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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第109話 『Prince of determination/弱くても今更でも、あなたに届けたい想い』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ミキ「ドキッとスタートドキたまタイム、今回は」

スゥ「進み行くイースターの陰謀・・・・・・はそれとして、あっちでもこっちでも色々進展があったりしますぅ」

ラン「日常もゆっくりとだけど進んで、なんとなんと今回はあの子がぶっ飛ばしていくよー!!」





(立ち上がる画面に映るのは、ついに本気を出したあの子。そして色んな書類の数々)





ラン「というかあの子がついに・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

ミキ「驚きの展開いっぱいな今回のお話、みんな見逃さないでね」

スゥ「それじゃあいつも通りいくですよぉ。せーの」

ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



前回のアレからシャーリーやシルビィ達が戻ってきて、この事を話しつつ夕飯を食べた。

シャーリーは驚きつつも僕が預かったあのおみやげを受け取って、早2時間。

僕とフェイトとリインは興奮気味なシャーリーに自室に呼び出されて、集合した。





まずシャーリーは自室の机に座りながら空間モニターを展開して僕達にその画面を見せた。





その中に映るのは一つの設計図だった。ただしそれは・・・・・・剣。










「・・・・・・シャーリー、コレは? 私の見た限り剣・・・・・・アームドデバイスに見えるけど」

「私の孫からのプレゼントです。えっと、キアラ・・・・・・でしたよね。
あの子、これを大至急私に作って欲しいそうなんです。最終決戦に絶対必要だからーって」



それに三人で顔を見合わせる。それから改めて画面を見ると、それは・・・・・・アレ、コレって。



「コレ、デンカメンソードに似てる」

「うん、そうだよ。コレはデンカメンソードを参考にしたデバイスなの。名前は・・・・・・『ユニゾウルブレード』。
あー、簡単に言っちゃうと最大四人のユニゾンデバイスとのエンチャント・ユニゾンを可能にするデバイス」

『はぁっ!?』



待った待ったっ! 確かエンチャント・ユニゾンって・・・・・・アレだよねっ!?

ビルトが出来るデバイスとユニゾンデバイスとの融合強化機能っ!!



「あ、もしかしてだからあの子、ヤスフミに超・てんこ盛りの話聞いたりしてたの? それでパスとカードも持ってっちゃって」

「その同時ユニゾンにパスの力が必要だったんですか」

「そうです。このデータと一緒に入ってた手紙によると」



シャーリーが机の上に置きっぱだった一枚の折り目が綺麗についた用紙を取り出す。

どうやらアレがキアラの言っていた手紙になるらしい。



「『アタシが開発したエンチャント・ユニゾンの発展形・・・・・・それがこのユニゾウルブレードの目指すところ。
咲耶から超・てんこ盛りの話を聞いて、アタシのエンジンは一気にかかった。それで考えたのがコレ
』」

「シャーリーちょっと待って。あの子があの機能を開発したの?」

「どうもそうらしいです。あ、続き読みますね。『まず超・てんこ盛りの問題点はただ一つ。
おじいちゃんという一つの器の中に四人のユニゾンデバイスを入れているという点のみ




うん、それは知ってる。だからこそ現在も後遺症が残ってるわけだし。



「『言うならたった一つのカップの中に四つのジュースを入れるようなもの。それも四杯分を圧縮してだよ。
それで咲耶やリース、リインさん達に影響が出ない事そのものが奇跡。ここはフリーエネルギーのおかげ
』」

「やっぱりパスを使うと、ヤスフミとリイン達は単純にユニゾンしてるわけじゃないんだ」

「僕のフリーエネルギーも加算して、通常のユニゾンとは違う形に変身してるんだね」

「『そこで考えた。おじいちゃんのパスとカードは、電王のそれとは違う性質を持つ特別製。
そのパスとカードの力を借りれば、同時ユニゾン自体は可能。でもそのための器がない
』」



僕とフェイトとリインは、また自然と展開している画面を見た。というか、次に言いたい事が分かった。



「あの、まさか」

「『言い方は悪いけどおじいちゃんはその器としては不適合。だったら適合する器を作ってしまえばいい。
エンチャント・ユニゾンシステムを活用すればそれが可能。それこそがユニゾウルブレード
』」

「ちょ、ちょっと待って。あの、それだとヤスフミとユニゾンした時と同じになるんじゃ」

「『これに関しては一つのコップに四つの飲み物を入れるやり方は使わない。
一つのお盆に四つのコップを置いて、それぞれの飲み物を入れる形にするつもり
』」



フェイトのツッコミは見事に潰される事になった。まぁどうやるかは知らないけど、それなら中の飲み物が溢れる事にならないと。



「『本当なら1から10までアタシで作りたい。それはもう全てにアタシの手を通した子にしたい。
だけどちょっと忙しくて無理っぽいんだよねー。これでもフリーのエンジニアは大変なんだ
』」

「いや、忙しいって・・・・・・あの、まさかと思うですけど」



リインと同じく僕もまさかと思った。その様子を見て取れたのか、シャーリーは頷きつつ続きを読む。



「『だからユニゾウルブレードのフレーム関係は全部おばあちゃんに任せるよ。
アタシはおじいちゃんのフリーエネルギーも活用するシステム作るからよろしくー
』」

「・・・・・・おのれの孫はわざわざ時間飛び越えて仕事押しつけに来たんかいっ!!」

「さすがにそれはありえないですよっ! どんだけ自由なのですかっ!!」

「『あ、そっちの時間でちょうど六日後に来るから、それまでにお願いね』」

『それで期間短っ!!』



え、じゃあアレなんですかっ! 僕達にたった六日でこのオーバーテクノロジーを形にしろとっ!?

どんだけ無茶振りかましてくれるのかなっ! てゆうかさすがにこれありえないでしょうがっ!!



「あぁ、でもあの様子ならこの無茶な提案もありえるかもっ! 人の話聞かない子だったしっ!!」

「フェイト、涙目にならなくていいからっ! というかシャーリーの孫だからしょうがないってっ!!」

「ちょっとそれどういう意味っ!? 私は話に聞くような暴走具合はさすがに無いんだけどっ!!」



シャーリーは叫んだ後に、僕の方を困ったように見る。当然『どうする?』って聞いてるんだよ。



「まぁもう言う必要もないと思うけど、このユニゾウルブレードはなぎ君専用デバイス。
構造を見るとパスを使う事も前提に入っているし、なぎ君にしか使えないと言ってもいい」

「まぁあのパスとカードはヤスフミのものだからね。そこは当然か。ヤスフミ、どうする?」

「・・・・・・シャーリー、お願い。僕も手伝うから」

「ん、了解。じゃあなぎ君は明日から早速魔剣Xの生成お願い。もう出来るよね?」



そう聞かれたので、シャーリーの方を見ながら頷いた。



「もちろんだよ。僕だって頑張ってパワーアップしてるんだから。というか、使うの?」

「うん。それ前提のデバイスになってるから絶対必要なんだ」





・・・・・・実は魔剣Xの錬成が僕の魔力だけでも出来るように、ブレイクハウトの術式を徹底改良した。

いちいち魔力炉のサポート受けるのも手続きあったりで大変だから、頑張ったのよ。

より効率的に物質変換が運用出来るように・・・・・・だね。もう根っこから見直して作り直したし。



その結果、魔剣Xで無限の剣製もどきが出来るようになってしまった。というか、理解してきてるのかも。

どうすればあの特殊素材を効率よく最低限の魔力で生み出せるか・・・・・・感覚で理解してきてる。

でもなんつうか僕、どんどんチート化してるような。まさか先生、このためにアレ送ってきたとかじゃないよね?



僕がもっと自分の力をうまく活かせられるように、試練のつもりで・・・・・・なんかありえないって否定出来ないのが怖いよ。





「でもコレ、いいのかな。ほら、未来の技術関係バリバリだし。
この設計図を私に渡すだけでも相当危ない橋になってるもの」

「まぁオーナーの許可は取ってると見ていいだろうけど・・・・・・シャーリー、一応データ関係は」

「もちろん気をつけておきます。というか、用が済んだらキアラに返す事にします。また来るんですよね?」

「本人はそう言ってた。というか来てくれなきゃ困るよ。
このままだとアギトやリースともユニゾン出来ないわけだし」










こうして僕達は準備を・・・・・・そうだ、ちょっとずつちょっとずつ決戦の準備を進めていく。でもそれは僕達だけじゃない。





それに関してはイースターの連中も同じ。この時、連中は僕達以上に相当てんやわんやになっていた。




















All kids have an egg in my soul



Heart Egg・・・・・・The invisible I want my






『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第109話 『Prince of determination/弱くても今更でも、あなたに届けたい想い』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



私は朝一番で、久々の本局に来た。というか、一緒に来たシャーリーとディードとは別行動?

