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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第118話 『Live Start/世界中の『可能性』を賭けた最終決戦、開始』



※ ドキたま/じゃんぷっ! 前回の三つの出来事っ!!



一つ、恭文達のデバイスを調整・救援に向かおうとする本局メンバーに対し、リンディが圧力をかけてきたっ!!

二つ、星名専務の孫、一之宮ひかるの存在。そしてDL作戦の正体が判明っ!!

三つ、星名専務の捜索に難航する恭文達の前に、占い師・冴木のぶ子が現れたっ!!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ラン・ミキ・スゥ『しゅ、しゅごしゅごー?』

ミキ「えっと、読者さんありがとうございます。てゆうか、分りやすいよね」

ラン「そうだねー。というわけで、今回はついに最終決戦開始っ!!」

スゥ「全ての決着をつけるために、あんな人やこんな人も登場しつつ大暴れですぅ」



(立ち上がる画面に映るのは、某所で一斉変身なガーディアン)



ラン「みんな、がんばれー!! ・・・・・・アレ、でもイクトってどこにいるの?」

ミキ「それは読んでみてのお楽しみ。というわけで、今日もいくよ」

ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ア、アンタはっ!!」

「あむちゃん、こちらの女性はお知り合いかしら」

「というか、アンタ達全員よね。なにそんな驚いてんのよ」

そうっ!!



そのおばさんはこちらへ少し歩いて来て、腰に両手を当てて一気に胸を張る。



私がカリスマ霊感占い師っ! 冴木のぶ子よっ!!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さてさて、前々回前回今回と出番が0な私、シオンと」

「私、ヒカリが説明したいと思う。冴木のぶ子とは地球で有名なカリスマ霊感占い師。
恭文とあむ達とも約111話ほど前に起きた二階堂編の途中に出会っている」

「NGキーワードは『細木数子』なこの冴木さんは、正真正銘本物の霊能力者。
現に私達しゅごキャラが見えたり、先生にさらわれたランさん達の居場所が分かったりと登場回は大活躍でした」

「なので、シルビィ達が知らないのもしょうがないんだ。あくまでも地球限定の話だからな」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なるほどー。サクヤみたいな人なのね」

「シルビィ、アンタサクヤとこのおばさん一緒にしないでよ。
天と地を通り越して月とマントル程差があるじゃないのよ」

「なーんかそこのオリエンタルな女の子の言う事が引っかかるけど・・・・・・なるほど、あなた達困ってるのね。特にあなた」



冴木のぶ子さんは右手を上げて、鋭くあむを指差す。あむは驚いて少し後ずさりしてしまう。



「え、あたしっ!?」

「えぇ、あなたよ。大事な人を・・・・・・・探しているのね。とても大事な人を」



・・・・・・その言葉にあむは固まった。それで僕とシルビィは自然と唯世を見る。唯世は・・・・・・少しだけ拳を握り締めていた。



「ここで会ったのも何かの縁。お礼も兼ねて占ってあげるわ」

「いやいや、ちょっと待ってっ! おのれ話がなんかいきなりでしょうがっ!! てゆうか・・・・・・お礼ってなんですか」

「・・・・・・いやー、それがねっ!!」



冴木のぶ子は一気に表情を崩して、右手を軽く手招くように振りながら口を大きく開けて笑う。



「あなた達の守護霊様達を見てから、私の霊感上がりまくりで占いも的中率が高くなりまくりなのよっ!!
おかげで占い本もまた新しいの出す事になったし、今度DSでゲームにもなってっ!!」

『そうなのっ!?』

「そうなのよ。それに」



懐から一冊の婦人雑誌っぽいのを取り出して、それを開いた上で僕達にあるページを見せてくる。それで僕達は完全に固まってしまった。



憧れのルイ・アントワーヌTUKASA様の星占いに『今日は懐かしい人達と出会いを大切に』って書いてたのよー!!





どうやらこのTUKASAさんのファンらしい冴木のぶ子さんははしゃいでいるけど、僕達はそんな場合じゃない。

だってそのルイ・アントワーヌ某さん・・・・・・・・・・・・司さんいったいなにやってんのっ!?

てーか顔写真載っちゃってるしっ! 理事長でプラネタリウムの管理人で作家のたまごで初代Kの次は占い師かいっ!!



なによりこの雑誌のてんびん座の占い、ラッキーアイテムは『絵本』ってなってるんですけどっ!!





「ねぇ唯世」

「蒼凪君、お願い。何も言わないで。僕も知らなかったの。てゆうか・・・・・・あの人ほんとなにしてるのっ!?」



現在、時刻は6時。ライブ開始まであと1時間。・・・・・・そして、ゆかなさんのライブは既にスタートしている。

もう言うまでもないけど、ライブ完全に潰れました。だから僕も唯世と一緒に頭を抱えて泣いてしまう。



「蒼凪君・・・・・・どうして泣いてるの?」

「だってライブ・・・・・・唯世、世界は悲しい事ばっかりだね」

「そうだね。よし、イースター全力で叩き潰そうか。もうさすがに我慢出来ない」

「うん、そうしようそうしよう。それで絶対フェイトもリインも歌唄もゆかなさんのライブも守っていくんだ」










繰り返しになるけど、ライブスタートまであと1時間を切った。だからこそ決意も固まったりはする。





唯世と二人、血の涙を流してしまうのはきっと許される。そう、許されるんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ニムロッドさん、蒼凪君と辺里君が崩れたんですけど。
まぁ辺里君がアレなのはなんとなく分かるんですけど、なんで蒼凪君まで」

「二階堂先生、気にしないであげてください。その・・・・・・色々あったんです」



頭を抱え始めた二人はそれとして、私は隣に浮いていたヨル君を両手の上に乗せる。

とにかくこの人はみんなの知り合いで、かなり凄い占い師だって言うのは分かった。なので力を借りる事にする。



「あの、冴木先生。私達この子の宿主を探してるんです」

「あらあなた・・・・・・相手は一人に絞りなさい? 目移りしまくりだと全員逃がすわよ」



その言葉に完全に固まってしまった。というか、軽く頬が引きつってるかも。



「あははははははははっ! 違いないっすよねっ!! だってシルビィさん今日」



なんか余計な事を言う空海君には裏拳ー♪



「がふっ!!」



なんか空海君が仰向けに倒れたけど、きっと気のせい。とにかく今はこの子の事よ。



「・・・・・・シルビィ、多分アンタに空海殴る権利はないわよ。てゆうか、占いアテにするつもり?」

「あら、実力は保証済みだもの。アテにしない理由はないわよ」

「まぁそれはね」



ナナちゃんもさっきのアレで一応納得したのか、軽くお手上げポーズを取って頷いてくれた。

というかもしかしたら私達よりずっとこの人の力みたいなのが分かるのかも。だからあっさり引いてくれたとか。



「それで先生・・・・・・この子の宿主、今相当危険な目に遭ってるんです。
私達みんなそれを助けたくて、でも居場所がどうしても分からなくて」

「そう。なら」



冴木先生は目を細めて、私の両手の上でチョコンと座るヨル君を見つめる。

ヨル君はそれが怖いのか軽く身を後ろに逸らして、数秒が経過。沈黙がただ訪れ続ける。



見えたっ!!

