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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第129話 『The key to shine/今はまだ見えない未来の自分への道筋』



ぺぺ・シオン・ヒカリ『しゅごしゅごー♪』

ぺぺ「ドキッとスタートドキたまタイムでちー。さてさて、今回のお話は」

シオン「愛する人に近づきたい。ただそれだけではなにかが足りない。そう思い悩むあの人に差したのは一つのヒカリ」

ヒカリ(しゅごキャラ)「つまり……もぐ。私が……もぐもぐ。だいかつ……もぐ」



(どこからか取り出した肉まんを食べてます)



ぺぺ「あぁもう黙ってるでちっ! あと、その肉まんは後でよこすでちっ!」

シオン「とにかく今日はあの人にとって転機の一つともなるお話です」



(立ち上がる画面に映るのは――ふわふわたーいむ♪)



ヒカリ(しゅごキャラ)「とにかく私が大活や……もぐもぐ」

シオン「ビートスラップ」



(げしっ!)



ヒカリ(しゅごキャラ)「ふごっ!?」

ぺぺ「シオン、グッジョブでち」

シオン「当然でしょう。それでは本日も元気よく」

ぺぺ・シオン「じゃんぷっ!」

ヒカリ(しゅごキャラ)「な、なぜ私が……がふ」(ちーん)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あの激闘からそれなりの時間が経って、私も身の振り方を考えている最中。一番の志望は……やっぱり中学生。

恭文さんと同じ学年ならいくらでもチャンスはあるだろうし、私くらいの身長体型の女子は珍しくないから問題はないはず。

なぜか涙目な恭文さんはそれとして、それを念頭に置いて……ううん、訂正。それも含めて道を探している最中。



自室のベランダから夜中に空を見上げて白い息を吐くのも、その一環だったりする。……正直に言えば迷いがある。

ただ恭文さんの後を追う形だけでいいのかと、最近よく考える。それではドクターのところに居た時と何も変わらないとさえ思う。

それで思い出すのはあの時――しゅごキャラの話を聞いて初めてエルを見た時の感動。



私と恭文さんとは違う人間。だから私の夢と恭文さんの夢だって、形が違うし目指す方向も違う。

だから私の道は、私が決めていい。それが出来る事が、私にとっては自立で夢を育てる第一歩になるとも思う。

……なら、このまま恭文さん達の言うままに聖夜学園に入る事は本当に正しいのだろうか。



それは私が自分の道を自分で選ぶ事を放棄しているんじゃないかと、夜空を見上げながら考えてしまう。



でも分からない。まず何が足りないのか。何をどうしていけばいいのか……私にはよく分からない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、前回僕は『現在の異種格闘技=総合格闘技』と言う趣旨の発言をしたと思う。

本来それは、ブラジルで行われていた『ヴァーリトゥード』が発祥とされている。

その意味はポルトガル語で『なんでもあり』。その名の通りルール的制約を極限まで無くした試合が行われる。



それを主に主催していたとされるのは、ブラジルにあるグラシエーロ柔術……と、修羅の門の話はここまでにしておこう。

とにかく総合格闘技の根っこは、全ての武術が対等に戦えるようにルール的制限を少なくしたところにある。

つまり、総合格闘というジャンルそのものが異種格闘技戦を行うための土壌と言ってもいい。



ストライクアーツなどに代表される打撃・投げ技・関節技などがミックスされた流派がその中で猛威を振るうのも当然と言える。



なぜなら総合格闘技はヴァーリトゥード――なんでもありなのだから。だったら使える武器は多い方がいい。





「――ミッドの総合格闘技の進化も、こっちとはさほど方向が変わらないんだ。
異種格闘技戦を意識したルール設定をして間口を広くしたからこそ」

「その全ての技が使える流派――総合格闘術が生まれたんだね。結果それが猛威を振るうようになった」

「うん。元々古流武術ではその手のが結構あるけど」



なんて言いながらも、僕はどこからとも無く取り出したハリセンで空海の頭をパーンっ!



「寝るなバカっ!」



現在、夕方の4時近く。僕とあむと唯世と空海の四人で家路を急ぐ中空海は……寝てました。



「い、痛ぇ……!」

「かなり大事な話してる時に寝てる方が悪いっ! なにより歩きながら寝るってどんだけ器用っ!?」

「いや恭文、それしょうがないって。てーかあたしもちょっとちんぷんかんぷんだったし」

「あむちゃん、それはさすがにないよ。前回と言ってる事さほど変わらないんだから」



うんうん、ミキは分かってくれてるね。まぁそんな訳で……ここからは応用編ですよ。



「ぶっちゃけ魔法練習も込みだと、夏までは本当に時間がない。
その上空海の家のみんなは『トップ取れ』とか言ってくるし」

「まぁ俺の親父達だしな。でも恭文、実際優勝するのってどれだけ力が必要なんだ?」

「僕も優勝出来るかどうか分からない。いや、そもそもこの間説明した都市本戦をクリア出来るかどうかも分からない」

『はぁっ!?』



あー、みんなやっぱ驚くかぁ。でも試合内容見てるとさすがになぁ。色々考えちゃうのよ。



「ちょっとちょっと、それおかしいじゃんっ! 確かに魔法的制限がかかってるけど……アンタプロの魔導師だしっ!」

「あのジークリンデとか言う奴、そんなレベル高いのかよっ!」

「二人とも、忘れちゃいけない。IMCSの大半は基本的に勝ち抜き戦なんだから」



IMCSが格闘大会である事も、前回フェイト達が『弱者の側に回る』と言った要因なんだ。

ここはIMCSだけじゃなくて、トーナメント方式を取る大会はどれも同じかな。



「まず実力的な振り分けのための地区選考会はいい。問題はその次の地区予選だよ。
当然そこを勝ち抜いて地区代表になって、他の地区の代表とまたトーナメントして」

「その後も都市本戦のトップ同士で戦って世界代表を決めて、それ同士で……って事だったよね。
てか、普通のトーナメントだよね。それのどこが……あ、強い奴に当たっちゃうかもーとかかな」

「うん、それもある。でも問題はもう一つあって、誰であろうと一定数以上は絶対に戦う必要があるって事。
それも選手や観客を含めた大勢の前でね。出場選手は当然、試合の様子をかなり真剣に見る。
自分が次にその相手と戦うかも知れないから。つまり一戦戦う毎に、そういう『研究』をされまくるのよ」



どうやらあむも納得したらしく、軽く息を飲んだ。なお男の子二人組は問題ない。

空海はサッカー部でそういうの覚えあるのか極々当然って顔してるし。



「当然それで最初から手札フルオープンなんてやってたら、あっという間に対策を取られる。
そうじゃなくても一戦戦う毎にどんどん裸にされていくのと同じ。その上で『連勝』しないといけない」

「連勝?」

「連勝だろ。最初の地区選考会はともかく、あとの大会は全てトーナメントだ。負けたらそこで終わる」

「あ、そういう」



そこであむの言葉が止まって、口元に左手を当てて考え込み始めた。



「……あれ、そう考えるとめちゃくちゃ難しいんじゃ」

「難しいだろうな。これ、IMCSだけじゃなくて全てのトーナメントにも言える事だ」





トーナメントの難しさについては、ラストイニングという漫画の序盤の方で語られている。

高校野球の漫画で野球部の監督が主人公なんだけど、その監督はこういう名言を残している。

『100戦試合をして例え90勝以上負け越しても甲子園には行ける』……と。



ようするに実際の試合で一度も負けない試合運びを出来るならどんな弱小チームでも勝ち残れる。

逆に99勝して1敗しているチームでも、その1敗がトーナメント中だったら絶対に甲子園には行けない。

もちろん理論上は弱いチームが連勝なんて相当難しい。それよりかは後者の方が確立は高い。



でも普通に戦っても負ける時は負ける。連勝にはそれ相応のテクニックが必要になる。

だからこそトーナメント形式の戦いは神経を使うのよ。だって優勝条件が連勝だもの。

目の前の試合だけを見ていても絶対に勝ち抜けない。特に個人戦の場合はそうだね。





「てーか納得したわ。それなら最後の最後まで札取っておける状態に持ってけるなら楽だしよ」



そこで空海がやたらと真剣な顔になる。てーか僕から目を逸らした。



「しかも恭文の場合、お前達も知っての通り運がない。絶対最初から強いのに当たりまくって」

「はいうっさいっ! そんなの分かってるから言わなくていいよっ!
……とにかく、本気で優勝を狙うならある程度の運も必要なんだよ」

≪まぁそれをされても勝てるような――シード枠を与えられてる上位入賞の常連組みたいになれるなら、実力は本物なの。
少なくともシード枠に居て何回か出場している子とかは、それが出来ているからこその成績なの≫

