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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第122話 『The sadness evoked/破かれた絵本と悲しき秘密』



ドキたま/じゃんぷ、前回の三つの出来事っ!!

一つ、唯世がディードとザフィーラの力を借りてデスレーベルとなったイクトと激突っ!!

二つ、ハンプティ・ロックとダンプティ・キーの力でイクトの過去が明らかになったっ!!

三つ、自分がすべき事に気づいたあむが目覚めたダイヤとキャラなりしたっ!!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「というわけで、今回も読者の方からあらすじ頂きましたー。ありがとねー」

ミキ「ついに目覚めたダイヤとキャラなりしたあむちゃん。果たしてイクトとの戦いの行方は?」

スゥ「そして次々と明かされる真実に衝撃を覚える間もなく、事態は次の方向に動きますぅ」



(立ち上がる画面に映るのは失われる輝きと泣きじゃくる『子ども』の姿)



ラン「なんとなんと、あんなキャラがまたまた登場っ!? これ一体全体どういう事ー!!」

ミキ「一刻も見逃せない光編クライマックス、それじゃあいくよ。せーの」

ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あたしは確かに弱くてバカで、ただの女の子。司さんが言うみたいに主人公って言うには、頼りなさ過ぎる。
あたしの知っている強い人達みたいにはなれないかも知れない。強くなんて、なれないかも知れない。だけど」



笑いながら顔を上げて、ダイヤを見た。



「あたしにはあたしの強さが、あたしの戦い方があるっ!!」



その瞬間に光が弾けて、あたしの姿が一瞬で変わる。

懐かしい感覚に笑いを深くしながら、あたしは夜空の中で身体を時計回りに回転させた。



【「キャラなり」】



右手に現れたマイク型のステッキを身体の前にかざして、こちらを呆然と見ていたイクトの方に向ける。



【「アミュレットダイヤッ!!」】



・・・・・・もう迷いはない。全部じゃないけど、イクトの事が前より少しは分かった。だから戦える。

そうだ、あたしは戦うっ! あたしなりの戦い方とあたしなりの強さで、イクトを・・・・・・イクトを守るっ!!



「流れ星に願いを乗せてっ!!」



イクトはあたしに向かって飛び上がり、鎌に黒い光を灯す。そして右に大きく振りかぶる。でもその前にあたしは力を発動。



「シューティングスターシャワー!!」





ステッキから放たれた星の光が奔流となってイクトに迫る。・・・・・・ううん、違う。

イクトの周囲を渦巻くようにその周囲の世界を白い世界に変える。

でもあたしはそれに構わずにステッキを一旦仕舞ってから、イクトに向かって飛び込んでいた。



イクトはさっきまでの焦りや疲れを含んだ表情をとても柔らかいものに変えて白く染まった世界を見ていた。

だからイクトは突撃してくるあたしの方を見上げるけど、何も反応しない。攻撃する気配もない。

それを見てあたしは一度拳を強く握り締める。でもすぐに大きく手を開いて、イクトの事を身体全体で思いっきり抱き締めた。



イクトは抵抗せずにあたしのいきなりと言えばいきなりな抱擁を受け入れる。





「イクト」



イクトはあたしの胸元に顔を埋めて、全く動かない。だけどあたしはそれに構わず、強くイクトを抱き締める。



「イクト・・・・・・!!」





イクトがこんなにボロボロになってまで守り通そうとするものは、誇り。それがイクトを支えている。

どんなに傷ついても、何があっても折れないのは、自由を愛する誇り高き野良猫だから。

イクトは小さな時からそうだった。あの時、『可哀想』と言われる度にイクトは誇りを傷つけられていた。



イースターの言いなりになって誰かを傷つける度、誇りゆえに自分を許せなくてまた傷ついていた。

だからイクトは他のイースターの人間とはどこか違っていた。あたしの事助けてくれる事があったのも、その誇りがあったから。

だけど同時に、誇りがあるから・・・・・・大事な人を守りたいと思うから、イクトは引き返せなくなった。



あたしはイクトを抱き締めながらも、いつの間にかボロボロに泣いてた。・・・・・・全部守りたい。



イクトの誇りも傷も、全部抱き締めたい。あなたがどうしても戦わなきゃいかないなら、せめてあたしは・・・・・・!!





【本当に分かっていたようね。そうよ、それが・・・・・・あなたの答え】





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ダイヤが目覚めたのは分かる。それであむちゃんがキャラなりしたのもいい。でもいきなり空中ハグは意味が分からない。



あんまりな光景にボク達も恭文達もそうだし星名専務すらも固まってしまう。・・・・・・これ、どうすれば。邪魔するのも違うし。





”ラン、ミキ、スゥ”



どう空気を読めばこの状況が打開出来るのかと思っていたところに、声がかかった。それはあむちゃんとキャラなりしてるダイヤの声。



”力を貸して。私だけではヴァイオリンの中の子を元に戻せない”



ヴァイオリンの中の子・・・・・・あ、もしかして。



「ダイヤ、ダイヤはイクトとキャラなりしてるたまごの正体が」

”えぇ、分かるわ。でもそこの説明は後。・・・・・・一気に決めるわよ”

「いや、あの・・・・・・ダイヤ? なんでそんなに楽しそうなのかな」

「なんとなく嫌な予感がしますぅ」

”さぁいくわよっ! 今度こそ完全無欠なてんこ盛りよっ!!”



そしてその言葉で、ボク達の予感が正解だと証明されてしまった。



『やっぱりそれかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』





叫んだ瞬間、ボク達はそれぞれたまごに包まれてあむちゃん達に突撃。というか、ヨルも同じくだった。




そしてボク達があむちゃん達の近くまで来た時、更に眩い光が辺りを包み込んだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



シルビィに退いてもらっている間に、頭上はとんでもない事になっていた。てーかまた光が・・・・・・目が痛い。



でもその光が弾けた瞬間、僕はそんな悪態をつく気持ちすら吹き飛んでた。だって、目指した勝利条件の一つが確定したから。





【【【【「キャラなりっ!!」】】】】



まず目についたのは、僕が明治時代で見たウェディングドレス姿のあむ。てーか・・・・・・あむのてんこ盛り。



【【【【「アミュレットフォーチュンっ!!」】】】】





それでその隣に、青い海賊帽にジャケットを身につけ黒い眼帯を右目に巻いた猫男が居た。



両手足には黒いロングブーツとグローブで、左腰にはフィンガーガード付きのサーベルを鞘に納めた状態で装着。



どうやらこっちもキャラなりらしい。でも・・・・・・僕はあんなキャラなり、見た事がない。





【「キャラなりっ! セブンシーズトレジャー!!」】





あむはともかく、猫男は自分の姿を驚いたように見ていた。それでその目には確かな生気が感じられた。



猫男はそのまま隣のあむと顔を見合わせて・・・・・・優しく笑った。まるで結婚式のようだと思ったのは、気のせいじゃない。










All kids have an egg in my soul



Heart Egg・・・・・・The invisible I want my






『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第122話 『The sadness evoked/破かれた絵本と悲しき秘密』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「よし、あえて言わせてもらう。・・・・・・なんだこりゃっ!!」

【イクトー! オレやあむ達の事分かるかっ!?】

「あぁあぁ分かるさっ! だがコレはなんだっ!?」



改めて自分の服を見ながらも、俺とあむはゆっくりと地面に降り立った。だがそれでも衝撃は薄れない。



【良かったにゃー! イクトが元に・・・・・・てーかこのバカっ!!】

「お前いきなりなんだっ! あぁそうだな、確かに俺はバカだと思うがその前にコレをなんなのか説明してくれよっ!!」

【随分騒がしいわね。というか、あなたはもう分かっているはずよ?】



隣のあむの方から、聞き慣れない声がした。俺はそちらに自然と視線を向ける。



【あなたは今、ヨルともう一つのたまご・・・・・・あのヴァイオリンのたまごとキャラなりしてるの】

「あれとっ!? ちょっとダイヤ、それってヤバいじゃんっ! またデスレーベルになったらっ!!」

【大丈夫よ、てんこ盛りになった時のパワーを利用してヴァイオリンは浄化したから。
・・・・・・それであのたまごの正体は、もう一度言うけどあなたが一番分かってるはずよ】



そう言われて俺は自然と左手で胸を押さえる。・・・・・・あぁそうだ、確かに分かる。ヨル以外にもう一人俺の中に居る。

だがコレはなんだ? 普通にキャラなりした時とも違う。デスレーベルだった時とも違う。どこか懐かしくて、温かい感じがする。



【その子はヴァイオリンそのものに込められた想い。使用者の想いがヴァイオリンに乗り移ったとも言えるわ】

「使用者の想い?」

【どんな物でも、大事に使うと物は応えてくれるの。それと同時に物自体が漠然とした意志や感情を持つ事がある。
ほら、日本にも八百万という考え方があるでしょ? 万物全てに神様・・・・・・そういう意志が宿っているという考え】

