小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第110話 『Bullet clash/平和な日々の合間には激闘を』
ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』
ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー。さーて、本日のお話はー?」
ミキ「色んな事があった二人も、一応のゴールに到達したりします」
スゥ「どこか似ている二人が、ただ純粋にぶつかり合ったりします」
ラン「そしてそして、ぶつかり合ってすれ違ってた二人が」
ミキ・スゥ「「あ、それは次回」」
ラン「どうしてー!?」
(立ち上がる画面に映るのは、笑顔で手を繋ぐ二人と力をぶつけ交差する二人)
ラン「と、とにかくとにかく・・・・・・今回も元気よくいくよー! せーのっ!!」
ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あむが幸せを満喫した翌日。僕はちょっと学校を休んでフェイト共々ミッドに来た。
それで地上本部の方で書いていた書類を一緒に出して、それが無事に受理されて・・・・・・うん、これで完了。
まぁその、イースターの事が解決してからでもいいかなとは思ったのよ。ただ、アレなんだよね。
やっぱりけじめだから、死亡フラグとは思いつつも今回は頑張る事にした。
「フェイト、お疲れ様」
「あ、ううん。というかヤスフミ、それはおかしいよ」
右隣を歩くフェイトは、右手で口元を押さえてクスリと笑う。それに釣られて僕も笑ってしまった。
「だって私達二人の事だったのに。なにより書類を出して少し待って・・・・・・だもの」
「いいの。だってフェイトは二人分の身体なんだから。というかあの、ついになんだよね」
「うん、ついに私達」
フェイトと顔を見合わせて、なんだか嬉しくてお互いの指にしている指輪を見てニコニコしてしまう。
「「夫婦になった」」
地上本部の戸籍関係の部署に出したのは、婚姻届。つまりその、一応・・・・・・入籍したの。
結婚記念日は11月の8日。この日を持って僕達は夫婦になった。ど、どうしよ。なんだか嬉しい。
あ、それで実はとてもとても重要な報告があるのよ。それもかなりね。
フェイトの頑張っていた『フェイト・テスタロッサ・ハラオウン・蒼凪』に関してなんだけど・・・・・・無しになりました。
「まずは私が第一夫人ゲットだね。うん、やった」
それで歩きながらまた僕達は来た時同様に手を繋ぐ。なんだろ、こう・・・・・・すごく幸せ。
だけどガッツポーズを取っているフェイトの姿が突き刺さったりもしたり。
「そうだね、それで『フェイト・T・蒼凪』になったしね」
「そ、そこには触れないで。うぅ、かなり練習してたのに」
まぁアレですよ。早口言葉の練習は実らなかったんだよ。残念ながらダメだったの。
本人かなり必死だったから、軽く落ち込んだりしてるのよ。まぁ・・・・・・長過ぎるしなぁ。
「でも結婚式はこの子が生まれて落ち着いてから・・・・・・かな」
「そうなっちゃうね。いま出来るのはあくまでも入籍だけ。
というか、さすがにイースターのアレコレがある中で結婚式の準備は無理だよ」
「確かにね。・・・・・・よし、イースターぶっ潰して慰謝料替わりに僕達の結婚式の資金出させるか」
左手でガッツポーズ取りつつ僕は決意を固めた。いや、マジでそれくらいしてもいいと思うんだよね。よし、それでいこう。
「何かとんでもない計画立ててるっ!? というかそれはだめだよっ! せめてお祝儀をたんまりせしめとるとかじゃ」
「それもまたダメじゃないかなっ! というかフェイトぶっ飛んでるよっ!!」
「ヤスフミよりはマシだよっ!!」
「どういう意味っ!?」
そこまで言って、僕達は頬を膨らませながら睨み合って・・・・・・すぐに表情を崩して笑った。
「まぁその前に・・・・・・死亡フラグだよね。うん、気をつけないと。ヤスフミ、コアファイターで特攻とかダメだよ?
タイヤに特攻とか接近戦しかけるとかダメだから。そんな事してもあの船は落ちない・・・・・・ぐす」
「涙目にならなくていいからっ! てゆうか、あんな分かりやすいフラグ踏むほど不抜けてないしっ!!」
はやてがいたずら心で見せたVガンダムはフェイト的には衝撃的だったらしく、その様子を思い出すと今みたいに泣き出す。
まぁあれは黒富野と呼ばれるくらいにレギュラー死にまくるしなぁ。でもイデオンよりはマシだと思うんだ。主人公死なないし。
「とにかくフラグは気をつけるよ。うん、今まで以上にね。
というか、アレ思い出したら気をつけなきゃいけない気がして」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ヤスフミ落ち着いてー!! というかあの、ごめんっ!!
顔真っ青だからまずは落ち着こっ!? ほら、深呼吸深呼吸っ! それか甘いもの食べ行こうかっ!!」
こんな風に話しながらも、僕達はフラグの怖さを痛感しつつ帰り道までのちょっとしたデートを楽しんだ。
ただ、僕達はまだ知らなかった。僕達以上に死亡フラグに気をつけなくてはいけないのが居たのよ。
僕達のよく知るあの現・魔法少女が、知らない間に某伊藤誠さんを彷彿とさせる絶対不利なフラグを立て始めていた。
マジで『悲しみの向こうへ』が流れるような事態になる瞬間は、本当にあと少しだった。
All kids have an egg in my soul
Heart Egg・・・・・・The invisible I want my
『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!
第110話 『Bullet clash/平和な日々の合間には激闘を』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・そう言えばヤスフミ」
本局の喫茶店でケーキと紅茶をのんびりいただきつつ、うちの奥さんは少し疑問そうに僕を見ていた。
「なに?」
「私唐突に思い出したんだけど、明日歌唄の誕生日なんだよね」
「あー、うん。そうだね」
なぜ結婚記念日に実質愛人な立ち位置になってしまった女の子の話になるのだろうか。・・・・・・いや、そうなるでしょ?
フェイトと結婚してコレなわけだから、なっちゃうんだよ。それでまた心が痛くなりつつ苦笑いを浮かべる。
「誕生日プレゼントとか必要だよね」
「うん。でも今はちょっと無理じゃないかな。相当忙しいらしいし」
「あ、メールしてたよね。それで・・・・・・GPS」
「・・・・・・もう外せないGPSの話はやめようか。きっと胎教に悪いよ」
二人で頷きつつ、また紅茶を飲む。それで軽く息を吐いた。
「ほら、ガルフェスの時にうたってた曲あるじゃない? 歌唄の新曲」
「うん。えっと、『太陽が似合うよ』だっけ」
「それそれ。あの曲の発売準備で忙しいみたい。なんだかんだで楽しそうだけどさ」
『Heartful Song』とはまた違う優しくも明るい曲調だったなぁ。歌唄はなんだかんだで前に進んでるようで嬉しい。
・・・・・・やっぱり好き、なんだよね。歌唄とだったら・・・・・・なんて考えていると胸元でバイブが響いた。
「あれ、噂をすればなんとやらかな」
「歌唄から?」
「うん」
入籍報告メールはあっちこっちに送ってたからなぁ。その返信だね。
だからメールを開いて・・・・・・表情が崩れてしまう。
「『おめでとう』・・・・・・だって。フェイトの方にも送ったけどーとも書かれてるね」
フェイトは言いながら左手から折りたたみ式の黒の携帯端末を取り出して画面を開くと、納得したように笑った。
「うん、来てる。それで歌唄らしい感じで書かれてるね」
「だね」
「『しばらく愛人立ち位置だけどまぁまぁ納得するから』とも書いてるし」
「・・・・・・だね。僕の方にも書かれてるよ」
僕はやっぱり泣いてしまった。普通に今日は結婚記念日なのにそれ以外の事で泣いてしまった。
でもでも、フェイトが頭をいっぱい撫でてくれて嬉しかったなぁ。というか僕、やっぱりフェイトの事好きー。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さて、フェイトさんとアイツの入籍記念パーティーなんてものを自宅で開催する運びになった。
ただフェイトさんの体調もあるので、あくまでもちょっとご飯を豪華にするだけ。大騒ぎとかもなかったりする。
それでまぁ、女子力上げるために料理なんて手伝ってたわけですよ。
でも通信がかかってきたので少し席を外した。なお、通信はスバル。
年末年始こっち遊び来ていいかーって・・・・・・いや、良太郎さんどうした?
