁ簡単に言えば、さっきのはあむと唯世以外は全員グルって事かな。

騒ぎというかイベントを起こして、あむと唯世の気晴らしをしようって考えたんだ。

だからりっかやひかるが前々からデュエルモンスターズやってた事も当然知ってたりしたわけよ。



本当は休日にやろうと思ってたけど、予定があったりしたらアウトだから学校の中で作戦実行ってわけ。

これはあむと唯世二人同時にやらないと意味ないだろうしなぁ。というか、二人っきりでもだめ?

みんなで一緒にってところで、ある程度気持ちが緩むといいなぁという狙いがあったりもする。



あとはリインとなぎひことりまとややが上手く引っ張ってくれるだろうし、僕達はきっちり仕事をして遊ぶだけでOKだよ。





「でもあのボードみたいなのでなにするんですかー?」

「りっかにはまだ早い事だよ。さ、僕達はお仕事だよー」

「おう。今日の予定はさっき言った通りでいいんだよな」

「うん。あとはあむ達が戻って来るまでロイヤルガーデンで留守番だね。緊急の用事が出来るかもだし」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



花壇の水やりと清掃を手早くきっちりと済ませた後、僕達はロイヤルガーデンに戻って来た。



それで空海とりっかはもうニコニコしてる。マジでデュエルディスクで遊び倒すのが楽しみらしい。





≪マスター、リインさんからメールが届きました≫

≪あっちは楽しんでるっぽいの。あむちゃんも唯世君も気晴らし出来てるそうなの≫

「そう。なら良かった」

「作戦は成功だな。だが……マジでこれは応急処置だよな」

「だねぇ」



四人で改めていつものテーブルに着席して、僕は軽く背伸びをする。



「あむが悩んでる事を自分で解決しないと、どうにもならないだろうしなぁ」

「あぁ。で、俺達はさすがに手助け出来ない」

「えー、どうしてですかー!? あむ先輩が悩んでるなら、あたしもっと力になりたいのにー!」

「無理を言うな。あむの悩みは君や僕ではどうしようもないところが大きいのだろう」



隣のひかるが僕に視線を向けて来て『そういう事だろう?』と目で聞いてきたので、頷いた。



「こればかりはあむが自分で考えないとどうしようもないしね。僕達に出来るのは、せいぜいこれくらいだよ」

「うーん、難しいなぁ」

「難しいもんなんだよ」





だってあむは未だに月詠幾斗への好意に気づいてないだろうしなぁ。というかね、僕も測りかねてるのよ。

好意があるのは分かるけど、それだって形には色々あるじゃない? 例えば本命が唯世から猫男に変わった。

例えば二人とも好きっていう状態になった。まぁその……僕は涙出てくるけど、経験者だからそれなら分かる。



だからあむは猫男への好意を自覚すると共に、唯世への好意が今どうなっているかも考えないとだめなわけよ。

そこがはっきりしてないから、この間のアレみたいにふらふらしちゃうわけですよ。

でもどうしよう。あんま外からツツくと、あむの気持ち僕達が決めちゃうような感じになるだろうしなぁ。



ラン達にも話聞いておく必要あるかな。どっちにしてもこのまま猫男が海外に出たら……絶対疎遠コースだろうし。





「よし、じゃあ俺達もそろそろやろうぜ。もう待ち切れねぇよ」



空海が笑いながら机の上のデュエルディスクに手を伸ばす。それに倣うように、りっかも手を伸ばして……固まって僕の方を見た。



「りっか、先にやっていいよ」

「いいんですか? でもこれ、先輩のなのに」

「だからだよ。僕はテストで家のみんなとやったから。てゆうか、デュエルしたかったんでしょ?」



りっかはそこで嬉しそうに笑うと、今度はひかるの方を見た。



「僕も一度外からこのディスクの性能を確認したいからな。君が先で構わない」

「……二人ともありがとっ!」



りっかはそのままディスクを手に取って左手で装着して……感動ゆえかまた笑った。うん、分かるよ。僕も同じだったからなぁ。



「てゆうか空海、分かってるとは思うけどあんまガチでやっちゃだめだよ? あくまでも緩く楽しくなんだから」



りっかの実力が未知数だし、そこまでガチデッキ作ってるとは思えないしなぁ。

てゆうか、無理じゃない? りっかの今までの落ち着きのない性格を考えると、そう思えて仕方ない。



「いや、なんでまず俺っ!?」

「当然でしょ」

「まぁ妥当なところだな」