私の元々の所属は次元航行部隊。そこの統括をしている部署にある書類を出してきた。

当然のようにその書類は受理されたけど・・・・・・なんというか、軽くため息を吐かれて冷たい視線で見られてしまった。





廊下を歩きながらそこの辺りを思い出すとつい苦笑してしまう。

本当に、この組織は変わってないみたい。ただ、少し前の私はそれでも『変わる』と思っていた。

それはやっぱりただ現実を知ろうとする勇気が足りなかっただけなのかな。





そこの辺りも考えつつ、一緒に来てくれたみんなより先に帰宅コース。・・・・・・なんだかすっきりしてるかも。










「でも、腹立ちますね」



左隣を歩く同行者その1なリースが憤慨という顔をしている。それを見て、苦笑が深くなる。



「働く女性をなんだと思ってるんでしょ。挙句『こんな事になって本当に残念だよ』とか言ったりするし。
まるで局員になったら個人の幸せなんてほっぽり出して働かなきゃいけないみたいじゃないですか」

「ホントよホントよっ! どうしてあそこで全員揃って『おめでとう』の一言もないわけっ!?」



それは右隣のシルビィさんとナナちゃんも同じく。二人もリース共々心配して来てくれたんだ。



「この組織、私が働いてた時よりずっと頭硬くなってるんじゃないのかしらっ!!」

「全く、めでたい事なのに嫌味ったらしいったらありゃあしないし。コレだから局の連中はムカつくのよ。
てゆうかフェイトに面倒押しつけてどうこうしようって言うのが見え見えだし。プライド無いのかしら」

「えっと・・・・・・みんな落ち着いて? というか、私は大丈夫だから」





私がそこの担当に渡した書類は・・・・・・まぁ簡単に言うと辞表だね。うん、局員辞めるんだ。

あとは嘱託への登録とその上での産休と育児手当の申請書類だね。

嘱託でもそういう手当が出るのは本当にありがたい。貯金もあるから、これで数年は大丈夫かな。



・・・・・・もうすぐで4ヶ月なんだけど、今まで明確に言ってなかったけど、実は出来てるの。

私のお腹の中にヤスフミと私の赤ちゃんが居るんだ。子作り、成功したの。私達は一応お父さんとお母さんになった。

時期的には本当に一回目でって感じかも。赤ちゃんキャラのややの話があったからそのせいなのかな。



つわりとかも実はあんまりなくて、安定した感じなんだけどやっぱり変化自体はあったりもして。

そうだな、例えば・・・・・・特定の食べ物(主に魚類)がちょっとダメになったり、一気にご飯を食べられなくなったり。

大体30分置きにちょっとずつじゃないとキツいんだ。あ、夕飯の時はヤスフミも一緒に食べてくれたりして嬉しいかな。



とにかくその、私の身体はお母さんになってきてる。

少しずつだけど、本当に・・・・・・お母さんになってるんだ。

それを考えると、嬉しくて歩きながらもニコニコしちゃう。





「だけどそれでもありえないですよ。確かにフェイトさんは優秀な魔導師でエースですけど」

「まぁ本局からすると私は1年近く開店休業状態だったしね。
多少はなにか言われるだろうなーって覚悟してたから大丈夫」



ヤスフミも相当心配してくれてて、『自分も行く』って言ってたんだけど・・・・・・うん、大丈夫。

シルビィさん達がついて来てくれたのもヤスフミの代わりとしてで、それでだいぶ助かってるんだ。



「それに」



歩きながら私はゆっくりと、右手で自分のお腹を撫でていく。



「もうあんなの、どうでもいいんだ。私の夢は別に局のために頑張る事なんかじゃないから。
それはいくつもあって、でもその中には局員じゃなきゃ叶えられない夢は一つもない」



それからまずはリースの方を見上げて、安心させるようにめいっぱいに笑う。



「全部は私の心一つ。それで・・・・・・愛する旦那様といっぱい話し合って少しずつ進んでいくものだけだから」

「・・・・・・そうですか。なら安心です」



歩きながらも今度はシルビィさんとナナちゃんの方を見る。二人も一応は納得した様子だった。



「フェイトちゃん、もういっそGPOに来ない? ほら、私達も子育て協力するし」

「あははは、ありがとうございます。ただ私」

「うん?」



右手からお腹は離さずに、照れたように笑ってしまう。



「子どもはあの街で・・・・・・あの星が綺麗に見える街で育てていきたいなって考えてるんです。
星と、たくさんの『キラキラ』と、ちょっと不思議な事がとても身近にあるあの街が好きになりましたから」



事件も多くて、やるせない事もあったりしたけど・・・・・・私はあの街が好きになった。

自然と考えるようになったんだ。恭文が聖夜小に居たいって思ったのと同じ。私も、あの街に居たいんだ。



「・・・・・・そっか。まぁ出産してしばらくは下手に環境変えない方がいいわよね。色々大変だもの」

「そういうの、お母さんもそうだけど子どもにも負担かかるって言うしね。
てゆうかシルビィ、アンタ恭文と距離近くなるから誘ったんじゃないの?」

「あー、ナナちゃんひどーい。私そこまで空気読めない子じゃないのにー」










膨れるシルビィさんを見ながら、また私は自然と楽しくなって笑う。もう嫌味の数々なんて全然気になってない。

あ、一応母さんやクロノ達にもメールで報告はしておこうかな。今まで話してはいなかったし。

母さんは3月の模擬戦を見てた時の不満たらたらな様子を考えると少し戸惑うけど・・・・・・それでも、必要だから。





例え今は離れちゃってても、あの人が私の二人目の母さんである事には変わらないもの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



キアラが来た翌々日、唯世が学校終わりにうちに来た。

『相談したい事がある』と言われて、僕達は自室に唯世を招き入れる。

まぁまぁ予言の事かなと思っていたら、全然違ってました。





なんというか・・・・・・唯世も成長してるんだなぁ。僕とフェイトは嬉しくて涙ぐんでしまったよ。










「唯世・・・・・・ようやく、ようやくそこに気づいたんだ。いや、僕はもうダメかと思ってたよ。
これ以上続くとさすがに救いようないかなとか思って、内心ビクビクものだったし」