【ならあのヴァイオリンから出てきた黒いたまごはぁ】

【本当にヴァイオリンそのもののたまごだったんだねー】





それは正確じゃないな。謎の声が言っている通りなら、物にこころが宿るなら所有者の意志が不可欠だ。

それでアレは元々は俺のヴァイオリンじゃない。俺よりずっと長く使ってた所有者が居る。つまり・・・・・・あぁ、そうか。

だから普通のたまごとは違うアレとキャラなり出来たのか。それにイースターの連中が力を注ぎ込んだ。



悲しいかな、操られてた時の記憶がハッキリしちまってるからな。全部理解出来る。





「・・・・・・幾斗っ! 幾斗何をしているっ!! 言う事を聞かんかっ!!」



右に視線を向けると、俺の方を見ながら専務さんが苛立ったように声をあげていた。それであの音叉を鳴らす。

だが俺はもう苦しくもなければ辛くもない。てーか身体も全然疲れてない。なので平気にしていると、専務さんは音叉を投げ捨てた。



「えぇい、この役立たずがっ!!」



音叉の音が派手に周囲に響き渡る中、俺は専務さんに向かって一歩ずつ進む。

だがそれを追い越すようにチビと見た事のない金髪の女が出てきた。



「このバカが。後でおのれに不満を持った人間共々ぶん殴ってやるから覚悟しとけ」

「お前以外に何人居るのか教えて欲しいんだがな。せめて心の準備はさせてくれ」

「私も含めて相当数ね。おかげで私達、今日までてんやわんやだったもの。・・・・・・さて」



それで金髪女は、どこからともなく銃刀法違反なシロモノを出して・・・・・・今更か。



「星名専務、悪いんだけどとっととどいてくれないかしら。私達、その後ろの人達を助けに来たの」

「なんだと? ・・・・・・九十九達め、裏切ったか」

「いいや、裏切ってないよ。最後までアンタのために戦って、アンタの事を怖がってた。
うん、自業自得だね。それで死んだって誰も同情しない。でも・・・・・・見捨てられない」



そう言いながらチビが前に進む。それで鞘に納まってた刀を抜いた。



「さぁ、お前の罪を」

「あ、それあたしが言った」

「・・・・・・このパクリ魔がっ!!」

「うっさい、それアンタに言われたくないしっ!!」



そう言っている間に、空から光が降り注ぐ。てーか何かに照らされる。

それで全員が上を見ると、そこに光り輝くたまごがあった。



『・・・・・・エンブリオっ!!』

「おぉ、ついに来たかっ! 千々丸、エンブリオキャッチャーは・・・・・・えぇい、どこだっ!!」





それを見て俺達はエンブリオを捕まえようと飛び上がろうとする。だがその前にエンブリオが俺達の前に降りてきた。



そして次の瞬間、強烈な光を放つ。俺達はそれぞれ両手を押さえて目を閉じる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



エンブリオが目の前に、まるで・・・・・・あぁそうだ。私を奴ら罪人から庇うように攻撃を加えた。

それだけではなく、エンブリオは私の前まで来た。その最中に発生させておいたバリアに阻まれる。

だがそれは私がスイッチをオフにする前にあっさりと砕かれた。そしてエンブリオは私の元に来る。



私は笑いながら両手でエンブリオを掴む。・・・・・・私はそれがたまらなく嬉しくて、大きく笑った。





「あははは・・・・・・あははははははははっ!! ついに、ついにエンブリオが手に入ったぞっ!!
お前達、今のを見たかっ! エンブリオは私を、御前のために働く私の元に自ら来たぞっ!!」

「な・・・・・・!!」

【どういう事ですかアレっ! なんでこうなるですかっ!!】





奴らがしつこくも踏み込もうとしたところで、私はエンブリオを眼前にかざす。するとまた光が瞬く。

その光に飲まれた連中は、全員例外なくキャラなりを解除。学校の制服姿や私服に戻った。

それを見ながらも私は左に走る。それで女に壊された入り口の裏手にあるドアの前に立つ。



素早く左手を懐に入れて、大事に仕舞ってあったカードキーを入れる。それをドア左手のリーダーに通す。

するとドアは開いたので、素早くドアの中に入り『最下層』のボタンを押す。

それからドアを閉じるボタンを押すと、ドアは閉じてそのまま動き出す。・・・・・・もう言うまでもなくこれはエレベーター。



私は一息つくと、手の中の輝きを改めて見る。それが嬉しくて私はまた笑ってしまう。



御前・・・・・・ひかる、もうすぐだ。もうお前の求めた輝きはこの手の中にある。すぐに向かうからな。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「にゃにゃ、キャラなり解けちゃったにゃっ!!」

「どうして・・・・・・いえ、これは当然ね。だってさっきも失敗だったもの。
だって予定ではちゃんとあむちゃんの身体の部位ごとに憑依する形で」

「ダイヤ、アンタまだそれ諦めてなかったのっ!? てゆうかもしかしてフォーチュンになったのってイクトの事とか関係ないんじゃっ!!」



なにやらワケの分からない事を言い出すあむはそれとして・・・・・・俺の右手と左手にはヴァイオリンとその弦が握られていた。

てーかアレだ、親父のヴァイオリンだな。それでその色は、元通りの木の色だった。もう紫じゃない。



「・・・・・・わぁ、本当に元に戻ってるにゃ」



ヨルもそれに気づいたのか、俺の手に持たれたヴァイオリンをマジマジと見る。



「じゃあマジでこの中にたまごがあるなら、ソイツもきっと今頃安心してるにゃ」

「あぁ。ヨル、実はさっき思ったんだが」

「なんにゃ?」

「知っての通りこのヴァイオリンは元々俺のじゃない。親父の物だ」





あのツインテールの騒がしい奴の話通りなら・・・・・・待て、アイツもしかしなくてもダイヤか?

あんまりに俺の知ってるキャラと違ってたんで分からなかったが、そうだよな。まぁそこは後でいいか。

とにかく重要なところは、この中にあるたまごが普通のしゅごたまとはまた違うって事だ。



それは使用者の想いそのものと言ってもいい。つまり・・・・・・分身って感じか?





「俺より親父の方がずっと長く使ってたはずだ。だったらこのたまごは、親父の想いそのもののはず」

「あ、そうなるにゃ。・・・・・・アレ、でもちょっと待つにゃ。あのたまご、ちゃんと生きてるよな」

「あぁ。なにより俺はコイツとずっとキャラなりしてたから分かる。親父は・・・・・・多分どこかで生きてる」

「えぇっ!?」





感じるんだ。この中のたまごは確かに生きてる。それと同時に・・・・・・親父の心のようなものも。



正直上手くは言えない。妄想や電波の類って言われたらそれまでかも知れない。



だがそうじゃないと、俺の中の何かが言っている。・・・・・・親父は、今もどこかで生きていると確信出来る。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・逃げられた」

「ちょっとちょっと、今の本当にどういう事っ!? エンブリオが星名のところに自分から行くなんてっ!!」

「とりあえずそこは後でいいでしょ。今は・・・・・・こっちっ!!」



僕はそう言いながら倒れているおっちゃんのところに走って、しゃがみ込んでから傷を見る。・・・・・・失血が多いな。

でもすぐに回復魔法をかける。傷自体は浅いから、塞げばある程度は持たせられるはず。



「・・・・・・なんで、だ」



倒れていた男は目を軽く上けて、震えながら僕の方を見る。



「なんで、助けるんだ。だって俺は、俺達は」

「そうだね、散々好き勝手やってくれた。でも、死なれると困るのよ。・・・・・・九十九と萬田に頼まれてるから」

「嘘、だ。主任達が、そんな」

「言葉にはしてない。でも、必死に声をあげてた。助けたい・・・・・・助けて欲しいってさ」



そう言うと、千々丸が少し驚いたように息を漏らした。



「もう一度言うけどお前が死ぬと困るのよ。あのバカの重荷になる。だから、死ぬな」

「身勝手・・・・・・だな。俺の都合とか、ガン無視かよ」

「おのれらに言う権利はない」

「それは、そうだな。・・・・・・蒼凪恭文、俺の白衣の左ポケット、探ってくれ」



そう言われても僕は動けない。なのでシルビィの方を見ると、シルビィは頷いてすぐに動いてくれた。

それでシルビィが取り出したのは、一枚のカード。というか、カードキーっぽい。



「ドリームエッグランドの地下には、秘密のスペースがある。専務は多分、そこの裏手のエレベーターで」

「そこに向かった?」

「そうだ。そのキーなら、下に降りられる。使って・・・・・・くれ」

「どういう風の吹き回しさ」

「死んだじいちゃんが言ってた。因果応報だってな。
だからまぁ、少しは取り返したいだけだ。・・・・・・身勝手にな」



千々丸がそう言って無理矢理笑うのと同時に、傷の治療は終了。僕は手を引く。



「ありがと。なら、遠慮無く使わせてもらう。・・・・・・アルト、ジガン」

≪この人の言う通り、地下に通路と部屋がいくつかありますね。星名専務の反応もあります≫

≪それと後一人・・・・・・主様、どうやらフェイトさんの話は正解っぽいの≫

「そう」



それなりにキツい現実と向かい合う必要があるらしい。僕は立ち上がりながら、こっちに来ていたあむ達を見る。

でもその瞬間、周囲の×たま達が騒ぎ出した。それでこちらにじわじわと距離を詰めてくる。



「・・・・・・ダイヤ、どういう事よ。いつぞやの『大体分かった』でなんとかならない?」

「残念ながらこれは予想外よ。でも恭文君」

「何さ」

「昨日の夜、エンブリオがあむちゃんが触れるのを拒否した事。自分から星名専務のところに向かった事。
そしてそんな星名専務に応えるように私達に攻撃を仕掛けたり、×たま達が急に騒ぎ出した事。全て無関係だと思う?」



