小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第29話 『バカだバカだと言われても、やってしまう時もあるのよ。生きてると、色々あるの』
※必要だと思ったので、アルトアイゼンとアメイジアと金剛がお送りする前回のあらすじ
古鉄≪マスター共々、試験で新しい変身をしました。凄く楽しかったです。
でも、高町教導官と勢い重視の力押しで暴れたら、ちょこっと怒られました≫
アメイジア≪怒られたな。色々とよ≫
金剛≪展開を含めて徹底修正という手も考えたそうだが・・・リアル友人との討議の結果、そんな後出しをしてもつまらないという結論が出たらしい。
28話は誰がどう言おうと、どう思おうと、アレで押し通すそうだ≫
古鉄≪・・・で、そこはともかくです。はやてさんが・・・大変です。さて、どうしましょうか。この昼メロ展開は≫
アメイジア≪ま、見てのご期待ってとこだな。ボーイとブロンドガールはどうすんだろうね≫
金剛≪とにかく・・・本編、始まります≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・さて、どーしようかこれ」
あの雑な予告じゃないけど、本当にどうする? いや、もうどうしようもないんだけどさ。
≪とりあえず・・・でしょう≫
「そうだね。フェイト」
「うん・・・」
僕は、フェイトにゆっくりと右手を差し出した。で、ニッコリと笑ってから、思っていた言葉を届ける。
あくまでも、優しく、柔らかく・・・だ。
「バルディッシュ、預かるから貸して?」
「ダメ」
・・・あくまでも、優しく、柔らかくだ。
「あのね、フェイト。じゃあ言い方を変えようか。その、右手でずっと握り締めているバルディッシュを、一旦離して欲しいんだ」
「・・・どうして?」
・・・あくまでも、優しく柔らかく、刺激をしないようにだ。
「それはね、フェイトが今・・・すごく怖いオーラを出してるからだよ。うん、僕もはやてもちょっと引いてるくらい。だからね・・・とりあえず、置いて」
・・・そこまで僕が言うと、フェイトはしぶしぶバルディッシュをテーブルの上においてくれた。
あー、これで一安心だ。やっと話が進められる。
「・・・でさ、はやて。その・・・それって確定情報?」
「・・・ううん、まだわからん。ちゃんと検査したわけちゃうし」
≪なら、まずはそこと、ヴェロッサさんに知らせることですよ。・・・平和的に≫
うん、結構重要よそこ。現に、鬼に一人なりかけたしね。
「でも・・・」
「はやて、ヤスフミの言う通りだよ。まずはそこを確認しないと。・・・怖いの、分からなくはないけど、ちゃんとしなきゃ」
検査もしていない現段階じゃ、勘違いの可能性もある。まずはそこ。で、あと一つ・・・。
"・・・フェイト、悪いんだけど、そっちは頼める? 僕は僕で、ちょいやることがあるから"
"それはいいけど・・・やること?"
・・・ヴェロッサさんだ。現状はともかく、はやてとどういうつもりでそうなって、今どう思っているのか、ちょっとつつこう。
"いきなりはやてから話しても・・・またゴタゴタしそうだしね。ワンクッションは必要でしょ"
"そうだね。でも・・・ヤスフミだけで大丈夫?"
"うん、まず人生の先輩方に相談する。アテがないわけじゃないから"
・・・とにかく、僕達は動くことになった。
しかし・・・いきなり過ぎでしょ、これは。
魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝
とある魔導師と機動六課の日常
第29話 『バカだバカだと言われても、やってしまう時もあるのよ。生きてると、色々あるの』
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・・・というわけで、フェイトにはやては任せることにして、僕は家に戻った。なので、早速・・・だ。
僕は、ある人に通信を繋げた。
「・・・もしもし、クロノさん。今、仕事は大丈夫ですか?」
『あぁ、丁度一段落したところだ。・・・どうした。深刻そうな顔だが』
そう、クロノさんです。
◆相談者その1:クロノ・ハラオウン
「・・・いえ、頼りになる人生の先輩のお知恵を借りたくて」
『ふむ・・・珍しいな。どういうことか、まず話してくれ』
さすがクロノさん。話が早くて助かる。
「えっと・・・エイミィさんとの間に子どもが出来た時って、どんな感じでした?」
『・・・は?』
「えっと・・・ですね、僕の知り合いの相手が、まぁ・・・ご懐妊したんですよ。でも、どう伝えたらいいかよくわからなくて、悩んでいると、相談されまして・・・」
・・・現段階で、ヴェロッサさんの名前は出せない。うん、名前は伏せた上で相談して、ヴェロッサさんへの判断材料にさせてもらう。
まず立てておきたいのが・・・はやてのことを聞いた時のヴェロッサさんの反応。こういう場合、やっぱり聞くべきはクロノさんなのだ。
『なるほど、それでか。普通に言うのはダメなのか?』
「こう・・・反応が怖いらしいんですよ。結婚とかしてるわけじゃないんで、喜んでくれなかったらどうしようとか考えちゃうらしくて・・・」
・・・うむぅ、ここまで言うと状況は悪いよね。こう、辛いよ。
『・・・その危惧は正解かも知れないな』
「え?」
『実を言うとな、僕も良く分からなかった。
子どもが出来て、自分が父親になるという事実を、エイミィから聞いた直後は認識出来なかった』
「そうなんですか?」
意外だ。クロノさん、しっかりしてるから、大丈夫だと思ってたのに。つーか、見ててそう思った。
『もちろん、頭では分かっている。だが・・・それが頭だけのことだと、カレルとリエラが生まれるまでに、散々思い知ったよ。
自分が父親になるんだと認識しきったのは、本当に生まれる直前のエイミィを見てからだな』
「じゃあ、こう・・・徐々に・・・ですか?」
『そうだな。大きくなっていくエイミィのお腹と、それを愛おしいそうに撫でるエイミィを見て、少しずつ・・・だ。
どうも、男は体内で抱えない分、認識が遅れるらしい。お前の知り合いの、いきなり父親モードになることは、無いと考えた方がいいかも知れん』
そういうものなのか・・・。
『それで一度、自分はおかしいのではないかと、母さんに相談したが・・・笑われたよ。父さんも同じくだったとな』
「あはは・・・。遺伝なんですかね」