「私もだよ。ようやく自分の愚かでバカで浅はかな部分と向き合えた・・・・・・あぅ」

「あの、僕そこまでっ!? というかフェイトさんも泣かないでくださいっ! フェイトさんが泣くような要因ありませんよねっ!!」



ハンカチを取り出して、過去の自分の愚かでバカで浅はかな部分に心を痛めるフェイトの涙を拭う。

それで改めて僕達と同じように床に腰を落としている唯世を見た。・・・・・・よし、一応確認しておこうっと。



「そっかぁ、唯世君があむちゃんを・・・・・・ねぇ。いや、実はお姉さんは気づいてたのよね」



左隣で平然と頷いて話を聞いていたバカに僕は、ためらい無く左で裏拳をかました。

手応えはしっかりとあって、そちらを見るとバカが左手で顔を押さえていた。



「痛いー! ヤスフミなにするのよっ!!」

「やかましいわボケっ! なんで普通に居るのっ!?」

「あら、恋の話と言えば私の出番に決まってるじゃないの」

「そんなん誰も決めてないわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



よし、とりあえずこのバカは無視だ。てーかシルビィ居ると楽しいけどかなり大変なんですけど。



「・・・・・・でも唯世、どうして? ほら、いきなり過ぎだし」

「あ、それは私も気になるかな。何かきっかけとかあったの?」

「その・・・・・・はい。きっかけは、フェイトさんです」



当然ながらそれで僕達全員の視線がフェイトに向く。フェイトはそれを受けて・・・・・・涙目になった。



「そうだよねっ! 私ダメだったもんねっ!!
反面教師としては最適で・・・・・・うぅ、過去の私のバカっ!!」

「違うよフェイト、フェイトは過去も今も未来永劫バカなんじゃないのさ」



そしてフェイトの背中に何か鋭いものが突き刺さった。具体的には白い矢印っぽいものとか。



「でも、それがフェイトの可愛さなんだよ? つまりフェイトのバカはいわゆる一つの萌え要素」

「ヤスフミの方がバカだよっ! そういう風に私をいじめて楽しむなんて本当に変態さんなんだからっ!!」

「変態じゃないしっ! フェイトをいじめていたぶって辱めて楽しむのは僕だけに許されたライフワークだしっ!!」

「そういうのが変態さんだって言うんだよっ! うん、すっごいいじめっ子な変態さんだっ!!」

「あの、違いますからっ! そういう事じゃないんですっ!!
全然違う・・・・・・ってゆうか、それ会話おかしくありませんかっ!?」



それでまたフェイトの涙を・・・・・・まぁ良い事としておこうか。フェイトも成長してるのよ。



「あの、聖王教会のグラシアさんとお話した時にフェイトさんから言われたアレなんです」

「アレ・・・・・・あ、まさか」

「はい。『月詠幾斗に手を伸ばせるのか』って言うのなんです」



それで僕はフェイト共々疑問に思ってしまった。そこでどうしてソレと結びつくのかが、今ひとつ理解出来なかったから。

でも唯世は何も答えずに・・・・・・膝下にある紅茶を一口飲んでから、僕達の方を見た。



「その事とか色々考えてて、少し疑問に思ったんです。日奈森さんはどうして月詠幾斗に手を伸ばせるのかなって。
ほら、日奈森さんは月詠幾斗とも仲が良さそうで、僕みたいに嫌ってもいる様子ではなくて」

「・・・・・・うん」

「それでその、そんな日奈森さんから見ると僕の態度とかは不愉快なものに映るだろうなと。
改めて考えると、それで日奈森さんを傷つけたりしたのかなと考えて・・・・・・そこから連鎖的に」

「自分のバカで愚かで浅はかな部分に気づいたわけですな」

「まぁその・・・・・・そういう事になる」



唯世が視線を落としつつ苦笑して、頬を赤く染める。それで瞳の色が変わった。



「むしろその、そういう日奈森さんだから・・・・・・という部分がある事に気づいたんだ。
日奈森さんは二階堂先生や歌唄ちゃん、ルルさんのような敵にも手を伸ばせる」



唯世の今の瞳の色には、憧れというか・・・・・・楽しげな色がこもっている。

それは僕にも、そしてフェイトにも覚えのある光景。だからつい、唯世を見て二人でにこにこしてしまう。



「そういう真っ直ぐさというか、人の素敵なところを見つけて信じられる強さが・・・・・・素敵だと思う。
そんな日奈森さんを見てたら、フェイトさんのあの時の問いかけの答えも自然と分かりました」

「じゃあ唯世君」

「まだ完全じゃないし、戸惑いはあるけど・・・・・・だけど反省しました。
僕の感情は、僕の行動は、悲しい結果を呼び起こしかねないものなんだと」

「・・・・・・うん、そうだよ。私もね、あなたと同じだったから分かるの。憎い相手が居るのは、本当にしょうがない事。
世界中のみんなを好きになるなんて、そんなの無理で・・・・・・でもだからこそ、私達は知らなきゃいけない」



フェイトは左手で自分の胸元を押さえて、唯世を少し悲しげな瞳で見る。

それからその左手を、そっと・・・・・・だけと強く握り締めた。



「それが誰かを傷つけて、場合によっては未来を奪う感情だって。それを向ける事は暴力なんだって。
暴力を振るう事に正当性なんてない。例え相手がどんな極悪人でも・・・・・・そこには覚悟が必要」

「はい。その・・・・・・痛感しています。僕にはそういう覚悟が、誰かを傷つけるという自覚が足りなかったなと」

「そう。でもいいんだよ、それで。自覚を持てただけで、そういう側面に気づけただけでも幸運。
・・・・・・それであなたは自覚無しで暴力を振るって相手を断罪する前に、止まれる道を選べるんだから」



自嘲気味のフェイトを見て、僕達は何も言えなくなった。だけど僕は、右手でそっとフェイトの頭を撫でる。

それでフェイトは息を吐いて、頬を赤く染めて僕の方を見てくれる。安心したように笑ってくれるので、僕もそれに返した。



「フェイトさん、それは多分・・・・・・遅いです」

「というと?」

「僕はきっと、そんな暴力で月詠幾斗だけじゃなくて日奈森さんのような人達を傷つけてきた。
誰かの『信じたい』という気持ちを踏みつけて、否定して・・・・・・きっとそういう側面がある」



フェイトは唯世の言っている意味がよく分かるのか、何も言わずにただ頷いた。



「それ以外でも日奈森さんに対して、本当に無神経な事をしまくっていて・・・・・・だから迷っちゃって」

「うーん、ようするにそのままあむちゃんと話しても大丈夫か不安・・・・・・ううん、違うな。
唯世君的にはそこのあたりを話す権利そのものが無いんじゃないかって事なのかな」

「そうなるんでしょうか。あの、実はその・・・・・・日奈森さん、告白されてまして」

「はぁっ!? 誰に・・・・・・あ、海里君か。あの子あむちゃんの事熱烈に見てたからなー」

『なんでそこ分かっちゃうのっ!?』



だからその当然って顔すんのやめてっ! てーか恋愛に関してのフリーダムさがパワーアップしてるしっ!!



「と、とにかく三条君の事もあったから・・・・・・余計に考えてしまって。
日奈森さんの事、戸惑わせるだけかなとか考えて、言い出しにくくて」

「そりゃあなぁ。噂に聞く『あなたが好きですっ! 王子様っ!!』事件と『アミュレットハートが好き』事件を鑑みるとないって」



唯世が驚いた顔でこちらを見るので、フェイト共々静かに頷いた。



「あむに僕達も相談されたんだよ。ほら、あむは僕と恋愛の経緯が似てるからその関係でさ」

「私もその、そういうスルーや無自覚な暴力を振るってきた代表なので・・・・・・そういう観点からアドバイスをね?」

「あぁ、なるほど。それでさっきもそれっぽい事を言ってたんですね。なら何も知らないのって」

「はっきり言うけど唯世君だけだよ? りまもややもなぎひこ君も、あの空海君だって気づいてる」



次の瞬間、唯世が頭を抱えて軽く泣き出してしまったのは・・・・・・許してあげて欲しい。きっとね、許される。

きっとその唯世の涙は許されるよ。ただフェイトまでもらい泣きしてたのは勘弁して欲しい。



「でも唯世君」



そんな涙の時間から復活した直後、フェイトが困ったような顔で唯世を見ていた。



「それじゃあ何も解決しないよ? もしあむの今の気持ちが変わってなかったら、あなたはもっとひどい事をする」



真剣な表情のフェイトを見ながら、唯世は静かに頷いた。それを見てフェイトが表情を崩す。



「私もね、ヤスフミとお付き合いする前に唯世君と同じ事考えた。それも何度も」

「そう、なんですか?」

「うん。本当に私達、凄くよく似てるね。どうしても好きになれない相手が居る事とか、恋愛面とか」

「それはその・・・・・・否定出来ませんね」



そう言いながら二人は苦笑する。でもそうなると僕とあむが・・・・・・いや、何も言うまい。それにあむに似てるってなんかムカつくし。



「本当に今更で、気づくのに8年もかかって、それにヤスフミは凄いモテる子でしょ?
私みたいなダメな女の子じゃなくて、シルビィさんみたいな人の方がいいのかな・・・・・・って」



フェイトがシルビィの方を見ると、シルビィは困ったように苦笑した。

それで僕は・・・・・・シルビィと同じ顔をするしか無かった。



「だからもう私の出る幕なんてなくて、このままの方が・・・・・・とも考えた。
そうすればヤスフミは私と居るより幸せになるんじゃないかって。でもね、それは逃げなんだよ」