僕は横目でそう問われて、首を横に振るしかなかった。



「もしかしたら僕達」

「えぇ。何かとても大きな勘違いをしていたのかも知れないわね。でもコレ、どうしましょう」

「そんなの、考えるまでもないでしょ」



その声は入り口からかかってきた。それでそう声をあげた歌唄を筆頭として居残りしてたみんなが飛び込んできた。



「みんなっ!!」

「恭文君、あむさん達は行ってっ! ここは私達で止めるからっ!!」

「待て待てっ! おのれ状況分かってるのっ!?」

「えっと・・・・・・大体分かった」

「どこのディケイド気取りさっ!!」



そんな事を言っている間にみんなは足を進めて展望台の中程まで進む。



「イクトも同じくよっ! てーかみんなに世話かけた分キリキリ働きなさいっ!!」

「お前いきなりだなっ!!」



わー、怒ってるなぁ。そりゃあまぁ・・・・・・当然だよなぁ。あと、あむが顔を青冷めているのは仕様です。



「・・・・・・あとよ、歌唄」

「何っ!?」

「ありがとな」



優しくそう言われて、歌唄は完全に固まってしまう。それでも猫男は言葉を続ける。



「俺はもう目を逸らしたりしない。逃げたりしない。自分の自由は・・・・・・自分で掴む」

「・・・・・・そう。でも、後で殴ってやるから」

「そ、そうか」

「私も同じくよ」



そう言うのは、ちょっとバリアジャケットがボロボロになってるティアナ。

なおインフィニティ・ガンモードは解除されている。さすがにもう限界だったみたい。



「あ、二人とも。それに僕も乗っていいかな。僕も腹に一発食らったお返ししたいし」

「あぁもう分かったっ! 好きなだけ殴っていいからもう行っていいよなっ!? 時間ないんだよっ!!」

『問題なしっ!!』



僕はシルビィの方を見る。するとシルビィはカードキーを僕に差し出して来た。

だから・・・・・・その手ごとカードを掴んで、シルビィも連れていく。



「ちょ、ヤスフミっ!!」

「コンビ復活なんでしょ? だから、つべこべ言わずに来い。それで最後まで付き合え」



そのまま入り口の裏手まで足を進めると、確かに千々丸の言うようにそれっぽいドアがあった。

それで振り向いてシルビィの方を見る。シルビィは・・・・・・嬉しそうに笑っていた。



「もう、強引なんだから。でも了解」



そんなシルビィが後ろを振り向くと、後をついてきていたあむと僕が作ったロングソードを持った唯世。

それにいつの間にやらヴァイオリンケースを背負った猫男が頷く。



「みんな、いくよっ! それであのクソジジイは・・・・・・徹底的にボコるっ!!」

【・・・・・・あむさん、怒ってるですね】

「そうだね。あむ、随分暴力的になって・・・・・・将来が心配だよ」





あむの将来を心配しつつも僕はカードをリーダーに通してエレベーターを稼働させて、そのまま乗り込む。




最下層というか、一つしか無い行き先を示すボタンを押して僕達は地下に降りた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



地下に降りると、かなりしっかり舗装された通路があった。それをアルト達に案内されつつも進む。



で、今ひとつ状況がアレらしい猫男に御前の正体関連について少し話してたりもした。





「・・・・・・専務さんの孫が御前って、マジかよ」

「可能性があるってだけの話だけどね。猫男、そこの辺りは」

「悪いがさっぱりだ。俺は御前に会った事もないしな」

「そこはオレも話した通り同じくだにゃ」

「それなのにみんな揃って言う事を聞いてたわけよね? ・・・・・・やっぱり相当なワンマンか」



隣を歩いていたシルビィが口元を右手で押さえながら渋い顔をする。



「ううん、ワンマンというよりは独裁に近いのかも知れないわね。星名専務は自分がイースターを支配する事にこだわっている。
だからそれが揺らいだりするのが怖いし、それに疑いを持つような人間をどんどん外に排除する。それで足りないなら制裁も加える」

「歌唄やゆかりさんみたいに・・・・・・ですか」

「えぇ。だから私、御前が星名専務の血縁者っていう推理は当たってると思うのよ。
特に孫なり息子なら尚更。自分の血縁者に今守っている地盤が引き継げるもの」



こう考えていくと、マジでイースターのトップの実体がワケ分かんないとこあるんだよね。

それに触れるのは、不謹慎だけどちょっとワクワク。世界的な大企業でもあるしさ。



「でも分からない。そんな星名専務の元にどうしてエンブリオが自分から?」



だけど分からない事はそれだけじゃない。唯世の言うようにさっきのアレも今ひとつ納得が出来ない。



「今までどうやっても近くに行く事すら出来なかったのに。それは僕達もそうだしイースターもだよ。
そもそもあの時、たまごはあの場では浄化されなかった。まぁその、ヴァイオリン以外はね?」