とにかく通信を終えて私は部屋の外にでて、改めて気合いを入れ直す。
あのね、なぎひこに101話で敗北してから私は奮起したわけよ。アレは女子的には衝撃的だったの。
それでクロスミラージュ受け取りに行くまでの間にその奮起を行動に移す事を決めたの。
本当は事件解決後に行動するつもりだったけど、思い立ったが吉日って言うし今やる事に決めた。
私は今まで仕事にかまけ過ぎてた。余りに一直線過ぎてしまった。
だからまぁまぁなのはさんには確実に勝てるだろうなと思ってたわけですよ。
なのにあの時、上には上が居ると突きつけられた。
なおそれはシャーリーさんも同じく。私達はマジで女子力の上昇を頑張ろうと一種の同盟を組んだ。
このままじゃ私達はマズいの。マジでなのはさんのようになってしまう。IKIOKUREになってしまう。
まぁ色々迷って悩んで考えていくと決めたし、ここで頑張ってみる事にした。
だから最近、デバイスの開発しながらも料理とか家事とかそういうのを勉強してる。
・・・・・・廊下を数歩歩きながらそれがおかしくて、クスリと笑ってしまった。
だって数ヶ月前ならこんな事考えもしなかったのに。でも、こういうのも悪くないな。
うん、悪くない。だって私のキャラは局員ってだけじゃないんだから。コレも私のキャラなのよ。
「あ、ティアナちゃんお帰り」
白いエプロンを着けたシルビィさんが、フライパンで何かを炒めながらリビングに入った私の方を振り向く。
シルビィさんは普通に料理関係は強いらしくて、毎日家事手伝いをしてたりする。それで・・・・・・怪訝な表情をする。
「・・・・・・察するに、恋の悩みねっ! 彼氏とケンカでもしたとかっ!!」
「なんでそうなるんですかっ! てゆうか全然違うしっ!!
相手女の子ですよっ!? てーかスバルだしっ!!」
「なるほど、百合ね。ティアナちゃん大丈夫よ? 私そういうのに理解はある方だから」
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ねぇ、この人マジで噂のGPOのランサーなワケっ!? 確かに自己紹介してもらったけど、全く信じられないしっ!!
ヴェートルで色々な事件を管理局さておく形で解決してきた凄いチームの一人とは思えないんですけどっ!!
「ごめん、ちょっとした冗談よ」
「いや、ならいいですけど」
リビングのテーブルにかけたままだった黒のエプロンを持って、またかける。なお、私が作った。
・・・・・・いや、アイツに女子力上げたいって相談したらやってみようって事になってさ。これが何気に楽しくて。
「まぁそうですね、のれんに腕押しなバカの相手をしてたとだけ言っておきます」
「あら、そう。それは大変ね。でも女の子はいつだって押しの一手よ?」
「そうかも知れませんね。でもあの子の押しは逆に怖いし引く事があるんですって」
まぁそれで長話する私も私だけどさ。でも・・・・・・うん、やっぱ友達って色んな意味でありがたいのかも。
「なるほどねぇ。あ、そうだティアナちゃん」
「はい?」
「せっかくだしパーティーが終わったら、お姉さんと少し気晴らしにコミュニケーションしない?」
「・・・・・・はい?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さてさて、私達はまぁ・・・・・・アレよね。居候させてもらっている立場なわけじゃない?
だからこそ出来る交流というのもあったりはするわけよ。例えばティアナちゃんとか。
どこかヤスフミとタイプ的に似ているあの子と私はお互いに趣きが異なるガンナー同士。
その関係で話をするようになって、トントン拍子で普通に一緒の訓練したりもするわけよ。
あ、もちろんリースちゃんに結界を張ってもらった上でよ? そのままやるとご近所迷惑だから。
でもヤスフミとフェイトちゃん・・・・・・うぅ、フェイトちゃんに追い越されるとは思わなかったなぁ。
あの調子なら私の方が絶対早いって思ってたのに。ほら、原作とか見てると確実に勝てるかなって。
『・・・・・・シルビィ、僕とリインはシルビィが勝つ方に賭けたから頑張ってねー』
「あら、そうなの? じゃあ私も自分の方に」
『賭けってなにっ!? というかヤスフミ、基本身内を賭けにしちゃだめだからー!!』
シチュは市街地そのまま。お互いに視界で認識出来ないレベルで離れた上で待機。
距離的には1キロ程度かしら。なお、当然ながら私が不利よ? 私は誘導弾使えないから。
でもこれは私が言い出したの。そうじゃないと訓練にならないから。
向こうから持ってきた仕事の時にはいつも装備してるアーマーとスーツを装着して、銃の最終点検中。
楽しそうな夫婦二人を見て、ついクスリと笑ってしまう。
「というかナナちゃんは? まぁディードちゃんやシャーリーちゃんはしょうがないとしても」
『それでシルビィさんも乗らないでー!! ・・・・・・というかその、シルビィさん本気ですか?
このシチュだとどう考えてもティアナが有利だと思っちゃうんですけど』
「えぇ、有利ね。でもそんなのはいつもの事だもの」
軽く答えながら、点検を終えて最後に銃のシリンダーに弾丸を一発ずつ詰め込んでいく。
「私はフェイトちゃんやヤスフミと違って魔法資質なんてない。空を飛ぶ翼なんてない。
あるのは人より少しだけうまく銃を撃てる技術と、生まれつきのバカ力だけ」
シリンダーに模擬戦用の弾頭を全て詰めたら、銃身に納めて両手で持つ。
「魔法至上主義の中では、私より強くて有利な人達がほとんどだもの。
これくらいは慣れておかないとダメなの。そんなのは私の世界の中では当たり前の事だから」
『そう・・・・・・ですか』
「そうよ」
どこか申し訳なさそうな顔になってしまうフェイトちゃんを見てクスリと笑ってしまう。
あぁ、でもヤスフミがフェイトちゃんをいじめるの楽しいって思っちゃうの分かるかも。さすがにコレは不謹慎だけどね。
「というか心配し過ぎ・・・・・・あぁ、そっか。フェイトちゃんの前で本格的に戦闘した事ないのよね」
私、何気にヴェートルの一件の時にはヤスフミとコンビ組んで後ろから援護射撃程度しかしてないのよね。
というか本格的に立ち回ったのって最初にダンケルクと遭遇した時だけ・・・・・・アレ、私全然働いてなかった?
『実は・・・・・・もちろん実力があるのは知っているんですけど、具体的なところは分からなくて』
「そっか。じゃあ翼のない人間が翼のある人間にどうやって立ち向かうのか・・・・・・見せつけてあげる」
それで合図が鳴って、私は全力で前に走り出す。・・・・・・さて、どうしたものかしら。
当然だけど超筋力解放での打撃は禁止。ティアナちゃんに大怪我させちゃうもの。
普通に射撃戦よね。基本はやっぱり接近する事。あとは誘導弾に囲まれない事。
数に任されちゃうと色々面倒だもの。それにティアナちゃん何気に優秀っぽいし・・・・・・アレ、負けフラグ?
よし、予定変更。まずは射撃戦の基本通りに行くわよ。その基本はより遠くから確実に強力な攻撃を当てる事よ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
というかどうしよ、私マジでフェイトさんの補佐官してて良かったわ。
だってあのヴェートルの英雄と言ってもいいGPOのランサーと模擬戦出来るのよ?
マジでこれは嬉しい。だから自然とクロスミラージュを握る手も力が入る。
まずは誘導弾を8発出して、相手を待ち受ける。路上に立って周囲を警戒。
結界の中でも夜の闇は深くて、それで不気味なほどに無音。
ちょっとした空気の流れすらも見逃さないように自然と表情を険しくする。
どこ・・・・・・どこから来る? 魔力弾と実弾には色々と違いがあるから、そこから推測。
まず魔力弾はホーミング攻撃が可能。でも実弾銃はそれが出来なかったりする。
それで実を言うと、特定条件下では弾速は実弾銃の方がずっと上だったりするのよね。
ここの辺りは誘導という条件のため。つまりその個人がコントロールし切れないスピードは出せないのよ。
そうなると必然的に自分の感覚やデバイスのサポートの範囲内の速度に抑えられてしまう。
具体的には目視で余裕を持って避けられる感じ? もちろんそれだって撃ち方次第だったりするんだ。
直線的に撃ち込む弾丸ならそんな事はないし、何か条件をつけて自動誘導してもそこは同じ。
あくまでも特定条件下では魔力弾の弾速は実弾に劣るってだけの話なのよ。それでそこに関しては創意工夫で補える。
だから誘導関係はこちらの気をつける部分でもあると同時に、大きなアドバンテージでもある。
実弾銃は基本的には直進的にしか飛ばないものだから、誘導弾みたいには撃てない。
そこはこちらの優位な点。まぁテレビで見るような跳弾とか使うなら別よ?
