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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第27話 『とある四人と一匹の年越しの風景。なお、今回は普通にそんな感じです』



「・・・キャロ、はい」



足元の台に立って、野菜を切っていた今日の相棒に、出来たものを渡す。

キャロが小皿に乗ったそれに箸をつけるのと同時に・・・。



「ほい、フリードも」



後ろでパタパタと飛んでいたフリードにも、同じものを渡す。



「・・・うん、美味しいっ!!」

「きゅくきゅくー♪」



・・・今僕が渡したのは、うちで余ってた高菜を、小麦粉で作った生地に包んで焼いたオヤキ。

メインデイッシュじゃないけど、小腹が空いてしかたないであろうちびっ子用に用意していた。準備には、もう少しかかるしね。



「んじゃ・・・これはキャロとフリードで食べていいから。作りながら、さっとつまんじゃって」

「でも、これから食事だよ?」

「前もってなんか入れておくと、胃が拡張されて、一杯食べられるのよ」



ま、限度はあるけど。とにかく、フライパンで丸く焼いて切り分けたそれの半分を、キッチンの脇に置いておく。当然、皿にのせた上で。



「わかった。じゃあ、いただきます」

「きゅくー」



作業を進めつつもオヤキに食いつく妹分を横目で見つつ、残りの半分を入れた皿を持って、リビングに入る。



「フェイト、エリオ。これ食べて、出来上がるまで我慢して〜」



リビングでは、コタツに入って・・・なんかくつろいでる二人が居た。ちょっとぐったり目で。

コタツは、普段はTVの前にあるソファーをどかせて、そこに設置。いや、やっぱこれでしょ。



「あ、ありがとー」

「というか・・・ごめんね。任せちゃって」

「いーよ。二人は食料調達という重要任務をこなしてもらったし」



うん、すごい量だけどね。床、抜けないよね?



「ま、落ち着くまでは僕とキャロにまかせといてよ。これ食べて、とっとと回復してて」

「なら、お言葉に甘えるね。・・・というか、これは?」

≪余り物で作ったオヤキ・・・地球の郷土料理ですよ≫



二人とも、まず手に取って一口。・・・どう?



「・・・これ、美味しいよっ! こう、複雑なんだけど、ピリッと辛くて」

「中に入ってるのは・・・高菜?」

「フェイト、正解。適当だけど、結構いけるでしょ」



なんにしても、気にいってもらったようだ。うん、よかった。



「んじゃ、エリオ。フェイトの分まで食べないようにね」

「そんなことしないよっ!」

「フェイトも、エリオに自分の分を渡したりしないで、半分こだよ?」





・・・そして、フェイトの頬に一筋の汗が流れるのを、僕は見逃さなかった。やる気あったんかい。

なんてやってると、時間が来た。僕はある方向を見る。・・・あるのは、デカイ業務用の炊飯器。

そう、買っちゃってた。うん、結構いいのをね。



美味しそうにオヤキにかぶり付く二人にそう言ってから、僕は炊飯器へと向かう。で、蓋を開けると・・・あぁ、綺麗に炊けてる。

お釜の中にあるのは、一粒一粒が立って、輝いているお米達。・・・美味しそう。見ているだけでお腹が空く。





≪マスター、楽しそうですね≫

「そう見える?」

≪はい≫

「そうだね、楽しいかな。・・・うん、楽しいよ。すっごく」










ちょこっと大変だけど、これが中々・・・ね。





・・・今日は、新暦75年・12月31日。





そう、ミッドチルダでも、大晦日なのだ。僕達も、当然年越しである。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第27話 『とある四人と一匹の年越しの風景。なお、今回は普通にそんな感じです』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・きっかけは、5日ほど前のフェイトさんと恭文の言葉だった。





大晦日と元旦は、恭文の家で一緒に過ごさないかと、誘われた。





最初は戸惑った。だって、フェイトさんと二人で居る時間・・・多く作った方がいいと思ってたから。





でも、恭文とフェイトさんが『家族一緒に過ごしたい』と、笑顔で言ってくれて・・・。僕もキャロも、それでオーケーした。





そんな訳で僕は今・・・なんか作ってます。




















「・・・お餅に、絹さや」

「エリオ、椎茸忘れないでね」

「うん」



油揚げに、その三種類を入れる。それを・・・。



「恭文、上手だね・・・」

「ま、先生が良かったしね」



カンピョウっていう細長い食べ物で、十字に縛る。これで・・・いい?



「うん、上出来上出来」

「でも、これなに?」

「餅巾着って言ってね。これもお鍋の具だよ」



それを聞いて、僕は疑問だった。だって、入れたらお餅がとろけそうだよ。



「だから、とろけない油揚げに入れるんだよ。ま、お餅はちょこっと出番は早いけど、ぜひ体験して欲しくてね」

「そうなんだ・・・」



恭文が『無茶苦茶美味しいから、楽しみにしてていいよ』と付け加えたのを聞きながら、僕も調理を続ける。

えっと、カンピョウはキツめに縛る・・・っと。



「そうだよ。じゃないと、中身が飛び出しちゃうから。・・・あ、エリオ」

「なに?」

「そんな力入れなくていいから。リラックスして」





言われて気付く。思いっきり力が入っていたことに。なので・・・深呼吸して、高ぶってた気持ちを落ち着かせる。





「あはは・・・。なんか、こういうの慣れなくて」

「・・・だったら、今の内に慣れとく?」



え?



