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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第120話 『Wall Break/想いは一つっ! ガーディアン達の戦いっ!!』



ドキたま/じゃんぷ、前回の三つの出来事っ!!

一つ、千々丸が星名専務に意見したためにデスレーベルに斬られたっ!!

二つ、恭文とシルビィにナナとティアナが九十九と萬田+×ロット軍団相手に大暴れっ!!

三つ、ティアナの切り札、インフィニティ・ガンモード発動っ! 凄い威力だっ!!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー!!』



(キャンディーズ、もう気にしない事にしたらしい。なお今回は作者のやっつけです)



ラン「さてさて、ドキッとスタートドキたまタイムー! 今回も決戦真っ盛りだよー!!」

ミキ「今回は星名専務の言う合成獣達との戦い。最後の関門だけあってかなり怖い感じだよー」

スゥ「でもでもぉ、そんな中心強い助っ人が来てくれますぅ」



(立ち上がる画面に映るのは、雷撃迸る緑色の閃光。そして闇夜を照らすように舞い散る光と羽達)



ラン「信じて、信じられて、想いを一つにして戦うガーディアンのみんなは誰にも止められないー!!」

ミキ「でもここでは今回もいつも通りにいくよ? せーの」

ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪Full Charge≫



ベルトのバックルから生まれた蒼い火花が右足に走り、僕の足に蒼い光が灯る。



【「必殺・・・・・・僕達の必殺技っ!!必殺・・・・・・リイン達の必殺技っ!!」】



そのまま跳躍して、がら空きになったコクピットに向かって飛び込みながらも右足を突き出す。



【「クライマックスバージョンッ!!」】





突き出した右足は九十九の胴体を捉え、九十九は目と口を開き切って大きく息を吐く。

そして僕達の蹴りの衝撃に圧されるようにローダーは後ろのめりに倒れ・・・・・・ううん、軽く吹き飛ぶ。

仰向けに倒れたローダーが地面を削り、火花を散らしながらも滑る様子を見つつ僕達は着地。



そしてローダーがその動きを止めた途端、コクピットから蒼い冷たい息吹を含んだ爆発が起きる。

それと同時にローダーの関節部から黒い煙が上がった。どうやら機能停止らしい。

左側を見ると、シルビィも同じくらしく息を吐きながら銃を下ろしてた。で、僕の方を見てニコリと笑う。





「ねぇヤスフミ、やっぱり私達って最強コンビだと思うのよね。ほら、息もぴったりだし」

「かもね。でもシルビィ」

「なにかしら」

「いや、説得の仕方を失敗したって途中で気づいて色々考えたんだけど・・・・・・もしかしてコイツら、相当専務に怯えてる?」



だからあんな状態だったと考えて、つい表情が苦くなる。つまり僕の想像以上に暴君なんだよ。

それでシルビィの方を見ると、否定出来ないらしく頬を引きつらせてた。



「ヤスフミ、あれ本気で説得してたの?」

「へ?」

「私てっきりそういう挑発かと思ってたんだけど。ほら、生まれてきた事を後悔させるために」



いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! なんかシルビィから見てそう見えてたって事は説得になってないじゃないのさっ!!

というかアレ挑発だったのっ!? うん、分かったっ! だって結局戦ったしねっ!!



「・・・・・・やっぱ失敗した。無駄な戦いを避けられたかも知れないのに」

「そうなるわね。でも」



シルビィはそう言いながら僕の方に近づいて、銃を収めた上で僕の頭を右手で撫でてくる。



「言い方はともかく、まずそういう姿勢を踏み出した事は・・・・・・お姉さん的には嬉しかったかな。
あとはやっぱり経験と勉強よ。どちらにしてもそういうのを積み重ねて頑張るしかないんだし」

「・・・・・・ん。シルビィ、ありがと」

「ううん。さて・・・・・・ティアナちゃん、ナナちゃんっ! 後は任せちゃってもいいかしらっ!!」



向こうでなにやら夏ごろにフェイトと見た00の劇場版張りの射撃戦闘やってる二人にシルビィが声をかける。

で、二人はこちらに迫ってきている×たま達に向かって火球やら弾丸やらを惜しみなく撃ち出しつつ、僕達を見ずに声を出した。



「言っている間にとっとと行きなさいよっ! てゆうか、この程度私だけで十分だしっ!!」

「言ってくれるじゃないのよっ! 結構必死そうに見えるけどっ!?」

「そういう演出よっ! アンタこそもう限界なんでしょっ!! 無理しなくて」



ナナは声をあげつつステッキを空に向かって突き出す。



「いいわよっ!!」



そしてその杖から2メートルほどの巨大な炎の奔流が生まれた。それが×たま達を飲み込み浄化していく。

その脇を通り過ぎてこちらに迫ってくる×たまを狙って、ティアナと周囲のガンビット達が動く。



「冗談っ! アイツのバカにこの2年付き合いまくってるのよっ!?」



そして合計12機のガンビットはティアナの周囲に展開して、弾丸を発射。

ティアナもクロスミラージュを前面に向けてその引き金を引く。



「この程度で息切れするわけ、ないでしょうがっ!!」





まるでハリネズミのように広く大きく展開された弾幕は、一発も外れる事なく×たま達を撃ち抜いた。

でもその射撃は一度じゃない。僅かにビットが銃口の向きを変えて次々と弾丸が放たれていく。

そのために弾幕の層は厚く、狙いも正確なために×たま達はティアナが一人で展開する弾丸の層を超えられない。



どうやら向こうは大丈夫らしい。てゆうか、ティアナもナナも全開で飛ばしてるなぁ。僕達つい呆れ気味に見ちゃってるし。





「・・・・・・二人とも、気が合うみたいね」

「そう、だね。よし、九十九達をしっかり拘束した上で上に行こうか」

「そうね」





この後、コクピットの中で真っ白な薄い氷が身体中にくっついているために、ガタガタ震えながら気絶していた九十九を確保。

もちろんぐっすり寝ていた萬田も確保。まずは二人の両手両足の筋を断ち切って猿轡なんてしておく。

その上でバインドと鋼糸の両方で縛ってその場で放置。あとはローダーの方も危ないので動かないようにしておいた。



アルトとジガンに協力してもらってシステムに入り込んで、それそのものをクラッシュさせたの。

シルビィと手分けしてかなり手早くやったんだけど・・・・・・それでも数分という時間はかかっている。

僕達は後の事を未だに×たま達の侵攻を必死に食い止めてる二人を任せて、塔に踏み込む。



成り行きとは言え、助けるって言ったしね。出来れば手遅れにならない事を祈るよ。

今回ばかりは確約出来ないのが辛いけど、それでも出来る限りはやらなくちゃ。これでソイツに死なれたらマズい。

あとはまぁ、反省しようか。もうちょっとうまい理論展開があったんじゃないかーとか考えるとなぁ。



・・・・・・よし、絶対に今は『この後』とか考えない。それは死亡フラグだ。うまいビールうんたらかんたらレベルのフラグだ。



それやパインサラダもヤバいけど、今僕が一瞬考えそうになった事もヤバい。とにかく全部片づいてからだね。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



凄く、痛い。てゆうか、あのまま気絶したままが良かったかも知れない。立ち上がる事すら出来ないしさ。

でも主任と萬田がありったけの薬やら包帯やらで応急処置の真似事なんてしてくれたから、それは助かった。

だけど・・・・・・あははは、ヤバいなぁ。今こうやって生きてるって事は、そこまでバッサリではないと思うんだよ。



もしそうだったら、とっくに死んでるだろうしさ。でも、全然止血とかダメっぽいし・・・・・・あぁもう、なんでこんな事に。





「・・・・・・千々丸、九十九達はまだ戻らんのか。相手はたかだか子どもだぞ」



で、そんな事すら気にならないくらいに怖いものがある。それは専務だよ。てーか俺、殺されかけたしさ。



「おい、答えんか。何をそんなところで座っている」



いや、無理だから。そもそもアンタのせいでコレだって忘れてるでしょ。俺、動くのもやっとなのに。



「全く・・・・・・使えん奴だ。私に口答えしただけでなく無視までするか。本当は始末してやりたいが、まぁいい。
・・・・・・お前のようなクズでも、生きているだけで九十九達の動き方が違うだろうからな。しばらくそのままでいろ」



荒く息を吐く俺の顔を、専務があざ笑うように見る。その冷たい視線が怖くて、身体を支配する寒気が強くなる。



「それで・・・・・・私と御前がエンブリオを手にしたらもう用はない。そのまま、死ね」





・・・・・・ホント、どうしてこうなったんだろうな。やっぱアレか、悪い事してたって事か?

