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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第115話 『Death Label/悲しき宿命のバトル 後編』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「さー、ドキッとスタートドキたまタイムー。今回のお話は前回の続きだよー」

ミキ「ついにそのヴェールを脱いだイクトと謎の黒いたまごとのキャラなり・デスレーベル。
そんなデスレーベルとあむちゃん達との死闘、そしてその末にあむちゃんが見つける一つの答え」

スゥ「そんな答えに呼び寄せられるように、なんとなんと・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」



(立ち上がる画面に映るのは、振るわれる鎌と噴き出す赤い血。
切り裂かれ崩れ行く夢の楽園。そして・・・・・・眩い光)



ラン「うぅ、イクトどうなっちゃうのー!? というかというか、あむちゃんしっかりー!!」

スゥ「というわけで、後編スタートですぅ。みなさん最後までついてきてくださいねぇ。・・・・・・せぇの」

ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



相馬君の家を飛び出して、夜の街を全力疾走。ただ、アテも無しでどうにかなるわけがない。





なので焦るように右手で携帯を取り出して、色々心配してくれたというあの人に電話をかける。










「・・・・・・フェイトさん、僕ですっ! あの、すみませんでしたっ!!
電話、何回ももらったのに出なくてっ!!」

『ううん、大丈夫。それで唯世くん、あの』

「僕、八神さんやマクガーレン長官・・・・・・あと、フェイトさんから出された宿題の答えが分かりました」

『え?』



電話の向こうでフェイトさんが戸惑った声を出した。でもそれに構わずに僕は走り続ける。



「確かにあむちゃんは嘘をついてた。でもそれは僕も悪い。僕があむちゃんを追い込んでいた部分がある。
・・・・・・僕はそんな自分を変えたい。それが出来る僕と言う世界の王様になりたい。それで」

『・・・・・・うん』

「それであむちゃんや蒼凪君にガーディアンのみんな。
もちろんフェイトさん達に・・・・・・それに、イクト兄さんの世界を守りたい」



過去に負けたくない。負けて今を壊したくない。でも今までの僕は・・・・・・きっとそうしてしまっていた。

だから変わりたい。誰かの前に、僕の世界の王様になりたい。その上で今、手を伸ばしたいのはたった二人。



「でも僕はやっぱり弱くて、一人じゃ何も出来なくて・・・・・・だからフェイトさん、お願いします。
僕に力を貸してください。僕はまずあむちゃんとイクト兄さんを助けたい」

『それで、いいの? あむはあなたに嘘をついてた。月詠幾斗君だってあなたにヒドい事を言った』

「なら逆に聞きます。二人の行いが、二人の罪が、今何もしない事の言い訳になりますか?」



フェイトさんは数秒黙って・・・・・・僕は自然と足を止めた。相馬君も同じく。二人で白い息を吐き出しながら呼吸を整える。



『私はね、言い訳になると思ってた』

「え?」

『その人の事が本当に嫌いで、憎くて・・・・・・許せなかった。その人が居たからたくさん悲しい事が産まれた。
だから許されるはずがない。許してはいけない。話して理解をしていく事もおぞましく感じていて・・・・・・そうやって驕っていた』



その自嘲するような声で紡がれる話が、あの時・・・・・・『後悔した』と言い切った時の話なのはすぐに分かった。



『悔しいな。私ももっと・・・・・・もっと早く、私という世界の王様になる気持ちを持っていたらなぁ。うん、そうだね。
私はそうはなろうとしなかった。自分の世界のはずなのに、他の人に王様を任せてたんだ。私は周囲の人達に依存していた』

「それが、フェイトさんの罪・・・・・・でしょうか」

『そうだよ。私は正しさや常識、信じる相手すらも周囲の人達に丸投げしていた。それはヤスフミからずっと突きつけられていた罪。
それなのに逃げて目を背けていた罪。私はずっと自分で自分のこころのたまごに、ハテナを付けていたんだ。だから後悔した』





×ではなくハテナ。何が本当に自分の夢すらも分からなくなって・・・・・・周囲の人達の夢を自分の夢にしていた。

それだけじゃなく、正しいと思う事や常識や信じる相手すらも。その意味がとても怖いものに感じるのはきっと正しい。

だってそれだとフェイトさんは、周囲の人達の言う通りにしか正しいと思わないし、誰かを信じる事も出来ない。



確かにそれは罪だ。その状態でずっと事件捜査を続けていて誰かを裁いていたなら、それは取り返しようのない罪だ。

きっと今までの僕も同じだった。僕は日奈森さんやみんなのこころにイクト兄さん絡みだけどハテナを付けようとしてたから。

そこまで考えて、あの時の言葉の重さがようやく納得出来た。あれはフェイトさん自身の罪の重さだった。



だから今の言葉もとても重くて、物凄く胸に突き刺さるものを感じる。





『だから今、12歳で逃げずにそう言い切れるあなたの強さが本当に羨ましい。
どうして私は20歳になるまでそれが出来なかったのかって、更に後悔してる。・・・・・・唯世君』

「はい」

『その道は、きっと今まで以上に辛いよ? 手を伸ばす度に、後悔で心に痛みが走る。
過去は変えられない。だからあなたはきっと・・・・・・二人に手を伸ばすととても傷つく』



フェイトさんが心配するような、優しい声になる。その意味がすぐに分かった。

というか、あむちゃんとイクト兄さんの顔が瞬間的に目に浮かんだ。けど、僕は揺らがない。



「そうかも知れません。でも、それでも止まれません。僕にもフェイトさんと同じ罪があります。
既にあるなら、もう積み重ねたくない。その罪で誰かが傷つくのは、もう嫌なんだ」



白い息が断続的に吐かれる中、携帯が軽く震えた。それで耳から離してその画面を見てみる。

するとそこには『一件のメール着信があります』という文字が出ていた。



『今、月詠幾斗が居ると思われる場所を地図と一緒に送ったよ。空海君にも同じものを送ってるから』



その言葉で、僕は慌てて受話器に耳を当てる。



『ザフィーラの捜索のデータも込みだからかなり確実。・・・・・・頑張ってね、王様』



嬉しそうにそう言った言葉で、胸が震えた。フェイトさんが僕の事を認めてくれたのが・・・・・・分かった。



『今のあなたにだったら、ヤスフミの事をちゃんと預けられる。
あなたは、私なんかよりずっと強い。自信を持って?』

「・・・・・・はい。ありがとうございます」










改めてお礼を言った上で電話を終了。僕は振り返って相馬君と頷き合う。

メールを確認した上でまた全力疾走。というか、ここなら地図は必要ない。

そこは既に閉鎖された遊園地。本来なら役割をとっくに終えている場所。





それで僕とイクト兄さん・・・・・・ううん、辺里家と月詠家のみんなの思い出が詰まった場所だったから。




















All kids have an egg in my soul



Heart Egg・・・・・・The invisible I want my






『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第115話 『Death Label/悲しき宿命のバトル 後編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「まさか・・・・・・イクト、ダメっ!!」