「ふにゃっ!? お、大きな声出すにゃー!!」

「ちょっと黙って。気が散るから。・・・・・・白い塔、ヴァイオリン



ヴァイオリン・・・・・・ほ、ほんとに霊能力者なんだ。というかあの、ちょっとビックリかも。



遊園地? 違う・・・・・・でもどこか広い場所

「・・・・・・まぁヴァイオリンは正解よね。でも白い塔や遊園地で広い場所ってどこ?」



ナナちゃんはそう言いながら二階堂先生の方を見る。というか、私も見た。

二階堂先生はみんなの視線を受けながら困ったように腕を組んでいた。



「白い塔で遊園地みたいな広い場所・・・・・・うーん、そんな場所あったかなぁ。もしかして国外?」



考え込む二階堂先生の後ろにある20メートル程の巨大な大きな看板も自然と目が入った。それで・・・・・・固まった。



「・・・・・・二階堂先生。というか、みんな」

「あ、はい。なんでしょ、ニムロッドさん」

「ありました」

「え?」



私は左手でその看板を指差す。あむちゃん達もそうだし、頭を抱えてた唯世君とヤスフミもそちらを見た。

そこには、白い塔が建っている遊園地の宣伝看板があった。だから全員が息を飲む。



「ドリームエッグランド・・・・・・近日オープン、イースター!?」

「・・・・・・あ、リイン思い出したですっ! これネットで宣伝してたですよっ!!」



もしも、もしも今看板に描かれている遊園地の全体像がそのままだったら・・・・・・ううん、まだ確証がない。あと一つは欲しい。



「今日、オープン目前記念の特別番組でライブ放送をやるって言ってたわね。確かヴァイオリンだったかしら」



やっぱりこの人は凄い占い師らしい。私達の考えを読んでいるかの如くあと一つをあっさりくれたんだから。

私はナナちゃんにヤスフミの方を見る。二人は頷いて、そのまま冴木先生を見た。それから私達は頭を下げる。



「冴木先生、本当にありがとうございました」

「もうなんとお礼を言っていいやら。・・・・・・ほら、ヨル君も」

「あ、ありがとにゃっ! オレ・・・・・・オレもうこれしか言えないけど、ありがとにゃっ!!」

「いいえ、どういたしまして。ただ、急いだ方がいいわよ。もう時間がないから」

「はい」










冴木先生には重ね重ねお礼を言った上で、私達は再び車で走り出した。





でももうライブ開始まで間がない。高速を使っても・・・・・・間に合うかどうか微妙かも。




















All kids have an egg in my soul



Heart Egg・・・・・・The invisible I want my






『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第118話 『Live Start/世界中の『可能性』を賭けた最終決戦、開始』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ドリームエッグの場所は、聖夜市と隣の市とを繋ぐ高速道路の合間。というか、海の上の埋立て地の上。

ネットでこの情報を見たリインが情報を検索してシルビィと二階堂に場所を教えて現在高速道路を走っている最中。

ちなみに・・・・・・そうだな、位置関係がよく分からない人は某舞浜にある夢の国を想像してみるといいかも。





基本的な立地条件はあんな感じなんだよ。ただ残念ながら、そんなドリームエッグランドは今日をもって閉店だ。





だって・・・・・・僕達が派手にぶっ潰すんだから。てーか僕がぶっ潰す。こうなったら手札フルオープンでいく。










「でもなんでまた遊園地なんかでやるのよ。しかもやたら場所離れてるし。普通にラジオ局でやればいいのに」

「そう言えばそうですね。恭文さん達に浄化させるのが目的なら、居場所は分かりやすい方が得策のはずです」

「まぁ元々大量の×たまを呼び寄せる作戦だものね。てゆうか、さすがにこういうのを今日明日予定に組み込むのは無理よ。
ヤスフミ達に『×たまを浄化される事』はエンブリオを呼び出すための邪魔にしかならないと思ってたんでしょうし、これは納得かな」



運転席のシルビィの言葉にナナとディードが納得した様子を見つつ、僕は携帯で打ったメールを送信・・・・・・っと。



「ヤスフミ、そう言えばさっきからメールよくしてるけどどうしたの?」

「・・・・・・歌唄だよ。返事遅いとまたGPSでこっちの居場所探りかねないから」

「・・・・・・納得したわ」





とりあえずメールは送信し終えたので、僕は車のラジオをつける。

それでさっきのラジオ局にチューニングを合わせて・・・・・・備えつけの時計も見る。時刻はもうすぐ7時。

ちょうど流れて来たのは、ラジオ局のスポンサーらしい医薬品を作っている会社のCM。



どうやら前の時間にやってた番組はもう終わっていたらしい。そこでまたスイッチを切った。





「アンタ、放送聴かない・・・・・・って、当然か」

「我やニムロッド捜査官達も居るしな。下手に聴いてたまごを抜かれてもマズいか」

「そういう事です」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・ヴァイオリンの中の×たまエネルギー、安定しています」

「エンブリオキャッチャー、準備OKです」

「よーし、放送開始10秒前っ!! ・・・・・・9、8、7、6、5、4、3、2、1



僕は専務の方を見る。専務は右手で持った紫色の輝く音叉を肩の高さまで掲げていた。なので・・・・・・ゴー。



0!!










僕が声をあげた瞬間、専務は音叉を軽く一振り。それを合図に幾斗君はヴァイオリンを弾き始める。





画面の中のデータは・・・・・・よしよし良い感じだ。これなら予定通りにいくぞ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「僕達みたいなキャラ持ちやしゅごキャラ見えるのはそういうのに多少耐性あるみたいですけど、ここは慎重にいきましょ」

「確かに。我もシグナムのようにたまごがあるかも知れんしな」

「いや、そりゃあるだろ。だってたまごは可能性だぞ? だから俺やじいちゃんにもあるんだ」

「・・・・・・そうだったな。すまん、失念していた」





ここの辺りは、ほとんどの人間がしゅごキャラの存在を認識出来ないせいだと思っているんだ。

だから不意の攻撃を食らっても反射的に『それ』だと分かる。自然と防御体勢みたいなのも整える。

でも見えない人間はそうじゃない。いつぞやのティアナとかみたいにあっさりたまごを抜かれる。



ようするにノーガードで顎にアッパー食らうのと同じって事だよ。それもさっき言ったみたいな反射行動も取れずにね。



とにかく時刻は既に7時を過ぎた。ラジオではヴァイオリンの音色が流れて、大量にたまごが抜かれてるはず。





「ザフィーラさん、分かってるとは思いますけど」

「あぁ。未だに我はしゅごキャラの存在が感知出来ない。当然×たまもだ。
だからこそ我は辺里の側を離れず、デスレーベルを相手にするしかない」

「そうなります」



ザフィーラさんにも一応例の術式は持たせてるけど、そもそも狙いが定められないんじゃ意味がない。

どっちにしてもザフィーラさんはちゃんと姿形が見えるあのバカ猫の相手するしかないって事だね。



「それで蒼凪、他のみんなもそうだが・・・・・・空はどうなっている」

「・・・・・・話通りですよ」



僕は助手席から窓の外を見上げた。それでつい表情が険しくなる。



「ホントにあのヴァイオリンの音色に引きつけられてるみたいです。
凄い勢いでドリームエッグランド方面に移動してる」

「騎士カリムの予言の通りなのですよ。うぅ、ゆりかごの時も思ったですけどこれは外れていいですよ」

「そうか」





運転しているシルビィやザフィーラさん以外の全員が僕と同じように空を見ていた。

夜空は、淡い紫が混じった黒色の光に包まれて空を飛ぶ大量の×たまで埋め尽くされていた。

うん、本当に埋め尽くさんとしているようなレベルで×たまが空を飛んでいるの。



それも見るにかなりの速度だ。まるで何かの川の流れを思わせるような巨大なラインが、全く途切れずに伸びていく。



多分向こうのみんなもそれは見てるだろうけど・・・・・・ヤバいな。これは、ブラックダイヤモンド事件の時のアレコレを軽く超えてる。





「ティアナ、ヒロさん達には」

「とっくに連絡してるわ。向こうもドリームエッグランドの位置は分かってるそうだから、もう転移してきてると思う」

「そう。んじゃ、とっととこんな状況は終わらせちゃおうか。
それで・・・・・・ゆかなさんのライブに行けなかった恨みを全てぶつけてやるっ!!










ちなみにゆかなさんのライブは、午後の6時スタート・・・・・・つまりもう始まってます。

OPの曲とかもうとっくにうたってるんだよねぇ。盛り上がってるだろうなぁ。一発目なんの曲だったんだろうな。楽しみにしてたのになぁ。

僕は今この場に居る自分の不幸を恨みつつ、両拳を握り締めて怒りの炎を燃やす。





というか、また血の涙を流す。でもそんな僕をみんなが呆れた視線で見ていたのは気のせいだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