そういや死んだ田舎のじいちゃんが言ってたっけなぁ。因果応報、自分のやった事は自分に返ってくるってさ。

それは良い事も悪い事も同じく。だからこそ『情けは人のためならず』ってさ。



なら俺が死ぬのも、しょうがない事なんだろうなぁ。あぁ、なんかダメだ。

死にかけてるせいかネガティブな事ばっか考える。でも・・・・・・もしも、もしもだぞ?

出世なんかに釣られずにもっと早くにそこに気づいてたら、どうなってたんだろうか。



こんな事にはならなかったのかな。まぁ、今更か。でも、もしそうならそっちの方が良かったな。



主任と萬田と三人でバカみたいな事ばっかやって、それでも楽しく仕事出来たら、そっちの方が・・・・・・なぁ。










All kids have an egg in my soul



Heart Egg・・・・・・The invisible I want my






『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第120話 『Wall Break/想いは一つっ! ガーディアン達の戦いっ!!』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



前回のあらすじ。じいちゃん達に後を任せて俺達は塔内部に侵入成功。

まぁまぁここまでは良かった。問題は・・・・・・デカい犬が10匹に巨大なゴリラが三匹俺達に襲ってきた事。

当然ながら俺達は散開して四方に散らばる。俺はあむと一緒に入り口の方に大きく跳ぶ。



それで今度は全員揃ってあの動物を囲む形になったが・・・・・・さて、これはどうしたもんか。





「恭太郎、アレ一体なにっ!? ×ロットや×たまは分かるけど、さすがにあれは予想外だしっ!!」

「俺だって分からねぇよっ!!」



ぶっちゃけ俺だって今回の件の詳細は詳しく聞いてねぇんだ。知っている事で未来が変わる場合だってあるしよ。



「おいミキ、マジであの猛獣共から×たまの気配がするのかよっ!!」

「うん、間違いない」

「スゥも感じるのですぅ。・・・・・・ワンちゃん達、ゴリラさん達、そんなに怖い顔をしないで」



スゥが両手を広げてあの猛獣共に近づこうとするので、俺は慌てて左手でスゥを掴む。



「バカ、近づこうとするなっ!!」

「恭太郎さん、離してくださいですぅっ! スゥがお話してみますからぁっ!!」

「無駄だっ! あの殺気が分からねぇのかっ!?」





あぁ、殺気だ。アイツら全員、俺達の事殺すつもりでかかってやがる。



くそ、マジでイースターの奴ら殺る気満々じゃねぇかよ。小学生相手に本気出し過ぎだろ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「相馬、質問だが今まであのようなものは」

「あんなの出てきてねぇっすよ。てーかマジでワケ分かんないのはダイチ達が×たまの気配感じてるって事なんっすよ」



・・・・・・×たまの気配か。とりあえず我の知る限りあんな生物は地球上には居ないはずだ。

確かに同種のそれは居るが、あんな巨大な雪男のようなゴリラなど居るとは・・・・・・いや、待て。



「まさか奴ら」

「ザフィーラさん?」

「分かったぞ。おそらくだがこの猛獣共は×たまを使って強化されている」

「はぁっ!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「強化って・・・・・・リースさん、それどういう事ですか」

「多分ですけど、×たまをなんらかの方法で生物に封じ込めたんです。・・・・・・噂に聞くおねだりCDと同じやり方で」

「・・・・・・あ」



そ、そうか。×たま自体を別の何かに作り替えたり、あの時のようにそのエネルギーを何かに込めたりする技術は確立してる。

もしあの巨大犬やゴリラ達がそういう技術を使って、×たまのエネルギーを込められているとしたら?



【その影響で凶暴化してコレなのかっ!? だがそんな事が出来るのかっ!!】

「多分可能です。・・・・・・次元世界で見つかるロストロギアにも、時たまこういう現象を起こすものがありますから。
ロストロギアに生物が触れるとそのパワーに侵食されて、全く別の生物に一時的に変化したりとか」

【パワーに侵食・・・・・・そう言えばジュエルシードとやらの話を聞いた時にも同じような事が】

「キセキ、アレは猫が巨大化しただけだから。でも・・・・・・そういう現象は起こり得るって事なんだね」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「じゃあじゃあ、あのワンちゃん達はもう」

「それは分かりません。もしかしたら浄化技が通用する可能性もありますし。ううん、多分その可能性は高い」

「ディードさん、どうして?」

「そもそもこの場は、私達に×たまを浄化させるために用意されているから」

【なるほど、そっち方向を狙ってこれならアリかも知れないでちね】





よく考えてみると、今までの足止めもどこか苛烈さに欠けてはいた。例えば私達の迂回をあっさり見逃したりとか。

やっぱり恭文さんとティアナの事前の予想通り、私達に生かさず殺さず状態でたまごを浄化させ続ける事が狙いなんだ。

ここは本当なら相手の手に乗らずに何もしない方が得策じゃないかとは思う。でもそれは無理。



だって私達はガーディアンのみんなの、恭文さんとリインさんの『たまごを助けたい』という気持ちに乗っかってここに居る。

事情はどうあれ、×の付いたたくさんの夢達を放置は出来ない。なにより、月詠幾斗の体力の問題。

デスレーベルというキャラなりは、ヨルの証言で彼に相当な負担をかける事が分かってる。でもイースターは当然そこを無視。



現に今この現状を考えると、やはり・・・・・・私はツインブレイズを両手で持って、一歩踏み出す。





「やや、あむさん達と一緒に上へ行ってください。ここは私と恭太郎達で」

「ダメだよ」



でもそんな私を右手で制しつつ、ややが前に出る。ややは僅かに俯いていて、表情が読めない。



「ディードさんはもうたまご浄化出来るんだから、あむちー達と行かなきゃだめ。
多分ややが行くよりずっと役に立つもん。・・・・・・アヒルちゃん」



ややは顔を上げて、左手でどこから取り出したのか黄色いホイッスルを持っていた。



「スクラム、行っくよー!!」





そのホイッスルの音が響いた瞬間、私達の周囲におなじみのアヒル達が登場する。

そのアヒル達はいつもより機敏に動いて、真剣な顔で猛獣達を円で囲うようにして包囲する。

いつもより大量に出ているであろうアヒル達が次々と積み重なり、一つの筒状の壁となる。



その光景に警戒の視線を送り続けた他のメンバーも唖然として口を開けてしまう。





「やや、これは」

「ふふー、どうだー! これぞややとアヒルちゃん達の新必殺技っ!!」

【名づけてゴーゴースクラムでち。アルトとお話出来るようになってから、アヒルちゃん達とももっと仲良くなれたでちから】



それで黄色い筒という壁の中から、また先ほどの咆哮が響く。それによって僅かにアヒル達の壁が揺れる。

思わず私達はまた両手で耳を押さえるけど、その次の瞬間それとは別の咆哮が響いた。それによって・・・・・・アレ、耳が痛くない。



【咆哮には咆哮。向こうの声が気にならないくらいの声を出せば楽勝でち】

「そういう事ー! あむちー、唯世、ザフィーラさんとディードさんと一緒に先に進んでっ!! ここはやや達を信じてっ!!」

「で、でもやや・・・・・・こんなのいつまでも持たないよっ!?
なによりアンタが信じてって・・・・・・あの、お腹でも壊した?」



・・・・・・その瞬間、全員がややを今ひとつ信じられないというか心配そうに見てしまうのは許されると思う。

だって普段のややのキャラを考えると、こう・・・・・・ね? 私にもよく抱きついて甘えてきたりするし。



「あむちーもみんなもひどいー! 別にやや体調悪いとかじゃないもんっ!!
・・・・・・確かにややはこんなキャラじゃないよ? ホントはずっと赤ちゃんで居たい」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ずっと末っ子のまんまがいい。みんなに守ってもらえて、おんぶに抱っこしてもらえて。
みんなに可愛がってもらえるのが好き。弱くたって、ややそういうキャラだもん。・・・・・・でも」



