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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第117話 『Meaning of trust/決戦の舞台を目指せっ!!』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「さぁて、ドキッとスタートドキたまタイムー。今回のお話はー?」

ミキ「消えたイクトとイースターの最終作戦を追って動き出したボク達。でもその行く手には様々な障害が」

スゥ「あっちでこっちで大騒ぎですぅ。決戦前だからですかぁ?」



(立ち上がる画面に映るのは、頭を抱える提督さんに呆れた表情のあの人にやっぱり甘いあの二人)



ラン「うぅ、こんな事してる間にもイクトがピンチなのにー!!」

ミキ「というわけで、イースターとの最終決戦秒読みとなったドキたま/じゃんぷ。今回もいってみよう」

スゥ「せぇのぉ」

ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



空海と話をしつつ盛り上がっている間に、僕達は校門近くの駐車場に到着。





そこに居たのは、一台の大型4WDとウンザリした顔の我がクラスの担任だった。










「・・・・・・なんで、僕がこんな事を。てーか仕事」



なるほど。二階堂はイースターの元関係者だし、徹底的にこき使って捜索しろと。司さん、グッジョブ。



「理事長命令なんだからしょうがないでしょ。二階堂、諦めろ」

≪そうですよ。というわけでとっとと働け≫

「なんで僕はデバイスとやらにまで命令されてるのかなっ! あぁもうー!!
だから権力者は嫌いなんだっ!! てゆうか、さすがにこんなに乗れないんですけどっ!?」

「あの、私やナナちゃん達は大丈夫ですよ? ちゃんと別口で車持ってきてますし」



なお、管理局印の貸し出し車両です。良い感じで快適ドライブ出来る普通乗用車ですよ。

シルビィ達はそれでここまで来た。なお、ザフィーラさんはこいぬフォームだったそうです。



「あ、そうなんですね。なら良かった。・・・・・・えっと」

「シルビア・ニムロッドです。ヤスフミとはとても深い関係で・・・・・・あの、ぜひ電話番号とメールアドレスをっ!!

「昨日会った時に聞いとけバカっ!!」



次の瞬間、本日何度目かのハリセンが飛んだ。それを見てナナとティアナとリインが両手でお手上げポーズを取る。

でもその前にこのバカにツッコんで欲しい。しかも今、絶対コンマ何秒という間すらなかったし。



「蒼凪君、さすがに女性の顔面を叩くってどうなのかな」

「ほう、じゃあおのれは今の勢いで迫られる方が好みと?
しかもついさっきまで司さんに同じようなラブコールしてた女に」

「・・・・・・それはさすがにごめんかな。もう尻が軽いとかそういうレベルの話じゃないよ。むしろ無重力?」

「そうだろうね。こんなバカの面倒見切れるのは僕くらいのもんだよ。
それで二階堂、本題に入るけど具体的にはどうしていこうか」



残念ながら現時点で僕達はノープラン。だから腕を組みつつ二階堂を見上げて聞いちゃうわけだよ。



「蒼凪君達のプランはないの? ほら、次元世界の技術を最大投入とかさ。こっちの見慣れない人達もその関係でしょ」

「残念ながらそれでもどうにもならない事は決定済みなのよ。
一応イースター本社に乗り込むってプランはあったけど」

「さすがにそれは無茶だよ。なら・・・・・・そうだな」

「何かある?」



少し考え込むように視線を落としていた二階堂は、僕の方を見て力強く頷いた。



「ある。僕がイースター時代に使ってた技術開発部の施設がこの街にはいくつかあってね。
もちろん公式なものじゃなくて、いわゆる秘密基地。君に派手に破壊された社員寮もその一つ」

「・・・・・・あそこか。じゃあもしかして、イースターの不要になった物件を再利用してるとか」

「そういう事」



だからあの『研究室』、あんなボロかったのか。それであんなのがあっちこっちにあると。

まぁ完全な廃墟じゃなくてイースターの所有物だから、使い勝手は良いんだろうね。でもガチで悪の組織の所業だよなぁ。



「それでそのそれぞれは共通のネットラインを通じて本社に繋がってるから、上手くいけば一気に情報が集まる」

「なら二階堂、案内お願い。こっちはシルビィが運転してくれるし、追いかけてくから」

「了解。しかし・・・・・・僕、ここまで関わるつもりなかったのになぁ。基本先生だし」

「まぁアレだ、巻き込まれたくなかったら思いっきり出世しようか。そうすれば問題ないって」

「あいにく僕はもう出世欲に取り憑かれた生き方はしない事にしてるの。
なによりそれが叶うのは何年後の話? ・・・・・・全く、BYの事だってあるのに」









そう言って大きくため息を吐く二階堂の背中を右手で軽く叩きつつ、僕達は早速行動開始。





中々に強力な助っ人を送って来てくれた司さんに感謝しつつ、二台の車は聖夜市を走っていく。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



向こうで最終決戦が始まろうとしていた頃、こっちはこっちで非常に大荒れだった。

本局の自分の執務室で頭が痛くなってしまう原因は、通信の向こうに居る我が母親。

まぁまぁ恐れていた事が現実になったとだけ言っておく。それも・・・・・・かなりマズい。





母さんは僕達がこそこそ動いていた事を相当不満に思っているらしい。特にフェイト関連の事だ。





評判が落ちた上に裏切り者同然に言われている状態で局を辞めたからな。だから今、修羅場になってしまっている。










「ですから母さん、はやて達は動かせません。どうしてそこで急な出張を頼むんですか」





あ、それともう一つ説明が遅れた。母さんは僕達の動きを一旦止めるために圧力をかけてきたんだ。

その圧力の一つが、ちょうど聖夜市に出ようとしていたはやて達への突然の仕事の割り振り。

それもはやて達のようなエース級でなければいけないようなかなり重い事態だ。・・・・・・事件はイースターの事だけじゃない。



マリアージュ事件の時を思い出して欲しい。世界は今この瞬間も、たくさんの痛みと悲しみが生まれている。



ただ僕達が知らないだけ。ただ僕達がそれを今居る位置からは全て見えないだけだ。





「とにかく、はやて達には僕が頼んだ仕事があります。なのでその件は他の捜査官に」

『そう。じゃあその仕事の内容を教えなさい』

「ですからそれは」

『というより、ここ最近のあなた達の怪しい行動の数々かしら。まず妙な素性不明のユニゾンデバイスを二体も連れ込んだ。
同じくな感じであの子と同じ姓名の魔導師の少年まで出てきている。その上局にも内緒で第5世代デバイスと新素材の開発』



・・・・・・そこまで見抜かれてたのか。まぁ親和力事件の時に見せた千里眼振りを考えると当然という感じか?



『なによりフェイト達の不自然な常駐よ。その上ランスター執務官補佐も執務官試験を辞退。
騎士カリムやはやてさん達だけじゃなく、GPOの人間までがこの件に絡んでる。クロノ、何があったの』

「ですから話せません。母さん、母さんも高官であり局員ですよね?
だったら話せない事情を察していただけるとありがたいのですが」

『残念ながらそれは無理よ。この件でフェイトやランスター執務官は被害を被ってるのよ? 見過ごせるわけがないわ。
だからちゃんと話して。戦力が必要なら私の権限ですぐに収集するし、関係各所にも配慮してもらうようにするから』

「ですから何度も言わせないでください。話したくても話せないんです」



僕は一度深く深呼吸をした上で気持ちを落ち着けて、改めて画面の中の悲しげな母さんを見た。



「母さんだけの話じゃなく、不用意に話した時点で多数の人間に迷惑をかける可能性があります」

『職務上の秘密は守るわ。現状を見るにあなた達ではフォローし切れない部分をフォローしたいと言っているの。
・・・・・・お願い、話して。あなた達は何と関わっているの。外から見ていると本当に不安でしょうがないのよ』

「無理なんです。母さん、お気持ちだけは受け取らせてもらいます。ありがとうございました。
・・・・・・感謝しています。そこは嘘偽りなく本当に。でも、もうすぐ決着がつく事なので」



そこで静寂が訪れる。そして・・・・・・母さんは深くため息を吐いた。



『そう、だったらもういいわ。現在本局のマリエル技官のところで開発中の装備は全て接収させてもらいます』



信じられない言葉に、一瞬固まってしまった。マリエル・・・・・・まさか、アレらを接収するつもりなのかっ!!