胸元を掴み続けていた左手をそっと離して下に下ろし、フェイトは僕の右手を優しく握り始めた。



「どっちにしたって決着をつけなきゃ、ヤスフミはもしかしたらずっと私の事を想ってくれるかも知れない。
自分の一面だけを好きと言われて、ものすごくショックを受けてもあなたの事を想ってるあむみたいに」



唯世はまた泣きそうな顔をしながらも、フェイトの言葉に頷く。



「だから今更でも、ワガママでも、結果を出して新しい私達を始める姿勢は必要なんだよ。
どんな形であれ今に答えを出さなきゃいけない。そこから新しい時間を始めるためには、絶対に」

「だからフェイトさんも、蒼凪君に告白・・・・・・ですよね」

「そうだよ。・・・・・・つまりそうだな、唯世君が今あむとどうしたいかって事で全部尽きると思うんだ。
唯世君は今、あむとどうしたい? これからあむと、どういう風に向き合っていきたい?」

「・・・・・・僕は」










唯世はそのまままた視線を落とすけど、それでも唯世の気持ちは瞳を見て分かった。





だって唯世の瞳の色は、またさっきみたいに優しい色に変わっていったんだから。





僕はフェイトの手を握り返して、少しだけ体重をかけて甘える。フェイトは・・・・・・そのまま受け入れてくれた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



イクトを家に引きこんで早くも四日が経過。イクトとは少しずつだけど話している。

失踪途中の事とか、会わない間に何してたとか・・・・・・みんなにバレない程度にだね。

その間逃げたりはしないでいてくれてるのが本当にありがたかった。





というか、逃げられない・・・・・・かな。イクト、本当に寝ちゃってる事が多いから。

あとはヨルが主導であたし達に頼る事も説得中。でもヨル曰く、芳しくないみたい。

それとなくそういう風にも言ってるけど、頭撫でられてセクハラされていっつもごまかされちゃう。





イクトはやっぱり、イースターの力の大きさを考えてしまっている。

だからあたし達に下手に頼ると迷惑かけちゃうって・・・・・・遠慮しちゃってる。

それで正直かなり焦ってる。ほら、イクトの体調の事もあるしさ。





早めにみんなに話して、協力を仰いだ方がいいかなと思って一日が終わってしまう。

ただ学校から戻って家でボーッとしていると、うちに突然の来客。

ママに呼ばれて玄関に行ったあたしは、思いっきり固まってしまった。





だってあの、そこに居たのは・・・・・・あたしと同じ私服姿に着替えた男の子だったから。










「・・・・・・唯世くんっ!!」

「やぁ、日奈森さん」



白い薄手のセーターにクリーム色のスラックス姿の唯世くんがそこに居た。



「あの、なんでっ!? どうしてかなっ!!」

「コレ」



手元の紙袋から出してきたのは・・・・・・あ、あたしのノートだ。なお、今日も授業でやった国語のノート。



「蒼凪君が忘れたのに気づいてね。でもほら、蒼凪君はちょっと忙しい感じだから僕が預かって」

「あ、そうなんだ。あの、ありがと」



両手でそのノートを受け取ると、タイミングが良いのか着信音が鳴り響いた。



「あ、ちょっと待って」





ノートを右手で抱えて、履いている黒のスカートのポケットに入れていた携帯を左手で取り出す。

取り出して開くと、そこにはメールの着信。というか・・・・・・恭文からだ。嫌な予感がしつつもそのメールを開く。

あむへ、唯世を自宅に派遣したので・・・・・・頑張ってね?』と書かれていた。



・・・・・・恭文ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! アンタ普通になにしてくれちゃってるわけっ!!



いや、もう最高じゃんっ! アンタ最高だよっ!! というかこれまで何度か殴っちゃってごめんねっ!?





「あむちゃん、せっかくだから上がってもらったら?」



心の中で友達に感謝していると、後ろで楽しそうな顔をしていたママがそんな事を言った。

なお、パパは居ない。いや、マジで居なくてよかった。



「な、なら・・・・・・あ、でも唯世くんの予定も」

「あ、僕は大丈夫だよ? それにその、いい機会だから色々話したい事もあって」



その言葉にあたしは振り向いて、つい唯世くんの方をガン見してしまった。



「マジですかっ!?」

「うん」





・・・・・・やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ついに、ついにチャンスが来たっ!!

自室に好きな人を招き入れるなんてチャンスじゃんっ! 恭文もそれでフェイトさんとエロ甘コースらしいしっ!!

よし、これで勝てるっ! あたしはこれで恋の敗残兵なんて言うとんでも称号を却下・・・・・・あ。



次の瞬間、一気に寒気が走った。このまま唯世くんを入れると・・・・・・マズいっ!!





「さ、唯世くんも上がって上がって?」

「はい、それじゃあお邪魔しま」

ちょっと待ってっ!!



勝手に話を進めようとしていたママと、上がりかけていた唯世くんを叫んで止めた。

それであたしは必死に笑顔を取り繕って二人を見る。なぜか二人はそれを見て一歩あたしから引いた。



「・・・・・・部屋の掃除、してくるから。それが終わるまで待ってて」





そう言ってから全速力であたしはダッシュ。一気に折り返し型の階段を駆け上がる。

部屋に入ってドアを閉じて、あたしはベッドで寝ていたイクトとヨルを掴む。

それぞれ片手で掴んだそれらを、勢い良くクローゼットの中に投げ込んだ。



あとは近くにあったヴァイオリンもイクトに渡す。





「な、なにするにゃっ!!」

「そうだぞっ! お前いきなり」



イクトとヨルは目を回しながら、あたしの事を睨む。でもあたしはさらに強い勢いで睨んだ。



喋るな

「「・・・・・・はい」」



その返事を聞いてからクローゼットを閉じて、あたしはまたダッシュ。

煙が上がりそうな勢いで今度は階段を駆け下りて、唯世くんとママの前に登場。



「さ、どうぞっ! 少し散らかってるけどっ!!」

「あ・・・・・・うん。それじゃああの、改めて・・・・・・お邪魔します」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いやぁ、あむはどうなるかねぇ。楽しみだねぇ」

「もうヤスフミ、ダメよ。そんな楽しそうな顔しちゃ」

「そういうシルビィさんだってニヤニヤ笑ってるじゃないですか。
あー、でもこれで安心出来るなぁ。ずっと心配だったから」



家に戻って、全員で今頃楽しそうにしている二人を想像してニヤニヤニヤニヤ。

特にフェイトは唯世と自分を重ねてたところがあるから、余計に安心してるみたい。



「アンタ達・・・・・・てゆうかあの子達、余裕あるわよね。世界の危機が目の前に迫ってるのに」

「あはは、それを言われると弱いかな。でもナナちゃん、私は良い事だと思うんだ」



フェイトは両手で湯のみを持ちながら、ニコニコしつつ呆れた様子のナナの方を見る。



「こういう時だからこそ、やりたいようにやっていく事は大事だよ。
それが最後の一歩を踏ん張れる力になる。私も経験あるから」

「なるほどね、まぁそれは分からなくはないかな。でも・・・・・・うーん、分からないなぁ」

「ナナ、何がよ」

「いや、この街をあっちこっち散策しつつ妙な気配がないかどうか調べてるんだけどね? 全く反応ないのよ。
あってもそうだな、×たまをたまに見つける程度。あ、もちろんそんなたくさんとかじゃないのよ。あくまで自然発生レベル」



なるほど、ナナの言いたい事は分かる。相手がアクションを起こしてるかどうかも分からなくて不安だって言いたいんだ。



「マジでアクションを起こしてくれないならありがたくはあるのよね。
今も本局行ってるあの子の装備とか、アンタの新ジャケットとか」

「そこは確かにね。まぁ僕の方はもうすぐだけど。
魔剣X作成のおかげでブレイクハウトもパワーアップしてたから」





ちょっと手こずりはしたけど、物質変換によるヘイの装備のコピーは既に完了。

というか、現在はデザイン考えてフェイト共々頭を悩ませてる段階なのよ。

決まったらその通りに作って・・・・・・って感じ? 必要な材料はもう揃ってるから問題無しだし。



だからフェイトと視線を合わせて、そんな楽しさを共有させつつ笑い合うのよ。





「あとはあむがいつもの外キャラ発揮して空気壊さない事を願うばかりか」

「あ、それはあるね。あむの事だから唯世君の前で照れちゃってまた何かやらかしそうだし・・・・・・うぅ、不安だなぁ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・おしゃれで可愛い部屋だね、日奈森さんらしいな」



左側に座って・・・・・・というか、二人でベッドの上に腰かけてかなりドキドキ状態。

ママが淹れてくれた紅茶の香りが漂う中で、あたしはひたすらに緊張しまくり。



「そ、そうかな」

「うん、とってもいいよ」





あぁ、夢にまで見たシチュエーション。憧れの王子様があたしの部屋に来てるんだ。

・・・・・・なのにっ! ちっとも落ち着いて味わえないー!!

