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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第128話 『Those who love Minor/ガーディアン見習い達の初仕事』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「さー、今日もスタートドキたまタイムー♪ 本日のお話はー?」

ミキ「無事にガーディアン見習いになったりっかとひかる。二人の初仕事のお話だよ」

スゥ「二人とも、小さくて可愛い子達をお世話するみたいですねぇ」



(立ち上がる画面に映るのは、色とりどりのアレとふわふわなアレ)



スゥ「二人のガーディアンとしての初仕事は、果たしてうまくいくんでしょうかぁ」

ミキ「ヘタをするとコレでクビ……とか?」

ラン「えー! そんなのダメだってー! と、とにかく注目の第128話、スタートだよー!」

ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



空海はご両親と午前様な協議の結果、魔法訓練とIMCS出場の許可をもぎ取った。

もちろん条件もあって、勉学に差し障りがないようにする事。あと……やるならトップを目指す事。

正直それは難しいと思いつつも僕は無駄に増えてしまった責任に頭を抱えてしまった。



とにかく空海のデバイス作りも並行した上で、空海に『ハッパ』をかけて魔法資質を解放。

まずはほんとに初級な魔力操作の訓練から始めていって練習していく事になる。

まぁそんなわけで、僕は空海とあむと唯世と朝早くに集まって早朝訓練しちゃうわけですよ。



唯世は魔法関係が使えないし因縁も解消されたけど、それでも『教えてもらった事を錆びつかせたくない』と言う。

だから唯世は唯世で格闘術をまた継続して教えていく事にした。ここは以前よりも本格的にだね。

そのために河原ジャージ姿で四人集まって、僕は準備運動後のクールダウンも込みで説明会を開くの。



生徒が三人に増えた事による重みを感じつつ、僕は今日も先生なキャラを出していく。





「空海、ぶっちゃけるけどIMCSは総合格闘技だよ」

「総合格闘技? えっと、Kー1とかそっち系統か」

「そうそう。IMCSのルール関係は」

「この間くれたレギュレーションブック読んでるから、ばっちり頭に入ってるぜ」



緑色のジャージの空海が楽し気に言うのを見て、少し安心。なお、これは空海だけに言ってるわけじゃない。



「そこはあむと唯世に教えてる格闘術も同じだよ。
だから空海にはまず二人と同じく、総合格闘技の基本を覚えてもらう」

「え、ちょっと待って。恭文、なんで魔法の格闘大会がKー1とかと同じなわけ?」

「というか、僕も同じってどういう事かな。ほら、僕は魔法が使えないわけだし」

「簡単だよ」



蒼のジャージな僕は右手を上げて、ビッと指を立てる。



「まずIMCSというか、今のミッドの格闘競技ないし魔法戦技は地球の総合格闘技と同じ道を進んでるんだ。
前に説明したDSAAの定めたルールだと、デバイスのリミッター解除やカートリッジの使用数、使う魔法の種類まで制限がかかってる」

≪現在のレギュレーションだと広域魔法も使用禁止ですし、一度の試合で使用できる魔法の種類も六つまでです。
それに関しても魔法の内容次第では二つ分ないし三つ分と数えられて、最悪二つとか一つの魔法しか使えません≫

「つー事はあれか? お前の得意技な凍華一閃とかは使えないし、ブレイクハウトは」

「ここの辺りは術式の内容次第だけど、ブレイクハウトだと三つ分以上に数えられるね。てーか試合ではそのままは使えないわ」



とにかく通常の魔導師戦とはまた違うのよ。魔力ないし装備での力押しが出来にくいルールになりつつある。

ここの辺りはDSAAが推進するストライクアーツやIMCSが、スポーツとして考えられているからだね。



「だからこそ術式やデバイスのポテンシャルではなく、魔導師自体の能力が勝負を決める。
でもそこで重要な要素がある。まず一つは……ストライクアーツの急激な普及と発達」

「……あぁ、なるほど。だからIMCSに出場するなら、総合格闘技の技術を覚える必要があるんだね」

「そういう事」

「え、唯世くんも恭文もちょっと待って。何が『なるほど』なわけ?」

「あのね、あむちゃん」



白のジャージを着ている唯世が、ピンクなジャージなあむの方を見る。



「ストライクアーツだと打撃や投げに関節技は、よっぽど危険な技ではない限り有効な競技でしょ?」

「あー、うん。夏休みの時に言ってたよね」

「それでストライクアーツをミッドでやっている人は、僕達が見たよりもずっとたくさん居るはず。
そんな人達が相馬君のようにIMCSにどんどん出場していったら、どうなるかな」



あむは最初は首を傾げてたけど、少し考えたら分かったらしく拍手を打った。



「あ、みんなストライクアーツやってる事になるじゃん」

「そうだよ。だから当然ストライクアーツをやっていない流派の人でも、その対策を整える必要がある」

「だがそれだけではあるまい。対策を整えるという事は、専門外でも総合格闘技にある程度精通する必要があるという事だ」



キセキの言葉に頷きつつ、唯世はまた改めて僕を見た。



「そういう事でいいよね、蒼凪君」

「うん。特に寝技や関節技の類は難易度が高い分、相手へのダメージ計算も大きいしね。
その手の技能を持っていない人間相手なら、当然ストライクアーツ経験者はそこを狙う。それでここが二つ目だよ」



立てていた右手の人差し指に続いて、僕は中指も立てる。



「そういう風に打撃・投げ・関節技ないし寝技に各選手が精通していくと、競技者全体で没個性化が加速するのよ」

「みんな同じって事ですかぁ?」

「みんなが総合格闘技の技を使えるようになっていったら、確かに同じになってしまうわね」

「うん。実戦とかならこういう現象はよっぽどの事がない限り起きないんだよ。完全になんでもありだからさ」





デバイスの機能もそうだし、カートリッジや魔法だって何種類でも使いたい放題。ルールがないのがルールとも言える。

でも競技の中の魔法戦技は違う。だからそのルールの中だと、横馬や師匠辺りは弱者に早変わりだよ。

もちろんシグナムさんやフェイトもだね。このメンバーはカートリッジやフルドライブと言った機能に頼る事が多いから。



それと同時に、剣術や武器を使った打撃は出来ても総合格闘が出来ないもの。護身レベルじゃあさっぱりだ。





「でもこれは競技。それと同時に異種格闘技戦でもある。ボクシングとか柔道とか、一つの技の中だけの話じゃない。
どんな技能を持った相手と戦うかも分からない上に、キツ目のレギュレーションの中で出来る最大限の事を求めていった結果」

「ミッドの格闘競技は総合格闘技化していったんだね。なら地球のそれと同じっていうのは」

「地球の格闘競技も、異種格闘技戦の場合そこは同じなんだよ。
ううん、もはやそれそのものが『総合格闘』っていうジャンルになっている」





ただ没個性化は悪い事だけじゃなくて、競技のレベルそのものの向上と捉えられる側面もある。

ほら、カートリッジやベルカ式がこの10年ちょいの間に一般的なものになったのもそれだよ。

それだって考えようによっては、そういう機能や術式の中にあった『個性』が消えた事によるものだしさ。



一般的になるという事は、みんな――誰でも使える環境さえ整えば使えるという事。そういう事なのよ。



異種格闘がもはや形骸化して『総合格闘』となりつつある今、その技能を覚えないようじゃあ生き残れない。





「だから俺も総合格闘技の基本くらいは覚えておいた方がいいって事か」

「そういう事。最低でも防御のための対応が取れないとどうしようもないしね。特に関節技だよ。
何気にインファイトが多いし、通常の魔法戦闘と違って狙える場面が多い」

「あー、そういや……そうだよそうだよ。俺なんで気づかなかったんだ」



空海は右手を口元に当てて、少し考え込むポーズを取る。



「コロナから見せてもらった映像だと、今年優勝したのってその手の事が得意な奴だったよな」

「ジークリンデ・エレミアでしょ?」

「そうそうそれ。アイツすげーよな。他の試合でも……俺見ててめちゃくちゃワクワクしたんだ」



空海は感心したような……ううん、感動したとも言わんばかりの表情をする。



「お前の言うみたいに、投げたり関節技決めたりしてたな。射撃とか砲撃もすれすれで避けて接近して」

「うん、あの子の実力は本物だよ。だって公式戦で今まで一度も負けた事ないもの。ちなみに今年で二連覇」

「それ超すげーじゃんっ! じゃあ俺が優勝するなら……こりゃマジで気合い入れないとやべーなっ!」



それで空海はまた目をキラキラさせて……昔の自分を見ているようで微笑ましい。てーか僕も出たかったなぁ。



「ジークリンデ・エレミアだけを見るのもおかしいけど、総合格闘技にはある程度のオールマイティーさが必要なのよ。
ストライクアーツっていう巨大流派が存在している以上は、ここは絶対に抜かせない。そこで戦闘の基本を覚えようか」

