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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第135話 『EPISODE AIZEN/揺らがぬ強さ+賭ける覚悟=新しいダブルアクション』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー。さてさて、今回のお話は……ついに超・電王編最終回っ!」

ミキ「ついにあのコンビが手を取り合ったり」

スゥ「ついにあの二人の手が離れたり……えぇっ!? 離れるってどういう事ですかぁっ!」



(立ち上がる画面に映るのは……デカい得物とネコミミ?)



ラン「みんな、あと少しだよっ! 頑張ってー!」

ミキ「壊されたこの街の時間を取り戻すために」

スゥ「そこから続く時間を守るために、恭文さん……クライマックスです。それではせぇの」

ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『――悪くはないものだな』

「なにがですか」

『こういう戦い方も、悪くはない』





その言葉が妙に人間らしく……いいえ、これは失礼か。AIでも心を持てるのは、既に私達の世界では証明済み。



だったら彼も同じ。自分の感情がどこか彼の存在を見下しているように感じて、私は自嘲の笑みを浮かべる。



それから背後から響き始めた足音に視線を向けると、そこにはバリアジャケット姿のリインさんが居た。





「リインさん、サポートありがとうございました」

「大丈夫ですよー」





当然ながらさっきの鉄球を閉じ込めた氷は、リインさんの仕業。得意の凍結系魔法でほんの少しだけ相手の動きを止めた。

アクセルは設定されているスペックなら電王やダブルより上だし、鉄球自体を破壊は無理と判断した。

だからほんの少しでも使えなくして隙を作る方向で話を薦めて……ティアナが予め二人に不意打ちしてもらえるように作戦を立てた。



ちなみにコレで倒せない場合、退避した上でもう一度照井竜さんにマキシマムドライブを使ってもらう……えぇ、そこまで決めてた。

相手の戦力の限界が読めない以上、自分達の消耗は極力避ける戦いをしなきゃいけない。

だからそのためにティアナが頭を働かせて……でもこの場にもう兵隊は居ない。でもそれも当然だったりはする。





『だが、本当に新しい兵隊が沸いてこないな。やはり発生源が戦闘中だからか』

「えぇ」





新しい兵隊も恭文さん達が王様を発見してから全く出ていないの。だからティアナも攻めに出た。



ここは明治時代のように増殖するわけではなく、あの王様イマジンが兵隊達を出しているせい。



だから最初の段階で王様イマジンを隠した。ティアナと恭文さんはそう読んでいるけど……なら、あとやるべき事は一つ。




「みんな、みんなを追うぞ」



いつの間にか元の赤いアクセルに戻った照井竜さんが、私達の方に近づいて来る。



「ここであのイマジンを逃せば、また最初に逆戻りかも知れん。俺達で奴を囲むんだ」

「ティアナの指示通りに……ですね」

「そうだな」





アクセルが苦笑しつつ頷いて、視線を恭文さん達が消えた方へ向ける。残りは……王様だけ。



恭文さん達が簡単に遅れを取るとは思わないけど、やはり不安は残る。早めに合流しないと。










All kids have an egg in my soul


Heart Egg――The invisible I want my




『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第135話 『EPISODE AIZEN/揺らがぬ強さ+賭ける覚悟=新しいダブルアクション』