つまりどちらにしても相手の攻撃は直線的なものになる。当てられる状況も当然限られる。
基本は障害物に遮られない事。そのために出来る事はいくつかある。一つは近づいて撃つ事。
もちろん障害物がクリアな状態でね。それで一つは・・・・・・私は自然と上を見た。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
距離の計算、よし。手ぶれ補正・・・・・・問題無し。まぁまぁ銃としてはギリ射程外だけど大丈夫でしょ。
今回の勝負、基本的には1発でもクリーンヒットした方の勝ちなんだから。私は呼吸を止める。
息苦しさを感じながらも一気に集中。遠くに見える豆粒サイズなあの子に狙いを定めて右人差し指を動かす。
そこからあの子に向かって研ぎ澄ました神経を突き刺すようなイメージでトリガーを絞り込み・・・・・・引いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
上を見た瞬間、唐突に何かが私の胸元を貫いた。そして私の姿は、そのままかき消える。
そう、かき消えた。私の身体はオレンジ色の粒子となってその場で消えてしまった。
そして地面その何かが着弾して近くの壁に跳ね上がった。そこから黄色い雷撃が弾ける。
その何かの正体は、実弾銃から放たれた弾丸。ただしそれは模擬戦用のスタンバレット。
着弾すると弾けて電撃を撒き散らすってタイプね。・・・・・・これが今言いかけた一つの方法よ。
ようするに障害物に防がれないシチュで撃てばそれだけで命中確率は高くなる。
それでそこには『上から下に撃つ』・・・・・・狙撃というのも選択肢に入る。
「・・・・・・クロスミラージュ」
≪反撃します≫
かき消えた『私』の周囲に設置してあった弾丸が、私の胸元を貫いた何かが飛んできた方向へ射出される。
そこはちょうどビルの屋上近く。そこに弾丸達が最高速度で殺到していく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「外し・・・・・・マズいっ!!」
私はすぐに立ち上がって手持ちの銃のバレルを『変形』させながら180度ターン。
そこから全力疾走すると、後ろから爆発音が響き渡った。咄嗟に右手の銃をそちらに向ける。
その銃は開始前に弄っていたリボルバー式とは違う青色のオートマ拳銃。
搭載弾数は15発で、何気に5年以上の付き合いのある可愛い子。全力疾走しつつも立ち昇る爆煙に向かって引き金をまずは一回。
それから銃口を僅かに右に動かして、二回目の引き金を引いた。乾いた発射音が響いて、弾丸がまっすぐに飛ぶ。
その弾丸達は灰色の爆煙を突き破ってこちらに迫っていたオレンジ色の誘導弾2発を真ん中から射抜いて撃ち落とした。
それを目で確かめる事もなく私は、連鎖的に響いた爆発音を背にそのままビルから飛び降りる。
なお、高さとしては10階建て程度。普通に落ちちゃったら大怪我・・・・・・というか、死ぬわね。
だから銃身下部を左手に添えて、地面に叩きつけられる前に身体を時計回りに捻る。
同時に銃口を右側にあるビルの非常階段の手すりに向ける。それから小さく呟いた。
「ワイヤー、シュート」
というか、呟きながら銃身下部に備え付けた手の平サイズの長方形の装置のスイッチを親指で押す。
するとその装置から小型のカラビナ付きのワイヤーが射出されて、非常階段の手すりに巻きつく。
それを始点に私の身体は振り子のように動く。移動に伴い発生した風が私の髪をなびかせ、肌を撫でていく。
スイッチを操作してワイヤーを軽く巻き上げつつもその動きに従ってもう一つアクション。
私はワイヤーが巻きついた階より下の手すりに飛び込みながらも足をつけた。
膝と身体全体を使って衝撃を殺しつつも非常階段の方に飛び込み、ワイヤーを操作。
そこからするすると巻き戻ったワイヤーをすぐに回収。・・・・・・やっぱりコレいいなぁ。
あ、感心してる場合じゃないわね。多分この辺りサーチされちゃうだろうし、すぐに撤退よ撤退。
でもあの消え方・・・・・・これ、もしかして狙撃作戦は確実に失敗するフラグかしら。
「やっぱ一筋縄はいかないか」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
弾丸達が着弾して、ビルの屋上の縁近くで爆発音を立てる。でも、手応えは感じない。
遠くでコンクリの破片が落ちたり爆煙が昇るのを見てそこは強く感じた。これは外してしまっている。
「幻影出しといて正解だったわね。普通に引っかかってくれた」
ただここは相手がダメとかじゃない。どっちにしたって向こうは魔法が使えないわけだし、こういう手を使うしかない。
でも今の・・・・・・・普通に500メートル以上離れてたわよ? それで狙撃したって事よね。
「もしかして向こう、ライフルの類を持ってる?」
≪ありえますね。ですがそれらしいものは来る時に持って来ていなかったのですが≫
「でも隠し玉って事も考えられるから、油断せずに・・・・・・まずは幻影で腹の探り合いかしら」
向こうに見つからないように隠れつつ私は意識をまた集中。クロスミラージュのカートリッジを3発ロード。
すると周辺に銃を構えた私の幻影が出てくる。・・・・・・本当にかなりいい感じだわ。
カートリッジの容量が増えた分、今までよりもずっと幻影が使いやすい。というか、システムも見直されてる?
シャーリーさんとマリエルさんにヒロリスさん達に感謝しつつ私は、幻影を動かしてシルビィさんの捜索を始める。
・・・・・・こちらの有利な点は幻影と弾丸生成で手数を増やせる事。その全てを的確にコントロール出来る事。
こういう入り組んだ普通の路地でも私は、誘導弾一つで安置に引っ込んだままシルビィさんを狙い撃てる。
そしてデバイスの性能で捜索範囲も当然ながら上。だけど油断出来ないってのが辛いわねぇ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・ヤスフミ、今のって」
「狙撃だね」
「そう言えばあの方はガンナーでしたね。とてもいい腕です」
僕達は家の中で後片付けしつつも試合チェック。それでフェイトは少し驚いたように息を吐いていた。
ディードも自分の周りには少ないタイプなので、食い入るようにシルビィの動きを見ていた。リインと僕は結構普通だけど。
「でもあの、シルビィさんライフルっぽいの持ってなかったよね。銃自体は変わってたけど」
「いや、持ってるよ?」
「えぇっ!?」
「あー、フェイトは知らないのか」
何気に同窓会とかもそういう戦闘関係のアレコレは抜きだし、フェイトが知らなくてもしょうがないんだよ。
さっきのも狙撃が行われた瞬間に急いでサーチャーでシルビィの方を見たけど、変形し終えた後だったしなぁ。
「シルビィ、基本的に二丁銃を持ってるのよ。まず一丁はいつも使ってるリボルバー」
「それはフェイトさんも見た事のあるアレなのですよ」
あの魔力バッテリー仕込みのやつだね。GPO印の大型リボルバーだよ。アレもゴツいんだよねー。
「それでもう一丁は変形機構を組み込んだオートマ型の銃なのです。
リインもヴェートルでアレコレあった時に聞いたのですよ」
「変形機構?」
「うん。アレ凄いよー? デバイスの変形機構を組み込んで小型の狙撃銃になるんだから」
さっきのはアレを使って射撃って感じかな。ただ専用ライフルじゃないから射程距離には限界はある。
多分あれはその限界を超えてるはずだよ。それで当てられるのはシルビィの腕前。