演奏は問題なく進んでいた。×たまもどんどん集まって来ていて、僕達は内心ほくほく顔。





専務も満足そうに笑っていたけど、唐突に幾斗君が演奏をやめた。それに全員が怪訝そうな顔をする。










「どうした幾斗、なぜ演奏をやめる」

「・・・・・・専務、これ以上は無理です」

「なんだと」



命知らずにもデータを映すノートパソコンの画面を見ながらそう言った萬田を専務は睨みつける。

ただそれでも萬田は画面から目を離さないので、僕も千々丸も慌てて画面の中を見て納得した。



「あー、こりゃなぁ。専務、幾斗君のバイタルが安定していません。えっと、ようするに疲れてるんです」

「なんだかんだでここ数日・・・・・・特に昨日は派手に暴れましたからね」

「専務、幾斗君は少し休ませるべきです。そうしないと」



萬田が画面から視線を外して専務を見た。というか、僕達も見る。でも専務はそんな僕達を鼻で笑って・・・・・・右手を軽く振る。

その瞬間、幾斗君は苦しげに呻いて手を震わせながらまたヴァイオリンを弾き出した。さすがに僕達は慌てる。



「専務っ! ですからこれ以上は無理ですっ!!」

「黙れ。さぁ幾斗、もっと×たまを集めるのだ」

「いいえ黙りませんっ! そもそも幾斗君が倒れては作戦に支障が出ますっ!!」

「そうだな。だから倒れないようになんとかするのがお前達の仕事だ。
・・・・・・BYによって出来た損害を請求されたくなければ、言う通りにしろ」



そう言われて僕達は全員驚きの余り固まってしまった。それで何も言えなくなってしまう。

ただそれでも僕は幾斗君のバイタルデータを見て・・・・・・もうちょっとだけなら、許されるよねと思った。



「専務、すみませんがそれは出来ませんっ!!」



でもそんな中、千々丸が専務に無謀にも近づいた。僕は止めようとするけど、僕の手は僅かに届かない。



「千々丸・・・・・・そうか、お前は九十九共々牢屋にぶち込まれたいのか」

「えぇ、主任はバカな事したって分かってますよっ! それを止められなかった俺達も同じですっ!!
でも専務が今やろうとしてる事だって同じですよっ! 本当に意味がないっ!!」

「こら千々丸やめろっ! 専務の意向に逆らうのかっ!?」

「幾斗君の体力をもう少し回復させないと、一気に危険域に突入しますよっ! それを俺達に止めるのは無理ですっ!!」





つまぁ確かに・・・・・・余裕はない。その原因はやっぱここ数日の遠距離調整のせいだね。

幾斗君とヴァイオリンの距離が近かったせいで、僕達が調整を実行する前から影響を受けていたらしい。

そのせいで身体に負担がかかって疲労が蓄積・・・・・・普通なら倒れてもおかしくないレベルだ。



それなのに専務はヴァイオリンを弾かせようとする。ここの辺りから千々丸が必死になる理由を察して欲しい。



そもそも幾斗君が倒れてしまっては作戦が成り立たない。確かに千々丸が反対するのも分かるが、これはダメだろ。





「作戦を開始する時にも説明しましたけど、余りに無茶をし過ぎると幾斗君の身体が持ちませんっ!!」

「問題ないだろう。これは罪滅ぼしなんだからな。多少の傷みは当然の事だ」

「それすらもぶっちぎる可能性があるってどうしてお分かりにならないんですかっ!!
下手すると幾斗君、死にますよっ!? 俺達殺人犯じゃないですかっ!!」

「そうか。なら死ねばいい」



平然と笑いながら・・・・・・いや、違う。幾斗君に対して明らかな憎しみや憎悪の感情をぶつけながらあっさりと専務はそう言い切った。

その表情に、その歪んだ色の瞳に・・・・・・なのに嬉しそうな専務の顔を見て、僕達は一歩後ずさった。



「そもそもBYなど作って小学生を潰そうとした我々がなぜそんな事を恐れる必要がある。人殺し? いいじゃないか。
これは正しい事だ。なぜそこまで問題視しなければならないんだ。エンブリオを手にするために人を殺さねばならないとしたら」



それで専務は笑みを深くする。それが余りに異質で、余りに怖くて僕は・・・・・・足が震え出した。



「私は躊躇い無く手を下そう。いや、むしろ躊躇う必要もない。なぜならソイツは死ぬべき人間だからだ。
幾斗とて同じ。幾斗、嬉しいだろう。命を賭けて御前に奉公出来るのだからな」

「専務、落ち着いてくださいっ! そもそも話がおかしくなってますっ!!
幾斗君が居なかったらどうやってエンブリオを捕まえるんですかっ!!」



でも千々丸は僕や萬田と違って声を上げる事を絶対に止めない。どうしてそこまで出来るのかが分からない。

僕達は今の専務がまるで化物みたいに見えて・・・・・・とても怖いっていうのに。



「ガーディアンの連中が×たまを浄化すれば問題はなかろう。
それでエンブリオが来たところを捕まえる。幾斗はそれまで持てばいい」

「それは仮説の一つだと昨日主任が説明しましたよねっ!? そうじゃなかったらどうするんですかっ!!」

「・・・・・・黙れ千々丸。これ以上私に刃向かうとどうなるか分かっているのか」

「えぇえぇ分かってますよっ! 俺に今更言う権利がない事は重々承知していますよっ!!」



千々丸はそのまま一歩踏み出す。専務が不愉快なものを見るような、軽蔑するような視線を千々丸に送り続ける。



「BYの事だって同じだっ! 確かに専務の仰る通りですよっ!!
でも・・・・・・これは見過ごせないっ! 専務、幾斗君をここで死なせてどうするつもりですかっ!!」

「千々丸、黙れと言ったはずだ。何度も言わせるな」

「出来るわけないでしょっ! そもそも幾斗君が死んだら目的が達成出来ないっ!! 俺はあなたと主任にこう命令されたっ!!
『エンブリオを必ず手に入れろ』とっ! だからBYを作ったしガーディアンに攻撃もしたっ! でもコレは無理ですっ!!」



千々丸は専務の視線を受けて、足元が震え出しているけど揺らがない。僕と萬田は専務が怖くて、ただ見ているしか出来ないのに。



「俺は主任の部下でイースターの社員だから、あなたの命令のために動きますっ! だから言わせていただきますっ!!
そんな事をすれば、エンブリオは絶対に手に入りませんっ! そんな事は俺達は誰一人命令されていないっ!!」

「私に内緒で勝手をした人間の言う事とは思えんな」

「でもだからこそこれ以上間違えるわけにはいきませんっ! そんな事は出来ませんっ!!
それをすれば、今まで三人で頑張ってきた苦労までパーになるっ!!」



専務の視線を受け止めつつも、千々丸は専務の目の前に来た。主任はそれでも専務の目をしっかり見る。



「もちろん俺達のバカを知りながらここまで見捨てずに黙認してくださった専務のお心遣いもですっ!! 専務、忘れないでくださいっ!!
俺達は幾斗君が憎いからこんな事をしてるんじゃないっ! 俺達は御前のために、エンブリオを手にするために」

「そうか、分かった」

「え?」

「分かったと言っている。だからその汚い顔を近づけるな」

「専務・・・・・・なら良かったです」



千々丸は安堵したように声を漏らして、専務から三歩ほど下がる。というか、僕達も安心した。

千々丸・・・・・・いくらなんでもお前無茶し過ぎだって。それでクビになったらどうするのさ。



「それじゃあ早速幾斗君の疲れが取れるように準備を」





千々丸がそう言った途端に専務は右腕を上げて、ゆっくりと音叉を揺らした。

それで鈍い音が辺りに響く。それを見て思わず動きが止まってしまった。

だって専務は・・・・・・やっぱり歪んだ表情のまま、口元を歪めて千々丸を見て笑っていたんだから。



それになにより音叉を鳴らしたという事は・・・・・・まさか。





「幾斗、やれ」










次の瞬間、僕は咄嗟に右を見た。そこには・・・・・・大鎌を振りかぶった幾斗君が居た。





千々丸は声を上げる間もなくその鎌での袈裟の斬撃を食らって、そのまま仰向けに倒れた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ・・・・・・主任っ!!」

「分かってるっ! 千々丸・・・・・・おいしっかりしろっ!!」



九十九と萬田が仕事を放り出して千々丸に駆け寄って起こすが、千々丸は目を開けない。

千々丸は荒く息を吐きながら、肩口から血を流し続ける。



「千々丸、寝てる場合じゃないぞっ! 早く起きろっ!!」

「全く・・・・・・私に楯突くからこうなるんだ。幾斗、続きだ」



また音叉を振ると、幾斗は固まったまま動かない。・・・・・・それにイラついて素早く数度音叉を振る。

するとようやく幾斗は動き出して、私に背を向けて縁に向かって動き出す。そこから鎌をヴァイオリンに戻して、また弾き始めた。



「傷は浅いな。それにまだ息もある。・・・・・・萬田、応急処置だっ!!
とりあえず傷口だけでも塞ぐぞっ! 持ってきてた医療キットを今すぐ出せっ!!」

「出来るんですかっ!?」

「分からんっ! だがやらんとマズいだろっ!!」

「放っておけ。お前達もすぐに仕事に戻れ」

「・・・・・・・・・・・・専務っ!!」



軽く右の方を横目で見ると、白衣を血に染めたあのクズを抱きかかえている二人が私を睨んでいた。

なので軽く右手を上げて音叉を見せてやる。すると二人は予想通りに怯えた表情を見せた。



「安心しろ、ソイツが死んでも問題にならんようにしっかりと処理はしておく。
イースターの権力を使えば簡単な事だ。さぁ、分かったら早く仕事に戻れ」










二人は私を失礼にも睨みつけて、役立たずのクズを引きずってようやくパソコンの前に戻った。





・・・・・・本当に邪魔をしてくれる奴らだ。私は今、とても気分が良いというのに。





私が御前のために探し求めていたものが、ようやくこの手に出来るんだ。なのにその邪魔をするから悪い。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「主任、千々丸の応急処置を頼めますか? 私はデータを見ますから」