じゃあ、やっぱりいきなりあれこれ反応を求めるのは酷か。うん、はやてとフェイトには言い含めておこう。多少鈍くても、それは仕方ないんだ。
・・・しっかり言っておこう。じゃないと、どうなるか分かったもんじゃない。
「クロノさん、ありがとうございました」
『参考になったか?』
「かなり」
・・・重々にお礼を言ってから、通信を切る。さて、次だ。
正直、話を持ちかけるのは戸惑うけど・・・この状況で、一番信頼出来るのは間違いない。
口も固いし、このコミュニティから距離もあるし。なので、ピポパと・・・。
『はーい♪』
「・・・失礼しました」
『あら、別に切らなくても大丈夫よ?』
「切りますからっ! まさかバスタオル一枚とは思わなかったんですっ!!」
『・・・もう、そんなこと言わなくていいのよ。私とあなたの仲じゃない。あの時、私の胸に触れたあなたの手の暖かさに、どうしても運命を感じて』
「その話はやめてー! つか、運命なら他の所で感じてっ!!」
・・・そう、頼れるシングルマザーで最近一番メールのやり取りをしているお姉さん。メガーヌ・アルピーノさんです。
◆相談者その2:メガーヌ・アルピーノ
・・・とにかく、一旦通信を切って、着替え終わってから話を再開させた。というか、かけ直した。
で、全ての事情を話したところ・・・。
『・・・恭文くん』
「なんですか」
『私ね、試験の様子も見てたし、ヒロちゃんやフェイト執務官に、ゲンヤさんにギンガちゃんからも、色々聞いていたの』
なにをですかなにを。そして、そんな可哀想な物を見る目を僕に向けないで。
『君・・・本当に運が無いと言うか、トラブル体質だよね』
「言わないでください・・・」
僕の尊敬するあの人に比べれば、僕はまだマシな方ですよ。
『まぁ、そこはいいか。でも・・・結構こじれてるね』
「そうなんですよ」
正直、放置してしまったことが悔やまれる。くそ、失敗だった。
『そこを言っても仕方ないよ。・・・大人なんだし、本来なら二人で解決していくことなんだから。君が気に病むことじゃない』
「・・・はい」
『それで、これからだけど・・・』
そう、過ぎたことはどうにもならない。これからをどうするかだ。
『まずは事実確認からという判断は、正解だと思う。
というかさ、この間隊舎にお邪魔した時に見た様子から思うに、六課の人達に現段階で情報公開したら、とんでもない事になるよ』
「やっぱりそう思います?」
『かなりね。現状だとアコース査察官が悪者なのは、間違いないし。だって、それっきりなんでしょ?』
そう、一ヶ月近くそれっきりだ。・・・うわ、これだけでも有罪に思えるよ。
『そこに加えてこれだよ? ・・・なので、私としては、まずはアコース査察官に面談。それで、皆で検査に立ち会う・・・方がいいと思う』
「ヴェロッサさんも一緒に・・・ですか?」
『そうだよ』
むむ、そうなのか。でも・・・なぜ?
『こういうのは、男の子も不安にさせなきゃ。検査結果を待ってる間はね、色々考えるの。
うん、私は考えた。まだ、前の旦那と仲良かったけど、それでも・・・かなりね。アレ、女の子一人は辛いよ?』
どこか遠い目をして言うメガーヌさんを見て、少し申し訳なくなった。こう・・・いやなものを思い出させたかなと。
『・・・大丈夫だよ。今は、恭文くんが居るから。私、もう君のことしか考えてないんだ』
・・・神様、居るなら今すぐに答えてください。どーしたらこの優しい笑顔を浮かべた人を止められますか?
いや、無理っぽいですけどっ! あー、やっぱり勝てないよっ!! どーしろというのよこれっ!?
「とにかく、ヴェロッサさんにもその待ち時間を堪能させておけと」
『さりげなく流したわね』
「気にしないでください。・・・でも、どうすれば」
『八神部隊長に話をさせるしかないよ。・・・場合によっては傷つく可能性もあるけど、それでも、結局は当人同士がどうにかするしかないんだから。
二人だけで・・・が一番いいけど、君やフェイト執務官が同席するにしても、あくまでも中立の立場として話すこと。君達は第三者なんだから』
「・・・はい」
結構大変かも。でも、方針は決まってきた。うん、あとは冷静にいこう。
『そうね、冷静に。慎重に、だけど迅速に・・・だね』
「はい。・・・あの、ありがとうございました」
『ううん、力になるって約束したもの。これくらいはね。・・・で、その後はどう?』
「へ?」
『フェイト執務官に告白して、考えてくれることになったじゃない。その後、何か進展は?』
そんなに興味がありますか。というか、身を乗り出さないで。谷間がパジャマから見えてるから。
『あ、もっと見たいなら・・・いいよ?』
「見たくないですからっ! つーかボタンに手をかけるのはやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
・・・とにかく、こうして行動は決まった。そして、僕がメガーヌさんに勝てないことも再認識した。
≪・・・今さらですか?≫
「うん、今さらね」
・・・まず、はやてとヴェロッサさんには、しっかりと話をさせる。つか、ここは絶対だ。もうこれ、二人だけの問題じゃないし。
≪そして、その上で検査ですね。ただ・・・≫
「ヴェロッサさんの反応がおかしかったり鈍くなっても、気にしない。そこは、あとでしっかりと僕がフォローしていけばいいでしょ」
≪・・・しかしマスター≫
「なに?」
≪事件が起きているわけでも無いのに、トラブル多いですね≫
「・・・言わないで」
とにかく、フェイトとはやてに連絡だ。あと、ヴェロッサさんのスケジュールも調べて・・・。
『・・・もしもし、ヤスフミ?』
「あ、フェイト。丁度良かった。今」
『・・・アコース査察官から、はやてに連絡が来た。明日、ちゃんと会って話したい・・・だって』
「はいっ!?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・最近、うちの旦那様からよく通信が来る。
あの一件以来、色々と思うことが出来たらしい。やはり、パパと呼ばれなかったショックは大きかったらしい。
ま、ここはいいの。今日の問題は・・・。
「・・・恭文くんから相談?」
『あぁ。・・・かくかくしかじか・・・というもにでな。
なんというか、アイツもパパとは呼ばれているが、その辺りをよくは分かってるわけではないのだと、少し思ってしまった』
・・・いや、あの・・・なんて言うかさ、クロノ君。なぜか嬉しそうにしてるとこ悪いけど、それ、ちょっとおかしくない?