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



前回のあらすじ――王様がバカでした。そんなバカな王様相手になんとか押し込んでるけど、今ひとつ決
定打が掴めない。



そろそろ時間もかけてられなくなって来たので、もう変身解除して倒しちゃおうかなと考えながらも兵隊達の射出を避ける。





「おい恭文っ! もうチンタラしてられんでっ!」

「ですよねー」



火力じゃあっちの方が上だし、ぶっちゃけ長期戦だと不利。ここはなんとかパパっと決めちゃいたいところなんだけど。



≪おい≫

「なに、こっちは忙しいんだけど」

≪オレを……使え≫



こっちに突撃してきた王様の袈裟の斬撃を左に身を捻って避け、追撃の右薙の打ち込みを逆手に持ち替えたこのバカで受け止める。



≪がぁっ!≫



受け止めた衝撃で砂が撒き散らされ、刃の切っ先から中程までが砕け散った。

クソ、こっちの近接戦闘能力が低いと踏んで踏み込んで来たか。



≪オレが……悪かった。オレはお前や他の連中に生命ばっか賭けさせて、自分じゃなにも……なにもしようとしなかった≫



僕は力を込めてくる王様イマジンの勢いに逆らわず、そのまま押し込まれながら後ろに跳ぶ。

そうして相手の胴ががら空きになった所を狙って左のデンガッシャーで相手を狙い撃つ。



≪だからオレも、今更かもだけど生命を賭けるっ! だからオレを使えっ!
オレがお前を使おうとしたように、オレを……徹底的に使えっ!≫



王様は刃をまた黒い光に染めながら返し、僕に向かって袈裟に斬撃を打ち込もうとする。でも。



≪Luna……Joker!≫



そんな王様の右手に、金色の腕が絡みついてその動きを止める。



「なにっ!?」



王様が自分の右側に絡みついている腕を辿ると、そこには金と黒で色分けされたWが居た。



【翔太郎っ!】

「分かってるってっ!」



Wは王様から5メートルほどの距離で跳躍しそのまま右足を大きく振るう。僕は咄嗟にしゃがんで、瞬間的に伸びた足を回避。



「おりゃあっ!」



空気を斬り裂きながら大きく薙いだ右足が王様の顔面に当たり、王様はバランスを崩して仰向けに倒れる。

同時に集中が切れたのか、刃から黒い光が消えた。……うし、ようやくカードが揃った。



「全く……遅いっつーの」



僕は真っ白でひび割れだらけの刀を持ったまま、右手から一枚のチケットを取り出す。そのチケットの表面にはなにも描かれていない。



「ぶっちゃけあんな雑魚、お前の力がなくても倒せた。でもね、この状況の落とし前つけるためにはカードが必要なのよ」



僕や良太郎さん達だけじゃあだめなの。お前にも……生命を賭ける覚悟をしてもらわなきゃね。それがようやく揃ったので、僕は仮面の中で笑う。



≪それは≫



バカが驚くのも無理はない。これはオーナーがわざわざターミナルから受け取ってきた派遣イマジンの契約用チケットだから。

こっちに来る時にオーナーから密かに受け取ってたのよ。使える状況もあるかもーって思ってさ。



「もう一度言う。僕に」



僕は右腕を一度大きく下げ、そこから頭上へ向かってカードと刀を放り投げた。



「跪けっ!」

≪……おうよっ!≫





空中で粒子と化した刀がカードに吸い込まれる。でもすぐにカードから吸い込まれた粒子が吐き出された。

その色はさっきまでの白ではなく、蒼と赤色。それらは一つの形を取り、僕の隣に着地。

それはあの白くて弱っちいバカ。でもさっきと違って色は蒼と赤のストリームラインになり、角は大きく角張ったものになっていた。



着地してからソイツは僕の右隣で、大きく両手を回して首をゴキゴキと鳴らす。僕はその間に右手でカードをキャッチ。



それから左手のデンガッシャーを軽く放り投げると、デンガッシャーはパーツに分解されて両腰に再装着された。





「あー、やっと身体が楽に」

「それはよかった。それじゃあ」





僕が差し出した右手をソイツが掴むと、ソイツは蒼い光に包まれて形を変えた。



その形状は角張った形で僕の身長ほどの大きさがある銃剣。てーかこれ、ワイルドアームズ2で見た覚えがある。



刀身は蒼と赤のラインで彩られていて、刃は鋼色。それでずっしりと重さが……良い感じだねー。





≪くそ、しょうがないとは言え身体がまた≫

「それは残念だね。でも、僕に跪くんでしょ?」

≪あぁ分かってるよ。腹は決まってるから、思いっ切りぶん回してくれ≫

「ふん、今更武器を変えたところで」



そんな事を言いながら王様は起き上がり、袈裟に刃を振るって斬撃波を打ち込んで来る。

僕はその銃剣のグリップをしっかり握って、それに向かって逆袈裟に刃を打ち込んだ。



「無駄だっ!」

「無駄だっ!」



黒の中に金色の粒子が混じった斬撃波は僕の斬撃を受けて弾けるように霧散。

僕の目の前に舞い散る粒子を見て、王様が驚きを交えてたじろぐ。



「なにっ!?」

「……お前がな」

≪おいおい、今のなんだっ!? 普通あんなの斬れねぇだろっ!≫

「残念ながら」



そのまま踏み込んで奴に迫りつつ両手で銃剣を持ってトリガーを引くと、青い弾丸が銃口から放たれ王様の身体を叩く。

決して連射速度が高くないそれは銃というよりなにかの砲弾に近く、その衝撃は王様イマジンの動きを止める。



「僕は斬れるのよっ!」





銃剣の重さに任せて身を時計回りに翻し右薙の斬撃を打ち込むと、奴はそれを刃で受け……吹き飛ばされる。

地面を転がった奴に踏み込み袈裟に銃剣を打ち込むと、奴はそれを刃で受けて流す。それから素早く切っ先を引いて僕に刺突を打ち込む。

その刺突を刃を振り切った勢いのままに身体を反時計回りに回転させながら避け、今度は刃を奴の背中に叩きつけた。



重量武器の重さに逆らわずにあえて振り回されながら攻撃と回避・移動を同時に行い、今度は左足を上げる。

背中に袈裟の斬撃を食らってバランスを崩した王様に向かって、後回し蹴りを叩き込みこかす。

それからすぐに銃剣をしっかりと両手で構えつつ動きを止めて、倒れて起き上がれない王様に向かって素早く銃剣を投擲。





「知らなかった?」



すると銃剣を蒼い光が包み込み、その形が変わっていく。



「知るわけ」



銃剣は一瞬であのバカへと変化して、右・左と交互に足を振るい飛び蹴りを打ち込む。



「ねぇだろうがっ!」



それを食らって王様がまた転げたところを見ながら加速。王様は静かに立ち上がり、忌々しげに僕とバカを睨みつける。



「この」



王様が刃を頭上に振りかぶったのを見て、僕はバカの左手を掴んで身を時計回りに回転。そのまま掴んでいる手を引き寄せる。



「調子に乗るなっ!」





刃から放たれた衝撃波はそのまま僕達を飲み込むはずだった。でも僕に手を引かれながらバカは再び銃剣へ変化。

回転しながらも左に移動していたので衝撃波は僕達の右サイドの地面を通り過ぎる。

地面に大きく真っ直ぐな線が刻まれる中、僕は改めて奴に銃口を向け……攻撃直後の隙を狙って引き金を引く。



それらが全て着弾し王様が動きを止めたところを狙って一気に踏み込み、腹に向かって右ミドルキック。



王様は身体をくの字に曲げて大きく吹き飛び、地面をまた転がった。……うし、良い感じ良い感じー♪





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



【翔太郎、今のうちにエクストリームを】

「あぁ。だが……あの鳥来るのか? 今過去だよな」

【そこは出たとこ勝負さ。さ、早く】

「分かった」





俺達がドライバーをUの字型に閉じると、上から鳥の鳴き声みたいなのが聴こえて……おいおい、ホントに来やがったしっ!



とにかく俺達の頭上の鳥――エクストリームメモリにサイクロンメモリとジョーカーメモリが吸い込まれる。



空になったドライバにそのエクストリームメモリがすっぽり収まると、ドライバーが勝手に展開。





≪Extreme≫

【「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」】



俺達の真ん中のラインから光が溢れ出し、そこに両手を突っ込んで――一気に広げた



【「はぁっ!」】





そして溢れる光の中で一瞬で俺達は姿を変え……いや、本当の意味で一つになる。

肩アーマーや顔パーツの一部は鋭角的になり、真ん中にはプリズムの大きなラインが生まれる。

さっきまでのWとは違う力強さに溢れたこれは、サイクロンジョーカー・エクストリーム。Wの切り札だ。



俺が素早く左手をかざすと、そこにエクストリーム形態専用のシールドが現れる。



円形にX字が組合った形状のそれの中心に、長さ50センチほどの両刃の剣が収まっている。





【翔太郎、敵の情報を検索した。最も効果的な攻撃は】

「あぁ、分かってる。……おい、蒼凪恭文っ! お前が決めろっ!」

「了解っ!」



その間に俺は素早くシールドに収まっている剣の柄尻にメモリを挿入。



≪Prism≫



プリズムのメモリは、フィリップ曰く複数のガイアメモリの力を一体にする効果があるらしい。

なのでその上でX字の先のスロットに、別のメモリを四つ入れていく。



「貴様らぁ……雑種の分際でぇっ!」

【そうやって人を見下す事しか出来ないから、君は弱いのさ。君はいつも一人で戦ってる】

≪Cyclone Maximum Drive・Heat Maximum Drive・Luna Maximum Drive・Joker! Maximum Drive≫



それぞれのメモリが輝き、その力が中心の円形のクリスタル部分に集まっていく。



【一人ぼっちの理想郷を作るのは勝手だけど、それにこの世界の人達を巻き込むのはよしたまえ】

「美味しいとこだけもらいまくるのはちと申し訳ないが……さぁ」

「これで決めさせてもらうよ。……さぁ」



俺は右手を軽くスナップさせ、奴を指差す。



【「「お前の罪を、数えろ」」】



……って、なんでお前も言うわけっ!? あぁもういいっ! ここはあとで問い詰めるとして、今はあの王様だ。

奴は両腕を大きく広げ、空気を震わせるような叫びをあげながら背の空間を歪めていく。



【「ビッカー」】



俺は右手の親指でシールド表面の線上のスイッチを押し込み、その空間に――王様に向かって盾をかざした。



【「ファイナリュージョンッ!」】



盾中心部から放たれる虹色の光と、歪んだ空間から射出された……兵隊達特攻させるなよっ!

とにかく続々と射出される兵隊達を撃ち抜きながら盾から光が溢れ、俺達と王様の間で数え切れないほどの爆発が起こる。




「このぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」



威力的にはどっこいどっこいか? フルパワーなはずなのに押し込めない。だが……奴は背中ががら空きだ。



≪Full Charge≫

「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



奴の背後へ金色に輝く右薙の斬撃が叩きつけられ、大きな火花が走る。



「ダイナミックチョップッ!」





金色の電王がやってくれたか。その瞬間、歪んでいた空間が元の静けさを取り戻す。



虹色の光の奔流が奴を飲み込み、電王は……咄嗟に横に転がってそれを回避した。



光の奔流の中で奴は膝立ちになりながらも、襲い来る衝撃に必死に耐えて剣をかざそうとする。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪くそ、まだ耐えやがるか≫