あたしは反射的にイクトに向かって飛び込んでいた。あたしの身体は一直線にイクトに向かう。

相当なスピードで加速しつつ、右手をイクトに向かって必死で伸ばした。



「俺のこころ、アン」



『解錠』アンロック



「ロック」





もうちょっとで届くというところで、イクトは足元から立ち上った黒い光に瞬間的に包まれる。



そしてその光が弾け、周囲に光と同じ色の風が吹き荒れた。あたしはそれに吹き飛ばされてしまう。



そのまま身体を元居た場所に叩きつけて、転がりながら倒れてしまう。





「あむちゃんっ!!」



なぎひこが咄嗟にあたしに駆け寄って、身を起こしてくれる。それでザフィーラさんも前に出て拳を構える。

でもその間に、イクトはその姿を完全に変えてしまっていた。外見は前に唯世くんとキセキから聞いた通り。



・・・・・・キャラなり



それで右手で銀色の鎌を携え、やっぱりあたし達を冷たい瞳で見ていた。



デスレーベル



やっぱり・・・・・・そうだったんだ。あたし、マジでバカだ。

自分の都合で嘘つきまくって、こんな大事な事スルーしまくってたなんて。



【はわわわわわわっ! イクトキャラなりしちゃったよっ!? あのたまごいったいなにっ!!】

「ヴァイオリンから出てきましたよねぇっ! でもでも、あのたまご・・・・・・!!」

「すごく、嫌な感じがする。なにコレ、月夜のたまごや偽エンブリオの時とも違う。
もっと異質で・・・・・・ボク達と同じだけどボク達と全然違う感じがする」



あたしには霊感とかラン達みたいな感覚はない。でもあのたまごが異質だって言うのは分かる。

偽エンブリオよりは月夜のたまごに似てるのかな。でも・・・・・・あぁもう、やっぱりうまく言えない。



「・・・・・・コレで謎が一つ解けたな。問題のキャラなりとやらは、あのヴァイオリンが原因か」

「みたい・・・・・・ですね。でもあのたまごは」

「藤咲、キャラ持ちであるお前にも分からんのか」

「えぇ。そもそもヴァイオリン・・・・・・物からたまごが出てくるなんて、聞いた事がない」



なぎひこに支えられながらあたしは立ち上がり、もう一度冷たい瞳のイクトを見上げる。



「イクト、あたしの事分かるっ!? ・・・・・・お願い、答えてっ!!」

「イクト、オレも居るにゃっ! 頼むからなんか答えてくれにゃっ!!
どうして・・・・・・どうしてそんな冷たい目でオレ達を見るにゃっ!!」





それでもイクトは何も答えない。イクトはヨルの言う通りの冷たい目のまま、少し身を伏せる。

次の瞬間、イクトの身体は大きく跳び上がり、雨上がりの空に浮かぶ大きな満月を背にした。

でもすぐにその身体はあたし達の方に迫る。イクトは両手に持った銀色の大鎌を、躊躇い無く振りかぶる。



そしてイクトはそのまま、袈裟にその鎌を振るってあたし達に刃を叩きつけてきた。





「・・・・・・でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



その刃に向かって、ザフィーラさんが右拳を叩きつける。

そして刃は青白い魔力に包まれた拳と衝突。派手に火花を散らして夜の闇を照らす。



「日奈森、彼に呼びかけろっ! それに彼のしゅごキャラもだっ!!」

「え?」



叫びながらもザフィーラさんは拳を強引に振り抜く。イクトの身体はその衝撃によって後ろに飛んだ。

でもすぐに着地して、そこから三度後ろに跳躍。あたし達から距離を取って鎌を構え直した。



「やはり彼は洗脳・・・・・・催眠の類をかけられている。あの目、何度か見た覚えがある」

「・・・・・・なるほど。あむちゃんに呼びかけてもらって洗脳を解こうと」



そう言いながらなぎひこがあたしから離れてザフィーラさんの左隣に来た。



「でも上手くいきますか? それなら先日辺里君が」

「分からん。だが我やお前が言うよりはずっとマシなはずだ。なにより」



ザフィーラさんはそう言いながら、自分の手を見た。それであたしは気づいた。

ザフィーラさんの手・・・・・・僅かに震えてる。



「ザフィーラさん、その手」

「問題はない。少ししびれただけだ」



ザフィーラさんはそんな手を二〜三度払うと、また強く握り締め直した。



「情けないが、力ずくで止められる自信が全くない。
・・・・・・あの一撃、下手をすれば蒼凪やシグナム以上だ」

「そうですか。なら・・・・・・あむちゃん、下がってて。それでザフィーラさんの言う通りにして」

「でも、二人とも」

「いいから」



なぎひこは視線を向けずに、少し強めにそう言った。だからあたしは・・・・・・ヨルの方を見た上で、頷く。



「分かった。というか二人とも・・・・・・ごめん」

「いいよ、別に。それじゃあザフィーラさん」

「あぁ。ただ藤咲、前は我に任せて不用意に近づくな。下手をすれば返す刃でそのままだ」

「はい」










それで二人はやっぱり無表情なイクトと睨み合って・・・・・・一気に踏み込んだ。





悔しい。あたし、本気で悔しい。こんな事になる前に何もしなかった事もそうだけど、何も出来ない事もだよ。





ただ声をあげるだけ・・・・・・ただ叫ぶだけしか出来ないなんて。ホントに、悔しい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



踏み込みながらもこの場合の対処のパターンをいくつか思い返し、瞬間的にプランを構築。





と言っても大した事ではないが・・・・・・ようするに拘束だな。まずはまた拳を握り直す。










「・・・・・・はぁっ!!」





左薙に打ち込まれた鎌の刃・・・・・・の下の柄を狙って、拳を打ち込む。

当然頭を下げて刃を避けた上でだ。だが硬い。魔力強化を使った上での打撃なのに折れる気がしない。

そのまま鎌は強引に振り抜かれ、拳と鎌は交差する。月詠幾斗はその場で鋭く反時計回りに一回転。



冷たい表情のまま我の腹に刃を突きつけてくる。そこは予想出来たので術式を展開。





≪Wheel Protection≫





我から見て反時計回りに渦を巻く白いプロテクションが、我の前面を覆うように展開。

その回転に刃の切っ先が流されて、鎌は下から上へと火花を走らせながらも振り抜かれる。

それからすぐにプロテクションを解除。2時方向に居る月詠幾斗に向かって左拳を叩きつける。



身の回転を加えながらのストレートは、見事に虚空を撃ち抜いた。その場から月詠幾斗が消えた。



後ろから軽い破裂音が聴こえる。反射的にそちらを振り向くと、既に鎌が振り抜かれていた。





「く・・・・・・!!」





またプロテクションを発生させその斬撃を防ぐ。ただし、それは一瞬。

鎌の動きを止めている間に後ろに大きく跳んで、それから右に走りつつ距離を取る。

・・・・・・なんだあの速さは。テスタロッサ張りに・・・・・・いや、それ以上か。



というより速さの質が違う。感覚としては恭也殿や美由希殿相手に近い。

そのために僅かにだが反応が遅れた。しかもあの細腕でやたらと力がある。だから斬撃が重い。

これで拘束は本当に手間がかかるぞ。まず相手の足を止めなくてはあっさり避けられる。



これがキャラなり・・・・・・人の身に宿る可能性の力。出来れば敵に回すのは今回限りにしたいものだ。



それで月詠幾斗はその細腕で鎌を構え直し、我に突撃しようとする。





「ブレイズシュートッ!!」





でも横から青い円盤が数個打ち込まれ、突撃を止めて大きく右に跳んだ。

円盤は地面に着弾し破裂。これは・・・・・・藤咲か。助かる、おかげで距離が取れた。

我はメリーゴーランドを背にするようにしながら、左手を前にかざす。



すると白いベルカ式魔法陣が手の平の上に展開し、そこから白く薄い刃が飛び出る。





「鋼の」



その刃は滑るように着地した月詠幾斗に向かって鋭く突き出される。



「軛っ!!」










だが月詠幾斗はそれに向かって躊躇い無く鎌を刺突で打ち出す。

それで刃の上の方を鋼の軛に叩きつけ・・・・・・真っ二つにした。

白い魔力は月詠幾斗の両側にうねりながらも撒き散らされて粒子に変わる。





ただの刺突で・・・・・・く、こんな真似まで出来るのか。予想以上にキャラなりの能力が高い。

そしてそのまま彼は足を踏み出し加速。刃を切り裂きながらそのまま我に迫る。

我は慌てて術式を解除。7時方向に跳びつつメリーゴーランドの敷地内に突入して突撃のラインから外れる。





月詠幾斗はそれに構わずに突撃し、メリーゴーランドを取り囲む柵と四人乗りの馬車を真っ二つにした。

更に我に踏み込み逆袈裟に刃を振るう。後ろに下がって攻撃はなんとか避けるが、代わりに馬が両断される。

また刃を返して・・・・・・だが、その刃に黒い光が灯る。それを見て蒼凪と藤咲の話が思い出された。





我は慌ててメリーゴーランドの敷地の外に出て、大きく上に跳ぶ。そのすぐ後に刃は左薙に振るわれた。

彼の周囲で円を描くように黒い光の斬撃波が生まれ、それが柵や他の馬や馬車を斬り裂く。

着地して彼を見ると、その刃はメリーゴーランドの中心部の支柱すらも両断していた。そしてメリーゴーランド全体が揺れる。





次の瞬間、轟音を立てながらメリーゴーランドは瓦解した。彼はその前に我に向かって再び踏み込む。

右から再び藤咲の円盤が7発飛んでくるが、彼はジグザグに走り、身を捻りながらも一時停止をかけつつそれらを全て回避。

一瞬動きが止まったと思ったが、その姿が僅かにブレる。我はまた拳に魔力を纏わせる。





そして袈裟に振り下ろされる刃に向かって、打ち上げるようにその拳を叩きつけた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「イクト、もうやめて・・・・・・! イクト、イクトっ!!」