それでもややは笑って・・・・・・うん、怖くても何があってもややは笑えるんだ。

遠い世界で今も素敵な夢を見ているあの子を思い出して、思いっきり笑える。



「赤ちゃんだって、たまにはみんなをおんぶしちゃうんだからっ!!
あむちーの事だけじゃないっ! イクスちゃんの事もカリムさん達の事も、みんなおんぶするっ!!」

「・・・・・・やや」





ややはやっぱり、イクスちゃんに素敵なお空を見て欲しい。だから、絶対にこんなのは嫌。

そんなイクスちゃんの事を助けてくれてるカリムさんやシャッハさん、セインさん達が泣いちゃうのも嫌。

というかというか、世界中のみんなが泣いてお空が消えちゃうのは・・・・・・絶対嫌。



・・・・・・うん、分かるよ。だからややの中に『戦いたい』って気持ちが生まれてくる。



まだよちよち歩きの赤ちゃんな気持ちだけど、ちゃんとややの中にある。だからやや、思いっきり頑張れるんだ。





「だからあむちー、みんなも行ってっ! 大丈夫、赤ちゃんは無敵だもんっ!!」

「・・・・・・その通りよ」



聴こえてきた声はややにみんな、あとはあのワンちゃん達の声とは違う声。その声は上から聴こえる。



「日奈森さん、キング達と先に進んでください。後の憂いをなくす事くらいは俺達にも出来ます」

「末っ子の頑張り、無駄にしちゃだめよ。とっとと行きなさい」





というかというか、続いた声もさっきの声もやや達の知ってる声。それでやや達は慌てて上を見上げた。

割れたステンドグラスの天井の中で残ってる金属の柱の上に、三人の人影があった。

白い羽を生やしたツインテールの女の子と、緑色の和服のお侍さんな男の子と、金色のチャイナ服のお姉さん。



というかというか・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?





「歌唄っ! それに」

「三条君と咲耶さんまでっ!!」

「待たせたわね。助っ人登場よ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うぉうっ!?」

「ヤスフミ、どうしたの? 急に足を止めて・・・・・・というか顔真っ青じゃないっ!!」

「い、いや・・・・・・なんか今猛烈に嫌な予感が。この先に進んだら頭痛くなるような事が起こるって予感が」

「・・・・・・だったら余計に急がないとマズいわね。あむちゃん達相当ピンチなのかも」

「いや、そういうのとはまた違・・・・・・って、手を思いっきり引っ張らないでー!!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



歌唄は不敵に笑いながらそう言って、そのままやや達の近くに降りる。



それは海里と咲耶も同じ。というかあの、突然過ぎてあたし頭ちょっとパニクってるかも。





「じゃあじゃあ、アギトさん達が言ってた咲耶さんが・・・・・・アレ? 確か一人って」

「そう言えばそうですね。咲耶、これは」

「いえ、私は海里さまだけを連れてきたのですが」

「すみません。地元の小学校の行事で泊まりがけの校外学習に出ていたので、遅くなりました」



あー、だから咲耶は改めてなのはさん達送って、その校外学習に出てた海里を拾うために遅くなったと。

いや、それは分かるけどなんで歌唄が・・・・・・あれ、嫌な予感がする。



「けど・・・・・・その、どういうわけかこちらに到着した途端に歌唄さまとも遭遇して」

「はぁっ!? ちょっと歌唄、アンタ新曲のプロモ撮るから準備忙しいんじゃなかったのかなっ!!」

「しょうがないじゃない。アイツ何してるのかなーと思ってなんとなしにGPSで位置探ったら、なんでかここに居るんだもの」

【それもイースターの遊園地で、調べたら開業してない上にこの時間だったのです。
なので歌唄ちゃんもエル達もピーンと来て、ゆかりさんに許可をもらって駆けつけてきたのですよ】





全員揃って、当然の事のように言い切る歌唄に言葉を無くしてしまった。・・・・・・そうだった。

歌唄の携帯、シャーリーさんに改造されてるせいで恭文をストーカー出来るんだったっ!!

てーかGPSでなんとなしに彼氏の位置探って気になったから来るっておかしくないっ!? ガチストーカーじゃんっ!!



ねぇ恭文、絶対コレ止めた方がいいと思うんだっ! あたしも手伝うから絶対事後にこの子の事なんとかしようよっ!!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・で、歌唄ちゃんに押し切られる形でここに来ちゃったと」

「もうそうなのよー。準備で忙しいのにあの子『行く』って言って聞かないし」





あ、事情説明必要? うん、必要だよね。ここはドリームエッグランドの正門。そして僕は二階堂。

一般人な僕はおとなしくここで待ってたら、少し前にゆかりが凄い勢いで車を飛ばしてやってきたんだよ。

それに嫌な予感がしつつも警戒していると、歌唄ちゃんがその車の中から出てきたからさぁ大変。



とりあえずゆかりから『どうしてこうなった』というのをお互い話し合って・・・・・・一つ結論が出た。





「蒼凪君、多分訴えたら勝てると思うんだよね」

「だと思うわ。でもきっと訴えないのよね。だっておチビちゃんだし」

「というかさ、恋愛観の前に歌唄ちゃんにストーカーの定義について教えた方がいいと思うな」

「それはもう知ってるわよ。てゆうか、アンタもご存知のチャリティー・コンサートで一度実物に襲われてるし」



そこまで言って僕達は顔を見合わせて笑う。そして・・・・・・大きくため息を吐いた。



「で、マネージャー的にはいいわけ? 今回の事、今までみたいに甘くない感じだけど」

「あー、下手したら怪我だけじゃ済まないってやつ」

「そうそうそれ」

「・・・・・・まぁしょうがないわよ。話通りなら多分ちゃんと関わった方が良いだろうし」

「それはね。出来れば明日に差し支えないように、手早く終わってくれると助かるんだけどねぇ。
僕も一応生徒引率している身だし、何かあっても困っちゃうんだよ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「歌唄さま、ストーカーという人種をご存知でしょうか」

「もちろん知ってるわよ? 恭文と初めて会った時に襲われたから。ホント嫌な人種よね」

≪あなた、自覚ないんですね≫

「じいちゃん・・・・・・あぁ、そっか。だからなんだ。確かにこれは逃げられねぇわ。
てーかGPSで行動全部掴まれてるって・・・・・・ヤバい、マジで泣ける」



・・・・・・恭太郎、涙目やめようか。あのね、すごく分かる。アンタの立場知ってるからすごくよく分かる。でもやめよう。

それで歌唄は楽し気に笑いながら、ややの方に翼を羽ばたかせながら降りていく。



「確かやや・・・・・・だったわよね」

「あ、うんうん」

「アンタ、中々やるじゃない。さっきのかなり良かったわよ?
末っ子だって色々あるのよね。ちょっと分かるわ。私も妹系だから」

『・・・・・・妹系?』



いや、確かに歌唄は妹キャラだけど・・・・・・あたしの知ってる妹と違うような。

てゆうかこれ妹系キャラじゃない。みんなも同じくなのか首を傾げている。



「今時の末っ子キャラは強くなきゃね。・・・・・・何ぼーっとしてるのよ。さっさと行きなさい」



歌唄はそう言って、アヒルちゃん達に囲まれてる狼達を見る。その間に海里と咲耶もあたし達の方に来る。



「唯世、アンタは男の子なんだからあむの事をしっかり守りなさい。それであむ・・・・・・頼んだわよ」



歌唄がいつもより優しい声でそう言った。あたしはそれでその、胸が痛くなったり嬉しくなったりでちょっと複雑。



「アンタの事、ちょっとだけは信じてあげてるんだから」



ただそれでもあたしは、そう言って続いた歌唄の言葉に頷いた。

それで唯世くんとザフィーラさん達の方も見る。みんなも問題ないらしくてすぐに頷いた。



「分かった。歌唄、海里もややも・・・・・・ありがと。恭太郎、後任せたから」

「あぁ。しっかりやって来い。俺達もすぐに追いつく」





みんなに強く背中を押されたあたしは、そのまま勢いを借りて走り出す。

ザフィーラさんとディードさんに唯世くんも同じく動き出して、あたし達は上を目指す。

・・・・・・信じてくれてる。こんなあたしの事を信じてくれてる。だから応えたい。



そんなみんなの気持ちに応えたい。そのために何か諦めたり我慢したりするのは違うだろうけど、応えたい。



信じられたあたしであり続けて、あたしもみんなの事を信じて・・・・・・イクト、待ってて。もう少しだから。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「恭さま、それでは」

