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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第132話 『EPISODE AIZEN/暴走し気味なジャスティス・ビートル』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー♪ さてさて、今回のお話は?」

ミキ「超・電王編の続きだよ。聖夜市に降りて来た二体のイマジン。そして」

スゥ「色んなキャラが登場で……凄い事になっていきますぅ」



(立ち上がる画面に映るのは、デカいウサギや黒いマントや白い……え?)



ラン「それじゃあ今日も頑張っていこー。というかというか、恭文どこー!?」

ミキ「ドキドキな超・電王編、今日も全力で」

ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――おいおいオーナーのおっさん、消滅ってどういう事だっ!」

「彼らがターミナルで実体化出来るのは、あくまでも仮初めのイメージがあるからです。
現実世界に出れば、以前のあなた方のように実体を保つ事は不可能になる」



以前モモタロス達は、僕が願いを言わなかったせいで半契約状態になってた。その状態だと時間の中はともかく普通に外は歩けない。

それが出来るのは、イマジンと契約を結んで実体がしっかり持ててから。オーナーはその事を言っている。



「しかもその立ち位置は、以前のモモタロスくん達よりも遙かに危うい。
まぁ依代とする契約者が居ないのですから、当然ですが。
――記憶こそが時間。自らの時間を持たないのであれば」



オーナーは立ち上がって、厳しい表情で倒れた旗をジッと見た。



「ただ静かに時の流れの中に消え去るのみです」

「……なるほどね。そうならないように、ターミナルで契約用のチケットを貰ってこようと」

「そういう事です。これに関してはターミナルに行かなければだめなんですよ。ですが、間に合うかどうかは微妙ですねぇ」



オーナーはそのまま席から離れて、ステッキをつきながら車両の中心を歩く。



「おそらくはもう、始まっているはずですから」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



しつこくオレを追い回す兵隊共を蹴り飛ばしていく中で、突然あの気持ちの悪い痛みが走った。

それによってオレはうつ伏せに倒れそうになるが、その前に右足を踏み出してなんとか耐える。

だが動きが止まったところに兵隊の一人が右薙に振るった槍が腹に入って、そのまま吹き飛ばされる。



胸元を切っ先で浅く切られる痛みとコンクリの地面に叩きつけられて転がる痛みが同時に襲って来るが、それは気にならねぇ。



なんでかって言われたら……そんなの、オレの服の袖口から砂が零れる度に走る痛みの方がずっと辛いからだよ。





「くそ……まだ、だろうが」



立ち上がろうとするが、更に砂が零れてオレは左膝をついてします。そこに向かって連中の槍が一斉に襲って来る。

オレが覚悟決めて瞳を閉じた瞬間、目の前から鈍い衝撃音が響いた。



『ブラック――キャノン』



それで目を開くと、オレの目の前のコンクリ地面にデカい穴が空いていた。

そしてそこに黒いマントをなびかせながらオレと兵隊の間に入り込むのが居た。てーか背中が今身体借りてるコイツに似てる。



『鉄輝』



そしてソイツは槍を引いた兵隊達に突撃し、左に振りかぶっていた黒く輝く刃を右薙に打ち込み。



『一閃っ!』



兵隊四人を胴体から槍ごと一刀両断にしやがった。

それにより兵隊達は爆発。両断された槍も一瞬で粒子に還って消滅した。



『新年の買出しに来てみれば……これは何事だ』

≪BYちゃんっ!≫

『その声、蒼凪恭文のパートナーか』





だが残ってた兵隊がオレ達の右側から一斉に襲いかかってくる。そんな兵隊たちに突撃する白くてデカいウサギが現れた。



ソイツは集団の左横からタックルして、オレ達に向かって踏み込んでいた兵隊を全員吹き飛ばしていた。



てーかソイツの背中に、ピンク色でウサギ耳のついた赤ちゃん服着た奴が居た。





「恭文、こてつちゃんもジガンちゃんもお待たせ……って、なんでBYが居るのー!」

『ウサっ!』

≪ややちゃんっ!≫

≪あなた、いくらなんでも遅いですよ≫





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『話は後だ。結木やや、まだ来るぞ』

「あ、そこは大丈夫ー。……ディードさんっ!」



ややの声に答える代わりに私はセットアップ状態で踏み込み、左のツインブレイズを右薙に振るう。

すると蒼い刃は一瞬で分割され、赤いエネルギーで繋がれた蛇腹剣へと変化。



「はぁっ!」





それが起き上がっていた連中の胴体に打ち込まれ、鋭い斬撃の後を残す。続けて柄を返して左薙に打ち込む。

すると刃は大きくうねりながらも私の腕の動きに合わせて再び連中に斬撃を刻み込み、その身を砂へと霧散させた。

周囲に敵影は無しなのを確認してから私は素早くツインブレイズを片刃剣状態に戻し、こちらへ来るややの方を見る。



笑顔のややと頷き合ってから遠目で確認した恭文さんの方へ、二人揃って視線を向けた。





「さて、恭文さんの身体を……え」

「あれ……あれあれっ!? 恭文どこかなっ!」

【居なくなってるでちっ!】



その場に残っていたのは私達だけ。恭文さんの姿はどこにも……逃げ、られた。

セットアップを解除しつつやや共々周囲を見渡すけど、やっぱりどこにもそれらしい姿がない。



「えー、それじゃあまた探すのー!? そんなー!」

「……困りましたね」

『お前達待て。だからこれは』

≪困るのはまだ早いのー!≫



聴き慣れた声で私とややは改めて驚きながら周囲を見渡す。それはなぜかここに居てブラックリーゼフォームなBYも同じく。

すると私達が今居る位置から反対車線のガードレールの下に、見慣れたぬいぐるみを見つけた。



「あー! ジガンちゃんだー!」

≪ややちゃーんっ! ディードちゃーんっ!≫





ジガンがこちらに手を振っているのを見て、私達は慌ててジガンに駆け寄る。



それで私がジガンを両手で抱えた上で、ややと顔を見合わせて頷き合ってから急いでこの場を離れた。



BYも自然とついて来るけど……まぁここはいい。もう敵ではないわけだし。





「ジガン、あなたどうして」



歩道を走ってビルとビルの間の脇道に入りながら、腕の中のジガンを見下ろす。



≪あのバカイマジンが慌てて逃げる隙を狙って、こっそり離れてやったの≫

「そうだったんだー。でもでも、それならこてつちゃんは?」

≪お姉様は主様放っておけないって言って、残っちゃったの。
……それよりも二人とも、大変なのっ! 急いでひかる君と連絡を取った方がいいのっ!≫



脇道を走っていた私達はジガンの言葉に驚きながらも足を止める。



「ジガンちゃん、どういう事かな。どうしてそこでひかるっち?」

≪あのあの、ジガンとお姉様はあの兵隊を出したイマジンの契約者っぽい人を見たのっ!≫

「あれは恭文さんの身体を乗っ取ったイマジンとは」

≪違う奴なのっ! それでソイツ……一之宮専務と契約結んでるっぽいのっ!≫

「えぇっ!?」



新年早々騒がしい私達の状況は、更に混乱する事になった。さて、どうしましょう。



『――だから、待て。これはどういう事だ。事情説明を頼みたいのだが』

「「……あ」」










All kids have an egg in my soul


Heart Egg――The invisible I want my



『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第132話 『EPISODE AIZEN/暴走し気味なジャスティス・ビートル』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



やべー。姿変わってたから一瞬分からなかったが、あの赤ちゃん服は時神社に居た奴だし。



とにかくアイツが取り憑いてる契約者の姿は分かった。あとは今までと同じ要領で探せばすぐに見つかるだろ。



それとコイツの知り合い連中、オレの事探してるっぽいな。そっちも気をつけねぇと。





≪あの、あなた本当にいい加減にしてもらえませんか?
この人に怪我させられると、さすがに黙ってられないんですよ≫

「悪いが無理だ。オレはこっちだと実体化出来ないからよ。
アイツ止めるには身体が必要なんだよ。なに、すぐ終わらせるから心配すんな」

≪……なんのためにですか≫

「あ?」



なんか左腕のが居なくなった分、胸元のコイツがやたらとオレに絡んでくる。

なんでそうなるのかが気になりつつも、オレはまた走り回りつつ不敵に笑う。



「そんなの決まってんだろ。アイツが悪党だからだよ。悪党止めるのは正義の味方の仕事だろうが」

≪なるほど。悪党が正義漢ぶってこれですか≫

「んだとっ! そりゃどういう意味だっ!」

≪当然でしょ。これが正義の味方の所業なんて考えるのは、三流だからですよ≫

「あぁもう、うっせぇうっせぇっ! パパっと倒して身体返すんだから問題ないだろっ!
オレは実体化出来ないんだから、誰かしらの身体借りるのは当然なんだよっ!」



苛立ちを振り払うように速度を上げ、オレは自然と笑っていた。



「あぁそうだっ! それでもパパっと止めりゃあ問題ないんだから……ガタガタ抜かしてんじゃねぇっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あむちゃん達の仲間が蒼凪恭文――正確にはそれに取り憑いたイマジンに接触した。