「おうっ! んじゃ早速」

「ミット打ちやサンドバック蹴るとこから始めようね。後日作成してプレゼントするから」

「えー! ちょっと待ってくれよっ! 俺あれからマジでコロナに教わった事とか練習してんだぜっ!?」

「それでもそうするの」



てーかまずは基本的な事がどこまで出来てるかどうか見なきゃ、安心して無茶もさせられないし。

……マジでトップ取るなら時間がないけど、怪我されても困るので多少は慎重になりたいのよ。



「それじゃあ……あむー、空海に僕が教えた通りに投げや関節技の基本を教えて。あと空海の打撃もちょっと見て」

「え、あたしっ!? いやいや、そんなの無理だしっ! てゆうかアンタが先生じゃんっ!」

「いいから。人に教える形で復習だよ。分からないならすぐ聞いてくれて構わないから。
唯世は……ようやく攻撃技使えるようになったんだし、僕とマンツーマンでやるよ」





唯世はあのロワイヤルソードという能力が使えるようになってから、攻撃関係の技能に躊躇いがなくなった。

今までどこかでかかっていたリミッターというか、ブレーキが外れたっぽい。でもだからこそしっかりと教えたい。

今の唯世が今までの調子で誰かに攻撃したら、大怪我させかねないしさ。



唯世にも予めそこを説明してるので、納得したように頷いてくれた。





「それじゃあクールダウンも出来たし、早速開始するよ。いいねー」

『はいっ!』





なんでそこで元気よく返事になるのか……なんだかこそばゆくなりつつも、朝日を背に受けながら訓練開始。

とりあえずあむが人に教えられるレベルで技能を修得していない事が分かったのが、本日の一番の収穫かも知れない。

そしてそんなあむを追い越すレベルで空海がしっかりしていたのも収穫。……マジで練習してたらしい。



この調子なら、マジで今年の夏にIMCSを狙えるんじゃないかとちょっとビビってしまった。










All kids have an egg in my soul



Heart Egg……The invisible I want my




『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第128話 『Those who love Minor/ガーディアン見習い達の初仕事』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、何度も話していると思うけどガーディアンの普段の仕事は基本的に地道且つ大量。

某映画で『大いなる力には大いなる責任が伴う』なんて感じのセリフがあるけど、ガーディアンは正しくそれ。

もちろんその仕事の内容は基本的に小学生の出来る範囲の事に収まってはいる。



でも聖夜学園の規模の大きさのために、仕事は多岐に渡る。でも、そんな僕達だけど多少は余裕が出来る。



だって僕達は『後進の育成』という名目で手数を増やす事が出来るんだから。





「いきものがかり?」

「そうだよ。生物委員会に欠員が一人出ちゃって」

「それを僕にやれという事か」

「まぁ今回一之宮君にやってもらうのは、あくまでも一時的なヘルプだけどね」





なお、いきものがかりというのは某有名な邦楽アーティストさんではない。



何気に聖夜学園もそういう動物の飼育とかもやってたりするのよ。



ここはお決まりのうさぎとかそっち方向だね。……ここ、基本普通の学校なんだよなぁ。





「まるで便利屋だな」

「あははは……それはあたし否定出来ないかも。でも、こういうのもガーディアンの仕事なんだ」

「困っている部や委員会のお仕事のお手伝いは、ガーディアンの重要業務なのですよ。
それにそれに、リインも前にやった事あるですけど動物のお世話は大変だけど楽しいですよー」

「そうなのか?」



ひかるが疑問顔でリインを見ると、なぜかリインの隣のややとなぎひこ……てゆうか、ガーディアン全員が頷いた。

何気に今回みたいな事は多いので、全員がその辺りの事を理解していたりはする。



「ねね、ひかるっちは動物では何が好きかなー? ややはね、うさぎさんー」

「うさぎさんはややちゃんとぺぺの心のオアシス。あの愛らしいもふもふにいつも癒されるでち」

「好き? ……牛・豚・鳥だな。他は食べた事がない」



……その言葉で全員が机の上に突っ伏した。あぁ、そっか。うん、分かってた。

ひかるの中でペットとか家族とかそういう方向での動物に対しての『好き』はないんだね。



「ひかる、うさぎの肉も何気に美味しいんだよ?」

「そうなのか。というより、お前は食べた事があるのか」

「うん。これでも鍛えるために香港行ったりイギリス行ったりしてるから。ジビエって言えば分かる?」

「……あぁ、分かる。狩猟などで仕留めた野生生物の総称だな。なるほど、食べたのはそっち系統か」





どっちかっていうとフランスとかそっち方向の食材だけど、中々美味しいのよ。脂肪分少なめで鶏肉に割合近い味でさ。

ちなみに自宅で調理する場合は、牛乳なんかに浸すと癖が抜けて食べやすくなる。

ジビエ以外だとハラオウン家在中の頃、興味があって国産のウサギ肉のセットを購入してカツレツとか色々作ったなぁ。



ただリンディさんやアルフさんは顔しかめてたけど。初っ端からゲテモノだと決めつけてたし。

なのでそんな二人にはゲテモノじゃないご飯と梅干だけを出しました。二人は泣くほどに喜んでたっけ。

ちなみにフェイトには何も言わずに食べさせた後で正体を教えたら、号泣されました。……なんで?





「違うよー! というかというか、うさぎさん食べちゃだめー!」

「そうじゃんっ! アンタマジ何してるわけっ!?」

「えっと……結木さんもあむちゃんも落ち着いて? というか、海外ではうさぎは食用でもあるから」

「「嘘っ!」」

「嘘じゃないよ。というか、日本でも食用のウサギ肉は流通に乗ってるから。
……とにかくひかる君、ややちゃんの言ってるのはそういう事じゃないんだよ」



起き上がりながらそんな事を言うなぎひこに、ひかるは首を傾げながらも視線を向ける。



「いわゆるペット的な思考って言えばいいのかしら。何が可愛いとか、そういう感じよ。
ほら、猫とか犬とかなぎひことかをペットに飼っている人も居るでしょ?」

「そうそう、僕……りまちゃんちょっと待ってっ! 僕はペットじゃないんだけどっ!」

「なぎひこ、お手」

「だから違うって言ってるよねっ! その手出すのはやめてっ!」

「あぁ、そっち方向か。それならそうと言ってくれれば良かったのに。なお、そっち方向なら……居ない」



あぁ、やっぱりかぁ。てーか一之宮……相当偏った教育してたんだなぁ。僕は引きつってた頬を一旦戻して、ひかるの方を見る。



「ならちょうどいい機会だし、動物というものが食用以外だとどういうものか見てみるといいよ。
あと、さすがに一人で全部やれとは言わないから。サポートにはあむをつける」

「そうか、それは不安だな。見ていると彼女は今ひとつ常識に欠けているところがある」

「だよねー。僕も同意見なんだよ。まぁあむがバカやらかしたらフォローしてあげて?」

「分かった。こちらは任せろ」

……待て待てっ! アンタ達あたしの事バカにしなかったっ!? てゆうか、したよねっ!