「あぁっ! リース、お前も来いっ!!」

「分かりましたっ!!」



つーわけで、ややのバリケードが持っている間にこっちはこっちで準備だ。・・・・・・せーの。



「「変身っ!!」」

≪Rising Form≫





隣の咲耶が金色の光になって俺の中に吸い込まれる。それと同時に俺の身体も同じような光に包まれた。

そんな中俺は両手のビルトを頭上に放り投げる。回転しながら空中を跳ぶビルトは一瞬で待機状態に戻る。

その間に咲耶と一体化した俺の姿はどんどん変わっていく。でも変化しているのは俺だけじゃなくビルトも同じ。



リースがこちらに駈け出しながら、真剣な表情で大きく声をあげる。





「ビルトビルガー! コード・ドライブッ!!」

≪Cyclone Blade≫

「エンチャント・ユニゾン、セットアップッ!!」





リースは紫色の光となり、そのまま猛スピードで待機状態に戻ったビルトに吸い込まれる。

その瞬間、俺の頭上で紫色の風が吹き荒れる。その直後にビルトは再セットアップ。

紫色の刀身を携えた二振りの刃となってまた回転しながら落ちていく。その間に俺と咲耶の準備も完了。



金色の光が弾けて、その中から髪と瞳の色を変えて金色のコートを羽織って俺が出てくる。

落ちてくるビルトに向かって両手を伸ばすと、蒼と金のビルトはそのまま俺の手の中に収まった。

俺は不敵に笑いながらそのまま腕を下げつつ腰を落として、突撃体勢を整える。



咲耶とのユニゾンにリースとビルトのエンチャントユニゾン・・・・・・一度これやりたかったんだよなぁ。





「やや、こっちはいつでもいいぜっ!!」

「俺もだっ!!」

「俺も同じくです。エース」



それから歌唄が翼を広げてその場でうたい始める。これは・・・・・・ヴォカリーズだな。



【ハウリングはこれで解除なのですっ! みんなー、思いっきりやるですよー!!】

≪気が利きますね。助かります≫



さて、歌唄がうたい始めた途端にアヒル達が震え出した。さすがにもう限界らしい。だからややが右手を上げる。



「よーし、それじゃあアヒルちゃんスクラム解除っ!!」



そしてアヒル達が大きく散開して獣達から逃げる。それからすぐにややは上げた右手を前にかざす。



「ゴーゴー!!」



その言葉と共に、俺達は全員揃って獣達に向かって飛び込んだ。



「ノロウサアルトちゃんっ!!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ややの前にアルトちゃんが出て、飛びかかってきたワンちゃん一匹にまず右フック。

ワンちゃんは左側に吹き飛ばされて床を転がる。ちょっと痛そうだけど、そこは心の中で謝った。

次に飛び込んで来た子は左でアッパーを腹に打ち込んで、大きく上に跳ね飛ばしちゃう。



次はあのおっきなゴリラ。アルトちゃんは踏み込みながら両手を伸ばす。



そのままゴリラと両手を組んで、一気に押し合う。でも・・・・・・アルトちゃんが押し込まれる。





『ウ、ウサァ』



アルトちゃんは両足を踏ん張るけど、向こうの方が力が強いらしくてズルズルと足が滑る。

そこから煙が出て、床もちょっとヒビみたいなのが入って・・・・・・ややは咄嗟に右に動いた。



「アルトちゃん、巴投げっ!!」

『・・・・・・ウサっ!!』





アルトちゃんはそこから一気に体勢を後ろに崩す。そのまま背中から床に倒れつつ右足でゴリラの腹を蹴った。

そのままゴリラをそれまでややの居た場所に放り投げた。ゴリラは背中から床に叩きつけられて転がる。

アルトちゃんはすぐに起き上がって、ゴリラの方を見てから視線を素早く右に移した。そこにはさっき最初に飛び込んできたワンちゃん。



ワンちゃんはまたアルトちゃんに襲いかかろうとしていて、口を大きく開ける。

アルトちゃんは咄嗟に左腕を盾にしてその牙を受け止めた。

ワンちゃんの牙がアルトちゃんの腕に食い込んで、アルトちゃんの表情が少しだけ苦しそうなものに変わる。





「アルトちゃんっ!!」

【ややちゃん、後ろからも来てるでちっ!!】



ぺぺちゃんの言うとおり後ろから三匹・・・・・・うぅ、やっぱり数が多いー!!



「アルトちゃん、振り払ってっ!!」

『ウサっ!!』





アルトちゃんはその場で素早く反時計回りに回転して、噛みついているワンちゃんごと腕を振り回す。

それで飛び込んできていたワンちゃん三匹にそのワンちゃんをぶつけるようにして振り払った。

その時、勢いに負けたのか噛みついていたワンちゃんもアルトちゃんの手から離れて吹き飛ばされた。



五匹のワンちゃんは床を転がる。それからすぐにやや達はアルトちゃんの後ろに視線を向ける。

今アルトちゃんが背中を向けているのは、ゴリラが投げ飛ばされた方向。それでそれで、ゴリラはもう起き上がってた。

アルトちゃんはそのまま回転を止めないで、右拳をギュって可愛らしく握る。



ゴリラも同じように拳を握っていて、アルトちゃんに叩きつけようとしていた。



そして次の瞬間、アルトちゃんの拳とゴリラの拳が激突。一気に衝撃がややと歌唄ちゃんの居る方にまで襲ってきた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「リース、一気に決めるぞっ!!」

【はいっ! 浄化は任せてくださいっ!!】





そう言いながらも俺は走って、まず最初に飛び込んで来たワン公に蒼ビルトを逆手に持って左薙に斬り抜け。

次は金ビルトで右薙、その次は・・・・・・俺の上から襲ってくる形だったので、蒼ビルトの刃を立てる。

それで相手の爪での引っかきを身を伏せつつ避けて、紫色の刃でワン公の腹を薙ぐ。もち非殺傷設定の魔法使用の上でだ。



実際に身体が斬れないようにもしているからここは安心。ワン公は跳躍の勢いを殺せずにそのまま自分から斬られていった。

一瞬の交差の後横目で後ろを見ると・・・・・・全員倒れてはいたが、姿が元に戻らねぇ。てーか起き上がった。

舌打ちしつつも意識を前に戻す。すると俺の目の前でゴリラが右拳を振り上げてた。俺は大きく左に跳ぶ。



次の瞬間、拳で打ち下ろしが襲って来てそれまで俺が居た場所が派手に砕ける。

そして復活したワン公が俺の周囲に回り込んでまた跳びかかってくる。まずは背後に回った一匹。

身体を時計回りに回転させつつ身を捻りその突撃を回避。次は正面から一匹。



足を止めて右足で思いっきり腹を狙って蹴り飛ばす。続けて横から来たのは下がって避けた。

そして次は三匹同時に口を開けて・・・・・・感じた予感に従って右に走る。次の瞬間、俺がそれまで居た場所を何かが通り過ぎる。

・・・・・・歌唄の歌、完全にハウリングを無効化出来るわけじゃないらしいな。ただ動けなくなるほどじゃないか。



それでそんな俺の前から大きな手が迫ってくる。・・・・・・ゴリラの左手か。地面すれすれの薙ぎ払いってとこだ。



俺はすぐに飛び上がりその薙ぎ払いを避けつつ床に着地。またこっちに踏み込もうとしてるワン公達を見つつ魔法発動。





≪Sonic Move≫



金色の光に包まれた俺は瞬間的に金色の光に包まれ、地面を滑りながらワン公の背後に回り込む。

ワン公達が驚いたように目を見開きながらこちらに振り向くが、遅い。俺は両ビルトをゆっくりと振り上げている。



【「はぁっ!!」】





俺が振るう紫色の鋭い風の刃が、瞬間的に空間をワン公ごと幾度も斬り裂く。



ワン公は甲高い悲鳴を上げながら斬撃の勢いに圧され吹き飛んだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「行くぞ、ムサシ」

【あぁ】



襲い来る犬達を二刀を交互に打ち込み払い、俺はゴリラへと足を。



「おい三条っ! なんか武器くれ武器っ!!」



進めようとしたら、相馬先輩がなにやら焦ったように叫んでいた。なので先輩が居る右側を見ると、先輩は俺が払った犬に囲まれていた。

・・・・・・確か相馬先輩のスカイジャックは直接戦闘力が低かったはず。俺はそこを考慮してなかった事を反省しつつ。



「コレをっ!!」





右の刀を相馬先輩に向かって素早く放り投げた。相馬先輩は軽く跳躍してそれをキャッチ。



そしてそんな相馬先輩に三匹の犬達が同時に襲いかかってきた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



三条から刀を受け取った俺は両手でそれをしっかり持って刃を返し、踏み込みつつ右に振るった。



峰で叩き伏せるように犬達を払って、右に振り向きつつ刀を構える。





【おい空海、お前刀なんて使った事あったか?】

「ねぇよっ! 電王に変身して銃撃った事はあるけどなっ!!」





もしくは恭文にアルトアイゼン持たせてもらった時か? アレも何気に重くて大変だったさ。

・・・・・・立ち上がって襲って来た犬達を、とにかく刀を打ち込んで払っていく。

ちくしょお、やっぱ武器あるだけじゃどうにもならねぇよな。そもそも俺使い方分からねぇし。



なので俺はまた背後に回った犬達の方に振り向きつつ、足元にエネルギー状のボールを生成する。





「ゴールデン」



そのボールを犬達がまたこちらに飛び込む前に、右足で蹴り出す。



「ヴィクトリーシュートッ!!」





そのボールはちょうど真ん中に居た犬の顔面に当たってソイツを吹き飛ばす。

俺のところに跳ね上がって戻ってきたボールを、今度は左足で回し蹴りの要領でシュート。

右側に居た奴の顔に当たって、甲高い鳴き声を上げながらソイツも倒れる。



それで一番左側に居る奴がその隙に飛び込んで来た。俺は・・・・・・咄嗟に後ろ向きに倒れる。

犬は俺の真上を通ろうとするので、そこを狙って右足を振るって犬を後ろに蹴飛ばす。

甲高い鳴き声がまた響く中床に倒れるが、すぐに起き上がってまた刀を構える。・・・・・・やっぱこっちの方が好みか?