「規定回数『連勝』出来るだけのテクニックを培わないと、あっさり負けるしね。
今回の空海みたいに初出場するけど、めちゃくちゃ強いって奴と当たる可能性もあるし」





そうなった場合、顔が売れてるシード枠よりもずっと対処が面倒になる。

だって相手のスキルを見抜いたり戦術考えるのも、全部現場判断でやらなきゃいけないし。

もしくは前年までは目立ってなかったけど……というパターンもある。



どっちにしてもちゃんとした地力が必要なのよ。それがないならこの大会は勝ち進めない。





「というわけで、魔法訓練で基礎的なとこが出来たら速攻で実戦訓練に入る。
それで少しばかり地獄を見てもらった上で戦闘の勘を身に着けてもらおうか。
……大丈夫。うちには幸いな事にディードやティアナが居るから」

「まぁ時間無いからバシバシ進んでいかなきゃいけないのは分かるが……ティアナさんも巻き込むのかよ。しかも地獄って」

「ティアナはインフィニティ・ガンモードの練習相手が必要だからね。てーかアレなんとか出来るなら射撃戦対策はバッチリ。
あとは……あー、デバイスだなぁ。一応どんなのがいいかとかは考えて」

「剣っ! てか銃も使いてぇっ!」



……即答かい。それで目をキラキラさせて……心が痛むのはどうしてだろう。



「でもね空海、射撃戦は簡単なように見えて」





言いかけて僕は言葉を止めて、歩きながら空海を改めて見る。……まぁ本人の気持ちが大事だしなぁ。

うん、これでいっか。結果を出す事や勝つ事も大事だけど、その前にまず好きになる事が大事だから。

魔法を――それを用いて戦うスポーツとしての戦いを好きになる事が、上達する近道だったりするのよ。



僕だってそうだよ? 好きこそものの上手なれっていうし、僕は苦笑気味に頷いた。





「よし、ならそれ関連で考えておく。戦闘スタイルがどう変化してもいいように基礎部分だけ作って……練習かな」

「あぁ、頼む。あー、でも俺お礼なんも出来ねぇな」

「とりあえずお金はいいよ。その代わり物でいいよ?
フェイトが出産間近だし、タオルとか紙おむつとかあると助かる」

「それでリクエストあるのかよっ! ……でもまぁ、了解。母さんにも相談していいの見繕うわ」





夕日の中、空海と僕をなんでか微笑ましく見ているあむと唯世は気にせずに僕達は歩く。

さて、とりあえず基礎部分だけは早めに作っておくか。時間もないしここは早めにだ。

それで空海の魔法戦闘の適正とかそう言うのも鑑みて機能を追加して……どんどん頭の中でアイディアを纏めていく。



……自分が前に出て戦うのも楽しいけど、こういうのも楽しいのかなと新しい喜びを見つけ出しているのかも知れない。










All kids have an egg in my soul



Heart Egg……The invisible I want my




『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第129話 『The key to shine/今はまだ見えない未来の自分への道筋』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



本日は学校がおやすみ。そんなわけで今日は久々にフェイトと楽しくおでかけ。

というか、ディードとややとリインも居る。シャーリーは……はやてとお仕事の打ち合わせです。

ティアナはティアナで秘密の修行をするとかなんとか。陽子と淳絡みかな。なんだかんだで仲良しなんだよねぇ。



今日僕達が来たのは、私立桜が丘高校。聖夜市にある高校の一つ。

本日はここで学園祭が行われるとかで、ややのお誘いでやって来た。

学校自体は白い校舎と大きな中庭があって、高校としては一般的。てーか普通の学校。



そんな中生徒がやっている出店などが多く出店していて、とても賑わっている。

僕はお腹の大きくなってきているフェイトと手を繋ぎつつ、みんなと学校の中に入る。

でも外部の人間の出入りも自由って思い切ってるよなぁ。最近だとそういうの禁止なのが多いのに。



なので何気に制服姿じゃない人も多いんだよね。僕達だけってわけじゃない。



ただその大半が卒業生や学校関係者なのは言うまでもないと思う。僕達が珍しいのよ。





「学園祭かぁ。懐かしいなぁ」

「あー、フェイトさんも学生時代はそういうのあったんですよねー」

「うん。まぁ仕事の関係であんまり参加出来なかったんだけど」



出来なかったねぇ。だからこそ今フェイトは、そんな自分が損してると思って涙目になるのよ。

なお、そんなフェイトを困った顔で見てるのは僕達全員。でも……自業自得な面がたくさんだしなぁ。



「でもやや、またなんでいきなりここなのさ」

「あ、それは私も気になっていました。やや、どうしてですか」

「あー、ここの学祭のライブが相当レベル高いって評判なんだー。
フェイトさんも多少は気晴らしとかする必要あるし、だったらーっと思って誘ったんだー。
ライブ見てるのが辛いならそれじゃなくて、劇やコーラスなんかもあるっぽいの」

「赤ちゃんが居る時は気晴らしをするのも胎教にはいいでちから。ややちゃんのママもやってたでち」

「そうだったんだ。……やや、ありがと」



さて、ここで一つおさらい。フェイトにお礼を言われて嬉しそうなややの家は両親と双子の弟達との五人暮らし。

だから妊婦や赤ちゃんの事もそれなりに詳しい。だからフェイトの事、かなり気遣ってくれるんだよね。あのね、そこはありがたい。



「でもライブかぁ。どんなのやるんだろう。学祭だからやっぱりこう……落ち着いた感じだよね?
もしくはメジャーな人達のコピーとかかな。私が学生の頃はそういう感じだったんだけど」

「とりあえずデスメタルとかそっち系統ではないとは思うですけど」

わー、どいてー!



……なんかすっごい覚えのある声と気配が右側から感じられたので、僕は素早くフェイトの横に出てその気配の頭を鷲掴み。

それによりこっちに突撃していた赤毛のバカは潰れたような悲鳴をあげて停止した。



「く、くるし」

「おのれは……なんでこの人ごみで走り回ってるのさっ! 危ないでしょうがっ!」



軽く突くようして手を離すと、ソイツは後ずさりしながら顔を押さえて僕達を驚いた顔で見る。



「ふぇ、ごめ……あれ、恭文先輩っ! というかやや先輩達もっ!」

「りっかちゃんっ!? こんなとこで何してるのかなー!」

「あ、今日はお休みだしなんかここでお祭りやるって聞いて遊びに」



そしてりっかは目を輝かせて、フェイトを見上げて僕の脇を通ってその手を掴んだ。



わー! 外国の人だー! しかもあの、妊婦さんっ!? 何ヶ月くらいですかー!

「え、その……あの」

「おのれは少し落ち着けっ!」





とりあえずフェイトが困ってるのでげんこつしてりっかの動きをストップさせた。



その上でそんな妊婦に突撃しようとしていた事をしっかりと説教して……しかしこんなとこで会うとは。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――フェイトさんとディードさんかぁ。恭文先輩のお姉さんですか?」



結局りっかも一緒に行動する事に……まぁフェイトとディードにも紹介した上で、また僕達は歩き出した。



「ううん、私はお嫁さんだよ」

「私は妹です」

「えっ!?」

「フェイトさん、恭文とはもうラブラブだしねー」

「本当に仲が良いんでちよ」



フェイト、なんかすっごい事言うのやめてー! りっかが驚いてるからっ! あとややとぺぺも後押しするなっ!