「しぶといねぇ」



左手でパスを取り出し、僕はベルトにセタッチ。



≪Full Charge≫



バックル部分のクリスタルが蒼く輝いて点滅して、そこから火花が走る。その火花が僕の持っている銃剣の柄尻に走り、刃が蒼く輝く。



「でも、これで終わらせる。そうでしょ?」

≪あぁ≫



ファイナリュージョンの奔流が収まっていき、その中から出て来た王様が膝をつく。

荒く息を吐き、身体の各所から白い煙を上げる王様に向かって全速力で踏み込んだ。



≪さぁ、ぶちかますぜっ!≫





10メートルほどの距離を地面を踏み砕きつつ一瞬で詰め、銃剣を袈裟に打ち込む。

王様は咄嗟にそれを右のブロードソードで防ごうとするけど、蒼い斬撃は剣ごと王様を両断。

続けて刃を返し逆袈裟に斬撃を放ち、王様の身体にX字の閃光を刻み込んでから……ラスト。



二つの斬撃が交差した点を狙って、刃の切っ先を全力で突き立て腕を伸ばす。





「ぐはぁっ!」



王様の身体をそのまま一気に持ち上げ、持ったままのパスをもう一度セタッチ。



≪Full Charge≫



二回目のフルチャージ後にパスをそのまま手放し、空いた左手を銃剣の銃身に当てて左足を一歩前に踏み出す。

バックルから走る火花の影響で刃の上にある円筒形の銃口に蒼と赤が混じった光の砲弾が形成された。



≪「ファイヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」≫



声と共に引き金を引くと、砲弾は蒼と赤の螺旋を描く奔流へと変わる。

バレーボール大の太さのそれは王様の胸元に命中し、大きく吹き飛ばす。



「なぜ……だ」



声を上げながら空高く舞い上がり……そして胸元を奔流に貫かれる。



「なぜ王が……破れねばならぬのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



断末魔をあげて空の中で王様は爆発。赤く大きな爆煙が青い空を焦がす勢いで広がっていく。

僕は刃を下ろし、右薙に振るいながらその爆発に背を向けた。



「……やったな」



声をかけてきた翔太郎さんの方を見ると、二人の身体が……あれ、粒子化してってる。

僕は慌てて左手でベルトを外しながら、二人に近づく。同時に銃剣だったバカイマジンも、元の姿に変わる。



「あの、それ」

【あのイマジンを倒した事で異変は解消されたからね。前回と同じさ】

「悪いな。あむちゃん達にもよろしく言っといて……あー、そうだ。なぁ、さっきのあれって」

「あ、えっと」



『罪を数えろ』の事なのはすぐに分かったので、僕は右頬を軽くかきながら……苦笑する。



「昔……僕の事を助けてくれた『探偵のおじさん』が言ってたんです」

「そっか。なら納得だ。あー、別に言うのがだめとかじゃないから安心してくれ」

「はい」



話している間に二人の姿は半透明に近い形になって……もうすぐお別れが来る事を、嫌でも感じる。

そんな中二人は変身を解除。黒い葉のような光が木枯らしを巻き起こし、その中から折り重なるように翔太郎さん達が姿を表す。



【あの、ありがと。本当に助かりました】

「また会う事もあるかも知れんから、その時はよろしくなぁ」

「その……すまなかった。お前らにも迷惑、かけちまったよな」

「いいさ、僕達は気にしていない。それじゃあ蒼凪恭文、電王、またどこかで」

「今度はトラブル絡みじゃない事を祈るぜ。そっちの方が楽しいな」





二人はそれぞれ右手と左手を軽く上げて僕達を指差しながら、Wは静かに消えていった。ううん、帰っていった。



僕はなにも言わず、ただ空へ昇っていく光の粒子を見上げながら心の中でお礼を言った。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――なんだ、これは」



さー、恭文さん達と合流しようと思ったら、アクセル――照井竜さんがいきなり粒子化を始めたです。それに驚いてリイン達は全員で足を止めます。



「ちょ、竜くん待ってー!」



あ、所長がこっちに走って来て……こっちも粒子化してるですか。これ、どういう事ですか?



「所長、これは」

「あ、えっと……なんかもう終わったみたい。以前みんなと会った時もこんな感じで戻ってってー」

「そうなのか。なら左達も」



アクセルは納得した様子でバックルからメモリを抜いて変身を解除。

元の赤いジャケットの男の人に戻るです。それで所長さんは、そんな旦那さんの腕にしっかりと絡みつきました。



「すまない。大した挨拶も出来ずに帰る事になりそうだ。ティアナちゃん達にはよろしく言っておいてくれ」

「はい、必ず」

「それじゃあ、またねー。あ、でも今度は事」





言葉の途中なのにそのまま二人は完全に粒子化して、空へ昇っていきます。リイン達はその光を見上げ、二人を見送ります。



その間にも周囲の壊れたものがどんどん修復されていって……壊れた時間が、少しずつ元に戻っていきます。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――本当にすまなかったっ!」



デンライナーに戻って一息ついてると、カブトムシイマジンが廊下に頭――いや、角を摺りつけて僕達に土下座してきた。

その様子にあむもモモタロスさん達も全員が面食らって、マジマジとカブトムシイマジンを見る。



「オレは偉そうな事言いながら、自分の生命を賭ける覚悟がなかったっ!
それでお前達やコイツにも迷惑をかけたっ! 本当にすまないっ!」

「いや、まぁ……あたし達は反省してるならいいんだけど。ねぇ、みんな」

「そうね。恭文も無事だったし、イマジンも倒せたし……結果論だけど一応問題はないわよね」

「いや、もう……本当にすまないっ!」



あのねみんな……いちいち僕の方見ないでもらえるかな。僕は特別大した事はしてないんだけど。



「ほらほらー、謝り方が足りないよー。もっと頭をすりつけてー♪」

「ちょ、おまやめ……角っ! 角折れるっ!」

「いっそ折っちまえばいいんじゃねぇのかー? てーか邪魔くせぇよ」

「踏むなっ! お前テコの原理って……痛い痛い痛いっ!」



まぁ踏まれて楽しそうなドMイマジンはいいとしようか。あー、でもこれで……元旦が見事にパーなんだよなぁ。



「しかし恭文くん……またやってくれましたねぇ」

「へ? オーナー、恭文がやったってなにかな」

「いえ、これだと」



指定席に座るオーナーはそう言いつつ、相変わらず踏みつけられてるドMイマジンの方を見た。



「最初に彼が想定した通りに、派遣イマジンが派遣イマジンの不始末を片づけた事に……一応なるんですよねぇ」

『はぁっ!?』



ドMイマジンは二人を押しのけながらも立ち上がって、近くに居る僕の方を見る。

ううん、全員が僕の方を見て……僕はとりあえず窓の外に目を向けながら、コーヒーを一口。



「同時に派遣イマジンは人と手を取り合って一つの事が出来る証明も立てられた。まぁ僅かな一歩ですがね。
いや、なぜ過去へ降りる直前に契約用のチケットを受け取ったのか疑問だったんですが……このためですか」

「そう言えば……まさか蒼凪君、それで今回の事は問題なしで片づけようとしたんじゃ。
そのために彼の拘束もなしにして、自分からこっちに飛び込むようにして」

「お前、今回はキャラなりも魔法もなしだったのはそういうわけか。変身を解除すればコイツと戦う事が出来なくなるから」

「さぁ。唯世もキセキも新年早々勘違いし過ぎじゃない? そこまでは考えてないし」





あははは、全員の視線が痛いなぁ。まぁその、実を言うと……うん、考えてたわ。

このまま電王が止めてもやっぱ問題かなーと思ったので、証を立てる事が必要と考えた。

それで派遣イマジンの中にもちゃんとした奴が居るって事を証明するのよ。



でもコイツはあのありさまでしょ? あれで倒してもだめなのよ。だってコイツはあの王様と変わってなかったんだから。

だから他の人間にアレとコイツは違うってしっかりと見てもらわなくちゃいけなくって……結構行き当たりばったりだったけどねー。

実際最初はもう僕達だけで対処しようと思ってたし、本決定したのはコイツが刀になってからだよ。



身体乗っ取られるんじゃなくて、これなら出来るんじゃないかーと思ったわけですよ。





「なるほどねぇ。でもアンタ、それで身長伸びたの嬉しくてコイツを跳ね除けなかった罪は消えないわよ?」

「そうだそうだー! やや達すっごい心配したのにー!」

「あ、そうだね。恭文君、今日は僕もモモタロス達と一緒にお泊りさせてもらうからちゃんと」

「それは不可抗力だと何度言ったら分かっていただけますっ!? マジで無理だったのにー!」

「……なぁ」



みんなが理解してくれないので頭を抱えていると、ドMイマジンが僕の方を見ながら声をかけてきた。

なのでそちらをみると……あ、跳ね除けられたモモタロスさんと白い子が右手で頭撫でてる。



「お前、なんでだよ。なんで……オレはお前にあんなに怖い事させようとしたのに。覚悟もなにもなかったのに」

「なに言ってんのよ。覚悟ならもう出来てるじゃないのさ」



あっさりそう言い切ると、なぜかドMイマジンは言葉を失って僕をマジマジと見始めた。



「それに別にお前のためってわけじゃない」



そう続けつつ、両手でお手上げポーズを取る。



「僕の孫の友達が、お前と同じ派遣イマジンなんだよ。ここでシステムが崩れたら、ソイツの時間に繋がらないかも知れない」

≪理由があるとしたら、それだけですよ。この間も散々大騒ぎしたばかりだと言うのに≫

≪なのなの≫

「そう、か」



そこでドMイマジンは僕から顔を背けて、苦い笑いを漏らす。



「へ、なんだよ。それじゃあオレはお前の手の平の上でずっとわたわたしてたって事か?」

「嫌だなぁ、そんなとこ乗せるわけないじゃない。僕はお前の足元でずっと跪いてんのよ。さ、試しに僕の靴を舐めようか」

「お前その悪魔の微笑みやめろっ! どんだけ人を下に見るのが好きなんだっ!?」

「お前、違うぞ。ヤスフミは人に無茶ぶりして困らせるのが好きなんだ」



僕の前にそんな事を言いながら、困った顔でシオン達が出てきた。



「そうだな。究極ドSだか……はむ」

「相手が悪過ぎましたね、二色イマジン」

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! しょうがなかったとは言え、オレはなんて奴と契約結んじまったんだっ!」