ただそれだけならともかく、なんか厄介な話になってきたっぽいんだよな。

そこについてもフェイトさんの方から連絡があった。まぁ俺やフィリップが居るのには相当驚いてたが。



なので俺は一旦捜索を中断して、フィリップに電話だ。





『――なるほど。その一之宮一臣が別のイマジンと契約していると。
それでその契約内容は、彼の孫に関係している』

「契約内容に関してはまだ『かも知れない』って話だけどな。あむちゃん達はそんな感じがしてるらしい」

『それに繋がる理由があるんだね』





傍らに居るあむちゃんの方を見ると、真剣な目で頷いてた。その瞳から改めてその理由を感じ取る。

なんでもイマジンに願い事を頼む時、大体が自分の力では難しい事やどうにもならない事を頼むそうだ。

そしてそれはやっぱりこれまでの自分――過去に基づく願い事が大半。



俺はその一之宮一臣ってのに会った事はないが、孫の事を願ってしまうだけのなにかがあるって事なんだろう。





「それとどうも蒼凪恭文に取り憑いたのは、ターミナルってとこで暴れたのを追っかけて居なくなった派遣イマジンらしい。
こっちも電王から来た連絡によると、早く確保しないと消滅しちまう危険があるとか」

『それはまた――ではその別のイマジンは、ターミナルで暴れた方。確かハートの王様だったね』

「らしいな」





そこについては俺やあむちゃんの仲間は見てないが、蒼凪恭文のデバイスだっけか?

それが色々教えてくれたから確定っぽい。しかもなんか、胸から兵隊出したとかなんとか……なんだそりゃ。

まぁここはドーパントみたいに特殊な能力を持ってるって考えりゃあ一応納得だ。



ドーパントもメモリによってはかなり妙な力持ってるのが居るしなぁ。ダミーとかオールドとかよ。





『じゃあこの場合は』

「俺達も一之宮一臣を追った方が良いかも知れないな。いや、むしろそっちの方が早い」

『そう。それじゃあ僕は今の話を元にもう一度検索してみる。あー、照井竜にはアキちゃんから連絡してもらうから』

「あぁ、頼むぞフィリップ」



電話をそこで終えてから、俺は傍らでジッと待っていたあむちゃんに視線を向ける。



「えっと、恭文じゃなくて一之宮専務の方を追うの?」

「あぁ。鉢合わせする可能性は高いしな。もちろん蒼凪恭文の方も確保出来るならするさ」

「分かった。でもアイツ……やっぱ運悪過ぎだって」



あむちゃんは困り顔で、両手で頭を抱える。



「普通ならともかく、イマジンに身体取り憑かれた状態でそれなんて」

「だなぁ。しかも年の始めって……こりゃ、厄除けのお守りでも送った方が良いだろ」

「……それ、効果無いんだって」

「もうやってるのかよっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――検索を始めよう」



翔太郎との電話を終えて、アキちゃんに照井竜とティアナ・ランスターの方への連絡をお願いする。

それから僕はもう一度星の本棚に入る。まずは……これかな。



「キーワードは、一之宮一臣」



本棚はいつも通りにせわしなく動いて、消えていく。そうして残った本棚から更に情報を絞り込むために、ワードを追加。



「ハートの王様のイマジン」



再び大量の本棚はせわしなく動いて消えて、残りは15前後とかなり少なくなった。



「最後は……そうだな」



翔太郎とあむちゃんから聞いた話も鑑みると、やはりこれしかないか。僕は軽く右手をあげつつ、最後のワードを追加。



「一之宮ひかる」





そして本棚は三度動いて消えて、同時に本棚に収められていた大量の本も消失。

これは情報の絞り込みであって本当に消失したわけじゃないけど、その末に僕の目の前に残ったのは一つの本棚。

そしてその本棚の中には本が一冊あるだけ。……検索、成功。僕はその本棚に近づいていく。



左手でこげ茶色で分厚い本を手に取り表紙を見ると、そこには大きく英語の大文字が描かれていた。





「HOPE――希望?」





とにかく僕はその本を開いてページを捲って中を見ていく。……なるほど。



確かにこれなら……だがそうするとマズいな。早めに一之宮ひかるを確保する必要がある。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



照井竜があの奥さんから連絡をもらって事情を聞いて、私に説明しながら歩く。当然私もそれについていく。



まぁ大体の事はさっきフェイトさん達から連絡があった時の情報とかぶってるんだけど、改めてね。





「しかし気になる」

「なにがよ」

「その一之宮一臣という人は、孫のひかる君……だったな。彼となにがあったんだ」

「……人のこころの中にはね、たまごがあるのよ」



そのまま説明すると長い話になると思ったので、照井竜の反応は気にせずに歩きながら簡潔に説明する事にした。



「自分の夢や『なりたい自分』が詰まったこころのたまご。一之宮専務はね、孫のこころからそれを追い出したの。
デカい会社のトップやってたんだけど、その後釜にひかるを押し込めようとして赤ん坊の頃から英才教育を施した。
両親も無くして、泣きたい時もあったのに甘えられないで……ひかるは自然と自分の中から、そのたまごを追い出した」

「……なんのためにだ」

「夢なんてくだらなくて、必要がない――無価値なものだと専務は声をあげていたから。あの子に泣く事を許さなかったから。
ただ自分の理想を押しつけて、自分の望み通りに動く事を彼の幸せと騙って……そのためにたくさん人を傷つけた」



私は住宅街の中を歩きながら、少し息を吐いた。



「まぁ、今はもう違うけどね。反省して後悔して死にたくなって、その上で新しく道をやり直そうとしてる。
そういう押しつけで笑えるのが自分一人だけだって気づいて……それでね」

「なるほど。その後悔――心の隙をイマジンにつけ込まれたという事か」

「そうね、隙ね。というか私はこれがマジで事実なら、本気で学習してないんじゃないかと思うわよ。
これじゃあ……バカやってた時となにも変わらないじゃない。ほんとにあのじじい、バカよ」





孫のためにイマジンに願いを叶えてもらう事と、孫のために人を道具にしてエンブリオを探す事――大して違いがあるように思えないのよね。



契約完了前に止めてしっかり説教してやろうと思いつつ私は、照井竜と共に少し陽の傾いた街の中を歩く。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヤスフミは見つかった……んだけど、やや達曰くまた見失ったらしい。二人は相当謝ってたんだけど、ここはしょうがない。

というか、そこで偶然BYと遭遇はびっくりなんだけど。しかも話を聞いたら新年の買出し途中だったらしいし。

結局BYにも事情を説明したら協力してくれる事になった。ここは二階堂先生の安全にも差し障りがあるからって……嘘みたいだね。



それで唯世君となぎひこ君に空海君とりまとリインは、王様イマジンの捜索に当てる。

でもなんというか、よりにもよって一之宮専務に取り憑くなんて……リビングでシャーリー共々頭抱えちゃったよ。

ただ私達支援組が止まっているわけにもいかないので、シャーリー共々ひかる君に連絡を取っている最中。



うん、携帯にかければ大丈夫だよね。でもね……みんながその携帯にかけても繋がらないんだから、しょうがない。





「フェイトさん、ダメです」

「一之宮専務の自宅の方もだめなんだよね」

「はい。そこの番号は月詠家の奏子さんがご存知だったんで」



そこで普通に知っていた事が驚きだよ。あの人、本気で一之宮専務こき使うつもりなのかな。



「こっちもね、イースター社の方に……ほら、九十九さん」

「連絡取れたんですか」

「まぁそこはガーディアンの後光や二階堂先生のツテを使ってね。でもダメだった。
向こうも新年の挨拶のために連絡取りたがってたの。でも、これで確定かな」

「えぇ。少なくとも一之宮専務が失踪状態なのは確かです。それにひかる君も」



リビングにあるソファーに座りながら、右手でお腹を撫でる。というか……うぅ、どうしよう。

いや、冷静になれ。まずヤスフミと専務を探すのは難しい。でも一応の進展ではあるんだ。



「フェイトさん、どうしましょう」

「ここはやっぱりひかる君を探すべきだと思う。あのね、もちろん契約どうこうと関係ない可能性もあるの。
例えば……ほら、ひかる君って石を探してたよね。御前だった時もよく抜けだして河原でーって」