マズい、ガンモードはともかくブレードは未来の時間の技術が使われてるものだぞっ! 局に調べられたらとんでもない事になるっ!!



『もちろんアルトアイゼンとクロスミラージュにバルディッシュ、あとあの子のところに行った戦闘機人の装備もよ』



それを止める間もなく、とんでもない爆弾第二弾が投下された。また思考が固まってしまう。



『独自開発された第5世代デバイスシステムに新素材が使われてるなら、その稼働データは貴重。今後のために全機こちらで預かる』

「そんな事は出来ませんっ! アレらは全て個人装備の範疇ですよっ!! 使われてる技術もそれに準じたものですっ!!」

『そうね。でももうこれからは違うわ。彼らは局の預かりになる。その貴重なデータが今後の世界の平和のために使われるの。
そうなると当然その使用者も局員である必要があるわね。オーバーSとそれに準じた要員が一気に二人・・・・・・うん、良い事ね』



二人・・・・・・もう誰が誰かとか考えるまでもない。どうやらフェイトは母さんの中では局を辞めていないらしい。



『そうだわ。フェイトがスカウトした事にしましょう。古き鉄を入局させたとなれば、評価もきっと元に戻るわ。
あの子の強情さと無茶苦茶さには辟易していたけど、こういう時には良薬ね。それで万事解決。よし、これでいけるわ』

「母さん、落ち着いてくださいっ! どうしてそうなるんですかっ!!」



声を荒らげると、喜ばしそうな顔をしていた母さんはまた悲しげ表情に戻った。それが余計に苛立ちを募らせる。



『・・・・・・なら、話して。もうこれ以上は見ていられない。フェイトも評判を落としたまま局員を辞めてしまった。
それも今まで培って来たものを取り返す事も出来ずに。ランスター執務官補だって同じよ。お兄さんとの夢はどうしたの』

「本人がそこの辺りをもう一度考えたいと言っているんです。
もちろん僕とフェイトも今後相談に乗り続けるつもりです」

『そう。でもそれは間違いなのよ。フェイトもそうだけどランスター執務官補の力も今の局には絶対に必要なの。
クロノ、ありえないわ。どうしてそこを認めてしまうの。私達は世界をより良い形にしなければならないのに』



言っている事がめちゃくちゃだ。ランスター執務官補の志望は本人のためのものだというのに。なぜそんな事を悲しげに言える。



「ですから事情があると言っているじゃないですか。ランスター執務官補もそうですし、僕達もです」

『その事情に巻き込まれているなら力になりたいの。お願い、私だってこんな事はしたくないのよ。
でもあなた達が何も話してくれない上に不手際まで目立って・・・・・・もうしょうがないじゃない』

「それは本当に無理なんですっ! なにより、それなら六課の事はどうなるんですかっ!!」



さすがに今この状況でそれをやられるとマズい。なので遠慮無くそこをツツいて止めようとした。

だが・・・・・・それは悪手だった。母さんの表情が一気に険しくなってしまった。でも僕は言葉を続ける。



「母さんとて六課の事は『正しい』と言っていたじゃありませんかっ! それと同じ事ですっ!!
それと同じように、僕達も今世界を守るために正しい事を」

『正しい事なわけがないでしょっ!?』



母さんは鬼の形相でそう叫んで、僕の言葉を止めた。というか・・・・・・今、震えが走った。



『今のあなた達と六課の事を一緒にしないでっ! あの時私は正しい事をしたけどあなた達は違うのっ!!
ただ周囲を戸惑わせて振り回して勝手をして裏切り続けているだけっ! あなた達は間違っているわっ!!』

「それはあの時の僕達もでしょうっ! 六課の部隊員達を局の都合で」

『黙りなさいっ! 私達が間違っているっ!? そんなのは嘘よっ!! そうよ、嘘だわっ!!
あの子の言う事は嘘なのよっ! 私達は間違っていないっ!! 正しい事をしたっ!!』



母さんは視線を落として、両手で頭を抱えて震え出す。



『そうよ、正しい事をした。あの時ああしてなければ世界は壊れていた。あの人やみんなから預かった世界は壊れていた。
なのに・・・・・・そうよ、なのにそれを信じられないあの子がいけない。私は悪くない。私はなにも悪くなかった』



その仕草がとても怖く感じて、僕は何も言えなくなってしまった。それで母さんは両手を外して、顔を上げた。



『・・・・・・もういいわ。あなた達が何をしてようと関係ない。というより、もう手遅れよ。
あなた達の無駄な努力の結晶は接収済み。その上であの街に居る全員すぐに本局に戻ってもらうわ』



接収・・・・・・まさか、こうやって話している間に母さんの権限で人を動かしている? さすがに腹が立ってきた。



「母さん・・・・・・正気ですかっ! 事件は既に起きているというのにっ!!
このまま放置すれば、JS事件並・・・・・・いえ、それ以上の悲劇が起きるんですよっ!!」

『だから私が、局の仲間達が力を貸すと言っているじゃない。そもそもそこでGPOなんかに頼る時点で間違っているわ。
さぁ、分かったら話しなさい。局の仲間を、変わってきた組織を信じて話しなさい。GPOや聖王教会の前に私を信じなさい』

「彼らはこの問題に非常に近い位置に居るんですっ! 協力の流れは当然でしたっ!!
それにこの問題は局の大半の人間が対処不可能ですっ! もう恭文達に任せるしかないっ!!」



そう言っても、母さんはやはり悲しげに首を振る。



『嘘よ。クロノ、局は本当に変わってきているわ。JS事件の時とは違う。どうしてそれを信じられないの。
あの子のようになるのは間違っているわ。あぁそうだ、フェイトにもそれを教えないと』

「母さんっ!!」



違う、そういう事じゃ・・・・・・今の母さんは完全にトチ狂ってる。

どうしてこうなったんだ。というより、母さんは笑いながらも僕を見ていない。



『それが出来ないのなら、きっと解決しなくてもそれはしょうがない事よ。だってあなた達は間違っているんですから。
分かったら・・・・・・反省して全てを話しなさい。仲間達を、私を信じてね。それが正しい道。クロノ、そう教えたでしょう?』

「信じられるわけが・・・・・・信じられるわけがないでしょうっ!!
いきなりこんな事をするあなたを、誰も信じられるわけがないっ!!」

『クロノ、残念だわ。正しい手を取る事も出来なくなっているなんて・・・・・・可哀想に』




















All kids have an egg in my soul



Heart Egg・・・・・・The invisible I want my






『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第117話 『Meaning of trust/決戦の舞台を目指せっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、アタシも一応は魔導師。自分で作った装備関係の調整とかする程度にしか魔法使わないけどさ。