「なんとかやってみる。・・・・・・くそ、なんでこんな事に」

「分かんない・・・・・・分かんないですよっ! ホントに、分からないんですっ!!」










千々丸はとにかく寝かせて・・・・・・・よし、落ち着け。まずは出血を止めないとマズい。

本当はちゃんとした施設に連れて行きたいが、おそらく僕達がこの場を離れたら・・・・・・・バッサリだ。

千々丸は瞳を閉じて荒く息を吐きながらも震えている。顔色に関してもかなり悪い。





まぁ斬られたんだから当然だよな。それで僕達も・・・・・・本当にマズい。今の専務は完全にトチくるってる。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



空に浮かぶ×たま達の流れを追うようにして、放送開始から10数分後・・・・・・僕達はドリームエッグランドに到着した。





ここはリインが調達した資料によると正門に位置するところ。そこにリースが先取りで来ていた。





なお、格好は完全無欠に紫色のゴスロリ風味。というか、リースのバリアジャケットそのままだね。










「・・・・・・じゃあティアナさん、これ」



ティアナにリースが渡すのは、無数のマスケット銃の中央に女神が描かれている図のレリーフが刻み込まれている白色カード。

アレがどうもインフィニティ・ガンモード用のメガタロスらしい。無数ってところがインフィニティになった部分だろうね。



「ありがと」

「あとおじいさんも」



ティアナがNEWメガタロスを受け取ると、次にリースはパスとカード一式を僕に差し出してきた。

どうやらキアラに貸していたものらしい。なので僕はそれを両手で受け取る。



「ありがと。てゆうか、もういいの?」

「パスが必要な段階はもう超えてますから、大丈夫です」

「ならこれでアンタも本領発揮出来るわけだ。・・・・・・さて、これはどうしましょうか」



ティアナがカードを懐に仕舞った上で、上を見上げる。というか、遊園地の中を見る。



「あの白い塔から演奏されてるみたいだね。だから君達が彼を助けたいなら、あそこを目指すべき・・・・・・そう言えば蒼凪君」

「何?」

「いや、君達って確か大半空飛べるよね。それで一気に上陸は」

「やめた方がいいだろうね」





僕もティアナと同じく正門の外から二階堂の言う白い塔を見る。

・・・・・・その白い塔に群がるように、×たま達がどんどん集まってきている。

塔の高さはたいだい10階建てのビル並。つまりそれなりの高さがあるのよ。



見るからにこの遊園地のシンボルってとこだよね。それを見て僕はちょっと困った顔になってしまう。





「まずそれなりの高さがあるから、多分飛行途中に×たまに襲撃される。で、それで取り囲まれたら時間がかかる。
しかも空中に居て360度やられたら四方八方じゃあ逃げ場がなくなっちゃうよ。それだったらここは地上戦でしょ」

「転送魔法の類で一気に乗り込むのも、やめておいた方がいいわね。あそこに全員揃って転送しても、結局同じ事になるわ。
そうなったら大混戦で、場の収集がつかないかも知れない。てゆうか、数で押されちゃったら確実に私達が負けるわ」





分かりやすいからこそ、一気呵成な責めを躊躇ってしまう。罠が張ってあるようなら、一気に引っかかっちゃうしさ。

ここは大胆でありながら慎重な攻めが必要とされる状況ではないかなと思う。

少なくともあそこに一瞬で乗り込むような事はしたくない。背後を撃たれたりしたくはないしさ。



乗り込むにしても、最悪後ろや周囲の状況確認が欲しい。出来ればその安全を確保した状態じゃないと危なくて出来ない。





「あのたまご達の数だけ、×ロットとか出てくるかも知れないもんねー。ならなら、やや達が取る作戦は?」

「一点突破で慎重に突っ込みつつ、余計な奴は相手にしないであのバカな黒猫を止めるってとこか?
でもそれまで対応してるメンバーが囲まれないように、手の空いた奴らで他のは食い止める」



空海の言うような作戦が作れれば一番いいとは思う。あ、それとあと一つ追加かな。



「それでこっちも戦力を分散させて、適度にその余計な奴を散らした方がいいだろうな。てーか確実に釣れるはずだ」



・・・・・・言う前に空海に先越されちゃったけど。てーかコイツ、何気にこういうのは頭回るんだよなぁ。そこは素直に凄いと思う。



「空海、それってどうして?」

「いいか日奈森、マジで俺達に×たま浄化させるためにこんなマッチポンプ仕掛けたとする。
なら、俺達に×たま達をけしかけない理由がないだろ。そうしなきゃ話が進まねぇ」