「あぁ、だから連絡が取れない……え、でもそこの辺りって解決してるんじゃ。ほら、隙間を埋めるって」

「それとは関係なく石が――キラキラと光るものが今でも好きなら、そうすると思うな」





私達は自然と一之宮専務の契約がひかる君絡みって考えてるから、現状で連絡が取れないのが凄く不安になる。

というかね、イマジンと契約する人達はやっぱり過去の心残りや今の不安を変えたいという人達が大半だから。

もし今の一之宮専務が叶えたい願いがあるとしたら、やっぱりそれはひかる君の事になるんじゃないかと思っちゃうの。



あの時――初めてイマジンというものに触れて、公園で仲直りしたかった相手と殴り合いをした二人を思い出して表情が険しくなる。





「それに近頃の一之宮専務の様子を知っているのは、やっぱりひかる君。
あむ達は冬休みに入ってから会ってないしね。そこを探るためにも」

「ひかる君の捜索からと。それでもしイマジンの契約がひかる君絡みなら」

「うん。自然とジガンの言うケバいハートの王様イマジンも出てくるし、それを追ってヤスフミに取り憑いてるイマジンも来る」



なので左手でバルディッシュを取り出して、少しお願い。



「バルディッシュ、サーチャー起動させて。それでひかる君を探すよ」

≪Yes Sir≫

「え、でもサーチャーでは」

「シャーリー、イマジンに取り憑かれてなければサーチャーで探せるよ」



シャーリーはそこで少し考えるように視線を上げて、納得したのか私を見て両手で拍手を打った。それで少し恥ずかしげに右手で頭をかく。

……まぁ、しょうがない。もうイマジン関連はサーチャーダメって常識が私達の中に根づいちゃってるし。



「とにかくこれでひかる君を捜索して確保。でもそうなると……話す必要、あるよね」

「状況次第ですけど。あ、サーチャーの方は私で」

「うん、お願いシャーリー」





今日は1月1日――2011年の年明け直後。新年早々うちの旦那様はあいかわらず運が悪いみたい。

もちろんそれで嫌ったり遠ざけたりなんてない。そういうところも含めていっぱい愛して、支えたいって思ってる。

だから今胸の中を占めるのは……ヤスフミ、大丈夫だよね。この子達や私を置いていったりしないよね。



ダメだな、私。妊娠中だからいつもより不安になってる。ヤスフミはちゃんと私のところに帰って来てくれるって分かってるのに。

ううん、それが出来るように私は私の隣を――ヤスフミの帰って来る場所をちゃんと守るの。

だけど不安は拭えなくて、さっきから私は何度も右手でお腹を撫でてしまう。どうしよ、涙出てきた。



ヤスフミ……会いたいよ。このままさよならなんて、嫌だよ。追いかけて、抱き締め……たいよ。





「フェ、フェイトさん……あの、少し休んでた方が」

「……ん」

”――そんなに恭文くんの事が大事? 恭文くんに会いたい?”



うん、大事だよ。だってヤスフミは私の旦那様で大好きで愛する人なんだから。

それでこの子達も含めて一緒に幸せになりたい。それで……私は驚きながら左手で涙を拭い、周囲を見渡す。



「フェイトさん、どうしました?」

「いや、あの……今声が」

「声? いえ、私にはなにも」

”そっかぁ。よーし、それじゃあ”

「――って、フェイトさんっ! それっ!」



シャーリーが驚きながら、私の方を指差す。それで改めてそこを見ると、私の服の袖口から砂が零れ落ちていた。



「こ、これ……えぇっ!?」

わたしがパパっと解決しちゃおー!



砂は私の傍らで人の姿に固まっていく。そうして構築されたのは、白色で全体的に流線的な彫りが印象的な姿。

そんな中胸は私くらいの大きさで、赤い瞳で後頭部から背中にかけてオールバックに流れている金色の髪が綺麗。



「起きたばっかだけど」



その子が反時計回りに一回転すると、後ろにカールしている髪が揺らめく。それでその子は私達に向かってピースサイン。



「わたしは元気ー! ぶいぶいっ!」



私もシャーリーも完全に言葉を失って、もうなにも言えなくなってしまった。というかその……えっと、まずここだよね。



「「――あなた誰っ!?」」

「えっと……あー、名前はまだないなー。あはははー」



その子は右手を後頭部に当てながら胸を張る。



「ね、フェイトちゃん付けてー? なんかこう、ババーンとカッコ良いやつー!」

「笑ってる場合じゃないからっ! というかその、イマジンっ!? でもどうしてフェイトさんにっ!」

「そうだよっ! だってあの……えぇっ!」

「あのね、わたしはずーっとフェイトちゃんの中に居たんだー。
私、ネガタロスっていけすかない奴に手下にされてー」



ネガタロス――2年前のあの時っ!? じゃあこの子、あの時ミッドに来たイマジンの生き残りっ!



「偉そうに契約者探してこーいって言われて、たまたまフェイトちゃん見つけて取り憑いたの。でも」

「でも?」

「なんかアイツの言う事聞くの嫌だったから、そのままフェイトちゃんの中で寝ちゃったんだー。それでついさっき起きたのー」

「ねぇ、さすがに2年近く寝てるのっておかしくないかなっ! というかあの、それじゃあまさか」



ずっと私の中に居たという事はあんな事やこんな事も……ど、どうしよどうしよっ!

ヤスフミだけしか知らないようないけない私の事とかがこの子にバレてたらー!



「あ、大丈夫だよ? フェイトちゃんの中から勝手にフェイトちゃんの事覗き見たりはしてないから。というか、寝てたのにそれは無理だよー」

「そ、そっか。それならまぁ……いいかも」

「フェイトさん、よくないですからっ! もっと気にするべき事がありますよねっ!」



シャーリーはホッと息を吐く私を守るように両腕を回して、警戒の視線をあの子に向ける。



「というかあなた、なんで実体化してるのっ!? フェイトさんは契約なんて結んでないのにっ!」

「むー、その『敵だー』って目はやめてー! というかというか、契約なら結んでるよー!?」

「「……え?」」

「だってフェイトちゃんさっき、恭文くんと子ども達と家族みんなで一緒に幸せになりたいって思ったもん。
その感情が本当に強いから、ずーっと寝てた私も目覚ましちゃったくらいだし」



シャーリーが『そうなんですか?』と視線で聞いて来るので、私は……頷きました。



「じゃ、じゃああなた」

「うん。とにかく今は恭文くんを助ければいいんだよね」

「だからダメですってっ! 契約が成立したらフェイトさん、この子に乗っ取られるんですよっ!?」

「うー、そんな事しないよー。というか、電王と知り合いなフェイトちゃんがそんな事になったら、私倒されちゃうのにー。
シャーリーちゃんはフェイトちゃんが私に乗っ取られて、恭文くんや電王が気づかないと思う?」

「……あ、なるほど」



納得した自分がだめだと思ったのか首を横に振るシャーリーをよそに、もう一度この子の目を見る。

――嘘を言っているようには感じない。まぁその、良太郎さん達に頼る可能性もあるけど……私は一つ賭けに出た。



「ならお願い。でもごめん、私はこの通りだから」



私は右手でお腹をさすりながら、改めてあの子を見る。



「あなたに取り憑いてもらってどうこうは難しくて」

「大丈夫大丈夫ー。というか、そんな事したら契約成立しないもん。だからわたしに」



その子は右手で拳を作って、それで自分の胸をポンと叩いた。



「まっかせなさーい♪ あ、でもでもすぐにここから避難して欲しいんだ。ちょっと危ない事になるかもだし」

「分かった。あの、それで」

「あ、謝るのとかお礼とかいいよいいよー。契約者の願いを叶えるのがイマジンなんだし」

「ううん、そうじゃない」



私は首を横に振って、身体をどうしてか右に傾けるあの子を見て……少し困った顔になる。



「名前……なにがいいかな」

「え、そっちっ!?」

「フェイトさん、そこは今はいいと思うんですけどっ! というか、気にしてたんですかっ!」

「でも名前って大事だよ?」



ヤスフミを見てるとその……ねぇ? ネーミングセンスって大事だなーと。あとは私も名前は……うん、大事だから。



「じゃあそこは後でいいよー。契約成立する前に決めてもらえればいいしー」

「分かった。じゃあ考えておくよ。……お願い」

「はーい」





そのままその子は軽く伸びをしながら、家の玄関の方へ向かう。



その子は素早く駆け出して、私が見切れないような速度でドアを開けて外に飛び出していった。



……というかあの、凄い速い。瞬間移動かなにかの能力でも……あ、それならドア開ける必要ないか。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



街を全力疾走しつつわたしは鼻をくんかくんかさせて……あ、これだと危ないかな。

わたしはコンクリの地面を滑りつつ一旦停止。そこから一気に飛び上がって近くの民家の屋根の上に乗る。

うー、速過ぎるっていうのも罪だよね。でも、これで誰かにぶつかって怪我させちゃったらだめだもん。



だってわたし、フェイトちゃんの悲しむ事はしたくないしー。フェイトちゃんとの契約はみんなで幸せになる事だから。

そのフェイトちゃんの契約に反するような事をしちゃったらだめなの。ここはそうだーって聞かなくても分かるから。

ずっとフェイトちゃんの中に居て眠ってたけど分かるんだー。フェイトちゃんの中、優しくて温かくてすっごく居心地良かったし。



それじゃあ少し呼吸を整えて――わたしは一気に屋根から飛び上がる。それでぴょんぴょんと街を跳ね回った。

匂い匂い、イマジンの匂い……む、来た来たっ! すっごい虫臭い匂いっ!

というか、なんか潰れた(うったわれるーものー)の体液みたいな匂いがするっ!