『なぜだ?』
「いや、まずさ・・・。あの子にそういう友達、居るの? せいぜいサリエルさんくらいじゃ」
あ、固まった。うん、居ないよね。サリエルさんは、大人だからその辺りは大丈夫みたいだし。というか・・・。
「クロノ君、お母さんに相談する時、同じような手を使ったらしいね。友達がどうとかーってさ」
『・・・なぜ知っているっ!?』
「あー、お母さんが楽しそうに話してくれたぞ? いや、アタシもエイミィも聞いてて微笑ましかったよ」
まー、つまりよ。友達の話なんて言ってるけど実は・・・。
「・・・あり得ないか」
『あり得ないな』
「一晩一緒に居て、何にも無いような二人だもんな。ないない」
うん、きっとちょぉぉぉぉっと気になっただけだよね。うん、まさかね。
私達がそう結論付けようとした瞬間、通信がかかった。・・・あれ、なのはちゃんからだ。
「はい、もしもし?」
『あ、エイミィさんっ! あの・・・その・・・大変なんですっ!!』
・・・なぜに君はそんなに慌てているのかね? まー、落ち着いてお姉さんに話してみなさい。
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・・・フェイトちゃんとはやてちゃんの様子がおかしい。一緒にご飯を食べて、帰ってきてからずっと。
その上フェイトちゃんは、帰って来るなりはやてちゃんと調べものとかで、オフィスに行った。
事件が起こっているわけでも無いのに、なんだか変だなと思いつつも、お茶とお菓子を差し入れをに持っていくと・・・誰もいない。
トイレかなにかかなと思い、とりあえず、明かりの付いていた端末の横にそれらを置く。
その時に、チラっと見えた画面。というか、私に反応したのかスリープモードが解けた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ!?
そこに映っていたのは、局のデータベースとか、仕事関連の物じゃなかった。いわゆる検索エンジン。
そして、それが弾き出していた検索内容は・・・首都にある産婦人科だった。
「・・・というわけなんです。あの、でも・・・まさかですよね。恭文君とフェイトちゃん、何もなかったんだし」
『・・・クロノ君』
『・・・間違いないかも、知れないな』
期待していたのは、否定の言葉。だけど、それは帰ってこなかった。
『あー、実はさっき、クロノが恭文から相談事をされてたんだよ』
「相談事?」
『あぁ。・・・男が父親の自覚を持つのには時間がかかるものなのかということを聞かれた』
えぇっ!? 恭文君がだよねっ! どうしてっ!!
「クロノ君、それって何時の話?」
『・・・大体、3時間程前だな』
「・・・それくらいの時間だと・・・恭文君、フェイトちゃんとはやてちゃん達と、ご飯食べた後のはずだよっ!!」
『えっと、つまり・・・どういうことだよおいっ!!』
冷静に・・・KOOLだ。KOOLになれ高町なのは。・・・わかったっ!!
『つまり、恭文くんとフェイトちゃんは1ヶ月前に・・・』
「そうなっちゃっていた・・・ですよね」
『1月以上経ち、変化・・・いや、兆候に気付いた? それをはやてに相談していた・・・』
ううん、もしかしたら、はやてちゃんの様子がおかしかったのも、元々恭文君なりフェイトちゃんから相談されていたからなのかも。
『クロノに変な質問をしたのは、自分の反応がおかしいんじゃないかと思って、相当遠回りに聞いた・・・とかか?』
『多分、クロノ君にバレないようにするためだよ。でも、まためんどくさい手を・・・』
『穴だらけな辺りが、実にアイツらしいがな』
『じゃあ、なにか? もしかしてフェイト・・・』
「お腹の中に・・・恭文君との赤ちゃんっ!?」
え・・・・・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
というわけで、翌日・・・決戦の日はやってきた。
舞台となるのはここ、あのトンデモ査察官との待ち合わせ場所。クラナガンにある某ファミリーイタリアンレストラン・タイゼリア。
その近くに、僕達は立っていた。おそらく、奴はもう中に居るはず。そう、決戦はもうすぐなのだ。
なので・・・。
「「ハックシュンっ!!」」
フェイトと一緒に、くしゃみなど出るのですよ。
「・・・二人とも、大丈夫か?」
「あ、うん。なんとか・・・」
・・・おかしい。なんで急に? というか、フェイトも一緒に。
≪二人揃って風邪ですか?≫
「いや、そんなはずは・・・」
「体調管理、ちゃんとしているよね」
うーん、謎だ。
「でも、はやて。本当に一人でいいの?」
「うん、大丈夫や。・・・ちゃんと話す。気持ち、もう固まったから」
いや、真面目に心配だよ。そう言ってまた気にするなとか言いそうだし。
「大丈夫やから。うちがあの時どう思っていたのか、ちゃんと話すから。・・・言ったやろ?」
そう、ここに来る道すがら、はやては話してくれた。どういうつもりで・・・そうなったのかを。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・うちな、恭文にうちの気持ちはどうなんや・・・と言われてから、ずっと・・・考えてたんよ」
歩きつつ、どこか遠い目をしながらそう言うのは・・・僕よりも小さな女の子。
僕なんかより偉くて凄くて・・・そしてか弱い、一人の女の子。
「どうして、アコース査察官と・・・ってこと?」
「そうや。でもな・・・これが中々わからんよ。うん、今でも、分かってるわけちゃうかも」
・・・はやてにとっては、そうらしい。やっぱ、フェイトの言うように戸惑うらしいね。うん、簡単じゃないか。
「・・・でもな、これだけは言えるんよ。うち・・・後悔してないんよ。少なくとも、ロッサと・・・結ばれたことは。あの時の時間を、大事やとも思うてる」
でも、そこに『他は後悔しまくりやけどな』・・・なんて付け加えるのが、はやてらしいけどね。
「・・・でも、こんなんでえぇんかな」
「自信、ないの?」
「そうやな、自信ないわ。不安なだけで、それを埋めたくて、そういう風に美化してるんやないかと思うと、ちとな・・・」
「・・・でも、大事な記憶になってるんでしょ? そう思えるなら、それでいいじゃないのさ」
「アンタ、また簡単に言うなぁ」
「簡単でいいんだよ」
・・・つか、アレだよアレ。
「・・・その人と一緒に居た記憶と時間がさ、どんなものでも、大事だと思えるなら、それは・・・その人が好きだって事だと思う。
少なくとも、僕はそう。うん、その全部が大事で、大好き」
フェイトと居る時間。フェイトと居た記憶。その全部が大切な宝物になってる。楽しく笑い合った時間も、ちょっとケンカした記憶も。
そんな時間を刻む度に、それを大事だと、なにがあっても守り抜きたいと思う度に・・・感じる。
僕は、この人のことが好きなんだと。そうして・・・好きって気持ちが更新されていく。うん、ずっと好きだったじゃないね。
フェイトの事を好きに、なり続けているんだ。今、この瞬間も。
「・・・つーことらしいけど、フェイトちゃん、どうや?」
「あの・・・えっと・・・。ヤ、ヤスフミっ! いくらなんでもいきなり過ぎだよっ!!」
「え、なんで怒られてるの僕っ!? 今、良いこと言ったよねっ!!」
「空気読めてへんからやろ」
こ、このタヌキは・・・!!