「お前も納得してんじゃねぇよっ!」



空海はため息を吐きながらもディスクを装着して、ちょうど手首の上辺りに位置するデッキ挿入口にカードをセット。

りっかも同じようにカードをセットすると、デッキは鋭くシャッフルされていく。二人はそれを見てまた感動顔。



「うわぁ……ホントにテレビのままだー! 先輩のお友達って、どんな人なんですかっ!?」

「まぁそこはおいおい説明するよ。それじゃあ二人とも、僕が審判するから公平且つ冷静にデュエルしてね? リアルファイトとか無しだから」

「おいおい、なんだよそれ。てーかそんなの」



空海はそこで言葉を止めて、なぜかいきなり僕から目を逸らした。



「……いや、なんでもない。むしろ納得したわ。これ作ったのが誰かとか考えたら納得したわ」

「分かってくれて嬉しいよ」



うん、奴らはこう……凄かったよ。まぁサリさんも大概だと思うんだけどさ。

ヒロさんに対してのガチメタデッキ使って、嫌がらせの如く……あの人達、ホントに大人なのかな。



「それで先攻後攻は」

「俺は後攻でいいぞ? こういう場合、後輩に道を譲るのが基本だろ」

「えへへ、ありがとうございまーす。あ、ライフやエクストラデッキは」

「エクストラデッキは空いているスロットの方に入れて。墓地スロットとは別のとこだよ?
あとライフは基本の8000とアニメ版な4000の両方で出来るけど」



二人はそこでエクストラデッキと思われるカード達をスロットに入れてから、少し唸る。



「「4000で」」

「うん、分かってた。そう言うと思ってた。アルトー」

≪もう既に設定しています。二人とも開始ライフは4000ですから≫

「ありがとー。えっと、それじゃあ」



二人は顔を見合わせてまた笑うと、小さく口元で『せーの』と呟き。



「「デュエルッ!」」



声をあげて、左腕に装着したディスクを構えた。それから二人はそれぞれのデッキから五枚のカードを取り出す。



「あたしのターン……ドロー!」



りっかは先攻なので右手でデッキからまたまたカードをドロー。現在の手札は六枚。

自分の手の中のカード達を真剣な顔で見て、りっかの表情が明るくなった。



「えっと、スタンバイフェイズからメインフェイズ1に移行して……合ってます?」

「あぁ、大丈夫だ」





さて、ここで解説。デュエルモンスターズでは幾つかのフェイズに分かれている。

『ドロー・スタンバイ・メイン1・バトル・メイン2・エンド』の計六つで、今はりっかのメインフェイズ1

ドローがさっきのようにカードをドローしたり、スタンバイがドローとメインの間にある移行フェイズ。



基本的にスタンバイの場合はなにもないんだけど、ここで……そうだな。

例えば定期的にダメージを与える魔法・罠カードを使われると、必ずこのフェイズを迎えたプレイヤーはダメージを受ける事になる。

なので特に意味がないフェイズというわけじゃないんだ。実際その手のカードはあるし。



それでメインフェイズが、アニメとかだと魔法使ったりモンスター召喚したりするあの場面。



ここは1・2共通で、バトルフェイズを終えてからモンスターを召喚したりする事も出来る。





「あたしはフィールド魔法『伝説の都 アトランティス』発動っ!」



りっかがディスク板側面にあるカードスロットの一つに……あれ、固まった。



「えっと、フィールド魔法はどこに」

「肘の方の一番端のスロットだよ。音声認識で動くようになってるから」



デュエル板の端の方がパカリと開き、そこにフィールド魔法を置く場が生まれた。



「そういう風に出る」

「わー、凄いー。それじゃあ……セットー♪」



僕の言った通りのところにカードを入れると、りっかの前面にホログラムのカードが生まれた。

そこに描かれた絵は海と白い巨大な神殿。それを見てりっかが目を見開き……首を傾げる。



「……あれ、海がざっばーんってならない」

「あー、ごめん。それやると容量や電力消費半端ないらしいのよ。だから表示だけで」

「そうなんですかー。でもでも、これでも充分かもー」



りっかは改めて空海の方へ向き直り、手札に目を向ける。



「えっと、このカードの効果は『海』っていうフィールド魔法と同じに扱います。
それで手札とフィールド上の水属性モンスターのレベルが一つ少なくなりますー。
あとあと、フィールド上の水属性モンスターは攻撃力と守備力が200ポイントアップします」