さっきからずっと声をかけてる。でもイクトは止まらない。それどころかメリーゴーランドが派手に壊れた。

イクトと一緒に遊んで、楽しい時間を過ごした場所が壊れていく。それだけじゃなく、ザフィーラさんも傷つく。



「ぐぅ・・・・・・!!」





刃と拳が交差して、ザフィーラさんの手が魔力ごと斬り裂かれた。ただ真っ二つになったわけじゃない。

鎌の刃がザフィーラさんの右腕の外側を手甲ごと浅く斬り裂いただけ。ただ、それでも赤い血がその場で舞い散る。

その血が鎌や胸元、自分の頬に付いてもイクトは無表情。ザフィーラさんは痛みに耐えながらも動く。



身体を反時計回りに拳を打ち込んだ勢いも加えつつも回転して、左足をイクトに向かって叩き込んだ。

でもイクトは軽く跳躍してそれを避ける。そのままザフィーラさんの頭上を取って、またあの鎌を唐竹に打ち込む。

でもそんなイクトの向かって右からなぎひこが飛び込んできた。その右手には青いエネルギーの球体。





「・・・・・・ビート」



なぎひこは両足の翼を羽ばたかせながら突撃していて、空中に居るイクトの真横を取る。

それでそのまま球体をイクトの左脇腹に叩きつける。



「ダンクッ!!」





でもイクトはその突撃を身体を時計回りに捻って避けた。なぎひこの表情が一気に青冷めたものに変わる。

イクトはそのまま器用になぎひこの右脇腹目がけて右足で後ろ回し蹴りを放った。

なぎひこの身体はそこから8時方向・100メートル先にあるお化け屋敷の入口に吹き飛び突撃。



轟音を響かせながら煙が入口周辺に立ち上がって、なぎひこの姿は完全に消えた。





「なぎひこっ!!」

「藤咲っ!!」





でも声を上げている間にイクトはザフィーラさんから少し離れた位置に着地。



どうやらなぎひこへの蹴りで追撃を避けるために距離も取ったらしい。そこからまた踏み込み、逆袈裟に刃を打ち込んでくる。



ザフィーラさんは白いプロテクションでそれを防いで、刃とプロテクションがせめぎ合うように火花が走る。





「イクト・・・・・・イクトっ! お願いだからあたしの声を聞いてっ!! こっちを見てっ!!」

「イクト、落ち着くにゃっ! こんな事しちゃだめにゃっ!! もうやめるにゃっ!!」

「・・・・・・鋼の」



叫んでいる間に、ザフィーラさんが次の手を取る。火花が走る中、二人の周囲の地面が砕けた。



「軛っ!!」





その砕けた地面から白い刃が、周囲からイクトを貫こうと迫ってくる。



でも、イクトの姿が軽い破裂音と共にまた消えた。イクトは・・・・・・大きく後ろに跳んでいた。



着地した上でまた鎌を右に振りかぶり、黒い光をその刃に灯す。





「ダークナイト」



その刃は右切上に振り抜かれて・・・・・・でも今までと違った。

光は鈍い音を立てながら破裂して、まるで嵐のようにイクトの前の空間を飲み込む風になった。



「ストーム」



ザフィーラさんはまた斬撃波が来ると思ってプロテクションを解除してから回避するために上に跳んでいた。

でも来たのは斬撃波ではなく、単純に広範囲に広がる風の爆発。ザフィーラさんはマトモにこの嵐に飲み込まれてしまう。



「ぐ・・・・・・ぐぅ・・・・・・!!」



両腕をクロスさせてガードしようとするけど、ザフィーラさんの髪に尻尾、肌とバリアジャケットの一部が黒く変色する。

ザフィーラさんは表情を歪めながら数メートル下の地面に叩きつけられ、呻いて動かなくなってしまう。



「ザフィーラさんっ!!」

【な、何あれっ! ザフィーラさん斬られたわけじゃないよねっ!?】

「・・・・・・あの風だ。多分あの風に触れちゃうと、動けなくなっちゃうんだよ。一種の麻痺攻撃」

「そんなのありですかぁっ!?」



イクトは振り上げた刃をゆっくりと下ろして、背を丸めながらあたしの方を見る。それに思わず後ずさりしてしまった。



「日奈森・・・・・・逃げ、ろ」

「でも・・・・・・でもっ!!」

「いいから、逃げろっ! お前一人では彼は止められんっ!!」



それでつい後ろを見ると、あたしはコーヒーカップを背にしていた。

・・・・・・それはあの時、イクトと一緒に乗ったコーヒーカップだった。



「マズいにゃ」

「ヨル?」



言っている間にもイクトは一歩ずつこっちに歩み寄ってくる。でも・・・・・・どうしよ、動けない。



「オレには分かるにゃ。段々・・・・・・少しずつだけど、イクトと繋がれなくなってるにゃ。
オレはイクトのしゅごキャラなのに、イクトの事がさっぱり分かんなくなってるにゃ」

「あの、それってどういう」



攻撃をここで避けちゃったりしたら、ここも壊される。それがたまらなく怖く感じてしまって動けない。

なによりザフィーラさんとなぎひこを残して逃げる? だめ、出来るわけがない。



「オレ、ずっと考えてたにゃ。どうしてあのヴァイオリンを取り戻した途端にイクトの体調が悪くなったのか。それで」

「それで?」

「もしかしたらだけど、あのヴァイオリン・・・・・・いいや、たまごのせいで悪くなってたかも知れないにゃ。
ただ側に居るだけでずっと寝たり気絶したりしてたのに、そんなのとキャラなりなんてしてたら」



ヨルが言いたい事が分かって、あたしも顔が青冷めた。

だからイクトが迫って来てるのについ横のヨルの方を見てしまう。



「ヨル、それって・・・・・・イクト今まで以上に体調悪くするって事っ!?」

【ちょ、ちょっと待ってっ! 何気に今までだってうちから動けないレベルだったよねっ!! もしこれ以上ってなったら】

「イクト・・・・・・死んじゃうかも知れないにゃっ!!」



そのヨルの言葉が合図だった。イクトは無表情のままあたし達に向かって踏み込む。

あたしは思わず拳を握り締める。それで構えようとして、動きが止まってしまった。



【あむちゃんっ!!】





あたしこの拳でイクトを、殴るの? あたしの勝手でたくさん傷つけたのに、振り回したのに、イクトを殴るの?

でもこのままじゃダメだってなぞたま事件で知った。拳を握る勇気も必要だって知った。

それが必要な時もあって、望んでもないのに誰かを傷つけ続ける時間を止めるために拳を握るんだって教わった。



迷っている間にもイクトは鎌をまた振り上げる。軽く跳躍しながらもあたしに迫る。



その距離はもう10メートルを切っていて・・・・・・あたしは、両手を開いてその身をさらけ出した。





「だめ」





ダメだ、あたしはイクトを殴れない。イクトを止めるために拳を握れない。

これ以上イクトを傷つけたくない。これ以上イクトを踏みつけたくない。

なにより・・・・・・後ろにあるイクトとの思い出を壊されたくない。だからこんな手しか取れなかった。



あたしは両手を広げて、イクトの刃からあたし達の思い出を守る事しか出来なかった。





「こんなの・・・・・・ダメェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!!」



そう叫んだ瞬間、あたしの目の前でとても大きな衝撃が生まれた。

それは振り下ろされた鎌と金色の障壁が衝突した結果。



「ホーリー・・・・・・クラウンッ!!」



というか、あたしの目の前にキャラなりした唯世くんがいつの間にか居た。



「た・・・・・・唯世くんっ!?」

「イクト兄さん、もうやめるんだっ! そんな事したら・・・・・・そんな事したらあなたはもっと後悔するっ!!」



唯世くんはあたしの言葉には答えずに、ただ背中を向けながらロッドをかざす。

銀色の刃が金色の障壁を削るように火花を散らしていくけど、それでも唯世くんは揺らがない。



「もう後戻り出来なくなるっ! 本当の意味で不吉な黒猫になってしまうっ!!
だからもうやめてっ!! 僕達の声を聞いてっ!!」

「その通りだっ!!」



また別の声が響いた瞬間、イクトの左脇腹に緑色のサッカーボールサイズの砲弾が直撃した。

それにイクトは吹き飛ばされて、あたし達から一気に距離を離して地面に滑りながら倒れ込む。



「もう悪ぶる必要なんてないぜっ! 黒猫っ!! ・・・・・・日奈森と唯世だけじゃ頼りないからな。
俺も手を伸ばしてやるよ。いいや、俺だけじゃない。ガーディアンとフェイトさん達総動員でだ」



左側からそんな事を言いながら歩いてくるのは・・・・・・空海っ!? てゆうかキャラなりしてるしっ!!