「たまにこうやってご飯一緒に作る? エリオ、もうすぐ思いっきりアウトドアなとこ行くんだし、料理出来ないのはアウトでしょ」

「え・・・。でも、いいの?」



ただでさえ色々あって、忙しい感じなのに。



「だから、たまにだよ。ま、それにだ」



恭文が、作業の手を止めずに僕を見ながら、言葉を続ける。



「男の子同士だし、しっかりと交流していくのも・・・大事でしょ? 付き合いはこれからも続くんだし」

「・・・うんっ!!」

「んじゃ、ちょいあれこれ話そうか。また緊張しないように、軽い話をね」

「そうだね。うん、そうしよう」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・現在、なぎさんとエリオ君はリビングのテーブルを使って仕込み中。私とフェイトさんは、キッチンでお魚や貝類の仕込み中。

保護隊に居た時に教えてもらったから、こういうのはお手の物。というか・・・。










「・・・キャロ、本当に上手だね。私、負けてる」

「あの、そんなこと無いです。フェイトさんだってすごく手際いいですし」

「ありがと。まぁ、昔から切るのは得意なんだ。・・・貝類の処理は苦手だけど」










・・・なんて話しながら、調理を進めていく。かなりの量だけど、飲食店勤務経験者のなぎさん曰く『クリスマスイブの翠屋より楽』・・・とのこと。

というかなぎさん、あの時どこを見ていたの? 遠い目になってたし。





でも、あっちは楽しそうですね。作業しながら、色々話してるみたいです。










「そうだね。男の子同士だし、やっぱり波長が合うんだよ。あと・・・数の問題?」

「六課・・・というより、このコミュニティだと、男の子は少ないですしね。
それになぎさん、私やエリオ君にも、年上とかそういうことを抜きで、友達として接してくれますから」



・・・ほんの二ヶ月前は、名前を聞いていただけなのに、今は・・・違う。

うん、スバルさんやエリオ君じゃないけど、仲間で・・・友達。



「特にキャロは、そういう感情強いよね」

「え?」

「見てると、四人の中で一番遠慮が無いから」

「そ、そんなことないですよっ!!」





・・・この二ヶ月間、メールのやり取りも含めて交流してるから、こう・・・ついついなぎさんのヘタレな部分に目がいくように。



だってなぎさん、ツッコミ所がイッパイなんだもん。





「でも、私は嬉しいかな。ヤスフミが六課でキャロと友達にならなかったら、キャロのそういう遠慮の無いところ、見れなかったかも知れないから」

「フェイトさん・・・」



うぅ、いいのかなぁ。フェイトさんは、なんだか嬉しそうだけど。



「私にも、そうしてくれても、いいんだけどなぁ」

「えぇっ!? だ、ダメですよっ!!」

「どうして?」

「フェイトさんは、なぎさんと違ってヘタレじゃないですから」

「それもひどいね・・・」





別に嫌いとかじゃない。ただ、反応がこう・・・おもしろくて。(鬼)



あ、もちろんそれだけじゃなくて・・・。




「でも、ヤスフミはそういう部分だけじゃないよ?」

「分かってます。ちゃんと、お兄ちゃんなところもある。知ってます」



メールでやり取りしてて、私が本当に下らないことで止まった時、なぎさん・・・絶対に笑ったりしないで、最後まで聞いてくれる。

その上で、打開策を一緒に考えてくれる。・・・うん、お兄ちゃんだ。その、少し頼りないけど。



「・・・うん、ならいいんだ。あ、カキは終わったよ」

「こっちも鰤と鱈、終わりました。あとは・・・」

「鳥のつくねだね。それじゃあ、ヤスフミとエリオとフリードがビックリするくらい美味しいの、作ろうね」

「はいっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・今回は、チゲ鍋である。いや、具がフリーダムだけど。





スープも若干手抜きして、市販のものを使ってる。ま、旨みは具材からってことで。





・・・いや、四人と一匹だしね。ひとりはビックバンだし、量を考えると、どうしてもこうなって・・・ま、そこはいい。










≪・・・もうそろそろじゃないですか?≫

「そうだね」





下ごしらえが終了し、それを持ち寄ってコタツに集合。

で、ばかでかい鍋に火をかけて・・・なんやかんやで、具材投入からの時間を考えるとそろそろである。



なので、蓋を取ると・・・湯気と一緒に辛味を含んだ匂いが、部屋を支配した。



つか・・・美味しそうっ!!





「・・・恭文」

「言いたいことは分かるから、よだれを拭きなさい少年」



ま、とにかく・・・だよね。

僕が手を合わせると、フェイトもエリオもキャロも手を合わせる。・・・フリード、無理して翼を合わせなくていいから。



「それでは、みなさんご一緒に・・・」



せーのっ!!



『いただきまーすっ!!』

「きゅくー!」




















・・・赤いスープで満たされた鍋の中は、フリーダムだった。





豚肉に、鳥のつくねにカキに鰤に鱈。白菜、椎茸にしめじなどのキノコ類・・・ま、普通だね。





そこに、餅巾着がプラスされると、ちょっと自由を感じさせるのは、気のせいだろうか?










「でも・・・美味しいよっ!? は、はふ・・・」

「エリオ、そんなに慌てないで? お鍋は逃げないから」

「は、はひ・・・」





ま、気に入ってもらえたようでありがたい。でも、僕も気に入ってる。

あぁ、お餅のとろーんが・・・。絹さやと椎茸の食感と味で、単一的にならないのがすばらしい。



それと・・・。





「フェイト、キャロ。このつくね・・・ふわふわで美味しいよ〜」



程よく火の通ったつくねは、固すぎず柔らかすぎずの程よい食感。あ、軟骨も入ってるのが○。コリコリとふわふわのコラボがまた楽しいよ〜。



「きゅくきゅくっ!!」

「なに、フリードも気に入ったの?」

「きゅくー!」



僕とフリードが、はふはふ言いながら感想を言うと、二人とも嬉しそうに笑った。もちろん、美味しいのはそれだけじゃない。



「・・・私、思うんだ。チゲにカキって、凶悪だって。すごく・・・美味しいの」

「うん、それは分かったけど、カキばっかり取るのはやめてね? 数には限りがあるから」

「・・・なぎさん、フェイトさんのこと言えないよ。白菜やお魚やしめじばかり取ってる」

「だって、チゲだと淡白な食材がまた・・・って、僕はバランス取れてるからいいじゃないのさっ!!」










とにかく、そんな感じで鍋を堪能。大量に買い込んだ具材が、見事に僕達の胃袋へと消えた。





なので・・・。










「・・・やっぱり、締めはおじやでしょ」



炊いておいたご飯を投入。それをかき混ぜて、鍋の残りスープに混ぜる。

で、いい感じでほぐれたところに・・・上から溶き卵を、全体的にかける。あとは蓋をして、弱火でちょっと煮ればOKである。



「・・・楽しみだね。今日は一杯具材使ったから」



フェイトが普段と違って興奮気味に言うのも無理はない。・・・そうとう美味くなる予感がする。



「・・・でも、こういうのいいな」



ふと、呟いたのはキャロだった。そして・・・。



「そうだね。こう・・・『家族』・・・だよね。一緒にご飯を作って、一緒に食べて・・・」

「・・・二人がそう思ってくれるなら、私は嬉しいな。その、私・・・二人の保護者で、隊長なのに、あまり一緒に居られないから」

「いえ、そんなことないですっ!!」

「私もエリオ君も、大丈夫ですからっ!!」

「でも・・・」










・・・気づかい過ぎと心配性か。僕が入る隙、無いように感じるのはどうして?