だからあたしもデバイスがあったりするわけですよ。だからそのデバイスを使って、こんな事をしたりする。










「き、貴様・・・・・・えぇい、公務執行妨害で逮捕」

「アタシとおばあちゃんの作品に触るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



右手に持った分厚い真紅のカバーと金の金具の装飾の本を思いっきり右薙に振るって、この時間の管理局員の肩に叩きつける。

なんか鈍い音がしつつも最後の一人はアタシが腕を振り抜くと地面に倒れて動かなくなった。



≪あの、キアラっ! お願いだからあたしをこういう風に使わないでって言ってるよねー!!≫



あ、この子の名前はネクロノミコン。魔導書型のデバイスで、未来の時間のおばあちゃん作。アタシの大事な相棒。



「問題ない問題ない。無粋な輩は」



時計回りに回りつつ後ろに振り向いて、さっき左腕をへし折ったバカその○の顎に向かってネクロノミコンを逆風に打ち込む。

すると顎が砕けて口から血を流しながら、ソイツは後ろ向きに倒れた。・・・・・・やっぱこれくらいしないとダメだねー。



「地獄へ落ちるべし」

≪だから使い方間違えてるってー! それで問題は何一つ解決してないからっ!!≫

「だから気にしちゃ負けだってー。・・・・・・おばあちゃんっ! ヒロリスさんサリエルさんにマリエルさんっ!!」

「あいよー! どっちも回収完了っ!! すぐに出れるよっ!!」





さて、現状を説明しよう。みんなでユニゾウルブレードとインフィニティ・ガンモードの調整をしていた。

そうしたらいきなり10数人の局員が入ってきた。で、それらを接収するとかいきなり言ってきた。

なお、指示を出したのはどうもリンディ提督・・・・・・アタシらの時間だととっくにお亡くなりしてるおばあちゃん。



そこで不当開発とか技術提供の義務とか色々言ってきてアタシ達の作品を奪おうとしたので・・・・・・ぶっ飛ばしました♪





「まぁ無茶振りにも程があるし、こっちの正当性はすぐに認められるでしょ。大丈夫大丈夫、権力者数人味方にしてるし」

≪それまでは私達犯罪者同然だよねっ! キアラちゃん、そのキレやすい性格は直そうよっ!! バック・トゥ・ザ・フューチャー100回見てっ!!≫

「え、既に200回は見てるけど



マイケル・J・フォックスが大好きでさー。てゆうか、あの映画見て科学者になりたいと思ったくらいだし。



≪そうでしたー! でもこれはダメだよっ!! そこが証明されるまでヒロリスさん達や向こうのおじいさん達に迷惑がかかるって言ってるのっ!!≫

「ネクロノミコン、もういいっ! てーか俺こういう奴だって知ってたわっ!!
恭太郎とカラオケでゴタゴタしたってのを聞いた辺りからなっ!!」



む、サリエルさんがなんか失礼な事を・・・・・・アタシ基本普通なのに。それが不満でつい頬を膨らませる。



「とにかくこの無駄な横暴は、全部片づいたら俺とアコース査察官の方で潰しておく事にする。
フェイトちゃんとクロノ提督達には悪いが・・・・・・あの時代遅れはここで消えてもらう」

≪きゃー! サリエルさんもキレてたー!! というかその怖い目はやめてくださいっ!!≫

「でもどうしますっ!? まず現状その『後』が来るかどうかが問題なのにっ!!」



おばあちゃんが慌てて言うように、まずそこがあった。それに・・・・・・実は問題が一つ。



「なによりインフィニティ・ガンモードはともかく、ユニゾウルブレードはまだ調整がっ!!」



まず一つ補足。今おばあちゃんが言っているインフィニティ・ガンモードは、今日の明け方に最終調整込みで完成しました。

それでもう一つ。実は・・・・・・ユニゾウルブレード、まだ完成してません。てへ♪



≪向こうでやるしかねぇな。時間がかかっても何がなんでもだ≫

≪最終決戦、どうなるか分かったものではありません。一刻も早く完成させなければ。
ネクロノミコン、我らも出来る限り力を貸す。すまないが我らへの指示出しを頼む≫

≪あ、はい。金剛もアメイジアもよろしくお願いします。というか・・・・・・キアラがキレやすくてごめんなさい≫

≪問題ない。・・・・・・それとマリエル技官、すみませんが我らとご一緒に。このままではご迷惑をおかけしますし≫



あ、ちなみにマリエルさんも居るんだー。それでそれで、お菓子奢ったりしてくれた。

未来の時間の話もすぐに信じてくれたし、ほんと良い人だよー。そんな良い人のマリエルさんは、部屋の隅で困った顔をしてる。



「それは構わないけど、どうやって向こうに? この調子だと転送ポートも押さえられてるかも」

「あ、そうですよね。リンディ提督なら絶対に私達を逃がさないようにするだろうし」



その言葉にアタシはヒロリスさんと顔を見合わせて・・・・・・それからすぐにサリエルさんを見た。

サリエルさんも同意見らしく頷いた上で、戸惑った様子のマリエルさんとおばあちゃんを見る。



『当然、無断で長距離転送』

「「やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」」

≪まぁそれは分かってたけどよ。でもすぐに見つかるだろ。ほら、転移反応追われて≫

「あ、そこは大丈夫だよー」



そう言ってアタシは右手のネクロノミコンを軽くかざして・・・・・・あ、血が付いてるな。

その血をネクロノミコンを数度振るって払った上で、改めて肩まで上げてネクロノミコンをかざした。



「アタシが転送使うなら、今の管理局には探知出来ないよ。未来技術の恩恵ってやつ?
でも念の為にフェイトさん達も自宅から避難させないと・・・・・・まぁそこは後でもいいか」

≪今はここから脱出する事が優先だしね。もちろんすぐに向き合う必要はあるんだけど≫





ちなみにこれ、リースと咲耶も出来る技。というか、転移反応を残さないように長距離転移する事は可能なんだ。

確か・・・・・・この時間で活躍したらしいフッケバイン・バンガードっていう次元海賊がそれやってたかな。前に局の事件資料で読んだ。

なんかそいつらは古代ベルカのとんでも技術のせいで、そういう事が出来る巨大戦艦を持っていたとか。



つまり古代だろうが未来だろうが、現代の技術の穴を突けるだけの力があるならこういうのは可能なんだよ。



それで残念ながら、アタシにはその力がある。だからついつい不敵に笑いつつネクロノミコンをかざし続けるわけだよ。





「でも私達・・・・・・そうなると完全に逃亡犯だね。あはは、管理局クビかなぁ」

「おばあちゃん、大丈夫大丈夫。なんとかなるってー」

≪それキアラが言ったらダメだからっ! というか、キアラが殴っちゃったのが原因だよねっ!!≫

≪・・・・・・メガネガールの孫って、ぶっ飛んでるなぁ。ファーストアタックもためらいなかったしよ≫

≪そうだな。咲耶嬢やビルトビルガー以上だぞ≫










大丈夫、アタシは過去を一切気にしない。常に前向き常にポジティブ。終わった事は終わった事だよ。





というわけで、ネクロノミコンを開いて早速詠唱開始。面倒な事にならない内に逃げる事にしましょ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいっ!!」



現在、自宅でうちらは完全右往左往。この大事な時に・・・・・・あぁもうっ!!



「あのバカ提督、おとなしくバカ弟子とフェイトの結婚&ご懐妊のショック受けてるかと思ってたらマジやらかしてくれたしっ!!」

「もうどうするのー!? リンディ提督、私達が仕事を受けざるを得ないようにしてきてるのにっ!!」

「アギトを援軍に送るにしても、おそらく手近な転送ポートは押さえられています。このままでは」

「下手に無断転送すると、向こうに迷惑かけちまうしなぁ。
・・・・・・あぁもう、アタシも旦那と一緒に行っとけばよかったっ!!」





てーかこれはマズい。しかもクロノ君がまた悪癖やらかしてくれたしなぁ。

クロノ君には、まぁまぁ今までの色んな話を見て分かるやろうけど・・・・・・一つとんでもない欠点がある。

それは相手の神経を意識せずに逆撫でしてもうて、ハンパじゃなくキレさせてしまう事。



ここの辺りの例としては、アレが適切やろうか。恭文がゆかなさんのライブ行くために仕事キャンセルする時。

それをダメだと咎めて口論になって、結果『生まれて来てごめんなさい』状態になった。

てーかそれやらかしてうちやマクガーレン長官に泣きつかれても困るわ。うちらマジ出張行かんといけんのに。





「カリムがなだめてくれとるからそれで落ち着いてくれると嬉しいけど・・・・・・微妙やな。
いや、何がなんでも落ち着いてもらわんと困る。これは職権乱用しまくりやんか」

「そっちはアタシらじゃどうしようもないし・・・・・・はやて、どうする?
どっちにしたって出張には行かないといけない」

「もうそうしなきゃ現場の収集がつかないのは確かみたいやしなぁ」



てーかそうする段取りで話動いてて、うちら全員がこのために時間取ってたのも全部承知の上で振って来てる。

くそ、マジでやり方がエグいで。てーかとまとFSのあれこれで多少は省みたんとちゃうんかい。



「はやてちゃん、GPOのマクガーレン長官達の方は」

「GPOは元々の仕事があるから難しいよ。てーかシルビィさんとナナちゃん送ってくれただけで御の字や。
なによりこの調子やと、リンディさんはGPOの動きも制限かけとる可能性があるで。転送しようとしても出入り禁止ーとかな」

「ありえるな。それで自分に事情話さなくちゃそれは解除しないとかだろ? なんだよ、それ」



だからこれ以上は無理言えん。・・・・・・思いっきり眉間にシワが寄ってしまう。

GPOは恭文とリインが居たからこその善意の協力者や。それやのに迷惑かけて・・・・・・マジすんません。



「でもアギトだけでも向こうに向かわせないと」

「あぁ。シャーリーさんとその孫がせっかく作ってくれた新装備の効力が発揮出来ねぇ」

「四体のユニゾンデバイスが居て、初めて全性能がオープンになるって話やしなぁ。・・・・・・あぁもうっ!!」





恭文、あむちゃん、みんな・・・・・・マジごめん。うちら偉そうな事言いながらホンマに何も出来んかも知れん。

特に唯世君はゴメン。うちが出した無茶な問題、ちゃんと向き合って解いてくれたんに。

頭を両手で抱えてリビングのソファーに座っていると、突然に着信音が響いた。コレ・・・・・・なのはちゃん?