「なぁダイチ」

【なんだ?】

「さすがにやり過ぎるとマズいよな。動物虐待になるしよ」

【あー、そりゃ言えてるわ】





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



アルトちゃんとゴリラが拳をぶつけて、互いに押し込む。でもでも、やっぱりゴリラの方が力が強くてアルトちゃんが力負けしてる。



どうしよ。みんな手が空いてないみたいだし・・・・・・よし、こうなったら。





「アヒルちゃんっ!!」





声をかけると、20匹近くのアヒルちゃん達がややの周囲に出てきた。



・・・・・・よし、前に試した通りアルトちゃんを呼び出しててもアヒルちゃんは出せる。



ややは左手でゴリラを指差して、アヒルちゃん達にお願い開始。





「アルトちゃんを手伝ってっ! とにかくとにかく・・・・・・あのゴリラの邪魔をしてっ!!」





アヒルちゃん達は右の翼で敬礼すると、そのままゴリラに向かって突撃。それでゴリラに体当たりしてく。

でもそこを気にする前にややは・・・・・・アルトちゃんの背後から飛びかかろうとしてるワンちゃん達だよ。

歌唄ちゃんはうたってあのうるさい叫び声を止めなきゃいけないからアテに出来ない。だからここはややが頑張る。



ややは両手を合わせて、それを左に振りかぶる。



恭文からは使うなって言われてたけど・・・・・・もうこれしかない。だからややは両手を突き出した。





「メリーメリー!!」



結構久々ながらがら攻撃。でもでも、今回は・・・・・・二つっ!!



【「Wブロックッ!!」】




ややの両手の中から飛び出した二つのメリーメリーがアルトちゃんを飛び越えてワンちゃん達の方に向かう。

それでワンちゃん達の上でガラガラガラガラ音を鳴らして・・・・・・ワンちゃん達は寝ないでメリーメリーにかじりついた。



「あうぅ、また失敗ー!?」

【・・・・・・いや、ややちゃん。アレを見るでち】





失敗かなとも思ったけど、ぺぺちゃんの言葉で改めてワンちゃん達の方を見る。

そうしたらワンちゃん達はやっぱりメリーメリーをかじっていた。ただし・・・・・・すっごく夢中で。

あのね、骨をあげた時みたいに喜びながらメリーメリーをかじかじしてるの。



それで動きが完全に止まった。ややは内心ガッツポーズしながらアルトちゃんの方を見る。

そうしたらアルトちゃんはアヒルちゃん達の体当たりで気が散ったらしいゴリラの拳を弾き返してた。

拳を振り抜いて、ゴリラにたたらを踏ませてたの。そのままアルトちゃんが飛び込む。



でもゴリラは天井高くまで跳躍して、アルトちゃんの飛び蹴りを避けちゃった。



それでやや達がゴリラを視線で追いかけると、上の柱に右手だけで掴まってぶらぶらしてた。





【・・・・・・ほとんどキングコングでちね】

「そ、そうだね。でもでも、アヒルちゃん達とアルトちゃんのチームならいけるっ! アルトちゃん、そのまま」





そのまま追いかけてと言おうとした。でもその前にゴリラの身体がぶらんぶらん揺れる。

まるで振り子か何かみたいに身体が揺れて・・・・・・それを見てなんだか怖くなった。

その怖さがなにか分からなくて考えている間に、ゴリラが柱から右手を離した。そのままやや達を飛び越える。



・・・・・・そっか。あれ勢いをつけて高く飛んだんだ。ややも小さい頃ブランコとかで同じ事したもん。

それでもゴリラの動きを視線で追いかけて、ややはまた寒気が強くなった。

だってあのままだとゴリラの着地点は、歌唄ちゃんが今居る場所になっちゃうもの。



ううん、そうするように飛んだんだ。つまりつまり、歌唄ちゃん・・・・・・ややは歌唄ちゃんの方を見ながら声をあげた。





「歌唄ちゃんっ!!」

【逃げるでちっ!!】





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




相馬先輩に刀を貸しつつも前進し、ゴリラの前に来る。ゴリラはそのまま俺を押し潰すかのように右手を唐竹に振るう。

それを右に跳んで避けると、その平手は床に大きな穴を開けた。それを見つつも着地してすぐに反転。

その手の甲に乗って、腕伝いに走る。そして刃に緑色の雷撃を宿らせつつ腕に突き刺す。ゴリラが叫ぶのも構わずに加速。



すると刃は俺が走る速度に合わせて腕に緑色の閃光を残す。同時に雷撃がそこを始点に暗い広場を照らすように生まれ輝く。

俺は肩まで一気に上り詰めそこから飛び上がる。飛び上がると同時に刃を逆風に振るってダメ押しで肩を斬り裂く。

一応峰打ちだ。本体にダメージはない。空中で身を捻りながらもゴリラの方に視線を向けて着地すると、ゴリラがもう動いていた。



ゴリラは怒りと痛み混じりの叫び声をあげながら身体を回転させつつ左手を振るう。

その手は振り抜かれる途中で拳に変わるが、今度は避けずに踏み込み・・・・・・光に包まれたままの刃を右薙に一閃。

それと同時に腕も振り抜かれ俺の頭上すれすれを通り過ぎた。数瞬の硬直の後、ゴリラが崩れ落ちる。



その両足には緑色の閃光が刻まれて、そこから雷撃が迸っていた。。そのためにゴリラは立つ力を無くし崩れ落ちる。





「・・・・・・雷輝」



そのゴリラを見上げながらも刃を振り上げ、力を更に込める。雷撃は薄く研ぎ澄まされ全てを斬り裂く鋭い刃となった。



「一閃っ!!」





その瞬間、空間そのものを鋭く斬り裂くかのような雷撃の閃光がゴリラに叩き込まれる。



そしてゴリラは苦しげな呻き声をあげながら、その体色を淡いクリーム色に戻しつつ仰向けに倒れた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ワン公を斬り裂くと、断末魔をあげながらもその場で崩れ落ちて白い体毛の大型犬に変わる。