そんな事を思いながら、親子のコミュニケーションに突入し出した三人はそれとして、鍋に視線を向ける。





・・・今年も終わりか。でも・・・問題は山積みだよなぁ。特にあの二人だよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・さすがに放置なんて出来なかった。なので・・・25日の翌日。復活したはやてと少し話した。










「・・・まぁ、アレだよ。ヴェロッサさんがどういうつもりだったか、確認しといた方がいいよ」

「いや、それはえぇよ。うち・・・気にしてへんから」

「思い切りしてるでしょうが。・・・ここだけの話、師匠達も気付き始めてる」



それとなく聞かれたさ。トボけるしか無かったけど。

原因は、イブの二日酔い。その前後のはやての様子がおかしかったから。つまり、今もおかしいのよ。



「でもな、ロッサには・・・気にするなって言うてるし」

「・・・あのね、ヴェロッサさんは関係ないよ。ま、重要要素ではあるけど」



はやての目を真っ直ぐに見つめる。その先にある瞳に、不安の色が映っているのは、気のせいじゃない。



「今、重要なのは・・・はやてがどう思ってるかじゃないかな。後悔、してる?」

「・・・分からんのよ」

「・・・なら、まずはそこでしょ」



一番アウトなことしてるし。分かんないのに『気にするな』とか言っちゃだめでしょうが。まったく・・・。



「はやては、今回の一件を自分がどう思ってるか分からない。後悔してるとも、受け入れられるとも」

「・・・そうや」

「まず、そこをハッキリさせよう? じゃないと、ずっと引きずるよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・一応は頷いてくれたけど、微妙だなぁ。というか、時間がかかりそうだ。





ま、しゃあないか。答えを出すのは、はやてとヴェロッサさんだしね。

僕が出来るのは、あくまでも出来うる限りちゃんとした形で、その答えが出るようにすること。





・・・うん、じれったくもあるけど、そこは・・・ね。





あとはヴェロッサさんだけど・・・どうしよう。はやてから聞いたけど、しばらく連絡取ってないっていうし。いきなり僕から話してもなぁ・・・。










≪マスター≫

「あ、もう?」

≪はい≫










・・・僕は、アルトの声に思考を現実へと引き戻す。料理はタイミングが大事。期を逃してはいけないのだ。





とにかく火を止め、鍋の蓋を開ける。そして僕の口から漏れたのはため息。だって、そこにあるのは・・・芸術だから。





スープの赤。卵の金色。お米の白。それが、グツグツを煮詰まり、一つの形になることで、満腹に近い腹に食欲を戻してくれる。










「はいはい、三人ともこっち見て」



お話中だった三人の視線が、僕へ向く。・・・訂正、鍋を開けた途端に、もう向いてた。



「・・・話は、これを食べてからでいいと思わない?」





当然、その言葉に異を唱える人間は居なかった。なので、僕も小ばちにおじやをよそっていく。もちろんフリードの分も。



そして、全員同時に口に入れる。





『ふわぁ・・・』

「きゅく・・・」










もう、ため息しか出なかった。お肉にお魚、貝にキノコに野菜の旨みが残ったスープ。それで作ったおじやだ。美味しくないわけが無かった。





そうして、全員揃ってほぼ無言で、おじやを完食した。なので・・・。










『ごちそうさまでした・・・』

「きゅくきゅく・・・」





この一言が出てくるわけである。






≪お粗末さまでした≫

「・・・アルト、どうしてそれをあなたが言ってる?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・なんか、グダーっとしてるの・・・いいね」

『そうだね・・・』

≪・・・マスターに感化されてますよ?≫

「きゅく・・・」





全員で後片付けを済ませたあと、揃ってコタツの中でゆったりしてた。というか・・・。





「フリードが頭の上に居ても、気にならないから、不思議だよね」

「きゅく・・・♪」

「フリード、なぎさんの頭の上、本当に気に入ったみたい。すごく安心するって言ってるよ」

≪・・・帰巣本能でしょうか≫



・・・ま、いいか。今、それを気にしてもつまんない。あと、帰巣本能は違うと思う。



「・・・来年も、こうして過ごせたら・・・いいですよね」

「うん、そうだね。こういう時間、絶対に持ちたい」

「出来るでしょ。一年に一回のことって考えればさ。・・・でも」



全員の視線が僕に集まる。ちとそれにビビったりしつつ、言葉を続ける。



「僕・・・居ても大丈夫?」





ポコッ! コツンッ! ゴスッ!!





「い、いひゃい・・・。つーかいきなりなにするっ!? グーが飛んできたんですけどっ!!」

「・・・ヤスフミが寂しいこと言うからだよ」

「そうだよっ! 恭文だって、僕達の家族だよ? 前に言ったよね」

「・・・なぎさんも、絶対に参加だよ? というか、会場はなぎさんの家だから」



みんな・・・。なお、殴った順に喋ってます。



「きゅくー!」

「あの、フリードっ!? 痛いから噛まないでー!!」

≪フリードさん、怒ってますよ? どうしますか、マスター≫

「分かったっ! 僕も参加するから、落ち着いてー!!」





・・・そんな風に、慌てて、フェイトとエリオ達が僕の様子を見て笑っている間に、年が変わった。



知らせたのは、付けっぱだったTVの時報。全員の視線がそこに集まる。・・・あの、三人に殴られて、フリードに頭噛まれながら年越しって・・・。





≪ま、らしいでしょ≫

「らしくないからっ! というか、皆も笑うなー!!」



なにやら腹を抱えて笑う三人に、初ツッコミ。というか、こんな年越し嫌だっ! お願いだから時間よ戻ってー!!