うちは頭痛いのを抑えつつ携帯端末を取り出して、操作した上で空間モニターを展開させた。





『もしもしはやてちゃん? 全く・・・・・・どうして黙ってたのかな』

「はぁ?」



画面が展開するなりいきなり少し膨れたようにそう言ったなのはちゃんに、つい生返事を返してまう。

画面の中のなのはちゃんの背景は家の中・・・・・・てーかなのはちゃんの自宅やな。あ、隣にヴィヴィオも居る。



「あの、なのはちゃん。悪いんやけど今取り込み中で」

『すみません、はやてさま。私は止めたのですけど』



あ、咲耶っ! なんか画面の横から顔出して来てるっ!!

てゆうかなのはちゃん、よう見たらちょお怒った顔で・・・・・・あ、まさかっ!!



『さっき咲耶からぜーんぶ聞いたよ? 恭文君とガーディアンのみんな、大ピンチなんだよね。
地球のイースター社の行動のせいで、みんなのこころのたまごに×が付くかも知れない』

「な、なんでアンタ・・・・・・・咲耶、アンタなんでそっち居るんっ!? フェイトちゃん達はどないしたんよっ!!」

『増援が必要かと思いまして。ちょうどお休みだったそうなので、私の判断で引っ張る事にしました』

「いやいや、引っ張るってどないして」



そこまで言って、うちは固まった。・・・・・・確かコイツ、発言はともかく未来のユニゾンデバイスやったな。

じゃあじゃあもしかして・・・・・・うちは顔を近づけて、咲耶の事をガン見する。



「咲耶、もしかしてこっちのサーチャーとか装置とかに引っかからんように転送出来るんか?」

『えぇ。失礼な言い方ですが、そこの辺りのセキュリティの水準は私達の時間の方が上です。
なので面倒になっても困りますし、反応が掴まれないように少々手間をかけて転送を』

「ようやったっ! それならなのはちゃんとヴィヴィオ連れてすぐうちに来るんやっ!!」

『・・・・・・はい?』










うっしゃうっしゃっ! 運はうちらに向いて来てるでっ!! これならアギトは向こうに送れるっ!!





・・・・・・あ、フェイトちゃんにすぐに現状連絡せんとヤバいな。リンディさん直接乗り込みそうやし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



魔導師組はニムロッドさんの車。蒼凪君とリインさんを除くガーディアンは二階堂先生の車に乗車。





市街地をあくまでも安全運転で大型の4WDと乗用車は道路を走る。それで自然と焦りが募ってくるのが辛い。





そんな焦りをごまかすように、僕は助手席から運転席の二階堂先生と少しお話。










「・・・・・・御前の正体かぁ。あー、確かにそういう事情込みなら怪しくなっちゃうね」

「えぇ。というか、二階堂先生やゆかりさんはイクト兄さんのあれこれは」

「実を言うとそこまで詳しく知ってたわけじゃないんだよ。あ、少なくとも僕はね? 正直知りたいとも思わなかった。
てゆうか、僕達はいわゆる召使いだったしね。召使いはご主人様の事情には深く立ち入らないものなんだよ」

「納得しました」



今までの話だと御前の正体は本当にトップシークレットという感じだったし、しょうがないのかな。

特にイースターは星名専務が暴君として居る感じだから、立ち入れないと言った方が正解かも。



「でも星名専務の家族・・・・・・うーん、やっぱり聞いた事ないなぁ。あの人仕事の話しかしないし」

「プライベートで仲良くなったりとかもない・・・・・・わよね」

「今までのお話を聞く限りでは絶対ないよねー。でもでも、それ寂しくないのかなぁ」



横目で後部座席を見ると、結木さんが口に右の人差し指を当てて困ったように首を傾げていた。



「自分がダメだと思った子をみーんな切り捨てていったら、最後は一人ぼっちになっちゃうよ?
御前って人も同じだったら、この計画で失敗したらさよならしちゃうかも知れないし」

「そういうのが分からない人なんじゃないの? 星名専務ってさ。もしくはそういうのでも寂しくない」

「・・・・・・なぎひこの言う通りかも。あたしあの時話してて、そんな感じしてた。
こころが栄養不足起こしてて寂しいって感じ。怒りよりむしろそういう風に思ってた」

「寂しい・・・・・・かぁ。同じ大人だった僕からすると、色々突き刺さるお言葉だねぇ」



目の前の交差点の信号が赤になって、車は白線の前でゆっくりと停止する。というか、二階堂先生が停めた。



「ね、もし星名専務がそういう人だったらどうする?」

「え? 先生、それって」

「例えばの話。僕やみんなが知らないだけで、実は悲しい事があってこころの栄養不足とやらになった。
でも当然今までやってきた事は何も変わらない。僕がやってきた事が何も変わらないのと同じように」



二階堂先生は振り向いて、後ろのあむちゃん達を真剣な目で見ていた。



「もしそうだったら、君達はどうする?」

「・・・・・・・・・・・・もしそうなら」



みんながつい固まってしまった中で、あむちゃんが一番に声を上げた。というか、拳を掲げた。



甘ったれんなって言ってぶん殴ってやるっ! なんにしてもまずそこからっ!!

「・・・・・・ケジメをつけるわけね。日奈森さん、君最初に会った頃よりずっと暴力的になってない?」

「二階堂先生、そこは言ってやるな。てーか分かるだろ? 大体アイツのせいだ」

「うん、分かる。分かるけど・・・・・・時の流れって、残酷だよねぇ。
僕、今の日奈森さんと敵対してたら絶対あの時みたいに狙ったりしないよ」










信号が青になって、また車は走り出す。ただ・・・・・・車内の空気が若干微妙になった。





ま、まぁ緊張し過ぎて硬くなるよりはずっと良いのかな。ほら、リラックスと集中は同じ意味だって言うし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



自宅でリースと一緒にみんなの帰りを待ちつつ、少し前に連絡が取れたアリサからの返信待ち。

・・・・・・だったんだけど、連絡して事情を説明してからきっちり2時間後。携帯に着信が入った。

時間もないのに改めて調べてくれた事に感謝しつつ、リビングのテーブルにつきながら左手で自然とお腹を撫でる。





ついクセみたいになっているけど、こういうの悪くないかな。

触ると、確かに温かさを感じるから。それは今みたいなシリアスな空気の中でも変わらない。

ううん、こんな時だからこそヤスフミとの夢を忘れたくないのかも。





こんな時だからこそ、この子達の事を忘れないようにしたくて・・・・・・でも、戦う決意はしっかりと持つ。。





これも今の私に出来る戦い。だからこの子にも付き合ってもらう。私は気持ちを固めて、アリサからの電話に出た。










『・・・・・・いや、遅くなってごめんね。過去の家族関係も前に纏めて調べておけばよかったわね』

「ううん、大丈夫だよ。というか、それを言ったらここまで気づかなかった私達に問題があるから」

『まぁかなり重要なとこだったしね。・・・・・・それで結論から言うと、ナギの睨み通りよ。
星名専務には、問題の政略結婚以前に結婚歴があるわ。同年代の妻と息子夫婦が居た』

「やっぱり」



ならその妻ないし息子夫婦が御前かな。そう考えると納得が・・・・・・アレ?