【だから出現条件そのものも外れてるのですよ。まさかヴァイオリンにそこまでエネルギーが込められていたとは思えないですし】



話しながらも先頭を任されている僕は左に曲がる。

そしてその奥には、随分と立派な扉がある。そこを目指してまた足を進める。



「ホントにどうなってるんだろ。イクトが元に戻ったのは嬉しいけど・・・・・・あぁもう、ワケ分かんないしっ!!」

「・・・・・・あむ」

「何? あ、あそこだよね」

「うん、それもあるけど・・・・・・ほら、司さんの絵本ってどんな話だっけ」



あのエンブリオの行動を見て何かの引っかかりを感じながらも、僕は後ろのあむにそう聞いてみる。



「いやいや、アンタにも前に読ませた事あるじゃん」

「あー、うん。それは分かってるんだけど・・・・・・少し気になって」



なんて言っている間にドアの前に到着。なので僕はそのドアを蹴破ろうと右足を上げて。



≪あー、ちょっと待ってください≫

「・・・・・・なによ。これから派手なハザードタイムが始まろうとしてるのに」

≪いいから聞くの。主様、あむちゃん、リインちゃん、覚悟を決めるの。きっと驚くの≫



言葉の意味が分からなくて、あむと顔を見合わせる。なので頷きつつ・・・・・・ドアを蹴破った。



「分かった」



全力で蹴破ったのでドアは金具から外れて吹き飛び派手に倒れる。てーか蹴った箇所が砕けてた。



「邪魔するよー。あ、それと」

≪Stinger Ray≫

【フリジットダガー!!】



僕の周囲に瞬間的に発生した15本の蒼い短剣と、スティンガーが天井に向けて発射。

その上にあるなにやら白い×の付いたドーム状の装置を全て派手に撃ち抜く。



「トラップは感心しないね。もう逃げ場がないのにさ」





そして・・・・・・その中から×たまが出てきた。×たまは短剣とスティンガーに撃ち抜かれて浄化されて白いたまごに戻る。

そのたまご達は一瞬で消えていく。ちゃんと元の持ち主の所に戻る事を祈りつつ、僕は中に足を進める。

部屋の中には数々の鉱石や水晶・・・・・・ようするに光って綺麗な石達が棚や額縁に入れられて飾られている。



そして立派な机の前の革張りの椅子の背を僕達に向けているのが一人。あれが御前らしい。





「ふん・・・・・・そんな事をしようと無駄だっ! もうエンブリオは御前の手にあるっ!!」

「そう。それで?」

「・・・・・・それでだと?」

「それでお前が僕とあむに死ぬ二歩手前までぶっ飛ばされる事の何が変わるのよ



殺気を出しながら足を進めつつ言い放った言葉を、星名専務は鼻で笑う。



「あぁあぁ恨み辛みがあるねっ! お前らのバカのせいでゆかなさんのライブ」

「あぁもう、アンタそこはいいじゃんっ!! ・・・・・・てーか覚悟しろ」



ゆかなさんのライブの事はともかく、ボコるのはどうでもよくないらしい。

だからあむは拳を鳴らして・・・・・・本当に立派になった。



「さっき言った通りケジメつけさせるっ! 許す許さないは、その後だっ!!」

「無駄だっ! 先ほどの力を見ただろうっ!! 御前が、エンブリオに選ばれし者が持てば先ほどよりも更に大きな力が」

「エンブリオ・・・・・・意外とつまらないものだな」



無視して足を進めようとしたけど、その言葉に動きが止まった。てゆうかこの声、僕の知ってる声だった。

それはあむも同じくらしく、隣に来ていて拳ボキボキ鳴らしてたのに驚いた顔で足を止めていた。



「あむちゃん?」

「ヤスフミ、どうしたの?」

「思っていたよりもちっぽけだ」



それで椅子が反時計回りに回転した。そこに座っていた小生意気な口を叩くのも当然姿を現す。

その右手にはエンブリオ。それを持つのは、クリーム色のセーターを着た金色の髪に青い瞳をした男の子。



「ただ光っているだけというだけで、手に入れる程の価値はなかったのかも知れない」

「ご、御前っ! 一体なにをっ!!」

「つまらない」





星名専務が狼狽しているのも無視して、そう言い放つ。



その一言が引き金だったのか、眩く輝いていたエンブリオが一気に輝きを失う。



エンブリオは一瞬でヒビ割れたたまごを模した石のような物になった。





「光らなくなったか。いらない」



僕とあむが言葉を失っている間にも、その子はエンブリオを部屋の隅に投げ捨てる。

エンブリオは割れなかったけど、軽い音を立てながらそのまま床を転がった。



「シオン、ヒカリ」

「・・・・・・分かってる。いくぞ、シオン」

「はい」



二人もそうだし、あむも同じ指示を出したのかラン達もエンブリオの方に向かう。



「僕は無価値と無能はいらない。エンブリオもそうだし星名専務、お前もだ」

「御前、あのお待ちくださいっ! 私は」

「もう一度言わなければ分からないのか? お前は・・・・・・いらない」



視線も向けずに言い放たれた言葉に星名専務は愕然とした表情のまま崩れ落ちて、力なく地面に手をつく。

どうやら制裁の一つはこれで決まりらしい。・・・・・・僕はそんな自業自得な奴から視線をあの子に移す。



「・・・・・・また、会うとはね。あの時も僕達の事、知ってたの?」

「いいや。そこの無能から僕の邪魔をしてくれている連中が居るとは聞いていたが、君達とは知らなかった」

「そう。ならしょうがないか」

「あの、ヤスフミちょっと待ってっ! ヤスフミもしかしてこの子の事知ってるのっ!?」

「うん」



驚く後ろの三人の言葉に頷きつつ、僕は苦笑する。あむは・・・・・・マズいな、本気で動揺してる。



「僕だけじゃなくてあむとリインもだ。なにしろ・・・・・・たい焼きを一緒に食べた仲だしね」

【あなたが、一之宮ひかる君ですか】

「なんだ、僕の事は知っていたのか。意外と情報収集はしっかりしていたんだな。・・・・・・その通りだ。僕が御前、イースターのトップだ」





かおるさん達がフランスに戻った翌日・・・・・・てーかあむの家に猫男が来た翌日、学校帰りに僕達は一人の男の子と出会った。

その子はあむとぶつかったせいでコケてしまって、あむはそのお詫びにたい焼きをおごった。

でもその子はたい焼きを食べるのが初めてなので、僕とリインもあむと一緒に一緒に食べ方を教えたりもした。



その子は金色の髪にくりくりとした青色の瞳をしていて、たい焼きを食べた時の笑顔が印象的な子だった。



それでそれは・・・・・・今僕達の目の前に居る、この子だった。この子はあの時とは違って無表情のまま、僕達を見る。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



本当に、本当にこんな言葉しか言えないのが残念です。・・・・・・失礼しました



その言葉が何度も何度も頭の中にリピートする。私はどうしてもその言葉が信じられなくて、しばらく固まっていた。

少しして、震える拳を握り締めていく。手が痛くなる程に力を強めたそれを思いっきり机に叩きつけた。



「また、裏切られた」





信じたのに・・・・・・正しい事だと説いたのに、裏切られた。あの子やフェイトと同じように裏切られた。

どうして、どうしてなの。私は間違っていないのに。どうして私を信じてくれないの。私はそれだけの事をしてきたのに。

悲しみで涙が溢れ出してくる。私にはもう味方が居ないというの? どうして、こんな事になったのよ。



一生懸命にやってきたのに・・・・・・正しい事をしてきたというのに、なぜ否定されなくちゃいけないの。





「こんな事じゃだめ。こんな事じゃ、クライドやみんなから預かった世界を守れない。組織を守れない。
ここを守らなくちゃいけない。誰もここを疑わないようにしなくちゃいけないの。そうじゃなくちゃだめなの」





3年前までは良かった。フェイトも今みたいに異常にならなかった。局を、組織を、社会を愛してくれていた。

私が教え導いていた通りの生き方をして・・・・・・その結果が六課で得られた栄光。なのにあの子はそれを全て捨てた。

ヴェートルの一件でもあの子とGPOのおかげでとても良いプラスの評価が得られたのに、それもパーになった。



本当に愚か過ぎて何度泣いたか分からない。家族を、仲間を信じるべきだと言っただけなのに。

でも今はその言葉が否定される。求めて当然の権利が、私の夢そのものが否定される。

それは誰のせい? 全部管理局を・・・・・・私達が必死に守ってきた組織を信じないバカな連中のせいよ。



私の言葉を、差し伸べた手を振り払ったあの子もそう。局の活躍の場を奪うGPOもそう。

私達を、組織を信じる事もせずに好き勝手しているヴェートルの人間もそう。今局を嫌っている全ての人間もそう。

許せない許せない許せない許せない許せない許せない。みんな分かっていない。本当に理解していない。



組織がここまで続くのに何人犠牲になっていると思っているの。クライドだけじゃないの。本当にたくさんなの。

だからこそ私達は管理局を守らなくちゃいけない。その組織が守る社会を守らなくちゃいけない。

クライドは、みんなは、そんな社会を正しいものだと信じて、それを守るために命を賭けて死んでいったの。



だから管理局を存続させるべきで、私達はみんなが信じた組織を信じるべきだと言っているだけなのに。

なのにそれを理解しない異常者全員が私は憎い。それは死者への冒涜だとなぜ気づかないの。

その怒りを胸で燃やして、私は拳をただただ強く握りしめる。口の中で血の味がするまで唇を噛み締める。





「許せない・・・・・・全部、全部あの子が悪いのよっ! あんな異常者の子なんて、引き取らなきゃ良かったっ!!
あの子はあの事件で死ねば良かったっ! そうすれば私達の世界は・・・・・・組織は守られたのにっ!!」





あの子の親は正しかった。あの子は世界にとって不要な存在だった。

だから放置された。でも私はその疫病神を引き取ってしまった。それが全ての間違いだった。

だから私の夢が、理想が、それを受け継ぐあの子達の未来まで歪められてしまった。



あの子のせいだ。あの子のせいでフェイトがおかしくなった。管理局が信じられなくなった。

私が守りたかったものが否定され、壊されるのが当然な現実になった。全部あの子の不幸のせいだ。

だから私が幸せになろうと言ったのに、くだらない意地を張って・・・・・・もう許せない。



あの子をこのまま生かしておいたら、フェイトが狂ってしまう。みんなが狂ってしまう。



私はこの不幸な時間を生み出した責任を取らなくてはいけない。・・・・・・私は、正しい事をする覚悟をした。





「あの子を、殺そう。それで全てを終わらせる。もうこうするしかない」





でも出来るの? あの子は本来魔導師には必要のない無駄な技能を多数抱えている。

私やまだ狂う前のフェイトがそんな必要はないと説いたのに、それを無視して好き勝手やった結果がそれ。

あの子が異常者足る証明よ。あの子はただ私達を、組織と世界のルールを信じているだけでよかったのに。



そうすれば今頃みんなから認められて、社会の中で夢を見つけて叶えていられた。でももう遅い。

今私が考えるべきはそんな愚かな子に手を差し伸べる事じゃない。私が考えるべきは・・・・・・あの子をどうやって殺すかよ。

そうよ、出来るわ。私は正しい事をしようとしている。なら神と時の流れが味方するに決まっている。



私は世界を、組織を、なにより愛するあの子達を守るために英断を下しているだけ。そう、それだけよ。





「こうしては居られないわ。早く準備を整えて」

「逆恨みしてるんじゃないわよ。このバカ」



突然横からかかった声に、俯いていた顔を上げて私は周囲を見渡す。というか、部屋の入口を見る。

そこにはなぜか悲しげな顔をするレティと、デュランダルを右手に携えたクロノとアコース査察官が居た。



「クロノ、アコース査察官」

「「はい」」



クロノがデュランダルをかざし、アコース査察官が右手をかざしたその瞬間、私の身体にバインドがかけられる。

私は驚きながら三人を見る。三人はなぜか正しい事をしようとしていた私を悲しげな瞳で見ていた。



「リンディ、悪いけどあなたを拘束させてもらうわ」

「拘束・・・・・・!? レティ、何を言っているのっ! 私が一体何をしたというのっ!!」

「逆恨み同然に不当に恭文君を殺そうとした。あとは、罪状をでっちあげて逮捕しようともしているらしいわね。
実はあなたが動かしてた隊長さん、私達に昼間の内に相談してきてたのよ。ちょっとおかしいって言ってね」



・・・・・・あの子は、私を前々から裏切ってたんだ。信じるんじゃなかった。あの子も、あの異常者と同じだった。


                                    
「クロノ達が事件に対処しようとしているのに、その妨害をした。
しかも妨害に関しては明らかに見当違いな上に言いがかりな横暴。これじゃあ言い訳」



レティはそう言いながら隣のアコース査察官を見た。



「出来ないわよね?」

「出来ませんね。リンディ提督、疑問があったのは分かりますけど今のご時世でコレはマズかったですね。
正直査察部としてもここまで権力使って好き勝手やられると、テコ入れしないわけにはいかないんですよ」



アコース査察官は部屋の中に足を進めながら、私の部屋の中を見渡す。



「まぁこの部屋が使えなくなるくらいの事は覚悟しておいてください」

「それは、どういう意味かしら。私は何もしてないのに」

「しましたよ。それでまぁ簡単に言っちゃえば・・・・・・クビですね。
あなたは時空管理局という組織には不要の人間となります」





あっさりとそう言い切られて、私は信じられなくて笑ってしまう。だって、ありえない・・・・・・ありえないもの。



私は今まで世界のために、組織のために正しい行動を取ってきた。だから私は信じられなくて笑ってしまった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