「・・・ヤスフミ」

「なに? というか、その涙目やめてっ!?」

「今年もよろしくね」

「・・・うん、よろしく」



・・・ズルい。いきなりニッコリ微笑んで言うんだもん。僕、なにも言えないじゃないのさ。



「なぎさん」

「恭文」

『今年もよろしくねっ!!』

「きゅくー!」

「うん、二人もよろしく。フリードもね」



頭の上のチビ竜を撫でつつ言う。・・・で、忘れちゃいけないね。



「アルト」

≪はい≫

「今年もよろしくね」

≪はい、よろしくお願いします。マスター≫










・・・こうして、激動の年・新暦75年は終わりを告げた。





今は、新暦76年の1月1日。新しい一年の始まりである。










「・・・さて、最初の挨拶と、なぎさんのおかげで初笑いも済ませたし」

「ちょっとっ!?」

「これからどうします? やっぱり・・・」

「・・・うん。予定通り、ゲーム大会しちゃおうか。ヤスフミ、準備出来てるよね?」



いや、出来てるには出来てるけど・・・。



「フェイト、知ってる? 桃○ってね・・・信頼関係壊すよ?」

≪そんなのは、あなたとはやてさんと高町教導官とヒロさんとサリさんだけですよ≫










だって・・・皆平気な顔して、エグい妨害を・・・。奴ら、コントローラーを持つと、人格が変わるどころか恐ろしくなるのよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・時刻は、午前5時前後。僕達は初日の出を見るために、海が見える場所・・・というか、マンションの屋上に移動した。

うちのベランダだと、見えるのはミッド地上の中央本部側・・・陸の方だ。海沿いは死角である。でも、ここなら水平線が一望出来る。





でも・・・さ。うん、でも・・・さ。










「負債・・・億どころか・・・兆・・・」

「ゴメン。僕、見てて面白かった・・・」

「面白くないからねアレっ! つーかどんだけやってもボ○ビー憑きっぱなしってどういうことっ!?」



いや、原因など分かってるけど。全ての原因は、さりげなく一位取りまくって、カードで妨害仕掛けてきた小さい悪魔だ。

そう、奴はコントローラーを持った途端に本性を出してきた。く、やっぱりはらぐ



「なぎさん、勝負は非情なんだよ? あと、私は腹黒くないからっ!!」

「どうして思考を読めるっ!?」

「まぁまぁ・・・。みんなで楽しめたんだし、いいんだよ」

「きゅくー」





・・・まぁ、楽しかった。ボン○ーとずっと一緒だったけど、ワイワイ言いながらゲームするのは、やっぱり楽しい。

でも、新年一発目でアレは嫌なんだよっ! 先行き不安過ぎるでしょうがっ!!



とにかく、次は絶対に勝とう。特にキャロだ。本気で潰す。





「返り討ちにするね」

「だからどうして思考が分かるっ!?」

≪分かりやすいんですよ。というか、マスター≫



なに?



≪・・・そろそろです≫

「あ、もうそんな時間?」

≪はい。・・・来ました≫





アルトの言葉に合わせるように、水平線から・・・昇ってくる。黄金色の光が。それによって、辺りの闇が光によってその姿を消していく。

今日は天候がいいから、くっきり見える。それが、嬉しかったり。



そうして、僕達四人と頭の上の一匹は、言葉無く、静かに、しばらくの間・・・それを見つめていた。





「・・・綺麗」










静寂を破るように呟いたのは、エリオだった。皆、その言葉に同意する。声やアクションはないけど、それでも・・・分かる。





今、僕達は全員、気持ちを一つにしているんだと。





そしてそれは、日が昇りきるまで・・・ずっと続いてた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・出来たよ〜」

『うわぁ・・・』





全員で初日の出を見た後、私達は部屋に戻った。そして・・・新年最初の食事。



そのメニューはというと・・・。





「えっと・・・これ、おせちでしたよね?」

「そうだよ。日本のお正月に食べる料理」



えっと、お正月で一家のお母さんが、食事関係の家事もお休み出来るように・・・だっけ?