「あ、そっか」

「さすが相馬君。元サッカー部のキャプテンだけあってこういう時は頼りになるね。みんなもそれでいい?」



僕もそうだしみんなも同意見なので、唯世の方を見て頷く。それを受けて唯世は・・・・・・真剣な表情で僕達全員を見返した。



「それで・・・・・・こういうのはガラじゃないんだけど」



唯世は一瞬困ったように笑ってから、また表情を戻した。



「みんなの命と願い、改めて・・・・・・僕が預かるっ! それで僕の命と願いも、みんなに預けるっ!!」

『・・・・・・・・・・・・了解っ!!』



そこまで言ってから、僕は正門に向かってゆっくりと歩き出す。それにリインとあむ達もついてくる。

ガーディアンは全員揃って横並びになって・・・・・・あむ達は胸元に両手を上げる。僕は左手から蒼いベルトを取り出す。



「「僕のこころ」」

「俺のこころ」

「私のこころ」

「ややのこころ」

「あたしのこころ」



ベルトを腰に装着したら、右手で取り出したパスに素早くカードを挿入。



≪Fusion Ride RinforceU Set up≫



それから左手でバックルの蒼いボタンを押す。そしてみんなが鍵を開けるのと同時に、僕とリインも声をあげた。



『アン』



『解錠』アンロック



『ロックッ!!』

「「変身っ!!」」

≪Vinculum Form≫





僕はそのまま右手で持ったパスをベルトにセタッチ。その瞬間、全員揃って色とりどりの光に包まれた。

ランとキセキとリズムにペペにクスクス、ダイチも自分のたまごの殻に包まれる。

それぞれのパートナーの元に向かい、あむ達はたまご達を右の手の平に乗せる。



あむ達が右手を胸元に持っていくと、ゆっくりとたまごがそこに吸い込まれた。

その瞬間足元から粒子の螺旋が渦巻いてあむ達の身体を包み込む。その回転が徐々に早まる。

光の粒子が弾けた時、あむ達のそれまで着ていた服は消え去ってその姿が変わっていた。





『キャラなりっ!!』



まずあむはもうお馴染みとなった、ピンク色のチアガール。



【「アミュレットハートっ!!」】



唯世は白くてフリフリな王子様ルック。そして金色の王冠ロッドを右手に携えている。



【「プラチナロワイヤルっ!!」】



なぎひこはヒップホップスタイルで、足から翼を生やしたダンサーな格好。



【「ビートジャンパー!!」】



りまは赤とピンクの色合いとピエロ的なスカートが特徴的な・・・・・・てーか、まんまピエロだよね。



【「クラウンドロップっ!!」】



ややはピンク色の赤ちゃん服。なお、パワーアップしたけど、ウサギ耳な赤ちゃん服は変わらなかった。



【「ディアベイビー!!」】



そして最後は空海。ブースター付きのボードに乗っている空海は、フライトジャケットとゴーグル装着。



【「スカイジャックっ!!」】





僕とリインは一つになって、バリアジャケットを身に纏う。

左肩に蒼い肩当てを装着。肩当ての根元に丸い銀色の金属製のパーツ。

その丸の中に、雪の結晶の形のエンブレムが刻まれる。



肩当てから左の二の腕を包むように白いケープが現れる。腰にはリインと胴型のフード。

スラックスの色は黒。でも、若干の蒼の色合いが混じっている形になっている。

装着したインナーとジガン、そして髪と瞳が空色に染まる。それから蒼い光が弾けた。



弾けた光は雪となリ、それらが集まり一つの形を作る。それは・・・・・・羽。



夜の闇の中で輝く氷の羽が舞う中で、僕達は本当の姿を現した。・・・・・・まぁバージョンアップしてもここは基本変化無しです。





【「最初に言っておくっ! 僕達はかーなーり・・・・・・強いっ!!最初に言っておくですっ! リイン達はかーなーり・・・・・・強いですっ!!」】

「恭文君、さすがにここからだと聴こえてないんじゃ」

「大丈夫、こういうのは気持ちからだから」



なんて言いながらも、僕達は前進を止めない。そして大きな扉に向かって、まず僕がダッシュ。



「アルトアイゼン・アルカイックッ!!」



そしてアルトを一気に抜き放つと、クリアカラーな刀身の中に泡が立って、それが弾けた瞬間にそれが蒼色に染まった。



≪どうも、私です≫

「つーわけで、討ち入りじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





踏み込みながらも僕は軽く跳躍。その3メートルほどの扉に向かって飛び込みつつ、袈裟にアルトを打ち込む。

それから続けて逆袈裟、右薙、左薙を打ち込みつつも扉の真ん前で着地。

次の瞬間、扉に斜めに線が入って見事に轟音を立てながら瓦解する。そんな扉の残骸を踏み越えながら僕は場内に突入。



あむ達も同じように後を追ってくる。それで僕はアルトを逆袈裟に振るってからまた鞘に納める。




「さぁ、ゆかなさんのライブがパーになった恨み辛みを全部叩きつけてやるっ!!」

【みんな今の恭文さんを相手にしない方がいいですよー? 完全にキレてるですからー】

≪よりにもよってこのタイミングでケンカを売るのが悪いですよ。まぁその、死んでください≫

≪なのなのー♪≫



そのまま僕はずんずんと進んでいく。それでその両隣に追いついてきたあむ達が来る。



「いやいや、アンタちょっと落ち着きなってっ! イクトの事とか予言の事とかどうするわけっ!?」

「そんなんどうでもいいに決まってるでしょうがっ!!」



ラジオ局行く前にフェイトに聞いた話通りなら、じじバカのためにこの現状だもの。

もう絶対許せないっ! ゆかなさんのライブ、久々だったのに・・・・・・・マジでイースターぶっ潰すっ!!



「だから待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! それあたし的にも聞き逃せないんですけどっ!!
いや、あたしに言う権利はないけどそれでも落ち着こうよっ! なによりイクトはアンタの義理兄だしっ!!」

「義理兄言うなボケっ! 僕はあんな厨二病丸出しな兄貴なんていらないしっ!!」

「・・・・・・恭文、やっぱりそこなんだ」

「やや、しょうがないわよ。恭文は致命的にバカなんだから」

「あははは・・・・・・なんかこう、これなら大丈夫って思えるから不思議だよね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「全くアイツは・・・・・・完全に目的が色々おかしくなってるじゃないのよっ!!」

「そうでしょうか。むしろあれが恭文さんだと思うのですが」

「ディードさん、それもまたおかしいから。絶対じいちゃんに毒されてるから。
唯一同意出来るのはアレが義理兄なのが嫌って点だけっておかしいだろ」



そう言いつつも私もアイツがぶっ壊した扉を踏み越え中に突入。でも、完全に中に入る前に振り返って二階堂先生を見る。



「あー、二階堂先生はここで待っててっ! 私達で中の方はパパっと片づけてくるからっ!!」



声を多少張り上げるのは、車との距離が20メートルほど離れているせい。

それで一瞬二階堂先生は戸惑った顔をするけど、すぐに納得したように私を見る。



「・・・・・・・あー、その方がいいよねっ! 僕基本一般人だしっ!!」

「えぇっ!!」

「分かったっ! それじゃあ気をつけてねっ!!」

「了解っ!!」



そのまま私の脇を取って先に中に突入していたシルビィさん達の方を見て、足を進める。

それでシルビィさん達はもうアイツとあむ達の方に来ていて、私もなんとか追いついた。



「・・・・・・でも、静かよね」



規模が広いのはなんとなく分かったけど、そんな場所全体が見事に暗いのよ。

どこかファンシーなお伽話の街をイメージしたような建物が建っている園内は、ライトアップもされてないから薄暗い。



「リイン姉様の調べによると正式オープン前の遊園地ですから。
普通ならこんな時間にこうやって入る事自体が無いですよ。ほら、工事の規制もありますし」

「普通は愛しい彼氏とデートに来たりするような場所なんだけどね。
それで入場まで1時間ほど二人で待ったりして、楽しく過ごすんだけど」

「シルビィさん、それ全然楽しくないですから。てゆうかそういうものですか」

「えぇ、そういうものよ? 私も経験あるから。ティアナちゃんだってそうでしょ?」



当然という顔でそう言われて、私は軽く右手で胸を押さえてしまう。・・・・・・そう言えばこの人、恋愛経験豊富だっけ。

あぁ、そうなんだ。だからやたらと自信を持って言えるんだ。しかも重みがあるんだ。それがすっごく悔しいわ。



「シルビィ、それはしょうがないよ。だってティアナは・・・・・・って、そこストップッ!!
戦いの場で恋愛関係の話するの禁止っ! それ間違いなく死亡フラグだしっ!!」

【ですですっ! あっという間に狙撃や背後からの不意打ちされて物語から永遠に退場フラグなのですよっ!!】



だったらゆかなさんのライブの話は死亡フラグじゃないのかと小一時間ほど問い詰めたくなった私は、絶対間違ってない。



「蒼凪君、それ一体なにかなっ!? 僕そんなフラグは」





そう言った唯世の言葉が止まった。というか、全員ある場所を前に足を止めた。

・・・・・・そこは十字路になっている噴水広場。広さ的にはかなりあって、半径で言うと200メートル近くある。

そしてそんな広場の上空に、もう数えるのも嫌になるくらいの数の×たまが浮いていた。



お決まりの口癖がコーラスみたいに重なって、聴いているだけで滅入ってくる。・・・・・・やっぱこう来るわよね。

でもそれだけじゃないのよ。×たまの一個一個が、淡い紫の混じった黒色のオーラに包まれてる。

何あれ? あんなの見た事ないわよ。×キャラになって同じ色の風や弾丸を吐き出したりーってのはあったけどさ。





「唯世、疑問は解けた?」

「・・・・・・うん、おかげさまで。また蒼凪君を先生として尊敬したくなったよ」

「あぁもうこんな時にっ! こうなったら一気に」

「落ち着けアホ」



両手をかざしてオープンハートを使おうとするあむをアイツが右手で止める。それで不満げにあむがアイツを見る。



「あむ、話聞いてなかったの? そもそもほぼ無尽蔵に呼び出されてるのに、いちいち浄化してたらキリがないでしょうが」

「でも道は開けなきゃ結局進めないじゃん。だったらここで一気に」

「だからっておのれが力使ってどうする。・・・・・・猫男の前に行くまで、何もするな」



そう言ってアイツはケープをなびかせながら前に踏み出す。それは私やガーディアンの面々も同じ。



「猫男を助けるって決めたんでしょうが。だったら、全部の力はそのためにとっとけ。道を切り開くのは僕達がやる」

「だからあむちーは、心配しないで月詠幾斗のとこまでまっしぐらだよー」

「・・・・・・みんな」

「そうだよっ!!」

≪Divine Shooter≫



突如上から魔力反応・・・・・・これ、私がよく知ってる魔力だ。

それで全員で上を見ると、桜色の魔力弾が10数発上空から打ち下ろされた。



「ブレネンクリューガー!!」





それに続くように、8発の火球も打ち下ろされた。それは私達の進行方向に続く道を塞いでいた×たま達に直撃。

×たま達は光に撃ち抜かれ、そして爆炎にさらされ・・・・・・その直後に元の白いたまごに戻った。

それに驚いていると、私達の前にバリアジャケット姿のサイドポニーの女の人と、ツインテールで赤毛の女の子が降りてきた。



てゆうかめっちゃ知り合いだった。てゆうか・・・・・・なのはさんにアギトっ!?