その匂い目指して私は屋根を壊さないように慎重に跳んでいって、大きな学校の近くに到着。



学校内は誰も居ない感じだけど……臭う臭う。すっごい近くだ。というか、どこどこー?





「ふん、げ、またイマジンかよっ!」



その声は後ろからしたので振り返ると……あー、居た居たー! 背の高くて虫臭い奴ー!

それでそれで、体型はほとんど変わってるけどわたしには分かる。この子……ビンゴー。



「こら、そこの虫臭いのっ!」



右手で虫臭いのを指差しつつ、わたしは反時計回りにターン。



「その子の身体から出てけー! フェイトちゃんやみんなが心配してるんだからっ!」

≪……あなた、なんでフェイトさんの名前を≫

「あぁもう、またかよっ! てーか誰が虫臭いだっ!」

「アンタに決まってるよっ! ほらほら、出てけ出てけー!」

「どいつもこいつも」



虫臭いのは苛立ちながらわたしに踏み込んで、右足で思いっきり私を蹴り飛ばしてくる。



「今日一日借りるだけだっつってるだろうがっ!」



そのミドルキックを右に素早く動いて避けて、虫臭い奴の背後に回り込む。



「な……!」

「遅い」



そのままわたしもお返しに飛び上がって、虫臭い奴の背中を左右交互に二回蹴り飛ばす。



「よっ!」



虫臭い奴はうつ伏せに倒れて芝生豊かな地面を転がって、起き上がりつつわたしの方へ向き直る。



「へへーん。わたし、速さには自信があるんだよねー」

「……ち」



虫臭いのは私に背を向けてそのまま全力疾走しようとする。なので私も全力疾走。



「よいっしょっ!」



すると数十メートルあった距離が一瞬で埋まって、私は虫臭い奴の前に向き直る。……恭文くん、ちょっとごめんね。



「わたし」



ソイツの行く手を塞いで、右腕を上げて一気に打ち込む。



「ラリアットー!」



驚く虫臭い奴の首元にわたしの腕が叩き込まれて、ソイツは仰向けに倒れて白目を向いた。



「どうだどうだー!」



わたしは軽くジャンプして虫臭い奴の胸元に飛び乗って、両手で軽く頬を叩く。



「ほらほら、早く出ないと」





そこまで言いかけた時、わたしの鼻がまたひくひくし始めた。というかこれ……わたしは自然と後ろを見た。



そこからこの虫臭いのとはまた別の臭いがするの。しいて言うなら、サビ臭い。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フィリップから改めて連絡が来て、俺はまた通話を繋ぐ。それで……さすがは相棒だ。



あっという間にイマジンと一之宮専務との契約内容を掴んだって言うんだからよ。





「幸せにしたい?」

『あぁ。正確には彼は孫である一之宮ひかるの未来に希望が溢れる事を望んでいる。
まだ幼い孫から夢を奪って心を追い出し、僕達が今居る世界を壊しかけた過去を悔いている』



なんでいきなりそんな話になるかは……あー、まぁ大体分かった。

さっきまであむちゃんから、また詳しく二人の事情聞いてたしな。



『それでも立ち上がり彼の幸せを願い変わろうとしていたが、同時に不安にも苛まれていた。
果たして自分にそれが出来るのか。また同じ事を繰り返すんじゃないか――まぁそんな感じだね』

「ならそこをイマジンに願ったって事か。希望溢れるだから……あー、やっぱ幸せにしたいとか今はどうなんだとか」

『そういう方向で間違いないよ。さて、後は一之宮ひかるの所在だね。そこは』



自然と視線をあむちゃんの方に向けると、俺の知らない着信音が響いた。

あむちゃんは慌てて自分の携帯を取り出して耳に当てていた。



「はい日奈森……あ、フェイトさんっ! ――え、ひかる君の居場所分かったんですかっ!?」

「どうやら分かったらしい。俺達もすぐにそっちに向かう」

『では現場で合流しよう。その方が良いかも知れない』

「なんか気になる事でもあるのか」

『いや。ただ……そうだな、僕の勘だ』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――はい、分かりました。じゃあ唯世達とも連絡取って、すぐに合流を……はい、気をつけます」



ティアナちゃんは折りたたみ式の携帯を閉じてから懐に入れ、俺の方を見上げてくる。



「一之宮ひかるの所在が分かったんだな」

「えぇ。聖夜学園――私やアイツも通ってる学校よ」

「学校? だが今は」

「ガーディアンの権限があれば入るのは可能よ。とにかく急ぎましょ。私が案内するから」

「頼む」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



1月1日――僕は関係各所への新年の挨拶やパーティーはそれとして、聖夜小に来ていた。



それでついついうさぎ小屋の前に来て、あのうさぎの様子を見てしまった。……本当は石を探そうかとも考えてたんだが。



うさぎ小屋の前でしゃがみつつ、冬だが元気そうに過ごしているコイツに網越しに手を伸ばすと、鼻をくっつけてきた。





「お前はのんきだな。だが、元気そうでなによりだ」



うさぎは温度変化などにも弱い動物だ。だから休みでも定期的な観察が必要になる。まぁそれはガーディアンの仕事ではないが。

ただそれでも……僕の背後に気配が生まれるのと同時に、うさぎが身体を震わせて僕から下がった。



「一つ聞く。お前は幸せか」



その声が聞き覚えのあるものなので横目で後ろを見ると、やはり一之宮専務が居た。



「そうだな。今すぐお前が落ち着けば幸せかも知れない。
それとそのやたらと怖い空気を出すのはやめろ。……うさぎが怯えている」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……ち、ヤベェッ!」



意識を取り戻したオレは上に乗っかってるバカを強引に突き飛ばす。



「わぁっ!」



そこから素早く立ち上がり、感じた嫌な予感のする方へ突撃。



「ちょ、待てー!」

「待てるかバカっ!」





アイツを止めるのはオレの使命だ。もう誰にも邪魔なんざさせねぇ。それで……行くぜぇ。



正義のヒーローは、こういう時に気合いいれて勝つもんだろ。だからオレも同じくだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「お前は幸せ、なんだな」

「クドい。お前が居なくなれば幸せだと言っているだろう」



すると一之宮専務は口元を歪めて、自分の胸元に拳を叩き込んだ。そして口元から血を吐く。

その余りに異常とも言える行動を見て僕は驚き、ゆっくりと立ち上がった。



「契約――成立だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



そして専務の足元や腕の袖口から砂が大量に零れ落ちて、それが異形の怪物の姿を取る。

専務はその怪物が明確な形を取ると同時に前のめりに倒れ、虚ろに目を見開いたままだった。



「お前は……なんだ」

「ふん、お前が知る必要は」



怪物が右手をかざすと、銀色一色の分厚いロングソードが出てくる。それに緑の火花が走り、その切っ先を僕に向けた。



「ないわっ!」



すると雷撃が僕とうさぎ小屋の方へ迫って……ダメだ、避けられない。僕は自然とうさぎをかばうように両手を広げていた。

こんな事をしても無意味だと知っていたはずなのに僕は、それでも小屋を自分の身を盾にして守った。



「ホーリークラウンッ!」





だがそんな僕とうさぎ小屋を守るように金色の障壁が展開して、襲い来る雷撃を防いで弾き飛ばした。



弾かれた雷撃は周囲に着弾し、小さな爆発を起こす。それと同時に怪物にやや青みがかったリングが両手両足に生まれる。



それだけではなく、複数の縄がイマジンの身体を一気に縛り上げた。僕は自然と縄の出処を視線で追う。





「タイトロープダンサー」

「バインドなのですよっ!」

【よーしっ! ギリギリセーフー!】

「一之宮君、大丈夫っ!?」

【お前なにを……って、ソイツに会いに来てたのかよっ!】





僕の右横には、見慣れたガーディアンの面々が居た。というか、全員キャラなりしてる。

いや、それだけではなく左横から見慣れない連中と一緒にあむとティアナ・ランスターが来た。

そして怪物の背後――僕から見て2時方向からは白い怪物とデカい男が走ってきた。




11時方向からはややとBYと恭文の関係者が居る。それを見て僕は、軽く息を吐く。





「あぁ、大丈夫のようだ。……助かった」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おい、お前がイマジンか……って、なんかもう一人居るぞっ!」