「大体正解。だから、生ものとかじゃなくて、二、三日は日持ちするものばかりなんだ。で、こっちが・・・」

「お雑煮・・・だよね? 私、初めて見たっ!!」

「きゅくー!!」





そう、ヤスフミはお雑煮まで用意しててくれた。初日の出を見た後なら、身体が冷えてるはずだからと言って。



さっき運ばれてきたお椀の中には、紅葉の形に切られた人参に、白いかまぼこ。そしてお餅が3個入っている。





「桃子さん仕込みの白味噌仕立てだよ。数あるレパートリーの中でも、自信作っ!!」

「でもこれ、全部恭文だけで準備したの?」

「いや、おせちは買った物が多いけど・・・ま、せっかくだしね」





・・・うん、そう言ってたね。『せっかくだから、エリオとキャロとフリードには、日本のお正月の楽しみを、少しでも体験してもらおう』・・・って。



だから、材料調達や調理を急ピッチで・・・。





『あの、ありがと』

「いーよ。僕も本格おせちが作りたかったし。んじゃ、早く食べて? お雑煮冷めちゃう」

『うんっ!!』




















「・・・うん、お雑煮美味しいよ。いい味」

「でしょ? いや、桃子さん様々だよ〜」



お餅も、煮てるからすごく柔らかくて・・・ふにーっとしてて・・・。でも、昨日のお鍋とはまた違う。お汁が違うからかな? 優しくて、安心する味。



「キャロ、フリードはこれで大丈夫そう? 喉詰まったりしないかな」

「うん、大丈夫。なぎさんがお餅、細かく切ってくれたから」

「きゅくー」

≪美味しいと言ってますね≫

「ならよかった」





もちろん、お雑煮だけじゃない。ヤスフミが頑張ってくれたおせちも・・・。





「・・・あまーい。というか、これなに?」

「栗きんとんだよ。ふふ、これも作ってみたくてさ〜」



キャロが驚いているので、私も一口。・・・甘いけど、これくらいなら。



「こっちのは・・・あ、これは甘くない」

「煮しめ・・・煮物だしね。味はどう?」

「うん、美味しいよ。でも、少し味が濃いかも」

「うん、さっきも言ったけどおせちは、三が日の間の保存食も兼ねてるからね」



えっと・・・前に呼んだ本だと、そのために味を濃いめにしたり、今私が食べているなます・・・酢を使った料理を入れる・・・だったよね。



「なるほど・・・。これ、私でも作れるかな?」

「キャロの料理スキルなら、問題ないでしょ。保存を考えなければ、味付けも好きにしていいし」

「・・・そっか。これ、具体的にはどうやって作るの?」

「ざっとで言うと、材料をダシ汁と調味料で、煮汁が残らないように、時間をかけてじっくり煮るの。それで・・・」





そのまま、二人は煮しめを食べながら、料理談義に突入した。・・・やっぱり、キャロはヤスフミと距離近いかも。

というより、共通の話題が多いのかな。料理好きだし、それ以外の事も。ゲーム大会でも、ヤスフミ相手に大暴れしてたし、兄妹って感じかな。



うーん、私にもそうしてくれると、やっぱり嬉しいんだけどな。でも、キャロの中の私の立ち位置が、ヤスフミとはまた違うから、難しいんだろうけど。





「・・・恭文」

「どったの?」

「この黒いの・・・食べ物? こう、宝石じゃないよね?」



その言葉に、私もヤスフミもポカーンとする。そして、ヤスフミが嬉しそうな顔になった。



「エリオ、ありがとう・・・」

「え、なんで泣くのっ!?」

「だって・・・その黒豆、本当に苦労して・・・! 一回、シワがよったりしたし・・・!!」

≪相当苦労して作ってたんですよ。その成果を誉めてもらえて、嬉しいんです≫





黒豆・・・綺麗に煮るの、難しいしね。私も、リンディ母さんとアルフと一緒に挑戦して、失敗したことあるから、分かる。



・・・あ、これ美味しい。





「ヤスフミ、これ美味しい」

≪ほらマスター、現ヒロインさんが呼んでますよ≫



げ、現って・・・!



「新年早々いきなりなこと言うのは、やめてくれるかなっ!?」



心臓の鼓動が速くなってる。というか、最近こういうの・・・多いな。でも、いいことなのかも。



「・・・フェイト、アルトは気にしなくていいから。えと、どれかな」

「この伊達巻。すごくいい味付け・・・。あと、この昆布巻きも」



・・・あれ、ヤスフミ。どうして固まるの?



「・・・あー、フェイト。その・・・非常にいい笑顔で言っていただけたので、言いにくいのですが・・・」



ヤスフミの言葉で、頭がフル回転。そして気付く。ま、まさか・・・。



「それ二つとも、買ってきたやつ・・・」

「ご、ごめん・・・」

「あ、いいっていいって。というか、吟味して買ってきたから、美味しいと言ってもらえるなら嬉しいよ?」










うぅ、そう言ってくれるとありがたいけど・・・でも、恥ずかしいよー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・ねぇ、レティ」

「なに?」

「ナンパ・・・されないわね」

「あなた、何言ってるのよ・・・」



現在、私は予定していたレティとの旅行中。二人で水着を着て、ビーチで日光浴・・・なんだけど、気持ちいいわぁ。



「でも、こんな素敵な美女二人よ? 何も来ないのは、おかしいと思わない?」

「来ても困るわよ。・・・そう言えば」

「なに?」

「彼、試験はもうすぐよね」



・・・あぁ、そうね。なんというか、感慨深いし、ドキドキしているわ。一応、あの子の親ですから。



「・・・大丈夫なの?」

「大丈夫よ。六課で相当鍛えられてるんだし」



まさか、あの人のお弟子さん二人と付き合いを持っていたとは思わなかったけどね。でも、そのおかげで・・・。



「そういう意味じゃないわよ」

「え?」

「忘れたの? 彼・・・運無いじゃないのよ」



その一言で、心の中がざわつき始めた。というか、嵐が起こり始めた。



「嘱託の認定試験の時だって、フェイトちゃん相手で、魔導師をやめるやめないなんて話に発展したじゃない。それに・・・」

「・・・レティ、試験内容って、どうやって決まるんだったかしら?」

「基本的にはランダムね。でも確か・・・オーバーSクラスと一騎討ちなんてのも有ったわ」

「・・・間違いなく来るわね」










・・・1月10日。もしかしたら、とんでもないことになるかも知れないわね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・なんか、いっぱい食べて、いっぱい遊んじゃったね」

「そうだね。でも・・・良い夢見れそう」





時刻はすでに夜。というか、お休みの時間である。なので、全員パジャマ。



あのあと、羽根突きしたり・・・真っ黒になったけど。



お汁粉食べたり・・・エリオが凄い量食べて、あっという間に鍋が空になったけど。



書き初めしたり・・・どういうわけか『糖分』って書いたら、みんなからブーイングだったけど。というか、またフリードに頭かじられた。



だって、銀○好きなんだもん。あれ欲しかったんだもん。なお、『チャーハン』もダメでした。





≪昨日と今日遊び倒したわけですし、明日からは頑張らないといけませんね≫

「そうだね・・・」



試験、もうすぐだしね。うん、しっかりやろう。アレらももうすぐ完成だしね。慣熱訓練もしっかりやんないと。



「・・・それじゃあ、電気消すね」



黄色いパジャマ姿のフェイトが皆にそう言って、リビングの電気を消す。

そして僕達は、川の字・・・いや、一本線が多いんだけど、並べた布団に入る。



「じゃあ・・・みんなおやすみ」

『おやすみ・・・』

≪皆さん、良い初夢を≫

「くきゅー」










・・・なんか、いいな。





うん、家族・・・だよね。ハラオウン家で暮らすようになってからも感じてたけど、今感じてる気持ちは、それより少しだけ違って、強い。





自分の家族・・・か。その、今まではあんまり興味無かった。だけど・・・。





そういうのも、悪くないかも知れない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・鳥の声が聞こえる。そんな心地よいモーニングコールで目が覚めた。起き上がると、ちゃっと肌寒い。・・・え?





僕は固まった。原因は、みんなの布団。





キャロ・・・はいい。うん、今回は僕抱きついてないし。でも・・・えぇっ!?





や、恭文とフェイトさんが・・・同じ布団で寝てるっ!? なんでっ! どうしてっ!!





・・・パジャマは着てるから、変なことは・・・ないよね。というか、またギュってしながら・・・。





よし、これは夢だ。うん、夢だよ夢。嫌だなぁ、どうしてこんな夢見たんだろ。





よし、寝よう。そうすれば・・・普通だ。普通なんだ。うんうん。





そして、僕はまた布団に入った。目を閉じると・・・すぐに眠気で意識が沈んだ。




















そして、これからキッチリ2時間後。部屋が騒然となった。理由は・・・聞かないで欲しい。










とにかく、こんな感じで僕達の新年は、始まった。慌ただしくも静かに。だけど、楽しく。










・・・それではみなさんっ!




