「空海、アンタ何してるのっ! てゆうか唯世くんもその・・・・・・なんでっ!!」

「お前のバカを恭文から聞いてな。唯世の事探してたんだよ。で、そこは解決したから来たってわけだ」



・・・・・・恭文、唯世くんの事空海に探させてたんだ。でも、どうして? 手助けしないって言ってたのに。



「相馬君、お喋りは後だよ。あむちゃんも・・・・・・今は集中して」



唯世くんは真剣な表情で、ゆっくりとイクトの方に近づく。

イクトは起き上がりながらもこちらをやっぱり冷たい目で見ていた。



「イクト兄さん・・・・・・2年前の事、僕はやっぱりあなたを許せないでいる。ううん、分からないでいる。
でもこれだけは分かる。あなたの僕を見る目はただいつも・・・・・・悲しい。ただ悲しいだけ」



その表情とは真逆なくらいに優しい声で、唯世くんはイクトに話しかけていく。



「僕は真実を知りたい。それであなたの事を助けたい。
あなたの世界が壊れそうなら・・・・・・全力で守りたい」



信じられなかった。だって唯世くんはイクトを嫌ってるはずなのに。なのに今唯世くんは優しい言葉をかけてる。

それが信じられなくて、つい固まってしまった。というか、隣に来ていた空海を見てしまう。空海は・・・・・・ただ笑ってるだけだった。



「余・・・・・な・・・・・・るな」



でもその声で、視線はすぐにイクトに向く。イクトは左手で頭を押さえながらあたし達を見ていた。



「余計な事を・・・・・・するな」

「イクト兄さんっ!!」

「「イクト」」



イクト、もしかして正気に戻ったっ!? というか目の色がさっきまでと全然違うっ!!

いつもの・・・・・・いつものぶっきらぼうだけど優しいイクトの目だ。それがとても嬉しくて涙が零れてしまう。



「俺に、近づくな。俺は・・・・・・不吉な黒猫で、いい。もう関わるな」

【・・・・・・貴様、この期に及んでまだそんな事言っているのかっ! ふざけるなっ!!
貴様が傷つけば傷つく程、あむや歌唄が心を痛めるのが分からんのかっ!!】

「もうそんな言い訳はたくさんだっ! そんな言い訳に振り回され続けるのもたくさんだっ!!
・・・・・・僕はあなたが本当に不吉な黒猫でも、それでもあなたに手を伸ばすと決めたっ!!」



唯世くんは表情を険しくしつつ声をあげ、そこから一気に駆け出した。



「だから・・・・・・ガタガタ言わずに黙って助けられてろっ!!」





唯世くんはロッドを持っていない左手を伸ばして、イクトに組み付こうとする。でもその瞬間、甲高い音が周囲に響いた。

その音に唯世くんも足を止めて、あたし達も耳を押さえてしまう。それでもイクトからは絶対目を離さない。

・・・・・・だからイクトの目の色が、さっきと同じ冷たい色に戻ったのがすぐに分かった。ううん、分かってしまった。



それでイクトはまた鎌を構えて、あたし達に無機質な表情を向ける。

続けてこちらに踏み込みながら、唯世くんに右薙の斬撃を打ち込む。

唯世くんは咄嗟に後ろに大きく跳んでそれをなんとか回避。



あたし達の近くに着地して、また・・・・・・あたし達の距離は離れてしまった。





「イクトっ!!」

「おいおい、いったい今のなんだよっ! ダイチ、分かるかっ!?」

【分かんねぇよっ! なんか妙な音したらコレだしよっ!!】

全く・・・・・・子どもの茶番には付き合ってられん



・・・・・・あたし達の疑問に答えるように敷地内に声が響き渡る。

これはスピーカーか何か? あ、そう言えばさっきの音もそれっぽいノイズがかかってた。



イクト、何をしている。エンブリオをおびき出すのにこの程度の×たまでは足りない。
邪魔をするなら子どもだろうと誰であろうと手加減は必要ない。・・・・・・消してしまえ


「この声・・・・・・星名専務っ!!」

「星名専務? 唯世くん、それって」

「イースターの専務、それで・・・・・・イクト兄さんの義理の父親」



いや、それは分かるけどなんでその人の声が・・・・・・まさかこの近くに居るっ!?

あたし達はその場を見渡すけど、辺りにあるのは×たまとうつろな目をした人達とあたし達だけだった。



どれ、聞き分けのない人形には少し調律を施してやろう



それでまたノイズ混じりにあの音が響く。イクトは一瞬表情を険しくして・・・・・・でもまた元の冷たい顔に戻った。



【唯世、思い出したぞっ! あれは楽器の調律用の音叉の音だっ!!】

「じゃあもしかして」

【あぁ、どうやらこれで確定のようだな。おそらくはこの音で月詠幾斗に催眠をかけている】

「そのためにイクト兄さんは知らず知らずに・・・・・・なんて卑怯な」

卑怯? ふん、心外だな



こっちの喋ってる事が聴こえてるような事を言ってきて、あたし達は更に驚く。

それで周囲を改めて見渡すけど・・・・・・やっぱりそれっぽい影がない。それが妙に怖い。



見ての通りだよ。イクトはイースターのために喜んで働いてくれている

「嘘だっ!!」



それでも恐怖を振り払いながら、あたしは見えない敵に向かって声をかける。



「あたしはイクトの事を信じ抜くって決めたっ! 信じ切れなかった分、手を伸ばすって決めたっ!!
だから・・・・・・だからアンタ達から助け出すっ! これ以上勝手な理屈でイクトを踏みつけるなっ!!」

信じる?



スピーカー越しから、嘲笑うような声が響き渡った。それでまた感情が高ぶる。



これだから子どもは困るっ! 甘ったるい馴れ合いが得意だからなっ!!
信じるだの、そんなものは無価値っ! 必要無いものだっ!!


違うっ!!





そう叫んだ瞬間、胸元のハンプティ・ロックがピンク色の輝きを放ち、周囲を強く照らし出した。

というか、呼び出してもないのにハートロッドが出てくる。しかも先のハート型の石が凄く輝いてる。

それは唯世くんの持っているロッドも同じ。金色とピンクの光で周囲が昼間みたいに照らされる。



あたしと唯世くんは顔を見合わせて頷き合い、互いに近づき合って二つのロッドをクロスさせるように合わせる。



するとロッドの先の二つの光が合わさって、全く別の強い輝きを生み出した。





・・・・・・プラチナ



あたし達はそのまま言葉と呼吸、力を合わせてロッドをクロスさせたまま頭上に掲げた。



ハートッ!!






するとそこからまるで噴水のように金色とピンクが混じり合った光が噴き出した。

ただしその大きさが半端じゃない。だいたい高さにして・・・・・・20メートル前後。

その巨大な光の雫達は周囲に雨のように降り注ぎ、×たま達を次々と浄化していく。



光のシャワーで闇に染まっていた遊園地は光に満ちて・・・・・・あたしは唯世くんと二人、自然と笑っていた。

・・・・・・そうだ、今なら分かる。信じる気持ちは、夢は、たまごは・・・・・・確かに無くても生きていける。

それを無駄で無価値って言われたら反論出来ない部分は確かにある。でも、それでも反論出来る部分もある。





「・・・・・・信じる気持ちは、無価値なんかじゃない。そう言うのはアンタが今まで一度も誰かを信じたりした事がないからだ。
誰かを信じたいって思って足掻いて、悩んで・・・・・・そんな気持ちと向き合った事がないからだ。そんなの、寂し過ぎる」

・・・・・・なんだとっ! 子どもが偉そうな口を叩くなっ!!

「ならアンタはその子どもにすら負けてる。アンタは、アンタみたいな大人達は何も分かってない」



光の噴水が収まると、あたし達はロッドを下げた。すると一個のこころのたまごがあたしの前に飛んでくる。

だからそれに少し表情を緩めながら左手をかざすと、その子はあたしの手の平に乗ってくれた。



「誰かを信じる気持ちが、夢を見て未来を描いていく気持ちがなくても、人は生きられる。
でもそれが無いとこころが栄養不足になる。だからイライラして誰かの夢や気持ちを簡単に踏みつける」



それが二階堂先生だったり、歌唄だったり、月夜だったりルルだったりする。

・・・・・・今そんな寂しい事を言うあの人だったり。たまごを見ながらついそう思ってしまった。



「人を信じる気持ち、思いやる気持ち、夢を描く気持ち・・・・・・それはきっと、おやつと同じなんだ」



そう言った瞬間、あの金色の髪の子の『おやつなんて必要ないもの』という言葉がリピートする。

そのためについ瞳を閉じちゃうけど、それでもあたしは瞳を開けて・・・・・・思いっきり笑ってやる。



「そればっかりじゃ甘やかされて太っちゃう。でも、こころのたまごに必要な栄養。信じる気持ちは、大切で綺麗な宝物なんだ」

・・・・・・バカバカしい。やはり話にならんな。おやつなど必要ない。それは無価値なものだ



そう言った瞬間、またあの子の顔が思い浮かぶ。というかこの人・・・・・・え、ちょっと待って。

もしかしてあの子も、そういう栄養が不足してるのかな。だから・・・・・・ううん、今はいい。今はこのバカオヤジの事だ。



無価値なものにしがみつく愚か者が

「バカはアンタじゃん。なによりアンタは唯世くんの言うように卑怯だ。・・・・・・ゴチャゴチャ抜かすなら隠れずにとっとと出てこいっ!!
あたしは逃げも隠れもしないっ! 真正面から立ち向かって、そのふざけた事抜かす口をぶん殴って黙らせてやるっ!!」