えー、一つ補足です。フィールド魔法はフィールド――カードを置く場全体に効果を発揮する魔法カード。

その効果はカードが破壊されるか、相手が別のフィールド魔法を場に発動するまで継続される。

その中には今りっかが言ったように『海』ってカードがあるのよ。その魔法があるから発動出来る効果を持ったカードも存在する。



例えば海だと永続罠である『竜巻海流壁(トルネードウォール)』なんかが有名。

これはフィールド魔法の『海』が存在する場合のみ発動する事が出来る罠(トラップ)カード。

海がある限り攻撃モンスターから自分への戦闘ダメージを0にする効果があるんだ。



その代わり海が破壊されるなりしてフィールドからなくなったら、このカードも破壊されて墓地に行っちゃうんだけど。

あとは『自分への』という表記があるために、モンスターが破壊される場合にガードする事も出来ない。

とにかくこのように一つの属性やモンスターの種族が相互干渉を起こし合って強い力を発揮するデッキをテーマデッキというの。





「りっかのデッキは水属性主体か」

「うん。あたしナマズ飼ってるからー」

「それとなんの関係が……いや、もう分かった。だがいきなりフィールド魔法とは」

「いやいや、あの程度ならよくあるよ。特に三詰みとかしてるとねぇ」



デュエルモンスターズでは、基本的に公式ルールで制限のかかっていないカードは三枚まで同じデッキに詰める。

それでデッキの数が最低40〜最大60枚だから……意外と引き当てられるのよ。引けない時はホント引けないけど。



「それで一発目にテラ・フォーミングとかと一緒に出たりしてさ。腐るんだよねー。
それでなにかのカードのコストに余ったの使うと、サイクロンで破壊されたり」

「よくある事だな。逆にそれを避けるために取っておくと、本当に腐る事になるんだろう?」

「そうそう。ひかる、よく分かってるじゃないのさ」

「一応オンラインなどで勉強はしてるからな」

「それじゃああたしは手札から」



りっかが左手に持った手札の一枚を右手で取り出した。

それをディスク板上面に乗せるとディスク板が虹色に輝き、再びりっかの前面に光が生まれる。



「ジェノサイドキングサーモンを召喚ですー」



その光はエラが大きくて頭が骨っぽいでっかい魚に変化して……ちょ、ちょっと待ってっ!



「なっ!」

「いきなり上級モンスターか」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ジェノサイドキングサーモン 通常モンスター

星5/水属性/魚族/攻2400/守1000

暗黒海の主として恐れられている巨大なシャケ。その卵は暗黒界一の美味として知られている。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「待て待てっ! お前なんでいきなり星5の……あ、そっか」

「はいー。アトランティスの効果で今のこの子は、星4個ですからー」





デュエルモンスターズではモンスターのレベル毎に星がついていて、星4個までは基本的に今みたいに召喚出来るよ。

それ以上のモンスターは上級モンスターとされ、なんらかの特殊な手段を通さないと召喚出来ない。

ジェノサイドキングサーモンの場合は、場に一体モンスターを出してそのモンスターをリリースして墓地に送って、代わりに召喚とか?



でも今はりっかが出したフィールド魔法の効果で星4――普通のモンスターになってるから、そういうの出せるの。



ほら、説明で『手札とフィールド』って部分があったでしょ? だからりっかがドローして手札に入ったモンスターは全て、レベルが1下がってるというわけ。





「それでアトランティスの効果でこの子の攻撃力と防御力が上がりますー」

「つまり……攻撃力2600かよ。またキツいな」



はっきり言うけど、2600の攻撃力持ったモンスターなんて星4までのモンスター群の中には基本的には居ない。

だから空海はこれ倒すなら、モンスターを除去する魔法なりトラップなり使うか自分も上級モンスターを呼んで殴り倒すしかないのよ。



「先攻だからバトルフェイズは抜いて、メインフェイズ2に移行します」

「あぁ、問題ねぇ」

「それじゃ場にカードを一枚伏せて」



りっかが手札から一枚のカードを今キングサーモンの下のスロットに挿入すると、キングサーモンの背後に伏せられた形でカードが現れた。



「ターンエンドです」



りっかはカードを伏せた事で手札三枚。でも……うん、悪くはないかも。



≪りっかちゃん、凄いのー。いきなりあんな強いモンスター出しちゃったのー≫

≪……危ないですね≫

≪なのっ!?≫





そう、なんだよねぇ。実は先攻って、後攻よりもプレイングに気を使うんだよ。

例えば初めて対戦する相手だったら、相手のデッキとかプレイングとかさっぱりなわけじゃない?

そんな中で強力なモンスターを一発目に出すと、2ターン目で即排除ってのも結構あるの。



もちろんそういう事がないように魔法・罠カードで対処するわけだけど。例えばそういう魔法や罠を使われても止められるようにーってね。

今りっかがカード伏せたのもそれになる。でもね、一枚だと空海の手札次第だけど危ないのよ。

例えばサイクロンというカードがあって、これは魔法・罠カードを一枚破壊する事が出来る優れもの。



この状況で空海がそれを出した場合、一瞬でキングサーモンは丸裸になってしまうんだ。





「よし。なら俺のターン……ドロー!」



今度は空海のターン。現在の空海の手札はドローしたので六枚。

まぁ手札が順当に来るなら……悲しいかな、キングサーモンは一瞬で下ろされるんだよなぁ。



「うっしゃ、来たぜっ! まず俺は」



空海が手札の一枚をディスク板に設置すると、空海の前に黒い翼の鳥人が現れる。



「『BFー暁のシロッコ』を召喚っ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



BFー暁のシロッコ 効果モンスター 星5/闇属性/鳥獣族/攻2000/守900

相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードはリリースなしで通常召喚する事ができる。

1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する「BF」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの攻撃力は、そのモンスター以外のフィールド上に表側表示で存在する「BF」と名のついたモンスターの攻撃力の合計分アップする。

この効果を発動するターン、選択したモンスター以外のモンスターは攻撃する事ができない。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「次に『BFー疾風のゲイル』を特殊召喚っ!」





次に空海が手札から空海が召喚したのは、青い翼を持つクリクリとした目が印象的な鳥人。



空海、早速本気出してるなぁ。この調子だとすぐに勝負付きそうで怖いんですけど。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