ドMイマジン……あぁ、これもだめだな。とにかく名前考えないと。僕は気持ちを固めつつ、頭を抱えたカブトムシを見る。



それでゆっくりコーヒーを飲みつつ、みんなの中に浸透してしまった勘違いをどう払拭していくかについて頭を悩ませていた。



そうこうしている間にもデンライナーは時間の中をひた走り――僕達は元の時間へ戻……あ、そうだ。





「よし、決めた」

「お兄様、なにがでしょうか」

「コイツの名前だよ。よく考えたらそういうのないよね」



試しにカブトムシの方を見ると、何度も頷いて来た。よし、なら問題ないね。



「やっぱり自分と契約したイマジンには名前つけないとね」

「あー、そうだねー。フェイトさんもそっちの白い子のお名前考えてるっぽいしー」

「えへへー、そうなんだよねー。ねね、恭文くんはこの虫臭いのなんてつけるの?」

「虫臭い言うなっ! それ言えばお前だって……なんか貧乏そうだろうがっ!」

「それどういう意味っ!?」



そこでまた肩をぶつけ合って衝突していく二人はそれとして、僕は胸を思いっ切り張って笑う。



「お前は今から――カブタロスだよ」



僕がそう言った瞬間、どうしてか場の空気が凍りついた。それでみんなが僕の事をまじまじと見てくる。



『やっぱりセンス無いしっ!』



それでモモタロスさん達とガーディアン組は平然とそういう事を言って来た。



「おま……それなんだよっ! マジ頼むからやめてくれっ! カブタロスって……センスかけらもねぇだろっ!」

「えー、いいじゃんいいじゃんー。ねー、カブちゃ……ぷぷ」

「テメェも笑ってんじゃねぇっ!」

「そうかな。僕は良い感じだと思うけど」

『えっ!?』



全員の視線が今度はそう言ってくれた良太郎さんの方に向く。

僕もそちらを見て……あぁ、やっぱり良太郎さんは分かってくれるんだと嬉しくなって笑う。



「ですよねぇ。良太郎さんもそう思ってくれます?」

「うん。ぴったりだと思うな。ほら、角の辺りがそういう感じだし」

『……二人そろってセンス無っ!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――玄関のドアを少し不安になりながら開けると、そこには金色の髪の僕の奥さんが居た。



予め連絡していたおかげで待ってくれていたのか……フェイトは僕をいっぱい抱き締めてくれた。





「ただいま、フェイト」

「うん、おかえり……ヤスフミ」

「あー、心配かけちゃってごめんね」





僕はフェイトのふかふかで柔らかい感触に頬を緩めながら、右手で頭を撫でる。フェイトはそれに返すように、抱擁の力を強める。

それからお互いに少し身体を離して、まず僕から……ただいまのキス。フェイトの唇はやっぱり柔らかくて、幸せ。

少しだけ背伸びするのでフェイトを押し倒したりしないように気をつけつつ交わしたキスを終えて、僕は背伸び状態を解除。



次はフェイトが目を閉じて僕に顔を近づけ、おかえりのキス。いつもしている事だけど、ドキドキは変わらない。



それで幸せを感じつつ唇を離して目を開けると……フェイトは涙目で険しい表情をしていた。……あれ、なんかいつもと違う。





「ヤスフミ、お話だから」

「……え?」

「あむからメールもらったよ? パスの力でイマジン跳ね除けられたのに、そうしなかったんだよね。
あの、お話だから。私もみんなも凄く心配してたのに……それで今日はお仕置きだよ?」

「こらー! どうしてお前達は僕を信じてくれないのっ! 違うって言ってるよねー!」

「そういう母さんみたいな言い訳はだめ。と、とにかく……いっぱいお仕置きだから。それで悪い子なヤスフミには反省してもらうの」





そう言いながら抱擁を深くしないでー! ちくしょー、どうしてこうなったー!?



というか、よく考えたら今日って元旦だったよねっ! なのにどうしてー!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そのまま恭文のバカは部屋に連行され……まぁ自業自得だからあたし達は助けない。



とにかくこのまま玄関先で固まってても迷惑になるので、あたし達はシャーリーさんに促されるままに家の中に入る。



それで慣れ親しんだリビングのソファーだったりテーブルに着席して……力を抜く。





「みんな、お疲れ様。結構大変だったみたいだね。特に……なぎ君のバカが」

「あー、いえ。あたし達は今回戦ったりとかなかったですし」

「増援も来てくれたしね。だから特に問題は……いや、あるか」



そう言いながらテーブルに座っているティアナさんは、隣で幸せそうにオレンジジュースを一気飲みしてる白いのを見る。



「……ぷはぁっ! 美味しいー! よし、もう一杯」

「飲むなバカっ! てゆうか、アンタなんでここに居るのっ!?」

「そうじゃんそうじゃんっ! あのカブタロスだってデンライナー乗って戻ってったのにっ!」



相当ヘコんでたけどね。だってあの名前……さすがにないよねー。あぁ、生まれてくる双子はセンスがアリだと嬉しいなぁ。



「えー、だってフェイトちゃんに名前つけてもらわないとだめだしー」

「そう言えば君、まだ名無しだっけ」

「なぎひこ君正解ー。だからだから、もうちょっと待たないとだめなのー。それで……わたしもデンライナーかなー」



どうやらこの騒動、もうちょっとだけ続くらしい。でもフェイトさん、お仕置きってなにやってるんだろ。

あの夫婦はこう、甘ったるいからなぁ。間違いなくろくな事してないとは思うんだけど。



「そういや日奈森」

「なに、空海」

「一之宮の奴、大丈夫なのかよ。街はちゃんと元に戻ったっぽいけど」

「……あ、そう言えば」

「それなら大丈夫だよー」



不安になったあたし達の方を見ながら、ややが自信を持って笑う。



「さっき『新年明けましておめでとー』ってメールをひかるっちやりっかちゃんに送ったから。二人ともちゃんと返事が来たよー」

「そうなの? てゆうかやや、やるじゃん」

「えっへんっ! どうだ、見直したかー!」

「えっへんでちー」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



いつの間にか夕方になっていて、1年最初の日は終わろうとしていた。というか、いつの間に時間が経ったんだ?



僕は確か……うさぎを見ていただけだよな。なのになぜこんなに。あれ、よく思い出せない。



首を傾げつつも立ち上がると、小屋の中のうさぎが耳をぴくぴくさせながら僕を見上げていた。僕は……自然と口元を歪める。





「また来る」





それだけ言って踵を返し、足取りも軽く家に戻る事にする。さて、専務や他の連中も心配しているだろうし……メールだけはしておくか。



あとはややから来たメールにも返事を返しておく事にしよう。そういう付き合いも大事にしなくてはいけない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



風はいつでも色んなものを……運び過ぎだよなぁ。なーんで俺達あっち行ったりこっち行ったりしてんだよ。

しかもアイツらにお別れ言ったと思ったら、普通に事務所の中だしよ。あー、窓から見える風都タワーが懐かしい。

あの時消えてしまった少年やあの街並みが戻っているかどうか。それを確かめる術は今の俺達には……いや、あるか。



きっと元に戻っている。だって俺達は壊れた時間が修復されていく様を、あの世界から離れながらも確かに見ていた。

人の記憶は時間――デンライナーのオーナーが言っていた事は確かだったようだ。

だが少し不思議でもある。俺達……今更だけどタイムスリップしたんだよなぁ。前はそういう実感0だったが。



……いつかまた、あの騒がしくも元気なあの子達に会える時が来るだろうか。いや、きっと会えると俺は信じたい。



だって本来なら守られる可能性が限りなく低かった約束が、今日果たされたんだ。だからいつか……きっと。






「やったー! ちゃんとみんなで戻って来れたー! 竜くん、あたし感激ー♪」





俺がタイプライター打ってる間に亜樹子は嬉しそうに笑いながら、照井の左腕にしがみつく。



でもなぁ……照井、お前も表情緩めるなよっ! お前絶対もうハードボイルドじゃねぇしっ!



一言言ってやろうと思っていると、隣でその様子を見ていたフィリップがいきなり俺の右肩を叩いて来やがった。





「翔太郎、どうやら君のゴールは絶望らしいね」

「お前いきなりなんの話してんだっ!」

「左、結婚とはいいものだぞ。このゴールに絶望はない」

「うっせぇよっ! このキャラ崩壊がっ! 結婚してからひと月も経ってないのに幸せ語るなっ!」



くそ、お前ら俺をバカにしてるだろっ! これでもそれなりに……その憐れむ目はやめろっつーのっ!