『今年もどうぞ、よろしくお願いしますっ!!』




















(第28話へ続く)




















おまけ:胎動する新しき古き鉄




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・ゆっくりと腰を沈め、構える。





いわゆる居合いの形。腰のアルトに手をかける。





目の前から、白い魔力の弾丸が飛んで来る。それを見据えつつ、集中していく。





基本はたった一つだけ。斬ろうと思えば・・・全てのものは、理論理屈に常識をぶっ飛ばして、斬れる。





先生から教わった剣術の基本であり、極意。





僕はバカだから、こういう力の出し方しか出来ない。





だから、強く思う。強く信じる。その想いを、身体に、アルトに乗せていく。立ち塞がる全てを斬り裂き、今を・・・覆したいと。





ただそれだけを願い・・・思い・・・貫くっ!!





そして、僕はアルトを抜き放った。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・やっさんが斬撃を打ち込むと、魔力の弾丸は『6つ』に分かたれて、爆散した。





うむぅ、自主練してたとはいえ・・・ここに来て急速に完成度が上がったな。うし、これなら・・・。










"実戦でも使えるね"

"あぁ。・・・やっぱ、恋は人を強くするのかね"





色々吹っ切れたのが要因だろうけどな。うん、いい感じだ。





とにかく、俺はやっさんと、魔力弾を撃ち込んだヒロの所へ向かう。訓練の終了を伝えるためにだ。





・・・今日は1月の9日。そう、やっさんの試験を翌日に控えていた。なので、俺とヒロで最終調整をしていた所だ。




















「・・・これで、出来ることは全部やった」



俺らで協力して作ったアレも、もう使いこなせてる。

剣術技能も、見ての通り。

新型マジックカードも、バッチリだ。面白い使い方、構築したしな。



「あとはアンタ達次第だ。・・・やっさん、アルトアイゼン、気合い入れなよ」

「はいっ!!」

≪全力で行きましょう≫










おー、気合い入ってる入ってる。・・・でも、だな。





ちと感じたよ。やっさんはどんどん成長する。で、きっとそう遠くないうちに、俺もヒロも追い越される。





これが・・・若さってやつかねぇ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・いよいよ明日だね」

「・・・うん」



チキンソテーをつまみつつ、言葉に答える。そう、明日だ。うぅ、緊張してきた。

あ、お馴染みのスバル達とのお食事です。



「ま、頑張んなさいよ? アンタがダメだと、私達の試験の弾みにならないから」

≪・・・王道ですね≫

「なにがよっ!!」



多分、ツンデレ的な意味だと思う。



「・・・でも恭文、ここ数日どんな訓練してたの?」

「そうだよ。個別訓練とか言って、全然内容見れなかったし」

「ヒロリスさんもサリエルさんも、教えてくんないのよね。・・・ほんと、ヘイハチ一門はこそこそするの好きよね」

「・・・反論出来ないのが悔しい」





いや、まだネタバラシしたくなかったからなんだけど。





「ま、見てのお楽しみってことで。新しい僕とアルトの戦い、見せてやろうじゃないのさ」

≪決して作者が考えてないわけじゃありませんよ?≫

「いや、それ分かんないから。・・・はい」



ティアナがそう言って、僕のランチプレートの上に置いてきたのは・・・赤い魔王こと、生トマト。

いや、ティアナだけじゃない。全員が置いてきた。



「・・・ナンデショウカコレハ」

「恭文、私達・・・なのはさんから聞いたんだよ? 恭文が、ここに居る間にトマト嫌い、克服するって」



スバルの言葉で全てを理解した。・・・あいつっ! 逃げ道塞ぎやがったっ!! 家とスバル達との食事が、唯一の楽園だったのにっ!!



「というわけで、私達も応援することにしたの♪ こういうのは、愛ある協力が必要だしね」



すみません、愛ならもっと別の形で頂きたいんですが。・・・うん、無駄だよね。分かってた。



「・・・キャロ、悪いけどそこのマヨネーズ取って」

≪随分諦めがいいですね≫

「素直だと言って・・・」










・・・うん、やっぱり生のトマトは、赤い魔王だ。克服には・・・時間かかりそう。































◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、食事を終えてから・・・エリオと一緒にお風呂に入ってます。というか、今日はお泊まり。

試験会場へは、隊舎から向かう。しかしさ・・・。











「・・・いいお湯だね」

「うん・・・」



湯船広いしね・・・。うちのもそこそこだけど、これには勝てない。



「そういえば・・・」

「なに?」

「恭文、進路をどうするかとか、考えてる?」

「・・・うん」



バカやりつつも、そこはね。きっちりしてた。フェイトが相談に乗ってくれていたおかげである。



「じゃあ、局でしてみたい仕事、見つかったの?」

「うーん、そう言えばそうなる」

「なに?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・執務官」



小声になったのは、きっと気恥ずかしいからだ。うん。



「・・・そっか」

「・・・そうなの」

「でも、どうして?」

「やってみたい・・・というのとは違うけど、僕の通したいことに、一番近いかなと」





執務官は、基本自由行動だ。まぁ、あくまでも基本だけど、それでも単独行動の権限はある。

あと、普通の武装局員と違って、命令が無いと絶対に動けない・・・とかでもないしね。



ま、その自由さに見合うくらいに、試験は難しいけど。なんか、最近またその難易度上げるとかって噂で聞いたり。

なんか、JS事件の影響で、綱紀粛正するためとか。・・・ティアナ大変だなぁ。いや、他のとこでも、そういう動きが起きてるらしいけど。





「命令されなきゃ動けないは、付き合いきれないしね。自由さでこれかなと」

「あはは・・・恭文らしいや。でも、きっと大変だよ?」

「だろうね。身内に居るから、よく分かる」





『あの』クロノさんが一回。で、フェイトが二回落ちてる。合格率・・・筆記と実技があって、それぞれ15%以下だっけ?