「あー、あっちは仲間っぽいから、とりあえず無視でいいよ。それより翔太郎さん」

「あむちゃん、そこのみんなもちょっと下がってな。ここからは大人の時間だ」



左手でソフト帽を正しつつ俺は照井共々前に出る。



「もう逃げられないぜ、イマジン。さぁ、おとなしくお縄に」

「ふん、もう遅いわ」



イマジンがそう言うと一之宮一臣と思われる男の背中が観音開きに開いて、中から緑色な幾何学模様の空間が見えた。

その中に縛られて動けないはずのイマジンが吸い込まれて姿を消す。俺達は慌ててイマジンが居た場所に駆け寄った。



「おいおい、どういう事だこれっ!」

「マズい……! これ、過去に跳ばれたぞっ!」



焦るようにそう言ったオレンジ髪の方に視線を向けると、電王について詳しい人間は全員困惑の表情を浮かべてた。



「あー、なんだ。過去に跳ばれたってのはつまり」

「契約が成立しちゃったって事だよー!」

「待て。専務はあの子が幸せになる事を願ったはずだ。それでどうやって叶えた。そんなものどこで判断して」

「適当な叶え方したんじゃないかなー。そこは……ねね、ひかるっちはおじいちゃんと」



ツインテールの子があの一之宮ひかるの方を見る。てーか俺と照井に他のみんなも自然と見ていた。

だがそこには誰も居なかった。ただ小屋があって、その中のうさぎがキョロキョロを辺りを見回していた。



「あれ、ひかるっち?」

「――ひかる君、どこっ!? ね、さっきまでここに居たじゃんっ! なんでっ!」

『なんだ、見ていたのは私だけか』



なんか黒い奴が少し困り気味にあの子が居た方を見ていた。



『彼は身体から粒子のようなものが溢れ……消えた』

「消え……なんでっ! だってひかるっちさっきここに居たのにっ! あ、まさかっ!」

「過去が変わりやがったんだ」



オレンジ髪の子が苦々しい顔でそう呟いて、あむちゃん達の顔が青くなった。

そういや俺達が聞いた話では……俺と照井も自然と表情が険しくなる。



「あのイマジンが過去の一之宮専務を乗っ取って過去を変えた結果、ひかるが消えたのね」

「くそ、遅かったって事かよ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あー、くそっ! 逃がしちまったじゃねぇかっ! テメェのせいだぞっ!」

「うっさいバカっ! 元はと言えばアンタがなにも言わずに恭文くんの身体取っちゃうからでしょっ!?
みんなで協力してれば、アイツの事だって楽々止められたのにー! このバカっ!」

「いいや、テメェだっ! せっかくカッコ良くアイツをばばーんと」



この状況でなにやらうるさいバカの首にタイトロープダンサーを伸ばして、私は一気に引き寄せる。



「ぐ……ちょ、苦し……苦しい」

「うるさい」



そのまま右足を上げて、恭文に若干悪いと思いつつソイツの顔を踏む。



「あなた、いいからとっとと恭文の身体から出なさい。じゃないと……ヒドいわよ」

【そうだよそうだよー! というか、恭文怪我してるしー! 出ていけー!】

「お兄様の身体に傷を……あなた」

「覚悟は出来てるだろうな」

「つーかぶっ飛ばす。テメェマジでぶっ飛ばす」



私達と一緒に行動してた恭文のしゅごキャラーズ三人は拳をボキボキ鳴らしながらイマジンを睨みつける。

それに関しては私達ガーディアンも同じ。さすがにこれは見てられないわ。



「だからうるせぇつってんだろうがっ! オレがアイツ倒してパパっと返すのをどいつもこいつも邪魔するからそうなんだよっ!」

「はぁっ!? アンタなに言っちゃってるわけっ!」



さすがに聞き捨てならないと思ったのか、一之宮専務や消えたひかるの事はそれとしてこのバカに歩み寄る。



「勝手に人の身体使ってるくせにふざけた事言うなっ! なんでも良いからとっとと恭文から出ていけっつーのっ!」

「ですですっ! というかその逆切れはないですよねっ! 最低過ぎなのですよっ!」

「へ、嫌なこったっ! こうなったら意地でも返さねぇっ! コイツの身体使い勝手がいいんだよっ!」



私に踏まれながらソイツはふてぶてしくそう言って両腕を組んだ。



「まぁテメェらがオレの邪魔してくれた事を謝るっつーなら話は分かるけどなっ!
それでテメェら全員、オレがアイツ倒すのに協力しろっ! いや、子分になれっ!」

「ムカムカですー!」

「ねぇ、首絞め落としていいかしら? そうすれば嫌でも出てくでしょ」

「真城さんだめだよっ! これ蒼凪君の身体なんだからっ!」

「そうだよっ! これ以上怪我させてなにかあったらどうするのっ!?」



唯世となぎひこは私を両側から押さえつつそこで息を整えて、ひかるがそれまで居た場所に視線を向ける。



「とにかく一之宮君の事をなんとかしないと。でもデンライナーってまだ来れないんだよね」

「えぇ。良太郎さん達も急いでくれてるらしいですけど」

『デンライナーとやらがなければ、彼を取り戻す事も不可能というわけか。では現状で出来る事はほとんどあるまい』

「そう言われると弱いな。俺達の周り、時の電車なんてねぇしよ」





とにかく良太郎さん達待ちね。でも時間がないから急いで欲しいんだけど。

というかね、遠くから爆音や悲鳴が聴こえてるのよ。過去でイマジンが暴れてるんだと思う。

それは私だけじゃなくてみんなの耳にも入ってる。だから自然と表情が重くなるの。



消えているのはひかるだけじゃない。人も物も……たくさんの人の笑顔と時間が、アイツに消されてる。





「でも僕達、どうして一之宮君が消えた事を認識出来るんだろ。ほら、特異点じゃないとそういうの覚えてられないって」

「恭文のパスのおかげよ」



なぎひこを横目で見ると、なぎひこは少し考えるように首を傾げたけどすぐに納得したらしく軽く吐息を漏らした。



「アレ持ってたり使ってる人間の側に居ると、そういう過去の改変から記憶を守ってくれるみたいなんだ。
あたし達が電王と最初に関わった時もその、パス使ってる恭文とリインちゃんの側に居るメンバーは平気だったから」

「だから僕達もそうだしBYや……えっと、左さん達も記憶が守られてるんだね。
あ、でもちょっと待って。でもそれなら一之宮君は」

【唯世、ひかるは過去の時間で存在を消されたんだ。記憶を守るどうこうというレベルではないのだろう】

「存在そのものから消えちゃったから、パスがあってもどうしようもないんだね」



だからこそパスの効力……まぁ不老不死になるとかじゃないから、それはなぁ。辛いけど、認めるしかない。



「というかあれ、単純な変身アイテムじゃなくてガチだったんだ。僕……やっぱり常識壊れそう」

【唯世、頭を抱えるな。もう信じるしかなかろう】

「いや、でも……これはないって。僕、こういうのに関わるの二度目だけどやっぱり信じられない」



まぁ唯世がなぎひこ共々が頭抱えてるのはいいわ。とにかく当面の問題はこのバカとひかるの事よ。

イマジンによって過去が変えられたなら、そのイマジンを倒せば元には戻ると思うけど。



「おーい、みんなー!」



後ろからかかった声の方を見ると、なんかテレビで見慣れた二人が……本当に来てたのね。もうびっくりするしかないわ。



「フィリップ、亜樹子っ!」

「遅くなってすまない。それとガーディアンのみんな、初めまして。それで一之宮ひかるは」



フィリップは挨拶はそこそこに私達の周囲を見渡して、困った顔で少しだけ俯いた。



「どうやら間に合わなかったようだね」

「えー! それじゃあこのままだとマズいよねっ! ……翔太郎くん、アンタなにやってたのっ!」

「いや、その……あー、とにかく現状だ。早く電王が来ないと」



やっぱり聴こえる爆音や悲鳴に胸が締めつけられそうになっていると、空から汽笛が聴こえた。

その聴き慣れた音に表情を明るくしつつ空を見上げると、どこからともなく現れた電車が空を走っていた。



「左、どうやら心配はなさそうだな。……みんな、あれがその電車なんだな」

「うんうん、そうだよー。でもでも、テレビで見たまんまだよー」

『これは驚きだ。本当にこのようなものがあるとは。だがこれで』

「問題なくいけるわ。でもあなた、家に帰らなくていいの? 買い物途中じゃ」

『構わん。これは世話になっている二階堂悠の身の危険にも繋がる。最後まで関わらせてくれ』





何回か会った時の印象とは違う受け答えに驚きつつ、私達は近くに止まったデンライナーに急いで駆け込む。



フェイトさんは転送魔法で一時的に海鳴の友達の家に避難しているそうだから良しとして……急ぎましょうか。



というか、私達の仲間に手を出してくれたんだもの。絶対に許さない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――なるほどねぇ。それで君達はこっちに跳ばされてきちゃったと」