「・・・でも、そんな単純で・・・えぇんかな?」
ニヤニヤしていた表情を、真剣なものに変えて、聞いてきた我が悪友に・・・僕は何時もの調子で返す。
「いいに決まってるでしょ。つか、難しく考えるから、頭の中の迷路はごちゃごちゃになるの。
答えは、いつだってシンプルなんだよ。好きで、大事。だから側に居たい・・・ってね」
≪・・・8年頑張った人間は、言うことが違いますね。というより、重みが違いますよ≫
「・・・そうやな。うち、思わず感心してもうたもん」
「・・・おのれらは」
「ヤスフミ、抑えて抑えて・・・」
・・・でもさ・・・うん、きっと、それくらい単純で、簡単でいいんだよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・分かった。じゃあ、私とヤスフミは近くに居るから」
「うん。待っててな」
そう言って、はやては店内に入っていった。・・・さて、外から観察だ。
「ダメだよ。それで邪魔したらどうするの?」
「・・・フェイト、そう言うことを口にするなら、今すぐバルディッシュを離して。どーしてまた握りしめてるのさ」
「・・・だって、心配で」
えーい、いちいち可愛い表情しおってからにっ! 悪いけど、それじゃ騙されんぞっ!!
≪そんなこと思うのはあなただけですよ。というか・・・見てください≫
「「なに?」」
≪ヴェロッサさん、いきなり頭下げました≫
「「・・・えぇっ!?」」
・・・あ、ホントだ。思いっきり頭下げてる。というか、はやてが戸惑ってるや。
え、どういうつもりでアレっ!?
「とーぜんだろ。話すにしても、この場合まずは男が頭下げなきゃだめだしな」
≪アコース査察官に非があるのは、明白ですしね≫
「「・・・サリさんっ!?」」
≪あなた、いつの間に≫
「それはこっちのセリフだ。どうもこそこそ動いてるなと思えば、こういうことか。
・・・つか、フェイトちゃん、とりあえずバルディッシュは離さないか? やっさんだけじゃなくて、俺も安心出来ない」
「・・・はい」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・結局、なにも出来ずに事件発生から1月が経とうとしていた。八神部隊長は、見るからにどんどん悪化していく。
うん、結構ヤバイですよアレ。どうもあの人、溜め込むタイプみたいだし。
このままはダメだろ。俺は・・・相談することにした。そう、あの人なら大丈夫だと思ったんで、アコース査察官と一緒に呼び出した。
「・・・そりゃあ、お前さんが悪い」
「やっぱり・・・ですか」
「まー、アレだよ。どういうつもりでそうなったのか、八神部隊長には言ってないんでしょ? そりゃアンタが悪いよ。
やっさんが言ってたよ? 『男は、惚れた女の子を戸惑わせたり、泣かせちゃいけない』ってさ」
「そうですよね。というか僕は、恭文よりダメなんですよね・・・」
居酒屋で、酒を飲み、焼き鳥をほうばりながらナカジマ三佐も交えて、そんな話をしていた。頼れて直に相談出来る人間、これしかいなかった。
クロノ提督? 最近、暇を見つけてはケーキ作りの練習してるらしい。・・・焼きそばが糖分に負けたのが、よほど悔しかったようだ。
「・・・そんな落ち込まないでよ。今のやっさんと比べたら、誰だって下劣な奴に成り下がるから」
・・・結果的に、そうならなかった事で開かずの門をこじ開けたしな。うん、アレと比べたらダメだ。つか、普通は我慢出来ないって。
・・・あのヘタレがっ! 主人公補正のお陰で現状に繋がってるのと同じじゃねぇのかっ!? もうちょい展開考えろよ作者っ!!
「それでサリエル、八神は・・・」
あー、ダメだダメだ。思考を戻そう。
「やっさんが相手してるんで、まだなんとか」
でも、それじゃあ応急処置にしかならない。やっぱ、ちゃんとした薬が必要なんだよ。でも、どんな名医だろうと、それは処方出来ない。
それを処方出来るのは・・・この兄さんだけだ。
「・・・まぁ、なんだ。アコース査察官。アンタは大人だからよ、そういうことが全く無いってのは、それはそれで問題かも知れねぇ」
・・・ナカジマ三佐、それをやっさんとフェイトちゃんにも言ってやってください。俺、見ててたまにあの中学生日記には本気でイライラするんですよ。
「だがよ、八神のやつはああ見えてまだ子どもだ。お前さんの遊びに付き合わせるには」
「遊びじゃありませんっ!!」
「じゃあ、本気だったとでも言うつもりか?」
「・・・そうです。僕は」
アコース査察官が、酎ハイを一気に飲み干し、真っ赤な顔で・・・言い切った。
「本気でしたっ! 本気で・・・はやてと・・・りましたっ!!」
「ちょっ! アコース査察官、声でかいからっ!!」
「だったらよ、なんでそれを八神に言わねぇんだ」
「・・・怖かったからですっ! 気にしないって言われた時、突き刺さりましたっ!!」
・・・あー、俺も分かるわそれ。女の『気にしない』は、結構グサってくるからな。うん、そりゃ勇気出ないわ。
ヘタレとは言うことなかれ。女の一言はね、男にとっては防御力無視の攻撃と同じ。それを分かってないのは、女だけだよ。
てか、アコース査察官、声デカイから。みんな見てるからね?
「でも、僕は・・・」
「ちょ、それ俺の生っ! てか、また・・・」
一気に飲み干しやがった。うわ、緑と赤白でイタリアンカラーだよ。つか、目に悪いなこれ。
「チキンでしたっ! 男じゃありませんでしたっ!! ただの弱虫野郎でしたっ!!」
「そうだな、その通りだ。で、お前さんはこれからどうする?」
「・・・ヴェロッサ・アコース、ここに宣言しますっ! 僕は・・・八神はやてに・・・惚れた女に・・・ぶつかりますっ!!」
「おし、よく言ったっ! ほら飲めっ!! 今日は俺の奢りだっ!!」
「はいっ!!」
・・・金剛、今の記録してるな?
≪当然でしょう≫
「よし。それをアコース査察官のプライベート端末に送っといてくれ。記憶飛んでても、そうすりゃあこの一件は片付く」
≪御意≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・はやて、ごめん」
・・・え、なんでいきなり頭下げるんやっ!?