「だから将来的にはこの子達のパパにもなってもらうつもりだし。早く大きくなって欲しいなー」

「そう言いながら僕の頭撫でるのやめてもらえますっ!?
あとりっかもそんな仰天な目で僕を見るなっ! ……まぁ、もちろんそのつもりだけど」

「ありがと」



……きゃー! ついやらかしちゃったけどこれはマズいようなー! なんかすっごくマズいフラグ踏んだようなー!



「ほえー、なんかその……え?」

「りっかちゃん、愛の形は人それぞれなのです。りっかちゃんももう少し大人になれば分かるですよ」

「分かりますか?」

「もちろんなのです」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヤ、ヤバい。凄い緊張してる。あのよく分かんない異常現象のせいで学園祭が延期した分、たくさん練習したはずなのに。



だからその、みんなで朝食代わりのおでんを買いに行っても私はこう……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! やっぱり慣れないー!





「澪ちゃん、大丈夫? 手が震えてるよー。カップの中のおでんも揺れてるよー」

「だ、だだだだだだだ……大丈夫。てゆうか唯、お前よく落ち着いてるな」

「いや、普通落ち着くだろ。あの妙な現象のせいでここまで伸びたんだし」

「その分いっぱい練習出来ましたし、私達的には良かったですけど……でもあれ、なんだったんでしょう」

「そうなのよねぇ。何かのテロとも言われたけど、世界中で同時にだもの」





本来この桜高学園祭は11月に行われる予定だったんだが、その直前に起きたあの異常事態のせいで延期になっていた。

というか、本当に意味が分からなかった。突然過去の悲しい記憶とかを全部思い出して泣きじゃくって動けなくなるんだぞ?

当然我が軽音部のメンバーである私、秋山澪とその他四人にその知人や家族も異常事態に巻き込まれた。



しかもそのせいで自分を省みた犯罪者が次々と警察に出頭するなんていうおかしい事態にもなったりもした。

……うん、世の中は混乱していた。その煽りを受けて、今年は学園祭を中止しようかという声もあがってたくらいだ。

だからせめてこの件の原因が何かがはっきりするまではと学校側は決めてたんだ。だけど依然原因は不明。



そこに度重なる生徒の強い要望が聞き届けられる形で、12月の今開催される事になった。

でもそこはほんと、中止にならなくてよかったよ。だって……あぁそうだ。だって今年が私達にとって最後の学祭だから。

でもでも、だからこそ余計に緊張もするわけでー。あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! やっぱ無理ー!





「あ、わたし分かったっ!」

「ほう。言ってみろ、唯」

「……悪の組織と正義の味方があの日に最終決戦してたんだよっ!
その結果敵の秘密兵器が発動して、世界は一気に滅亡の危機に……!」

「そうかっ! ならあたし達はみんなその正義の味方に救われたんだなっ!?」

「ないない。二人とも漫画の見過ぎだ」



全く、この二人は……もうすぐ最後の学祭ライブだっていうのにどうしてこんなにいつも通りなのか。



「ホントです。そもそも正義の味方とか悪の組織とか非現実的です。
それに悲しい事思い出して泣きじゃくってしまうだけで世界が滅びるなんてありえません」

「――え、ないの? 巨大ロボとかそういうのが出たり」

「むぎ先輩、信じちゃってたんですかっ!?」



……凄いいつもの調子だ。あの、やたら緊張してるあたしが悪いのか? うん、知ってた。



「まぁそういうわけだから」

「どういうわけだ」

「少し落ち着きなって」





律が私の背中を右手でぽんと軽く叩く。うん、さほど強くはなかった。



でも体勢が前のめり気味だった私はそのためにコケてしまい、倒れてしまう。



同時に手に持っていたカップが私の手を離れて宙を舞う。





「あ」

「おでんが……空をっ!」





そしておでんは汁と具ごとたまたま前を歩いていた男の子の頭にかかった。



うん、そう思った。でもその子は素早く羽織っていたコートを脱いで、それを振るって汁と具を全て受け止めた。



そうして隣に居た金髪の女の人も守ってコートを下げる。……な、なんかスゴいの見た気がする。





「おぉー!」

「早業……って、そうじゃないわよねっ! あの、大丈夫で」





むぎが声をかけたその瞬間、その子の頭にカップが乗った。そして僅かに汁が垂れる。



その子は軽く後ろを振り向きつつ、私達を見ながら拳をポキポキと鳴らして笑いかけた。



その笑顔がたまらなく怖くて、一気に震えが走ってしまった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『――本当にごめんなさいっ!』





そして僕のコートはおでん塗れになったために、洗った上でここ――軽音部の部室の窓側に干している。

ついでに髪もなぜか置いてある給湯器のお湯で洗わせてもらった。何気におでんの汁塗れだったし。

とにかくそんな状況で僕達に頭を下げるのは、ここの軽音部のメンバー達。もう慌ててここに連れていかれた。



部屋は学校の最上階で妊婦なフェイトには辛い階段登りがあったけど、実に丁寧なエスコートのおかげで大丈夫だった。



部屋は木製で青いベンチ型の椅子にテーブルと黒板と機材……ここ占領してるのか。結構良い立地だなぁ。





「いや、まぁ……コートは予備もあるし」



ズボンの後ろポケットにたたんだ状態で入れていたコートを素早く取り出して広げると、目の前の五人がなぜか驚いた顔をした。



「フェイトや他のみんなにも被害はなかったし特に問題は……ねぇ?」

「そ、そっかぁ。君、かなり準備が良いんだね」

「てゆうかただ者ではじゃないよな。さっきのアレも平然と防いだし」

「いや、あれくらいは普通だけど。植木鉢や鉄骨や看板が落ちてくるのに比べたら平気だし」



あれ、なんで全員気の毒そうな目で僕を見るの? なんかおかしくないかな。

それでフェイトは極々普通に僕の頭を撫でないで欲しい。そこからどうしてハグに移行するのかな。



「え、えっとその」

「あー、気にしなくて大丈夫ですよー? 恭文すっごく運が悪いのー」

「だからその、恭文さんは危険察知能力が極めて高くて……あれくらいなら極々普通な事で。
本当に運が悪い時はさっき言ったような事も平然と起きますし」

「そ、そうなんですか。……君、私が言うのもアレだけど強く生きるんだぞ?」

「きっと良い事があるわ。運が悪いままなんてありえないもの。バイオリズムってあるんだから」



いや、だからなんで僕は慰められる? 別にもういつもの事だし気にして……あれ、何か間違ってるのかな。



「恭文、これはしょうがない」

「もう私達は慣れましたけど、普通の方にとっては衝撃的ですから」

「周囲に居る奴に巻き添えがない分、悲惨さが増してるようなイメージもあるしな。てーかお前が慣れ過ぎだ」

「どんだけ不運に見舞われてたんでちか。さっきのあれも極々普通に防いだでちゅち」



しゅごキャラーズの鋭い突っ込みは気にせず、僕は出された紅茶を飲んで視線を逸らす。

……あー、今日もいい天気だなぁ。でもフェイトのハグはまだ止まらないなぁ。



「てーか唯、どうしたー? そんなマジマジとこの人達の事見て」

「もしかして先輩のお知り合いなんですか?」



おでこを出した髪型の『りつ』と黒髪ツインテールの『あずにゃん』と呼ばれた子が、そう言って仲間の一人を怪訝そうに見る。



「ううん、そうじゃなくて……ねぇねぇ、その妖精みたいなのって」

『……気のせいです』

「え、でも……あ、隠れちゃった」



ちょっとちょっと、極々普通にこの栗色ボブロング髪のお姉さんはしゅごキャラ見えてるのっ!? てーかホントこのパターン多いしっ!