ようやくあむちゃん達のところに来れたからみんなをデンライナーに乗せて……もう凄い人数になってます。

大体20人近く? さすがにこれは多いって。というか、他の世界の仮面ライダーも居るのはびっくり。



「そうなのー。竜くん、あたし怖いー」

「安心しろ、所長。俺がついている」

「きゃー、竜くん頼もしいー」

「……悪い、こっちの二人は無視してくれ。結婚したばっかでちょっと頭がアレなんだ」

「いわゆるバカップルというやつだね」



あははは……それはまた。おめでたい事で。というか、この程度ならまだ大丈夫なんだけどなぁ。



「あー、翔太郎とフィリップ言うてたな。この程度なら大丈夫や」

「恭文やフェイトお姉ちゃんはもっと甘いしねー。口から砂糖吐いちゃうしー」

「……マジかよ」



あ、左さんが頬を引きつらせて――でもフィリップさんは楽しそうに笑って目を輝かせ始めた。



「つまり照井夫妻を上回るバカップル――実に興味深い」

「おいおい、興味持ってる場合かよっ!」



なお、その凄さはガーディアンのみんなも凄い勢いで頷いているところから察して欲しいと思う。



「でもそのおじいさん、本当にその子の事が心配だったんだね」

「そやなぁ。今向かってる時間も、その子の両親が亡くなった直後くらいやろ?」

「6年前の12月4日だから……そうなります」



テーブルについてる唯世君の表情が重くなる。というか、自己紹介もそこそこでこれは……もうなんというか、申し訳ない。



「とにかくみんなはデンライナーで待ってて。イマジンは僕と」



左さんの方を見ると、左さんとフィリップさんに照井さんは僕の視線に気づいてすぐに頷いてくれる。



「俺達がやる。それでイマジンを倒せば、過去の改変は止まるんだよな。同時にあの子も復活する」

「はい。記憶は」

「記憶は時間――ですので」



いつもの指定席に座っているオーナーはそう言って、左さんの方を見る。



「幸いな事に彼を覚えている人間は多数居ます。特異点である空海くんも居ますし、時間の修復は可能です。
……そういう意味でもあなた達の存在は今回の異変の修復のためには必須です」

「えっと、それってやや達の記憶がひかるっち復活の元になるーって事だよね」

「それだけではなく、過去で壊されて消されたもの全部です。
なのでここでおとなしく待っていただければと思います。……さて」



オーナーは左隣を横目で見て、そこでリインちゃんのバインドとりまちゃんのタイトロープダンサーでぐるぐる巻きにされた恭文君を見る。

なお、傍らには絶対に逃げないようにフェイトさんのイマジン……もうごめん。状況が動き過ぎて軽く混乱してます。



「あとは君の事ですね。困りますねぇ、消滅の危険があったのは知っていたでしょうに」

「うるせぇよっ! てーかオレしかアイツ止められる奴居なかったんだからしょうがねぇだろうがっ! 早くこの縄を外せっ!」

「あぁもう、ジッとしてろー! というかというか、どうしてそんなにあのイマジンを止めたいわけっ!?」



まだ名前のない白い子がそう聞くと、恭文君――というか、中のイマジンが動きを止めて僕達や白い子から視線を外す。



「そんなもん、カッコ良いからに決まってるだろ。そういうのはヒーローの仕事だしよ」

≪そんな理由で主様を振り回してあの言い草なのっ!? 呆れたのっ!≫



僕の近くに居るぬいぐるみ形態のジガンは、そう言ってじたばたする。

その隣のアルトアイゼンも……ライフル向けちゃだめー!



≪というか、いい加減に返してくれませんか。そろそろ限界なんですけど≫

「へ、嫌なこったっ! ムカついたからコイツの身体はこのまま使ってやるぜっ! それであのイマジンぶっ飛ばすんだよっ!」

「それは無理です。その前に君は消滅しますよ?」

「だから手伝えつってんだろうがっ! そうすりゃ手っ取り早いだろっ! それで……あー、決めたっ!
手伝わないって言うならコイツの身体ごと奴に突っ込んで一緒に死んでやるよっ!」



まるで僕達を嘲笑うようにそう言って来た事で、場がざわめき始める。それでも彼は嘲りの笑いを浮かべる。



「消滅しそうになっても同じだっ! ……さぁ、どっちが好みだっ!
オレを手伝うかコイツを死なせるかっ! 舌の一つでも噛み切りゃあっさりだぞっ!」

「お前なに言ってるのっ! そんな事させるわけないじゃんっ!」

「たりめぇだっ! 青坊主にそんな事してみろっ! 俺達揃ってぶっ潰してやるっ!」

「へ、頭悪いなぁっ! それが嫌ならオレに協力しろっつてんだろうがっ!」

「アンタ……マジいい加減に」



立ち上がろうとしていたあむちゃんの肩を右手で掴んで止めて、僕が代わりに立つ。というか、さすがにもう我慢出来ない。



「それほどまでに自分と同類のイマジンを止めたいわけですか」

「え?」



でもオーナーの言葉で動きを止めて、僕もみんなも指定席に座るオーナーの方を見る。



「オーナー、それってどういう」

「あれぇ、言ってませんでしたか? 先ほどターミナルで駅長に改めて確認して分かったんですよ。
一之宮一臣氏と契約したあのイマジンも、どうも元は派遣イマジンらしいんですよねぇ」

『えぇっ!?』

「――そうか。なぜ契約前のイマジンがターミナルで暴れたのか疑問だったんだけど」



フィリップさんが立ち上がって彼の前へ行って、まじまじと見下ろす。



「ターミナル内限定で一時的に姿形を持っていたのなら、話は変わる。
しかもそこで話に聞く特殊能力を使えたのなら確実だ」

「奴はその状態でターミナルで暴れて、こちらの世界へ来たわけか」

「えー、フィリップも翔太郎さんもちょっと待ってー! それならあのイマジンだって消滅……あ、それはないか。
だってだってあのイマジンは、こっち来てからすぐに専務さんと契約しちゃったっぽいしね」

『その上で仮初めの身体とやらを捨て去り、本格的な実体を得たのだな』

「正解です。……知らないと思いましたか?」



オーナーは厳しい視線を恭文君の中のイマジンに向ける。



「駅長は今回の事、本当に困っていましたねぇ。順調に動いているはずの派遣イマジンシステムにヒビが入りかねないと」

「足りめぇだろ。あんな事したんだからよ」



バツが悪そうに視線を落として、大きく息を吐く。



「オレは別に派遣イマジンに不満なんざねぇさ。もうオレ達イマジンの時間は、未来には繋がらねぇ」



恭文君の中のあの子は、顔を上げて僕やモモタロス達を見た。



「お前らが派手に暴れて、オレ達の時間を壊してくれたからよ」

「おい、それは俺達や良太郎が悪いって言ってるのかよ」

「バカ、そうじゃねぇよ。あんな胸糞悪い奴に従うのも嫌だったしよ。むしろ感謝してるくらいだ。
だが――このままじゃオレ達はどうなるかも分からない。かと言って契約者の時間乗っ取って生きるのも後味悪い。
だから派遣イマジンのシステムは大歓迎さ。後味の悪い事しなくても、のんきに生きていけるんだからな」



そこでイマジンは困った顔で大きくため息を吐いた。



「それがターミナルに来たイマジンの総意だと思ってたんだが、そうじゃない奴も居た。
仮初めでも実体が得られる事を利用して、ソイツは力を得ようとした」

「力を得て暴れた挙句、私達の世界に来たのね。それをあなたは追って来た」

「あぁそうだ。だからオレが止めるんだよ。アイツはオレ達派遣イマジンが止めなくちゃいけねぇんだ。
そうしなくちゃこれで生きてこうとしてる連中は全員困る。それはな……オレ達に『死ね』って言ってるのと同じなんだよっ!
もうこれしかねぇんだっ! 消えちまったオレ達の時間を守るためには、この方法しかないんだよっ!」



僕はゆっくりと立ち上がって、彼の前へ足を進める。それでフィリップさんの隣に来て改めて彼を見下ろす。



「一つ聞かせて。なんのために恭文君の身体を使うのかな」

「そんなの決まってるだろ。オレは契約者も居ないから実体化出来ないんだよ。
だから人間の身体を使うしかねぇ。コイツは鍛えてるっぽいから、都合が良かった」

「そう。だったら君はあのイマジンとなにも」

なにも変わらないよ、タコスケが



突然響いた声に驚いていると、恭文君の身体から金色の光が飛び出した。

それに思わず僕とフィリップさんは下がる。その光は一瞬で白色で小さな角のある無地のイマジンになって、床を転げた。



「痛ぇ……!」



慌てて恭文君の方を見ると、恭文君の体型が……元に戻ってる?

体型が元に戻った恭文君はなんとか身体を起こして、目の前に居るイマジンを睨みつけた。



「あー、やっと追い出せた。気合い入れればなんでも出来るもんだねー」

『恭文っ!?』

『恭文君っ!』

『恭文さんっ!』

「青坊主っ!」



軽く首を横に振る恭文君に、あむちゃんの側に居たシオン達三人とリインちゃんとディード――というか、全員が一気に近づく。



「恭文、お前……大丈夫なのかっ!」

「お兄様、私が分かりますか。あなたの嫁のシオンです」

「あー、分かる。でもシオン、おのれは嫁じゃない。新年早々妄想に走るのはやめようね」

「間違いねぇっ! そのツッコミはヤスフミのツッコミだっ! オレには分かるぞっ!」



いや、ツッコミからって違うと思うんだけどっ! というか、そこでシオン達も頷いちゃうのっ!?



「恭文さん、リインの事分かりますかっ!? リインと今日大人にラブラブする約束をっ!」

「いいえ、私を第四夫人にしてくれると」

「どっちも約束してないって記憶してるから安心して欲しいなっ! つーかどさくさに紛れてなにバカな事言ってるのっ!」

「「このツッコミは……間違いなく恭文さんのっ!」」



だからツッコミで判断はおかしいからー!