BFー疾風のゲイル チューナー(効果モンスター)(制限カード) 星3/闇属性/鳥獣族/攻1300/守400

自分フィールド上に「BF−疾風のゲイル」以外の「BF」と名のついたモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

1ターンに1度、相手モンスター1体の攻撃力・守備力を半分にする事ができる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「空海はブラックフェザーデッキか。また……この場合は『インチキ効果もいい加減にしろ』と言うべきだろうか」

「ひかる、正解だよ。ガチにも程があるし」





またまた説明です。ブラックフェザー(BF)デッキはアニメ『遊戯王5D's』でクロウというキャラが使っているデッキ。

今のようにBFと名前がついているカード同士が相互干渉し合う形で効果を発揮していくの。

それも……互いが互いを呼び合うように。とにかくこのデッキの特徴はその効果によるモンスターの展開力。



あとは相互干渉による能力上昇とかシンクロ召喚補助とか……一部では『どんな初心者でもそれなりに勝てるデッキ』とまで言われている。



実際これが猛威を振るっていた時は大会優勝者のほとんどがBFデッキだったって言うしねぇ。





「柊、召喚から特殊召喚まで一気にやっちまったがなにかあるか? あるならプレイング巻き戻すが」

「えっと……大丈夫ですー」



もう山のようにカードがあるために、ゲームやオンラインとかでもない限りはこういう口頭での確認が必要になる。

もし今の召喚に対応出来るトラップがあったらりっかはそれを発動して、モンスターを破壊してもOKだったんだよね。まぁないっぽいけど。



「なら引き続き疾風のゲイルの効果をジェノサイドキングサーモンに発動だ」



疾風のゲイルの効果により、キングサーモンは攻撃力と守備力を半分――1300/600に低下させられる。

それを表現するかのようにキングサーモンの身体に紫色のエフェクトがまとわりつき、痛々しい声をあげ……魚って鳴くんだね。



「次は暁のシロッコの効果発動。効果対象は疾風のゲイル。
暁のシロッコの攻撃力分、疾風のゲイルの攻撃力が上昇する」



なので現在黒い光に包まれてパワーアップ状態を表現中の疾風のゲイルの攻撃力は『3300』。

この攻撃が通ればキングサーモンは破壊され、りっかは一気に2000のダメージを負う事になる。



「つーわけでバトルフェイズに移行。……疾風のゲイルでキングサーモンに攻撃っ!」



そこで疾風のゲイルは空海の声に合わせて翼を羽ばたかせ、突撃。くちばしからキングサーモンに突撃していく。



「トラップ発動っ!」



でもそこでりっかは声をあげる。それに反応して伏せられていたカードが一人手に起き上がって展開。そこには回転する光の模様が描かれていた。



「『攻撃の無力化』っ! 攻撃を防いで、このターンのバトルフェイズを強制的に終了させますっ!」

「……俺の場に伏せカードとかはないし、問題ない。だが疾風のゲイルの効果は継続だ」

「はいー」



りっかはスロットから出てきた伏せカードを手に取って、ディスク中心部――腕の下側にある墓地スロットに使い終わった罠カードを挿入。

モンスターや一度使ったり破壊された魔法、罠カードは全て墓地に送る。もしくは……今回のゲームから完全除外? そういう場合もあるの。



「弱体化したモンスターが残ったな。これは厄介だぞ」

「だね。しかも空海の事だから」

「俺はメインフェイズ2に移行。レベル5・暁のシロッコにレベル3・疾風のゲイルをチューニングッ!」



空海の場の二体が青いリングに包まれ、そのリングが上に広がる形で分裂。

三つのリングの中で二体のモンスターは星になり、それは上から下に一直線に並んだ。



「集いし願いが、新たに輝く星となるっ! 光り差す道となれっ!」





しかも口上言うんかいっ! あぁ、空海がどんどん厨二病の気を出し始めてるっ!



……空海の前で並んだ合計八個の星が重なり、強い光を放ちながら新たなモンスターとなる。



空海は素早くエクストラデッキからカードを一枚引いて、ディスク板に置く。





「シンクロ召喚――飛翔せよ! スターダスト・ドラゴンッ!」



現れた白銀の竜は……まぁホログラムの設定で1メートル程度と小さめだけど、それでも威圧感は充分。その咆哮にりっかは思わずたじろぎ、一歩弾いた。



「そうくるよねー」

「分かり切っていた事だったな」





説明しよう。シンクロ召喚とはチューナー効果を持つモンスターと別のモンスターを組み合わせて使うシンクロ召喚。

それぞれのレベル(星の数)を合わせた合計数値分のモンスターを、エクストラデッキから呼び出せるんだ。

今ので言うとチューナーな疾風のゲイルと暁のシロッコの合計レベル8に合ったモンスターをこの場で呼び出した。



それがスターダスト・ドラゴン――アニメの『遊戯王5D's』で不動遊星が使っているキーカード。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