というか、3年前より腕上がってる? うーん、何気にシルビィも射撃に関しては相当プロなんだよなぁ。
その上近接戦闘になっても超筋力解放があるから、パワーに関しては多分レイオさんとかよりも上。
何気にシルビィはガチに魔法能力者と殴り合っても生き残っていけるオールラウンダーなガンナーだったりする。
「じゃああの、ワイヤーみたいなのは? アレは備えつけのアタッチメントって感じだったけど」
「そう言えば・・・・・・フェイトお嬢様はご存知ないという事は、あの銃専用の装備でしょうか」
「あ、アレは僕が作った」
「「えぇっ!?」」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
普通に狙撃返しをされるとは思わなかった。というか、ワイヤー装備作ってもらって良かったわ。
おかげですぐに脱出出来るし高いところも昇れるし・・・・・・ワイヤーアクションって素敵ね。
しかもコレ、ヤスフミが私のために作ってくれたものなの。だから余計に素敵で大切でドキドキなのー。
あのね、デバイスマイスターの資格取ったって聞いたから試しにお願いしたの。
私は冗談半分だったんだけど、ヤスフミったら私のデフォルトの銃二丁のアタッチメントになるように作ってくれたんだ。
もちろん取り外しての使用も可能。魔法が使えない私でも使えるようにかなり煮詰めて作ってくれてる。
なんというか、こういう時に愛を感じちゃうのよねー。うぅ、やっぱり私ヤスフミにフラグ立てられまくってるなぁ。
とにかく狙撃された場所から遠ざかりつつ、あの弾丸が飛んできた方に向かって左に大きく迂回しつつ接近。
ティアナちゃんは狙撃ポイントの方にもサーチによる探索の手を向けてるでしょうし、ジッとしてるのは愚策よ。
でもあの消え方は一体何? 私の弾丸は胸元を確かに捉えたのに、まるで幻みたいに消えちゃった。
アレ、幻・・・・・・もしかして幻術魔法? 魔力で幻影を作って囮にしたりするっていうアレ。ふーん、面白いなぁ。
確か幻術魔法って魔力消費も多いし移動中は使用出来ないしで使い勝手悪かったはずなのに。
あ、これでも対魔導師戦のスキルは必須項目でね。一応知識関係だけはひと通り頭に入れてるの。
なるほど、ティアナちゃんの戦闘スタイルは幻影と射撃で味方を支援するタクティカル・ガンナーなのね。
「うーん、羨ましい。私には絶対に出来ない役割だわ」
そうなるとまずはティアナちゃん本人を見つける事が一番ね。
見つけて接近戦を挑めば必然的に幻影による目眩ましはNGになる。
ただ問題は現時点で出ている幻影をどうするかね。
さっきの調子だと一体ずつ遠距離から潰すのは無し。しかも向こうは射撃型の空戦魔導師。
機動力でも射程でも私は負けてしまっている。普通にやったら絶対勝てない。
・・・・・・なら、やるしかないのかしら。まぁ虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うし、しょうがないか。
とりあえずまずは一手ね。向こうが乗ってくるかどうかは本当に賭けにはなるけど。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今のところシルビィさんは・・・・・・よし、こっちから遠ざかってる。いや、サーチって改めて考えるとマジ便利だし。
余裕のある内はやっぱり幻影で振り回して、弾丸を消費させまくるしかないかな。
というより、相手の出方や戦闘スタイルをちゃんと見極めておきたいって言った方が正解かも。
あの狙撃、普通に凄かった。なんの躊躇いもなく私の胸元をまっすぐに撃ち抜いてきたもの。
私もガンナーだから分かるのよ。シルビィさんの射撃、本当にレベルが高いってさ。
しかも退避する時にこっちの出した弾丸を即迎撃だもの。・・・・・・なんだろ、マジで楽しくなってきた。
それでシルビィさんは・・・・・・あ、またビルの上に立ったわね。それで狙撃ってとこ? でもそれは無理よ。
サーチで居場所は既に掴んでるんだから、そこに向かって弾丸を撃ち込みまくってやる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「もうこっちの位置は掴まれてるわよね。それで・・・・・・うわ、結構居るなぁ」
普通に今目視出来るだけでも10数体。もしかしたらこれ全部幻影って事もあるのよね。
・・・・・・まぁいいか。普通に走って追いかけても体力消耗するだろうし・・・・・・よし、確認OK。
落下時の風圧や周辺の地形を頭に叩き込みつつ計算して、、私は軽く息を吐く。
それから後ろに数メートル下がる。さて、翼の無い人間が悪あがきで必死に鍛えてきたものがどこまで通用するか・・・・・・楽しみね。
「それじゃあ、行くわよっ!!」
叫びながらも私は一気に駆け抜けて、先ほどの倍の高さのマンションから大きくジャンプした。
空中に投げ出されて、髪が軽くなびく。でもそれに構わずに私は両手で銃を構えた。
銃は既に射撃モードの状態。そのまま狙いを定め・・・・・・即連射。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
≪・・・・・・コレは≫
「普通に飛び降りたっ!?」
というか飛び降りながら弾丸を速射して・・・・・・え、幻影が四体撃ち抜かれたんですけどっ!!
「いや、五・・・・・・六・・・・・・嘘、一気に七体っ!? どんなレベルで弾丸撃ちまくってるのよっ!!」
シルビィさんの前面に居た幻影は全て撃ち抜かれた。道を走ってたのもいたし、屋根の上で立っていたのも居た。
でもその全てが見事に胸元を貫かれてかき消えていく。ここは迎撃・・・・・・って、ダメだ。
私はその瞬間攻撃を躊躇ってしまった。だってあの人魔法使えないのに、これで撃ち抜いたら大怪我させちゃうもの。
いや、なんというか仮にこれで撃ったとしても全て撃ち抜かれそうな予感がしてならない。
飛び降りたシルビィさんは、地面に叩きつけられる前に銃からワイヤーを射出。
それを近くの電柱に巻きつけた上で振り子のように動いて、近くの路上に滑り込む。
着地の瞬間、ブーツとコンクリの地面がこすれて鈍い摩擦音が辺りに響いた。
それだけじゃなくワイヤーを出しているアタッチメントと銃が分離。そしてシルビィさんが前に銃口を向ける。
その前面には幻影が一体。それは次の瞬間に撃ち出された弾丸によってかき消える。
それからシルビィさんは両足を踏ん張って着地。動きを止めてワイヤーを回収し出した
そこを狙って攻撃を再開。幻影を差し向けて弾丸を4発発射。なお弾丸に関しては生成してここまで誘導してきた。
でもシルビィさんは視線を向けずに弾丸達に銃口を向けて、引き金を素早く四回引く。
すると幻影のほぼ目の前で弾丸達は爆発。そしてもう一発銃声が響く。
それで幻影も弾丸達と同じように消えた。・・・・・・いやいや、一体アレ何発装填してんのよ。
てゆうか、リロードしたなら何時入れ替えたのよ。舌打ちしつつも私は弾丸達を操作。
上空からシルビィさんに降り注ぐように10数発の弾丸を撃ち込む。
シルビィさんはワイヤーを回収し終えてから、それらを確認する事もなく大きく前にダッシュ。
あの人の背中側に降り注いだ弾丸達が爆発。地面を打ち砕いて連続的な破砕音が響いた。
でも、その爆煙を突き抜けるように5発の弾丸が接近しようとした。
シルビィさんは振り返りつつ右手の銃を弾丸達に向け、また信じられない速度で速射。
弾丸達は呆気無く撃ち抜かれまた爆発する。・・・・・・今のはリロードしたわよね?