そんなあむの叫びは無視して僕達は紅茶を飲む。……あー、美味しいなぁ。



「無視するなー!」

「まぁ僕一人で手本も無しで初めてやる仕事を行うような事がないのは分かった。そこは安心だ。だが一つ疑問がある」

「なにかな」

「あの柊りっかというのは来ないのか? 彼女もガーディアン見習いだろう」

「あ、そこは問題ないよ。柊さんの方はまた別に仕事を頼んでるから」



そう言って唯世は僕とややの方を見る。僕達は『大丈夫』と笑顔で唯世に頷きを返す。



「そっちは蒼凪君と結木さんの管轄だしね」

「うんうん」





……ガーディアン見習いでまだまだ学校の事に慣れていない二人のレクリエーション計画は順調に進行中。



でもそんな穏やかな日々だからこそ、僕達は今後のためにもっともと成長していく必要がある。暮らしの中に修行あり……ですよ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「と、いうわけでー! 花壇の手入れスタートだよー!」

「おー!」

「でちー」





僕とややは授業時間の関係で少し遅れてやって来たりっかを連れて、花壇の一角にやってきた。

そこは色とりどりの花が咲いていて、全体の形状としては正方形。膝くらいの高さのレンガの中に花は割いている。

ただし一番大きなものの中に、また別の正方形な花壇がいくつか収まっている。その合間には人が通れる隙間。



その隙間は正方形の上下左右にも空いていて、その隙間を通って中の花壇まで近づく。



花壇の外側は紫や青など濃い目の色の花が植えてあり、それが中に進む毎に淡い色の花へと変化するようになっている。





「それでやや、今日の段取りは?」

「えっとね……ちょっと待ったー。恭文、もしかして今日の予定全然確認してないの?」

「うん」

「ぶーぶー。それ弛んでるー」

「でちでち。もっとしっかりするでちよ」



そんな事を言ってくるので、僕は右手でややの頭を、左でぺぺの頭を軽く掴んで少しシャッフルしてみる。



「や、恭文なにー!? てゆうか頭振るのやめてー!」

「暴力反対でちー」

「やかましい。今日は僕はここにりっかとおのれのサポートで居るって事を忘れないように。
てーか……昨日説明しなかったっ!? 今日の仕事はおのれが主導で進めてくのよっ! だから指示出しとかも全部おのれっ!」





……ガーディアン見習いな二人の育成も大事だけど、僕達としてはややとリインもなんとかしたい。

てーかさすがにそろそろ二人にも最上級生としての気構えを持ってもらいたい。

そんなわけでややが主導でガーディアンの活動計画を立てたりさせてみようという話になった。



ここはリインも同じくだね。リインも今頃りまに指示出ししつつ仕事しているはず。

とは言え、リインはまだいい。局の仕事の経験があるし。でもややは違う。いきなり全部は無理。

なのでまずは現場の活動――今回で言うと僕やりっかへの指示出しからさせる事にした。



でもそういう趣旨が今ひとつ伝わっていなかったので、僕は二人の頭から手を放しながらため息を吐いてしまう。





「あぅー、分かってるよー。大丈夫なのにー」

「だったらそういう事言わないでもらえますっ!? もうすっごい不安になるしっ! ……で、まずはなにするの?」

「えっとー」



ややは右手の人差し指を口元に当てて視線を上げて、考えてるポーズを取る。そして数秒後、その手を後頭部に当てて笑い出した。



「あははー、ごめーん。お花の観察日誌取ってくるの忘れてたー」

アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

「……ヤスフミ、頑張れ」

「結木さん、やっぱり自由ですね」

「安心しろ、二人とも。ややはあれがデフォだ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ひかる君が恭文の悪いとこの影響受けてるんじゃないかって心配になりつつも、あたしもお仕事開始。

生物委員会の人達の所に一度寄って、どこの手が足りていないかを確認した上で来たのは……偶然かな。

あたし達の目の前にある木造りの小屋の中に居るのは、栗毛と白毛がふわふわしているうさぎ。



今日のあたし達のお仕事はこの子のお世話らしい。ひかる君は中のうさぎをマジマジと見ている。





「それじゃあ今日あたし達がお世話するのは」

「見れば分かる。脊索動物門・脊椎動物亜門

「へ?」

哺乳綱・ウサギ目・ウサギ課の動物だな」



いきなりワケの分かんない単語がすらすらと飛び出して来て、あたしは一瞬気が遠くなる。

でも、すぐに頭が痛くなりつつも意識を取り戻した。



「え、えっと……とりあえずウサギでいいから。そういうその、哺乳瓶とかヘキサゴンとかいらないし」

「哺乳綱と脊索動物門だ。……やっぱりか」

「何がっ!?」



てゆうかなんかため息吐かないで欲しいんですけどっ! あたしがいったいなにしたって言うのかなっ!



「と、とにかくまずは餌やりだよっ!」



でもそう言った瞬間にあたしは固まった。てゆうか、ひかる君が首を傾げながらこっち見てるのが辛い。



「どうした。なぜいきなり固まる」

「…………うさぎって、なに食べるんだっけ」



ひかる君は……だからため息吐かないでー! うん、分かってるっ! 勉強不足だなって分かってるよっ!?

でもしょうがないじゃんっ! あたしはこっち方面の仕事でちゃんとやったの、ニワトリに追っかけ回された事しかないんだからっ!



「いいか、うさぎは」



ひかる君はそう言って、懐から携帯を取り出す。でもその携帯、ちょっとおかしいの。

画面のところがなんかいきなり観音開きみたいにパパーって開いて、大きくなったの。



「ひかる君、それは?」

「イースターが開発している新型スマートフォンの試作品だ。まぁ市場に出るのは3年ほど先になるが」

「いやいや、なんでそんなの平然と出してるわけっ!? しかもやたら近未来的だしっ!」

「これでもトップだからな。……新商品開発にもそれなりの金がかかる」



そう言いながらもひかる君は親指を素早く動かして、目で画面の中をジッと見てる。



「金をかける以上、部下任せにせずに自分で作ったものを試す事も必要になる。というより、定期的な状態観察か?
それをやれば無駄な損失を出さなくて済む。僕の出来る事は限られてるが、とりあえず電子機器関係は前々から試している事だ」

「へぇ……それ、おじいちゃんから教わったのかな」

「いや、あの人はそういう面倒を嫌う。これは僕の持論だ」



……やっぱりおじいちゃんとかそういう風にはまだ呼べないんだなと思いつつ、あたしはひかる君の隣に行く。

ひかる君はあたしの事は気にせずに画面の中……あ、インターネットしてる。しかもやたらと画面綺麗だし。



「よし、出てきた」



どうやらひかる君は携帯でうさぎの事を調べてたらしい。だから画面の中にうさぎの写真が映ってる。



「うさぎの場合、主に牧草・ペレットを与える」

「ペレット?」

「簡単に言えば小型の固形物――サプリメントのようなものと考えればいい。
主食では足りない栄養分を補うためのものだ。ここは出来ればと言う感じだな」



……うさぎって、サプリメント食べるんだ。思わず感心しちゃったし。てゆうかびっくりだし。



「あとは野菜だな。……まずは餌の調達からだろうか」



そう言ってひかる君は周囲を見渡す。確かに餌っぽいものはない。

てゆうか、牧草とか生野菜とかをそこら辺に置きっぱにするわけないか。



「なら、生物委員会の子達に確認しようか。あたし達じゃちょっと分からないっぽいし」

「二度手間だな」

「……うぅ、否定出来ないかも」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



最初こそ不安だったけど、花壇の世話はまぁまぁ順調。まずは花壇の草むしり。ここはかなり大事。

雑草などが生えていると、栄養分がそっちに持っていかれて花が育ちにくくなるから。

あとはあとは肥料を撒いてあげて、水やりもやって……というか、ややが精力的に動いている。



日誌を教室に忘れた事以外は本当に精力的にだよ。僕が何も言わなくてもちゃんとリーダーシップ取ってるし。





「りっかちゃんー、新しいゴミ袋持ってきてー」



だからまた雑草を抜きつつも元気にりっかに声をかける。でも、りっかの返事がない。



「りっかちゃん?」



だから当然のようにややが周囲を見渡してりっかを探す。てゆうか僕も探して……見つけた。



「あ、先輩達見て見てー! アリさんが行列作ってるー!」



りっかはちょうどややの後ろ側にある校舎の壁際で蹲り、そこから出てくるアリの行列を瞳を輝かせながら……おーいっ!