スターダスト・ドラゴン シンクロ・効果モンスター 星8/風属性/ドラゴン族/攻2500/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースする事でその発動を無効にし破壊する。

この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、この効果を発動するためにリリースされ墓地に存在するこのカードを、自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「わー、スターダスト・ドラゴンだー! ほんとに出てきたー!」



りっかは目をキラキラさせて、アニメの中に出てくるよりは小さいスターダスト・ドラゴンを見ている。



「しかしなぜスターダストを? BFカテゴリーではないだろう。ここは絶対ブラックフェザー・ドラゴンだと思うが」

「いや、順当なとこだと思うな。だってブラックフェザー・ドラゴンの効果はアレだし」



腕を組みながら、改めて空海とスターダスト・ドラゴンを見る。



「それ以外のBFカテゴリーのモンスターだと、星8個でシンクロ召喚出来るのは一体だけ。
しかもこれはチューナーと二体のモンスターって制限付きだもの」





そのモンスターの名前は『BFー孤高のシルバー・ウィンド』。もうね、空海のデッキなら絶対入ってるよ。

シルバー・ウィンドの効果は……この状況で使えたらりっかを詰みに追いやるかもっていうくらいに強力。

シンクロ召喚に成功した時、このモンスターの攻撃力(2800)より低い守備力のモンスターを二体まで選択して破壊。



ただこの効果はメイン2で召喚しても使う事は出来ないけど。その理由は既にバトルフェイズを終えているから。

この効果の説明文は最後に『発動するターンにバトルフェイズを行う事が出来ない』と書いてあるんだ。

だから既にバトルフェイズを行ったメイン2だと、効果使用の前提そのものが崩れる事になるんだ。



それで召喚時だけの能力だから、召喚後2ターン目で使用も出来ない。うん、ここは大丈夫。

でもこのカードにはもう一つ効果がある。それは相手ターンに一度だけ、BFと名のついたモンスターが戦闘では破壊されない事。

自分フィールド上に居るBFと名のついたモンスター限定だから、シルバー・ウィンドもその対象に入るんだ。



しかも攻撃力が2800とかでしょ? 当然ながらキングサーモンをまた召喚しても絶対に勝てないという悲しさだよ。



これ倒すなら3000台の攻撃を二回やるか、魔法や罠にモンスター効果で墓地送りにするなりゲームから除外するしかない。





「それでスターダストだと、魔法・罠・モンスター効果による破壊耐性がついてるからしぶとい。しかも復活するし」



他のモンスターだと、これから相手の攻撃受けようっていう状況だとちょっと弱いんだよなぁ。

普通に攻撃受けるだけならともかく、りっかがブラックホールみたいなモンスター除去の魔法使ってくるかもだし。



「それなら納得だ。だが大丈夫なのか? スターダストは上級モンスターとしては攻撃力が中堅どころ。
りっかの方もエクストラデッキがあるし、シンクロモンスターなり融合モンスターが居るんだろう。
もしくはまたジェノサイドキングサーモンが出されたら終わりだ。しかもりっかの場にはあのフィールド魔法」

「それは大丈夫でしょ」

「俺はこの場でカードを二枚伏せて……ターンエンドだ」



空海の前に伏せられたカードが二枚現れ、空海の手札は二枚に減少。それを見て、りっかが口元を歪めた。



「あの伏せカード次第だけどね」

「そうだな」





でもきっと厄介なカード出してるんだろうなぁ。例えば1000ライフを払う事で罠の発動をストップした上で破壊出来る『盗賊の七つ道具』とかさ。

あとは戦闘ダメージを無効化した上でカードを一枚ドロー出来るガードブロックとか?

いや、もしかしたらライフを半分払う事で相手の召喚・特殊召喚・魔法と罠発動をストップ出来る神の宣告とか?