そのせいで会話も今ひとつ出来なくて、もじもじして唯世くんの方とチラチラと見てしまう。



唯世くんはそんなあたしの視線に気づいて優しく微笑んでくれて・・・・・・はにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!





「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」



蕩けかけていたのに、響いたこの声で一気に場が固まった。それで唯世くんが周囲を見渡す。



「アレ、猫?」

「そ、そうみたいだねっ! アレ、近くを通り」



あたしは咄嗟に背中側にあるベランダの方を指差した。



「あ、黒猫っ!!」



唯世くんは咄嗟にそちらの方を見るけど、当然ながらそこには何も居ない。



「あ、今居たんだけどなぁ。あははは、残念」

「そうなんだ。でももっと近くから聴こえたような」

「気のせいじゃんっ!? うん、きっと気のせいだからっ!!」



・・・・・・うし、あとであのネコシメる。てゆうかアレだ、今日はリボンで吊るし上げたまんまにしてやる。

固く決意を燃やしつつ唯世くんを見ると、なんとかごまかせたらしくまた紅茶を飲んでいた。



「それより唯世くん、今日はどうしたの?」

「あ、うん」



唯世くんはずっと小脇に抱えていた袋に両手を伸ばして、あるものを取り出した上であたしに差し出した。

唯世くんの綺麗な両手に乗っているそれは・・・・・・透明な包装紙に包まれたクッキー達だった。



「クッキー・・・・・・これ、あたしに?」

「うん」

「いや、でもどうして」

「チョコの、お返し」





そう言われて、最初は意味が分からなかった。だけど・・・・・・すぐに頭の中が高速回転。



チョコと言われて、あの時の事を瞬間的に思い出していた。具体的には第96話のあのシーンだね。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あの、日奈森さん。どうかしたのかな」



どうしていいか分からなくて、あたしは唯世くんに背を向ける事しか出来なかった。まずい、どうしよう。

他のチョコはもうみんなに渡してるんだよ? まぁあと一つあるにはあるけど、それはアイツ用だからダメだし。



「というか、『ない』って言ってたよね。あの、何か落としたとかなら僕も一緒に探すけど」

「いや、いいのっ!! そこは・・・・・・大丈夫。あのね、唯世くん」

「うん」

「実はその、チョコ作って来たんだ。唯世くんに・・・・・・渡そうと思って」



後ろから、唯世くんの息を飲む音が聴こえた。それが怖くて、なんだか自然と気弱なキャラにチェンジしちゃう。



「でもあの、ゆきなちゃん追いかけている内に落としちゃったみたいで・・・・・・ごめん」

「あの、ううん。謝る事なんて・・・・・・でも、残念だな」



あたしはその優しい言葉を聞いて、ゆっくりと振り向く。唯世くんはいつも通りに、優しく笑ってくれていた。



「日奈森さんの作ったチョコ、食べてみたかった」



別に責めてるわけでも、本当に残念がってるわけでもないのは伝わった。

ただ・・・・・・そうだ。これが唯世くんの優しさなのは、伝わった。



「あの、ありがと。それなら・・・・・・あたし、また作るよ」

「うん、楽しみにしてる」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「本当はホワイトデーの時とも考えたんだけど、それじゃあちょっと遅過ぎるかなと」

「でもあの、あたし・・・・・・チョコ渡せなかったし」

「でも、作ってくれたのは事実でしょ? だから、受け取ったつもりのお返し。・・・・・・あの、こういうのやっぱりおかしいかな」

「ううん、そんな事ないっ!!」



あたしは全力で首を横に振ってから、そっと唯世くんの両手に自分の手を乗せる。



「あの・・・・・・ありがと」

「ううん」



それでゆっくりと優しく・・・・・・優しくクッキーを受け取った。それは一旦太ももの上に乗せる。



「あむちゃん、よかったねー」



それで様子を傍らで見ていたラン達が嬉しそうにあたしの方に近づいてくる。



「頑張った甲斐がありましたぁ。でもでも、本当は唯世くんにちゃーんと食べて欲しかったですねぇ」

「キングの『K』って文字も頑張って付けたしね」

「いや、まぁ・・・・・・普通じゃん? うん、そういうの普通だし」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



チョコ? それにキングの『K』って・・・・・・あ、待てよ。俺しっかりと思い出せ。

確かひと月前くらいに、テレビかなんかの影響であっちこっちでチョコ推しな風潮が流れてなかったか?

それでバレンタインでもないのにチョコ渡す奴が多いとかって聞いたぞ。





まさかあの時ヨルが持ってきたチョコ・・・・・・いや、それならなんで木の上にあったんだ?





ヨルから改めて聞いたら、木の下を通りがかったら上から落ちてきたそうだしよ。・・・・・・謎だ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・でも、実を言うとこれは口実だったりもするんだ」

「え?」

「あ、もちろんお礼をしたかったのは本当。ただ・・・・・・もう一つ大事な事があって。その、どう言えばいいのかな」



唯世くんは視線を落として、緊張した表情を浮かべる。



「思い切って言うよ、三条君には先を越されちゃったけど」

「海里に?」

「本当に色々考えて、迷ったりもして・・・・・・だけど、やっぱりちゃんとしたい」



唯世くんがあたしの方をそのまま身体ごと向き合うようにして見た。それであたしは思わずドキッとしてしまう。



「うまく伝えられるかどうか分からないけど、聞いてくれるかな」



唯世くんはこちらを見た時から、本当に真剣な目だった。

あたしはその、何がなんだか分からないけど頷いた。



「以前、僕は日奈森さんに・・・・・・アミュレットハートが好きだって打ち明けた事があったよね」





それはあたしの黒歴史とも言うべき出来事。そして恭文とフェイトさんすら引かせた悪夢。



そこを思い出してこう、今ひとつ・・・・・・というかごめん。ぶっちゃけ辛くて泣きそうです。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「その子は突然僕の前に現れて、同じガーディアンなのにいけないかなって思ってた」



え、なんですかコレ? もしかしなくてもその・・・・・・ま、まさか唯世くん。



「でも、忘れられなくて・・・・・・思い切って言うよ、日奈森さん」

「は、はいっ!!」



あぁ、これはやっぱ告白じゃんっ! というか告白しかありえないじゃんっ!!

神様ありがとー! あたし、マジガーディアン入ってよかったしっ!!



「明るくて前向きで、力強くて・・・・・・あんな女の子、初めて見たんだっ! ・・・・・・アミュレットハートみたいな子にっ!!」



そうそう、アミュレットハートみたいな子が唯世くんは好きで・・・・・・アレ?



「・・・・・・え?」



いやいや、あの・・・・・・唯世くん。なんでそんな照れ気味なのかな。というかほら、なんかおかしいって。

唯世くんはほら、あたしの事が好きでしょ。つまりほら、アミュレットハートはあたし・・・・・・アレレ?



「えっとつまりその・・・・・・キャラなりしたあたしが好きって事かな」

「いや、好きというかその・・・・・・えっと」



あたしが現実を受け入れられないでいると、後ろからドサっと言うような音が響いた。

なお、もう説明するまでもないけどここは空海のおじいちゃんのお寺にあるお墓の中。だから・・・・・・当然あたしは怯えた。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



それで思わず唯世くんに抱きついてしまう。

でも、すぐにその異常事態に気づいてあたしは唯世くんから離れた。



「ご、ごごごごごごごごごごご・・・・・・ごめん唯世くんっ!!」

「ううん、大丈夫」





唯世くんの表情は至って普通。本当に落ち着いていつも通りで微笑んでて・・・・・・いやいや、ちょっと待って。

ほら、アミュレットハートはあたしなわけじゃない? なのにそのアミュレットハートが抱きついてコレっておかしいでしょ。

もっとこう、ときめきな感じとか空気とかが出ていいと思うんだよ。いや、でもその、まさか・・・・・・そうなの?