黙れっ! 私達の邪魔を散々した挙句にこの私に偉そうな口を叩いた事





星名専務の言葉を止めたのは、あたし達の頭上に生まれた強い輝き。



あたしも、唯世くんも、空海も、みんなもその光の方を見る。そこには・・・・・・一つのたまご。



強く光り輝くたまごが、あたし達のプラチナハートよりもずっと強い光で遊園地を照らしていた。





『・・・・・・エンブリオッ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



空に生まれた輝きを見上げていると、心がやはり満たされる。あの輝きの価値を再確認する。

エンブリオを見た事は今までに二度あるが、やはりあの輝きは素晴らしい。どんな宝石よりも価値があるように感じる。

初めて見た時は・・・・・・ヘリポートだったな。あの役立たず共がガーディアンに懐柔された日。





次に見た時はまだ残暑が厳しい日。一臣の話を聞いてから興味があって様子を見に行った時。

それで今日が三度目。見たいと思って居ても立ってもいられなくなると、いつもこうだ。

あのたまごはまるで呼び寄せられたかのように来てくれる。なぜ一臣達のところに来ないのかが分からない。





だってただ出かけるだけでこんなに簡単にあの輝きに出会えるのに。それがとても嬉しい。





やはりあの輝きはこの手の中に収まるために存在しているのだろう。もはやこれは、運命だ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



エンブリオはそのまま少しずつ動き出して、あたし達から離れていく。





それを見てあたしは慌てて意識を集中。一気にエンブリオに近づく事を決めた。










「・・・・・・ハートキャリバー!!」





足のスニーカーをハートキャリバーに変化させて、あたしは一気に空に駆け出す。

光の中ピンクのリボンのような道を描きつつ、全速力でエンブリオに近づく。

50メートル程の距離はすぐに縮まり、あたしは走りながら手を真っ直ぐに伸ばす。



距離はそこからまた縮まり、あとちょっとでエンブリオに触れられそうな距離まで来た。

でもその瞬間、たまごから衝撃が走った。まず一度走った衝撃で、あたしの動きが止まる。

・・・・・・何、この怒ってるような、悲しげな感覚は。なんか、辛い。



まるでたまごから触られる事そのものを拒絶されたみたいな感覚は。

そして二度目の衝撃が放たれて、今度はあたしの身体が物理的に吹き飛ばされた。

とりあえず体勢を整え直して着地しようと思うと、なんでかキャラなりが解けた。





「・・・・・・え、何これっ!? ランっ!!」

「私も知らないよー! というかすぐにキャラなり」



そう言われて下を見るけど、もう地面は目の前だった。・・・・・・間に合わないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!



「ホーリークラウンッ!!」





でもその瞬間、目の前に金色のエネルギーが噴き出してきた。それは一瞬で王冠に変化。

あたしはその中に突っ込んで、身体を跳ねて再び軽めに跳ぶ。その上でまた王冠に着地。

これ、唯世くんのホーリークラウン? ・・・・・・あ、クッションみたいにしてあたしの事受け止めてくれたんだ。



あたしは右側に居る唯世くんの方を見下ろすと、唯世くんはいつもと変わらない表情で笑いかけてくれた。





「唯世くん、ありがと」

「ううん。でもあむちゃん、今のはいったい」

「分かんない。なんかこう・・・・・・エンブリオから『触るなー』って言われた感じが」





そう言いかけてあたしは頭上を見上げる。・・・・・・頭上に広がる空は、とっくに真っ暗になっていた。

それからすぐに周囲を見渡すと、辺りがざわざわとしている。その原因は、こころのたまごを取り戻した人達。

たまごを取り戻したおかげで、正気に戻ったみたい。まぁいきなりこんなとこに居ればなぁ。普通驚くって。



でももっと重要なところがある。イクトが・・・・・・イクトの姿が消えている。だから焦り気味に王冠から飛び降りる。



それで周囲を改めて見渡すけど、やっぱり居ない。もしかして今のゴタゴタの間に・・・・・・あぁもうっ!!





「・・・・・・あむちゃん」

「ラン、言わないで。あぁもう、ヤバいヤバい絶対ヤバい」





まず分かった事がある。一つはイクトが確実に洗脳の類を受けてしまっている事。

それであのデスレーベルっていうキャラなり・・・・・・イクトの身体に相当な負担がかかってるっぽい。

ううん、そこは洗脳自体なのかも。イクト、音叉の音を聴いた時本当に苦しそうだった。



それで最後に、早めにこの作戦を止められなかったら・・・・・・イクトがどうなるか分からないという事。

だから焦りがめちゃくちゃ出てくる。というか、数時間前の自分を本気でぶん殴ってやりたくなる。

あたし、マジでバカだった。信じる事も出来ずにこんな事になって・・・・・・恭文、アンタの言う通りだわ。



あたしシャレじゃなく最低だ。自分の都合でイクトの事振り回して、イクトは命の危険まで出てきてる。



だからどんどん顔が青冷めていって、辺りのざわざわすらも耳に入らなくなる。・・・・・・・イクト。





「・・・・・・あむちゃんっ!!」



その声にハッとして俯いていた顔を上げると、キャラなりを解いて私服姿に戻っていた唯世くんが居た。



「大丈夫。一緒に・・・・・・一緒に考えるから」

「ごめんなさいっ!!」



あたしは思わず頭を下げて唯世くんに謝っていた。



「一緒に考える事から拒否っ!? あむちゃん、さすがにそれはショックなんだけどっ!!」

「あの、違うっ! そうじゃなくて・・・・・・あたし唯世くんに最低な事してて、それでっ!!」

「・・・・・・そうだね。でもあむちゃん、多分あむちゃんが謝るべき相手は僕じゃないよ」



その言葉に驚きつつまた顔を上げると、唯世くんは安心させるように笑いながら右手を伸ばしてくれていた。



「だから僕はいい。今あむちゃんが謝らなくちゃいけない相手にちゃんと謝るために」



そこまで言って唯世くんは、微笑みを深くした。



「まず仲直りの握手からしたいな。僕も、力を貸していきたいから」










あたしはもしかしたら、反省なんてしていなかったのかも知れない。相当バカだったのかも知れない。

ただそれでも、その差し出された手をそっと握り返して・・・・・・泣きながら頷いて、また唯世くんに謝った。

唯世くんがいったいどんな気持ちで、何を考えて手を差し伸べてくれているかも分からないまま。





唯世くんはこの時もう、あたし自身もワケ分かんなくなってたあたしの気持ちに気づいてたのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・んじゃ、そろそろ行くわ」



ゆっくり紅茶を飲んで、何も言わずになんでか出されたケーキも食べて・・・・・・なおこれも美味しかった。

それでも僕はそんな事を言う。それにティアナとシルビィも続いて、頷いてくれる。二階堂とBYは、そんな僕をジッと見てる。



「そろそろ色んなとこの話が片づいた頃だろうしね。あ、お茶とケーキごちそうさま。美味しかったわ」

『そうか。それならなによりだ』

「ただ疑問があるね。おのれは・・・・・・僕にお茶とケーキをごちそうしてどうしたかったのよ」

『私にも分からない。ここにくるまで色々考えた』



そう言って向かい側に座るBYは、静かに瞳を閉じた。



『お前ともう一度戦う事も考えた。今はどうあれ、私が生まれた目的はお前を打破する事。
それを成せないままというのも何かが違う気がする。だが・・・・・・それでは人形のままのような気がした』

「・・・・・・うん」

『かと言ってお前の味方をする? それもない。そんな事を出来るほど私はお前達の事を知らない。
・・・・・・あぁ、そうだな。何をするにしても私は何も知らないという事に尽きるのかも知れない』



そこまで言って、BYは目を開いて僕の事を見る。その顔はやっぱり無表情だけど、どこか困ったように見えた。



『二階堂悠が教えてくれた。童話のピノキオは冒険の末に人間になったとな。だがこういう考え方もある。
本当にピノキオは人間になれて幸せになれたのか。糸を切ってすぐに幸せになれるものなのか』