俺は息を吐きつつも左手で頭を押さえ、デスクに座りながら大きく息を吐く。



「なぁフィリップ」

「なんだい、翔太郎」

「蒼凪恭文が言ってたのって」

「間違いなく鳴海荘吉だね。ただし、別世界の」

「だよなぁ」





前に俺とフィリップと亜樹子は……照井が来る前のクリスマスか。この街に死者が蘇るって噂が流れた事がある。

その時にディケイドってライダーに関わってな。紆余曲折あって、別の世界のおやっさんに会った事があるんだよ。

いわゆるその……パラレルワールドってやつか? どうやら俺達が跳ばされたあの世界もそれに入るらしい。



そのパラレルワールドの中では、『この世界』では死んでいるおやっさんが生きている事もあるようだ。

だからアイツが子どもの頃――テレビ番組としての俺達が出ていない頃にあの言葉を言った男が居た。

俺はデスクの一番上の引き出しを開けて、その時ディケイドから貰ったスカルのカードを右手で取ってかざしてみる。





「てゆうかお前、検索でその事は」

「実は知っていた。彼が過去に鳴海荘吉に助けられた事もね。だから余計に興味があったんだ」

「なるほどねぇ」



俺は夕日の赤を受けて輝くカードを見ながら笑って……懐かしい気持ちを感じながらもそれを元の場所に戻した。



「じゃああの世界のおやっさんの弟子がアイツって事か?」

「かも知れないね。彼の中には、確かに僕達の知る鳴海荘吉の姿があった。
僕達とは受け継ぎ方や在り方は違うだろうけど、それでも」

「だよな」



ただ真似てるって感じじゃなかったんだ。アイツはアイツなりに……背負って突っ張ってるものがあるのはよく分かった。

でもそう考えるとちょっと残念だよな。もしかしたらおやっさんの事とか……いや、別世界だからそれも違うか。



「なにより」

「なんだ?」



窓の外で回る風都タワーの風車からフィリップの方に視線を移すと、フィリップの奴は……にやにやと笑っていた。



「君以上にハードボイルドにも見えたし」

「なんだとっ!?」



フィリップは笑いながら立ち上がり、照井達の居る方――事務所の玄関の方へ向かう。

俺は素早く椅子から立ち上がり、逃げるフィリップを追いかける。



「おいフィリップ、お前ちょっと話するかっ! てーか逃げんなっ!」

「だが断る」

「「左(翔太郎くん)、絶望がお前のゴールだ」」

「うっせぇよっ!」





――風は色んな事を運んで来る。それは時々面倒でやってられない事もあるが、今回はそうでもないらしい。



いつかまた、星が綺麗に見えるらしいあの街に行ってみたいと思う。あー、あむちゃんが教えてくれたんだよ。



聖夜市は別名星夜市。星が綺麗に見える素敵な街だってな。だから俺も……いや、俺達もその美しさを見てみたい。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



デンライナーから降ろしてもらい、蒼凪恭文達と別れた私は改めて買い物を決行。大分遅くなったが、予定していたものは全て買えた。

それは酒やつまみ関係のものが大半で……先ほどメールした様子では、平然と飲み会を続けているらしい。

まぁ時間改変の記憶は特異点と呼ばれる存在か、デンライナーに乗りそれに関わったもの以外は修正されるようだしな。



私は一人納得しつつ玄関のドアを開け、両手いっぱいの袋を持ったまま家の中へ上がる。





『ただいま戻った』

「――あー、BY遅いよっ! 早く、こっちこっちっ!」

「ちょっと悠、アンタちゃんと話聞きなさいよっ! もうね、歌唄が」

『……大変そうだな。すぐに予定していた行動に移る』





足を進めながら、こういう時間も悪くない事を実感していた。本当におかしいと思うのだがな。



私は人形のはずなのに……変化してきているのだろうか。例え作られた存在である私でも、少しずつだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヤスフミにしっかりお説教と『お仕置き』をしたから、私のお肌はとってもつやつや。ヤスフミは顔が赤くて疲れた感じ。

そんな私達をみんなが呆れた顔で見ていたけど、私は気にせずにリビングに腰を落として……改めてあの子に向き合う。

時刻はもう6時。みんなもヤスフミとティアナとディードリインがそれぞれ家まで送っていて、家の中には私とあの子とシャーリーの三人だけ。



そんな中あの子はハミングしながら私の事を見ていて、その可愛らしい仕草に表情が緩んじゃう。





「それであの、あなたの名前だけど」

「うんうんっ! あー、よかったー! 忘れてなかったんだー!」

「あははは、さすがにそれはないよ。一度避難している間も考えてたんだ。
あとヤスフミからあなたがどういう動き方したのかとかも聞いて」

「あ、エッチしてただけじゃないんだー」

「違うよっ!? あの、なに勘違いしてるのかなっ! あれはお仕置きだからっ!」



た、確かにその……でも違うのっ! あれはいけない子のヤスフミをいじめて矯正するためなんだからっ!

特に今回は不安だったし……うん、いっぱいお仕置きしただけだよっ!? それだけだからっ!



「ねぇあなた、そこはツッコまないであげて? 本人達ほんと自覚なくて」

「シャーリーも勘違いしてるからっ! ……と、とにかくあなたの名前は」



右拳を口元に当てて咳払いをする。若干顔が熱くなりつつも私は……改めて目の前の白い子を見る。



「シルフィーなんてどうかな」

「シルフィー?」

「うん。あなたすっごく動きが速いって聞いたから……ちょっとネットでも調べて、それっぽい名前を見つけたの」



えっと、風を意味する『シルフ』を元にした造語なんだ。車の名前とかでも使われているの。

すっごく足が速いっていうから、そこかなぁと……うん、安直って言わないで?



「どうかな。もしだめなようならまた名前考えるけど」

「シルフィー……シルフィーシルフィーシルフィーシルフィー」



目の前の子は腕を組んでうーんうーんと唸るけど、すぐに私の方を見て右手でサムズアップしてきた。



「うん、これがいいっ! てゆうか、可愛くて響きも綺麗でおっきにいりー♪」

「ならよかった。じゃあシルフィー……よろしくね」

「うん、よろしくー♪」



嬉しそうにピースサインしてくるシルフィーを見て、一安心。というかその、よかった。

イマジンと知らずに契約結んでたとは思わなかったから、本当にびっくりして……良い子そうだし安心だよ。



「……あ、それでね」

「なにかな」

「わたし、このままデンライナーに乗ってようと思うんだー」



シルフィーはその言葉に驚いて目を見開いた私とシャーリーの方を見ながら笑う。



「恭文くんがパスをわたしとも共用にしてくれたから、このまま乗ってても問題ないんだってー」

「でもあの、契約」

「うーん、別にいいやー。契約成立させちゃったらシャーリーちゃんとかも不安だろうし」



シャーリーが右手で胸を押さえて苦しげにするけど、それは気にせずにシルフィーは立ち上がる。



「それにそれに」



シルフィーはそのまま私の後ろに回り込んで、優しく抱き締めてくれた。その感触が温かくて……なんだか心地いい。



「こっちに居る方がフェイトちゃんと距離近いから嬉しいしー。寂しくないしー。なにかあったらすぐに助けに行けるしー」

「そっか。シルフィー、本当にいいの?」

「いいよいいよー。まだ契約は成立してないーって事にしちゃえば問題ナッシング。だからフェイトちゃん、よろしくねー」

「……うん、よろしく」





私は左手で私の身体を抱き締めてくれるシルフィーの腕を撫でた。シルフィーはまた明るく笑う。



2011年1月1日――この街に来て初めての年越しは騒動ばかりで本当に大変だった。だけど、素敵な思い出になりそう。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さすがにいきなりお泊りも迷惑だし……というか、姉さんびっくりさせちゃうから、僕も一旦自分の家に戻る事にした。



まぁフェイトさんがしっかり叱ってくれただろうし、僕はもうなにも言う必要ないか。あとの問題は……モモタロスの肩を揉んでるカブタロスだよ。





「あー、良い感じー。おい、もっと力入れろ」

「お、おう。こんな感じか?」



カブタロスはそこで左手を肩から離して、今度は肘を当ててグリグリする。



「おー、気持ち良いー」

「ねぇ後輩くん、今度は僕の方もお願いね。いや、最近肩こっちゃってさぁ」

「俺も頼むわ。特に首の辺りを重点的にな」

「あ、僕も僕もー」

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ちょっと待てっ! まずこっち終わってからだろっ!? てーか後輩くんってなんだよっ!」