少し止まってアリサの言葉を頭の中でリピートして、一つ気づいた。



「アリサ、ちょっと待って。『居た』ってどういう事かな。どうして過去形で言うの?」

『簡単よ。三人とも車の事故で亡くなってるの。その事故は・・・・・・ちょうど6〜7年前ね』

「事故・・・・・・それって月詠或斗の失踪の時期と同じくらいじゃないかな」

『というか、その少し前ね。ちなみに星名一臣自体が高齢でしょ?
一之宮の家の親族関係でどうこうというのもないわ。親ともとっくに死別してる』



そう言えば母さんより年上だっけ。それで子どもや伴侶が居ないなら、年齢的にはそうなっちゃうよね。



「なら・・・・・・友人かな。学生時代からの親友とか、目をかけていた部下とか」

『ないない。てゆうかフェイト、アンタ分かってて言ってるでしょ』



つい苦笑してしまうのは許して欲しい。だって今までのやり口を考えると、ここが無いのは分かり切ってるもの。



『アンタも知っての通り、ワンマンな上にやり口が冷酷なせいで周囲からかなり嫌われてる』

「そこは学生時代から変わらず?」

『みたいね。その上同僚や上司を相当数蹴落として、かなり無理矢理に出世してる。
その結果がさっき言った通りの現状よ。コイツには基本、個人としての人望はない』

「あくまでもその立場・・・・・・専務でイースターの重役という立ち位置だからこそ、全員が従っている」

『そういう事よ。で、使えないのはバシバシ切り捨てていくから、アンタが言うように『目をかけてた』ってのもない』



それならその『御前』に位置する人が失敗したら、切り捨てて自分がトップになるから・・・・・・だよね。

でもそうなると星名専務の周りってもう誰も居ないんじゃ。もしかしてあの人、かなり孤独?



『ようするにアレよ、仕事自体は出来ても人を育てたりする・・・・・・後に繋がる行動が全く出来ない偏った奴ね』

「それはまた・・・・・・なんというか、色々突き刺さります」

『あー、そういやアンタも人材育成失敗しかけたんだっけ。
それではやてから『仕事上では信頼しない』って断言されたのよね』

「私は直に言われてないけど、なのはやシグナム達がね。でも・・・・・・うん、しょうがないよね。
ガーディアンのみんなと接してて改めて痛感したけど、人を育てて導くってかなり難しい」





とにかく星名専務の人柄というか、現状や周囲の人達の反応は理解出来た。

そうなるとヤスフミが立てた『御前は星名一臣の親族ないし親しい関係者』説は崩れたね。

まず御前という器に入れる中身そのものが存在しない事になっちゃうんだから。



だとしたら余計に気になる。御前って本当にいったい何者なんだろう。

やっぱりイースターの親族の縁者? でもそれが言う事を聞く理由ってなにがあるんだろう。

もしかしてその人にも脅迫かな。月詠幾斗君だけじゃなく、お母さんも脅してるだろうし。



ううん、それだと『御前のためにエンブリオを探している』という図式が成り立たない。

ならやっぱり御前という存在はただの嘘で、実際は星名専務がイースターのトップ・・・・・・でもそれもおかしい。

そんな嘘をつくメリットが思いつかないんだよ。自分より強大な存在を創り上げて畏怖を強めるため?



なんだろ、何か引っかかる。星名専務の人物像でそうする理由・・・・・・そうなってしまう原因が思い浮かばない。



やっぱりここは直にぶつかるしかないか。私は気持ちを入れ替えた上で、電話の向こうのアリサにお礼を言う事にする。





「アリサ、ありがと。これだけ分かれば充分だよ。やっぱり細かいところは星名専務にツッコむしか」

『フェイト、待って。確かに息子や妻、部下や友人関係は全滅よ。・・・・・・・・・・・・ただ』



また色々と考え始めた私の思考を遮るように、アリサが小さく呟いた。でも、そのままアリサは黙った



「アリサ、どうしたのかな」

『もしナギが考えてる通りだとすると、もしかしたらガーディアンのみんなには、それにアンタには相当キツいかも』

「いや、だから何が」

『それでも聞く覚悟がある? もしかしたらアンタは、過去の自分と向き合う可能性がある』



・・・・・・アリサがなんでこんな事を言うのか分からない。でも、それでも心配してくれているのは分かる。

今は私一人の身体じゃないし、だから余計に・・・・・・だね。私はまた、お腹を左手で撫でる。



「あるよ。私はヤスフミやあむ達が心置きなく戦えるように・・・・・・私なりの戦いをしていくって決めたから」

『・・・・・・分かった。なら落ち着いて聞いてね? それで気持ちを強く持って。特にアンタは妊娠中なんだし』

「うん。それでアリサ」

『星名一臣の死んだ息子夫婦には、子どもが居たの』



続いた言葉によって、私は少し固まってしまった。というか、それってつまり・・・・・・星名専務の孫?



『その子どもはまだ事件当時赤ん坊で、事故の巻き添えは免れた。
当然だけど縁者は星名一臣だけだから、彼が引き取った』

「なら、今は年齢的には大体小学1年生くらいだね」



大体ヴィヴィオと同い年・・・・・・1歳下とか? 遠い世界に居る私となのはの娘の顔を思い出して、自然に頬が綻んだ。

・・・・・・ただ、綻んだ瞬間にまた私は固まって、頭を高速回転。それで一つの結論に達した。



「アリサ、あの・・・・・・まさか」

『分かった?』



ここでその子どもの話をする理由は、たった一つしかない。アリサ自身も戸惑ってるのは・・・・・・声で分かった。



『ナギの言う通りに自分の縁者関係を御前という位置に据えて、イースターを完全に乗っ取ったとする。
もしこれまでの推理が全て事実となると、御前の正体は・・・・・・その星名専務の孫しか居ないわ』



その子どもが、まだ6〜7歳程度でヴィヴィオと同じくらいの年の子が・・・・・・世界的な企業のトップに立っている?

なら星名専務はイースターを乗っ取るためにそんな子どもを・・・・・・いや、冷静になれ。まだ気にしなきゃいけない事がある。



『こうなると政略結婚は自分のためじゃなく、その子どもを御前にするためかも知れないわね。
そう考えないと孫にイースターのトップを任せている理由が説明出来ないわよ』

「つまりその、その子を将来的なイースターの後継者に? でもまだ赤ん坊なのに」

『赤ん坊だからよ。少なくともその当時50間近な星名専務よりは将来があるでしょ。
最初はお飾りでいいのよ。大人になるまでにそれが出来るように教育していけばね』

「それは、洗脳に近いね」



自分の孫を・・・・・・家族を、イースターという企業を存続させるための道具にしてるかも知れないんだ。

それって絶対に良くない。私も同じような事をエリオやキャロ、ヤスフミにしてたから・・・・・・胸が痛む。



『そうなるわね。それでもしも星名専務の独断じゃなくて、本当にその子のためにエンブリオを探してたとする』

「星名専務はエンブリオを欲しがった孫の頼みだから会社の社員を総動員で・・・・・・エンブリオを探していた?」

『マジでこうなら、とんでもないジジバカよ。話に聞くアンタのあれこれと図式は全く同じかしら』





・・・・・・プレシア母さんは、死んだアリシアを蘇らせるために私にジュエルシード探しを命じた。

そこを思い出してつい表情が悲しげになって、隣に居るリースに心配そうな表情をさせてしまう。

でも・・・・・・あぁ、確かに同じだ。この図式にはデジャヴというか、物凄く覚えがある。



母さんは星名専務、アリシアが御前、私が二階堂先生や歌唄にゆかりさんとするなら、確かにそのままになるんだ。





『ただ探している理由がさっぱりなのよね。単純に子どもらしい願いがあるのか、それ以外か』

「でもアリサ、それなら」

『えぇ。それならその子がこころのたまごやしゅごキャラに×たまの事を知らないとは思えない。
そんな状態でも、その子はそういうのがちゃんと見えてる子なのよ。だからエンブリオを欲した』