言いたい事はまぁ、フェイトの事とかもあるから分かる。それまで操り人形状態だったのに、すぐに普通に生きられるわけがない。

染みついたクセというか、考えは中々変えられないもの。順応と変革には時間がかかるものなのよ。



『私は今、自分で言うのもアレだが糸が切れたマリオネット状態だ。いきなり自由と言われても困ってしまう。
だから、知りたかったのかも知れない。まずそこから始めたかったのかも知れない』



それから数秒、沈黙が訪れる。ただ部屋の壁にかけているアナログ時計の秒針を刻む音だけが響く。



『私の元となった人間が・・・・・・お前が本当にどういう奴なのかを、知りたくなった』

「そう。だったら・・・・・・BY、これ返しておくわ」



僕はそう言ってから立ち上がって、軽く右手を上げる。するとそこに黒い刀が出てきた。



『・・・・・・それは』

「お前の刀だよ。初戦で無傷だったのを回収してた。そのままだと危ないから鞘もこっちで作った」



そこはブレイクハウトでバッチリだね。予備武器にでもしとこうと思って、ずーっと入れてたのよ。

サイズも重さもアルトと同じだったし、材質もこだわってるから使えるかなーと。とにかく僕はその刀を机の上に置く。



「ちょっとアンタ」

「ティアナ」



右側に居るティアナを視線で制してから、僕は改めてBYを見る。



「戦いたいならいつでもいいよ。ちゃんと予約してくれるなら都合をつけて相手する」

『だから、これを私に渡すと言うのか。私はお前の関係者を襲うかも知れないぞ』

「やれるものならやってみれば? ただし、やった瞬間にお前は自分を否定する事になる。
今こうやって、命令通りに戦う道以外を選び取った自分をだ」



BYはそれで押し黙った。そこが分からないほどバカじゃないのは、救いだよ。



「それでまたケーキごちそうしてくれるならいつでも呼んでよ。都合がつくならお邪魔する。
どっか遊びに行きたいなら付き合うよ。なんならうちに来る? ご飯はともかくお泊りもOKだし」

『なぜ、そこまでする』

「簡単だよ。僕もお前に興味が出てきたから。・・・・・・まずはここからでいいんじゃない?」



それでまた沈黙が訪れる。それでもBYは僕の事も、二階堂の事も、誰の事も見ずに・・・・・・自分の刀を手に取った。



『約束する』

「何を」

『まずお前の関係者を襲ったりは絶対にしない。もし戦う時が来るなら、狙いはお前だけに絞る。
当然不意打ちもなしだ。そして潰し合うだめではない。私は、私を知るために』



そこまで言って、BYは刀から僕の方に視線を移して顔を上げた。



『お前と戦う。なにより自分と戦っていく。それで私は私になっていく』

「・・・・・・うん、楽しみにしてる。ただ、次は空気を読んで欲しいかな。
さっき話したようにもうなんか色々大変な状態になってるし」

『そうだな。そこは申し訳ないと思っている。だから・・・・・・借りは返す。
二階堂悠、私はまず空気の読み方を勉強したい。どうすれば学習出来るだろうか』

「いや、そこ難易度高くないっ!? てゆうかその真面目な目はやめようよっ!!」










・・・・・・え、甘い? でもさ、この子を『殺す』のもまたなんか違う気がするんだよね。

AIだって、心は持てるもの。アルトやジガン、バルディッシュにクロスミラージュがその代表格。

もちろん他のデバイスも居るけどね。だから・・・・・・少し頑張ってみたくなったのよ。





真剣に空気の読み方を勉強しようとしているこの子の心が育っていく手伝いをさ。





この子が生まれたのは僕の存在が原因でもあるし、それくらいはしたいの。うん、やっぱ甘いかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まずザフィーラさんと藤咲はなんとか無事だった。こっちは日奈森のリメイクハニーでお直し完了だ。

ただ・・・・・・マジかよ。藤咲はともかく、ザフィーラさんって経験豊富な魔導師でもあるだろ?

それも戦闘スタイルの差はあれど、経験だけなら恭文もそうだしフェイトさんよりもずっと上な強い魔導師。





そのザフィーラさんが終始圧倒されて、その上行動不能に追い込まれた。





アイツ、どんだけパワーアップしてんだよ。もうこれは俺ら単独でどうにかなる領域超えてるぞ。










「辺里、次に月詠幾斗と戦う時は我に手伝わせてくれ」

「え?」



いきなり歩きながらそんな事を言ってくるので、俺達は思わず驚いてしまう。



「もちろん今日の不覚を考えれば言う権利がないのも分かっている。
だがこれでも交戦はしているからな。相手のやり口は少しだけ見えている」

「だから・・・・・・と。でも、それなら僕に聞く必要は」

「何を言っている。ガーディアンの王はお前だろう」



腕を組みながらザフィーラさんは、唯世をジッと見下ろす。



「ならばその王の指示を仰ぐのは当然だ。それに我は今のお前ならば、安心して背中を預けられる」

「・・・・・・ありがとうございます。ならあの、むしろこちらからお手伝いをお願いしたいです。
蒼凪君やランスターさん達には悪いけど、イクト兄さんは・・・・・・僕が止めたい」

「分かった。ではそういう方向でいこう。今日はもう遅いから、明日そこの辺りを煮詰めるぞ」

「はい。よろしくお願いします」



話を纏めつつも俺達は、遊園地から全員で家に戻るところ。まぁ兄貴達には断ってるから俺は大丈夫。

ただ他の三人が少しあれなので、少し急ぎ気味に歩道を歩いてたりするわけだ。



「・・・・・・そういや唯世」

「何?」

「お前、やたらとスムーズにあの遊園地に向かってたよな。てーか俺が追いつけないくらいに」



地図一回だけ見たら、そのままノンストップで走り抜けたんだよ。いや、マジでここはビックリだしよ。

だからついこんな事を聞いたんだが、唯世はなぜか苦笑を浮かべた。



「それは当然だよ。だってあそこ、何度も来た事があるし」

「え?」

「あそこ、僕の家とイクト兄さんの家のみんなと一緒に何度も遊びに行った遊園地なんだ。
・・・・・・まだ僕が本当に小さかった頃の話になるんだけどね。だからもう地図を見たら楽勝」

「唯世くん、そうなのっ!?」



なんでか横の日奈森が驚いたが、唯世はそれに首を傾げながらも頷いた。



「そう言えばあむちゃんもあの遊園地の事知ってたんだっけ」

「え? 藤咲君、それってどういう」

「あ、あの・・・・・・ほら、お花見したでしょ?」



お花見・・・・・・あぁ、俺の卒業祝いとみんなの進級祝いと交流も兼ねてだったな。アレも楽しかったなー。



「あの後、帰る途中で絡まれた女の人を助けるためにケンカして怪我したイクトを介抱したら、そのお礼って感じで」

「あの遊園地に? でもあそこはもう閉鎖中なのに」

「なんかブレーカー上げると、一時的に電気が通るらしいの。それで・・・・・・ごめん」

「もう、別に謝る事なんてないのに。でもそっか。イクト兄さんが・・・・・・あむちゃんをあそこに」





唯世はそう言ってどこか嬉しそうに笑いながら、瞳を閉じる。

そんな唯世を、俺達は歩きながらも見ている事しか出来なかった。

いや、今この状況で何を言っていいのかちょっと分からなかった。



そう言った方が正解かも知れない。今唯世がどんな気持ちか、ちょっと読み切れないしな。





「辺里、我も少ししか話を聞いていないが・・・・・・月詠幾斗とお前は親しいんだったな」

「えぇ。歌唄ちゃん共々幼なじみでもあり、うちで一緒に暮らしていた時期もありました」

「辺里君、ちょっと待って。それって・・・・・・月詠兄妹が辺里君の家に? いったいどうして」

「うん・・・・・・そうだな。今日はもう遅いし、明日全部話すよ」



そこまで言って唯世は、空を見上げる。空は雨が降ったせいか、いつもより澄んでいて綺麗に星が見えていた。



「僕とイクト兄さん、歌唄ちゃん・・・・・・辺里家と月詠家の星の巡りを」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