「はやてのこと・・・戸惑わせた。僕は、男じゃなかった」
「あの、気にせんでええよ? うちが」
「気にするよっ!」
ロッサの声で、うちの言葉が遮られる。えっと・・・あの・・・。
「気にするよ。気にするに決まってる。僕達・・・もう、他人じゃない」
「せやけど、あの・・・」
「はやて、僕はあの時・・・はやての事が、本当に愛おしくて、大切だと思ったから、そうなったんだ」
・・・・・・・・・・・・・え?
「ホンマ・・・に?」
「本当だよ。・・・多分に本能的なものが大きかったのは、認めるけどね。でも・・・」
ロッサがうちの頬を撫でる。優しく・・・柔らかく。
「その中に、ちゃんとはやてへの気持ちもあった。間違いなくね。だから・・・はやて」
「うん・・・」
「順番が色々ごちゃごちゃになってしまったけど・・・僕は、君が好きだ」
その言葉で、胸がいっぱいになる。せやけど、それだけやない。
「この1ヶ月ね、沢山考えたんだ。君に気にしないと言われた時、本当にショックだった。でも・・・だからこそ分かった。
僕は、君が好きだから、あの時・・・そう、なりたくなったということに」
「・・・ホンマに?」
「本当だよ」
「せやかて、うち・・・」
「・・・はやてがどう思おうと、僕の答えは変わらない。あ、もちろん僕が嫌とかなら・・・仕方ないとは思うけど」
アホ、なんで・・・なんでそこで弱気になるんや。ちゃんと・・・最後まで・・・!!
アカン、涙が・・・止まらん。うち・・・うち・・・!!
「あの・・・はやてっ!? えっと、あの・・・ゴメンっ!!」
「謝らんでよアホ・・・! うち・・・その・・・ロッサ・・・!!」
うちは、そのまま吐き出した。溜めとった自分の気持ちを。
うちも、ロッサと同じいうこと。そして・・・不安を。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・んじゃ、ヴェロッサさん」
≪えぇ。決して遊びなどでは無かったということです。八神御大将への想いは、本物でしょう≫
「いや、あのイタリアンカラーの告白は見せてやりたかったよ。うん、アコース査察官は男だ」
なんだか、嬉しそうに話すサリさんを見て、つい僕達も・・・。
「・・・フェイト」
「うん、良かった。本当に・・・」
頬を緩めて、笑顔になってしまう。でも、これなら、安心かな? 少なくとも最悪なシチュは避けられたし。
「あ、でも・・・アコース査察官、はやての身体の事知らないよね?」
「・・・あ」
「それなら心配無さそうだぞ。・・・ほれ」
サリさんが、店内を指差す。すると・・・うわ、アレなに?
「・・・はやてのお腹さすってるね」
「というか、空気・・・甘いみたいだよ?」
≪あの人達、騒動の原因という自覚、無いですよね≫
ちょっとムカついてくるのは、なんでだろ。・・・ま、いいんだけどさ。
「んじゃ、早々に済ませるか」
「え?」
「八神部隊長の検査だよ。ダチがやってる産婦人科があってな。頼めば、すぐに検査してくれる」
≪女医の方で、腕も確かです。口も固いですから、守護騎士の方々に漏れる心配もありません。八神御大将とアコース査察官も、安心出来るかと≫
お、それはいいかも。そこをどうするか、ちょっと悩んでたしね。
「・・・助かります。サリさん、ありがとうございます」
「いいっていいって。我らが御大将が元気じゃないと、やり辛いしな。そうだろ、金剛」
≪その通りです。我らとて、既に機動六課の一員。フェイト執務官、どうぞお気になさらずに≫
「・・・うん。あ、それでも・・・言わせて欲しいな。同じ部隊の仲間として、サリさんだけじゃなくて、金剛にもね」
≪・・・いえ≫
・・・金剛、ちょっと照れてる? いつもとちょっと違うし。
≪マスター、ヤキモチですか?≫
「違うわボケっ!!」
・・・こうして、人知れず一つの事件は終わりを迎えた。
もう、この段階になれば、ここ1ヶ月のゴタゴタなど、全て過去の遺産。なんの問題にもならない。
だって、現在の二人は、あんなにも幸せそうなんだから・・・。
・・・そう思っていたのは、僕達だけだった。
この瞬間にも隊舎では、あるとんでも事実で嵐に見舞われていた。
そう、事件は・・・いや。僕とフェイトにとっては、ここからが本番だったのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・は?」
「フェイトさんに・・・赤ちゃんっ!?」
「そうだよ。その可能性は高い」
つか、待って待ってっ! アイツ、フェイトさんとはなんにも無かったって・・・。
「ところがどっこい、やっさんも男だったってことだよ」
≪俺達にはああ言ってたけど、実は・・・ってことだな。つか、そう考えた方が、ここ最近の進展具合が納得出来るんだよ。
やっぱ、いくら何でも通じ方がスピーディー過ぎるだろ?≫
「確かに・・・そうだね。だから恭文もフェイトさんも、同じ布団で寝たんだ・・・」
「もう、それくらいは平気だったんだね」
アイツ、フェイトさんとそんなことしてたんだ。つかスバル、その言い方はやめなさい。
「あの、それで・・・」
「恭文、E○じゃなかったんだ。良かった〜」
「スバルさん、気にする所が違いますよっ!!」
全くよ。・・・でも、これどうするの? 糾弾・・・は、違うわよね。だって、今現在空気が微妙とかじゃない。
ううん、むしろ二人とも幸せそうにしてるし。・・・ってことは、アメイジアの言うように、気持ちが通じ合った上で進展してるんだから。
「そうだね。・・・だから」
「いっちょ私らで、サプライズといかない?」
『サプライズ?』
なのはさんとヒロリスさんの提案に、私達は全員、首を立てに振った。
まぁ、アレよね。大事な仲間が幸せになるんだもの。うん、しっかりいきましょ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・名前、どうしようか」
「ロッサ、ちょお気が早いんとちゃう? まだ確定や無いんやし」
「でも、こういうのは時間がかかるものらしいし、今のうちに・・・」
・・・今はサリさん付き添いの下、二人で検査結果聞いてるけど、それまではこんな会話をずっとしていた。つかあのバカップル、イラつくんですけど。
つーか、いきなりベタベタし過ぎなんだよっ! どんだけ密度濃い時間過ごしてたのっ!? 何より何より、僕とフェイトが居ること忘れてるでしょっ!!