「こらー! アリさん見て楽しいのは分かるけどお仕事中にサボっちゃだめー!」

「わー、ごめんなさーいっ!」



僕が叱る前にややが止めたので、僕はまぁ目立たないように水撒きを続ける。

今回はややがメインだもの。僕はややがしっかりしてる限りは基本手伝いなのよ。



≪でもややちゃん、凄い張り切ってるの≫

≪それはありますね。あの人があそこまでになるの、そんなに見た覚えがないんですけど≫

「それは当然でち」



感心している僕の近くで張り切っているややを嬉しそうに見ていたぺぺが、腕を組みつつそう言う。



「というと?」

「そう言えば恭文やこてつちゃん達は知らなかったでちね。
この花壇は、ややちゃんがガーディアンになった当初からお世話してた花壇なんでち」



ぺぺはなぜか遠い目をしながら、あらぬ方向を見上げた。



「種まきから始まり」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はーやく花咲け花の種ー♪」

「ぺーぺぺー♪ ペペペペーぺぺの種ー♪」






そう言ってガーディアンに入ったばかりのややちゃんは、楽し気に種を撒きまくったんでち。



まだ出来たばかりのこの花壇は実質ややちゃんの担当となって、それはもう毎日お世話したでちよ。



途中で休みを挟んでも気になって見に来たりしてたんでちよねぇ。……そして。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「やっと芽が出たでちー! ……おぉっと、害虫発見っ!」

「退治するでありまーすっ!」

「出たー! ややちゃん必殺の殺虫剤攻げ……ややちゃん、やり過ぎでちっ! お花たんにもダメージ入るでちっ!」






……まぁこんな失敗がありつつも、ややちゃんはお世話しまくりだったんでち。



雨の日も雪の日も風の日も……当然恭文とリインが来てからもでち。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――それでお花たんは綺麗に花壇で咲き誇るようになったでち。もちろんその後もそれは変わらないでち。
ブラックダイヤモンド事件の時も、夏休みの時もちょっとだけ戻って様子見たりしてたでち」





あー、あったねー。マリアージュ事件解決してからすぐの頃、地球に戻りたいって言い出してさぁ。



ホームシックにかかったのかとも思ってたんだけど、それが理由だったのか。



僕はちょい所要で出てたからそこディードとリインに任せちゃってたから、知らなかったわ。





「もちろんなぞたま事件の時も、デスレーベル事件の時も欠かさず。
ぺぺとややちゃんにとってここは、ちょっと特別な花壇なんでち」

「なるほどね。それであれですか。うん、納得したわ」

≪あの人、基本甘えっ子ですけど……それだけじゃあないんですよね≫



ややの中にもちゃんとお姉さんや一人で歩くキャラもあるんだよなぁ。

……なのにどうしていつまで経っても不安が拭えないんだろう。現に今も同じだし。



「でもぺぺさん、あなたは回想だとただ応援してただけのような」

「気のせいでち。シオン、一体何見てたんでちか」

「あなたの語りと殺虫剤の下りだけですがなにか問題でも」





まぁ僕としてはこの花壇だけでなく他の仕事も今の調子が出せるなら、安心かな。

てーか僕よりも唯世を安心させて……よし、唯世はしばらくややと仕事させよう。

そうすれば多少はややの成長も感じ取れるだろうし、また涙目になったりもないでしょ。



僕は張り切りつつも楽しそうに笑っているややを見ながら、もしかするとガーディアンの未来は明るいのかなと思った。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



うさぎの世話って実はその……あたしは全くした事がない。てゆうかね、あの……だめなの。

ガーディアンに成り立ての時にやろうとした事があるんだけど、なんかうさぎがあたしに近づいてくれなくてー。

ラン達からは『クール&スパイシー』を恐れてるとか言われてめっちゃヘコんだしっ!



……ただそんなあたしだけど、日々の中で成長しているのかうさぎも以前みたいに素早く逃げたりしなくなった。



ただ逃げたりしなくなっただけで……あたし達はうさぎに餌をやる事すらも苦労してる有様だけど。





「やっぱり君はアテにならないな」

「う、うっさいっ! てゆうかもう……しょうがないじゃんっ!」

「大きな声を出すな。うさぎが驚いて君に恐怖を抱く」

「う」



ひかる君はさっきうさぎに指を噛まれたり、小屋の掃除をするために抱っこするのを拒否られたりして苦労してた。

でも今は……あー、ひかる君の差し出したキャベツをぽりぽりとー! あたしには視線も向けないのにー!



「でもひかる君、一気に世話が上手になったわね」

「本当ですぅ。もう抱っこしても大丈夫じゃないですかぁ?」

「まだだろうな。食べる時に若干躊躇いがちになっている。というか」



ひかる君は小屋の中のうさぎが自分の出したご飯をちゃんと食べたのを見てから手を引いて、視線をラン達に向けた。



「うさぎが臆病な生き物で、僕を怖がらないように優しくするべきと言ったのは君達だろう」

「……そうね」





……というわけで現在あたし達、ただただうさぎに餌をやり続けるだけの日々を送っています。

それもちょっとずつだよ。小屋の掃除とかもしたいんだけど、今は無理なんだ。

うさぎがほぼ初対面のひかる君やあたしに怯えて掃除が出来ないんだよ。もうパニック起こしかけちゃう。



てゆうか一度小屋から抜け出しちゃって、探すのが本当に大変だった。

でもようやく見つけたら花壇の近くで花の匂い嗅いでたんだよ? もうのんきというかなんというか。

だからまずはラン達のアドバイスに則って、うさぎに『初めまして』をしてるとこ。



うさぎは臆病で神経質な生き物だから、初めて会う存在にはどうしても臆病になっちゃう。

でもそれはしょうがない事らしい。なんかうさぎって、基本的に野ざらしもダメっぽい。

お日様の光を直に浴び続けていると、体温調節が出来なくなって簡単に死んじゃうとか。



あとは人参もあんまりあげたらだめなんだって。うさぎは人参ってイメージがあるけどそれはだめ。

ここはひかる君に教えてもらったけど、人参を食べ過ぎると糖分の過剰摂取で体調悪くしちゃうとか。

……そう言えば今日何度ひかる君にため息吐かれたんだろ。もう先輩の威厳とか0な気がする。



段々とひかる君に懐いてくうさぎを見ながら、もしかしたら将来の事どうこうの前やるべき事があるんじゃないかと思った。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文先輩とやや先輩は、草むしりや肥料やりで出たゴミを捨てに行った。

あたしはまだ水をやってないお花達に水やり中。それももうすぐ終わるんだー。

でもでも、ガーディアンのお仕事って楽しいかもー。お花も綺麗だしー。



でもあたしがガーディアンになったら、これ一人でも出来るようにならなくちゃダメなんだよね。うぅ、がんばろー。



先輩達って何気に凄いんだなぁと思いつつ、水やりを止める。というか、全部終了っと。





「ふー、これでよしっと」



あんまり水やり過ぎちゃうと、お花達にかえって悪いしね。やや先輩が一生懸命育てたお花なんだから、大事にして。



『……ムリー』



後ろからすっごく聴き覚えのある声がした。それでそちらを振り向くと、花達に隠れるように×たまが一個居た。



「あれ、どうしたの? ……あー、お花が綺麗だから見に来たとかかな」

『ムリ』

「え、違う? ならどうして」



あたしの質問に答えたりしないで×たまは浮かび上がって、その下にじょうろ……あぁ、なるほど。



「あー、だめだめ。そこはさっき水やりしたから大丈夫だよー」



この子、水やりを手伝ってくれようとしてるんだ。うーん、いい子だな……あれ、ちょっと待って。

あのじょうろどこから出たの? だってだって、この場に持ってきてるじょうろはあたしが持ってきてるのとそこに置いてあるのだけだし。



『……ムリ』






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



時間をかけてうさぎと仲良くなっていって、あたしも念願の抱っこが出来るようになった。

初めて抱いたうさぎはもうふわふわで柔らかくて優しくて……あたし感動しちゃったよー。

ただそんな時、元気だったうさぎが急に小屋の中で寝転んで息を荒くし始めた。



あんまりにいきなりだったんで、あたしとひかる君は当然ながら大慌てだよ。





「ちょっとちょっと、これどういう事っ!? てゆうかいきなりなんでー!」

「落ち着けあむ。……おいお前達、お前達しゅごキャラは確か動物と喋れたな」



ひかる君は表情を険しくしながらも、ラン達の方にそんな事を……あ、そっか。



「ラン達にこのうさぎから話を聞てもらうって事?」

「そうだ。まず僕達は特にダメな事はしていないはずだ。
例えば……普段は食べないものを食べたりしたとかは」

「分かった−! じゃあじゃあちょっと待っててー!」



ラン達はひかる君に敬礼してから、小屋の中で蹲って動けなくなってるうさぎに近づく。

それで色々声をかけていると、ラン達が困った顔であたし達の方を見た。



「あのね、うさぎが苦しいって」

「そこは分かっている。そうじゃなくて」

「あ、もちろんそこも聞いたよー? えっとね、紫色の花を食べたんだって」

「花?」

「花壇に咲いてる花ですぅ。美味しそうだからかじっちゃったって言ってますぅ」



紫の花かぁ。でもそんなのあたし達……あれ、ちょっと待って。

あたしはようやく大事な事を思い出して、ひかる君と顔を見合わせた。



「さっき逃げ出した時っ! てゆうかちょっと待ってっ! 確か……あー! この子花壇の近くで花に口近づけてたっ!」

「おそらくそれで正解だろう。だとするとあの時は…………あぁ、あの花か。ちょっと待ってろ」



ひかる君はまた自分の携帯を取り出して調べ物。でもどことなく指の動きが早い。



「分かったぞ。この花だな」



ひかる君が画面を見せてくれるのであたしも覗き込むと……あぁ、うんうん。このたんぽぽっぽい花だよ。名前は……アカツメクサ?