まぁどれもこれも僕のデッキに入ってるものなんだけど……空海は本気出してるし、絶対それらしいのが入ってると思われる。





「あたしのターンッ! まず、ドロー!」





りっかはスターダスト・ドラゴンからデッキに視線を移して、カードを一枚ドロー。これで手札は四枚。

ただ……あまり芳しくないみたい。表情からそれが丸分かりだもの。察するに強力モンスターは出せないって感じかな。

さっきも言ったけどスターダスト・ドラゴンはカード効果での破壊に耐性がある。



だから一番手っ取り早いのは、殴って倒す事。もしくはスターダストの効果を使わせた上で相手を殴る事。

でも今のりっかにはそのどちらも出来ないと思われる。まずキングサーモンは攻撃力半減でアテに出来ないしね。

あとは……あの伏せカードなんだよなぁ。さっきりっかがやったみたいに、相手の攻撃に反応するカウンター罠というカードがある。



それ使われたら、ちょっとやばい事になるかもなんだよね。場合によっては一瞬でモンスター全滅とかもありえる。

なのでそういう時は、場にセットされた魔法・罠カードを破壊する効果を持つカードを使ったりするんだ。

そういうカードを使って安全に攻撃出来るようにしてからモンスターを排除していくってのが……まぁデッキ次第だけど。



それでりっかのデッキの中にも一応そういうカードはあるっぽい。だから表情が落ち込んだのよ。





「えっと、メインフェイズ1に移行します。なにかありますか?」

「大丈夫だ。そのまま進めてくれ」

「はい。あたしはジェノサイドキングサーモンを守備表示にして」



りっかの目の前のキングサーモンが身を丸めて青色に染まる。あれがモンスターが守備表示になった状態。

あの状態だと攻撃されても守備力が相手の攻撃力より高い場合は破壊されないし、仮に破壊されてもダメージはない。



「モンスターカードを一枚セット」





そんなキングサーモンの隣に、横にされた状態で伏せられたカードが現れる。

もしモンスターを守備表示で召喚した場合、普通の召喚だと今のような形で場にセットする。

うーん、りっかは何気に落ち着いたプレイングするなぁ。普段の落ち着きに欠けた印象が全くない。



もしかしてりっかって、集中してさえいればちゃんと落ち着いて行動したり考えたり出来る?





「それからバトルフェイズを飛ばしてメインフェイズ2に移行します」

「大丈夫だ」

「ならあたしは場にカードを二枚伏せて、ターンエンドです」



伏せられたカードが二枚追加で現れて……りっかの手札はこれで一枚。さて、これはどうする?

空海の方を見ると、空海もさすがにこの場での読み方が分からないわけじゃないらしく……表情を曇らせていた。



「俺のターン……ドロー!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



二枚か。なんつうか、伏せカード二枚ってのは結構面倒なんだよなぁ。てーか怖い?

もちろんモンスターゾーンに居るあの伏せられている守備モンスターもだな。もうな、攻撃を躊躇っちまうんだよ。

例えばあの伏せモンスターに攻撃したとする。それで倒せたとするよな。



そうすると柊は必ず伏せたモンスターがなにかを提示した上で墓地に送らないといけない。

こういうのをリバースって言って、モンスターの中には居るんだよ。そういうリバースする事で効果を発揮するのがな。

いや、そこは倒されなくても同じか。伏せられた状態からひっくり返して召喚しても、リバース効果が発動する。



そういうのは結構厄介なのが多くてな。なんかのカード破壊するとか、モンスターデッキから特殊召喚するとかな。

もちろんそういうのも抜きで単純に防御用って可能性もある。守備表示にしてればダメージは食らわないからな。

でも……そうなるとやっぱりあの二枚の伏せカードが怖いんだよ。破壊効果ならスターダストで止められるが、そうじゃないなら無駄だ。



それにその、俺のとこで伏せたカードもなぁ。実は現段階だとブラフだったりするんだよなぁ。

だって……ゴッドバードアタックと激流葬だしよ。えっと、まず二枚とも罠カードだ。

ゴッドバードアタックが場に居る鳥獣族を一体選んで墓地に送る事で、相手のカードを二枚破壊出来る。



ブラックフェザーは鳥人――鳥獣族ばっかのデッキだからな。その上展開力もあるだろ?

だからこういう状況だと使いやすいんだが、俺の今の手札だとさっきみたいな連続召喚はちょい難しいしなぁ。

それで激流葬が場のモンスターを全て墓地送りにするカードだ。これも発動する意味がねぇ。



ここでせっかく保険で出したスターダスト・ドラゴンが消えたら、召喚した意味ないしな。うし、だったら……いっちょ試してみるか。





「メイン1に移行っ! 俺は『BFー蒼炎のシュラ』を召喚っ!」





ディスク板に置いたカードがまたまた実体化。今度の鳥人の特徴の一つは大きく黒い黒い右腕。



そしてやったらと細い鳥足。黒く開いた禍々しい翼は……あぁ、やっぱこれすげーいいわー。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



BFー蒼炎のシュラ 星4/闇属性/鳥獣族/攻1800/守1200

このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、自分のデッキから攻撃力1500以下の「BF」と名のついたモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「バトルフェイズに移行……で、いいよな?」

「大丈夫ですー」

「うし、なら蒼炎のシュラで……伏せモンスターを攻撃っ!」





蒼炎のシュラはそのまま突撃して、右腕で伏せカードを殴り伏せる。するとカードは砕け散って……映像だからな?



とにかく映像のカードは砕け散って、蒼炎のシュラが俺のとこに戻ってくるまでの間に一つの形を取る。



柊が困り顔で墓地に送ったそのカードは、背中の二つのライトで先を照らしながら海の中を進む……潜水服?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フィッシュボーグガンナー チューナー(効果モンスター) 星1/水属性/魚族/攻100/守200

自分フィールド上にレベル3以下の水属性モンスターが表側表示で存在する場合、手札を1枚捨てて発動する事ができる。

墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する。このカードをシンクロ素材とする場合、他のシンクロ素材モンスターは全て水属性モンスターでなければならない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



いや、ちょっと待てよ。だったらなんでさっきシンクロ召喚しなかったんだ? 1と4でレベル5のモンスター出せただろ。

考えられる要素はいくつかあるが……エクストラデッキにそのレベルのモンスターが入ってない? もしくは召喚出来るのにしなかった。

こっちの伏せカードを警戒してそうしなかったっていうなら、柊のレベル5シンクロモンスターに切り札っぽいのがあるのか?