「ごめんなさい。唯は少々夢見がちというかボケたところがありまして。
……あ、自己紹介遅れました。私は桜高3年で軽音部所属の秋山澪です」



そう言ってフェイトやディードに頭を下げるのは、黒髪ロングのお姉さん。



「あたしは田井中律ー。同じく3年で一応軽音部の部長でーす」

「私は琴吹紬。同じく3年でみんなからはむぎって呼ばれてます」



でこ出しに続けたのは金色ロングのお姉さん。というわけで、残るはツインテールとしゅごキャラ見える人だよ。



「私は2年の中野梓です。それでこの人が」

「平沢唯です。あ、わたしも3年なんだー。よろしくお願いします」

「うん、よろしくね。あ、私はフェイト・T・蒼凪。この子が」

「蒼凪恭文。フェイトとディード以外は全員聖夜学園の生徒なの」

「聖夜学園……あぁ、ご近所さんなんだな」



そこからは僕達の自己紹介なので、割愛させてもらう。まぁおなじみメンバーだしね。



「あのあの、けいおん部って何をやるんですか?」



それで自己紹介も終わったところで、元気よくそんな事を聞いて来たのはりっか。



「あぁ、けいおん部というのは」

わー! この子可愛いー!



そう言ってりっかは椅子から立って近くの水槽の亀に……ってちょっとー!?



「こっちの話を完全無視っ!?」

「こらりっかっ! 自分から質問しといてそれはないでしょうがっ!
……あぁもうホントごめんなさい。りっか、どうも落ち着きが無い上に自由な子で」

「あー、いやいや。あたしらの周りにも」



部長さんはそう言いながら、唯さんの方を……僕年上だけど、一応敬語呼びは基本。とにかく唯さんの方を見る。



「ちょうど同じ感じのが居るから問題ないよ」

「――へー、この子トンちゃんって言うんですか」

「そうだよー。トンちゃんもわたし達軽音部の仲間なのー。
ほら、ブタ鼻なところがかわいいでしょ? だからトンちゃん」

「……みたいですね」



うわぁ、なんか極々自然に意気投合してるし。でも質問とかそういうの置いてけぼりってどういう事だろ。



「あ、分かります分かります。でもちゃんと手入れしてるんですねー。水槽がホント綺麗」



りっかは水槽の底で自分を見る手の平サイズの亀を見ながら、声を弾ませていた。



「だからこの子もすっごく気持ち良さそう。それに元気な感じだし、お世話が行き届いてるー」

「もちろんだよ。餌やりも……あれれ、りっかちゃんそういうの詳しいのかなぁ」

「はい。あたしも家でペット」



そこまで言いかけて、なぜかりっかが僕達の方を気にするように見た。その意図が分からなくて首を傾げる。



「えっと――ナマズ飼ってて、水槽の掃除とか餌やりとかも全部やってて。
だから分かるんです。トンちゃん、ちゃんとお世話されて元気だなーって」

「そうなんだー。りっかちゃんは良い子だねー」

「えへへー」



まぁあっちで意気投合している二人は置いておこう。でもあの二人はホントに今日が初対面? 息合い過ぎだって。



「ですがみなさん、軽音部というのはなんでしょうか」

「あ、ディードちゃんも気になってたかぁ」

「おい律、初対面なのにちゃん付けは」

「気にしないでください。私はあなた達よりは年下ですし。それで」

「簡単に言えばバンドだよ。あたしがドラムでむぎがキーボード。
澪がベースで梓と唯がギターやってるんだ。あ、ボーカルは唯がメイン」



ディードはなんとなく分かったようだけど、それでもこの手の事には触れてないのか首を傾げていた。

というかフェイトも……フェイト、フェイトの学生生活は本当に貧しかった……あれ、なんか後ろでギターの音が。



「わー! 凄い凄いー! 唯さんプロのミュージシャンみたいですー!」

「いやぁ、そんな事ないよー! わたしなんてまだまだでー!」

『いつの間にそっち移動したっ!?』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いいディード、まずバンドで……えっと、ギターは分かるよね」

「はい。さっき唯さんが弾いていた楽器ですよね」

「そうだよ。バンドの中ではメインに見られがちなポジションだね」

「君、音楽の事とか詳しいの?」



あはははは、年上なのに年下扱いってキツいよねー。最近忘れてたわ。

とにかく梓さんに頷きつつ、やっぱりはしゃいでるあの二人を見る。



「知り合いにピアノ習ってた事もあって、だいたいの事は」

「あ、そう言えばそうだったよね。ヤスフミ、ピアノに関してはかなり上手だし」

「へぇ、そうなのね。じゃあベースがなにか分かるかしら」

「ベースは低音パートを演奏する弦楽器ですよね」



構造と演奏方法などの違いで、ギターと比べると1オクターブから2オクターブほど低い音域を出す楽器がベース。

それで高音域のギターの音を支えて、演奏に厚みを持たせるのがベースの役割。つまり縁の下の力持ち。



「そうそう。澪は実は目立つのが苦手だからベースを」

「初対面の人になにとんでもないネタばらししようとしてるんだっ! 頼むからやめてくれー!」

「あらいいじゃない。私はそういう澪ちゃんも素敵だと思うな」

「むぎもやめてくれー!」



あははは、仲がよろしい事で。なんというか、微笑ましくて逆に安心出来ちゃうなぁ。



「それでドラムとキーボード、ドラムは……難しいよ? 足と両手同時に動かして演奏するから」

「え、恭文やった事あるのー?」

「うん。ややも知ってるサリさんが縁でね。ただ僕はその時キーボードメインだったけど」

『しかもさりげなくバンド経験者っ!?』

「いや、経験って言ってもヘルプみたいなものですから」



以前にもお世話になったサバゲー同好会のみんながやってるバンドのヘルプだね。

それでサリさんはギターで僕はキーボードで……大変だった。特に練習時間が一日って辺りで――後ろからまたギターの音が。



君を見てるとーいつもハートドキドキー♪ 揺れる思いはマシュマロみたいにふーわふわー♪

「わー、唯さん凄い凄いー! ギター弾きながらうたってるー!」



あぁ、なんかうたってくれてるのね。だから……え、ちょっと待って。



「あれ、なんかすっごいファンシーな歌詞が聴こえたような」

「フェイトも聴こえた? 実は僕もだよ。あれれ、これは……え?」

「あ、それは澪作詞だからなぁ。澪の歌詞はこう、ファンシーというかスイーツというか」

「いや、普通だ……って、なんでみんな目を逸らすー!?」



なんて言っている間に曲調がまた別なものに変わった。僕達の視線は嬉しそうなりっかとギターを弾き続ける唯さんに集まってた。



1・2・3・4! ごーはーんー!

「ごーはーんー!」

「わわ、今度はご飯の歌っ!?」

「またバリエーションが広いですね」

「それは唯ちゃん作詞なのよ。ご飯は凄いーって歌なの」



わぁ、なんか凄い。という事は部活の中でコピーとかそういうのじゃなくてオリジナル楽曲作ってうたってるわけでしょ?