そのままシルビィさんは自分の背中の方に時計回りに振り返る。
そこには続けて私が操作した弾丸1発が迫っていた。なお、最大速度での撃ち抜き狙い。
さっきの5発はどうせ当たらないと思っていた。だからコレで背中を撃ち抜いて止めようとした。
・・・・・・でもシルビィさんは振り返りつつ身体を捻る。背中を直撃して爆発するだった弾丸はそのまま進行。
私の弾丸はシルビィさんの背中のアーマーを僅かに掠りながらも、そのままシルビィさんと交差した。
別に弾丸を避けるのにシルビィさんは特別な事を一切してはいない。ただ踊るようにその場で回っただけ。
金色のポニテで円を描きながらも弾丸の直撃を避けるためにただそうやって回避しただけ。
その上でまた右手の銃を構える。円を描いていた髪がきらめきながらもゆっくりと下にしなだれかかるように落ちる。
その間に通り過ぎてあらぬ方向に進んでいった弾丸を狙って、また躊躇い無く引き金を引いた。
次の瞬間、私の魔力弾は自分を追いかけるように飛んできた弾丸に撃ち抜かれて爆散。
・・・・・・あんまりの事に固まってしまった。あの人は結界が生み出した闇の中で凛とした表情で立っている。
その暗い世界の中の表情は、確かな自信に満ち溢れていてとても綺麗に見えた。
揺れる金色のポニーテールがその美しさを倍増させる。というかあの、もしかしなくても私の攻撃って。
≪完全に読まれていますね≫
「・・・・・・ですよねー」
アイツと同じく色々言い訳出来ないタイプって事か。というか、そうよね。考えたら当然よね。
GPOの仕事の中で、私みたいなタイプとケンカした事は相当あるでしょうし・・・・・・出来るわけないわよね。
「さて、こうなるとどうしたものかしら」
「動き回らせて疲弊させ続けるという手もありますが」
「そうね。でもさ、コレって挑発の類だと思うのよ」
隠れて狙撃戦という手もあったはず。なのにわざわざ的になりに来たという事は・・・・・・えぇ、そうよ。
こんな小細工、自分にはどれだけやっても通用しないって挑発してきてんのよ。私もガンナーだから分かる。
ガンナーがこうやって前に出るのは、それなりの覚悟ってやつが必要になるのよ。
本当なら乗らないのが定石なんでしょ。いつも通りに相手の隙を狙ってさ。ただ・・・・・・私は自然と笑っていた。
「いくわよ、クロスミラージュ」
≪Yes Sir≫
私の周りってさ、本当にガンナー少ないのよ。ほら、なのはさんは全然違うタイプだし。
だからあんな強い人と撃ち合えるのは純粋に楽しい。えぇ、だから飛び出す事にしたわ。
こんな機会、二度とあるか分からないんだ。だったら・・・・・・真正面からぶつかってやる。
えぇ、そうしないと意味がないって気づいたわ。だってコレ、コミュニケーションなんだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「な・・・・・・何アレっ! あんな事出来るのっ!?」
「これ、普通に局の射撃型魔導師よりもずっとレベル高いんじゃ。ちなみにフェイトさんは」
「バルディッシュのサポートも誘導も飛行魔法による高度維持も無しだと・・・・・・多分無理」
フェイトとシャーリーは画面の中を見てただただ感心するように驚くだけ。ティードも驚いたように目を見開く。
「まぁシルビィは相当鍛えてるしなぁ。ぶっちゃけGPOメンバーは六課メンバーよりキツい訓練してるよ?」
「ですです。なお、比較対象はヒロリスさん達加入後です」
「え、どうし・・・・・・あ、そっか。ヤスフミ達はそういう様子も見てたんだね」
「確かにあの様子ならそれも納得です」
フェイトとディードに頷きつつ、改めて画面の方を見た。
その中のシルビィは・・・・・・うん、綺麗だね。『キラキラ』してるよ。
「もちろん個人個人で苦手項目があるけどね。というか、全員の持ってる固有スキルを伸ばす方向で鍛えてる」
まぁその結果自由奔放な性格をした集団が出来上がったのは、なんというかかんというか。
「僕も何気にGPOの訓練とかみんなの実力とか見た時はカルチャーショックでさ。
魔法至上主義に更に疑問を持ったよ。だってみんなの方がずっと強いし」
ただ同時に納得する部分もあった。この実力だからこそ噂されてるような結果を残せるんだなと。
「うん、それは分かる。現に私も疑問を持ったよ。
でも六課よりキツいって・・・・・・どれだけ鍛えてるんだろ」
「ただ、ここの辺りには悲しい事情があったりするわけですよ」
「え?」
まぁその、GPOの分署トップであるメルビナさんは何度か話してるけど非常に有能。
指揮をさせても一流。事務処理をさせれば余裕でお茶の時間が確保出来る。
戦闘に関しても同じく。あの凄まじいチートスキルが無しでもヒロさんレベルでの猛者。
その上人間的に腐っていないという完璧超人すらも見習いたくなる程の完璧超人・・・・・・いや、完璧聖人。
もちろん人間的に抜けているというか面白いところもあるので取っ付きにくいわけじゃない。
ただし、上司としてのメルビナさんに欠点が無いわけじゃない。一つ大きな問題点があるんだよね。
「メルビナさんね、部下への要求レベルが凄まじく高いのよ」
ここがメルビナさんの上司としてのダメな点というか・・・・・・美点というか、どう表現すればいいか困るところ。
メルビナさんは自分の能力が高い分、部下であるシルビィ達に対しての要求レベルも高い。
ただそれは完全な無茶振りというわけではなく、あくまでも本人達に出来る限界ギリギリなラインを平然と要求するだけ。
まぁそういうのがGPOメンバーの能力の水準が普通に高くなる要因なんだけど。
「ヤスフミ、それはどれくらい?」
「そうだね、仮にメルビナさんが六課の部隊長だったとしよう。まず全員揃って三流扱いされるね」
当然六課内で起きた問題は一切ないだろうね。ティアナのあれこれも含めて間違いなく無いと思う。
というか、メルビナさんがトップに立ったならそんな初歩的な問題なんて起きるわけがない。
悲しいかな局ご自慢のエース達よりもメルビナさん一人の方がずっと凄いというのが、事実なのよ。
言い過ぎだと思う人も居るだろう。でもあのチート・オブ・チートを見てたらそんな気は0コンマ何秒で薄れる。
「例えば最終決戦で仕事を通そうとせずにズルく私怨をぶつけたフェイトは死んだ方がマシってレベルで鍛え直されるね」
真顔で言うと、フェイトが軽く頬を引きつらせて信じられないと言いたげな目をする。
おそらくそこは私怨どうこうではない。だってフェイトはそこを認めてるわけだから。
つまり気になってるのは自分が死んだ方がマシと思うレベルで鍛えられる辺り。
ただそれでも僕の表情からそこは理解出来たらしく・・・・・・納得してくれたのが表情から分かった。
「・・・・・・それは恐ろしいね」
「うん、恐ろしいね。僕にとってメルビナさんは理想の上司であると同時に最恐の上司でもあるから」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・攻撃が止まった? もうちょっと雨あられの弾丸の中で華麗にダンスを踊り続けるかと思ったんだけど。
銃のマガジンを入れ替えた上で周囲を警戒。でも辺りは本当に加速度的に静まり返った。
基本的に無音な結界の中だと、ただただまっすぐな住宅街の道の中に立っているだけでも異様な感覚に襲われる。
だってどんな世界にも音はあるものだもの。近くの生活音だったり作業音だったり、風なんかの自然音だったり。
だけど結界の中ではそんなのは存在しない。だってここは普段の世界とは隔離された場所だもの。
そうね、言うなら魔導技術は擬似的にでも一つの世界を作り出しているのかも知れない。つまり世界創造よ。
それで人間はそういう異世界というか、自分の普段居る世界とは違う空間に居ると自然と神経が研ぎ済まされるもの。
一つの異変というか変化に遭遇すると人間は、個体差はあれどその異変に対応していこうとする。
つまりは順応と言ってもいい。では順応に必要なものは何か? ・・・・・・人間は信頼の置けないものに順応はしない。
つまり順応に必要なのは信頼と言える。では信頼を掴むためには何をすればいいのか。
人相手であるならば、普通に対話という手段が取れる。でもこの場合は世界そのもの。
一つの空間・・・・・・状況というものを信頼するには言葉では足りない。というよりどうしようもない。
その場合は・・・・・・そうね、信頼するためには知る事が必要なのよ。だから感覚を伸ばす。
異質な物は警戒するべきなのに、その警戒するべきものをほぼ本能的に知ろうとする。なんというか、矛盾ね。
だからこそ普段よりも感覚が伸ばせる。だって今の状況は異常の二乗なんだもの。
模擬と言えど戦いは異常、そして今言ったように世界そのものが異常。それが今という状況。
そんな状況にさらされる私は、考えるより早く鋭く7時方向に振り向いて銃口を向けて引き金を引いた。
3発の弾丸が空間を切り裂き、結界の中でも消えない月明かりに照らされた女の子を貫く。
1発目は右肩、2発目は胸元、3発目は左脇腹を貫き・・・・・・その身体をかき消した。
そしてその周囲にある4発の弾丸が私に向かって瞬間的に連射される。咄嗟に右に走ってそれを回避。
4発の弾丸はコンクリを派手に撃ち抜いて手の平が軽く収まる程度の穴を開ける。
それでダッシュした私の前に・・・・・・突然にロングヘアーの女の子が現れた。