破壊されると困るようなモンスターで……そうなるとあの伏せカードはモンスターに破壊効果カードが使われた時、フォロー出来るようなものじゃない?



よし、これで大体読めてきたな。でも手札捨てて復活されても面倒だから、警戒はしておくか。





「俺は蒼炎のシュラの効果発動っ! デッキから攻撃力1500以下のBFと名のつくモンスターを特殊召喚するっ!」



音声認識のおかげで射出されたデッキを右手で受け取り、手札持ったままの左手も使ってカード探して……すっげー大変。

でもこれもこの素敵な時間への対価と思うと楽しくてしょうがな……お、みっけ。



「俺は『BFーそよ風のブリーズ』を攻撃表示で特殊召喚っ!」





取り出したカードをディスク板に置くと、それが再び目の前で映像として形を取る。



デッキをまたスロットに戻している間に現れた黒い鳥人は、今までと違う赤い身体とオレンジ色の翼で……もう俺このカードスッゲー好きなんだ。



あ、ちなみにこのゲームだと『○以下』の表記は○の中の数字までOKって解釈だからあしからず。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



BFーそよ風のブリーズ 星3/闇属性/鳥獣族/攻1100/守300

このカードが魔法・罠・効果モンスターの効果によって自分のデッキから手札に加わった場合、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

このカードをシンクロ素材とする場合、『BF』と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「蒼炎のシュラの効果で特殊召喚したモンスターは、効果を使えない。このままバトルフェイズを続行する」

「はいー」





召喚したがトラップカードは発動なしか。召喚が発動キーの魔法・罠の類じゃない?



ここはスターダストで止められる破壊以外の効果も含まれる。例えば召喚した途端に妙な装備カード付けられるとかよ。



俺は呼吸を整え、次は身を縮めてるジェノサイドキングサーモンを右手で指差す。





「スターダスト・ドラゴン、ジェノサイドキングサーモンに攻撃」



俺の傍らのスターダスト・ドラゴンが口を大きく開いて、そこから白い光を吐き出した。



「シューティングソニックッ!」





その光にジェノサイドキングサーモンは飲み込まれ、あっという間に砕け散る。

なので柊は悔しげにカード達を墓地に送って……また発動しなかったな。

柊は感情がすぐ顔に出るタイプだから、発動出来たのにしなかったって事はなさそうだ。



あの伏せカードはこちらの攻撃で発動するカードじゃない。なら……こっちの魔法・罠で発動するタイプか?



例えば盗賊の七つ道具みたいにさ。ただここも、もう一回残っている攻撃チャンスを使ってからだな。





「それじゃあさっき特殊召喚したそよ風のブリーズで、柊にダイレクトアタックだ」



今度は柊を指差すと、ブリーズは一瞬で加速。柊に向かって突撃した。



「行けっ!」



柊はその体当たりを両手で身構えながら目を閉じて受け止めるが……ブリーズはただ柊の身体をすり抜けるだけ。

柊はなんの衝撃もないのに驚いて目をぱちくりさせながら腕を開き、俺の方へ戻って来るブリーズを見る。



「あれ、痛くない。なんで?」

「いや、当たり前でしょうが。それ立体映像なんだし」

「あ、そっか」





恭文、呆れてやるな。俺だってあれ食らったら痛そうだなとか考えるしよ。とにかくこれでも魔法・罠発動はなしか。

柊がポーカーフェイス出来ない奴なのを考えると……やっぱこっちの伏せカードに反応して効果を発揮するタイプっぽいな。

もしくはまだ発動条件自体が整ってない? ほら、こっちのゴッドバードアタックみたいにさ。



あれもさっきまでスターダスト・ドラゴン一体だけだったから、発動は無理だったしよ。



とにかくこれで柊のライフは2900。一瞬で決めようと思えば決められる数値だ。なら……万全を期すか。





「バトルフェイズを終了。次はメインフェイズ2へ移行。俺は蒼炎のシュラにそよ風のブリーズをチューニング」



再び二体が青いリングに包まれ星となり、それらは一つの輝きへと変化する。



「黒き旋風よ、天空へと駆け上がる翼となれっ! シンクロ召喚――BFーアーマード・ウィングッ!」





エクストラデッキから取り出したカードをディスク板に置いて俺が召喚したのは、黒い翼と太ましいフォルムの巨人。



翼と身体の肩・棟アーマーに走る赤いラインと、ルビーのような一つ目が印象的なこれが……俺の切り札の一枚だ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



BFーアーマード・ウィング 星7/闇属性/鳥獣族/攻2500/守1500

『BF』と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードは戦闘では破壊されず、このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

このカードが攻撃したモンスターに楔カウンターを1つ置く事ができる(最大1つまで)。

相手モンスターに乗っている楔カウンターを全て取り除く事で、楔カウンターが乗っていたモンスターの攻撃力・守備力をこのターンのエンドフェイズ時まで0にする。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ま、またエグいカードを」