しかもあの演奏を聞くに相当レベル高いし――僕は自然とややと顔を見合わせていた。



「ねね、もしかしてみなさんがレベルの高いライブを学祭でやるバンドさんなのー?」

「へ?」

「いや、僕達ややからそう聞いて、見てみようって来たんですよ。えっと、バンド名が……なんだっけ」

「えっとね、放課後ティータイムだよ」



自然と僕達の視線は後ろで騒いでる二人はそれとして残り四人の軽音部に集まった。



「あぁ、それなら私達だよ。軽音部ってだけだと活動にちょっと支障が出るから」

「え、じゃあみんなあたし達のライブ見に? いやぁ、こりゃもう……なんか恥ずかしいねおいっ!」

「律、分かったから叩くな。というか私も……ねぇ?」

「うわ、まさかオリジナルの曲作詞作曲してやってるとは思わなかった。それ凄いじゃないですか」

「……恭文さん、そうなんですか?」



やっぱりそこの辺りが分からないらしいディードはリイン共々首を傾げていたので、頷いて肯定した。



「うん。だいたいバンドって最初はコピーバンド――別のアーティストの曲をやったりするしね。
ちなみに僕がサリさんの手伝いした時はそうだった」

「えー、それって盗作っていうのじゃないのー?」

「じゃないの。あくまでもそれでお金を取らないで、ちゃんと別の人の曲というのをアピールするなら問題ない。
もうちょい言うと、バンドとかやり始めただいたいの人はまずそういうとこから始めていく事が多い」





作曲や作詞なんて、それなりに勉強してなかったら出来るわけがない。特にバンドの場合チーム単位で曲作るしさぁ。

それぞれのパート分けや歌詞と曲の調整なんかも考えると、一曲作る労力は本当にハンパない。

ぶっちゃけプロのミュージシャンがたまに『○ヶ月連続リリース』とかやるでしょ? あれはね、絶対死ねると思う。



ううん、それでどうして生きていられるのかが疑問なくらいにエネルギーを消耗すると言った方が正しいかも。





「だから学祭でライブやる場合大半がそれだよ? 例えばフェイトが通ってた学校の学祭でもそうだった」

「うん、そうなんだ。でも私……あぅ」



フェイトはそこで涙目になって項垂れた。



「あの、君のお姉さんがなんだか落ち込んでるんだが」

「気にしないでください。フェイトはバイトにかまけて学生生活を蔑ろにしまくってたんですよ。今更そこを後悔してるだけです。
……それで話を戻すけど、そういうんじゃなくて自分達で曲作ってバンドやるって相当気力いるよ? かなり本格的と言ってもいい」

「わぁ、ならみなさん凄いのです」

「いや、まぁ……そんなでもないよ? あたしら基本的に毎日お茶ばっかしてるし」



そう言ってむぎさんを抜いた三人は軽く苦笑い気味。



「もしかしたら練習しない日の方が多いかも知れませんよね」

「だな。最初は楽器を揃えるところから始めて、なんだかんだで……別に私達は天才とかそういうのでもないのにな」

「だよねー。でもお茶しながらのんびりやってくのがあたしらのペースみたいなもんだし。
てゆうか、放課後ティータイムってバンド名もそこからつけたんだよ。もうあたしらにぴったりーって感じ?」



照れたように笑う四人を見て、僕達は……ううん、違う。ディードがみんなをまじまじと見ていた。

その瞳の中にどこか……うーん、憧れるというか羨むような色が見えたのは気のせいじゃない。



「あの」

「フェイト、どうした?」

「それなら私達かなりお邪魔なんじゃ」



照れる四人はそれとして、フェイトが軽く首を傾げた。



「だってほら、ライブ直前なわけだし」

「……あ、そう言えば。つい長居してしまいましたけど」

「あー、大丈夫です。ご迷惑おかけしたお詫びもしたかったし、まだ会場入りまで時間があるし。なにより」



澪さんは少し呆れ気味というか微笑ましそうな顔で僕の背後で未だに仲良しな二人を見た。



「――じゃありっかちゃんもやってみる? ほれほれ、ギー太貸してあげるからー」

「えー、いいんですか? でもあたしに出来るかなぁ。でも、ギー太?」

「あ、このギターの名前だよー。それに大丈夫だよー。
わたしだってちょっとずつ練習してうまくなったんだからー」

「……唯がりっかちゃん気に入ったのか全然離さないしなぁ」

「だよなー。ああいうところを見ると唯もお姉さんキャラなんだけど」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あの後、結局紅茶をいただきつつのんびりお話。ただ早々に僕達は部室を後にする事にした。



りっかは離れがたい感じだったけど、それでも出ないと迷惑なので強引に引っ張ってきました。





「それじゃあお世話になりました。あ、お茶美味しかったです」

「いえー。というより、私達がご迷惑おかけしちゃいまいたから」

「あの唯さん、みなさんもライブ頑張ってくださいっ! あたし応援してますっ!」

「ありがとー。絶対りっかちゃんやみんなが楽しくなれるようなライブにするねー」





――それで現在、学校の中を軽く見て回って露天でちょっとご飯も食べて、僕達はライブが行われる講堂にやって来た。

早めにやって来て席を確保した上で……妊婦も居るからさすがに立ち見はなぁ。とにかく早めに着席。

フェイトには持ってきていたクッションの上に座ってもらってお尻を保護。そうこうしている間に出し物はスタート。



劇や合唱にブラスバンドや日本舞踊などもあって、結構バリエーションに富んでいる。

どうやら一日目はクラス毎の出し物で、二日目な今日は部活毎の出し物が講堂では見られるらしい。

あ、ここは軽音部メンバーの情報だね。それで前日で劇をやって大変だったと言ってたっけなぁ。



僕はフェイトの手を握りつつ、状態を気にしつつも二人でそれぞれの演目を楽しんでた。ただ気になるのが、ディード。

ディードが微妙に口数少なかった。というか、結構な頻度で平沢唯とギー太をジッと見ていた。

何気に興味あるのかなぁと思った。というか、現に今もだよ。今も舞台の上の生徒達をマジマジと見てる。



これは……もしかして学校生活そのものに対して興味を持ってるとかかな。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



学校生活というものに関して、実は今のところ興味がなかった。――いや、これは正確じゃないか。

興味がないというよりは、どこか不明瞭なものがあって何が楽しいのだろうというずっと考えていた。

そこまで考えて、私は壇上で続く日本舞踊を見つつ笑ってしまった。というか、これは当たり前だ。



だって私は今の今まで学校というものに行った事もなく、その中身に触れた事がないんだから。

知らない世界は、知りたいと思う世界はこんなに間近にあった。もしも……あぁ、そうだ。

もしもこの世界に飛び込んだら、一体どんな景色が見えるんだろう。今、自然と胸が高鳴っていく。



私と外見的には同年代の生徒達の輝く目を見て、私はこの世界の事を知りたいと願っている。



高鳴る胸が少し苦しくなっていると、日本舞踊は終了。次は……唯さん達のライブが始まる。





「あ、そろそろアレ着ないとー」

「そういやそうだったね。えっと、フェイトは……ほい」



恭文さんはニコニコ顔であるものを取り出して、フェイトさんの前にかける。



「うし、これで完了」

「あ、あははは……ありがと」

「まぁフェイトさんは妊娠中ですから、しょうがないのです。入らないのですよ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――うし、準備万端だな」





フェイトさん達一行が気を使って早めに出てくれたおかげで……いや、もうそこは申し訳ないやらありがたいやら。



とにかくあたし達はかなり余裕を持って桜高内にある講堂に入って、機材も持ち込んで準備は万端。



音響設備の調整も出来たし、楽器も設置。あとは幕が上がってステージスタートって段階になるわけだよー。





「りっかちゃんも恭文くん達も、見てくれてるかなー」

「唯先輩、まずりっかちゃんなんですね。というか、すっかり仲良しですよね」

「そりゃあもう。憂とはまた違うベクトルが愛らしくて愛らしくてー」



……あー、憂ってのは今ギターを抱えてる唯の妹だ。今年2年の女の子でこの学校の生徒。

唯とは真逆と言っても良いほどに気配りが出来てしっかりしている妹さんで、あたし達とも仲良し。



「でも学園祭ライブも三回目なんだよねー」

「そうだよなぁ。2年前は初めてですっごく緊張したっけ」

――2年前



2時方向、マイクの前に待機しているうちのベーシストが怯えた声で呟いた。てゆうか、表情まで固まって震え出してる。



「いやー! そういう事じゃなくってー!」





――説明しよう。2年前秋山澪は二つのトラウマを負った。一つはこの場でメインボーカルを務めた事。

うちのメインボーカルは唯なんだけど、練習し過ぎで声枯らしちゃったんだよ。でも他にうたえる奴が居なかった。

その当時は10時方向に居る梓もいなくてなぁ。でも澪は昔っから恥ずかしがり屋で、相当嫌がってた。



それでもうたい切ってくれたんだけど、その直後に壇上でコケて……まぁその、着ている衣装がスカートだったんだよ。

しかもスパッツとか装着してなかったせいで、シマシマのアレが客席に丸見えという悲劇が起こった。

……これが二つ目だ。本人的には封印したい記憶らしく、ちょっと思い出すだけで今のように顔を真っ青にする。





「ほらー! でも去年は」

わたしが風邪引いた上に家にギー太忘れたよね



それで次はお前かいっ! そんな項垂れて落ち込むなっつーのっ!