「なのはさんっ!? てゆうか、アギトさんもっ!!」

「なぎひこ君、みんな、久しぶり。話ははやてちゃんと咲耶から聞いたよ。助けに来た」

「アタシも同じくだ。・・・・・・あ、咲耶は最後の一人迎えに行ってる最中だから、もうちょい遅くなる」

「いや、そうじゃなくてその・・・・・・えぇっ!?」



なぎひこが唖然としているけど、それに構わずになのはさんはエクシード状態のレイジングハートを構えた。



「ここは私とアギトでなんとかする。みんなは先に」

「いやいやちょっと待て横馬っ! なんか浄化出来てるのとかはいいとしても、おのれ仕事とかは」

「分かってる。・・・・・・でも、放っておけない。だから自分の勝手で来た。それにあむさんに言いたい事も」



こちらに向かって警戒を強める×たまを見ながら、なのはさんは周囲に合計30発の魔力弾を生成。



≪Accel Shooter≫

「あったしね」



それを素早く撃ち出すと、先ほど出来た包囲網の穴を埋めるように動いていた×たま達が一気に貫かれる。

回避する間も与えず魔力弾は加速して、闇を切り裂いた。・・・・・・相変わらず良い腕してるわ。



「あむさん、みんなの言う通りにして。私はここ数日の事も咲耶とフェイトちゃんから聞いたけど」



フェイトさん? ・・・・・・あ、ここに来る前にアリサさんのとこにも寄ったって感じなのかな。それで来たとか。



「随分派手に間違えちゃったね。でも間違えたからこそあなたは今、どうしたらいいのかがちゃんと分かるはずでしょ?
私の経験から言わせてもらうと泣いてる子の言葉は、マトモに受け取っちゃだめ。あなたの間違いの根っこはそこだよ」

「え?」

「そういう子は寂しくて悲しくて、そのために『もういい・もう駄目だ・もう放っておいて』って言うの」



なのはさんは相変わらず私達に背中しか見せない。それでもあむは両手を胸元で握り締めた。

どうやらなのはさんがあむを安心させるように笑っているのは・・・・・・なんとなく分かったらしい。



「何度も『もう』・・・・・・『もう』って言って、自分の未来に×を付けるような言葉を言い続けちゃう。
でもあなたにはみんなの夢や可能性に付いた×を取る力があるんだもの。だから、このまま進んで」



そう言ってなのはさんはまたシューターを生成。アギトもそれに続くように周囲に火球を生成した。



「それで迷わないで。もしその子が本当に居なくなっちゃったら・・・・・・あなたは、絶対後悔する」

「・・・・・・なのはさん」



あむはそのままなのはさんの背中に向かって、頭を思いっきり下げた。



「ありがとうございます。みんな、行こう?」

「あー、あむちゃん。悪いんだけど」

「私は残るわ」



そう言ってなぎひことりまがなのはさんの右隣に出る。それで二人して驚いたように顔を見合わせた。



「私だけでいいわよ。なにより嘘つきの手は借りたくないんだけど」

「それ、どういう意味かな」

「さぁ、どういう意味かしら。とりあえずあなたがなんで冴木のぶ子に呼び止められたかを考えれば分かるんじゃない?」



そう言われてなぎひこの表情が固まる。というか、アイツと唯世に空海の表情も驚いたものになった。

ううん、なのはさんも僅かに肩が震えて・・・・・・コレ、何?



「と、とにかく・・・・・・女の子だけに任せるっていうのもアレだしね。
それにここはガーディアンの人間も居た方がいい。だからあむちゃん、行って」

「・・・・・・分かったっ! それじゃあなぎひこ、りま・・・・・・なのはさん達もありがとっ!!」










今ひとつ場の微妙な空気が読めていないあむは、そのまま駈け出した。それにアイツも私達も続く。





でも嘘つきってどういう事? それにアイツやなのはさん達の反応・・・・・・うーん、微妙におかしいような。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・実はあのラジオ局からここに移動する直前、僕は冴木のぶ子さんに呼び止められた。

それで・・・・・・あはははは、もうなんていうかアレだよね。あの人本物だよ。

だって僕が『なでしこ』だって気づいちゃったんだから。なんでも同じ守護霊様の気配がするんだって。





一応先生にはその事内緒にして欲しいってお願いしたんだけど、そこをりまちゃんに聴かれちゃってたのか。





だから合計すると100近くあるはずの×たま達に取り囲まれるようにしてても、軽く苦笑気味だったりする。










「なぎひこ君、りまさんもしかして」

「あははは・・・・・・気づかれちゃったみたいです。でも、今はそこは抜きで。てゆうか」

『ムリィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!』



話している余裕がない。×たま達が一斉に突撃してきた。なのはさんはそれを見て舌打ちしながら、左手をかざす。



≪Protection≫



僕達は慌てて桜色のドーム状のバリアの後ろに隠れる。それで×たま達はそのバリアに向かって突撃を繰り返す。

弾かれてもまた加速して突撃。それでまた弾かれても・・・・・・たまごは割れないけど、なのはさんが苦悶の表情を浮かべてる。



「なのはさんっ!!」

「大、丈夫・・・・・・とはいかないかも。てゆうか、なんか手応えが重い。それに」



なのはさんは突撃を続ける×たま・・・・・・ううん、あの×たま達を包む光を見て怪訝そうにする。



「なぎひこ君、りまさん、私が夏休みに見た×たまや×キャラにはこういうのなかったと思うんだけど」

「僕も覚えがありません。てゆうか、いつもよりパワーアップしているような」



突撃の際の速度や見た感じの威力を見るに、普段より上なのは確か。でもさっき攻撃が命中したのは・・・・・・不意打ちだからか。



「・・・・・・まさか」



りまちゃんがあの白い塔を見上げた。それで表情を苦いものに変える。



「ヴァイオリンの音色でパワーアップしてる?」

【・・・・・・ありえるな。そもそもみんなあのヴァイオリンの音色に呼ばれてるんだぜ? つまりそれって】

【みんなデスレーベルに操られてる上でパワーアップしてるって事ー!?】



・・・・・・そもそも僕達の進行方向にこれだけの×たまが待ち伏せしてたのもおかしい。多分リズムとクスクスの言う通りだ。また厄介な能力を。



「やっぱデスレーベルってのを恭文とあむ達がなんとかしないとダメって事か。
なのはさん、どうする? このまま守り続けるだけじゃ」

「時間稼ぎなんて言ってる余裕、無いね。この場だけでもこの子達を全員浄化しないと。
レイジングハート、こうなったら一気にやるよ。あと恭文君達にもこの事を連絡」

≪了解しました≫

・・・・・・足が遅いから



突撃が一旦中断され、×たま達は一旦下がる。それから身を震わせて、また突撃開始。

それをなのはさんに受け止めさせているのが申し訳なく思って・・・・・・そんな中、声が響く。



『ムーリー!!』

勉強したって

『ムーリー!!』

≪これは・・・・・・マスター≫

「うん、分かる。これ・・・・・・この子達の宿主の声だ」



×たま達が声を上げる度に、身を包む光の形が大きくなる。それで×たま達はまた突撃を一旦中断して下がった。

それから先ほどと同じように身を震わせて・・・・・・なのはさんは慌ててレイジングハートのカートリッジを3発ロード。



不器用だから

『ムーリー!!』





そして×たま達の身を包んでいた光が、僕達に向かって一斉に照射される。

その弾丸の雨をより大きくなった桜色のバリアは全て受け止め防ぐ。

鈍い着弾音が響く度にバリアの向かい側に、爆煙が連続的に生まれ続ける。



なのはさんはそれでもサイドポニーを揺らしながら僕達の盾になる。





「く・・・・・・ぅ・・・・・・!!」

算数苦手だし

『ムーリー!!』

英語喋れないし

『ムーリー!!』



声は容赦なく響き渡る。その度に胸に突き刺さるものがあって、頭がうまく回らない。

この間にもなのはさんの表情は険しくなって、辛そうにしているのに。



「おいおい、これやべぇだろっ!!」

「初手・・・・・・完全にミスっちゃったなぁ。もうちょっと徹底しておくべきだったかも」



マズい。僕もりまちゃんもそうだし、アギトさんもこういう防御系の能力が全く使えない。

だけどこのままなのはさんのプロテクションの影に隠れてるだけじゃ・・・・・・いや、ここから反撃の起点を。



どうせ俺なんて

『ムーリー!!』

私なんて

『ムーリー!!』










・・・・・・『自分なんて・これが出来ないから』。そう言って諦めている子達が、ここに集まっているらしい。





僕達の仕事は、こんな子達を助ける事。だからここに居る。でも僕は・・・・・・この子達の気持ちが分かってしまった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヨーロッパ方面に留学しての踊りの修行は、最初は本当にうまくいっていた。それはもうびっくりするくらいだよ。