現在カブタロス、みんなからいいように使われています。大変そうだなと、他人事のように思ったりして。



「それでオーナー、カブタロスは」



隣に座るハナさんがオーナーの方を見てそんな事を言う。僕もそこは気になって、自然と指定席に座るオーナーの方を見る。



「白い子共々しばらくこちらで預かるしかないでしょう。恭文くんの世界には置いていけませんしねぇ」

「ですよね。あんなのがうろちょろしてたら、絶対大騒ぎだし」

「僕の世界でも一応大騒ぎなんだけどね」



いや、多分恭文君の世界よりはマシだと思うんだけど……まぁ定期的に様子見ておこうかな。多分恭文君もやるだろうけど、一応ね。



「よしっ! それならカブタロスちゃんと白い子の歓迎会も兼ねて……新年会のやり直ししちゃいましょー!」

『おー!』





ナオミさんがガッツポーズ込みでそう言うと、食堂車はみんなの喜びの声でいっぱいになった。



僕もハナさんと顔を見合わせて頷き合い、席から立ち上がって歓迎会の準備を手伝う事にした。



僕達はまたいつものように騒いで楽しく一緒の時間を過ごしていく。新しい仲間も含めて……みんなで楽しく。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フェイトにいっぱいお仕置きされて、あむと唯世とりまにもお説教され……どうしてこうなった。マジで違うのにー。



とにかく現在、唯世とりまを家に送って最後に残ったあむの家に向かう途中。空はもうすっかり暗くなって、星空がやっぱり綺麗に見える。





「――とにかく、アンタお父さんになるんだし今日みたいなのアウトだから。てゆうか、身長の事気にし過ぎ」

「だーかーらっ! 違うって言ってるよねっ!」

「嘘じゃんっ! アンタの普段の行動を考えれば疑う余地ないしっ!」

「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」



なのにこのバカは僕を……うぅ、ひどい。新年早々僕がなにしたと? マジで違うのにー。



「でも恭文」

「なにさ。まだ疑いが消えないの?」

「そうじゃなくて……なんでアイツと契約したの?」



左隣を歩くあむは、腕を組みながらも首を傾げる。



「結構行き当たりばったりでああいう形にしたのは分かったけど、なにも契約しなくても。
今日一日アイツのせいでひっちゃかめっちゃかだったのに」

「なによ、また厳しい事言うね。珍しい」

「いや、あたしはもう気にしてないけど……そこを聞いてなかったなーって」



それは傍らに居るキャンディーズやシオン達も同じらしく、僕の事を首を傾げながらも見てる。

その視線を受けて僕は……まず両手を大きく上に伸ばして伸びをする。



「理由は二つかな。一つは長年の夢を叶えてくれたから」

「アンタやっぱりそれかっ!」

「もう一つは……以前の僕に似てた」



あむはそこで怒った顔を収めて、ジッと僕の事を見出した。それでも僕は足を止めずに……輝く星空を見上げる。



「なんかね、他人に思えなかったんだ。まぁ……期間付きの契約ならいいのかなーって」

「……そっか」



どうやらあむもしゅごキャラーズも納得してくれたらしく、表情を崩しながら僕の横をみんなで進んでいく。



「アンタ、やっぱ甘いって。ハーフボイルドでしょ」

「いやいや、僕はハードボイルドだよ。もうがっちがっちだから」

「はいはい。そういう事にしといてあげるよ」





2011年の年明けは中々に刺激的で、一つの約束も果たせて……まずは良い感じ。

あー、そう言えばあのおみくじも結構良い感じだったんだっけ。僕はコートの左ポケットに手を伸ばす。

そうして取り出したのは、フェイト達と初詣に言った時に手に入れたおみくじ。



大凶ではあるけどそれは……僕もさっきフェイトと見て気づいたんだ。ここ、家族運が良好って書いてるの。

やっぱり今年は良い感じだと思いつつ、僕はあむと二人足取りも軽く夜の道を進……あれ、なんか嫌な予感がする。

僕は胸の中に走った悪寒に従い足を停めて周囲を見渡すと、あむ達が僕の方を見て怪訝な顔を向けた。





「恭文、どうした?」

「いや、なんか嫌な予感が走って」

「嫌な予……いやいや、それありえないじゃんっ! だってもう事件解決してるしっ!」

「日奈森さん……すっかり一般人じゃなくなりましたね。これだけで納得するなんて」

「シオン、言わないで。あむちゃんだって頑張っているの」



というかあの、僕達が来た方からとたとたと足音が聴こえてくるんですけど。僕達は自然とそちらに視線を向けた。

すると近くの曲がり角から凄い勢いで人が出てきて、それは金色のツインテールを揺らしながら僕の方へ突撃してくる。



「恭文ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

「「――やっぱりお前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」



僕は結局その襲撃者の突撃を受け止めた。それは白いコート姿で僕に身体をくっつけると強烈なハグをかましてくる。



「明けましておめでとうっ! あ、それとアンタ怪我はないわよねっ! てゆうか、なにやってんのよっ!
私が身長の事なんて気にする女に見えるっ!? というわけだから、とっととキスしなさいっ!」

「話の出発点と経過と決着点が全ておかしいから黙れっ! 繋がり0でしょうがっ!」

「そうじゃんそうじゃんっ! 歌唄、アンタマジいきなり過ぎだからっ!」



もう言うまでもなくここに居るのは……歌唄です。もう感じた悪寒がいつぞやのアレそっくりだったから……うん、分かってた。



「エル、イル、明けましておめでとう。あ、餅を食べるか?」

「明けましておめでとうなのですっ! あ、お餅ありがとうです」

「ありがとなー。それであけおめー。……でもお前ら、新年早々スゲー事に巻き込まれてんな」

「いや、なんでその事知ってんだよ。オレらお前達に連絡してないよな?」

「唯世からメールもらったんだよ。アイツ心配性だから、アタシ達や歌唄まで消えてるんじゃないかって思ったらしい」



あぁ、それでか。それで僕は今ハグされてんだぁ。それもすっごい強烈に……首極まる寸前だっつーの。

よし、唯世には年明けの訓練でちょっと厳しくするか。うん、この状況を呼び込んだ元凶だし当然だよね。



「てゆうかすぐに離れろっ! アンタアイドルなんだから、こんな事してたら大騒ぎになるじゃんっ!」

「あむ、アンタ空気読んでくれる? 大人の時間に子どもは邪魔なの」

「アンタが空気読めっ!」

「それと大丈夫よ。私この街で暮らして長いけど、そういうすっぱ抜きされた事なんて一度もないし。補正力が働くんだから」

「だからなにそれっ! アンタ言ってる事マジイミフ……目を瞑るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



とりあえず目瞑って僕に唇突き出して来てる歌唄にアイアンクローをかまして、なんとか遠ざける。



「恭文……私の事、飽きたの?」

「違うからっ! お願いだからマジで自重しようねっ!? よし、とりあえず歩こうっ! 僕もあむ送らなくちゃいけないしっ!」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――その後、あむとラン達を家に送って……あははは、今度は歌唄を家まで送るはめになったよ。