何もない空間から現れたその子は、まるで別のところから抜け出たようにも見える。なるほど、コレも幻術か。
「・・・・・・はぁっ!!」
そのまま右手の銃の銃身下部にある白い刃を右薙に私の腹に向かって振るった。
一瞬この銃で受け止めようかとも思ったけど、反射的にそれはやめた。これでは受け切れないと悟った。
その突撃を僅かに身体を右に捻りながらすれすれで回避。私達は一瞬で交差する。
あの子・・・・・・ティアナちゃんは交差しながら魔力弾を6つ生成。それを瞬間発射。
私も振り返りつつ引き金を引き弾丸を全て撃ち抜く。私達の間で爆発音が響き白い煙が生まれた。
足を止めて、大きく左に跳ぶ。その上で近くの塀の上に乗り上がった。
すると私の居た場所をオレンジ色の弾丸が爆煙を突き抜けながら通り過ぎていた。
そのまま塀の上をティアナちゃんが居る方に向かってダッシュ。私達の間を遮る爆煙を左から回り込むように動く。
掴んでいる気配に従って、走りながら弾丸を連射。乾いた発射音と鈍い着弾音が辺りに響く。
でもあの着弾音だとティアナちゃんには当たってない。・・・・・・瞬間的に塀の上から跳ぶ。
次の瞬間、ちょうど私の隣にまで来ていた爆煙から弾丸が発生した。
その3発の弾丸は私が居た場所を突き抜けて近くの家屋の屋根を撃ち抜く。
空中を飛びながら、銃を向けて残りの弾全てを爆煙の中に撃ち込む。
その風圧によって晴れかけていた爆煙は完全に消えた。その中にはティアナちゃんが居た。
ティアナちゃんは鋭い目で私を見ていて、両手の銃の銃口を私に向けて引き金を引く。
乱射された弾丸は私の弾丸を撃ち抜き爆発する。そして残り5発の弾丸が私に向かってくる。
咄嗟に右手を横の電柱に向けてワイヤーを射出。ワイヤーは電柱の根本近くにくくりついて巻き戻される。
私の身体は急激に引き戻されて弾丸を回避・・・・・・いや、違う。弾丸は3時方向に曲がった。
そのまま私を・・・・・・あぁもう、よくやるわね。引き戻されながらも地面に足をつけて、ワイヤーを回収。
すぐに左に走って弾丸をなんとか回避。動きながらもマガジンをまた入れ替えてちょうどそこにあった曲がり角に隠れる。
「・・・・・・ティアナちゃん、幻影責めはもうなしなわけっ!?
お姉さん、もうちょっと弄ばれるかと思ってたんだけどっ!!」
それですぐにその銃は元のホルスターに収める。続けて別のホルスターに収めてたリボルバーを取り出す。
接近戦ならこっちの方が有利。というか、こっちじゃないとライオットシュートもサイコスマッシュも使えないもの。
「そんな事しませんよ」
ティアナちゃんの言葉と共に、曲がり角から弾丸が7発出てきて私の真横で停止。
それらは素早く私に向かって撒き散らされるように射出された。それを咄嗟に下がりながら回避。
「えぇ、やっても無意味だって気づきましたよ。・・・・・・てゆうか、こっちの方が」
弾丸が壁に大きく穴を開けるのと同時に、曲がり角から飛び出してきたティアナちゃんの目の前に8発の弾丸。
それらは螺旋を描くように軌道を描き始め・・・・・・ヤバい、アレは迎撃出来ない。私は大きく右の塀に飛び上がった。
「楽しいでしょっ!!」
次の瞬間、螺旋を描いた8発の弾丸が一つの大きな閃光となって路地を突き抜けた。
鋭い風圧が周囲の壁やコンクリの地面を威圧するように吹き抜け、地面に至っては攻撃の余波で鋭い線が刻まれる。
風圧に押されながらも近くの平屋の家屋の屋根に飛び上がって遠のきつつ、ティアナちゃんの方を見る。
ティアナちゃんは既に私の方を向いていて、銃口を向けていた。
・・・・・・ティアナちゃんの銃口の下部にはもう一つ穴がある。そこからオレンジ色の縄が飛び出ていた。
私は瞬間的にリボルバーを構えて、そのままアタッチメントからワイヤーを射出。
縄とワイヤーの先は衝突し合ってくっついてしまう。そこから私達は一気にワイヤーを引き戻す。
その結果身体を引き戻されたのは・・・・・・ティアナちゃんの方だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
な、なんで私の方が引き戻されるわけっ!? てゆうかあの人ちっとも動いてないしっ!!
・・・・・・シルビィさんの足元の瓦が軽く砕けていた。足が少し沈んでいるけど、それでもシルビィさんは全然動かない。
結果ワイヤーごと私は引き戻されて・・・・・・シルビィさんは銃を右手で保持したまま左拳を握る。
舌打ちしている間に私達の距離は零になる。シルビィさんは素早く左足から一歩踏み込む。
そうして左拳を空中に居る私に下からすくい上げるように打ち込んだ。・・・・・・私はまずワイヤーを解除。
その全てを魔力で構築されたワイヤーは一瞬でオレンジ色の粒子を撒き散らしながら消えていく。
それで急激な身体を引かれる感覚は無くなった。続けてここに来て必死に覚えたアレを使う。
弾丸のように直進していた私の身体はその軌道を変えて、まるで跳ね上がるかのように上昇した。
なお、これは飛行魔法。えぇ、私陸戦魔導師から空戦魔導師にクラスチェンジしたから。
シルビィさんによって打ち込まれた拳は左のクロスミラージュの刃を盾にしてなんとか防ぐ。
その貫くような衝撃も加味されて、私の身体は一気に上に上がった。
いいや、シルビィさんの上を取ったと言ってもいい。そのまま勢い任せに両手のクロスミラージュを構える。
下に居る標的を狙って、培ってきた全てを込めるようにトリガーを引く。
「シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥトッ!!」
次の瞬間、まるで強雨のように弾丸は乱射され屋根を撃ち抜いた。それに伴い巨大な爆発音が響く。
目下に爆煙が広がり、私は素早く右に飛んで屋根の上に着地。それから荒く息を吐いた。
やばかった。いや、かなり今のはやばかった。普通にアレで沈められたと思うんですけど。
・・・・・・私は完全に忘れていた。爆煙発生で安堵は完全な負けフラグだと。
だから今、後ろから突き刺さるような殺気にさらされていた。私は咄嗟に後ろに振り向いた。
背後30メートル、今にも屋根に落下しそうな体勢であの人は銃を構えていた。
「ライオット」
反応する前に引き金は引かれ、青いエネルギー状の砲弾は放たれた。
「シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥトッ!!」
放たれた砲弾は屋根を一直線に削り、火花を散らしながらも直進。
それは私の背中に着弾し、そこで爆発が起こる。私の意識は痛みと共に一瞬で奪われた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
引き金を引いたのはいいけど、着地体勢が取れずに私はそのまま屋根に叩きつけられる。
転がりながらも屋根の上の瓦を削り、派手に煙を立てながら4メートル程滑って屋根から落ちる。
痛みに顔をしかめながらも、身体を捻って受け身を取ってなんとか着地。
そこからまた身を起こして、右に回り込むようにして路地裏から出てあの爆煙の方を見る。
でもティアナちゃんから反撃の様子はない。それでも油断はせずにゆっくりと構えたまま移動。
それで爆煙の向こう側に視線を向ける。背中から煙を上げて倒れているティアナちゃんを見つけた。
まぁ威力調整はナナちゃんやシャーリーちゃん監修でちゃんとしていたから大丈夫ね。
「・・・・・・あぁ、でも痛い。普通に無茶しちゃったなぁ。あむちゃんにリメイクハニー使ってもらおうかしら」
さて、私には超筋力解放というレアスキルがある。これは魔法資質に依存しないレアスキル。
その効力はこれまで何度か説明があった通り、そこいらの強化魔法なんて鼻で笑うレベルの怪力が出せる事。
さっきのワイヤー勝負を勝ったのは、そのスキルを使って怪力発動状態になっていたせい。
あ、もちろんティアナちゃんを殴る時は解除していたわ。そうじゃないと大怪我させちゃうもの。
それで弾丸を回避するのにも使った。超筋力を開放した上で跳んだの。筋力の分だけ跳躍力も上がっている寸法よ。
上に居ても、右に居ても、左に居ても、手前に居ても、奥に居ても攻撃出来るように加減した上でね。
でもさすがに危なかった。コンマレベルで反応が遅れてたら上から弾丸の雨嵐で更にいい女になるとこだったわよ。
それでリボルバーを下げつつ左足を見る。足のラインぴったりなパンツの太股部分が一直線に裂けている。
そこから肌が僅かに見えていて、赤い線が太もも辺りに刻まれていた。この傷が私とティアナちゃんの明確な差。
「・・・・・・よし、やっぱりもっと鍛えようっと。私もっとやれるはずだわ」
翼が無い人間としてはもうちょっと頑張らないと普通に時代の流れに負けちゃうわね。
というか、最近弛んでた? 何気に向こうは平和だったし。
今回は面目躍如って感じだけど、この先どうなるか分からないなぁ。
というか、負けたらきっと長官と補佐官が鬼に・・・・・・!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・ティア、負けちゃったね」
「まぁ妥当なとこだけど・・・・・・あのバカ、爆煙見て『やったか?』とか考えたな」
「ヤスフミ、それ違うよっ! 確かにそのフラグが強固なのは私も分かるけど、でもそれはないんじゃないかなっ!!