「うさぎは基本的に草食動物だが、場合によっては与えてはいけない食べ物もある」

「これもその一つなの?」

「あぁ。これは単純に胃に来るらしい。大人のうさぎなら大丈夫そうだが」



そこまで言ってひかる君は、一旦うさぎの方を見る。



「胃腸の動きが安定してない若いうさぎだと下痢などの症状を起こしやすい」

「あ、そう言えばお腹が痛いって言ってたわ」

「そのままだな」



あっさりそう言いながらひかる君はまた指を素早く動かしてまた別の画面をどんどん開く。



「うさぎが病気の時には果物などを与えるといいらしい」

「果物?」

「栄養価が高いそうだ。だから普段与えるとダメらしいが、病気の時は違うらしい。
食べられるのはりんご、ブラック・ブルーベリー、パイナップルにメロン、いちごやバナナにナシなどだな」



け、結構色んなもの食べられるんだね。草食動物なのに果物ってありなの?



「もしくは食べやすいように液状化させた上で飲ませるように含ませるとよいとか」

「……分かった。なら早速ないかどうか探してくる。ひかる君はここで待ってて」



あたしは踵を返して小屋の入り口を目指して。



「待て」

「へ?」

「万が一という事もある。生物委員会の方に寄って、獣医への連絡も頼む。
そこなら獣医の連絡先もすぐ分かるはずだ。それで対処法も改めて確認してくれ」

「……分かった。じゃあすぐ行ってくる」





ひかる君は冷静にお腹を出して寝転がっているうさぎの傍らにしゃがんで、優しく撫で始める。



てーかあの、凄い冷静過ぎるんですけど。慌て始めてるあたしがもう……バカみたい。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あー、もうやめてー! お花が……お花がー!」



ゴミ捨てを終えて、やっぱり張り切りモードなややの後を追うように戻っているとりっかの叫び声が聴こえた。

それになんとなく嫌な予感がしつつ、僕達は足早に花壇に戻る。するとそこには……巨大な花達が居た。



『……なんじゃこりゃっ!』



ややとぺぺ、シオン達と声を揃えてそう言ったのはもうしょうがない。てーか許して欲しいわ。

だって僕達がさっきまで世話してた花壇の上に、3メートルほどの色とりどりの花達が揺れてるんだから。



「おいおいりっか、こりゃなんだっ!?」

「お前、一体どんな栄養剤をあげたんだっ!」



ショウタロスとヒカリがそう聞きながらりっかの方に近づく。てーか僕とややも同じく。



「あー、先輩ー! ……てゆうか違うよー! あたしじゃなくて……あれっ!」



りっかが指差したのはそんな花達の上。そこには黒い光に包まれたじょうろと×たまが居た。

×たまは楽し気に鼻歌なんてうたいながら揺れる。その動きに合わせてじょうろから黒い水が花達に降り注ぐ。



「……×たまの能力か」

「みたいですね」

「先輩、何か知ってるんですかっ!? あたし、あんなの見た事ないですっ!」

「いいや、ある。りっか、美術室で暴れた×たま思い出して。あれも絵筆出したりしてたでしょ」



りっかはハッとした顔をしたので、僕は頷いた。



「×たまはその中に居る本来のキャラに合わせて特殊な能力を出す事があるんだ。これもその一つ」

「そう言えばあの子も絵を描くのが好きで……え、でもそれならあの子はなんでこれなんだろ」

「×たまの声、聴こえないの?」

「というか、いきなり出てきて水やりし始めたんでさっぱりなんですー」

「……あー! お花がー!」



ややが悲鳴をあげたので改めて花壇を見ると、巨大な花達に踏みつけられて潰れている花達を見つけた。

……花びらが散ったり破れたりしてて、茎も折れたりしてるものが大半。そしてそれは、花が大きさを増す毎に被害も増える。



「ち……やや、いくよ」

「了解っ! ややのこころ、アン」



『解錠』アンロック



「ロックッ!」

「変身っ!」

≪Riese FormU≫



僕達はそれぞれ光に包まれ、その姿を変える。てーか同時に結界を展開。空が幾何学色に包まれた。

これで×たまがどんな暴れ方しても問題ない。……とにかく僕達を包む光が弾ける。



【「キャラなりっ!」】

「最初に言っておくっ!」



ややと名乗りを合わせながらも僕は、×たまを右手で指差す。



【「ディアベイビー!」】

「僕はかーなーり……強いっ!」

≪ついでに言っておきましょう。……これ、どうするんですか≫

「そんなの当然」



まずは斬り払う……ダメじゃんっ! てーかやや共々ちょっと固まっちゃったしっ!



「恭文、こてつちゃんで斬ったりスティンガー撃ったりするの禁止っ! お花傷つけちゃうよっ!」

「分かってる。てーか今思った」



あのじょうろの水で花が巨大化してるなら、あの花を傷つければ当然……なのよ。

よし、落ち着け。だったらまずはあの放水を止める事が基本。



「やや、アヒルなり出して花の動きを牽制して。その間に×たまを押さえる」

「分かった。というわけで、アッヒルちゃーんっ!」





ややが声をあげてアヒルを召喚したところで、花に変化が起こる。

巨大且つ色とりどりで様々な種類の花達は黒い光に包まれながらも融合を始める。

そして僕達が声をあげる間もなく、花壇全体に根を張る巨大な一輪の花となる。



色は黄色で花びらは四つ。全長は10メートルほどで、茎の太さもどこぞの大木なんて真っ青……ヤバい。

花壇を構築するレンガがひび割れてるのを見たので、僕は素早く両手を合わせて地面にしゃがみ込む。

両手を合わせた上でブレイクハウトを発動。花壇の足元に巨大な円――魔法陣が刻まれる。そこから続けてもう一回。



魔法陣が蒼く輝くと花壇のレンガ全てに火花が入り、巨大な花の重さに耐える強度を得た。





【恭文、今のは】

「物質変換でレンガの強度を上げた。まぁもう遅いとは思うけどさ」



うん、遅いね。だって巨大な根が花壇全体を侵略してるもの。さて、とりあえず。



「ややっ!」

「了解っ! アヒルちゃん、あのお花さんを止めてっ!」



アヒル達は敬礼と共に花に突撃。そんな時、花の両側にある葉が動く。

まるで突撃してくるアヒル達を払うように葉が動くと、八体近くいたアヒル達が全て消えた。



「あぁ、アヒルちゃんがー!」

≪消えちゃったのっ!?≫

『ムリっ!』



それで巨大花の葉はまるで人の手のように動き、僕達に葉の表と裏を見せてくる。

それから上がっていく。すると両手の中にアヒルの柄のカードが八枚生まれた。



「……マジシャンになりたかった?」



それからカードは葉の中で束ねられ、また姿を消す。それから葉は大きく広がった。



『ムリムリムリー!』



するとその間には、糸で繋げられた旗が八枚生まれた。でもその絵柄はまたもや……ま、まさか。



「ねね、恭文……もしかしてあれ」

【ややちゃんとぺぺのアヒル達でちかっ!?】

「みんながビックリするようなマジックをしたかったけど出来ないって」



また葉を手のように動かして、旗を握り締める。それがまた開かれると、どこぞの鳩のようにアヒル達が羽ばたいた。



「なるほど。花を大きくしたのはあの子のマジック」

「それでみんなをびっくりさせたかったのか」

『ムリっ!』

「わー! 凄いー! これならマジシャンとしてもしっかりやっていけるじゃないー!」

「やっていけないよ」



鋭く言い放つと、なぜか場が固まった。それでりっかと×たまは僕を驚きながら見る。



「こんな真似して、マジシャンになんてなれるわけないだろうが。バカ言ってんじゃないよ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「もう恭文先輩なに言ってるんですかっ! てゆうか空気読んでくださいっ!」