なので送ったよ。うん、僕の家までね。なんか僕の家に泊まるつもりらしい。





「うん、この数の子美味しいわね」

「この栗きんとんとごまめも良い感じだぞー」

「さすがは料理上手なフェイトさんと恭文さんの家なのですっ! 料理が充実なのですっ!」



コート脱いで白のシャツとジーパン姿で、僕達が準備してたおせち食ってるし。てーか僕達も食べてるけどさぁ。



「え、えっと……歌唄さん」

「なによ、リイン。というかフェイトさん達もなんでそんな微妙な顔で私を見るの?」

「いや、当たり前ですよねっ! 実家の方に戻らなくていいですかっ!? 普通年越しってそうするんじゃっ!」

「リイン、それ説得力ないわよ。あなただって実家ここじゃないわよね」

「リインは既に恭文さんに嫁いでるから、問題ないのです♪」



あははは、お願いだから年齢鑑みてくれます? あのね、今は違うの。今は婚約者レベルなお話なのよ? まだ嫁いでないから。



「心配しなくても、実家へは明日戻る予定よ。三条さんが顔見せしとけってうるさいのよ」

「いや、普通うるさくなると思うんだけど。私だって今日実家に里帰りする予定だったし」

「私も一応、チンク姉様達に顔を見せに行く予定だったので。まぁ今日ではありませんが」



うん、シャーリーとディードもそれなりに予定はあったのよ。まぁ僕とフェイトとティアナはそういうの0だけどさぁ。

がつがつとおせちに食らいつく歌唄に負けないように、僕達もせっせと箸と口を動かしながらも……なんでいの一番にここに来るのか疑問だったり。



「なー歌唄ー、やっぱここに住もうぜー? ほらー、家賃とかも協力してさー」

「それでご飯を食べるのですっ! 自宅でちゃんと作られたご飯を……うぅ」



エルとイルが口元を抑え涙を流すので、シオン達が優しくその背中を撫でて……あぁ、やっぱりなんだ。

歌唄の料理スキルが低いから、こういうの飢えてたんだなぁ。なんか僕まで涙出そうだし。



「そうもいかないわよ。恭文やフェイトさん達にも迷惑かけるし、三条さんとも相談しなきゃいけないし、なにより安全上の」



歌唄は僕特製のシワひとつない黒豆を箸で綺麗に掴みながら固まり、まじまじとうちのメンバーを見る。



「……とりあえず安全上は問題なさそうね」

「あはは……それは否定出来ないかも」



フェイトがなぜか僕とディードを見ながら苦笑していた。



「私はともかく、ヤスフミやディードは素の戦闘能力も高いし。でも、実家には戻らないの?」

「あ、そう言えばそうよね。アンタのとこの家の問題は大半片づいてるわけだし」

「それ……なのよねぇ。まぁその、どっちにしても引越しは考えてるんだ」



歌唄はつまんだままの黒豆を口に放り投げ、しっかりと咀嚼。



「母さんも一人だと寂しくなるだろうし」

「まぁ……え、ちょっと待って。歌唄、確か奏子さんのとこには猫男居たよね」

「そうだよ。幾斗君は実家暮らしだし」

「今はね。まぁあれよ、いずれバレる事だから話しちゃうと」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』



あたし達が家に戻って早々、こんな叫び声をあげたのは無理もない。だって……ベッドの中にまた野良猫が入り込んでたんだから。

ソイツは髪と同じ色のロングシャツにジーンズ姿であたしのベッドの中に入り込み、不敵に笑いながらこっちを見ていた。



「イ、イ……イクトッ! アンタなにしてるっ!?」

「なにって……寝てるんだが。見て分からないか?」

「そうにゃー。いやぁ、このベッド良いベッドだにゃー。ふかふかで柔らかくて」

「分かるわけないしっ! アンタうちの人間じゃないよねっ! あとヨルもヨルで堪能するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



いや、確かに少し前は泊め……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あたしの黒歴史がまた疼くー!



「あむちゃーん」



あ、ヤバいっ! ドアの前から声聴こえて……あの時のバカの再来っ!?

あたしはイクトの左手を掴んで一気にベッドから起き上がらせて、クローゼットの中へ。



「実は言い忘れた事があって」



クローゼットの中へ押し込む前に、部屋のドアが開いてママが入って来ちゃいました。

あ、あははは……どうしよ。またイクト連れ込んだとか思われたらどうしよ。てゆうか、コイツ、マジ懲りてないし。



「あー、もう必要ないみたいね」

「え?」



でもあたしの予想に反して、ママは表情を緩めて申し訳無さげに手を合わせた。



「ごめんねー。実は幾斗君があむちゃんの部屋で待ってるって言い忘れちゃって」

「そのすっごい大事な事言い忘れないでもらえますっ!? あたしマジビックリしたんですけどっ!」



ママにツッコみながらも改めてイクトの方を見ると、イクトはあたしに対して呆れてるような視線を向けてた。



「さすがに黙って侵入とかはねぇよ。お前の母さんの信頼を裏切りたくないからな」

「そういう事よ。もう丁寧に挨拶してくれた上に、この間のお詫びまでしてくれてびっくりしちゃったんだから。……まぁ、パパはちょっとね」



あー、そっかぁ。なんか帰って来た時にパパがあたしの事見て泣いてたのは、それが理由かぁ。

あたしはてっきり恭文が居るせいだと思ってたんだけど、そうじゃなかったわけですか。



「あー、今お茶を」

「いえ、そのかわり……ちょっとあむを借りてもいいですか? 時間もちょっと遅いですし、すぐに帰しますんで」

「あ、問題ないわよ。まぁここじゃあパパもうるさいし……でも早めにね」

「はい、ありがとうございます」



ママはそのままあたしに手を振りながら部屋の外に出た。あたしはイクトと二人だけになって……あ、マズい。

慌ててずっと掴みっ放しだったイクトの手を離した。そうしたらイクトはそんなあたしを見て、いつもみたいにいたずらっぽく笑う。



「別にずっと手繋いでてもいいんだぞ?」

「うっさいしっ! そんな必要どこにもないじゃんっ!」

「あぁ、照れてるんだな」

「照れてないからっ!」



イクトはあたしを子ども扱いするみたいに頭を撫でてきて……て、てゆうかどうしたんだろ。

落ち着け、あたし。なんか無駄にドキドキする必要ないし。顔赤くする必要ないし。



「そ、それで用件ってなにかな。あ、明けましておめでとう」

「……お前、唐突過ぎ」

「しょうがないじゃん。忘れてたんだし」



あたしは更に赤くなる顔を見られたくなくて、腕を組みながらそっぽを向く。



「まぁいいや。とりあえず……明けましておめでとう。それでな、あむ」

「なにかな」

「こっち向いてくれ」



イクトの声のトーンが落ちた。それは真剣な時のイクトの喋り声で……あたしは自然とイクトの方をまた見てた。

イクトは切れ長な瞳であたしの事をジッと見ていて、その瞳に見られてるだけでまた……ドキドキしてくる。



「じゃ、パパっと出かけるか」

「出かけるって、どこに?」

「すぐ分かる」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それであたし達がやって来たのは……あの遊園地だった。イクトはまた勝手に入り込んで、スイッチを入れる。

すると暗かった遊園地はまた光を取り戻して、夜の闇の中で強く輝き始めた。

その光景を見ていると自然と胸が高鳴って、後ろで笑うイクトの事もいつもより素直に見れて……なんか不思議。




でもね、その不思議より前にあたしはツッコみたいところがあるんだ。なので振り向いて後ろのイクトを睨みつける。





「イクト、これなにっ!?」

「なにって、メリーゴーランドだろうが」

「ねぇイクト、アンタが歌唄と兄妹なのはよーく分かったっ!
でもお願いだから察してっ!? こっちの疑問点は凄い分かりやすいとこだからっ!」



現在あたしはメリーゴーランドの馬に乗っている。ただし、イクトと一緒にだよ。

当然狭いし身体くっついて暑苦しいし……なにこれ? なんか平然と乗って来たしさ。



「いや、しょうがないだろ。コーヒーカップは狭いんだから」

「そういう問題じゃないからっ! てゆうか、こっちの方が狭いしっ!」

「まぁいいじゃねぇか。ちょっと王子っぽくね?」



あたしを後ろから抱き抱えるように乗っているイクトは……耳元で、囁くなぁ。



「あ、俺王子様キャラじゃねぇか」

「ちょ、くっつき過ぎだからっ! このバカっ!」



さすがにこの体勢はヤバいと思って、イクトとなんとか距離を離そうと身体をよじる。



「あむちゃん……すっかりイクトのペースに」

「あいかわらず押しに弱いよね」

「翻弄されまくりですぅ」

「でも、そんなあむちゃんも魅力的だと思うわ。むしろギャップ萌えよ」



アンタ達も助けてよっ! 主にこのナチュラルにセクハラしてくるバカを排除する方向でさっ!