ほら、ヤスフミと模擬戦した時にもそれで負けちゃってるんだからっ! 間違いなく学習はしてるよっ!!」
「あ、それもそうか」
まぁティアナの方は向こうにリースもナナも居るし大丈夫でしょ。
攻撃の威力調整もしっかりしてるだろうし・・・・・・うん、してるはずだ。一瞬怖くなったけど。
あー、でもこういうのを見ると普通にエンジンかかるよなぁ。
普通にワクワクで楽しいなぁ。それはフェイトも同じく、楽しげな顔で画面の中を見ていた。
「よし、出産終わって子育て落ち着いたら鍛え直し頑張ろうっと」
「そうだね。あ、でも子育て中でも出来る鍛錬はあるよ?」
「え?」
一応リアル赤ちゃんの子育てはガチに経験者なので、フェイトの方を見て自信を持って言えたりする。
「例えばだいたい2時間置きに赤ちゃんが泣いて目が覚めるのは、短時間での睡眠で効率よく体力を回復させるための訓練。
何をするか予想出来ない赤ちゃんの色々な行動に気を配るのは、周囲の気配や変化を察知するための訓練」
「そ、それはまた・・・・・・ヤスフミ、子育ての時そういう意識を持ってやってたの?」
「うん。というか中々にハードだったから、そういう意識を持ってないと集中力が持続しなかった」
ただ考え方次第で出来る鍛錬はあるのよ。暮らしの中に修行の極意ありってのは事実なんだよね。
「そっか。なら・・・・・・ん、私も覚悟決めていこうっと。それで少しずつ」
「うん、二人で・・・・・・この子も一緒に少しずつだね」
そっとフェイトのお腹に左手で触れて、優しく撫でる。フェイトは嬉しそうに笑ってくれる。
それが嬉しくて、当然のように笑い合っていっぱいいっぱい幸せを満喫する僕達であった。
「・・・・・・あの、リイン達の事忘れるなですー!!」
「リインさん、それは無駄かと」
「なぎ君もフェイトさんも・・・・・・最近ぶっ飛ばしてるなぁ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・参りました」
「いや、えっと・・・・・・そんなに感心されると弱いかなぁ」
勝負は私の勝ちで終わりを告げた。いや、かなりギリギリだったけど面目は保ってたわね。
今は結界を解除して、服や武装関係も着替え直してバックに収めた上で夜風に当たってクールダウン中。
でも、風邪を引かないうちに戻らないと。それで私はまた砂糖を吐き出そうと思うわ。
えぇ、吐き出すんだから。だってあの二人・・・・・・無自覚にイチャイチャして甘ったるいし。
「てゆうか、アンタより強いのは当然でしょ。この女若作りしてるけどアンタより10近くは年が」
「ナナちゃん?」
「・・・・・・経験が濃いのよね?」
「そうそう」
というか、10近くなんて失礼しちゃうわ。まぁその、20代後半半ばなのは事実だけど。
何気にヤスフミとの年齢差も5歳以上離れてて・・・・・・でもでも、姉さん女房はありだと思うの。
「まぁそれは私も同意見です。シルビィさんの戦闘スタイルに合わせてたら、確かにティアナさんは勝てませんよ」
そんな事を言うのは、結界内の公園のベンチに座ってる私達にドリンクを差し出してきたリースちゃん。
私達はそのペットボトル入りのスポーツドリンクを受け取って・・・・・・あぁ、生き返るわぁ。
「シルビィさんは近接寄りの単独戦闘を前提としたアクティブ・ガンナーなわけですし」
「やっぱそこの辺りのスキルの差かぁ。確かになぁ、動きというか勢いがダンチだったし」
「まぁ私のレアスキルの使用を前提としたら、どうしてもね?」
ティアナちゃんのガンナーのスタイルは、基本的に中・長距離仕様のタクティカル・ガンナー。
鋭く速い魔力誘導弾による狙撃を前提とし、仲間に指示を飛ばしながら戦う支援特化型。
ただ接近した時の至近距離での銃撃戦の様子を見るに、単独戦闘でのアレコレもちゃんと頑張ってるみたい。
それでも私に届かなかったのは、やっぱりそういう経験差・・・・・・そう、経験の差なのよ。決して年齢の差じゃないわ。
「うー、やっぱ修行が足りないのかなぁ。かなり鍛えてたとは思うけど、まだまだかぁ」
「そうかも知れないわね。でも、私だってまだまだよ? 自分でももっと強くなれるとも思うし」
反省しきりなティアナちゃんを見てるとなんだかくすぐったくて、つい失礼とは思いつつもクスリと笑う。
「というか、強くなりたいな。それで女としても自分を磨いたりして・・・・・・ヤスフミの第四夫人に」
「いやいや、それ違いませんかっ!? というか情念込めて言わないでくださいよっ!!