「なら、悪い子じゃないかも知れないね」

『ここまでやらかしたのに?』



電話の向こうの呆れたようなアリサの声に、つい苦笑してしまう。ここで怒ったりしないのが、私の親友の良いところだよ。



「スゥちゃんが前に言ってたらしいんだ。しゅごキャラが見えるなら、悪い子なわけがないって」

『あぁ、あむのしゅごキャラの・・・・・・そりゃまた、説得力のある事で』



でもそれとはまた別の問題で・・・・・・その子はそこを知った上で、今までみたいな事をしてでもエンブリオを欲しているんだよね。

ううん、もしくはジジ馬鹿疑惑がかかっている星名専務の独断? ・・・・・・だめだ、ここは今の段階では判断出来ない。



「エンブリオを欲しがってる理由は、やっぱり直接確かめるしかないね。
・・・・・・アリサ、その子の名前は分かる? 通ってる学校とか」

『それが学校とかに通ってる形跡がないのよね。それで名前は・・・・・・あぁ、あった。
一之宮ひかるって言うらしいわ。ひかるは漢字じゃなくてひらがな』

「ひかる、君」





・・・・・・私はそこから何も言ったらいいのか分からなくなってしまって、ついお腹を撫で続けてしまう。

もしこれが事実だとしたら、本当にありえない。なにがどうしてこうなるのかさっぱり分からない。

いや、冷静になれ。これはあくまでも推測だし、確証も証拠もない。真実はまだ闇の中だ。実際に確かめるしかない。



なによりアリサが気遣ってくれたのに、イライラしたり考えこんじゃだめだよ。絶対に胎教に悪い。

だけどこんなの、悲し過ぎるよ。だってそれなら私達はずっと勘違いをしていた事になる。

この事件は最初から夢や『なりたい自分』の大切さを忘れた、悲しい大人達の身勝手な凶行なんかじゃなかった。



あむ達と同じ子どもで、だからこそ色んな未来を描ける存在の手で引き起こされていた事になる。

・・・・・・とにかくすぐにヤスフミ達に連絡しようと思っていると、後ろからドタドタと音がした。

というか、玄関に続く廊下の方から。それで私もそうだし隣のリースも一旦電話から意識を外して、自然と後ろを振り向く。



それと同時にリビングへ続くドアが開いた。その瞬間、本局に居るはずのメンバーが慌てた顔で入ってきた。





「フェイトちゃん、早速だけどお邪魔するよっ! てゆうかしてるっ!!」

「同じく早速だが逃げるぞっ! どこか安全なとこに一旦避難だっ!!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! ヒロさんもサリさんもどうしたんですかっ!! それにマリーさんまで」

「あのね、フェイトちゃん。非常に言いにくいんだけど・・・・・・リンディ提督が私達に圧力かけてきたの」



大きなリュックサックを背負っているマリーさんが申し訳無さげにそう言った。それで・・・・・・また寒気が走る。



「あ、圧力っ!? ちょっと待ってくださいっ! どうしてですかっ!!
おじいさんもフェイトさん達も何もしてないのにっ!!」

「してないから・・・・・・じゃないか? フェイトちゃんの現状もそうだが、ティアナちゃんの突然の進路変更もある。
この街での長期常駐に事情があるのは分かるが、クロノ提督もそれに伴うダメージ関係を一切フォロー出来ていない」

「だから母さん、私達の動きを押さえようとしたんですか」



それで自分が主導権を握って、私達の事を守ろうとしてくれている? 私の評判がこれ以上悪くならないように。

ティアの進路が元に戻るように・・・・・・なるほどなるほど。非常に大きなお世話を焼いてくれたわけだ。



「それで技術提供の義務があるとか言って、いきなりワケ分かんない事言って人をよこしてきたんです。
危うくインフィニティ・ガンモードもユニゾウルブレードも奪われそうになって・・・・・・それで」

「アタシの転送で本局から逃げてきたんだ。でもここもすぐに離れた方がいい。
あの調子だと・・・・・・多分装備だけじゃなくて人員、つまりフェイトさん達も押さえに来る」

「母さん・・・・・・そっか」



この状況でホントに・・・・・・ホントにやらかしてくれるね。よし、冷静になろう。今はキレるの禁止。



「安定期に入ってから殴りに行ってやる。今なら容赦なく殴れそう」

「フェ、フェイトちゃん・・・・・・まず落ち着け。気持ちは分かるが落ち着け。というか、ちょっとやっさん混じってるぞ?」

「大丈夫です。私、悪い子目指してますし」

「そういう問題じゃないと思うのは俺の気のせいかっ!?」



とりあえず私は電話に戻る。深く深呼吸をして、お腹をさすりつつ落ち着いて・・・・・・また声を出した。



「もしもし、アリサ?」



うん、いつもの声だ。大丈夫大丈夫。



『・・・・・・あー、うん。聴こえた。なんかすっごい聴こえた。ね、うち来る? もち向こうにバレないようならだけど』

「うん、そうさせてもらっていいかな。今アリサの家の犬達にすっごく癒されたい気分だし」

『えぇえぇ、もう好きなだけ癒されてちょうだい。好きなだけうちの子達に甘えていいから』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そんなこんなで時刻は既に夕方に差し掛かっていた。僕達は向こうがゴタゴタしてる間、当然関連施設の捜索。

ただ二階堂がイースター辞めてから半年以上経っているために、二階堂が覚えている施設の大半が空振りに終わった。

ただそれでも二階堂を責めたりは誰もしない。うん、当然だよね。むしろお礼言っていいくらいだよ。





ただそれでも・・・・・・それでも、良い感じで僕達は当たりくじを引いた。





そこは聖夜市の郊外に位置する古びたレンガ建ての洋館。その中には確かに最近まで人が出入りしていた形跡があった。










「・・・・・・よし、電気は通ってるっと」





二階堂が建物の中のブレーカーを入れると、それまで薄暗かった証明が一気に点く。

それで部屋の奥には、ボロい外観には不釣合いのデスクトップ型のパソコンが大きな机の上に数台置いてあった。

二階堂はそのパソコンの一つに近づいて、電源を入れる。それで・・・・・・しばらくお待ち下さい。



OSが立ち上がって画面が出てくると、その中にはあらぬ方向を指差して気合いを入れているゆかりさんが居た。

その目を塞ぐようにもう一つ新しいウィンドウ・・・・・・というか、パスワードの入力画面が小さく展開していた。

どうやらパスワードを入れないとこれ以上は進めないらしい。また念入りな。





「・・・・・・ちょっとちょっと、確かこの女って海里のお姉さんよね」

「あ、ナナ知ってたんだ」

「当たり前でしょ。戦技披露会の打ち上げ会で会ったんだから。で、なんでお姉さんがいきなり出てくるのよ」

「残念ながら僕もさっぱりだよ」



そんな会話をしている間に、固まっていた二階堂は呆れたように大きくため息を吐いた。

たったまま机の上のキーボードのテンキーを使って、右手で四つのワードを入力。それで認証された。



「やっぱり九十九の奴か」

「・・・・・・なるほど、九十九は海里君のお姉さんが好きなのねっ!!」

「あぁ、だからゆかりさんの写真を壁紙にしてたんですね。納得しました」



ディードどころかみんなもウンウンって頷いてるけど、納得出来ないのが一人居る。当然二階堂だよ。



「うん、その通りだよっ! でもニムロッドさん、なんでそこ即行で分かっちゃうんですかっ!!」

「あ、私運命を感じ取る事に人より長けているんです。だからこれくらいは余裕で」

「く、やっぱり蒼凪君の友達は基本マトモな人居ないしっ! フェイトさんもアレでヒドい天然だしさっ!!」

「うるさいわボケっ! それ言ったらおのれだって」



ヤバい、地雷を踏んでしまった。だからついつい涙目で二階堂を見てちょっと距離を取ってしまう。



「・・・・・・あ、ごめん二階堂。おのれはまず友達居なかったよね。あ、ごめんね。僕が悪かったわ」

教師として愛の鞭という名の拳を叩き込んでいいかなっ! 僕だって友達くらい居るよっ!!

「愛と勇気?」

違うからっ!!