アルトアイゼンとジガンが言ってた覚悟って、コレだったんだ。あぁそっか、サーチした時に気づいたんだね。



確かにこれは・・・・・・強烈かな。さすがに予想外だし、また会うなんて思わなかった。でも同時に納得もしていた。



昨日の夜、星名専務の言葉を聞いた時にこの子の事を思い出したのは・・・・・・偶然じゃなかったんだ。





「ひかる君」



声が硬くなるのは、正直許して欲しいと思う。でもひかる君は動じる事なくあたしに視線を向ける。



「どうして、こんな事を? イースターが、君のおじいちゃんがエンブリオを手にするためにいけない事してたって」

「いけない事? ・・・・・・あぁ、無価値なガラクタを利用していた事か」

「無価値じゃないっ!!」



思わず一歩踏み出しながらあたしは叫んでいた。でもひかる君はやっぱり動じない。



「夢は、『なりたい自分』は、たまごは・・・・・・無価値じゃない。無価値なものなんてどこにもないよ。
みんな、誰かに必要とされて生まれてきたのに。ねぇどうして? 知っていたなら、どうして」

「・・・・・・水晶、翡翠、宝石」



そう言いながらひかる君は周囲に置いてある光る石達を見る。



「この部屋にある物は、全て『価値』の高いものだ。これらには輝きがある。
そこにエンブリオが加われば、僕のコレクションは更に完璧になるはずだったんだが」

「宝石・・・・・・コレクション? あなたまさか、そのためだけにこんな」



シルビィさんの呟きにその子は何も答えない。ただどこか愛おしそうに石達を見る。



「そう。だったら・・・・・・お前に罪を数えさせる」

「罪? ・・・・・・バカか君は。価値のある物を求める事が罪なわけがないだろう」

「いいや、罪だ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「確かに求める事は罪じゃない。価値の形は、人それぞれだろうから。僕だって求めてるものがある。
エンブリオでも宝石でもないけど、ずっと欲しくて・・・・・・手を伸ばしてる輝きが」



その価値に合わないなら、エンブリオを無価値と言うのも確かに間違ってない。

良い意味悪い意味含めてさ。だけど譲れない物があるから、僕は御前・・・・・・ひかるに厳しい視線を送る。



「だけどそれは僕の願いだ。それはお前の願いだ。それを押しつけて、誰かの輝きを踏みつけて壊していい理由にはならない。
それを当然の事にしちゃいけない。直接何もしていなくても、それは変わらない。お前には、向き合わなきゃいけない事がある」

「そうか。どうやらお前も無価値らしい。エンブリオと同じ・・・・・・イースターに逆らう愚か者だ」

「いいや、それは違うよ」



後ろからまた違う誰かの声がした。てーかこの気配は・・・・・・驚きながらも後ろを見る。



「まずエンブリオは宝石でもなんでもない。エンブリオは夢を叶える魔法のたまご・・・・・・みんなの夢のたまご。
そして彼も無価値じゃない。彼も他のみんなも、君と同じように誰かの真似じゃない自分だけの輝きがある」

「司さんっ!? あの、どうしてここにっ!!」

「いや、心配になって来ちゃってねぇ」

【だからどうやってですかー! いくらなんでも不思議過ぎですっ!!】

「いいえ、むしろここはミステリアスと受け取るべきなんじゃないのかしら」



バカっ! そういうレベル超えて・・・・・・それで平然とこっち歩いてくるしー!!



「蒼凪君、悪いんだけど彼に罪を突きつけるのはちょっと待ってもらえるかな」

「・・・・・・理由は?」

「僕が少し話したいから。罪を突きつける前に、彼には知らなくてはいけない事があるから。君だってもう気づいてるんじゃないの?」



その言葉に僕は何も返せずに・・・・・・軽くお手上げポーズを取る。それで司さんはまた優しく笑う。



「ありがと。まぁちょっと見ててよ」



そのまま司さんは僕の横を通り過ぎて、ひかるが座っている机の前に立つ。



「今日は君に絵本のページを返してもらいに来たんだ。君は覚えているだろうか、失われた物語の続きを」

「知らない」

「覚えているはずだよ? ・・・・・・生まれてすぐに両親を亡くした君は、おじいさんに引き取られた」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



息子と義娘、そして妻の墓前でひかるは泣き続ける。ひかるはまだ幼い。

私の腕の中でひかるが泣き続けるのはしょうがない事だとそこらの連中は言うのだろう。

だが私にはそうは思えなかった。それは弱さに対する言い訳だ。



だから私は腕の中のひかるに対して厳しさを説く事にする。





「泣くなっ!!」



一喝するとひかるは驚きながらも私を見る。だがそれ以上は泣かない。

その姿に一つの資質を感じた私は、それが嬉しくなり笑う。



「そうだ、それでいい。月詠或斗やその息子に何が出来る。
ヴァイオリンに音楽? ・・・・・・ふん、ただの遊びではないかっ!!」



言うなら奴らはアリとキリギリスのキリギリス。好き勝手させればいずれイースターは崩壊する。

それが腹立たしい。父の代から仕えてきたイースターが、私の人生そのものと言うべき場所が壊れていいわけがない。



「そうだ、イースターを継ぐに相応しいのは長年イースターに仕え続け成果を出した私」



私はそれから、両手でひかるを持ち上げ夕日の中で亡くなった息子達に誓う。



「そして私の孫であるお前だ。私達が、イースターを守るんだ」





この子は私の手で立派なイースターのトップに育てる。それがこの子にとって幸せになる。

イースターのように誰からも認められる大きな力を持ち、それをより大きく育てられる人間には価値がある。

その価値こそが幸せ。それを手に入れられる事こそがこの社会に置いて重要な意味を持つ。



私は父の背中を見て、先人達の背中を見てそう思って生きてきた。そしてそれは正しい事だと確信している。

今の私を見ろ。幸せそのものではないか。だからこの子にも私と同じ道を、人としての幸せの道を歩ませる。

そうすれば亡くなった家内達もさぞかし喜んでくれるだろう。そうならない理由はどこにもないからな。私は、また笑う。



見ていろ、月詠或斗。お前の居場所を・・・・・・お前のあり方を全て否定してやる。



そして私がイースターを守る。いいや、これは違うか。私と、私の孫がだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・それからおじいさんは君を厳しくしつけた。イースターの後継者に相応しい人物になるように。
でもそのチャンスは或斗さんが失踪した事で意外と早く巡って来た。だからおじいさんは動き出した」

「それから専務さんと母さんは再婚。その時に専務さんは俺達の事を持ち出してきた。
・・・・・・てーか俺達を人質にされて、母さんは頷く事しか出来なかった」

「うん、そこは間違いないね。でも別に奏子さん本人に興味があったわけじゃない。
興味があったのはあくまでもイースターのトップの椅子。そこにひかる君を座らせる事だけ」



だからこそ創始者の直接的な血縁者である奏子さんの夫となる事を求めた。

それで婿入りして、名実ともにイースターの血縁者になって・・・・・・と。予想通りってどういう事だろ。



≪改めて最悪なの。こんな小さな子を・・・・・・洗脳と同じなの。あなたは、家族なんかじゃないの≫

【この子は、あなたの道具なんかじゃないのに。この子にはこの子の夢や願いがあるはずなのに。
自分の意志でならともかく、それも出来ない内から・・・・・・人の心をなんだと思ってるですかっ!!】

「お前達に、何が分かる」



ジガンとリインの声に不満を隠さずに、怒りの形相で顔を上げる。というか、立ち上がった。



「私は今までイースターのために心骨を注いで働いてきたんだっ! それをあんな奴に壊されてたまるかっ!!
無価値なものはいらないっ! 奴とて同じだっ!! そしてお前達もだっ! イースターに、私に逆らうものはいらないんだっ!!」

「でもお前だってそのいらない存在と認定された」



呆れながらもそう言い切ると、星名専務・・・・・・あー、クビになったんだけ。だったら呼び捨てでいいか。



「もう一度言わなきゃ分かんない? 星名、お前こそがいらない・・・・・・ううん、違う。
色んなものを無価値と捨ててきたお前の考えそのものが、お前のこれまでが、無意味だったんだ」