家に戻りつつ色んなところの現状を聞いて痛感しました。僕、完全に置いてけぼりにされてる。

ただ経験だけなら僕やフェイトよりずっと上のザフィーラさんが圧倒されてしまった事が非常にビビった。

いや、だって・・・・・・それだとそのデスレーベル、どんだけパワフルなキャラなりなのさ。





とにかく明日朝一でまた全員集合で動く事を決めつつ、遅い夕飯を頂いて僕はお風呂に入る。










「・・・・・・お腹、ちょっと膨れてきたね」

「ん、そうだね。元気に育ってくれてなにより・・・・・・ん、撫で方がエッチだよ。今日は奇数日だよ?」



もちろんフェイトと一緒にだよ。あの、こういうの大事なのよ? 妊娠中はとかく不安になりやすいし。

それに足を滑らせても大事だもの。出来る限りこういうところからフォローしていきたいなーと。



「でもヤスフミ、ホントにザフィーラと唯世くんだけに任せるつもり? さすがにそのキャラなり相手は」

「状況次第だろうね。まぁBYには空気の読み方を勉強してもらう事になったから問題ないよ」

「そう。ならいいんだけど・・・・・・あと唯世君ね」

「うん?」



髪をアップにしたフェイトが、少し悲しげな顔をして・・・・・・お湯を右手ですくって、軽く零してまた浴槽に戻していく。



「今日私達が気づいた事、きっと気づいてる。それでも手を伸ばして、助ける・・・・・・だって」

「・・・・・・そう」

「バカだよね。そんな事しても結局・・・・・・うん、バカだ」



そう言いながらも、フェイトは手を止めない。ただ水音だけが浴槽に響く。



「でも同時にその強さが羨ましい。私が同じ立場だったら、さすがに出来ないかも」

「僕も無理かな。僕だったらフェイトの事独り占めしたくなるだろうし」

「私もそこは同じ。大好きな人が自分の事を見ていないのは、辛いだろうから。
私は・・・・・・うん、本当に恵まれてるね。今も一緒に居てくれるし」



フェイトはそう言って、優しく笑いかけてくれる。というか、そのまま顔を近づけてくる。

僕はフェイトと同じように瞳を閉じて・・・・・・唇をゆっくりと。



「あ、さすがにダメだね」



でもフェイトがいきなりそんな事を言うので、僕はお湯に顔を思いっきり落としてしまう。でもすぐに上げる。



「さすがに現状が現状だもの。うん、自重していこうっと」

「そ、そうだね。でもあの・・・・・・なんか元気になっちゃったんですけど」

「・・・・・・そ、そこはその・・・・・・自分で? 見ててあげるから。
というかあの、そういうプレイってあるんだよね? 私も頑張るし」

「なんでわざわざお互いに自家発電見せ合わなきゃいけないのっ!?
なんか色々余計だからっ! なにより妊娠中でしょうがっ!!」



まぁ確かに死亡フラグっぽいから自重しておこうっと。というか・・・・・・あぁだめだ。これも自重だ自重。



「でもフェイト、おはようのキスとおやすみのキスと行ってきますのキスと行ってらっしゃいのキスとおかえりのキスとただいまのキスはするから」

「え?」

「そこは絶対譲らないから。僕はいつも通りにフェイトとラブラブして、フェイトと繋がっていきたいの。
その姿勢は崩したくない。僕はどんな時でも、何をしてても・・・・・・フェイトと手を繋いでいたい」

「・・・・・・ん、分かった。そこは頑張っていくよ。あの、そういうのも夫婦円満の秘訣なんだから」



そう言ってフェイトは頬を赤く染めて嬉しそうに笑ってくれる。それでまたドキドキが強くなる。

・・・・・・・沸き上がる煩悩を抑えようとして意識を集中したせいか、僕は唐突に一つの事項を思い出した。



「ねぇフェイト、唯世とあむが新技で×たま浄化した時、エンブリオ出てきたんだよね」

「うん。でもそのあむの話もおかしいんだ。エンブリオ自体があむが触ろうとしたら怒ったような感じがしたって言うし」

「いや、そこもそうなんだけど・・・・・・おかしくない? なんでエンブリオは出てきたのさ」



フェイトが軽く首を傾げる。その仕草が可愛いけど、今は頭撫でるのもちょっと自重して話を進める。



「考えてみてよ。エンブリオの出現条件は『大量の×たまがあるところ』でしょ?
もうちょっと言うと大きなマイナスエネルギーが発生している事。基準は・・・・・・ブラックダイヤモンド事件」

「・・・・・・あ」



フェイトもそこに気づいたらしく、目を見開いて傾げていた首を正して真っ直ぐにした。



「そっか。ザフィーラやみんなの話だと人は居たけど、あの時程多くはなかった感じだったしね」

「だったらなんでエンブリオが出てきたのかという話になるよ。その場だと条件そのものが整ってない」

「ヤスフミ、もしかして私達が今まで仮定していたエンブリオの出現条件そのものが、完全に間違ってるのかな」

「かも知れない。それだってそもそもの根っこは海里から聞いたイースター情報だし。
もしかするともしかするとかも。ううん、というか・・・・・・それだと一つ仮説が立てられる」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「九十九、どういう事だっ! なぜあの場でエンブリオが出てきたっ!!
あの場ではお前達が調べた条件そのものが整わないはずだぞっ!!」

「えぇえぇ、分かってますってっ! だから今必死に調べてるんじゃないですかっ!!」



現在、もう労働基準法無視な時間に仕事場に居るのは、今日出てきたエンブリオのせい。

というかおかしいんだよ。今までのデータだとあの場でそんなのが出てくるわけないのに。



「・・・・・・萬田、千々丸っ! そっちの方はどうだっ!! 僕はさっぱりだっ!!」

「こっちもだめですっ! どういうわけかあの波長が出てるのは分かるんですけど」

「もうなんていうか・・・・・・どうしてそれが出たのかワケ分からんのですよっ!!
あの数の×たまじゃ出力そのものすら足りてないんですよっ!? おかしいですってっ!!」



待て待て、どういう事だ。こういう時は・・・・・・よし、まずは落ち着こう。それで冷静に事実だけを見ていこう。



「えぇい、本当にどういう事だっ! これではこのまま計画を進めてもエンブリオが出るかどうかも怪しくなるぞっ!!」

「・・・・・・専務、落ち着いてください。というかお静かに。こっちの考えが纏まりませんから」

「九十九、貴様誰に向かって」



椅子に座りながら後ろに居る専務をジッと見ると、専務は言葉を止めて落ち着いた表情になってくれた。



「何か案があるのか」

「いいえ、全く。ただ・・・・・・今日僕達の前にエンブリオが出たのは事実。
そこは認めましょう。次にあの数では出るはずがなかった事もです」



僕が専務を止められる程に視線を強く出来たとしたら、それはたった一つの要因のせい。

・・・・・・腰を落ち着けて、現実と向き合って認める覚悟が出来たからだよ。うん、科学者には必要な事だよね。



「僕の高校の時の科学の先生がこう言ってました。というか、僕の師匠の一人ですか?
・・・・・・予測外の事態に混乱した時は事実を一つずつ認めて、その上で可能性を検証しろって」

「では九十九、今私達がそこを認めてどんな可能性が出てくる。どちらにしても良いものではないだろう」

「いえいえ、そうとは限りませんよ。まず・・・・・・僕達が仮定していた条件そのものは完全に的外れだった」



つまり大量の×たまがあるかどうかは関係ないんだよ。そうじゃなきゃ出力の問題が解決出来ない。

ではどこでどうやったらあの波長が出るか。実はそこも・・・・・・冷静に考えていくと分かるんだ。



「ではなぜエンブリオが出るのか。僕達が掴んだ波長とはいったいなんだったのか。そこはタイミングを考えれば新しい仮説が立てられます」

「タイミング?」

「・・・・・・なるほど。主任、俺も分かりました。まずタイミングとはエンブリオが出た時。
今まで確認されている限り、その時は必ずガーディアンが×たまを浄化した後



そうそう、さすがは千々丸。つまりはそういう事なんだよ。なお、そこに萬田も続いてくれる。



「そう言えば・・・・・・あ、そうよね。ブラックダイヤモンド作戦の時もなぞたま作戦の時も、それに今日も同じだった」

「正解。いやいや、二人とも優秀でホント助かるよー」





例えばブラックダイヤモンド事件。具体的には最後に×キャラが大量に孵化した時だね。

それをガーディアンの連中がどうにか全浄化した後にエンブリオが出てきた。

例えばなぞたま作戦の最初の時。僕が年甲斐もなく厨二病を発病させてしまったあの黒歴史時代だよ。



ガーディアンがなぞたまにされたティアナ・ランスターのたまごを浄化した後にエンブリオは出てきた。

そして今日。見た事もない合体技であの場所に集まっていた×たま達が浄化された後に・・・・・・つまりどれもタイミングは一緒。

本当に確証を得るならもっとデータが必要ではあるけど、これだけでも一応の仮説は立てられる。



それで専務もそこに気づいたらしくて、口元を歪めて笑ってしまう。





「・・・・・・なるほどな。そういう事か。つまり」

「えぇ。エンブリオは×たまが浄化された際に発するエネルギーに呼び寄せられるんです。
専務、プランそのものは変える必要がありません。むしろ二面的な意味合いでエンブリオを釣れますよ」