二階堂はそう言い切ってから大きく息を吐きつつ、画面を見てキーボードを操作。

するといくつかの画面が一気に展開して、その中に何かの計測データっぽいのが見える。



「・・・・・・九十九の奴、僕が辞めた時そのままにしてるし。これ管理問題としてどうなの?」

「二階堂がこんな真似するとか思ってないんじゃないの?
向こうが司さんのフリーダムさを知らなきゃ予測出来る事だわ」

「あー、それなら納得だ。しかし・・・・・・コレはまた」

「何か分かった?」

「バッチリ。しかもとんでもなく大事だよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



必要な情報は掴めたので、全員で外に出て停めてあった車まで戻る。





そこで車に乗り込む前に、二階堂先生から大事なお話の時間です。










『・・・・・・ラジオの生放送?』

「そうだよ。その幾斗君がやった正体不明のキャラなり・・・・・・デスレーベル、だっけ?
そのヴァイオリン演奏をラジオで流そうって計画みたい。その放送が今日の夜7時からの予定」

≪でもでも先生、ラジオでヴァイオリンの演奏を流して×たまが抜き取れるものなの?≫

「そこは立証済み。実際に聴くよりも発生率は下がるんだけど、当然ながら広範囲にラジオは流れる。
それで×たま達もデスレーベルの演奏に引き寄せられるように集まってくるから、結果的に」

「プラマイゼロ・・・・・・いや、範囲がマイナスを補って余りあるって感じか」



恭太郎の方を見て二階堂が頷いた。それで僕達の今後の行き先が完全に決定した。



「あー、それと・・・・・・エンブリオの出現条件に訂正が加えられてたよ。エンブリオは」

「×たまを浄化した時に発せられる波長に引きつけられて出てくる?」

「そうそうそれ。・・・・・・蒼凪君、気づいてたんだ」

「昨日のあれこれを考えたらね。朝もみんなにその話してたから。さて、そうなると僕達が行くと」

≪相手の手に乗る事になりますね。向こうに浄化出来る能力者が居ない限りは≫



全くもって予想通りで、それをほくそ笑んで狙ってるのがとても腹が立つ。でも・・・・・・同時に安心もして、僕は笑った。



「でも、同時に勝算も出てきた」

「えぇそうね。それも私達にとってはかなり有利な勝算よ」

「恭文、てーかティアナさんもそれどういう事っすか」

「簡単よ。相手は私達に対して本気を出して攻撃出来ないのよ。
だって、私達が潰れたら誰が×たまを浄化するの?」



あむ達は軽く首を傾げてたけど、すぐに納得した顔になった。シルビィ達も同じく。



「うん、そこは僕も同感。ただ当然のように抵抗はかなり厳しくはなるよ?」

「だろうな。多少は有利になるってだけで、そこは変わらねぇよ」

「だからこそ、油断はせずに・・・・・・でも短期決戦って感じかしら。
もたもたしてたらエンブリオを確保されて終わっちゃうもの。みんな、そういう事だけど大丈夫?」

『はいっ!!』



シルビィが軽くしゃがみながらあむ達にそう聞くと、全員揃って頷いた。

・・・・・・話をしている間に、もう空が暗くなろうとしてる。今は大体5時前後だね。



「じゃあ二階堂、その放送が行われる場所って」

「いや、そこはちょっとデータになくってさ。でも大体の検討は・・・・・・あ、その前に」



二階堂は一旦真剣な顔を引っ込めて、ニコニコと笑い出した。

シルビィ達は怪訝そうにその顔を見るけど、僕はすぐに意味が分かった。



「ニムロッドさん達はともかく、ガーディアンのみんなはお家の人に連絡だね。夜遅くなっちゃうもの」










今見せている表情は、二階堂の学校の中での先生としての表情。というか、空気そのものから変わった。





・・・・・・やっぱり二階堂は二階堂であって、そして先生なんだなと思い知った瞬間だった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



みんなが次々と電話していく中、あたしは躊躇ってしまっていた。だって・・・・・・ほら、昨日の今日だし。

昨日も夜遅くなって、ママはともかくパパが大変だったしなぁ。送ってくれたザフィーラさん見て警戒しまくってたし。

ただ、それでも連絡無しでこのままというわけにはいかない。だから数度深呼吸してからうちに電話。





夕飯を作っていた途中だったというママに事情・・・・・・というか、ガーディアンの仕事だと『嘘』をついた。





繰り返しになるけど、昨日の今日心が痛い。あたしの話を聞いて黙ってしまったママの表情がとても気になる。










『・・・・・・分かった。パパには私から言っておくから』

「へっ!? あ、あの・・・・・・いいのっ!!」

『いいわよ。それに恭文君からもお願いされちゃってるしね。今日遅くなるの、幾斗君絡みなのよね』



あたしの嘘なんて、あっさり見抜かれてた。それが驚きで・・・・・・ううん、当然なんだ。

だって恭文、昨日あたしが一人でイクト探しに行くのママに許可取ったって言ってたし。



「あの、その・・・・・・ごめん」

『だから謝らなくていいのよ? きっとあむちゃんにとっては大事な事だと思うもの。
気をつけて行ってらっしゃい。・・・・・・ママは、あむちゃんの事を信じてるから』



その言葉が嬉しくて、あたしは・・・・・・あたしは視線を落として、また泣いてしまう。

昨日あれだけ泣いたのにまた涙が、止まらなくなった。



「ママ・・・・・・あり、がと」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



世界はいつだって、こんなはずじゃなかった事ばっかり。これはクロノさんの持論。





どういうわけかアリサ共々通信画面に出てきたフェイトを見て、そんな言葉を思い出してしまった。





てーかこの状況でやらかしてくれるとは。どうもあの人は致命的にKYらしい。










「・・・・・・フェイト、規制音がかかる暴言をあの人に言っていい?」

『えっと、やめて欲しいかな。ほら、胎教の問題もあるし』

『そうよ、今はやめなさい。フェイトの前なんだから。とにかく、フェイトはアタシ達でガードする。
シャーリーもそうだしサリエルさん達も居てくれるから、大抵の事は大丈夫でしょ』



画面の中のアリサが右側を見ると、脇にちょこっと出ているサリさんが頷いた。・・・・・・あ、説明遅れてた。

1年半前のはやてとヴェロッサさんの結婚式で、アリサもそうだしすずかさんもシャーリーやサリさん達とは知り合いです。まる。



『だからやっさん、お前はそっちの方に集中しろ。余所見して勝てるほど甘い勝負じゃないだろ。あー、それとティアナちゃん』

「はい」

『インフィニティ・ガンモード、調整完了したぞ』



隣のティアナが目を見開いて、一気に表情が明るくなる。何気に楽しみにしてたらしい。



『即で動かせるから安心してくれ。渡してた運用時の戦闘シミュレーションのデータ、やってるよな?』

「問題ありません。もう100点満点でバッチリです」

『なら現場に到着したら連絡くれ。キアラに転送魔法使わせて、リース共々一気に運ぶ』

「分かりました。ありがとうございます」



ティアナが画面に頭を下げた瞬間、何かのアラーム音のようなものが鳴り響く。

それはティアナとディードの相棒達から。二人は顔を見合わせながら懐から相棒を取り出す。



『それと×たま浄化プログラム、今リースが送った。運用方法のマニュアルも込みでな。
ツインブレイズでも使用可能だそうだから、ディードちゃんも確認した上でバシバシ暴れてくれ』