単独での戦闘能力と、法務関係の処理を行うための膨大な知識。で、高い捜査スキル。それらが伴って、初めて出来る仕事ですよ。



改めて考えると、凄いね。うん、スーパー職業だ。





「・・・でも」

「なにかある?」

「ある。結構大きいのが」



・・・側に居て、守れないなと。なんというか、やっぱりそっちが・・・大きい。



「嘱託のままで、資格取るだけ取って、あとは自由に出来ればいいんだけどね」

「いや、それはさすがに・・・出来るのかな?」

「・・・どうだろ」



・・・あとで調べてみよう。補佐官は考えてたけど、執務官はノータッチだった。



「でも、なんか出来そうだよね。管理局って、意外と融通効く所があるから」

「人によるけどね。僕やエリオの周りの人達は、みんな頭柔らかいし」



あ、そう言えば。





「エリオはそういうの無いの? こう、やってみたいこと」

「僕は・・・具体的では無いかも知れないけど、やっぱり騎士として強くなっていきたい。うん、この2ヶ月は、特に気持ちが強くなった」



・・・どういうわけか、僕を真っ直ぐにみて、小さき騎士は口にした。



「恭文もそうだし、ヒロリスさんにサリエルさんを見て、僕より強くてすごい人達が居る。僕もそうなりたいし、なっていきたいと思った」

「・・・僕、そんなでも無いよ?」



資質では、隊長はおろかエリオよりも下だし。



「そんなことないよ、恭文は僕の一番近い目標なんだ。・・・あ、戦いだけじゃなくて、料理とか、そういう他の所でもね」

「・・・ありがと」



目標と言われて、それしか返せなかった。つか・・・気恥ずかしい。



「というわけだから・・・」

「うん?」

「試験終わったら、僕に料理・・・教えてくれるかな。この間、一緒に作って、すごく楽しかったから」



まったくこの気づかいボーイは・・・。いいって言ったじゃないのさ。ま、いいか。



「・・・いーよ。簡単にではあるけど、自給自足出来るようになってもらおうじゃないの」










どうやら、僕にもあるらしい。





誰かに教えて、伝えて、受け継いでもらえるものが。





それは、すごくちっぽけかも知れないけど・・・嬉しかった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、お風呂を出た。充分暖まった身体に流し入れるのは・・・これっ!!










『・・・美味しいっ!!』

≪コーヒー牛乳とフルーツ牛乳とはまた定番な。というか、腰に手を当てて一気・・・どこまで王道を突き進むつもりですか≫

「でも、こうすると楽しいよ? 『お風呂に入ったー!!』って気持ちになれるから」

「同じくー! というか、エリオは思考が日本に染まりつつあるね」

≪誰かさんの影響でしょう。間違いなく≫





・・・うん、覚えがある。すっごくね。



そして、僕達が飲み干したビンを、綺麗にした上でくずかご(ビン用)に入れると・・・男湯の入り口が開いた。

そこを見ると、居た。金色の髪にルビー色の瞳の・・・『女性』が。





「あ、ヤスフミ、エリオ。よかった、ちょうどお風呂上がりかな?」

≪・・・なにしてるんですかあなた≫

「え?」



いや、だって・・・。



『ここ、男湯ですよ? しかも、ここは着替えるところ』










僕とエリオの声がハモったのは、当然の事としていただきたい。うん、お願いします。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・あのね、僕とエリオだけだったからいいのよ? 着替え終わってたからいいのよ? そうじゃなかったらどうするのさ」

「はい、ごめんなさい・・・」



とりあえず、フェイトを談話室に引っ張って、お話です。まったく、このおねーさんは・・・。

というか・・・さっきから気になっていることがある。



「フェイト、その・・・大きいもの・・・というか、分厚い本の束はなに?」

「あ、これは最新の執務官の勉強用のテキストだよ。具体的には、過去の問題集と、法務関係の資料」

「はいっ!?」

「ヤスフミが執務官になるなら、これからちゃんと勉強しないといけないしね」



僕のために用意してくれたんだ・・・。この凄まじい重さを連想させる本の束を。



「あの・・・ありがと」

「ううん、大丈夫だよ。その、やってみたいことが絞れてきたのは、いいことだから」



・・・辛い。だって、その・・・えっと・・・。



「・・・あのね、ヤスフミ」

「うん・・・」

「もし、どうしてもやってみたいと思う時が来たら・・・私のことは気にしなくていいから、やっていいんだよ?」



見抜かれてるって、どういうことだろ。いや、分かるけど。



「きっと、それで我慢しても、いいことじゃないから。・・・大丈夫だよ。私、ヤスフミが不安にならないように、もっと強くなるから」

「フェイト・・・」

「あの、迷惑とか、そういう事じゃない」



フェイト、お願いだから顔赤くするのは止めて。僕も・・・赤くなるから。



「ただ、私のために、ヤスフミが我慢してるのは、嫌だから。・・・やらなきゃいけないと、そうしたいと思ったら、迷わず、躊躇わずにやる。誰のためでもない、自分のために。
それが・・・私の知ってるヤスフミなんだ。だから、迷わないで?」



・・・そうだね。それが僕だ。でも、だからこそ・・・だよね。



「うん、そうする。でも、フェイト・・・一つだけ、忘れないで欲しいんだ」



フェイトが、頷く。そして、瞳が言ってる。『ちゃんと、覚えてるよ』と。



「・・・僕の通したいこと、やりたいこと、居たい場所。その気持ちは、あの時から・・・変わってないから」



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・あの、前にも話したけど、騎士になりたいんだ」



思い出すのは、あの時の時間。具体的に言うと、第22話の後半。

胸を占めるのは、恐れと希望。若干恐れが強い。拒絶されるんじゃないかという恐れ。やっぱり、こういうのは慣れない。



「・・・そっか。確かにそれは、嘱託や局員は関係無いね」

「でしょ? それで、まだあるんだ。騎士になって、何をしたいかって話」



でも、ここからが重要なんだ。



「その・・・それでね。話が飛ぶんだけど、JS事件の時、後悔した」

「後悔?」

「・・・フェイトのこと、守れなくて」



瞬間、フェイトの表情が変わった。僕が何を言いたいか、分かったんだと思う。

そう、最終決戦の時に僕はフェイトを、守れなかった。折れそうに、壊れそうになってたのに、何も出来なかった。



「あの、ヤスフミが気にすることじゃないよ? あれは、私が・・・」

「そうだね。でも、何も出来なくても、側に居ることは出来たなって、考えた」





だからその・・・あれなんですよ。



『守りたいものがある。そのために剣を振るい、業を背負う覚悟があるなら・・・それが出来るものは、皆、等しく騎士』



・・・出稽古の時、シャッハさんが言っていた言葉だ。



そして、僕の所業は、騎士の所業だとも言ってくれた。あれから、ずっと考えていた。あの人の言葉も合わせて。



僕みたいなのを騎士とするなら、騎士としての僕の守りたいものは?