あたしは想像した結果が凄まじく怖くなって、震えが走る。走りながらも普通の表情の唯世くんをガン見してしまう。

あぁ確定だ。これはどう考えてもそうとしか説明出来ない。この胸の違和感に対しての答えはただ一つ。

唯世くんはマジでアミュレットハートが好きなのであって、素のあたしにはなんの興味もないんだ・・・・・・!!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・あぁ、ありましたねー。そんな事」





あの時はホント言いようのないショックを受けたなぁ。そこも思い出してつい苦笑いを浮かべてしまう。

あと同じショックを受けたのは・・・・・・あぁ、あの時かな。唯世くんがおねだりCD聞いた時。

あの時も唯世くん、あたしが声をかけたのにアミュレットハートって呟いてさ。何気にショック強かったんだ。



唯世くんはあたしじゃなくてアミュレットハートっていう『キャラ』が好きなんだなーって・・・・・・かなりね。



だからその後、そういうイライラも含めて恭文の勝手に強くキレちゃったのかも。・・・・・・今思うとマジ反省だし。





「あの頃はね」

「うん」

「ただアミュレットハートが眩しくて、目が眩んで、日奈森さんっていう女の子との境界線もよく見えてなかった。
どちらも本当は一人の女の子なのに・・・・・・そんな当たり前の事に、ずっと気づかなかった」



あたしが唯世くんの方を見ると、唯世くんはゆっくりと申し訳無さげな表情を浮かべながら瞳を閉じた。



「でも君と一緒に過ごす内に、少しずつようやく分かってきたんだ。
アミュレットハートは・・・・・・確かに君の一部なんだって」



それで続いた言葉が信じられなかった。ぶり返していた痛みが全部吹き飛ぶくらいの衝撃があたしの中に突き抜けた。

だってその言葉は・・・・・・本当に、本当にずっと欲しかった言葉だったから。マジで夢みたいなんだ。



「それに最初の時も告白をあんな形で断ってしまって」



最初・・・・・・あぁ、あの黒歴史かぁ。『あなたが好きですっ! 王子様っ!!』事件だね。アレもヒドかったなぁ。



「それなのに今度は君の一面だけを好きになったなんて・・・・・・君の事を二重に傷つけてしまって。だから、ごめん」

「いや、謝る意味分かんないしっ! そんな大昔の事なんて・・・・・・ホント、全然っ!!」



それであたしはまた強がっちゃう。ホントは、ホントはマジでこの言葉が嬉しいのに。マジで泣きたくなるくらいに嬉しいのに。

別に好きだって言われたわけじゃないけど、ただこれだけが嬉しくて・・・・・・切なくなるのに。



「それでその、今は・・・・・・もうあの頃とは違う。どんな姿の君でも、同じように向い合って・・・・・・見つめていきたい」



唯世くんは顔を上げて、必死な目であたしの事を見る。それで嬉しさとドキドキがどんどん高まる。



「今の僕はキャラチェンジした強い僕じゃないけど、でも言いたいんだっ! 言わせてくださいっ!!」



それから一瞬・・・・・・ううん、もっと短い時間かも知れない。とにかく場が静かになった。それで唯世くんの唇が動く。



「こんな・・・・・・僕だけど、君を好きになってもいいですか?」



それからまた本当に少しだけ沈黙が訪れる。あたしも唯世くんも黙ってしばらくの間見つめ合ってた。

でもそれは唯世くんが慌てふためき出した事で、呆気無く解除される。



「ご、ごめんねっ! 今更だよねっ!? 急にこんな事言われても迷惑だよねっ!!」

「そ、そんな事っ!!」



でも慌てふためいているのは唯世くんだけじゃない。あたしも同じようにに慌てふためいていた。

二人とも顔真っ赤で、もう何言ってるかも・・・・・・ううん、分かる。あたし・・・・・・告白されたんだ。



「・・・・・・ただ、びっくりしちゃって」



だからちゃんと応える。もうあたしの気持ちは決まってるから、ちゃんと伝える。あたしは恥ずかしいけど、唯世くんの顔を見返した。



「だって、ずっと唯世くんに憧れてたんだもん。フラれてもからもずっと。だから、むしろ・・・・・・嬉しい」

「・・・・・・ホントに?」





あたしの恥ずかしさは限界に達しようとしていた。

だってこれ、普通に三度目の告白になるわけだし。

だからゆっくりと頷いてそのまま視線を落としてしまう。



顔の熱さに困っていると、頭に軽く何かがぶつかる感触がした。

ううん、それだけじゃなくて左手に優しく何かがかぶさった。

目を開くとそこには・・・・・・というか、目の前にあたしと同じく顔が真っ赤な唯世くんが居た。





「すごく、嬉しいよ」

「・・・・・・そんな。あたしだって」

「ありがと、聞いてくれて・・・・・・ありがと」










やばい、コレマジ嬉しい。今までのアレコレが全部吹き飛ぶくらいに嬉しくて・・・・・・泣きそう。





恭文もフェイトさんから告白された時、こんな気持ちだったのかな。それでいっぱい、いっぱい涙が出てきちゃう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あたしはそれからその、なんかこう・・・・・・あぁもう恥ずかしくてダメなんですけどー!!

と、とにかく唯世くんをそこまで見送るためにうちを出た。まぁその、ママからちょっと買い物も頼まれたしさ。

だけど家を出て数分、何をどう話していいのかがさっぱり分からない。というかマジ夢みたい。





あたし達、つまり両想いになったんだよね? それはその、お付き合いとか・・・・・・マジで不思議なんですけどっ!!










あむちゃん

「あ、はい」



でもそこであたしは固まって、唯世くんの方を見る。だってほら、日奈森さんって・・・・・・ほらほらっ!!

でも唯世くんは、照れたようにまた頬を赤く染めていた。



「・・・・・・って、呼んでもいいかな?」



もちろん返事はコレしかない。あたしに出された選択はこれしかなかった。



「べ、別にいいけど」

「ホントに? じゃあ・・・・・・あむちゃん










・・・・・・来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あたしの時代が来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!





日奈森さんからあむちゃんにランクアップだよっ! どうしよ、あたしとっても嬉しいー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・庶民ども、僕達は完全に忘れられているな」

「キセキ、それ言う必要ないって。ボク達みんな知ってるから。というかその・・・・・・アレどうしようか」

「あむちゃんくねくねして気持ち悪いよね?」

「まるで軟体生物のようになったですねぇ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



と、とりあえず落ち着くためにいつもの公園のベンチに座って・・・・・・あぁ、もう夕方なんだなぁ。





でもあんまり一緒に居られないのは残念。だってほら、せっかくのデートタイムなわけだし。










「・・・・・・あむちゃん」

「は、はいっ!?」



やばい、あたし過剰反応し過ぎだから。なんかもう、ちょっと落ち着け? 普通に落ち着けあたし。



「あの、ありがと。改めてになっちゃけど・・・・・・僕の勝手な告白を聞いてくれて」

「あ、その・・・・・・うん」

「受け入れてくれただけで嬉しいんだ。だからその、お付き合いを始めたいとかじゃないんだ」

「へ?」



いやいや、両想いなのにお付き合いじゃないってその、どういう事かな。

ほら、フェイトさんとか・・・・・・アレ、なんであたしはいちいちあの二人を引き合いに出すんだろう。



「色々考えたんだけど、それは僕より先に気持ちを伝えた三条君にフェアじゃないと思うし」

「そ、そっか。でもその・・・・・・色々って?」

「実は・・・・・・フェイトさんと蒼凪君とニムロッドさんにアドバイスをもらってね」



・・・・・・あぁ、あの三人か。なるほど、だからここまで攻勢なんだね。うん、なんか納得した。



「あ、もちろん告白したのは三人に言われたからとかじゃないんだ。
ただその、踏ん切りがつかなくて整理をつけたくて・・・・・・だから」

「あの、大丈夫だから。そこは、一応でも分かってるつもり」



そうじゃなきゃきっと、こんなにドキドキしないよ。それにね、伝わってるんだ。

唯世くんがその、あたしの事必死に見てくれようとしてるのは・・・・・・すごく。だから信じられるよ。



「僕があむちゃんとどうしたいのかって事を一番に考えていけって背中押されて・・・・・・それで考えたんだ。
僕は今までの分も含めて、これからもっと君を好きになりたい。それで、これから少しずつだろうけど」




唯世くんはそう言いながら、前へ向けていた視線をあたしに移した。それでその顔は、やっぱり照れ気味で真っ赤。



「君にも僕の事を好きになってもらえるように・・・・・・頑張りたいんだ」



でもあたしはそれが見てられなくて、つい身体ごと唯世くんの視線から隠れてしまうように背を向けた。



「そ、そう『好き好き』って言われると照れるっていうか、なんというか」

「ううん、言うよ。今までの分、たくさん言うって決めたんだ。・・・・・・好きだよ、あむちゃん。君が好き





いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! やめてー!! あたしのライフはもう0なのー!!