「あの、それはありがたいんですけど・・・・・・良いんですか? ほら、色々と問題が」

「あるのはリースや咲耶の反応を見て、ティアナ共々知ってはいましたけど」

『構わないそうだ。リースの奴、リンディ提督の暴走に完全にぶちギレてな。もう恐ろしい事になってるぞ』



・・・・・・あの時、ボウリング場でなぎひこを魔法で躊躇い無く撃ったリースの般若顔が頭をよぎった。

それはリインやディードも同じくらしく、顔が真っ青になっている。つまり・・・・・・フェイトの方を見ると、フェイトは困った顔で頷いた。



『確かにあの子・・・・・・凄い顔してましたね。てゆうかナギの暴言よりあの子のオーラの方が胎教に悪いわよ』

『全く同意見だ。あとユニゾウルブレードだが、もう少し時間がかかる。
本局の設備が使えればあっという間だったんだが、下手したら間に合わない可能性も』

「そうですか。なら死ぬ気で完成させて最終戦に絶対間に合わせてください」

『お前遠慮無くとんでもない要求するなよっ! 普通ここは『そんなの無くてもなんとかなる』とか言わないかっ!?』

「言うわけないでしょっ! それぶっちぎりで死亡フラグじゃないですかっ!!
もしくは使わざるを得ない状況が来るフラグじゃないですかっ!!」



なのでここはしっかり要求してフラグをへし折る事にしておく。それから・・・・・・息を整えて改めてフェイトを見る。



「それじゃあフェイト、ちょっと行ってくるね」

『うん、頑張ってきてね。それと・・・・・・あの』

「なに?」

『・・・・・・愛してるよ、ヤスフミ』



フェイトが顔を真っ赤にしてそんな事を言ってきた。

というか、僕も真っ赤。死亡フラグだと分かっていても真っ赤になってしまう。



『ふ、夫婦だしこういうのもありかなと思って・・・・・・でも死亡フラグっぽいからダメだね』

「そ、そうなっちゃうね。でもあの・・・・・・僕も愛してるよ、フェイト」

『・・・・・・うん』



画面の中にそっと右手を伸ばすと、フェイトも同じように伸ばしてくれる。画面越しだけど僕達の手が触れる。

それが嬉しくて、幸せで・・・・・・心の中が温かくなって、なんでも出来そうになる。というか、凄く幸せ。



「・・・・・・・・・・・・あの、もしもしっ!? お願いだからイチャつかないでもらえませんかねっ! ほら、みんなポカーンとしてるしっ!!」

『お前らバカップルさが結婚してからどんどんひどくなってるとは聞いてたけど、そこまでかよっ! 自重する心くらい持てよっ!!』

『サリエルさん、あとティアナも気にしちゃ負けよ。アタシはもう・・・・・・ザザザザザザザザザザ』

『あー! アリサちゃんの口から砂糖がー!! 人間の生体完全無視来たしっ!!』










そんなこんなで全員家への連絡は完了。ただおかしかったのは、みんなの親御さんの共通意見。

みんな『二階堂先生が居るなら』と言ったそうなのよ。本当に全員。

何気に二階堂は生徒だけじゃなく親御さんからも信頼されてるって事だね。生徒や同僚の評価は第103話を参照で。





ちなみに『あ、分かりますっ! そのよれよれのスーツにぼさぼさの頭が母性本能をくすぐるんですっ!!』って言ったバカはスルーしました。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



もう既に真っ暗になった街を走って僕達がやってきたのは、聖夜市郊外にあるラジオ局。その名は『FM Inter』。

ここは聖夜市にあるローカルのFM局で、二階堂曰くここもイースターの系列会社らしい。

ラジオで放送という事から、二階堂はここしかないと断言して・・・・・・普通に駐車場に入った。





既に敵地かも知れないのに僕達は普通に入って・・・・・・というか、案内された。その上で二階堂が局の人に話を聞いた。





その結果、二階堂もちょっと困り顔な事態が起きてしまった。そんな放送、全く予定にないらしい。










≪・・・・・・周辺をサーチしました。それっぽい人間は居ませんね≫

≪ネットに繋いで放送プログラムも確認したけど、それっぽいのはなかったの≫

「それでその犬に変身したお兄さんの鼻もだめ・・・・・・ならここじゃないのかなぁ。
でも聖夜市でラジオ放送でイースターって言うと、他に思いつかないんだけど」

「こうなったら強制捜査だよっ! イースターの事だから絶対嘘ついてるもんっ!!」

「いや、それはダメだ」



荒ぶるややを停めたのは、車に乗れる人数の関係でこいぬモードのザフィーラさん。なお、ディードが両手で抱えてます。



「えー、どうしてですかー!!」

「まずここに星名専務達が居るという確証がなければ結局無駄手間になる。
なにより騒ぎを起こして身動きが取れなくなっても意味がない」

「ややちゃん、私もザフィーラさんに賛成なの。いくらなんでもそれは乱暴過ぎよ。・・・・・・ねぇヨル君、あなたの宿主は」

「うぅ、ダメにゃ。近づいてもダメなのか、ほんとにここに居ないのかすら分からないにゃ」





そう言って泣きはじめたヨルを、シルビィは優しく撫でていく。それを見て全員揃って更に焦りが募る。

困った。というか、今更ながら思ったのよ。どうしてヨルは猫男があの状態でも無事?

それは多分・・・・・・猫男が寸前のところで『なりたい自分』や夢を諦めていないから。つまり折れない芯がある。



でもそれごと猫男がお亡くなりになる可能性があるのが現状。・・・・・・やっぱり、早く見つけてあげたい。

自業自得と言ってしまえばそれまでだし、これまでやらかして来た事は何も変わらない。

だけど・・・・・・本気で宿主を心配して涙を流しているヨルを見ていると、さすがにさ。僕もキャラ持ちだから。



とは言え、聖夜市全体のサーチをこっちで行ったとしても反応が掴めるかどうかは・・・・・・あれれ?



少し疑問が出てきたので、軽く右手を口元に当てて考え込む。その結果、非常に喜ばしくない可能性に気づいてしまった。





「ね、もしかして聖夜市には居ないとかかな。放送自体が出来ればいいわけだから」



二階堂の方を見上げると、二階堂も今の僕と同じように困った顔で少し視線を落とした。



「あぁ、それがあったか。でも・・・・・・もし本当に聖夜市に居ないとしたら少しマズいなぁ。
さすがに何の手がかりもなしじゃあ、どこでやるかなんて分からないよ」

「あの、恭文も二階堂先生も待ってっ! そんなのありえないじゃんっ!! だって放送するのってラジオだって言うし」

「それが聖夜市である必要は?」



あむは僕の言葉に固まってしまった。うん、答えられないよね。僕だって同じ質問をされたらそうなる。

なおエンブリオの事は理由にならない。だって×たまが出てくるのは日本だけじゃないだろうし。



「仮に聖夜市限定で流すにしても、方法はいくらでもあるよ。例えばどっかから中継してるのを電波に乗せるとか」

「・・・・・・あ、そっか。それならこの街に居なくて放送は流せるじゃん」

「もしくは・・・・・・向こうがこちらの行動を先読みして、嘘のデータを残したという可能性も」

「あー、ないない」



ディードの言葉を止めながら、二階堂は右手を軽く振る。



「専務は基本用無しに視線を向けるヒマすら惜しむ人だし、九十九はみんなの知っての通り三流だもの」

「では二階堂先生、やはりヴァイオリンの演奏が行われるのは別所という事でしょうか」

「多分ね。で、その場所がどこであっても一日あれば普通に行けるよ」

≪イースターは世界的企業。関連施設は日本だけじゃなくて海外にも多数ある上に手段も選べます≫



国内なら車なんかもあるし、海外なら飛行機チャーターくらいは余裕で出来そう。・・・・・・ヤバい、全然シャレに聞こえない。



≪さて、どうしますか?≫

「・・・・・・どうしようかねぇ。完全に行き詰まったしなぁ」



またヨルが不安げな表情をし出したので、僕も右手でヨルの頭を撫でる。するとヨルが驚いたように僕を見た。

やっぱりヨルのためにも早く見つけたい。このまま消えるのは辛過ぎるし。でも・・・・・・うぅ、打つ手がなくなっているのも事実で。



「・・・・・・あら、あなた達」





困り果てている僕達の横から、少し驚いたような声がかかった。

というか、すっごい聞き覚えのある声なので咄嗟にそちらを振り向く。

そこはちょうど関係者用の通用口らしく、そのドアの前に人が居た。



その人は女性で、赤いドレスに毛皮のコートを羽織ったおばさん。



年齢的に言えばリンディさんと同じくらいと思われるその人は、僕達と同じように驚きながらこちらを見ていた。





『・・・・・・・・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あ、あなたはっ!!』

「あむちゃん、こちらの女性はお知り合いかしら」

「というか、アンタ達全員よね。なにそんな驚いてんのよ」

そうっ!!



そのおばさんはこちらへ少し歩いて来て、腰に両手を当てる。

それから一気に胸を張って、大きな声で誇らしげに自らの名前を名乗った。



私がカリスマ霊感占い師っ! 冴木のぶ子よっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・専務、準備万端です。あとは時間までシステムの方確認しておきますので」

「あぁ。ついに・・・・・・ついにこの時が来たのだな」



未だ暗い夜空を見上げ、私は嬉しくなってほくそ笑む。もうすぐ、もうすぐだ。御前にエンブリオを手渡す時はもうすぐ。

だからこそ今、目の前で姿を変えた罪人には死ぬ気で頑張ってもらわなければ。



「さぁ、イースターのために思う存分働いてもらうぞ。・・・・・・イクト」










あの輝きを手にして、御前にお届けする。たったそれだけの事のためにどれほどの時間と金をかけた事だろうか。

だがようやくその努力が報われる。私はそれが嬉しくて、やっぱり笑ってしまう。ひかる、もうすぐだ。

お前の望む物全てを与えよう。金も、地位も、力も、名誉も、イースターも、そしてエンブリオでさえもだ。





暗い空と静まり返ったこの場所が、全ての決着をつける場所。これで・・・・・・長かった苦労の時間は終わる。




















(第118話へ続く)




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