大きさは二回りくらい小さくなり、その身体から一人頭10数個の×たまが出てきて次々と白色の元のたまごに戻る。

どうやらマジで浄化出来るらしいので安心しつつ俺は右に視線を向ける。・・・・・・あのゴリラがこちらに向かって飛び込んでいた。



それももうとっくに砕けてるステンドグラスの天井近くだ。てーか今逃げたら多分このワン公達も・・・・・・俺は覚悟を決めた。





「咲耶、ちっと疲れさせるぞ」

【大丈夫です】



俺とじいちゃんがやるアレは別種だから、俺が使っても咲耶とじいちゃんが使えなくなる心配はない。

ただ負担が・・・・・・まぁリースに回復してもらうとするか。んじゃ、フルスペックいくか。



「フルドライブ」

≪Axel Form≫





ゆったり目だったズボンが足の形をそのまま出すようなキツ目のスラックスに変わる。

あとは羽織っていたコートもだ。丈というか形状そのものが変わって、ノースリーブのベストに変わる。

これはじいちゃんも咲耶と変身して使えるアクセルフォーム。俺と咲耶とビルトの最強の切り札。



俺が蒼ビルトを持ちながら軽く右手を振ると、それに呼応したかのように刃から紫色の風が吹き荒れる。



ゴリラが落下する中、俺は素早く両手のビルトを肩まで上げた。





「・・・・・・ぶっちぎるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

≪Axel Move≫

【10】



瞬間、俺の周囲の景色がゆっくりになった。今にも落ちてきそうだったゴリラの落下速度も低下。

そのまま俺は一気に飛び上がってゴリラの前に来る。そこからまずは両のビルトで乱撃。



【9・・・・・・8・・・・・・7】



20から30の風を纏った刃の打ち込みによってゴリラの胴体周辺に紫色の風が吹き荒れる。

それと同時に身体に同じ色の斬撃の後も刻み込まれる。だがその間にもゴリラは落下していく。



【6・・・・・・5・・・・・・4】



だから俺は身体をその場で前転つつ飛び込む。俺の両足にはリースの風の魔力がしっかり付与されていた。



【2】

「風迅疾蹴」



そのまま両足をゴリラの胴体に向かって叩きつける。



【1】

「サイクロンスラップッ!!」



俺の蹴りが叩き込まれた瞬間、両足と胴体を始点に紫色の風が爆発したかのように吹き荒れる。

その勢いも加味されてようやくゴリラの重い体が後ろに吹き飛んだ。



【0】





ゴリラは呻き声をあげながらも地面に派手な音を立て落下。俺はそのまま地面に降り立つ。

その瞬間に元のジャケット姿に戻った。てーかアクセルフォーム使用のためにユニゾンは強制解除。

咲耶がポンと音でもしそうな勢いで隣に出てきた。ちょっと疲れた感じなのは・・・・・・悪い。



それでゴリラは・・・・・・あ、さっきのワン公達みたいに体色が白っぽくなってく。

てーか身体からどんどんたまごが出てきて、その勢いに比例するかのようにゴリラの身体も小さくなる。

それであの、おかしいんだよ。なんか最終的に手のりサイズの小さいサルになった。・・・・・・なんで?





【元は随分可愛らしいんですね】

「×たまの影響ですわね。しかしイースター、なんと卑劣な」

「マジやり方えぐいしな。でもまぁ」



俺はそう言いつつ後ろを見る。そこには目を覚ましたのか、瞳をキラキラさせてハァハァ言いながら俺を見上げるワン公達が居た。



「なんとか助けられたから問題はないか」

「ですわね」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ややが叫んだのも無理はない。私の事押し潰そうとゴリラが襲ってきてるもの。

それで両手を開いて、その指で私の身体を貫いて潰そうともしている。でも私は逃げない。

私はここにうたうために来た。イクトを助けたくて・・・・・・今の私の歌を届けるために来た。



なにより逃げる必要がない。私は、あむはちょっとだけしか信じてないけどアイツの事は信じてる。



ううん、信じているというよりは確信かしら。アイツは、必ず来る。





「・・・・・・秘技」



そう言いながら空色の髪をしたアイツ・・・・・・恭文は右側からゴリラの方に飛び込んでいた。

そして左手で作っていた蒼い球体を、私を見過ぎていて脇が隙だらけなゴリラに叩きつける。



「螺旋丸もどきっ!!」



その瞬間、球体から乱れた風が吹き荒れる。そしてゴリラは身体をバナナのように折りながら、縦に回転して横に吹き飛ぶ。

それでゴリラは轟音を立てながら床に落ちた。恭文は私の目の前に素早く着地。左手を軽くスナップさせる。



「・・・・・・で、なんで居るのっ!? てーか攻撃来てんだからちょっとは避けろボケがっ!!」



それで私の方を振り向いてビシっと指差すわけよ。だから不敵に笑ってやる。



「問題ないわよ。来るって分かってたし」

「なんでっ!? ・・・・・・あ、まさかGPS」

「違うわ、女の勘よ」

「その最強チートカード持ち出すのやめてー!!」

「問題ないわよ。てゆうか、もうちょっとしっかりして欲しいのに。私がこんなとこで死ぬわけないじゃない」



少しそれが悲しくて、私は膨れながら甘い声を出して笑う。



「私はアンタ後悔させるためにここに来たんじゃない。私の歌を、アンタに届けるために来たんだから」

「・・・・・・そ、そうですか。でもね、そういう問題じゃないのよ? てーかマジでここに居るのワケ分からないし」

「ほんとよほんとっ!!」



あ、なんか余計なのがもう一人・・・・・・確かシルビィさんだったっけ。アイツの仲間の一人。



「歌唄ちゃん、本当にどうしたのっ!? ほら、PV撮影とかどうしたのかしらっ!!」

「当然明日出発よ。・・・・・・さて、役者が揃ったところで」



私は右のテールを右手で軽くかき上げながら、赤ちゃんあやすアレにカジカジしてたり空海に迫ってる犬達に視線を向ける。

それだけで犬達は身体を震わせて私の方を振り向いた。だから自然と笑みを深くしてしまう。



そろそろ悪い子には、お仕置きといきましょうか

「「だから殺し屋の目はやめてー!!」」

【恭文さん、シルビィさんももう無駄なのですよ】

≪なのなの≫



あきらめモードなリインやジガンの声は無視して、私は両手を胸元に添える。

それで改めて意識を集中して、背中の翼を大きく開いた。



【歌唄ちゃん、思いっきりやっちゃうのですっ!!】

・・・・・・エンジェル、クレイドル





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



追いついてきたらしい恭文がぶっ飛ばしたゴリラが起き上がるが、動きを止めた。

それだけじゃなくややの出したメリーメリーに夢中だった犬達もそうだし、俺の前で唸ってた奴らもそうだ。

全員がどこか表情を穏やかにしながら、暗い広場の中で流れる歌に耳を傾けあのアイドルを見る。



白い羽を優しく広げ、まるであそこだけスポットライトが当たっているかのように輝いている。

てーか聴いてるだけで俺もなんかすげー安心して、気持ちがポカポカしてくる。まじアイツの歌スゲーと思う。

それに見惚れてた俺の目の前の犬達が、大きくあくびをする。それにガジガジ組やゴリラも続く。



それから連中はその場で蹲り瞳を閉じた。するとその身体が白く光り輝く。

白い光の粒子が身体から立ち昇るように空へ飛んでいって消えていく。でも出てくるのはそれだけじゃない。

ゆっくりと猛獣達の身体からたまごが出てきた。それもいくつも・・・・・・いくつもだ。



そして光の中で幸せそうに眠っていた動物達は身体が縮んで、元の姿らしい形に戻っていく。

犬は毛並みの長い大型犬で、ゴリラの方は手のりサイズの小さな猿だ。それで・・・・・・あぁそうだよ。

さっきまで殺し合いレベルで殺気出しまくってたのに、今はもう落ち着いた表情で寝てる。



・・・・・・やっぱりスゲーと思いながら、そこに形としてない光の中でうたっていた歌唄を改めて見た。





【・・・・・・空海、やっぱ俺達まだまだかも知れないな】

「だな。戦うのもだめでこういう方向もだめじゃ、マジでさっぱりだ」



実際三条から刀は借りたが、追い払うので精一杯だったしな。こりゃマジで反省だ。



「うし、俺もっと強くなるわ。なんか・・・・・・すげーそれがやりたくなってきた」

【おう、頑張ろうぜ】





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・申し訳ありません、リンディ提督。フェイト執務官達の行方は掴めません。自宅の方には居ないようです』