と、というかドキドキ止まらないしっ! これ心臓絶対持たないしっ!!

・・・・・・ドキドキしながらも、改めてあたしは唯世くんの方を首だけ動かして見てみた。



唯世くんはやっぱり笑顔で、優しい表情で・・・・・・普通にヤバい。破壊力が高過ぎる。





「今のは今日の分」

「え? ちょ・・・・・・ちょっと待って唯世くん」



何か今、凄いおかしい発言が飛び出した。というかあの、なんとなく幸せな予感が増大してるんですけど。



「これから毎日好きって言うね? 出来るだけたくさん、まだ君と出会えなかった日の分も・・・・・・もっと」










すみません、あたしの理性はそこで完全に瓦解しました。てゆうか意識飛びかけました。





す、すごい・・・・・・! これはめちゃくちゃすごいっ!! まさしくなのはさんの砲撃レベルの威力だよっ!!





というかめちゃくちゃ驚きなのが・・・・・・王子意外と攻め攻めだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



のんびりフェイトと二人明日の一大イベントの相談などしつつもご飯を作っていると、唯世からメールが来た。

まぁ細かい事は伏せてるような文面だったけど、それでも結果は良好だったのは伝わった。

あと僕達とシルビィへのお礼も書かれていた。それで僕達は調理の手を進めながら展開した空間モニターを見て笑ってしまう。





いや、本当によかった。これで何気に気になっていた大きな事項がようやく解決したよ。










「ヤスフミ、唯世君これで一安心っぽいね」

「そうだね。というか・・・・・・僕ほとんど何もしてないけどね」



唯世はちゃんと自分で考えて、答えに行き着いたんだもの。

あはは、師匠役とかって偉そうな事言ってたのが恥ずかしいなぁ。



「そんな事ないよ。ヤスフミがちゃんと先生やってたから、唯世君だってこうだと思うけどな」

「どうだろうね。唯世だったらーとは考えちゃうけど・・・・・・でもこの調子なら」



つい嬉しくてニコニコしてしまう。うん、この調子ならはやてやメルビナさんが出した問題の答えもすぐに見つかるかも。

というか、見つかりかけてるっぽい。昨日もそういう話してたしなぁ。・・・・・・あ、じゃがいもの芽を取らないと。



「私的にも安心かな。ほら、月詠幾斗君絡みであむがやらかしてたでしょ?」

「・・・・・・あぁ、それもあったか」



なお、僕とフェイトが言っているのは別にあむがイクトの肩を持ちやすいとかそういう事じゃない。

そうだね、具体例を挙げると・・・・・・この話の20話でやらかしたあの一件とか?



「ああいうセクハラめいた事をしたりされるの、ランちゃん達の話だと結構あったみたいだし・・・・・・そこは本当に安心かも」

「あむは猫男に距離感近いってのもあるしね。まぁだからと言ってそれで唯世に遠慮するのも絶対違うんだけど」

「うん、そこは同感」



あのベンチに座った猫男の膝の上に座ったり、同じアイスクリームをぺろぺろとかも強烈だったしなぁ。

その内添い寝とかキスとかしそうで怖いくらいだったし。あのね、しゃれじゃなくやりかねないのよ。



「唯世君もあの調子ならもう月詠幾斗君絡みで感情を荒らげたりもないだろうし、私としては余計に安心だよ」

「ホントギリギリでうまくまとまった感じだね。・・・・・・あ、フェイト。お肉の下味つけといて?」

「了解。あ、ちょっとごめんね。カレー粉取るから」

「うん・・・・・・というか僕が取るよ。ちょうど手も空いたし」










二人で料理をしたりするのも、本当に相当回数。だから普通に息が合ってて楽しい。





あとはずっと気になってた唯世のアレコレも解消されつつあるようだから安心もしてた。





・・・・・・まさかあのバカがとんでもない死亡フラグを建てたとは知らずにだよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「王子、攻め攻め。王子、攻め攻め。『唯世くん×あたし』・・・・・・えへへー」

「あむちゃんしっかりしてー! というか、アレからもう5時間近く経ってるんだから正気に戻ってー!!」

「ラン、無駄だよ。まさしく夢心地だし。でもよだれは拭いた方が良いと思うな」

「まさしくヒロイン失格な典型例ですぅ」



神様、ありがとう。今日は人生最良の日です。もう今までのアレコレなんて吹き飛びました。

あたしは・・・・・・あたしはマジで幸せ者だぁ。あははは、あははははははははははははははははは。



「・・・・・・好きになってもいいですかー」

「ひぁっ!!」



横から聴こえた声に思わず身体をびくつかせつつ、左側を見る。

そこにはベッドに寝転がっていた幾斗が居た。なお、あたしは現在パジャマ姿・・・・・・てゆうか夜。



「ア、アンタ盗み聞きしてたのっ!?」

『あむちゃんが正気に戻ったっ!!』

「いや、盗み聞きって・・・・・・しょうがないだろうが。いきなりベッドの上でおっ始まったんだからよ

「いかがわしい言い方するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





てゆうかおっ始めたのあたしじゃないしっ! それむしろ恭文とフェイトさんだしっ!!

なんか前にフェイトさんとまたお風呂入った時に聞いたら、フェイトさん告白した直後に恭文をソファーに押し倒したって言うしっ!!

てゆうかあたしはあのまま手を繋いでほぼ言葉少なめにお別れして、普通にもう就寝時間なんですけどっ!!



あたしが一体何したって言うのよー! こんないかがわしい事したみたいな言い方されるマジ筋合いない・・・・・・って、あたし何考えてるっ!?





「まぁおっ始まってはないとしても、まんざらでもなさそうだったろ」

「そりゃあまぁ・・・・・・って、ベッドに入るなー! イクトは床っ!!」



そのために毛布調達してるんじゃんっ! ほらほら、ベッドから降りろー!!



「俺病人」

「うっさいっ! だったらヨルやあたしの言う通りにしろっつーのっ!!」

「・・・・・・ケチ」

「なにがっ!?」










とにかくイクトは大人しく部屋の床で毛布二〜三枚にくるまれて就寝。あたしは当然ながらお布団で就寝。





マジでこのバカの事はなんとかしようと思いつつも、色々あった疲れからかすぐに眠りについた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・眠りについたはずだった。なのにこう、妙な温かさを感じる。てゆうかこの温かさに覚えがある。





それで目を開きながら右横を見ると・・・・・・イクトのバカが布団の中に入ってあたしに抱きついてた。










「このバカ猫ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! ベッドに入るなって言ったじゃんっ!!」



なお、パパやママにあみを起こさないように小さめな声なのは知っておいて欲しい。

それでイクトは眠たげに目を開けて・・・・・・って、顔近いしっ! コイツマジ恭文同様にセクハラ癖あるしっ!!



「だって床固いし冷たいしー」

「ふざけんなー! 出てってよっ!!」

「そう言われると居たくなる」



・・・・・・そう言いながら抱きつくなっ! てゆうか足冷たっ!!

コイツどんだけ冷え性なわけっ!? てゆうか離れろー!!