そうだよそうだよ。ここはこの子を乗せて……それであむ先輩達みたいに説得だよ。

それで浄化に持ってけば楽なのにー。なのにどうして先輩はそういう事言っちゃうのかなー。



「ここは」

「……この光景を良く見ろっ!」



その声にあたしは身体が震える。というか、怖い。だって先輩……めちゃくちゃ怒ってる。

それで×たまの事、凄い睨みつけてる。あたしも一緒に叱られてるみたいで、怖い。



「ややに他のみんなが一生懸命育てた花が、お前の自己満足のために潰れてるだろうがっ!」



それがどうしてか分からなくて泣きそうになってたけど、先輩の言葉でそれが止まった。

慌てて花の足元――花壇を見ると、花達がたくさん、たくさん踏みつけられてボロボロにされてた。



「自分のマジックを見ている人みんなを笑顔にしたい。そう言って頑張ってる奴を僕は一人知ってるっ!
マジックって、そういうもんだろうがっ! お前の『ビックリさせたい』だってそれと同じだっ!
でもお前はそのマジックで花達を、一生懸命世話してきたやや達の気持ちと時間を踏みつけたっ!」



また先輩の方を、×たまの方を見る。×たまは先輩が怒鳴りつける度に落ち込むように俯いていく。

同時に巨大な花もしおれるみたいに茎を曲げていく。それでも先輩が怖いのは全然止まらない。



「それなのに何楽し気に胸張ってやがるっ! お前がしたかったマジックは本当にこんな形かっ!
答えろっ! お前は一体、なんのために誰かをビックリさせたいって思ったんだっ!」



先輩の叫びに誰も答えない。あたしも、×たまも……誰も。それでも先輩は左手をスナップさせて、×たまを指差す。



「それが分からないなら、それが分からないのにこんな事をして笑ったのなら、僕はお前にこう言う」



そして先輩の周りに風が吹き抜けた。その風が先輩の髪とマントを揺らす。



「さぁ、お前の罪を……数えろっ!」



先輩はまた叫んでから、一気に身体を伏せてあの刀の持つところに右手を当てる。



≪Flier Fin≫



マントの上に蒼い大きな翼が生まれた。それが羽ばたくと蒼い羽が舞い散って、×たまに向かって先輩が飛んでった。



「鉄輝……一閃っ!」





先輩は前に見たのと同じように先輩は蒼く染まった刀で×たまを真っ二つにした。×たまはその場で大きく弾ける。



でも黒い粒子がその場に集まっていって、またたまごの形になる。でもでもそのたまごはすぐにあの白い綺麗なたまごになった。



それと同時にあの巨大な花も音を立ててあっという間に消えちゃった。後に残ったのは、ボロボロになった花壇だけ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あの×たまは見事に浄化。周囲を確認した上で結界を解除すると、瞬く間に空に飛んでいった。



まぁここまではいい。問題は……花壇だよ。花壇は巨大花達の蹂躙によって見事にダメになっていた。





「ややの……ややのお花達がぁ」

「ややちゃん、元気……ごめんでち。さすがにこれはムリでち」



ややは地面に崩れ落ちてボロボロと泣き出す。りっかはりっかで僕を不思議そうな顔で見てるし……あぁもう。



「お兄様、これはどうしましょう」

「さすがにこのまま放置はダメだろ。ややが可哀想過ぎる」

「分かってる。だから」

「あむに連絡か?」



そう聞いてきたショウタロスに頷きつつ、僕は携帯端末を取り出す。



「リメイクハニーでどこまで『お直し』出来るか分かんないけど、それしかないよ」

≪回復魔法でお花ちゃん達を治すのも時間がかかり過ぎるの。もうこれしかないの≫

「というわけで、緊急呼び出し……っと」





うさぎの世話してるはずのあむに連絡したところ、向こうも向こうでかなりゴタゴタしてた。

ただこっちの緊急性も分かってくれたので、僕と入れ替わる形で来てくれる事になった。

その後、あむのリメイクハニーで花達は見事にお直し。幸運な事に全て復活する事が出来た。



その時のややの喜びようと言ったらもう言いようがないくらいだもの。ただ、問題が一つ。



やっぱりりっかの様子がおかしかった。なんかずっと僕の事まじまじと見てたし。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あむは花壇がどうとかと言って、恭文達のところに向かった。ここには僕とうさぎだけ。

とりあえずうさぎが撫でると安心するのは分かったので、体調の悪化に繋がらない程度に撫で続ける。

……面倒だ。人間ならこんな事はない。なのに僕は、うさぎからどうしても離れられない。



ちゃんと獣医の指示通りに改めてご飯も食べさせた。なのに僕は、ここから離れられない。



陽が傾いて小屋の中に夕日が差し込んでも僕は、眠っているうさぎの側を離れられなかった。





「……ひかる様」



そんな陽の差し込みを遮るように、誰かが小屋の前に立った。まぁもう考えるまでもないか。

そう思いつつ僕は振り返る。するとそこには、黒い背広を身に纏った男が居た。



「お迎えに上がりました。一之宮専務もお待ちです」

「帰らない」

「え?」

「僕は今日、ここに泊まる」



それだけ言って、驚いた様子の男に背を向けてうさぎを見る。うさぎは……静かに眠っている。



「悪いけどそういうわけにはいかないよ」

「そうそう」



……僕は泊まると言っているのにしつこい奴らだと思い、また後ろを振り向く。

そこにはいつの間にか恭文と理事長が来ていた。



「ひかる、今日のところはもう帰っていいよ。それでお仕事はおしまい。てーか生徒はもう帰る時間だもの」

「ダメだ。生き物係の仕事はどうする」

「泊まり込むわけにはいかない。それにその子は念のため、獣医さんに見てもらう事にしたから」



理事長はそう言いながらもいつものように笑って、自分の隣に居る恭文に視線を向けた。



「そこの辺りは蒼凪君の判断でね」

「まぁあむから聞いた話から察するに、ちゃんとしないとこうなりそうな予感がしてましたから。だからひかる」



それでも僕は、二人に背を向けてまたうさぎを見る。うさぎは人が集まってきてるのに、まだ寝ている。



「……どうしてみんな、こんな面倒なものを欲しがったり大事にしたりするんだろう」





現に今日は本当に面倒だった。コイツは最初から僕やあむの言う事なんて全然聞かなかった。

最初に噛まれた時は、うさぎは乱暴な生き物とさえ思った。最初に抱いた時に逃げ出した時も同じだ。

その上……まぁ僕とあむの監督不行届なのが原因ではあるが、病気にもなった。



本当に面倒だ。なのに僕は、コイツを嫌いになれない。無価値だなんて……言えない。

もしも本当に無価値なものがどこにもないのなら、コイツだって大切なものになる。でも分からない。

なぜこんな弱くて小さくて、面倒なものを人は好きになれるのだろう。なぜこれは大切なのだろう。





「……不思議だね。小さな生き物を守る事は、とても手のかかる事なのに」



まるで僕の考えてる事が分かるかのようなタイミングで、理事長はそんな事を言ってくる。



「非合理的だ」

「そうだね。でも……どうしようもなく愛しいと思ってしまうんだ。そして、小さな生き物は強くもある」



僕はその言葉が妙に引っかかって、また後ろを振り向く。理事長は差し込む陽を背にしながら、なんでか笑っていた。



「犬も猫もうさぎも、それに人間の子どももね。それは、君もよく知っているだろう? ……だから、大丈夫だよ」





僕は結局、最後に一撫でしてから部下の者と共に専務のところに向かった。でも、やっぱり分からない。



なぜ僕は論理的に……そうだ。獣医が診てくれるのなら問題はないというのが論理的思考だ。



なのに僕は、あそこから離れたくなかった。そう言われても離れがたかった。なぜ僕は、論理的判断が出来なかったのだろう。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ひかるを見送った後、僕も司さんに見送られながら学校を出た。てーかティアナとリインにりまが待っててくれた。