・・・・・・でも、そこまでですか? いや、アイツ確かに無駄にモテるとは思いますけど」
「そこまでかな。私、ヤスフミの事愛しちゃってるみたいだから。ただ男女関係だけに限った事じゃないの。
うん、別にお付き合いしなきゃだめとかとかそういう事じゃないと思うんだ。もちろんその方が嬉しくはあるけど」
疑問顔のティアナちゃんから私は空へと視線を動かす。
この街は本当に、フェイトちゃんの言うように星が綺麗に見えるから好き。
「お姉さんでも友達でもいいから、強くて優しくて・・・・・・だけど少しだけ臆病で意地っ張りなあの子の一番の味方で居たいなって」
あの時ヤスフミにキスしちゃってから始まった私達の時間は、まだまだ継続中。
だからそれが嬉しくて誇らしくて・・・・・・自然と笑ってしまう。
「それで一生付き合っていくの。距離は少し遠いかも知れないけど、何かあった時にいつでも駆けつけられるように、心は一緒」
「・・・・・・なんだかそれ、恋人って言うよりは本当に家族みたいですね。シルビィさん、アイツのお姉さんみたい」
「そうかも知れないわね。まぁそれで満足しちゃいかけてる自分が居るのがダメだなーとは思ったりは」
その時、辺りに何かが弾くような音が聴こえた。それで全員の動きが止まってしまう。
響いた音は二度三度と続いて、音はそれでもう聴こえなくなった。というか、なんだろ。
あの何か・・・・・・あ、違う。弦を弾くような音を聴いた瞬間に寒気がしてしまった。
なにかこう、気分が悪いというかなんというか・・・・・・それはティアナちゃん達も同じみたい。
若干顔色が悪くなってて、つい私達は顔を見合わせてしまう。
「なによ、今の音。リース、アンタも」
「えぇ、聴こえました」
「・・・・・・シルビィ、アンタ達もちょっとついて来て」
「え?」
ナナちゃんはそのまま何も言わずに走り出した。ただナナちゃん・・・・・・相当焦った顔をしてた。
「あ、ナナちゃん待ってよっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ナナちゃんについていく形で私達が来たのは、公園の一角の噴水広場。
そこには30人前後でたくさんの人が居た。ただその様子が私から見てもおかしい。
全員が虚ろな目をしながら、ただただ立ち尽くしているだけなの。
年齢層も老若男女問わずという感じで、会社帰りっぽい人から制服を着た学生っぽい子まで居る。
時刻的にはもう11時とか近いのよ? なのにこれって・・・・・・どう考えてもおかしい。
「・・・・・・あぁもう、ダメだわ。気配が掴まえられない。さっきは確かに感じてたのに」
「ナナちゃん、どういう事? この人達は一体」
「そうよ。普通になんかおかしいじゃないのよ」
「全員揃ってたまごを抜き取られてるのよ」
その言葉に私達三人は驚いて、もう一度全員を見てみる。
「あ、そうだ。確かにみんなたまごに×が付いた人達特有の表情をしてます」
「ホントね。でもこれだけの人数に一気に×が付いたの? さすがにちょっと考え辛いんだけど」
「二人とも、そうなの?」
「はい・・・・・・って、シルビィさんは×たまが出ちゃった時の事は分からないんですよね」
「そうなのよね。なぞたまなら二度も遭遇してるから分かるんだけど」
でもこれが・・・・・・あぁ、でも分かるかも。みんな本当に虚ろというかつまらなそうな顔をしてる。
「・・・・・・どうせ歌手になんてなれるわけないし」
「結婚なんて無理なんだ」
「テニスなんてもうどうでもいいや」
「どうせ無駄なんだ。どうせ・・・・・・どうせ現実は」
小さく聴こえてくる呟きを聞いて、より痛感した。こころのたまごに×が付くって、やっぱり悲しいんだ。
だってみんな、諦め切っている。諦めて立ち止まって、それでいいやと納得してしまっている。
「コレがヤスフミとあむちゃん達がなんとかしたいと思う現実の一つなのはよーく分かったわ。
でも私この辺りは詳しくないんだけど、こういうのって自然発生でこうなるものなの?」
自分のたまごに自分から×を付けたり、目の前の人達みたいに『現実なんて』と言ってたまごを壊す人達が居るのは聞いてる。
だけどただそれだけで、こういうのがよくあるかどうかは今ひとつ分からないから聞いてみた。
「ありませんよ。こんな人数のたまごが一気にコレなんて・・・・・・しかも一つ所に集まってるなんて、普通じゃない」
「間違いなくここで何かやられたのよ。多分その原因は、あの弦の音」
話を聞きながらみんなを見ていると、左側から足音が響いた。私達は当然のようにそちらに視線を向ける。
するとこちらに向かって、青い髪を揺らしながらなぎひこ君が走って来ていた。もちろん傍らにはリズムも居る。
「なぎひこ君っ!?」
「シルビィさんっ! それにナナちゃんもティアナさん達までっ!!」
二人は私達の前まで来て、息を荒く吐き続ける。どうやら相当頑張って走って来たらしい。何気に汗だらけだもの。
「ちょっとちょっと、アンタ達どうしたのよ。小学生はもう寝ててもおかしくない時間でしょ」
「いや、オレ達の家この近くなんだよ。そうしたら妙な音が聴こえてきてよ」
あ、そうなのね。だからあの音も・・・・・・念の為に確認っと。
「じゃあもしかして二人もあの音聴いたんだ。あの・・・・・・弦を弾くような音」
「えぇ。という事はシルビィさん達も」
「正解。私達はたまたま近くで訓練しててね。さて、そうなると」
改めてたまごを抜き取られた人達を見た。なぎひこ君も釣られるようにしてあの人達を私と一緒に見る。
「どうやら本命っぽいのが起きてるみたいね」
「そうなりますね」
「ついに天王山って事か? 全く・・・・・・バットクールだぜ」
でもあの弦の音、私どこかで聴いた事があるのよね。えっと、なんだったかしら。
確かあれは・・・・・・あ、そうだ。思い出した。アレヴァイオリンの奏法の一つよ。
学生時代に恋をしたヴァイオリニストの男の子の影響で、ヴァイオリンの事勉強したからよく覚えてる。
確か名前が、ピチカートだったかしら。ヴァイオリンのA線を弾く奏法。でも、そこでどうしてヴァイオリン?
予言にあるって言う『旋律』どうこうに引っかかりはするけど、なんでそうなるのかがやっぱり分からない。
(第111話へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、ついになんか起こっちゃったラストで次回に続きます。
ドキたま110話、いかがだったでしょうか。本日のお相手は蒼凪恭文と」
フェイト「フェイト・T・蒼凪です。・・・・・・・・・・・・フェイト・T・蒼凪です。フェイト・T・蒼凪です」
恭文「フェイト、三回も言わなくていいからっ! というか強調し過ぎだからっ!!」
フェイト「いいの。だってその・・・・・・私達、旦那様と奥様になったんだから」
恭文「うん。そうなんだよね。それでその・・・・・・・・・・・・初夜にこんな問題勃発っておかしくないっ!?」
フェイト「そうだよねっ! というかほら、私達その・・・・・・今は繋がったりとかダメだけど、それでも初めての夜なのにー!!」
(それでも問題は勃発しました。はい、諦めましょう)
フェイト「と、とにかく今回のメインはシルビィさん対ティアだね」
恭文「だねぇ。それで何気に強いシルビィだよ。そしてそうなってしまう悲しい職場の秘密が明かされたわけだよ」
フェイト「・・・・・・上司がチート・オブ・チートだもんね」
恭文「だねぇ。しかもメルビナさんの場合絶対に空気化しないというはやてとは決定的な差があるもの。
アレだよ? マジで『もしもメルビナさんが六課を作ったら』ってやったら部隊長の影が10倍くらい濃くなるから」
(『うっさいバカっ! うちは前主人公としてスバル達立ててあれやったんやからなっ!?』)
恭文「でもはやて、メルビナさんはそれでもメインヒロインな立ち位置のシルビィを食ったりしてないよ?」
フェイト「あ、そう言えばそうだよね。やっぱり影の濃さとそういう立ち位置ってやりようなんじゃ」
(『そ、そこを言われると・・・・・・難しいかも』)
フェイト「とにかくこの話だとGPOの人達ってかなり強いんだよね」
恭文「うん。このお話だとそういう感じになってるかな。
というか魔導師とかとタメ張れる方がバトル描写楽しいし」
(パワーバランスの維持はバトル描写を膨らませるためにも必須だしねー)
恭文「でもそこ考えるとレンゲルシロップは描写気をつけないとマズいね」
フェイト「あ、そう言えばミラーとかリモートとかプリティーとかあるしね。
とにかくそんなパワーバランスが激変するであろう次回・・・・・・え、そうなの?」
恭文「ついにアレが出てくるしね。そしてあのキャラが色々と大変な事になったりします。
というわけで本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」
フェイト「フェイト・T・蒼凪でした。・・・・・・・・・・・・フェイト・T・蒼凪でした。フェイト・T・蒼凪でした」
恭文「だから強調し過ぎだからっ! 少し落ち着けー!!」
(やっぱり結婚したのが嬉しい閃光の女神でした。
本日のED:奥井雅美『TURNING POINT』)
フェイト「・・・・・・みんな、それ間違いないんだよね?」
ナナ(メルティランサー)『間違いないわよ。でもたまごの気配もあの音の発生源ももう近くにはない』
なぎひこ『僕達がこっち来てる間に撤退って感じみたいです。・・・・・・フェイトさん、恭文君もどうしよう』
恭文「だったらそこはどうしようもないよ。シルビィ、悪いんだけどティアナ達と一緒に周囲の状態一応調べといてくれる?
こっちもサーチャーの記録洗ってるんだけど・・・・・・それっぽい反応がやっぱり掴めなくてさ」
シルビィ『分かったわ。あ、なぎひこ君はもう戻した方がいいわよね』
恭文「そうだね。なぎひこ、後はシルビィ達に任せて家に戻って。
てゆうか、さすがに親御さん心配するでしょ」
なぎひこ『その方が・・・・・・まぁいいよね』
フェイト「うん、その方がいい。・・・・・・でもなんというか、結婚記念日なのに空気読まないよね」
恭文「確かにね。しかも明日は歌唄の誕生日だってのにさ。あ、それとアレもあったな」
フェイト「アレ? ヤスフミ、他に何かあるのかな」
恭文「いや、10月の間に予約してたゆかなさんのライブがもうすぐで」
フェイト「そこっ!? というか、いつの間にそんな事してたのかなっ!!」
(おしまい)
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