「空海、大人気ないな」





まぁプレイングの邪魔をしてもあれなので、かなり小声です。小声だけど……これはキツいでしょ。

まずアーマード・ウィングは戦闘では破壊されないけど、モンスター効果や魔法・罠ではあっさり壊される。

でもそこにスターダスト・ドラゴンが居るから、まずスターダストをぶん殴った上でなんとかする必要がある。



もちろんそこで厄介な伏せカード二つがあるんだけど……これから来るカード次第だけど、このまま押し切られて負ける可能性もある。

だって空海の場には、今のりっかを瀕死にさせるモンスターが二体も居るんだから。それでりっかの場にはモンスター無し。

その上モンスターの展開力には自信ありなBFデッキが相手。この調子でいくとモンスターがどんどん出てきてどうしようもなくなる。



当然ノーガード状態で攻撃を受けたらりっかが負ける。なのでりっかは早急にあの二体のうちどちらかを潰さないとだめなわけよ。





「柊、なにかあるか?」

「いえ……ありません」

「うし、ならターンエンドだ」





空海の手札はこれで二枚。うーん、空海は今回引き運良いっぽいなぁ。ばしばし強いモンスター出せてるし。



そうすると次のりっかのドローがどうなるかだね。これで波に乗ってる空海を止められなきゃ……さて、どうなるかな。





(第137話へ続く)




















あとがき




恭文「というわけで、プレイングに間違いがあるんじゃないかと思ってびくびくしているドキたま第137話です」

フェイト「ほ、ホントに遊戯王やっちゃったっ!」

恭文「まぁ実際は冒頭のあれのクッション話にしたかっただけなんだけどね。あとは空海とりっかの絡み?」

フェイト「何気に顔合わせては居るんだよね。第126話であれだったし」

恭文「なんだよねぇ。というわけで、本日のお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。あ、それとカレントボードは冬馬雪様からのアイディアです。冬馬雪様、本当にありがとうございました」

恭文「ありがとうございました。いや、だいぶ前にもらったアイディアだったんだけど、出せて良かったよー。
そんなカレントボードにあむ達が悪戦苦闘しているのも、次回ちょこちょこやれたらいいなーと思っています」



(せっかくのアイディアだしねー)



恭文「それで今回は……やっぱり冒頭だよ。原作だと10巻でのお話」

フェイト「第125話で幾斗君が唯世君の家で話してたの、これだったんだね」

恭文「うん。そのためにダンプティ・キーをもう少し借りて……でもあむはまた」

フェイト「まだ自覚0なんだよね」

恭文「いっそシルビィでも呼んで相談乗ってもらうかな。こういう話題ならすぐに姿現すだろうし」



(『私は高いわよ? 例えば……愛情たっぷりのちゅーとか?』)



恭文「まぁそんな戯言は無視して」



(『ちょっとっ!?』)



恭文「今回の架空デュエルでは」

フェイト「ヤスフミ、ぶっちゃけ過ぎだよ」

恭文「いいのよ。とにかく今回はブラックフェザーVS水属性デッキ。
まぁ空海がブラックフェザーなのは……察して? ほら、もうすぐ厨二病入るから。
そろそろ闇とか黒とかそういうものに強く憧れるようになるから」

フェイト「それおかしくないかなっ! 完全に悪役趣味だよねっ!」



(まぁ他に思いつかなかったのが理由だったり)



恭文「それでりっかは……太陽神デッキも考えたんだけど」

フェイト「しゅごキャラがあの子だからだよね」

恭文「うん。でも回し方が今ひとつさっぱりだったから、ナマズ繋がりで水デッキにしました。
まぁそれもこれも作者がネタに困って自分の分かる話を書こうとしたのが原因」

フェイト「ヤスフミ、それなんか違うっ! ぶっちゃけるところ間違ってるよっ!
と、とにかく次回はこの続き。デュエルはそれとして、あむ達の様子も書いたり」

恭文「まぁそんな感じだね。それでは本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪でした。それではまた」





(なんだかんだで仲の良い二人は、手を繋いで……ざざざざざざざざ。
本日のED遠藤正明:『CLEAR MIND』)










恭文「では、空海が大人気ない件に関して」

空海「なんでだよっ! 本気でやらなきゃ失礼だろうがっ!」

恭文「やかましいわボケっ! りっかはまだ小2だよっ!? 多少はそこ考えないとおのれが一方的に勝つだけでしょうがっ!
しっかもまたガチガチに組んでるし、それアウトでしょっ! 僕だって今回は自重してサブデッキなのにっ!」

空海「あ、そういやなに組んだんだ?」

恭文「ドラグニティ。まだ研究中だけどね」

空海「それ俺と変わらねぇだろっ! ドラグニティだって充分ガチデッキの範疇だろうがっ!」

ひかる「いや、BFには負けると思うぞ。過去の戦歴を見ればそれはなぁ」





(おしまい)





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