夕焼けが沈み星が見え始める景色の中、僕達四人は河原を歩いていく。なお、今日りまはうちで夕飯です。





「じゃああの子、今のところいい感じなんだ」

「うん。ちょっとずつだけど今までとは違う事、自分から知っていこうとしてるみたい」



ティアナも何気に気になっていたのか、ひかるの事を聞いてきたのよ。だから帰り道を歩きながらお話だよ。



「でもでも、あの時のひかる君からはちょっと考えられないですね。うさぎの事心配してたなんて」

「そうね」



どうもリインやりま、ティアナの中では今日ひかるがうさぎから離れたがらなかったのは、心配しているからという結論になるらしい。

確かに……そういう部分はあるかも。もしかしたらあの『非合理的』は、自分に対して言ってたとかかな。



「てゆうかティアナ、何気に気にしてたの?」

「まぁ、それはね。私だって最終決戦であの子の事知った時、衝撃だったもの」



その衝撃の理由は、多分自分の境遇と重ねたところだと思ったけど……何も言わずに苦笑気味のティアナを見てる事にした。



「でも私、実は別の事も気になってるんだけど」

「なにが?」

「ほら、あの子のたまごよ。エンブリオだって思っちゃうくらいにキラキラしてたわけじゃない?
そんなたまごから生まれてくる子は、一体どんな子かなーってさ」



ティアナは楽し気に笑って僕達の方を見る。……そう言えばそれは気になるかも。

もちろん特殊な状態だったからアレだとは思うけど、でもひかるの『なりたい自分』かぁ。



「まだまだ本人的には模索中だと思うですけど、リインも気になるですよ」

「ですよね。もうあんま焦らせちゃだめだとは分かっているけど、やっぱり」

「ティアナさん、それ私も分かるわ。というか、私も覚えがある」



りまが少し思い出し笑いを浮かべて、クスクスの方を見る。



「私も自分のしゅごたまが生まれた時……まぁベクトルは少し違うけど、そういうの考えたから。
この中から何が生まれるんだろうって考えて、たくさんワクワクして……ドキドキするの」

「えへへー、なんか照れちゃうなー。……あー、クスクス分かったー! ねね、りまもみんなも聞いてー!?」

「クスクス、何が分かったの?」

「ひかる君のしゅごキャラだよー! きっときっと、すっごくキラキラで……小林幸子さんみたいなキャラだよー!」



自信満々にそう言い切ったクスクスを見て、僕達は足を止めて固まる。

それでも自信を持って笑うクスクスに背を向けて、みんな揃って早足でまた歩き出す。



「あー、うん。そうかも知れないね。こう、ラスボスだったしね。きっとラスボス的なものが生まれてくるんだよ」

「あの、あれよね? すっごいデカい上に派手な衣装着てうたうのよね」

「ティア、正解なのです。もう歌うたいたいのか仮装大賞したいのか分からないレベルなのですよ」

「クスクス、もう少し修行した方がいいわね。今のはないわ」

「えー! なんでー!? というかりまー! みんなもクスクスを置いてかないでー!」





陽が沈み、夜の闇が世界を包んでいく中、僕達は家路をどんどん急いでいく。



まるで一瞬でも想像してしまったラスボスなしゅごキャラの図を振り払うかのように。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



やっぱりおかえりとただいまのキスをした恭文とフェイトさんに呆れつつ、またまた夕飯をごちそうになる。

それから後片づけを手伝ったりして、テレビを見ている間にママが迎えに来た。

みんなにお礼とありがとうの気持ちをいっぱい伝えてから、私は家に戻る。でも、やる事があるわ。



家に戻ったら早速運動着に着替えて庭先に出て、スタート。私はただひたすらに跳躍していく。





「りま、今日もなの?」

「えぇ」



後ろからかかるママの声には目もくれず、ひとまとめにした髪を揺らしつつもジャンプ。



「でも、いきなりどうしたの。一日縄跳び400回って」

「言わなかった? 基礎体力の向上よ」



さすがに一気にやると潰れちゃうから、朝と晩に200回ずつに分けて縄跳びしてる。

ただ二重跳びや逆飛びするとかじゃなくて、普通に跳ぶだけ。これが最近の私の日課。



「というか、恭文やフェイトさんにティアナさん見てて、運動出来るようになりたくなったの。
特に恭文とかは武術関係強いし、無駄に体力あるし……いいなって」





跳びながらそう答えるけど、実は建前。……もし魔法使えるようになったら、やっぱり体力は必要かなと思ったの。

キャラなり中は魔法が使えないみたいだし、そうなると今までの私と違って素の私で動く必要がある。

でも私は基本的に体力もないし、運動神経もない。だから自分を鍛える必要が出てきた。それでティアナさんに相談したの。



そうしたらティアナさん、『自分もやった基礎メニュー』としてこれを教えてくれたの。まずはこれから始めてる。





「りま、あなた武術がやりたいの?」



でもただ跳ぶだけなのに本当にキツい。私はぜーぜーと息を吐きながらも、ちょっと跳ぶのを止めてママの方を見る。



「ううん、そういうのの前に……体力をつけたいなって思っただけなの。
来年中学にも上がるし、運動がもっと出来るようになると楽しいかなって」



それで私はママに向かって、安心させるように笑いかける。



「恭文も最初そういうの全然さっぱりで、でも練習をたくさんして出来るようになって嬉しかったって言ってたから。
……出来ない事を出来る事にチェンジしていける自分になりたくなったの。一応、中学生な私の目標」

「……そう。りまは、恭文君の事が好き?」

「えぇ」



ものすごく自然にそう言えてしまった自分が少しびっくりしてしまった。でもママはそんな私を見て、優しく笑っている。



「そう。まぁ……無理しちゃだめよ。身体壊したら意味ないもの」

「分かってる。もうすぐ終わるから、そうしたらお風呂……あ、ごめん。待たせちゃって」

「大丈夫よ。時間は合わせてるから。焦らずにゆっくりやりなさい」

「はい」





ママが家の中に戻ったのを見て、私はまた練習再開。数は……うん、ちゃんと覚えてる。

冷たい冬の空気の中でどんどん熱くなりながらも私は、縄跳びを続ける。でも……好き、かぁ。

うん、好きなんだと思う。最初はワケの分かんない子だと思ってたけど、今はもう違う。



恭文は私の世界の中で大事な人の一人。私の仲間で友達で、同じ痛みを知っている同志だもの。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うーん、うーん……うーん」



花壇が元に戻ったのに安心して、家に帰ってご飯を食べてお風呂に入ってあたしはベッドにごろーん。

でもでも、なんかもやもやするー。あたし、やっぱり恭文先輩があんなに怒った理由がよく分かんないよ。



『ムリ?』

『ムリムリー』

「あー、大丈夫だよー」



上半身だけを起こして、うちの子達を見る。みんなはあたしを見て首……あ、違う。身体を傾げていた。



「罪、なのかなぁ」





リメイクハニーで花達が元に戻るって知ってたなら、そこまで怒らなくてもいいと思うのに。

なにより可哀想だよー。×たま達だって、自分であんな事したくてしたわけじゃないのに。

苦しかったり悲しい事があって、それで自分に×付けちゃって……やっぱり、可哀想だよ。



あたし、×たまの声が聴こえるから分かるもん。あの子、すっごい泣いてた。





「こころに×を付けちゃう事は、それで悪い事しちゃうのは、罪なのかな」



うちの子達をジーッと見て……あたしは思いっきり首を横に振る。



「ううん、そんな事ない。みんなしたくてしてるわけじゃないもん。
自分でそうしたくて自分に×を付ける人なんて……でもでも」





それでもういいーって思ったのに、なんか落ち込んじゃう。てゆうか、泣いてたやや先輩の事思い出しちゃった。

恭文先輩の言う通り、やや先輩もぺぺちゃんもボロボロになった花壇を見て悲しがってた。

あむ先輩が来るまでずっと泣いてて、恭文先輩もそのせいで動けなくて……花壇が治ったら元通りだけど。



なんだかあたしは頭がこんがらがって、起こしてた身体をまたベッドに倒す。それで寝返りを打って、うちのナマズ君を見る。





「うー、よく分かんないよー。元通りだから大丈夫ーじゃダメなのー?
×たま浄化するのって、困ってる子を助けるんだよね。なのになのに……分からないよー」





困ってる子なら、そんなに怒らなくていいのに。助けたい子に怒るなんてないよー。

あむ先輩とかはもっと優しい言い方してたもん。あんな怒鳴ったりなんてしてない。

でもでも、やや先輩も泣いて……あー、あたし分からないよー。本当はどうすればいいのー。



×たまって悪者なの? それとも困ってる子なの? 先輩って優しい人なの? それとも怖い人なの?