「なぎひこ、あなたボケなさい。それで判断するわよ」

「えぇっ!?」

「おい、この場合やっぱ俺達も」

「ボケなアカンやろうなぁ」

「そうじゃないと確かめられないっぽいしねー。ならなら、モモタロスー」



だからそこもおかしいからねっ!? ツッコミじゃなきゃ恭文君だって判断出来ない考えは捨てようよっ!



「よし、てーか全員ちょっと下がろうっ! 動きにくいからっ! それでツッコミで僕が正常だって判断するのやめてっ!」

『――あぁっ! やっぱりそのツッコミは』

「だからもういいって言ってるだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



その言葉に安心しつつ、みんなはそれぞれ元の席に戻る。……おかしいのは変わらないみたい。

その様子を見て恭文君はため息を吐いて、縛られた状態なのに器用に立ち上がった。



「とにかくお前……最悪だな。あのイマジンと何一つ変わらない」

「はぁっ!? テメェ、いきなり人追い出しといてなに言ってやがるっ!」



イマジンはまた光の玉になって恭文君の中へ入る。でもすぐに追い出されて、またさっきみたいに床を転がった。



「くそ、なんでいきなり」

「当たり前ですよ。あなた、彼のパスの力を知らないんですか?」



オーナーの言葉で床に倒れたあのイマジンは背後を振り向き、オーナーを見上げる。



「彼のパスには所持者とその周囲の人間の記憶を時の改変から守る効力があります。それは」

「特異点と……同じ」

「えぇ。本来ならもっと早く君を追い出せるはずなんですけどねぇ」



その言葉に驚きながら、僕も含めた全員が恭文君を見る。



≪じゃああなた、もしかして最初から意識あったんじゃ≫

≪特異点と同じなら、そうなっててもおかしくないの≫

「……お兄様?」

「恭文、まさかお前」

「ソイツに自分から取り憑かれたとかじゃねぇだろうな。身長が伸びたのが嬉しくて」



さっきまで恭文君は身長が――だからしゅごキャラーズなみんなも疑わしそうに恭文君を見る。

すると恭文君は縛られながら照れたように笑い出した。



「いやぁ、そんなわけないよ。こういうの初めてなんでなんか要領掴めなくて今まで時間かかって」

『嘘つけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』



ごめん、僕もみんなと一緒に叫んじゃったけどそこは嘘だって分かるんだっ! なんかこう……表情がねっ!?

とりあえずそこの辺りで迷ってたのはよく分かったっ! だって身長の事触れるとアレだしっ!



「アンタ……マジバカじゃんっ!? それでみんなに心配かけまくるなんてマジありえないしっ!」

「蒼凪君、あとでお話しようか。というか、再修行する? クロスフォードさん達呼んでさ」

「恭文君、僕も……そのね? 唯世君やあむちゃん共々しっかりと話したいな。
ちょうどいいから後でフェイトさんに挨拶もしたいし、今日はこっちに泊まらせてもらって」

「なんでそこまで話が肥大化するっ!? 良太郎さんもなんか怖いから落ち着いてっ!
いや、マジで追い出すのに時間かかってたんだからっ! ほんとだからっ! ……と、とにかく」



みんなの厳しい視線に怯えつつ恭文君は、縛られた状態で改めてあのイマジンを見下ろした。



「さて、どの辺りがあの関智一ボイスと変わらないかっていうと……人の時間を勝手に使うとこだ。
結局お前だって、人の時間乗っ取って好き勝手してるじゃないのさ。それがヒーロー? 笑っちゃうねぇ」

「なんだとっ! ふざけんじゃねぇっ! イマジンの時間守るんだからヒーローだろうがっ!」



イマジンが恭文君に飛びかかろうとしたその瞬間、恭文君の身体を縛ってた縄とバインドがほぼ同時に裂ける。

そうして突き出された右腕を素早く取って、壁際に向かって一本背負いで叩きつけた。イマジンは頭から床に落ちる。



「ふざけてるのはテメェだ。このクソ野郎が」



恭文君は右足を上げて、その顔を思いっきり踏みつける。



「現に今日テメェは僕の時間を乗っ取っただろうがっ! それに対して言い訳して逃げてる奴がガタガタ抜かすなっ!
その上僕の命を盾にみんなも脅したっ! それが人の時間を守るヒーローの所業かっ!? そんなわけねぇだろっ!」



恭文君はそこで、かなり本気でイマジンの腹を右足で蹴り飛ばす。衝撃でイマジンが呻き、身体が激しく痙攣し始める。



「もう一度言うっ! お前もあのイマジンとさほど変わらねぇよっ! 身勝手に人の時間を壊す悪党だっ!」

「……恭文くん、実は彼はすぐにでも契約者を見つけないと」

「僕は絶対に嫌です。僕はコイツがそこを自覚しない限り、なにが起ころうが知ったこっちゃない」

「でしょうねぇ」



イマジンが呻いて自分を見上げるのは気にせず恭文君が、僕とフィリップさんの方を見た。



「良太郎さん、僕はもう大丈夫なんで」

「……うん、分かった。じゃあ、いつも通りかな」

「はい。あー、それと」



恭文君はフィリップさんの方を見て、少し表情を崩す。



「初めまして、蒼凪恭文。ふむ……特異点でないのにも関わらずイマジンの支配をはねのけるとは。実に興味深い」

「パスの力と気合いでなんとかって感じ? というか、約束……守れたね」

「あぁ。フェイトさんには本当に感謝しないと。おそらくはすぐ別れる事にはなると思う。ただそれでも……会えて嬉しい」

「うん、僕もだよ」





そう言って二人は右手を差し出して手を繋ぎ合う。……もうすぐ目的の時間に到着する。



僕はモモタロス達の方を見ると、みんな力強く頷いてくれた。それに安心して、表情を緩める。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