あの時は、本当に申し訳なく

「いや、その……唯落ち着けってっ!」

『さぁみなさんお待ちかね。桜高祭の目玉イベント――放課後ティータイムの演奏です』



あ、今のナレーションはあたし達の同級生で唯の幼馴染の子の声。ちなみに生徒会長。



「ちょっとちょっと……この状況でハードル上げるなよー」

もう嫌だ、あんなの嫌だ……!

「それでお前も際限なく落ち込むなー」

「だ、大丈夫。大丈夫。二度あることは三度あるって言うし」

「唯、それは全く慰めになってないからな?」





あたしがツッコんだのを合図としたわけじゃないんだろうけど、唯が足元のコードに引っかかって尻餅をついた。



それと同時に……あ、ヤバい。断幕が上がった。当然客席からは自分達に背中を向けてコケた唯の姿が丸見え。



唯は慌てて起き上がってマイク前に立つ。あたしらはフォローしたくても出来る状況じゃ……あれ?





いや、すいませんねぇ……あれ



マイク前でヘコヘコする唯もそうだし、あたしも澪達も壇上から講堂の中を見て言葉を失った。

あ、説明忘れてたけど今のあたし達の格好は上半身オリジナルTシャツで身を包んでる。

なお、作成したのはうちの顧問。こういうのに気が利くというか、大好きな人なんだよ。



それでデザインはシンプルに白の生地の胸元に『HTT(放課後ティータイム)』のロゴ入り。



アンダーの上からそれ着て決めてるって感じなんだけど、講堂に居る人達のほとんどがそのシャツ着てるんだよ。





「え、なにこれっ!?」

「みんな、私達と同じTシャツ着てますよねっ!」

さぁみなさん



驚いてるあたし達は気にせずに舞台の上手から同じような服装で出てくるのは、栗色ショートカットの髪にメガネっ子な生徒会長。



もう一度盛大な拍手を

「のどかちゃんっ!?」

「ちょっとのどか、なにやってるんだよっ!」



こちらに顔だけ振り向いたのは、真鍋和(まなべのどか)。さっきも説明したけど生徒会長。



「なし崩し的だけど、秋山澪ファンクラブの会長引き受けたしね」

「じゃ、じゃあみんなが着てるTシャツはっ!」

「ライブ前にみんなに配ったのよ。そこの辺りはさわ子先生の協力もあって」



あ、さわ子先生ってのが軽音部の顧問……なんかあたし、説明してばっかだな。

とにかくこれは全部先生やまどかのおかげって事か。あぁもう、なんか嬉しくなってきたし。唯に至っては涙ぐんでるし。



「さわちゃんありがとうっ!」

「ありがとうございますっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



いやぁ、なんか極々普通に軽音部って愛されてるんだねぇ。しかも壇上で全員揃って涙ぐんでるし。



とりあえず飛び上がりそうなりっかはリインとややが押さえてくれてるから安心するとして、僕はフェイトの手を握りながらライブに集中。





――み、みなさんこんにちは。放課後ティータイムです……ぐす



それでやっぱり泣くんかい。



もうわたし達の方がみなさんに色々されちゃって、感動で泣きそうです

「唯ー、しっかりー」

「もう泣いてるよー。というか、鼻水出てるー」



観客からも声があがった。同じクラスの生徒かなにかな。



それじゃあ一曲目行きますっ! ――ご飯はおかずっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――ライブは全三曲で終了。うん、しょうがないよね。だって放課後ティータイムだけのステージじゃないし。



その後の出し物も堪能しつつ、僕達は講堂を後にした。それでもう夕方。学園祭も終わりに近づく中、僕達は校門を目指す。





「あー、楽しかったですねー。ライブすっごい盛り上がりでしたし」

「ですよねー。唯さん、カッコ良かったなぁ。……よーし、あたしもライブやるー」

「ややもややもー。ギターでじゃじゃじゃーんってうたうのー」



はしゃぐ末っ子トリオを微笑ましく見つつ、僕とフェイトは二人でマンモスのお肉という……これ美味しいな。

ひき肉固めて焼いてるのとはまた違うし、薄いお肉を重ねてるのとも違うし、どうやって作ってんだろこれ。



「ヤスフミ、今日は楽しかったね。というか、いい気分転換になった」

「ん、僕も。学校って……いいものなんだよね」



足を止めて振り返って、夕焼けに染まる白い校舎を見る。そこはフェイトも同じく。



「うーん、やっぱ色々もったいなかったかな」

「ヤスフミはまだ大丈夫だよ。私はその……ねぇ、今からでも高校入るのってありかな」



あれ、フェイトはどうしてそんなに落ち込むの? ほらほら、テンションを上げていこうよ。

なんで美味しいお肉かじりながらそんなとんでも発言を口にするのよ。



「私、自分のこれまでの人生とかそういうのを鑑みるとこう、本気で考え直した方がいいんじゃないかって」

「今更だよ、フェイト。そういう風に後悔した事を喜んでいこうか」

「さすがに喜べないよー! うぅ、過去の私のバカー」

「――あの」



横から疑問顔でディードが声をかけてきたので、僕とフェイトはそちらを見る。



「ん、なにディード」

「恭文さんのコートはいいのでしょうか」

「「……あ」」



自然と全員で足を止めてしまった。てゆうかあの、しまった。うん、そうだよね。だってコート未だに干しっぱだし。



「あー、そうだそうだよっ! 恭文のコート部室にそのままー!」

「そう言えば乾かなかったから預けてたですよね。なら戻るですよ」

「そうだね。あ、それでライブとっても良かったって言いたいな。あの……うん、本当に」

「……フェイトお嬢様が言うと実感がこもり過ぎて怖いですね」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、踵を返して僕達は再びあの部室を目指して校舎の中に入る。