「黙れっ! 貴様に・・・・・・貴様に私の何が分かるっ!!」

「分からないね。この世界には無価値なものなんて一つも無い。全部必要で、幸せなんだ」



左手で胸元を押さえる。怒りの視線をぶつける星名に恐怖など微塵も抱かずに僕は・・・・・・睨み返す。



「みんなそれぞれに、この中に輝きがある。こころのたまごはその一つなんだ。
だから僕はお前を否定する。・・・・・・僕からもう一度言ってやる。お前の罪を、数えろ」



星名はまた表情を震わせながら、僕に飛びかかってくる。



「罪があるのは・・・・・・罪人なのは貴様らの方だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



拳を一度スナップさせ、僕は拳を引く。でも僕が動く前にあむが動いてた。てゆうか僕と一緒に動く。



「「逆ギレ」」



僕は右拳を、あむは左拳をそのまま星名の顔面に叩き込んだ。



「「してんじゃないよっ!!」」

「・・・・・・がは」





二人揃ってそこから打ち下ろすように拳を下に振り抜き、星名を地面に叩きつける。



轟音が響く中僕達は拳を引きつつ顔を見合わせて・・・・・・その拳をぶつけ合う。



それから星名を見下ろすと、星名は鼻から血を流しながらも僕達を睨みつけていた。





「星名一臣」

「ご、御前・・・・・・お待ちください。今すぐにこの不愉快な連中を始末して」

「お前はまだここに居たのか。もういらないと言っただろう。
早く僕の目の前から消えろ。僕は彼らよりお前がここに居る事の方が不愉快だ」




星名専務は何も言い返さず、力を抜いて倒れる。・・・・・・その姿が誰かさんにかぶったのは、気のせいじゃない。



「・・・・・・あなた、ちょっと待って。この人はあなたのおじいさんよね? それなのに」

「僕とこの人の間に肉親の情なんてものを求めてるのなら、それは無意味だ。
そんなものは無価値で無能な証拠。僕はこの人からそう教わった」

「そう・・・・・・みたいね」



因果応報だけならまだいいけど、子どもや親族にまで影響を及ぼさないで欲しい。

悲しげなシルビィの顔を見ていると、そういうのは大事だなって強く思った。



「でも司さん」

「ニムロッドさん、なんでしょうか」

「あの、少し疑問が。司さんはひかる君の事を前から」

「えぇ、知っています。一度偶然会った事がありまして」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あれは仕事をサボって・・・・・・もとい、仕事をより効率よく進めるために休憩がてら散歩に出ていた時の事。



河原で必死に光る石を探していたあの子に僕は出会った。僕はしゃがみながら、その子と一緒に石を探す事にした。





「・・・・・・そう、君のお父さんとお母さんはもう居ないんだね」

「その言い方は正確ではない。僕の両親は居なくなったのではなく、死んだんだ」

「寂しくはない?」

「僕はイースターの頂点に立つ人間だ。そのために必要な帝王学を学び、精進している」



イースターのトップ? これはこれは・・・・・・やっぱり休憩って大事なんだね。思わぬところで鍵が見つかった。

でもこの子の言葉は少しおかしい。これは星名専務、相当強硬な手段を取っているらしいね。



「寂しいなどという感情を持つ理由がない。それは不必要なものだ」

「そう。でもね、君のこころの中にも」



僕はこの子の助けになればと思い、ちょうど持っていた出来立てほやほやな絵本を差し出す。



「たまごはあるんだよ?」



その子は無表情のままだけど軽く首を傾げる。でも、すぐにそれを手に取って本を読んでくれた。

そしてそのすぐ後、読み終える直前かな。その子はあるページをめくった途端に立ち上がって声をあげた。



「こんなのは絵空事だ・・・・・・!!」



あの子は左手でそのページを掴んで、思いっきり破り捨てた。



「なんの価値もないっ!!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・あの絵本、破ったのはひかる君だったんだ。それをあたしやみんなが読んでたんだね。



ならひかる君はあのページの続きを知っている? それがひかる君にとっては不愉快なもので、だから破り捨てた。





「・・・・・・そんな不必要な本の事は覚えていない。返せるページも、もうない」

「いいや、あるはずだよ」



ページがあるかどうかはともかく、本の事を覚えてるのは確からしい。ひかるは今、司さんから目を逸らした。

司さんはそれに気づいているから、身を少し屈めて机に左手をつきながら、右手でひかるの胸を指差す。



「でも、このままじゃダメだ。君のこころは空っぽだ。君はもっと、君自身の事を知っていかなきゃ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・これはヒドいな。完全にただの石になっている」



向こうは向こうでシリアスしている頃、僕達しゅごキャラはエンブリオを観察中。

触ったり撫でたりしながらアレコレ見てるんだが・・・・・・全然変化無しだ。



「でもどうしてにゃっ!? てゆうかよーく考えたら絶対おかしいにゃっ!!
だってだって、コレクションになるーだって立派な願いのはずにゃっ!!」

「おぉヨル、お前もそう思っていたのか。確かにそうなんだ、それならあの子がコレを手にした時点で」

「願いは叶っているはずですよねぇ」





だとしたら僕達の目の前にあるたまごは、そのコレクションになっているはずなんだ。

願いを叶えるのであれば、エンブリオ自体がコレクションになるのもそうなるはず。

だが実際はどうだ? 恭文達共々乗り込むまでずっとあの子の手の中だった。その上コレ。



願いそのものを口にしていなかったのか? だが、ただ一言言うだけで良かったはず。

僕達がここに来るまでそれなりの時間は経っているわけだし、いくらなんでもそれはないだろ。

なら・・・・・・これはエンブリオではなく、当初フェイトさん達が危惧していたようなものなのか?



ようするにロストロギアの類。それならここまでの不可思議な出来事も全部ではないが説明は・・・・・・出来ないな。

そもそもそれなら恭文とリイン達が気づかないはずがないだろう。だがそこの辺りで魔導師組は無反応だった。

おかしい。確かに何かがおかしい。僕達は本当に何か・・・・・・とんでもない勘違いの元でこれを追い求めていたのでは?





「あ、私分かったっ! そういうお願いがひかる君の方から却下されたからコレなんだよっ!!」

「それも可能性としてはなくはないが・・・・・・だがそれとも違う気がする。お前達も感じているだろう?」



ヒカリの言葉に全員が頷き、改めてエンブリオを触ってみる。・・・・・・やはりだ。

先ほどロストロギアではないと言い切れたのは、薄々感じていたからだ。コレは、僕達と同質のものではあるらしい。



「エンブリオが、悲しんでいるわ」

「ボクも分かるよ。この子、泣いてる。凄く悲しんで・・・・・・だからこんな姿になったのかも」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ぶぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 全然浄化が追いつかないよー!! ねぇ、やっぱ砲撃撃っちゃだめっ!?」

『絶対ダメっ!!』





ただなのはさんが纏めてそうしたくなるのも分かる。てゆうかあの・・・・・・結論から言おう。

ヴァイオリン演奏自体はもうとっくに止まってるはずなのに、×たまがどんどん増えてるのよ。

だから撃っても斬ってもうたっても数が全然減らない。ううん、むしろ増えてしまっている。



それだけじゃなくて×たまを包む光そのものも強くなって・・・・・・これ、いよいよヤバいかも。





≪Sir、これはマズいのでは≫

「分かってる。てーか・・・・・・クロスミラージュ、インフィニティ・ガンモードの再使用は」

≪出来ますが最大稼働は30秒あるかどうかです。現段階では私もSirも使う度に間を開けないと≫

「そっか」



まぁそれなりに頭使うモードだしなぁ。それはしょうがない。けど、このままじゃそうかからずに押し切られる。

唯一の救いは×たま達がさほど活発な動き方をしていないって事よ。でも一斉に飛びかかられたら、さすがにマズい。



「ちょっとナナ、これどういう事よ。もう月詠幾斗は」

「えぇ。でも・・・・・・止めるのが遅過ぎた。×たま自体が活性化しちゃってて、それが別のたまごを抜き出しちゃうのよ」



それは・・・・・・今までにもあったパターンね。こうなると中途半端な浄化は無理かも。



「これ、中途半端に攻撃してもだめよ。てゆうか・・・・・・もっとヤバい事がある」

「何?」

「地下から妙な力を感じるの。それもかなり大きい。ダメ、これマズい」



その弱気な声が気になってナナの方を見ると、ナナは顔を真っ青にしていた。



「さっきからこの場の×たま達がやたら活性化してるの、これのせいだわ。このままだと、『箱』が開く」

「『箱』って・・・・・・アンタの言ってた。ちょっと待って、それ無理だって」

「出来ちゃうのよ。もう・・・・・・もうそのための環境が、整いかけてる」





その言葉と同時に、×たま達の光が強くなる。私達は完全に、妖しい光に取り囲まれた。



・・・・・・話に聞いてた通りのヤバい状況発動ってわけ? これは、マジで覚悟しなきゃだめかも。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