「まぁ・・・良いことだよ」
≪ただ、サッカーチームが作れるくらい・・・なんて話はどうなんでしょ。いきなり結婚モードですし≫
まぁ、お腹に赤ちゃんが居ることが確定すれば・・・ね。
「というか、フェイト。どーしたの」
さっきから、落ち着き無くキョロキョロしてる。うん、ちょっと目立ってるよ?
「あの、えっと・・・なんだか、慣れなくて」
「・・・あぁ、産婦人科来るの初めてなんだ」
「うん。・・・ヤスフミは、なんだか慣れてるね」
「エイミィさんの付き添いでよく来てたから」
・・・あと、出産に立ち会ったりもしたからなぁ。うん、あんま緊張とかは無いかな。海鳴もミッドも、あんま変わんない。
こう、院内全体が、暖かい空気で満たされている。最初は慣れなかったけどね。
でも、エイミィさんと色々話しているうちに・・・慣れた。こういうのも、悪くないなと、思うようになった。
「そう言えばそうだったね。・・・うん、今はちょっと頼れるかも」
「・・・ちょっとだけなの?」
「ちょっとだけだよ」
「うー、やっぱフェイトの採点、辛口だよね」
「厳しくいくって決めてるもの。それでヤスフミのこと、ちゃんと見ていくの」
もうちょい甘い方が、僕は嬉しいんだけど。ま、いいか。
「・・・フェイト」
「なに?」
「やっぱり、怖いんだよね」
僕がそう言うとフェイトは・・・頷いた。言いたい事、察してくれたらしい。うん、はやてを見てて感じた。
なんの心の準備も無しにそうなって、子どもを授かるのって・・・怖いことなんだ。今回は、大丈夫っぽいけど。
もし、あの時我慢出来ずに、フェイトを押し倒してたりしたら・・・後悔、してただろうな。それでもし・・・。
そこまで考えて、身震いがした。そして思う。我慢してよかったと。まだ成就するかなんて分からないけど・・・。
でも、隣に居られて、見ていてくれるから。うん、今はそれだけで充分。
「・・・ヤスフミ、やっぱりそういうことしたい?」
「・・・うん」
正直に答える。まー、嘘ついてもしゃあないしね。
「こう・・・性欲と好きって気持ちが半々かな。うん、興味はあるし、実際・・・ね」
「・・・そっか」
「ただ、あの・・・フェイトが嫌とか、そんな風に思ってたら」
「大丈夫、ちゃんと分かってるよ」
・・・ホントに?
「あの時だって、我慢してくれた。私、無茶言ってたのに。・・・うん、分かってる。ただ、私もそれに甘えるだけじゃなくて・・・その・・・」
「フェイト、僕達・・・言ってること、よく分かんないね」
「・・・そうだね」
・・・うーん、こういう話、絶対必要だけど、今の段階でする話じゃないよね。
やっぱり・・・付き合うようになってからかな。
「そう・・・だね。ちょっと早かったのかも」
「そうだね・・・」
「・・・ヤスフミ」
「うん?」
「私、ちゃんと・・・お母さんになれるらしいの」
・・・はい?
「私・・・生まれが普通とは違うでしょ? でも、それでも、お母さんになれるそうなの」
そう、フェイトは・・・クローンとして生まれてきた。だから、その関係でアレコレ検査してたのは、知ってるけど。
「・・・でも」
「やっぱり、不安?」
「うん」
そう・・・だよね。ならないはず、ないか。・・・よし。
「・・・側に居るよ」
隣に座っていたフェイトの手を、そっと握る。フェイトがちょっとビックリしてるけど、気にしない。
「大丈夫なんて・・・軽々しく言えないけど、側に居る。フェイトが不安で押し潰されないように、側に居て、守るから。
僕はフェイトの一番の味方で、騎士だもの。・・・ううん、そういうの関係無いかも知れない。だって・・・ね」
・・・ちょっとだけ、頑張る。
「フェイトを・・・好きな女の子を守れないなんて、嫌だよ。・・・僕、男の子ですから」
「ヤスフミ・・・」
「・・・って、フェイトの相手が僕で決定みたいに言うのもアレだよね。まだ審査中なんだし」
「あの、大丈夫。うん・・・ありがと。じゃあ・・・あのね、もし・・・もしも、本当に私達がそうなれたら」
フェイトが、頬を赤く染め、少しだけ恥ずかしそうに微笑みながら、言葉を続ける。
・・・そう、なれたら?
「その時は、またこうして、手を握って・・・言葉をかけて、欲しい。それだけでも、私・・・安心出来るから」
「うん、約束する。それで、守るから。フェイトの笑顔と、今を」
「・・・うん」
そのまま、はやて達が出てくるまで、ずっと手を繋ぎながら、ちょこっとだけ先の話をした。・・・うん、ちょっと早すぎな話をね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「それで結果は・・・?」
検査結果を聞いた三人が戻ってきた。フェイトがそう聞くと、辺りの空気が静まりか
「あ、妊娠してなかったわ」
溜めもなにも無しで言い切ったっ!? 待て待てっ! なにそんな意外性ありな回答の出し方してるっ!!
「いや、これで溜めてもしゃあないやんか。・・・どーもな、精神的なもんで遅れてただけらしいんよ」
「それ以外は至って健康体。なんの問題も無いそうだ。つまり・・・」
「・・・なるほど、なんにしてもヴェロッサさんが原因と」
≪正解です≫
「め、面目無いです・・・」
でも、どーしようかこれ。二人とも盛り上がってたから、おめでとうと言うのもアレだし。かと言って、残念って言うのもちょっと違うし。
「そうだね。どう言おうか少し迷うね」
「まー、そんなんえぇよ。サッカーチームはしばらくお預け言うだけやし」
≪八神御大将、本気だったのですか≫
「アコース査察官、大変だな・・・」
「・・・頑張ります」
どうやら、ヴェロッサさんはこれから色んな意味で頑張っていかないといけないらしい。・・・ファイト。
「ほな、なんやかんやで上手くいったお祝いに、パーっとご飯食べ行こうかっ! とーぜん、迷惑かけたお詫びにうちとロッサが奢るわっ!!」
『おー!!』
・・・まぁ、ファミリーレストランで遅めの昼食という感じだったけど、五人で楽しく食事をした。
なお、サリさんが少し寂しそうだったのは、気にしないことにする。
それから夕方。僕達は・・・六課隊舎へと帰ってきた。なお、ヴェロッサさんも一緒に。
というか、いきなり挨拶って・・・本気ですか?