2005年の12月4日の聖夜市は阿鼻叫喚の渦だった。あたし達は電車の中からそれを見て胸が締めつけられる。



でもあとは……街に降りた恭文と良太郎さん達に任せるしか無い。でも、いざとなったら支援くらいはしたいとか思ったり。





「やーいやーい、怒られてヘコんでるのー。ほれほれー」

「うるせぇっ! ちくしょう……あの野郎、絶対許さねぇっ! オレをバカにしやがってっ!」

「へ、バカにしたんじゃねぇだろ。テメェがバカなのをバカっつっただけだろうがよ」

「だからうるせぇつってるだろうがっ!」



あのイマジンは隅っこでリュウタとモモタロスにからかわれてふてくされてる。でもまぁ、ここは放置でいいか。

とにもかくにも恭文の事だよ。一応リメイクハニーで治療はしたけど……あー、マジ心配なんですけど。



「あの、やっぱり僕達も」

「アカン。イマジン相手は俺らに任せろ」

「唯世君、ここは納得してくれないかな。もちろん必要な時は、僕達の方からお願いするかもだけど」

「……はい」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



冬の聖夜市のセンター街で暴れ回るイマジンと奴が出したと思われる兵隊達の方へ僕達は並びながら足を進めていく。



センター街の建物の大半は壊れていて、胸が痛くなる。だってここは、僕達が住んでいる街でもあるから。





「んー? なんだ、お前達は」



50メートルほど先で王様は僕達を見て、おかしそうに首を傾げる。



「君達を止めに来た」



良太郎さんと僕がおそろいで色違いのデンオウベルトを出して腰に巻くと、奴はせせら笑った。



「はは、電王かぁ。よくもまぁ完全別世界にまで来たものだな」

「電王だけじゃないぜ」



翔太郎さんがそう言いつつ右手で取り出したダブルドライバーを腰前面に当てると、その両サイドから黒いベルトが展開。

それが翔太郎さんの腰に巻きつくと、フィリップさんの腰にも同じものがどこからともなく現れた。



「街を泣かせる奴は許さない。まぁ俺達はこの街の人間じゃないが」

「でも僕達はこの街で暮らす彼やあの子達が好きになりかけている。だから見過ごせない」

「この街にはね、私達の守りたい時間や夢が沢山詰まってるのよ」



ティアナも懐から待機状態のクロスミラージュを取り出す。それにディードとリインも続く。



「それを砕き、この街の星の輝きを曇らせるあなたを、私達は許せない」

「人の時間を――夢を食い物にして笑う奴は、最悪なのです。女の子にも絶対モテないのですよ」





二人の右手にも待機状態の相棒が握られ――あ、リインだけは蒼天の書だね。

それで竜さんも右手で取り出したアクセルドライバーを腰の前面に当て、ベルト化しつつ装着。

アクセルドライバーの形状は、中心が銀色のメモリスロットになっていて両端がバイクのハンドルグリップになってる。



左側のグリップにはスロットと同じ色のブレーキレバーもついていて、必殺技の時などはこれを握る。





「今すぐに返してもらおう。孫を想いお前に頼った男と、あの子の時間を」



なお、フェイトのイマジンのシロタロス(今命名)とBYも来ている。二人はマントをなびかせながら二人並んで左端を歩く。



「それにフェイトちゃんの幸せもだよ。あなた達が街で暴れてたら、安心して子育て出来ないもの。だから倒されちゃってね」

『それが嫌ならば、今すぐにしっぽを巻いて消えろ。お前達の所業は……私には見過ごせない』

「……BY、ちょっと変わった?」

『さぁな。とりあえず空気の読み方を勉強しただけだ』

「そこ出来たんかい」





僕達は足を止め、それぞれに変身準備を開始。なお、シロタロス以外。



僕と良太郎さんがベルトバックル左の一番上のボタンを押すと、似た感じの待機音が流れる。



それから素早く右手でパスを取り出して開いて、展開したカードスロットにユニゾンカードを挿入。





≪Fusion Ride RinforceU Set up≫



それからパスを閉じている間に、翔太郎さんとフィリップさんが懐から取り出したメモリを前にかざす。



≪Cyclone≫

≪Joker!!≫



それは竜さんも同じくで、こちらは赤色のメモリ。



≪ACCEL≫



この音声は、メモリ下部にあるスイッチを押した事で流れた音声。

そのまま翔太郎さんとフィリップさんは、それぞれメモリを持っている手を横に振りかぶり、二人並びながらその腕でWの字を描く。



「「――変身」」





まず翔太郎さんとフィリップさんがメモリをそれぞれのベルトのバックルに挿入。



フィリップさんが挿入したサイクロンのメモリは一瞬で翔太郎さんのバックルに転送される。



翔太郎さんはUの字型のバックルを両親指で押さえ、一気にW字になるように展開。





≪Cyclone……Joker!≫



するとフィリップさんが仰向けに倒れ、それを。



「よっとっ!」





所長がしっかりとキャッチ。極々普通に来ていたのが恐ろしい。



その間に翔太郎さんの身体を風が包み、右が緑で左が黒の仮面ライダーが生まれる。



あぁヤバい。まさか生変身見られるなんて――今年は良い年になりそうー。





「変……身っ!」



続けて竜さんがアクセルのメモリをバックルに挿入。



≪ACCEL≫



それから右ハンドルを掴んで、三回捻る。エンジン音が響く中バックルから赤い光が溢れ、一瞬でその姿が変わった。

それは赤い甲冑を身に纏い青いバイザーが印象的な重装甲なライダー。なお、身体の各所にタイヤらしきパーツがある。



「クロスミラージュ・ファンタズム、セットアップッ!」

「ツインブレイズ・デュアリティ、セットアップ」



ティアナとディードも光に包まれ姿変化する。それじゃあ最後は僕と良太郎さん。なお、シロタロスとBYはもう戦闘形態なので除外。



「「変身」」



僕達はそれぞれ右手のパスをベルトのバックルにセタッチ。



≪Sword Form≫

≪Vinculum Form≫





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



一時的にでも繋がってた関係で、アイツがパスを使ったのは感覚的に分かった。



なのでそれにほくそ笑みつつ、オレはこのチャンスを活かすために一気に立ち上がり光の玉になって飛び出した。





「ちょ、アンタっ!」

「あー、亀ちゃん熊ちゃんアレー!」

「ん……っておいっ! お前なにを」





へ、テメェらの事なんざ知るか。こうなったらあのムカつくガキをとことん使い倒して目的達成してやるよ。



それでオレやアイツと同じ派遣イマジン達を守るんだ。それが……正義の味方ってもんだろ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それぞれが姿を変えていく中、アイツの身体に急激に変化が起こる。



というか、いつものように光の玉になって吸い込まれたリインさんが、いきなりアイツから吐き出されるかのように地面を転がった。





「きゃっ! な……なんですかっ!?」

へへへへへへっ! コイツの身体はもらったぜっ!



この声――アイツの身体が一瞬大きくなって、でもすぐに元の身長に戻ってプラットフォームのスーツを装着した。

蒼色のそれは幸太郎の電王とどこか似てもいて、全身に火花を走らせながら身体の各所にアーマーを装着していく。



≪Joker Form≫





どこか重い動きでアイツの周囲に虹色のレールが走り、それの上に蒼のアーマーが回転しながら出現。

それは素早くアイツの身体の各所に――まずは丸みを帯びていてカブトムシの背にも似ている形状の蒼アーマー。

その両横に装着されていた同じ色の丸い肩装甲が、アイツの両肩にくっつけられる。



背中に装着されたのは前とはまた違い段による傾斜が付けられ、ちょうど電王・ソードフォームの背中に似てるかも。

バックルの前にはなぜか金色で円形の右上に刺が飛び出しているような追加パーツが装着。

そして頭の線路からはなぜか蒼いカブトムシが走ってきた。それはアイツの顔の前に来ると変形し、仮面になる。



カブトムシの背が大きく目の形を取り、角が額に突き出される。



そしてその瞳が蒼から黒に変わり、仮面の下から不敵な含み笑いを出して来た。





「アンタ、それ」

「恭文さん……まさか」

【電王っ!? そんなバカなっ! 彼は電王への変身は不可能なはずだっ!】

「へへ……はははははははははははっ! 見たかバカ共っ!」



アイツは笑いながら――ううん、アイツの声じゃない。とにかく蒼い電王は笑いながら両手を広げて笑う。



「これでオレは無敵だっ! 正真正銘の正義のヒーローなんだよっ!」





(第133話へ続く)










おまけ:多分絶対表には出ない裏設定。





恭文「というわけで、拍手でオーナー28号様から頂いたアイディアを元に今回僕……電王に変身しましたー」

古鉄≪オーナー28号様、アイディアありがとうございます。さて、そういうわけで今回は≫

恭文「当然そんな電王のデータだよ。というか、以前いただいた拍手の転載? さ、どうぞー」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



※ 本日の拍手の返事で恭文に憑いたと思われるイマジンネタ。 名前:(ピー)。
外見:恭文の持つ、カブトムシのヒーロー性を媒体として生まれた為、イマジンの内ではかなりかっこいい。
ガイアスプリームみたいに青と赤のカラーリング。

特殊能力:憑依すると、外見上の変化は余りないが、身長が伸びる(笑)。 しかも特異点でなくとも、意識の主導は被憑依側に移せる。

性格:シオンの同類。 異常、もとい以上。 byオーナー28号


※更にー! 仮面ライダー電王・ジョーカーフォーム
身長:193cm 体重:98kg パンチ力:7t キック力:13t ジャンプ力:一跳び60m 走力:100mを2.8秒

詳細:(ピー)が憑依した人間が変身する電王。 誰が変身しても、このスペックになる。
但し憑依状態ではない(が、普通に憑依状態になる事も可)為、変身した人間が基本的には戦う事になる。
デンガッシャーの全モードを操る他、(ピー)て戦う。 うん、こんなとこかな? by オーナー28号





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文「なお、本編と拍手内ではまた設定が変わってたりしますのであしからず。
特に身長……ちょっと作者、身長設定が明らかにおかしいんだけどこれどういう事っ!?」

古鉄≪残念ながらあれで電王になった場合は身長そのままだそうです。残念でしたね≫

恭文「ちくしょー!」





(おまけ……おしまい)




















あとがき



恭文「というわけで、ドキたま/じゃんぷ超・電王編第2話……みなさんいかがでしたでしょうか。本日のあとがきは蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。ヤスフミ、ちょっと反省しようか。というか、話そうか」

恭文「いや、マジであれは違うからー! フェイトも怖い顔やめてー!」



(真実は……きっとみんなの胸の中に)



恭文「それだと僕疑われっ放しだよねっ!」

フェイト「大丈夫、ちょっと詰問すればその疑いは晴れるよ」

恭文「されちゃうのっ!?」

フェイト「とにかく今回は……ついにあの子も登場です。というか、出さないとマズい方向に」

恭文「次に出すチャンスが限られちゃうしねー」



(なので一気に……でもその分カオスになりました。これはひどい)



恭文「とにかく次回は」

フェイト「あー、そうだよっ! また身体乗っ取られちゃったよねっ!」

恭文「大丈夫。というか僕は自分の疑いを晴らす前に……ねぇ?」



(蒼い古き鉄、にっこりとそう言って優しく笑う。それを見て閃光の女神、頬が引きつる)



フェイト「え、えっと……適度にね?」

恭文「あははは、そんなわけないじゃん」

フェイト「即刻否定っ!?」





(そして次回、冒頭から……大荒れ。
本日のED:セシリア・オルコット(CV:ゆかな)『SUPER∞STREAM』)










ウラタロス「……やっちゃったねぇ」

キンタロス「やりおったな、アイツ」

リュウタロス「というか、なんでなんでっ!? 恭文は電王になれないのにー!」

オーナー「彼もまた、あちらのイマジンと同じく力の強い個体なのでしょう。その影響を受けて彼も電王になれた。ただ」

ハナ「……ただ?」

オーナー「彼がこれでどういう反応をするかが怖いですねぇ。今までのあれこれを考えると」

ウラタロス「まぁ、確実に……ねぇ」

あむ「ヤバい。なんか寒気止まらないんだけど。この後が凄まじく……次回どうなるのっ!?」





(おしまい)





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