「そう。悪いんだけど引き続き捜索をお願い出来るかしら。
ただしフェイト執務官には乱暴しないように。大事な身体なんですから」

『了解しております』

「というより、ごめんなさいね。いきなり面倒な事を頼んでしまって。
それにあの子達がバカなために、あなたの部下にまで怪我をさせてしまって」

『いえ。提督には入局当時からお世話になっておりますし、これくらいは問題ありません』



・・・・・・そうよ、これが普通なのよ。なのにあの子達は・・・・・・思い出すと悲しさの余り表情が険しくなる。



『ところでフェイト執務官の夫であるあの』

「夫じゃありません。だってあの二人はもうすぐ離婚するんですから」





二人が側に居られる環境をずっと放置していたのが間違いだった。引き離して離婚させないと。

子どもは・・・・・・しょうがないわね。中絶して子どもが産めなくなってしまっても困るわ。

フェイトは特殊な生まれだし気をつけないと。子どもは私とエイミィで協力して育てていけばいいわね。



それで今度は失敗しないようにしないと。今度はちゃんとした大人に育てるの。

あの子みたいな不出来な大人になれない異常な欠陥品とは違う・・・・・・ちゃんとした大人にする。

あの二人の子どもなら、きっと魔力資質は高いわよね。それで将来は局員にしましょう。



これでクライドもきっと喜んでくれるわ。ここ数年はお墓参りに行っても、ずっと悪い報告しか出来なかったから。

でもようやく良い報告が出来る。私達が守ってきた世界を預けられる後継者が生まれるんだって言える。

それが嬉しくて笑ってしまう。きっとあの人も、もう既にここには居ない仲間達も喜んでくれるはずだわ。そうならない理由がない。



今フェイトのお腹に居る子達が、未来の局を守ってくれる。私達が守ってきた組織を・・・・・・守ってくれるんだから。

でもその前に、自分達の父親が異常になってしまって戻れなくなったと印象づけないといけない。

そしてフェイトにもそれが本当の形だったと教えなくちゃいけない。だからあの子には、私達の目の前から消えてもらわないと。





「とにかく彼に関しては・・・・・・そうね、逮捕してちょうだい」

『・・・・・・はい? あの、ちょっと待ってください提督。逮捕というと罪状は』

「なんでもいいわ。背任行為でも命令違反でも違法研究でもなんでもいい。
現に局に黙ってデバイスを開発していたのがそれじゃないの。それだけで逮捕出来るわ」

『あの、待ってください提督。一つ確認させていただきたいのですが、そもそも彼らは何をしたのですか』



なぜこの子は私を見て怪訝そうな顔をするのだろう。

それを見て、あの子や今の狂ったフェイトの顔が浮かんで非常に腹が立つ。



『私は最初提督に『早急に』と頼まれましたし、お世話になっているわけですから話を引き受けました。
ですが逮捕は・・・・・・それなりにちゃんとした証拠がないと。現時点で違法寸前ですし』

「装備を回収に向かったスタッフに暴行を加えたわよね。だから逮捕するの」

『えぇ。ですがそれは蒼凪恭文ではありません。暴行犯を逮捕する事そのものは問題ありません。
重要なのは、なぜそこで蒼凪恭文にまで手を伸ばす必要があるかという事なんです』



怒りが更に募るのは、この子の中にあの子達の影が見えるから。だから私は軽く右の親指の爪を噛む。



『なにより違法研究とまではいかないでしょう。デバイスの個人開発なわけですし。
まぁ第5世代デバイスを局に黙って作っていたというのは、少々感心しませんが』

「だからそれが違法研究よ。それがあれば局の改革は飛躍的に進むはずだったのに。
それは個人レベルを超えてしまっているから違法研究になるの。分かったわね?」

『ですからそれは無理だと仰っているではありませんか。逮捕状を出すならちゃんとした証拠を出してください』



・・・・・・イライラが、悲しさが募る。なぜ私の言う事を信じられないのかが理解出来ない。

だけど私は大人だから、そんな感情を顔に出さずに優しく笑いかける。



「そんな事も分からないの? あの子は犯罪者よ。私や組織、世界が認められないの。あの子は子どもな異常者。
だから逮捕して更生しなくちゃいけないわ。あなたはただ私を信じて、言う通りに動いてくれるだけでいい。そう教えたでしょ?」

『いえ、ですからそれが出来る証拠があるのかどうかという話をしているのであって』

「あなた、私の話を聞いていなかったのっ!? あの子は疑いようのない犯罪者なのよっ!!
フェイトやみんなの未来を奪う異常者っ! だからこそその罪を償わせるべきなのっ!!」



息を荒く吐きながらそう言い切って、私はハッとして表情を整えて笑顔をあの子に向ける。



「分かったわね? あの子は・・・・・・決して許されてはいけない罪人なの。だからこそ裁きを下す。
あなたはただ、私の言う事を信じて動いてくれるだけでいい。私を、組織を信じなさい。いいわね?」

『・・・・・・提督、変わられましたね』

「え?」

『私は正直、最初から無茶な頼みだと思っていました。というより、理不尽過ぎる。理由は先ほど述べた通りです。
もし違法技術が使われているのならばと、一応は納得しました。ですが確固たる証拠があるわけではないらしい』



なぜ目の前の子が悲しそうな顔をするのかが分からない。分からないから私は、首を傾げる。



『それでも提督には何かお考えがあるのだろうと思って、私はこの頼みを引き受けたんです。ですが、それはミスだった。
引き受けるべきではなかった。あなたの妄想のために部下に怪我をさせてしまった。フェイト執務官達に迷惑をかけてしまった』

「妄想・・・・・・!? 口を慎みなさいっ! あなた、一体誰に対してそんな事を言っているのっ!!」

『もちろんあなたですよ。以前のあなたは、とても素敵だった。今だから言えますが、恋をしていました。
美しく、凛々しく、それで居ながら理想に燃えて職務に当たるあなたに惹かれ、憧れていました。ですが』



その子は悲しそうな顔のまま大きく息を吐いて・・・・・・辛そうに私を見た。



『今は醜く歪んで、見る影もない。それが悲しい。こんな事を言わなくてはいけない事も悲しい。
リンディ提督、もう私はこれ以上協力は出来ません。フェイト執務官達を捜索したいならご自分だけでどうぞ』

「待ちなさいっ! あなた・・・・・・裏切るというのっ!? 私はあなたを信じたのに、裏切るというのっ!!
恥を知りなさいっ! なぜあなたは私を、仲間を・・・・・・社会や組織を信じられないのっ!! それは異常なのよっ!!」



私は必死に声を荒げる。目の前の子があの子と同じ異常者になってしまう。

私の言う事を否定しているのが全ての証拠。でもあの子は冷たい視線を私に送る。



「なぜ、なぜそんな顔をするのっ! あの子や外で私達を悪く言う異常者達と同じ顔をするのっ!!
それはありえないわっ! 管理局を、私達の居場所をどうして信じられないのっ!!」

『それはあなたが信じるに値しない人間だからですよ、提督。
いえ、それはあなただけじゃない。この組織全体に言える事でしょう』



とんでもない事を言い出して寒気がしてくる。いいえ、これは吐き気。気持ち悪くて今にも吐きそう。



『ここ2〜3年の間に、確かに我々は以前のように市民の理解を得られなくなりました。
それが辛くないと言えば嘘になる。ですがそれはしょうがない事だと思っています』

「しょうがなくないわっ! 例えどんな事があってもこの組織が今の世界を守っているのっ!!
社会を、そこに居る人達を信じられない事は不幸であり悲しいのよっ!!」

『それは違うでしょう。リンディ提督、提督の組織愛は本当に素晴らしいと思います。
ですがそれでは最高評議会のような存在と同じです。我々はそれを間違いとしたではありませんか』



違うと言いたくて、首を横に振る。それで吐き気が強くなるけどそれでも首を横に振る。だけどあの子は・・・・・・変わらない。



『本当に、本当にこんな言葉しか言えないのが残念です。・・・・・・失礼しました』



そのまま通信が切れた。私はそれが信じられなくて、しばらく固まっていた。

少しして、震える拳を握り締めていく。手が痛くなる程に力を強めたそれを思いっきり机に叩きつけた。



「また、裏切られた」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



みんなに背中を押されて、みんなに色んなものを託されて・・・・・・あたし達はついに最上階に到着した。

見えたのは長かった階段の終わりとあの展望台っぽいところに続いていると思われる扉。

ディードさんが先行して、ツインブレイズを一瞬で数度振ってあたし達のその扉をいくつものパーツに斬り裂く。



その音が響く中ディードさんが一番乗り。次に唯世くんとあたしとザフィーラさんと次々と展望台に乗り出す。



展望台の周囲にはまるで檻か何かのリングのように×たまがひしめいてた。それも・・・・・・マジで1000単位に見える。





「・・・・・・あなたが星名専務ですか。早速ですが」



いの一番に飛び込んだディードさんは展望台の床を左に滑りつつ、右のツインブレイズを逆風に振るう。



「地獄へ落ちなさい」





きゃー! なんか早速キレてるー!! てゆうか恭文と同じく攻撃的なんだっ!!