部屋全体が揺れ始めた。てゆうか、その途端にたまらなく嫌な予感がする。



僕は・・・・・・自然とエンブリオの方を見ていた。それで側に居たみんなに向かって叫ぶ。





「みんな、それから離れてっ!!」

『え?』



次の瞬間、部屋の中で光が生まれる。眩さと同時に衝撃も放たれて、僕達は揃って背中から壁に叩きつけられる。

それで僕の胸元にシオンとヒカリが叩きつけられた。てゆうか、二人はなんとか無事。



「みんな、大丈夫っ!?」

「なんとか・・・・・・でも恭文、コレなにっ!!」

「分かんないよっ!!」



そして目を細めながら光の向こうを見ると、エンブリオはひかるの方に向かうような動きをしていた。



「ひかる、逃げろっ!!」





光に押さえつけられながらも声をあげるけど、ひかるはそんな中・・・・・・必死に何かを拾っていた。

テーブルも椅子もひっくり返って、衝撃で部屋の中の宝石が派手にばら撒かれていた。ひかるが拾っているのはそれ。

エンブリオに背を向けて、必死に宝石達を拾っていた。僕の居る場所だとそこがギリギリ見えたから分かった。



エンブリオはひかるには攻撃していない。光と衝撃で押さえつけられているのは僕達だけ。それともう一人。





「が・・・・・・苦し、苦しい。なぜだ・・・・・・なぜだエンブリオっ! なぜ私にこんな真似をっ!!」





それは星名。星名は特に強い衝撃が加わっているらしく、身体が壁に埋まりつつある。

そして内蔵が衝撃を圧迫しているのか、口から血が吐き出された。その光景を見た時、何かが分かった。

だから必死に、左手でシオン達を守りながら加わり続ける衝撃の中立ち上がる。



そんな僕に向かって更に衝撃が加わる。けど、僕は踏ん張ってそれに耐える。耐えて、ひかるの方を見てまた声をあげる。





「ひかる、逃げろっ! ひかるなら逃げられるっ!!」

「ダメだっ! 石が・・・・・・僕の、石がっ!!」





声をかけている間にエンブリオはひかるの方に向かっていく。



そしてひかるはエンブリオの光の中に包まれる。その次の瞬間、ひかるはエンブリオと一緒に消えた。



その瞬間僕達は衝撃から解放される。僕は前のめりに僅かに体勢を崩す。





「ご、御前っ! ・・・・・・なぜだ、なぜエンブリオが御前をっ!! なぜ私に・・・・・・がはっ!!」





僕は膝立ちになって口から血を吐きながらも頭を抱える星名の方に近づいて、左手で胸ぐらを掴んで引き上げる。

・・・・・・やっと、分かった。なんで今日、あの場でエンブリオが出たか。なんで星名の手元にエンブリオが来たか。

なんで昨日、あむが触れる事を拒んだのか。なんでさっきエンブリオは星名を殺そうとでも言う勢いで傷めつけていたのか。



それなのにどうしてひかるに何もしなかったのか。それになにより、なんでひかるの言葉であの状態になってしまったのか。

なんでひかるを今連れ去ったのか。これらのピースを繋げていくと、一つの答えが出せる。

多分これで正解だ。そうすれば全ての疑問が怖いくらいに綺麗に解けちゃうのよ。・・・・・・それでまぁ、アレだね。



それでこんな状況になったそもそもの原因はコイツだ。多分そこは司さんも気づいていた。

だからさっき言ってたでしょうが。ひかるのこころは空っぽで、罪を突きつける前に知らなきゃいけない事があるって。

・・・・・・そうだね、罪を数えてもらう前にやるべき事がある。だから僕は、コイツを引っ張っていく事にした。





「何をするっ! 離せ・・・・・・離せっ!!」

「シオン、ヒカリ、ひかると『たまご』の行方は」

「・・・・・・分かるぞ。展望台の方に向かったようだ」



じゃあまた上に上がる必要があるか。時間もないし・・・・・・転送魔法だね。



「星名、僕と一緒に来い。それでお前に・・・・・・お前の犯した罪を突きつける」

「まだくだらん無価値なガラクタ達にこだわるのかっ! そんな事より御前を探せっ!!
これはお前達のせいだっ! またお前達の罪が増えたのだからしっかり償えっ!!」



その言葉は僕の右拳での制裁で止まった。そして星名の口から血が溢れ、血に塗れた歯が飛ぶ。



「もうガタガタ抜かすな。いいから来い。それで・・・・・・お前のこれまでの人生全てを否定してやる」

≪あなた、どうしたんですか。さすがに電波過ぎでしょ≫

「後で話す。とにかくみんな、急ぐよ」





そのまま不満そうなバカの首根っこを掴んだ上で移動開始。でも、納得してしまった。



確かにこれが原因なら、ナナが言っていた通りの事態が起こる。そうならない理由が分からない。



だけど・・・・・・絶対に止める。決意を新たにしつつ、僕は素早く転送魔法を詠唱。展望台に戻った。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



突然上空に光るエンブリオが現れた。まぁここまではいい。問題はそのたまごの近くに子どもが居る事。

そしてその子どもとエンブリオに向かって、×たま達が一気に集まっていった事。結果、巨大な×たまが生まれた。

その大きさは・・・・・・多分30メートル近くある。ナナはそれを見て完全に顔から血の気が引いてる。



そしてそのたまごに割れ目が生まれて、パカリと言うには余りに鈍い音が響いた。



そこから出てきたのは、赤ん坊のように膝を抱えて目を閉じる巨大×キャラだった。





「な、何あれっ!? てゆうかあの子は誰っ!!」

「おいおい、アレお前らの知り合いかっ!?」

「違います。でも・・・・・・大きい。あんな×キャラ、僕達は見た事がない」





それで×キャラが目を開いた。その涙からゆっくりと雫が零れて・・・・・・×キャラは大きく声をあげる。

ううん、これは泣き声だ。まるで赤ん坊が泣いているような声が周囲に響く。でも耳は痛くない。

ただこころが痛い。そうだ、この声は聴覚的なものじゃない。この声は胸の奥底、こころから響いてる。



その声のために私達は動きを止めて、震えながらその場に次々と崩れ落ちる。





「ナナ、アンタ・・・・・・大丈夫?」

「ヤ、ヤバいかも。てゆうか予想してたのにこれって・・・・・・キツい」

「ディード、お前・・・・・・いや、我もか」

「そんな・・・・・・どうして、こんな。私はまだ、これほどの悲しみ・・・・・・知らないはずなのに」





次々と呼び起こされるのは、痛みと悔しさと悲しみの記憶達。その中には兄さんが亡くなった時の事もあった。



立ち上がれない。私達は誰一人立ち上がれない。叫びの前に涙を拭く事すら出来なかった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「三条、お前何泣いて・・・・・・俺もか」

「すみま、せん。だが・・・・・・立てない」





力が涙を零す度、あの叫びを聞く度に抜けていくようだ。それで心がズキズキと痛み出す。

同時にあの時・・・・・・おねだりCDの制作に手を貸していた事を思い出し、更に涙が零れる。

蒼凪さんに刃を向け傷つけた時の事も、日奈森さん達の声を否定し嘲笑った事も思い出す。



別に忘れていたわけではない。向き合い方を、背負い方を今でも探しているのだから。



なのに今こうしている事そのものを責められているような衝撃に苛まれ、そのせいかキャラなりまで解けてしまう。





「なんで・・・・・・なんで俺達、こんな涙出てくるんだよ」

「今は泣いている時ではないというのに・・・・・・拙者は、まだ未熟なのか」

「なん・・・・・・なんでだよ。なんで旦那が死んだ時の事、思い出して」

「・・・・・・もう、大丈夫なのに。ちゃんと夢、再確認出来たのに。
出来るからじゃなくて、やりたいから空を飛ぶのに」



それはアギトさんとなのはさんも同じ。いや、他のみんなも同じだった。

おそらく全員、それぞれに記憶の奥底にあった悲しみを思い出して涙を流している。



「恭、さま」

「くそ・・・・・・分かっててコレって、おかしいだろ。なんで、なんで俺は立てねぇんだよ」



恭太郎さんが震えながらもよろよろと起き上がろうとする。



「立てよ。立って・・・・・・戦うために、ここに居るんだろうが。なのに、なんで」





だがそのまま力なく前のめりに倒れて、身体を床に打ちつけた。・・・・・・無理もない。

今の状態は全員揃って、強制的にトラウマを引きずり出されているようなものなんだ。

本来は思い出したくもないものまで思い出す事もあるだろう。これが、咲耶さんの言っていた『箱』か。



一応予言の話も、救援を頼まれた際に聞いている。その上で協力を決めてここに来た。

そして予言が現実になる場合、世界中の人間のこころから悲しみが引き出されてしまうとの事だった。

その結果こころに×が付いてしまって、世界中から可能性そのものが消える事になるとも聞いた。



そんな話をされてはさすがに居ても立っても居られなかった。だからここに来たのに・・・・・・俺は、身体を起こす事すら出来ない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「パパ、ママ・・・・・・! ケンカしない・・・・・・こんなの、嫌っ!!」

「りま、しっかり・・・・・・ぶぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」

「ぶぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ! 寂しい、寂しいよー!!
パパもママもこっち見てー! つばさと太郎の事ばっか見ないでー!!」

「ややちゃんしっかりするでちっ! こんな・・・・・・負けちゃだめでちっ!!」



全員揃って、これだけのメンツが居てこれって・・・・・・僕もてまりがたまごに戻った時の事を思い出している。

あとはなでしこだった時に辛かった事や悲しかった事もだよ。みんな、みんな悲しみを呼び起こされている。



「ナギー、なんでオレ・・・・・・オレまで泣いてんだよ」





それでキャラなりしてたメンバーも全員それが解除されてしまっていた。

だからリズムも僕の隣でらしくもなくボロボロと涙を流し続けている。

悲しみが余りに大きくて、自分を信じられなくなっているだ。だからキャラなりも維持出来ない。



このままだと・・・・・・ちょっとでも油断したら、一気にこころに×が付きそう。今はそれくらい辛い。





「なんでオレ、ナギーとキャラなり出来ないんだよ。ここまで、ここまで来たってのに」

「当然とも、言えますわね」



その声は首元に隠れていたてまり。てまりも声から察するに泣いている。



「今私達は、ナインハルテンさんのお話通りなら悲しみを通して世界中と繋がっているんですから」

「うん、それだけで・・・・・・それだけで充分なんだ」





この状況は、ナナちゃんの予想そのままだった。一応ね、僕達も知ってはいた。



覚悟も決めていたし気持ちも強く持ってた。だけど、立ち上がれない。



洪水のような悲しみと痛みにこのまま溺れてしまいそうなんだ。凄く、苦しい。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ナナちゃんはあの日・・・・・・というか昨日か。昨日の朝、僕達に予言が現実になる場合に起こる事を説明してくれた。