「なんにしても、必要だしね。きっちりしていかないと」
≪納得しました≫
ふむ、ヴェロッサさん吹っ切れたのかな? こう、頼れる感じが・・・。
「僕も頑張んないとな」
「・・・あの、サッカーチームはその・・・」
そう言ったのは、顔が真っ赤なせんこうの・・・まてまてっ!!
「違うからっ! そういう意味じゃないよっ!! フェイト、お願いだから顔を赤くしないでっ!!」
≪いいじゃないですか。きっと楽しいですよ?≫
「そういう問題じゃないからっ!!」
とにかく、僕達は隊舎に入っていく。そう、これから決戦なのだ。
さー、大変だぞこれからっ!!
『おめでとー!!』
ぱーんっ!!
『・・・え?』
全員揃って、そんな声を出す。つか・・・エ?
なんでいきなりクラッカーっ!?(notザ○) つか、全員揃ってお出迎えって・・・えぇっ!!
「えー、というわけで」
いや、ヒロさん。なにがというわけっ!? つか、なんでドレス姿っ! てか、皆もおめかししてるっ!!
「これから、やっさんとフェイトちゃんの祝賀会を、開催しちゃうけど・・・いいよねっ!?」
『いいよ〜』
「答えは聞いてないっ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」
しゅ、祝賀会っ!? なんですかそれっ!!
"ヤスフミ、なにかしたっ!?
"なにもしてないよっ! それを言うならフェイトもだよっ!! というか、試験合格祝いの宴会はもうやってるよねっ!?"
"えっと・・・二人ともおめでとう"
"アコース査察官っ! どうして普通に受け入れてるんですかっ!?"
"いや、そないなこと言うたかて・・・なぁ"
まてまて、本気で意味が分からない。どうなってんのこれっ!!
「あー、ヒロ。これ・・・なんだ?」
「え? やっさんとフェイトちゃんの祝賀会」
「・・・うん、そこは分かった。で、二人の何を祝おうってんだよ」
「そんなの、二人が晴れてお付き合いし出したことに決まってるじゃん」
・・・は?
あれ、僕はもしかして、耳が悪くなったのかな? 今、とんでもないフレーズが・・・。
「・・・恭文君、フェイトちゃん。水臭いよ」
はぁ?
「その・・・アレだ。ラトゥーアで・・・なんだろ? つか、それならそうとちゃんと言えよバカっ! アタシもなのはもスバル達も全員、ビックリしただろうがっ!!」
はぁっ!?
「・・・フェイト、アタシにも内緒って、なのはじゃないけど水臭過ぎないか?」
「アルフさんっ!?」
「というか・・・エイミィにクロノっ! 母さんもどうしてっ!!」
な、なんでうちの家族が居るのっ! つーかおかしいからおのれらっ!!
「おかしくなんてないわよ。だって、可愛い娘と息子の新しい門出を祝うためだもの」
「・・・恭文、色々大変だったようだが、良かったな」
「うん、良かったね。本当にさ・・・」
いや、あの・・・皆さん? なんでちょっと涙ぐむのかな。つーか、なにこれっ!? いったいぜんたいどういうことっ!?
"・・・フェイト、逃げよう"
"えっ!?"
"だってこれワケわかんないしっ! ここは36計逃げるが勝ちだよっ!!"
"そ、そうだね。皆ちょっとおかしいもの。少し冷静になってから・・・だよね"
よし、方針は決まった。あとは・・・。
"待て待てっ! 俺らにこれ押し付けるつもりかっ!?"
"そんなこと言ったって仕方ないじゃないですかっ!!"
なんかヒロさんが音頭取って乾杯の準備をし出している今がチャンスなのよっ! お願いだから逃がしてっ!!
"・・・ねぇ、君達・・・本当に付き合って無いの?"
"なぁ、怒らんから正直に言うてみ?"
"そんなのあるわけないよっ!!"
グサっ!!
"ヤスフミっ!? あの、ゴメンっ! そういう意味じゃないから泣かないでー!!"
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
"あーあ、フェイトちゃん泣かせてもうた・・・。ヒドい女やなぁ
"・・・つか、どうしますこれ。やっさんとフェイトちゃんは本気で覚えないみたいですし。つか、やっさん潰れたし"
"どうするもなにも、聞くしかないですよ。・・・うし、うちが聞いてみます"
"お願いします"
さて・・・パパッと答えてくれそうなんは・・・うん、アレやな。
"ヴィータ"
"なに、どうしたのはやて"
やっぱり・・・ヴィータやろ。
"えっとな、うちもロッサもなんでこうなってるかよう分からんのよ"
"・・・はやて、それ本気で言ってる?"
え?
"アタシら・・・知ってるんだ。はやて達、今日産婦人科に行ったんだよね"
"・・・はぁっ!?"
な、なんでそれをっ!? まさかうちとロッサ・・・いや、それなら恭文とフェイトちゃんの話になるわけないか。
"つか、フェイト・・・どうだったのさ"
"なにがや?"
"はやて、もうとぼけないでいいよ。・・・バカ弟子との間に、子どもが出来たかも知れないんだろ?"
・・・はぁっ!?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・じゃあなに? 僕とフェイトがそうなったって勘違いしてるのっ!?
"・・・どうもそうらしいわ。みんな、ロッサがラトゥーア居たこと知らんみたいやしな。いや、ビックリや"
"『ビックリや』じゃないよっ! ヤスフミ・・・"
"あぁ、クロノさんに中途半端に相談したのが失敗だったー!!"
いや、今さらだけど。ヤバイよ。絶対にヤバイよこれっ!!
つか、どいつもこいつもどうして状況証拠だけで先走りしまくってるっ!? 1ヶ月前から、何一つ学習してないしっ!!
"よし。もう二人とも付き合おうぜ。そうすりゃ解決だ"
"出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!"
"そうですよっ! あの・・・その・・・ヤスフミとは・・・その・・・!!"
"てか、どんな理屈ですかそれっ! つーか、僕はこれキッカケなんて嫌ですよっ!!"
言っておくけど、フェイトが不満とかそういうのじゃない。だって・・・その・・・!!
"フェイトが、ちゃんと答えを出すまで待つって約束したんですっ! 少しずつでも変わっていって、フェイトを振り向かせるって、決めたんですっ!!"
そうだ。僕はそう決めたし約束した。それなのに・・・。
"それなのに、こんななし崩しで付き合うっ!? そんなの嫌ですっ! それじゃあ、意味が無いっ!!"
"ヤスフミ・・・"
"・・・でもな、やっさん。お前そうは言うけど、この状況で真実が言えるか?"