フェイトも僕がサポートして慎重に上に上がって……あれ、入り口に人が開いてる。

首を傾げつつも揃って中に入ると、そこには生徒会長の子と先生が居た。



先生は暖色系のスーツの上から例のTシャツを着て、栗色の髪をロングにしたメガネの女性。



お名前は山中さわ子先生。軽音部の顧問で、その人と生徒会長が僕達に気づいて入り口に視線を向ける。





「あら、あなた達は……えっと」



首を傾げる二人はそれとして、僕は部屋を見渡してあの五人の姿を見つけた。



「唯さんみなさんっ! ライブとってもとっても素敵」

「はい、ちょっと黙ってようね」



僕達の脇から飛び出して部室に入ったりっかの口を素早く空いている手で防ぐ。



「ふー、ふがふがー!」

「いいからみんな静かに。ほれ、窓際の方」

「窓際ですか? ――あぁ、なるほど」

「うんうん、りっかちゃんも静かにシーだよー? 起こしちゃ悪いもん」





夕日が差し込む窓際近くで、Tシャツ姿の五人が疲れきったように寝ている。



でも、全員笑顔を浮かべていて良い表情。というか、泣いたのかどうか分からないけど目の下に涙の痕が見える。



それに納得したらしく黙ったりっかの口元から手を離して、やっぱり疑問顔な二人に目を向ける。





「あー、すみません。実は僕達かくかくしかじか――というわけでして」

「あぁ、それでなのね。もうホントごめんなさい。うちの子達が迷惑かけちゃったみたいで」

「私もヤスフミもみんなも怪我とかは特にありませんでしたし、そこは大丈夫です。
……でもこれだと出直した方がいいですよね。あの子達寝ちゃってるし」

「いえ、それなら私権限でお返ししますから。えっと、アレでいいんですよね」



先生が五人が寝ているところとはまた違う窓の近くに干しているコートを指差すので、僕達は頷く。



「じゃああの……伝言を。起こしちゃ悪いですし僕達はこのまま帰りますから。
――ライブ、すっごく良かったって伝えてもらえますか? なお、全員の総意で」

「えぇ、必ず伝えておくわ。きっとみんな、喜ぶと思う」



先生は嬉しそうに頷きながら、改めて五人に視線を向ける。五人を見ながら、先生の表情がさっきとはまた違う温かみを持った。




「特に3年生の四人は。四人にとっては最後の学祭ライブだったから」

「そう、なんですよね」





コートを返してもらった上で、改めて僕達は桜高を出た。ただやっぱり、ディードの様子が気になった。



ディードは五人を見ている最中も考え込むような顔をしていた。それもかなり真剣にだよ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、気になったからちょっとツッコむ事にした。現在は夜――もう寝る時間。

フェイトにまたも平謝りする形で、僕はディードと添い寝タイム。まぁその、二人っきりの方が良いかと思って。

あくまでも妹というか家族とのスキンシップとは分かっていても、真面目にドキドキするんですけど。



だってディードは身体だけならもう充分大人。それなりに気を使う必要もあるわけだよ。





「恭文さんの方から誘ってくれるとは、思いませんでした」

「いや、まぁ……それはね? でもディード、今日どうしたのかな」

「と言いますと」

「なんだかやたら真剣にライブやあの子達の事見てたから。何か感じる事でもあった?」



少し優しくそう聞くと、僕の左隣のディードは僕に身体をそっと寄せてくる。

その時にディードの大きめな胸が触れるけど、ここはその……気にしない。



「――どうして、軽音部のみなさんはあんなに輝けるんでしょうか」

「うん?」

「ただ好きな事に打ち込んで……そう、それだけだと思うんです。つまりその……よく分からないです。
だけど今日ライブを見ていてずっと胸が震えているんです。それだけは確かに事実で」



ディードは左手で僕のパジャマの胸元を軽く掴んで、戸惑いを含んでいるけど嬉しそうな顔で僕を見上げた。



「恭文さん」

「なにかな」

「私……聖夜学園に通うの、少し考え直したいです」



僕はとりあえず何も言わずに、ディードの言葉に頷いた。



「それで恭文さんの後を追いかけると私、自分で自分の道を選べなくなるんじゃないかって……少し怖くなってしまって。
そうなったらあの人達のように好きな事を打ち込んでも、輝く事なんて出来なくて……ごめんなさい、めちゃくちゃですね」

「そうだね。でもいいんじゃないかな」



僕は寝返りを打ってから身体をディードに向けて、そのままディードを両手で抱き締めた。



「きっと今日ね、ディードにとっては言葉に出来ないくらい大きな何かを感じたんだよ」



そう言いながら右手で、驚いたように息を吐くディードの頭を撫でる。



「だからさ、ちょっとずつ考えて今めちゃくちゃなのがどんな形か、探していこうよ。
学校に通う事だけじゃなくて、色んな事を視野に入れた上でさ。僕も、手伝うから」

「……ありがとう、ございます」



ディードはそう言って、僕に思いっきり抱きついた。



「ううん、大丈夫。だってほら、僕……ディードの家族だもの」

「はい。それで将来的には妻になりますし」

「その野望はまだ継続中っ!?」

「もちろんです」



ディードは僕から身体を離して、少しおどけるような……うん、今まで見せた笑顔とはまた違う笑顔を僕に見せた。



「というより、責任を取ってもらえると嬉しいです。……私の心を奪ったのは事実なんですから」

「そ、それはその……ただディードに責任を取るとなるとフィアッセさんとかそっちも」

「ですがフィアッセさんは問題ないとの事では」

「あー、うん。改めてお話したしね」



うん、しましたよ? ただ以前フェイトに言われたように怒られたけど。『本気でお嫁にしたいと思ってくれなきゃ嫌だー』ってさ。

タイミング的にはあの最終決戦が終わってからかな。その時の事を思い出して、つい苦笑い。



「では私ともお話してください。今すぐでなくて、いいんです」



ディードはそのまま顔を近づけて、一度笑いかけてから僕の肩にまた顔を埋めた。



「あなたの後をただ追いかけるような道じゃなくて、胸を張って自分の選んだ道を進んで少し成長した私を見てからで」

「そ、その方がいいんだよね」

「えぇ。それも私の『なりたい自分』の一つですから。全部じゃないけど、一つです」





ごめんなさい。なんかやぶ蛇したと思う。ただ……ディードの力になっていく事はやめたり出来ない。

だってディード、ちょっと迷ってる感じもあるけど楽しそうだから。本当に何か大きなものを感じたんだと思う。

それはきっとディードにとってとても大切なもので、変わっていくきっかけでもあって……僕はそう感じた。



だってその事を話す時のディードの顔、本当に綺麗だもの。ディードの中のたまごの輝きが強くなってるのが分かるんだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして翌朝。なんだかんだで早起きな僕とディードは同じタイミングで目が覚めた。



まぁその、顔がめっちゃ近いけど気にしない。とにかくすぐにベッドから起き上がる。



それでその、二人で起き上がって気づいた事がある。だから声をあげるわけだよ。





なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

「……これは」



僕とディードの間にあった物に妙なデジャヴというか寒気を覚えている間に、ディードがそれを嬉しそうな顔で両手に取る。



「ちょっとちょっと、アンタ朝っぱらからうるさいわよっ!」

「ヤスフミ、どうしたのー!? あの、なにかあったのかなー!」





ごめん、何も答えられなかった。だって目の前の光景があんまりに衝撃的だったから。

だってあの……ディードの両手の中にある青の基本色に赤のダイヤ柄のたまごに僕達の視線は釘付けだったから。

いや、待て。これは違う……違うんだ、落ち着け。フェイトの時とはそういうのが色々違うから。



別に僕はディードと子作りとかしてないから、ここでこれが出てきても浮気にはならないんだ……!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――なるほど。それでディードは上機嫌だしなぎ君はヘコんでると。なぎ君、正直に言おうよ。そうすれば」



朝食の場でなんかふざけた事抜かすバカはデコピンで黙らせる。それで当然のように僕は隣のフェイトに泣きついた。

あ、今日の朝食はフレンチトーストとベーコンエッグと昨日の残りのコンソメ野菜スープです。



「フェイト、信じてー! 僕は本当に何もしてないのー! 世間様でABCと言われるような事は一切してないからー!」

「ヤスフミ、落ち着いてっ!? あの、さすがにいきなりそうなるなんて私も思わないからっ!
というかそれはおかしくないかなっ! そういう事したら必ずしゅごたま生まれるなんて絶対ないよっ!」

「まぁそれだとマジな子作りだもんね。てゆうか、昨日行ったっていう学園祭でなにかあった? ディードやたら上機嫌だったし」



僕にあらぬ疑いをかけたりはせずにティアナはトーストをかじりながら、やっぱりニコニコ顔のディードの方を見る。



「はい。私はまだまだ世間知らずなんだと痛感しまして」

「ふーん、なんか変わるきっかけはあったわけだ。てゆうか、タイミング悪くって感じならそんな動揺しなくていいのに。
もうちょっとしゃきっとしてなさいよ。アンタが下手に動揺するからシャーリーさんが痛みに震えているわけだし」