ただそれは余りに現実離れしていて、あの時の僕達は正直半信半疑だったと思う。





「まず人のこころに×が付くなんて、そんな簡単な事じゃないわ。特に世界中同時なんて絶対不可能。
だけどそれが出来る方法があるとしたらそれは・・・・・・悲しみよ。世界中の人間を悲しみという感情で繋いじゃえばいい」

「えっとえっと、それってどういう事ー?」

「アンタ達だって、生きていく中で悲しい事の一つや二つあるでしょ? もちろん私にもよ。
そういう傷や痛みはね、心の奥の小さな小箱に仕舞い込んでいるものなのよ。それを全部開けちゃうの」



今ひとつ意味が分からなくて、僕達は全員で首を傾げる。するとナナちゃんは少し息を吐いた。



「あー、ようするに今で生きてきた中で味わった痛みや苦しみ、精神的負担ね。
それらが一気に吹き出して、こころの中をそれでいっぱいにしちゃうのよ。で、結果×が付く」

「ナナ、それって・・・・・・そういう悲しさで自分の可能性を諦めるって事?」

「そうよ。でね、多分その波動というか攻撃は、この世界全員のこころのたまごを通じて行われるわ」



ナナちゃんの言葉を受けて、僕達はそれぞれのしゅごキャラや自分の胸を見る。



「×たまは人のマイナスエネルギー。悲しみの感情もこもっているもの。そのエネルギーが一気に逆流してくるってわけ。
人と人はね、本当はみんなこころのたまごを通じて繋がってるの。アンタ達、キャラなりの時『アンロック』って言うわよね?」

「えぇ、言いますけどそれが何か」

「アンロック・・・・・・つまり解錠して引き出す力は、その人の可能性そのもの。でもそれは自分だけのものに収まらない。
誰かと分かり合って繋がって、手を握り合って・・・・・・そういう他者との関わりの中で生まれる可能性もある」



もしかしたら言葉が強い説得力を持っているのは、本当にナナちゃんが異世界人だからかも知れない。

だからナナちゃんの目や言葉の中に一つの実感が見える。真剣に話して暮れてるのも、よく伝わった。



「それを全て含めて『可能性』って言うのよ。アンタ達が使う力は、ただ単に自分だけの可能性を形にしたものじゃない。
誰かと繋がる事で生まれるものも含まれてる。だからこころをアンロックする時、自分だけじゃなくて他者とのラインも開くの」

≪じゃあじゃあナナちゃん、もしかして自分のしゅごキャラ以外の子ともキャラなりやキャラチェンジ出来るのってそれが理由なの?
つまりその・・・・・・お互いにこころをアンロックすると、色んな人と分かり合えちゃうの。誰でも仲良しさんになれるの≫

「えぇ、全くもってその通りよ。だから自分のしゅごキャラとのキャラなりとは少し意味合いも変わる。
・・・・・・アンロックって言うのはその繋がりに、可能性に触れるための必要な鍵なのよ」



僕や辺里君はともかく、そこの辺りでミキやスゥにお世話になりっ放しな恭文君は納得したように頷いてた。

でも同じくなはずなあむちゃんは・・・・・・表情が今ひとつ冴えなかった。



「でも今回の場合、さっき言ったみたいにその繋がりを通じて一気にマイナスエネルギーが広がる可能性があるわ。
というか、それくらいしか思いつかないのよ。今までみたいに外からではなく、内から人の可能性に×を付けまくるのよ」

「・・・・・・僕、今更だけどナナがどうして言うの躊躇ったのか分かった」

「リインもです。現段階だとそれ、本当に出来るかどうか分からない感じなのですよね?」

「えぇ。しかも話が突拍子もないしね。自分で言っててもまとまりないと思うわ。
でもほら、ありえない事なんてありえないってアンタ前に言ってたじゃない?」

「あー、うん。言ってたね」



それは恭文君の口癖みたいになっているらしく、ナナちゃんが知っているのも頷けた。それで恭文君も困った顔してる。



「とにかくナナ、話してくれてありがと。・・・・・・それでもし止めるとしたらどうすれば」

「正直何が原因でこうなるかもさっぱりだし、基本無視でいいわよ。もし最善策があるとしたら、早めに連中を止める事だけ。
あとは・・・・・・覚悟しておく事かしら。これに関しては恭文、アンタの自己催眠も多分通用しないだろうから」

「それすらも上回るって事?」

「また別次元の話になるからよ。まぁ現実にならない事を祈るわ。当然この私がさせないけどね」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・でも悲しいかなそんな話をしてから二日も経ってないのに、現実になってしまった。

あの×キャラは別に難しい攻撃はしていない。ただ泣き続けているだけ。ただそれだけなんだ。

なのに・・・・・・僕達はもう動けなくなっている。あと、ちょっとなのに。なのに動けない。



そんな時、僕達の目の前に魔法陣が現れた。この色は・・・・・・恭文君?

三角形のベルカ式魔法陣の上に、下に向かったメンバーが現れた。

というか、星名専務はともかくとしてもどういうわけか理事長まで居た。ここはおかしい。



それでその場で全員が崩れ落ちて、声も殺せずに泣き始める。・・・・・・やっぱりこの手の攻撃を無効化出来る恭文君もダメか。



でも早くなんとかしないと、この調子だと本当に、本当に世界中の人間に×が付いてしまう。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



くそ、予想以上に来て・・・・・・フェイトとケンカした事やリンディさんと絶縁した事まで思い出してる。

それにフォン・レイメイを殺した時の事や、あの時・・・・・・助けられなかった色んな人達。

それで次は・・・・・・薄暗くて広い部屋? え、僕なんで縛られてるんだろ。てゆうかあの、物凄く怖い。



なにコレ、僕はこんなの覚えが・・・・・・もしかして10歳より前の覚えてない記憶まで呼び起こされてる?





「お兄様、しっかりして」

「恭文、自己催眠・・・・・・は」

「ダメ、もうやってる」



シオンとヒカリもボロボロ泣いてる。それはあむと猫男に唯世とシルビィ、それに星名もだ。

星名も胸を右手で押さえながら瞳から涙を、そして口元から血を垂らしながら泣いている。



「アルト、ジガンは」

≪私達はまだ大丈夫です。ただ・・・・・・何かが辛く感じます≫

≪きっとこの声、ジガン達にも届いてるの。だからジガン、悲しくなっちゃうの≫

「そう、か。てーか今回はさすがに」



・・・・・・そこまで言いかけて、言葉が止まった。だから涙をボロボロ零しながらも必死に右足を踏ん張って立ち上がった。

その瞬間、僕に向かって黒い風が吹き抜ける。避ける余裕も無くて僕はその風をマトモに食らい吹き飛ばされた。



「恭、文・・・・・・!!」



歌唄の声に答える間もなく展望台の入り口近くの壁に叩きつけられ、そのままズルズルと床に崩れ落ちる。

それと同時にベルトが外れて変身解除。バリアジャケット姿のリインが崩れ落ちたまま、やっぱり涙を流していた。



「そんなの、ない。そんなの・・・・・・ない。だって恭文さんは、恭文さんは・・・・・・!!」



リインの中の『箱』から出てきたものが何かなんて、もう考えるまでもなかった。

だから、身体の中から力が出てきた。僕は・・・・・・そうだ。こんな事で負ける理由、なかった。



「ぎゃーぎゃー泣くのはいいけど」



僕はそこから起き上がって・・・・・・一歩踏み出した。シオン達は咄嗟に不可思議空間に隠れたから大丈夫。

でも僕は・・・・・・あ、意外と平気だ。咄嗟にフィールド魔法で防御したんだな。うーん、さすが僕。



「テメェの涙を、悲しみを僕達に押しつけてんじゃねぇよ。本当はそうやって、ずっと泣きたかったんだろ。
なのに無理するからそうなるんだ。泣きたい時は、泣いたっていい。悲しいなら悲しいでいい」



涙を流しながらも、僕は足を進める。進めながらアルトだけをなんとかセットアップさせる。

それからアルトを抜き放つ。でも手が震えて、いつもみたいに上手く握れない。



「もちろんそれじゃあいけない時だってある。そんな時は我慢して、踏ん張らなきゃいけない。
あぁそうだ、踏ん張って御前やってたお前と同じだ。僕だって、踏ん張りたい」





崩れ落ちたみんなの脇を通り過ぎながらも足を進めていると、また風が吹く。それは×たまの手から放たれた衝撃波だった。

黒い衝撃波は叫びをそのままぶつけてくるかのように空間を揺らしながらも僕に迫ってくる。

それでも力が出なくて、どこかで諦めている自分が居て・・・・・・そんな時また知らない風景が見えた。



そこには白いソフト帽とスーツを纏って誰かと戦っている男の人の姿。その姿を見てどこかで胸を高鳴らせている自分。



その姿を思い出している間にも、僕を押し潰すかのような勢いで吹き抜ける風が目の前まで迫っていた。





(第123話へ続く)





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