う・・・。
"悪いが俺は無理だ。つか・・・アレらが暴れだしたら止められない"
た、確かにそうだ。産婦人科の事までバレてるってことは、当然はやてとヴェロッサさんの経緯まで話さないと・・・納得しない。
ダメだ。師匠達やヒロさんが暴れ出したら・・・止められないっ!!
"・・・僕が話すよ"
"ヴェロッサさんっ!?"
待て待て待てっ! それは絶対にヤバイですからっ!!
"いいよ、君やフェイト執務官にこれ以上迷惑はかけられない。ま、自業自得だよね"
"ヴェロッサさん・・・"
"・・・大丈夫。命は・・・助かるよね?"
すみません、今回は本当に分かりません。てか、もう安全域じゃないですし。
でもまぁ・・・。
"うちも一緒に話すわ。それならOKやろ"
"はやて・・・"
はやても一緒なら、大丈夫でしょ。うん、愛はなにものにも負けないのよ。
"大丈夫や。うちの子達は、みーんな分かってくれる。せやから・・・な?"
"・・・うん、ありがとう"
・・・そうして、二人による事情説明が行われた。でも・・・ね。
言葉だけって、分かり合えないこと、あるよね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・恭文さん、ヘタレですね」
「うっさいよバカっ! つーかいきなり過ぎだからっ!!」
そして夜。二つの月を眺めながら中庭で、リインと寝転がってる。リインは、僕の右腕を抱き枕代わりにしてる。でも・・・疲れたー!!
あれから、鬼5匹を止めるのに、そうとう力を使ったもん。ま、そのおかげで僕とフェイトのデマはいい感じにうやむやに・・・。
「アコース査察官、大丈夫ですかね?」
「サリさんがいるから・・・多分。てか、リインは参加しなくていいの?」
「リインは早く寝るようにと言われました。というか、朝まで生討論だそうです」
≪・・・マジですか≫
「マジらしいですよ」
そう、現在八神家一同はヴェロッサさんと姉代理でヒロさん。それに議長としてサリさんを交えて会議中です。いや、どうなることやら・・・。
「てかさ、リイン」
「はいです?」
「リインは・・・いいの?」
「・・・あぁ、そういうことですか」
そういうことですよ。
「リインは、はやてちゃんが幸せなら、それが一番だと思いますから」
「・・・そっか」
「はい。あ、でもでもっ! はやてちゃんをこれ以上泣かせたら、許しませんけどねっ!!」
宙に浮かんで、シャドーなんてやってその気持ちを表しているのをみて、つい笑みが溢れる。
・・・ヴェロッサさん。本当にこれ以上はアウトですからね? つか、何かあっても、僕にはもう解決は無理です。
「・・・恭文さん」
「なに?」
「ちょっとだけ・・・真剣なお話です。起きてください」
なので、言われた通りに起き上がる。月明かりに照らされながらも、リインは凜とした表情で、僕を見る。
「・・・リイン、六課が解散したら・・・恭文さんの所で暮らしたいです」
・・・え? 待て待て。どういうことさそれ。
「恭文さんと、一緒に居たいです。パートナーとして、あなたの一部として。私は、あなたの側に居て、あなたを・・・守りたいんです。
もうJS事件の時みたいに、離れ離れは嫌です」
「・・・リイン、気持ちは・・・嬉しいよ? でも」
「もちろん、はやてちゃんとみんなには話します。納得してもらった上で・・・そうしたいです。だから・・・」
「僕にも、考えて欲しい?」
リインは頷いた。ゆっくりと、だけど確かに。
・・・正直、難しいとこはある。リインが居なかったら、はやては大変になるだろうし。でも、リインとずっと一緒に・・・か。
「・・・うん、考えるだけ考えてみる」
「・・・ありがとうです。というか・・・嬉しいです」
「まだ、イエスかノーかも分かんないよ?」
「それでもいいんです。新しい時間を考えてくれるだけでも、嬉しいんです」
・・・季節は、新暦76年の1月・・・冬。
もうすぐ終わる場所で、色んなものが始まろうとしてる。
それが良いことかどうかは、僕には・・・分かんないや。
(第30話へ続く)
おまけその1:・・・ちょこっとお話
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・ヤスフミ」
「フェイト?」
どっと疲れた身体を引きずって、やってきたのは中庭。というか、ヤスフミのいるところ。
うん、ちょっと・・・ね。
「・・・どうだった?」
「危なかったよ。母さん達、レティ提督とかにも連絡しかけてた。・・・ヤスフミは?」
「・・・高町家には伝わってたよ」
「・・・なのは?」
「違う。ほら、ヒロさんだよ」
そう言えば、アドレス交換してたよね。二刀流同士だからか、すごく意気投合して。
「ただ、なんとかそこで止まってた。すずかさんとアリサには、連絡する直前だったけど」
「そっか、ならよかった」
本当にギリギリだったんだね。うん、広まらなくてよかった。
でも・・・みんなおかしいよっ! あれほど何もなかったって説明したのにっ!!
「あー、フェイト。気持ちは分かるけど、静かに」
「あ、ごめん。・・・リイン、寝てるもんね」
ヤスフミの肩の上に座って、頬に寄りかかるようにして、寝息を立てている。
その微笑ましい光景に、自然と笑みがこぼれる。
「うん、ちょっとお話してたんだけど、すぐに」
「・・・ヤスフミ、なにかあった?」
「わかる?」
「うん。いつもとちょっと違う」
こう、嬉しそうというか、戸惑っているというか・・・。
「・・・リインがね、六課が解散したら、僕のとこに来たい・・・って」
「・・・ヤスフミ」
「分かってるよ。うん、考えるとは言ったけど、難しいよ」
リインが居なかったら、はやての仕事にも支障が出る。それはリインだって分かってるよね。なら・・・どうして?
「JS事件の時みたいなのは嫌・・・そう言われた。ま、また詳しく話は聞いてみるよ」
「そうだね、そうしたほうがいい」
・・・少しずつだけど、色んなことが変化していく。ヤスフミが来て、3ヶ月程度なのに。
でもきっと、良いことなんだ。うん、私もちゃんとしていこう。
ヤスフミは・・・今も待ってくれている。少しずつでも、自分のやり方で変わっていこうとしている。
だから、それを見つめて、知った上でちゃんと答えを出そう。
はやてのこと、何も言えないね。私も、よく分からないから。今の自分の気持ちが。
・・・答えはきっと、ヤスフミの言うようにシンプルなはずなのに。
(おまけその1:おしまい)
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