元々諸外国にとって日本の文化・・・・・・特にこういう伝統芸能関係に関しての注目度は高いしね。

富士山・芸者にちょんまげ・侍じゃないけど、日本舞踊・・・・・・特に女形という一つの芸風は向こうでは珍しいみたい。





だから舞台を踏むと本当にこっちが申し訳なくなるくらいに好意的に受け入れてくれてさ。それは嬉しかった。





ただそんな日々の中、ある記者さんにその時出演させてもらった舞台を終えた後に一つの質問をされた。










「しかし惜しいねぇ」

「え?」

「なぜ君は男なのに女役なんだ?」




唐突にそう言われてしまって、『なでしこ』の格好だった僕は息が止まってしまった。多分少し呆けた顔もしていたと思う。

でもその間にその記者さんの本当に分からないと言いたげな表情を浮かべたままの質問が続く。



「確かに君のダンスは神秘的だ。でも、君が本物の女性なら更に優雅だろう」










・・・・・・確かに本物の女の子のようには踊れない。この先僕はどんどん大人になっていく。

声だって変わる。体格だって・・・・・・まぁ恭文君という実例を見ていると自信がないけど、大きくなっていく。

もちろん女形があえてそこをやるからこそ出てくる色を見せるための芸風なのは勉強している。





だからこそ僕はずっと『なでしこ』で・・・・・・だからその記者の人にもそこを説明すればよかった。





でも僕は何も言えずに、ただ呆けた顔をし続けていた。それでそのすぐ後、てまりはたまごに戻ってしまった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・この子達も、僕と同じだ。どうしても超えられない壁があって、それが苦しくて・・・・・・だから分かる。





それが分かるから、身体からどんどん力が抜けてしまっている。目の前の事も見えなくなって、僕は・・・・・・・視線を落とした。










「「・・・・・・・・・・・・くだらないっ!!」」



でもそんな時、目の前と隣から声が上がった。そして僕達の周囲に桜色の魔力弾が合計25発程生まれる。

それだけじゃなくて、りまちゃんの背中からどこからともなく先に結び目のある縄が20程出てきた。



「ディバイン」

「タイトロープダンサー」

「「シューター!!スペシャルッ!!」」





弾丸は攻撃を続けていた×たま達の両サイドに回り込んで、挟み込むように放たれる。

それを×たま達は一旦攻撃を止めて上空に回避するけど、そこにりまちゃんが出した縄が現れる。

まるで鞭のようにしなりながら、多数の縄は空間を薙いで×たま達を引っ張ったく。



縄はそれぞれ機動の違う攻撃を放って、その軌道を見るとまるで網目のように見えた。





『ムリッ!?』



それで動きが止まったところに、なのはさんのシューターが襲いかかる。

桜色の弾丸は次々と×たま達を撃ち抜いて、その身体を白い元のたまごに戻した。



「・・・・・・くだらないよ。そんなの、本当にくだらない」



そのたまごが消えて持ち主の元に戻っていく間に、なのはさんがバリア展開したまま悲しげな声を出した。



「えぇ、くだらないわね」



出して広く展開した縄を一旦消して、りまちゃんもまた声をあげる。



「ムリムリって・・・・・・自分で決めつけて、言い訳してるだけじゃないっ!!」

『ムリッ!? ムリムリ・・・・・・ムリッ!!』

「苦手な事だって、出来ない事だって、それだって立派な個性なんだからっ!!」



その言葉が鋭く胸に突き刺さって、身体に力が戻って来る。不思議と胸に突き刺さった痛みが・・・・・・力に変わっていく。



「お笑いだってスポーツだって、どんな事だって・・・・・・自分の個性を活かして、技と芸を磨けばいいのよっ!!」

【その通りー!!】

「なによりあなた達は、本当はどうしたいのかな。本当は何をやりたいのかな」



りまちゃんに乗っかるように、なのはさんは顔を上げて揺れる×たま達を見る。



「出来ない事と出来る事、それにやりたい事は・・・・・・うん、悲しくなっちゃうくらいに同じだったり違ったりするよね。
私にも覚えがあるよ。私だって運動オンチだもの。自分の事なのに全然自分の思い通りになんていかないのは辛いよね」



なのはさんはバリアを消して、レイジングハートをまた両手で持って構える。構えて・・・・・・空に浮かぶあの子達を見上げた。



「でも出来ない事を言い訳にして、自分のやりたい事から逃げたり×を付けたりしちゃだめだよっ!!
そんな事したらあなた達はずっと自分の空を『とべ』ないっ! だからそんなの絶対ダメっ!!」

「・・・・・・言い訳、逃げてる、かぁ」



ホント、女の子ってどうしてこういう時に強いんだろうね。これじゃあ僕、残った意味ないし。

苦笑しながら僕は、右手を上げてエネルギー状のバスケットボールを出す。それを片手で持ちながら前に出た。



「なのはさん、僕が前に出ます」

「え?」

「僕が囮になって×たま達を引きつけるから、なのはさんはりまちゃんとアギトさんと一緒に攻撃を」



二人の喝のおかげで、止まってた思考も一気に覚めた。おかげで一つ手を思いついたよ。

またシールドの中に閉じこもってても、結局は同じ事。だったら・・・・・・これでいく。



「で、でも無茶だよっ! あの数相手に単独での囮なんて許可出来ないっ!!」

「大丈夫です。えぇ、大丈夫です。・・・・・・もう」



軽くしゃがむと、足のビートアクセルが強く輝く。それで足にどんどん力が溜まっていく。



「大丈夫っ!!」

「なぎひこ君っ!!」



僕はそのままなのはさんの静止を振り切って、一気に高く上がる。そのまま×たま達の一団に向かって、まずは先制攻撃。



「ブレイズ・・・・・・シュートッ!!」



いつものようにフリスビー状にしたエネルギーを投擲。それは反時計回りに円を描くように×たま達の一団を中程から切り裂く。

でも×たま達はそれを避けて、十字路の中程に着地した僕の方を見る。そしてそのまま、突撃を開始。



『ムリムリ・・・・・・ムリー!!』





・・・・・・まずは右に身を捻って初撃を回避。そのまま回転しながら倒れてる。

そんな僕の上を×たま達が通過。その場でブレイクダンスのように足を振り回しながら回転を続ける。

それで周囲から襲ってきた×たま達を加減した上で蹴り飛ばして吹き飛ばす。それからすぐに起き上がる。



起き上がってからすぐに後ろに跳んで、腹を薙ぐような突撃を避けて・・・・・・うんうん、良い感じ。





【ナギー! いいぜいいぜ、めちゃくちゃすげービートだっ!!】

「うんっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なぎひこ君は、ただ笑いながら踊り続ける。やっているのは本当にそれだけ。

それだけで未だに数が減った感じがしない×たま達の突撃を捌いているの。

回転する動きが多いのは、周囲の状況をしっかり把握するため。あとは突撃を捌くため。





現に足や手を使って危ないものは蹴るなり掌底するなりして払ってるもの。

ただそれよりも私が目を引かれたのは、なぎひこ君が本当に楽しそうに踊っている事。

今は戦っている最中のはずなのに、なぎひこ君は・・・・・・ううん、これは違う。





なぎひこ君は、ただ踊っているだけ。×たま達はそのビートに、リズムに乗せられてるだけなんだ。





私もアギトもりまさんも、それは変わらないのかも。だってつい攻撃の手を止めてなぎひこ君の踊りを見ちゃってるもの。










≪・・・・・・彼、以前よりも動きが良くなってませんか?≫

「う、うん」



たまにヴィータちゃん達がこっちに来て訓練とかしてたから? 私は仕事の関係で実はほとんど来れなかったんだけど。

ううん、違う。そういうのじゃない。なんかこう・・・・・・もっと気持ちから来るものだ。だから私、なぎひこ君を見てドキドキしてる。



「なぎひこ君・・・・・・綺麗。あの、変な言い方だけど、そう思うの」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうだ、そうなんだ。男の子だから女の子らしく踊るなんて無理。そんなの言い訳に過ぎない。

僕は逃げていただけなんだ。女の子のモノマネの踊りしか出来ない自分から。

でも、女の子の真似をする必要なんてないんだ。僕には僕にしか出来ない踊りがある。





・・・・・・後ろに飛び退くようにジャンプして、背後の噴水の水を斬り払う勢いで僕は右足を上げて鋭く回転。いわゆる旋風脚?