うーん、うーん……ダメだー。なんど考えても全然分からないよー。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして翌朝、フェイトとおはようのキスと行ってきますのキスと行ってらっしゃいのキスを交わした上で学校へ直行。

てーか昨日のうさぎの事が気になったので、先輩として状態確認をする事にした。なのでいつもより早い登校。

リインとティアナも気になったらしく一緒に来てくれて、その途中で同じくだったあむとも合流。さほど経たずに学校に到着。



それで飼育小屋まで走っていると……そこにはひかるが居た。ひかるは小屋の前で蹲ってた。



荒く息を乱しながら驚いてるような顔をしているひかるを見て、僕達は慌てて駆け寄る。





「ひかるっ!」



ひかるはそれでも僕達の方を見ずに俯いて……ううん、違う。

ひかるは自分の方に近づいて、小屋の中から身を乗り出しているうさぎを見ていた。



「あ、この子元気になったんだっ!」

「良かったですー」

「あー、やっぱ獣医に見せると違うのね。……てか、どうしたのよ」



ティアナはやっぱり呆然としている表情のひかるの横に蹲る。でもひかるは反応しない。

うさぎは後ろ足で立って、金属の金網を前足で軽く掴んでひかるをジッと見上げていた。



「変、なんだ」

「変?」



ひかるは右手を自分の胸元に当て、じっとうさぎを見ている。



「さっきからここが温かいんだ。なんでだろう」



ワケが分からないと言いたげにそう口にしたひかるを見て、僕達は顔を見合わせて……笑う。



「簡単な事よ」



ティアナはうさぎを見ながら、右手でひかるの頭を撫でた。それでようやくひかるはうさぎから視線を外して、僕達の方を見る。



「アンタがこのうさぎの事、好きになっただけよ。この子がアンタの事、好きになったみたいにね」

「ですです。別に変な事などないですよ」





ひかるはティアナとリインの方をジッと見て……またうさぎに視線を移した。それで、静かに笑った。

少しだけ戸惑いを含んだ笑顔を浮かべるひかるを見て、僕とあむは顔を見合わせて笑う。

朝日の差し込む中、ひかるは『愛おしそうに』うさぎをずっと見ていた。それでそっと右の指を差し出す。



うさぎは躊躇い無く金網に差し込んだひかるの指に、自分の口元をすり合わせた。





(第129話へ続く)














あとがき



恭文「はい、というわけでマジで平和なドキたま/じゃんぷです。
今回のお話はアニメ第106話『ひかるVSウサギ?初仕事は大変!』と」

ティアナ「第107話『ややの張り切りガーデニング!!』を元にして、二つを合わせた形にしています。
というわけで本日のお相手は……マジで平和過ぎると思うティアナ・ランスターと」

恭文「蒼凪恭文でお送りします。ティアナ、そんなに戦いたいの? まるでシグナムさんだね」

ティアナ「うっさいバカっ! てーかあの人と一緒にしないでくれるっ!?
……とにかく今回の話はりっかとひかるのガーディアン初仕事ね」

恭文「まぁ僕は今回浄化以外は脇に控えてるも同然だったけどアレとして……ややとあむの差が」

ティアナ「あぁ、それはあるわね。てーかあむ、うさぎに怖がられるって……相当よ?」



(『いや、そんな事ないしっ! あの、もうそういうの大丈夫だしっ!』)



ティアナ「それでややの方がかなりしっかりしてたのよね。まぁ思い入れ重視だけど」

恭文「劇中でも言ったけど、これが他の仕事でも見られるようなら安心出来るよ。……唯世が」

ティアナ「……やっぱりかぁ。あの子、まだ不安に思ってるのよね」

恭文「もうしょうがないとは思うんだけどね。唯世に必要なのはきっとあるがままを受け入れる心だって」

ティアナ「でも無理なのよね。あの子もあれでヘタレなとこあるし」



(きっと卒業してもしばらくは心配するんだろうなと思う蒼い古き鉄とツンデレガンナーだった)



ティアナ「あとは……空海の訓練開始か。てーか総合格闘が没個性化っていいわけ? 格闘ファンから総スカンくらいそうな」

恭文「別にみんなに個性がないとは言ってないよ。ただ異種格闘というジャンル自体が別の何かになってるって話だし。
まぁここは最近連載再開した修羅の門からインスパイアされてるけどさ。やっぱあの漫画面白いよねー」

ティアナ「ちょっとちょっと、それいいわけっ!?」

恭文「いいのよ。というか、こういう方向にしないと面倒な事がある」

ティアナ「なに?」

恭文「……Vivid編には数々流派が出てるけど、現在のところ細かい違いが全く出てない」



(ストライクアーツにカイザーアーツ、抜剣に居合いや八神道場などですな)



恭文「単純に出す技の違いだけでスポーツとしての格闘を描くのも違うというのが作者の考え……だよね?」



(うん。修羅の門のヴァーリトゥード編とか見ると余計に。でも現状じゃああそこまでの異種格闘技戦は描けない。
だったら原作の方にそう形の設定や形づけが出来ないかなーと考えた結果、没個性化という話の導入に)



恭文「とりあえず没個性化してるのは、出場選手全員が総合格闘技の技能を覚えてるってとこだね。
というか、そうじゃないと自分の修得している流派の穴を埋められない。結果あっさり弱点を突かれて」

ティアナ「負けちゃうと」

恭文「負けるね。てーか自分と異なるスキルを持つ相手と戦う場合、総合格闘術に行くのは必然なのかも。
打撃と投げ技あ、関節技が出来ると戦闘の幅がぐっと広がるしね。だって御神流だって変則的だけど総合格闘技よ?」

ティアナ「はぁ? いやいや、ちょっと待ってよ。御神流は剣術じゃないのよ。ほら、武器や暗器使ったりするし」

恭文「暗器はさすがにアウトだけど、公式設定で関節技と投げ技あるのよ。もちろん小太刀を絡ませて斬撃も加えられるやつ」

ティアナ「そうなのっ!?」



(そうです)



恭文「もちろん打撃に関しても徹って技があるから充分可能。得物を持ったままやるってだけの話でね」

ティアナ「あぁ、それでかぁ。でも……そこまで? ほら、種類の違う魔法出すだけでも大分戦い方変わるでしょ」

恭文「うん、変わるね。でもそれだと今までとなーんにも変わらないのよ。Vivid編の場合、スポーツだから」



(そのためのルール設定だったり……あ、アイディアいつもありがとうございます。おかげで助かっています)



恭文「実戦のなんでもあり感と同じじゃだめなのよ。それじゃあスポーツの中で戦う意味がない。
制限されたルールの中で、実戦とは違う形で進化してく魔法戦技じゃないとやる意味がない」

ティアナ「……それ、かなり難しくない? てーかそれを原作設定とか」

恭文「あははは、出てないけどどうすれば? てーか『頭部を破壊されたものは失格』とか『ミッドがリングだっ!』とかもないし」

ティアナ「……納得したわ。とにかく次回は」

恭文「次回は……多分リクエストもらってたあのクロスやります。てーか今やらないと時間がなさそう」

ティアナ「そ、そうなの。それでは本日のあとがきはティアナ・ランスターと」

恭文「Vivid編、目標が高くなりつつあるのが怖い蒼凪恭文でした。それじゃあみんな、またねー」





(……総合格闘技の本買わないとなぁ。てーか資料が『スネ夫の総合格闘技挑戦動画』だけでルール制定とか無理。
本日のED:sacra『identity』)










空海「……なぁ恭文、総合格闘技って修羅の門とか修羅の刻とか見て勉強するのダメか?」

あむ「空海、アンタ真面目にやろうよっ! てーか漫画でどうにかなるのなんてコイツだけだしっ!」

恭文「うん、問題ないよ」

あむ「それでアンタも許可出すなっ!」

恭文「だって陸奥圓明流だって総合格闘技だし」



(打撃・投げ技・関節技……全て揃っております)



恭文「なによりあれ、奥義以外は全てやろうと思えば実際に出来る技らしいから」

あむ「そうなのっ!?」

恭文「うん。ネットで色々調べてた時にね。なんか作者の学生時代の経験からーとか。
とにかく空海、打撃は大丈夫っぽいからあとは投げ技と関節技だよ」

あむ「でも魔法戦闘でそれって……アンタ今までそんなの使ってないじゃん」

空海「そんな技がぽんぽん飛び出るのがIMCSって事だ。こりゃ」

恭文「辛くなった?」

空海「まぁ道のりが険しいのはよく分かった。でも……やっぱ燃えて来た。俺、あの映像に出てた選手みたいに強くなりたいわ」





(おしまい)






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