・・・・・・とにかく逆風に振るわれたツインブレイズが蒼と朱の二色の蛇腹剣に変わる。

そのまま地面を軽く斬り裂きながらも星名専務の方に進む。でも、星名専務は笑った。



あれはおかしいから笑ってる。本当にディードさんの行動がおかしくて・・・・・・怖い笑いを浮かべた。





「ふん」





星名専務が左手をかざすと、その周囲にあるパソコンや倒れてる太った人を包み込むように黒いドーム状のバリアが生まれた。

それと大きく伸びて星名専務に迫っていたツインブレイズの切っ先がぶつかって、火花と衝撃を散らす。

ディードさんはそれを見て舌打ちしつつツインブレイズを引く。ツインブレイズはすぐに元の蒼い片刃の剣に戻っていく。



その間にあたし達はディードさんの側に到着する。





「バリア装置の類まで用意していたのか。ディード」

「ダメです。ハンパな攻撃は通用しません。なにより」



それでそのバリアの前・・・・・・星名専務の前に、一つの影がどこからともなく出てきた。

青白い顔をして銀色の鎌を持つコート姿のイクト・・・・・・デスレーベルだった。



「イクトっ!!」

「イクト、オレにゃっ! あむも唯世達も・・・・・・みんなで助けに来たにゃっ!!」



でもイクトは何も答えない。それで右手で持っていた鎌を両手で持ち、構えながらあたし達に視線を向けた。

それを見て明らかにイクトが昨日とは違うのが分かった。イクト、疲れてる。だって顔色無茶苦茶悪いし目も泳いでる。



「ヨル、あむさんもそのまま呼びかけてください。昨日やったのと同じです。前は私達に任せて」

「わ、分かったにゃっ! というかあの・・・・・・ごめんにゃー!!」

「問題ありません」

「イクト・・・・・・イクトっ! あたし達ここに居るよっ!! ねぇ、お願いだから返事をしてっ!!」

「ふふ、よく来たな罪人共」



その言葉が耳を貫いた。てーかあの、頭の中で何か音がした。



「イースターの、私の、そしてなにより御前の願いを踏みつけてきた愚か共よ。
喜べ、その罪の贖罪を私達が手伝ってやる。さぁ、思う存分イクトと戦え」

「ふざけるなっ! たくさんの人の夢を、願いをこんな事に利用するあなたにそんな事言う権利はないっ!!
なによりその人はどうしたっ! イクト兄さんに・・・・・・イクト兄さんに一体何をさせたっ!!」



唯世くんの言うように、星名専務の後ろで力なく倒れてる人が居る。あの人が多分千々丸さんだ。

それでそれで、服に血が沢山ついてるんだよ。あと、イクトが持っている鎌にも・・・・・・血がある。



「罪の償いだ。このバカのせいで大事な計画が壊れるところだったからな。その分まで働いてもらっている。
安心しろ、お前達も同じ事をするだけでいい。たかだか子どもと正体不明なバカ共がイースターに楯突いた報いを受けろ」

「言いたい事は」

「言いたい事は、それだけ?」



ザフィーラさんの言葉を止めつつ、あたしは俯きつつ足を一歩踏み出す。



「アンタ、やっぱ卑怯な奴だね。ただ人を好きなように動かして自分では何もしてない。手を汚してすらいない。
アンタはきっと知らない。誰かを殴ったり傷つける事の痛みが凄く辛いもんだって・・・・・・きっと知らない」

「ふん、何を言っている。これは当然の権利だ。イースターの力があればこそのな」

「だったら、あたしがアンタにそれを叩き込む。悪いけどあたし、アンタの事はマジ許せそうにないわ」



右手を胸元まで上げて、強く・・・・・・強く握り締める。湧き上がるのは怒り。明治時代の時にも感じた怒りが胸を支配する。

でもあの時と違う事がある。それは・・・・・・これだけじゃダメって事をあたしはもう、知ってる。



「アンタがどんなにかわいそうな奴でも、寂しい奴でも、そんなの関係ない。あたしはアンタの卑怯さが許せない。
だから、拳を握る。このケンカだけはみんなに任せたくない。それでまずここで一度、あたしがけじめをつけさせる」



あたしはアイツの事を思い出して、ちょっと言葉を借りる事にした。あたしはそのまま、右手で星名専務を指差す。

夜の肌寒い風が吹く中であたしは・・・・・・あたし自身の罪と一緒に、ソイツの罪を突きつけた。



「さぁ、お前の罪を・・・・・・数えろっ!!」





それがこの場での戦闘開始のゴングになった。イクトは刃を振りかぶりあたしに突撃してくる。



あたしは両腕を後ろに引いてハートロッドを二本出しつつイクトを迎え撃った。まずは、イクトから止める。





(第121話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、前回同様今回もアニメの第99話『想いは一つ! ガーディアンの戦い!』を元にしているお話、どうだったでしょうか。
みなさん、ティアナルートIFアフターの感想ありがとう。色々試行錯誤した結果が好評で安心してる蒼凪恭文と」

ティアナ「ティアナ・ランスターです。それで今回はマジでややが頑張ってたお話なのよね。というか原作でもアニメでもそう」

恭文「うん。だから原作では『末っ子コンビ』なんて言われてるところだよ。ほら、歌唄もそうだから」

ティアナ「でもあれはその・・・・・・妹キャラじゃないわよね?」



(蒼い古き鉄は何も言わない。というより、言うとバレそうだから嫌なのだろう)



恭文「だから今回のこのシーンで残ったのは全員末っ子なメンバーばかりなのよ。僕とシルビィに咲耶は違うけどね」



・空海=五人兄弟の五男。

・海里=みなさんご存知の通りあの姉が居ます。

・歌唄=一応末っ子。

・やや=長女だけど今のガーディアンではリインと同じく末っ子です。

・恭太郎=末っ子とかそういうレベルじゃない。

・リース=リインの妹です



ティアナ「あぁ、だからあのメンバーなんだ。でも・・・・・・あぁそっか。忘れがちだけどややって長女だったわね」

恭文「うん。ガーディアンでは末っ子だね。原作でもそういう形だったから、ここも則ったのよ。
なお、ディードが残らなかったのは・・・・・・制作上の都合です。てーかあの場で連結刃振り回すのはなかった」

ティアナ「まぁ一応密閉空間で味方も敵も入り乱れてるしね。とにかくこれで用意された障害はクリアと」

恭文「いよいよデスレーベルとの三度目の対決だよ。メンバーは気合い入れたあむと唯世、それにザフィーラさんとディード。
ただこれでも厳しい・・・・・・はずなんだけど、長時間デスレーベルやってたせいで月詠幾斗に弱った描写が見られる」



(ここの辺りは原作・アニメ準拠です。あ、参考映像どうぞ)



ティアナ(鑑賞中)「・・・・・・あ、確かに相当必死に戦ってる感じね。てゆうか力押し?」

恭文「なのでもしかしたらあっさり倒せるかも知れないけど、無理だろうなぁ。
だって作者がインフレ心配するくらい強くしてるキャラでもあるし」



(描写する上で心がけてるラインで言うと、フォン・レイメイやオーギュスト・クロエくらいです。
つまりラスボスレベル。デスレーベルに関しては元々それくらい強くしようとは決めてました)



ティアナ「・・・・・・それはマジで勝てない無茶なレベルじゃないのよ」

恭文「まぁ妙な超絶能力とかが無い分まだやりやすいけどね。ほら、エターナルフォースブリザードみたいな」

ティアナ「あー、あっち方向だとなぁ。でもこれ決着つけられるの?」

恭文「そこは大丈夫。アレがみなさんご存知の通りの方向で動いてくれるはずだから。
でもディードに手を出したら潰す。傷一つでも負わせたらどうなるか」

ティアナ「そう言いながら殺気出すのやめなさいよっ! てーかそのシスコン具合ホント直さないっ!?」

恭文「だってディードは可愛いよ?」

ティアナ「そういう事言うからあの子が余計にアンタに入れ込むって気づきなさいよっ!!
・・・・・・とにかく本日はここまで。お相手はディードの将来が心配なティアナ・ランスターと」

恭文「なぜ僕を見ながらそう言うのか理解出来ない蒼凪恭文でした」





(・・・・・・それは当然だと思った読者諸君は間違っていない。
本日のED:米倉千尋『ガンダムへ愛を込めて』・・・・・・だってGジェネクリアして気に入ったし)










恭文「というわけで作者が『ガンダムへ愛を込めて』の替え歌を作成中だそうです。
なお、うたってるのは僕とリインも含めたガーディアン全員と歌唄と空海」

フェイト「え、どうして空海君は別・・・・・・あぁそっか。もうガーディアンじゃないしね」

恭文「うん。あれだよ、ラストバトルの挿入歌レベルでやるって言って張り切ってる。
でもGジェネワールド関連の歌はいい曲多いよねー。僕も『ガンダムへ愛を込めて』は好き」

フェイト「私もあの曲は好きかな。なんだか聴いてて元気になれるし、米倉千尋さんの歌声素敵だし」

恭文「でしょでしょ? というわけで、今度カラオケで一緒にうたおうよー」

フェイト「うん、いいよ。それで100点・・・・・・目指しちゃおうか」(燃えている)





(おしまい)





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