僕の右足は接近していた×たまを蹴り払って、ついでに噴水の水も中程から切って辺りに撒き散らす。

その水しぶきが落ちるよりも早く着地して、後ろに更に三度バク転。僕の着地地点に上から×たま達が突撃してきていた。





あの光に包まれていると普段よりも強度が上がるらしくて、地面に激突してもたまごが壊れないのはちょっと安心。





×たま達は業を煮やしたのか僕の周囲を取り囲むようにしてから、また身体を震わせる。










【行くぜナギー! 新技発動っ!!】

「ビート」



それを見て、素早く右手でエネルギー状のボールを生成。それを右手で保持したまま、地面に向かって叩きつける。



「ゲイザー!!」





次の瞬間、僕に向かってあのエネルギー弾が放たれた。それと同時に僕の手の中のボールが地面と手の間で潰れて弾ける。

その瞬間、僕の手を始点として全方位に青い淡い光を伴った衝撃波を放つ。

衝撃波は地面を走るようにして周囲に広がりながらも、僕と僕の中に居るリズムを守る高い壁となる。



まるでボールが押し潰された勢いがそのまま広がったように放たれたそれによって、弾丸達が動きを止めてその場で爆発。



その衝撃波は爆煙すらも押し込んで、×たま達に迫って・・・・・・×たま達は動きを止めた。





『ムリ・・・・・・ムリー!!』

『ムリムリッ! ムリッ!!』



それでもあの子達はまた身を震わせて、僕に向かって弾丸を乱射。僕は笑いながら大きく上に跳んだ。

僕がそれまで居た地面が、無数の弾丸の雨によって穴だらけになっていく。でもそれを見ながら僕はやっぱり笑ってた。



「・・・・・・そうだ、きっとある」



身体が軽いのは、突然新技なんて出しちゃったのは、きっとようやく見つけた『答え』のおかげ。

モノマネなんてしなくていい。今までずっと、女の子として過ごしてきた僕だからこそ踊れる踊りが。



きっとあるっ!!





声をあげた瞬間、夜空の中に居たはずの僕の世界が一気に色を変えた。

その色は光・・・・・・色とりどりに輝く光に包まれた世界。その中で僕は浮いていた。

でもそれに驚く前に、僕は目の前に浮いている桜色のたまごに驚いていた。



そのたまごはずっと、ずっと僕の側に居てくれた子のたまご。そしてそのたまごは割れた。



割れてその中から、和服を身に纏ったポニーテールの小さな女の子が現れた。





「てまり・・・・・・!!」



てまりは服の右袖で口元を抑えながら、涙ぐみ始めた僕の方へ近づく。



「お久しぶりなぎひこ。・・・・・・探していた答えは見つかったようですわね」

「うん。待たせて、ごめんね」

【てまり、再会の挨拶の前に選手交代だっ! 大体の事は分かってるんだよなっ!?】

「はいな。それじゃあなぎひこ」

「うん。・・・・・・僕のこころ、アン」



『解錠』アンロック



「ロックッ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



空中に居たはずのなぎひこ君が、突然白い光に包まれた。それによって周囲が昼間みたいに照らされてる。





それによって私達も×たま達も完全に動きを止めてしまった。というかあの光、私見覚えがある。










「おいおい、なんだよアレっ! アイツ一体なにやったんだっ!!」

「・・・・・・まさか、あの時と同じっ!?」





そして光が弾けた。再び落ち着きを取り戻していく闇の中、その輝きを内包した『女の子』がゆっくりと舞い降りた。

淡い桜色が混じった無地の白色の着物に、裾から羽衣みたいな布が出ている。

それで帯は紫色で、だけど裾がやたらと長い。あと、印象的なのは背中から生えている布の翼。



まるで蝶の羽根のような形の半透明な桜色のそれは、キラキラと光る粒子を内包している。

というか、裾から出ている羽衣みたいな布がそれなんだ。多分同じような素材じゃないかな。

それで光の中から出てきた子は桜の花びらが連なったしだれ桜みたいな飾りを頭に付けている。



というか、それは髪留めらしくて長くて下ろしたままだった髪が一纏めになってポニーテールになってた。



あの、というかこれ・・・・・・これってもしかしなくても、なでしこさんっ!? なんかさっきより全然女の子っぽいんですけどっ!!





【「・・・・・・・・・・・・キャラなり、ヤマトマイヒメ」】




















(第119話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、今回は前回と同じくアニメしゅごキャラの第98話『復活!輝きの舞姫!』を元に構築しております。
そしてビートゲイザーはこの話オリジナルの技なので、当然ながら原作には出てませんのであしからず」

フェイト「・・・・・・だから前回はタイトルが出せなかったんだね」

恭文「うん。出した時点でてまり復活だってバレちゃうから。というわけで、次回はこの続きです。
え、引きが最近同じ? でもそれはしょうがないのよ。原作とアニメそのままだからどうしようもない」

フェイト「ヤスフミ、ぶっちゃけ方色々間違ってるよっ!! ・・・・・・と、とにかく本日のあとがきのお相手はフェイト・T・蒼凪と」

恭文「蒼凪恭文です。さて、今回の話の目玉は・・・・・・やっぱりてまりの復活劇ですね」

フェイト「というか、なぎひこ君のスランプの原因ってこの一言が原因だったんだ」

恭文「うん。それで自分の踊りに自信が持てなくなって、連鎖的にてまりもたまごの状態に戻ったわけだよ。
その後の事はみなさんご存知の通り。日本に戻ってきて、唯世に連絡を取ったところでガーディアン入りしたの」

フェイト「でもそうすると・・・・・・女の子らしく踊れる自分がなぎひこ君の『なりたい自分』になるのかな」

恭文「うん。もしくは女性らしさそのものかも知れないね。
ほら、なぎひこは自分に欠けているものがしゅごキャラになったパターンだから」



(説明しよう、劇中で何度も説明してるけどしゅごキャラには二つのパターンがあるのだ)



フェイト「そう言えばてまりちゃんが生まれたのはまだ『なでしこ』だった時だしね。
そっか。そういう生活の中で思い描く『女性らしさ』を持った自分になりたくてコレなんだね」

恭文「劇中では名言されてないけど、そういう事じゃないかなとは思う。
それくらい踊りが好きだったというのもあるだろうけどね。じゃなきゃそうはならないって」

フェイト「まぁヤマトマイヒメに関してはまた次回として」



(何気にアニメの劇中ではかなり強力なキャラなりとして描写されてたりします)



フェイト「星名専務と九十九達・・・・・・というか、千々丸がバッサリと」

恭文「小物は小物なりにそういうの自覚した上で頑張ったんだろうけど、ダメだって。
さすがにありゃ死亡フラグでしょ。でも星名専務、完全にぶっ飛ばしてるなぁ」

フェイト「でもどうしてあんな風になったんだろう。いや、確かにそういうのやってきたけど、これは極めつけだし」

恭文「猫男好き勝手にするのが気持ちいいんじゃないの? それも死ぬか死なないかってレベルでさ。
今までの考察からするに、元々の後継者候補であった猫男や月詠或斗に良い感情抱いてなかっただろうし」

フェイト「あぁ、そういう事か。その気持ち良さに取り込まれて・・・・・・でも汚いよ。
自分で手を下すのなら、まだ納得出来る。でもそういうのも全部幾斗君にやらせるなんて、卑怯だ」



(残念ながらそれが分からない程にぶっ飛んでいるのが今の専務だったり)



恭文「とにかく次回、ドリームエッグランド攻略戦はまだまだ続きます。というか、ヤマトマイヒメが無双します」

フェイト「いわゆる初登場補正がかかるんだよね。うん、分かるよ。というわけで、本日はここまで。お相手はフェイト・T・蒼凪と」

恭文「蒼凪恭文でした。さてさて、ゆかなさんのライブが潰れた恨み・・・・・・絶対晴らす」

フェイト「ヤスフミ落ち着いてっ! 今は多分そこを気にする余裕・・・・・・うん、気にしなきゃいけないんだよねっ!!
私と同じくヤスフミにとってはお嫁さんだしねっ! でも本気出し過ぎだからっ!! 少し落ち着こうよっ!!」










(それでも本気な古き鉄、きっと次回は大暴走する事でしょう。
本日のED:『スタン・ハンセンのテーマ』)




















アリサ「というわけで、ついに最終決戦勃発・・・・・・でも、やっぱガチで質量責めかぁ」

フェイト「まぁこうするのが一番良い手ではあるんだろうね。だってほら、浄化させる意味もあるから」

アリサ「それなんだけど、浄化させる数とかって関係あるのかな。やっぱたくさんあった方がいいとか」

フェイト「かも知れないね。でもここの辺りは向こうもこっちも情報が不足してるし・・・・・・どうなるか分からない」

アリサ「何にしても突発的事故や事態には気をつけないとだめと。また苦しい戦いね」

フェイト「そうだね。でもヤスフミならきっとこう言うよ。『今まで苦しくなかった戦いなんて、一度もない』・・・・・・ってね」

アリサ「・・・・・・そうね。それはガーディアンのみんなも同じか」










(おしまい)





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あきゅろす。
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