「子どもって、体温高いのな。人間湯たんぽって感じ」



そう言いながらコイツはマジであたしを抱き枕みたいに・・・・・・うぅ、それでなんかマジで嫌とか思ってないあたしが居るのがどうも。



「また子ども扱いして・・・・・・あたし、来年中学なんですけど」

「そうか? ならまだまだ子どもだな。高校と中学じゃあ違いがあるだろ」

「そういうイクトはいくつなワケ?」



あ、そう言えば聞いてみて思い出したけどあたしイクトの年齢とかマジ知らない。歌唄より年上なのは分かるけど、それだけだよ。



「今は高2。来年から高3」

「・・・・・・へぇ」



そうだ、改めて考えるとあたし・・・・・・イクトについて知らない事ばっかりだ。

隣に感じる温かさが心地良くなりつつも、なんだか不思議な気持ちになった。



「ねぇイクト、あのヴァイオリンって・・・・・・大事なものなの?」



まぁヨルから聞いて知ってはいるけど、ちょっと気になったから改めてイクトから聞いてみた。それでイクトは気だるげに唸る。



「あー、別に。親父の形見ってだけだし」

「・・・・・・それ、世間一般的には大事な物って言うんですけど?」

「そうだろうな。でも俺にとっては血の繋がりとかそういうのは煩わしいだけだ」

「イクト、アンタは絶対そういうとこ改めた方がいい。
アンタがそういう態度だから歌唄だってアレなんじゃないの?」



イクトの表情が一気に真剣なものに変わった。それであたしの事を至近距離でガン見してくる。



「あむ、そこには触れるな。歌唄はアレだ、あのチビときっと仲良くしてくれているはずだ。
頼む、そう思わせてくれ。俺も常々アレはどうすればいいのか」

「イクト、だったらまず血の繋がりは大切だって姿勢を示すべきじゃないかなっ!!
やたらと真剣に言う前にアンタはまずそこからだってっ!!」



まぁアレだ、イクトがその・・・・・・ヴァイオリンというかお父さんに複雑な気持ち持ってるのは分かった。

でもやっぱり、ヨルの言うように大切なもの・・・・・・あ、そう言えば一つ気になった。



「じゃあダンプティ・キーもそれなの?」

「・・・・・・まぁな。親父がお袋と結婚前に友人と行った旅行先で買ったものらしい。俺も詳しくは知らねぇ」



友人とって事は、もしかしてそれが唯世くんのお父さんとかお母さん? もしくは管理人さんとか。

ダンプティ・キーがあたしのハンプティ・ロックと対になるキーなら、ハンプティ・ロックももしかしたら一緒に・・・・・・かも。



「でもなんかイクトって」

「なんだよ」

「反抗期の子どもみたい」



イクトの目が少し細まる。それにドキドキしつつも、あたしは平然を装っていく。



「人の事子ども扱いするけど、自分だって子どもなんじゃん」

「かもな。だから」

「甘えさせてーとか言って更に抱きつくの禁止だから」

「・・・・・・お前、しばらく会わない間に性格悪くなったな」

「気のせいじゃん?」



あたし性格悪くないし。そもそもあたしの行動のどこを見てそうなったのかが気になるよ。

というかアレだ、性格悪いのは恭文とかだって。あたしはそれと比べるとマジ普通だし。



「そんなんじゃ唯世にフラれるぞ」

「うっさい。てゆうか、そういうイクトはどうなわけ?
大人なんだから好きな人くらい居るでしょ」

「居るよ? ・・・・・・お前



それに軽く息を飲んでしまった。なので当然のように左手でイクトの頭にチョップを軽めに打ち込む。



「嘘つく人は嫌いです」

「あーあー、全然信じてくれねぇのな」

「当たり前じゃん? いつもからかってばっかだし」



そうだね、実例をあげると・・・・・・耳カプとか胸元のロックにキーを差し込もうとしたりとか。

あとあと急に抱きつかれた事なんてしょっちゅうだしさ。てゆうか、改めて思い出したら腹立ってきたし。



「オオカミ少年ってやつか」



そう居ながらイクトはあたしの事をジッと見ていた。いつもみたいなからかう様子なんてなくて、ただ見てるだけ。

でも暗い部屋の中でその切れ長の瞳はすごく輝いてて・・・・・・ドキドキがどんどん強くなっていった。



「お前さ」

「なに?」

「・・・・・・・・・・・・やっぱやめた。早く大きくなれ」

「・・・・・・・・・・・・なにそれ」










早く、早くなんとかしなきゃいけないと思いつつもあたしはイクトが隣に居るこの時間を嬉しく感じてしまっている。





またイクトが居なくなるんじゃないかと思うと不安なのかも知れない。でも、こんなのダメだ。





だってイクトをここに置いてるのは、あくまでもイクトを助けたいからじゃん。それなのにこんな・・・・・・絶対、ダメ。




















(第110話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、あむの命日が近づきつつある今日この頃。みなさん、明けましておめでとうございます。
昨年はとまとの事をたくさん応援していただいて、本当にありがとうございました。今年もよろしくお願いします」

古鉄≪ただ悲しい事に、今年は早々とある人とお別れしなくてはいけない事態になりました。
もうあとちょっとでとまとから完全に居なくなると思われる日奈森あむさんに、黙祷を捧げましょう≫





(・・・・・・それでは、1分間の黙祷を)





あむ「いや、あの・・・・・・だからちょっと?」





(黙祷、終了)





恭文「しかしアルト、やばいね。昼間は唯世で夜は猫男・・・・・・もう取っ換え引っ換えだよ」

古鉄≪股間に汚れたバベルの塔がある人なら誰でも良いんでしょうか。
あむさん、そういうキャラじゃなかったはずなんですが≫

あむ「だからアンタら待てっ! なに新年一発目からとんでもないシモネタで始まってるっ!?
それであたしが死ぬ事決定した上で話進めるなー!!」

恭文「・・・・・・・・・・・・あむ、それじゃあ今回の話は一体なによ」

あむ「ぐ」





(現・魔法少女、さすがにそこが分からない程バカじゃないらしい)





恭文「完全にフラグ立っちゃったじゃないのさ。というかアレは二股でしょ」

古鉄≪それどころか唯世さんの告白を猫男に聞かれたんですよ?
あなた、分かっているとは思いますけどこれ相当マズいですから≫

あむ「いや、その・・・・・・唯世君やみんなにはイクト絡みで嘘ついてた事はマジで謝るつもりだし」

古鉄≪無駄ですね≫

恭文「うん、無駄だね。・・・・・・唯世は本気で告白したのよ? それを聴かれたのよ?
てゆうか、猫男の事がバレたら必然的に告白聴かれた事がバレるじゃないのさ」





(現・魔法少女、完全に固まる)





恭文「唯世がそれを知ったらどう思うだろうね。あむだけしか居ないと思ってたのにそこに第三者が」

あむ「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! マジお願いだからやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!
と、というかこれはその・・・・・・バレなければ問題ないじゃんっ! そうだ、この時は居なかったって事にすれば」

古鉄≪どうやってですか。猫男の事を話したら必然的にそこを疑われるでしょ。結果こうなります≫




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



唯世「あむちゃんなんて嫌いだ。あ、これは今日の分ね? 明日も明後日もどんどん言っていくから。
今まで君に会えなかった分も含めて君への嫌いの気持ちを伝えていくから






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あむ「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ち、違うのっ!! これはその・・・・・・違うのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

恭文「・・・・・・終わっとこうか、アルト」

古鉄≪そうですね。私達じゃあこの人は救えません≫










(そして作者にも救えない。現・魔法少女、本格的にピンチです。
本日のED:abingdon boys school『潮騒』)




















フェイト「・・・・・・あむはもう、だめだね」

恭文「うん、だめだね。どう考えてもお亡くなりコースだよ。てゆうかここから復帰は無理だって」

フェイト「でもこれ、原作通りなんだよね?」

恭文「悲しいかななかよしで連載されていた通りなんだよね。アニメの話も絡んでるけど、ほぼそのままだよ」

フェイト「じゃああむ・・・・・・最終決戦前に死亡なんて」

恭文「アレかな、どっちがコトノハ様でどっちが世界かな? 僕そこがすっごい興味あって」

あむ「だからそんな事・・・・・・あるよねっ! うぅ、これどうすればいいのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」










(おしまい)







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