仮に今日の事がこの仮説通りだったとしても、大量の×たまを集める事はやめなくていい。

だってそんなのが出てきたら、当然のようにあの子達が勝手に動いて浄化してくれるんだから。

仮に今日の事がイレギュラーな事態だったとしても、やっぱり計画を変えなくていい。



だって×たまを集めれば集めた分だけ、エンブリオを呼び寄せられる可能性が高くなるんだから。



どちらにしてもプランを変える意味はない。いや、変えない方が同時に二つの可能性を追求出来るんだから得になる。





「そうかそうか。では、ガーディアンの連中にもしっかり働いてもらわなくてわな」



専務はそう言って嬉しそうに笑ってくれる。・・・・・・やっぱりそうなっちゃうよねぇ。

僕達の中でたまごを浄化出来る能力者は居ないから、当然そこはガーディアンに頼る事になるしさ。



「それで奴らに罪を償ってもらおう。我らに・・・・・・イースターに楯突き続けた罪をだ。
九十九、喜ぼうじゃないか。我々はまた愚かな罪人を救う事が出来るぞ」

「えぇえぇ、仰る通りです。専務」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・そうなるとヤスフミ、それってかなりマズいよ?
もし仮定した通りに×たまを浄化する事でエンブリオが来るなら」

「僕達が浄化行動を取ると、イースターの手助けする事になっちゃうね」



お風呂の中で向かい合わせに作戦会議しているせいか、自然と熱も入り・・・・・・そろそろ上がろうかな。湯冷めしそうだし。



「でも、それでもやるわ」

「そう言うと思った」

「止めないの?」

「止めないよ。そこを恐れてたまごを見捨てたら、今までが嘘になるもの。
でも、気をつけては欲しいと思う。状況を考えると、どのタイミングで出るか分からないもの」

「ん、分かった。みんなにもそう言っておく。それで・・・・・・ケジメ、つけてやる」










こうして決戦前夜は更けていく。フェイトとラブラブしつつも、戦う気持ちをしっかりと固めていく。





そして翌日、ついに世界を賭けたガーディアンとイースターの最終決戦が始まろうとしていた。




















(第116話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、アニメの方だと80話近辺。原作だと8巻の中程まで進んだ今回のお話はいかがでしたでしょうか」

フェイト「お相手はフェイト・T・蒼凪と」

恭文「蒼凪恭文でお送りしたいと思います。さて、原作ではDL・・・・・・デスレーベル編と言われる事の多い今回。
何気に原作でもPEACH-PIT先生が『ジェットコースターのよう』と言われる程に詰め込まれているお話だったりします」



(その密度はたった1週間足らずで状況が動きまくった事を見てもらえれば分かるかと。なお、原作だと四日で全てのカタがつきます)



フェイト「だから展開もなぞたま編や歌唄編に比べるとかなりスピーディーなんだよね」

恭文「ここの辺りは今までの蓄積があるが故ってのもあるだろうけどね。でも、ここからはもっとぶっ飛ばしていくからなぁ。
もうイベントてんこ盛りで本当に原作も凄いスピーディーに話が動いていくから。正直纏められるかどうか心配」



(まぁ基本は原作orアニメ準拠なので、大丈夫かなーとは)



恭文「あとはキャラなり・デスレーベルですね。まぁ唯世と戦った時もそうですけど・・・・・・めちゃくちゃ強い」

フェイト「確か私やヤスフミでもマトモに戦えば勝てない感じにしてるって言ってなかった?」

恭文「言ってたね。もちろんやりようはあるけど、スピードではフェイト、パワーでは僕やザフィーラさんとかより上だし」



(というか、デスレーベル自体がそれくらいしないとインパクトがないキャラなりだし)



恭文「でもパワーバランスには気をつけて欲しいと思いつつ」



(あ、それはかなり気になってる。正直ここまで強くして崩れてるんじゃないかと怖い部分もあったり)



恭文「ここからは別の話をしよう。・・・・・・ねーフェイト、新型PSP発表されたねー」

フェイト「あ、NGPだっけ。あれって凄いの?」

恭文「とりあえず詳細を見る限りでは凄いね。まだまだ開発途中だから追加情報出るだろうけど。
あー、でもフェイトはその手の機械のスペック関係ちょっと弱いから、情報だけだと分かりにくいか」

フェイト「うん。あの、デュアルスティックとかもPS1の頃からあるし、タッチスクリーンもDSであるし」

恭文「ならそれがPSPサイズの携帯ゲーム機で出来るのが凄いって考えればありだよ?
しかもPS3に迫る勢いの映像出しながらね。そこは今までのPSPやDSでも出来なかったとこだから」



(説明しよう、閃光の女神もNGPに注目しているのはモンハンの続編関係が気になっているからだ)



フェイト「あとは・・・・・・ほら、今までのUMDが使えるかどうか?」

恭文「あ、それは僕も気になる。最悪PS3とかからのダウンロード販売でもいいけど、そのもの自体が少ないしなぁ」

フェイト「互換性っていうか、そういうのがちゃんと出来ないと安心して買えないかなーっていうのはあるんだ。
11月とかそれくらいなら貯金も充分に間に合うだろうし・・・・・・うん、そこはかなり気になってる」

恭文「でもフェイト、買い渋りも考えないとだめだよ? PS3の事とかがあるから」

フェイト「PS3?」

恭文「初期のPS3って、PS2との互換性があったんだよ。PS2のゲームも出来てたの。
でも今は仕様変更のせいでそういうの出来なくなってて、初期のPS3すごい高くなってるから」

フェイト「・・・・・・なるほど。最初はそういうのが出来るんだけど、後でできなくなっちゃう場合もあるんだね。うん、学習したよ」



(最悪UMDのデータをインストール出来るオプション装置とかがあればいいなーとは思ったり。
でもでも、それやるとゲームが普通にコピー出来ちゃうからダメか。うーん、難しい)



フェイト「あ、なら外部装置でUMDを入れて、それをケーブルで接続したらゲームが出来るというのはどうかな」

恭文「でもそれだと重くならない? とりあえず外でその状態でやるのは難しいよ」

フェイト「そこは後ろにペタって感じで・・・・・・あ、ダメか。確か後ろにタッチスクリーンあったよね」

恭文「うん。というか、それも含めて・・・・・・アレ、マジでどういう作りになってるんだろ。凄く気になる」



(NGP・・・・・・まだまだ謎が多いです)



フェイト「まぁモンハンやりつつ様子見る? まだ発売までだいぶあるし」

恭文「それもそうだね」

フェイト「というわけで、本日はここまで。次回はいよいよ決戦当日。
ノンストップで最後まで駆け抜けていくクライマックスのスタートです」

恭文「果たしてどうなるかは見てのお楽しみで。それでは本日のお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪でした。それじゃあみんな、またね」










(そして二人は仲良く手を握りつつ・・・・・・振るんじゃないんかい。
本日のED:タイナカサチ『code』)




















ナナ(ステッキ拭き拭き)「・・・・・・しかしとんでもない事になったわね。予言の事だけでも頭痛いのに。
そのキャラなりしてるだけでその子の命が危ないかも知れないなんて」

シルビィ(銃の手入れをしつつ)「ホントね。こうなると本当にもたもたしてられないわ」

恭太郎(ビルちゃんぽんぽん)「でもよ、イースターの連中はその事知ってんのか? それで月詠幾斗が潰れたらヤバいだろ」

ビルちゃん≪知ってると見ていいでしょうね。話に聞く星名専務の言い草を考えれば当然ですよ。
正直今からでも動きたいところですけど、まずはこっちもこっちで体勢を整えないと≫

咲耶「ですわね。なら・・・・・・恭さま、おじいさま達の事はお任せしてしまっても大丈夫でしょうか。私、少し行くところがありますので」

恭太郎「いや、そりゃ良いけど・・・・・・行くってどこにだよ」

咲耶「そのデスレーベルとやらの事もそうですが、現状を考えるとこれだけのメンツが揃っていても勝てる見込みが薄いです。
コレを機に×ロットなどを大量に出されてきても面倒です。なので・・・・・・私の方で増援を呼んで連れてきます」

シルビィ「ちょっと待って。えっと・・・・・・咲耶ちゃんだったわよね。そのアテはあるの?」

ナナ「そうよそうよ。その口ぶりだとGPOとか魔導師組以外よね?」

咲耶「そこもあるしそこ以外もという感じでしょうか。こちらは相手方の都合を聞いてからですけど、おそらくOKしてくれるかと」










(おしまい)






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あきゅろす。
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