何のために僕は、業を背負う覚悟をする?

ここ最近の色んなことも含めて、ずっと・・・考えていた。





「そう考えて・・・分かった。その、僕が騎士になりたいのは、そうして守りたいのは・・・」





世界でも、そこに住む不特定多数の人達でもない。ましてや局でもない。守りたい今とこれからの中で、絶対に守りたいのは・・・。



フェイト・・・なんだ。



フェイトが泣いてたり、辛い思いをしてるのなんて、絶対に嫌だ。あの時みたいなのはごめんだ。だから・・・その・・・!





「ヤスフミ・・・落ち着いて?」



声は、目の前から。見ると・・・フェイトが顔を赤くしてた。だけど、それより赤いルビー色の瞳が、優しく僕を見ていた。



「大丈夫、私・・・ちゃんと聞くから」

「・・・うん」

「それで、なにを守りたいの?」

「・・・フェイトだよ」



ごめん、もう止まんない。



「あの、フェイトからすると迷惑かもしれないけど・・・」



つか、きっと・・・そうだよね。でも、言わなきゃいけない。絶対に。



「僕は・・・その・・・。例えば補佐官になったりして、フェイトのすぐ隣に居たい。
それで、フェイトが笑顔でいられる時間とか、フェイトの今とか、幸せとか・・・」





・・・うん、そういうのを、守りたい。





「フェイトの全部を守りたい。それが出来る、フェイトの騎士に・・・なりたいんだ。というか・・・なれたら、いいなと・・・」



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「気持ち、変わって・・・ないから」










・・・僕が一番守りたいもの。やっぱり・・・フェイトだった。





フェイトが笑ってないのなんて、絶対に嫌だし、何かあったら助けたい。





そこだった。僕がやりたいことは・・・そこだったのだ。

なんつうか、色ボケだよね。結局どんな御託を並べても、『好きな女の子を守りたい』だもん。





ただ・・・あれですよ。フェイトが僕をそう思ってくれない場合もあるなと、考えた。

他に好きな相手が出来る可能性だってある。・・・その時は、フェイトが幸せで、そいつがフェイトを守ってくれるなら、それでいいや。・・・泣くくらいは許してね?










「・・・うん。大丈夫、ちゃんと覚えてるよ。気持ち、伝わったから」

「うん・・・」

「それでね、ヤスフミ・・・気にしてるみたいだから、もう一度言うね」



え?



「・・・あの時の言葉、迷惑とか、嫌なんて、これっぽっちも思ってないよ。その・・・本当に嬉しかったの。
もし、私が嫌だと思うことがあるなら、私のためにヤスフミがやりたい事を我慢することだけなんだ」

「・・・ホントに?」

「ホントに・・・だよ。だから、そういうのはもう無し。いい?」



フェイトが、真剣な目でそう言ってきた。だから・・・頷く。

うん、不安だったから。いきなり過ぎだし、その・・・えっと・・・。



「・・・ヤスフミ?」

「わ、分かってるから睨むの無しっ! うん、大丈夫。というか、ありがと。そう言ってくれて、嬉しい」

「ならよろしい。・・・とにかく、明日だね」





うん、明日だ。多分、ここに来てからの全部が試される日。



やれることはやった。だけど・・・少しだけ、不安。





「・・・大丈夫。いつものヤスフミとアルトアイゼンで行けばいいんだよ。その・・・」

「その?」

「最初から最後まで、クライマックス・・・だったよね。うん、それで行けば、きっと合格するよ。
『戦いは、それが出来るくらいにノリのいい方が勝つ』・・・でしょ?」

「・・・そうだね。いつものノリで、徹底的にぶっ飛ばしていこうじゃないのさっ!!」










・・・こうして、始まった。





戦いと言う名の、嵐の1日が。





僕とアルトは、新しい自分達の力で、その嵐と立ち向かうことになるのだった。




















(本当に続く)




















あとがき



≪さて、一気に1月に突入です。今回のあとがきのお相手は、私、古き鉄・アルトアイゼンと≫

「意外と久々登場の、祝福の風・リインフォースUです。・・・みなさん、新年明けましておめでとうです」

≪おめでとうございます≫





(青いウサギと青い妖精、ぺこりとお辞儀。というか、二人とも晴れ着)





≪まぁ、新年ですしね。やってみたかったんですよ≫

「でも、ウサギに晴れ着は・・・カオスです」

≪気にしないでください。とにかく、今回の話です。・・・普通に年越しでした。そして、徐々にキャロさんとマスターの間で上下関係が・・・≫

「・・・恭文さん、弱いです」





(デフォルトです)





≪まぁ、ここはホントに普通ですからいいとして・・・おまけですね≫

「・・・これが有って、今までの反応だったですね。というか、これ・・・」

≪気にしてはいけません。というか、そこはフェイトさんがツッコむ所ですから。あとは、マスターの進路です≫

「執務官ですか・・・。でも、なっちゃうと、フェイトさんの側に居られないですね」

≪そうですね。なので、あくまでも候補として考えてるようです。・・・やっぱり、好きな人の側に居たいんですよ≫





(青い妖精、ニヤニヤしながら納得。というか、二人ともニヤニヤ)





≪ま、こんな無茶を受け入れてくれるフェイトさんの器量には感謝ですね≫

「そうですね。・・・ということで、次回はどうなるですか?」

≪ついにAAA試験です。当然・・・ジョーカーを引きます。そして・・・≫

「そしてっ!?」

≪そこは見てのお楽しみですね。では、今回はここまでっ!! お相手は古き鉄・アルトアイゼンと・・・≫

「祝福の風・リインフォースUでしたっ! それでは皆さん、今年も・・・」

≪「どうぞ、よろしくお願いしますっ!!」≫










(二人、カメラに向かってお辞儀。
本日のED:『お正月の歌』)




















古鉄≪さて・・・いよいよですね≫

恭文「そうだね。・・・アルト、やる以上は、勝つよ」

古鉄≪もちろんです。やりましょう、新しい私達の戦いをっ!!≫

恭文「そして始めるよっ! 新しい僕達をっ!!」










(おしまい)







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あきゅろす。
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