「やかましいわボケっ! 以前のあれこれを考えたら多少は動揺もするっつーのっ!」



そう、動揺する。だからその原因となった二人を見るわけだよ。ちなみに二人はあと一人と一緒に楽しげにご飯を食べている。



「なぁヒカリ、お前やっぱ食い過ぎじゃね?」

「そんな事はない。私は普通だ」

「いえ、普通ではありません。そのトーストも一体何枚目ですか」

「――まぁ言わんとする事は分かった。ヒカリとシオンのたまごが生まれた時もちょっと大変だったしね」

「うん、そうだね。ホントあの時はキモ抜かしたし」





とりあえずフェイトも信じてくれてるっぽいので、非常にありがたい。頭撫で撫でしてくれてるしー。

なお、この段階までずっと黙って僕を笑顔で見ているロリ要員は一切気にしない方向でいく。

あの、お願い。本当にあの子に関しては触れないで。あのね、視線がすっごい威圧的なのよ。



『なぜ私じゃなくてディードとなんですか? 順番おかしいですよね』って言ってるのが分かるの。



ヤバい、胃が痛い。フェイトが信じてくれるのは嬉しいけどその安心を全て砕くほどにあの視線が痛い。





「あ、そういや昨日私、実はなぎひこの家に行ってたんだけど」

「なぎひこ君の家に? ティア、またどうして」

「いや、まぁその……女子力強化のために、色々教わりに。ほら、アイツ無駄に能力高いし」



ティアナが苦笑いしてるのは、多分自分の女子力に自信がないせいだよ。うん、よく知ってる。

第101話でシャーリー共々見事に敗北したもんね。でもそれはしょうがないよ。だって向こうは女の子の勉強してたんだし。



「ティア、そこまで気にしてたんだ。うーん、ティアは充分女子力高いと思うんだけど。その、私とかに比べたら」

「いや、そうも言えないじゃないですか」



ティアナは困り顔でベーコンエッグをツツいて一口。



「ディードじゃないですけど、私もまだまだ世間知らずな部分もあるんだなぁと痛感もしてまして。
高校通うって決めたのも、エンブリオの事よりもっと見聞を広げる生き方をしたいなと言うのが」

「そっか。ティアは勉強家だから、やっぱりそういう方向でも頑張っちゃうんだね」

「まぁ私だって小さくて細々してるけど夢はありますし」



照れたように笑って、ティアナはそれをごまかすように白いカップに入ったスープを一口飲んで息を吐く。



「あ、それでその時に実はなぎひこの家の人から少し聞いた事があって」

「なにかな」

「なんかなでしこがもうすぐこっち戻ってくるそうなんですよ」

『――え?』





その声は真実を知っている僕とフェイト、そして今の今まで黙ってプレッシャーかけてくれたリインのもの。



そして事情を知らないティアナ達は首を傾げてるけど、この話がかなりマズい事態を意味するのはよーく理解出来た。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!





今日も今日とて休み明けなので登校する途中、何気なく目にした掲示板に張られている一枚のポスターがあたしの動きを止めた。



ポスターに映っているのは、桜色の着物を着て、和傘を持ってしとやかな表情をする一人の女の子。



その女の子は当然あたしの知っている顔で、だからその……ポスターに書かれてる内容とかも含めて仰天した。





「あむ、どうしたのよ。また朝から騒々し――これ」

「あー、これってアレだよねー。りまー」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あむちゃん、りまちゃんもおはよう」



緑色の掲示板の前で立ち尽くしているあむちゃんとりまちゃんを見つけて、声をかけつつ二人に駆け寄る。

するとあむちゃんが素早く僕の方に向き直り一気に接近して、両肩を強く掴んで来た。



「なぎひこ、あれど、どどどどどどどどどどどどどどど……どういう事っ!?」

「……はい?」

「あむ、落ち着けって。主語とか色んなものが抜け落ちてて、オレもナギーもさっぱりだぜ」

「だって……あぁもう、とにかくこれっ!」



あむちゃんにそのまま引きずられつつ掲示板の前に来た。あむちゃんは素早く左手で一枚のポスターを指差す。



「これ、どういう事かなっ! 藤咲流・舞踏発表会っ! 出演――藤咲なでしこってっ!」

「うぅっ!?」



し、しまった……! 昨日ティアナさんに聞かれた時点で気づくべきだったっ!

もう宣伝用のポスターとか張られててもおかしくないよねっ!? すぐにバレちゃうよねっ!



「なでしこ、日本に帰って来てるのっ!? なんで教えてくれなかったのっ!」

「いや、その」

「てゆうか、なんでなでしこも連絡くれないのかなっ! おかしいじゃんっ!」





それはね、あむちゃん……僕が今の今まで忘れてたからだよっ! だってなでしこは僕だしっ!



でもそれは言えないよねっ!? 言ったら……僕は自然とりまちゃんの方を見た。



それでまぁまぁ無駄とは思うけど、視線で『助けて』とSOS信号を送る。するとりまちゃんは『笑った』。





なーんでかしらねぇ



む、胸が痛い。てゆうかその、今の僕を困らせるような笑い通りに助けてくれないんだね。

それであむちゃんは凄く必死な顔で僕ににじり寄って来て、僕はついつい後ずさり。



「なでしこに会いたいよっ! ねぇなぎひこっ!」

「あ、あははは」

「……超バッドな展開だぜ」





とても気持ちの良い朝だったのに、そういう良い気分が全て吹き飛ぶような嵐が僕の目の前に迫っていた。



あぁっ! これどうすればいいのかなっ!? まさか全部告白……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!





(第130話へ続く)




















あとがき



恭文「はい、というわけでけいおんクロスです。……え、×たま出てない?
あははは、それやるとワンパターンなんで今回はなし。マジなゲストキャラ扱いです」

フェイト「ここをかなり悩んだんだよね。本日のお相手はフェイト・T・蒼凪と」

恭文「蒼凪恭文です。それでねフェイト、僕はマジで何もしてないのー」

フェイト「もう、ちゃんと分かってるよ。さすがに今の段階でそんな事になるとは思えないし」

恭文「フェイトー!」



(そして蒼い古き鉄は抱きつき……いつものパターンです)



フェイト「それで今回のお話は何気にディードがメインなんだよね」

恭文「というか、今後の進路話のきっかけ? ほら、さすがに中学生の扱いはアレ過ぎるし」

フェイト「一応あゆちゃんとか見てると大丈夫そうだけどね」

恭文「……あれはまた特殊だから」



(『うっさいしっ! てゆうかあたし……いつまで身長伸びるのー!?』)



恭文「さて、まぁ何かが進んだようであんまり進んでないような今回の話ですけど、最後で大穴が」

フェイト「……パーティーだと7話にやるアレだね」

恭文「アレだね。おそらく読者のみんなも待ち望んでいるであろうあのお話だよ。
それはもう凄い事になるよ。具体的にはなぎひこが地獄を見る」



(放送時間が短縮された三期の中でも神回と言っていいお話でしょう)



フェイト「というか、地獄を見ない要素がないよね。だって……これだし」

恭文「さて、次回なぎひこがどんな無様な様を見せてくれるでしょうか。
そこに期待しつつ本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪でした。と、とりあえずなぎひこ君は全部バラした方が良いと思うな」





(それが出来れば苦労しないけど……はてさて。
本日のED:ゆかな『傘になる』)










恭文「というわけで、僕も空海やみんなに負けないように鍛えないと」

フェイト「鍛えるの?」

恭文「うん。それでForce編でぽっと出な連中をフルボッコにするんだ」

フェイト「その発言はどうなのかなっ! というか、メタ過ぎないっ!?」

恭文「気にしない気にしない。というわけで、ごー」

???『みんなぁ……転身だぁっ!』

恭文「……というわけで、僕は気力の使い方を覚えます。さ、テレビ見て勉強だ」

フェイト「無理じゃないかなっ! あのね、これは無理だって言い切れるんだっ!」





(おしまい)




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