「こら、暴れるな」



それでも身体を捩っていると、あたしの視界が一気に左に倒れた。でもその視界が水平になったところで、動きが止まった。

驚きながら視線を上の方に向けると、イクトがあたしの事右手で抱きかかえて……てゆうかその、腕が腰に回ってる。



「ほーら、言わんこっちゃない。全く、世話のかかるお姫様だぜ」





そこでようやくあたしが馬から落ちそうになったのを、イクトに助けられた事が分かった。



で、でもイクトとの距離が近くて……あたし顔絶対変だし。あの、おかしくなってるし。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――つ、つぎこれ?」

「あぁ。時間ないし手早く済ませないとな」



ドキドキしながらもメリーゴーランドから降りてやって来たのは……お化け屋敷。

そう言えばなぎひこがここの入り口に突っ込んで怪我したっけなぁ。今思うとちょっと懐かしいかも。



「なんだ、怖いのか」

「はぁっ!? ば……ばかじゃんっ! だいたい、脅かす人が居ないお化け屋敷なんてただの屋敷だしっ!」

「あむちゃん、足ががくがく震えてますぅ」

「震えてないしっ!」

「あむ、お前分かってないな。誰も居ないのになんか出たら……逆に怖いよな





そこであたしは顔を青冷め、1学期にやったお化け屋敷調査の事を思い出した。

そ、そう言えばあの時もこう……結局しゅごキャラの仕業だったけどめちゃくちゃ怖かった。

あの時の恐怖を思い出してあたしはイクトを見上げて必死に首を横に振る。もう涙流れてるかも。



するとイクトは優しく笑ってあたしの手を掴んで……引きずり始めた。





「まぁ行けば分かるよな」

「あ、あ……あぁ」



そもままあたしはイクトのペースに巻き込まれるままにお化け屋敷に突入。とにかくその、目を閉じてなにも見ないようにする。

それでも中を歩けるのは、イクトが手を引いてくれているから。それが嬉しくて……いやいや、これ違うしっ!



「あの、真っ暗なんですけどっ! なんか気配0なんですけどっ!」

「当たり前だろ。お前目瞑ってるし」

「普通瞑るじゃんっ! 開けても見えないし瞑るじゃんっ!」

「お前、それ絶対お化け屋敷の楽しみ方間違えてるから」



呆れた様子でそう言ってもイクトは、絶対にあたしの手を離さない。ずっと……ずっと強く握り締めてくれる。



「それに平気だろ。俺が居るしな」





前から届けられたその言葉が嬉しくて、胸の中が温かくて……あたしは自然と目を開けてた。



イクトはあたしの手を引きながら、目を瞑って歩く速度が遅いあたしがコケたりしないようにゆっくり歩いてた。



あたし、安心してる。ほっとしてる。もう目を瞑ってなくても怖くない。イクトの背中があれば。





ギニャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!





その声に身体が震えてあたしは、イクトの手を引いて遊園地中に響くような叫びをあげながら全力疾走。



今度はあたしがイクトを引きずる形で……でもあたし達は、絶対に手を離したりしない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ありゃ、ちょっとやり過ぎたかにゃ?」

「ううん、大丈夫だよ。あれくらいはやっても……でもあむちゃん」

「やっぱり相当怖がりよね」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



イクトと手を繋いで、息を切らしながらお化け屋敷を出て……あたし達はそのまま出口を目指す。



イクトはママに言ってた通り、すぐにあたしを返してくれるみたい。あたしはイクトに手を引かれながら、自然と外を目指す。





「ねぇイクト」

「なんだ」

「ここの取り壊し、決まったみたい」

「だな」



イースターとの決戦が終わってからかな。そういう話を聞いたんだ。春頃に取り壊されるって。



「でもそれ、正確じゃないぞ」

「え?」

「ここ、イースターが買い取ったんだよ。専務さんから聞いた。なんでもあの元御前のガキの方針だってよ」

「ひかる君のっ!?」



イクトは足を停めてその場で振り返り、まだ光に満ち溢れている遊園地を見渡す。あたしもそれに倣う。



「だから元々の設備も点検した上で再利用出来るようなら再利用して……まぁリニューアルだな。
ここはどこぞのテーマパークみたいにデカくないが、俺や唯世みたいにこの街の人間なら近所って事で誰でも来れるしな。
そういう身近で、休日に気軽に遊べる遊園地にするんだとよ。それも罪滅ぼしの一つだそうだ」

「……そっか。なら……ちょっと安心かも」

「でも、今の形は消える」



そう言ったイクトの顔を見上げると、イクトは寂しそうな目をして光達を見つめていた。



「そういうもんだろ? 設備点検に引っかかれば、お前が乗ったメリーゴーランドやコーヒーカップも取り壊しだ」

「そう……なっちゃうよね」



それでもし事故とかが起きたら、みんなの楽しい時間が壊れちゃうもの。だからそれは……絶対に必要。

必要な変化ではあるけど、やっぱりどこか納得が出来ない。あたしは自然と俯いていた。



「でも、ちょっと寂しいね。ここでは色んな事があったから」

「あぁ。けど俺は、忘れねぇよ」



イクトの手の力が強まったのを感じて、あたしはまたイクトを見上げてた。



「お前とここで過ごした時間も、お前と一緒に見たこの景色も……絶対忘れねぇよ」





あたしはなにも言えなくて、また温かくなった胸の中の感触がなんだか恥ずかしくて……でもイクトをずっと見ていた。

イクトの手を握り返して『あたしも同じ』とサインを送りながら、あたしはイクトの事をずっと見ていた。

でも……うん、そうだ。色んな事が変わっても、この手の温かさはきっと同じ。だったらあたしは、大丈夫。



イクトが隣に居てくれるなら……でもイクトの手はするりとあたしの手から抜け落ちるように離れた。



それでイクトは俯いて、驚くあたしから僅かに目を背ける。





「あむ、聞いてくれ」

「なに、かな」



その硬い声に嫌な予感を感じる。聞きたくないって思ってもイクトは……あたしの方へ身体ごと向き直った。



「まだ本決まりじゃないし調整中の話なんだが」

「……うん」

「俺は……お前とはもう会えない」





一瞬、なにを言っているのか分からなかった。だからあたしはきっと、イクトから見ると物凄くマヌケな顔をしていたと思う。

でもイクトも、その隣りに居るヨルも真剣な顔をしていて……嘘なんかじゃない事がすぐに分かった。

2011年の1月1日――新年の始まりは変化の始まり。別れと出会いと変わっていく季節は、もうあたし達の目の前に来ていた。



それでもこの変化は受け入れたくない。あたしは走る胸の痛みに耐えるために、両手を強く握り締めた。





(第136話へ続く)




















あとがき



恭文「はい、というわけで無事に終了な超・電王編。そして……ついに始まる怒涛の変化ラッシュ」

フェイト「というか、今までの話の締めくくりに入る感じだよね。あ、フェイト・T・蒼凪です」

恭文「蒼凪恭文です。いやぁ、カブタロスがついに本気出したよ。なお、あの銃剣形態はカブトライガンです」

フェイト「重量武装を武器化やその解除を用いて隙なく使う戦闘スタイルなんだよね」

恭文「うん。ちなみに最初の斬るのが『カブトライザン』。次の砲撃が『カブトストリーム』だよ」



(適当っ!?)



恭文「とにかく今回でカブタロスとシルフィーという拍手世界の住人が本編進出してきて……でもデンライナーで待機という」

フェイト「まぁその、しょうがないよね。私達の世界だと……だし。とにかくこれで超・電王編は終了で、次は?」

恭文「次は本線に戻って……てゆうか、りっかがまたなにかやらかしてくれるはず」

フェイト「りっかちゃんそういう立ち位置なのっ!? と、とにかく本日はここまで。お相手はフェイト・T・蒼凪と」

恭文「蒼凪恭文でした。それじゃあみんな、またねー」





(さて、ここからはまたまたほのぼの……じゃないかも。だってラストがあれだし。
本日のED:月詠幾斗(CV:中村悠一)『月夜のマリオネット』)










恭文「え、猫男居なくなるの? ……あー、キャラクター増えたからリストラ」

フェイト「ヤスフミ、それ違うよっ! どうしていきなりそういう話になるのかなっ!」

恭文「いや、だってエリオとかキャロとかもリストラされてるじゃないのさ。とまとだけの話じゃなくて、VividやForceで」

フェイト「確かにそういう側面はあるけど、この場合は絶対違うからっ! 絶対そうじゃない……よね?」

歌唄「当然よ。あの一件が終わってからね、母さんと相談してたらしいのよ。
学校の方の問題もあるから、そこは念入りに。あと恭文、リストラは勘違いよ。
現にイクトが居なくてもこの話問題なく進んでたじゃないのよ。リストラする意味が」

フェイト「歌唄、そこは乗っかるところじゃないよっ! そこはツッコむところっ! ツッコんでヤスフミにお仕置きするところだからっ!」

ティアナ「フェイトさんがツッコんでる。また珍しいなぁ」(そう言いつつ栗きんとんを一口)





(おしまい)




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あきゅろす。
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